JP5185911B2 - 樹脂塗装金属板 - Google Patents

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Description

本発明は、ロール成形性と後塗装後の塗膜密着性に優れた樹脂塗装金属板に関するものである。
建材用途に使用される溶融亜鉛めっき鋼板には、鋼板に純亜鉛をめっきした溶融亜鉛めっき鋼板(GI材)と、それを合金化した合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA材)等がある。GI材は、一列に並んだ複数組のロール間に連続的にGI材を通過(成形速度約20〜70m/分)させ、順次に成形加工を行って、平板から目的の断面形状の成形品に加工(ロール成形)した後、裸で(後塗装されることなく)デッキや軽天などに使用される。また、GA材は、表面に鉛酸カルシウム錆止め塗料や鉛フリー塗料、あるいは電着塗料などが後塗装された後、ドアやシャッターなどに使用される。
従来、耐食性の向上を目的として、GI材やGA材等の表面にはクロメート処理が施されてきた。しかしながら、近年の環境意識の高まりから、クロメート処理を施さない処理方法(ノンクロメート処理)の検討が行われており、これまで、溶融亜鉛めっき鋼板上にクロメートフリーの樹脂皮膜が形成された樹脂塗装金属板が開発されている。例えば、特許文献1には、ケイ酸リチウムおよびコロイダルシリカからなる無機成分と、オレフィン−α,β−不飽和カルボン酸共重合体およびα,β−不飽和カルボン酸重合体とオキサゾリン基含有共重合体を含有する樹脂成分とを含有し、さらにグリシジル基含有シランカップリング剤とメタバナジン酸塩とを含有する表面処理組成物から得られる樹脂皮膜を備えた樹脂塗装金属板が開示されている。
上記文献に記載の樹脂皮膜は、GI材に好適に用いられる。というのも、ロール成形の際、GI材には過酷な面圧がかかるが、上記文献に記載の樹脂皮膜は比重が大きく(約2)薄膜化が可能であるためロール成形における樹脂皮膜へのロールダメージを軽減することができ、ロールとの摺動によってGI材表面から樹脂皮膜が剥離(皮膜カスが発生)し難いからである。また、ロール成形に際しては潤滑性を確保すると共に加工熱を冷却するため、クーラント液がGI材表面に供給され、このクーラント液は繰り返し使用されるが、たとえ樹脂皮膜(皮膜カス)がGI材から剥離してクーラント液に混入しても、上記文献に記載の樹脂皮膜は無機成分が多く比重が大きいためクーラント液中に沈降して、皮膜カスがクーラント液中を浮遊してクーラント液に随伴するのを防げるからである。
その結果、水切りパッドでGI材表面からクーラント液を拭って除去する際に(水切り工程)、水切りパッド表面に皮膜カスが堆積し、この堆積した皮膜カスと成形品表面との間に摩擦が生じて異音を発生したり、成形品が水切りパッド部分を均一な走行速度で通り抜けることができなくなって製品の形状や寸法に狂いが生じて歩留まりが悪くなるのを防止できる。
一方で、上記樹脂皮膜をGA材にも適用した場合には、後塗装後の塗膜密着性や耐食性が不十分となる場合があった。塗膜密着性が不十分となる原因としては、GA材の表面は粗度が粗く凹凸があり、本来アンカー効果によって塗膜密着性が優れるところ、上記樹脂皮膜によってGA材表面の凹凸が埋没したりGA材の最表面のみが覆われて、GA材のアンカー効果が失われたためと考えられる。また、耐食性が不十分となる原因としては、上記樹脂皮膜によってGA材の最表面のみが覆われて凹部の底部は皮膜が形成されずに亜鉛めっきが露出することにより、後塗装後に塗装面にクロスカットを入れて耐食性試験を行うと、塗膜下腐食が発生するためと考えられる。さらに、凹部の底部に生じた空隙により、上記耐食性試験においてクロスカット部周辺にブリスター(塗膜の膨れ)が発生するという問題や、樹脂皮膜成分として吸水性のあるケイ酸リチウムを用いているという問題もあった。
特開2009−61608号公報
本発明は上記の様な事情に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、耐食性のみならず、GI材で要求される耐ロール成形性と、GA材で要求される後塗装後の塗膜密着性とを兼ね備えたクロメートフリー表面処理組成物、およびこの表面処理組成物から得られる樹脂皮膜を備えた樹脂塗装金属板を得ることにある。
上記課題を解決し得た本発明の樹脂塗装金属板は、表面処理組成物から得られる樹脂皮膜を備えた樹脂塗装金属板であって、前記表面処理組成物が、表面積平均粒子径の異なる複数種のコロイダルシリカから構成される無機成分を60〜80質量部と、オレフィン−α,β−不飽和カルボン酸共重合体、α,β−不飽和カルボン酸重合体、及びアクリル変性エポキシ樹脂から構成される樹脂成分を20〜40質量部含有すると共に、前記無機成分と前記樹脂成分との合計100質量部に対し、さらに、グリシドキシ基含有シランカップリング剤5〜15質量部とメタバナジン酸塩0.5〜3質量部とを含有することを特徴とする。
本発明では、前記無機成分が、表面積平均粒子径4〜6nmのコロイダルシリカ(A)と表面積平均粒子径10〜20nmのコロイダルシリカ(B)とを含み、前記(A)と(B)との混合比が70:30〜40:60(質量比)であることが好ましい実施態様である。
なお、本明細書において、表面積平均粒子径が4〜6nmのコロイダルシリカとは、表面積粒子径5nmのコロイダルシリカが90%(好ましくは95%)以上を占めるコロイダルシリカを意味する。また、表面積平均粒子径が10〜20nmのコロイダルシリカとは、表面積粒子径12nmのコロイダルシリカが90%(好ましくは95%)以上を占めるコロイダルシリカを意味する。これらはいずれも電子顕微鏡で確認できる。
また、前記樹脂成分が、前記アクリル変性エポキシ樹脂を2〜15質量%含有することも好ましい実施態様である。
さらに、前記表面処理組成物の表面張力が50dyn/cm以下であることや、前記樹脂皮膜の付着量が、乾燥質量で0.2〜1g/m2であること、あるいは前記樹脂皮膜を備える金属板が、溶融亜鉛めっき鋼板、または合金化溶融亜鉛めっき鋼板であることも好ましい実施態様である。
本発明の樹脂塗装金属板は、所定の表面処理組成物から得られる樹脂皮膜を備えるため、耐食性のみならず、GI材で要求される耐ロール成形性やGA材で要求される後塗装後の塗膜密着性を満足することができる。
本発明の樹脂塗装金属板は、表面処理組成物から得られる樹脂皮膜を備えた樹脂塗装金属板であって、前記表面処理組成物が、表面積平均粒子径の異なる複数種のコロイダルシリカから構成される無機成分を60〜80質量部と、オレフィン−α,β−不飽和カルボン酸共重合体、α,β−不飽和カルボン酸重合体、及びアクリル変性エポキシ樹脂から構成される樹脂成分を20〜40質量部含有すると共に、前記無機成分と前記樹脂成分との合計100質量部に対し、さらに、グリシドキシ基含有シランカップリング剤5〜15質量部とメタバナジン酸塩0.5〜3質量部とを含有することを特徴とする。以下、本発明の樹脂塗装金属板について詳細に説明する。
なお、本発明の皮膜は無機成分が樹脂成分よりもかなり多く含まれるものであるが、当該分野においては「樹脂皮膜」ということが多いので、本発明でも「樹脂皮膜」という用語を用いる。
(無機成分)
本発明では、無機成分としてケイ酸リチウムを用いない。吸水性を示すケイ酸リチウムを用いないことにより、樹脂塗装金属板の表面に後塗装を行い、クロスカットした後に耐塩水浸漬試験や塩水噴霧試験などの過酷な耐食性試験を行っても、塗膜の密着性が劣化するのを抑制できる。
<コロイダルシリカ>
本発明の特徴の一つは、無機成分として、表面積平均粒子径の異なる複数種のコロイダルシリカを用いたことにある。これにより、バインダー樹脂(樹脂成分)とコロイダルシリカとの親和性(馴染み)が良くなり、形成される樹脂皮膜の造膜性(コロイダルシリカ粒子同士の結合力)が向上するとともに、緻密な皮膜を形成することができる。
より具体的には、無機成分として表面積平均粒子径4〜6nmのコロイダルシリカ(A)と、表面積平均粒子径10〜20nmのコロイダルシリカ(B)とを含んで構成されることが好ましく、コロイダルシリカ(A)とコロイダルシリカ(B)とから構成されることがより好ましい。
コロイダルシリカは、腐食環境下において皮膜欠陥部で溶解・溶出し、pHの緩衝作用や不動態皮膜形成作用によって金属板の溶解/溶出を抑制して、金属板の耐食性を向上させると推定されている。これらの効果を充分に発揮させるためには、コロイダルシリカ(A)を用いることが効果的である。その一方で、コロイダルシリカ(A)の表面活性度が高いため、コロイダルシリカ(A)のみを用いると、表面処理組成物の液安定性が経時で劣化(約48時間で増粘)したり、緻密な皮膜が形成できない場合があり、樹脂皮膜中の無機成分の含有率を上げて樹脂皮膜の比重を増大させることができないという問題があった。そして、本発明者らは、鋭意検討した結果、表面活性度が小さい、表面積平均粒子径10〜20nmのコロイダルシリカ(B)を併用すれば、表面処理組成物の液安定性を低下させることなく無機成分の含有率を上げられることを見出した。なお、本明細書におけるコロイダルシリカの表面積平均粒子径は、表面積平均粒子径が1〜10nm程度の場合にはシアーズ法、10〜100nm程度の場合にはBET法により測定される値、あるいは製造者のパンフレットに記載の公証値を意味するものである。
コロイダルシリカ(A)とコロイダルシリカ(B)の混合比は、質量比で70:30〜40:60が好ましく、65:35〜45:55がより好ましい。コロイダルシリカ(A)の質量比が70を超えると、樹脂成分との親和性が悪くなり、表面処理組成物の液安定性が劣化するとともに、均一で緻密な皮膜形成ができなくなる場合がある。これに伴い、樹脂塗装金属板の裸耐食性や後塗装後の塗膜密着性が劣化する。コロイダルシリカ(A)の質量比が40未満になると、腐食環境下において皮膜欠陥部で溶解・溶出するSiイオン量が減少して裸耐食性が劣化するおそれがある。
コロイダルシリカは市販されており、例えば、表面積平均粒子径4〜6nmのものとしては、日産化学工業社製の「スノーテックス(登録商標)XS」が挙げられる。また、表面積平均粒子径10〜20nmのものとしては、同じく日産化学工業社製の「スノーテックス(登録商標)40」、「スノーテックス(登録商標)N」、「スノーテックス(登録商標)SS」、「スノーテックス(登録商標)O」等や、ADEKA社製の「アデライト(登録商標)AT−30」、「アデライト(登録商標)AT−30A」等が挙げられる。樹脂皮膜の形成に使用する表面処理組成物が水系である場合、コロイダルシリカを良好に分散させるために、表面処理組成物のpHに合わせて、コロイダルシリカの種類を選択することが好ましい。
上記コロイダルシリカから構成される無機成分は、後述する樹脂成分との合計100質量部中、60〜80質量部とする。無機成分量が当該範囲内にある表面処理組成物は、形成される樹脂皮膜の造膜性が良好なため、皮膜剥離が発生し難く、樹脂塗装金属板の耐ロール成形性が向上する。また、表面処理組成物の表面張力が低くなって(好ましくは50dyn/cm以下)、表面の粗度が粗く水濡れ性に劣るGA材の表面(凹部)にも表面処理組成物が侵入して、GA材の粗面に沿って樹脂皮膜が形成されるため、耐食性や塗膜密着性も向上する。
無機成分量が80質量部を超えると、樹脂成分が不足するため、形成される皮膜の造膜性が不十分になって、正常な皮膜を形成できない。その結果、腐食環境におけるバリア効果も低下して、耐食性が劣化する場合がある。また、皮膜が硬くなりすぎて脆くなり、クラックが発生して、ロール成形の際に皮膜剥離が発生し易くなる。さらに、コロイダルシリカ(無定形シリカ粒子を水中に分散してコロイド状をなしている)は表面張力が高いため(約66〜73dyn/cm)、無機成分量が80質量部を超えると表面処理組成物の表面張力が大きくなり、樹脂皮膜が形成される金属板との濡れ性も悪くなって、薄膜皮膜の均一形成が困難になる場合がある。特に、GA材表面の凹凸部に均一かつ極薄膜の皮膜を形成するのが困難になるため、塗膜密着性と裸耐食性が低下する。
無機成分の量が60質量部よりも少ないと、得られる樹脂塗装金属板の耐食性が不十分となる場合がある。また、皮膜の硬度が不足するとともに、皮膜の比重がさほど増大しないため樹脂皮膜の薄膜化が困難となって、ロール成形の際に皮膜剥離が発生し易くなる。さらに、樹脂皮膜の比重が増大しないことに起因して、皮膜カスをクーラント液受槽の中で沈降させることができなくなって、水切りパッド表面への堆積を抑制する効果が不足し、結果として操業性や製品形状を悪化させる場合がある。また、無機成分の量が60質量部を下回る表面処理組成物を用いて、金属板(特にGA材)に樹脂皮膜を形成すると、樹脂成分の含有率が増えて造膜性は向上するが、腐食を抑制するSiイオン溶出量が減少するため、樹脂皮膜と金属板表面との間(めっき層界面)で腐食(塗膜下腐食)が進行して、結果として後塗装後の塗膜密着性が劣化したり、後塗装後の耐食試験においてクロスカット部周辺にブリスターが発生する場合がある。
本発明においては、無機成分と樹脂成分との合計100質量部中、無機成分が65〜75質量部であることがより好ましい。その際、コロイダルシリカ(A)と(B)との混合比は50:50(質量比)とすることが好ましく、特にGA材の裸耐食性や塗膜密着性を良好なレベルにすることができる。
(樹脂成分)
本発明で用いる表面処理組成物は、上記無機成分に加えて、オレフィン−α,β−不飽和カルボン酸共重合体(以下、「オレフィン−酸共重合体」と称することがある。)と、α,β−不飽和カルボン酸重合体(以下、「カルボン酸重合体」と称することがある。)、及びアクリル変性エポキシ樹脂から構成される樹脂成分を含むものである。
オレフィン−酸共重合体およびカルボン酸重合体の双方を含有する表面処理組成物から樹脂皮膜を形成することにより、得られる樹脂塗装金属板の耐食性が向上する。その正確なメカニズムは不明であるが、これら双方を用いることによって、緻密な樹脂皮膜が形成されて、水および酸素の透過が効果的に抑制されるためであると推定される。
なお、本発明における「オレフィン−酸共重合体」とは、オレフィンとα,β−不飽和カルボン酸との共重合体であって、オレフィン由来の構成単位が、共重合体中に50質量%以上(すなわち、α,β−不飽和カルボン酸由来の構成単位が50質量%以下)であるものを意味する。また「カルボン酸重合体」とは、α,β−不飽和カルボン酸を単量体として得られる重合体(共重合体も含む)であって、α,β−不飽和カルボン酸由来の構成単位が重合体中に90質量%以上であるものを意味する。また、「α,β−不飽和カルボン酸」には、後述する中和剤でカルボキシル基の一部が中和された「α,β−不飽和カルボン酸塩」も含まれる。
<オレフィン−酸共重合体>
本発明で用いるオレフィン−酸共重合体は、オレフィンとα,β−不飽和カルボン酸とを既知の方法で共重合させることにより製造でき、また市販されている。本発明において、1種または2種以上のオレフィン−酸共重合体を使用することができる。
オレフィン−酸共重合体の製造に使用できるオレフィンには、特に限定は無いが、エチレン、プロピレン等が好ましく、エチレンがより好ましい。オレフィン−酸共重合体として、オレフィン構成単位が、1種のオレフィンのみに由来するもの、または2種以上のオレフィンから由来するもののいずれも使用することができる。
オレフィン−酸共重合体の製造に使用できるα,β−不飽和カルボン酸も、特に限定はないが、例えばアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸等のモノカルボン酸;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のジカルボン酸等が挙げられる。これらの中でもアクリル酸が好ましい。オレフィン−酸共重合体として、α,β−不飽和カルボン酸の構成単位が、1種のα,β−不飽和カルボン酸のみに由来するもの、または2種以上のα,β−不飽和カルボン酸に由来するもののいずれも使用することができる。
本発明で用いるオレフィン−酸共重合体は、本発明の効果である耐食性等に悪影響を及ぼさない範囲で、その他の単量体に由来する構成単位を有していても良い。オレフィン−酸共重合体中において、その他の単量体に由来する構成単位量は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下であり、最も好ましいオレフィン−酸共重合体は、オレフィン−およびα,β−不飽和カルボン酸のみから構成されるものである。好ましいオレフィン−酸共重合体として、エチレン−アクリル酸共重合体が挙げられる。
オレフィン−酸共重合体中のα,β−不飽和カルボン酸は、樹脂皮膜と金属板との密着性を向上させるために用いられるものであり、共重合体中のα,β−不飽和カルボン酸量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上である。しかしα,β−不飽和カルボン酸が過剰になると、耐食性が低下するおそれがあるため、共重合体中のα,β−不飽和カルボン酸量は、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下である。
本発明で用いるオレフィン−酸共重合体の質量平均分子量(Mw)は、ポリスチレン換算で、好ましくは1,000〜10万、より好ましくは3,000〜7万、さらに好ましくは5,000〜3万である。このMwは、ポリスチレンを標準として用いるGPCにより測定することができる。
<カルボン酸重合体>
本発明で用いるカルボン酸重合体としては、1種または2種以上のα,β−不飽和カルボン酸の単独重合体若しくは共重合体、またはさらに他の単量体を共重合させた共重合体が挙げられる。このようなカルボン酸重合体は、既知の方法で製造でき、また市販されている。本発明において、1種または2種以上のカルボン酸重合体を使用できる。
カルボン酸重合体の製造に使用できるα,β−不飽和カルボン酸には、上記オレフィン−酸共重合体の合成に使用することのできるものとして例示したα,β−不飽和カルボン酸がいずれも使用可能である。これらの中でもアクリル酸およびマレイン酸が好ましく、マレイン酸がより好ましい。
カルボン酸重合体は、α,β−不飽和カルボン酸以外の単量体に由来する構成単位を含有していても良いが、その他の単量体に由来する構成単位量は、重合体中に10質量%以下、好ましくは5質量%以下であり、α,β−不飽和カルボン酸のみから構成されるカルボン酸重合体がより好ましい。
好ましいカルボン酸重合体として、例えばポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、アクリル酸−マレイン酸共重合体、ポリマレイン酸等を挙げることができ、これらの中でも塗膜密着性、樹脂皮膜密着性および耐食性の観点から、ポリマレイン酸がより好ましい。ポリマレイン酸を使用することにより、生成する樹脂エマルションの粒子径が小さくなり(20〜60nm)、造膜して得られる皮膜が緻密になるため、耐食性等が向上する。また、カルボキシル基量が多いため、樹脂皮膜と金属板との密着性が向上し、それに伴い耐食性もさらに向上する。
本発明で用いるカルボン酸重合体のMwは、ポリスチレン換算で、好ましくは500〜3万、より好ましくは800〜1万、さらに好ましくは900〜3,000、最も好ましくは1,000〜2,000である。このMwは、ポリスチレンを標準として用いるGPCにより測定することができる。
表面処理組成物中のオレフィン−酸共重合体とカルボン酸重合体との含有比率は、1,000:1〜10:1、好ましくは200:1〜20:1、より好ましくは100:1〜100:3である。カルボン酸重合体の含有比率が低すぎると、オレフィン−酸共重合体とカルボン酸重合体とを組み合わせた効果が充分に発揮されず、逆にカルボン酸重合体の含有比率が過剰であると、表面処理組成物中でオレフィン−酸共重合体とカルボン酸重合体とが相分離し、均一な樹脂皮膜が形成されなくなるおそれがある。
<アクリル変性エポキシ樹脂>
上記樹脂成分には、アクリル変性エポキシ樹脂も含まれる。従来より、後塗装の塗膜密着性を向上させる方法として、樹脂成分としてブロックイソシアネート(感熱架橋剤)を皮膜中に存在させ、後塗装後の焼付け時の熱(焼付け温度)を利用してブロックイソシアネートのブロック剤を解離させ活性イソシアネート基を再生させて、皮膜と塗膜とを硬化・架橋させる技術が知られている。しかしながら、後塗装の塗料として建材分野で使用されている鉛酸カルシウム錆止め塗料は、熱による焼付け(乾燥)が不要な常乾タイプが主流であり、上記技術を使用できない。
本発明者らは、上記問題を鋭意検討した結果、樹脂成分として、低温で造膜が可能なアクリル変性エポキシ樹脂を併用することによって、樹脂皮膜の塗膜密着性が向上することを見出した。アクリル変性エポキシ樹脂を併用することにより塗膜密着性が向上する正確なメカニズムは不明であるが、アクリル変性エポキシ樹脂は無機成分(コロイダルシリカ)のバインダーとして機能するのではなく、樹脂皮膜の最表面に造膜(縞状に点在)することによって、裸耐食性の向上には寄与しないものの、後塗装後の塗膜密着性の向上に寄与しているものと推定される。アクリル変性エポキシ樹脂が樹脂皮膜の最表面に造膜するのは、オレフィン−酸共重合体やカルボン酸重合体のエマルション粒子径が20〜60nmであるのに対し、アクリル変性エポキシ樹脂のエマルション粒子径は約100nm以上と大きいからであると考えられる。
本発明で用いるアクリル変性エポキシ樹脂は、例えば、エポキシ樹脂と不飽和脂肪酸とを反応させて得られる重合性不飽和基含有エポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸とを共重合させたり、エポキシ樹脂とグリシジル基含有ビニルモノマーとアミン類とを反応させて得られる重合性不飽和基含有エポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸とを共重合させることにより製造できる。
特に、水性のアクリル変性エポキシ樹脂は市販されており、例えば、荒川化学工業株式会社製の「モデピクス(登録商標)301」、「モデピクス(登録商標)302」、「モデピクス(登録商標)303」、「モデピクス(登録商標)304」等が挙げられる。上記アクリル変性エポキシ樹脂は、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
アクリル変性エポキシ樹脂は、樹脂成分100質量%中、2質量%以上(より好ましくは3質量%以上)含まれていることが好ましく15質量%以下(より好ましくは7質量%以下)含まれていることが好ましい。上記範囲内において、樹脂塗装金属板の耐ロール成形性や裸耐食性を損ねることなく、後塗装後の塗膜密着性を向上することができる。
アクリル変性エポキシ樹脂の含有率が2質量%未満の場合には、後塗装後の塗膜密着性の向上効果は認められない。また、アクリル変性エポキシ樹脂の含有率が15質量%を超える場合には、耐食性が低下する傾向がある。特に、GA材において塗膜密着性が大幅に劣化するとともに、ブリスターが発生する場合がある。アクリル変性エポキシ樹脂の含有率が15質量%を超える場合に裸耐食性が低下するとともに、後塗装の耐食性や塗膜密着性が低下する正確なメカニズムは不明であるが、アクリル変性エポキシ樹脂が過剰に存在することにより、オレフィン−酸共重合体とカルボン酸重合体エマルションの造膜を阻害したためであると推定される。
<グリシドキシ基含有シランカップリング剤>
本発明の表面処理組成物には、グリシドキシ基含有シランカップリング剤(より詳細には、末端にグリシドキシ基を有するシランカップリング剤)が含まれる。グリシドキシ基含有シランカップリング剤を用いると、金属板と樹脂皮膜との密着性が向上する。また、樹脂皮膜中の無機成分と樹脂成分との結合力を向上させる効果も併せ持つと考えられ、耐ロール成形性や裸耐食性の向上効果が大きい。さらに、グリシドキシ基含有ランカップリング剤を添加しておくと、表面処理組成物の表面張力が低下するため金属板との濡れ性が良くなって表面処理組成物の塗布性が向上し、均一な樹脂皮膜の形成が可能になる。また、表面処理組成物をスプレーリンガー方式(表面処理組成物を金属板の表面にスプレーした後、リンガーロールで絞る塗布方法)で循環使用した場合に、組成物中の界面活性剤に起因する発泡を抑制する効果も発現する。
グリシドキシ基含有シランカップリング剤としては、例えば、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、KBM403)、γ−グリシドキシメチルジメトキシシラン等が挙げられる。
表面処理組成物中のグリシドキシ基含有シランカップリング剤量は、無機成分と樹脂成分との合計100質量部に対して、5質量部以上、好ましくは7質量部以上であり、15質量部以下、好ましくは13質量部以下である。シランカップリング剤量が5質量部未満であると、金属板と樹脂皮膜の密着性向上効果が認められない。また、樹脂皮膜成分中の無機成分と樹脂成分の結合力が低下して、皮膜硬度の低下や皮膜の緻密性が悪くなって、耐ロール成形性や塗膜密着性、裸耐食性が低下する場合がある。グリシドキシ基含有シランカップリング剤量が15質量部を超えても、金属板と樹脂皮膜の密着性向上効果、及び樹脂皮膜成分中の無機成分と樹脂成分の結合力向上効果は頭打ちとなるため、コストアップの要因となる。逆に、耐ロール成形性や塗膜密着性、裸耐食性が低下したり、表面処理組成物の液安定性が低下してゲル化やコロイダルシリカの沈殿を引き起こす場合がある。
<メタバナジン酸塩>
本発明の表面処理組成物には、さらにメタバナジン酸塩が含まれる。メタバナジン酸塩もコロイダルシリカと同様に溶出することによって金属板の溶解・溶出を抑制し、耐食性を高める効果を有する。メタバナジン酸塩は、特に、GA材に対して裸耐食性向上効果を発揮する。この効果を有効に発揮させるためには、無機成分と樹脂成分の合計100質量部に対し、メタバナジン酸塩を0.5〜3質量部用いるとよい。0.5質量部より少ないと、裸耐食性向上効果が不充分となる。また、3質量部を超えて添加すると、裸耐食性が若干低下する傾向が認められる。これは、過剰のメタバナジン酸塩がグリシドキシ基含有シランカップリング剤の加水分解反応を抑制し、若干であるが無機成分と樹脂成分の結合力に影響を及ぼしたためであると推定される。さらに、塗膜密着性が著しく低下し、表面処理組成物の液安定性も悪化する傾向がある。メタバナジン酸塩量は、0.7〜1.5質量部がより好ましい。なお、このメタバナジン酸塩の好適量は、V元素換算量である。
メタバナジン酸塩としては、例えば、メタバナジン酸ナトリウム(NaVO3)、メタバナジン酸アンモニウム(NH4VO3)、メタバナジン酸カリウム(KVO3)等が挙げられる。これらは単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのメタバナジン酸塩は市販されており、容易に入手することができる。
<他の成分>
本発明の表面処理組成物は、さらにカルボジイミド基含有化合物を含んでいても良い。カルボジイミド基は、オレフィン−酸共重合体およびカルボン酸重合体中のカルボキシル基と反応して、樹脂皮膜中のカルボキシル基量を減少させて、耐アルカリ性を向上させることができる。本発明において、1種または2種以上のカルボジイミド基含有化合物を使用できる。
カルボジイミド基含有化合物は、イソシアネート類、例えばヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、水添キシリレンジイソシアネート(HXDI)、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)またはトリレンジイソシアネート(TDI)等をカルボジイミド化触媒の存在下で加熱することにより製造することができ、また変性により水性(水溶性、水乳化性または水分散性)にすることができる。表面処理組成物が水系である場合、水性のカルボジイミド基含有化合物が好ましい。また1分子中に複数のカルボジイミド基を含有する化合物が好ましい。1分子中に複数のカルボジイミド基を有すると、樹脂成分中のカルボキシル基との架橋反応により、裸耐食性等をさらに向上させることができる。
市販されているカルボジイミド基含有化合物として、例えばN,N−ジシクロへキシルカルボジイミド、N,N−ジイソプロピルカルボジイミド等や、日清紡社製のポリカルボジイミド(1分子中に複数のカルボジイミド基を有する重合体)である「カルボジライト(登録商標)」シリーズを挙げることができる。「カルボジライト(登録商標)」のグレードとしては、水溶性の「SV−02」、「V−02」、「V−02−L2」、「V−04」や、エマルションタイプの「E−01」、「E−02」等がある。
カルボジイミド基含有化合物量は、架橋相手であるオレフィン−酸共重合体とカルボン酸重合体の量に応じて設定する。すなわち、オレフィン−酸共重合体とカルボン酸重合体の合計100質量部に対し、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、さらに好ましくは8質量部以上である。一方、カルボジイミド基含有化合物量が過剰になると、オレフィン−酸共重合体およびカルボン酸重合体の組合せの効果が低下する。また水系の表面処理組成物中で水性カルボジイミド基含有化合物を過剰に使用すると、耐水性および耐食性に悪影響を及ぼし得る。このような観点から、カルボジイミド基含有化合物量は、前記100質量部に対し、好ましくは30質量部以下、より好ましくは20質量部以下、さらに好ましくは16質量部以下である。
本発明の表面処理組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、ワックス、架橋剤、希釈剤、皮張り防止剤、界面活性剤、乳化剤、分散剤、レベリング剤、消泡剤、浸透剤、造膜助剤、染料、顔料、増粘剤、潤滑剤等を含有することもできる。
<表面処理組成物の表面張力>
本発明で用いる表面処理組成物は、無機成分と樹脂成分の配合割合を適宜調整(具体的には、無機成分:樹脂成分=60:40〜80:20)することにより、表面処理組成物の表面張力を低くすることが好ましく、具体的には50dyn/cm以下、より好ましくは48dyn/cm以下にする。これにより、表面の粗度が粗く水濡れ性に劣るGA材の表面(凹部)にも表面処理組成物が侵入して、GA材の裸耐食性や塗膜密着性を向上することができる。なお、表面処理組成物の表面張力の測定方法については後述する。
以上、本発明で用いる表面処理組成物について詳細に説明したが、以下において、表面処理組成物の製造方法について説明する。
<表面処理組成物の製造方法>
本発明の表面処理組成物は、金属板の表面に塗布することができる溶剤系組成物または水系組成物のいずれでも良いが、環境上の問題から、水系組成物であることが好ましい。表面処理組成物は、有機溶剤(溶剤系組成物の場合)または水、好ましくは脱イオン水(水系組成物の場合)、コロイダルシリカ、オレフィン−酸共重合体、カルボン酸重合体、アクリル変性エポキシ樹脂、グリシドキシ基含有シランカップリング剤、メタバナジン酸塩、必要に応じてカルボジイミド基含有化合物またはその他の成分を所定量配合して撹拌することによって調製することができる。
表面処理組成物を調製する際には、オレフィン−酸共重合体とカルボン酸重合体の乳化物(エマルション)に、グリシドキシ基含有シランカップリング剤の一部とカルボジイミド基含有化合物を添加して、これらの混合物を調製しておき、これに、コロイダルシリカ(好ましくは、表面積平均粒子径の小さいものから順に添加)、残りのグリシドキシ基含有シランカップリング剤、メタバナジン酸塩、アクリル変性エポキシ樹脂を、この順で添加するのが好ましい。グリシドキシ基含有シランカップリング剤よりも先にメタバナジン酸塩を添加すると、シランカップリング剤の加水分解反応が抑制され、シランカップリング剤の効果を阻害することがある。また、グリシドキシ基含有シランカップリング剤は、上記のように二度に分けて添加することが好ましい。先に添加するシランカップリング剤は、エマルション粒子の微細化や、その結果として、樹脂皮膜を緻密にして耐食性向上に寄与し、後に添加するシランカップリング剤は、金属板との密着性確保と皮膜特性の向上に寄与するからである。なお、先に添加するシランカップリング剤の量は、オレフィン−酸共重合体とカルボン酸重合体との合計100質量部に対し、0.1質量部以上(より好ましくは2質量部以上)が好ましく、10質量部以下(より好ましくは7質量部以下)が好ましい。また、後に添加するシランカップリング剤の量は、前述の通りである。
上記成分の撹拌の際には加熱しても良い。特にオレフィン−酸共重合体をカルボン酸重合体の存在下で乳化する際には、加熱することが好ましい。
水系の表面処理組成物を製造する場合、樹脂成分の主成分であるオレフィン−酸共重合体を乳化させることが好ましい。オレフィン−酸共重合体は、乳化剤を使用したり、共重合体中のカルボキシル基を中和することにより、乳化させることができる。乳化剤を使用すると、オレフィン−酸共重合体の水性エマルションの平均粒子径を小さくすることができ、造膜性、およびそれにより樹脂皮膜の緻密さ等を向上させることができる。
ただし、オレフィン−酸共重合体中のカルボキシル基を中和して乳化する方が好ましい。カルボキシル基を中和して乳化することにより、乳化剤の使用量を低減でき、または乳化剤を使用せずに済み、樹脂皮膜の耐水性および耐食性への乳化剤による悪影響を減らす、または無くすことができるからである。オレフィン−酸共重合体中のカルボキシル基を中和する場合、カルボキシル基に対して、好ましくは0.5〜0.95当量程度、より好ましくは0.6〜0.8当量程度の塩基を用いることが好ましい。中和度が少なすぎると、乳化性があまり向上せず、一方、中和度が大きすぎると、オレフィン−酸共重合体を含む組成物の粘度が、高くなりすぎることがある。
中和のための塩基として、例えばアルカリ金属およびアルカリ土類金属の水酸化物(例えばNaOH、KOH、Ca(OH)2等、好ましくはNaOH)よりなる群から構成される強塩基、アンモニア水、第1級、第2級、第3級アミン(好ましくはトリエチルアミン)を挙げることができる。NaOH等の強塩基を用いると、乳化性は向上するが、使用量が多すぎると樹脂皮膜の耐食性が低下するおそれがある。一方、沸点の低いアミン(好ましくは大気圧下での沸点が100℃以下のアミン;例えばトリエチルアミン)は、樹脂皮膜の耐食性をあまり低下させない。この理由として、表面処理組成物を塗布した後、加熱乾燥して樹脂皮膜を形成する際に、低沸点アミンが揮発すること等が考えられる。しかし、アミンは乳化性の向上効果が小さいので、前記強塩基とアミンとを組合せて中和することが好ましい。最適な組み合わせは、NaOHとトリエチルアミンとの組合せである。強塩基とアミンとを組み合わせて用いる場合、オレフィン−酸共重合体のカルボキシル基量に対して、強塩基は0.01〜0.3当量程度使用し、アミンは0.4〜0.8当量程度使用するのが好ましい。
水系の表面処理組成物を用いる場合、界面張力を低下させ、金属板への濡れ性を向上させるために、少量の有機溶剤を配合しても良い。このための有機溶剤としては、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール類、ヘキサノール、2−エチルヘキサノール、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等を挙げることができる。
<表面処理組成物の固形分>
本発明で用いる表面処理組成物の固形分は、特に限定は無く、金属板への表面処理組成物の塗布方法にあわせて調整すれば良い。表面処理組成物の固形分は、一般に5〜20質量%程度であり、例えばスプレーリンガー法(表面処理組成物を金属板の表面にスプレーした後、リンガーロールで絞る塗布方法)により塗布する場合、10〜18質量%程度が好適である。
<樹脂皮膜の形成方法>
本発明において、金属板上に樹脂皮膜を形成する方法および条件には特に限定は無く、既知の塗布方法で、表面処理組成物を金属板表面の片面または両面に塗布し、加熱乾燥することにより樹脂塗装金属板を製造することができる。表面処理組成物の塗布方法として、例えばバーコーター法、カーテンフローコーター法、ロールコーター法、スプレー法、スプレーリンガー法等を挙げることができ、これらの中でも、コスト等の観点からバーコーター法やスプレーリンガー法が好ましい。また加熱乾燥条件にも特に限定は無く、加熱乾燥温度として50〜120℃程度、好ましくは70〜100℃程度を例示することができる。あまりに高い加熱乾燥温度は、樹脂皮膜が劣化するので好ましくない。
<樹脂皮膜の付着量>
樹脂塗装金属板における樹脂皮膜の付着量は、乾燥質量で、好ましくは0.2〜1g/m2、より好ましくは0.3〜0.7g/m2である。付着量が0.2g/m2未満の場合には、金属板表面を覆うことが困難となり、耐ロール成形性や塗膜密着性、裸耐食性が大きく損なわれる。一方、付着量が1g/m2を超えると、耐食性は良好となるが、ロール成形時に剥離する皮膜量が増加するため、水切りパッドへの皮膜カスの堆積量が増加して、トラブルの原因となるおそれがあって好ましくない。また、塗膜密着性が大きく損なわれる。なお、本発明の樹脂皮膜は、無機成分を多く含み、比重が大きい。このため、樹脂成分リッチな従来の樹脂皮膜に比べ、付着量が同じでも薄膜化に成功している。このことも、皮膜カスの低減に寄与している。
<金属板>
本発明で用いる金属板には、特に限定は無く、例えば非めっき冷延鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板(GI)、合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)、電気亜鉛めっき鋼板(EG)、アルミ板およびチタン板等を挙げることができる。これらの中でも、クロメート処理が行われていない溶融亜鉛めっき鋼板(GI)や合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)に本発明を適用するのが好ましい。
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は本発明を制限するものではなく、前・後記の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施をすることは全て本発明の技術的範囲に包含される。
先ず、実験例で用いた評価方法について、以下説明する。
(耐ロール成形性)
樹脂塗装金属板から、40mm×300mmの試料を切り出し、引張試験機に垂直にセットし、試料背面に平板ダイス(材質:SKD11)を当接させた。次いで、当該平板ダイスと当接する試料の反対面(正面)に、先端半径R=9.1mmの凸部を有する治具(半円柱ダイス、材質:SKD11)を当接させ、治具に4900N(500kgf)の負荷を水平方向にかけつつ、治具を下方へ300mm/minで、試料背面に平板ダイスが当接している範囲内で引き下げた。その後、半円柱ダイスを試料から離して摺動前の位置に戻した後、上記と同様の摺動操作を9回繰り返した(合計10回)。その後、半円柱ダイスを繰り返し摺動させた部分(W1)と未摺動部分(W0)の皮膜付着量を、蛍光X線分析装置でそれぞれ分析して、下記式(1)から皮膜残存率を算出して、下記基準で評価した。
Figure 0005185911
◎:皮膜残存率95%以上
○:皮膜残存率90%以上95%未満
△:皮膜残存率80%以上90%未満
×:80%未満
なお、皮膜付着量は、皮膜中に含まれるコロイダルシリカ(SiO2)のSi元素を分析し、下記式(2)に基づいて、皮膜中に含まれるSi元素の割合から計算した。
Figure 0005185911
(裸耐食性(SST平板))
JIS Z2371に基づいて、樹脂塗装金属板に塩水噴霧試験を実施して、白錆発生率(100×白錆が発生した面積/樹脂塗装金属板の全面積)が5%になるまでの時間を測定した。なお、建材用途での裸耐食性は、GI材およびGA材ともクロメート処理並のSST経過時間48時間で白錆発生5%以内であれば、実用上問題がない。また、その他の用途でも、GI材で96時間以上、GA材で72時間以上であれば問題ない。
(JASOサイクル試験での裸耐食性(平板))
JIS H8502に基づき、JASOサイクル試験を行った。1サイクルは、塩水噴霧(温度35℃×2時間)→乾燥(温度35℃×湿度30%以下×4時間)→湿潤(温度50℃×湿度95%以上×2時間)である(それぞれ移行時間を含む。)。20サイクル実施した後に、白錆発生率(100×白錆が発生した面積/樹脂塗装金属板の全面積)を下記基準で評価した。
◎:白錆発生率5%未満
○:白錆発生率5%以上〜10%未満
△:白錆発生率10%以上〜20%未満
×:白錆発生率20%以上
(表面張力)
JIS K2241に準じて、イオン交換水を用いて表面処理組成物の23%水溶液を調製し、該水溶液の表面張力を、室温条件下、表面張力測定装置(島津製作所製)、及びプローブとして金属リングを使用してデュヌイ法により求めた。
(塗膜密着性)
先ず、鉛酸カルシウム錆止め塗料(日本ペイント株式会社製、ヘルゴンCPライトグレー)をシンナー(日本ペイント株式会社製、塗料シンナーA)で希釈し、粘度調整(フォードカップ#4で20秒)した後、樹脂塗装金属板にスプレー圧39N(4kgf)でスプレー塗装し、12時間エージングした後、温度80℃で60分間乾燥して、塗膜厚35〜40μmの塗装材を作製した。
<塩水噴霧試験>
次いで、塗装材の裏面・エッジにシールを施した後、カッターナイフでクロスカットを入れ、JIS Z2371に準じて塩水噴霧試験(SST)を実施して、360時間経過後、クロスカット部からの片側最大膨れ幅を測定し、下記基準で評価した。
◎:膨れ幅1.0mm未満
○:膨れ幅1.0mm以上1.5mm未満
△:膨れ幅1.5mm以上2.0mm未満
×:膨れ幅2.0mm以上
<耐塩水浸漬試験>
塗装材の裏面・エッジにシールを施した後、カッターナイフでクロスカットを入れ、液温23℃±2℃の塩化ナトリウム水溶液(30g/L)に96時間浸漬した後、水洗し、次いで表面の水分を拭き取り、直ちにクロスカット部のテープ剥離試験を実施した。剥離試験後の塗装材について、クロスカット部からの片側最大剥離幅を測定し、下記基準で評価した。
◎:剥離幅1.0mm未満
○:剥離幅1.0mm以上1.5mm未満
△:剥離幅1.5mm以上2.0mm未満
×:剥離幅2.0mm以上
(オレフィン−酸共重合体とカルボン酸重合体の乳化物(エマルション)の調製)
撹拌機、温度計、温度コントローラーを備えた乳化設備を有するオートクレイブに、オレフィン−酸共重合体としてエチレン−アクリル酸共重合体(ダウケミカル社製、プリマコール(登録商標)5990I、アクリル酸由来の構成単位:20質量%、質量平均分子量(Mw):20,000、メルトインデックス:1300、酸価:150)200.0質量部、カルボン酸重合体としてポリマレイン酸水溶液(日油社製「ノンポール(登録商標)PMA−50W」、Mw:約1100(ポリスチレン換算)、50質量%品)8.0質量部、トリエチルアミン35.5質量部(エチレン−アクリル酸共重合体のカルボキシル基に対して0.63当量)、48%NaOH水溶液6.9質量部(エチレン−アクリル酸共重合体のカルボキシル基に対して0.15当量)、トール油脂肪酸(ハリマ化成社製、ハートールFA3)3.5質量部、イオン交換水792.6質量部を加えて密封し、150℃および5気圧で3時間高速撹拌してから、30℃まで冷却した。次いでグリシドキシ基含有シランカップリング剤(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ(旧社名:GE東芝シリコーン)社製、TSL8350、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)10.4質量部、カルボジイミド基含有化合物(日清紡社製「カルボジライト(登録商標)SV−02」、ポリカルボジイミド、Mw:2,700、固形分40質量%)31.2質量部、イオン交換水72.8質量部を添加し、10分間撹拌して、オレフィン−酸共重合体とカルボン酸重合体の乳化物(エマルション)を調製した(固形分濃度約20質量%、JIS K6833に準じて測定)。
(実験例1−1〜1−10)
<表面処理組成物の調製>
上記乳化物に、表面積平均粒子径4〜6nm(公証値)のコロイダルシリカ(A)(日産化学工業社製、スノーテックス(登録商標)XS(固形分濃度20%))と表面積平均粒子径10〜20nm(公証値)のコロイダルシリカ(B)(日産化学工業社製、スノーテックス(登録商標)40(固形分濃度40%))とを順次加え、両者をよく混合した後、グリシドキシ基含有シランカップリング剤(信越化学工業社製、KBM403(固形分濃度100%))、次いでメタバナジン酸塩としてメタバナジン酸ナトリウム(新興化学工業社製、メタバナジン酸ソーダ(固形分濃度約66%))を添加した。この混合物に、さらにアクリル変性エポキシ樹脂(荒川化学工業社製、モデピクス(登録商標)302(固形分濃度33.5%))を加え、表面処理組成物を作製した。
なお、上記表面処理組成物の作製における各成分の混合量(あるいは混合比)は以下の通りである。
コロイダルシリカ(A)と(B)の質量比 50:50
無機成分と樹脂成分(上記乳化物中の全固形分とアクリル変性エポキシ樹脂との混合量、以下同じ)の質量比 30:70〜95:5
アクリル変性エポキシ樹脂の混合量 上記乳化物中の全固形分95質量部に対して5質量部(樹脂成分中5質量%)
グリシドキシ基含有シランカップリング剤の混合量 無機成分と樹脂成分との合計100質量部に対して10質量部
メタバナジン酸塩の混合量 無機成分と樹脂成分との合計100質量部に対して1質量部
<樹脂塗装金属板の作製>
金属板として、アルカリ脱脂した溶融亜鉛めっき鋼板GI材(Zn付着量45g/m2)、または合金化溶融亜鉛めっき鋼板GA材(Zn付着量45g/m2)を使用し、鋼板の表面に、上記表面処理組成物をバーコート(バーNo.3または4)にて塗布し、板温90℃で約12秒間加熱乾燥して、樹脂皮膜付着量が0.5g/m2の樹脂塗装金属板を製造した。得られた樹脂塗装金属板の評価結果を、表1に示す。
(実験例1−11)
<表面処理組成物の調製>
SiO2/Li2Oモル比が4.5のケイ酸リチウム(日産化学工業社製「リチウムシリケート45」)と、表面積平均粒子径(公証値)4〜6nmのコロイダルシリカ(日産化学工業社製、スノーテックス(登録商標)XS)とを、質量比で90:10となるように混合して、無機成分を調製した。
上記乳化物に、得られた無機成分を添加し、両者をよく混合した後、グリシドキシ基含有シランカップリング剤(信越化学工業社製、KBM403、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン)、次いで、メタバナジン酸ナトリウム(新興化学工業社製、メタバナジン酸ソーダ)を加えた。この混合物に、さらに、オキサゾリン基含有共重合体(日本触媒社製、エポクロス(登録商標)K−2030E、固形分40質量%)を加え、表面処理組成物を調製した。
なお、上記表面処理組成物の作製における各成分の混合量(あるいは混合比)は以下の通りである。
無機成分と、上記乳化物中の全固形分とオキサゾリン基含有共重合体の混合物との混合比 70:30
オキサゾリン基含有共重合体の混合量 上記乳化物中の全固形分95質量部に対して5質量部
グリシジル基含有シランカップリング剤の混合量 無機成分と、上記乳化物中の全固形分とオキサゾリン基含有共重合体の混合物との合計100質量部に対し15質量部
メタバナジン酸ナトリウムの混合量 無機成分と、上記乳化物中の全固形分とオキサゾリン基含有共重合体の混合物との合計100質量部に対し5質量部
<樹脂塗装金属板の作製>
実験例1−11で調製した表面処理組成物を用いた以外は実験例1−1と同様にして、樹脂塗装金属板を製造した。得られた樹脂塗装金属板の評価結果を、表1に示す。
Figure 0005185911
(実験例2−1〜2−10)
<表面処理組成物の調製>
コロイダルシリカ(A)とコロイダルシリカ(B)の質量比を100:0〜0:100で変化させた以外は実験例1−3と同様にして、表面処理組成物を作製した。
<樹脂塗装金属板の作製>
実験例2−1〜2−10で調製した表面処理組成物を用いた以外は実験例1−3と同様にして、樹脂塗装金属板を製造した。得られた樹脂塗装金属板の評価結果を、表2に示す。
(実験例2−11〜2−12)
コロイダルシリカ(B)に代えて、表面積平均粒子径20〜30nm(公証値)のコロイダルシリカ(日産化学工業社製、スノーテックス(登録商標)50)、あるいは、表面積平均粒子径40〜50nm(公証値)のコロイダルシリカ(日産化学工業社製、スノーテックス(登録商標)20L)を用いた以外は実験例2−1と同様にして、表面処理組成物を作製した。
<樹脂塗装金属板の作製>
実験例2−11〜2−12で調製した表面処理組成物を用いた以外は実験例2−1と同様にして、樹脂塗装金属板を製造した。得られた樹脂塗装金属板の評価結果を、表2に示す。
Figure 0005185911
(実験例3−1〜3−11)
<表面処理組成物の調製>
アクリル変性エポキシ樹脂の混合量を、上記乳化物中の全固形分80〜100質量部に対して0〜20質量部(樹脂成分中0〜20質量%)とした以外は実験例1−3と同様にして、表面処理組成物を作製した。
<樹脂塗装金属板の作製>
実験例3−1〜3−11で調製した表面処理組成物を用いた以外は実験例1−3と同様にして、樹脂塗装金属板を製造した。得られた樹脂塗装金属板の評価結果を、表3に示す。
Figure 0005185911
(実験例4−1〜4−9)
<表面処理組成物の調製>
グリシドキシ基含有シランカップリング剤の混合量を、無機成分と樹脂成分との合計100質量部に対して0〜20質量部とした以外は実験例1−3と同様にして、表面処理組成物を作製した。
<樹脂塗装金属板の作製>
実験例4−1〜4−9で調製した表面処理組成物を用いた以外は実験例1−3と同様にして、樹脂塗装金属板を製造した。得られた樹脂塗装金属板の評価結果を、表4に示す。
Figure 0005185911
(実験例5−1〜5−10)
<表面処理組成物の調製>
メタバナジン酸塩の混合量を、無機成分と樹脂成分との合計100質量部に対して0〜5質量部とした以外は実験例1−3と同様にして、表面処理組成物を作製した。
<樹脂塗装金属板の作製>
実験例5−1〜5−10で調製した表面処理組成物を用いた以外は実験例1−3と同様にして、樹脂塗装金属板を製造した。得られた樹脂塗装金属板の評価結果を、表5に示す。
Figure 0005185911
(実験例6−1〜6−8)
<樹脂塗装金属板の作製>
樹脂皮膜付着量を0.1〜1.5g/m2とした以外は実験例1−3と同様にして、樹脂塗装金属板を製造した。得られた樹脂塗装金属板の評価結果を、表6に示す。
Figure 0005185911
本発明は、耐食性のみならず、GI材で要求される耐ロール成形性やGA材で要求される後塗装後の塗膜密着性を満足する樹脂塗装金属板を提供することができる。

Claims (5)

  1. クロメートフリーの表面処理組成物から得られる樹脂皮膜を備えた樹脂塗装金属板であって、前記表面処理組成物が、
    表面積平均粒子径の異なる複数種のコロイダルシリカから構成される無機成分を60〜80質量部と、
    オレフィン−α,β−不飽和カルボン酸共重合体、α,β−不飽和カルボン酸重合体、及びアクリル変性エポキシ樹脂から構成される樹脂成分を20〜40質量部と、
    前記無機成分と前記樹脂成分との合計100質量部に対し、さらに、グリシドキシ基含有シランカップリング剤5〜15質量部とメタバナジン酸塩0.5〜3質量部とを含有すると共に、
    前記樹脂成分が、前記アクリル変性エポキシ樹脂を2〜15質量%含有することを特徴とする樹脂塗装金属板。
  2. 前記無機成分が、表面積平均粒子径4〜6nmのコロイダルシリカ(A)と表面積平均粒子径10〜20nmのコロイダルシリカ(B)とを含み、前記(A)と(B)との混合比が70:30〜40:60(質量比)である請求項1に記載の樹脂塗装金属板。
  3. 前記表面処理組成物の表面張力が50dyn/cm以下である請求項1または2に記載の樹脂塗装金属板。
  4. 前記樹脂皮膜の付着量が、乾燥質量で0.2〜1g/m2である請求項1からのいずれか一項に記載の樹脂塗装金属板。
  5. 前記樹脂皮膜を備える金属板が、溶融亜鉛めっき鋼板、または合金化溶融亜鉛めっき鋼板である請求項1からのいずれか一項に記載の樹脂塗装金属板。
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