本発明は、酸性基を有しない重合性単量体(a)、光重合開始剤(b)、重合促進剤(c)、及びフィラー(d)を含んでなる歯科用硬化性組成物であって、
前記光重合開始剤(b)が、前記歯科用硬化性組成物における重合性単量体成分の総量100重量部に対して、0.005〜0.3重量部のトリハロメチル基により置換されたトリアジン系化合物(b−1)、0.001〜0.3重量部のα-ジケトン化合物(b−2)、及び0.001〜3重量部の芳香族アミン化合物(b−3)を含み、
前記重合促進剤(c)が、芳香族スルフィン酸塩(c−1)、銅化合物(c−2)、ならびにベンゾトリアゾール化合物及び/又はベンゾイミダゾール化合物(c−3)を含む歯科用硬化性組成物である。
酸性基を有しない重合性単量体(a)は、光重合開始剤によりラジカル重合反応が進行して高分子化する重合性単量体である。本発明における酸性基を有しない重合性単量体(a)を構成する重合性単量体は1種に限定されず2種以上でもよい。酸性基を有しない重合性単量体(a)として、下記の水溶性重合性単量体及び疎水性重合性単量体が挙げられる。
水溶性重合性単量体とは、25℃における水に対する溶解度が10重量%以上のものを意味する。同溶解度が30重量%以上のものが好ましく、25℃において任意の割合で水に溶解可能なものがより好ましい。水溶性重合性単量体は、硬化性組成物の成分の歯質への浸透を促進するとともに、自らも歯質に浸透して歯質中の有機成分(コラーゲン)に接着する。水溶性の重合性単量体としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、1,3−ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,3−ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−トリメチルアンモニウムエチル(メタ)アクリルクロライド、ポリエチレングルコールジ(メタ)アクリレート(オキシエチレン基の数が9以上のもの)が例示される。
疎水性重合性単量体としては、25℃における水に対する溶解度が10重量%未満の架橋性の重合性単量体が挙げられ、芳香族化合物系の二官能性重合性単量体、脂肪族化合物系の二官能性重合性単量体、三官能性以上の重合性単量体などが例示される。疎水性の重合性単量体は、硬化性組成物の機械的強度、取り扱い性などを向上させる。
芳香族化合物系の二官能性重合性単量体の例としては、2,2−ビス((メタ)アクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2−ビス〔4−(3−(メタ)アクリロイルオキシ)−2−ヒドロキシプロポキシフェニル〕プロパン(通称「Bis−GMA」)、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2−(4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)−2−(4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2−(4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)−2−(4−(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2−(4−(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)−2−(4−(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシイソプロポキシフェニル)プロパン、1,4−ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)ピロメリテート等が挙げられる。これらの中でも、2,2−ビス〔4−(3−(メタクリロイルオキシ)−2−ヒドロキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパンが好ましい。
脂肪族化合物系の二官能性重合性単量体の例としては、エリスリトールジ(メタ)アクリレート、ソルビトールジ(メタ)アクリレート、マンニトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,5−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンビス(2−カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート(通称「UDMA」)、1,2−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ)エタン等が挙げられる。これらの中でも、グリセロールジメタクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンビス(2−カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート及び1,2−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ)エタンが好ましい。
三官能性以上の重合性単量体の例としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、N,N−(2,2,4−トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2−(アミノカルボキシ)プロパン−1,3−ジオール〕テトラメタクリレート、1,7−ジアクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラアクリロイルオキシメチル−4−オキシヘプタン等が挙げられる。
上記の酸性基を有しない重合性単量体(a)(水溶性重合性単量体及び疎水性重合性単量体)は、いずれも1種単独を配合してもよく、複数種類を組み合わせて配合してもよい。水溶性重合性単量体の配合量は、本発明の歯科用硬化性組成物における重合性単量体成分の総量100重量部に対して、1〜50重量部の範囲が好ましく、2〜40重量部の範囲がより好ましく、5〜20重量部の範囲が最も好ましい。また、疎水性重合性単量体の配合量は、硬化性組成物における重合性単量体成分の総量100重量部中において、10〜99重量部であることが好ましく、50〜95重量部であることがより好ましい。なお、本明細書において「(メタ)アクリル」とは、アクリル及びメタクリルを意味し、「(メタ)アクリロイル」とは、アクリロイル及びメタクリロイルを意味する。
本発明の歯科用硬化性組成物は、重合性単量体として、さらに酸性基含有重合性単量体(e)を含むことが好ましい。酸性基含有重合性単量体(e)を配合すると、歯質を始め、歯科用補綴材料に対する高い接着性を付与することが出来る。
酸性基含有重合性単量体(e)としては、リン酸基、ピロリン酸基、チオリン酸基、ホスホン酸基、スルホン酸基、カルボン酸基等の酸性基を少なくとも1個有し、且つアクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、スチレン基等の重合性基を少なくとも1個有する重合性単量体が挙げられる。酸性基含有重合性単量体(e)は、被着体との親和性を有するとともに、歯質に対しては脱灰作用を有する。酸性基含有重合性単量体(e)の具体例を下記する。
リン酸基含有重合性単量体としては、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンホスフェート、5−(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンホスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、7−(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンホスフェート、8−(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンホスフェート、9−(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、11−(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンホスフェート、12−(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンホスフェート、16−(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンホスフェート、20−(メタ)アクリロイルオキシイコシルジハイドロジェンホスフェート、ビス〔2−(メタ)アクリロイルオキシエチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔4−(メタ)アクリロイルオキシブチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔8−(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔9−(メタ)アクリロイルオキシノニル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔10−(メタ)アクリロイルオキシデシル〕ハイドロジェンホスフェート、1,3−ジ(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2−ブロモエチルハイドロジェンホスフェート、ビス〔2−(メタ)アクリロイルオキシ−(1−ヒドロキシメチル)エチル〕ハイドロジェンホスフェート及びこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩が例示される。
ピロリン酸基含有重合性単量体としては、ピロリン酸ビス〔2−(メタ)アクリロイルオキシエチル〕、ピロリン酸ビス〔4−(メタ)アクリロイルオキシブチル〕、ピロリン酸ビス〔6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕、ピロリン酸ビス〔8−(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕、ピロリン酸ビス〔10−(メタ)アクリロイルオキシデシル〕及びこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩が例示される。
チオリン酸基含有重合性単量体としては、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンチオホスフェート、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンチオホスフェート、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンチオホスフェート、5−(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンチオホスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンチオホスフェート、7−(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンチオホスフェート、8−(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンチオホスフェート、9−(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンチオホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンチオホスフェート、11−(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンチオホスフェート、12−(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンチオホスフェート、16−(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンチオホスフェート、20−(メタ)アクリロイルオキシイコシルジハイドロジェンチオホスフェート及びこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩が例示される。
ホスホン酸基含有重合性単量体としては、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルホスホネート、5−(メタ)アクリロイルオキシペンチル−3−ホスホノプロピオネート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル−3−ホスホノプロピオネート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシル−3−ホスホノプロピオネート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル−3−ホスホノアセテート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシル−3−ホスホノアセテート及びこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩が例示される。
スルホン酸基含有重合性単量体としては、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−スルホエチル(メタ)アクリレートが例示される。
カルボン酸基含有重合性単量体としては、分子内に1つのカルボキシル基を有する重合性単量体と、分子内に複数のカルボキシル基を有する重合性単量体とが挙げられる。
分子内に1つのカルボキシル基を有する重合性単量体としては、(メタ)アクリル酸、N−(メタ)アクリロイルグリシン、N−(メタ)アクリロイルアスパラギン酸、O−(メタ)アクリロイルチロシン、N−(メタ)アクリロイルチロシン、N−(メタ)アクリロイルフェニルアラニン、N−(メタ)アクリロイル−p−アミノ安息香酸、N−(メタ)アクリロイル−o−アミノ安息香酸、p−ビニル安息香酸、2−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、3−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、4−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、N−(メタ)アクリロイル−5−アミノサリチル酸、N−(メタ)アクリロイル−4−アミノサリチル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンサクシネート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンフタレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンマレート及びこれらの酸ハロゲン化物が例示される。
分子内に複数のカルボキシル基を有する重合性単量体としては、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキサン−1,1−ジカルボン酸、9−(メタ)アクリロイルオキシノナン−1,1−ジカルボン酸、10−(メタ)アクリロイルオキシデカン−1,1−ジカルボン酸、11−(メタ)アクリロイルオキシウンデカン−1,1−ジカルボン酸、12−(メタ)アクリロイルオキシドデカン−1,1−ジカルボン酸、13−(メタ)アクリロイルオキシトリデカン−1,1−ジカルボン酸、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテートアンハイドライド、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルトリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシデシルトリメリテート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−3’−(メタ)アクリロイルオキシ−2’−(3,4−ジカルボキシベンゾイルオキシ)プロピルサクシネート及びこれらの酸無水物又は酸ハロゲン化物が例示される。
上記の酸性基含有重合性単量体は、1種類単独を用いてもよく、複数種類を併用してもよい。これらの酸性基含有重合性単量体の中でも、被着体に対する接着強度が大きい点で、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、1,3−ジ(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテートアンハイドライド、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテート、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、11−(メタ)アクリロイルオキシウンデカン−1,1−ジカルボン酸が好ましい。
酸性基含有重合性単量体(e)の配合量は、本発明の歯科用硬化性組成物における重合性単量体成分の総量100重量部中において、1〜50重量部であることが好ましく、3〜40重量部であることがより好ましく、5〜30重量部であることがさらに好ましい。酸性基含有重合性単量体の配合量が1重量部以上であると、各種被着体に対する高い接着性を得ることが容易であり、また、酸性基含有重合性単量体の配合量が50重量部以下であると、重合性と接着性のバランスを保ちやすい。なお、重合性単量体成分の総量とは、酸性基含有重合性単量体(e)と、酸性基を有しない重合性単量体(a)の合計量のことをいう。
光重合開始剤(b)は、光照射によりラジカルを発生させる重合開始剤である。光重合開始剤(b)は、本発明の歯科用硬化性組成物における重合性単量体成分の総量100重量部に対して0.005〜0.3重量部のトリハロメチル基により置換されたトリアジン系化合物(b−1)、0.001〜0.3重量部のα-ジケトン化合物(b−2)、及び0.001〜3重量部の芳香族アミン化合物(b−3)を含んでなる。
本発明におけるトリハロメチル基により置換されたトリアジン系化合物(b−1)としては、トリクロロメチル基、トリブロモメチル基等のトリハロメチル基を少なくとも一つ有するs−トリアジン化合物であれば公知の化合物が何ら制限なく使用できる。特に好ましいトリアジン化合物を一般式で示すと下記一般式(1)で表される。
(式中、R1及びR2はそれぞれ独立に、トリアジン環と共役可能な不飽和結合を有する有機基、置換されていてもよいアルキル基、又は置換されていてもよいアルコキシ基であり、Xはハロゲン原子である。)
上記一般式(1)中、Xで表されるハロゲン原子は、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子の何れでもよいが、塩素原子が一般的であり、従って、トリアジン環に結合した置換基(CX3)としては、トリクロロメチル基が一般的である。
上記R1及びR2はそれぞれ独立に、トリアジン環と共役可能な不飽和結合を有する有機基、置換されていてもよいアルキル基、及び置換されていてもよいアルコキシ基の何れでもよい。R1及びR2の少なくとも一方が、トリアジン環と共役可能な不飽和結合を有する有機基である場合、本発明の歯科用硬化性組成物の保存安定性を特に優れたものとすることができる。他方、R1及びR2の少なくとも一方が、ハロゲン置換アルキル基である場合には、より良好な重合活性を得られやすく、共にハロゲン置換アルキル基であると特に重合活性が良好である。
R1及びR2で示されるトリアジン環と共役可能な不飽和結合により結合した有機基としては、トリアジン環と共役可能な不飽和結合により結合している限り公知の如何なる有機基でもよいが、好ましくは炭素数2〜30、特に炭素数2〜14の有機基である。このような有機基を具体的に例示すると、フェニル基、メトキシフェニル基、p−メチルチオフェニル基、p−クロロフェニル基、4−ビフェニリル基、ナフチル基、4−メトキシ−1−ナフチル基等の合計炭素数6〜14の置換又は非置換のアリール基;ビニル基、2−フェニルエテニル基、2−(置換フェニル)エテニル基等の合計炭素数2〜14の置換又は非置換のビニル基等が例示される。なお、上記置換フェニル基の有する置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1〜6のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基;メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基等の炭素数1〜6のアルキルチオ基;フェニル基;ハロゲン原子等が例示される。
また、R1及びR2で示される置換されていてもよいアルキル基は、炭素数1〜10のものが好ましく、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、n−ヘキシル基等の非置換のアルキル基;トリクロロメチル基、トリブロモメチル基、α,α,β−トリクロロエチル基等のハロゲン置換アルキル基等が挙げられる。
R1及びR2で示される置換されていてもよいアルコキシ基は、炭素数1〜10のものが好ましく、例えばメトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基等の非置換のアルコキシ基;2−{N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノ} エトキシ基、2−{N−ヒドロキシエチル−N−エチルアミノ}エトキシ基、2−{N−ヒドロキシエチル−N−メチルアミノ}エトキシ基、2−{N,N−ジアリルアミノ}エトキシ基等のアミノ基(特に3級アミノ基)により置換されたアルコキシ基等が例示される。
上記のような一般式(1)で表されるトリハロメチル基置換s−トリアジン化合物を具体的に例示すると、2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2,4,6−トリス(トリブロモメチル)−s−トリアジン、2−メチル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−メチル−4,6−ビス(トリブロモメチル)−s−トリアジン、2−フェニル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(4−メトキシ−1−ナフチル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−メトキシフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−メチルチオフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−クロロフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(2,4−ジクロロフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−ブロモフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−トリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−n−プロピル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(α,α,β−トリクロロエチル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−スチリル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−(p−メトキシフェニル)エテニル]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−(o−メトキシフェニル)エテニル]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−(p−ブトキシフェニル)エテニル]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−(3,4−ジメトキシフェニル)エテニル]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−(3,4,5−トリメトキシフェニル)エテニル]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(1−ナフチル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(4−ビフェニリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−{N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノ}エトキシ]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−{N−ヒドロキシエチル−N−エチルアミノ}エトキシ]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−{N−ヒドロキシエチル−N−メチルアミノ}エトキシ]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−{N,N−ジアリルアミノ}エトキシ]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン等が例示される。
上記で例示したトリアジン化合物の中で特に好ましいものは、重合活性の点で2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(4−メトキシ−1−ナフチル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−メトキシフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジンであり、また保存安定性の点で、2−フェニル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−クロロフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、及び2−(4−ビフェニリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジンである。
これらトリアジン化合物(b−1)は、必要に応じて1種で、あるいは2種以上の化合物を組み合わせて用いてもよい。トリアジン化合物(b−1)の配合量は、本発明の硬化性組成物における重合性単量体成分の総量100重量部に対して0.005〜0.3重量部であるが、0.008〜0.2重量部が好ましく、0.01〜0.1重量部がより好ましい。同配合量が0.005重量部未満の場合は、本照射後の歯科用セメントとして要求される機械的特性を得ることができず、同配合量が0.3重量部を超えた場合は、仮照射により余剰ペーストを半硬化状態とすることが難しい。
本発明の歯科用硬化性組成物の光重合開始剤成分として使用可能なα−ジケトン化合物(b−2)としては公知の化合物が何ら制限なく使用できる。該α−ジケトン化合物を具体的に例示すると、カンファーキノン、カンファーキノンカルボン酸、カンファーキノンスルホン酸等のカンファーキノン類;ジアセチル、アセチルベンゾイル、2,3−ペンタジオン、2,3−オクタジオン、9,10−フェナンスレンキノン、アセナフテンキノン等を挙げることができる。
使用するα−ジケトン化合物(b−2)は、重合に用いる光の波長や強度、光照射の時間、あるいは組み合わせる他の成分の種類や量によって適宜選択すればよく、単独又は2種以上を混合して使用することもできるが、一般的にはカンファーキノン類が好適に使用され、特にカンファーキノンが好ましく使用される。α−ジケトン化合物(b−2)の配合量は、本発明の硬化性組成物における重合性単量体成分の総量100重量部に対して0.001〜0.3重量部であるが、0.005〜0.1重量部が好ましく、0.01〜0.05重量部がより好ましい。同配合量が0.001重量部未満の場合は、本照射後の歯科用セメントとして要求される機械的特性を得ることができず、同配合量が0.3重量部を超えた場合は、仮照射により余剰セメントを半硬化状態とすることが難しい。
本発明における芳香族アミン化合物(b−3)は、窒素原子に結合した有機基のうちの少なくとも一つが芳香族基であるアミン化合物であればよく、公知のものが特に制限なく使用できるが、より重合活性が高く、保存安定性に優れ、また揮発性が低いため臭気が少なく、さらには入手が容易な点で、窒素原子に1つの芳香族基と、2つの脂肪族基が結合したアミン化合物(以下、第3級芳香族アミン化合物とも称す)であることが好ましい。代表的な第3級芳香族アミン化合物としては下記一般式(2)で表されるものが挙げられる。
(式中、R3及びR4は各々独立に置換されていてもよいアルキル基であり、R5は置換されていてもよい、アルキル基、アリール基、アルケニル基、アルコキシ基、又はアルキルオキシカルボニル基である。また、nは0〜5の整数を表す。nが2以上の場合は、複数のR5は、互いに同一でも異なっていてもよい。さらにR5同士が結合して環を形成していてもよい。)上記R3、R4及びR5示される置換されていてもよいアルキル基としては、炭素数1〜6のものが好ましく、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、n−ヘキシル基等の非置換のアルキル基、クロロメチル基、2−クロロエチル基等のハロゲン置換アルキル基;2−ヒドロキシエチル基等の水酸基置換アルキル基などを例示することができる。
また、上記のR5で示される置換されていてもよいアリール基としては、フェニル基、p−メトキシフェニル基、p−メチルチオフェニル基、p−クロロフェニル基、4−ビフェニリル基等の炭素数6〜12のものを挙げることができる。置換されていてもよいアルケニル基としては、ビニル基、アリル基、2−フェニルエテニル基等の炭素数2〜12のものを挙げることができる。置換されていてもよいアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基等の炭素数1〜10のもの等が例示され、置換されていてもよいアルキルオキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、アミルオキシカルボニル基、イソアミルオキシカルボニル基等のアルキルオキシ基部分の炭素数が1〜10のものが例示される。
上記一般式(2)で示される芳香族第3級アミンにおいて、R3及びR4としては、炭素数1〜6の置換されていてもよいアルキル基であることが好ましく、特に、炭素数1〜3の非置換のアルキル基(例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基)、及び2−ヒドロキシエチル基がより好適である。
また、n=1の場合は、基R5の結合位置がパラ位であることが好ましく、なかでも該R5がアルキルオキシカルボニル基であることが好ましい。一方、基R5が2〜3個結合している場合には、その結合位置はオルト位及び/又はパラ位であることが好ましい。特に、複数の基R5がオルト位及びパラ位に結合していることによって、組成物の硬化体の太陽光安定性(耐変色性)がさらに良好となる。
上記一般式(2)で示される第3級芳香族アミン化合物を具体的に例示すると、R5がパラ位に結合したアルキルオキシカルボニル基である化合物として、p−ジメチルアミノ安息香酸メチル、p−ジメチルアミノ安息香酸エチル、p−ジメチルアミノ安息香酸プロピル、p−ジメチルアミノ安息香酸アミル、p−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、p−ジエチルアミノ安息香酸エチル、p−ジエチルアミノ安息香酸プロピル等が例示される。また他の芳香族アミン化合物を具体的に例示すると、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジベンジルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジ(β−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、N,N,2,4,6 −ペンタメチルアニリン、N,N,2,4−テトラメチルアニリン、N,N−ジエチル−2,4,6− トリメチルアニリン等が挙げられる。
これら芳香族アミン(b−3)は、必要に応じて1種で、あるいは2種以上の化合物を組み合わせて用いてもよい。芳香族アミン(b−3)の配合量は、本発明の硬化性組成物における重合性単量体成分の総量100重量部に対して0.001〜3重量部であるが、0.005〜2重量部が好ましく、0.01〜1重量部がより好ましい。同配合量が0.001重量部未満の場合は、本照射後の歯科用セメントとして要求される機械的特性を得ることができず、同配合量が3重量部を超えた場合は、仮照射により余剰セメントを半硬化状態とすることが難しい。
重合促進剤(c)は、上記光重合を促進する。重合促進剤(c)は芳香族スルフィン酸塩(c−1)、銅化合物(c−2)及びベンゾトリアゾール化合物及び/又はベンゾイミダゾール化合物(c−3)から構成され、下記のものが挙げられる。
芳香族スルフィン酸塩(c−1)は、重合促進剤成分である。芳香族スルフィン酸塩(c−1)としては、ベンゼンスルフィン酸、p−トルエンスルフィン酸、o−トルエンスルフィン酸、エチルベンゼンスルフィン酸、デシルベンゼンスルフィン酸、ドデシルベンゼンスルフィン酸、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸、クロルベンゼンスルフィン酸、ナフタリンスルフィン酸などのリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、ルビジウム塩、セシウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、ストロンチウム塩、鉄塩、亜鉛塩、アンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩が例示される。これらの中でも、組成物の硬化性及び保存安定性の点で、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸及び2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩が好ましく、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩がより好ましい。
芳香族スルフィン酸塩(c−1)は、少なくとも一部が組成物中に粉末状に分散されていることが好ましい。粉末で分散することにより、本発明の硬化性組成物は、より長い操作余裕時間を確保することができ、また歯質等の湿潤体に適用した場合に、芳香族スルフィン酸塩(c−1)が湿潤体表面の水に溶解するため、接着界面部及び樹脂含浸層内部における重合硬化性をさらに高めることができる。芳香族スルフィン酸塩(c−1)を粉末で分散する場合、芳香族スルフィン酸塩(c−1)は、その常温(25℃)における水に対する溶解度が1mg/100mL以上のものが好ましい。同溶解度が1mg/100mL未満の場合は、本発明の硬化性組成物を湿潤体に適用した場合に、接着界面部において芳香族スルフィン酸塩(c−1)が湿潤体の水に十分に溶解せず、その結果、粉末で分散する効果が発現しにくくなる。また、芳香族スルフィン酸塩(c−1)は、その粒径が過大であると沈降し易くなるので、平均粒子径は500μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましく、50μm以下がさらに好ましい。しかし、平均粒子径が過小であると粉末の比表面積が過大になって硬化性組成物の取り扱い性が低下するおそれがあるので、平均粒子径は0.01μm以上が好ましい。すなわち、粉末で分散する場合の平均粒子径は0.01〜500μmの範囲が好ましく、0.01〜100μmの範囲がより好ましい。なお、本発明における平均粒子径とは、体積平均粒子径のことをいい、当該体積平均粒子径は、例えば、粒子100個以上の電子顕微鏡写真をもとに画像解析ソフト(例、Mac−View;マウンテック社製)を用いて画像解析を行って算出することができる。
芳香族スルフィン酸塩(c−1)を粉末で分散する場合の形状については、球状、針状、板状、破砕状など、種々の形状が挙げられるが、特に制限されない。芳香族スルフィン酸塩(c−1)は、粉砕法、凍結乾燥法等の従来公知の方法で微粉末を作製することができる。
芳香族スルフィン酸塩(c−1)の配合量は、本発明の硬化性組成物における重合性単量体成分の総量100重量部に対して、0.1〜5重量部が好ましく、0.2〜4重量部がより好ましく、0.5〜3重量部が最も好ましい。同配合量が0.1重量部未満及び5重量部を超えた場合はいずれも、得られる硬化性組成物の硬化物の機械的強度が低下するおそれがある。
銅化合物(c−2)は、重合促進剤成分である。銅化合物(c−2)としては、重合性単量体成分に可溶な化合物が好ましい。その具体例としては、カルボン酸銅として、酢酸銅、イソ酪酸銅、グルコン酸銅、クエン酸銅、フタル酸銅、酒石酸銅、オレイン酸銅、オクチル酸銅、オクテン酸銅、ナフテン酸銅、メタクリル酸銅、4−シクロヘキシル酪酸銅;β−ジケトン銅として、アセチルアセトン銅、トリフルオロアセチルアセトン銅、ヘキサフルオロアセチルアセトン銅、2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト銅、ベンゾイルアセトン銅;β−ケトエステル銅として、アセト酢酸エチル銅;銅アルコキシドとして、銅メトキシド、銅エトキシド、銅イソプロポキシド、銅2−(2−ブトキシエトキシ)エトキシド、銅2−(2−メトキシエトキシ)エトキシド;ジチオカルバミン酸銅として、ジメチルジチオカルバミン酸銅;銅と無機酸の塩として、硝酸銅;及び塩化銅が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を適宜組合せて用いることができる。これらの内でも、重合性単量体に対する溶解性と反応性の観点から、カルボン酸銅、β−ジケトン銅、β−ケトエステル銅が好ましく、酢酸銅、アセチルアセトン銅が特に好ましい。
銅化合物(c−2)の配合量は、硬化性の観点から、本発明の硬化性組成物における重合性単量体成分の総量100重量部に対して、0.000005〜0.01重量部であることが好ましく、0.00001〜0.005重量部であることがより好ましく、0.00005〜0.001重量部であることが最も好ましい。
前記銅化合物(c−2)と芳香族スルフィン酸塩(c−1)の配合比は、モル比で0.000003:1〜0.01:1であることが好ましく、0.00003:1〜0.005:1であることがより好ましい。配合比がこの範囲内にある場合には、本組成物の、本照射後の歯科用セメントとして要求される機械的特性と仮照射により余剰ペーストを半硬化状態として除去する際の除去性がよりバランスよく達成される。
ベンゾトリアゾール化合物及び/又はベンゾイミダゾール化合物(c−3)は、銅化合物(c−2)の触媒活性を向上させることにより、重合を促進する成分である。
本発明で用いられるベンゾトリアゾール化合物及びベンゾイミダゾール化合物(c−3)は、例えば、それぞれ下記一般式(3)及び(4)によって表される。
上記一般式(3)及び(4)において、R6〜R13はそれぞれ独立して、水素原子、水酸基、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アルケニル基、アラルキル基、又はハロゲン原子を示す。
R6〜R13で示されるアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、及び環状のいずれであってもよく、炭素数が1〜10のものが好ましい。例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、シクロヘキシル基、n−ヘプチル基、シクロヘプタニル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、シクロオクチル基、n−ノニル基、シクロノニル基、n−デシル基等が挙げられる。これらの中でも特にメチル基、エチル基が好ましい。
R6〜R13で示されるアリール基は、炭素数が6〜10のものが好ましく、例としては、フェニル基、ナフチル基、アントリル基等が挙げられる。
R6〜R13で示されるアルコキシ基は、直鎖状、分岐鎖状、及び環状のいずれであってもよく、炭素数が1〜8のものが好ましい。例としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、n−オクチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基等が挙げられる。
R6〜R13で示されるアルケニル基は、直鎖状、分岐鎖状、及び環状のいずれであってもよく、炭素数が1〜6のものが好ましい。例としては、ビニル基、アリル基、メチルビニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、シクロプロペニル基、シクロブテニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられる。
R6〜R13で示されるアラルキル基の例としては、アリール基(特に、炭素数6〜10のアリール基)で置換されたアルキル基(特に、炭素数1〜10のアルキル基)が挙げられ、具体的にはベンジル基等が挙げられる。
R6〜R13で示されるハロゲン原子の例としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
R6〜R13としては、水素原子、又はメチル基が好ましい。
ベンゾトリアゾール化合物及びベンゾイミダゾール化合物(c−3)は、一種類単独を用いてもよく、複数種類を併用してもよい。ベンゾトリアゾール化合物及びベンゾイミダゾール化合物(c−3)の具体例としては、1H−ベンゾトリアゾール、5−メチル−1H−ベンゾトリアゾール、5,6−ジメチル−1H−ベンゾトリアゾール、ベンゾイミダゾール、5−メチルベンゾイミダゾール、5,6−ジメチルベンゾイミダゾール等が挙げられる。これらの中でも、組成物の色調や保存安定性の点で、1H−ベンゾトリアゾール、5−メチル−1H−ベンゾトリアゾールが好ましい。
化合物(c−3)の配合量は、被着体との接着強さ、操作可能時間の観点から、本発明の硬化性組成物における重合性単量体成分の総量100重量部に対して、0.1〜5重量部が好ましく、0.5〜4重量部がより好ましく、1〜3重量部が最も好ましい。
銅化合物(c−2)と化合物(c−3)の配合比は、モル比で0.000001:1〜0.01:1であることが好ましく、0.00001:1〜0.005:1であることがより好ましい。銅化合物(c−2)と化合物(c−3)の配合比がこの範囲内にある場合には、本組成物の、本照射後の歯科用セメントとして要求される機械的特性と仮照射により余剰ペーストを半硬化状態として除去する際の除去性がよりバランスよく達成される。
本発明の歯科用硬化性組成物は、重合促進剤として有機過酸化物(c−4)を含有することが好ましい。有機過酸化物(c−4)は、特に制限されることなく公知のものが使用できる。代表的な有機過酸化物として、ハイドロパーオキサイド、パーオキシエステル、ケトンパーオキサイド、パーオキシケタール、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシジカーボネート等が挙げられる。これらの中でも、ハイドロパーオキサイド、パーオキシエステルが特に好ましく、硬化性組成物を分包型として提供して長期保存しても操作可能時間の変動が小さいことから、パーオキシエステルが最も好ましい。有機過酸化物(c−4)は、一種類単独を用いてもよく、複数種類を併用してもよい。
より具体的には、ハイドロパーオキサイドとしては、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、t−ヘキシルハイドロパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド等が挙げられる。
パーオキシエステルとしては、ペルオキシ基(−OO−基)の一方にアシル基、もう一方に炭化水素基(又はそれに類する基)を有するものであれば公知のものを何ら制限なく使用することができる。具体例としては、α,α−ビス(ネオデカノイルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、クミルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシピバレート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(2−エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシマレイックアシッド、t−ブチルパーオキシ3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシラウレート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(m−トルオイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキシルモノカーボネート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシ−m−トルオイルベンゾエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ビス(t−ブチルパーオキシ)イソフタレート等が例示される。これらは単独で又は2種以上を適宜組合せて用いることができる。これらの内でも、保存安定性と反応性の観点から、t−ブチルパーオキシマレイックアシッド、t−ブチルパーオキシ3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキシルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシアセテートが好ましく、t−ブチルパーオキシベンゾエートがより好ましい。
ケトンパーオキサイドとしては、メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルアセトアセテートパーオキサイド、アセチルアセトンパーオキサイド等が挙げられる。
パーオキシケタールとしては、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサノン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロデカン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、n−ブチル4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、2,2−ビス(4,4−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン等が挙げられる。
ジアルキルパーオキサイドとしては、α,α−ビス(t−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン−3等が挙げられる。
ジアシルパーオキサイドとしては、イソブチリルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ステアリルパーオキサイド、スクシニックアシッドパーオキサイド、m−トルオイルベンゾイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド類が挙げられる。
パーオキシジカーボネートとしては、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ−2−エトキシエチルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジ−2−メトキシブチルパーオキシジカーボネート、ジ(3−メチル−3−メトキシブチル)パーオキシジカーボネート等が挙げられる。
有機過酸化物(c−4)の配合量は、硬化性の観点から、本発明の硬化性組成物における重合性単量体成分の総量100重量部に対して、0.01〜1重量部であることが好ましく、0.05〜0.5重量部であることがより好ましい。
フィラー(d)は、1種単独を配合してもよく、複数種類を組み合わせて配合してもよい。フィラーとしては、無機系フィラー、有機系フィラー、及び無機系フィラーと有機系フィラーとの複合体フィラーが挙げられる。
無機系フィラーとしては、シリカ;カオリン、クレー、雲母、マイカ等のシリカを基材とする鉱物;シリカを基材とし、Al2O3、B2O3、TiO2、ZrO2、BaO、La2O3、SrO、ZnO、CaO、P2O5、Li2O、Na2Oなどを含有する、セラミックス及びガラス類が例示される。ガラス類としては、ランタンガラス、バリウムガラス、ストロンチウムガラス、ソーダガラス、リチウムボロシリケートガラス、亜鉛ガラス、フルオロアルミノシリケートガラス、ホウ珪酸ガラス、バイオガラスが好適に用いられる。結晶石英、ヒドロキシアパタイト、アルミナ、酸化チタン、酸化イットリウム、ジルコニア、リン酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化リチウム、フッ化イッテルビウムも好適に用いられる。具体的には、接着力、取り扱い性の点で、一次粒子径が0.001〜0.1μmの微粒子シリカが好ましく使用される。市販品としては、「アエロジルOX50」、「アエロジル50」、「アエロジル200」、「アエロジル380」、「アエロジルR972」、「アエロジル130」(以上、いずれも日本アエロジル社製、商品名)が挙げられる。
有機系フィラーとしては、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、多官能メタクリレートの重合体、ポリアミド、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、スチレン−ブタジエンゴムが例示される。
無機系フィラーと有機系フィラーとの複合体フィラーとしては、有機系フィラーに無機系フィラーを分散させたもの、無機系フィラーを種々の重合体にてコーティングした無機/有機複合フィラーが例示される。
硬化性、機械的強度、取り扱い性を向上させるために、フィラー(d)をシランカップリング剤等の公知の表面処理剤で予め表面処理してから用いてもよい。表面処理剤としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリ(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシランが例示される。
フィラー(d)の配合量は、本発明の硬化性組成物の全重量に基づいて、10〜80重量%の範囲が好ましく、30〜80重量%の範囲がより好ましく、50〜75重量%の範囲が最も好ましい。
本発明の硬化性組成物に、さらにレドックス系の化学重合開始剤を配合してもよい。化学重合開始剤としては、公知の系が使用できる。酸化剤としては無機過酸化物、還元剤としては芳香族アミンなどが挙げられる。
無機過酸化物としては、ペルオキソ二硫酸塩及びペルオキソ二リン酸塩などが挙げられ、これらの中でも、硬化性の点で、ペルオキソ二硫酸塩が好ましい。ペルオキソ二硫酸塩の具体例としては、ペルオキソ二硫酸ナトリウム、ペルオキソ二硫酸カリウム、ペルオキソ二硫酸アルミニウム、ペルオキソ二硫酸アンモニウムが挙げられる。
上記のペルオキソ二硫酸塩は、一種類単独を用いてもよく、複数種類を併用してもよい。上記のペルオキソ二硫酸塩の中でも、ペルオキソ二硫酸ナトリウム、ペルオキソ二硫酸カリウム、及びペルオキソ二硫酸アンモニウムが好ましい。
芳香族アミンとしては、(b−3)に記載した化合物と同様のものが使用できる。
本発明の硬化性組成物に、レドックス重合の重合促進剤としてさらに硫黄を含有する還元性無機化合物を含有してもよい。硫黄を含有する還元性無機化合物としては、亜硫酸塩、重亜硫酸塩、ピロ亜硫酸塩、チオ硫酸塩、チオン酸塩、亜二チオン酸塩などが挙げられ、これらの中でも亜硫酸塩、重亜硫酸塩が好ましく、具体例としては、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸カルシウム、亜硫酸アンモニウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウム等が挙げられる。硫黄を含有する還元性無機化合物は、一種類単独を用いてもよく、複数種類を併用してもよい。
本発明の硬化性組成物に、歯質に耐酸性を付与することを目的として、フッ素イオン放出性物質を配合してもよい。フッ素イオン放出性物質としては、メタクリル酸メチルとメタクリル酸フルオライドとの共重合体等のフッ素イオン放出性ポリマー、セチルアミンフッ化水素酸塩等のフッ素イオン放出性物質、無機フィラーとして既述のフルオロアルミノシリケートガラス、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化リチウム、フッ化イッテルビウム等が例示される。
本発明の硬化性組成物に、安定剤(重合禁止剤)、着色剤、蛍光剤、紫外線吸収剤等の添加剤を配合してもよい。また、セチルピリジニウムクロライド、塩化ベンザルコニウム、(メタ)アクリロイルオキシドデシルピリジニウムブロマイド、(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルピリジニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシデシルアンモニウムクロライド、トリクロサン等の抗菌性物質を配合してもよい。
本発明の硬化性組成物に、公知の染料、顔料を配合してもよい。
本発明の硬化性組成物を製品形態とする場合には、保存安定性の観点から、硬化性組成物の各成分が使用前に反応しないように、2剤(あるいは3剤以上)に分包することが好ましい。このとき、α-ジケトン化合物(b−2)は、芳香族アミン化合物(b−3)と異なる剤に配合することが好ましい。芳香族スルフィン酸塩(c−1)は、銅化合物(c−2)と異なる剤に配合することが好ましい。芳香族スルフィン酸塩(c−1)は、酸性基含有重合性単量体(e)と異なる剤に配合することが好ましい。
2剤型の硬化性組成物とする場合の一実施態様では、2ペースト型にするために、重合性単量体及びフィラー(d)が第1剤及び第2剤の両剤に配合される。酸性基含有重合性単量体(e)、α-ジケトン化合物(b−2)、及び銅化合物(c−2)が、第1剤に配合され、芳香族アミン化合物(b−3)、及び芳香族スルフィン酸塩(c−1)が第2剤に配合される。酸性基を有しない重合性単量体(a)は、第2剤に配合されるが、第1剤と第2剤の両方に配合されてもよい。トリアジン系化合物(b−1)は、第1剤と第2剤のいずれに配合されてもよく、例えば、第1剤に配合される。ベンゾトリアゾール化合物及び/又はベンゾイミダゾール化合物(c−3)は、第1剤と第2剤のいずれに配合されてもよく、例えば、第2剤に配合される。硬化性組成物が有機過酸化物(c−4)を含む場合には、有機過酸化物(c−4)は第1剤に配合されることが好ましい。
本発明の歯科用硬化性組成物は、歯質と歯冠用修復物を接着する際にマージン部からはみ出す余剰ペーストを、光照射器による1〜2秒程度の短時間での仮照射によってさえ、半硬化状態で除去することが容易である。また、本照射直後の機械的特性と1日後の機械的特性に優れ、硬化物は、歯科用セメントとして要求される機械的強度を十分に有している。したがって、本発明の歯科用硬化性組成物は、歯科用セメントに最適である。また、本発明の歯科用硬化性組成物は、優れた光硬化特性及び硬化物の機械的強度を有するため、歯科用ボンディング材、歯科用コンポジットレジン等として用いることもできる。
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
以下で用いる略記号は次のとおりである。
〔酸性基含有重合性単量体(e)〕
MDP:10−メタクリロリルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート
4−META:4−メタクリロイルオキシエチルトリメリテートアンハイドライド
〔酸性基を有しない重合性単量体(a)〕
水溶性の重合性単量体:
HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート
疎水性の重合性単量体:
BisGMA:2,2−ビス〔4−(3−メタクリロイルオキシ)−2−ヒドロキシプロポキシフェニル〕プロパン
D2.6E:2,2−ビス(メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン
NPG:ネオペンチルグリコールジメタクリレート
〔光重合開始剤(b)〕
〔トリアジン系化合物(b−1)〕
TCT1:2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジン
TCT2:2−(4−メトキシ−1−ナフチル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン
TCT3:2−(p−メトキシフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン
〔α−ジケトン化合物(b−2)〕
CQ:dl−カンファーキノン
〔芳香族アミン化合物(b−3)〕
PDE:N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル
〔重合促進剤(c)〕
〔芳香族スルフィン酸塩(c−1)〕
TPBSS:2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸ナトリウム
〔銅化合物(c−2)〕
酢酸銅(II)
〔ベンゾトリアゾール化合物/ベンゾイミダゾール化合物(c−3)〕
BTA:1H−ベンゾトリアゾール
BIA:ベンゾイミダゾール
〔有機過酸化物(c−4)〕
BPB:t−ブチルパーオキシベンゾエート
〔フィラー〕
F1:シラン処理石英粉
F2:シラン処理バリウムガラス粉
R972:シリカ(日本アエロジル社製、商品名「アエロジルR972」)
アルミナ:日本アエロジル社製、商品名「アルミニウムオキサイドC」
なお、シラン処理石英粉(F1)、及びシラン処理バリウムガラス粉(F2)は、以下の製造方法に従って得られる。
シラン処理石英粉(F1):
石英(MARUWA QUARTZ製)をボールミルで粉砕し、平均粒子径が約4.5μmの石英粉を得た。この石英粉100重量部に対して、通法により3重量部の3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランで表面処理を行い、シラン処理石英粉を得た。
シラン処理バリウムガラス粉(F2):
バリウムガラス(エステック社製、商品コード「Raysorb E−3000」)をボールミルで粉砕し、平均粒子径が約2.4μmのバリウムガラス粉を得た。このバリウムガラス粉100重量部に対して、通法により3重量部の3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランで表面処理を行い、シラン処理バリウムガラス粉を得た。
〔その他〕
BHT:2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール
(実施例1〜19及び比較例1〜9)
表1〜3に組成を示す第1剤及び第2剤を調製し、これら2剤の重量比が1:1となるように硬化性組成物を2剤に分包した。第1剤は、フィラー以外の成分を調合後、攪拌して均一な溶液とした後、粉末状成分を練り込み脱泡して作製した。第1剤中のフィラーは粉末状態で分散した状態であった。また、第2剤は、粉末状成分(フィラー、TPSS)以外の成分を調合後、攪拌して均一な溶液とした後、粉末状成分を練り込み脱泡して作製した。第2剤中の粉末状成分は、粉末状に分散した状態であった。これらの分包した硬化性セメント組成物について、下記に示す方法により、点荷重強度、圧縮強度、及び余剰セメント除去性について調べた。結果を表1〜3に示す。
〔点荷重強度〕
各実施例及び比較例について、等量採取した第1剤と第2剤を歯科用練和棒で10秒間混合した後、直ちに直径6mm、高さ1mmの孔を有するテフロン製の型に充填した。型の上下の面を離型フィルム(ポリエステル)で圧接し、前記離型フィルムを介して、混合開始から30秒後に上面から歯科用セメントに照射器「ペンキュア2000」(J.Morita USA製)を用いて10秒間光照射を行った。続いて型から取り出し、照射から30秒後に万能試験機(イージーテスター、島津製作所製)を用いてクロスヘッドスピード50mm/minにて、針を用いて硬化物の1点に、試料が降伏点に達するまで荷重をかけた。その後、試料に加えられた荷重(N)を記録し、硬化直後の点荷重強度(N)とした。
〔圧縮強度〕
各実施例及び比較例について、等量採取した第1剤と第2剤を歯科用練和棒で10秒間混合した後、直ちに直径4mm、高さ4mmの孔を有するステンレス製の型に充填した。型の上下の面を離型フィルム(ポリエステル)で圧接し、前記離型フィルムを介して、混合開始から1分後に上面から歯科用セメントに照射器「ペンキュア2000」(J.Morita USA製)を用いて10秒間光照射を行った。続いてステンレス製の型の上下を逆さにして反対側の面にも10秒間光照射を行った後、型から取り出して歯科用セメントの硬化体を1個得た。さらに、同様にして3個の硬化体を調製し、合計4個の歯科用セメント硬化体を得た。
得られた歯科用セメントの硬化体について、37℃の水中に24時間浸漬後、万能試験機(オートグラフ、島津製作所製)を用いてクロスヘッドスピード1mm/minにて圧縮し、試料が降伏点に達するまで荷重を加え、試料に加えられた荷重を記録し、得られた値をMPa単位に換算し、圧縮強度(MPa)を算出した。4個の圧縮強度の平均値をもって1日後の圧縮強度の値とした。
〔余剰セメント除去性〕
ウシ下顎前歯の唇面を流水下にてシリコン・カーバイド紙で研磨して象牙質の平坦面を露出させた。露出した平坦面を流水下にて#1000のシリコン・カーバイド紙でさらに研磨し、その後、表面の水をエアブローすることで乾燥した。乾燥後の平滑面に、各実施例及び比較例について、等量採取した第1剤と第2剤を10秒間混合することにより得られた、各実施例及び比較例の歯科用セメント0.5gを塗布し、その上から5mm×5mmのステンレス板を圧接した。圧接によりはみ出した余剰セメントに対して、〔点荷重強度〕で使用したものと同様の歯科用照射器「ペンキュア2000」を用いて、ステンレス板の四面の各方向から1〜5秒ずつ光照射を行った。その後、短針を用いて余剰レジンを除去し、以下の評価基準に従って、余剰セメントの除去性を評価した。
(余剰セメントの除去性の評価基準)
○:容易に一塊で余剰セメントを除去することが可能
△:余剰セメントは脆いが、余剰セメントのみの除去は可能
×:余剰セメントが脆く、圧接部からの過剰除去あり