本発明の塗工紙は、基紙の両面に、澱粉類を主成分とする少なくとも1層の下塗り塗工層が形成され、前記下塗り塗工層の上に、顔料及び接着剤を主成分とする上塗り塗工層が設けられた、少なくとも2層の塗工層を有する印刷用塗工紙であって、
前記印刷用塗工紙は、厚み方向に5分割して、表面から順にA、B、C、D及びEとした場合に、Cに対するB及びDのそれぞれの澱粉含有量の割合が、1.6以上2.0以下であることを特徴とする印刷用塗工紙である。
<基紙>
まず、本発明の塗工紙を構成する基紙の主成分であるパルプ繊維について説明する。パルプ繊維の原料である原料パルプとしては、一般に製紙用途で使用されているものを使用することが可能である。原料パルプの種類は特に限定されず、例えば、化学パルプ、機械パルプ、古紙パルプ等が好適に例示される。
化学パルプとしては、例えば、未晒針葉樹パルプ(NUKP)、未晒広葉樹パルプ(LUKP)、晒針葉樹パルプ(NBKP)、晒広葉樹パルプ(LBKP)等が例示され、これらの中から1種又は2種以上を適宜選択して使用することができる。
化学パルプの他にも、例えば近年の環境に優しく、資源を有効活用できる古紙からなる古紙パルプを使用することもできる。古紙パルプとしては、例えば、茶古紙、クラフト封筒古紙、雑誌古紙、新聞古紙、チラシ古紙、オフィス古紙、段ボール古紙、上白古紙、ケント古紙、模造古紙、地券古紙等から製造される離解古紙パルプ、離解・脱墨古紙パルプ、離解・脱墨・漂白古紙パルプ等が例示され、これらの中から1種又は2種以上を適宜選択して使用することができる。
また、機械パルプも使用することができ、例えば、ストーングランドパルプ(SGP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、サーモグランドパルプ(TGP)、グランドパルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、リファイナーメカニカルパルプ(RMP)等が例示され、これらの中から1種又は2種以上を適宜選択して使用することができる。
いずれの原料パルプを用いる場合であっても、各々の離解パルプのフリーネスを調整することが好ましい。パルプを叩解し、パルプ繊維を毛羽立たせる(フィブリル化)することでパルプ繊維同士が接触しやすくなり、パルプ繊維間に発生する水素結合により紙の内部強度、特に層間強度が向上するため、ブリスターが発生しにくくなるため好ましい。離解パルプのフリーネスは、JIS P 8220に記載の「パルプ−離解方法」に準拠して離解した離解パルプを用い、JIS P 8121に記載の「パルプのろ水度試験方法」に準拠した方法で、カナディアンスタンダードフリーネス(以下、「CSF」という)を測定できる。
原料パルプは、CSFを400mL以上600mL以下に調整することが好ましく、450mL以上550mL以下に調整することがより好ましい。CSFが600mLを超過するとブリスターが発生しやすくなり、一方、CSFが400mLを下回ると、地合いが悪化するため見栄えが悪くなるためである。
上述のごとく叩解することで、パルプの引裂強度が低下し、後述する抄造段階において断紙が発生し易くなる場合もあるが、本発明においては、例えば、抄紙設備を特定することで、引裂強度が低下しても断紙の発生を極力抑えることが可能である。
上記原料パルプには、内添紙力増強剤を添加することができる。原紙水分率が6〜10%と高い状態で下塗り塗工層を塗工すると、断紙が発生し易くなる問題がり、断紙を防止するために内添紙力増強剤を添加してもよい。但し、内添紙力増強剤を添加することで、得られる塗工紙の白紙光沢度及び印刷光沢度が低下する可能性があるため、内添紙力増強剤の添加量は、パルプに対して固形分換算で0.1質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以下であることがさらに好ましい。
内添紙力増強剤としては、例えば、両性、アニオン性又はカチオン性のポリアクリルアミド系樹脂(PAM)、ポリアミン系樹脂、尿素−ホルムアルデヒド系樹脂、メラミン−ホルムアルデヒド系樹脂、エポキシ−ポリアミド系樹脂等を挙げることができる。
上記原料パルプには、内添紙力増強剤と同じく、断紙防止の目的でカチオン化澱粉を配合することもできるが、配合量が多すぎると、得られる塗工紙の白紙光沢度及び印刷光沢度が低下する可能性がある。このため、カチオン化澱粉の配合量は、パルプに対して固形分換算で5.0質量%以下であることが好ましく、3.0質量%以下であることがさらに好ましい。
本発明においては、後述する特定の抄紙設備を用いて抄造することで、上述のごとく内添紙力増強剤及びカチオン化澱粉を配合しなくても、断紙することなく原紙水分率を4質量%以上10質量%以下とすることができる。これにより、白紙光沢度及び印刷光沢度に優れており、かつ、原紙内部にまで澱粉を浸透させることで、耐火ぶくれ性にも優れた塗工紙を得ることができる。
上記原料パルプには、内添紙力増強剤、カチオン化澱粉以外にも、例えば、内添填料、内添サイズ剤、紙厚向上剤、歩留向上剤等の、通常塗工紙に配合される種々の添加剤を、その種類及び配合量を適宜調整して内添することができる。
抄紙原料を抄造して原紙を製造する際、本発明に使用することができる抄紙設備には特に限定がないが、上記範囲のフリーネスに調整した、低引裂強度の原料パルプを使用して目的とする塗工紙を得るには、以下の構成を組み合わせた設備を用いることが好ましい。
ワイヤーパートとしては、長網フォーマーや、長網フォーマーにオントップフォーマーを組み合わせたもの、あるいはツインワイヤーフォーマー等、特に限定されないが、ヘッドボックスから噴出された紙料ジェットを2枚のワイヤーで直ちに挟み込むギャップタイプのギャップフォーマーが、地合を崩さずに脱水するので、湿紙の密度ムラが生じ難く、断紙が発生し難い点から好ましい。
ワイヤーパートでの紙層はプレスパートに移行され、さらに脱水が行われる。プレス機としては、ストレートスルー型、インバー型、リバース型のいずれであってもよく、またこれらの組み合わせも使用することができるが、オープンドローをなくしたストレートスルー型が、紙を保持しやすく、断紙等の操業トラブルが少ない点で好ましい。脱水方式としては、通常行われているサクションロール方式やグルーブドプレス方式等を採用することができるが、シュープレスは脱水性のみならず、平滑性を向上させることが可能であり、印刷適性を向上させる効果も高いことから、より好ましい。
プレスパートを通った湿紙は、シングルデッキ方式のプレドライヤーパートに移行し、乾燥される。プレドライヤーパートは、常に紙がカンバスに保持されているため紙が歪みにくい(ストレスがかかりにくい)、ノーオープンドロー形式のシングルデッキドライヤーであることが好ましい。ダブルデッキ方式にて乾燥することも可能であるが、オープンドローが生まれ紙が歪やすいこと、及びキャンバスマーク、断紙、シワ、紙継ぎ等の操業性の面で、シングルデッキ方式と比較して劣るため、シングルデッキ方式を採用することが好ましい。
通常、原紙水分が4質量%以上10質量%で印刷用塗工紙を製造すると断紙しやすいが、本発明では、基紙の両面に、澱粉類を主成分とする少なくとも1層の下塗り塗工層が形成され、前記下塗り塗工層の上に、顔料及び接着剤を主成分とする上塗り塗工層が設けられた、少なくとも2層の塗工層を有する印刷用塗工紙であって、前記印刷用塗工紙は、塗工紙中の基紙を厚み方向に5分割して、塗工紙の表面から順にA、B、C、D及びEとした場合に、Cに対するB及びDのそれぞれの澱粉含有量の割合を1.6以上2.0以下にすることで、原紙水分を4質量%以上10質量%としても、断紙することなく印刷用塗工紙を製造することができるため好ましい。さらに好ましくは、ノーオープンドロー形式のシングルデッキドライヤーを用いると、より断紙することなく印刷用塗工紙を製造することができるため好ましい。
上述したように、ギャップフォーマーからなるワイヤーパート、オープンドローをなくしたストレートスルー型のプレスパート及びシングルデッキドライヤーからなるドライヤーパートを組み合わせると、耐ブリスター耐性を高めるために、パルプ繊維をフリーネス400mlにまで叩解しても、比引裂強度の低下に起因する断紙が発生しに行くため、生産性良く塗工紙を生産できるため好ましい。
このように、ワイヤーパート、プレスパート、ドライヤーパートにおいてオープンドローのないシステムを採用した場合には、離解パルプのフリーネスを調整し、1000m/分以上の抄造速度で抄造及び/又は塗工を行う際においても、断紙するおそれがなく、生産性の低下を極力抑えた塗工紙が得られるという利点がある。逆に、オープンドローのあるシステムを用いた場合には、紙に歪が生じやすいため断紙しやすく、操業性が低下しやすい。
原紙の坪量には特に限定がないが、JIS P 8124(1998)に記載の「紙及び板紙−坪量測定方法」に準拠して測定した坪量は、塗工紙については46〜100g/m2であるのが好ましいことを考慮して、原紙の坪量は30g/m2以上84g/m2以下となるように調整することが好ましく、30 g/m2以上50g/m2以下となるように調整することがより好ましい。なお、塗工紙の坪量が46g/m2未満では、紙の強度が低く、例えば、商業印刷用途に必要な強度を満足させることが困難になるおそれがあり、逆に、塗工紙の坪量が100g/m2よりも大きい場合は、塗工紙の重量が過大となり、実用的でなくなるおそれがある。
<下塗り塗工層>
本発明では、かくして得られる基紙の両面に、澱粉類を主成分とする下塗り塗工層(クリア塗工層)がまず設けられる。
下塗り塗工層に用いる澱粉類としては、例えば、酸化澱粉、ヒドロキシエチルエーテル化澱粉(以下、「HES」という)、アセチル化酸化澱粉(以下、「AOS」という)、酵素変性澱粉、生澱粉の澱粉類、又はこれら澱粉類の誘導体等、下塗り塗工剤として通常使用される澱粉類を、それぞれ単独で又は2種以上を混合して使用することができる。また、これら澱粉類と、PAM、ポリビニルアルコールなどの合成高分子、耐水化や表面強度向上を目的とした紙力増強剤、サイズ性付与を目的とした外添サイズ剤等、一般に表面処理剤として通常使用される水溶性高分子化合物を併用してもよい。
澱粉類の中でも特に酸化澱粉を用いると、断紙低減の効果が高いため好ましい。
下塗り塗工剤には、澱粉類の他にも、例えば、耐水化や表面強度向上を目的とした紙力増強剤、サイズ性付与を目的とした外添サイズ剤等を適宜配合することができる。また、本発明に用いる澱粉類の被覆性を妨げない範囲内で、後述する、製紙用途で一般に使用されている顔料も併用することができる。
なお、澱粉類の被覆性を妨げない範囲とは、併用する顔料によっても異なるが、概ね澱粉類100質量%に対して0〜100質量%の範囲である。使用量が100質量%を超過すると、顔料が下塗り塗工層の主成分となり、澱粉類由来の被覆性が低下し、断紙防止効果が得られ難くなるため好ましくない。
<原紙の水分率>
本発明においては、上述したように、パルプを叩解しフリーネスを調整するため、耐ブリスター性は向上するが、比引裂強度が低下しやすく断紙が発生しやすいため、原紙には顔料塗工層を設ける前に、澱粉類を含む下塗り塗工層を設ける。
澱粉類を下塗り塗工することで、効果的に断紙の防止及び耐ブリスター性の向上を図るためには、下塗り塗工前の原紙の水分率を4質量%以上10質量%以下、より好ましくは5質量%以上7質量%以下とすることが好ましい。従来は水分率を4質量%未満とすることが一般的であったが、この場合は原紙が乾燥しすぎであり、澱粉類を塗工した際、澱粉類及び水分が原紙に吸液されにくく、原紙内部にまで澱粉類が浸透しにくい状態であった。このため、水分率が4質量%を下回ると、耐ブリスター性が低下していた。
本発明では、より好ましくは水分率を4質量%以上10質量%以下の範囲内とすることにより、澱粉類が原紙に馴染みやすく、原紙内部にまで澱粉類中の水分が緩やかに浸透するため、澱粉類も緩やかに原紙内部にまで浸透する効果が得られる。このため、効果的に耐ブリスター性を向上できる。下塗り塗工前の原紙の水分率が10質量%を超過すると、下塗り塗工前に断紙が多発する傾向がある。原紙の強度が低下することを防止するためには、原紙の水分率を4質量%以上10質量%以下の範囲内とすることがより好ましい。
水分率を4質量%以上10質量%以下に調整することで、澱粉類が原紙内部に浸透し易くなり、塗工紙の基紙の耐ブリスター性を特に向上させる事ができる。従来技術では、断紙を抑制するために水分率を4質量%未満とする必要があり、充分な耐ブリスター性が得られ難い傾向があった。水分率を4質量%以上にすると、耐ブリスター性に優れる塗工紙を得ることができるが、水分率が高いため断紙しやすくなる傾向がある。本発明においては、上述した抄紙機の構成、つまりギャップフォーマーからなるワイヤーパート、オープンドローをなくしたストレートスルー型のプレスパート及びシングルデッキドライヤーからなるドライヤーパートを組み合わせているため、紙に歪(ストレス)が掛からないため断紙し難く、水分率を4質量%以上10質量%以下に調整しても、断紙の発生を抑えて下塗り塗工を行なうことができ、効果的に耐ブリスター性を向上させることができる。
上述のとおり、下塗り塗工前の原紙の水分率を4質量%以上10質量%以下に調整することで、澱粉類及び水分が原紙に馴染みやすく、原紙内部にまで澱粉類中の水分が緩やかに浸透するため、澱粉類も緩やかに原紙内部にまで浸透する効果が得られ、紙のZ軸方向(厚み方向)における澱粉の浸透性を調整することができる。つまり、塗工紙を厚み方向に5分割して、表からA、B、C、D及びEの5つとした場合に、Cに対するB及びDのそれぞれの澱粉含有量の割合を、1.6以上2.0以下とすることができる。これにより、耐ブリスター性に優れた塗工紙を得ることができる。
<下塗り塗工層の塗工>
下塗り塗工剤を調製する方法には特に限定がなく、澱粉類に加え、必要に応じて紙力増強剤、外添サイズ剤等の各種助剤の配合割合を適宜調整し、適切な温度にて均一な組成となるように撹拌混合すればよい。また下塗り塗工剤の固形分濃度は特に限定されるものではなく、塗工量や塗工速度等の条件に応じて適宜調整することが好ましい。
澱粉類を主成分とする下塗り塗工剤は、通常製紙用途で用いられている塗工方法であれば特に限定されず、例えば、2ロールサイズプレスコーターやゲートロールコーター(GR)、ブレードメタリングサイズプレスコーター、ロッドメタリングサイズプレスコーター(RMSP)等の塗工機によって、原紙の少なくとも片面に塗工することができる。特に、より被覆性が良好なフィルム転写型ロールコーター(ゲートロールコーター(GR)、ブレードメタリングサイズプレスコーター、ロッドメタリングサイズプレスコーター(RMSP))を用いると、下塗り塗工の塗工ムラ(低塗工量部分で断紙し易い)に起因する断紙の発生を防止でき、また、下塗り塗工前の水分率が4〜10質量%の場合においては、他の塗工方法よりも低塗工量で塗工可能であるため、さらにブリスターの発生を抑えることができるため、より好ましい。
下塗り塗工層は、下塗り塗工剤を、片面あたり0.1g/m2以上1.5g/m2以下の塗工量で塗工して形成されることが好ましく、片面あたり0.3g/m2以上0.5g/m2以下の塗工量で塗工して形成されることがより好ましい。塗工量が0.1g/m2未満では、原紙表面の被覆性が悪く、断紙防止の効果が得られにくい。逆に塗工量が1.5g/m2を超えると、原紙の被覆性が向上するため原紙からの水蒸気が抜けにくく、耐ブリスター性が低下するおそれがあるため好ましくない。
形成される下塗り塗工層の厚さは特に限定されないが、原紙表面を均一に被覆し、かつ原紙からの水蒸気の透過を妨げないためには、0.1μm以上1.5μm以下であることが好ましい。
本発明では上述のごとく、特定のワイヤーパート、プレスパート、ドライヤーパートを用いて抄造した原紙の水分率を4質量%以上10質量%以下に調整し、下塗り塗工することで、耐ブリスター性に優れた塗工紙を得ることができるが、さらに、下塗り塗工として酸化澱粉をフィルム転写型ロールコーターで片面あたり0.1g/m2以上3.0g/m2以下塗工することにより、より耐ブリスター性及び印刷適性に優れた塗工紙を得ることができる。
上述したように下塗り塗工を行った原紙は、後述する上塗り塗工を行う前に、プレカレンダーによる平坦化処理が施されることが好ましい。プレカレンダーにより、下塗り塗工後の原紙の平坦性を向上させることができ、後述する上塗り塗工層(顔料塗工層)を設けた後の平坦性をも向上できるため、印刷適性に優れた塗工紙を得ることができる。
プレカレンダーの条件は、ニップ圧が好ましくは10〜50kN/m、より好ましくは20〜30kN/mであることが好ましい。プレカレンダーでのニップ圧が10kN/mを下回ると平坦化効果が低くなるおそれがあり、逆に50kN/mを超えると、平坦化が進みすぎて上塗り塗工剤の転写性が低下し、均一な転写性が得られず、顔料塗工層の平坦性が悪くなり、印刷適性が悪化するおそれがあるため好ましくない。
また、プレカレンダーを用いた平坦化処理の処理温度(ロール温度)は、50〜90℃であることが好ましく、60〜90℃であることがより好ましい。処理温度が50℃を下回ると、充分な平坦化効果が得られないおそれがあり、逆に90℃を超えると、繊維焼けが発生し、白色度が低下するだけでなく、繊維が傷み易く、手肉感に劣る塗工紙となるため好ましくない。
なお、一般にカレンダー設備は、紙をロールで挟み込み、ニップ圧をかけて平坦化するために印刷適性は向上するが、紙がへたり易く、手肉感も低下する問題がある。手肉感の低下を防止するためには、本発明のように澱粉類、好ましくは酸化澱粉を主成分とする下塗り塗工層を設けることが、平坦性と耐ブリスター性が向上する効果も得られるために好ましい。
本発明のように、CFSを400mL以上600mL以下に調整して抄造した原紙を、水分率4質量%以上10質量%以下に調整した後に、澱粉類、好ましくは酸化澱粉を含む下塗り塗工を行い、プレカレンダーを行なう場合には、上述の条件でプレカレンダー処理することで、耐ブリスター性及び印刷適性を効果的に向上させる事ができるため好ましい。
また、本発明では、特定のワイヤーパート、プレスパート、ドライヤーパートを用いて抄造した原紙の水分率を4質量%以上10質量%以下に調整し、酸化澱粉からなる塗工液を所定量、フィルム転写型ロールコーターで下塗り塗工した塗工原紙を、上記条件でプレカレンダー処理することで、耐ブリスター性及び印刷適性に優れた塗工紙を得ることができる。
また、本発明では、後述する上塗り塗工剤の塗工量を片面あたり8.0 g/m2以上11.0g/m2以下とすることが好ましいが、そうするとパルプ分が少なく、手肉感が低下し易くなる場合がある。しかしながら、前記のごとき下塗り塗工層を設けた場合には、手肉感の向上を図ることができるため好ましい。
<上塗り塗工層>
次に、下塗り塗工層(クリア塗工層)が形成され、好ましくはプレカレンダーにて平坦化処理が施された原紙の片面又は両面に、顔料と接着剤とを主成分とする上塗り塗工剤を塗工し、顔料塗工層を形成する。
本発明に用いる顔料は、製紙用途で一般に使用している顔料であれば特に限定がなく、例えば、カオリンクレー、重質炭酸カルシウム、タルク、サチンホワイト、亜硫酸カルシウム、石膏、硫酸バリウム、ホワイトカーボン、焼成カオリン、構造化カオリン、珪藻土、炭酸マグネシウム、二酸化チタン、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、ベントナイト、セリサイト等の無機顔料や、ポリスチレン樹脂微粒子、尿素ホルマリン樹脂微粒子、微小中空粒子、多孔質微粒子等の有機顔料が例示され、これらの中から1種又は2種以上を適宜選択して使用することができる。
本発明においては、顔料としてカオリンクレーが、固形分の質量換算で全顔料のうち10質量%以上50質量%以下とすることが好ましく、20質量%以上40質量%以下とすることがより好ましい。10質量%を下回ると、顔料塗工層の平坦性が出難くなるおそれがあり、逆に50質量%を超過すると、上塗り塗工液の粘度が上昇して塗工ムラが発生しやすく、印刷適性が低下するおそれがある。
なお、例えば、上記のごとき割合でカオリンクレーと重質炭酸カルシウムとを顔料として配合した場合、後述する平坦化処理の条件により、光沢調、ダル調及びマット調の塗工紙のいずれをも得ることができる。本発明においては、印刷適性を得るために高塗工量が必要であり、ブリスターが発生しやすいマット調及びダル調の塗工紙、特にダル調塗工紙において、従来のマット調及びダル調の塗工紙よりも高い耐ブリスター性が得られる。
なお、本明細書においてダル調塗工紙とは、JIS P8142(2005)に記載の「紙及び板紙−75度鏡面光沢度の測定方法」に準拠して測定した白紙光沢度が20〜40%の塗工紙をいう。このようなダル調塗工紙は、グロス調塗工紙と比べて白紙光沢度が低く、印刷情報の視認性に優れており、またマット調塗工紙と比べて塗工層表面の平滑性が高く、印刷品質に優れ、印刷ムラが少ない。従って、ダル調塗工紙は、グロス調塗工紙及びマット調塗工紙の弱点を補完した、高級感のある塗工紙である。
顔料の接着剤としては、モノマー成分としてブタジエンを40質量%以上65%質量%以下で含む重合体ラテックスを使用することが好ましく、45質量%以上60%質量%以下で含む重合体ラテックスを使用することがより好ましい。ブタジエン成分が40質量%を下回ると、塗工層の柔軟性が低下し、耐ブリスター性が低下するだけでなく、顔料への接着性が劣り、印刷時に白抜けトラブルが発生するなど印刷適性が低下しやすくなる。一方、65質量%を超過すると、塗工層表面でラテックスが成膜しやすくなり、原紙中の水分が蒸発しにくくブリスターが発生しやすくなり、耐ブリスター性が低下する。ブタジエン成分を上記範囲に調整することで、耐ブリスター性及び印刷適性の双方を満足することができる。
また、上述のとおり、下塗り塗工前の水分率を4質量%以上10質量%以下に調整した後に下塗り塗工を行うことで、澱粉類を原紙内部にまで染み込ませ、さらにブタジエン成分40質量%以上65%質量%以下であるラテックスを含む顔料塗工液を塗工することで、より耐ブリスター性と印刷適性に優れた塗工紙を得ることができる。
ブタジエン以外のモノマー成分としては、スチレンを20質量%以上35%質量%以下で含むことが好ましく、25質量%以上30%質量%以下で含むことがより好ましい。スチレン成分が20質量%を下回ると、塗工層の耐水性が劣り、印刷時に吸水しやすくブリスターが発生しやすいだけでなく、顔料塗工層がインキに取られて剥がれるなど、印刷適性に劣る塗工紙となる。一方、35質量%を超過すると、塗工層が硬くなり、原紙中の水が水蒸気となって逃げにくく、ブリスターが発生しやすくなるため好ましくない。
さらにブリスターの低減を図るには、ラテックスの平均粒子径を90nm以上130nm以下、より好ましくは100nm以上120nm以下に調製することで、より耐ブリスター性及び印刷適性に優れた塗工紙を得ることができる。平均粒子径が90nmを下回ると、バインダーマイグレーションが発生し、塗工層表面にラテックス成分が多くなり被膜を形成し、原紙中の水分が水蒸気となって逃げにくく、耐ブリスター性に劣る塗工紙となる。一方、平均粒子径が130nmを超過すると、ラテックスの比表面積が少なくなり、接着強度が低下するため、顔料がインキに取られて印刷適性が低下しやすくなるため好ましくない。ラテックスの平均粒子径を上記所定の範囲内とすることで、耐ブリスター性を改善しつつ、ラテックスのバインダーマイグレーションを抑えることで、印刷適性に優れた塗工紙を得ることが可能となる。
また、発明者等は、ラテックスのガラス転移温度(Tg)を-50〜0℃、好ましくは-40〜0℃、より好ましくは-30〜0℃に調整することで、さらに耐ブリスター性及び印刷適性に優れる塗工紙を得ることができることを見出した。ガラス転移温度を上記範囲に調整することで、塗工層の柔軟性をさらに向上させることができ、水蒸気が逃げやすく、耐ブリスター性に優れた塗工紙を得ることができる。ガラス転移温度は、ブタジエンおよびスチレンの配合量や、その他の成分(エチレン製不飽和単量体やシアン化ビニル系単量体)、重合開始剤の種類と量、重合度などによって容易に調整することができる。
ガラス転移温度が-50℃を下回ると、上塗り塗工層が柔らかくなりすぎて印刷時に顔料がインキに取られて印刷適性が低下しやすくなるため好ましくない。また、塗工紙の製造工程においても、金属ロールにラテックスの一部が剥離して付着するロール汚れトラブルが発生し、紙品質および操業性の双方が悪化する。一方、ガラス転移温度が0℃を超えると、塗工層が硬くなり、原紙中の水分が水蒸気となって逃げにくく、耐ブリスター性に劣るため好ましくない。
上述したように、ブタジエン及びスチレン成分の含有量及び平均粒子径、ガラス転移温度を特定範囲に調整することで、耐ブリスター性及び印刷適性を改善した塗工紙を得ることができる。特に本発明のごとく、フリーネスを400mL以上600mL以下に調整して抄造した原紙を水分率4質量%以上10質量%以下に調整した後に、澱粉類、好ましくは酸化澱粉を含む下塗り塗工を行った原紙上に、顔料及び接着剤からなる塗工層を設ける塗工紙においては、顔料としてカオリンクレーを全顔料のうち10質量%以上50質量%以下とし、接着剤としてモノマー成分でブタジエンを40質量%以上65%質量%以下、スチレンを25質量%以上30%以下で含み、平均粒子径が90nm以上130nm以下、ガラス転移温度(Tg)が-50℃以上0℃以下であるスチレン−ブタジエンラテックスを用いることで、耐ブリスター性及び印刷適性が非常に優れた塗工紙を得ることができる。
また、上記ラテックスは高速塗工時にも優れた塗工適性を有するため、例えば、塗工速度が1500m/分以上であっても、ストリークやブリーディングなどの塗工欠陥を生じることがなく、効率的に塗工紙を製造できる。
上塗り塗工液中の顔料と接着剤との割合は、顔料100質量部に対して、接着剤5質量部以上15質量部以下であることが好ましく、7質量部以上13質量部以下であることがより好ましい。含有量が5質量部を下回ると塗工層強度が低下し、印刷時の白抜けが発生するだけでなく、製造工程においても顔料が塗工紙から脱落しやすくなって系内を汚すなど、紙品質及び操業性の双方が悪化するため好ましくない。一方、含有量が15質量部を超えると、ロール汚れが発生するだけでなく、塗工層が硬くなり耐ブリスター性が悪化するため好ましくない。
ブタジエンを含有する共重合体ラテックス以外にも、通常塗工用途に用いることができる接着剤を併用することができる。例えば、カゼイン、大豆蛋白等の蛋白質類;スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体ラテックス、スチレン−メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体ラテックス等の共役ジエン系ラテックス、アクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルの重合体ラテックス若しくは共重合体ラテックス等のアクリル系ラテックス、エチレン−酢酸ビニル重合体ラテックス等のビニル系ラテックス、あるいはこれらの各種共重合体ラテックスをカルボキシル基等の官能基含有単量体で変性したアルカリ部分溶解性又は非溶解性のラテックス等のラテックス類;ポリビニルアルコール、オレフィン−無水マレイン酸樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ウレタン樹脂等の合成樹脂系接着剤;酸化澱粉、陽性化澱粉、エステル化澱粉、デキストリン等の澱粉類;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体等が挙げられ、これらの中から1種又は2種以上を適宜選択して併用することができる。
また、上塗り塗工剤には、前記顔料及び接着剤の他にも、例えば、蛍光増白剤や蛍光増白剤の定着剤、消泡剤、離型剤、着色剤、保水剤等の、通常使用される各種助剤を適宜配合することができる。
上塗り塗工剤を調製する方法には特に限定がなく、顔料及び接着剤、必要に応じて各種助剤の配合割合を適宜調整し、適切な温度にて均一な組成となるように撹拌混合すればよい。また上塗り塗工剤の固形分濃度は特に限定されるものではなく、塗工方法や塗工条件に応じて適宜調整することが好ましい。
<上塗り塗工層の塗工>
基紙の少なくとも片面への上塗り塗工剤の塗工は、プレドライヤーパートとアフタードライヤーパートとの2段階で行われるドライヤーパートの間のコーターパートにおいて、オンマシン塗工されることが好ましい。オンマシン塗工では、下塗り塗工層用の下塗り塗工剤を塗工した後、紙面温度が高い状態ですぐに上塗り塗工を行うことができるので、下塗り塗工と上塗り塗工とが馴染みやすく、印刷時に塗工層の剥離が発生せず、印刷適性に優れた塗工紙を得ることができるという利点がある。
ただし、塗工原紙が上塗り塗工液に馴染みやすく、塗工原紙の吸液性が高すぎると、上塗り塗工剤が塗工原紙に沈み込んで顔料塗工層の平坦性が低下し、印刷品質が低下する場合がある。しかしながら本発明においては、上述のごとく下塗り塗工前の水分率を4質量%以上10質量%以下に調整することで、原紙(基紙)内部にまで澱粉類を浸透させているため、塗工原紙の吸液性が最小限に抑えられ、オンマシン塗工を用いても、印刷品質の低下が発生しない、優れた塗工紙を得ることができる。
顔料の塗工方法は、下塗り塗工と同様に、通常製紙用途で用いられている塗工方法であれば特に限定されないが、特にブレード塗工方法を用いると、顔料塗工後の塗工層表面の平坦性が高く、後述するカレンダーによる平坦化を過度にすることなく印刷適性が良好な塗工紙が得られるため好ましい。
なお、ドライヤーパートでの乾燥方法としては、例えば、熱風加熱、ガスヒーター加熱、赤外線ヒーター加熱等の各種加熱乾燥方式を適宜採用することができる。
顔料塗工層は、上塗り塗工剤を片面あたり8.0g/m2以上11.0g/m2以下の塗工量で塗工して形成されることが好ましく、9.0g/m2以上10.0g/m2以下の塗工量で塗工して形成されることがより好ましい。塗工量が8.0g/m2未満では、目標とする印刷品質が得られないおそれがある。逆に塗工量が11.0g/m2を超えると、塗工層が厚くなり原紙中の水蒸気が逃げ難いため、耐ブリスター性が低下するおそれがある。
形成される顔料塗工層の厚さは特に限定されないが、得られる塗工紙の印刷適性をさらに向上させるには、片面あたり8μm以上11μm以下であることが好ましい。
なお、上述のごとく下塗り塗工前の水分率を4質量%以上10質量%以下に調整した後、下塗り塗工層の塗工量を0.1g/m2以上1.5g/m2以下とし、かつ、顔料塗工層の塗工量を8.0 g/m2以上11.0g/m2以下とした場合には、原紙中の水蒸気が抜けやすく、耐ブリスター性に優れた塗工紙が得られるため、特に好ましい。
本発明の塗工紙は、原紙の少なくとも片面に、少なくとも1層の下塗り塗工層及び顔料塗工層が形成されているが、これら塗工層はいずれも、1500m/分以上の速度で塗工することができる。本発明の塗工紙は、上記のごとく、ギャップフォーマーからなるワイヤーパート、オープンドローをなくしたストレートスルー型のプレスパート及びシングルデッキドライヤーからなるドライヤーパートを組み合わせ、パルプ繊維をフリーネス400mL以上600ml以下にまで叩解して抄紙し、水分率を4質量%以上10質量%以下に調整した後に、澱粉類、より好ましくは酸化澱粉を含む塗工液を下塗り塗工しているため、耐ブリスター性に優れており、かつ、断紙なく製造することができる。
さらに、上塗り塗工の顔料としてカオリンクレーを全顔料のうち10質量%以上50質量%以下、接着剤としてモノマー成分でブタジエンを40質量%以上65%質量%以下、スチレンを25質量%以上30%質量%以下含み、平均粒子径が90nm以上130nm以下、ガラス転移温度(Tg)が-50℃以上0℃以下であるスチレン−ブタジエンラテックスを用いることで、1500m/分以上の速度で塗工紙を製造しても、断紙することなく、耐ブリスター性及び印刷適性に優れた塗工紙とすることができる。
さらに本発明においては、塗工層に光沢や平滑性、印刷適性を付与する目的で、例えば、熱ロールを用いて平坦化処理を施すことが好ましい。
一般に平坦化処理は、弾性ロールと金属ロールとの間に塗工紙を通し、塗工紙に高ニップ圧をかけて摩擦力により塗工紙表面を磨き、光沢を付与するものであり、ニップ圧で紙を潰すため、過度な平坦化は基紙の層間強度を低下させるため耐ブリスター性が低下すると共に、塗工紙の微細な凸部にニップ圧と摩擦力が集中し、繊維焼けが発生したり、熱と圧力により、塗工紙自体が黄変化する退色の問題がある。また、従来のダル調塗工紙では、白紙光沢度を20〜40%に抑えながら平坦化を行うため、中ニップ圧(50〜200kN/m)で平坦化処理を行っているが、この条件では、高い印刷品質が得られないばかりか、塗工紙が押し潰され、耐ブリスター性が低下する。
従って、本発明において塗工層に平坦化処理を施す場合には、カレンダー設備として、より低ニップ圧で平坦化処理が可能なソフトカレンダーを用いることが好ましい。中でも、マルチニップカレンダー、より望ましくは6段、8段、10段のマルチニップカレンダーが、ニップ圧を調整し易く、層間強度を低下させることなく白紙光沢度を向上させる効果が高い点で好ましい。
また、カレンダーの設置場所としては、抄紙機及び塗工機と一体になったオンマシンタイプが好ましい。オンマシンタイプでは、塗工後すぐに、紙面温度が高い状態で平坦化処理を行うことができるので、白紙光沢度が向上し易く、目的とする塗工紙を得るために必要な線圧が低い。さらに、白色度や耐ブリスター性の低下が少なく、断紙のおそれも少ない点で好ましい。
このようなカレンダーにおいては、ニップ圧が15 kN/m 以上150kN/m以下であることが好ましく、110 kN/m 以上150kN/m以下であることがより好ましい。カレンダーでのニップ圧が15kN/mを下回ると、塗工層の平坦性が充分に向上しないおそれがあり、逆に150kN/mを超えると、耐ブリスター性が低下するおそれがあるため好ましくない。
また、平坦化処理の処理温度(ロール温度)は、100℃以上180℃以下であることが好ましく、130℃以上150℃以下であることがより好ましい。処理温度が100℃を下回ると、塗工層の平坦性が充分に向上しないおそれがあり、逆に180℃を超えると、塗工紙の白色度が低下するおそれがあるため好ましくない。
以上のようにして得られる本発明の塗工紙は、上記のごとく、ギャップフォーマーからなるワイヤーパート、オープンドローをなくしたストレートスルー型のプレスパート及びシングルデッキドライヤーからなるドライヤーパートを組み合わせ、パルプ繊維をフリーネス400mL以上600mL以下にまで叩解して抄紙し、水分率を4質量%以上10質量%以下に調整した後に、酸化澱粉を含む塗工液を下塗り塗工しているため、耐ブリスター性に優れた塗工紙である。加えて、上塗り塗工の顔料としてカオリンクレーを全顔料のうち10質量%以上50質量%以下、接着剤として、モノマー成分でブタジエンを40質量%以上65質量%以上、スチレンを25質量%以上30質量%以下含み、平均粒子径が90nm以上130nm以下、ガラス転移温度(Tg)が-50℃以上0℃以下であるスチレン−ブタジエンラテックスを用いることで、1500m/分以上の速度で塗工紙を製造しても、断紙することなく、耐ブリスター性及び印刷適性に優れた塗工紙を製造することができる。これに加えて、ニップ圧が15kN/m 以上150kN/m以下、処理温度(ロール温度)が100℃以上180℃以下の条件で、オンマシンでカレンダー処理を行うことにより、原紙の層間強度の低下を低減しつつ、白紙光沢度を向上させることができるので、特に耐ブリスター性及び印刷適性に優れた塗工紙を得ることができる。
なお、本発明の塗工紙の白紙光沢度は、その用途に応じて異なるが、上述したように、例えば、ダル調塗工紙とする場合には、JIS P 8142(2005)に記載の「紙及び板紙−75度鏡面光沢度の測定方法」に準拠して測定して20%以上40%以下が好ましく、30%以上40%以下がより好ましい。
[実施例及び比較例]
本発明の塗工紙の製造方法を、以下の実施例に基づいてさらに詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
まず、原料パルプとしてLBKP、NBKP、脱墨古紙パルプ(DIP)を、表1及び表2に示す割合で混合した。このパルプ100質量部(絶乾量)に対して、各々固形分で、内添サイズ剤(品番:AK-720H、ハリマ化成社製)0.02質量部及び歩留向上剤(品番:NP442、日産エカケミカルス(株)製)0.02質量部を添加してパルプスラリーを得た。なお、実施例3〜6は、表1に記載のとおり、カチオン化澱粉(カチ澱)(品番:アミロファックスT-2600、アベベジャパン社製)、紙力増強剤(品番:ハーマイドDN710、ハリマ化成社製)を添加した。
次に、パルプスラリーをワイヤーパート、プレスパート及びプレドライヤーパートに順に供し、坪量が約39〜41g/m2の原紙を製造した後、この原紙の両面に、表1及び表2に示す下塗り塗工剤を、表1及び表2に示す塗工量(片面あたり)及び塗工方法にて1500m/分の速度で塗工し、下塗り塗工層(クリア塗工層)を形成した。
次に、両面に下塗り塗工層が形成された原紙をアフタードライヤーパートに供し、この下塗り塗工層を乾燥させた後、ニップ圧20kN/m、処理温度(ロール温度)70℃で平坦化処理(プレカレンダー)を施した。次いでコーターパートにて、平坦化処理を施した下塗り塗工層の表面に、カオリンクレー20質量%及び質式重質炭酸カルシウム80質量%からなる顔料と、表1及び表2に示す組成であり、顔料100質量部に対し表1及び表2に示す配合量のラテックスとを含有させた上塗り塗料を、1500m/分の速度でブレードコーターを用い、塗工量を片面あたり約8 g/m2以上11g/m2以下となるよう塗工し顔料塗工層(上塗り塗工層)を形成した。
この後、ニップ圧120kN/m、ロール温度140℃の条件で平坦化処理を施して、JIS P 8142(2005)に記載の「紙及び板紙−75度鏡面光沢度の測定方法」に準拠して測定した白紙光沢度を35〜40%に調整した。次いで、リールパート及びワインダーパートに順に供して坪量が約59〜61g/m2の塗工紙を得た。
ここで、表1及び表2に示す水溶性高分子化合物、接着剤、並びに塗工方法は、次のとおりである。なお、ラテックス欄の「AN+MMA」は、アクリロニトリル成分(AN)成分及びメタクリル酸メチル(MMA)成分の合計含有量を指す。
<下塗り塗工剤>
(水溶性高分子化合物)
・酸化澱粉(エリエール商工(株)製)
・カチオン化澱粉(カチ澱)(Catosize380、日本ナショナルスターチ(株)製)
・リン酸エステル化澱粉(品番:MS4600、日本食品加工社製)
・PAM(品番:ハリコートG-51、ハリマ化成(株)製)
・PVA(ポリビニルアルコール、品番:PVA-110、クラレ社製)
(塗工方法)
・フィルム転写:ロッドメタリングサイズプレスコーター
・2ロール:2ロールサイズプレスコーター
<上塗り塗工剤>
(顔料)
・カオリンクレー(品番:カオファイン、イメリス社製)
・湿式重質炭酸カルシウム(品番:ハイドロカーブ90K、オミヤコーリア社製)
(接着剤)
・SBR:スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス
(平均粒子径:100μm、品番:PA-1071、日本エイアンドエル(株)製)
なお、ワイヤーパートではギャップフォーマーを、プレスパートではオープンドローのないストレートスルー型を、ドライヤーパートではオープンドローのないシングルデッキドライヤーを用いて抄紙した。コーターパートでは、フィルム転写方式のロールコーター(ロッドメタリングサイズプレス)で下塗り塗工剤を塗工した後、プレカレンダーで平坦化処理し、ブレードコーターで上塗り塗工剤を塗工した。カレンダーパートでは、マルチニップカレンダーを用いて平坦化処理を行った。コーターパート、カレンダーパートは、それぞれ抄紙機に組み込んだ、オンマシンコーター、オンマシンカレンダーを使用した。ただし、実施例2はワイヤーパートで長網フォーマーを用いて抄紙し、比較例11は2ロールサイズプレスコーターで下塗り塗工を行い、比較例4はオープンドローのあるプレスパート及びドライヤーパートを用いて抄紙した。
得られた塗工紙について、各特性を以下の方法にて調べた。これらの結果を表3及び表4に示す。
印刷用塗工紙を厚み方向に5分割する方法は、次のとおりである。まず、印刷用塗工紙の表裏全面に樹脂フィルムからなるテープを貼り、片面のテープを剥がすことで、塗工紙を厚み方向に2分割する。2分割後、重量の小さい方をα、重量が大きい方をβとする。αの紙面が露出している面にテープを貼り、片面のテープを剥がすことで厚み方向に2分割し、塗工紙表側をA、塗工紙内側をBとする。βを2分割し、重量が小さい方をγ、重量が大きい方をδとし、δをさらに上記方法で2分割する。γ及びδを2分割した3つを、塗工紙の内から順にC、D、Eとする。
(a)白紙光沢度
JIS P 8142(2005)「紙及び板紙−75度鏡面光沢度の測定方法」に記載の方法に準じて、未印刷の印刷用塗工紙について測定した。
(b)印刷光沢度
次の条件で印刷試験体を調製し、白紙光沢と同じ方法で光沢度を測定して、印刷光沢とした。
印刷機:RI‐3型、株式会社明製作所社製
インキ:WebRex Nouver HIMARKプロセス藍、大日精化株式会社製
インキ量:上段ロールに0.3mL、下段ロールに0.2mL
試験方法:上段、下段ロールでそれぞれインキを各3分間練り(2分間練った後、ロールを反転させ、さらに1分間練る)、回転速度30rpmで2色同時印刷を行った。
(c)Z軸強度
印刷用塗工紙をJAPAN TAPPI No.18-2:2000「紙及び板紙−内部結合強さ試験方法−第2部:インターナルボンドテスタ法」に準じて測定した。
(d)ブリスター発生温度
印刷用塗工紙の試験サンプル(流れ方向2cm、幅方向10cm)を23℃、50%RH条件下で24時間調湿したのち、一定温度に調整したオイルバス(シリコンオイル)に4秒間浸けた。この試験を3回行い、ブリスターが発生した温度のうち、最も低い温度をブリスター発生温度とした。なお、オイルバスの温度は、160℃から10℃刻みで昇温させた。
(e)澱粉含有量
JAPAN TAPPI T419om-85に準じて測定し、5分割した塗工紙各々の1トン中に含まれる澱粉量(Kg)を算出した。澱粉含有量の割合は、B及びDの澱粉含有量を、Cの澱粉含有量で除した値とした。
(f)操業性
24間連続操業した際の断紙発生回数を以下のとおり評価した。
○:断紙が発生せず、生産性に優れる。
△:断紙が1回発生したが、実使用可能。
×:断紙が2回以上発生し、実使用不可能。
表3及び表4に示された結果から、実施例の印刷用塗工紙は、厚み方向に5分割した場合、Cに対するB及びDのそれぞれの澱粉含有量の割合が所定の数値範囲(1.6以上2.0以下)であるため、耐ブリスター性に優れた塗工紙であることがわかる。
これに対して、比較例の印刷用塗工紙は、厚み方向に5分割した場合、Cに対するB及びDの澱粉含有量の割合が所定の数値範囲(1.6以上2.0以下)となっていないため、耐ブリスター性に劣る塗工紙であることがわかる。