JP5478519B2 - 静脈投与用免疫グロブリン及び他の免疫グロブリン生成物の製造法 - Google Patents

静脈投与用免疫グロブリン及び他の免疫グロブリン生成物の製造法 Download PDF

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Description

本発明は、粗血漿又は粗血漿タンパク質画分から免疫グロブリン、つまり免疫グロブリンG (IgG)を精製する方法に関する。また、この発明は、免疫グロブリン生成物及び医薬目的用の免疫グロブリン生成物の使用に関する。
多くの感染性疾患の予防と治療に用いられるヒトの正常な免疫グロブリン(HNI)は、1940年代後半に導入された。CohnとOncley [Cohn E.,ら、(1946), J Am Chem Soc, 68, 459-475][Oncleyら、(1949), J Am Chem Soc, 71, 541-550]による冷エタノール画分法と、その後KistlerとNitschmann [Kistler P及びNitschmann HS, (1952), Vox Sang, 7, 414-424]によってなされた変更によって調製されたHNIは、皮下又は筋肉内に投与した際にウイルス感染の伝播に有効かつ安全であることが分かった。
先天性又は後天性の全体的もしくは部分的な免疫グロブリンの欠失(それぞれ原発性及び二次の免疫不全症候群)は、特に細菌性の頻繁な通常で重篤な感染によって、それ自体発現する。このような感染は、延命治療として、1週間に数回まで大量のHNIを筋肉内又は皮下に繰り返し注射することによってあらかじめ予防されたが、薬物が筋肉内に投与される際に激痛を伴うものである。
したがって、60年代初期に、静脈経路によるHNIの投与が試みられた。その試験により、約5%の健常者と約95%の免疫グロブリン欠乏症の患者が、呼吸困難から循環器系ショック症にわたる副作用をすぐに発症し、HNIの静脈投与を断念しなければならないような深刻な状態であることが示された。
上記副作用の原因は、特に補体系を強く活性化した免疫グロブリンの凝集物であることが判明した。これは、免疫グロブリン欠失患者で特に見られた。とりわけ、アナフィラキシー性の深刻な副作用が、IgAに対する抗体を生じている患者でみられた。この結果、製造処理中に凝集物の形成を回避し、及び/又はこれらの凝集物を除去する方法が開発され、約20年前に静脈投与用免疫グロブリン(IVIG)の第一世代が試験され、適当であることが見出された。
IVIGの最初の目的は、先天性又は後天性の全体的もしくは部分的に免疫グロブリンが欠失している患者での感染エピソードを緩和し、HNI投与に関連した不快感を除くことであった。IVIGの別の有用性は、大量の免疫グロブリンを短時間で与えることができ、これによって血液濃度を非常に迅速に十分高くできることである。特に深刻な細菌感染を治療する際に、感染部位の濃度を迅速に高くすることは重要である。
近年、さらにIVIGは、それ以外の治療では難しい他の深刻な疾患、例えば川崎症候群のような幾つかの奇病及び多発性神経根炎(ギリアン・バレー症候群)のような多くの自己免疫疾患における免疫基底での血小板の消失によって引起こされる出血、特発性血小板減少性紫斑病(ITP) に有効であることが分かっている。治療が現在難しい他の疾患は、目下IVIGでの臨床試験に付されている。これらの疾患での作用機序は、部分的にしか明らかにされていない。その作用は、IgGのいわゆる免疫調節特性、例えば食細胞におけるFcγ-レセプターの妨害、IgG代謝の増加、サイトカイン産生のダウンレギュレーション及びイディオタイプ/抗イディオタイプの仮想ネットワークの干渉に関与し、特に自己免疫反応の中和に関連しているものと考えられる。
IVIGの第一世代は、免疫グロブリン凝集物を除く目的で原料物質(Cohn画分II)をペプシンで切断して調製された。この方法に、カラムクロマトグラフィー工程は含まれていなかった。生成物は、適切な時間安定であるようにするために凍結乾燥しなければならず、使用直前に溶解された。
IVIGの原料物質はHNIで、これは筋肉内注射に用いられる際にウイルスの伝播に安全であることが分かっていた。それ故、IVIGは、まさに安全なものと考えられた。しかし、臨床使用から数年後、幾つかの製造者のIVIG生成物は、驚くべきことにC型肝炎ウイルス感染の転移を引起こすことが示された。
HNI製造中のウイルスの発生運命を評価する研究から、血漿からHNIへの分別処理でのウイルスの除去はささやかなものであることが分かった。筋肉内で用いるHNIの安全性は、HNIが保護的な免疫グロブリンを含むとの事実によるものと思われる。わずかな注射量と筋肉内投与経路との組合わせで、これらの保護的な免疫グロブリンは中和して、感染していない血漿中で一般的なウイルスを生じることができる。特に、大量の免疫グロブリンが静脈で与えられると、1990年代初期に立証されたようにウイルスが感染しうる。したがって、製造処理は、1以上の明確なウイルスの不活化及び/又は除去工程を含むべきであることが認識された。
抗補体活性が低く安定性が高い未切断かつ未修飾の免疫グロブリン分子ベースのIVIG第二世代は、80年代半ばに導入されたが、依然として凍結乾燥生成物であった。このIVIGは、幾つかのクロマトグラフィーで精製された。この種の生成物は、現在IVIGの市場に優勢である。したがって、IVIGの第一及び第二世代は、使用直前に溶解される凍結乾燥粉末である。
凍結乾燥IVIGの溶解は遅い(1バイアルにつき30分まで)。1人の患者には、しばしば数回分を溶解しなければならない。使用者にはIVIGを用いるのに溶液とすることがかなり重要であるので、液体製品が市場に導入されている。より重要なことに、臨床効率が高く不都合な薬剤反応が少ない、高純度で安定かつ完全に本来的なIVIG製剤を得るため、依然として製造処理を改善する必要がある。つまり、ウイルスの危険がない粗血漿又は血漿タンパク質画分からIgG、液体IVIG生成物を精製する方法の開発と改善が、さらに必要とされている。最後に、その方法は、大量生産に使用できるような方法であるべきである。
本願に記載される精製方法は、静脈投与用の液体免疫グロブリン生成物をもたらす。これは、高純度で、完全に本来的で、生物学的に活性で、2回ウイルスを不活化しており、かつ安定なIVIGの新しい世代であり、安定剤として洗剤、ポリエチレングリコール(PEG)又はアルブミンを全く含有しないことで特徴付けられる。
本発明は、改善された精製方法、及びとりわけ静脈に投与することができる改善された液体免疫グロブリン生成物に関する。
本発明の方法で得られる免疫グロブリン生成物は、第三世代IVIGと呼ばれる。この方法は、次の分画条件:ペプシン切断を回避し、凝集物と粒子を沈降で除き(この処理工程はウイルス除去工程として機能するのに有効)、さらにイオン交換カラムクロマトグラフィー法で精製し、ウイルス不活化工程としてS/D処理を導入し、かつ調製物を液体生成物として製剤化することによって特徴付けられる。
従来技術生成物に比較して本発明の方法で得られる免疫グロブリン生成物の純度を改善することによって、非イオン洗剤、PEG又はアルブミンのような安定剤の添加は、液体生成物としてのIVIGの貯蔵中のIgGの凝集を避けるのに不要である。本発明の方法で得られる生成物は、従来の生成物よりも品質が高く、臨床効果を改善し、望ましくない副作用が実質的にない。
発明の詳細な説明
本発明は、
(a) 粗免疫グロブリン含有血漿タンパク質画分の水性懸濁液を調製し;
(b) 工程(a)の懸濁液に実質的にタンパク質非変性の水溶性沈降剤を、モノマー免疫グロブリンGを実質的に沈降させずに、非免疫グロブリンGタンパク質、凝集免疫グロブリン及びウイルス粒子のような潜在的に感染性の粒子を含む粒子を高い割合で沈降させるのに十分な量で加え、それによって固形沈澱物と液体上清の混合物を生じ;
(c) 工程(b)の混合物から透明化した免疫グロブリンG含有上清を回収し;
(d) 工程(c)の透明化した免疫グロブリンG含有上清を、アニオン交換樹脂、次いでカチオン交換樹脂にかけ;
(e) 免疫グロブリンGを実質的に溶出させずに樹脂から夾雑物を除去するのに十分なpHとイオン強度を有する緩衝液を用いて、カチオン交換樹脂からタンパク性夾雑物とタンパク性沈降物を洗出し、
(f) 免疫グロブリンGを効率的に溶出するのに十分なpH値とイオン強度を有する実質的に非変性の緩衝液を用いて、カチオン交換樹脂から免疫グロブリンGを溶出し、それによって、免疫グロブリンG含有溶出物を回収し;
(g) 工程(f)の免疫グロブリンG含有溶出物にダイアフィルトレーション/限外ろ過を行って溶出物を濃縮及び/又は透析し、任意に安定剤を加え;
(h) ダイアフィルトレーション/限外ろ過をし、任意に安定化された工程(g)の免疫グロブリンG含有画分に、殺ウイルス量のウイルス不活化剤を加え、実質的にウイルスの危険がない免疫グロブリンG含有液を得て;
(i) 工程(h)の免疫グロブリンG含有液を、アニオン交換樹脂、次いでカチオン交換樹脂にかけ;
(j) 免疫グロブリンGを実質的に溶出させずにタンパク性夾雑物とウイルス不活化剤を樹脂から洗出するのに十分なpHとイオン強度を有する緩衝液を用いて、工程(i)のカチオン交換樹脂を洗浄し;
(k) 免疫グロブリンGを有効に溶出するのに十分なpHとイオン強度を有する実質的に非変性の緩衝液を用いて、工程(j)のカチオン交換樹脂から免疫グロブリンGを溶出し、それにより免疫グロブリンG含有溶出物を回収し;かつ
(l) 工程(k)の免疫グロブリンG含有溶出物をダイアフィルトレーション/限外ろ過に付してイオン強度を低くし、溶液の免疫グロブリンGを濃縮し、かつ糖類を加えて重量オスモル濃度を調整する
工程からなる、粗血漿又は免疫グロブリン含有血漿タンパク質画分から免疫グロブリン、つまりIgGを精製する方法に関する。
この精製方法の原料物質は粗血漿であるが、免疫グロブリン含有粗血漿タンパク質画分が有利である。精製方法の原料物質は正常なヒト血漿であってもよく、又は力価が高い特異的な抗体を有するドナー由来のもの、例えば超免疫性血漿であってもよい。この明細書において、用語「免疫グロブリン含有血漿画分」は、この方法の可能性ある全ての原料物質、例えば寒冷沈降物のない血漿又はIX因子及び抗トロンビンのような種々の血漿タンパク質が除かれた寒冷沈降物のない血漿、種々のCohn画分及びPEGによる沈降方法[Polsonら、(1964), Biochem Biophys Acta, 82, 463-475; Polson及びRuiz-Bravo, (1972), Vox Sang, 23, 107-118]又は硫酸アンモニウムで得られる画分を包含する。好ましい例では、血漿タンパク質画分はCohn画分II及びIIIであるが、Cohn画分II又はCohn画分I、II及びIIIも用いることができる。種々のCohn画分は、本質的にKistler-Nitschmannによって変更された標準的なCohn-分画法によって血漿から調製することが好ましい。免疫グロブリンに加えて、Cohn画分は、例えば、種々のリポタンパク質を含むフィブリノゲン、α-グロブリン及びβ-グロブリンを含む。これらは、あとの精製処理中に除去することが好ましい。Cohn画分を得るのに用いられる単離方法(つまり遠心分離又はろ過)によっては、ろ過助剤があってもよいし、又はなくともよい。
本発明の方法の最初の工程は、免疫グロブリン含有血漿タンパク質画分の水性懸濁液の製造に関する。ここで、懸濁液中のIgG濃度は十分に高く、あとの沈降工程中で、非IgGタンパク質、特にその高分子量タンパク質、免疫グロブリン凝集物及び他のタンパク質凝集物ならびに潜在的に感染性の粒子の大部分が、モノマーIgGを実質的に沈降させずに沈降する。これは、一般的に緩衝又はろ過された懸濁液中のIgG濃度が沈降剤の添加前に少なくとも4g/lである場合に達成される。選択した沈降剤によっては、タンパク質濃度ならびに懸濁液のpH及び温度が沈降に影響を及ぼすことを考慮すべきである。
血漿タンパク質画分は、実質的に非変性の温度とpHで水及び/又は緩衝液中に懸濁することが好ましい。用語「実質的に非変性」は、IgG分子の機能活性の実質的に可逆的な損失、例えば抗原結合活性の損失及び/又は生物学的なFc-機能の損失を引起こさない条件を意味する(実施例2参照)。
血漿タンパク質画分は、血漿タンパク質画分の6〜9、好ましくは7〜8倍容量で、少なくとも1つの非変性の緩衝系を用いて酸性化した水中に懸濁することが有利である。免疫グロブリン含有懸濁液のpHは、免疫グロブリンの最適な溶解度を確保し、かつその後のPEG沈降工程の最適作用を確保するために、6以下のpH、例えば4.0〜6.0、好ましくは5.1〜5.7、もっとも好ましくは約5.4に維持していることが好ましい。酸性緩衝液はいずれの適当なものも使用できるが、緩衝系は、少なくとも1つの以下の緩衝液及び酸:リン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、酢酸、HClを含むことが好ましい。多くの他の緩衝液も、用いることができる。
免疫グロブリン懸濁液は、とりわけ実質的なタンパク質の変性を妨げ、プロテアーゼ活性を最小化するために、冷温で維持することが好ましい。免疫グロブリン懸濁液と水ならびに加えられる緩衝系は、0〜12℃、好ましくは0〜8℃、もっとも好ましくは1〜4℃の範囲で同温であることが好ましい。
エタノールで沈降したペーストの懸濁液は、比較的大量のタンパク性凝集物を含む。任意に、免疫グロブリン含有懸濁液は、例えば大量の凝集物、ろ過助剤及びもしあれば残留している未溶解ペーストを除くために、ろ過する。ろ過は、デプスフィルター、例えばC150AF、AF2000又はAF1000 [Schenk]、30LA [Cuno]又は同様のろ紙で行うことが好ましい。凝集物、ろ過助剤及びもしあれば残留している未溶解タンパク性物質は、遠心分離でも除去することができる。
少なくとも1つの実質的にタンパク質非変性の水溶性沈降剤は、高分子量タンパク質、リポタンパク質、凝集タンパク質(これらのうち、免疫グロブリンが凝集)が高い割合で沈降するのに十分な量で免疫グロブリン含有ろ過懸濁液に加えられる。潜在的に感染性の粒子、例えばウイルス粒子のような他の粒子物質も、モノマーIgGを実質的に沈降させずに沈降される。この明細書中の用語「感染性の粒子」は、例えばウイルス粒子(例えば肝炎ウイルス、HIV1及びHIV2)及び細菌を含む。
実質的にタンパク質非変性の水溶性沈降剤は、タンパク質の精製分野において周知である。このような沈降剤はタンパク質分画に用いられ、懸濁液からタンパク質を部分的に精製する。本発明の方法に用いられる適当なタンパク質沈降剤は、種々の分子量形態のPEG、カプリル酸及び硫酸アンモニウムを含む。沈降の代替手段として、幾つかの他の非変性の水溶性沈降剤を用いてもよい。用語「タンパク質沈降剤の添加」及びこの用語の変形は、1以上のタイプのタンパク質沈降剤の添加を意味する。
好ましい沈降剤は、有機製剤のPEG、特に分子量範囲が3000〜8000DaのPEG、例えばPEG 3350、PEG 4000、PEG 5000及び特にPEG 6000(これらの詳細なPEG化合物の数はその平均分子量を示す)である。沈降剤としてPEGを用いる利点は、PEGが非イオン性で、タンパク質安定化特性を有していることである。例えば、低濃度のPEGは、IVIG生成物の安定剤として周知である。沈降工程は、ウイルス除去工程としても機能する。PEGは、ウイルスの種類、大きさ及びその表面コーティングにかかわらず、ウイルスを濃縮して沈降させる。
一定量のタンパク質沈降剤はろ過懸濁液に加えられ、モノマーIgGを実質的に沈降させずに、高分子量の凝集タンパク質と粒子の多くを沈降させ、透明な上清液を生ずる。タンパク質沈降剤は、固形粉末又は濃縮液として加えてもよい。
沈降剤としてのPEGについては、化合物の分子量が高くなるほど、タンパク質を沈降させるのに必要とされるPEG濃度は低くなるという一般的な原則が当てはまる。PEG 3350、PEG 4000又は好ましくはPEG 6000を用いると、ろ過懸濁液中の沈降剤の濃度は、3〜15重量%、例えば4〜10%(例えば約5%、6%、7%、8%、9%、10%)の範囲であることが有利であり、6%がもっとも好ましい。沈降工程で、沈澱処理は、少なくとも固相と液相間が平衡に達するまで、例えば通常少なくとも2時間、例えば約2〜12時間、好ましくは約4時間進めることができる。沈降のあいだ、懸濁液は、低温(例えば約12℃未満、例えば約10℃未満、好ましくは2〜8℃)で維持されることが好ましい。もっとも適切な温度は、タンパク質沈降剤の独自性に依存する。
タンパク質沈降の終了後、モノマー形態のIgGをほとんど独占的に含有する透明化した上清が、沈降で生ずる固形沈殿物と液体上清との混合物から回収される。その回収は、固相から液体を分離する従来技術、例えば遠心分離及び/又はろ過によって行うことができる。1000〜5000gの力(force)でのフロー-スルー遠心分離(例えばウエストファリア(Westfalia))を用いることが好ましい。
任意に、回収された透明化したIgG含有上清はデプスフィルターにかけて大きな粒子と凝集物を除く。この後、任意に、例えば溶液から細菌を除く従来の滅菌ろ紙(例えばMillipore又はSartoriusの0.22μmろ紙)を用いて滅菌ろ過を行ってもよい。
透明化され任意にろ過されたIgG含有上清は、残留している非IgG夾雑物、例えばIgA、アルブミンならびに凝集物を実質的に除くために、アニオン及びカチオン交換クロマトグラフィーの少なくとも一工程、例えば二工程、任意にそれ以上の工程に付される。好ましい例では、透明化された任意にろ過したIgG含有上清は、適当な寸法の2つのカラムに充填されたアニオン交換樹脂、次いでカチオン交換樹脂にかけられる。
IgGの精製をイオン交換クロマトグラフィー工程で行う際は、例えばpH及びイオン強度の条件は、用いた液体中の多くの夾雑物(例えばIgAのような非IgGタンパク質、トランスフェリン、アルブミン及び凝集物)がアニオン交換樹脂に結合するが、IgGはアニオン交換樹脂に実質的に吸着しないように選択することが好ましい。その後のカチオン交換クロマトグラフィーに関して、選択された条件は、カチオン交換樹脂にかけられた液体中に存在する実質的に全てのIgG分子の結合を生じることが好ましい。タンパク性夾雑物はアニオン交換樹脂に吸着しないが、沈降剤は、カチオン交換樹脂のその後の洗浄で除かれる。
この方法の好ましい例において、アニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂は、連続してつなげられる。この明細書において、イオン交換樹脂に関して用いられる用語「連続してつなげる」は、アニオン交換樹脂を通ったタンパク質が、緩衝液や他の条件の変更なくカチオン交換樹脂に直接かけられることを意味する。
幾つかの理由により、2つの独立したクロマトグラフィー工程の代りに、2つの連続的につなげたクロマトグラフィーカラムを用いて、例えば異なる緩衝液組成物でアニオン交換とカチオン交換のクロマトグラフィーを一工程で行うことが有利である。2つの連続的につなげたカラムクロマトグラフィーの使用により、より実際的な操作を行うことができる。例えば、あるいはpHとイオン強度を調整するために、2つのイオン交換クロマトグラフィー法間で、IgG含有画分を回収する中間工程が不要である。緩衝液に加えて、同時に両方のカラムが流され、同じ緩衝液で2つのカラムが平衡化される。しかし、二工程、つまりアニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂を連続してつなげないでクロマトグラフィー工程を行うこともできる。上記の通り、二工程でクロマトグラフィーを行うと、イオン交換樹脂を連続してつなげた場合より、かなり煩雑であろう。
本発明のIVIG生成物における高純度で高含量のIgGモノマー及びダイマー、ならびに低含量のIgAは、部分的には2つの連続してつなげたカラムクロマトグラフィーの使用に起因するものと現在は考えられている。
当業者に公知であるように、イオン交換体は、マトリクスならびに付着している帯電基に対して種々の物質をベースにしていてもよい。例えば、以下のマトリクスを用いることができ、物質はこれに幾分、架橋結合していてもよい:アガロースベース(例えばSepharose CL-6B(登録商標)、Sepharose Fast Flow(登録商標)及びSepharose High Performance(登録商標))、セルロースベース(例えばDEAE Sephacel(登録商標))、デキストランベース(例えばSephadex(登録商標))、シリカベース及び合成ポリマーベース。アニオン交換樹脂については、マトリクスに共有結合している帯電した基は、例えばジエチルアミノエチル(DEAE)、第四級アミノエチル(QAE)及び/又は第四級アンモニウム(Q)であってもよい。カチオン交換樹脂については、マトリクスに共有結合している帯電した基は、例えばカルボキシメチル(CM)、スルホプロピル(SP)及び/又はメチルスルホネート(S)であってもよい。この方法の好ましい例において、用いられるアニオン交換樹脂はDEAE Sepharose Fast Flow(登録商標)であるが、他のアニオン交換体を用いてもよい。好ましいカチオン交換樹脂はCM Sepharose Fast Flow(登録商標)であるが、他のカチオン交換体も用いることができる。
イオン交換カラムクロマトグラフィーに充填する際に用いられる適当な樹脂の容量は、カラムの寸法、つまりカラムの直径及び樹脂の高さを反映し、例えば用いられる液体中のIgG量及び用いられる樹脂の結合能に応じて変化する。
イオン交換クロマトグラフィーを行う前に、イオン交換樹脂は緩衝液で平衡化し、その緩衝液で樹脂を逆イオンに結合できるようにすることが好ましい。アニオン及びカチオンの交換樹脂は、同一の緩衝液で平衡化することが好ましい。というのは、緩衝液が1つだけ調製されて用いられれば、処理が容易だからである。
例えば、選択されたアニオン交換樹脂がDEAE Sepharose FF(登録商標)でカチオン交換樹脂がCM Sepharose FF(登録商標)であり、カラムが連続してつながれているならば、カラムは、かけられるIgG溶液とほぼ同じpH及びイオン強度を有する非変性の酸性緩衝液でともに平衡化するのが有利である。あらゆる種類の緩衝液、例えば酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、トリス(ヒドロキシメチル)アミノ-メタンが、イオン交換カラムの平衡化に適している。pHと伝導性が使用されるIgG溶液とほぼ同じである限り、多くの他の緩衝液を平衡化に用いることが好ましい。アニオン交換カラムとカチオン交換カラムを連続してつなげている際の平衡化に好ましい緩衝液は、酢酸ナトリウム濃度が5〜25mM、例えば10〜20mMの範囲、好ましくは約15mMの酢酸ナトリウム緩衝液である。平衡化に用いられる酢酸ナトリウム緩衝液のpHは、5.0〜6.0、例えば5.4〜5.9の範囲、好ましくは約5.7であることが好ましい。伝導性は1.0〜1.4mS/cmの範囲、好ましくは約1.2mS/cmである。適当な酢酸緩衝液は、酢酸ナトリウム三水和物及び氷酢酸から調製してもよい。
透明で任意にろ過されたIgG含有上清をイオン交換カラムにかける前に、緩衝液濃度と上清のpHを、必要であれば、用いた平衡化緩衝液の濃度とpHに実質的に等しい値に調整することが好ましい。
連続したカラムにIgG含有上清をかけた後は、IgG含有液がアニオン交換カラムからカチオン交換カラムに定量的に確実に移るように、洗浄する緩衝液の1カラム容量でカラムを洗浄(最初の洗浄)することが好ましい。その後、アニオン交換とカチオン交換のカラムを離し、樹脂からタンパク性夾雑物を除くために、実質的にIgGを溶出させないでカチオン交換樹脂から実質的に全ての夾雑物を溶出するのに十分なpHとイオン強度を有する緩衝液でカチオン交換カラムを洗浄することが好ましい。
最初の洗浄は、たとえ同様の濃度とpH値を有する他の緩衝液を洗浄に使用したとしても、平衡化の緩衝液を用いて行うことが有利である。酢酸緩衝液は、カチオン交換樹脂から夾雑物を洗出するのに用いることが好ましい。緩衝液のpHは、5.0〜6.0、例えば5.2〜5.8の範囲、例えば約5.4であってもよい。
カチオン交換樹脂からのIgGの溶出は、IgGを有効に溶出するのに十分なpHとイオン強度を有する実質的に非変性の緩衝液で行い、これによりIgG含有溶出物を回収することが好ましい。この明細書において、有効な溶出とは、連続しているアニオン及びカチオン交換樹脂にかけられたIgGタンパク質の少なくとも75%、例えば少なくとも80%、例えば少なくとも85%が、カチオン交換樹脂から溶出されることを意味する。溶出は、溶出勾配工程として行うのが有利である。本発明の方法において、使用に好ましい緩衝液は、pHが5.0〜6.0、例えば5.2〜5.8の範囲、好ましくは約5.4で、濃度が5〜40mM、例えば10〜25mMの範囲、好ましくは約15mMの酢酸ナトリウムである。
溶出緩衝液の塩濃度は、樹脂からIgGを置換するのに十分高いことが好ましい。しかし、pHの上昇及び低い塩濃度は、樹脂からIgGを溶出するのに使用できると考えられる。この方法の好ましい例で、溶出は、塩化ナトリウム濃度が50〜500mM、好ましくは約125mM〜350mM範囲の塩化ナトリウムで連続的に塩勾配溶出して行われる。
溶出は、段階的勾配溶出で行ってもよい。溶出は一定の塩の溶出として行ってもよく、カチオン交換カラムにかけられる溶出緩衝液は勾配溶出に対して単一の塩濃度を有すると考えられる。一定の塩溶出を行うならば、塩の濃度は、約350〜500mM範囲の塩化ナトリウムであることが有利である。一定の塩溶出と比較すると、勾配溶出の利点は溶出が塩勾配でかなり有効であることであるが、別の利点は、溶出物が低いイオン強度を有していることである。これは、高いイオン強度がIgGの安定性に重要であるために、有利である。溶出緩衝液は、後述するようなタンパク質安定剤をさらに含んでいてもよい。当業者に好まれるように、種々の他の適当な緩衝系を用いてIgGを溶出することができる。
好ましくは、溶出直後又はその間に、少なくとも1つのタンパク質安定剤がIgG画分に用いられる。タンパク質安定剤は当業者に公知であり、例えば種々の糖アルコール及び糖類(例えばソルビトール、マンノース、グルコース、トレハロース、マルトース)、タンパク質(例えばアルブミン)、アミノ酸(例えばリジン、グリシン)及び有機剤(例えばPEG)を含む。介在する選択された安定剤は、後の工程でIgG含有液から除くことができるものであってもよい。
IgG含有液におけるタンパク質安定剤の適当な濃度は、用いられる特定の剤による。1つの好ましい例では、安定剤はソルビトール、好ましくは最終濃度が2〜15%(w/v)の範囲、例えば約2.5%のソルビトールである。
カチオン交換カラムからの溶出後、溶出物は脱塩(つまり透析)することが好ましく、濃縮するのが有利である。緩衝液の交換とIgGの濃縮は、複合的なダイアフィルトレーション/限外ろ過処理によって行われる。用語「ダイアフィルトレーション/限外ろ過」は、それぞれダイアフィルトレーションと限外ろ過による透析と濃縮が一工程で行われることを意味する。ダイアフィルトレーションと限外ろ過は、2つの個別の工程として行ってもよい。しかし、生成物の不必要な損失を防ぐためには、一工程でのダイアフィルトレーションと限外ろ過法により透析と濃縮を行うことが現在は好ましい。
ダイアフィルトレーション/限外ろ過に用いられる膜は、公称10,000〜100,000Da範囲の重量のカットオフを有していることが有利である。この処理に好ましいタイプの膜は、Milliporeから得られる公称30,000Da重量のカットオフを有するポリスルホン膜である。他の匹敵する材質と孔度の限外ろ過膜を使用してもよい。
濃度の範囲は、かなり変化しうる。溶液は、約10g/l〜100g/l、好ましくは約50g/l IgGに濃縮される。濃縮後、IgG濃縮物は、イオン強度の低い緩衝液に対して透析することが有利である。塩イオンを除くほか、この工程は、低分子量の夾雑物を溶液から除き、次の精製工程用の緩衝液交換手段を供する。ダイアフィルトレーションに好ましい緩衝液は、2.5%(w/v)のソルビトールを含む15mMの酢酸ナトリウム(pH 5.4)である。緩衝液の交換は、限外ろ過した液体の伝導性が約1.5mS/cm、好ましくは約1.3mS/cm未満の値に減少するまで、続行される。ダイアフィルトレーション/限外ろ過のあいだ、pHは、4.0〜6.0、好ましくは5.1〜5.7の範囲、もっとも好ましくは約5.4に維持することが好ましい。
ダイアフィルトレーション/限外ろ過の後、タンパク質安定剤の濃度は、必要であれば、用いられる特異的なタンパク質安定剤に特徴的な最終的に最適な濃度に液体中で調整することが有利である。ソルビトールを用いる際は、ソルビトール濃度は約10重量%に調整することが好ましい。
安定化された液体は、次の工程の前に凝集物を除くため、0.2〜1.0μmの範囲、好ましくは約0.45μmの孔直径を有するろ紙でろ過することが好ましい。この段階で、高純度でイオン強度が低く、pHが酸性で比較的濃度の高いIgG及び安定剤が組合わせて加えられた結果、IgG含有液は安定性の高い適量の透明な溶液となる。
IVIG生成物の製造処理において、少なくとも2つの明らかかつ有効なウイルスの除去及び不活化工程が現在組み込まれている。これらの工程は、一般的なウイルス除去工程としてPEGを用いる沈降と脂質性の包膜ウイルスに対するウイルス不活化工程としてのS/D処理であることが好ましい。国際的なガイドラインによれば、原料物質のウイルス安全性に対する厳密な要件及び多工程精製処理の周知のウイルス減少能に加えて、2つの独立したウイルス減少工程の追加が包膜ならびに非包膜ウイルスの双方に有効であるので、この発明の薬物は実質的にウイルスの危険がない。
IgG含有液中に依然として存在し得る感染性で脂質性の包膜ウイルスは、IgG含有液に殺ウイルス量のウイルス不活化剤を加えることによって、この処理段階で不活性化することが好ましい。ウイルス不活化剤の「殺ウイルス量」は、溶液中でウイルス粒子が実質的に非感染性となり、これにより「ウイルスの危険がないIgG含有液」が当該分野で定義されるような量を意味する。かかる「殺ウイルス量」は、用いられるウイルス不活化剤ならびに培養時間、pH、温度、脂質含量及びタンパク質濃度のような条件によるであろう。
用語「ウイルス不活化剤」は、脂質性の包膜ウイルスならびに非脂質性の包膜ウイルスを不活化するために用いられるような剤又は方法を意味する。用語「ウイルス不活化剤」は、適当な時はいつでも、剤及び/又は方法の組合わせならびにかかる剤又は方法のある1タイプのみの双方を含むものとして理解されるべきである。
好ましいウイルス不活化剤は、洗剤及び/又は溶媒、もっとも好ましくは洗剤と溶媒の混合物である。ウイルス不活化剤は、任意に1以上の溶媒と1以上の洗剤との混合物であると理解してもよい。溶媒/洗剤(S/D)処理は、血液生成物における脂質性の包膜ウイルス(例えばHIV1及びHIV2、C型及び非A-B-C型肝炎、HTLV1ならびに2、CMV及びエプスタイン・バー・ウイルスを含むヘルペスウイルス群)を不活化するのに広く用いられている工程である。広範囲に及ぶ種々の洗剤及び溶媒は、ウイルスの不活化に用いることができる。洗剤は、非イオン性及びイオン性の洗剤からなる群から選択してもよく、実質的に非変性の洗剤に選択される。好ましくは、非イオン性洗剤は、後の工程によりIgG調製物から洗剤を除くのを容易にするため、用いられる。適当な洗剤は、例えばShanbromら、米国特許第4,314,997号及び米国特許第4,315,919号に記載されている。好ましい洗剤は、商標Triton X-100及びTween 80で市販されているものである。ウイルス不活化剤での使用に好ましい溶媒は、例えばNeurath及びHorowitzによって米国特許第4,764,369号に記載されているジ-またはトリ-アルキルホスフェートである。好ましい溶媒は、トリ(n-ブチル)ホスフェート(TNBP)である。本発明の実際に特に好ましいウイルス不活化剤はTNBPとTween 80の混合物であるが、他の組合わせを用いてもよい。好ましい混合物は、IgG含有液中のTNBP濃度が0.2〜0.6重量%の範囲、好ましくは約0.3重量%濃度になるような量で加えられる。IgG含有液中のTweem 80の濃度は0.8〜1.5重量%の範囲、好ましくは約1重量%濃度である。
ウイルス不活化工程は包膜ウイルスを不活化する条件で行われ、実質的にウイルスの危険がないIgG含有液が生ずる。一般に、このような条件は、4〜30℃、例えば19〜28℃、23〜27℃、好ましくは約25℃の温度及び確認研究により有効なことが認められた培養時間を含む。一般的に、1〜24時間、好ましくは4〜12時間、例えば約6時間の培養時間は、十分なウイルスの不活化を確保するのに十分である。しかし、適当な条件(温度及び培養時間)は、用いられるウイルス不活化剤、溶液のpH及びタンパク質濃度及び脂質含量に依存する。
ウイルスの除去又は不活化には、メチレンブルーを添加し、その後、紫外線光照射又はナノろ過によって失活させるような他の方法を用いて、ウイルスの危険がない生成物を製造してもよい。
溶媒/洗剤の処理後には、溶液を緩衝液で希釈するのが有利である。任意に、好ましくは、この方法の初期工程で前述したようなデプスフィルター及び/又は滅菌ろ紙によって、実質的にウイルスの危険がないIgG含有液がろ過される。
ウイルス不活化及び好ましくはろ過の後、ウイルス不活化剤とタンパク性夾雑物を除くため、イオン交換クロマトグラフィーが行われる。この工程は、アニオン交換樹脂量がカチオン交換樹脂量の約半分で、かつIgG溶出前の洗浄がより徹底され、緩衝液の少なくとも6倍容量のカラムが用いられる以外は、この方法の先のイオン交換クロマトグラフィー工程で既述したように行うことが好ましい。さらに、本発明の好ましい例において、平衡緩衝液は、濃度が約5〜25mMの範囲、好ましくは15mMで、pHが約5.0〜5.8の範囲、好ましくは5.4の酢酸ナトリウムである。前述したとおり、酢酸ナトリウム含量とIgG含有液中のpHは、平衡緩衝液と同じ濃度及びpHに調整することが好ましい。さらに、本発明の好ましい例で、タンパク質安定剤、好ましくはマルトースは回収した溶出物に加えられ、最終濃度を1〜5重量%の範囲、好ましくは約2.5重量%とする。
ウイルス不活化剤を除く好ましい方法は、イオン交換クロマトグラフィーによる方法である。しかし、オイル抽出及び代替的なクロマトグラフィー法のような他の方法は、有用であると考えられる。適切な方法は、用いられるウイルス不活化剤による。したがって、溶媒/洗剤の除去は、樹脂にIgGを結合させ、その後緩衝液で不活化剤を洗出してなされる。カチオン交換クロマトグラフィーは、使用可能な方法である。また、本発明の好ましい例では、アニオン交換クロマトグラフィーは、この方法の最終生成物の質と全体的な純度を改善するために、カチオン交換クロマトグラフィーに加えて行われる。
イオン交換クロマトグラフィー工程の後、IgG含有溶出物は、透析し濃縮することが好ましい。これにより、残留している少量のタンパク質成分の含量も有効に減じられる。有利には、これは、前述したようなダイアフィルトレーション/限外ろ過によって行うことができる。ダイアフィルトレーションに用いられる緩衝液は、好ましくは約4〜10mM、好ましくは7.5mM濃度かつ約4.0〜6.0、好ましくは約5.1〜5.7の範囲、例えば約5.4のpHの酢酸ナトリウムである。代替的には、リン酸ナトリウム又は酸のような他の緩衝液は、ダイアフィルトレーションに用いることができる。ダイアフィルトレーションは、伝導性が1mS/cm未満かそれに等しくなるまで、続ける。任意に、IgG含有液は、さらに滅菌ろ過する。
望ましい場合、ウイルス不活化剤が実質的にない精製されたIgG含有液は、例えば静脈、皮下又は筋肉内に用いられる液体生成物としての製剤化に適したものとするために、さらなる処理に付される。
実際的な観点からは、免疫グロブリン生成物の液体製剤の含量は、貯蔵時も使用時も同じであることが好ましい。生成物中のIgGの最終濃度は、0.25〜20重量%(2.5〜200g IgG/lに相当)、例えば約1〜20重量%の範囲、つまり約2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、12%、14%、16%、18%であることが好ましい。
高濃度のタンパク質がIgGの安定性を高くすることは、公知である。他方、高濃度のIgGは、生成物の浸透圧が高いために輸液の問題を回避しなければならないので、患者にIgGを静脈で投与する際の最大注入速度をかなり低くしなければならないことになる。欧州薬局方(Ph.Eur)によって静脈投与に現在推奨されている濃度は、5%(w/v)である。他方、かなり濃縮された生成物(例えば10%かそれ以上)は、筋肉内又は皮下注射に有用である。
好ましくはないが、本発明の種々の処理工程で得られる生成物が、液体製剤の代わりに例えば凍結乾燥製品(但し、これは即時(instant)の液体製剤としての免疫グロブリン生成物の使用に比べるとあまり好ましくない)としても使用できることは明らかである。後者の例は、以下により詳細に記載する。
液体の免疫グロブリン生成物は、血漿よりもかなり低いイオン強度でもっとも安定であり、つまりその伝導性は、1.0mS/cm未満、約0.8mS/cmであることが好ましい。
pHは、IgGの安定性と注入速度に影響を与える。液体の免疫グロブリン生成物は、酸性条件、つまりIgGの等電点であるpH 6.4〜8.5未満でもっとも安定である。pH値が生理的pH値(7.1〜7.3)に近くなればなるほど、使用される注入速度は速くすることができる。必要とされる安定性の結果、本発明の免疫グロブリン生成物のpHは5.1〜5.7、例えば5.2〜5.6の範囲、例えば約5.4であることが好ましい。
さらに、前述したように、免疫グロブリン生成物はタンパク質安定剤を含んでいてもよい。糖アルコール及び糖類(例えばソルビトール、マンノース、グルコース、トレハロース、マルトース)に加えて、タンパク質(例えばアルブミン)、アミノ酸(例えばリジン、グリシン)及び有機性剤(例えばPEG及びTween 80)は安定剤と同様に用いることができる。IgG含有液中の安定剤の適当な濃度は、前述したように使用される特異的な剤による。
精製したIgG液は、必要であれば液体を安定かつ等張にするために調製される。用語「等張溶液」は、溶液が血漿中と同じ浸透圧であることを意味する。上記のとおり、イオン強度は、血漿中よりも、液体製剤としての本発明の免疫グロブリン生成物中で著しく低い。その理由は、モノ又はジサッカライドが溶液の重量オスモル濃度を増し、オスモル濃度はイオン強度に影響しないために、サッカライドを用いるのが好ましいためである。本発明の好ましい例では、マルトースは、溶液が等張で、同時にマルトースが免疫グロブリン安定剤として作用するのを確保する濃度で加えられる。これは、約5〜15(w/v)の範囲、好ましくは10%(w/v)の最終濃度に、マルトース;代りに使用される他の糖類、例えばマンノース及びグルコースを加えて行うことが好ましい。
免疫グロブリン生成物に好ましい最終条件は、例えばpH、イオン強度及び緊張に関して安定かつ生理学的に許容される条件からなる。さらに、免疫グロブリン生成物は、Monograph No.918, Ph.Eur., 1997に詳細にされているように、品質制御試験の要件に従わなければならない。
本発明の方法で得られる生成物の主な利点は、液体製品として製剤化する際に、生成物が、同時に非常に安定で、高純度で、大部分が正常に分布しているIgGサブクラスを有し、かつIgA含量が極めて低いのみならずIgM含量が低く、Fc機能で示される抗体活性と生物活性が保持された、使用できるように調製された液体生成物の組合わせであることである。
さらに、それは、免疫グロブリン及び/又はダイマーより大きなポリマーとして測定される他の血漿タンパク質の凝集物を本質的に有さず、かつ抗補体活性が低く、IgGモノマーとダイマーの含量が極めて高い。モノマーIgGは少なくとも90%を構成しており、これは理想的と考えられる。安定性が高いために、アルブミン、グリシン、洗剤又はPEGのような他の安定剤の添加を回避することができる。最後に、生成物は、処理が、脂質性の包膜及び非脂質性の包膜双方のウイルスを除去及び/又は不活化することを目的とした明らかかつ有効なウイルス除去工程を含むので、ウイルスの危険がない。
処理工程をウイルス減少工程として確認する目的は、製造処理が、原料物質を汚染することが知られており、又はそうするものと考えられているウイルスを有効に不活化/除去することを明らかにするためである。確認研究は、製造工程前に確認されるべきウイルスを意図的に添加し、製造工程後にその除去/不活化の程度を測定することからなる。GMP抑制は、製造設備へのあらゆるウイルスの意図的な導入を妨げる。したがって、確認は、製造工程のスケールを小さくしたウイルス学の付属物を備えた別の研究室で実施され、かつ製造技術者とともにウイルス学を専門とするスタッフによって行われるべきである。製造工程用の原料物質に加えられた確認されるべきウイルス量は、十分にウイルスを不活化/除去する製造工程の能力を測定するために、できるだけ大量であるべきである。しかし、ウイルスのスパイクは、製造材料の組成があまり変わらないように加えるべきである。ウイルスのスパイク量は10%に等しいか、それ未満であることが好ましい。
伝染力の定量アッセイは、GLP原則にしたがって行うべきであり、プラーク形成、合胞体や病巣の形成のような他の細胞障害作用の検出、エンドポイント滴定(例えばTCID50アッセイ)、ウイルス抗原合成の検出又は他の方法を含んでいてもよい。この方法は、十分に感受性かつ再現性であるべきであり、結果の統計学上十分な正確性を確保するために、かなり繰り返しかつ制御して行われる。
一般的に、処理工程は、6logのウイルスを用いて試みられている。4logオーダーかそれ以上の減少が生ずる場合には、研究中の特定の試験ウイルスが有する明らかな効果が示される。同様に、4.5log、5log又は5.5logオーダーの減少は、研究中の特定の試験ウイルスが有する明らかな効果を示し、その工程を有効なウイルス減少工程として分類することができる。
ウイルスの有効性研究は、一般的にウイルスを除く系の能力を試験するために、生成物を汚染するウイルスにできるだけ似ており、次いでできるだけ広範囲な物理化学特性を示すウイルスを用いて行うべきである。
ウイルスの有効性研究は、ウイルス有効性研究のガイダンス:The Design, Contribution and Interpretation of Studies Validating the Inactivation and Removal of Viruses (CPMP/BWP/268/95)のCPMPノート及びガイダンスPlasma Derived Medicinal Products (CPMP/BWP/269/95)のノートにしたがって行われるべきである。
この方法の有効性研究は、実施例5に示す。
本発明の生成物は、95%より高く、好ましくは98%より高く純粋である。高度な純度は、とりわけ、本発明の生成物が少なくとも1つ、好ましくは2つ、任意に連続してつなげられたアニオン-カチオン交換クロマトグラフィー工程によって得られるという事実に起因している。この明細書で、多くの処理工程が使用されるにもかかわらず、高収率、つまり新鮮な凍結血漿kg当たり少なくとも3.5gの生産スケールのIgGタンパク質が得られることは、注目すべきである。
実施された比較研究(実施例2)は、本発明の処理で得られる免疫グロブリン生成物が、顕著な抗原結合活性と高度なFc機能のような理想的な機能特性を有していることを示している。本発明者らによって開発された現在好ましい薬物は、免疫グロブリン液が5重量%である。安定性試験は、これまでのところ、1年以上4℃での貯蔵で安定であること、つまり、免疫グロブリン生成物に、凝集物の形成や免疫グロブリンGのフラグメント化、所望の生物活性の損失、又は望ましくない活性、例えばインビトロで測定される抗補体活性及びプレカリクリン活性の増加が全くないことを示している。
本発明に基づけば、純度が95%より高く、例えば少なくとも96%であるか、又は少なくとも97%、例えば少なくとも98%、好ましくは少なくとも99%、さらに好ましくは少なくとも99.5%のIgG生成物を得ることができる。IgG生成物は、6mg未満のIgA/l、例えば4mg未満のIgA/l、好ましくは3mg未満のIgA/l、さらに好ましくは2mg未満のIgA/lを含むべきである。
他の生成物は、洗剤、PEG又はアルブミンの形態で安定剤を含んでいてもよい。好ましい例では、本発明の生成物は安定剤を全く含まず、代りに十分に耐性の糖類が選択される。
1つの特徴として、本発明の生成物は、ポリマーと凝集物が極めて低含量である。好ましい例では、本発明の生成物は、1.5%未満のポリマーと凝集物、例えば1%未満、例えば0.5%未満、又は0.25%未満のポリマーと凝集物を含む。IgGモノマーとダイマーの含量は少なくとも95%、例えば少なくとも96%、又は少なくとも97%、例えば少なくとも98%、好ましくは少なくとも98.5%又は99%である。モノマーIgGの含量は、生成物中で少なくとも90%である。
試験により、認可されているIVIG生成物に匹敵する本発明の生成物の臨床上の作用が示された。生成物は患者に十分に耐性であり、循環中の免疫グロブリンのターンオーバー時間は4週間であることが測定されている。この試験で、IVIGの免疫調節作用、SSIは圧倒的であることが分かった(データは実施例3に示す)。
IVIGの適応症は、一般的に可変性の免疫欠乏症、ウィスコット-アルドリッチ症候群及び重篤複合免疫不全(SCID)を含む原発性の低/無ガンマグロブリン血症、慢性リンパ性白血病(CLL)及び多発性骨髄腫患者における二次的な低/無ガンマグロブリン血症、小児AIDS及び細菌感染、急性及び慢性の特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、同種異系骨髄移植(BMT)、川崎病及びギリアン-バレー症候群、神経:慢性炎症性脱髄多発性神経障害(CIDP)、多病巣性運動神経障害、多発性硬化症、重症筋無力症、イートン-ランバート症候群、視神経炎、癲癇;婦人科:流産体質、原発性抗リン脂質症候群;リウマチ:関節リウマチ、全身性エリトマトーデス、全身性強皮症、脈管炎、ベーゲナー肉芽腫、シェーゲレン症候群、小児関節リウマチ;血液:自己免疫好中球減少症、自己免疫溶血性貧血、好中球減少症;胃腸:クローン疾患、潰瘍性大腸炎、腹腔疾患;その他:喘息、敗血性ショック症、慢性疲労症候群、乾癬、毒性ショック症候群、肥満、副鼻腔炎、膨張性心筋症、心内膜炎、アテローム性動脈硬化症、成人AIDS及び細菌感染がある。
IVIG生成物での治療用の上記適応症とは別に、コルチコステロイド及び免疫抑制治療に一般的に応答する幾つかの重篤な自己免疫疾患は、本発明の生成物での治療を目的とする症状であると考えられる。これらには、多発性神経根炎のような幾つかの神経疾患、及び幾つかの免疫介在性の末梢多発性神経障害、ならびに幾つかの慢性炎症性リウマチ及び小管に関与する全身性脈管炎のような脈管性症状、多発性筋炎などがある。
本発明の生成物の種々の作用機序は、慢性感染における感染性抗原の除去及びIgG代謝の増加でありうる。
本発明を以下の実施例によりさらに例示するが、これは本発明を限定するものではない。
実施例
実施例1:免疫グロブリンの精製における処理工程(第5工程を除き、全ての工程は5±3℃で行う)
工程1:Cohn画分II + IIIペーストの製造
Cohn画分II+IIIペーストは、Kistler-Nitschmann [Kistler P及びNitschmann HS, (1952), Vox Sang, 7, 414-424]によって本質的に変えられたような標準的なCohn分画法[Cohn E.ら、(1946) J Am Chem Soc, 459-475]によってヒト血漿から調製する。寒冷沈殿物を除いてから、所望ならば、ある種の血漿タンパク質(例えばIX因子及び抗トロンビン)を例えばイオン交換材及び/又はヘパリンSepharose(登録商標)マトリクスに吸着後、エタノール沈澱を開始する。
画分II〜IIIペーストを得る厳密な条件(pH、エタノール濃度、温度、タンパク質濃度)は、Harns JR(編集), Blood Separation and Plasma Fractionation, Wiley-Liss, New-York, 1991の266頁の図から明らかである。ペーストは、ろ過前にろ過助剤を加えてフィルタープレスで単離する。
工程2:Cohn画分II + IIIペーストからの免疫グロブリンの抽出
ろ過助剤(Schenk, Germany)30kgを含む画分II+IIIペースト140kg(約1150kgの原料の血漿量に相当)から、最初に525kgの2.33mMリン酸ナトリウム/酢酸緩衝液(pH4.0)を約1.5時間ゆっくり攪拌しながら加え、次いで注射用の水(WFI)350kgを各添加後に約1.5時間攪拌しながら2回連続して加え、抽出を行う。最後に、21.5mMのリン酸ナトリウム/酢酸(pH7.0)を約280kg加え、それにより、懸濁液のpHを5.4に調整する。
懸濁液は、デプスフィルター(C-150AF、Schenk, Germany)でろ過する。ろ液は、特にタンパク質、免疫グロブリンを含有する。
工程3:タンパク質凝集物の沈降とPEG 6000によるウイルスの除去
工程2のろ液にPEG 6000(Merck, Germany)を加え、最終濃度6重量%にする。4時間沈降させた後、PEG懸濁液をフロー-スルー遠心分離(Westfalia BKA28, Germany)で遠心分離して透明にし、デプスフィルターにかけ(50LA及び90LA, Cuno, France)、次いで0.22μmのろ紙(Durapore, Millipore, U.S.A.)で滅菌ろ過する。0.45M 酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.7)1部を上清29部に加えてろ過したPEG上清を緩衝液で調整し、pHを5.7にする。
工程4:連続的なアニオン及びカチオン交換クロマトグラフィー(I)による精製
2つのクロマトグラフィーカラムは、それぞれDEAE Sepharose FF(登録商標) 561 (Pharmacia Biotech, Sweden)及びCM Sepharose FF(登録商標)561 (Pharmacia Biotech, Sweden)を用いて充填する。カラムは、液体流が、最初にDEAE Sepharose樹脂を、次いでCM Sepharose樹脂を通るように連続してつなげる。カラム樹脂は、15mMの酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.7)で平衡化する。次いで、工程3の溶液を、つなげた2つのカラムにかける。
イオン交換クロマトグラフィーのあいだ、かけられた液体をもっとも汚染しているタンパク質は、DEAE Sepharose樹脂に結合する。IgGはDEAE Sepharose樹脂に結合せずに通過するが、IgGは、溶液が樹脂に移る際にCM Sepharose樹脂に結合する。液体をかけて、1カラム量の平衡緩衝液で洗浄した後、DEAEカラムをCMカラムからはずす。次いで、CMカラムを、3カラム量の15mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.4)で洗浄し、次に125mM NaClから350mM NaClの勾配、15mM酢酸ナトリウム(pH5.4)でIgGを溶出する。溶出したIgG画分をソルビトールに回収し、最終濃度を2.5重量%とする。
工程5:IgG画分の溶媒/洗剤(S/D)処理
溶出したIgG画分を濃縮し、限外ろ過/ダイアフィルトレーションにより、IgG/L約50gの濃度に脱塩する。用いた膜はポリスルフォン膜で、公称30kDaのカットオフ重量である(Millipore)。ソルビトール2.5重量%を含む15mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.4)にダイアフィルトレーションを行い、伝導性が1.4mS/cm未満になるまでこれを続ける。溶液のIgG含量は、280nm(A280)で測定して分光光度学的に決定する。ソルビトール濃度は10重量%に調整し、溶液を0.45μmのろ紙(Pall Corporation, UK)でろ過する。次いで、後のS/D処理のために、Tween 80とTNBPを加えてそれぞれ1重量%及び0.3重量%の最終濃度とする。S/D処理は、少なくとも6時間25℃で進める。
工程6:イオン交換クロマトグラフィー(II)によるS/Dの除去
DEAE 281とCM Sepharose FF 561それぞれを充填した2つの連続的につなげたカラムを、15mM酢酸ナトリウム(pH5.4)で平衡化する。工程5からのS/D処理IgG画分を15mM酢酸緩衝液(pH5.4)5部で希釈して、デプスフィルター(Cuno 90 LA)でろ過し、次いで滅菌ろ過し(Sartobran, Sartorious)、2つの連続してつなげたカラムにかける。イオン交換クロマトグラフィーと後のCMカラムからのIgGの溶出は、S/D処理から剤を除くためにCMカラムを6カラム量の緩衝液で徹底的に洗浄する以外は、本質的に工程4に記載するようにして行う。溶出したIgG画分はマルトース(Merck, Germany)に回収し、最終濃度を2.5重量%とする。
工程7:静脈に用いるための免疫グロブリンの最終濃度及び製剤化
工程6で溶出したIgG画分を限外ろ過に付し、マルトース2.5重量%を含む7.5mM酢酸ナトリウム(pH5.4)にダイアフィルトレーションにより脱塩し、最終伝導性を1mS/cm未満とする。用いた膜は公称100kDaのカットオフ重量を有するポリスルフォン膜で、低分子量タンパク質を除去し得る。IgGの最終濃度は50g/Lに調整し、マルトースを最終濃度10%(w/v)に調整する。マルトースで調整した最終調整物は、滅菌ろ紙(Sartopure GF2, Sartorious)でろ過し、無菌的に充填する。
実施例2:この処理によって得られる生成物の、他のIVIG生成物と比較した分析的研究の結果
Figure 0005478519

純度(タンパク質組成)
IVIG製剤の薬局方の純度要件は少なくとも95%IgGであり、つまり存在する非IgGの夾雑しているタンパク質は5%未満である。純度は、幾つかの理由から極めて重要なものとみなされている。合理的な観点からは、所望の機能を有するタンパク質のみが存在すべきであり、他のタンパク質は例えば望ましくない副作用を引起こし、かつ/又は生成物の安定性に影響を及ぼすなど有害である可能性がある。
純度は、Ph.Eur., 1997, 964-965頁に詳細に記載されているように例えば電気泳動技術によって分析することができる。ここでは、タンパク質が、酢酸セルロースゲル中で分離される。しかし、実際的な目的には、アガロースゲルが用いられる。電気泳動後、ゲルを固定し、乾燥し、染色する。タンパク質のバンドは、最終的にスキャンしてモニターされる。本発明の生成物が実質的に純粋(99.8%)であることは、上記の表から明らかである。
アルブミン
アルブミン含量は、本質的にC.B.Laurell (Anal Biochem (1965), 10, 358-361)により記載されているようにして架橋イムノ-電気泳動によって分析した。生成物5μlを、抗ヒトアルブミン抗体(DAKO A/S, Denmark, No.A0001(1/100))に対して分析した。純度が高いために、本発明の分析された生成物にアルブミンは検出されなかった。
IgGモノマーとダイマーの含量
IgGモノマーとダイマーの含量は、ゲル透過クロマトグラフィーで分析し、モノマーとダイマーのピーク領域を統合することによって、クロマトグラムからモニターすることができる(Ph.Eur.参照)。種々の分析結果は、上記の表に示している。これから、モノマーとダイマー領域の合計が、本発明の生成物に対してクロマトグラム全域の99.3%(これから、モノマーIgGは92%を構成)を構成していることは、明らかである。
ポリマーと凝集物の含量
ポリマーと凝集物の存在は、深刻な副作用、しばしばインフルエンザ様症状の原因であることが知られている。かなり穏やかな製造処理によって純度がかなり高度になるため、本発明の処理によって得られる免疫グロブリン生成物は、ポリマーと凝集物がほとんどない。
ポリマーは、ゲル透過クロマトグラフィーで分析でき、ダイマーIgGより短い保持時間を有するあらゆるタンパク質のピークは、Ph.Eur.に記載されているようにポリマーと考えられる。
Ph.Eur.及び他のガイドラインによれば、タンパク質の凝集物の含量は、3%未満であることが好ましい。この処理の生成物は、測定可能な凝集物を含まない。そのため、0.1%未満のポリマーと凝集物が含まれているものと考えられる。
抗補体活性(ACA)及びプレカリクレン活性体活性(PKA)
ACAとPKAは、Ph.Eur.に記載されているようにして測定する。
ACAは、できるだけ低いことが好ましい。Ph.Eur.によれば、補体の消費は、50%未満かそれに等しくあるべきである。測定された本発明の生成物試料の補体の消費は約30%、つまり分析された他の生成物に匹敵している。アルブミンの存在は、補体の消費を抑制する傾向にあることに留意すべきである(発明者の知見)。
PKAは、実質的な量で存在する場合、生成物の低血圧性の副作用に必須である。したがって、PKAは、免疫グロブリン生成物中でできるだけ少量であるのが好ましい。Ph.Eur.によれば、Ph.Eur.に概略されているように測定の際、35IU/ml未満であるべきである。本発明の生成物ならびに分析した他の生成物のPKAは、方法の定量レベル未満、つまり8.5IE/ml未満である。
ヘマグルチニン
血漿免疫グロブリンのIgM画分は、A型及びB型の血液抗原に対する抗体であるヘマグルチニンを含む。このような抗体の存在は、レシピエントがA型及び/又はB型の血液型である場合に、潜在性の溶血反応によって望ましくない副作用を引起こす可能性がある。
薬局方の要件によれば、ヘマグルチニンの含量は、免疫グロブリン生成物の1:64の希釈物中でA/B赤血球の凝集を引起こす含量よりも少量でなければならない。分析した生成物は全て、この要件を満たす。
Fc-機能
保持されている抗原結合活性は、IVIGの生物学的機能に必須である。これは、免疫調節活性にもあてはまる。他方、保持されているFc-機能は、種々の食細胞におけるIVIGの作用及び補体系の活性化に必須である。Fc-機能は、種々の技術を用いて立証することができるが、Ph.Eur.に記載されている認められている方法論は、風疹の抗原に対する調製において補体を活性化する潜在的な抗体を測定している。活性は、100%になるよう設定されている免疫グロブリンの生物学的な標準製剤(BRP, Ph.Eur.)の活性と比較している。生成物は、関連している活性が標準製剤の60%以上である場合に、試験に従っている。本発明の生成物のFc-機能は、穏やかな精製処理のために、分析された他の液体生成物と特に比較して非常によく保持されていると考えられる。
サブクラス分布
IgGサブクラスの分布は、本質的にA.Inglid [Scand J Immunol, (1983), 17, 41]によって記載される標準的なMancini免疫拡散法によって測定する。濃度は、WHO基準血清(67/97)を用いて測定する。サブクラス分布は、3.7〜10.2g IgG1/l血清、1.1〜5.9g IgG2/l血清、0.15〜1.3g IgG3/l血清及び0.06〜1.9g IgG4/l血清の範囲の平均濃度で正常なヒト血漿の範囲内であることが要求される[R.Djurupら、Scand J. Clin Lab Invest 48, 77-83]。したがって、全ての生成物のサブクラス分布が認められ得る。
IgA-含量
IgAの存在は、IgA-欠乏性のレシピエントの感作を引起こし得ることが知られている。IgA-欠乏性の患者がIgA含有免疫グロブリン製剤を受けると、IgAは、外来抗原としてみなされ、その結果IgAに対する抗体がレシピエントに誘導される。次にIgA含有製剤が患者に注入されると、アナフィラキシー反応が誘発される。したがって、免疫グロブリン製剤は、できるだけIgAを含まないことが必要である。IVIG生成物中のIgAは、例えばポリクローナル抗IgAがIgAを補足するのに用いられ、標識された抗IgAがIgAの結合を見出すに用いられるELISA-技術を用いてモニターすることができる。スタンダードは、IgA含量が明らかなキャリブレータ(No.X908, DAKO A/S, Denmark)を希釈して作製する。
実施例1に記載の処理生成物は2mg未満のIgA/lを含み、他の分析された液体生成物よりもIgA含量がかなり低い。IgGとIgAとの物理化学的な類似性から、これらの免疫グロブリンは精製処理中に分離しにくい。しかし、処理中の2つのアニオン/カチオン交換クロマトグラフィー工程により、IgA含量はかなり低レベルに低減される。
IgM含量
Ig製剤中のIgMは、例えばポリクローナル抗IgMがIgMを補足するのに用いられ、標識された抗IgMが検出に用いられるELISA-技術を用いてモニターすることができる。スタンダードは、IgM含量が明らかなキャリブレータ(No.X908, DAKO A/S, Denmark)を希釈して作製する。本発明の生成物のIgM含量はかなり少量で、他の液体生成物よりも著しく少ないことは、表から明らかである。
Tween 80、TNBP及びPEG
Tween 80、TNBP及びPEGは、標準的な方法で測定する。一般的に、これらの添加剤の含量は、できるだけ少量であるべきである。
pH
分析された液体生成物のpHは酸性でpH5.6〜5.7であるが、分析された凍結乾燥生成物は溶解後に中性でpH6.7である。
全タンパク質濃度
Ph.Eur.によれば、タンパク質濃度は、少なくとも50g/l±10%であるべきである。全ての生成物は、この要件を満たす。タンパク質濃度は、Kjeldahlの方法によって測定する。
マルトースとグルコースの安定剤
糖類は免疫グロブリン生成物の一般的に用いられている安定剤であり、良好な安定化特性を有し、迅速に排出される。マルトース、シクロース及びグルコースの含量は、標準としてマルトースを用いる市販のキット(Boehringer Mannheim, Germany)を用いて測定する。
アルブミンで安定化した2つの凍結乾燥生成物及びアルブミンならびにPEGは、それぞれ約15〜20mg/mlの濃度で糖安定剤も含んでいるようである。本発明の生成物及び他の液体生成物はかなり均等に安定化されており、つまり約9%、88mg/ml及び92mg/mlのマルトースを有する。ポリマーと凝集物の含量を安定性のパラメータとみなすことによって、製剤は極めて類似しているが、本発明の生成物は、分析された他の液体生成物よりも安定性が高い。
実施例3:臨床試験結果
IVIG、SSIとしても言及される本発明の生成物の臨床研究は、ICH及びCPMP/388/95ガイドラインにしたがって行う。
薬物動態学、作用及び安全性を調べた。臨床試験は、これまでのところ4群の患者を含めている:原発性免疫不全症候群の患者(15患者)、二次免疫不全症候群の患者(6患者)、特発性血小板減少性紫斑病の患者(15患者)及び慢性炎症性脱髄多発性神経障害の患者(5患者)。
原発性免疫不全症候群又は二次免疫不全症候群の患者は、2〜5週間の間隔で0.2〜0.4g/kgを用いて治療した。特発性血小板減少性紫斑病の患者は、5日間400mg/kg/日又は2日間1000mg/kg/日で治療した。
安全性の手段には、血清トランスアミナーゼ、血清クレアチニン及びウイルスのマーカーを全ての患者で測定する。特発性血小板減少性紫斑病の患者5人は、全部で24週間までウイルス、腎臓及び肝臓の安全性マーカーを追跡した。
薬物動態学
T1/2は、30.5日に測定した(平均)。これは、他のIVIG薬物の結果にしたがっている。
効果
原発性及び二次免疫不全症候群の患者については、他の認可されたIVIG薬物で患者を治療した6ヶ月間の病気にかかった日数、入院期間、抗生物質を用いた日数、発熱した日数及び肺炎の数を回想により記録した。患者を免疫グロブリンSSI、液体で治療したその後の6ヶ月で、同じパラメータを記録した。
結果は、原発性及び二次免疫不全症候群の患者において、免疫グロブリンSSI液体は、感染の予防/妨害用の他のIVIG組成物とちょうど同じくらい有効である。
特発性血小板減少性紫斑病の患者80%において、血小板数は、免疫グロブリンSSI液体での治療前の30x109/L未満から、治療後に50x109/L以上に上昇した。個々の患者における血小板数の増加と寛解期間は他のIVIG薬物の同用量の投与後と同じレベルで、この場合に比較が可能であった。最初にIVIGを受けた1人の患者は、試験薬剤に抗療性だった。IVIGに対するこのような反応は珍しくなく、したがって驚くべきことではない。血小板の増加と増加期間の詳細は、進行中である。
結果は、免疫グロブリンSSI液体は、慢性特発性血小板減少性紫斑病の患者の少ない血小板数の治療において他のIVIG薬物とちょうど同じくらい有効である。
臨床医及び慢性炎症性脱髄多発性神経障害の患者によれば、IVIG、SSIは、試験前に投与されたIVIGと同一の有効性を示している。IVIG、SSIも、他のIVIG生成物が患者によって許容されたように、等しく患者に許容された。
安全性
ある深刻な副作用を除けば、研究者によって評価された脾摘出は試験薬とは無関係で、軽症な副作用が記録されたにすぎない。これらの副作用は、主に頭痛、発熱及び嘔吐であった。これまでのところ、IVIG、SSIの注入中に異常な生命徴候は報告されていない。ウイルスのセロコンバージョンも記録されていない。腎臓や肝臓の損傷又はアナフィラキシーショックの症例についても報告はない。
臨床研究は、免疫グロブリンSSI液体が十分に許容されていることを示している。副作用の頻度、程度及び種類は、他のIVIG薬物での経験から外れてはいない。
実施例4:IVIG液体についての安定性研究の結果
液体IVIG生成物が時間中安定であるかどうかを試験するために、安定性に関する同時実質条件(Real time Real conditions)の研究を行った。IVIG生成物の全部で4個の連続的なバッチ(各試料250ml)を研究に含め、少なくとも12ヶ月2〜8℃で保存した。4つのバッチからの試料を、0時間、保存6ヶ月及び保存12ヶ月で分析した。4バッチの手段としての研究結果を下記に示す。
Figure 0005478519

全ての上記試験は、Ph.Eur.及び実施例2に記載するようにして行った。
モノマーとダイマーの含量が12ヶ月の期間中一定であるとの知見は、ポリマーが試料中に形成されていないことを示している。免疫グロブリンポリマーの存在は、特に深刻な副作用、しばしばインフルエンザ様の症状の原因であることが知られている。本発明の処理で得られる免疫グロブリン生成物の安定性は非常に高いために、生成物は、長期の保存期間後でさえポリマーと凝集物がほとんどない。
かなり高度のACAをゆっくりと生じているバッチがこの安定性研究に含まれているが、ACAの増加は時間中に認められない。ACAの増加が認められると、凝集物は保存中に生じていることを示している。したがって、時間中に一定なACAは、凝集物が生じていないことを示す。
さらに、結果は、PKA活性は上昇しないが、プレカリクレン活性体の活性は、生成物の保存中に生じないことを示している。しかし、測定された値は低い定量レベルより小さいことに留意すべきである。
Fc-機能の測定は、完全に機能的なIgGの存在が保存中に維持されていることを示す。したがって、プロテアーゼはタンパク質を分解し、それによりFc-機能を低下させるが、試料にプロテアーゼは存在しない。IgG分子の変性は、抗原結合活性が低下しても、生じない。
当業者に知られているように、IgGの種々のサブクラスの安定性には、違いがある。この結果から分かるように、全てのサブクラスが保存中に維持され、生成物が安定なことを示している。これは、さらにほぼ同じ全タンパク質濃度を有する試料中のIgGのタンパク質組成が時間中ほとんど変わらず、IgGの全体的な分解がないことを示している、つまり、本発明の生成物が安定で、特徴を著しく変えずに2〜8℃で少なくとも12ヶ月保存できるとの知見によって支持され、これにより効力と安全性が立証されている。
実施例5:IVIGの現在の処理における有効なウイルス減少工程
分画工程によるウイルスの除去
ウイルクの沈殿は、ポリエチレングリコールにより免疫グロブリン溶液中で生ずる。ウイルスの有効性研究は、2つの少量の非包膜ウイルスを用いて行う。以下のウイルスの減少が生じた:
A型肝炎ウイルス(HAV) 6.3 log10の除去
ポリオウイルス7.2 log10 の除去
ウイルスの有効性研究は、2つの包膜ウイルスを用いて行う。以下のウイルスの減少が生じた:
HIV 7.6 log10の除去
BVDV 7.5 log10 の除去
S/D処理工程によるウイルスの不活化
1%Tween 80+0.3% TNBPを有する免疫グロブリン溶液の25℃6時間以上での治療
ウイルスの有効研究は、4つの包膜ウイルスを用いて行った。以下のウイルスの減少が生じた:
HIV 7.4 log10の不活化
シンドビス(sindbis)ウイルス 5.3 log10の不活化
BVDV 4.1 log10 の不活化
PRV 5.1 log10の不活化
全部で8個の有効研究は、本発明の処理中の2つの異なる工程で行う。PEG沈降工程は、4個の異なるウイルスを用いてウイルス除去工程として確認した。2個は、小さな非包膜ウイルスHAVとポリオウイルスで、2個は包膜ウイルスHIV及びC型肝炎ウイルス用モデルとしてのBVDVである。これらの研究から、全ての4個のウイルスはPEG沈澱によって有効に除かれることが示された。したがって、PEG沈降工程は、有効なウイルス除去工程として確認されている。S/D処理は、異なる4個の包膜ウイルスを用いて確認した。有効研究のデータから、S/D処理工程が全ての4個のウイルスを有効に不活化したことは明らかである。したがって、S/D処理工程は、有効なウイルス不活化工程として確認されている。IVIG処理におけるウイルス減少工程、PEG沈降によるウイルスの除去及びS/D処理による不活化は、いずれも4個の異なるウイルスを有効に除き、不活化することが確認されている。処理におけるHIVとBVDVの累積減少因子は、それぞれ15と11.6である。これにより、本発明の生成物はウイルスの危険がないとみなすことができる。

Claims (9)

  1. a)98〜99.8%の純度、
    b)1〜20重量%のIgG濃度、
    c)98.5〜99.3%のIgGモノマーとダイマーの含量、
    d)50g/lのIgG濃度での1リットル当たり4mg未満のIgA含量、及び
    e)IgG1、IgG2、IgG3及びIgG4を含有すること
    の特徴を有する即時の液体製剤用の免疫グロブリン生成物。
  2. 洗剤、PEG又はアルブミンを安定剤として含有しない請求項1に記載の免疫グロブリン生成物。
  3. 3mg/l未満のIgAを含む請求項1又は2に記載の免疫グロブリン生成物。
  4. 55〜65%のIgG1、30〜40%のIgG2、2〜5%のIgG3及び1〜4%のIgG4を含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の免疫グロブリン生成物。
  5. 0.5%未満のポリマーと凝集物を含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の免疫グロブリン生成物。
  6. 薬剤に用いられる請求項1〜5のいずれか1項に記載の免疫グロブリン生成物。
  7. 即時の静脈投与用の請求項6に記載の免疫グロブリン生成物。
  8. PID(原発性免疫欠乏症)、SID(二次免疫欠乏症)、ITP(特発性血小板減少性紫斑病)、多発性神経根炎、末梢多発性神経障害、川崎病、多発性筋炎、重篤な慢性自己免疫疾患、慢性炎症性脱髄多発性神経障害(CIDP)、多病巣性運動神経障害、多発性硬化症、重症筋無力症、イートン−ランバート症候群、視神経炎、癲癇、流産体質、原発性抗リン脂質症候群、関節リウマチ、全身性エリトマトーデス、全身性強皮症、脈管炎、ベーゲナー肉芽腫、シェーゲレン症候群、小児関節リウマチ、自己免疫好中球減少症、自己免疫溶血性貧血、好中球減少症、クローン疾患、潰瘍性大腸炎、腹腔疾患、喘息、敗血性ショック症、慢性疲労症候群、乾癬、毒性ショック症候群、糖尿病、副鼻腔炎、膨張性心筋症、心内膜炎、アテローム性動脈硬化症、成人AIDS及び細菌感染の哺乳類の治療用薬物を製造するための請求項1〜7のいずれか1項に記載の免疫グロブリン生成物の使用。
  9. 哺乳類がヒトである請求項8に記載の使用。
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