JP5316702B2 - 電動パワーステアリング装置 - Google Patents
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Description
本発明は、運転者の操舵操作に基づいてモータを駆動制御して操舵アシストトルクを発生する電動パワーステアリング装置に関する。
従来から、電動パワーステアリング装置は、運転者が行った操舵操作に基づいて目標アシストトルクを設定し、この目標アシストトルクがステアリング機構に付与されるようにモータの通電を制御する。モータとしてブラシレスDCモータを使用した電動パワーステアリング装置も知られている。ブラシレスDCモータを使用した場合、一般に、2相回転磁束座標系(d−q座標系)で表されるベクトル制御を用いてモータの通電が制御される。こうしたモータの通電制御は、マイクロコンピュータを備えたアシスト制御装置により行われる。
アシスト制御装置は、モータをベクトル制御によって駆動する場合、例えば、運転者がハンドルに入力した操舵トルクと車速とに基づいて目標アシストトルクを設定し、この目標アシストトルクを発生させるためのq軸目標電流を演算する。同時に、弱め界磁制御電流としてのd軸目標電流を演算する。d軸目標電流は、モータが高速で回転しやすいように、回転速度の増加にしたがって弱め界磁制御電流が増加するように演算される。アシスト制御装置は、モータに流れる電流を検出してd−q座標系の電流に変換し、q軸電流がq軸目標電流と等しくなるように、かつ、d軸電流がd軸目標電流と等しくなるように、3相インバータ(モータ駆動回路)のスイッチング素子のデューティ比を制御する。こうした、d−q座標系で表されるベクトル制御によってモータを駆動する電動パワーステアリング装置は、例えば、特開平2001−187578号,特開平2009−247147号,特開平2009−247181号等に提案されている。
アシスト制御装置は、モータをベクトル制御によって駆動する場合、例えば、運転者がハンドルに入力した操舵トルクと車速とに基づいて目標アシストトルクを設定し、この目標アシストトルクを発生させるためのq軸目標電流を演算する。同時に、弱め界磁制御電流としてのd軸目標電流を演算する。d軸目標電流は、モータが高速で回転しやすいように、回転速度の増加にしたがって弱め界磁制御電流が増加するように演算される。アシスト制御装置は、モータに流れる電流を検出してd−q座標系の電流に変換し、q軸電流がq軸目標電流と等しくなるように、かつ、d軸電流がd軸目標電流と等しくなるように、3相インバータ(モータ駆動回路)のスイッチング素子のデューティ比を制御する。こうした、d−q座標系で表されるベクトル制御によってモータを駆動する電動パワーステアリング装置は、例えば、特開平2001−187578号,特開平2009−247147号,特開平2009−247181号等に提案されている。
ところで、車両の走行中において、前輪タイヤが縁石等の路面突起物に衝突したケースのように、タイヤからステアリング機構に大きな力(以下、逆入力と呼ぶ)が加わった場合には、前輪(操舵輪)が急激に転舵される。このため、ラックバーが軸方向に移動し、ラックバーに連結されたステアリングシャフトとともに操舵ハンドルが高速に回される。また、ラックバーの先端に設けたラックエンド部材が、ラックハウジングに形成されたストッパに衝突した場合には、大きな衝突音が生じる。従って、運転者に対して不快感を与えてしまうことがある。
このような逆入力により操舵ハンドルが回されてしまう場合、その回転方向と反対方向に大きなトルクをモータで発生させるようにすれば、操舵ハンドルの回転を減速させることができるが、実際には、操舵ハンドルの回転、即ち、モータの回転が非常に速いためモータで大きなトルクを発生させることができない。これは、ブラシレスDCモータの特性上、仕方ないことではあるが、弱め界磁電流であるd軸電流を適切に制御することにより、トルクの低下を抑えることはできる。
図26は、一定の駆動電圧下におけるモータの回転速度と、モータで発生可能なトルク(最大トルク)との関係を表している。このグラフにおいて、トルクは、モータの回転方向と同じ方向に発生する場合に正の値で表され、モータの回転方向と反対方向に発生する場合に負の値で表わされる。従って、グラフの上方が操舵アシスト時の特性を表し、グラフの下方がモータが外力により回される時(回生時と呼ぶ)の特性を表す。また、破線にて示す特性は、最適値に設定したd軸電流を流して弱め界磁を行ったときに得られる理論上の最大トルク特性を表す。
この特性図からわかるように、d軸電流を適切に制御することで、理論的には、逆入力に対して操舵ハンドルの回転をある程度抑えられる。しかし、実際には、逆入力によりモータが回される速度が非常に速いため、従来のアシスト制御装置に使用されるマイクロコンピュータの演算能力では、適切なトルクを発生させることができない。その要因の一つは、アシスト制御装置が、d軸電流とq軸電流とを制御する2自由度制御を行っていることにある。また、最適なd軸目標電流を求めるための計算式が複雑であることから、限られたパラメータを用いたマップを使ってd軸目標電流を算出するため、その値が最適値とはならないことにある。
こうしたことから、逆入力による操舵ハンドルの回転を良好に抑えることができず、運転者に不快感を与えてしまう。また、マイクロコンピュータの演算能力(処理速度)を向上させれば、トルクを増大させることが可能となるが、コストアップを招くことになる。
本発明の目的は、上記問題に対処するためになされたもので、ステアリング機構に逆入力が働いてモータが回された場合に、モータで大きなトルクを発生して操舵ハンドルが回されることを抑制するとともに、低コストにて実施できるようにすることにある。
上記目的を達成するために、本発明の特徴は、ステアリング機構(10)に設けられて操舵アシストトルクを発生する永久磁石同期モータ(20)と、前記モータに3相駆動電圧を出力して前記モータを駆動する駆動回路(30)と、前記モータの永久磁石による磁界に沿う方向となるd軸と前記d軸に直交する方向となるq軸とを定めたd−q座標系を用いて、d軸方向に磁界を発生させるd軸電流とq軸方向に磁界を発生させるq軸電流とを制御するための駆動指令値を演算し、前記駆動指令値に応じた駆動制御信号を前記駆動回路に出力する2軸電流制御手段(110)とを備えた電動パワーステアリング装置において、
前記モータが、通常の操舵操作では検出されない高速で回転している高速回転状態を検出する高速回転状態検出手段(S11〜S13)と、前記d−q座標系で表した前記駆動回路の出力電圧ベクトルの絶対値を前記駆動回路の電圧制限値に設定した状態で、前記モータに流れるモータ電流の絶対値が目標電流絶対値と等しくなるための前記出力電圧ベクトルの前記d軸に対する位相角を演算し、前記演算した位相角と前記電圧制限値とに応じた駆動制御信号を前記駆動回路に出力する電流絶対値制御手段(150)と、前記高速回転状態検出手段により前記高速回転状態が検出されたとき、前記2軸電流制御手段に代わって前記電流絶対値制御手段を作動させる制御切替手段(S13〜S15)とを備えたことにある。
本発明の電動パワーステアリング装置においては、ステアリング機構に永久磁石同期モータが設けられており、駆動回路から3相駆動電圧を出力して永久磁石同期モータを駆動する。永久磁石同期モータとしては、3相ブラシレスDCモータなどを使用することができる。永久磁石同期モータ(以下、単にモータと呼ぶ)は、2軸電流制御手段により駆動制御される。2軸電流制御手段は、モータのロータに設けられる永久磁石による磁界の沿う方向(磁界の貫く方向)となるd軸と、d軸に直交する方向(d軸からπ/2だけ電気角を進めた方向)となるq軸とを定めたd−q座標系を用いた電流ベクトル制御により、d軸電流とq軸電流とを制御する駆動指令値を演算し、駆動指令値に応じた駆動制御信号を駆動回路に出力する。
例えば、2軸電流制御手段は、操舵ハンドルからステアリングシャフトに入力された操舵トルクを検出し、この操舵トルクに応じた目標アシストトルクを設定する。そして、2軸電流制御手段は、モータが目標アシストトルクを発生するためのq軸目標電流と弱め界磁制御用のd軸目標電流とを演算し、実際にモータに流れるq軸電流,d軸電流が、それぞれq軸目標電流,d軸目標電流と等しくなるための電圧指令値を演算し、電圧指令値に応じたPWM制御信号を駆動回路に出力するように構成することができる。d軸目標電流は、例えば、モータの回転速度(角速度)が高速となる場合に、その回転速度の増加に伴って弱め界磁が大きくなるように設定するとよい。
車両の走行中において、例えば、前輪タイヤが縁石に衝突したケースなどでステアリング機構に逆入力が加わった場合、運転者の意志に反して前輪が転舵されてしまう。この場合、モータもそれに合わせて回転するが、逆入力が大きいとその回転速度が非常に大きくなり、操舵ハンドルが高速に回される。モータが高速回転する場合には、モータの特性上、逆起電力の影響で出力可能なトルクは小さくなるが、モータの回転方向と反対方向に可能な限り大きなトルクを発生させるようにすれば、操舵ハンドルの回転を減速させることできる。しかし、モータの回転速度の増加にしたがって駆動回路の駆動周波数(3相駆動電圧の正弦波の周波数)が上昇するため、2軸電流制御手段による電流ベクトル制御では、制御遅れが生じてしまい、モータで発生できるトルクが小さくなってしまう。
そこで本発明においては、高速回転状態検出手段が、モータが通常の操舵操作では検出されない高速で回転している高速回転状態を検出する。そして、モータの高速回転状態が検出されたとき、制御切替手段が、2軸電流制御手段に代わって電流絶対値制御手段を作動させる。
電流絶対値制御手段は、d−q座標系で表した駆動回路の出力電圧ベクトルの絶対値を駆動回路の電圧制限値に設定した状態で、モータに流れるモータ電流の絶対値が目標電流絶対値と等しくなるための出力電圧ベクトルのd軸に対する位相角を演算し、演算した位相角と電圧制限値とに応じた駆動制御信号を駆動回路に出力する。つまり、電流絶対値制御手段は、2軸電流制御手段のようにd軸電流とq軸電流とを制御する2自由度制御を行うのではなく、モータ電流の絶対値のみを制御する1自由度制御を行う。この場合、モータ電流の絶対値を制御するための操作対象は、出力電圧ベクトルのd軸に対する位相角(d軸に対してq軸方向に進んだ位相角)となる。
2軸電流制御手段、および、電流絶対値制御手段は、所定の制御周期(演算周期)で駆動指令値(駆動回路の作動を制御するための制御値)の演算および駆動制御信号の出力を繰り返すが、電流絶対値制御手段では、1自由度制御を行うようにしているため、2軸電流制御手段に比べて、一制御周期当たりの演算量(駆動指令値を算出するために必要な演算量)を少なくすることができる。従って、演算器(例えば、マイクロコンピュータ)の演算能力を上げなくても、電流絶対値制御手段における制御周期を2軸電流制御手段における制御周期よりも短くすることができ、制御遅れを抑制することが可能となる。これにより、モータが高速回転しているときであっても、大きなトルクを発生させることが可能となる。
この結果、本発明によれば、逆入力により操舵ハンドルが回された場合に、操舵ハンドルの回転を良好に制動することができる。また、その制動により、ラックエンド部材がストッパに衝突したときに発生する衝突音を低減することができる。従って、運転者の不快感を低減することができる。また、演算器の能力を上げずに実施することができるため、コストアップを招かない。
また、例えば、緊急回避などのために、運転者が通常の操作速度よりも速い速度で操舵操作したときに、2軸電流制御手段に代わって電流絶対値制御手段を作動させるように制御切替手段を構成した場合には、回避操作方向に大きな操舵アシストトルクを発生させることが可能となり、運転者の回避操作が容易になる。尚、高回転状態検出手段が検出する高速回転状態の範囲を、緊急回避時におけるモータの回転速度が含まれないようにしてもよい。この場合には、逆入力によりモータが高速で回される場合にのみ、電流絶対値制御手段が作動する。
また、本発明の他の特徴は、前記電流絶対値制御手段(150)は、前記モータの回転速度を検出する回転速度検出手段(164)と、前記目標電流絶対値と、前記駆動回路の電圧制限値と、前記回転速度検出手段により検出した前記モータの回転速度とに基づいて、前記出力電圧ベクトルの前記d軸に対する位相角を演算する位相角演算手段(152)とを備えたことにある。
本発明においては、モータの高速回転状態が検出されたとき、位相角演算手段が、モータ電流の絶対値の目標値を表す目標電流絶対値と、駆動回路の電圧制限値と、回転速度検出手段により検出したモータの回転速度とに基づいて、出力電圧ベクトルのd軸に対する位相角を演算する。モータ電流の絶対値は、モータのd−q座標系における電圧方程式から、出力電圧ベクトルの絶対値および位相角と、モータの回転速度とをパラメータとして演算することができる。従って、モータ電流の絶対値が目標電流絶対値に等しくなるための位相角(出力電圧ベクトルのd軸に対する位相角)を簡単に演算することができる。駆動制御信号は、この位相角演算手段により演算された位相角と電圧制限値とに応じて設定される。この場合、駆動制御信号は、位相角演算手段により演算された位相角とモータの電気角とを加算した位相角に設定される3相駆動制御信号とすればよい。
この結果、本発明によれば、フィードフォワード制御により、駆動回路の出力電圧の位相を、モータ電流の絶対値が目標電流絶対値に等しくなるための角度に簡単に制御することができ、モータが高速回転しているときであっても、大きなトルクを発生させることが可能となる。
また、本発明の他の特徴は、前記電流絶対値制御手段(150)は、前記モータ電流の絶対値を検出する電流検出手段(38,163)と、前記目標電流絶対値と前記電流検出手段により検出したモータ電流の絶対値との偏差に基づいて、前記位相角演算手段により演算された位相角を調整するフィードバック制御手段(154,155,156)とを備えたことにある。
本発明においては、モータの高速回転状態が検出されたとき、フィードバック制御手段が、目標電流絶対値と電流検出手段により検出したモータ電流の絶対値との偏差に基づいて、位相角演算手段により演算された位相角を調整する。従って、フィードフォワード制御におけるモデル誤差や外乱よる影響を補償することができ、駆動回路の出力電圧の位相が一層適切に設定される。この結果、モータの高速回転時において、一層大きなトルクを発生させることができる。
本発明の他の特徴は、前記フィードバック制御手段は、前記モータが回転している方向と、前記モータによりトルクを発生させる方向との一致、不一致を判定する方向判定手段(154)を備え、前記モータ回転方向と前記トルクを発生させる方向とが一致しているときには、前記検出したモータ電流の絶対値が前記目標電流絶対値より小さい場合に前記位相角を増加させ、前記検出したモータ電流の絶対値が前記目標電流絶対値より大きい場合に前記位相角を減少させ、前記モータ回転方向と前記トルクを発生させる方向とが一致していないときには、前記検出したモータ電流の絶対値が前記目標電流絶対値より小さい場合に前記位相角を減少させ、前記検出したモータ電流の絶対値が前記目標電流絶対値より大きい場合に前記位相角を増加させることにある。
本発明においては、方向判定手段が、モータが回転している方向と、モータによりトルクを発生させる方向との一致、不一致を判定する。モータにトルクを発生させる方向は、ステアリング機構に働く操舵トルクにより検出することができ、モータが回転している方向は、モータの回転速度により検出することができる。モータが高速回転状態で、かつ、モータが回転している方向とトルクを発生させる方向とが一致している場合は、運転者が緊急回避用の操舵操作を行ったケースに該当する。こうしたケースでは、フィードバック制御手段は、モータ電流の絶対値が目標電流絶対値より小さい場合には位相角(位相角演算手段により演算された位相角)を増加させ、モータ電流の絶対値が目標電流絶対値より大きい場合には位相角を減少させる。これにより、モータ電流の絶対値が目標電流絶対値に近づくようになる。
また、モータが高速回転状態で、かつ、モータが回転している方向とトルクを発生させる方向とが一致していない場合は、ステアリング機構に働いた逆入力によりモータが回されているケースに該当する。こうしたケースでは、フィードバック制御手段は、モータ電流の絶対値が目標電流絶対値より小さい場合には位相角を減少させ、モータ電流の絶対値が目標電流絶対値より大きい場合には位相角を増加させる。これにより、モータ電流の絶対値が目標電流絶対値に近づくようになる。
この結果、本発明においては、緊急回避用の操舵操作時、および、路面からの逆入力により操舵ハンドルが回される時の両方において、モータに適切なトルクを発生させることができる。
本発明の他の特徴は、前記目標電流絶対値は、前記駆動回路の電流制限値に設定されていることにある。
本発明によれば、目標電流絶対値が駆動回路の電流制限値、つまり、駆動回路に流すことのできる最大電流に設定されているため、モータで最大限のトルクを発生させることができる。このため、逆入力がステアリング機構に働いて、操舵ハンドルが急激に回されても、操舵ハンドルに最大の制動力を働かせることができる。
また、本発明の他の特徴は、前記高速回転状態検出手段は、前記モータの回転速度を検出する回転速度検出手段(164)を備え、前記検出した回転速度が基準速度(ωth)を超えているときに前記高速回転状態であると判定することにある。
本発明によれば、モータの高速回転状態を簡単に検出することができる。
また、本発明の他の特徴は、前記モータの回転加速度の増加に伴って、前記基準速度(ωth)を減少させる基準速度変更手段(S12)を備えたことにある。
本発明においては、モータの高速回転状態を検出するにあたって、基準速度変更手段が、モータの回転加速度の増加に伴って基準速度を減少させる。モータの回転加速度は、モータに加わる外力が大きいほど大きくなる。例えば、前輪タイヤが縁石に衝突したケースなどでステアリング機構に大きな逆入力が加わった場合には、モータの回転加速度が非常に大きい。従って、この場合には、モータの高速回転状態を判定する基準速度が減少する。これにより、早いタイミングで電流絶対値制御手段が2軸電流制御手段に代わって作動開始する。このため、操舵ハンドルの回転を抑える制動期間を長くすることができる。
電流絶対値制御手段によりモータを駆動制御した場合には、弱め界磁を強くするためモータから作動音が発生しやすい。作動音の発生を抑えるためには、モータの高速回転状態を判定する基準速度を高く設定すればよいが、そうした場合には、モータの回転速度が上昇し始める初期においては、2軸電流制御手段から電流絶対値制御手段に切り替わらない。このため、ステアリング機構に大きな逆入力が加わった場合に、操舵ハンドルの制動が遅れてしまう。そこで、本発明においては、モータの回転加速度の増加に伴って基準速度を減少させるようにしているため、操舵ハンドルの制動と、作動音の発生の低減とを両立させることができる。尚、モータの回転加速度は、回転速度を時間で微分することにより求められる。
本発明の他の特徴は、前記ステアリング機構に入力される操舵トルクの増加に伴って、前記基準速度を減少させる基準速度変更手段(S12)を備えたことにある。
モータが逆入力により回される場合においては、逆入力が大きくなるほど、ステアリング機構に入力される操舵トルクの大きさが大きくなる。そこで、本発明においては、操舵トルクの増加に伴って基準速度を減少させるようにしているため、操舵ハンドルの制動と、作動音の発生の低減とを両立させることができる。尚、「操舵トルクの増加」とは、操舵トルクそのものの増加を意味するだけでなく、操舵トルクに応じて設定される制御値(例えば、モータ電流指令値、アシストトルク指令値など)の増加をも含むものである。
本発明の他の特徴は、前記回転速度検出手段により検出した回転速度が前記基準速度よりも大きな第2基準速度(ωth2)を越えている状態を検出する第2高速回転状態検出手段(S21)と、前記モータの回転速度と前記出力電圧ベクトルのd軸に対する位相角との関係を設定したマップを記憶し、前記第2高速回転状態検出手段により前記回転速度が前記第2基準速度を越えている状態が検出されたとき、前記マップを使って前記回転速度検出手段により検出したモータの回転速度から前記位相角を演算する第2位相角演算手段(201)とを備えたことにある。
モータが非常に速く回転している状態においては、位相角が多少変化してもモータに流れる電流は殆ど変化しない。従って、厳密な電流制御を行う必要がない。そこで、本発明においては、モータの回転速度が基準速度よりも大きな第2基準速度を越えている状態においては、第2位相角演算手段が、モータの回転速度と出力電圧ベクトルのd軸に対する位相角との関係を設定したマップを使って、出力電圧ベクトルのd軸に対する位相角を演算する。第2位相角演算手段は、所定の制御周期(演算周期)で位相角を演算するが、マップから位相角を演算するため、位相角演算手段に比べて1制御周期当たりの演算量が少ない。従って、演算器(例えば、マイクロコンピュータ)の演算能力を上げなくても、第2位相角演算手段における制御周期を位相角演算手段における制御周期よりも短くすることができ、モータが非常に速く回転している状態であっても、制御遅れを抑制することが可能となる。
なお、上記説明において、括弧内に示した符号は、発明の理解を助けるものであり、発明の各構成要件を前記符号によって規定される実施形態に限定させるものではない。
このような逆入力により操舵ハンドルが回されてしまう場合、その回転方向と反対方向に大きなトルクをモータで発生させるようにすれば、操舵ハンドルの回転を減速させることができるが、実際には、操舵ハンドルの回転、即ち、モータの回転が非常に速いためモータで大きなトルクを発生させることができない。これは、ブラシレスDCモータの特性上、仕方ないことではあるが、弱め界磁電流であるd軸電流を適切に制御することにより、トルクの低下を抑えることはできる。
図26は、一定の駆動電圧下におけるモータの回転速度と、モータで発生可能なトルク(最大トルク)との関係を表している。このグラフにおいて、トルクは、モータの回転方向と同じ方向に発生する場合に正の値で表され、モータの回転方向と反対方向に発生する場合に負の値で表わされる。従って、グラフの上方が操舵アシスト時の特性を表し、グラフの下方がモータが外力により回される時(回生時と呼ぶ)の特性を表す。また、破線にて示す特性は、最適値に設定したd軸電流を流して弱め界磁を行ったときに得られる理論上の最大トルク特性を表す。
この特性図からわかるように、d軸電流を適切に制御することで、理論的には、逆入力に対して操舵ハンドルの回転をある程度抑えられる。しかし、実際には、逆入力によりモータが回される速度が非常に速いため、従来のアシスト制御装置に使用されるマイクロコンピュータの演算能力では、適切なトルクを発生させることができない。その要因の一つは、アシスト制御装置が、d軸電流とq軸電流とを制御する2自由度制御を行っていることにある。また、最適なd軸目標電流を求めるための計算式が複雑であることから、限られたパラメータを用いたマップを使ってd軸目標電流を算出するため、その値が最適値とはならないことにある。
こうしたことから、逆入力による操舵ハンドルの回転を良好に抑えることができず、運転者に不快感を与えてしまう。また、マイクロコンピュータの演算能力(処理速度)を向上させれば、トルクを増大させることが可能となるが、コストアップを招くことになる。
本発明の目的は、上記問題に対処するためになされたもので、ステアリング機構に逆入力が働いてモータが回された場合に、モータで大きなトルクを発生して操舵ハンドルが回されることを抑制するとともに、低コストにて実施できるようにすることにある。
上記目的を達成するために、本発明の特徴は、ステアリング機構(10)に設けられて操舵アシストトルクを発生する永久磁石同期モータ(20)と、前記モータに3相駆動電圧を出力して前記モータを駆動する駆動回路(30)と、前記モータの永久磁石による磁界に沿う方向となるd軸と前記d軸に直交する方向となるq軸とを定めたd−q座標系を用いて、d軸方向に磁界を発生させるd軸電流とq軸方向に磁界を発生させるq軸電流とを制御するための駆動指令値を演算し、前記駆動指令値に応じた駆動制御信号を前記駆動回路に出力する2軸電流制御手段(110)とを備えた電動パワーステアリング装置において、
前記モータが、通常の操舵操作では検出されない高速で回転している高速回転状態を検出する高速回転状態検出手段(S11〜S13)と、前記d−q座標系で表した前記駆動回路の出力電圧ベクトルの絶対値を前記駆動回路の電圧制限値に設定した状態で、前記モータに流れるモータ電流の絶対値が目標電流絶対値と等しくなるための前記出力電圧ベクトルの前記d軸に対する位相角を演算し、前記演算した位相角と前記電圧制限値とに応じた駆動制御信号を前記駆動回路に出力する電流絶対値制御手段(150)と、前記高速回転状態検出手段により前記高速回転状態が検出されたとき、前記2軸電流制御手段に代わって前記電流絶対値制御手段を作動させる制御切替手段(S13〜S15)とを備えたことにある。
本発明の電動パワーステアリング装置においては、ステアリング機構に永久磁石同期モータが設けられており、駆動回路から3相駆動電圧を出力して永久磁石同期モータを駆動する。永久磁石同期モータとしては、3相ブラシレスDCモータなどを使用することができる。永久磁石同期モータ(以下、単にモータと呼ぶ)は、2軸電流制御手段により駆動制御される。2軸電流制御手段は、モータのロータに設けられる永久磁石による磁界の沿う方向(磁界の貫く方向)となるd軸と、d軸に直交する方向(d軸からπ/2だけ電気角を進めた方向)となるq軸とを定めたd−q座標系を用いた電流ベクトル制御により、d軸電流とq軸電流とを制御する駆動指令値を演算し、駆動指令値に応じた駆動制御信号を駆動回路に出力する。
例えば、2軸電流制御手段は、操舵ハンドルからステアリングシャフトに入力された操舵トルクを検出し、この操舵トルクに応じた目標アシストトルクを設定する。そして、2軸電流制御手段は、モータが目標アシストトルクを発生するためのq軸目標電流と弱め界磁制御用のd軸目標電流とを演算し、実際にモータに流れるq軸電流,d軸電流が、それぞれq軸目標電流,d軸目標電流と等しくなるための電圧指令値を演算し、電圧指令値に応じたPWM制御信号を駆動回路に出力するように構成することができる。d軸目標電流は、例えば、モータの回転速度(角速度)が高速となる場合に、その回転速度の増加に伴って弱め界磁が大きくなるように設定するとよい。
車両の走行中において、例えば、前輪タイヤが縁石に衝突したケースなどでステアリング機構に逆入力が加わった場合、運転者の意志に反して前輪が転舵されてしまう。この場合、モータもそれに合わせて回転するが、逆入力が大きいとその回転速度が非常に大きくなり、操舵ハンドルが高速に回される。モータが高速回転する場合には、モータの特性上、逆起電力の影響で出力可能なトルクは小さくなるが、モータの回転方向と反対方向に可能な限り大きなトルクを発生させるようにすれば、操舵ハンドルの回転を減速させることできる。しかし、モータの回転速度の増加にしたがって駆動回路の駆動周波数(3相駆動電圧の正弦波の周波数)が上昇するため、2軸電流制御手段による電流ベクトル制御では、制御遅れが生じてしまい、モータで発生できるトルクが小さくなってしまう。
そこで本発明においては、高速回転状態検出手段が、モータが通常の操舵操作では検出されない高速で回転している高速回転状態を検出する。そして、モータの高速回転状態が検出されたとき、制御切替手段が、2軸電流制御手段に代わって電流絶対値制御手段を作動させる。
電流絶対値制御手段は、d−q座標系で表した駆動回路の出力電圧ベクトルの絶対値を駆動回路の電圧制限値に設定した状態で、モータに流れるモータ電流の絶対値が目標電流絶対値と等しくなるための出力電圧ベクトルのd軸に対する位相角を演算し、演算した位相角と電圧制限値とに応じた駆動制御信号を駆動回路に出力する。つまり、電流絶対値制御手段は、2軸電流制御手段のようにd軸電流とq軸電流とを制御する2自由度制御を行うのではなく、モータ電流の絶対値のみを制御する1自由度制御を行う。この場合、モータ電流の絶対値を制御するための操作対象は、出力電圧ベクトルのd軸に対する位相角(d軸に対してq軸方向に進んだ位相角)となる。
2軸電流制御手段、および、電流絶対値制御手段は、所定の制御周期(演算周期)で駆動指令値(駆動回路の作動を制御するための制御値)の演算および駆動制御信号の出力を繰り返すが、電流絶対値制御手段では、1自由度制御を行うようにしているため、2軸電流制御手段に比べて、一制御周期当たりの演算量(駆動指令値を算出するために必要な演算量)を少なくすることができる。従って、演算器(例えば、マイクロコンピュータ)の演算能力を上げなくても、電流絶対値制御手段における制御周期を2軸電流制御手段における制御周期よりも短くすることができ、制御遅れを抑制することが可能となる。これにより、モータが高速回転しているときであっても、大きなトルクを発生させることが可能となる。
この結果、本発明によれば、逆入力により操舵ハンドルが回された場合に、操舵ハンドルの回転を良好に制動することができる。また、その制動により、ラックエンド部材がストッパに衝突したときに発生する衝突音を低減することができる。従って、運転者の不快感を低減することができる。また、演算器の能力を上げずに実施することができるため、コストアップを招かない。
また、例えば、緊急回避などのために、運転者が通常の操作速度よりも速い速度で操舵操作したときに、2軸電流制御手段に代わって電流絶対値制御手段を作動させるように制御切替手段を構成した場合には、回避操作方向に大きな操舵アシストトルクを発生させることが可能となり、運転者の回避操作が容易になる。尚、高回転状態検出手段が検出する高速回転状態の範囲を、緊急回避時におけるモータの回転速度が含まれないようにしてもよい。この場合には、逆入力によりモータが高速で回される場合にのみ、電流絶対値制御手段が作動する。
また、本発明の他の特徴は、前記電流絶対値制御手段(150)は、前記モータの回転速度を検出する回転速度検出手段(164)と、前記目標電流絶対値と、前記駆動回路の電圧制限値と、前記回転速度検出手段により検出した前記モータの回転速度とに基づいて、前記出力電圧ベクトルの前記d軸に対する位相角を演算する位相角演算手段(152)とを備えたことにある。
本発明においては、モータの高速回転状態が検出されたとき、位相角演算手段が、モータ電流の絶対値の目標値を表す目標電流絶対値と、駆動回路の電圧制限値と、回転速度検出手段により検出したモータの回転速度とに基づいて、出力電圧ベクトルのd軸に対する位相角を演算する。モータ電流の絶対値は、モータのd−q座標系における電圧方程式から、出力電圧ベクトルの絶対値および位相角と、モータの回転速度とをパラメータとして演算することができる。従って、モータ電流の絶対値が目標電流絶対値に等しくなるための位相角(出力電圧ベクトルのd軸に対する位相角)を簡単に演算することができる。駆動制御信号は、この位相角演算手段により演算された位相角と電圧制限値とに応じて設定される。この場合、駆動制御信号は、位相角演算手段により演算された位相角とモータの電気角とを加算した位相角に設定される3相駆動制御信号とすればよい。
この結果、本発明によれば、フィードフォワード制御により、駆動回路の出力電圧の位相を、モータ電流の絶対値が目標電流絶対値に等しくなるための角度に簡単に制御することができ、モータが高速回転しているときであっても、大きなトルクを発生させることが可能となる。
また、本発明の他の特徴は、前記電流絶対値制御手段(150)は、前記モータ電流の絶対値を検出する電流検出手段(38,163)と、前記目標電流絶対値と前記電流検出手段により検出したモータ電流の絶対値との偏差に基づいて、前記位相角演算手段により演算された位相角を調整するフィードバック制御手段(154,155,156)とを備えたことにある。
本発明においては、モータの高速回転状態が検出されたとき、フィードバック制御手段が、目標電流絶対値と電流検出手段により検出したモータ電流の絶対値との偏差に基づいて、位相角演算手段により演算された位相角を調整する。従って、フィードフォワード制御におけるモデル誤差や外乱よる影響を補償することができ、駆動回路の出力電圧の位相が一層適切に設定される。この結果、モータの高速回転時において、一層大きなトルクを発生させることができる。
本発明の他の特徴は、前記フィードバック制御手段は、前記モータが回転している方向と、前記モータによりトルクを発生させる方向との一致、不一致を判定する方向判定手段(154)を備え、前記モータ回転方向と前記トルクを発生させる方向とが一致しているときには、前記検出したモータ電流の絶対値が前記目標電流絶対値より小さい場合に前記位相角を増加させ、前記検出したモータ電流の絶対値が前記目標電流絶対値より大きい場合に前記位相角を減少させ、前記モータ回転方向と前記トルクを発生させる方向とが一致していないときには、前記検出したモータ電流の絶対値が前記目標電流絶対値より小さい場合に前記位相角を減少させ、前記検出したモータ電流の絶対値が前記目標電流絶対値より大きい場合に前記位相角を増加させることにある。
本発明においては、方向判定手段が、モータが回転している方向と、モータによりトルクを発生させる方向との一致、不一致を判定する。モータにトルクを発生させる方向は、ステアリング機構に働く操舵トルクにより検出することができ、モータが回転している方向は、モータの回転速度により検出することができる。モータが高速回転状態で、かつ、モータが回転している方向とトルクを発生させる方向とが一致している場合は、運転者が緊急回避用の操舵操作を行ったケースに該当する。こうしたケースでは、フィードバック制御手段は、モータ電流の絶対値が目標電流絶対値より小さい場合には位相角(位相角演算手段により演算された位相角)を増加させ、モータ電流の絶対値が目標電流絶対値より大きい場合には位相角を減少させる。これにより、モータ電流の絶対値が目標電流絶対値に近づくようになる。
また、モータが高速回転状態で、かつ、モータが回転している方向とトルクを発生させる方向とが一致していない場合は、ステアリング機構に働いた逆入力によりモータが回されているケースに該当する。こうしたケースでは、フィードバック制御手段は、モータ電流の絶対値が目標電流絶対値より小さい場合には位相角を減少させ、モータ電流の絶対値が目標電流絶対値より大きい場合には位相角を増加させる。これにより、モータ電流の絶対値が目標電流絶対値に近づくようになる。
この結果、本発明においては、緊急回避用の操舵操作時、および、路面からの逆入力により操舵ハンドルが回される時の両方において、モータに適切なトルクを発生させることができる。
本発明の他の特徴は、前記目標電流絶対値は、前記駆動回路の電流制限値に設定されていることにある。
本発明によれば、目標電流絶対値が駆動回路の電流制限値、つまり、駆動回路に流すことのできる最大電流に設定されているため、モータで最大限のトルクを発生させることができる。このため、逆入力がステアリング機構に働いて、操舵ハンドルが急激に回されても、操舵ハンドルに最大の制動力を働かせることができる。
また、本発明の他の特徴は、前記高速回転状態検出手段は、前記モータの回転速度を検出する回転速度検出手段(164)を備え、前記検出した回転速度が基準速度(ωth)を超えているときに前記高速回転状態であると判定することにある。
本発明によれば、モータの高速回転状態を簡単に検出することができる。
また、本発明の他の特徴は、前記モータの回転加速度の増加に伴って、前記基準速度(ωth)を減少させる基準速度変更手段(S12)を備えたことにある。
本発明においては、モータの高速回転状態を検出するにあたって、基準速度変更手段が、モータの回転加速度の増加に伴って基準速度を減少させる。モータの回転加速度は、モータに加わる外力が大きいほど大きくなる。例えば、前輪タイヤが縁石に衝突したケースなどでステアリング機構に大きな逆入力が加わった場合には、モータの回転加速度が非常に大きい。従って、この場合には、モータの高速回転状態を判定する基準速度が減少する。これにより、早いタイミングで電流絶対値制御手段が2軸電流制御手段に代わって作動開始する。このため、操舵ハンドルの回転を抑える制動期間を長くすることができる。
電流絶対値制御手段によりモータを駆動制御した場合には、弱め界磁を強くするためモータから作動音が発生しやすい。作動音の発生を抑えるためには、モータの高速回転状態を判定する基準速度を高く設定すればよいが、そうした場合には、モータの回転速度が上昇し始める初期においては、2軸電流制御手段から電流絶対値制御手段に切り替わらない。このため、ステアリング機構に大きな逆入力が加わった場合に、操舵ハンドルの制動が遅れてしまう。そこで、本発明においては、モータの回転加速度の増加に伴って基準速度を減少させるようにしているため、操舵ハンドルの制動と、作動音の発生の低減とを両立させることができる。尚、モータの回転加速度は、回転速度を時間で微分することにより求められる。
本発明の他の特徴は、前記ステアリング機構に入力される操舵トルクの増加に伴って、前記基準速度を減少させる基準速度変更手段(S12)を備えたことにある。
モータが逆入力により回される場合においては、逆入力が大きくなるほど、ステアリング機構に入力される操舵トルクの大きさが大きくなる。そこで、本発明においては、操舵トルクの増加に伴って基準速度を減少させるようにしているため、操舵ハンドルの制動と、作動音の発生の低減とを両立させることができる。尚、「操舵トルクの増加」とは、操舵トルクそのものの増加を意味するだけでなく、操舵トルクに応じて設定される制御値(例えば、モータ電流指令値、アシストトルク指令値など)の増加をも含むものである。
本発明の他の特徴は、前記回転速度検出手段により検出した回転速度が前記基準速度よりも大きな第2基準速度(ωth2)を越えている状態を検出する第2高速回転状態検出手段(S21)と、前記モータの回転速度と前記出力電圧ベクトルのd軸に対する位相角との関係を設定したマップを記憶し、前記第2高速回転状態検出手段により前記回転速度が前記第2基準速度を越えている状態が検出されたとき、前記マップを使って前記回転速度検出手段により検出したモータの回転速度から前記位相角を演算する第2位相角演算手段(201)とを備えたことにある。
モータが非常に速く回転している状態においては、位相角が多少変化してもモータに流れる電流は殆ど変化しない。従って、厳密な電流制御を行う必要がない。そこで、本発明においては、モータの回転速度が基準速度よりも大きな第2基準速度を越えている状態においては、第2位相角演算手段が、モータの回転速度と出力電圧ベクトルのd軸に対する位相角との関係を設定したマップを使って、出力電圧ベクトルのd軸に対する位相角を演算する。第2位相角演算手段は、所定の制御周期(演算周期)で位相角を演算するが、マップから位相角を演算するため、位相角演算手段に比べて1制御周期当たりの演算量が少ない。従って、演算器(例えば、マイクロコンピュータ)の演算能力を上げなくても、第2位相角演算手段における制御周期を位相角演算手段における制御周期よりも短くすることができ、モータが非常に速く回転している状態であっても、制御遅れを抑制することが可能となる。
なお、上記説明において、括弧内に示した符号は、発明の理解を助けるものであり、発明の各構成要件を前記符号によって規定される実施形態に限定させるものではない。
図1は、電動パワーステアリング装置の概略構成図である。
図2は、通常制御モードにおけるアシストECUのマイクロコンピュータの処理を表す機能ブロック図である。
図3は、高速回転制御モードにおけるアシストECUのマイクロコンピュータの処理を表す機能ブロック図である。
図4は、アシストトルクマップを表すグラフである。
図5は、弱め界磁マップを表すグラフである。
図6は、弱め界磁を行っていない場合の電圧ベクトル線図である。
図7は、弱め界磁を行っている場合の電圧ベクトル線図である。
図8は、モータが正方向の最大トルクを発生しているときの電圧ベクトル線図である。
図9は、モータが負方向の最大トルクを発生しているときの電圧ベクトル線図である。
図10は、位相角の変化により電流絶対値が変化する原理を表す電圧ベクトル線図である。
図11は、位相リミッタ範囲を表す電圧ベクトル線図である。
図12は、モード切替制御ルーチンを表すフローチャートである。
図13は、閾値設定マップを表すグラフである。
図14は、他の例の閾値設定マップを表すグラフである。
図15は、回転速度の推移、回転加速度の推移、閾値の推移を表すグラフである。
図16は、通常制御モード(制御遅れなし)のみを実行した場合のモータ出力特性を表すグラフである。
図17は、通常制御モード(制御遅れあり)のみを実行した場合のモータ出力特性を表すグラフである。
図18は、実施形態におけるモータ出力特性を表すグラフである。
図19は、モータが非常に高速で回されているときの電圧ベクトル線図である。
図20は、第2実施形態に係るモード切替制御ルーチンを表すフローチャートである。
図21は、第2実施形態に係る第2高速回転制御モードにおけるアシストECUのマイクロコンピュータの処理を表す機能ブロック図である。
図22は、第2実施形態に係る位相角設定マップを表すグラフである。
図23は、第2実施形態に係るモータ出力特性を表すグラフである。
図24は、通常制御モード(制御遅れなし)のみを実行した場合のモータ出力特性を表すグラフである。
図25は、第3実施形態に係る高速回転制御モードにおけるアシストECUのマイクロコンピュータの処理を表す機能ブロック図である。
図26は、理論上のモータ出力特性を表すグラフである。
図2は、通常制御モードにおけるアシストECUのマイクロコンピュータの処理を表す機能ブロック図である。
図3は、高速回転制御モードにおけるアシストECUのマイクロコンピュータの処理を表す機能ブロック図である。
図4は、アシストトルクマップを表すグラフである。
図5は、弱め界磁マップを表すグラフである。
図6は、弱め界磁を行っていない場合の電圧ベクトル線図である。
図7は、弱め界磁を行っている場合の電圧ベクトル線図である。
図8は、モータが正方向の最大トルクを発生しているときの電圧ベクトル線図である。
図9は、モータが負方向の最大トルクを発生しているときの電圧ベクトル線図である。
図10は、位相角の変化により電流絶対値が変化する原理を表す電圧ベクトル線図である。
図11は、位相リミッタ範囲を表す電圧ベクトル線図である。
図12は、モード切替制御ルーチンを表すフローチャートである。
図13は、閾値設定マップを表すグラフである。
図14は、他の例の閾値設定マップを表すグラフである。
図15は、回転速度の推移、回転加速度の推移、閾値の推移を表すグラフである。
図16は、通常制御モード(制御遅れなし)のみを実行した場合のモータ出力特性を表すグラフである。
図17は、通常制御モード(制御遅れあり)のみを実行した場合のモータ出力特性を表すグラフである。
図18は、実施形態におけるモータ出力特性を表すグラフである。
図19は、モータが非常に高速で回されているときの電圧ベクトル線図である。
図20は、第2実施形態に係るモード切替制御ルーチンを表すフローチャートである。
図21は、第2実施形態に係る第2高速回転制御モードにおけるアシストECUのマイクロコンピュータの処理を表す機能ブロック図である。
図22は、第2実施形態に係る位相角設定マップを表すグラフである。
図23は、第2実施形態に係るモータ出力特性を表すグラフである。
図24は、通常制御モード(制御遅れなし)のみを実行した場合のモータ出力特性を表すグラフである。
図25は、第3実施形態に係る高速回転制御モードにおけるアシストECUのマイクロコンピュータの処理を表す機能ブロック図である。
図26は、理論上のモータ出力特性を表すグラフである。
以下、本発明の一実施形態に係る電動パワーステアリング装置について図面を用いて説明する。図1は、同実施形態に係る車両の電動パワーステアリング装置の概略構成を表している。
この電動パワーステアリング装置は、操舵ハンドル11の操舵操作により転舵輪を転舵するステアリング機構10と、ステアリング機構10に組み付けられ操舵アシストトルクを発生するモータ20と、モータ20を駆動するためのモータ駆動回路30と、モータ20の作動を制御する電子制御装置100とを主要部として備えている。以下、電子制御装置100をアシストECU100と呼ぶ。
ステアリング機構10は、操舵ハンドル11の回転操作により左右前輪FWL,FWRを転舵するための機構で、操舵ハンドル11を上端に一体回転するように接続したステアリングシャフト12を備える。このステアリングシャフト12の下端には、ピニオンギヤ13が一体回転するように接続されている。ピニオンギヤ13は、ラックバー14に形成されたラック歯と噛み合って、ラックバー14とともにラックアンドピニオン機構を構成する。ラックバー14の両端には、タイロッド15L,15Rを介して左右前輪FWL,FWRのナックル(図示略)が操舵可能に接続されている。左右前輪FWL,FWRは、ステアリングシャフト12の軸線回りの回転に伴うラックバー14の軸線方向の変位に応じて左右に操舵される。
ラックバー14には、モータ20が組み付けられている。モータ20は、本発明の永久磁石同期モータに相当するものであり、本実施形態においては、その代表例である3相ブラシレスDCモータが用いられる。モータ20の回転軸は、ボールねじ機構16を介してラックバー14に動力伝達可能に接続されていて、その回転により左右前輪FWL,FWRに転舵力を付与して操舵操作をアシストする。ボールねじ機構16は、減速機および回転−直線変換器として機能するもので、モータ20の回転を減速するとともに直線運動に変換してラックバー14に伝達する。
ステアリングシャフト12には、操舵トルクセンサ21が設けられる。操舵トルクセンサ21は、例えば、ステアリングシャフト12の中間部に介装されたトーションバー(図示略)の捩れ角度をレゾルバ等により検出し、この捩れ角に基づいてステアリングシャフト12に働いた操舵トルクTrを検出する。操舵トルクTrは、その大きさだけでなく、正負の値により操舵方向が識別される。尚、本実施形態においては、トーションバーの捩れ角度をレゾルバにより検出するが、他の回転角センサ等により検出することもできる。
モータ20には、回転角センサ22が設けられる。この回転角センサ22は、モータ20内に組み込まれ、モータ20の回転子の回転角度位置に応じた検出信号を出力するもので、例えば、レゾルバ、あるいは、ホールセンサにより構成される。回転角センサ22は、モータ20の回転角θmに応じた検出信号をアシストECU100に出力する。アシストECU100は、この検出信号からモータ20の電気角θrを演算する。尚、モータ20の電気角θrは、回転角センサ22を用いずに、モータ20で発生する逆起電力に基づいて推定するようにしてもよい。
モータ駆動回路30は、MOS−FET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)からなる6個のスイッチング素子31〜36により3相インバータ回路を構成したものである。具体的には、第1スイッチング素子31と第2スイッチング素子32とを直列接続した回路と、第3スイッチング素子33と第4スイッチング素子34とを直列接続した回路と、第5スイッチング素子35と第6スイッチング素子36とを直列接続した回路とを並列接続し、各直列回路における2つのスイッチング素子間(31−32,33−34,35−36)からモータ20への電力供給ライン37を引き出した構成を採用している。
モータ駆動回路30には、モータ20に流れる電流を検出する電流センサ38が設けられる。この電流センサ38は、3相のうちの任意の2相(例えば、U相とV相)の電流の大きさと向き(正負)を検出し、検出した電流iu,ivを表す検出信号をアシストECU100に出力する。W相の電流iwは、他の2相の電流(iu,iv)から計算することができるため(iw=−(iu+iv))、本実施形態では2相のみを電流センサ38にて検出するが、3相とも電流センサ38にて検出するようにしてもよい。
モータ駆動回路30の各スイッチング素子31〜36は、それぞれゲートがアシストECU100に接続され、アシストECU100から出力されるPWM制御信号によりデューティ比が制御される。これによりモータ20の駆動電圧が制御される。
アシストECU100は、CPU,ROM,RAM等からなるマイクロコンピュータを主要部として構成される。アシストECU100は、操舵トルクセンサ21、回転角センサ22、電流センサ38、および、車速を検出する車速センサ25を接続し、操舵トルクTr、回転角θm、モータ電流iu,iv、車速Spを表す検出信号を入力する。そして、入力した検出信号に基づいて、運転者の操舵操作に応じた最適な操舵アシストトルク(以下、単にアシストトルクと呼ぶ)が得られるようにモータ駆動回路30の各スイッチング素子31〜36のデューティ比を制御する。
次に、電動パワーステアリング装置の電源供給系統について説明する。電動パワーステアリング装置は、車載電源装置80から電源供給される。車載電源装置80は、定格出力電圧12Vの一般的な車載バッテリである主バッテリ81と、エンジンの回転により発電する定格出力電圧14Vのオルタネータ82とを並列接続して構成される。車載電源装置80には、電源供給元ライン83と接地ライン84が接続される。電源供給元ライン83は、制御系電源ライン85と駆動系電源ライン86とに分岐する。制御系電源ライン85は、アシストECU100に電源供給するための電源ラインとして機能する。駆動系電源ライン86は、モータ駆動回路30とアシストECU100との両方に電源供給する電源ラインとして機能する。
制御系電源ライン85には、イグニッションスイッチ87が接続される。駆動系電源ライン86には、主電源リレー88が接続される。この主電源リレー88は、アシストECU100からの制御信号によりオンしてモータ20への電力供給回路を形成するものである。制御系電源ライン85は、アシストECU100の電源+端子に接続されるが、連結ライン90を介して、主電源リレー88よりも負荷側となる駆動系電源ライン86にも接続される。また、制御系電源ライン85には、イグニッションスイッチ87よりも負荷側(アシストECU100側)にダイオード89がアノードを車載電源装置80側に向けて設けられる。連結ライン90には、ダイオード91がアノードを駆動系電源ライン86側に向けて設けられる。従って、連結ライン90を介して駆動系電源ライン86から制御系電源ライン85には電源供給できるが、制御系電源ライン85から駆動系電源ライン86には電源供給できないような回路構成となっている。駆動系電源ライン86および接地ライン84は、モータ駆動回路30の電源入力部に接続される。また、接地ライン84は、アシストECU100の接地端子にも接続される。
次に、アシストECU100が行うモータ20の制御について説明する。アシストECU100は、モータ20の回転子に設けられた永久磁石の磁界が貫く方向にd軸、d軸に直交する方向(d軸に対して電気角がπ/2だけ進んだ方向)にq軸を定めたd−q座標系を用いた電流ベクトル制御によってモータ20の回転を制御する。電流ベクトルのd軸成分をd軸電流と呼び、q軸成分をq軸電流と呼ぶ。q軸電流は、モータトルクを発生させるように作用する。一方、d軸電流は、モータトルクを発生させるように作用しなく、弱め界磁制御に使用される。
アシストECU100は、こうした電流ベクトル制御を行うにあたって、電気角θrを検出することによりd−q座標を定める。この電気角θrは、回転角センサ22により検出される回転角信号から求められる。電気角θrは、U相コイルを貫く軸とd軸とのなす角度となる。
アシストECU100は、モータ20が通常の操舵操作で回される速度を越えない範囲で回転しているときに行う通常制御モードと、モータ20が通常の操舵操作で回される速度よりも速く回転しているときの高回転制御モードとの何れか一方を選択的に実施する。この二つの制御モードを切り替える条件については後述する。
まず、通常制御モードについて説明する。図2は、通常制御モードにおいて、アシストECU100のマイクロコンピュータのプログラム制御により処理される機能を表す機能ブロック図である。アシストECU100は、通常動作モードにおいて作動する2軸電流制御部110を備えている。2軸電流制御部110は、本発明の2軸電流制御手段に相当するもので、2軸電流指令部101,偏差演算部102,フィードバック制御部103,2相/3相座標変換部104,PWM制御信号発生部105,3相/2相座標変換部106,電気角演算部107,回転速度演算部108を備えている。
2軸電流指令部101は、q軸指令電流iq *を演算するq軸電流演算部101qと、d軸指令電流id *を演算するd軸電流演算部101dとから構成される。q軸電流演算部101qは、操舵トルクセンサ21から出力される操舵トルクTr及び車速センサ25から出力される車速Spを入力して、図4に示すアシストマップを参照することにより目標アシストトルクT*を演算する。この場合、目標アシストトルクT*は、操舵トルクTrの増加にしたがって増加するとともに車速Spの増加にしたがって減少するように設定される。この目標アシストトルクT*は、操舵トルクTrの方向(符号で識別される)と同じ方向に設定される。q軸電流演算部101qは、目標アシストトルクT*をトルク定数で除算して、d−q座標系におけるq軸指令電流iq *(q軸目標電流)を算出する。
また、d軸電流演算部101dは、後述する回転速度演算部108により演算されたモータ20の回転速度ωrを入力し、図5に示す弱め界磁マップを参照することによりd軸指令電流id *(d軸目標電流)を演算する。d軸指令電流id *は、回転速度ωrの大きさ|ωr|が設定値ω1以下の場合にはゼロ(id *=0)に設定され、回転速度ωrの大きさ|ωr|が設定値ω1を越える場合には、|ωr|の増加にしたがって弱め界磁が増加するように設定される。尚、弱め界磁制御用に使うd軸電流は負の値で表される。
尚、本明細書において、方向性を有する検出値や計算値に関しては、その大きさを論じる場合には、その値は、方向(正負)を区別しない絶対値を表すものとする。
このように演算されたq軸指令電流iq *とd軸指令電流id *は、偏差演算部102に出力される。偏差演算部102は、q軸電流偏差演算部102qとd軸電流偏差演算部102dとから構成される。q軸電流偏差演算部102qは、q軸指令電流iq *からq軸実電流iqを減算した偏差Δiqを演算する。d軸電流偏差演算部102dは、d軸指令電流id *からd軸実電流idを減算した偏差Δidを演算する。
q軸実電流iqおよびd軸実電流idは、モータ20のコイルに実際に流れた3相電流の検出値iu,iv,iwをd−q座標系の2相電流に変換したものである。この3相電流iu,iv,iwからd−q座標系の2相電流id,iqへの変換は、3相/2相座標変換部106によって行われる。3相/2相座標変換部106は、電気角演算部107から出力される電気角θrを入力し、その電気角θrに基づいて、電流センサ38により検出した3相電流iu,iv,iw(=−(iu+iv))をd−q座標系の2相電流id,iqに変換する。
3相座標系からd−q座標系に変換する変換行列Cは次式(1)にて表される。
偏差演算部102から出力された偏差Δiq,Δidは、フィードバック制御部103に出力される。フィードバック制御部103は、q軸電流フィードバック制御部103qとd軸電流フィードバック制御部103dとから構成される。q軸電流フィードバック制御部103qは、偏差Δiqを使った比例積分制御によりq軸実電流iqがq軸指令電流iq *に追従するようにq軸指令電圧vq *を演算する。d軸電流フィードバック制御部103dは、偏差Δidを使った比例積分制御によりd軸実電流idがd軸指令電流id *に追従するようにd軸指令電圧vd *を演算する。
フィードバック制御部103により演算されたq軸指令電圧vq *とd軸指令電圧vd *は、2相/3相座標変換部104に出力される。2相/3相座標変換部104は、電気角演算部107から出力される電気角θrに基づいて、q軸指令電圧vq *とd軸指令電圧vd *を3相指令電圧vu*,vv*,vw*に変換して、その変換した3相指令電圧vu*,vv*,vw*をPWM信号発生部105に出力する。3相指令電圧vu*,vv*,vw*は、本発明の2軸電流制御手段における駆動指令値に相当する。PWM信号発生部105は、3相指令電圧vu*,vv*,vw*に対応したPWM制御信号をモータ駆動回路30のスイッチング素子31〜36に出力する。これによりモータ20が駆動され、目標アシストトルクT*に追従したアシストトルクがステアリング機構10に付与される。
回転角センサ22から出力される回転検出信号は、電気角演算部107に出力される。電気角演算部107は、回転角センサ22により出力された回転検出信号からモータ20の電気角θrを演算し、演算した電気角θrを3相/2相座標変換部106,2相/3相座標変換部104、回転速度演算部108に出力する。回転速度演算部108は、電気角演算部107から出力された電気角θrを時間で微分することによりモータ20の回転速度ωrを計算し、その回転速度ωrをd軸電流演算部101dに出力する。尚、回転速度ωrは、モータ20の回転方向を識別するために、回転方向に応じた符号(正負)が付与される。
アシストECU100は、こうした2軸電流制御部110の処理によりモータ駆動回路30のスイッチング素子31〜36のデューティ比を制御する。これにより、モータ20の通電が制御されて、ステアリング機構10に目標アシストトルクT*が付与される。
こうした2軸電流制御部110の処理は、タイマーにより予め設定された制御周期T1(演算周期)で繰り返される。
次に、高回転制御モードについて説明する。高回転制御モードは、モータ20が通常の操舵操作で回される速度よりも速く回転する状態において実行される。車両の走行中において、前輪タイヤが縁石等の路面突起物に衝突したケースのように、タイヤからステアリング機構10に大きな逆入力が加わった場合には、前輪が急激に転舵される。このため、ラックバー14が軸方向に移動し、ラックバー14に連結されたステアリングシャフト12とともに操舵ハンドル11が高速で回転する。このとき、モータ20も高速で回されるため、アシストECU100は、通常制御モードに代えて高回転制御モードを実行する。
尚、本実施形態においては、緊急回避などのために運転者が通常の操作速度よりも速い速度で操舵操作した場合にも高回転制御モードが実行されて、大きなアシストトルクを発生できるようにするが、主の目的は、逆入力による操舵ハンドル11の回転を制動することであるため、以下、操舵ハンドル11の制動を目的とした説明をする。
逆入力により操舵ハンドル11が回されてしまう場合、その回転方向と反対方向に大きなトルクをモータ20で発生させるようにすれば、操舵ハンドル11の回転を減速させることができるが、モータ20(3相ブラシレスDCモータ)は、回転速度が大きくなるにつれて、以下の要因により発生できるトルクが減少する。
1.モータ20で発生する逆起電力は、モータ20の回転速度に比例する。このため、モータ20の高速回転時においては、逆起電力が電源電圧を超えてしまい、モータ20に駆動電流を流すことができなくなる。
2.電機子(モータコイル)に存在するインダクタンスにより、モータ駆動回路30の駆動周波数(モータ駆動電圧の正弦波の周波数)が上昇すると、モータ20のインピーダンスが上昇し、大きな電流を流すことができなくなる。
3.モータ20で発生する逆起電力がモータ駆動回路30の耐圧を越えた場合には、モータ駆動回路30の故障を防止するために保護リレー(例えば、電力供給ライン37に設けた図示しない開閉リレー)を開放するなどして、モータ駆動回路30の故障防止制御が行われるため、モータ20でトルクを発生させることができない。
4.逆起電力の要因によるトルク低下に対しては、負のd軸電流を流して弱め界磁制御を行うことにより、図26に示すように、モータ20の回転速度が大きい場合でも、理論上では、ある程度の大きさのトルクを発生させることができる。しかし、モータ20の回転速度の増加にしたがってモータ駆動回路30の駆動周波数が上昇すると、アシストECU100のマイクロコンピュータの制御周期による遅れ、PWM制御信号の出力遅れ、実電流や電気角の検出遅れが無視できなくなる。これにより力率が悪化してトルクが低下する。
5.d−q座標系を用いて電流ベクトル制御する場合、d軸電流,q軸電流が、q軸電圧,d軸電圧に影響し、その影響量がモータ20の回転速度に比例する。このため、モータ20の高速回転時においては、d−q座標系における制御が相互干渉し、適正なd軸電流,q軸電流を流すことが難しくなる。
6.弱め界磁制御を行うための最適なd軸指令電流の演算には、モータ20の回転速度、q軸電流、電源電圧をパラメータとして複雑な計算が必要となる。このため、アシストECU100は、マイクロコンピュータの演算負担を軽くするために、回転速度のみを使ったマップからd軸指令電流を計算するようにしているが、d軸指令電流が最適値とは異なるため、図26示す特性のような理論上の最大トルクを発生させることができない。
7.弱め界磁を行うd軸指令電流は、一般に、マップからフィードフォワード的に与えられるため、電機子巻線抵抗、電機子インダクタンス、逆起電圧定数の変動を最大限に見込んだ値に設定される。従って、理論上の最大トルクを発生させることは一層難しくなる。
そこで、アシストECU100は、高回転制御モードにおいては、通常制御モードのようにd軸電流とq軸電流とを制御する2自由度制御を行うのではなく、モータ電流の絶対値のみに着目してモータ20で最大トルクを発生するようにした1自由度制御を行う。この場合、モータ電流の絶対値を制御するための操作対象は、モータ駆動回路30の出力電圧をd−q座標系で表した電圧ベクトルのd軸に対する位相角とする。そして、アシストECU100は、マイクロコンピュータの制御周期を、通常制御モードに比べて短くして制御遅れを抑制する。つまり、制御の自由度を1つ減らしたことで、1制御周期あたりのマイクロコンピュータの演算量を減らし、それにより生じた演算能力の余剰分で制御周期を短くしている。従って、マイクロコンピュータの処理能力を上げる必要はない。
逆入力により操舵ハンドル11が回されてしまう場合、操舵ハンドル11が非常に速い速度で回される。こうした限定的な状況においては、モータ20で発生させるトルクを最大トルクに設定できれば十分であり、中間的な大きさのトルクに制御することができなくて実用上の問題はない。従って、高回転制御モードにおいては、モータ20で発生させるトルクを最大トルクに設定することで、マイクロコンピュータの演算量を減らすようにしている。
ここで、モータ電流の絶対値を制御して、モータ20で最大トルクを発生させる原理について説明する。
一般に、d−q座標系における電圧方程式は、次式(2)のように表される。
また、モータ20の出力トルクTは、次式(3)のように表される。
ここで、
vd:d軸電圧(電機子電圧のd軸成分)
vq:q軸電圧(電機子電圧のq軸成分)
id:d軸電流(電機子電流のd軸成分)
iq:q軸電流(電機子電流のq軸成分)
R:電機子巻線抵抗
L:電機子インダクタンス
ω:モータ回転速度(電気角速度)
φ:逆起電圧定数(=トルク定数)
p:微分演算子(=d/dt)
j:虚数単位(d軸を実軸、q軸を虚軸とみなせば、90°回転を意味する)
図6,図7は、この関係を電圧ベクトル線図を使って表したもので、図6は、弱め界磁を行っていない場合、図7は弱め界磁を行っている場合を表している。この電圧ベクトル線図においては、d軸電流idの変化、および、q軸電流iqの変化は小さいと考え、微分演算子の付いた項を省略している。
以下、モータ回転速度ωが、ω≧0であることを前提として説明する。
弱め界磁を行っていない状態では、モータ20に流れる電流iとしてはq軸電流iqのみとなる(i=iq)。しかし、図6に示すように、インダクタンスLに起因する干渉項が存在するため、(ωLi)だけd軸電圧が必要となる。従って、モータ20の駆動に必要な電圧ベクトルVは、図において破線にて示すように、逆起電圧(ωφ)と巻線抵抗の電圧降下(Ri)と干渉項(jωLi)とを合成したベクトルとなる。この電圧ベクトルVは、q軸よりも位相が進んでいる。
弱め界磁を行っている状態では、q軸電流iqとd軸電流id(負方向)とが流れるため電流ベクトルがq軸に対して傾く。従って、図7に示すように、巻線抵抗の電圧降下(Ri)を表す電圧ベクトルもq軸に対して傾き、この電圧ベクトルに対して90°回転した方向を向く干渉項(jωLi)のベクトルも同じ角度だけ傾く。これにより、モータ20の駆動に必要な電圧ベクトルVは、q軸電圧が(ωLid)だけ下がる。この結果、弱め界磁を行った場合には、弱め界磁を行わない場合に比べて、高い回転数までモータ20を回転させることができる。
モータ20が高速回転する場合には、逆起電圧(ωφ)がモータ駆動回路30の電圧制限値を超えるため、弱め界磁を行わないと、保護リレー等が作動してモータ20を駆動することができなくなる。図8,図9は、逆起電圧(ωφ)がモータ駆動回路30の電圧制限値を超える高速回転領域における電圧ベクトル線図である。図8は、モータ20が正方向の最大トルクを発生しているときの電圧ベクトル線図であり、図9は、モータ20が負方向の最大トルクを発生しているときの電圧ベクトル線図である。正方向のトルクとは、モータ20が回転している方向と同一方向に働くトルクであり、負方向のトルクとは、モータ20が回転している方向とは反対方向に働くトルクである。
d−q座標系において、モータ駆動回路30の出力電圧は、電圧ベクトルV(本発明の出力電圧ベクトルに相当する)で表される。従って、ベクトル線図において、原点を中心として半径がモータ駆動回路30の電圧制限値と等しい円(電圧制限円CLVと呼ぶ)の中に電圧ベクトルVの軌跡(点C)が入っていれば、電圧制限値内でモータ20を駆動することができる。電圧制限値とは、モータ駆動回路30の許容される出力電圧の最大値である。
モータ駆動回路30は、モータ20に流すことができる電流の最大値である電流制限値が設定されており、電流制限値を越えない範囲においてモータ20を駆動することができる。この場合、ベクトル線図において、q軸上の逆起電圧(ωφ)の大きさを表す位置(A点)を中心として、半径が電流制限値×Rと等しい円(電流制限円CLIと呼ぶ)の中に、巻線抵抗の電圧ベクトル(Ri)の軌跡(点B)が入っていれば、電流制限値内でモータ20を駆動することができる。
モータ駆動回路30の出力電圧の絶対値(電圧ベクトルVの絶対値)が電圧制限値に等しく、かつ、モータ20に流れる電流の絶対値が電流制限値と等しくなるときに、モータ20が最大トルクを発生することができる。この場合、図8,図9に示すように、電圧ベクトルVの軌跡(点C)が、電圧制限円CLVの周上に位置し、巻線抵抗の電圧ベクトル(Ri)の軌跡(点B)が、電流制限円CLIの周上に位置する。ベクトル線図において、電流制限円CLIの中心位置である点Aは、逆起電圧(ωφ)から決まる。点Bを電流制限円CLIの周上の適当な位置に設定すると、点Cは、点Bを通り電流制限円CLIの接線上で、距離BCが(ωLi)となる位置に決まる。点Bのとりかたが適切であれば、点Cを電圧制限円CLVの周上にのせて最大トルクを発生することができる。換言すれば、点Cが電圧制限円の周上にのるように点Bの位置を設定すれば最大トルクを発生することができる。
正方向のトルクを発生する場合は、q軸電流が正となるため、図8に示すように、点Bの位置が電流制限円CLIの中心よりも上方となり、電圧ベクトルVの位相がq軸よりも進み側となる。一方、負方向のトルクを発生する場合は、q軸電流が負となるため、図9に示すように、点Bの位置が電流制限円CLIの中心よりも下方となり、電圧ベクトルVの位相がq軸よりも遅れ側となる。尚、電圧ベクトルの位相は、ベクトル図において反時計方向が進み方向であり、時計方向が遅れ方向である。
本実施形態の高回転制御モードにおいては、電圧ベクトルVの絶対値を電圧制限値(一定)に設定した状態で、電圧ベクトルの位相を変化させることにより、モータ20に流れる電流の絶対値が目標電流絶対値(電流制限値)と等しくなるように制御する。以下、この原理について説明する。図10は、負方向のトルクを発生している状態における電圧ベクトル線図を表す。電圧ベクトルVの絶対値を一定にした状態で電圧位相(電圧ベクトルVのd軸に対する位相角θ)を変化させた場合を考える。図中において、巻線抵抗の電圧ベクトル(Ri)がAB0、干渉項の電圧ベクトル(jωLi)がB0C0となるときに、モータ20は、電流制限値内での最大の電流が流れて動作する。この時、電圧位相θは、位相角θ0となっている。この状態から、電圧位相θを遅れ方向に位相角θ1にまで変化させると、電圧ベクトルVは点C1の位置になる。このとき、三角形AB0C0と三角形AB1C1とは相似関係を有することから、点B1は容易に求めることができる。距離AC1は、距離AC0よりも大きいため、電流絶対値も大きくなる。このため、電流絶対値が電流制限値を越えてしまう。
逆に、電圧位相θを進み方向に位相角θ2まで変化させると、電圧ベクトルVは点C2の位置になる。この場合、距離AC2は、距離AC0よりも小さいため、電流絶対値も小さくなる。このため、電流絶対値が電流制限値よりも小さくなる。
このように、電圧ベクトルVの絶対値を一定にした状態で電圧位相のみを変化させることで、電流絶対値の制御が可能となることがわかる。負方向のトルクを発生している状態においては、電圧位相を進めるほど電流絶対値が小さくなる。
正方向のトルクを発生している状態においても同様の制御が可能となるが、電圧位相と電流絶対値の大小関係は逆転し、電圧位相を進めるほど電流絶対値が大きくなる。
電圧位相と電流絶対値の大小関係が逆転する境界は、線分ACがq軸に平行になる位置、つまり、位相角θが90°となる位置である。
一方、トルク発生方向(正負)が逆転する境界は、図11に示すように、線分BCがq軸に平行になる位置、つまり、位相角θがθn(>90°)となる位置である。従って、電圧位相と電流絶対値の大小関係が逆転する境界と、トルク発生方向が逆転する境界とは相違する。そこで、本実施形態においては、後述するように、位相角θが90°とθnとの間(90°≦θ≦θn)に入らないようにガードする機能を設けている。
次に、高速回転制御モードにおける処理について説明する。図3は、高速回転制御モードにおいて、アシストECU100のマイクロコンピュータのプログラム制御により処理される機能を表す機能ブロック図である。アシストECU100は、高速回転制御モードにおいて作動する電流絶対値制御部150を備えている。電流絶対値制御部150は、本発明の電流絶対値制御手段に相当するもので、目標電流設定部151,フィードフォワード制御部152,偏差演算部153,符号切替部154,フィードバック制御部155,加算部156,位相リミッタ157,加算部158,PWM信号発生部159,電気角演算部160,電流検出部163,回転速度演算部164を備えている。尚、電流絶対値制御部150の処理は、タイマーにより予め設定された制御周期T2で繰り返される。この制御周期T2は、通常動作モードにおいて作動する2軸電流制御部110の制御周期T1よりも短く設定されている。
目標電流設定部151は、モータ20に流れる電流の絶対値を目標電流絶対値として設定し、その設定した目標電流絶対値|i|*を出力する。電流絶対値|i|は、次式(4)により表されるものである。
ここで、iu,iv,iwは、U相,V相,W相の電機子電流である。
目標電流設定部151は、目標電流絶対値|i|*をモータ駆動回路30の電流制限値i lim(固定値)に設定する。この電流制限値i limは、モータ駆動回路30の仕様等で予め設定された、モータ駆動回路30に流すことが許容される最大の電流絶対値である。尚、車両内に搭載された各種電気負荷の電力消費状況と車載電源装置80の電力供給能力のバランスから、電力消費制限が必要となった場合には、図示しない電源制御コントローラからアシストECU100に電流制限値i limを指定する電流制限指令が出力される。この場合には、目標電流設定部151は、電流制限指令に応じた低めの目標電流絶対値|i|*を設定する。
目標電流絶対値|i|*は、フィードフォワード制御部152と偏差演算部153に出力される。フィードフォワード制御部152は、目標電流絶対値|i|*、操舵トルクTr、回転速度ωr、電圧制限値Vlimを入力して、モータ駆動回路30の出力電圧をd−q座標系で表した電圧ベクトルのd軸に対する位相角θFFを演算する。上述した式(2)において時間微分項を省略して電圧方程式を解くと、モータ駆動回路30の出力電圧(電圧ベクトルの絶対値V,位相角θ)と電流絶対値|i|とあいだには、次の関係式(5)が成立する。
フィードフォワード制御部152は、この関係式(5)から、モータ20に流れる電流の絶対値|i|が目標電流絶対値|i|*と等しくなるための位相角θFFを逆計算する。この場合、式(5)におけるVにモータ駆動回路30の電圧制限値Vlimを代入し、ωに回転速度ωrの大きさ|ωr|を代入し、|i|に|i|*を代入すればよい。尚、本説明においては、ω≧0であることを前提としているため、ωに代入する回転速度ωrが、ωr≦0となる場合については、ωr≧0となる場合に対して全てd軸対称に取り扱えばよい。
ここで関係式(5)を導く。
上記電圧方程式(2)において、d軸電流idの変化、および、q軸電流iqの変化は小さいと考えて微分演算子の付いた項を省略すると、次の関係式(6)が得られる。
従って、次の関係式(7)が得られる。
式(7)の両辺を2乗すると、次の関係式(8)が得られる。
式(8)における上下式を足すと関係式(9)が得られる。
これにより上記関係式(5)が導かれる。
フィードフォワード制御部152は、この関係式(5)から求められる位相角θを位相角θFFとして出力する。
尚、関係式(5)から位相角θFFを算出する場合、解が2つ存在する。つまり、位相角θFFを算出するために、関係式(5)を、θ=sin−1(x)と変形したとき、sin−1(x)は、1つのx(0≦x≦1)に対して、0°〜180°の範囲で2つの解を持つ。そこで、フィードフォワード制御部152は、位相角θFFの計算にあたって、トルクの方向が正であるか負であるかを判別し、トルクの方向が正、つまり、操舵アシスト状態においては、90°〜180°に存在する解を採用し、トルクの方向が負、つまり、モータ20が外力により回されている回生状態においては、0°〜90°に存在する解を採用する。また、トルクの方向は、操舵トルクTrの方向と回転速度ωrの回転方向とに基づいて、操舵トルクTrの方向と回転速度ωrの回転方向とが一致しているときには正、一致していないときには負と判定される。
高速回転制御モードにおいては、フィードフォワード制御部152に加えてフィードバック制御部155によりモータ20に流れる電流の絶対値|i|が目標電流絶対値|i|*と等しくなるように位相角θが調整される。偏差演算部153は、目標電流設定部151から出力された目標電流絶対値|i|*、および、電流検出部163から出力された実電流絶対値|i|をそれぞれ入力し、両者の偏差Δi(=|i|*−|i|)を演算する。実電流絶対値|i|は、電流検出部163により演算される。電流検出部163は、電流センサ38から検出した3相電流iu,iv,iw(=−(iu+iv))に基づいて、実電流絶対値|i|を演算する。実電流絶対値|i|は、次式(10)により計算される。
偏差演算部153は、演算した偏差Δiを符号切替部154に出力する。符号切替部154は、偏差Δiに加えて、操舵トルクTrと回転速度ωrとを入力する。そして、操舵トルクTrの方向と回転速度ωrの回転方向とが一致しているとき、つまり、モータ20の回転方向に対して正のトルクを発生させる場合には、ゲインを「+1」に設定する。また、操舵トルクTrの方向と回転速度ωrの回転方向とが一致していないとき、つまり、モータ20の回転方向に対して負のトルクを発生させる場合には、ゲインを「−1」に設定する。上述したように、モータ20の回転方向に対して正のトルクを発生させる場合と、負のトルクを発生させる場合とで、電圧位相と電流絶対値の大小関係が逆になる。例えば、正のトルクを発生させる場合においては、電圧位相を進める(位相角θを増やす)ほど電流絶対値が大きくなり、負のトルクを発生させる場合においては、電圧位相を進めるほど電流絶対値が小さくなる。そこで、符号切替部154は、後述するフィードバック制御部155による位相角の調整方向が正しくなるように、トルクを発生させる方向(正負)に応じたゲインを設定し、偏差Δiにゲインを乗じた値をフィードバック制御部155に出力する。以下、偏差Δiにゲインを乗じた値を単に偏差Δiと呼ぶ。
フィードバック制御部155は、偏差Δiを使った比例積分制御(PI制御)により、実電流絶対値|i|が目標電流絶対値|i|*に追従するように、モータ駆動回路30の出力電圧をd−q座標系で表した電圧ベクトルのd軸に対する位相角θFBを計算して出力する。比例積分制御においては、偏差Δiに比例ゲインを乗じた比例項と、偏差Δiに積分ゲインを乗じた値を積分した積分項との和により位相角θFBを計算する。フィードバック制御部155は、本実施形態においては、比例積分制御を行うが、比例制御のみ、あるいは、積分制御のみを行うように構成してもよい。
フィードバック制御部155から出力された位相角θFBと、フィードフォワード制御部152から出力された位相角θFFとは加算部156に入力される。加算部156は、位相角θFBと位相角θFFとを加算した位相角θFFB(=θFF+θFB)を出力する。これにより、位相角θFFBは、フィードフォワード制御部152で演算された位相角θFFに含まれる誤差が、フィードバック制御部155で演算された位相角θFBにより補償された値となる。
加算部156の出力する位相角θFFBは、位相リミッタ157に入力される。位相リミッタ157は、位相角θFFBに加えて、操舵トルクTrと回転速度ωrとを入力する。上述したように、トルクの方向(正負)に応じて、符号切替部154がフィードバック制御部155の演算する位相角θFBの符号を反転する。このため、トルクの方向が正のときに位相角θが90°未満になる場合には制御が発散してしまう。逆に、トルクの方向が負のときに位相角θが90°を越える場合においても制御が発散してしまう。位相リミッタ157は、こうした発散を防止するために、トルクの方向に応じて、位相角θのとり得る範囲を制限する。図11は、位相リミッタ157により制限される位相角θの範囲である。位相リミッタ157は、トルクの方向が負の場合には、位相角θを0°〜90°の範囲(0°≦θ≦90°)に制限する。また、トルクの方向が正の場合には、位相角θをθn〜180°の範囲(θn≦θ≦180°)に制限する。
位相角θnは、以下のように計算することができる。
図11において、電圧ベクトルVの位相角がθnとなるときは、q軸電流iqがゼロとなる。そこで、上記電圧方程式(2)において、d軸電流idの変化、および、q軸電流iqの変化は小さいと考え、微分演算子の付いた項を省略し、iq=0とすると、次の関係式(11)が得られる。
また、電圧ベクトルVの絶対値をVとすると、式(11)を式(12)として表すことができる。
式(12)から、iを消去すると、θnの関係式(13)が導き出される。
三角関数の合成公式を使うと式(13)は、式(14)にて表すことができる。
この式(14)から、位相角θnは次式(15)のように計算できる。
位相リミッタ157は、このように位相角θFFBの範囲を制限した位相角を位相角指令値θdとして加算部158に出力する。加算部158は、位相角指令値θdと、電気角演算部160から出力されるモータ20の電気角θrとを加算して、位相角指令値θdを電機子上の位相角に変換した電圧位相指令値θc(=θd+θr)を算出する。電気角演算部160は、角度演算部161と遅れ補正部162とを備えている。角度演算部161は、回転角センサ22により出力されたモータ20の回転角θmを表す検出信号を入力してモータ20の電気角θr’を演算する。遅れ補正部162は、角度演算部161により演算された電気角θr’を、その電気角θr’の時間微分値となる回転速度に比例した角度だけ補正する。つまり、遅れ補正部162は、モータ20の電気角の検出に必要な演算時間を考慮し、モータ20の回転速度に応じた遅れ時間に対応する角度だけ電気角θrを進めるように補正する。
電気角演算部160は、遅れ補正部162により補正した電気角を、電気角θrとして加算部158および回転速度演算部164に出力する。回転速度演算部164は、電気角θrを時間で微分することによりモータ20の回転速度ωrを計算し、その回転速度ωrをフィードフォワード制御部152,符号切替部154,位相リミッタ157に出力する。
尚、電気角演算部160は、遅れ補正部162を省略した構成であってもよい。また、電気角θrの検出にあたっては、回転角センサ22を用いずに、モータ20で発生する逆起電力に基づいて推定するようにしてもよい。
加算部158により演算された電圧位相指令値θcは、PWM信号発生部159に出力される。PWM信号発生部159は、電圧位相指令値θcにしたがって、モータ駆動回路30の出力電圧が式(16)で表される正弦波電圧となるように設定したPWM制御信号を生成し、そのPWM制御信号をスイッチング素子31〜36に出力する。
この場合、3相出力電圧の位相角は、位相リミッタ157から出力される位相角指令値θdがモータ20の磁極方向を基準としたd軸に対する相対角度であるため、電気角θrと位相角指令値θdを加算した角度θcとなる。
また、正弦波電圧の振幅Vは、モータ駆動回路30の電圧制限値Vlim(一定値)により決められる。例えば、電圧制限値Vlimを上記電圧ベクトルの絶対値(=√(vd 2+vq 2)=√(Vu2+Vv2+Vw2))で表した場合には、正弦波電圧の振幅Vは、電圧制限値Vlimの√(2/3)倍の値となる。
このPWM信号発生部159から出力されたPWM制御信号によりスイッチング素子31〜36が動作して、モータ駆動回路30から3相の正弦波電圧が出力される。
このような高回転制御モードにおいては、電圧ベクトルVの絶対値を電圧制限値Vlimに設定した状態で、モータ20に流れる電流の絶対値が電流制限値i limと等しくなるようなモータ駆動回路30の出力電圧の位相が設定される。つまり、図8,図9に示すように、電圧ベクトルVの軌跡Cを電圧制限円CLVの周上にのせた状態で、電流ベクトルiに巻線抵抗Rを乗じた電圧ベクトル(Ri)の軌跡(点B)が、電流制限円CLIの周上にのるようなモータ駆動回路30の出力電圧の位相が設定される。
この場合、電流の絶対値のみを制御する1自由度制御となり、通常制御モードのようにd軸電流とq軸電流とを制御する2自由度制御に比べて、1制御周期あたりのマイクロコンピュータの演算量を減らすことができる。これにより、マイクロコンピュータの制御周期を通常制御モードに比べて短くして制御遅れを抑制することができる。また、計算式に用いるパラメータ(巻線抵抗R、インダクタンスL、逆起電圧定数φ)の変動や外乱に対しても、フィードバック制御部155が、モータ20に流れる電流の絶対値|i|と目標電流絶対値|i|*との偏差Δiに応じて位相角を調整するため、最適な電圧位相を設定することができる。従って、既存のマイクロコンピュータを使って、理論上の最大トルクに近い大きなトルクを発生することができる。
次に、通常制御モードと高回転制御モードとの切り替え処理について説明する。図12は、アシストECU100により実行されるモード切替制御ルーチンを表す。モード切替制御ルーチンは、アシストECU100のマイクロコンピュータのROM内に制御プログラムとして記憶されており、イグニッションキーがオン状態となっているあいだ所定の周期で繰り返し実行される。
アシストECU100は、モード切替制御ルーチンを起動すると、ステップS11において、回転速度ωrを時間微分することにより、モータ20の回転加速度A(=dωr/dt)を計算する。尚、回転速度ωrは、回転角センサ22の出力する回転角θmの変化量、あるいは、電気角θrの変化量から計算できる。
続いて、アシストECU100は、ステップS12において、図13に示す閾値設定マップを参照して、閾値ωthを設定する。この閾値ωthは、本発明の基準速度に相当する。閾値設定マップは、回転加速度Aの大きさ|A|(以下、回転加速度|A|と呼ぶ)と閾値ωthとを関係付けるデータとしてアシストECU100のROM内に記憶されている。閾値設定マップは、回転加速度|A|が設定値A1を越える場合には、回転加速度|A|が設定値A1以下となる場合に比べて、小さな閾値ωthを設定する。この閾値ωthは、通常の操舵操作では、検出されない大きな値に設定されている。
尚、閾値ωthは、2段階に切り替えられるものに限るものではなく、回転加速度|A|が大きくなると減少するように設定されるものであればよい。例えば、図14に示す閾値設定マップを用いても良い。この閾値設定マップでは、回転加速度|A|が大きくなるほど徐々に減少する閾値ωthを設定する。
続いて、アシストECU100は、ステップS13において、回転速度ωrの大きさ|ωr|(以下、回転速度|ωr|と呼ぶ)が閾値ωthよりも大きいか否かを判断する。回転速度|ωr|が閾値ωth以下であれば(S13:No)、ステップS14において、通常制御モードを選択し、回転速度|ωr|が閾値ωthを越えていれば(S13:Yes)、ステップS15において、高速回転制御モードを選択する。アシストECU100は、制御モードを選択するとモード切替制御ルーチンを一旦終了する。アシストECU100は、モード切替制御ルーチンを所定の周期で繰り返し実行することにより、常に回転速度|ωr|に応じた制御モードを選択する。
高速回転制御モードにおいては、弱め界磁を強くするため、通常制御モードに比べてモータ20の作動音が発生しやすい。従って、高速回転制御モードは、例えば、前輪タイヤが路面突起物に衝突してモータ20が回される場合のように、通常の操舵操作では検出されないほどの高速でモータ20が回るときのみにおいて実行される事が望まれる。モータ20の回転速度が閾値を越えたときに、高速回転制御モードへ切り替わるように設定すれば、作動音の発生を抑えることができる。しかし、作動音の発生を抑えるために、むやみに閾値を高く設定すると、モータ20の回転速度が上昇し始める初期においては、高速回転制御モードに素早く移行できず、大きなトルクを発生させることができない。そこで、本実施形態においては、閾値ωthをモータ20の回転加速度|A|に応じて切り替えるようにしている。
前輪タイヤが路面突起物に衝突してステアリング機構10に大きな力が加わった場合には、モータ20の回転速度が急激に増加する。従って、モータ20の回転加速度の大きさが大きいほど、大きな外力が入力されていると考えることができる。そこで、モード切替制御ルーチンにおいては、モータ20の回転加速度|A|が大きい場合には、制御モードを切り替えるための閾値ωthを小さな値に設定して、早く高速回転制御モードに移行できるようにしている。これにより、タイヤからステアリング機構10に大きな力が加わった場合には、瞬時に高速回転制御モードを実行して操舵ハンドル11の回転を減速させて衝撃を低減させることができる。逆に、回転加速度|A|が小さい場合には、閾値ωthを大きな値に設定する。これにより、ステアリング機構10に働く小さな逆入力に対しては、回転速度が大きくなるまで高速回転制御モードへ移行しないようにする。従って、必要以上に高速回転制御モードに移行することが抑制される。これにより、操舵ハンドル11の制動と、モータ作動音の発生の低減とを両立することができる。
ここで、閾値ωthを固定した場合と、閾値ωthを回転加速度|A|に応じて変化させた場合とにおける制御モードの切替タイミングを比較する。図15は、タイヤが路面突起物に衝突してステアリング機構10に大きな逆入力が加わったときの回転速度の推移、回転加速度の推移、閾値の推移を表す。図中において、ωthsは固定した閾値、ωsは閾値ωthsを用いて制御モードを切り替えた場合のモータ20の回転速度、ωthvは閾値設定マップ(図14)により設定された閾値、ωvは閾値ωthvを用いて制御モードを切り替えた場合のモータ20の回転速度を表す。
時刻t1において、タイヤが路面突起物に衝突すると、モータ20が急激に回り始める。固定した閾値ωthsを用いた場合には、時刻t3において回転速度ωsが閾値ωthsを越えて高速回転制御モードに移行する。一方、閾値設定マップ(図14)により閾値ωthを設定した場合には、時刻t1から回転加速度Aが急激に増加するため、これに伴って閾値ωthvが減少する。このため、時刻t3より早い時刻t2において、回転速度ωvが閾値ωthvを越えて高速回転制御モードに移行する。従って、モータ20で大きな負のトルクを発生させることができる期間が長くなり、モータ20の回転速度の増加を一層抑制することができる。
尚、本実施形態においては、閾値ωthの設定にあたって、モータ20の回転加速度|A|の増加に伴って閾値ωthが減少するようにしているが、操舵トルク|Tr|の増加に伴って閾値ωthが減少するようにしてもよい。モータ20が逆入力により回される場合においては、逆入力が大きくなるほど、操舵トルクセンサ21により検出される操舵トルクTrの大きさ|Tr|が大きくなる。従って、回転加速度|A|に代えて、操舵トルク|Tr|に基づいて閾値ωthを設定することにより、上記の効果を奏することができる。この場合、図13あるいは図14の閾値設定マップの横軸は、操舵トルク|Tr|となる。また、ステップS11の処理は、操舵トルクセンサ21から操舵トルクTrを読み込む処理に変更すればよい。
また、通常制御モードにおいては、操舵トルクTrに応じて、目標アシストトルクT*(アシストトルク指令値)、q軸指令電流iq *(モータ電流指令値)が設定される。従って、操舵トルクTrの増加に伴って、目標アシストトルクT*、q軸指令電流iq *も増加する。このことから、閾値ωthを、目標アシストトルクT*あるいはq軸指令電流iq *の増加に伴って減少させるように構成してもよい。このように構成した場合においても、上記の効果を奏することができる。
次に、モータ20の出力トルク特性について説明する。図16〜18は、モータ20を外力により回したときの出力トルク特性をシミュレーションにより求めたグラフである。出力トルクは、回生トルクとなり負の値をとるため、縦軸の下側ほど大きな値(絶対値が大きい)となる。各図において、縦軸,横軸の目盛は全て共通である。図16、図17は、高速回転制御モードに切り替えずに通常制御モードのみを実行したときの特性を表し、図16は、制御遅れが無い場合、図17は、制御遅れがある場合の特性を表す。制御遅れとは、電気角の検出遅れ、モータ電流の検出遅れ、モータ制御値の演算遅れ、PWM制御信号の出力遅れなどである。
通常制御モードでは、所定回転速度ω1を越えた領域で弱め界磁マップにしたがって弱め界磁制御を行っている。弱め界磁マップは、最適値よりも多少の余裕をもたせてd軸指令電流id *を設定するため、モータ20で出力可能なトルクは、理論上の最大トルクより小さくなる。
制御遅れがある場合には、出力トルクは、回転速度がω2となるあたりから振動的となり、回転速度がω3となると完全に発散する。出力波形が切れているところは、反対方向のトルクを出力している。
制御遅れがない場合には、回転速度がω3となると、d−q座標系における制御が相互干渉し応答が振動的になる。
図18は、本実施形態のモータ制御を実施した場合の出力特性図である。このシミュレーションでは、回転速度ωcにおいて通常制御モードを高速回転制御モードに切り換えている。この特性図から、本実施形態によれば、モータ20が高速回転している状態であっても、出力トルクの振動は発生せず、安定した制御が行われることがわかる。また、高速回転時における出力トルクは、通常制御モードでモータ20を駆動した場合の出力トルクよりも大きい。また、高速回転制御モードにおいては、回転速度に対する出力トルクの特性が、図26に示す理論上の最大トルク特性に近い値をとることも確認されている。
以上説明した本実施形態の電動パワーステアリング装置によれば、モータ20が高速回転した場合には、モータ20の制御モードが高速回転制御モードに切り替わるため、高速回転状態であっても、モータ20から大きなトルクを発生させることができる。これにより、路面からの逆入力により操舵ハンドル11が急激に回されても、モータ20で負方向の大きなトルクを発生させて、操舵ハンドル11の回転を良好に制動することができる。また、この制動により、ラックエンド部材がストッパに衝突したときに発生する衝突音を低減することができる。従って、運転者の不快感を低減することができる。また、アシストECU100に設けられるマイクロコンピュータの演算能力、モータ20の性能、モータ駆動回路30の性能を変更せずに実施できるためコストアップを招かない。
また、符号切替部154により操舵トルクTrの方向と回転速度ωrの方向との一致、不一致を判定し、トルクを発生させる方向に応じたゲイン(1、−1)を設定するため、フィードバック制御を組み込んでも、負方向のトルクだけでなく、正方向のトルクを適正に発生させることができる。このため、緊急回避などのために、運転者が通常の操作速度よりも速い速度で操舵操作したときにも高速回転制御モードに切り換えて、回避操作方向に大きな操舵アシストトルクを発生させることができる。これにより、運転者の回避操作が容易になる
また、高速回転制御モードにおいては、回転加速度|A|の増加に伴って、あるいは、操舵トルク|Tr|の増加に伴って、閾値ωthを減少させるため、操舵ハンドル11の制動と、作動音の発生の低減とを両立することができる。
次に、第2実施形態の電動パワーステアリング装置について説明する。第2実施形態の電動パワーステアリング装置は、上述した実施形態(以下、第1実施形態と呼ぶ)における高速回転制御モードを、回転速度|ωr|に応じて第1高速回転制御モードと第2高速回転制御モードとに切り替えるようにしたもので、他の構成については第1実施形態と同一である。
モータ20の回転速度が高くなるほど逆起電力が増加するため、モータ20が非常に高速で回転しているときには、図19に示すように、電圧ベクトル線図における点Aの位置が電圧制限円CLVから遠ざかる。このため、距離ACは、位相角θの影響をほとんど受けなくなる。従って、位相角θが多少変化してもモータ電流がほとんど変化しないため、厳密な電流制御を行う必要が無い。そこで、第2実施形態においては、第1実施形態で用いた閾値ωth(ここでは、第1閾値ωth1と呼ぶ)よりも大きな第2閾値ωth2を記憶し、回転速度|ωr|が第2閾値ωth2を越えたときには、アシストECU100の1制御周期あたりの演算量が少ない第2高速回転制御モードを実行する。この第2高速回転制御モードにおいては、1制御周期あたりの演算量を減らしたことで、第1実施形態の高速回転制御モードにおける制御周期よりも短い制御周期が設定されている。
まず、制御モードの切替について説明する。図20は、第2実施形態におけるモード切替制御ルーチンを表す。モード切替制御ルーチンは、アシストECU100のマイクロコンピュータのROM内に制御プログラムとして記憶されており、イグニッションキーがオン状態となっているあいだ所定の周期で繰り返し実行される。
アシストECU100は、モード切替制御ルーチンを起動すると、ステップS21において、回転速度|ωr|が第2閾値ωth2よりも大きいか否かを判断する。この第2閾値ωth2は、第1閾値ωth1よりも大きな値に設定された固定値である。アシストECU100は、回転速度|ωr|が第2閾値ωth2以下である場合(S21:No)には、第1実施形態におけるステップS11〜ステップS12と同様に、ステップS22において、モータ20の回転加速度Aを計算し、ステップS23において、図13あるいは図14に示した閾値設定マップを参照して、回転速度|ωr|の第1閾値ωth1を演算する。続いて、ステップS24において、回転速度|ωr|が第1閾値ωth1よりも大きいか否かを判断し、回転速度|ωr|が閾値ωth1以下であれば(S24:No)、ステップS25において、通常制御モードを選択する。回転速度|ωr|が第1閾値ωth1を越えていれば(S24:Yes)、ステップS26において、第1高速回転制御モードを選択する。この第1高速回転制御モードは、第1実施形態における高速回転制御モードと同じ制御モードである。
また、アシストECU100は、ステップS21において、回転速度|ωr|が第2閾値ωth2よりも大きいと判断した場合には、ステップS27において、第2高速回転制御モードを選択する。アシストECU100は、制御モードを選択するとモード切替制御ルーチンを一旦終了する。アシストECU100は、モード切替制御ルーチンを所定の周期で繰り返し実行することにより、常に回転速度|ωr|に応じた制御モードを選択する。尚、この実施形態においては、第2閾値ωth2を固定値としているが、第1閾値ωth1より大きな値となる範囲で可変するようにしてもよい。例えば、第1閾値ωth1に係数K(>1)を乗じた値に設定するようにしてもよい。
次に、第2高速回転制御モードにおける処理について説明する。図21は、第2高速回転制御モードにおいて、アシストECU100のマイクロコンピュータのプログラム制御により処理される機能を表す機能ブロック図である。アシストECU100は、第2高速回転制御モードにおいて作動するオープンループ制御部200を備えている。オープンループ制御部200は、位相角演算部201,加算部202,PWM信号発生部203,電気角演算部204,回転速度演算部207を備えている。尚、オープンループ制御部200の処理は、タイマーにより予め設定された制御周期T3(演算周期)で繰り返される。この制御周期T3は、第1高速回転制御モードにおいて作動する2軸電流制御部110の制御周期T2よりも短く設定されている。
位相角演算部201は、位相角設定マップを記憶しており、この位相角設定マップを参照して回転速度|ωr|から位相角指令値θmapを演算する。位相角指令値θmapは、電圧ベクトルのd軸に対する位相角の目標値である。位相角設定マップは、モータ20の回転速度|ωr|と位相角指令値θmapとを関係付けたデータであり、上記式(5)から作成することができる。位相角設定マップは、図22に示すように、3つのタイプを考えることができる。Aは、回転速度|ωr|の増加に伴って位相角指令値θmapが増加する増加型マップ、Bは回転速度|ωr|に関わらず位相角指令値θmapが一定となる一定型マップ、Cは回転速度|ωr|の増加に伴って位相角指令値θmapが減少する減少型マップを表す。3つのタイプの位相角設定マップは、モータ20のインダクタンスし、逆起電圧定数φ、モータ駆動回路30の電流制限値に応じて使い分けることができる。
ここで、図19において、線分OAと線分BCの長さが、回転速度ωによってどのような影響を受けるかについて考える。線分OAは、電圧ωφの大きさを表し、線分BCは電圧ωLiの大きさを表す。従って、線分OA、線分BCの長さは、回転速度ωに比例する。電圧制限値に比べて逆起電圧ωφが極端に大きくなる高速回転時においては、線分OAと線分BCとがほぼ平行になるため、φとLiとの大小関係から特性を分類することができる。
φがLiよりも大きい場合(φ>Li)には、回転速度ωが上昇すると逆起電圧ωφの方が電圧ωLiよりも早く大きくなる。このため、回転速度ωの増加にしたがって電圧位相θを90°(q軸)に向かって大きくしなければならない。仮に、回転速度ωの増加にしたがって電圧位相θを小さくしてしまうと、線分BCの距離が大きくなってしまい、モータ電流が電流制限値を越えてしまう。
また、φがLiよりも小さい場合(φ<Li)には、回転速度ωが上昇すると電圧ωLiのほうが逆起電圧ωφよりも早く大きくなる。このため、回転速度ωの増加にしたがって電圧位相を0°(d軸)に向かって小さくしなければならない。
従って、φ>Liとなる場合には増加型マップAを使用し、φLi≒Liとなる場合には一定型マップBを使用し、φ<Liとなる場合には減少型マップCを使用するとよい。
本実施形態においては、モータ20の高速回転時には、モータ電流の絶対値|i|が電流制限値i limとなるように制御するため、上記関係式のLiにおけるiに電流制限値i limを代入すればよい。従って、アシストECU100に記憶する位相角設定マップは、1つのパターンでよい。尚、電力制限や発熱制限などにより、電流制限値i limが変化するシステム構成の場合には、電流制限値i limに応じた位相角設定マップを複数記憶しておき、電流制限値i limの指令を入力して位相角設定マップを選択するようにするとよい。
また、オープンループ制御部200は、負の方向となるトルクを発生させるように構成されるが、負の方向だけでなく、正の方向にもトルクを発生させるシステムを構成する場合には、位相角演算部201に、回転速度ωrに加えて操舵トルクTrを入力することで、モータ20で発生させるトルクの方向を判別するとよい。正の方向のトルクを発生させる場合には、位相角設定マップの特性は、負の方向のトルクを発生させる場合とは逆の特性になる。つまり、負の方向のトルクを発生させる場合に増加型マップAを使用するケースでは、正の方向のトルクを発生させる場合には減少型マップCを使用し、負の方向のトルクを発生させる場合に減少型マップCを使用するケースでは、正の方向のトルクを発生させる場合には増加型マップAを使用すればよい。
位相角演算部201は、位相角設定マップを参照して演算した位相角指令値θmapを加算部202に出力する。加算部202は、位相角指令値θmapと、電気角演算部204から出力されるモータ20の電気角θrとを加算して、位相角指令値θmapを電機子上の位相角に変換した電圧位相指令値θc(=θmap+θr)を算出する。電気角演算部204は、角度演算部205と遅れ補正部206とを備えている。角度演算部205は、回転角センサ22により出力されたモータ20の回転角θmを表す検出信号を入力してモータ20の電気角θr’を演算する。遅れ補正部206は、モータ20の電気角の検出に必要な演算時間の遅れを考慮して、モータ20の回転速度に比例した角度だけ電気角θr’を補正する。
電気角演算部204は、遅れ補正部206により補正した電気角を電気角θrとして加算部202および回転速度演算部207に出力する。回転速度演算部207は、電気角θrを時間で微分することによりモータ20の回転速度ωrを演算し、その回転速度ωrを位相角演算部201に出力する。
加算部202により演算された電圧位相指令値θcは、PWM信号発生部203に出力される。PWM信号発生部203は、電圧位相指令値θcにしたがって、モータ駆動回路30の出力電圧が式(17)で表される正弦波電圧となるように設定したPWM制御信号を生成し、そのPWM制御信号をスイッチング素子31〜36に出力する。この場合も、第1実施形態と同様に、正弦波電圧の振幅Vは、モータ駆動回路30の電圧制限値により決められる。
このPWM信号発生部203から出力されたPWM制御信号によりスイッチング素子31〜36が動作して、モータ駆動回路30から3相の正弦波電圧が出力される。
この第2実施形態の電動パワーステアリング装置においては、タイヤが路面突起物に接触してステアリング機構に大きな逆入力が加わり回転速度|ω|が第1閾値ωth1を越えると、制御モードが通常モード制御モードから第1高速回転制御モードに切り替わる。これにより、アシストECU100は、モータ駆動電圧を電圧制限値に維持した状態で、モータ20に流れる電流の絶対値が制限範囲における最大となるようにモータ駆動回路30を制御し、負の方向となる大きなトルクをモータ20で発生させる。従って、操舵ハンドル11の回転を制動させる力が働くが、逆入力が大きい場合には、回転速度がさらに上昇していくこともある。そこで、アシストECU100は、回転速度|ωr|が第2閾値ωth2を越えた場合には、制御モードを第1高速回転制御モードから第2高速回転制御モードに切り替えて、フィードバック制御を行わずにオープンループ制御のみにてモータ駆動回路30の電圧位相を設定する。しかも、マップから位相角指令値θmapを得るようにしているため1制御周期あたりの演算量が少なくなる。このため、オープンループ制御部200(第2高速回転制御モード)の制御周期T3を電流絶対値制御部150(第1高速回転制御モード)の制御周期T2よりも短くすることが可能となる。これにより、モータ20が非常に高速で回転している状況であっても、制御遅れが抑制され制御の安定性が向上する。この結果、第2実施形態の電動パワーステアリング装置によれば、モータ20が非常に高速で回された場合であっても、大きなトルクを発生させることができる。
ここで、第2実施形態におけるモータ20の出力トルク特性について説明する。図23,図24は、モータ20を外力により高速で回したときの出力トルク特性をシミュレーションにより求めたグラフである。図23が、第2実施形態により制御モードを切り替えてモータ20を駆動制御した場合の特性図であり、図24が、制御モードを切り替えずに通常制御モードのみにてモータ20を駆動制御した場合の特性図である。
各図において、縦軸,横軸の目盛は、図16〜図18の特性図と共通である。従って、図23,図24の特性図は、モータ20を非常に速い高速回転域まで回転させたシミュレーション結果である。尚、図24の特性図は、制御遅れが無い場合のシミュレーション結果である。
この特性図からわかるように、第2実施形態においては、回転速度ω4となる非常に速い高速回転域においても安定したトルクを出力できる。このトルクは、図26に示す理論上の最大トルク特性におけるトルクと近い値であることが確認されている。一方、通常制御モードのみにてモータ20を駆動制御した場合には、制御遅れが無くても、回転速度ω4では、トルクを出力できない。
次に、第3実施形態の電動パワーステアリング装置について説明する。第3実施形態の電動パワーステアリング装置は、第1実施形態における高速回転制御モードにおける一部の処理を変更したもので、他の構成については第1実施形態と同一である。
図25は、第3実施形態における高速回転制御モードにおいて、アシストECU100のマイクロコンピュータのプログラム制御により処理される機能を表す機能ブロック図である。アシストECU100は、高速回転制御モードにおいて作動する電流絶対値制御部250を備えている。第3実施形態の電流絶対値制御部250は、第1実施形態の電流絶対値制御部150の目標電流設定部151、フィードフォワード制御部152、偏差演算部153、電流検出部163に代えて、目標電流設定部251、フィードフォワード制御部252、偏差演算部253、電流検出部263を備えている。他の機能部については、第1実施形態と同一であるため、図面に第1実施形態と同じ符号を付して説明を省略する。
第1実施形態においては、電流の絶対値を目標値として設定しているが、第3実施形態においては、マイクロコンピュータの演算負担を軽くするために、電流の絶対値の2乗を目標値として使用するものである。尚、第1実施形態と第3実施形態との相違は、演算上の相違であって、モータ電流の絶対値が目標電流絶対値に等しくなるための位相角を演算する電流絶対値制御手段を備えている点では同じである。
目標電流設定部251は、モータ20に流れる電流の絶対値の2乗を目標値として設定し、その設定した目標電流絶対値|i|2*を出力する。この目標電流絶対値|i|2*は、第1実施形態における目標電流絶対値|i|2*を2乗したものに相当する。
電流検出部263は、電流センサ38から検出した3相電流iu,iv,iw(=−(iu+iv))に基づいて、実電流絶対値|i|の2乗を計算し、その計算結果を、実電流絶対値|i|2として出力する。実電流絶対値|i|2は、次式(18)により計算される。従って、平方根の演算処理が不要となる。
フィードフォワード制御部252は、目標電流絶対値|i|2*、操舵トルクTr、回転速度ωr、電圧制限値Vlimを入力して、上記式(5)の関係を用いてモータ駆動回路30の出力電圧の位相角θFFを計算する。この場合、式(5)の左辺に目標電流絶対値|i|2*を代入すれば良いため、2乗の演算処理を省略することができる。
偏差演算部253は、目標電流設定部251から出力された目標電流絶対値|i|2*、および、電流検出部263から出力された実電流絶対値|i|2を入力し、両者の偏差Δi(=|i|2*−|i|2)を計算する。この偏差Δiは、第1実施形態における偏差Δiと符号(正負)が同一となる。従って、この偏差Δiを用いたフィードバック制御に関しては、第1実施形態の処理と同一となる。
この第3実施形態における高速回転制御モードでは、平方根の計算処理、2乗の計算処理を少なくすることができるため、マイクロコンピュータの1制御周期あたりの演算量を低減することができる。このため、高速回転制御モードにおける制御周期を第1実施形態よりもさらに短くすることができる。この結果、制御遅れが抑制され制御の安定性が向上する。
以上、本実施形態の電動パワーステアリング装置について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
例えば、本実施形態では、高速回転制御モードを実行する場合、フィードフォワード制御とフィードバック制御とを組み合わせているが、何れか一方のみを使って、電圧位相を調整してモータ電流の絶対値が目標電流絶対値に等しくなるようにモータ駆動回路30の作動を制御するようにしてもよい。
また、本実施形態では、モータ20の高速回転状態の判定を行う場合、回転速度の閾値ωthを切り替えるようにしているが、閾値ωthを固定にした構成であってもよい。
また、本実施形態においては、緊急回避などのために、運転者が通常の操作速度よりも速い速度で操舵操作したときに、高速回転制御モードが選択されるように閾値ωthを設定しているが、閾値ωthをもっと大きな値に設定して、緊急回避時の操舵操作では高速回転制御モードに切り替わらないようにすることもできる。この場合には、逆入力が働いたときにのみ、高速回転制御モードによるモータ制御が実行される。
また、本実施形態の電動パワーステアリング装置は、ラックバー14にモータ20を組み付けたラックアシストタイプであるが、ステアリングシャフト12にモータ20を組み付けたコラムアシストタイプにも適用することもできる。
この電動パワーステアリング装置は、操舵ハンドル11の操舵操作により転舵輪を転舵するステアリング機構10と、ステアリング機構10に組み付けられ操舵アシストトルクを発生するモータ20と、モータ20を駆動するためのモータ駆動回路30と、モータ20の作動を制御する電子制御装置100とを主要部として備えている。以下、電子制御装置100をアシストECU100と呼ぶ。
ステアリング機構10は、操舵ハンドル11の回転操作により左右前輪FWL,FWRを転舵するための機構で、操舵ハンドル11を上端に一体回転するように接続したステアリングシャフト12を備える。このステアリングシャフト12の下端には、ピニオンギヤ13が一体回転するように接続されている。ピニオンギヤ13は、ラックバー14に形成されたラック歯と噛み合って、ラックバー14とともにラックアンドピニオン機構を構成する。ラックバー14の両端には、タイロッド15L,15Rを介して左右前輪FWL,FWRのナックル(図示略)が操舵可能に接続されている。左右前輪FWL,FWRは、ステアリングシャフト12の軸線回りの回転に伴うラックバー14の軸線方向の変位に応じて左右に操舵される。
ラックバー14には、モータ20が組み付けられている。モータ20は、本発明の永久磁石同期モータに相当するものであり、本実施形態においては、その代表例である3相ブラシレスDCモータが用いられる。モータ20の回転軸は、ボールねじ機構16を介してラックバー14に動力伝達可能に接続されていて、その回転により左右前輪FWL,FWRに転舵力を付与して操舵操作をアシストする。ボールねじ機構16は、減速機および回転−直線変換器として機能するもので、モータ20の回転を減速するとともに直線運動に変換してラックバー14に伝達する。
ステアリングシャフト12には、操舵トルクセンサ21が設けられる。操舵トルクセンサ21は、例えば、ステアリングシャフト12の中間部に介装されたトーションバー(図示略)の捩れ角度をレゾルバ等により検出し、この捩れ角に基づいてステアリングシャフト12に働いた操舵トルクTrを検出する。操舵トルクTrは、その大きさだけでなく、正負の値により操舵方向が識別される。尚、本実施形態においては、トーションバーの捩れ角度をレゾルバにより検出するが、他の回転角センサ等により検出することもできる。
モータ20には、回転角センサ22が設けられる。この回転角センサ22は、モータ20内に組み込まれ、モータ20の回転子の回転角度位置に応じた検出信号を出力するもので、例えば、レゾルバ、あるいは、ホールセンサにより構成される。回転角センサ22は、モータ20の回転角θmに応じた検出信号をアシストECU100に出力する。アシストECU100は、この検出信号からモータ20の電気角θrを演算する。尚、モータ20の電気角θrは、回転角センサ22を用いずに、モータ20で発生する逆起電力に基づいて推定するようにしてもよい。
モータ駆動回路30は、MOS−FET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)からなる6個のスイッチング素子31〜36により3相インバータ回路を構成したものである。具体的には、第1スイッチング素子31と第2スイッチング素子32とを直列接続した回路と、第3スイッチング素子33と第4スイッチング素子34とを直列接続した回路と、第5スイッチング素子35と第6スイッチング素子36とを直列接続した回路とを並列接続し、各直列回路における2つのスイッチング素子間(31−32,33−34,35−36)からモータ20への電力供給ライン37を引き出した構成を採用している。
モータ駆動回路30には、モータ20に流れる電流を検出する電流センサ38が設けられる。この電流センサ38は、3相のうちの任意の2相(例えば、U相とV相)の電流の大きさと向き(正負)を検出し、検出した電流iu,ivを表す検出信号をアシストECU100に出力する。W相の電流iwは、他の2相の電流(iu,iv)から計算することができるため(iw=−(iu+iv))、本実施形態では2相のみを電流センサ38にて検出するが、3相とも電流センサ38にて検出するようにしてもよい。
モータ駆動回路30の各スイッチング素子31〜36は、それぞれゲートがアシストECU100に接続され、アシストECU100から出力されるPWM制御信号によりデューティ比が制御される。これによりモータ20の駆動電圧が制御される。
アシストECU100は、CPU,ROM,RAM等からなるマイクロコンピュータを主要部として構成される。アシストECU100は、操舵トルクセンサ21、回転角センサ22、電流センサ38、および、車速を検出する車速センサ25を接続し、操舵トルクTr、回転角θm、モータ電流iu,iv、車速Spを表す検出信号を入力する。そして、入力した検出信号に基づいて、運転者の操舵操作に応じた最適な操舵アシストトルク(以下、単にアシストトルクと呼ぶ)が得られるようにモータ駆動回路30の各スイッチング素子31〜36のデューティ比を制御する。
次に、電動パワーステアリング装置の電源供給系統について説明する。電動パワーステアリング装置は、車載電源装置80から電源供給される。車載電源装置80は、定格出力電圧12Vの一般的な車載バッテリである主バッテリ81と、エンジンの回転により発電する定格出力電圧14Vのオルタネータ82とを並列接続して構成される。車載電源装置80には、電源供給元ライン83と接地ライン84が接続される。電源供給元ライン83は、制御系電源ライン85と駆動系電源ライン86とに分岐する。制御系電源ライン85は、アシストECU100に電源供給するための電源ラインとして機能する。駆動系電源ライン86は、モータ駆動回路30とアシストECU100との両方に電源供給する電源ラインとして機能する。
制御系電源ライン85には、イグニッションスイッチ87が接続される。駆動系電源ライン86には、主電源リレー88が接続される。この主電源リレー88は、アシストECU100からの制御信号によりオンしてモータ20への電力供給回路を形成するものである。制御系電源ライン85は、アシストECU100の電源+端子に接続されるが、連結ライン90を介して、主電源リレー88よりも負荷側となる駆動系電源ライン86にも接続される。また、制御系電源ライン85には、イグニッションスイッチ87よりも負荷側(アシストECU100側)にダイオード89がアノードを車載電源装置80側に向けて設けられる。連結ライン90には、ダイオード91がアノードを駆動系電源ライン86側に向けて設けられる。従って、連結ライン90を介して駆動系電源ライン86から制御系電源ライン85には電源供給できるが、制御系電源ライン85から駆動系電源ライン86には電源供給できないような回路構成となっている。駆動系電源ライン86および接地ライン84は、モータ駆動回路30の電源入力部に接続される。また、接地ライン84は、アシストECU100の接地端子にも接続される。
次に、アシストECU100が行うモータ20の制御について説明する。アシストECU100は、モータ20の回転子に設けられた永久磁石の磁界が貫く方向にd軸、d軸に直交する方向(d軸に対して電気角がπ/2だけ進んだ方向)にq軸を定めたd−q座標系を用いた電流ベクトル制御によってモータ20の回転を制御する。電流ベクトルのd軸成分をd軸電流と呼び、q軸成分をq軸電流と呼ぶ。q軸電流は、モータトルクを発生させるように作用する。一方、d軸電流は、モータトルクを発生させるように作用しなく、弱め界磁制御に使用される。
アシストECU100は、こうした電流ベクトル制御を行うにあたって、電気角θrを検出することによりd−q座標を定める。この電気角θrは、回転角センサ22により検出される回転角信号から求められる。電気角θrは、U相コイルを貫く軸とd軸とのなす角度となる。
アシストECU100は、モータ20が通常の操舵操作で回される速度を越えない範囲で回転しているときに行う通常制御モードと、モータ20が通常の操舵操作で回される速度よりも速く回転しているときの高回転制御モードとの何れか一方を選択的に実施する。この二つの制御モードを切り替える条件については後述する。
まず、通常制御モードについて説明する。図2は、通常制御モードにおいて、アシストECU100のマイクロコンピュータのプログラム制御により処理される機能を表す機能ブロック図である。アシストECU100は、通常動作モードにおいて作動する2軸電流制御部110を備えている。2軸電流制御部110は、本発明の2軸電流制御手段に相当するもので、2軸電流指令部101,偏差演算部102,フィードバック制御部103,2相/3相座標変換部104,PWM制御信号発生部105,3相/2相座標変換部106,電気角演算部107,回転速度演算部108を備えている。
2軸電流指令部101は、q軸指令電流iq *を演算するq軸電流演算部101qと、d軸指令電流id *を演算するd軸電流演算部101dとから構成される。q軸電流演算部101qは、操舵トルクセンサ21から出力される操舵トルクTr及び車速センサ25から出力される車速Spを入力して、図4に示すアシストマップを参照することにより目標アシストトルクT*を演算する。この場合、目標アシストトルクT*は、操舵トルクTrの増加にしたがって増加するとともに車速Spの増加にしたがって減少するように設定される。この目標アシストトルクT*は、操舵トルクTrの方向(符号で識別される)と同じ方向に設定される。q軸電流演算部101qは、目標アシストトルクT*をトルク定数で除算して、d−q座標系におけるq軸指令電流iq *(q軸目標電流)を算出する。
また、d軸電流演算部101dは、後述する回転速度演算部108により演算されたモータ20の回転速度ωrを入力し、図5に示す弱め界磁マップを参照することによりd軸指令電流id *(d軸目標電流)を演算する。d軸指令電流id *は、回転速度ωrの大きさ|ωr|が設定値ω1以下の場合にはゼロ(id *=0)に設定され、回転速度ωrの大きさ|ωr|が設定値ω1を越える場合には、|ωr|の増加にしたがって弱め界磁が増加するように設定される。尚、弱め界磁制御用に使うd軸電流は負の値で表される。
尚、本明細書において、方向性を有する検出値や計算値に関しては、その大きさを論じる場合には、その値は、方向(正負)を区別しない絶対値を表すものとする。
このように演算されたq軸指令電流iq *とd軸指令電流id *は、偏差演算部102に出力される。偏差演算部102は、q軸電流偏差演算部102qとd軸電流偏差演算部102dとから構成される。q軸電流偏差演算部102qは、q軸指令電流iq *からq軸実電流iqを減算した偏差Δiqを演算する。d軸電流偏差演算部102dは、d軸指令電流id *からd軸実電流idを減算した偏差Δidを演算する。
q軸実電流iqおよびd軸実電流idは、モータ20のコイルに実際に流れた3相電流の検出値iu,iv,iwをd−q座標系の2相電流に変換したものである。この3相電流iu,iv,iwからd−q座標系の2相電流id,iqへの変換は、3相/2相座標変換部106によって行われる。3相/2相座標変換部106は、電気角演算部107から出力される電気角θrを入力し、その電気角θrに基づいて、電流センサ38により検出した3相電流iu,iv,iw(=−(iu+iv))をd−q座標系の2相電流id,iqに変換する。
3相座標系からd−q座標系に変換する変換行列Cは次式(1)にて表される。
偏差演算部102から出力された偏差Δiq,Δidは、フィードバック制御部103に出力される。フィードバック制御部103は、q軸電流フィードバック制御部103qとd軸電流フィードバック制御部103dとから構成される。q軸電流フィードバック制御部103qは、偏差Δiqを使った比例積分制御によりq軸実電流iqがq軸指令電流iq *に追従するようにq軸指令電圧vq *を演算する。d軸電流フィードバック制御部103dは、偏差Δidを使った比例積分制御によりd軸実電流idがd軸指令電流id *に追従するようにd軸指令電圧vd *を演算する。
フィードバック制御部103により演算されたq軸指令電圧vq *とd軸指令電圧vd *は、2相/3相座標変換部104に出力される。2相/3相座標変換部104は、電気角演算部107から出力される電気角θrに基づいて、q軸指令電圧vq *とd軸指令電圧vd *を3相指令電圧vu*,vv*,vw*に変換して、その変換した3相指令電圧vu*,vv*,vw*をPWM信号発生部105に出力する。3相指令電圧vu*,vv*,vw*は、本発明の2軸電流制御手段における駆動指令値に相当する。PWM信号発生部105は、3相指令電圧vu*,vv*,vw*に対応したPWM制御信号をモータ駆動回路30のスイッチング素子31〜36に出力する。これによりモータ20が駆動され、目標アシストトルクT*に追従したアシストトルクがステアリング機構10に付与される。
回転角センサ22から出力される回転検出信号は、電気角演算部107に出力される。電気角演算部107は、回転角センサ22により出力された回転検出信号からモータ20の電気角θrを演算し、演算した電気角θrを3相/2相座標変換部106,2相/3相座標変換部104、回転速度演算部108に出力する。回転速度演算部108は、電気角演算部107から出力された電気角θrを時間で微分することによりモータ20の回転速度ωrを計算し、その回転速度ωrをd軸電流演算部101dに出力する。尚、回転速度ωrは、モータ20の回転方向を識別するために、回転方向に応じた符号(正負)が付与される。
アシストECU100は、こうした2軸電流制御部110の処理によりモータ駆動回路30のスイッチング素子31〜36のデューティ比を制御する。これにより、モータ20の通電が制御されて、ステアリング機構10に目標アシストトルクT*が付与される。
こうした2軸電流制御部110の処理は、タイマーにより予め設定された制御周期T1(演算周期)で繰り返される。
次に、高回転制御モードについて説明する。高回転制御モードは、モータ20が通常の操舵操作で回される速度よりも速く回転する状態において実行される。車両の走行中において、前輪タイヤが縁石等の路面突起物に衝突したケースのように、タイヤからステアリング機構10に大きな逆入力が加わった場合には、前輪が急激に転舵される。このため、ラックバー14が軸方向に移動し、ラックバー14に連結されたステアリングシャフト12とともに操舵ハンドル11が高速で回転する。このとき、モータ20も高速で回されるため、アシストECU100は、通常制御モードに代えて高回転制御モードを実行する。
尚、本実施形態においては、緊急回避などのために運転者が通常の操作速度よりも速い速度で操舵操作した場合にも高回転制御モードが実行されて、大きなアシストトルクを発生できるようにするが、主の目的は、逆入力による操舵ハンドル11の回転を制動することであるため、以下、操舵ハンドル11の制動を目的とした説明をする。
逆入力により操舵ハンドル11が回されてしまう場合、その回転方向と反対方向に大きなトルクをモータ20で発生させるようにすれば、操舵ハンドル11の回転を減速させることができるが、モータ20(3相ブラシレスDCモータ)は、回転速度が大きくなるにつれて、以下の要因により発生できるトルクが減少する。
1.モータ20で発生する逆起電力は、モータ20の回転速度に比例する。このため、モータ20の高速回転時においては、逆起電力が電源電圧を超えてしまい、モータ20に駆動電流を流すことができなくなる。
2.電機子(モータコイル)に存在するインダクタンスにより、モータ駆動回路30の駆動周波数(モータ駆動電圧の正弦波の周波数)が上昇すると、モータ20のインピーダンスが上昇し、大きな電流を流すことができなくなる。
3.モータ20で発生する逆起電力がモータ駆動回路30の耐圧を越えた場合には、モータ駆動回路30の故障を防止するために保護リレー(例えば、電力供給ライン37に設けた図示しない開閉リレー)を開放するなどして、モータ駆動回路30の故障防止制御が行われるため、モータ20でトルクを発生させることができない。
4.逆起電力の要因によるトルク低下に対しては、負のd軸電流を流して弱め界磁制御を行うことにより、図26に示すように、モータ20の回転速度が大きい場合でも、理論上では、ある程度の大きさのトルクを発生させることができる。しかし、モータ20の回転速度の増加にしたがってモータ駆動回路30の駆動周波数が上昇すると、アシストECU100のマイクロコンピュータの制御周期による遅れ、PWM制御信号の出力遅れ、実電流や電気角の検出遅れが無視できなくなる。これにより力率が悪化してトルクが低下する。
5.d−q座標系を用いて電流ベクトル制御する場合、d軸電流,q軸電流が、q軸電圧,d軸電圧に影響し、その影響量がモータ20の回転速度に比例する。このため、モータ20の高速回転時においては、d−q座標系における制御が相互干渉し、適正なd軸電流,q軸電流を流すことが難しくなる。
6.弱め界磁制御を行うための最適なd軸指令電流の演算には、モータ20の回転速度、q軸電流、電源電圧をパラメータとして複雑な計算が必要となる。このため、アシストECU100は、マイクロコンピュータの演算負担を軽くするために、回転速度のみを使ったマップからd軸指令電流を計算するようにしているが、d軸指令電流が最適値とは異なるため、図26示す特性のような理論上の最大トルクを発生させることができない。
7.弱め界磁を行うd軸指令電流は、一般に、マップからフィードフォワード的に与えられるため、電機子巻線抵抗、電機子インダクタンス、逆起電圧定数の変動を最大限に見込んだ値に設定される。従って、理論上の最大トルクを発生させることは一層難しくなる。
そこで、アシストECU100は、高回転制御モードにおいては、通常制御モードのようにd軸電流とq軸電流とを制御する2自由度制御を行うのではなく、モータ電流の絶対値のみに着目してモータ20で最大トルクを発生するようにした1自由度制御を行う。この場合、モータ電流の絶対値を制御するための操作対象は、モータ駆動回路30の出力電圧をd−q座標系で表した電圧ベクトルのd軸に対する位相角とする。そして、アシストECU100は、マイクロコンピュータの制御周期を、通常制御モードに比べて短くして制御遅れを抑制する。つまり、制御の自由度を1つ減らしたことで、1制御周期あたりのマイクロコンピュータの演算量を減らし、それにより生じた演算能力の余剰分で制御周期を短くしている。従って、マイクロコンピュータの処理能力を上げる必要はない。
逆入力により操舵ハンドル11が回されてしまう場合、操舵ハンドル11が非常に速い速度で回される。こうした限定的な状況においては、モータ20で発生させるトルクを最大トルクに設定できれば十分であり、中間的な大きさのトルクに制御することができなくて実用上の問題はない。従って、高回転制御モードにおいては、モータ20で発生させるトルクを最大トルクに設定することで、マイクロコンピュータの演算量を減らすようにしている。
ここで、モータ電流の絶対値を制御して、モータ20で最大トルクを発生させる原理について説明する。
一般に、d−q座標系における電圧方程式は、次式(2)のように表される。
また、モータ20の出力トルクTは、次式(3)のように表される。
ここで、
vd:d軸電圧(電機子電圧のd軸成分)
vq:q軸電圧(電機子電圧のq軸成分)
id:d軸電流(電機子電流のd軸成分)
iq:q軸電流(電機子電流のq軸成分)
R:電機子巻線抵抗
L:電機子インダクタンス
ω:モータ回転速度(電気角速度)
φ:逆起電圧定数(=トルク定数)
p:微分演算子(=d/dt)
j:虚数単位(d軸を実軸、q軸を虚軸とみなせば、90°回転を意味する)
図6,図7は、この関係を電圧ベクトル線図を使って表したもので、図6は、弱め界磁を行っていない場合、図7は弱め界磁を行っている場合を表している。この電圧ベクトル線図においては、d軸電流idの変化、および、q軸電流iqの変化は小さいと考え、微分演算子の付いた項を省略している。
以下、モータ回転速度ωが、ω≧0であることを前提として説明する。
弱め界磁を行っていない状態では、モータ20に流れる電流iとしてはq軸電流iqのみとなる(i=iq)。しかし、図6に示すように、インダクタンスLに起因する干渉項が存在するため、(ωLi)だけd軸電圧が必要となる。従って、モータ20の駆動に必要な電圧ベクトルVは、図において破線にて示すように、逆起電圧(ωφ)と巻線抵抗の電圧降下(Ri)と干渉項(jωLi)とを合成したベクトルとなる。この電圧ベクトルVは、q軸よりも位相が進んでいる。
弱め界磁を行っている状態では、q軸電流iqとd軸電流id(負方向)とが流れるため電流ベクトルがq軸に対して傾く。従って、図7に示すように、巻線抵抗の電圧降下(Ri)を表す電圧ベクトルもq軸に対して傾き、この電圧ベクトルに対して90°回転した方向を向く干渉項(jωLi)のベクトルも同じ角度だけ傾く。これにより、モータ20の駆動に必要な電圧ベクトルVは、q軸電圧が(ωLid)だけ下がる。この結果、弱め界磁を行った場合には、弱め界磁を行わない場合に比べて、高い回転数までモータ20を回転させることができる。
モータ20が高速回転する場合には、逆起電圧(ωφ)がモータ駆動回路30の電圧制限値を超えるため、弱め界磁を行わないと、保護リレー等が作動してモータ20を駆動することができなくなる。図8,図9は、逆起電圧(ωφ)がモータ駆動回路30の電圧制限値を超える高速回転領域における電圧ベクトル線図である。図8は、モータ20が正方向の最大トルクを発生しているときの電圧ベクトル線図であり、図9は、モータ20が負方向の最大トルクを発生しているときの電圧ベクトル線図である。正方向のトルクとは、モータ20が回転している方向と同一方向に働くトルクであり、負方向のトルクとは、モータ20が回転している方向とは反対方向に働くトルクである。
d−q座標系において、モータ駆動回路30の出力電圧は、電圧ベクトルV(本発明の出力電圧ベクトルに相当する)で表される。従って、ベクトル線図において、原点を中心として半径がモータ駆動回路30の電圧制限値と等しい円(電圧制限円CLVと呼ぶ)の中に電圧ベクトルVの軌跡(点C)が入っていれば、電圧制限値内でモータ20を駆動することができる。電圧制限値とは、モータ駆動回路30の許容される出力電圧の最大値である。
モータ駆動回路30は、モータ20に流すことができる電流の最大値である電流制限値が設定されており、電流制限値を越えない範囲においてモータ20を駆動することができる。この場合、ベクトル線図において、q軸上の逆起電圧(ωφ)の大きさを表す位置(A点)を中心として、半径が電流制限値×Rと等しい円(電流制限円CLIと呼ぶ)の中に、巻線抵抗の電圧ベクトル(Ri)の軌跡(点B)が入っていれば、電流制限値内でモータ20を駆動することができる。
モータ駆動回路30の出力電圧の絶対値(電圧ベクトルVの絶対値)が電圧制限値に等しく、かつ、モータ20に流れる電流の絶対値が電流制限値と等しくなるときに、モータ20が最大トルクを発生することができる。この場合、図8,図9に示すように、電圧ベクトルVの軌跡(点C)が、電圧制限円CLVの周上に位置し、巻線抵抗の電圧ベクトル(Ri)の軌跡(点B)が、電流制限円CLIの周上に位置する。ベクトル線図において、電流制限円CLIの中心位置である点Aは、逆起電圧(ωφ)から決まる。点Bを電流制限円CLIの周上の適当な位置に設定すると、点Cは、点Bを通り電流制限円CLIの接線上で、距離BCが(ωLi)となる位置に決まる。点Bのとりかたが適切であれば、点Cを電圧制限円CLVの周上にのせて最大トルクを発生することができる。換言すれば、点Cが電圧制限円の周上にのるように点Bの位置を設定すれば最大トルクを発生することができる。
正方向のトルクを発生する場合は、q軸電流が正となるため、図8に示すように、点Bの位置が電流制限円CLIの中心よりも上方となり、電圧ベクトルVの位相がq軸よりも進み側となる。一方、負方向のトルクを発生する場合は、q軸電流が負となるため、図9に示すように、点Bの位置が電流制限円CLIの中心よりも下方となり、電圧ベクトルVの位相がq軸よりも遅れ側となる。尚、電圧ベクトルの位相は、ベクトル図において反時計方向が進み方向であり、時計方向が遅れ方向である。
本実施形態の高回転制御モードにおいては、電圧ベクトルVの絶対値を電圧制限値(一定)に設定した状態で、電圧ベクトルの位相を変化させることにより、モータ20に流れる電流の絶対値が目標電流絶対値(電流制限値)と等しくなるように制御する。以下、この原理について説明する。図10は、負方向のトルクを発生している状態における電圧ベクトル線図を表す。電圧ベクトルVの絶対値を一定にした状態で電圧位相(電圧ベクトルVのd軸に対する位相角θ)を変化させた場合を考える。図中において、巻線抵抗の電圧ベクトル(Ri)がAB0、干渉項の電圧ベクトル(jωLi)がB0C0となるときに、モータ20は、電流制限値内での最大の電流が流れて動作する。この時、電圧位相θは、位相角θ0となっている。この状態から、電圧位相θを遅れ方向に位相角θ1にまで変化させると、電圧ベクトルVは点C1の位置になる。このとき、三角形AB0C0と三角形AB1C1とは相似関係を有することから、点B1は容易に求めることができる。距離AC1は、距離AC0よりも大きいため、電流絶対値も大きくなる。このため、電流絶対値が電流制限値を越えてしまう。
逆に、電圧位相θを進み方向に位相角θ2まで変化させると、電圧ベクトルVは点C2の位置になる。この場合、距離AC2は、距離AC0よりも小さいため、電流絶対値も小さくなる。このため、電流絶対値が電流制限値よりも小さくなる。
このように、電圧ベクトルVの絶対値を一定にした状態で電圧位相のみを変化させることで、電流絶対値の制御が可能となることがわかる。負方向のトルクを発生している状態においては、電圧位相を進めるほど電流絶対値が小さくなる。
正方向のトルクを発生している状態においても同様の制御が可能となるが、電圧位相と電流絶対値の大小関係は逆転し、電圧位相を進めるほど電流絶対値が大きくなる。
電圧位相と電流絶対値の大小関係が逆転する境界は、線分ACがq軸に平行になる位置、つまり、位相角θが90°となる位置である。
一方、トルク発生方向(正負)が逆転する境界は、図11に示すように、線分BCがq軸に平行になる位置、つまり、位相角θがθn(>90°)となる位置である。従って、電圧位相と電流絶対値の大小関係が逆転する境界と、トルク発生方向が逆転する境界とは相違する。そこで、本実施形態においては、後述するように、位相角θが90°とθnとの間(90°≦θ≦θn)に入らないようにガードする機能を設けている。
次に、高速回転制御モードにおける処理について説明する。図3は、高速回転制御モードにおいて、アシストECU100のマイクロコンピュータのプログラム制御により処理される機能を表す機能ブロック図である。アシストECU100は、高速回転制御モードにおいて作動する電流絶対値制御部150を備えている。電流絶対値制御部150は、本発明の電流絶対値制御手段に相当するもので、目標電流設定部151,フィードフォワード制御部152,偏差演算部153,符号切替部154,フィードバック制御部155,加算部156,位相リミッタ157,加算部158,PWM信号発生部159,電気角演算部160,電流検出部163,回転速度演算部164を備えている。尚、電流絶対値制御部150の処理は、タイマーにより予め設定された制御周期T2で繰り返される。この制御周期T2は、通常動作モードにおいて作動する2軸電流制御部110の制御周期T1よりも短く設定されている。
目標電流設定部151は、モータ20に流れる電流の絶対値を目標電流絶対値として設定し、その設定した目標電流絶対値|i|*を出力する。電流絶対値|i|は、次式(4)により表されるものである。
ここで、iu,iv,iwは、U相,V相,W相の電機子電流である。
目標電流設定部151は、目標電流絶対値|i|*をモータ駆動回路30の電流制限値i lim(固定値)に設定する。この電流制限値i limは、モータ駆動回路30の仕様等で予め設定された、モータ駆動回路30に流すことが許容される最大の電流絶対値である。尚、車両内に搭載された各種電気負荷の電力消費状況と車載電源装置80の電力供給能力のバランスから、電力消費制限が必要となった場合には、図示しない電源制御コントローラからアシストECU100に電流制限値i limを指定する電流制限指令が出力される。この場合には、目標電流設定部151は、電流制限指令に応じた低めの目標電流絶対値|i|*を設定する。
目標電流絶対値|i|*は、フィードフォワード制御部152と偏差演算部153に出力される。フィードフォワード制御部152は、目標電流絶対値|i|*、操舵トルクTr、回転速度ωr、電圧制限値Vlimを入力して、モータ駆動回路30の出力電圧をd−q座標系で表した電圧ベクトルのd軸に対する位相角θFFを演算する。上述した式(2)において時間微分項を省略して電圧方程式を解くと、モータ駆動回路30の出力電圧(電圧ベクトルの絶対値V,位相角θ)と電流絶対値|i|とあいだには、次の関係式(5)が成立する。
フィードフォワード制御部152は、この関係式(5)から、モータ20に流れる電流の絶対値|i|が目標電流絶対値|i|*と等しくなるための位相角θFFを逆計算する。この場合、式(5)におけるVにモータ駆動回路30の電圧制限値Vlimを代入し、ωに回転速度ωrの大きさ|ωr|を代入し、|i|に|i|*を代入すればよい。尚、本説明においては、ω≧0であることを前提としているため、ωに代入する回転速度ωrが、ωr≦0となる場合については、ωr≧0となる場合に対して全てd軸対称に取り扱えばよい。
ここで関係式(5)を導く。
上記電圧方程式(2)において、d軸電流idの変化、および、q軸電流iqの変化は小さいと考えて微分演算子の付いた項を省略すると、次の関係式(6)が得られる。
従って、次の関係式(7)が得られる。
式(7)の両辺を2乗すると、次の関係式(8)が得られる。
式(8)における上下式を足すと関係式(9)が得られる。
これにより上記関係式(5)が導かれる。
フィードフォワード制御部152は、この関係式(5)から求められる位相角θを位相角θFFとして出力する。
尚、関係式(5)から位相角θFFを算出する場合、解が2つ存在する。つまり、位相角θFFを算出するために、関係式(5)を、θ=sin−1(x)と変形したとき、sin−1(x)は、1つのx(0≦x≦1)に対して、0°〜180°の範囲で2つの解を持つ。そこで、フィードフォワード制御部152は、位相角θFFの計算にあたって、トルクの方向が正であるか負であるかを判別し、トルクの方向が正、つまり、操舵アシスト状態においては、90°〜180°に存在する解を採用し、トルクの方向が負、つまり、モータ20が外力により回されている回生状態においては、0°〜90°に存在する解を採用する。また、トルクの方向は、操舵トルクTrの方向と回転速度ωrの回転方向とに基づいて、操舵トルクTrの方向と回転速度ωrの回転方向とが一致しているときには正、一致していないときには負と判定される。
高速回転制御モードにおいては、フィードフォワード制御部152に加えてフィードバック制御部155によりモータ20に流れる電流の絶対値|i|が目標電流絶対値|i|*と等しくなるように位相角θが調整される。偏差演算部153は、目標電流設定部151から出力された目標電流絶対値|i|*、および、電流検出部163から出力された実電流絶対値|i|をそれぞれ入力し、両者の偏差Δi(=|i|*−|i|)を演算する。実電流絶対値|i|は、電流検出部163により演算される。電流検出部163は、電流センサ38から検出した3相電流iu,iv,iw(=−(iu+iv))に基づいて、実電流絶対値|i|を演算する。実電流絶対値|i|は、次式(10)により計算される。
偏差演算部153は、演算した偏差Δiを符号切替部154に出力する。符号切替部154は、偏差Δiに加えて、操舵トルクTrと回転速度ωrとを入力する。そして、操舵トルクTrの方向と回転速度ωrの回転方向とが一致しているとき、つまり、モータ20の回転方向に対して正のトルクを発生させる場合には、ゲインを「+1」に設定する。また、操舵トルクTrの方向と回転速度ωrの回転方向とが一致していないとき、つまり、モータ20の回転方向に対して負のトルクを発生させる場合には、ゲインを「−1」に設定する。上述したように、モータ20の回転方向に対して正のトルクを発生させる場合と、負のトルクを発生させる場合とで、電圧位相と電流絶対値の大小関係が逆になる。例えば、正のトルクを発生させる場合においては、電圧位相を進める(位相角θを増やす)ほど電流絶対値が大きくなり、負のトルクを発生させる場合においては、電圧位相を進めるほど電流絶対値が小さくなる。そこで、符号切替部154は、後述するフィードバック制御部155による位相角の調整方向が正しくなるように、トルクを発生させる方向(正負)に応じたゲインを設定し、偏差Δiにゲインを乗じた値をフィードバック制御部155に出力する。以下、偏差Δiにゲインを乗じた値を単に偏差Δiと呼ぶ。
フィードバック制御部155は、偏差Δiを使った比例積分制御(PI制御)により、実電流絶対値|i|が目標電流絶対値|i|*に追従するように、モータ駆動回路30の出力電圧をd−q座標系で表した電圧ベクトルのd軸に対する位相角θFBを計算して出力する。比例積分制御においては、偏差Δiに比例ゲインを乗じた比例項と、偏差Δiに積分ゲインを乗じた値を積分した積分項との和により位相角θFBを計算する。フィードバック制御部155は、本実施形態においては、比例積分制御を行うが、比例制御のみ、あるいは、積分制御のみを行うように構成してもよい。
フィードバック制御部155から出力された位相角θFBと、フィードフォワード制御部152から出力された位相角θFFとは加算部156に入力される。加算部156は、位相角θFBと位相角θFFとを加算した位相角θFFB(=θFF+θFB)を出力する。これにより、位相角θFFBは、フィードフォワード制御部152で演算された位相角θFFに含まれる誤差が、フィードバック制御部155で演算された位相角θFBにより補償された値となる。
加算部156の出力する位相角θFFBは、位相リミッタ157に入力される。位相リミッタ157は、位相角θFFBに加えて、操舵トルクTrと回転速度ωrとを入力する。上述したように、トルクの方向(正負)に応じて、符号切替部154がフィードバック制御部155の演算する位相角θFBの符号を反転する。このため、トルクの方向が正のときに位相角θが90°未満になる場合には制御が発散してしまう。逆に、トルクの方向が負のときに位相角θが90°を越える場合においても制御が発散してしまう。位相リミッタ157は、こうした発散を防止するために、トルクの方向に応じて、位相角θのとり得る範囲を制限する。図11は、位相リミッタ157により制限される位相角θの範囲である。位相リミッタ157は、トルクの方向が負の場合には、位相角θを0°〜90°の範囲(0°≦θ≦90°)に制限する。また、トルクの方向が正の場合には、位相角θをθn〜180°の範囲(θn≦θ≦180°)に制限する。
位相角θnは、以下のように計算することができる。
図11において、電圧ベクトルVの位相角がθnとなるときは、q軸電流iqがゼロとなる。そこで、上記電圧方程式(2)において、d軸電流idの変化、および、q軸電流iqの変化は小さいと考え、微分演算子の付いた項を省略し、iq=0とすると、次の関係式(11)が得られる。
また、電圧ベクトルVの絶対値をVとすると、式(11)を式(12)として表すことができる。
式(12)から、iを消去すると、θnの関係式(13)が導き出される。
三角関数の合成公式を使うと式(13)は、式(14)にて表すことができる。
この式(14)から、位相角θnは次式(15)のように計算できる。
位相リミッタ157は、このように位相角θFFBの範囲を制限した位相角を位相角指令値θdとして加算部158に出力する。加算部158は、位相角指令値θdと、電気角演算部160から出力されるモータ20の電気角θrとを加算して、位相角指令値θdを電機子上の位相角に変換した電圧位相指令値θc(=θd+θr)を算出する。電気角演算部160は、角度演算部161と遅れ補正部162とを備えている。角度演算部161は、回転角センサ22により出力されたモータ20の回転角θmを表す検出信号を入力してモータ20の電気角θr’を演算する。遅れ補正部162は、角度演算部161により演算された電気角θr’を、その電気角θr’の時間微分値となる回転速度に比例した角度だけ補正する。つまり、遅れ補正部162は、モータ20の電気角の検出に必要な演算時間を考慮し、モータ20の回転速度に応じた遅れ時間に対応する角度だけ電気角θrを進めるように補正する。
電気角演算部160は、遅れ補正部162により補正した電気角を、電気角θrとして加算部158および回転速度演算部164に出力する。回転速度演算部164は、電気角θrを時間で微分することによりモータ20の回転速度ωrを計算し、その回転速度ωrをフィードフォワード制御部152,符号切替部154,位相リミッタ157に出力する。
尚、電気角演算部160は、遅れ補正部162を省略した構成であってもよい。また、電気角θrの検出にあたっては、回転角センサ22を用いずに、モータ20で発生する逆起電力に基づいて推定するようにしてもよい。
加算部158により演算された電圧位相指令値θcは、PWM信号発生部159に出力される。PWM信号発生部159は、電圧位相指令値θcにしたがって、モータ駆動回路30の出力電圧が式(16)で表される正弦波電圧となるように設定したPWM制御信号を生成し、そのPWM制御信号をスイッチング素子31〜36に出力する。
この場合、3相出力電圧の位相角は、位相リミッタ157から出力される位相角指令値θdがモータ20の磁極方向を基準としたd軸に対する相対角度であるため、電気角θrと位相角指令値θdを加算した角度θcとなる。
また、正弦波電圧の振幅Vは、モータ駆動回路30の電圧制限値Vlim(一定値)により決められる。例えば、電圧制限値Vlimを上記電圧ベクトルの絶対値(=√(vd 2+vq 2)=√(Vu2+Vv2+Vw2))で表した場合には、正弦波電圧の振幅Vは、電圧制限値Vlimの√(2/3)倍の値となる。
このPWM信号発生部159から出力されたPWM制御信号によりスイッチング素子31〜36が動作して、モータ駆動回路30から3相の正弦波電圧が出力される。
このような高回転制御モードにおいては、電圧ベクトルVの絶対値を電圧制限値Vlimに設定した状態で、モータ20に流れる電流の絶対値が電流制限値i limと等しくなるようなモータ駆動回路30の出力電圧の位相が設定される。つまり、図8,図9に示すように、電圧ベクトルVの軌跡Cを電圧制限円CLVの周上にのせた状態で、電流ベクトルiに巻線抵抗Rを乗じた電圧ベクトル(Ri)の軌跡(点B)が、電流制限円CLIの周上にのるようなモータ駆動回路30の出力電圧の位相が設定される。
この場合、電流の絶対値のみを制御する1自由度制御となり、通常制御モードのようにd軸電流とq軸電流とを制御する2自由度制御に比べて、1制御周期あたりのマイクロコンピュータの演算量を減らすことができる。これにより、マイクロコンピュータの制御周期を通常制御モードに比べて短くして制御遅れを抑制することができる。また、計算式に用いるパラメータ(巻線抵抗R、インダクタンスL、逆起電圧定数φ)の変動や外乱に対しても、フィードバック制御部155が、モータ20に流れる電流の絶対値|i|と目標電流絶対値|i|*との偏差Δiに応じて位相角を調整するため、最適な電圧位相を設定することができる。従って、既存のマイクロコンピュータを使って、理論上の最大トルクに近い大きなトルクを発生することができる。
次に、通常制御モードと高回転制御モードとの切り替え処理について説明する。図12は、アシストECU100により実行されるモード切替制御ルーチンを表す。モード切替制御ルーチンは、アシストECU100のマイクロコンピュータのROM内に制御プログラムとして記憶されており、イグニッションキーがオン状態となっているあいだ所定の周期で繰り返し実行される。
アシストECU100は、モード切替制御ルーチンを起動すると、ステップS11において、回転速度ωrを時間微分することにより、モータ20の回転加速度A(=dωr/dt)を計算する。尚、回転速度ωrは、回転角センサ22の出力する回転角θmの変化量、あるいは、電気角θrの変化量から計算できる。
続いて、アシストECU100は、ステップS12において、図13に示す閾値設定マップを参照して、閾値ωthを設定する。この閾値ωthは、本発明の基準速度に相当する。閾値設定マップは、回転加速度Aの大きさ|A|(以下、回転加速度|A|と呼ぶ)と閾値ωthとを関係付けるデータとしてアシストECU100のROM内に記憶されている。閾値設定マップは、回転加速度|A|が設定値A1を越える場合には、回転加速度|A|が設定値A1以下となる場合に比べて、小さな閾値ωthを設定する。この閾値ωthは、通常の操舵操作では、検出されない大きな値に設定されている。
尚、閾値ωthは、2段階に切り替えられるものに限るものではなく、回転加速度|A|が大きくなると減少するように設定されるものであればよい。例えば、図14に示す閾値設定マップを用いても良い。この閾値設定マップでは、回転加速度|A|が大きくなるほど徐々に減少する閾値ωthを設定する。
続いて、アシストECU100は、ステップS13において、回転速度ωrの大きさ|ωr|(以下、回転速度|ωr|と呼ぶ)が閾値ωthよりも大きいか否かを判断する。回転速度|ωr|が閾値ωth以下であれば(S13:No)、ステップS14において、通常制御モードを選択し、回転速度|ωr|が閾値ωthを越えていれば(S13:Yes)、ステップS15において、高速回転制御モードを選択する。アシストECU100は、制御モードを選択するとモード切替制御ルーチンを一旦終了する。アシストECU100は、モード切替制御ルーチンを所定の周期で繰り返し実行することにより、常に回転速度|ωr|に応じた制御モードを選択する。
高速回転制御モードにおいては、弱め界磁を強くするため、通常制御モードに比べてモータ20の作動音が発生しやすい。従って、高速回転制御モードは、例えば、前輪タイヤが路面突起物に衝突してモータ20が回される場合のように、通常の操舵操作では検出されないほどの高速でモータ20が回るときのみにおいて実行される事が望まれる。モータ20の回転速度が閾値を越えたときに、高速回転制御モードへ切り替わるように設定すれば、作動音の発生を抑えることができる。しかし、作動音の発生を抑えるために、むやみに閾値を高く設定すると、モータ20の回転速度が上昇し始める初期においては、高速回転制御モードに素早く移行できず、大きなトルクを発生させることができない。そこで、本実施形態においては、閾値ωthをモータ20の回転加速度|A|に応じて切り替えるようにしている。
前輪タイヤが路面突起物に衝突してステアリング機構10に大きな力が加わった場合には、モータ20の回転速度が急激に増加する。従って、モータ20の回転加速度の大きさが大きいほど、大きな外力が入力されていると考えることができる。そこで、モード切替制御ルーチンにおいては、モータ20の回転加速度|A|が大きい場合には、制御モードを切り替えるための閾値ωthを小さな値に設定して、早く高速回転制御モードに移行できるようにしている。これにより、タイヤからステアリング機構10に大きな力が加わった場合には、瞬時に高速回転制御モードを実行して操舵ハンドル11の回転を減速させて衝撃を低減させることができる。逆に、回転加速度|A|が小さい場合には、閾値ωthを大きな値に設定する。これにより、ステアリング機構10に働く小さな逆入力に対しては、回転速度が大きくなるまで高速回転制御モードへ移行しないようにする。従って、必要以上に高速回転制御モードに移行することが抑制される。これにより、操舵ハンドル11の制動と、モータ作動音の発生の低減とを両立することができる。
ここで、閾値ωthを固定した場合と、閾値ωthを回転加速度|A|に応じて変化させた場合とにおける制御モードの切替タイミングを比較する。図15は、タイヤが路面突起物に衝突してステアリング機構10に大きな逆入力が加わったときの回転速度の推移、回転加速度の推移、閾値の推移を表す。図中において、ωthsは固定した閾値、ωsは閾値ωthsを用いて制御モードを切り替えた場合のモータ20の回転速度、ωthvは閾値設定マップ(図14)により設定された閾値、ωvは閾値ωthvを用いて制御モードを切り替えた場合のモータ20の回転速度を表す。
時刻t1において、タイヤが路面突起物に衝突すると、モータ20が急激に回り始める。固定した閾値ωthsを用いた場合には、時刻t3において回転速度ωsが閾値ωthsを越えて高速回転制御モードに移行する。一方、閾値設定マップ(図14)により閾値ωthを設定した場合には、時刻t1から回転加速度Aが急激に増加するため、これに伴って閾値ωthvが減少する。このため、時刻t3より早い時刻t2において、回転速度ωvが閾値ωthvを越えて高速回転制御モードに移行する。従って、モータ20で大きな負のトルクを発生させることができる期間が長くなり、モータ20の回転速度の増加を一層抑制することができる。
尚、本実施形態においては、閾値ωthの設定にあたって、モータ20の回転加速度|A|の増加に伴って閾値ωthが減少するようにしているが、操舵トルク|Tr|の増加に伴って閾値ωthが減少するようにしてもよい。モータ20が逆入力により回される場合においては、逆入力が大きくなるほど、操舵トルクセンサ21により検出される操舵トルクTrの大きさ|Tr|が大きくなる。従って、回転加速度|A|に代えて、操舵トルク|Tr|に基づいて閾値ωthを設定することにより、上記の効果を奏することができる。この場合、図13あるいは図14の閾値設定マップの横軸は、操舵トルク|Tr|となる。また、ステップS11の処理は、操舵トルクセンサ21から操舵トルクTrを読み込む処理に変更すればよい。
また、通常制御モードにおいては、操舵トルクTrに応じて、目標アシストトルクT*(アシストトルク指令値)、q軸指令電流iq *(モータ電流指令値)が設定される。従って、操舵トルクTrの増加に伴って、目標アシストトルクT*、q軸指令電流iq *も増加する。このことから、閾値ωthを、目標アシストトルクT*あるいはq軸指令電流iq *の増加に伴って減少させるように構成してもよい。このように構成した場合においても、上記の効果を奏することができる。
次に、モータ20の出力トルク特性について説明する。図16〜18は、モータ20を外力により回したときの出力トルク特性をシミュレーションにより求めたグラフである。出力トルクは、回生トルクとなり負の値をとるため、縦軸の下側ほど大きな値(絶対値が大きい)となる。各図において、縦軸,横軸の目盛は全て共通である。図16、図17は、高速回転制御モードに切り替えずに通常制御モードのみを実行したときの特性を表し、図16は、制御遅れが無い場合、図17は、制御遅れがある場合の特性を表す。制御遅れとは、電気角の検出遅れ、モータ電流の検出遅れ、モータ制御値の演算遅れ、PWM制御信号の出力遅れなどである。
通常制御モードでは、所定回転速度ω1を越えた領域で弱め界磁マップにしたがって弱め界磁制御を行っている。弱め界磁マップは、最適値よりも多少の余裕をもたせてd軸指令電流id *を設定するため、モータ20で出力可能なトルクは、理論上の最大トルクより小さくなる。
制御遅れがある場合には、出力トルクは、回転速度がω2となるあたりから振動的となり、回転速度がω3となると完全に発散する。出力波形が切れているところは、反対方向のトルクを出力している。
制御遅れがない場合には、回転速度がω3となると、d−q座標系における制御が相互干渉し応答が振動的になる。
図18は、本実施形態のモータ制御を実施した場合の出力特性図である。このシミュレーションでは、回転速度ωcにおいて通常制御モードを高速回転制御モードに切り換えている。この特性図から、本実施形態によれば、モータ20が高速回転している状態であっても、出力トルクの振動は発生せず、安定した制御が行われることがわかる。また、高速回転時における出力トルクは、通常制御モードでモータ20を駆動した場合の出力トルクよりも大きい。また、高速回転制御モードにおいては、回転速度に対する出力トルクの特性が、図26に示す理論上の最大トルク特性に近い値をとることも確認されている。
以上説明した本実施形態の電動パワーステアリング装置によれば、モータ20が高速回転した場合には、モータ20の制御モードが高速回転制御モードに切り替わるため、高速回転状態であっても、モータ20から大きなトルクを発生させることができる。これにより、路面からの逆入力により操舵ハンドル11が急激に回されても、モータ20で負方向の大きなトルクを発生させて、操舵ハンドル11の回転を良好に制動することができる。また、この制動により、ラックエンド部材がストッパに衝突したときに発生する衝突音を低減することができる。従って、運転者の不快感を低減することができる。また、アシストECU100に設けられるマイクロコンピュータの演算能力、モータ20の性能、モータ駆動回路30の性能を変更せずに実施できるためコストアップを招かない。
また、符号切替部154により操舵トルクTrの方向と回転速度ωrの方向との一致、不一致を判定し、トルクを発生させる方向に応じたゲイン(1、−1)を設定するため、フィードバック制御を組み込んでも、負方向のトルクだけでなく、正方向のトルクを適正に発生させることができる。このため、緊急回避などのために、運転者が通常の操作速度よりも速い速度で操舵操作したときにも高速回転制御モードに切り換えて、回避操作方向に大きな操舵アシストトルクを発生させることができる。これにより、運転者の回避操作が容易になる
また、高速回転制御モードにおいては、回転加速度|A|の増加に伴って、あるいは、操舵トルク|Tr|の増加に伴って、閾値ωthを減少させるため、操舵ハンドル11の制動と、作動音の発生の低減とを両立することができる。
次に、第2実施形態の電動パワーステアリング装置について説明する。第2実施形態の電動パワーステアリング装置は、上述した実施形態(以下、第1実施形態と呼ぶ)における高速回転制御モードを、回転速度|ωr|に応じて第1高速回転制御モードと第2高速回転制御モードとに切り替えるようにしたもので、他の構成については第1実施形態と同一である。
モータ20の回転速度が高くなるほど逆起電力が増加するため、モータ20が非常に高速で回転しているときには、図19に示すように、電圧ベクトル線図における点Aの位置が電圧制限円CLVから遠ざかる。このため、距離ACは、位相角θの影響をほとんど受けなくなる。従って、位相角θが多少変化してもモータ電流がほとんど変化しないため、厳密な電流制御を行う必要が無い。そこで、第2実施形態においては、第1実施形態で用いた閾値ωth(ここでは、第1閾値ωth1と呼ぶ)よりも大きな第2閾値ωth2を記憶し、回転速度|ωr|が第2閾値ωth2を越えたときには、アシストECU100の1制御周期あたりの演算量が少ない第2高速回転制御モードを実行する。この第2高速回転制御モードにおいては、1制御周期あたりの演算量を減らしたことで、第1実施形態の高速回転制御モードにおける制御周期よりも短い制御周期が設定されている。
まず、制御モードの切替について説明する。図20は、第2実施形態におけるモード切替制御ルーチンを表す。モード切替制御ルーチンは、アシストECU100のマイクロコンピュータのROM内に制御プログラムとして記憶されており、イグニッションキーがオン状態となっているあいだ所定の周期で繰り返し実行される。
アシストECU100は、モード切替制御ルーチンを起動すると、ステップS21において、回転速度|ωr|が第2閾値ωth2よりも大きいか否かを判断する。この第2閾値ωth2は、第1閾値ωth1よりも大きな値に設定された固定値である。アシストECU100は、回転速度|ωr|が第2閾値ωth2以下である場合(S21:No)には、第1実施形態におけるステップS11〜ステップS12と同様に、ステップS22において、モータ20の回転加速度Aを計算し、ステップS23において、図13あるいは図14に示した閾値設定マップを参照して、回転速度|ωr|の第1閾値ωth1を演算する。続いて、ステップS24において、回転速度|ωr|が第1閾値ωth1よりも大きいか否かを判断し、回転速度|ωr|が閾値ωth1以下であれば(S24:No)、ステップS25において、通常制御モードを選択する。回転速度|ωr|が第1閾値ωth1を越えていれば(S24:Yes)、ステップS26において、第1高速回転制御モードを選択する。この第1高速回転制御モードは、第1実施形態における高速回転制御モードと同じ制御モードである。
また、アシストECU100は、ステップS21において、回転速度|ωr|が第2閾値ωth2よりも大きいと判断した場合には、ステップS27において、第2高速回転制御モードを選択する。アシストECU100は、制御モードを選択するとモード切替制御ルーチンを一旦終了する。アシストECU100は、モード切替制御ルーチンを所定の周期で繰り返し実行することにより、常に回転速度|ωr|に応じた制御モードを選択する。尚、この実施形態においては、第2閾値ωth2を固定値としているが、第1閾値ωth1より大きな値となる範囲で可変するようにしてもよい。例えば、第1閾値ωth1に係数K(>1)を乗じた値に設定するようにしてもよい。
次に、第2高速回転制御モードにおける処理について説明する。図21は、第2高速回転制御モードにおいて、アシストECU100のマイクロコンピュータのプログラム制御により処理される機能を表す機能ブロック図である。アシストECU100は、第2高速回転制御モードにおいて作動するオープンループ制御部200を備えている。オープンループ制御部200は、位相角演算部201,加算部202,PWM信号発生部203,電気角演算部204,回転速度演算部207を備えている。尚、オープンループ制御部200の処理は、タイマーにより予め設定された制御周期T3(演算周期)で繰り返される。この制御周期T3は、第1高速回転制御モードにおいて作動する2軸電流制御部110の制御周期T2よりも短く設定されている。
位相角演算部201は、位相角設定マップを記憶しており、この位相角設定マップを参照して回転速度|ωr|から位相角指令値θmapを演算する。位相角指令値θmapは、電圧ベクトルのd軸に対する位相角の目標値である。位相角設定マップは、モータ20の回転速度|ωr|と位相角指令値θmapとを関係付けたデータであり、上記式(5)から作成することができる。位相角設定マップは、図22に示すように、3つのタイプを考えることができる。Aは、回転速度|ωr|の増加に伴って位相角指令値θmapが増加する増加型マップ、Bは回転速度|ωr|に関わらず位相角指令値θmapが一定となる一定型マップ、Cは回転速度|ωr|の増加に伴って位相角指令値θmapが減少する減少型マップを表す。3つのタイプの位相角設定マップは、モータ20のインダクタンスし、逆起電圧定数φ、モータ駆動回路30の電流制限値に応じて使い分けることができる。
ここで、図19において、線分OAと線分BCの長さが、回転速度ωによってどのような影響を受けるかについて考える。線分OAは、電圧ωφの大きさを表し、線分BCは電圧ωLiの大きさを表す。従って、線分OA、線分BCの長さは、回転速度ωに比例する。電圧制限値に比べて逆起電圧ωφが極端に大きくなる高速回転時においては、線分OAと線分BCとがほぼ平行になるため、φとLiとの大小関係から特性を分類することができる。
φがLiよりも大きい場合(φ>Li)には、回転速度ωが上昇すると逆起電圧ωφの方が電圧ωLiよりも早く大きくなる。このため、回転速度ωの増加にしたがって電圧位相θを90°(q軸)に向かって大きくしなければならない。仮に、回転速度ωの増加にしたがって電圧位相θを小さくしてしまうと、線分BCの距離が大きくなってしまい、モータ電流が電流制限値を越えてしまう。
また、φがLiよりも小さい場合(φ<Li)には、回転速度ωが上昇すると電圧ωLiのほうが逆起電圧ωφよりも早く大きくなる。このため、回転速度ωの増加にしたがって電圧位相を0°(d軸)に向かって小さくしなければならない。
従って、φ>Liとなる場合には増加型マップAを使用し、φLi≒Liとなる場合には一定型マップBを使用し、φ<Liとなる場合には減少型マップCを使用するとよい。
本実施形態においては、モータ20の高速回転時には、モータ電流の絶対値|i|が電流制限値i limとなるように制御するため、上記関係式のLiにおけるiに電流制限値i limを代入すればよい。従って、アシストECU100に記憶する位相角設定マップは、1つのパターンでよい。尚、電力制限や発熱制限などにより、電流制限値i limが変化するシステム構成の場合には、電流制限値i limに応じた位相角設定マップを複数記憶しておき、電流制限値i limの指令を入力して位相角設定マップを選択するようにするとよい。
また、オープンループ制御部200は、負の方向となるトルクを発生させるように構成されるが、負の方向だけでなく、正の方向にもトルクを発生させるシステムを構成する場合には、位相角演算部201に、回転速度ωrに加えて操舵トルクTrを入力することで、モータ20で発生させるトルクの方向を判別するとよい。正の方向のトルクを発生させる場合には、位相角設定マップの特性は、負の方向のトルクを発生させる場合とは逆の特性になる。つまり、負の方向のトルクを発生させる場合に増加型マップAを使用するケースでは、正の方向のトルクを発生させる場合には減少型マップCを使用し、負の方向のトルクを発生させる場合に減少型マップCを使用するケースでは、正の方向のトルクを発生させる場合には増加型マップAを使用すればよい。
位相角演算部201は、位相角設定マップを参照して演算した位相角指令値θmapを加算部202に出力する。加算部202は、位相角指令値θmapと、電気角演算部204から出力されるモータ20の電気角θrとを加算して、位相角指令値θmapを電機子上の位相角に変換した電圧位相指令値θc(=θmap+θr)を算出する。電気角演算部204は、角度演算部205と遅れ補正部206とを備えている。角度演算部205は、回転角センサ22により出力されたモータ20の回転角θmを表す検出信号を入力してモータ20の電気角θr’を演算する。遅れ補正部206は、モータ20の電気角の検出に必要な演算時間の遅れを考慮して、モータ20の回転速度に比例した角度だけ電気角θr’を補正する。
電気角演算部204は、遅れ補正部206により補正した電気角を電気角θrとして加算部202および回転速度演算部207に出力する。回転速度演算部207は、電気角θrを時間で微分することによりモータ20の回転速度ωrを演算し、その回転速度ωrを位相角演算部201に出力する。
加算部202により演算された電圧位相指令値θcは、PWM信号発生部203に出力される。PWM信号発生部203は、電圧位相指令値θcにしたがって、モータ駆動回路30の出力電圧が式(17)で表される正弦波電圧となるように設定したPWM制御信号を生成し、そのPWM制御信号をスイッチング素子31〜36に出力する。この場合も、第1実施形態と同様に、正弦波電圧の振幅Vは、モータ駆動回路30の電圧制限値により決められる。
このPWM信号発生部203から出力されたPWM制御信号によりスイッチング素子31〜36が動作して、モータ駆動回路30から3相の正弦波電圧が出力される。
この第2実施形態の電動パワーステアリング装置においては、タイヤが路面突起物に接触してステアリング機構に大きな逆入力が加わり回転速度|ω|が第1閾値ωth1を越えると、制御モードが通常モード制御モードから第1高速回転制御モードに切り替わる。これにより、アシストECU100は、モータ駆動電圧を電圧制限値に維持した状態で、モータ20に流れる電流の絶対値が制限範囲における最大となるようにモータ駆動回路30を制御し、負の方向となる大きなトルクをモータ20で発生させる。従って、操舵ハンドル11の回転を制動させる力が働くが、逆入力が大きい場合には、回転速度がさらに上昇していくこともある。そこで、アシストECU100は、回転速度|ωr|が第2閾値ωth2を越えた場合には、制御モードを第1高速回転制御モードから第2高速回転制御モードに切り替えて、フィードバック制御を行わずにオープンループ制御のみにてモータ駆動回路30の電圧位相を設定する。しかも、マップから位相角指令値θmapを得るようにしているため1制御周期あたりの演算量が少なくなる。このため、オープンループ制御部200(第2高速回転制御モード)の制御周期T3を電流絶対値制御部150(第1高速回転制御モード)の制御周期T2よりも短くすることが可能となる。これにより、モータ20が非常に高速で回転している状況であっても、制御遅れが抑制され制御の安定性が向上する。この結果、第2実施形態の電動パワーステアリング装置によれば、モータ20が非常に高速で回された場合であっても、大きなトルクを発生させることができる。
ここで、第2実施形態におけるモータ20の出力トルク特性について説明する。図23,図24は、モータ20を外力により高速で回したときの出力トルク特性をシミュレーションにより求めたグラフである。図23が、第2実施形態により制御モードを切り替えてモータ20を駆動制御した場合の特性図であり、図24が、制御モードを切り替えずに通常制御モードのみにてモータ20を駆動制御した場合の特性図である。
各図において、縦軸,横軸の目盛は、図16〜図18の特性図と共通である。従って、図23,図24の特性図は、モータ20を非常に速い高速回転域まで回転させたシミュレーション結果である。尚、図24の特性図は、制御遅れが無い場合のシミュレーション結果である。
この特性図からわかるように、第2実施形態においては、回転速度ω4となる非常に速い高速回転域においても安定したトルクを出力できる。このトルクは、図26に示す理論上の最大トルク特性におけるトルクと近い値であることが確認されている。一方、通常制御モードのみにてモータ20を駆動制御した場合には、制御遅れが無くても、回転速度ω4では、トルクを出力できない。
次に、第3実施形態の電動パワーステアリング装置について説明する。第3実施形態の電動パワーステアリング装置は、第1実施形態における高速回転制御モードにおける一部の処理を変更したもので、他の構成については第1実施形態と同一である。
図25は、第3実施形態における高速回転制御モードにおいて、アシストECU100のマイクロコンピュータのプログラム制御により処理される機能を表す機能ブロック図である。アシストECU100は、高速回転制御モードにおいて作動する電流絶対値制御部250を備えている。第3実施形態の電流絶対値制御部250は、第1実施形態の電流絶対値制御部150の目標電流設定部151、フィードフォワード制御部152、偏差演算部153、電流検出部163に代えて、目標電流設定部251、フィードフォワード制御部252、偏差演算部253、電流検出部263を備えている。他の機能部については、第1実施形態と同一であるため、図面に第1実施形態と同じ符号を付して説明を省略する。
第1実施形態においては、電流の絶対値を目標値として設定しているが、第3実施形態においては、マイクロコンピュータの演算負担を軽くするために、電流の絶対値の2乗を目標値として使用するものである。尚、第1実施形態と第3実施形態との相違は、演算上の相違であって、モータ電流の絶対値が目標電流絶対値に等しくなるための位相角を演算する電流絶対値制御手段を備えている点では同じである。
目標電流設定部251は、モータ20に流れる電流の絶対値の2乗を目標値として設定し、その設定した目標電流絶対値|i|2*を出力する。この目標電流絶対値|i|2*は、第1実施形態における目標電流絶対値|i|2*を2乗したものに相当する。
電流検出部263は、電流センサ38から検出した3相電流iu,iv,iw(=−(iu+iv))に基づいて、実電流絶対値|i|の2乗を計算し、その計算結果を、実電流絶対値|i|2として出力する。実電流絶対値|i|2は、次式(18)により計算される。従って、平方根の演算処理が不要となる。
フィードフォワード制御部252は、目標電流絶対値|i|2*、操舵トルクTr、回転速度ωr、電圧制限値Vlimを入力して、上記式(5)の関係を用いてモータ駆動回路30の出力電圧の位相角θFFを計算する。この場合、式(5)の左辺に目標電流絶対値|i|2*を代入すれば良いため、2乗の演算処理を省略することができる。
偏差演算部253は、目標電流設定部251から出力された目標電流絶対値|i|2*、および、電流検出部263から出力された実電流絶対値|i|2を入力し、両者の偏差Δi(=|i|2*−|i|2)を計算する。この偏差Δiは、第1実施形態における偏差Δiと符号(正負)が同一となる。従って、この偏差Δiを用いたフィードバック制御に関しては、第1実施形態の処理と同一となる。
この第3実施形態における高速回転制御モードでは、平方根の計算処理、2乗の計算処理を少なくすることができるため、マイクロコンピュータの1制御周期あたりの演算量を低減することができる。このため、高速回転制御モードにおける制御周期を第1実施形態よりもさらに短くすることができる。この結果、制御遅れが抑制され制御の安定性が向上する。
以上、本実施形態の電動パワーステアリング装置について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
例えば、本実施形態では、高速回転制御モードを実行する場合、フィードフォワード制御とフィードバック制御とを組み合わせているが、何れか一方のみを使って、電圧位相を調整してモータ電流の絶対値が目標電流絶対値に等しくなるようにモータ駆動回路30の作動を制御するようにしてもよい。
また、本実施形態では、モータ20の高速回転状態の判定を行う場合、回転速度の閾値ωthを切り替えるようにしているが、閾値ωthを固定にした構成であってもよい。
また、本実施形態においては、緊急回避などのために、運転者が通常の操作速度よりも速い速度で操舵操作したときに、高速回転制御モードが選択されるように閾値ωthを設定しているが、閾値ωthをもっと大きな値に設定して、緊急回避時の操舵操作では高速回転制御モードに切り替わらないようにすることもできる。この場合には、逆入力が働いたときにのみ、高速回転制御モードによるモータ制御が実行される。
また、本実施形態の電動パワーステアリング装置は、ラックバー14にモータ20を組み付けたラックアシストタイプであるが、ステアリングシャフト12にモータ20を組み付けたコラムアシストタイプにも適用することもできる。
Claims (9)
- ステアリング機構に設けられて操舵アシストトルクを発生する永久磁石同期モータと、
前記モータに3相駆動電圧を出力して前記モータを駆動する駆動回路と、
前記モータの永久磁石による磁界に沿う方向となるd軸と前記d軸に直交する方向となるq軸とを定めたd−q座標系を用いて、d軸方向に磁界を発生させるd軸電流とq軸方向に磁界を発生させるq軸電流とを制御するための駆動指令値を演算し、前記駆動指令値に応じた駆動制御信号を前記駆動回路に出力する2軸電流制御手段と
を備えた電動パワーステアリング装置において、
前記モータが、通常の操舵操作では検出されない高速で回転している高速回転状態を検出する高速回転状態検出手段と、
前記d−q座標系で表した前記駆動回路の出力電圧ベクトルの絶対値を前記駆動回路の電圧制限値に設定した状態で、前記モータに流れるモータ電流の絶対値が目標電流絶対値と等しくなるための前記出力電圧ベクトルの前記d軸に対する位相角を演算し、前記演算した位相角と前記電圧制限値とに応じた駆動制御信号を前記駆動回路に出力する電流絶対値制御手段と、
前記高速回転状態検出手段により前記高速回転状態が検出されたとき、前記2軸電流制御手段に代わって前記電流絶対値制御手段を作動させる制御切替手段と
を備えたことを特徴とする電動パワーステアリング装置。 - 前記電流絶対値制御手段は、
前記モータの回転速度を検出する回転速度検出手段と、
前記目標電流絶対値と、前記駆動回路の電圧制限値と、前記回転速度検出手段により検出した前記モータの回転速度とに基づいて、前記出力電圧ベクトルの前記d軸に対する位相角を演算する位相角演算手段と
を備えたことを特徴とする請求項1記載の電動パワーステアリング装置。 - 前記電流絶対値制御手段は、
前記モータ電流の絶対値を検出する電流検出手段と、
前記目標電流絶対値と前記電流検出手段により検出したモータ電流の絶対値との偏差に基づいて、前記位相角演算手段により演算された位相角を調整するフィードバック制御手段と
を備えたことを特徴とする請求項2記載の電動パワーステアリング装置。 - 前記フィードバック制御手段は、
前記モータが回転している方向と、前記モータによりトルクを発生させる方向との一致、不一致を判定する方向判定手段を備え、
前記モータ回転方向と前記トルクを発生させる方向とが一致しているときには、前記検出したモータ電流の絶対値が前記目標電流絶対値より小さい場合に前記位相角を増加させ、前記検出したモータ電流の絶対値が前記目標電流絶対値より大きい場合に前記位相角を減少させ、前記モータ回転方向と前記トルクを発生させる方向とが一致していないときには、前記検出したモータ電流の絶対値が前記目標電流絶対値より小さい場合に前記位相角を減少させ、前記検出したモータ電流の絶対値が前記目標電流絶対値より大きい場合に前記位相角を増加させることを特徴とする請求項3記載の電動パワーステアリング装置。 - 前記目標電流絶対値は、前記駆動回路の電流制限値に設定されていることを特徴とする請求項1ないし請求項4の何れか一項記載の電動パワーステアリング装置。
- 前記高速回転状態検出手段は、
前記モータの回転速度を検出する回転速度検出手段を備え、前記検出した回転速度が基準速度を超えているときに前記高速回転状態であると判定することを特徴とする請求項1ないし請求項5の何れか一項記載の電動パワーステアリング装置。 - 前記モータの回転加速度の増加に伴って、前記基準速度を減少させる基準速度変更手段を備えたことを特徴とする請求項6記載の電動パワーステアリング装置。
- 前記ステアリング機構に入力される操舵トルクの増加に伴って、前記基準速度を減少させる基準速度変更手段を備えたことを特徴とする請求項6記載の電動パワーステアリング装置。
- 前記回転速度検出手段により検出した回転速度が前記基準速度よりも大きな第2基準速度を越えている状態を検出する第2高速回転状態検出手段と、
前記モータの回転速度と前記出力電圧ベクトルのd軸に対する位相角との関係を設定したマップを記憶し、前記第2高速回転状態検出手段により前記回転速度が前記第2基準速度を越えている状態が検出されたとき、前記マップを使って前記回転速度検出手段により検出したモータの回転速度から前記位相角を演算する第2位相角演算手段と
を備えたことを特徴とする請求項6ないし請求項8の何れか一項記載の電動パワーステアリング装置。
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