JP5303823B2 - 圧電素子 - Google Patents

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Description

本発明は、圧電素子に関する。
圧電素子は、発音体、センサ、アクチュエータ等の種々の用途に適用される。圧電素子としては、単板圧電素子や積層型圧電素子が知られている、単板圧電素子は、一対の電極層間に圧電体層を備える構造を有している。また、積層型圧電素子は、圧電材料からなる圧電体層と内部電極とが交互に積層された構造(素体)を有している。この積層型圧電素子において、素体は、その積層方向の両端面が複数の圧電体層からなる保護層によって覆われていることが一般的である。
近年、圧電素子としては、積層型圧電素子が、小型化が容易であり、しかも、小さな電圧で大きな変位が得られるという利点を有することから多く用いられている。この積層型圧電素子は、例えば、以下のように製造される。すなわち、まず、圧電材料からなるグリーンシートを形成し、このグリーンシートの表面上に内部電極材料の層を所定のパターンで形成した後、得られたシートを順次積層する。次いで、得られた積層体の両端面に、複数の圧電材料のシートを更に積層する。こうして得られた積層体を焼成することによって、上述したような積層型圧電素子が得られる。
このような積層型圧電素子には、従来、繰り返しの使用によって素体と保護層との間にクラックが入り易いという問題があった。これは、素体とは異なり保護層には内部電極が含まれていないため、焼成時に素体と保護層との間で体積収縮の差が生じ、これに起因して素体と保護層との界面に応力が発生し、完成後の素子にもこの応力が維持されることが一因であると考えられる。
そこで、上記の不都合を改善するため、下記特許文献1には、保護層中に金属を分散させることで、素体(圧電体層)と保護層との間の焼成収縮による応力を緩和及び均一化することが記載されている。
特開2005−285883号公報
ところが、従来の圧電素子は、上述した圧電体層と保護層との間のクラックの問題のほか、素子形状に歪みが生じ易いという問題も有していた。例えば、積層型圧電素子は、保護層部分の幅が素体部分よりも大きくされたような歪んだ形状を有することが多かった。このような歪みは、上記特許文献1のように保護層に金属を分散させて素体と保護層との焼成時における体積収縮の差を調整しても、十分に小さくすることが困難であった。そして、圧電素子が歪みを有していると、繰り替えしの使用により部分的に応力が集中して破壊が生じ易くなるなど、素子の耐久性が低くなる傾向にある。
そこで、本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、歪みが低減された圧電素子を提供することを目的とする。
上記の歪みの発生の原因について本発明者らが検討したところ、圧電素子の歪みは、焼成時に内部電極を構成する金属が圧電体層や保護層中に拡散することに起因して生じていることが判明した。すなわち、圧電材料から構成される圧電体層や保護層は、金属が拡散されると焼結が進み易くなる傾向にある。そのため、焼成時には、金属が拡散された部位と拡散されなかった部位とで焼結による体積収縮の差が生じることになる。これによって、圧電素子の歪みが引き起こされる。本発明者らの検討によれば、このような体積収縮の差は、電極の金属としてAgやCuを用いる場合に特に顕著に生じていることが確認された。
例えば、積層型圧電素子においては、素体における圧電体層は内部電極に挟まれているため、比較的均一に金属が拡散されるのに対し、保護層はその端面側にまで十分に金属が拡散されない。そのため、素体部分及び保護層の素体側は、保護層の端面側よりも焼結が進みやすくなり、そのぶん体積収縮も大きく生じることになる。こうして、上述したような歪みが形成されると考えられる。また、単板圧電素子においても、圧電体層を厚くする場合などは、圧電体層の中央領域にまで十分に金属が拡散されないため、内部電極の近傍領域の方が中央部分よりも幅が小さくされたような歪みが形成される。
そこで、本発明者らは、このような歪みの発生原因に基づいて更に研究を進めた結果、圧電体層又は保護層に、これらの層への金属の拡散を有利にする元素を含有させることで、上述したような圧電素子の歪みを低減できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明の圧電素子は、主として圧電材料から構成される圧電体層と、圧電体層を挟むように配置された一対の電極層とを少なくとも備え、圧電材料は、リン元素を含むことを特徴とする。
このように圧電体層がリン元素を含む圧電材料から構成されることによって、圧電体層の歪みが低減され、圧電素子全体の歪みも小さくなる。かかる要因については必ずしも明らかではないものの、圧電体層に含まれるリン元素は、内部電極の構成金属(AgやCu等)と反応して化合物(例えば、AgPO等)を形成し易いため、焼成時において電極層からの金属の拡散を促進するように機能するためであると考えられる。つまり、リン元素を含むことによって、圧電体層中には、焼成時に電極層中の金属が均一に拡散されるようになる。その結果、圧電体層は、焼結による体積収縮が均一に生じて形成されたものとなり、上述したような歪みが少ないものとなる。ただし、作用はこれに限定されない。
上記本発明の圧電素子において、リン元素は、圧電材料中にPに換算して50〜1000ppm含まれていることが好ましい。リン元素の含有量がかかる範囲であると、圧電体層の歪みがより小さくなるとともに、圧電体層の特性が良好に維持される。
また、本発明の他の圧電素子は、リン元素を含有しない圧電材料から主として構成される圧電体層、及び、圧電体層を挟むように配置されたAg又はCuを含む一対の電極層を少なくとも備える素体と、素体の積層方向の少なくとも一方の端面に配置された、主として圧電材料から構成される保護層とを備え、保護層における圧電材料は、リン元素を含むことを特徴とする。
このような圧電素子においては、保護層がリン元素を含む圧電材料から構成されている。このため、積層型圧電素子とした場合に素子の歪みを引き起こす一番の原因となる保護層の歪みが、上記と同様の理由によって大幅に低減される。その結果、本発明の圧電素子は、歪みが少ない積層型圧電素子となり得る。
また、上記本発明の圧電素子においても、リン元素は、保護層における圧電材料中にPに換算して50〜1000ppm含まれていることが好ましい。こうすれば、保護層の歪みを良好に低減できるほか、保護層が密な構造となり、素体部分が良好に保護されるようになる。
本発明によれば、歪みが低減された圧電素子を提供することが可能となる。
以下、図面を参照して本発明の好適な実施の形態について説明する。なお、図面の説明において、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
まず、圧電素子の一例である単板圧電素子について説明する。
図1は、好適な実施形態の単板圧電素子を示す斜視図である。図1に示す圧電素子1は、圧電体層2と、この圧電体層2を挟むように配置された一対の電極層3A及び3Bとを備える。この圧電素子1においては、電極3A、3B間に電圧が印加されるとこれらに挟まれた圧電体層2に電界が生じ、この圧電体層2が変位(伸縮動作)する。
圧電体層2は、主として圧電材料から構成される層である。圧電材料としては、圧電体としての特性を有するセラミック材料(圧電体セラミックス)を主成分とするものが挙げられる。圧電体セラミックスとしては、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)が例示できる。
さらに、圧電材料は、上記圧電体セラミックスに加え、リン元素を更に含む。圧電材料において、リン元素は、原子、酸化物又は圧電体層2に含まれている他の金属等との化合物の形態で含まれる。リン元素は、圧電体層2中に均一に分散していることが好ましい。
圧電材料中のリン元素の好適な含有量は、Pに換算してモル基準で50〜1000ppmである。このリン元素の含有量が50ppm未満であると、後述する圧電素子1の製造方法において、焼成時における電極層3A,3bから圧電体層2への金属の拡散が不均一となり、圧電体層2が歪みを有した状態となるおそれがある。一方、1000ppmを超えると、焼成による圧電材料の焼結が不十分となり、圧電体層2の密度が低下して十分な変位が得られ難くなる場合がある。圧電体層2の歪みを低減するとともに十分な変位を得る観点からは、圧電材料中のリン元素の含有量は、50〜500ppmであるとより好ましい。
電極層3A,3Bは、主に金属から構成される導電性の層である。電極層3A,3Bに含まれる金属としては、Ag、Au、Cu、Niやこれらの合金等が挙げられる。なお、焼成時における電極層3A,3bから圧電体層2への金属の拡散は、特にAg又はCuの場合に生じ易い傾向にある。したがって、電極層3A,3Bの金属をAg又はCuとする場合に、リン元素による圧電体層2の歪みを抑制する効果が特に良好に得られる。
次に、図2を参照して上述した構成を有する圧電素子の好適な製造方法を説明する。図2は、好適な実施形態に係る単板圧電素子の製造方法を示すフローチャートである。
圧電素子1の製造においては、まず、出発原料として、圧電体層2を形成する圧電体セラミックスやリン元素の原料化合物や、その他の添加成分等の出発原料を用意する(ステップS11)。圧電体セラミックスの原料化合物としては、PZT系セラミック材料を形成する場合、PbO、TiO、ZrO、ZnO、Nbの粉体等が挙げられる。また、リン元素の原料化合物としては、P、P10、HPO等が挙げられる。リン元素の原料化合物の添加量は、圧電材料中のリン元素の含有量が上述した好適な範囲(Pに換算してモル基準で50〜1000ppm)となるように調整する。なお、リン元素の含有量は圧電体セラミックスに比べて大幅に小さいことから、実際にリン元素の原料化合物の添加量を調整する際には、「圧電材料中のリン元素の含有量」は、「圧電体セラミックスの含有量に対するリン元素の含有量」とみなしても構わない。
次に、安定化ジルコニアボールをメディアに用いたボールミル等によって、上記の複数種類の出発原料の湿式混合を24時間程度行う(ステップS12)。続いて、混合された原料を乾燥させる(ステップS13)。そして、混合された原料に対し、例えば800℃程度の温度で2時間程度の加熱処理を施す仮焼成を行う(ステップS14)。これにより、主にPb、Zr、Ti元素を含有したペロブスカイト構造を有する複合型酸化物中にリン元素が分散した圧電材料の原料組成物が得られる。
この原料組成物をボールミル等により湿式粉砕した後(ステップS15)、これを乾燥させ(ステップS16)、原料組成物の粉体を得る。続いて、原料組成物の粉体にポリビニルアルコール系等のバインダーを加えて造粒を行い(ステップS17)、これをプレス成形等により角板状に成形する(ステップS18)。これにより、圧電体層2を形成するための圧電体グリーンシートを得る。
次いで、この圧電体グリーンシートの両面に、別途準備しておいた電極層3A,3B形成用の金属、有機バインダー及び溶剤等を含む電極ペーストを塗布して電極ペースト層を形成する(ステップS19)。それから、両面に電極ペースト層を備える圧電体グリーンシートを、安定化ジルコニアセッター等に載置した後、大気雰囲気中で加熱することにより、圧電体グリーンシート及び電極ペースト層中に含まれるバインダー等を除去する脱脂処理を行う(ステップS20;脱バインダー)。
そして、両面に電極ペースト層を備える圧電体グリーンシートに対し、密閉された容器中で、例えば1050〜1100℃、2時間程度の加熱を行う焼成処理(本焼成)を行う(ステップS21)。これにより、圧電体グリーンシートから圧電体層2、電極ペースト層から電極層3A,3Bがそれぞれ形成され、図1に示す構造の圧電素子1が得られる。
かかる本焼成の際には、電極ペースト層に含まれる金属が圧電体グリーンシート中に拡散し易い。この際、圧電体グリーンシート中には、金属と反応し易いリン元素が分散されているため、金属の拡散は圧電体グリーンシート中で均一に生じるようになる。その結果、圧電体グリーンシートがリン元素を含まない場合に比して、焼結による圧電体グリーンシート(圧電体層2)の収縮が均一に生じるようになる。その結果、圧電体層2は、歪みが少ない形状を有するものとなり、圧電素子1全体も歪みが少ないものとなる。
次に、圧電素子の他の例である積層型圧電素子について説明する。
図3は、好適な実施形態の積層型圧電素子の一側面図である。図3に示す積層型圧電素子(圧電素子30)は、直方体状の積層体31と、この積層体31の対向する端面に形成された一対の外部電極37A,37Bとを備えている。
積層体31は、圧電体層32を介して内部電極層(電極層)33A,33Bを交互に積層してなる素体34と、この素体34をその積層方向の両端面側(図中上下方向)から挟み込むように設けられた一対の保護層35,36とから構成される。このように、素体34においては、圧電体層32と内部電極層33A,33Bとが交互に積層されている。
圧電体層32は、PZT等の圧電体セラミックスを主成分とする圧電材料から構成される。かかる圧電材料としては、上述した圧電素子1における圧電体層2に用いられるのと同様のものを適用でき、本実施形態においてはリン元素を含有していても含有していなくてもよい。なお、圧電体層32の歪みを確実に小さくする観点からは、圧電体層2はリン元素を含有していると好ましい。
内部電極層33A,33Bはそれぞれ平行となるように設けられている。内部電極層33Aは、一方の端部が積層体31における外部電極37Aが形成された端面に露出するように形成されている。また、内部電極層33Bは、一方の端部が積層体31における外部電極37Bが形成された端面に露出するように形成されている。
さらに、内部電極層33Aと内部電極33Bとは、これらの大部分が積層方向に重なり合うように配置されている。内部電極33A,33B間に挟まれた圧電体層32は、内部電極33A,33Bに電圧を印加したときに積層方向に伸縮(変位)する圧電活性部となる。この内部電極層33A,33Bは、上述した圧電素子1における電極層3A,3B等と同様の金属を含む導電層であり、Ag又はCuを含む導電層であると好ましい。
保護層35,36は、主として圧電材料から構成される層である。保護層35,36を形成する圧電材料としては、圧電体層32と同様のものが挙げられる。保護層35,36及び圧電体層32にそれぞれ含まれる圧電材料は、同じであっても異なっていてもよい。ただし、圧電素子30の製造を容易に行う観点からは、同じであることが好ましい。かかる観点からは、保護層35,36は、圧電体層32が複数積層されてなるものであると特に好ましい。
保護層35,36に含まれる圧電材料は、リン元素を含む。このリン元素は、原子、酸化物又は保護層35,36に含まれている他の金属等との化合物の形態で含まれる。リン元素は、保護層35,36において均一に分散していることが好ましい。
保護層35,36に含まれる圧電材料中のリン元素の含有量は、Pに換算してモル基準で50〜1000ppmであると好ましく、50〜500ppmであるとより好ましい。このリン元素の含有量が50ppm未満であると、後述する圧電素子30の製造方法において、焼成時における内部電極層33A,33Bから保護層35,36への金属の拡散が不均一となり、保護層35,36が歪みを有した状態となり易い傾向にある。一方、1000ppmを超えると、焼成による圧電材料の焼結が不十分となり、保護層35,36の密度が低下して、素体34を十分に保護することが困難となる場合がある。
外部電極37A,37Bは、これらが設けられている端面において、当該端面に露出している内部電極33A,33Bの端部とそれぞれ接している。これにより、外部電極37A,37Bは、内部電極33A,33Bと電気的に接続される。この外部電極37A,37Bは、Ag、Au、Cu等を主成分とする導電材料から構成される。
次に、上述した構造を有する圧電素子30の好適な製造方法について、図4を参照して説明する。図4は、好適な実施形態に係る積層型圧電素子の製造方法を示すフローチャートである。
圧電素子30の製造方法においては、まず、圧電素子1の製造におけるステップS11〜16と同様にしてステップS31〜36までを実施し、圧電材料の原料組成物の粉体を得る。この際、圧電体層32形成用の原料組成物としては、リン元素の原料化合物を含まないものを用いる。また、保護層35,36形成用の原料組成物としては、リン元素の原料化合物を含むものを用いる。なお、圧電体層32にもリン元素を含有させる場合は、圧電体層32及び保護層35,36形成用の原料組成物として、リン元素の原料化合物を含むものを1種のみ準備すればよい。こうすれば、圧電素子30の製造がより簡便化される。
続いて、これらの原料組成物の粉体に、有機バインダー、有機溶剤、有機可塑剤等を加えてボールミル等により20時間程度の混合を行い、圧電体ペーストを得る(ステップS37)。この圧電体ペーストを、例えばドクターブレード法によって、ポリエチレンテレフタレート(PET)製のベースフィルム上等に塗布して、圧電体層32形成用及び保護層35,36形成用の圧電体グリーンシートをそれぞれ得る(ステップS38)。
その後、圧電体層32形成用の圧電体グリーンシート上に、スクリーン印刷法等により内部電極33A,33Bを構成する金属、有機バインダー等を含む電極ペーストを塗布して、電極ペースト層を形成させる(ステップS39)。この際、電極ペースト層は、上述した内部電極33A及び33Bの形状が得られるようにそれぞれ形成する。
それから、内部電極33A又は33Bに対応する電極ペースト層が形成された圧電体グリーンシートを、それぞれ交互に積層する。また、この積層構造の積層方向の両端面の表面上に、保護層35,36形成用の圧電体グリーンシートを複数層ずつ積層する。こうして得られた積層体を、適宜加熱しながら積層方向に加圧(プレス)し、更に必要に応じて所望のサイズに切断することで、積層体グリーンを得る(ステップS40)。
その後、この積層体グリーンに対し、圧電素子1の製造と同様の脱バインダー(ステップS41)を施す。それから、セッター上に載置された積層体グリーンに対し、密閉された容器中で、例えば1050〜1100℃、2時間程度の加熱を行う焼成処理(本焼成)を行い、積層体31を得る(ステップS42)。この焼成処理において、圧電体グリーンシート及び電極ペースト層が一体焼成され、圧電体層32形成用の圧電体グリーンシートが圧電体層32となり、電極ペースト層が内部電極34となる。また、保護層35,36形成用の圧電体グリーンシートから、それぞれ保護層35及び36が形成される。
そして、得られた積層体31の積層方向に平行であり互いに対向している端面(内部電極33A,33Bの端部が露出している端面)に、外部電極37A,37Bをそれぞれ焼き付ける(ステップS43)。具体的には、外部電極37A,37Bを構成する金属、有機バインダー等を含む外部電極形成用のペーストを積層体31の上記端面に塗布した後、これを焼成することで、外部電極37A,37Bが形成される。このようにして、図3に示す構造を有する圧電素子30(積層型圧電素子)が得られる。
上述した実施形態の圧電素子30の製造方法においては、少なくとも保護層35,36形成用の圧電体グリーンシート中に、金属と反応しやすいリン元素が分散されている。このため、積層体グリーンの焼成時に、電極ペーストから圧電体グリーンシートへの金属の拡散が生じたとしても、この金属は上述したリン元素によって保護層35,36形成用の圧電体グリーンシート中に均一に拡散され得る。これにより、保護層35,36形成用の圧電体グリーンシートは、焼結による体積収縮を均一に生じるようになる。その結果、リン元素を含有する保護層35,36は、厚さ方向に幅が異なるといった歪みが少ないものとなる。
なお、圧電体層32形成用のグリーンシートは、積層体グリーンにおいて両側を電極ペースト層で挟まれていることから、リン元素を含まなくても比較的に均一に金属の拡散を生じ得る。ただし、例えば、厚い圧電体層32を形成する場合等は、圧電体グリーンシートへの金属の均一な拡散を確実に行うため、圧電体層32形成用の圧電体グリーンシートとしても、リン元素を含むものを用いることが好ましい。
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[圧電素子の製造]
(製造例1)
まず、図2に示すステップS11〜S16を実施して、圧電材料の原料組成物の粉体を得た。この際、原料組成物中の圧電体セラミックスの原料化合物は、焼成後に(Pb0.96 Sr0.04)[Ti0.465 Zr0.535]O+0.5質量%WOの組成を有する圧電体セラミックスが得られるように調製した。また、圧電材料中のリン元素の原料化合物としては、Pを用いた。
次に、ステップS17に示すように、圧電材料の原料組成物の粉体に、ポリビニルアルコール系のバインダーを加えて造粒した後、ステップS18に示すプレス成形を行い、20mm四方で厚み5mmのサイズを有する圧電体グリーンシートを得た。次いで、この圧電体グリーンシートの片面上に、ステップS19に示すように、Ag:Pd=7:3の比率を有する金属、有機バインダー及び有機溶剤を含む電極ペーストをスクリーン印刷法により塗布して、電極ペースト層を形成させた。電極ペースト中の金属の含有量は、50質量%とした。
その後、ステップS20に示すように、電極ペースト層が形成された圧電体グリーンシートを、電極ペースト層が上となるように安定化ジルコニアセッター上に載置し、400℃、1時間の加熱により、脱バインダーを行った。そして、ステップS21に示すように、電極ペースト層が形成された圧電体グリーンシートをセッター上に配置したまま密閉こう鉢中に入れ、1050〜1100℃で2時間加熱する本焼成を行った。これにより、圧電体層上に電極層を備えるサンプルを得た。
製造例1においては、Pの添加量を、0、20、50、200、500、1000及び1500ppmに変化させた圧電材料の原料組成物をそれぞれ準備し、これらを用いてNo.1〜7のサンプルを製造した。なお、表1中、Pの添加量(ppm)は、原料化合物から換算した圧電体セラミックス1モルに対する値である。
(製造例2)
圧電体セラミックスの原料化合物を、Pb[(Zn1/3 Nb2/3)0.1 Ti0.435 Zr0.465]Oの組成を有する圧電体セラミックスが得られるように調製したこと以外は、製造例1と同様にして圧電体層上に電極層を備えるサンプルを得た。この製造例2においても、製造例1と同様に、原料組成物におけるPの添加量を0、20、50、200、500、1000及び1500ppmに変化させて、No.1〜7のサンプルを製造した。
(製造例3)
電極ペースト中の金属として、Ag:Pd=7:3の比率を有する金属に代え、Cuを用いたこと以外は、製造例1と同様にして圧電体層上に電極層を備えるサンプルを得た。これにより、金属としてCuのみを含む電極層が形成された。この製造例3においては、Pの添加量を0又は200ppmとして、No.1及び2のサンプルを製造した。
[特性評価]
(圧電体層における焼結の均一性の評価)
製造例1及び製造例2でそれぞれ得られた各種のサンプルを用い、以下に示すようにして、これらの圧電体層における厚さ方向の焼結度の差を確認した。すなわち、サンプルの端面(積層方向に平行な面)について、その幅方向の中央付近における、(1)電極層近傍領域、(2)厚さ方向の中央領域、及び、(3)電極層と反対側の端面近傍領域、の3つ領域を、それぞれ走査型電子顕微鏡で観察した。かかる観察により、各領域に形成されている粒子の平均粒子径をそれぞれ求めた。
そして、(1)の領域で得られた粒子径を基準値とし、(2)及び(3)の領域で得られた粒径の上記基準値に対する割合(%)をそれぞれ算出した。得られた結果を表1に示す。
Figure 0005303823
表1より、製造例1及び製造例2の両方において、Pを20ppm以上添加した場合に得られたサンプル(No.2〜7)は、Pを添加しなかった場合のサンプル(No.1)に比して、領域(2)及び領域(3)における粒子径が領域(1)における粒子径に近く、電極層から離れた領域でも焼結反応が促進されていることが確認された。特に、Pを50ppm以上添加した場合のサンプル(No.3〜7)では、領域(2)、(3)において領域(1)とほぼ同等の粒子径が得られており、焼結反応が特に促進されていることが判明した。なお、No.2のサンプルより、Pの添加が20ppmであると、中央領域(領域(2))では焼結反応が十分に生じているものの、電極層から離れた領域(領域(3))では焼結反応がやや不十分となっていることが判明した。
なお、Pの添加量を1000ppm以上とした場合のサンプル(No.6,7)は、1000ppm未満とした場合に比して、圧電体層の密度が低下していることが確認された。また、Pの添加量を500ppm以上とした場合のサンプルは、500ppm未満とした場合に比して、空孔(ポア)の形成割合が多いことが確認された。これより、Pの添加量は、1000ppm未満とすることが好ましく、500ppm未満とすることがより好ましいことが確認された。
また、製造例3で得られたサンプルについても同様の評価を行ったところ、No.2(P添加量200ppm)のサンプルでは均一な焼結が生じていたのに対し、No.1(P添加せず)のサンプルでは均一な焼結が生じていなかった。これより、電極層を主にCuを含む構成とした場合であっても、Pの添加により、圧電体層の均一な焼結が可能となることが確認された。
(電極金属(Ag)の拡散性の評価)
製造例1のNo.1及びNo.4のサンプルについて、蛍光X線分析により、圧電体層中のAg含有量を厚さ方向に分析した。その結果、No.1のサンプルでは、電極層と反対側の端面近傍領域のAg含有量は、電極層近傍領域に対して30%程度であった。これに対し、No.4のサンプルでは、電極層近傍領域と、電極層と反対側の端面近傍領域とで、ほぼ同じAg含有量であった。
好適な実施形態の単板圧電素子を示す斜視図である。 好適な実施形態の単板圧電素子の製造方法を示すフローチャートである。 好適な実施形態の積層型圧電素子の一側面図である。 好適な実施形態の積層型圧電素子の製造方法を示すフローチャートである。
符号の説明
1…単板圧電素子、2…圧電体層、3A,3B…電極層、30…積層型圧電素子、31…積層体、32…圧電体層、33A,33B…内部電極、34…素体、35,36…保護層、37A,37B…外部電極。

Claims (4)

  1. リン元素を含有しない圧電材料から主として構成される圧電体層、及び、前記圧電体層を挟むように配置されたAg又はCuを含む一対の電極層を少なくとも備える素体と、
    前記素体の積層方向の少なくとも一方の端面に設けられた、主として圧電材料から構成される保護層と、を備え、
    前記保護層における前記圧電材料は、リン元素を含む、
    ことを特徴とする圧電素子。
  2. 前記リン元素は、前記保護層における前記圧電材料中、Pに換算してモル基準で50〜1000ppm含まれている、ことを特徴とする請求項1記載の圧電素子。
  3. 前記素体は、前記圧電体層と前記電極層とが交互に複数積層されたものである、ことを特徴とする請求項1又は2記載の圧電素子。
  4. 前記圧電体層における前記圧電材料は、リン元素を含み、且つ、
    前記保護層は、前記圧電体層が複数積層されて形成されたものである、ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の圧電素子。
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