JP5535779B2 - 牛肉又は牛肉加工食品の製造方法 - Google Patents

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本発明は、畜臭がマスキングされ、なおかつ食感が良好な牛肉加工食品の製造方法に関する。さらに、本発明は、アルギニンの牛肉又は牛肉加工食品に対する畜臭マスキング剤としての新たな用途に関する。
近年、食品原料の大部分を輸入に依存する日本において、食生活の多様化に伴い、その原料の種類も多様化し、また多くの国々から輸入を行っている。その中でも、食肉はその種類も輸入する国の数も増加している。しかしながら、食肉は、輸出国の地域の特性、飼育方法により、肉質、風味が異なり、日本人の嗜好にそぐわないものもある。
特に、牧草のみで肥育したグラスフェッドビーフでは、飼料である牧草由来の臭い、いわゆるグラス臭が問題となっている。さらに、これらの肉類を凍結して、長期保存すると、脂肪等が劣化することで、酸化臭が発生する場合もあり、品質の低下につながっている。このため、グラス臭や酸化臭等の畜臭をマスキングする方法が種々検討されている。
従来技術として、グラス臭等の畜臭をマスキングする方法としては、ブラックペッパー、クローブ、ジンジャー、ガーリック及びこれらの精油の何れか1種又は2種以上を添加する方法(特許文献1参照)、粉末もしくは液状のイワシ筋肉由来ペプチドを添加する方法(特許文献2参照)、スクラロースを添加する方法(特許文献3参照)、リグナン及びリグナン配糖体のうち少なくとも一方を添加する方法(特許文献4参照)、甘蔗汁及び甘蔗由来の製糖蜜に由来する成分を添加する方法(特許文献5参照)、5−ヌクレオチド類、β−グルカン、マンナン、酵母エキスを有効成分とする獣臭改善剤を添加する方法(特許文献6参照)、シクロデキストリンとカテキン及び/又はホップ抽出物で処理する方法(特許文献7参照)、温水から抽出した昆布エキスを添加する方法(特許文献8参照)、ラクトン類を添加する方法(特許文献9参照)、レモン果汁とエタノール、アルカリ性塩類を含む調味液を添加する方法(特許文献10参照)等がある。
しかし、特許文献1〜3は、畜肉に由来する畜臭をマスキングすることができるものの、牛肉に添加したときに香辛料、甘味成分に由来する味が肉についてしまうため、生肉の加工・販売には適さない。 一方、特許文献4〜10も一定のマスキング効果はあるものの、マスキング剤の調製に手間がかかり、製造工程を煩雑にするという難点がある。
特開平5−276878 特開平6−7118 特開2000−157184 第3652451号 第3834140号 特開2003−284528 特開2005−295988 特開2007−282516 特開2007−97587 特開2009−165411
本発明は、上記事情に鑑み、製造工程を煩雑にすることなく、さらに牛肉の旨味に影響を及ぼすことなく、グラス臭や獣臭等の不快な畜臭がマスキングされ、なおかつ食感も良好な牛肉又は牛肉加工食品の製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、牛肉からなる肉塊に、アルギニンを添加することで、畜臭がマスキングされ、なおかつ食感が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、(1)牛肉又は牛肉加工食品の製造方法であって、牛肉からなる肉塊に、アルギニンを添加する製造工程を含むことを特徴とする、畜臭がマスキングされた牛肉又は牛肉加工食品の製造方法。及び(2)前記製造工程において、さらに油脂を添加することを特徴とする(1)記載の牛肉又は牛肉加工食品の製造方法、に関する。
また、本発明は、(3)牛肉又は牛肉加工食品に対して用いられるマスキング剤であって、アルギニンを含むことを特徴とするマスキング剤、及び(4)さらに油脂を含むことを特徴とする(3)記載のマスキング剤、にも関する。
さらに、本発明は、(5)前記(3)又は(4)記載のマスキング剤を含むことを特徴とする牛肉又は牛肉加工食品、にも関するものである。
本発明の牛肉又は牛肉加工食品の製造方法によれば、製造工程においてアルギニンを添加することで、獣臭、グラス臭等の不快な畜臭を効果的にマスキングすることができ、しかも食感の良好な牛肉又は牛肉加工食品を製造することができる。また、アルギニンはアミノ酸であるため、牛肉そのものの旨味に影響を及ぼすことなく、かつ安全性にも優れている。
本発明は、牛肉又は牛肉加工食品の製造方法であって、牛肉からなる肉塊に、アルギニンを添加する製造工程を含むことを特徴とする、畜臭がマスキングされた牛肉又は牛肉加工食品の製造方法、に関する。
本発明において、牛肉加工食品とは、牛肉を原料としていれば特に限定されず、例えば、香辛料、調味料等で味付けされた加工食肉、ビーフソーセージ、ビーフハム、ロ−ストビ−フ、コーンドビーフ、ビーフハンバーグといった食肉製品や食肉加工品が挙げられる。牛肉の部位は、サーロイン、ヒレ、もも等いずれの部位を使用してもよく、特に部位は限定されない。肉塊の大きさも特に限定されるものではないが、挽き肉等の小肉塊、肉塊を適当な大きさに裁断したもの、肉塊を裁断しない大きなブロックの塊であってもよい。
本発明において、アルギニンは、どのような光学的異性体も使用できるが、L−体のアルギニンが好ましい。また、魚類プロタミン等、アルギニンを多く含む食品から適宜抽出したアルギニン濃縮物、あるいは食品タンパク質を分解後、アルギニン画分を分取した分画物等も使用できる。
アルギニンの添加量は、製造される最終的な牛肉加工食品の重量に対して、遊離アルギニン換算で0.3重量%以上であることが好ましい。より好ましくは0.5重量%以上である。この範囲でアルギニンが添加されると、優れたマスキング効果に加え、食感の向上が達成され、畜臭がマスキングされた牛肉加工食品を製造することができる。上限は特に限定されない。
アルギニンの添加方法としては、肉塊に直接添加し肉塊の水分で溶解させる手法を採用してもよいし、水あるいはピックル液等に混合、分散させて添加してもよく特に限定されない。
アルギニンと肉塊を接触させる方法としては、特に限定されないが、単純に添加したあと両者を十分に混合する方法の他、肉塊をアルギニン水溶液に浸漬させる浸漬法、添加後に真空タンブラー等により振とうさせるタンブラー法、アルギニン水溶液を肉に注入するインジェクション法等が挙げられる。接触条件は、処理される肉塊の裁断による物理的な形態、接触方法等により異なり、例えば牛肉をスモーク処理する場合には50℃近くになることもあるので一律に決められないが、代表的には−10〜20℃、より代表的には−5〜10℃で10分〜72時間である。20℃以上になると、肉中のタンパク質に熱変質を伴うことがある。接触時間が72時間にわたる場合でも、温度が10℃以下にコントロールされていれば、品質上特に大きな障害とはならない。
アルギニン以外に、牛肉加工食品に一般に添加され得る添加剤、例えば、発色剤、酸化防止剤、香辛料、調味料、pH調整剤等を適宜添加することができる。
本発明において、畜臭というのは、獣臭やグラス臭等、人間にとって不快に感じる臭気のことをいい、畜臭が強いか弱いかは官能検査によって評価することができる。
本発明では、牛肉からなる肉塊にアルギニンを添加する製造工程を含むことを特徴とするが、例えば、肉塊が挽肉等の小肉塊であれば、アルギニンを添加後、必要に応じて脂肪、水、及びその他添加物を添加、混合し、天然腸等のケーシングに充填し、加熱処理することで、牛肉ソーセージを製造することができる。一方、肉塊が大肉塊であれば、アルギニンを含むピックル液を添加後、ケーシングに充填し、加熱処理することで、ビーフハムを製造することができる。加熱処理の条件としては、通常の牛肉加工食品で適用され得る、燻煙、蒸煮、湯煮、加圧・加熱、真空調理加熱等の条件を適用することができる。
本発明はまた、肉塊にアルギニンを添加する製造工程において、さらに油脂を添加することを特徴とする牛肉又は牛肉加工食品の製造方法にも関する。
本発明に利用できる油脂としては、食用であれば特に限定されないが、バター等の動物油、サラダ油、オリーブオイル等の植物油を好適に利用することができる。
本発明において、油脂の添加方法は、アルギニンと同様に、例えば、肉塊に直接添加してもよく、あるいは、ピックル液等に乳化・分散させて添加してもよい。なお、油脂は、アルギニンの添加と同時に添加してもよいし、別々に添加してもよく特に限定されない。
本発明は、牛肉又は牛肉加工食品に対して用いられるマスキング剤であって、アルギニンを含むことを特徴とするマスキング剤、及び、前記マスキング剤において、さらに油脂を含むことを特徴とするマスキング剤にも関する。当該マスキング剤は、上述した牛肉又は牛肉加工食品の製造において使用可能な添加物である。
本発明において、マスキング剤とは、畜肉に由来する獣臭や飼料である牧草に由来するグラス臭等、人間にとって不快に感じる臭気を抑制することができる添加物である。
マスキング剤としてのアルギニンの添加量は上述の通りである。
さらに、本発明は、前記マスキング剤を含むことを特徴とする牛肉又は牛肉加工食品にも関する。この牛肉又は牛肉加工食品は上述した製造方法により製造することができる。畜臭が効果的にマスキングされるアルギニンの添加量は上述の通りである。
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
(実施例1)ステーキ用加工食肉の製造
オーストラリア産グラスフェッドビーフのモモ肉1000gに表1の配合のピックル液を200g注入した。注入後のアルギニン濃度は0.08%、0.25%、0.42%とした。これを16時間タンブリングし、3日間熟成した。注入しないものをコントロールとした。1.5cmの厚さにスライス後、ホットプレート(約200℃)で片面3分間の加熱を両面(合計6分間)行った。
表1において、試験区1はモモ肉に何も注入しないコントロール、試験区2は水のみを注入したもの、試験区3は注入後の肉中のアルギニン濃度を0.08重量%としたもの、試験区4は注入後の肉中のアルギニン濃度を0.25重量%としたもの、試験区5は、注入後の肉中のアルギニン濃度を0.42重量%としたものである。表1中、単位はgである。
(官能評価結果)
5名のパネルにマスキング効果と食感(軟らかさ)について評価してもらった。 表2中、 マスキングの項目に関して、◎は完全にマスキングした、○はマスキング効果あり、 △はややマスキング効果あり、×はマスキング効果なしとした。食感の項目に関して、○は軟らかい、△はやや軟らかい、×は軟らかくないとした。結果を表2に示す。
(結果)
表2の官能検査の結果より、アルギニン0.08重量%で畜臭を効果的にマスキングし、アルギニン0.25重量%で牛肉を効果的に軟化させた。
(実施例2)焼肉用加工食肉の製造
オーストラリア産グラスフェッドビーフのモモ肉1000gに下記の配合のピックルを200g注入した。注入後の食塩濃度は0.6%、アルギニン濃度は0.25%とした。これを16時間タンブリングし、3日間熟成した。注入しないものをコントロールとした。0.5cmの厚さにスライス後、ホットプレート(約200℃)で片面90秒間の加熱を両面(合計180秒間)行った。
表3において、試験区1はモモ肉に何も注入しないコントロール、試験区2は水のみを注入したもの、試験区3は食塩を添加したもの、試験区4はアルギニンを添加したもの、試験区5はアルギニンと食塩の両方を添加したものである。
(官能評価結果)
評価方法は実施例1と同様であり、結果を表4に示す。
(まとめ)
アルギニン又は食塩によりグラス臭のマスキング効果が認められたが、その効果はアルギニンの方が大きかった。しかも、併用によりその効果は増強された。添加量は、アルギニン濃度が0.25重量%で畜臭を効果的にマスキングした。アルギニン濃度0.25重量%および食塩濃度0.6重量%で牛肉を効果的に軟化し、併用によりその効果は増強された。
(実施例3)ビーフハムの製造
ニュージーランド産グラスフェッドビーフのモモ肉1000gに表5の配合のピックル液を200g注入した。注入後の食塩濃度は1.5重量%、アルギニン濃度は0.5重量%とした。これを16時間タンブリングし、3日間熟成した。直径10cmのセルロースケーシングに充填し、スモークハウス内で63〜67℃で120分間乾燥、80℃で中心が63度以上30分間保持するまで蒸煮した。
表5中で、試験区1はアルギニンが添加されていない区、試験区2はアルギニンが添加されている区である。表5の単位はgである。
(官能評価結果)
8名のパネルに評価してもらったところ、試験区2(アルギニン)は、試験区1(コントロール)に比べ、畜臭がマスキングされていた。また、試験区1はややパサつきがあり、試験区2はしっとりしているという評価だった。
(まとめ)
アルギニンはグラスフェッドビーフの畜臭を効果的にマスキングした。さらに、アルギニン添加により、食感が向上する効果も認められた。
(実施例4)ビーフソーセージの製造
グラスフェッドビーフを原料肉とするソーセージを製造し、畜臭のマスキング効果を検証した。まず、ニュージーランド産グラスフェッドビーフを3mm目のプレートでミンチし、表6の配合で原料肉と混合して4日間熟成した。熟成後、カッティングを行い、直径4cmのセルロースケーシングに充填し、78℃の温度で、中心が63度以上30分間保持するまで蒸煮した。
表6において、試験区1はマスキング剤を添加しないコントロール、試験区2はアルギニンを含むマスキング剤を添加した区、試験区3はアルギニンとオリーブオイルの両方を含むマスキング剤を添加した区である。なお、表6の単位はgである。
(官能評価結果)
8名のパネルに試験区1〜3のソーセージに発生する畜臭(獣臭、グラス臭)の
マスキング効果、食感について評価してもらったところ、表7のような結果となった。 評価方法は実施例1と同様である。
アルギニンのみの添加で、畜臭をマスキングすることができたが、オリーブオイルと併用することにより、その効果は高まった。また、アルギニンの添加されている試験区において、いずれも食感は良好であった。
(実施例5)最適なアルギニン濃度の検証
グラスフェッドビーフを原料として、実施例4と同様の方法により、ビーフソーセージを製造した。ビーフソーセージに含まれるアルギニンの濃度を5段階に変えて、最適なアルギニン濃度の検証を行った。
表8において、試験区1はアルギニンもリン酸塩も添加しないコントロール、試験区2は、アルギニンを添加しないが、リン酸塩を添加した区、試験区3はアルギニン濃度を0.1重量%に調整した区、試験区4はアルギニン濃度を0.2重量%に調整した区、
試験区5はアルギニン濃度を0.3重量%に調整した区、試験区6はアルギニン濃度を0.4重量%に調整した区、試験区7はアルギニン濃度を0.5重量%に調整した区である。表8の単位はgである。
(官能評価結果)
14名のパネルに試験区1〜7のソーセージに発生する畜臭(獣臭、グラス臭)のマスキング効果、食感を評価してもらったところ、表9のような結果となった。評価方法は実施例1と同様である。
(pHと歩留りの結果)
加熱後のビーフソーセージの歩留りを表10に示す。表10中、歩留りの単位は%である。歩留りは加熱前後の重量を測定することで算出した。
(まとめ)
アルギニンはグラスフェッドビーフの畜臭を効果的にマスキングするが、0.3重量%からマスキングの効果がみられはじめ、0.5重量%ではより強力にマスキングしていることが示された。最適なアルギニンの濃度の範囲は0.3重量%以上であることが示された。また、歩留りは、アルギニンの添加量に応じて向上した。
(実施例5)ハンバーグの製造:従来のマスキング剤との比較
本発明のアルギニン添加により製造したハンバーグ、並びに特開2007−97587号公報、特開2009−165411号公報の記載に従い、従来のマスキング剤を添加したハンバーグを製造し、マスキング効果を評価した。
以下では、マスキング剤を添加しないコントロールを試験区1とし、本発明のアルギニンを添加することにより製造したハンバーグを試験区2とし、特開2007−97587号公報の記載に従い製造したハンバーグを試験区3、特開2009−165411号公報の記載に従い製造したハンバーグを試験区4とした。
表11〜13に、各ハンバーグ製造時の処方を示した。表12は、表11のうち試験区3のマスキング剤の処方を示したものであり、表13は試験区4のマスキング剤の処方を示したものである。各表中、単位はgである。なお、試験区3、試験区4の処方は、各文献の記載に従った。
各試験区のハンバーグの製造は以下の手順で行った。3mmで牛肉をミンチし、表11の組成で、ミンチした牛肉と添加物を混ぜ合わせ、よく捏ねて、捏ねあがりの温度を6〜10℃とした。その後、100g前後の小判型に整形した。その後、フライパンで片面1分程度焼き、フタをして弱火で10〜15分焼き、中心が70℃以上になるまで加熱した。
(官能評価結果)
16名のパネルに試験区1〜4のハンバーグの畜臭(獣臭、グラス臭)のマスキング効果について、臭いをかいだ時、食べた時、それぞれについて評価してもらった。表14のような結果となった。評価方法は実施例1と同様である。
(pHと歩留りの結果)
焼成後のハンバーグの歩留りを表15に示す。表15中、歩留りの単位は%である。歩留りは加熱前後の重量を測定することで算出した。
(まとめ)
アルギニンによるマスキングでは加熱の歩留りもよく、マスキング効果も高かった。また、特開2007−97587号公報による方法では、マスキング効果が不十分であり、焼いた時の脂の流出も多かった。また、マスキング剤の調整も手間がかかった。特開2009−165411号公報の方法は、臭いをかいだ時と食べた時で差異が認められ、かつ、pHの調整が手間であった。以上の通り、マスキング及び歩留り向上効果の高さ、マスキング剤の調整が容易であることから、アルギニンによるマスキングは非常に意義がある。

Claims (1)

  1. 牛肉又は牛肉加工食品の製造方法であって、グラスフェッド牛肉からなる肉塊に、アルギニン及び食塩、さらにオリーブオイルを添加する製造工程を含むことを特徴とする、グラス臭がマスキングされた牛肉又は牛肉加工食品の製造方法。
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