JP3585072B2 - 加工動物性蛋白食材の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は加工動物性蛋白食材の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
加工動物性蛋白食材には大別して魚介類に由来するものと畜類肉に由来するものとがある。魚介類は新鮮なものをそのまま利用する場合と加工して利用する場合とがある。魚介類の加工方法には多くの方法があり、そのため従来から種々の魚介類の加工方法が提案されている。たとえば、
特開昭53−50358号公報には、微細肉、植物性蛋白に食塩を加えてペースト化した後、油脂類、熱凝固性素材を不均一に混合して緩慢凍結させる加工食品の製造方法が開示されている。
特開昭54−2368号公報には、カツオ等をNaHCO3 と第二リン酸ソーダを溶存させたソルビトール液に漬け込む工程と塩をまぶす工程を同時または前後して行うことで肉質の軟化や肉色素の安定化を図る魚肉燻製加工品の製造方法が開示されている。
特開昭55−144844公報には、骨付き魚肉を食塩、NaHCO3 及びアルカリ性リン酸塩溶液中に魚肉を漬け込み、次いで水切り後加圧下で加熱しその後冷凍する魚類冷凍食品の製造方法が開示されている。
特開昭57−5668号公報には、魚肉に0.3〜1.0%NaHCO3 、0.3〜1.0%ソルビトール溶液、またはその混合溶液に漬け込み、脱水後塩類溶液に漬け込み、次いでケーシングして魚肉結着性を高める採肉魚肉ハムの製造方法が開示されている。
特開昭62−19069号公報には、水晒ししたスケトウダラのような軟弱組織を改良するために、食用油、食塩、及び糖類の混合液に長時間漬け込んだ後、緩慢凍結する食用蛋白素材を製造方法が開示されている。
特開平6−165634号公報には、水産物の加工に伴う品質劣化を最小限に止めることを目的とし、前処理剤として食塩水溶液に食塩以外の無機塩類を溶解し、かつ水溶液のpHをアルカリ性に保持するために炭酸ソーダを添加し、これに水産物を漬け込み0〜20℃にて長時間、保持した後、ボイル、解凍加工を行う水産物加工用の前処理剤及び水産物の前処理方法が開示されている。
【0003】
一方畜類肉については、精肉として広く利用される他、ハム・ソーセージ、缶詰、燻製品等の加工食品としても利用されてきた。そのため従来から種々の畜類肉の加工方法が提案されている。例えば、
特開昭54−80456号公報には、肉塊状の原料肉を傷つけた後、リン酸塩配合剤、食塩等の添加剤を加え減圧下で擂漬する漬け込み操作を行うことで歩留りを15〜25%向上させるコンビーフの製造方法が開示されている。
特開昭58−37826号公報には、肉塊にナトリウム塩を加えて肉塊表面のイオン強度を0.6以上に調整し、肉塊表面にアクトミオシンを溶出させ、−2℃〜−8℃で冷凍した後、3〜70kg/cm2 の圧力で成形して肉塊同士を接着させる一枚肉の製造方法が開示されている。
特開昭59−39111号公報には、肉塊状の鶏肉に1〜3%食塩を添加し、緩やかに攪拌混合を行うことで、肉塊表面に肉糊状の塩溶性蛋白質を溶出させ、、これを減圧下で型に導入充填し、さらに加熱することで凝固させる鶏肉ブロックの製造方法が開示されている。
特開昭62−29953号公報には、加熱したピックル液を原料肉に注入することにより低塩、低カロリー、低リン酸の畜肉加工製品を提供する畜肉加工用ピックル及び畜肉加工品の製造方法が開示されている。
特開平2−308774号公報には、肉小塊10〜90wt部に食塩等の筋原繊維蛋白質溶解剤を添加してpH6.0〜7.3とした肉糊用肉と、残りの肉小塊90〜10wt部をpH6.5以下とした混合用肉とを、真空アジター、ラインミル、ラインミキサーを使用して酸素の混入を避けながら混練した肉小塊の再成型法が開示されている。
特開平3−180138号公報には、粉砕塩を主体に適量の糖類、結着剤、発色助剤、乳化安定剤、pH調整剤等を加え、体液濃度に近い組成とした多量のピックル溶液に10〜30時間浸漬する調味肉の製造方法が開示されている。
特公平5−28587号公報には、調理した鶏肉を逐次切断し肉質部の筋状物が適切な長さ以下になる様予め粗砕する第1工程と、その粗砕物に食塩を主成分とする塩類及び副材料、水分を配合し磨砕し均質なすり身とする第2工程と、得られたすり身を凍結する第3工程とより成る鶏肉冷凍すり身の製造方法が開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来の魚介類の加工方法では、以下のような問題点有していた。すなわち、
特開昭53−50358号公報の方法では、微細肉に植物性蛋白と食塩を添加、擂潰してペースト状肉糊を作り、脂肪を配合した後、緩慢凍結を5時間〜数日間に亘って行い、ロースハム等の代替品を作る方法であるが、擂潰による摩擦で温度が上がり品質が劣化し易くなり、これを防止するためには冷却する必要があった。さらに、酵素活性によりドリップが流出し易く魚肉の結着性が低下するのでドリップを吸収するために多量の植物性蛋白等を添加する必要があり、このため魚肉のみからなる加工魚肉が得られず、魚肉の旨味や栄養価を損ねるという問題点があった。
特開昭54−2368号公報の方法では、カツオのように調理後肉が硬く褐変しやすい魚肉を食塩水で血抜きした後、塩をまぶして48時間塩漬けし、その後NaHCO3 、第二リン酸ソーダ、ソルビトール液に漬け込んで肉質の軟化を図るものであるが、食塩を多量にまぶすため塩辛く、塩分濃度が高いため、水溶性蛋白質など低分子の微量成分が溶出するとともに歩留りが低下するという問題点があった。
特開昭55−144844号公報の方法では、骨ごと食べることができ骨に含まれているカルシウム等を摂取できるために栄養面では優れているが、加圧加熱工程が含まれているために作業が煩雑で生産性が低く、その上一部の熱に弱い栄養素が破壊され栄養価が下がるという問題点があった。
特開昭57−5668号公報の方法は、魚肉ハムの結着性を向上させるには好適であるが、漬け込み時間が長いために魚肉の品質が劣化し易く、品質劣化を防止するためには温度コントロール等の煩雑な作業が必要であり、また水溶性蛋白質をはじめ低分子の有効栄養成分が溶出し栄養価に欠けるという問題点があった。
特開昭62−19069号公報の方法は、スケトウダラのような軟弱組織の魚肉や、ボソボソした食感を有する魚肉の改良には好適な方法であるが、脂肪分や低分子蛋白質成分等の有効栄養成分が食用油、食塩、及び糖類の混合液に溶出し栄養価が低下するとともに、魚肉の結着性に欠けるという問題点があった。
特開平6−165634号公報の方法は、水産物加工に伴う品質劣化の抑制には効果があるが、漬け込み時間が長いために生産性が低く、さらに漬け込み時に旨み成分であるドリップ等が処理液中に溶出したり、漬け込み中に品質が低下するという問題点があった。
これら従来の方法はいずれも顆粒状の添加物をまぶすか、大量の低濃度加工処理液にどっぷりと漬け込む方法なので、これらの方法で所期の目的を達成するためには加工に長時間を要し、その間に魚肉の品質低下(軟質化、硬質化や酸化)を引き起こすとともに歩留りが低下するという問題点があった。また、人が食した時に歯ごたえ等の食味を低下させるという問題点もあった。さらに、漬け込み時に魚肉から流出した脂肪分や低分子栄養成分を多量に含む漬け込み液を廃棄処理するためには特定の処理設備を必要とし、その維持管理等に多大の労力を要すという問題点があった。
さらに、従来の方法では魚肉の自在な加工が困難で特定の用途にしか適用できないという問題点を有していた。
【0005】
さらに、前記畜類肉の従来の加工方法には次のような問題点があった。
特開昭54−80456号公報の方法では、5cm×10cmの肉片の筋膜や腱を短く切断した後、添加剤を添加し減圧状態で攪拌後、必要により3〜5℃で48時間漬け込みを行い、その後115〜118℃で60〜90分間蒸煮を行った後、その処理肉をほぐし筋膜、腱、血管を取り除いて製品としている。このため、工程が複雑で作業時間が長く、生産性が低いという問題点があった。また、コンビーフとしては肉色が悪く、その上リン酸塩や亜硝酸ナトリウム等が添加されているので消費者の健康上好ましくないという問題点もあった。
特開昭58−37826号公報の方法では、肉塊表面にアクトミオシンを溶出させ、このアクトミオシンで肉塊同士を接着させるが、肉塊中に脂肪層があるとアクトミオシンの溶出反応は起こらないので、加熱時に身崩れが起きるという問題点があった。このため、脂肪層の多い屑肉の全面利用が困難であり、さらに生産工程が複雑で作業性や生産性に欠けるという問題点もあった。
特開昭59−39111号公報には、攪拌混合機で肉塊の内部組織は損傷させず、表面は塩溶性蛋白質が溶けて肉糊となるまで緩やかに攪拌混合し、肉塊表面を塩溶肉糊にしてブロック肉を製造するものであるが、肉表面だけの反応で肉の内部まで改質できないという問題点があった。また、作業工程は減圧状態で、12〜48時間の成型作業と2〜3時間の加熱作業を必要とするので、極めて作業が煩雑となり、生産性や作業性に欠け原価が上がり、量産性に欠けるという問題点もあった。
特開昭62−29953号公報には、ピックル液を水蒸気で加熱してインジェクションし、さらに着色剤や食用色素を添加しているが、食塩濃度が低いために塩溶効果が乏しく、またゲル化及び乳化作用が極めて緩慢なために、肉組織全体の改質を行うことができず、その製品は弾力性や歯ごたえ等のテクスチャーに欠けるという問題点を有していた。さらに、その製品は酸化され変色し易いという問題点があった。
特開平2−308774号公報には、肉塊表面に脂肪層があると生化学反応が起こらないので、結着性が弱く、このために結着補助剤を使う必要があり、また、作業工程が複雑で生産性に欠けるという問題点があった。
特開平3−180138号公報には、体液に近い濃度のピックル液に浸漬するが、ブロック肉のような大きな肉塊を使用した時はピックル液を肉塊内部まで浸透させることができず、また、脂肪層を改質することが困難で、品質にバラツキがあり肉色もよくないという問題点があった。また、ピックル液に10〜30時間浸漬する必要があり生産性に欠けるという問題点もあった。
特公平5−28587号公報には、鶏肉を調理し、次いで粗砕後塩ズリするので、工程が煩雑で作業性に欠け、生産性に欠けるという問題点を有していた。
【0006】
また、上記従来の方法による畜類肉の加工方法には以下のような問題点があった。
一般に畜類肉は長期保存のために急速冷凍した冷凍生肉が流通され、加工工場で食品や加工食肉に加工されているが、長期にわたる貯蔵や解凍中に生肉の品質が低下するという問題点があった。特に解凍中に旨味成分を含有するドリップが流出し味が劣化するという問題点があった。また、肉の旨味成分の流出のみならず肉の表面に付着したそれらのドリップの低分子蛋白質や血液が酸化され肉色を急速に低下させるとともに、独特の畜肉臭やグラス臭を発生させるという問題点があった。さらに、生肉中の水分の分離により肉が硬化し食した際に歯あたり等のテクスチャーを害するという問題点もあった。
また、冷凍中の水分の気化や冷蔵中もしくは解凍時のドリップの流出により、歩留りが低下するという問題点もあった。冷蔵中もしくは解凍時に流出する畜類肉の旨味成分である低分子栄養成分は何ら活用されることなく廃棄されるとともに、その処理のために多大の労力や設備を必要とするという問題点もあった。
【0007】
スーパーマーケット等小売り店の店頭販売ではチルド肉や解凍食肉を低温に保持したショーケースに入れドリップの流出を防止しながら販売されているが、消費者が購入して持ち帰る時間に解凍されだしドリップが流出するとともに、肉が変色し品質を低下させるという問題点もあった。チルド肉や冷凍肉を使用したハンバーグは加熱処理時に動物性油脂が流出し、これが冷えるとロウ成分が表面に白く浮きだし、食すると口中がザラつき、食感を悪くし肉や脂肪の旨味を損なうという問題点があった。
一般に冷凍肉はドリップの流出等のため肉質が低く評価されていたために、冷凍肉の改善や付加価値を高くする加工方法の開発が強く望まれていた。
【0008】
本発明は上記従来の問題点を解決するもので、ソフトで弾力性に優れ、加工自在で、変性損失を防ぎ、ドリップ等の低分子栄養成分等を有効に利用した高歩留りで栄養価の高い加工魚肉、加工畜肉等の加工動物性蛋白食材を提供すること、及び、動物性蛋白原料(生肉)の内部で生化学反応を起こさせ、細胞膜、筋原繊維、筋鞘、コラーゲン、脂質や脂肪、脂肪中の細胞膜組織、コラーゲン等を短時間に改質させ、生肉の冷蔵中の酸化による肉色の変色化を防止すると共に、肉色を修復し、解凍に伴うドリップの流出や、冷蔵、冷凍中の変性等を防止し、又屠殺直後等の生肉を急速に熟成出来、更に畜肉臭やグラス臭を消臭させた加工動物性蛋白食材を提供することを目的とする。
また、肉内に於いて肉蛋白質や油脂、脂肪中のロウ成分を乳化させてゲル化熟成させ、肉組織を改質し口当たり良く、弾力性、保水性、結着性のある肉に処理すると共に、肉の硬さを自由に調節出来る加工動物性蛋白食材の製造方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
この目的を達成するために本発明は以下の構成からなる。すなわち、
請求項1記載の加工動物性蛋白食材の製造方法は、NaCl、KCl、CaCl 2 、MgCl 2 、のうち、いずれか一種もしくはこれらの混和物からなる塩類を水及び/または動物性蛋白原料のドリップに溶解し、1.0〜7.0重量mol濃度とするとともに、ビタミンC剤及び/またはビタミンE剤を溶解させた塩類溶液を、100wt部の動物性蛋白原料に対して塩類が0.2〜2.5wt部、ビタミンC剤が6×10 -3 〜500×10 -3 wt部、ビタミンE剤が1×10 -3 〜300×10 -3 wt部含有するように網目状にインジェクションして含浸させ、その後、5分間電気マッサージ機でバイブレーションして拡散させ、
次いで、NaHCO 3 、Na 2 CO 3 、KHCO 3 ,K 2 CO 3 ,NH 4 HCO 3 のうちいずれか一種もしくはこれらの混和物からなるアルカリ剤を水及び/または動物性蛋白原料のドリップに溶解し、0.03〜3.0重量mol濃度としたアルカリ剤溶液を、100wt部の動物性蛋白原料に対してアルカリ剤が0.01wt部含有するように網目状にインジェクションして含浸させ、その後、10分間電気マッサージ機でバイブレーションして拡散させる構成を有している
【0014】
畜類肉の種類としては、鶏,豚,牛,羊,馬等の畜類肉の他、鹿,猪,兎等の獣肉の肉が用いられる。
畜類肉の形態としては、解体物,ブロック,ステーキ,スライス,サイの目,ミンチ,スティック,細切,スリ身その他の肉塊や骨付きの肉塊等が用いられる。また生肉に限られず、冷凍品,冷蔵品,チルド品等を解凍したものが用いられる。さらに冷凍中等に肉質が冷凍変性等したものを用いてもよい。また、畜類肉は用途に応じて別種の畜類肉を混合して用いてもよい。
【0015】
塩類としては、上質塩,精製塩等の食塩や必要に応じてグルタミン酸ソーダ等で加工した加工塩、KCl,CaCl2,MgCl2の内いずれか1種若しくは
これらの混合物が用いられる。
塩類溶液として、塩類の種類によるが、1.0〜7.0mol濃度,好ましくは2.0〜6.5mol濃度のものが用いられる。畜類肉の種類や部位にもよるが、一般的に2.0mol濃度より低くなるにつれ筋原繊維の溶解度が下がる傾向が認められ、肉内においてゲル化能や乳化能も減少し熟成が遅くなる傾向が認められ、特に1.0mol濃度未満ではその傾向が著しく、又、6.5mol濃度を越えるにつれ塩味が強く肉質が硬くなり、畜類肉の旨味が損なわれてくる傾向が認められ、特に7.0mol濃度を越えるとその傾向が著しくなるので、いずれも好ましくない。2.0〜6.5mol濃度の塩類濃度が畜類肉の骨格筋の細胞膜、筋原繊維,筋鞘,コラーゲン,脂質や脂肪,脂肪中の細胞膜やコラーゲン等の溶解度を向上させ、畜類肉内において肉組織を毛細網目状構造化し、骨格筋等からアクトミオシンを溶出させ、ゲル化能を付加し熟成化させるとともに著しく結着性を付加向上させるので好適である。
【0016】
塩類の添加量は、動物性蛋白原料100wt部に対し、0.1〜5wt部,好ましくは0.2〜2.5wt部が用いられる。0.2wt部より少なくなるにつれ魚介類や畜類の肉の骨格筋等の細胞膜,筋原繊維,筋鞘,コラーゲン,脂質や脂肪、脂肪中の細胞膜やコラーゲン等の溶解度が下がる傾向が認められ、特に0.2wt部未満ではその傾向が著しく、また2.5wt部を超えるにつれ塩分が強く効きだし、特に5wt部を超えると加工食材や加工方法の種類にもよるが、食品としても適性を損なうという傾向が認められるので、いずれも好ましくない。尚、前記範囲内で塩類の添加量が少ないほど素材の持つ低味性の風味を活かしたものが得られ、添加量が多い場合には燻製品や塩干物として利用するとこれらの保存性を向上させることができる。
【0017】
アルカリ剤としてはNa2CO3,K2CO3,CaCO3,NaOH,KO
H,Ca(OH)2,NaHCO3,KHCO3,Ca(HCO3)2,NH4
HCO3,の内いずれか1種若しくはこれらの混合物が用いられる。中でもNaHCO3やKHCO3等が溶解性に多少難があるもののpHの調整等が容易なの
で好ましい。
アルカリ剤溶液としては、アルカリ剤の種類にもよるが、0.03〜3.0重量mol濃度,乾燥重量0.005〜3wt部,好ましくは0.05〜1.2重量mol濃度のものが用いられる。特に0.05重量mol濃度未満ではゲル形成力が不安定化する傾向が認められ、又、1.2重量mol濃度を超えるにつれ畜類肉の種類や熟成度にもよるがpHが上がり過ぎて筋原繊維や筋鞘が過度に溶解される傾向があり、その分畜類肉の変敗が進行し易くなる傾向が認められ後工程での加工品と品質の維持が困難になる傾向があり、特に、0.03重量mol濃度未満若しくは3.0重量mol濃度を越えるといずれもその傾向が著しくなるので好ましくない。
【0018】
アルカリ剤の添加量は、原料動物性蛋白原料の種類により異なるが、畜類肉蛋白原料100wt部に対し、乾燥重量で0.005〜3wt部,好ましくは0.01〜1wt部、更に好ましくは0.05〜0.5wt部となるように水やドリップ液に溶解されて添加される。尚、pHが上がった場合は乳酸等の弱酸を添加して調整してもよい。アルカリ剤は塩溶効果と相まってゲル形成能や乳化能を安定にする作用さらに消臭の効果があり、0.05wt部より少なくなるにつれその効果が認められなくなり、また、0.5wt部を超えるにつれて筋原繊維等の過度の溶解や変敗が進行し易くなる傾向が認められる。また、乾燥重量で0.01wt部未満になるとゲル形成能が減少するという傾向があり、また1wt部を超えるとアルカリ剤の反応が強く働くという傾向が現れだし、0.005wt部未満若しくは3wt部を超えるとその傾向が著しくなるので好ましくない。
【0019】
ビタミンC剤やビタミンE剤は、栄養強化の他、酸化防止等の目的で添加させるもので、アスコルビン酸であるビタミンC剤は主に自由水に作用して抗酸化性を呈すると共に、ビタミンE剤であるα−,β−,γ−,δ−トコフェロールやα−,β−,γ−,δ−トコトリエノールは蛋白原料の脂肪分に作用して抗酸化性を維持することができる。
魚介類については、ビタミンC剤は魚肉100wt部に対し、0.006〜0.3wt部,好ましくは0.02〜0.15wt部が用いられる。0.02wt部より少なくなるにつれ魚肉が酸化され肉色が低下する傾向が現れ、特に0.006wt部未満になるとその傾向が著しいので好ましくない。また、0.15wt部より多くなるにつれ魚肉の種類や鮮度の程度により魚肉の発色や酸化防止の効果に大きな差異が認められなくなる傾向が現れ、特に0.3wt部を超えるとその傾向が著しいので好ましくない。
ビタミンE剤は魚肉100wt部に対し0.001〜0.2wt部、好ましくは0.005〜0.08wt部添加することによりビタミンC剤と相まって肉の発色や酸化防止効果を改善し、特に0.005〜0.08wt部ではその効果を顕著にすることができる。尚、ビタミンE剤は肉が新鮮な場合は用いずビタミンC剤のみでよい。
畜類肉については、ビタミンC剤は畜類肉100wt部に対し0.006〜0.5wt部、好ましくは0.02〜0.3wt部が用いられる。0.02wt部よりも少なくなるにつれ酸化され肉色が低下する傾向が現れ、特に0.006wt部未満ではその傾向が著しく、また、0.3wt部より多くなるにつれ肉の種類や鮮度により肉の発色や酸化防止の効果に大きな差異が認められなくなる傾向が現れ、特に0.5wt部を超えるとその傾向が著しくなるのでいずれも好ましくない。ビタミンE剤は畜類肉100wt部に対し0.001〜0.3wt部,好ましくは0.005〜0.15wt部を添加することによりビタミンC剤と相まって肉の発色や酸化防止効果を著しく改善することができる。尚、肉が新鮮な場合はビタミンC剤のみでもよい。
【0020】
ドリップは新鮮なものや品質管理のされた細菌数の少ないものであればよい。ドリップは単独でそのまま、または水に希釈して用いるか、若しくは塩類溶液やアルカリ剤溶液中に添加混合して畜類肉に含有させてもよい。この際、ドリップ中の水分があるため塩類やアルカリ剤を溶解する水分を減少させてもよい。ドリップ中の低分子栄養成分や旨みを肉中に還元することにより原料畜類肉の持つ風味を活かすことができる。含有方法はドリップの全量を塩類溶液に混入するか、または塩類溶液とアルカリ剤溶液に分配して混入してもよい。またドリップを他の種類の畜類肉に添加してもよい。例えば、牛肉のドリップを鶏肉に添加すると斬新な若者向きの鶏肉を作ることができる。
【0021】
魚介類や畜類肉が冷蔵品の場合、品温上昇を防止するため少なくとも処理部を氷や冷媒(液体N2,ドライアイス,ブライン)等で冷却するのが好ましい。蛋白質分解酵素の活性化を抑制するとともにチロシナーゼ等の酵素の活性による変色を防止し生菌数の上昇を抑止するためである。
製造温度は蛋白原料が捕獲直後又は冷蔵品の場合は20℃以下好ましくは10℃以下で行われるのが好ましい。また凍結又は半凍結品の場合は0℃以下で行うのが好ましい。尚、望ましくは全製造工程が氷点下以下で行われるのが望ましい。氷点下の温度でありながら、その自由水等のため内部で塩溶化や、ゲル化能を進行させ乳化させた蛋白食品素材をえることができるからである。魚肉と低分子旨味成分(エキス)が渾然一体化して自己乳化し均一分散したゲル形成力を有する無晒しのスリ身を得ることができる。
動物性蛋白原料が冷凍品や半冷凍品、及び生鮮魚の冷蔵品である場合は処理温度が5℃以下好ましくは0℃以下で行うのが望ましい。乳化生や品質維持、坐り防止、雑菌の増殖防止、肉の変質防止を図るためである。冷蔵品や捕獲直後のもの、畜類肉等は処理温度が20℃以下好ましくは10℃以下であることが望ましい。乳化性や品質の維持、坐り防止、雑菌の増殖防止、肉の変質防止を図るためである。
【0022】
塩類溶液やアルカリ剤溶液,副資材溶液の動物性蛋白原料への添加は、インジェクター等の注入器等が含浸する場合は肉塊の異なった個所から同時に含浸させてもよい。順序は塩類溶液を先に注入し、次いでアルカリ剤溶液を注入するかその逆でもよい。また、両液を混合して注入してもよい。塩類溶液を先にインジェクションすると色調を高めることができる。また、肉が新しい場合や色調を問題としない場合(例えば、ハンバーグ用等の加工用)はアルカリ剤溶液を先に注入すると若干物性を向上させることができる。また、インジェクション処理は畜類肉塊の片面あるいは両面に行ってもよく、また両面に行う場合は裏表同時に行ってもよい。また必要により肉塊を小ブロックごとに分けてインジェクション処理または噴霧法で行ってもよい。
【0023】
アルコールとしては、日本酒,ミリン等の料理酒,ワインやブランディ,チェリー酒等の酒類や中国酒等の酒類が好適に用いられる。日本酒,ミリン等の料理酒は畜類肉100wt部に対し,各々0.5〜6wt部好ましくは1〜4wt部の範囲で用いられる。1wt部より低くなるにつれ、ツヤや風味が出にくい傾向が現れ、特に0.5wt部未満ではその傾向が著しく、又、4wt部を超えるにつれ、食味が悪くなる傾向が現れ、特に6wt部を超えるとその傾向が著しくなるので、いずれも好ましくない。日本酒,ミリン等の料理酒を加えることにより加工畜類肉にツヤや風味,ソフト感を向上させることができる。
【0024】
糖類としては、キシリット,ソルビット,グルコース,オリゴ糖,ガラクトース,フルクトース,ラクトース,蔗糖,麦芽糖等が用いられる。糖類は甘味を抑え、かつ光沢感を出すため2種以上混合したものを用いるのが望ましい。また、糖類を添加することにより冷凍変性を防止することもできる。添加量は、蛋白原料に対し1〜13wt%,好ましくは4〜10wt%が用いられる。この範囲外では、上記効果が得難くなるので好ましくない。
【0025】
卵白は、畜類肉100wt部に対し、0.1〜10wt部,好ましくは1〜5wt部が用いられる。乳化性,保水性,結着性等を向上させるためである。1wt部より低くなるにつれ乳化・ゲル化の補強効果が低減する傾向が現れ、特に0.1wt部未満ではその傾向が著しく、又、5wt部を超えるにつれ肉の旨味が減少する傾向が現れ、特に1wt部を超えるとその傾向が著しくなるので、いずれも好ましくない。1〜5wt部の卵白が長期に渡る冷凍保存等により冷凍変性等した畜類肉の塩溶溶解性や乳化,ゲル化の促進を図ることができる。卵白や全卵は生又は乾燥したものを用いるのが好ましい。製造工程で加水処理等を行う場合は生の全卵等を用いるのが好ましいが、素材の含水量を少なくする場合は乾燥全卵や乾燥黄卵、乾燥卵白が好ましい。
【0026】
酸化防止剤としては、エチレンジアミン四酢酸,カルシウム二ナトリウム,エリソルビン酸,ジブチルヒドロキシアニソールが用いられる。酸化防止剤は、畜類肉100wt部に対し、0.005〜4wt部,好ましくは0.05〜3wt部が用いられる。0.05wt部より低くなるにつれ酸化され易くなる傾向が現れ、特に0.05wt部未満ではその傾向が著しく、又、3wt部を超えるにつれ食味が悪くなる傾向が現れ、特に4wt部を超えるとその傾向が著しくなるのでいずれも好ましくない。
【0027】
結着補助剤としては、ゲル化補助剤やデンプン等があげられる。尚、足の促進剤としてリジン,アルギニン,オルチニン等の塩基性アミノ酸等を少量加えてもよい。添加量は蛋白原料100wt部に対して0.001〜20wt部、好ましくは0.01〜10wt部、更に好ましくは1〜8wt部が用いられる。添加量が少ないと食感が柔らかくて伸びのある素材が得られ、添加量が多いと弾力のある食感に富んだ素材が得られる。添加方法は溶液状やカード状で蛋白原料内に注入又は添加するのが好ましく、また原料によっては直接これらの粉末を添加してもよい。添加時期は塩類溶液,又はアルカリ剤溶液と同時に又は別々に添加してもよい。
【0028】
ゲル化補助剤の混合比は塩類1に対してゲル化補助剤1〜10wt部好ましくは5〜8wt部が用いられる。ゲル化補助剤の添加量が少なくなるにつれ柔軟で塩味をきかせたものを得ることができる。添加量が多いと歯ごたえを増し成型性を向上させることができる。
ゲル化補助剤としては、動物性アルブミンや植物性アルブミン等のアルブミン,小麦粉,グルテン,活性グルテン,大豆蛋白,卵白及び全卵,ゼラチン,カラギーナン,ペクチン,寒天,グルコマンナン等があげられる。動物性アルブミンとしては、卵アルブミン,血清アルブミン,乳アルブミン等が利用でき、植物性アルブミンとしては、澱粉や加工澱粉糖を用いることができる。澱粉としては、馬鈴薯澱粉、トウモロコシ澱粉、小麦澱粉、サツマイモ澱粉やこれらの加工澱粉類がある。その他、小麦、大麦、ライ麦のロイコシン,エンドウ、ソラマメ、のレグメリン等が利用できる。
ゲル化補助剤は、スリ身が粘着性に乏しく、成型が困難である場合に、添加することにより蛋白原料の結着性を向上させ利用範囲を著しく拡大することができるので、ゲル化性の多少劣る蛋白食品素材の場合には、最終製品に合わせて添加量を適宜選択することにより目的とする形にスリ身を自由に成型することができる。
【0029】
血漿粉末としては、例えばプロファインFG(太陽化学工業(株)製)等が用いられる。血漿粉末を添加することにより、タンパク質分解酵素の活性を抑制することができる。
副資材としては乳化剤,植物繊維,機能剤、動植物性油脂,pH調整剤等があげられる。乳化剤としては、全卵、卵黄、卵白、レシチン、脂肪酸、エステル、シュガーエステルがあげられる。
食物繊維としては大豆等から得られる粉末繊維、セルロース粉末、植物に多くみられる繊維質性多糖類、粒状あるいは糸状の組織状大豆蛋白、組織化された澱粉質からなる食物繊維などの非溶解性の食物繊維、グアガム、ポリデキストロース等の溶解性の食物繊維やキチン、動物性蛋白原料を主成分とし加熱処理等で成型された紡糸状の加工品(例えば日本水産(製)の商品名シーグレス等)も食物繊維として利用できる。
食物繊維を加えることにより、ねり状加工品の色調を上げ、色の白い蛋白食品を得ることができる。更に、食物繊維のもつ保水性により肉中の旨味を含んだ水分を保持し、結果として蛋白原料中の水分分離を防ぐことができる。
機能剤としては、動物性蛋白の様々な性質をもった栄養素性を基に健康食,医療食と、その用途に併せて各種のビタミン類や漢方薬エキス,キトサン等の機能性を有するものが用いられる。
動植物性油脂としては、動物油脂として豚脂,牛脂,羊脂などやショートニングオイル,マーガリン等、植物油としてダイズ油,ゴマ油,ナタネ油,綿実油,ヒマワリ油,トウモロコシ油,サフラワー油,オリーブ油,パーム油,ラッカセイ油などが用いられる。
【0030】
調味料として、風味や食感の向上化のため牛乳,生クリーム,バター,チーズ等の乳製品類、ミリン、調理酒、アミノ酸、各種香料、各種エキス類、各塩類、イノシン酸塩やグルタミン酸塩等の化学調味料、シイタケ,コンブ,カツオブシ等の天然調味料、ペプタイト等の魚種の濃縮エキス、複合調味料、ソルビット等の甘味料、ソルビン酸等の防腐剤、若しくは必要によりpH降下剤等を最終加工食品の種類に合わせて適宜添加するとカニ,エビ風味等蛋白原料に起因した風味を有する美味で新規な食品を提供できる。
これらは溶解性により塩類溶液やアルカリ剤溶液若しくは液状の添加剤溶液に溶解して用い畜類肉中に含浸させることができる。これらの溶液に溶解性を有しない粉状の添加剤は液中に分散させ畜類肉に含有させて用いることもできる。中でも添加剤が溶液状のものが特に好ましい。畜類肉中に均質に含浸させることができるためである。これらを添加することにより肉の旨味をより多く引き出すことができると共に、また他の味付を行い全く新規な高付加価値化した加工畜類肉を提供できる。
【0031】
この構成によって、本発明は以下の作用を有する。
(1) 所定量の塩類溶液とアルカリ剤溶液を畜類肉の内部に注入等で含浸させることにより畜類肉内において、筋原繊維や筋鞘を溶解し畜類肉内に於いて筋繊維,筋束を塩溶し、乳化させ毛細網目状化させゲル形成を行うことができるとともに素材の有する旨味や栄養価を最大限に引き出すことができる。
(2) これらの溶液は肉組織や脂肪組織に分散反応して溶液濃度が低下し短時間で生化学反応が終わるので肉組織を破壊することなく改質できるとともに、生肉中の酵素活性を阻害して肉組織の崩壊を防止することができる。
(3) マッサージやバイブレーション、超音波処理、混練処理をすることにより塩類溶液とアルカリ剤溶液を肉中に幅広く拡散させ毛細網目状化やゲル形成を促進することができる。
(4) 塩類溶液を少量用いたので硬い低級肉、例えば、モモ肉を柔らかい高品質の肉に変えることができる。また、塩類やアルカリ剤の濃度を変えることにより肉の軟度を自由に調節できる。また、この塩溶促進・ゲル化熟成により肉の保水性や結着性が向上させ、ドリップの生成を防止することができる。また、保水性や結着性を向上するので水溶性低分子蛋白質等の旨味成分や各種低分子栄養成分の流出を防止できる。
(5) 解凍時に生成したドリップを塩類溶液又はアルカリ剤溶液中に混入し、畜類肉内に還元するので栄養価や旨味を損なうのを防止できる。また、ドリップを生成した畜類肉以外の他の種類の畜類肉のそのドリップを加えることによりその旨味に他の種類の肉汁の旨味を加重でき新規な加工動物性蛋白食材を提供できる。
(6) 塩類溶液やアルカリ剤溶液中に水溶性の調味料や栄養剤及び機能剤を混入できるので、病人食等用途に応じた味付けや栄養価を素材自体に行うことができる。畜類肉の組織が変化し毛細網目状化し、いわゆるゲル形成を生じ、かつ保水性や結着性や高いので、加熱処理しても肉汁がでることがないので加熱調理後の歩留りを高め膨張率を向上させることができるとともに栄養価を維持し、ソフトになるので調理の領域を拡大することができる。
(7) 保水性や結着性が高いので数多くの薬品を使用することなく冷凍によるドリップの流出が防止でき、冷蔵及び冷凍時の変性を防止できる。アルカリ剤溶液と塩類溶液等の作用で肉の色を向上させ又変色した肉色を復元し品質を向上させることができる。塩類溶液とアルカリ剤の添加効果と肉組織の毛細網目状化やゲル形成により、畜臭やグラス臭を消臭することができる。
(8) 魚類や畜類肉の魚肉や精肉のみならず、低利用の蛋白原料や屑肉、固くて食品に利用し難い各種の蛋白原料をNaCl等の塩類とアルカリ剤の存在下で微粒化することにより高栄養価でエキス等の低分子旨味栄養成分や機能性成分,ビタミン類,微量元素等を含んだ加工動物性蛋白食材を極めて容易に製造することができる。
(9) 少量の塩類水溶液を用いることにより効率的な塩溶化を行うことができると同時に、アルカリ剤水溶液により脂肪分その他を乳化活性化させるので、原料中の低分子蛋白質やミネラル分と相まって強力にゲル化機能を有しているので保水性に優れ、冷凍しても冷凍変性を受けることが少なく、また、解凍してもドリップの生成を防ぎ旨味成分を維持できる。
(10)極めてゲル化度が高いので、解凍時でもドリップの生成を防ぎ動物性蛋白原料全体を食品化できるので低分子栄養旨味成分やDHA,EPA等の有効成分も有効に利用できる。
(11)従来、無晒蛋白原料では、ゲル化がほとんど不可能であったが、本構成によりアルカリ剤溶液や塩類溶液による微粒化で、スリ身製造中にアクトミオシンの高度溶出生を引き出すとともに、ゲル形成能の弱い原料でも卵白などの結着補助剤等を加えることにより相乗的な架橋作用で、網目構造を形成し、ゲル化を促進しゲル強度を引き出すことができる。
(12)無晒しの原料を使用するので、特に魚肉においては低分子旨味栄養成分を有効に活用することができ、EPA、DHAなど優れた栄養機能を有し、水晒しの製品より優れた製品を得ることができる。また製品歩留りを大幅に向上させるとともに、ゲル化能が付与されているので、水のばしができるようになった。
(13)一般に、無晒し魚介類の精肉を利用すると、製品の色が黒ずんで悪くなるが、アルカリ剤,ビタミン類などを適宜使用することにより理論的に解明できなかったが、それらの問題点を著しく改善することができる。畜類においても同様の処理を施すことにより同様に著しい効果を得ることができる。
(14)塩類溶液やアルカリ剤水溶液を用いる処理法を採用したので、骨格筋や細胞膜を弛緩作用や浸透圧などにより細胞レベルまでビタミン剤などが作用し、極めて高い酸化防止性とともに腿色防止性及び変色した肉の再生化等を可能にし、細胞レベルまで塩溶化,乳化,ゲル化能を及ぼすことができる。
(15)酸化防止機能のある製剤を細胞レベルまで作用させるので、酵素活性を防ぎ自己消化を著しく遅延させるので、品質の持続性を向上させることができる。
(16)塩類溶液やアルカリ剤溶液をインジェクター等で直接動物性蛋白原料に含有させ、拡散させるので、魚介類、畜類の種類を問わず油脂、脂肪を含んだ原料蛋白の細胞膜や骨格筋を高い塩濃度で急速に塩溶・乳化させるので各種の微粒化機により従来の1/2乃至1/20の短時間で肉糊を製造することができる。
(17)低分子栄養成分を取り込み高いゲル化能と乳化作用を構成し、今までと違った相乗効果的な架橋作用で網目構造を形成し、高いゲル強度を引き出すことにより低分子旨味栄養成分を活用できるとともに、魚臭や畜臭を完全に消臭した加工性に優れた加工動物性蛋白食材を製造することができる。
(18)ゲル化度の自在性により、ヨーグルト状から天プラ等のマイルドなものやジャーキー状のハードなゲル化食品を任意に得ることができる。
【0032】
塩類溶液や副資材溶液の動物性蛋白原料への含有・含浸方法としてはインジェクションで塊状の蛋白原料に注入するか、塊状の蛋白原料の表面に塗着や噴霧方法によって付着・含浸させるか、あるいは混練混和によって行う。
【0033】
動物性蛋白原料への塩類溶液や副資材溶液等の拡散方法としては、マッサージャーやバイブレーター,超音波,タンブラー等を用いて行われる。拡散工程により塩類溶液や副資材溶液等を肉中に奥深くかつ広範囲に浸透させ毛細網目状化やゲル形成を促進することができる。
【0034】
塩類溶液や副資材溶液等の動物性蛋白原料への含有・含浸工程及び動物性蛋白原料へのこれらの溶液の拡散工程は20℃以下、好ましくは10℃以下で行うのが好ましい。10℃以上になるにつれて動物性蛋白原料が変質しやすくなる傾向が認められるためである。
【0035】
【発明の実施の形態】
以下実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
(実施の形態1)
動物性蛋白原料として、鮮魚のタイを準備し三枚におろしてフィレーとした。このフィレーを1枚300gに揃えて4枚用意した。塩類として食塩、アルカリ剤としてNaHCO3を準備した。次いで、(表1)に示す処理液を作製し、実験を行った。
【表1】
4.0重量mol濃度の塩類溶液8.0gはタイのフィレー300gに対して塩類として0.5wt部に、1.0重量mol濃度のアルカリ剤溶液1 .9gはタイのフィレー300gに対してアルカリ剤として0.05wt部に、3.9gは0.10wt部にそれぞれ相当する。
実験は(表1)に示すように、タイのフィレーに食塩溶液を網目状にインジェクションした後、電気マッサージ機にて3分間バイブレーションを行った。次いで、アルカリ剤溶液を網目状にインジェクションし、電気マッサージ機で6分間バイブレーションして処理を完了し加工動物性蛋白食材を得た。(表1)のナシの項は該当する処理がなかったことを表す。上記処理を行った実験例1〜3のフィレーは比較例1のフィレーと共に冷蔵庫に24時間放置し、その後真空包装して冷凍庫に保管した。
冷凍庫に保管したタイのフィレーを7日後に取り出して解凍した。解凍時実験例1〜3はドリップの発生が認められず、肉は弾力性に優れ、色ツヤもよく、透明感を有し、実験前とほとんど変わらなかった。一方、比較例のフィレーはドリップの発生が認められ白濁化現象が認められた。次いで、サンプルを半分は刺し身として、残り半分を焼き魚として10人のパネラーに配り、官能試験として、刺し身の(1)ドリップの発生状況、(2)色彩、(3)弾力性、(4)食味、また焼成品の(5)外観、(6)食味、について比較例を5点として10点法で採点し、その平均点を求めた。その結果を(表2)に示した。
【表2】
この(表2)から明らかなように、比較例1に対して実験例1〜3はすべて非常に良い評価を得ることができた。実験例1の結果から食塩溶液のみでも肉質が改質されていることがわかった。ごく少量のアルカリ剤の存在は更に塩溶を促進することもわかった。刺し身の色は比較例1が若干白く濁っているのに対して、実験例1〜3はすべて透明感が出ており、処理品は焼成品も含めてテクスチャーに優れ美味しく食することができた。
この結果、冷凍刺し身の製造が可能となり、解凍してもドリップが発生せず、透明感を有することから寿司ねたにも使用可能なことがわかった。
【0036】
(実施の形態2)
動物性蛋白原料として、鮮魚の銀サケを準備し三枚におろしてフィレーとした。この銀サケのフィレーを1枚900gに調整して7枚用意した。一方、塩類として、食塩、アルカリ剤としてNaHCO3,ビタミンC剤, ビタミンE剤を準備し、(表3)の配合表に記載の処理液を作製し実験(実験例4〜9)を行った。尚、比較例2として、塩類溶液アルカリ剤溶液で処理しないものを用いた。
【表3】
尚、6.0重量mol濃度の塩類溶液34.6gはサケのフィレー900g(銀サケ100wt部に対してNaCl1.0wt部)、同じく0.5重量mol濃度のアルカリ剤溶液2.3gは0.01wt部に相当する。以下カッコ内表示は同様な内容を表す。塩類溶液には、ビタミンC剤とビタミンE剤の混合物1.5g(1:1混合物)を溶解させたものを用いた。
各実験は銀サケのフィレーに塩類溶液を網目状にインジェクションし、次いで、電気マッサージ機にて3分間バイブレーションした。次にアルカリ剤溶液を網目状にインジェクションし、電気マッサージ機で6分間バイブレーションして処理を完了した。比較例2のナシの項は該当する処理がなかったことを表す。上記処理を行った各実験例の銀サケのフィレーは比較例2のフィレーと共に冷蔵庫で24時間保管して、その後真空包装して冷凍庫に保管した。
冷凍庫に保管した銀サケのフィレーは10日後に取り出して、常温で解凍した。解凍終了時、実験例4〜9はいずれもドリップの発生が少なく認められなかった。また、フィレーは実験前よりも光沢に優れ、弾力を有していた。一方比較例2はドリップの発生が認められ、肉色もよくなかった。次いで、サンプルの一部を刺し身とし、一部を焼き魚として10人のパネラーに配り、官能試験として刺し身の(1)ドリップの発生状況、(2)色彩、(3)魚の臭み、(4)弾力性、(5)食味を、また焼成品の(6)外観、(7)食味について、比較例2を5点として10点法で採点し、その平均点を求めた。その結果を(表4)に示した。
【表4】
この(表4)から明らかなように、比較例2に対して実験例4〜9はすべて良い評価が得られた。解凍時にはドリップの発生は認められなかったが、刺し身として皿に盛り付けた後も切り身の表面の光沢が極めてよく、これがかえってみずみずしさを感じさせた。さらに色彩についてはサケの紅色が透明感が出て冴えてきた。この傾向はアルカリ剤の使用により顕著となった。また、魚の臭みは食塩のみの場合も少なくなっているが、アルカリ剤の使用により完全になくなつており、近年の若者の魚離れは魚臭にあると言われていることに対する解決策となることがわかった。実験例4と7は食塩溶液とビタミン剤のみであるが、比較例2と比較して肉質が相当に改質されており、さらに少量のアルカリ剤を添加することにより、その効果が高くなることがわかった。
【0037】
(実施の形態3)
動物性蛋白原料としてアジの冷凍魚を準備した。アジを注水解凍した後、三枚におろして小骨、皮を取り除いて10mmφのミンチ加工機にかけ、荒挽きミンチとした。このミンチは無晒しでありこれを、各300gずつ4サンプル用意した。
塩類・ビタミン剤溶液として、4重量mol濃度のNaCl溶液12.7g(0.8wt部)にビタミンC剤とビタミンE剤の混合物0.5gを溶解したものを調整した。また、アルカリ剤溶液として0.5重量mol濃度のNaHCO3 溶液3.8g(0.05wt部)にソルビトール5gを溶解したものをそれぞれ各3セット準備した。
(比較例3)
実施の形態3のアジのミンチ300gをミキサーに入れ低速で回転させながら、顆粒状の食塩2.4g(0.8wt部)を添加し8分間運転を継続して処理を終えた。
(実験例10)
実施の形態3のアジのミンチ300gをミキサーに入れ低速で回転させながら塩類・ビタミン剤溶液を添加し3分間運転を継続した。次いでアルカリ剤溶液を添加し5分間運転を継続して塩溶処理を終えた。
(実験例11)
実施の形態3のアジのミンチ300gをミキサーに入れ低速で回転させながらアルカリ剤溶液を添加し3分間運転を継続した。次いで塩類・ビタミン剤溶液を添加して5分間運転を継続して塩溶処理を終えた。
(実験例12)
実施の形態3のアジのミンチ300gをミキサーに入れ低速で回転させながら塩類・ビタミン剤溶液とアルカリ剤溶液を混合して同時に添加し、8分間運転を継続して塩溶処理を終えた。
【0038】
実験例10〜12の処理を終えたミンチは比較例3のミンチと共に24時間冷蔵庫に保管してその後冷凍した。
冷凍保管したアジのミンチは5日後解凍した。比較例はドリップの発生が見られたが、実験例10〜12はドリップの発生は見られなかった。解凍したアジのミンチは半分を蒸煮しカマボコとし、半分を油ちょうして天ぷらとした。試料は厚み10mmに統一して折り曲げテストを行った。
折り曲げテストは、(株)恒星社厚生閣発行の「新版魚肉ねり製品」(昭和62年版)の399頁に記載の方法に準拠して行った。評価方法は、各試料を折り曲げて次の4段階で評価した。
A:4つに折り曲げても亀裂の生じないもの
B:2つに折り曲げても亀裂の生じないもの
C:2つに折り曲げると径の半分位に亀裂が生じるもの
D:2つに折り曲げると亀裂が全部に及ぶもの
折り曲げテストは各試料から5サンプルを取り出して行いその平均を求めた。その結果は(表5)に示した。表中、折り曲げテスト欄の〔 〕の内側はA〜Dの評価の個数を示し、〔 〕の前の英文字は総合評価を示す。
また、官能試験は上記各試料を2cm角にサイの目状に切り、これを10人のパネリストにより、(1)色,(2)弾力性,(3)風味,(4)旨みについて5段階評価で行った。
評価は捕獲直後のマイワシを従来の水晒法で魚肉を精製したものを微粒化したスリ身を用いて製造した天ぷらやカマボコを基準にし、5は優、4は良、3は普通の天ぷらやカマボコと変わらない、2は少し劣る、1は劣るで採点し、その平均を求めた。その結果を(表5)に示した。
【表5】
この(表5)から明らかなように、比較例3は実験例10〜12と同量の食塩を顆粒状で添加し同様の処理を行ったが、塩溶割合は極めて低く、評価としては劣る結果がでた。
実験例10〜12については塩類・ビタミン剤を液状で添加してあり、さらにアルカリ剤の促進作用で塩溶が進み、立派な魚肉の塊の残った天ぷらとカマボコができた。実験例10〜12は食塩とアルカリ剤の添加順序の違いだけであるが、殆ど同じ結果になっている。しかし厳密には実験例10の塩類溶液を先に添加し、その後アルカリ剤溶液を添加する方法が良い結果が得られている。なお、同時に添加した実験例12は実験例10、11に比較するとあまり相違のない結果が出た。
【0039】
(実施の形態4)
実施の形態2の銀サケのフィレー1枚(960g)に6.0重量mol濃度の食塩の塩類溶液92g(銀サケ100wt部に対して食塩2.5wt部)にビタミンC剤とビタミンE剤の混合物1.5g(ビタミンC剤:ビタミンE剤=6:4の混合比)を溶解した溶液を網目状にインジェクションして、その後電気マッサージ機で3分間バイブレーションした。次いで1.2重量mol濃度のNaHCO3 8.3g(サケ100wt部に対してNaHCO30.08wt部)にソルビトール15gと調味料CR3gを溶解したアルカリ剤溶液を網目状にインジェクションして電気マッサージ機で5分間バイブレーションして処理を終えて、甘口塩サケを得た。このフィレー状塩サケは直ちに真空包装して冷凍庫に保管した。14日後に取り出し解凍し、切り身を焼いて官能試験を行ったが、全くドリップは出ず、焼き色は赤く、テクスチャー、風味に優れ、高い評価を得た。
【0040】
(実施の形態5)
動物性蛋白原料として、牛もも肉の冷凍品を準備した。この牛もも肉を温度に注意しながら解凍し、発生したドリップは回収した。この牛もも肉900gに、ドリップと水を同量混合した溶液に食塩を溶解し6重量mol濃度の塩類溶液を調製し、その溶液35g(牛もも肉100wt部に対して1.0wt部)にビタミンC剤とビタミンE剤の混合物1.5gを溶解した塩類・ビタミン剤溶液を網目状にインジェクションした後、電気マッサージ機で5分間バイブレーションを行った。次いでドリップと水を同量混合した溶液から調製した0.5重量mol濃度のNaHCO3 を溶解したアルカリ剤溶液22.5g(牛もも肉100wt部に対して0.10wt部)に蔗糖15gを溶解した溶液を網目状にインジェクションして、その後電気マッサージ機で10分間バイブレーション処理を行い、加工動物性蛋白食材を得た。
加工動物性蛋白食材の牛もも肉は48時間冷蔵庫に保管した後、取り出しステーキ状、細切状、薄切状にカットし、真空包装して冷凍庫に保管した。
7日後に冷凍庫から取り出し、解凍したがドリップの発生は全く認められず、色鮮やかであり、ステーキ、焼肉、しゃぶしゃぶにして官能試験を行ったが、ソフトでかつジュウシーでテクスチャーや風味に優れ、歯当たりがよく味は美味であるとの高い評価を得た。
【0041】
(実施の形態6)
動物性蛋白原料として、豚ロース肉のチルド品を用意し、このチルド品を600gのブロックにカットして7サンプル準備し、実験例13〜18、比較例4に供した。この肉に対して(表6)に記載の処理液を準備した。
実験例13〜18の塩類溶液にはすべてビタミンC剤とビタミンE剤の混合物各1.5g(混合比1:1)を添加溶解した。処理は実験例13,14,16,17は塩類・ビタミン剤溶液を豚ロース肉に網目状にインジェクションして、電気マッサージ機で15分間バイブレーション処理を行った。実験例15、18は塩類溶液を網目状にインジェクションし、5分間電気マッサージ機にてバイブレーションし、次いで網目状にアルカリ剤溶液をインジェクションして、その後10分間電気マッサージ機でバイブレーションして処理を終了し各加工動物性蛋白食材を得た。
処理が終了した各加工動物性蛋白食材は冷蔵庫で24時間保管し、その後比較例4の該食材と共に豚ポークソテー用、トンカツ用にカットしそれぞれ真空包装をして、冷凍庫に保管した。
冷凍庫に保管した各加工動物性蛋白食材を7日後に取り出して解凍し、(1)生肉の色彩を評価し、ポークソテー、トンカツ、にして官能試験を行った。評価は10人のパネラーにて比較例4を評価点5点として、(2)柔らかさ、(3)ジュウシィさ、(4)弾力性、(5)旨みについて、10点満点で評価し、平均点で(表7)に示した。
【表7】
この(表7)から明らかなように、塩類・ビタミン剤溶液のみでなく、アルカリ剤溶液を添加した方が良い結果が得られている。又塩類・ビタミン剤溶液及びアルカリ剤溶液を同時に添加したものは生肉の色彩が非常に良い結果が得られているが、その他の項目では逆に塩類・ビタミン剤溶液を添加し、その後にアルカリ剤溶液を添加した方が若干ではあるが良い結果が得られた。さらに塩類、アルカリ剤の添加量の多い方が若干良い結果となっているが、塩類の添加量が1wt部以上であれば塩辛さが出てくるので注意を要することがわかった。
豚ロース肉を食材に加工する場合、従来は顆粒状の食塩をロース肉にまぶしたり、薄い食塩水に長時間(6時間〜12時間)浸漬したりして行っていたが、本実施例によればその少量をインジェクションで添加することで肉中組織をその形態を維持して内部で塩溶を促進することができ、しかも極短時間(15分間)で処理は完了し、またアルカリ剤を加えることによりさらに塩溶を促進させることがわかった。
得られた加工動物性蛋白食材は保水性や、テクスチャーの改善のみならず、調理時に焼き縮みがなく、むしろ膨張するのでトンカツの場合はカットした時、皮と身の結着性が非常に良く、従来品の様に皮と身の間に隙間ができることは全く見られなかった。
また、試食してみたところ、テスクチャーや旨み等極めて高い評価を得た。
【0042】
(実施の形態7)
動物性蛋白原料として、鶏もも肉チルド品を用意し、この鶏もも肉600gに、6重量mol濃度の食塩水溶液23g(もも肉100wt部に対し1.0wt部) にビタミンC剤とE剤の混合物1.0gを溶解させた塩類・ビタミン剤溶液を網目状にインジェクションした。その後電気マッサージ機で5分間バイブレーションした。次いで、NaHCO3 を水に溶解した0.8重量mol濃度のアルカリ剤溶液7.6g(もも肉100wt部に対し0.08wt部)にミリン6gを溶解したアルカリ剤溶液を網目状にインジェクションし、その後電気マッサージ機で10分間バイブレーションして処理を完了した。得られた加工動物性蛋白食材は冷蔵庫で24時間保管した後冷凍庫にて保管した。
冷凍庫で7日間保管後、取り出し、解凍したがドリップの発生は全く認められなかった。次いで、解凍した一部をホットプレートで焼成し、残りは冷蔵庫に保管した。鶏もも肉の加工動物性蛋白食材は焼成時の焼き縮みがなく、非常に美味しく食すことができ、焼成後7時間経過してもソフトさ、ジュウシィーさ、旨味に変化はなかった。また、冷蔵庫に保管した残りの該食材は解凍後7日経過しても腐敗の兆候は見られなかった。
【0043】
(実施の形態8)
動物性蛋白原料として、鶏むね肉チルド品を準備した。この鶏むね肉を鶏唐揚げサイズにカットした。このカットされた鶏むね肉600gを真空ミキサーに入れ、6.0mol濃度の食塩水溶液23g(むね肉100wt部に対して1.0wt部)と0.8重量mol濃度のNaHCO3 水溶液の7.6g(0.08wt部)を混合し、更にビタミンC剤とE剤の混合物1.0gとミリン12gを混合した塩類・アルカリ・ビタミン剤溶液を真空ミキサーを40mmHgまで減圧した状態で低速回転しながら噴霧して添加した。回転を5分間継続した後ミキサー内を常圧に戻し処理を完了し加工動物性蛋白食材を得た。
次いで、得られた鶏むね肉の加工動物性蛋白食材を冷蔵庫に24時間保管した後、半分は小麦粉をまぶして唐揚げとし、残り半分は真空包装し、冷凍庫に保管した。
唐揚げした鶏むね肉については10人のパネラーにて官能試験を行った。全員がソフトさ、ジュウシィーさ、旨味に付いて極めて高い評価をつけ、美味しく食す事ができた。尚唐揚げ調理後24時間経過した調理品を同様に10人のパネラーにて官能試験を行ったが、調理直後の評価に対して80%程度の品位を保っていた。このことから弁当にも充分に利用できることがわかった。
又冷凍保管した鶏むね肉の加工動物性蛋白食材を10日後に取り出し、常温解凍を行ったが、ドリップは全く認められなかった。次いで、唐揚げ調理をして10人のパネラーで評価したが、前記の冷凍しないで唐揚げ調理したものと比較して全く遜色のないものであることが結論づけられた。
【0044】
(実施の形態9)
動物性蛋白原料として、牛もも肉、豚もも肉、各半々の合い挽きミンチ肉チルドを準備した。このミンチ肉300gを比較例5として残し、その他のミンチ肉900gをミキサーにいれ、塩類としてNaClとCaCl2を混合比で9:1に混合したものを水に溶解した。6重量mol濃度の塩類溶液35g(ミンチ肉100wt部に対し1.0wt部)に、ビタミンC剤とビタミンE剤の混合物1.5gを溶解した塩類・ビタミン剤溶液を、ミキサーを低速回転させながら添加し3分間運転を継続した。次いで、アルカリ剤としてNaHCO3とKHCO3
の9:1混合物を水に溶解した0.8重量mol濃度の水溶液14.3g(ミンチ肉100wt部に対し0.1wt部)にミリン15gを混合したアルカリ剤溶液を、ミキサーを低速回転させながら添加し、5分間運転を継続してミンチの処理を終了し加工動物性蛋白食材を得た。
得られた加工動物性蛋白食材と比較例5の処理をしないミンチ肉にミンチ肉の重量の30%に当たるタマネギのバター炒めを混ぜ合わせてハンバーグ状に成形し焼成し、比較例5とその結着性について評価した。このハンバーグはタマネギの炒めもの以外には卵やパン粉などはなにも加えなかつた。焼成時には比較例5は盛んに水蒸気を出したが、実験例品は水分は出ず、若干の油を出す程度であり、比較例5は焼成時に反転させた時にヒビ入り割れたりしたが、実験例品は形状を維持して焼け、試食した結果、極めて美味であった。また、焼成時の歩留りは実験例品が90%に対して比較例5は79%であった。
【0045】
(実施の形態10)
実施の形態2で用いた銀サケのフィレーの皮を剥ぎ、10mmφのプレートのミンチ加工機にかけ、サケの粗ミンチを得た。このサケ粗ミンチ肉600gをミキサーに入れ、4重量mol濃度の食塩水溶液32g(サケ粗ミンチ肉100wt部に対して1.0wt部)に、ビタミンC剤とビタミンE剤の混合物1.0gと調味量CR1.0gを溶解した塩類・ビタミン剤溶液をミキサーを低速で回転させながら噴霧して添加した。その後3分間運転を継続した。次いで、0.5重量mol濃度のNaHCO3 水溶液5.2g(同0.08wt部)にミリン9gを混合したアルカリ剤溶液をミキサーを低速で回転させながら噴霧して添加し、運転を5分間継続して処理を完了し加工動物性蛋白食材を得た。
加工動物性蛋白食材として得られたサケの粗ミンチは24時間冷蔵庫に保管した後プラスチックのケーシングに詰め、30mmφ×20cmの棒状として加熱室で35〜40℃で40分間加温し、次いで75℃に温度調整された加熱水で2時間ボイルして直ちに冷水に浸けて冷却しサケの魚肉荒挽きハムを得た。
プラスチックケーシングを取り除きカットしたサケのハムは魚肉の形状が保たれており、新規な魚肉ハムを得ることができた。従来の魚肉ソーセージは水晒をした魚肉に顆粒状の食塩を多量(水晒した魚肉100wt部に対し食塩2.5〜3.0wt部)に添加して長時間かけて擂潰したすり身に更に結着剤を添加しなければ魚肉ソーセージにはならなかったが、本処理品は塩分1%でしかも擂潰を必要とせずに優れた結着性を発揮し、魚肉の形状を維持したままのハムとなり、サケの紅色は鮮やかで、ソフトかつジュウシィでしかも弾力性のある魚肉ハムが得られた。次いで、10人のパネラーが官能試験をしたが、全員から極めて高い評価を得た。
【0046】
(実施の形態11)
動物性蛋白原料として、豚ロース肉チルド品を用意し、この豚ロース肉1200gに、6重量mol濃度のNaCl水溶液46g(ロース肉100wt部に対して1.0wt部) に、ビタミンC剤とE剤の混合物2.0gと調味料としてCR2.0gを溶解した塩類・ビタミン剤溶液を網目状にインジェクションした後、電気マッサージ機で5分間バイブレーションした。次いで0.8重量mol濃度のNaHCO3 水溶液19g(同0.10wt部)にミリン12gを混合しさらに蔗糖12gを溶解したアルカリ剤溶液を網目状にインジェクションし、10分間電気マッサージ機でバイブレーションして塩溶、乳化、ゲル化能付加の熟成促進を行ない処理を終了し加工動物性蛋白食材を得た。
加工動物性蛋白食材のロース肉は冷蔵庫で24時間保管した後、肉塊をまるめながらファイブラスケーシングに押し込み、空気を抜いて両端を結束した。巻き締めが終わったブロック肉を35〜45℃で40分間表面乾燥を行い、直ちにサクラチップで60分間薫煙処理し、次いで75℃の加熱水で4時間ボイルし直ちに冷水に漬け冷却してロースハムを得た。
本処理により得られたロースハムは強いゲル化熟成のために肉質はしなやかで、弾力性に優れ、亜硝酸を使用しなくともビタミン類の使用で発色性に優れ、短時間処理のために生産性が高いロースハムが生産できることが分かった。
従来のハムは結着性を高めるために植物蛋白質や卵白を添加するため、添加量にもよるが旨味が損なわれるという問題点を有していた。また色も肉本来の鮮色がだんだんと薄れてくるので、有害な発色剤としての亜硝酸などを添加しなければならないので、安全性に欠けるが、本実施の形態により解決することができた。
【0047】
(実施の形態12)
動物性蛋白原料として小振りのブラックタイガー、むき身冷凍エビを用意し、温度に注意しながら解凍した。解凍したむきエビ600gを真空タンブラーに入れ、食塩を水に溶解した4.0mol濃度の塩類溶液25.3g(0.8wt部)とNaHCO3を水に溶解した0.8mol濃度のアルカリ剤水溶液19g(0.2wt部)を混合してむきエビに添加した。
直ちにタンブラーを30mmHgまで減圧にし、回転させ10分間回転を継続した後、タンブラーを常圧に戻したところ、添加した混合溶液は全量エビに吸収され処理は完了し加工動物性蛋白食材を得た。
加工動物性蛋白食材のエビのむき身は3時間冷蔵庫に保管し、半数を冷凍し、残りの半数は生のまま一部を刺し身として試食し、残りを焼成してパネラーによる試食を行った。いずれも美味であり、特に刺し身はエビのおどりに匹敵する味であるとの評価であった。冷凍した処理エビは3日後解凍したが、ドリップの発生は認められなかった。また焼成してパネラーによる冷凍した処理エビは3日後解凍したが、ドリップの発生は認められなかった。また、焼成してパネラーによる試食をおこなったが、いずれも美味であるとの評価を得た。
【0048】
【発明の効果】
以上のように本発明によれば、以下の優れた効果を有する加工動物性蛋白食材の製造方法を実現できるものである。
A.加工動物性蛋白食材の製造方法
(1)高濃度で少量の塩類溶液と副資材としてアルカリ剤、ビタミンE剤及びC剤、を細胞膜の浸透性を利用して動物性蛋白原料の骨格筋組織や脂肪層組織に完全に含浸、分散させることで肉中に生化学反応を起こさせ、細胞膜、筋原繊維、筋鞘、コラーゲン、脂質や脂肪、脂肪中の細胞膜組織、コラーゲン等を短時間に改質させ、生肉の冷蔵中の酸化による肉色の変色化を防止することができる。
(2)肉色を修復し、解凍に伴うドリップの流出や、冷蔵、冷凍中の変性等を防止し、又屠殺直後等の生肉を急速に熟成でき、さらに畜肉臭やグラス臭を消臭させることができる。
(3)肉内に於ける肉蛋白質や油脂、脂肪中のロウ成分を乳化させてゲル化熟成させ、肉組織を改質し口当たり良く、弾力性、保水性、結着性のある肉に処理すると共に、肉の硬さを自由に調節出来る。
Claims (1)
- NaCl、KCl、CaCl 2 、MgCl 2 、のうち、いずれか一種もしくはこれらの混和物からなる塩類を水及び/または動物性蛋白原料のドリップに溶解し、1.0〜7.0重量mol濃度とするとともに、ビタミンC剤及び/またはビタミンE剤を溶解させた塩類溶液を、100wt部の動物性蛋白原料に対して塩類が0.2〜2.5wt部、ビタミンC剤が6×10 -3 〜500×10 -3 wt部、ビタミンE剤が1×10 -3 〜300×10 -3 wt部含有するように網目状にインジェクションして含浸させ、その後、5分間電気マッサージ機でバイブレーションして拡散させ、
次いで、NaHCO 3 、Na 2 CO 3 、KHCO 3 ,K 2 CO 3 ,NH 4 HCO 3 のうちいずれか一種もしくはこれらの混和物からなるアルカリ剤を水及び/または動物性蛋白原料のドリップに溶解し、0.03〜3.0重量mol濃度としたアルカリ剤溶液を、100wt部の動物性蛋白原料に対してアルカリ剤が0.01wt部含有するように網目状にインジェクションして含浸させ、その後、10分間電気マッサージ機でバイブレーションして拡散させることを特徴とする加工動物性蛋白食材の製造方法。
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