本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなされたものであり、より熱電変換効率が高く、製造コストの低廉化が可能であり、環境汚染のおそれも少ない熱電変換材料を提供することを解決すべき課題としている。
今回、発明者らはさらに研究を進め、Fe2VAlの基本構造に対し、Feに替えて元素Re(レニウム)で置換し、化学式あたりの総価電子数を制御することによって、熱電変換材料が正孔を多数キャリアとするp型に規則的になることを実証した。こうして、より実用性を向上させて本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明の熱電変換材料は、ホイスラー合金型の結晶構造をもち、化学式当たりの総価電子数が24であるFe2VAlの基本構造に対し、
化学組成比の調整量を調整すること並びに/又は元素Fe、V及びAlの少なくとも1元素の少なくとも一部を他の元素で置換することによって化学式当たりの総価電子数が24未満、23.5以上になるようにしてp型又は24を超え、24.5以下になるようにしてn型に制御された熱電変換材料において、
Feの一部が周期表における第5〜6周期の7族からなる群から選ばれる他の元素Mで置換され、
前記他の元素Mは熱伝導率低減のために置換される元素より大きな原子量を有しつつ前記総価電子数を制御していることを特徴とする。
発明者らは、元素MがRe(レニウム)であり、(Fe1-αReα)2VAlを満たす0<α<1の範囲内で調整され、かつ化学式当たりの総価電子数が24未満、23、5以上になるようにしてp型に制御された熱電変換材料で本発明の効果を確認した。
また、発明者らは、Fe2VAlの基本構造に対し、Vに替えてTi(チタン)及びTa(タンタル)で置換し、化学式あたりの総価電子数を制御することによって、熱電変換材料が正孔を多数キャリアとするp型に規則的になることを実証した。こうして、この点においても、より実用性を向上させて本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明の熱電変換材料は、ホイスラー合金型の結晶構造をもち、化学式当たりの総価電子数が24であるFe2VAlの基本構造に対し、
化学組成比の調整量を調整すること並びに/又は元素Fe、V及びAlの少なくとも1元素の少なくとも一部を他の元素で置換することによって化学式当たりの総価電子数が24未満、23.5以上になるようにしてp型又は24を超え、24.5以下になるようにしてn型に制御された熱電変換材料において、
Fe、V及びAlの1種の一部が他の2種の元素X、Yで置換され、
前記他の2種の元素X、Yの少なくとも一方は熱伝導率低減のために置換される元素より大きな原子量を有し、前記他の2種の元素X、Yの少なくとも一方は前記総価電子数を制御し、
前記元素X、Yは、Vの一部を置換する前記元素Xが周期表における第4〜6周期の4族からなる群から選ばれ、かつVの一部を置換する前記元素Yが周期表における第5〜6周期の5族からなる群から選ばれていることを特徴とする。
発明者らは、Vの一部を置換する元素XがTi(チタン)であり、Vの一部を置換する元素YがTa(タンタル)であり、一般式Fe2(V1-(βa+βb)TiβaTaβb )Alを満たす0<βa<0.05、βb<0.05の範囲内で調整され、かつ化学式当たりの総価電子数が24未満、23.5以上になるようにしてp型に制御されている熱電変換材料で本発明の効果を確認している。
さらに、発明者らは、Fe2VAlの基本構造に対し、Fe、V及びAlの2元素のそれぞれの一部が他の元素X、Yで同時に置換され、化学式あたりの総価電子数を制御することによって、熱電変換材料が電子を多数キャリアとするn型や正孔を多数キャリアとするp型に規則的になることを実証した。また、他の元素X、Yの少なくとも一方が置換される元素より原子量の大きい元素であれば熱伝導率を大幅に低下させることが可能であり、他の元素X、Yの少なくとも一方が総価電子数を制御すれば、熱電変換材料の熱電変換効率を向上できることを実証した。こうして、この点においても、より実用性を向上させて本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明の熱電変換材料は、ホイスラー合金型の結晶構造をもち、化学式当たりの総価電子数が24であるFe2VAlの基本構造に対し、
化学組成比の調整量を調整すること並びに/又は元素Fe、V及びAlの少なくとも1元素の少なくとも一部を他の元素で置換することによって化学式当たりの総価電子数が24未満、23.5以上になるようにしてp型又は24を超え、24.5以下になるようにしてn型に制御された熱電変換材料において、
Fe、V及びAlの2種の各一部が他の2種の元素X、Yで置換され、
前記他の2種の元素X、Yの少なくとも一方は熱伝導率低減のために置換される元素より大きな原子量を有し、前記他の2種の元素X、Yの少なくとも一方は前記総価電子数を制御し、
Feの一部を置換する前記元素Xが周期表における第4〜6周期の9族からなる群から選ばれ、かつVの一部を置換する前記元素Yが周期表における第4〜6周期の4族及び第5〜6周期の5族からなる群から選ばれるか、
Feの一部を置換する前記元素Xが周期表における第5〜6周期の8族からなる群から選ばれ、かつAlの一部を置換する元素Yが周期表における第3〜6周期の14族からなる群から選ばれるか、又は
Vの一部を置換する前記元素Xが周期表における第4〜6周期の4族及び第5〜6周期の5族からなる群から選ばれ、かつAlの一部を置換する前記元素Yが周期表における第3〜6周期の14族からなる群から選ばれていることを特徴とする。
以下、元素X、元素Yとして、Feの一部を置換する元素をM、Vの一部を置換する元素をN、Alの一部を置換する元素をDとする。
本発明の熱電変換材料は、Feの一部が周期表における第4〜6周期の9族からなる群から選ばれる元素Mで置換され、Vの一部が周期表における第4〜6周期の4族からなる群から選ばれる元素Nで置換され得る。この場合、元素M及び元素Nの置換量が一般式(Fe1-αMα)2(V1-βNβ)Alを満たす0<α<1及び0<β<1の範囲内で調整され、かつ化学式当たりの総価電子数が24未満、23.5以上になるようにしてp型又は24を超え、24.5以下になるようにしてn型に制御され得る。
発明者らは、元素MがIr(イリジウム)であり、かつ元素NがTiである場合に本発明の効果を確認している。
また、本発明の熱電変換材料は、Feの一部が周期表における第4〜6周期の8族からなる群から選ばれる元素Mで置換され、Alの一部が周期表における第3〜6周期の14族からなる群から選ばれる元素Dで置換され得る。この場合、元素M及び元素Dの置換量が一般式(Fe1-αMα)2V(Al1-γDγ)を満たす0<α<1及び0<γ<1の範囲内で調整され、かつ化学式当たりの総価電子数が24未満、23.5以上になるようにしてp型又は24を超え、24.5以下になるようにしてn型に制御され得る。
発明者らは、元素MがRu(ルテニウム)であり、かつ元素DがSi(ケイ素)である場合に本発明の効果を確認している。
さらに、本発明の熱電変換材料は、Vの一部が周期表における第4〜6周期の4族からなる群から選ばれる元素Nで置換され、Alの一部が周期表における第3〜6周期の14族からなる群から選ばれる元素Dで置換され得る。この場合、元素N及び元素Dの置換量が一般式Fe2(V1-βNβ)(Al1-γDγ)を満たす0<β<1及び0<γ<1の範囲内で調整され、かつ化学式当たりの総価電子数が24未満、23.5以上になるようにしてp型又は24を超え、24.5以下になるようにしてn型に制御され得る。
発明者らは、元素NがTiであり,かつ元素DがGeである場合に本発明の効果を確認している。また、発明者らは、元素NがTaであり,かつ元素DがGeである場合に本発明の効果を確認している。
ホイスラー合金型の結晶構造をもち、化学式当たりの総価電子数が24であるFe2VAlの基本構造に対し、Fe、V及びAlの少なくとも1元素の少なくとも一部が他の元素で置換されることにより、化学式当たりの総価電子数が24を超えるとき、ゼーべック係数の符号が負であり、その絶対値が大きくなり、n型としての挙動を示すとともに、性能指数も大きくなる。
つまり、基本構造に対してFe(鉄)の少なくとも一部を元素Mで置換する場合、元素Mが周期表における第4〜6周期の9族及び10族からなる群から選ばれれば、その熱電変換材料は電子を多数キャリアとするn型になる。
また、その基本構造に対してV(バナジウム)の少なくとも一部を元素Nで置換する場合、元素Nが周期表における第4〜6周期の6族からなる群から選ばれれば、その熱電変換材料はn型になる。
さらに、その基本構造に対してAl(アルミニウム)の少なくとも一部を元素Dで置換する場合、元素Dが周期表における第3〜6周期の14〜16族からなる群から選ばれれば、その熱電変換材料はn型になる。
元素M、元素N又は元素Dは1種の元素でもよく、複数の元素でもよい。
これらを表で示すと表1のようになる。
基本構造に対してFeの少なくとも一部だけを元素Mで置換する場合、元素Mの置換量が一般式(Fe1−αMα)2VAlを満たす0<α<1の範囲内で選択されることによって、化学式当たりの総価電子数が24を超えれば、その熱電変換材料はn型になる。
また、基本構造に対してVの少なくとも一部だけを元素Nで置換する場合、元素Nの置換量が一般式Fe2(V1−βNβ)Alを満たす0<β<1の範囲内で選択されることによって、化学式当たりの総価電子数が24を超えれば、その熱電変換材料はn型になる。
さらに、基本構造に対してAlの少なくとも一部だけを元素Dで置換する場合、元素Dの置換量が一般式Fe2V(Al1−γDγ)を満たす0<γ<1の範囲内で選択されることによって、化学式当たりの総価電子数が24を超えれば、その熱電変換材料はn型になる。
総価電子数が24を超え、24.5以下の範囲内のn型の熱電変換材料が高い熱電変換効率を示す。元素M、元素N又は元素Dは1種の元素でもよく、複数の元素でもよい。
さらに、発明者らの試験結果によれば、置換する元素が原子量の大きいもの、つまり原子半径及び質量が大きいものとされれば、熱伝導率を下げる効果が大きく、熱電変換効率のより高いn型の熱電変換材料になる。
すなわち、本発明の熱電変換材料は、Fe、V及びAlの少なくとも1種の一部は原子量の大きな元素で置換されていることが好ましい。
発明者らは、元素MをIrやPtとしたn型の熱電変換材料が元素MをRhとしたn型の熱電変換材料よりも熱伝導率が低く、熱電変換効率に優れることを確認した。
また、元素DをGeやSnとしたn型の熱電変換材料は元素DをSiとしたn型の熱電変換材料よりも熱伝導率が低く、熱電変換効率に優れる。
また、発明者らの試験結果によれば、熱電変換材料が可及的に小さな粒径の粉体又は結晶粒の集合体にされれば、格子振動の散乱が大きくなるため、熱伝導率が低下し、熱電変換効率のより高いn型の熱電変換材料になる。
本発明の熱電変換材料は、ホイスラー合金型の結晶構造をもち、化学式当たりの総価電子数が24であるFe2VAlの基本構造に対し、Fe、V及びAlの少なくとも1元素の少なくとも一部が他の元素で置換されることにより、化学式当たりの総価電子数が24未満になるとき、ゼーべック係数の符号が正であり、その絶対値が大きくなり、p型としての挙動を示すとともに、性能指数も大きくなる。
つまり、基本構造に対してFeに替えて置換する他の元素がMである場合、元素Mが周期表における第5〜6周期の7族からなる群から選ばれれば、その熱電変換材料は正孔を多数キャリアとするp型になる。
また、その基本構造に対してVに替えて置換する他の元素がNである場合、元素Nが周期表における第4〜6周期の4族からなる群から選ばれれば、その熱電変換材料はp型になる。
さらに、その基本構造に対してAlに替えて置換する他の元素がDである場合、元素Dが周期表における第3〜6周期の2族からなる群から選ばれれば、その熱電変換材料はp型になる。
元素M、元素N又は元素Dは1種の元素でもよく、複数の元素でもよい。
これらを表で示すと表2のようになる。
基本構造に対してFeの少なくとも一部だけを元素Mで置換する場合、元素Mの置換量が一般式(Fe1−αMα)2VAlを満たす0<α<1の範囲内で選択されることによって、化学式当たりの総価電子数が24未満になれば、その熱電変換材料はp型になる。
また、基本構造に対してVの少なくとも一部だけを元素Nで置換する場合、元素Nの置換量が一般式Fe2(V1−βNβ)Alを満たす0<β<1の範囲内で選択されることによって、化学式当たりの総価電子数が24未満になれば、その熱電変換材料はp型になる。
さらに、基本構造に対してAlの少なくとも一部だけを元素Dで置換する場合、元素Dの置換量が一般式Fe2V(Al1−γDγ)を満たす0<γ<1の範囲内で選択されることによって、化学式当たりの総価電子数が24未満になれば、その熱電変換材料はp型になる。
総価電子数が24未満、23.5以上の範囲内のp型の熱電変換材料が高い熱電変換効率を示す。元素M、元素N又は元素Dは1種の元素でもよく、複数の元素でもよい。
さらに、発明者らの試験結果によれば、置換する元素が原子量の大きいもの、つまり原子半径及び質量が大きいものとされれば、熱伝導率を下げる効果が大きく、熱電変換効率のより高いp型の熱電変換材料になる。
発明者らは、元素MをReとしたp型の熱電変換材料が元素MをMnとしたp型の熱電変換材料よりも熱伝導率が低く、熱電変換効率に優れることを確認した。
また、元素NをHfとしたp型の熱電変換材料が元素NをTi又はZrとしたp型の熱電変換材料よりも熱伝導率が低く、熱電変換効率に優れる。
また、発明者らの試験結果によれば、熱電変換材料が可及的に小さな粒径の粉体又は結晶粒の集合体にされれば、格子振動の散乱が大きくなるため、熱伝導率が低下し、熱電変換効率のより高いp型の熱電変換材料になる。
本発明の熱電変換材料は、ホイスラー合金型の結晶構造をもち、化学式あたりの総価電子数が24であるFe2VAlの基本構造に対し、Fe、V及びAlの少なくとも2元素の少なくとも一部が他の元素で置換され、Feに替えて置換する他の元素がMである場合には、元素Mが周期表における第4〜6周期の7〜10族からなる群から選ばれ、Vに替えて置換する他の元素がNである場合には、元素Nが周期表における第4〜6周期の4〜6族からなる群から選ばれ、Alに替えて置換する他の元素がDである場合には、元素Dが周期表における第3〜6周期の2族及び13〜16族からなる群から選ばれれば、その熱電変換材料はn型又はp型になる。
これらを表で表わすと表3のようになる。
基本構造に対してFeの少なくとも一部を元素Mで置換し、Vの少なくとも一部を元素Nで置換する場合、元素M及び元素Nの置換量が一般式(Fe1−αMα)2(V1−βNβ)Alを満たす0<α<1及び0<β<1の範囲内で選択されることによって、化学式当たりの総価電子数が24を超えれば、その熱電変換材料はn型になる。
また、基本構造に対してFeの少なくとも一部を元素Mで置換し、Alの少なくとも一部を元素Dで置換する場合、元素M及び元素Dの置換量が一般式(Fe1−αMα)2V(Al1−γDγ)を満たす0<α<1及び0<γ<1の範囲内で選択されることによって、化学式当たりの総価電子数が24を超えれば、その熱電変換材料はn型になる。
さらに、基本構造に対してVの少なくとも一部を元素Nで置換し、Alの少なくとも一部を元素Dで置換する場合、元素N及び元素Dの置換量が一般式Fe2(V1−βNβ)(Al1−γDγ)を満たす0<β<1及び0<γ<1の範囲内で選択されることによって、化学式当たりの総価電子数が24を超えれば、その熱電変換材料はn型になる。
基本構造に対してFeの少なくとも一部を元素Mで置換し、Vの少なくとも一部を元素Nで置換し、かつAlの少なくとも一部を元素Dで置換する場合、元素M、元素N及び元素Dの置換量が一般式(Fe1−αMα)2(V1−βNβ)(Al1−γDγ)を満たす0<α<1、0<β<1及び0<γ<1の範囲内で選択されることによって、化学式当たりの総価電子数が24を超えれば、その熱電変換材料はn型になる。
総価電子数が24を超え、24.5以下の範囲内のn型の熱電変換材料が高い熱電変換効率を示す。
発明者らの試験結果によれば、元素MがRh、Ir及びPtの少なくとも一方であり、かつ元素NがTi、Zr及びHfの少なくとも一方で同時置換したn型の熱電変換材料は、元素MがRh、Ir及びPtの少なくとも一方のみで置換したn型の熱電変換材料よりも熱伝導率が低く、熱電変換効率に優れることを確認した。
また、元素MがMn、Re、Ru及びOsの少なくとも一方であり、かつ元素DがSi、Ge及びSnの少なくとも一方で同時置換したn型の熱電変換材料は、元素DがSi、Ge及びSnの少なくとも一方のみで置換したn型の熱電変換材料よりも熱伝導率が低く、熱電変換効率に優れることを確認した。
さらに、元素NがTi、Zr、Hf、Nb及びTaの少なくとも一方であり、かつ元素DがSi、Ge及びSnの少なくとも一方で同時置換したn型の熱電変換材料は、元素DがSi、Ge及びSnの少なくとも一方のみで置換したn型の熱電変換材料よりも熱伝導率が低く、熱電変換効率に優れることを確認した。
基本構造に対してFeの少なくとも一部を元素Mで置換し、Vの少なくとも一部を元素Nで置換する場合、元素M及び元素Nの置換量が一般式(Fe1−αMα)2(V1−βNβ)Alを満たす0<α<1及び0<β<1の範囲内で選択されることによって、化学式当たりの総価電子数が24未満になれば、その熱電変換材料はp型になる。
基本構造に対してFeの少なくとも一部を元素Mで置換し、Alの少なくとも一部を元素Dで置換する場合、元素M及び元素Dの置換量が一般式(Fe1−αMα)2V(Al1−γDγ)を満たす0<α<1及び0<γ<1の範囲内で選択されることによって、化学式当たりの総価電子数が24未満になれば、その熱電変換材料はp型になる。
基本構造に対してVの少なくとも一部を元素Nで置換し、Alの少なくとも一部を元素Dで置換する場合、元素N及び元素Dの置換量が一般式Fe2(V1−βNβ)(Al1−γDγ)を満たす0<β<1及び0<γ<1の範囲内で選択されることによって、化学式当たりの総価電子数が24未満になれば、その熱電変換材料はp型になる。
基本構造に対してFeの少なくとも一部を元素Mで置換し、Vの少なくとも一部を元素Nで置換し、かつAlの少なくとも一部を元素Dで置換する場合、元素M、元素N及び元素Dの置換量が一般式(Fe1−αMα)2(V1−βNβ)(Al1−γDγ)を満たす0<α<1、0<β<1及び0<γ<1の範囲内で選択されることによって、化学式当たりの総価電子数が24未満になれば、その熱電変換材料はp型になる。
総価電子数が24未満、23.5以上の範囲内のp型の熱電変換材料が高い熱電変換効率を示す。
発明者らの試験結果によれば、元素MがRh、Ir及びPtの少なくとも一方であり、かつ元素NがTi、Zr及びHfの少なくとも一方で同時置換したp型の熱電変換材料は、元素NがTi、Zr及びHfの少なくとも一方のみで置換したp型の熱電変換材料よりも熱伝導率が低く、熱電変換効率に優れることを確認した。
また、元素MがMn及びReの少なくとも一方であり、かつ元素DがSi、Ge及びSnの少なくとも一方で同時置換したn型の熱電変換材料は、元素MがMn及びRe少なくとも一方のみで置換したp型の熱電変換材料よりも熱伝導率が低く、熱電変換効率に優れることを確認した。
さらに、元素NがTi、Zr及びHfの少なくとも一方であり、かつ元素DがSi、Ge及びSnの少なくとも一方で同時置換したp型の熱電変換材料は、元素NがTi、Zr及びHfの少なくとも一方のみで置換したp型の熱電変換材料よりも熱伝導率が低く、熱電変換効率に優れることを確認した。
さらに、元素NがTi、Zr及びHfの少なくとも一方であり、かつ元素NがNb及びTaの少なくとも一方で同時置換したp型の熱電変換材料は、元素NがTi、Zr及びHfの少なくとも一方のみで置換したp型の熱電変換材料よりも熱伝導率が低く、熱電変換効率に優れることを確認した。
発明者らが先の出願(特許文献2)で確認したように、ホイスラー合金型の結晶構造をもつFe2VAlの基本構造は化学式当たりの総価電子数が24である。すなわち原子当たりの平均電子濃度が24/4=6である場合、この熱電変換材料は、フェルミ準位に鋭い擬ギャップをもつ。本発明の熱電変換材料は、この基本構造に対し、化学組成比を調整することによって化学式当たりの総価電子数を制御することも可能である。これによってフェルミ準位を擬ギャップの中心からシフトさせることができ、ゼーべック係数の符号や大きさを変化させ得る。
すなわち、基本構造のFeに替えて置換する他の元素がMである場合、化学組成比の調整量x、y及びz並びに元素Mの置換量αが一般式(Fe1−αMα)2+xV1+yAl1+zを満たす−1<x<1、−1<y<1又は−1<z<1及び0≦α≦1の範囲内で選択されることによって、化学式当たりの総価電子数が制御され得る。
また、基本構造のVに替えて置換する他の元素がNである場合、化学組成比の調整量x、y及びz並びに元素Nの置換量βが一般式Fe2+x(V1−βNβ)1+yAl1+zを満たす−1<x<1、−1<y<1又は−1<z<1及び0≦β≦1の範囲内で選択されることによって、化学式当たりの総価電子数が制御され得る。
さらに、基本構造のAlに替えて置換する他の元素がDである場合、化学組成比の調整量x、y及びz並びに元素Dの置換量γが一般式Fe2+xV1+y(Al1−γDγ)1+zを満たす−1<x<1、−1<y<1又は−1<z<1及び0≦γ≦1の範囲内で選択されることによって、化学式当たりの総価電子数が制御され得る。
化学組成比を調整量x、y及びzで調整しつつ、基本構造のFeに替えて元素Mで置換するとともに、基本構造のVに替えて元素Nで置換すれば、一般式は(Fe1−αMα)2+x(V1−βNβ)1+yAl1+zとなる。
また、化学組成比を調整量x、y及びzで調整しつつ、基本構造のFeに替えて元素Mで置換するとともに、基本構造のAlに替えて元素Dで置換すれば、一般式は(Fe1−αMα)2+xV1+y(Al1−γDγ)1+zとなる。
さらに、化学組成比を調整量x、y及びzで調整しつつ、基本構造のVに替えて元素Nで置換するとともに、基本構造のAlに替えて元素Dで置換すれば、一般式はFe2+x(V1−βNβ)1+y(Al1−γDγ)1+zとなる。
化学組成比を調整量x、y及びzで調整しつつ、基本構造のFeに替えて元素Mで置換し、基本構造のVに替えて元素Nで置換し、かつ基本構造のAlに替えて元素Dで置換すれば、一般式は(Fe1−αMα)2+x(V1−βNβ)1+y(Al1−γDγ)1+zとなる。
本発明の熱電変換材料は、金属的性質として、電気抵抗率が小さいという特徴がある。また、この熱電変換材料では、Fe、V及びAlの少なくとも1元素の少なくとも一部を他の元素で置換すれば、格子振動の散乱が大きくなるため、熱伝導率が低下する。このため、この熱電変換材料を用いて、熱電変換効率の高い熱電変換素子を製造することができる。
本発明の熱電変換材料は、従来の熱電変換材料と異なり、金属的性質として、750°C以上かつ融点以下の温度で熱間加工等を行うことができる。このため、熱電変換素子を製造する場合の歩留まりを高くすることができるとともに、製造工程数も少なくなり、ひいては熱電変換素子の製造コストの低廉化も実現できる。
また、この熱電変換材料は、Fe、V及びAlが主成分であり、これらはいずれも毒性がほとんどないため、環境汚染の問題を生ずるおそれが小さい。また、Fe及びAlは安価であるので、製造コストの低廉化が可能になる。さらに、本発明の熱電変換材料は、置換する元素によってn型やp型に規則的になり、かつ置換する元素の原子量や粉体又は結晶粒の粒径によって熱伝導率を低下させることが可能であるため、優れた熱電変換効率を発揮する実用性を有するものである。
本発明の熱電変換材料は以下の製造方法により製造され得る。この製造方法は、上記熱電変換材料を製造可能な元素と構成比率とを有する原料混合物を用意する第1工程と、該原料混合物を真空中又は不活性ガス中において溶融又は気化及び固化し、熱電変換材料を得る第2工程とを有することを特徴とする。
この製造方法で上記熱電変換材料を製造すれば、熱電変換効率が高く、環境汚染のおそれも少ない熱電変換材料を低廉に製造することが可能である。
第2工程としては、例えば、原料混合物を真空中や不活性ガス中において溶解させた後で冷却する方法を採用することができる。n型の熱電変換材料又はp型の熱電変換材料を可及的に小さな粒径の粉体の集合体とするためには、まず、原料混合物をアーク溶解等により溶解した後に固化することによりインゴットを作製し、これを不活性ガス又は窒素ガス雰囲気中で機械的に粉砕してほぼ均粒の粉体を得る方法、溶湯粉化(アトマイズ)やガスアトマイズ法によってほぼ均粒の粉体を得る方法、メカニカルアロイング法により不活性ガス又は窒素ガス雰囲気中で原料混合物の圧着と破断を繰り返すことによってほぼ均粒の粉体を得る方法等を採用することができる。そして、こうして得られた粉体を真空中のホットプレス法、HIP(熱間等方圧成形)法、放電プラズマ焼結法、パルス通電法等により焼結することが可能である。HIP法により粉体を焼結する場合、例えば800°Cで高圧(150MPa)のアルゴンガスにより圧縮成形と焼結とを同時に進行させ、真密度で固化を行うことができる。また、擬HIP法によれば成形プレスを利用して安価に真密度固化を行うことができる。また、n型の熱電変換材料又はp型の熱電変換材料を可及的に小さな粒径の結晶粒の集合体とするためには、熱間圧延等の歪加工を行ったり、溶融した原料を急冷したりすること等により結晶粒を小さくする方法を採用することができる。
本発明の熱電変換材料により熱電変換素子を製造することが可能である。こうして得られる熱電変換素子は、ゼーべック係数の符号が正の上記熱電変換材料がp型としての挙動を示し、ゼーべック係数の符号が負の上記熱電変換材料がn型としての挙動を示す。これらの熱電変換素子は、熱電変換効率が高く、製造コストの低廉化が可能であり、環境汚染のおそれが少ない。
[試験例1]
試験例1の熱電変換材料は、構成する元素がFe、V及びAlであり、Fe、V及びAlがホイスラー合金型の結晶構造になるような化学量論組成(Fe2VAl)をなす基本構造に対し、Feの少なくとも一部を周期表の7族元素であるMn又はReで置換したものである。
Fe2VAlの基本構造の化学式当たりの総価電子数は、以下の計算により24である。つまり、Feの価電子数は4s軌道の2と3d軌道の6との合計8に係数2を乗じた16である。また、Vの価電子数は4s軌道の2と3d軌道の3との合計5である。また、Alの価電子数は3s軌道の2と3p軌道の1との合計3である。これらFe、V及びAlの価電子数の合計24が基本構造の化学式あたりの総価電子数である。
この基本構造に対し、Feの少なくとも一部をMn又はReで置換する置換量αは0≦α≦0.07の範囲内で選択されている。こうして得られる熱電変換材料は、一般式(Fe1−αMnα)2VAl及び(Fe1−αReα)2VAlで表される化合物である。この熱電変換材料は以下のように製造される。
まず、図1に示すように、第1工程S1として、99.99質量%のFeと、99.99質量%のAlと、99.9質量%のVと、99.97質量%のMn及び99.99質量%のReを用意する。そして、これらを上記一般式を満足するように計量して混合し、原料混合物を得る。
次に、第2工程S2として、この原料混合物をアルゴン雰囲気下でアーク溶解した。アーク溶解により得られる合金物質の組成が均一となるように、必要回数の再溶解を繰り返した後、これを冷却することによりインゴットを得る。この場合の質量損失は0.2%以下であった。
さらに、第3工程S3として、そのインゴットを5×10−3Paの真空度において、1273Kで48時間の焼鈍を行った後、さらに673Kで4時間の規則化焼鈍を行い、炉冷する。こうして、均質化された各熱電変換材料を得る。
<評価>
(1)X線回折測定
得られた試験例1の各熱電変換材料を粉末とし、粉末X線回折法によってX線回折測定を行う。この結果、試験例1の各熱電変換材料は、D03(L21)単相により構成されており、ホイスラー合金型の結晶構造を有していた。
(2)電気抵抗率の測定
試験例1の各熱電変換材料を炭化ケイ素の切断刃によって切断して1×1×15(mm3)の角柱形状の試験片とする。そして、4×10−4Paの真空中において、直流四端子法により各試験片に100mAの電流を通電して電気抵抗率を測定する。この際、4.2Kから室温までは自然昇温させ、室温から1273Kまでは各試験片を真空加熱炉内で加熱することにより昇温速度0.05K/秒で昇温する。このようにして、各試験片による電気抵抗率(μΩm)と温度(K)との関係を求める。基本構造(α=0)である試験例1の熱電変換材料は、4.2Kでの電気抵抗率が27μΩmにも達しており、全測定温度範囲にわたって半導体的な負の温度依存性を示す。これに対し、Feの少なくとも一部をMn又はReで置換した試験例1の熱電変換材料では、低温における電気抵抗率の減少が顕著であった。例えば、置換量α=0.05の試験例1の熱電変換材料では、4.2Kでの電気抵抗率が4μΩm以下まで低下しており、400K以下の温度では金属的な正の温度依存性を示した。さらに、Feの少なくとも一部をMnで置換した熱電変換材料では、Reで置換したものより置換量に対する電気抵抗率の減少が若干大きいことがわかった。
各試験片による300Kにおける電気抵抗率(μΩm)と置換量αとの関係を図2に示す。図2に示すように、基本構造(置換量α=0)である試験例1の熱電変換材料は、300Kにおいて7.7μΩmという大きな電気抵抗率になっている。ところが、Feの少なくとも一部をReで置換すると、置換量α=0.01で約6.8μΩm、置換量α=0.05で約4.6μΩmまで低下している。このような電気抵抗率の減少は、Mnで置換したときの方が急激である。このため、試験例1の熱電変換材料を用いれば、電気抵抗率の低い、つまり電気伝導率の高い熱電変換素子を得られることがわかる。
(3)ゼーべック係数の測定
試験例1の各熱電変換材料を炭化ケイ素の切断刃によって切断して0.5×0.5×5(mm3)の角柱形状の試験片とする。そして、MMR−Technologies社製「SB−100」を用い、各試験片のゼーべック係数を90K〜400Kの温度範囲で測定する。
各試験片による300Kにおけるゼーべック係数(μV/K)と置換量αとの関係を図3に示す。図3に示すように、基本構造(置換量α=0)である試験例1の熱電変換材料では、ゼーべック係数の符号は正で、その値は30μV/K程度である。これに対し、Feの少なくとも一部をReで置換した熱電変換材料では、ゼーべック係数の符号は正のままであるが、その絶対値が著しく増加している。特に、置換量α=0.05の熱電変換材料では、ゼーべック係数の絶対値が90μV/Kという大きな値になっている。また、Feの少なくとも一部をMnで置換した熱電変換材料でも、ゼーべック係数の符号は正を示しており、置換量α=0.04の熱電変換材料では、ゼーべック係数の絶対値が55μV/K以上の値である。Mn及びReはいずれも周期表の7族の元素であり、Feに替えて置換する元素が第4〜6周期の7族及び8族からなる群から選ばれた試験例1の熱電変換材料において、正孔を多数キャリアとするp型に制御されているだけでなく、大きな熱起電力を発生可能な熱電変換素子が得られることがわかる。
試験例1のMn又はReで置換した熱電変換材料の化学式当たりの総価電子数は、置換量αが0〜0.07であるため、2{8(1−α)+7α}+5+3=24−2α=24〜23.86であり、この範囲内でゼーべック係数と電気抵抗率が大きく変化していることがわかる。図2及び図3より、特に、総価電子数が24未満、23.5以上の範囲内である試験例1の熱電変換材料において、ゼーべック係数、電気抵抗率が大きく変化していることがわかる。
(4)バンド計算
試験例1の熱電変換材料について、バンド計算の結果を用いて検討する。図4に示すように、Fe2VAlのフェルミ準位付近のバンド構造は、フェルミ準位において、Γ点に正孔ポケットが存在し、X点に電子ポケットが存在する。また、正孔ポケットは主としてFe−3dバンドからなり、電子ポケットはV−3dバンドからなる。
これらの正孔及び電子ポケットは非常に小さく、Fe2VAlにおけるキャリア密度が著しく低いことの原因になっている。擬ギャップ系では、フェルミ準位での状態密度が非常に小さいので、Fe2VAlの基本構造に対してFe、V及びAlの少なくとも1元素の少なくとも一部を他の元素で置換することによって価電子濃度が変化すると、フェルミ準位が大きくシフトする。このため、Feの少なくとも一部をMn又はReで置換することによって総価電子数が減少すると、図4においてフェルミ準位が大きく低エネルギー側のEF −にシフトする。また、剛体バンドモデルを仮定した場合、Mn及びReは周期表の7族の元素であるので、置換量が同じであるならば総価電子数が同じように減少するため、フェルミ準位のシフト量も同じであると考えられる。このため、キャリアに占める正孔の割合が増加し、ゼーべック係数は符号が正の値を示す。以上のバンド計算からの考察によっても、試験例1の熱電変換材料は、Feの少なくとも一部をMn又はReで置換することによって、ゼーべック係数の符号を正に変化させることができ、正孔を多数キャリアとするp型に制御し得ることがわかる。
(5)熱伝導率の測定
試験例1の各熱電変換材料を炭化ケイ素の切断刃によって切断して3.5×3.5×4(mm3)の角柱状の試験片とする。そして、4×10−4Paの真空中において、熱流法による定常比較測定法を用いて各試験片の熱伝導率を測定する。
各試験片による300Kにおける熱伝導率(W/mK)と置換量αとの関係を図5に示す。基本構造(置換量α=0)である試験例1の熱電変換材料は、300Kにおいて28W/mKという大きな値になっている。ところが、Feの少なくとも一部をMn又はReで置換すると、いずれの試験片についても熱伝導率は著しく減少している。特に、置換量α=0.05において比較すると、Mnによる置換では21W/mK、Reによる置換では8W/mKまで減少している。Mn及びReはいずれも周期表の7族の元素であるが、置換量が同じであるならば原子量の大きい元素(Re)で置換することにより、熱伝導率の減少は顕著になることがわかる。
また、熱伝導率はキャリアによる成分と格子振動による成分の和であることが知られている。Wiedemann−Franz則を用いて図2の電気抵抗率からキャリアによる熱伝導率を見積もると、図5に示した全体の熱伝導率の10分の1程度と小さいことがわかる。したがって、試験例1の各熱電変換材料においては格子振動による熱伝導率の寄与が大部分であり、原子量の大きい元素による置換は、格子振動による熱伝導率を大幅に低減するうえで有効である。このため、試験例1の熱電変換材料を用いれば、熱伝導率が小さく、ひいては熱電変換の性能に優れた熱電変換素子を得られることがわかる。
(6)性能指数の評価
熱電変換材料としては、ゼーべック係数が大きいだけでなく、電気抵抗率が小さいと同時に熱伝導率も小さいことが要求される。そのため、一般に性能指数Z=S2/ρκを用いて性能を評価する。但し、Sはゼーべック係数、ρは電気伝導率、κは熱伝導率である。
試験例1の各熱電変換材料について、性能指数(/K)と置換量αとの関係を図6に示す。図6に示すように、基本構造(置換量α=0)である試験例1の熱電変換材料は、300Kの性能指数は0.004×10−3/Kという小さな値になっている。Feの少なくとも一部をReで置換した試験例1の熱電変換材料では、電気抵抗率が格段に減少すると同時にゼーべック係数が大幅に増大し、さらに熱伝導率が減少するため、性能指数が急激に大きくなる。Reで置換した試験例1の熱電変換材料では、置換量α=0.03の300Kでの性能指数は0.13×10−3/Kであるが、置換量α=0.05では0.2×10−3/K以上に達しており、それ以上に置換量が増加しても性能指数は増加しないことがわかる。このように、原子量の大きい元素で置換した熱電変換材料を用いて熱電変換素子を製造した場合、熱伝導率の大幅な減少の結果として大きな性能指数を示す熱電変換素子が得られることがわかる。
(7)加工性
試験例1の熱電変換材料は、金属的性質として、750°C以上かつ融点以下の温度で熱間加工を行うことができる。例えば、試験例1の熱電変換材料を熱間圧延によって帯材とし、この帯材を切断して直方体形状のチップとし、このチップをモジュール化する等の方法により熱電変換素子を製造することも可能である。このため、熱電変換素子を製造する場合の歩留まりを高くすることができるとともに、製造工程数も少なくなり、ひいては熱電変換素子の製造コストの低廉化も実現できる。
(8)原料費
試験例1の熱電変換材料は、FeやAlという安価な金属を主成分としているため、原料費が低廉であり、製造コストの低廉化が可能である。また、これらの元素は汎用性の金属であるため、大量かつ安定に原料を確保することができる。
(9)毒性
試験例1の熱電変換材料はFe、V及びAlから構成されているため、毒性が弱く、環境汚染のおそれは小さい。
[試験例2]
試験例2の熱電変換材料は、基本構造のFe2VAlに対し、Fe、V及びAlのうちのVの少なくとも一部を周期表の4族元素であるTiで置換し、かつAlの少なくとも一部を14族元素であるGeで同時置換したものである。Tiの置換量βは0≦β≦0.2の範囲内で選択されており、Geの置換量γは0≦γ≦0.1の範囲内で選択されている。製法は試験例1と同様である。こうして得られる試験例2の熱電変換材料は、一般式Fe2(V1−βTiβ)(Al1−γGeγ)で表される化合物である。
試験例2の各熱電変換材料について、試験例1と同様のX線回折測定を行う。この結果、試験例2の各熱電変換材料もホイスラー合金型の結晶構造を有していた。
試験例2の各熱電変換材料について、試験例1と同様、各試験片による300Kにおける電気抵抗率(μΩm)と置換量βとの関係を求める。一般式Fe2(V1−βTiβ)(Al1−γGeγ)で表される熱電変換材料の結果を図7に示す。基本構造(置換量β=0及びγ=0)である試験例2の熱電変換材料は、300Kにおいて7.7μΩmという大きな値になっている。ところが、Alの少なくとも一部をGeで置換すると、置換量γ=0.1で約2.5μΩmまで低下している。さらに、Vの少なくとも一部をTiで置換し、かつAlの少なくとも一部をGeで同時置換すると、β=0.2及びγ=0.1の置換量で約1.4μΩmまで低下している。このような電気抵抗率の減少は、Geのみで置換したときより、Ge及びTiで同時置換したときの方がより顕著である。このため、試験例2の熱電変換材料を用いれば、電気抵抗率の低い、つまり電気伝導率の高い熱電変換素子を得られることがわかる。
試験例2の各熱電変換材料について、試験例1と同様、各試験片による300Kにおけるゼーべック係数(μV/K)と置換量β及びγとの関係を求める。一般式Fe2(V1−βTiβ)(Al1−γGeγ)で表される熱電変換材料の結果を図8に示す。基本構造(置換量β=0及びγ=0)である試験例2の熱電変換材料では、試験例1の熱電変換材料と同様、ゼーべック係数の符号は正で、その値は30μV/K程度である。また、図8に示すように、Alの少なくとも一部をGeで置換した試験例2の熱電変換材料(置換量β=0及びγ=0.1)では、ゼーベック係数の符号は負となり、その絶対値は120μV/K程度の大きな値である。これに対し、Vの少なくとも一部をTiで置換し、かつAlの少なくとも一部を置換量γ=0.1のGeで置換した試験例2の熱電変換材料は、Tiの置換量β=0.1までは徐々にゼーベック係数の絶対値は小さくなっていく。ところが、β=0.1の置換量を越えると、Feの少なくとも一部をMn又はReで置換した試験例1の熱電変換材料と同様、ゼーべック係数の符号が正となり、その絶対値が著しく増加した。特に、置換量β=0.13の熱電変換材料では、ゼーべック係数の符号は正でその絶対値が80μV/Kという大きな値である。Tiは周期表の4族の元素であり、またGeは周期表の14族の元素であり、Vに替えて置換する元素が第4〜6周期の4〜6族からなる群から選ばれ、Alに替えて置換する元素が第3〜6周期の13〜16族からなる群から選ばれた試験例2の熱電変換材料において、置換量β及びγを調節することによって電子を多数キャリアとするn型又は正孔を多数キャリアとするp型に制御されているだけでなく、大きな熱起電力を発生可能な熱電変換素子が得られることがわかる。
また、試験例2の熱電変換材料の化学式当たりの総価電子数は、置換量γ=0.1の場合、置換量βが0〜0.2であるため、2×8+{5(1−β)+4β}+(3×0.9+4×0.1)=24.1−β=24.1〜23.9であり、この範囲内でゼーべック係数が大きく変化していることがわかる。図8より、特に、総価電子数が24未満、23.5以上の範囲内である試験例2の熱電変換材料において、ゼーべック係数が正の大きな値に変化しており、また、総価電子数が24を超え、24.5以下の範囲内である試験例2の熱電変換材料において、ゼーべック係数が負の大きな値に変化していることがわかる。
さらに、バンド計算の結果、基本構造(置換量β=0及びγ=0)である試験例2の熱電変換材料においても、正孔及び電子ポケットが非常に小さく、これはキャリア密度が著しく低いことの原因になっている。このため、Alの少なくとも一部をGeで置換し、かつVの少なくとも一部をTiで同時置換することによって総価電子数が24未満に減少すると、図4においてフェルミ準位が大きく低エネルギー側のEF −にシフトする。このため、キャリアに占める正孔の割合が増加し、ゼーべック係数は符号が正の値を示す。一方、Alの少なくとも一部をGeで置換し、かつVの少なくとも一部をTiで同時置換することによって総価電子数が24以上に増加すると、図4においてフェルミ準位が大きく高エネルギー側のEF +にシフトする。このため、キャリアに占める電子の割合が増加し、ゼーべック係数は符号が負の値を示す。以上のバンド計算からの考察により、試験例2の熱電変換材料は、Alの少なくとも一部をGeで置換し、かつVの少なくとも一部をTiで同時置換することによって、ゼーべック係数の符号を正に変化させることで、正孔を多数キャリアとするp型に制御し、また、ゼーべック係数の符号を負に変化させることで、電子を多数キャリアとするn型に制御し得ることがわかる。
また、試験例2の各熱電変換材料について、試験例1と同様、各試験片による300Kにおける熱伝導率(W/mK)と置換量β及びγとの関係を求める。一般式Fe2(V1−βTiβ)(Al1−γGeγ)で表される熱電変換材料の結果を表4に示す。
基本構造(置換量β=0及びγ=0)である試験例2の熱電変換材料は、300Kにおいて28W/mKという大きな値になっている。ところが、表4に示すように、Vの少なくとも一部をTiで置換し、かつAlの少なくとも一部をGeで同時置換すると、いずれの試験片についても熱伝導率は著しく減少している。特に、Tiの置換量β=0.15において比較すると、Geで同時置換することによって15W/mKまで減少している。原子量の大きい元素(Ge)で同時置換することにより、置換量が多くなると熱伝導率の減少は顕著になることがわかる。
また、熱伝導率はキャリアによる成分と格子振動による成分の和であることが知られている。Wiedemann−Franz則を用いて図7の電気抵抗率からキャリアによる熱伝導率を見積もると、表4に示した全体の熱伝導率の10分の1程度と小さいことがわかる。したがって、試験例2の各熱電変換材料においては格子振動による熱伝導率の寄与が大部分であり、原子量の大きい元素による置換は、格子振動による熱伝導率を大幅に低減するうえで有効である。このため、試験例2の熱電変換材料を用いれば、熱伝導率が小さく、ひいては熱電変換の性能に優れた熱電変換素子を得られることがわかる。
試験例2の一般式Fe2(V1−βTiβ)(Al1−γGeγ)で表される熱電変換材料について、性能指数(/K)と置換量β及びγとの関係を表4に示す。基本構造(置換量β=0及びγ=0)である試験例2の熱電変換材料は、300Kの性能指数は0.004×10−3/Kという小さな値である。Vの少なくとも一部をTiで置換し、かつAlの少なくとも一部をGeで同時置換した試験例2の熱電変換材料では、電気抵抗率が格段に減少すると同時にゼーべック係数が大幅に増大し、さらに熱伝導率が減少するため、性能指数が急激に大きくなる。試験例2の熱電変換材料では、置換量β=0.15及びγ=0の300Kでの性能指数は0.07×10−3/Kであるが、置換量β=0.15及びγ=0.1では0.15×10−3/Kに達しており、Geの置換量が増加すると性能指数は増加することがわかる。このように、原子量の大きい元素で置換した熱電変換材料を用いて熱電変換素子を製造した場合、熱伝導率の大幅な減少の結果として大きな性能指数を示す熱電変換素子が得られることがわかる。
加工性、原料費及び毒性については、試験例1と同様の効果を有している。
[試験例3]
試験例3の熱電変換材料は、基本構造のFe2VAlに対し、Fe、V及びAlのうちのFeの少なくとも一部を周期表の9族元素であるIrで置換し、かつVの少なくとも一部を周期表の4族元素であるTiで同時置換したものである。Irの置換量αは0≦α≦0.03の範囲内で選択されており、Tiの置換量βは0≦β≦0.16の範囲内で選択されている。製法は試験例1と同様である。こうして得られる試験例3の熱電変換材料は、一般式(Fe1−αIrα)2(V1−βTiβ)Alで表される化合物である。
試験例3の各熱電変換材料について、試験例1と同様のX線回折測定を行う。この結果、試験例3の各熱電変換材料もホイスラー合金型の結晶構造を有していた。
試験例3の各熱電変換材料について、試験例1と同様、各試験片による300Kにおけるゼーべック係数(μV/K)と置換量α及びβとの関係を求める。一般式(Fe1−αIrα)2(V1−βTiβ)Alで表される熱電変換材料の結果を図9に示す。基本構造(置換量α=0及びβ=0)である試験例3の熱電変換材料では、試験例1の熱電変換材料と同様、ゼーべック係数の符号は正で、その値は30μV/K程度である。また、図9に示すように、Feの少なくとも一部をIrで置換した試験例3の熱電変換材料(置換量α=0.015及びβ=0)では、ゼーベック係数の符号は負となり、その絶対値は135μV/K程度の大きな値である。これに対し、Feの少なくとも一部をIrで置換し、かつVの少なくとも一部をTiで同時置換した試験例3の熱電変換材料は、Feの少なくとも一部をMn又はReで置換したり、Vの少なくとも一部をTiで置換し、かつAlの少なくとも一部をGeで同時置換したりした試験例1及び2の熱電変換材料と同様、ゼーべック係数の符号が正となり、その絶対値が著しく増加した。特に、置換量α=0.015及びβ=0.06の熱電変換材料では、ゼーべック係数の絶対値が80μV/K以上の大きな値である。Irは周期表の9族の元素であり、またTiは周期表の4族の元素であり、Feに替えて置換する元素が第4〜6周期の7〜10族からなる群から選ばれ、Vに替えて置換する元素が第4〜6周期の4〜6族からなる群から選ばれた試験例3の熱電変換材料において、置換量α及びβを調節することによって電子を多数キャリアとするn型又は正孔を多数キャリアとするp型に制御されているだけでなく、大きな熱起電力を発生可能な熱電変換素子が得られることがわかる。
また、試験例3の熱電変換材料の化学式当たりの総価電子数は、置換量α=0.015の場合、置換量βが0〜0.13であるため、2{8×0.985+9×0.015}+{5(1−β)+4β}+3=24.03−β=24.03〜23.90であり、この範囲内でゼーべック係数が大きく変化していることがわかる。図9より、特に、総価電子数が24未満、23.5以上の範囲内である試験例3の熱電変換材料において、ゼーべック係数が正の大きな値に変化しており、また、総価電子数が24を超え、24.5以下の範囲内である試験例3の熱電変換材料において、ゼーべック係数が負の大きな値に変化していることがわかる。
また、バンド計算の結果、基本構造(置換量α=0及びβ=0)である試験例3の熱電変換材料においても、正孔及び電子ポケットが非常に小さく、これはキャリア密度が著しく低いことの原因になっている。このため、Feの少なくとも一部をIrで置換し、かつVの少なくとも一部をTiで同時置換することによって総価電子数が24未満に減少すると、図4においてフェルミ準位が大きく低エネルギー側のEF −にシフトする。このため、キャリアに占める正孔の割合が増加し、ゼーべック係数は符号が正の値を示す。一方、Feの少なくとも一部をIrで置換し、かつVの少なくとも一部をTiで同時置換することによって総価電子数が24以上に増加すると、図4においてフェルミ準位が大きく高エネルギー側のEF +にシフトする。このため、キャリアに占める電子の割合が増加し、ゼーべック係数は符号が負の値を示す。以上のバンド計算からの考察により、試験例3の熱電変換材料は、Feの少なくとも一部をIrで置換し、かつVの少なくとも一部をTiで同時置換することによって、ゼーべック係数の符号を正に変化させることで、正孔を多数キャリアとするp型に制御し、また、ゼーべック係数の符号を負に変化させることで、電子を多数キャリアとするn型に制御し得ることがわかる。
また、試験例3の各熱電変換材料について、試験例1と同様、各試験片による300Kにおける熱伝導率(W/mK)と置換量α及びβとの関係を求める。一般式(Fe1−αIrα)2(V1−βTiβ)Alで表される熱電変換材料の結果を表5に示す。
基本構造(置換量α=0及びβ=0)である試験例3の熱電変換材料は、300Kにおいて28W/mKという大きな値になっている。ところが、表5に示すように、Feの少なくとも一部をIrで置換し、かつVの少なくとも一部をTiで同時置換すると、いずれの試験片についても熱伝導率は著しく減少している。特に、Tiの置換量にはよらず、Irで同時置換することによって15W/mKまで減少している。原子量の大きい元素(Ir)で同時置換することにより、置換量が多くなると熱伝導率の減少は顕著になることがわかる。
また、熱伝導率はキャリアによる成分と格子振動による成分の和であることが知られている。Wiedemann−Franz則を用いて電気抵抗率からキャリアによる熱伝導率を見積もると、表5に示した全体の熱伝導率の10分の1程度と小さいことがわかる。したがって、試験例3の各熱電変換材料においては格子振動による熱伝導率の寄与が大部分であり、原子量の大きい元素による置換は、格子振動による熱伝導率を大幅に低減するうえで有効である。このため、試験例3の熱電変換材料を用いれば、熱伝導率が小さく、ひいては熱電変換の性能に優れた熱電変換素子を得られることがわかる。
試験例3の一般式(Fe1−αIrα)2(V1−βTiβ)Alで表される熱電変換材料について、性能指数(/K)と置換量α及びβとの関係を表5に示す。基本構造(置換量α=0及びβ=0)である試験例3の熱電変換材料は、300Kの性能指数は0.004×10−3/Kという小さな値である。Feの少なくとも一部をIrで置換し、かつVの少なくとも一部をTiで同時置換した試験例3の熱電変換材料では、電気抵抗率が格段に減少すると同時にゼーべック係数が大幅に増大し、さらに熱伝導率が減少するため、性能指数が急激に大きくなる。試験例3の熱電変換材料では、置換量α=0.015及びβ=0.06の300Kでの性能指数は0.15×10−3/Kに達しており、Irで同時置換すると性能指数は増加することがわかる。このように、原子量の大きい元素で置換した熱電変換材料を用いて熱電変換素子を製造した場合、熱伝導率の大幅な減少の結果として大きな性能指数を示す熱電変換素子が得られることがわかる。
加工性、原料費及び毒性については、試験例1〜2と同様の効果を有している。
[試験例4]
試験例4の熱電変換材料は、基本構造のFe2VAlに対し、Fe、V及びAlのうちのVの少なくとも一部を周期表の5族元素であるTaで置換し、かつAlの少なくとも一部を周期表の14族元素であるGeで同時置換したものである。Taの置換量βは0≦β≦0.1の範囲内で選択されており、Geの置換量γは0≦γ≦0.1の範囲内で選択されている。製法は試験例1と同様である。こうして得られる試験例4の熱電変換材料は、一般式Fe2(V1−βTaβ)(Al1−γGeγ)で表される化合物である。
試験例4の各熱電変換材料について、試験例1と同様のX線回折測定を行う。この結果、試験例4の各熱電変換材料もホイスラー合金型の結晶構造を有していた。
試験例4の各熱電変換材料について、試験例1と同様、各試験片による300Kにおけるゼーべック係数(μV/K)と置換量β及びγとの関係を求める。一般式Fe2(V1−βTaβ)(Al1−γGeγ)で表される熱電変換材料の結果を表6に示す。基本構造(置換量β=0及びγ=0)である試験例4の熱電変換材料では、試験例1の熱電変換材料と同様、ゼーべック係数の符号は正で、その値は30μV/K程度である。これに対し、Alの少なくとも一部をGeで置換した試験例4の熱電変換材料(置換量β=0及びγ=0.1)では、表6に示すように、ゼーベック係数の符号は負となり、その絶対値は120μV/K程度の大きな値である。また、Vの少なくとも一部をTaで置換し、かつAlの少なくとも一部をGeで同時置換した試験例4の熱電変換材料は、Vの少なくとも一部をTiで置換し、かつAlの少なくとも一部をGeで同時置換したりした試験例2の熱電変換材料と同様、ゼーべック係数の符号が負となり、その絶対値も増大した。特に、置換量β=0.05及びγ=0.1の熱電変換材料では、ゼーべック係数の絶対値が130μV/K程度の大きな値である。Taは周期表の5族の元素であり、またGeは周期表の14族の元素であり、Vに替えて置換する元素が第4〜6周期の4〜6族からなる群から選ばれ、Alに替えて置換する元素が第3〜6周期の13〜16族からなる群から選ばれた試験例4の熱電変換材料において、置換量β及びγを調節することによって電子を多数キャリアとするn型に制御されているだけでなく、大きな熱起電力を発生可能な熱電変換素子が得られることがわかる。
また、試験例4の熱電変換材料の化学式当たりの総価電子数は、置換量βが0〜0.1であるため、2×8+{5(1−β)+5β}+(3×0.9+4×0.1)=24.1である。表6より、特に、総価電子数が24を超え、24.5以下の範囲内である試験例5の熱電変換材料において、ゼーべック係数が負の大きな値に変化していることがわかる。
また、バンド計算の結果、基本構造(置換量α=0及びβ=0)である試験例4の熱電変換材料においても、正孔及び電子ポケットが非常に小さく、これはキャリア密度が著しく低いことの原因になっている。このため、Vの少なくとも一部をTaで置換し、かつAlの少なくとも一部をGeで同時置換することによって総価電子数が24以上に増加すると、図4においてフェルミ準位が大きく高エネルギー側のEF +にシフトする。このため、キャリアに占める電子の割合が増加し、ゼーべック係数は符号が負の値を示す。以上のバンド計算からの考察により、試験例4の熱電変換材料は、Vの少なくとも一部をTaで置換し、かつAlの少なくとも一部をGeで同時置換することによって、ゼーべック係数の符号を負に変化させることで、電子を多数キャリアとするn型に制御し得ることがわかる。
また、試験例4の各熱電変換材料について、試験例1と同様、各試験片による300Kにおける熱伝導率(W/mK)と置換量β及びγとの関係を求める。一般式Fe2(V1−βTaβ)(Al1−γGeγ)で表される熱電変換材料の結果を表6に示す。
基本構造(置換量α=0及びβ=0)である試験例4の熱電変換材料は、300Kにおいて28W/mKという大きな値になっている。ところが、表6に示すように、Vの少なくとも一部をTaで置換し、かつAlの少なくとも一部をGeで同時置換すると、いずれの試験片についても熱伝導率は著しく減少している。特に、Geの置換量γ=0.1において比較すると、Taで同時置換することによって9W/mKまで減少している。原子量の大きい元素(Ta)で同時置換することにより、置換量が多くなると熱伝導率の減少は顕著になることがわかる。
また、熱伝導率はキャリアによる成分と格子振動による成分の和であることが知られている。Wiedemann−Franz則を用いて電気抵抗率からキャリアによる熱伝導率を見積もると、表6に示した全体の熱伝導率の10分の1程度と小さいことがわかる。したがって、試験例4の各熱電変換材料においては格子振動による熱伝導率の寄与が大部分であり、原子量の大きい元素による置換は、格子振動による熱伝導率を大幅に低減するうえで有効である。このため、試験例4の熱電変換材料を用いれば、熱伝導率が小さく、ひいては熱電変換の性能に優れた熱電変換素子を得られることがわかる。
試験例4の一般式Fe2(V1−βTaβ)(Al1−γGeγ)で表される熱電変換材料について、性能指数(/K)と置換量β及びγとの関係を表6に示す。基本構造(置換量β=0及びγ=0)である試験例4の熱電変換材料は、300Kの性能指数は0.004×10−3/Kという小さな値である。Vの少なくとも一部をTaで置換し、かつAlの少なくとも一部をGeで同時置換した試験例4の熱電変換材料では、電気抵抗率が格段に減少すると同時にゼーべック係数が大幅に増大し、さらに熱伝導率が減少するため、性能指数が急激に大きくなる。試験例4の熱電変換材料では、置換量β=0.05及びγ=0.1の300Kでの性能指数は0.62×10−3/Kに達しており、Taで同時置換すると性能指数は著しく増加することがわかる。このように、原子量の大きい元素で置換した熱電変換材料を用いて熱電変換素子を製造した場合、熱伝導率の大幅な減少の結果として大きな性能指数を示す熱電変換素子が得られることがわかる。
加工性、原料費及び毒性については、試験例1〜3と同様の効果を有している。
[試験例5]
試験例5の熱電変換材料は、基本構造のFe2VAlに対し、Fe、V及びAlのうちのFeの少なくとも一部を周期表の8族元素であるRuで置換し、かつAlの少なくとも一部を周期表の14族元素であるSiで同時置換したものである。Ruの置換量αは0≦α≦0.04の範囲内で選択されており、Siの置換量γは0≦γ≦0.05の範囲内で選択されている。製法は試験例1と同様である。こうして得られる試験例5の熱電変換材料は、一般式(Fe1−αRuα)2V(Al1−γSiγ)で表される化合物である。
試験例5の各熱電変換材料について、試験例1と同様のX線回折測定を行う。この結果、試験例5の各熱電変換材料もホイスラー合金型の結晶構造を有していた。
試験例5の各熱電変換材料について、試験例1と同様、各試験片による300Kにおけるゼーべック係数(μV/K)と置換量α及びγとの関係を求める。一般式(Fe1−αRuα)2V(Al1−γSiγ)で表される熱電変換材料の結果を表7に示す。基本構造(置換量α=0及びγ=0)である試験例5の熱電変換材料では、試験例1の熱電変換材料と同様、ゼーべック係数の符号は正で、その値は30μV/K程度である。これに対し、Alの少なくとも一部をSiで置換した試験例5の熱電変換材料(置換量α=0及びγ=0.05)では、表7に示すように、ゼーベック係数の符号は負となり、その絶対値は130μV/K程度の大きな値である。また、Feの少なくとも一部をRuで置換し、かつAlの少なくとも一部をSiで同時置換した試験例5の熱電変換材料は、Vの少なくとも一部をTiで置換し、かつAlの少なくとも一部をGeで同時置換したり、Vの少なくとも一部をTaで置換し、かつAlの少なくとも一部をGeで同時置換した試験例2及び4の熱電変換材料と同様、ゼーべック係数の符号が負となり、その絶対値も増大した。特に、置換量α=0.04及びγ=0.05の熱電変換材料では、ゼーべック係数の絶対値が140μV/K以上の大きな値である。Ruは周期表の8族の元素であり、またAlは周期表の14族の元素であり、Feに替えて置換する元素が第4〜6周期の7〜10族からなる群から選ばれ、Alに替えて置換する元素が第3〜6周期の13〜16族からなる群から選ばれた試験例5の熱電変換材料において、置換量α及びγを調節することによって電子を多数キャリアとするn型に制御されているだけでなく、大きな熱起電力を発生可能な熱電変換素子が得られることがわかる。
また、試験例5の熱電変換材料の化学式当たりの総価電子数は、置換量γ=0.05の場合、置換量αが0〜0.04であるため、2×{8(1−α)+8α}+5+(3×0.95+4×0.05)=24.05である。表7より、特に、総価電子数が24を超え、24.5以下の範囲内である試験例5の熱電変換材料において、ゼーべック係数が負の大きな値に変化していることがわかる。
また、バンド計算の結果、基本構造(置換量α=0及びγ=0)である試験例5の熱電変換材料においても、正孔及び電子ポケットが非常に小さく、これはキャリア密度が著しく低いことの原因になっている。このため、Feの少なくとも一部をRuで置換し、かつAlの少なくとも一部をSiで同時置換することによって総価電子数が24以上に増加すると、図4においてフェルミ準位が大きく高エネルギー側のEF +にシフトする。このため、キャリアに占める電子の割合が増加し、ゼーべック係数は符号が負の値を示す。以上のバンド計算からの考察により、試験例5の熱電変換材料は、Feの少なくとも一部をRuで置換し、かつAlの少なくとも一部をSiで同時置換することによって、ゼーべック係数の符号を負に変化させることで、電子を多数キャリアとするn型に制御し得ることがわかる。
また、試験例5の各熱電変換材料について、試験例1と同様、各試験片による300Kにおける熱伝導率(W/mK)と置換量α及びγとの関係を求める。一般式(Fe1−αRuα)2V(Al1−γSiγ)で表される熱電変換材料の結果を表7に示す。
基本構造(置換量α=0及びγ=0)である試験例5の熱電変換材料は、300Kにおいて28W/mKという大きな値になっている。ところが、表7に示すように、Feの少なくとも一部をRuで置換し、かつAlの少なくとも一部をSiで同時置換すると、いずれの試験片についても熱伝導率は著しく減少している。特に、Siの置換量γ=0.05において比較すると、Ruで同時置換することによって14W/mK以下まで減少している。原子量の大きい元素(Ru)で同時置換することにより、置換量が多くなると熱伝導率の減少は顕著になることがわかる。
また、熱伝導率はキャリアによる成分と格子振動による成分の和であることが知られている。Wiedemann−Franz則を用いて電気抵抗率からキャリアによる熱伝導率を見積もると、表7に示した全体の熱伝導率の10分の1程度と小さいことがわかる。したがって、試験例5の各熱電変換材料においては格子振動による熱伝導率の寄与が大部分であり、原子量の大きい元素による置換は、格子振動による熱伝導率を大幅に低減するうえで有効である。このため、試験例5の熱電変換材料を用いれば、熱伝導率が小さく、ひいては熱電変換の性能に優れた熱電変換素子を得られることがわかる。
試験例5の一般式(Fe1−αRuα)2V(Al1−γSiγ)で表される熱電変換材料について、性能指数(/K)と置換量α及びγとの関係を表7に示す。基本構造(置換量α=0及びγ=0)である試験例5の熱電変換材料は、300Kの性能指数は0.004×10−3/Kという小さな値である。Feの少なくとも一部をRuで置換し、かつAlの少なくとも一部をSiで同時置換した試験例5の熱電変換材料では、電気抵抗率が格段に減少すると同時にゼーべック係数が大幅に増大し、さらに熱伝導率が減少するため、性能指数が急激に大きくなる。試験例5の熱電変換材料では、置換量α=0.04及びγ=0.05の300Kでの性能指数は0.55×10−3/Kに達しており、Ruで同時置換すると性能指数は著しく増加することがわかる。このように、原子量の大きい元素で置換した熱電変換材料を用いて熱電変換素子を製造した場合、熱伝導率の大幅な減少の結果として大きな性能指数を示す熱電変換素子が得られることがわかる。
加工性、原料費及び毒性については、試験例1〜4と同様の効果を有している。
[試験例6]
試験例6の熱電変換材料は、基本構造のFe2VAlに対し、Fe、V及びAlのうちのVの少なくとも一部を周期表の4族元素であるTiで置換し、かつVの少なくとも一部を周期表の5族元素であるTaで同時置換したものである。Tiの置換量βaは0≦βa≦0.05の範囲内で選択されており、Taの置換量βbは0≦βb≦0.05の範囲内で選択されている。製法は試験例1と同様である。こうして得られる試験例6の熱電変換材料は、一般式Fe2(V1−(βa+βb)TiβaTaβb)Alで表される化合物である。
試験例6の各熱電変換材料について、試験例1と同様のX線回折測定を行う。この結果、試験例6の各熱電変換材料もホイスラー合金型の結晶構造を有していた。
試験例6の各熱電変換材料について、試験例1と同様、各試験片による300Kにおけるゼーべック係数(μV/K)と置換量βa及びβbとの関係を求める。一般式Fe2(V1−(βa+βb)TiβaTaβb)Alで表される熱電変換材料の結果を表8に示す。基本構造(置換量βa=0及びβb=0)である試験例6の熱電変換材料では、試験例1の熱電変換材料と同様、ゼーべック係数の符号は正で、その値は30μV/K程度である。これに対し、Vの少なくとも一部をTiで置換した試験例6の熱電変換材料(置換量βa=0.05及びβb=0)では、表8に示すように、ゼーベック係数の符号は正のままであるが、その絶対値は62μV/K程度の大きな値である。また、Vの少なくとも一部をTi及びTaで同時置換した試験例6の熱電変換材料は、Feの少なくとも一部をMn又はReで置換したり、Vの少なくとも一部をTiで置換し、かつAlの少なくとも一部をGeで同時置換したり、Feの少なくとも一部をIrで置換し、かつVの少なくとも一部をTiで同時置換した試験例1〜3の熱電変換材料と同様、ゼーべック係数の符号は正のままで、その絶対値は増大した。特に、置換量βa=0.05及びβb=0.05の熱電変換材料では、ゼーべック係数の絶対値が70μV/K以上の大きな値である。Tiは周期表の4族の元素であり、またTaは周期表の5族の元素であり、Vに替えて置換する元素が第4〜6周期の4〜6族からなる群から選ばれた試験例6の熱電変換材料において、置換量βa及びβbを調節することによって正孔を多数キャリアとするp型に制御されているだけでなく、大きな熱起電力を発生可能な熱電変換素子が得られることがわかる。
また、試験例6の熱電変換材料の化学式当たりの総価電子数は、置換量βaが0〜0.05であるため、2×8+{5(1−βa)+4βa}+3=24−βa=24〜23.95である。表8より、特に、総価電子数が24未満、23.5以上の範囲内である試験例6の熱電変換材料において、ゼーべック係数が正の大きな値に変化していることがわかる。
また、バンド計算の結果、基本構造(置換量βa=0及びβb=0)である試験例6の熱電変換材料においても、正孔及び電子ポケットが非常に小さく、これはキャリア密度が著しく低いことの原因になっている。このため、Vの少なくとも一部をTi及びTaで同時置換することによって総価電子数が24未満に減少すると、図4においてフェルミ準位が大きく低エネルギー側のEF −にシフトする。このため、キャリアに占める正孔の割合が増加し、ゼーべック係数は符号が正の値を示す。以上のバンド計算からの考察により、試験例6の熱電変換材料は、Vの少なくとも一部をTi及びTaで同時置換することによって、ゼーべック係数の符号を正に変化させることで、正孔を多数キャリアとするp型に制御し得ることがわかる。
また、試験例6の各熱電変換材料について、試験例1と同様、各試験片による300Kにおける熱伝導率(W/mK)と置換量α及びγとの関係を求める。一般式Fe2(V1−(βa+βb)TiβaTaβb)Alで表される熱電変換材料の結果を表8に示す。
基本構造(置換量βa=0及びβb=0)である試験例6の熱電変換材料は、300Kにおいて28W/mKという大きな値になっている。ところが、表8に示すように、Vの少なくとも一部をTi及びTaで同時置換すると、いずれの試験片についても熱伝導率は著しく減少している。特に、Tiの置換量γ=0.05において比較すると、Taで同時置換することによって14W/mK以下まで減少している。原子量の大きい元素(Ta)で同時置換することにより、置換量が多くなると熱伝導率の減少は顕著になることがわかる。
また、熱伝導率はキャリアによる成分と格子振動による成分の和であることが知られている。Wiedemann−Franz則を用いて電気抵抗率からキャリアによる熱伝導率を見積もると、表8に示した全体の熱伝導率の10分の1程度と小さいことがわかる。したがって、試験例6の各熱電変換材料においては格子振動による熱伝導率の寄与が大部分であり、原子量の大きい元素による置換は、格子振動による熱伝導率を大幅に低減するうえで有効である。このため、試験例6の熱電変換材料を用いれば、熱伝導率が小さく、ひいては熱電変換の性能に優れた熱電変換素子を得られることがわかる。
試験例6の一般式Fe2(V1−(βa+βb)TiβaTaβb)Alで表される熱電変換材料について、性能指数(/K)と置換量βa及びβbとの関係を表8に示す。基本構造(置換量βa=0及びβb=0)である試験例6の熱電変換材料は、300Kの性能指数は0.004×10−3/Kという小さな値である。Vの少なくとも一部をTi及びTaで同時置換した試験例6の熱電変換材料では、電気抵抗率が格段に減少すると同時にゼーべック係数が大幅に増大し、さらに熱伝導率が減少するため、性能指数が急激に大きくなる。試験例6の熱電変換材料では、置換量βa=0.05及びβb=0.05の300Kでの性能指数は0.22×10−3/Kに達しており、Taで同時置換すると性能指数は著しく増加することがわかる。このように、原子量の大きい元素で置換した熱電変換材料を用いて熱電変換素子を製造した場合、熱伝導率の大幅な減少の結果として大きな性能指数を示す熱電変換素子が得られることがわかる。
加工性、原料費及び毒性については、試験例1〜5と同様の効果を有している。
[比較試験]
本発明の熱電変換材料の基本構造であるFe2VAlと、試験例1の一般式(Fe1−αMnα)2VAl及び(Fe1−αReα)2VAlで表される熱電変換材料(p型)と、試験例2の一般式Fe2(V1−βTiβ)(Al1−γGeγ)で表される熱電変換材料(p型又はn型)と、試験例3の一般式(Fe1−αIrα)2(V1−βTiβ)Alで表される熱電変換材料(p型又はn型)と、試験例4の一般式Fe2(V1−βTaβ)(Al1−γGeγ)で表される熱電変換材料(n型)と、試験例5の一般式(Fe1−αRuα)2V(Al1−γSiγ)で表される熱電変換材料(n型)と、試験例6の一般式Fe2(V1−(βa+βb)TiβaTaβb)Alで表される熱電変換材料(p型)とについて、300Kにおけるゼーべック係数(μV/K)と総価電子数との関係を求める。結果を図10に示す。
図10より、基本構造のFe2VAlの総価電子数は24であり、元素置換によって総価電子数が24未満になる場合も、総価電子数が24を超える場合も、ゼーべック係数の絶対値は大幅に増大している。このようなゼーべック係数の変化は総価電子数が24となる近傍において特に顕著である。また、試験例4及び5の熱電変換材料は、総価電子数が24を超えており、ゼーべック係数はすべて負の値になることから、n型の熱電変換材料として優れた熱電特性を発揮できることがわかる。一方、試験例1及び6の熱電変換材料では、総価電子数が24未満となっており、ゼーべック係数はすべて正の値になることから、p型の熱電変換材料として優れた熱電特性を発揮できることがわかる。さらに、試験例2及び3の熱電変換材料は、総価電子数が24を超えると、ゼーべック係数はすべて負の値になることから、n型の熱電変換材料として優れた熱電特性を発揮できるだけでなく、総価電子数が24未満になると、ゼーべック係数はすべて正の値になることから、p型の熱電変換材料として優れた熱電特性を発揮できることがわかる。
試験例1〜3の熱電変換材料のゼーべック係数と置換量との関係は、それぞれ図3、8及び9に示したが、置換する元素の種類によって、置換量に対する変化の仕方は異なっていることが分かる。ところが、図10のように試験例1〜6の熱電変換材料について総価電子数で整理したとき、ゼーべック係数は置換する元素の種類によらず、1本のマスターカーブで記述できるような変化の仕方になっている。このため、本発明で明らかにしたように、置換する元素の種類及び置換量を選択することにより、擬ギャップ内のフェルミ準位のエネルギー位置を最適化することが可能であり、ひいてはゼーべック係数の符号を制御することができるために、基本構造のFe2VAlをベースとしてp型とn型の熱電変換材料を作製することが可能になるだけでなく、ゼーベック係数の絶対値を大幅に増大することによって、優れた熱電特性を発揮できる熱電変換材料を製造することが可能となる。
また、試験例1〜6の熱電変換材料からp型とn型を選択した1組又は試験例1〜6の熱電変換材料と公知の他の熱電変換材料との組み合わせによって、熱電変換素子を製造することができる。試験例1〜6の熱電変換材料は汎用の金属を用いて安価に製造可能であるため、これらの熱電変換素子の製造コストも低廉である。さらに、試験例1〜6の熱電変換材料が毒性の極めて弱い成分のみで構成されるため、これらの熱電変換素子は環境汚染の原因となる恐れも少ない。