JP5128943B2 - 組換えスパイダーシルクタンパク質 - Google Patents

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Description

本発明は、組換えスパイダーシルクタンパク質、該組換えスパイダーシルクタンパク質をコードする核酸、ならびに該核酸を発現するのに適した宿主に関する。更に、本発明は、スパイダーシルクタンパク質の凝集方法に関するとともに、該タンパク質のバイオテクノロジー、医学および他の工業分野における使用、特に自動車部品の製造、航空機建造、織物および皮革の加工、ならびに紙、化粧品、食品、電子装置の製造および加工、薬物送達などにおける使用に関する。
本願においては、次の略語が使用される:NR、非反復性;Ap、アンピシリン耐性遺伝子;IPTG、イソプロピル−β−D−チオガラクトシド;GdmCl、塩酸グアニジン;GdmSCN、チオシアン酸グアニジン;SDS、ドデシル硫酸ナトリウム;PAGE、ポリアクリルアミドゲル電気泳動;トリス、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン;CD、円偏光二色性;repタンパク質、反復性タンパク質;Da、ダルトン;cps、毎秒カウント数;MRW、平均残基分子量;n.d.、未実施。
スパイダーシルク(蜘蛛絹糸)は驚くべき物性を示すタンパク質ポリマーである(1)。様々な種類のスパイダーシルクの中でも、牽引糸は最も盛んに研究されている。牽引糸シルクは、造網性のクモが、網の枠および径を構築するために、かつ常に後方に引かれる命綱として利用している。これらの目的のためには、高い引張強さと弾性とが必要である。そのような特性が組み合わさると、ほとんどの他の既知材料よりも高い靭性が得られる(1、2)。牽引糸シルクは一般に、一次構造が共通の反復構造を共有している2つの主なタンパク質から構成されている(3、4)。
最大で60アミノ酸を含みうる単一の反復単位(繰り返し単位)のバリエーションが数回繰り返されて、牽引糸シルクの配列の大部分を構成している。これらの反復単位は、限られた独特のアミノ酸モチーフのセットを含んでいる。すべての牽引糸シルクの反復単位に見出される1つのモチーフは、典型的には6〜9個のアラニン残基の連なりである。シルク糸においては、いくつかのポリアラニンモチーフが結晶性のβシートの積層を形成して引張強さをもたらしている(5、6)。
GGXまたはGPGXXのようなグリシンに富むモチーフは、結晶性領域を接続するとともに糸に弾性を与える、可撓性のらせん構造をとる(7)。
さらに、調査された牽引糸シルクタンパク質はすべて、そのカルボキシル末端に明白な反復パターンを示さない領域(非反復領域またはNR領域)を含む。これまでのところ、この究極の糸における同領域の機能を見出すことはできていない。
生体内におけるシルクのアセンブリは卓越したプロセスである。クモの牽引糸シルクタンパク質は、いわゆる大瓶状腺(major ampullate gland)の中に最大50%(w/v)の濃度で(8)貯蔵される。「動的な緩いらせん構造」が大瓶状腺内のタンパク質について提案されてきたが(8)、より最近のデータは、大瓶状腺の大部分に相当するいわゆるAゾーンのタンパク質についてランダムコイル構造を示唆している(9、10)。この高度に濃縮されたタンパク質溶液がシルクのドープ液(紡糸液)を形成し、該ドープ液は液晶の特性を示す(11−13)。
糸のアセンブリは、水、ナトリウムおよび塩化物の抽出を伴ってドープ液が紡糸管(spinning duct)を通過する間に開始される(14、15)。同時に、よりリ
オトロピックなカリウムイオンおよびリン酸イオンの濃度が上昇し、pHが6.9から6.3に低下する(14−16)。アセンブリは最終的には機械的ストレスが引き金となって起きるが、機械的ストレスはクモの腹から糸を引き出すことにより引き起こされる(17)。
いくつかの目的については、天然のシルク糸を直接使用することはできず、溶解してフィルム、発泡体、球体、ナノ繊維、ヒドロゲルなどのような他の形態へと再アセンブリする必要がある。
シルクタンパク質から作られたフィルムに関するほとんどの研究は、シルクフィブロイン(カイコ(Bombyx mori)由来のシルクの主要タンパク質成分)を用いて行なわれている。シルクフィブロイン・フィルムは、水溶液から、あるいはヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)、ギ酸およびトリフルオロ酢酸を含む溶液から成型することが可能である。シルクフィブロインは、溶液中では使用される溶媒に依存してらせん構造やランダムコイル構造をとる傾向がある。フィルムに成型された時、タンパク質は可溶状態の構造を維持するか、あるいはよりβシートに富んだ構造をとる。ほとんどの場合、フィルムをメタノールで処理するとβシート含量および結晶度が一層増大する。シルクフィブロインに加えて、他のシルクタンパク質もフィルムの成型に使用されてきた。ボルラス(Vollrath)と共同研究者らは、クモ(ネフィラ・セネガレンシス(Nephila senegalensis))の大瓶状腺から抽出されたタンパク質で作られるフィルムについて研究した。水溶液から調製された場合、成型フィルムは主としてランダムコイル構造のタンパク質を含んでいた。その構造は、塩化カリウムを添加するとβシートに変化した。さらに、溶媒としてHFIPを使用して、アメリカジョロウグモ(Nephila clavipes)の牽引糸シルクタンパク質MaSpI由来の合成シルクタンパク質からフィルムが作られている。該タンパク質は、溶液ではαらせん構造をとるが、フィルムへと成型されるとよりβシートに富む構造へと変化する。
残念ながら、天然シルクフィブロイン由来の機能的フィルム材料の生成は、そのアミノ酸配列によって抑制されている。シルクフィブロインの選択的な化学修飾は、チオール基、アミノ基、またはカルボキシル基を含む化学的に反応性のアミノ酸側鎖が少量(<1.5%)であるために、非常に限定的にしか可能でない。さらに、シルクタンパク質を変化させ、したがってフィルムの特性を変化させるために、天然の宿主において遺伝学的改変を行うのは面倒である。
スパイダーシルクタンパク質のいくつかの構造上の特性は解明されているが、個々のシルクタンパク質およびそれらの一次構造の要素の、アセンブリ過程への寄与については、まだほとんど知られていない。ニワオニグモ(Aranens diadematus)の2つの主な牽引糸シルクタンパク質であるADF−3およびADF−4の比較試験から、それらのアミノ酸配列はかなり似ている(4)が、これらのタンパク質が著しく異なる溶解度およびアセンブリ特性を示すことが明らかになった。すなわち、ADF−3は高濃度でも可溶性であるが(18)、ADF−4は事実上不溶性で、特定の条件下でフィラメント状の構造へと自己アセンブリする(未発表の結果)。
科学的および商業的関心から、スパイダーシルクを工業規模で製造する研究が開始された。天然スパイダーシルクの生産は、クモが共食いすることから非実用的であり、人工的生産は、十分なタンパク質収率と高品質の糸へのアセンブリとの両方を達成するには問題があった。細菌による発現は、恐らくは細菌とクモとのコドン利用の違いに起因して、タンパク質収量レベルが低かった。発現用宿主に適したコドン利用の合成遺伝子により収量が高まったが、該遺伝子から合成されたタンパク質は、天然のスパイダーシルクと比較すると異なる特性を示した。哺乳動物細胞株における牽引糸シルクcDNAの一部の発現に
より、まだ品質が劣るとはいえ、人工的に「シルクのような」糸へと紡糸できるシルクタンパク質(例えばADF−3)が生産された。
特許文献1は、バイオフィラメントタンパク質を繊維へと紡糸するための方法および装置に関する。この発明は、水溶液から組換えシルクタンパク質を紡糸し、繊維の強度を高め、商業的生産およびそのような繊維の実用的用途を与える実用的製造を増強するのに特に有用である。同文献には、哺乳動物細胞、例えばヤギ乳腺のトランスジェニック細胞でスパイダーシルクタンパク質を発現することが開示されている。
いくつかの遺伝子部分が細菌中では効率的に翻訳されないコドンを含んでいるので、細菌宿主において天然型のスパイダーシルク遺伝子を発現するのは(上述のとおり)非能率的である(24)。さらに、PCRによる遺伝子操作および増幅は、シルクが反復性を有するため困難である。スパイダーシルクタンパク質の特性を研究するために、相応の発現用宿主に適したコドン利用の合成DNAモジュールを使用するクローニング戦略がとられた。スパイダーシルクの反復領域に類似したタンパク質をコードする合成遺伝子が得られた(25−28)。しかしながら、これらのタンパク質の構造はどれもカルボキシル末端のNR(すべての牽引糸シルクに見出される領域)を含んでいなかった。
国際公開公報第03060099号パンフレット
したがって、本発明の基礎となる目的は、特性が強化された組換えスパイダーシルクタンパク質、特に高収率での発現能が改善され、かつ強度および可撓性が改善された(つまりより良い品質の)組換えスパイダーシルクタンパク質を提供することである。更に、本発明の目的は、既知の発現系で都合よく発現可能な組換えスパイダーシルクタンパク質を提供することである。本発明は、スパイダーシルクタンパク質の凝集のための改良法、およびこれらのタンパク質で作られる糸を形成する方法を提供することをもう一つの目的とする。さらに、本発明は、改善された紙製品、織物製品および皮革製品を提供することを目的とする。さらなる目的は、スパイダーシルクタンパク質に基づいた新しいタンパク質およびさらなる材料、例えば球体、ナノ繊維、ヒドロゲル、糸、発泡体、フィルムなど、バイオテクノロジー、医学、医薬および食品の用途、化粧品、電子装置、ならびにその他の商業目的のために使用する材料を提供することである。
これらの目的は独立請求項の主題によって解決される。好ましい実施形態は、従属請求項で述べられる。
本発明のタンパク質工学手法は、合成のスパイダーシルクタンパク質反復配列および天然型のNR(非反復性)領域のうち少なくともいずれか一方を含んでなるかまたはそれらで構成される組換えスパイダーシルクタンパク質を提供するものであり、天然型のシルクタンパク質に非常によく似たタンパク質を高収率で生産可能であることが明らかである。特に、本明細書において提示される細菌の発現系ならびに単純で安価な精製工程は、スケールアップが容易であり、スパイダーシルク様タンパク質の資金効率の良い工業規模生産のための基礎を提供する。
スパイダーシルクタンパク質は、シルク糸の機械的性質への寄与に関して主に研究されてきた。しかしながら、シルクのアセンブリの分子メカニズムについてはほとんど知られていない。このプロセスを特徴解析する第一歩として、本発明者らは、ニワオニグモ(Araneus diadematus)の主要な牽引糸シルクタンパク質ADF−3およびADF−4の、タンパク質の溶解度を決定する一次構造要素を同定した。さらに、タンパク質凝集時の自然な糸のアセンブリの仲介に関与する条件の影響について研究した。ス
パイダーシルク様タンパク質をコードする遺伝子は、合成DNAモジュールとPCR増幅された天然型遺伝子配列との組合せに基づく新しく開発されたクローニング戦略を使用して生成された。合成されたタンパク質の二次構造、溶解度および凝集特性の比較から、単一の一次構造要素がタンパク質の特性に種々の影響を有していることが明らかとなった。牽引糸シルクタンパク質の大部分を占める反復領域は、該合成タンパク質の溶解度を決定付けており、溶解度はADF−3およびADF−4由来の構造間で大きく異なっていた。酸性化およびリン酸塩濃度の増大のような、生体内(in vivo)でシルクのアセンブリを促進する要因は、一般に生体外(in vitro)ではシルクタンパク質の溶解度を低下させた。驚くべきことに、この作用は、ADF−3またはADF−4のカルボキシル末端非反復領域を含む組換えタンパク質において顕著であり、これらの領域が、スパイダーシルクタンパク質のアセンブリ開始の際に重要な役割を果たすことが示唆された。
第一の態様によれば、本発明は、
a)1つ以上の合成のスパイダーシルクタンパク質反復配列、および
b)1つ以上の天然型のスパイダーシルクタンパク質非反復配列
のうち少なくともいずれか一方を含んでなる、組換えスパイダーシルクタンパク質に関する。
本明細書において使用される用語「合成(の)反復配列」とは、天然には見出されないが、スパイダーシルクタンパク質に本来存在する反復単位に由来する組換えタンパク質配列として理解されることになっている。上述のように、該反復配列は1つ以上の単一反復単位を含み、該単位は最大60アミノ酸を含む。天然に存在する反復単位は、限られた独特のアミノ酸モチーフのセットを含んでいる。それらの反復単位は、後でスパイダーシルクタンパク質から形成されうる糸に、とりわけ引張強さおよび弾性を与える。
本発明の合成反復配列の基礎となりうる様々な種類の反復単位については、以降に詳細に説明する。
本発明の組換えスパイダーシルクタンパク質の第2の構成成分は、合成反復配列に加えて存在しても、単独で存在してもよく、1つ以上の天然型の非反復タンパク質配列を含む。これらの非反復配列は糸のアセンブリに重要な機能的役割を果たす。
留意すべきことは、本発明が、合成反復配列のみを含む組換えスパイダーシルクタンパク質も企図することである。両方の構成成分、すなわち合成反復配列ならびに天然型の非反復配列を示す本発明の組換えタンパク質は、利用範囲が広く、大量生産可能である(下記の実施例の章を参照)が、合成反復配列だけを含んでいる組換えスパイダーシルクタンパク質は、一部の特定の用途について使用可能である。
これらの用途は、とりわけ自動車部品および航空機部品、表面コーティング、ならびに創傷閉鎖システムおよび創傷被覆材である。あるいは言いかえれば、スパイダーシルクタンパク質の糸状構造物を必要としない用途である。
本明細書に使用されるように用語「天然型(の)」は、基礎となる核酸配列が、その配列自体に実質的な改変を加えずに天然の環境から単離されていることを意味する。許容される唯一の改変は、天然型の非反復核酸配列を、宿主内で発現するように適合させるために、コードされるアミノ酸配列を変えることなく改変する場合である。好ましい配列は、NR3(配列番号10、ADF−3由来)およびNR4(配列番号11、ADF−4由来)である。いずれの配列においても、より効率よく翻訳させるために、大腸菌(E.coli)ではほとんど翻訳されないコドンAGA(アルギニン)についてPCR突然変異誘発を使用してCGT(アルギニン)に変異させた。
好適な鞭毛状タンパク質の天然型非反復配列は、FlagN−NR(配列番号31および32)およびFlagC−NR(配列番号33および34)のアミノ酸配列および核酸配列である。
好ましい実施形態によれば、本発明の組換えスパイダーシルクタンパク質は、一般にクモの大瓶状腺からのクモ牽引糸タンパク質および/または鞭毛状腺からのタンパク質に由来する。
さらに好ましい実施形態によれば、天然型非反復配列は、天然のスパイダーシルクタンパク質の、アミノ末端非反復領域(鞭毛状タンパク質)および/またはカルボキシ末端非反復領域(鞭毛状タンパク質および牽引糸タンパク質)に由来する。それらのタンパク質の好ましい例を以下に示す。
一般に、円網性種(コガネグモ科(Araneidae)およびアラネオイド(Araneoids))の牽引糸タンパク質または鞭毛状タンパク質から牽引糸および/または鞭毛の配列を選択することが好ましい。
より好ましくは、牽引糸タンパク質および/または鞭毛状タンパク質は、次のクモのうち1以上に由来する:Arachnura higginsi、Araneus circulissparsus、ニワオニグモ(Araneus diadematus)、Argiope picta、バンデッドガーデンスパイダー(Banded Garden Spider)(Argiope trifasciata)、バティックゴールデンウェブスパイダー(Batik Golden Web Spider)(Nephila antipodiana)、ベッカリズテントスパイダー(Beccari’s
Tent Spider)(Cyrtophora beccarii)、トリノフンダマシ(Bird−dropping Spider)(Celaenia excavata)、ブラックアンドホワイトスピニースパイダー(Black−and−White Spiny Spider)(Gasteracantha kuhlii)、キマダラコガネグモ(Black−and−yellow Garden Spider)(Argiope aurantia)、ナゲナワグモ(Bolas Spider)(Ordgarius furcatus)、ナゲナワグモ〜マグニフィセントスパイダー(Bolas Spiders−Magnificent Spider)(Ordgarius magnificus)、ブラウンセーラースパイダー(Brown Sailor Spider)(Neoscona nautica)、ブラウンレッグドスパイダー(Brown−Legged Spider)(Neoscona rufofemorata)、キャップトブラックヘッディドスパイダー(Capped Black−Headed Spider)(Zygiella calyptrata)、コモンガーデンスパイダー(Common Garden Spider)(Parawixia
dehaani)、コモンオーブウィーバー(Common Orb Weaver)(Neoscona oxancensis)、クラブライクスピニーオーブウィーバー(Crab−like Spiny Orb Weaver)(Gasteracantha cancriformis(elipsoides)))、カーブドスピニースパイダー(Curved Spiny Spider)(Gasteracantha arcuata)、Cyrtophora moluccensis、Cyrtophora parnasia、Dolophones conifera、Dolophones turrigera、ドリアズスピニースパイダー(Doria’s Spiny Spider)(Gasteracantha doriae)、ダブルスポッテッドスピニースパイダー(Double−Spotted Spiny Spider)(Gasteracantha mammosa)、ダブルテイルドテントスパイダー(Double−Tailed Tent Spider)(Cyrtophora exant
hematica)、Aculeperia ceropegia、Eriophora
pustulosa、フラットアネプション(Flat Anepsion)(Anepsion depressium)、フォースパインドジュエルスパイダー(Four−spined Jewel Spider)(Gasteracantha quadrispinosa)、ガーデンオーブウェブスパイダー(Garden Orb Web Spider)(Eriophora transmarina)、ジャイアントライケンオーブウィーバー(Giant Lichen Orbweaver)(Araneus bicentenarius)、ジョロウグモ(Golden Web Spider)(Nephila maculata)、ハッセルツスピニースパイダー(Hasselt’s Spiny Spider)(Gasteracantha hasseltii)、Tegenaria atrica、Heurodes turrita、アイランドサイクローサスパイダー(Island Cyclosa Spider)(Cyclosa insulana)、ジュエルスパイダーもしくはスピニースパイダー(Jewel or Spiny Spider)(Astracantha minax)、キドニーガーデンスパイダー(Kidney Garden Spider)(Araneus mitificus)、ラグライジズガーデンスパイダー(Laglaise’s Garden Spider)(Eriovixia laglaisei)、ロングベリードサイクローサスパイダー(Long−Bellied Cyclosa Spider)(Cyclosa bifida)、マラバルスパイダー(Malabar Spider)(Nephilengys malabarensis)、マルチカラードセントアンドリューズクロススパイダー(Multi−Coloured St Andrew’s Cross Spider)(Argiope versicolor)、オーナメンタルツリートランクスパイダー(Ornamental Tree−Trunk Spider)(Herennia ornatissima)、オーバルセントアンドリューズクロススパイダー(Oval St. Andrew’s Cross Spider)(Argiope aemula)、レッドテントスパイダー(Red Tent Spider)(Cyrtophora unicolor)、ロシアンテントスパイダー(Russian Tent Spider)(Cyrtophora hirta)、セントアンドリューズクロススパイダー(Saint Andrew’s Cross Spider)(Argiope keyserlingi)、スカーレットアクシラス(Scarlet Acusilas(Acusilas coccineus)、ギンコガネグモ(Silver Argiope)(Argiope argentata)、スピニーバックトオーブウィーバー(Spinybacked Orbweaver)(Gasteracantha cancriformis)、スポッテッドオーブウィーバー(Spotted Orbweaver)(Neoscona domiciliorum)、セントアンドリューズクロス(St. Andrews Cross)(Argiope aetheria)、セントアンドリューズクロススパイダー(St. Andrews Cross Spider)(Argiope Keyserlingi)、ツリースタンプスパイダー(Tree−Stump Spider)(Poltys illepidus)、トライアングルスパイダー(Triangular Spider)(Arkys clavatus)、トライアングルスパイダー(Triangular Spider)(Arkys lancearius)、ツースパインドスパイダー(Two−spined Spider)(Poecilopachys australasia)、ジョロウグモ(Nephila)種、例えば、アメリカジョロウグモ(Nephila clavipes)、Nephila senegalensis、Nephila madagascariensisなど、ならびにさらに多くのクモ(さらなるクモ類に関しては、以下も参照のこと)。最も好ましくは、牽引糸タンパク質はニワオニグモ(Araneus diadematus)に由来し、鞭毛状タンパク質はアメリカジョロウグモ(Nephila clavipes)に由来する。
本発明の枠内では、組換えスパイダーシルクタンパク質は1つの生物種由来のタンパク質配列を含むだけでなく、異なる種のクモに由来する配列をも含みうることは明らかである。例として、1つ以上の合成のスパイダーシルクタンパク質反復配列が1つの種に由来するもので、1つ以上の天然型のスパイダーシルクタンパク質非反復配列が他の種に由来する場合が考えられる。さらに別の例として、異なる種に由来する2以上の種類の反復配列を含む組換えスパイダーシルクタンパク質を設計することも可能である。
1つの好ましい実施形態によれば、牽引糸タンパク質は野生型のADF−3、ADF−4、MaSpI、MaSpIIであり、鞭毛状タンパク質はFLAGである。用語ADF−3/−4は、Araneus diadematusによって生産されたMaSpタンパク質(Araneus diadematusのフィブロイン−3/−4)に関係して使用される。ADF−3および−4いずれのタンパク質も、MaSpIIタンパク質(大瓶状腺スピドロインII(major ampullate spidroin II)のクラスに属する。
シルク繊維は、液晶ポリマーに似た、弾性の非定形セグメントがちりばめられたβシートの結晶性領域を有する。これらの2つのセグメントは、異なる遺伝子にコードされた2つの異なる種類のタンパク質、MaSpI(大瓶状腺スピドロインI)およびMaSpII(大瓶状腺スピドロインII)によって表わされる。
さらなる実施形態では、提供される核酸配列は、ADF−3(配列番号1)および/またはADF−4(配列番号2)、あるいはそのバリアントである。
留意すべきことは、2つの異なる種類のADF−3およびADF−4をコードする配列およびタンパク質が、本発明において企図されることである。すなわち、第1に、ADF−3およびADF−4の既に公表されている配列(本明細書では「野生型」配列)、ならびに第2に、それらのバリアントであって配列番号1(ADF−3)および2(ADF−4)によってコードされるものである。野生型配列は既に公表されており、受入番号U47855およびU47856により利用可能である(配列番号8および9)。
本発明において使用可能(つまり単独または別のタンパク質と組み合わせて使用可能)な別のスパイダーシルクタンパク質およびそのデータベース受入番号は次のとおり、すなわち:
スピドロイン2[Araneus bicentenarius]gi|2911272大瓶状腺牽引糸シルクタンパク質−1(major ampullate gland dragline silk protein‐1)[Araneus ventricosus]gi|27228957
大瓶状腺牽引糸シルクタンパク質−2[Araneus ventricosus]gi|27228959
瓶状腺スピドロイン1(ampullate spidroin 1)[Nephila
madagascariensis]gi|13562006
大瓶状腺スピドロイン1(major ampullate spidroin 1)[Nephila senegalensis]gi|13562010
大瓶状腺スピドロイン1[Latrodectus geometricus]gi|13561998
大瓶状腺スピドロイン1[Argiope trifasciata]gi|13561984
大瓶状腺スピドロイン1[Argiope aurantia]gi|13561976牽引糸シルクタンパク質スピドロイン2[Nephila clavata]gi|16974791
大瓶状腺スピドロイン2[Nephila senegalensis]gi|13562012
大瓶状腺スピドロイン2[Nephila madagascariensis]gi|13562008
大瓶状腺スピドロイン2[Latrodectus geometricus]gi|13562002
である。
別の好ましい実施形態によれば、鞭毛状タンパク質は、配列番号6(Flag−N)および/または配列番号7(Flag−C)あるいはそれらのバリアントであって、本発明者らによって誘導された新規な配列を構成するものである。
しかしながら、既に知られた公表されている鞭毛状タンパク質の配列、特に、下記:
鞭毛状シルクタンパク質の部分cds[Nephila clavipes]gi|2833646
鞭毛状シルクタンパク質の部分cds[Nephila clavipes]gi|2833648
がここで使用されてもよい。
1つの好ましい実施形態では、組換えスパイダーシルクタンパク質は、共通配列を含んでいる1以上のポリアラニンを含む1つ以上の合成反復配列を含んでなる。それらのポリアラニン配列は6〜9個のアラニン残基を含みうる。例えば、配列番号1は、6アラニン残基のポリアラニンモチーフをいくつか含んでいる。
好ましくは、共通配列を含んでいるポリアラニンはADF−3に由来し、配列番号3のアミノ酸配列(モジュールA)またはそのバリアントを有している。モジュールAは、6つのアラニン残基を有するポリアラニンを含んでいる。ADF−4由来の、共通配列を含んでいる別の好ましいポリアラニンは、8つのアラニン残基を含んでいるモジュールC(配列番号5)である。
別の好ましい実施形態によれば、本発明の組換えスパイダーシルクタンパク質では、合成反復配列はADF−3に由来し、配列番号4のアミノ酸配列(モジュールQ)またはそのバリアントの1以上の繰り返しを含む。
より一般的に言えば、合成反復配列は、一般的なモチーフ:GGXまたはGPGXX(すなわちグリシンに富む領域)を含む場合もある。上述のように、これらの領域は該タンパク質に可撓性を提供し、従って前記モチーフを含んでいる組換えスパイダーシルクタンパク質から形成された糸に可撓性を提供することになる。
本発明の合成反復配列の特定のモジュールは、互いに組み合わせることもできる、つまりAとQ、QとCなどを組み合わせたモジュール(反復単位)も本発明に包含されることに留意すべきである。スパイダーシルクタンパク質に導入すべきモジュールの数は制限されないが、各組換えタンパク質について、5−50個のモジュール、より好ましくは10−40個のモジュールならびに最も好ましくは15−35個のモジュール数である合成反復配列を使用することが好ましい。
合成反復配列は、反復単位として(AQ)および/または(QAQ)を1つ以上含むことが好ましい。さらに一層好ましくは、合成反復配列は(AQ)12、(AQ)24、(QAQ)または(QAQ)16である。
合成反復配列がADF−4に由来する場合は常に、上述のように、配列番号5のアミノ酸配列(モジュールC)またはそのバリアントの1つ以上の繰り返しを含み、合成反復配列全体ではC16またはC32であることが好ましい。
本発明の完全長の組換えスパイダーシルクタンパク質の好ましい実施形態は、(QAQ)NR3、(QAQ)16NR3、(AQ)12NR3、(AQ)24NR3、C16NR4、およびC32NR4(つまり前記配列を含むかまたは前記配列で構成されるタンパク質)である。
合成反復配列(A、QおよびC系を使用)の上記の配置構成は、上記に示された他のすべての反復単位にも当てはまることがわかる。例えば、ポリアラニンを含んでいる配列はすべて、Aおよび/またはCをとることが可能であり、また、グリシンに富む配列はすべて、Qモジュールとして使用されうる。
鞭毛状タンパク質の配列に由来する合成反復配列の新しいモジュールは、モジュールK(配列番号35および36)、モジュールsp(配列番号37および38)、モジュールX(配列番号39および40)、ならびにモジュールY(配列番号41および42)である。
合成反復配列が、Y、Y16、X、X16、K、K16を含んでなるか、またはそれらで構成されることも好ましい。
さらに、ADF−3およびADF−4およびFlagに由来する上記配列を1つの組換え配列内で組み合わせることも可能である。
上記に説明されるように、本明細書に開示されるアミノ酸配列は配列番号で提示される正確な配列に制限されるものではない。本明細書に示されたアミノ酸配列はバリアントも含む。したがって、本発明のタンパク質のアミノ酸配列は、アミノ酸の挿入、欠失および置換によって本明細書に示された配列とは異なっている配列もすべて包含する。
好ましくは、アミノ酸の「置換」は、1つのアミノ酸を、構造上の特性および/または化学的性質が類似している別のアミノ酸に置き換える(つまり保存的アミノ酸置換)の結果である。アミノ酸置換は、含まれる残基の極性、電荷、溶解度、疎水性、親水性、および/または両親媒性の類似性に基づいて実施することができる。例えば、非極性の(疎水性の)アミノ酸には、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファンおよびメチオニンが挙げられる;極性の中性アミノ酸には、グリシン、セリン、トレオニン、システイン、チロシン、アスパラギンおよびグルタミンが挙げられる;正に荷電した(塩基性)アミノ酸には、アルギニン、リジンおよびヒスチジンが挙げられる;また、負に荷電した(酸性)アミノ酸には、アスパラギン酸およびグルタミン酸が挙げられる。
「挿入」または「欠失」は一般に、約1〜5アミノ酸の範囲内であり、好ましくは約1、2または3アミノ酸である。本発明のタンパク質に付加および/または挿入されるアミノ酸の付加は、100アミノ酸以下であって、好ましくは80アミノ酸以下、より好ましくは50アミノ酸以下、最も好ましくは20アミノ酸以下である。留意されることは、本明細書で開示されるタンパク質の所望の特性に悪影響を及ぼさないアミノ酸付加だけが本発明において企図されることである。
許容される変異は、組換えDNA技術を使用してタンパク質中にアミノ酸の挿入、欠失または置換を系統的に作製し、得られた組換えバリアントの活性を分析することによって実験的に決定されうる。これは当業者にとってルーチン実験以上のことを要求するもので
はない。
本発明は、第2の態様によれば、上に示されるような組換えスパイダーシルクタンパク質をコードする核酸配列に関する。好ましいタンパク質をコードする好ましい配列は、配列番号12(ADF−3)、13(ADF−4)、14(NR3)、15(NR4)、16(FLAG−NT)、17(FLAG−CT)、32(FlagN−NR)、34(FlagC−NR)である。
本発明は、それらの核酸のバリアントも包含する。これらのバリアントは各々、配列番号12−17、32および34の配列と比較して1つ以上の置換、挿入および/または欠失を有するものであって、適度にストリンジェントな条件の下で配列番号12−17、32および34の配列を含む核酸にハイブリダイズするか、あるいは、配列番号12−17、32および34の核酸配列と同一または機能的に等価なアミノ酸をコードする、遺伝コードの縮重に起因する核酸変異を含むものと定義される。
用語「核酸配列」は、ヌクレオチドのヘテロポリマーあるいはこれらのヌクレオチドの配列を指す。「核酸」および「ポリヌクレオチド」という用語は、ヌクレオチドのヘテロポリマーを意味するために本明細書において互換的に使用される。
ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーは、本明細書で使用されるように、ポリヌクレオチドの二重鎖が安定である条件を指す。当業者には知られているように、二重鎖の安定性は、ナトリウムイオン濃度および温度の関数である(例えば、サムブルック(Sambrook)ら「Molecular Cloning: A Laboratory Manual」第2版(コールドスプリングハーバー研究所(Cold Spring Harbor Laboratory)、1989年)。ハイブリダイゼーションに使用されるストリンジェンシーのレベルは、当業者が容易に変えることが可能である。
本明細書において使用されるように、用語「適度にストリンジェントな条件」とは、DNAが、該DNAに対して約60%の同一性、好ましくは約75%の同一性、より好ましくは約85%の同一性、特に好ましくは前記DNAに約90%を越える同一性を有する相補的な核酸に結合することを可能にする条件を意味する。好ましくは、適度にストリンジェントな条件は、50%ホルムアミド、5×デンハルト(Denhart)溶液、5×SSPE、0.2%SDS中で42℃でハイブリダイゼーションした後、0.2×SSPE、0.2%SDS中で65℃で洗浄するのと等価な条件である。
第3の態様によれば、上述の核酸を含むベクターが提供される。好ましくは、前記核酸を含む発現ベクターが提供される。この発現ベクターは好ましくは1つ以上の調節配列を含む。用語「発現ベクター」は一般に、DNA(RNA)配列からポリペプチド/タンパク質を発現するための、プラスミド、ファージ、ウイルス、またはベクターを指す。発現ベクターは、(1)遺伝子発現において調節的役割を有する遺伝因子、例えばプロモータまたはエンハンサー、(2)mRNAへ転写され、タンパク質に翻訳される構造配列またはコード配列、ならびに(3)適切な転写開始配列および終結配列、のアセンブリを含む転写単位を含むことが可能である。酵母または真核生物の発現系で用いるための構造単位は、宿主細胞によって翻訳されたタンパク質の細胞外分泌を可能にするリーダー配列を含んでいることが好ましい。あるいは、組換えタンパク質がリーダー配列または輸送配列なしで発現される場合、該タンパク質はアミノ末端にメチオニン残基を含みうる。この残基は、最終生産物を提供するために発現された組換えタンパク質から後で切断される場合もあれば切断されない場合もある。
好ましい実施形態によれば、ベクターはプラスミドベクターまたはウイルスベクターで
あり、好ましくはバキュロウイルス系または牛痘ウイルスベクター系である。別のウイルスベクター系が本発明において使用されてもよい。場合によって、ベクターの修飾が必要なこともある。さらなるウイルスベクターの例は、アデノウイルスおよびすべてのマイナス鎖RNAウイルス(例えば狂犬病ウイルス、麻疹ウイルス、RSVなど)である。
好ましい実施形態によれば、ベクターは、図6または配列番号55で定義されるようなクローニングベクターpAZL、あるいは上に定義されるようなそのバリアントである。このベクターは次の特性および利点:
1.高度な増幅(他のクローニングベクターより高い)
2.合成遺伝子を制御された継ぎ目のない構造とすることが可能(この能力を提供する他のベクターは知られていない)
を示す。
本発明の第4の態様は、上に定義されるようなベクターで形質転換された宿主を含む。宿主は原核細胞であってもよい。この場合、大腸菌(E.coli)または枯草菌(Bacillus subtilis)が好ましい。
更に、宿主は、真核細胞、好ましくは哺乳動物細胞、植物細胞、酵母細胞または昆虫細胞であってもよい。
哺乳動物細胞は、CHO、COS、HeLa、293T、HEHまたはBHK細胞であることが好ましい。
さらに、宿主細胞として酵母菌を使用すること、好ましくは出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)、分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)またはハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)を使用することが好ましい。
昆虫細胞としては鱗翅類の昆虫細胞が使用するのに好ましく、スポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)由来およびイラクサギンウワバ(Trichoplusia ni)由来の細胞がより好ましい。最も好ましくは、昆虫細胞はSf9細胞、Sf21細胞またはHighFive(商標)細胞である。
例えば細菌の系に関して、昆虫細胞発現系の1つの利点は、生産されたタンパク質がグリコシル化されることにより、微生物による分解の標的となるという事実にある。この特性は、例えば、医学の分野で、該シルクタンパク質が生体内(in vivo)での使用を意図され、生体内で生分解されることが望まれる場合に重要でありうる。この特性は、縫合材料ならびに創傷の閉鎖および被覆システムにおいて特に適用を見出しうる。
宿主が植物細胞である場合は常に、該植物細胞は、タバコ、じゃがいも、トウモロコシおよびトマトに由来することが好ましい。
第5の態様によれば、スパイダーシルクタンパク質の凝集方法であって:
a)本明細書において定義されるような配向していないスパイダーシルクタンパク質を含んでいるタンパク質溶液を準備する工程と;
b)工程a)で準備された溶液を凝集トリガーに曝露する工程と;
c)沈殿したスパイダーシルクタンパク質を回収する工程と
を含む方法が提供される。
好ましくは、工程a)で使用されるスパイダーシルクタンパク質は、本明細書に示されたベクターまたは核酸を用いて上に定義されるような適切な宿主を形質転換し、適切な条
件の下でスパイダーシルク遺伝子を発現させることにより生産される。
凝集トリガーは、酸性化(好ましくはpHを約1にする)、リン酸カリウムおよび機械的ストレス(好ましくはタンパク質溶液を回転させて剪断力を加える)から選択されることが好ましい。トリガーの工程は、本発明の方法の実施にとって不可欠であることが判明した。
驚くべきことに、本発明者らによって、特に上記のトリガー要因が、特に産業上の観点から強く求められるスパイダーシルクタンパク質の凝集を増強することが示された。このことについては、以下の「結果」の章において言及する。「結果」の章では、本発明の組換えスパイダーシルクタンパク質に対するこれらのトリガー要因の影響について説明する。すなわち、各トリガー要因の影響は本発明の異なる組換えスパイダーシルクタンパク質の間で異なる可能性があるが、それらの生体外(in vitro)のトリガー要因が本発明の構成成分(すなわち反復領域および/または非反復領域)を含むすべての組換えタンパク質に対して予想外に高い影響を示すということは一般的な概念と見なすことが可能である。さらに、本明細書に提供される結果から、単一のトリガー要因だけでなくトリガー要因の組合せが本発明のスパイダーシルクタンパク質凝集の最良の方法に結びつく場合も考えられる。
しかしながら、留意すべきことは、本方法が本発明のスパイダーシルクタンパク質に限定されるものではなく、天然に存在するものであれ合成のものであれ利用可能な他のすべてのスパイダーシルクタンパク質にも適用可能であることである。
該方法は、工程a)で準備された、または工程c)で回収された前記タンパク質を、適切な方法によってフィラメント、ナノ繊維および糸へと紡糸する工程を含むことがさらに好ましい。
この目的のために、当分野で周知の紡糸方法を使用可能である。例えば、スパイダーシルクタンパク質のドープ溶液を出糸突起(spinneret)から押し出させてバイオフィラメントを形成する。得られるバイオフィラメントは延伸または伸長させてもよい。分子の結晶構造およびアモルファス(不定形)構造がいずれもバイオフィラメント中に存在する場合は常に、延伸または伸長により、分子を配向させるのに十分なせん断応力が分子に加わり、分子をフィラメントの壁に対して一層平行にし、かつバイオフィラメントの引張強さおよび靭性を高めることになる。
該ドープ溶液は、1種類以上のクモ類由来の本発明の組換えシルクタンパク質および/または天然型シルクタンパク質、あるいはシルクを生産する別の属由来のシルクタンパク質、例えばクモ類およびカイコ(B.mori)由来のシルクタンパク質混合物を含みうる。最も好ましい実施形態では、シルクタンパク質はアメリカジョロウグモ(N.clavipes)またはニワオニグモ(A.diadematus)由来の牽引糸シルクおよび/または鞭毛状シルク、特にタンパク質MaSpI、MaSpII、ADF−3、ADF−4およびFlagである。代替実施形態では、ドープ溶液は、シルクタンパク質および1つ以上の合成ポリマーまたは天然もしくは合成のバイオフィラメントタンパク質の混合物を含んでいる。
好ましくは、ドープ溶液は、少なくとも1%、5%、10%、15%(重量/容量(w/v))のシルクタンパク質である。より好ましくは、ドープ溶液は、20%、25%、30%、35%、40%、45%または50%(w/v)のシルクタンパク質である。好ましい実施形態では、ドープ溶液は本質的に純粋なスパイダーシルクタンパク質を含んでいる。好ましい実施形態では、ドープ液のpHはおよそ6.9である。
「ドープ溶液」とは、シルクタンパク質を含み、かつバイオフィラメントの形成またはフィルム成型のために押し出し可能な任意の液体混合物を意味する。ドープ溶液は、タンパク質モノマーに加えて、より高次の凝集物、例えば、二量体、三量体および四量体を含んでいてもよい。通常、ドープ溶液は、pH4.0−12.0の水溶液であって40%未満の有機物またはカオトロピック剤(w/v)を有する。好ましくは、ドープ溶液は有機溶媒またはカオトロピック剤を含まず、溶液の保存性、安定性または加工性を増強するための添加剤を含んでいてもよい。
「フィラメント」とは、ナノスケールの微視的な長さから1マイルまたそれ以上の長さまで、長さが不定の繊維を意味する。シルクは天然のフィラメントであり、一方、例としてナイロン(商標)およびポリエステルは合成フィラメントである。
スパイダーシルクタンパク質の繊維を紡糸する方法に関するさらに詳しい情報は、本願に援用される2003年7月24日公開の国際公開公報第03060099号パンフレット(カラツァス(Karatzas)ら)に見出すことができる。
さらに、本発明のスパイダーシルクタンパク質はフィルムなどとして、つまり、紡糸工程の不要なスパイダーシルクタンパク質生成物として提供されてもよい。
フィルムを製造する手法のより詳細な説明については、実施例の章で言及する。
さらに、本発明の方法は、工程a)および/またはc)において精製法を含むことが好ましく、該精製法は、発現させたスパイダーシルクタンパク質を60〜90℃、好ましくは70〜80℃で加熱変性させた後に、600〜1400mM、好ましくは800〜1200mMの硫酸アンモニウムを添加する工程を含む。
既に上記に説明したように、本明細書に定義されるタンパク質/糸は、バイオテクノロジーおよび/または医学の分野において、好ましくは創傷閉鎖システムもしくは創傷被覆システム、神経外科もしくは眼科手術で使用される縫合材料の製造に使用されうる。
さらに、タンパク質/糸は、置換材料、好ましくは人工軟骨または腱材料の製造に使用されることが好ましい。
さらに、本発明の糸/繊維は、医療用粘着ストリップ、皮膚移植材、置換靭帯および外科用メッシュなどの医療用デバイスの製造において;ならびに服地、防弾チョッキのライニング、包装用織物、バッグもしくは財布用ストラップ、ケーブル、ロープ、粘着性接着材、非粘着性接着材、ストラップ用材料、自動車のカバーおよび部分、航空機建造資材、全天候型素材、可撓性仕切材、スポーツ用品のような広範囲の商工業製品において;そして、実際、高い引張強さと弾性が所望の特性である繊維または織物のほとんどあらゆる用途において、使用することが可能である。その他の形態、例えばドライスプレー・コーティング、ビーズ状粒子における該安定な繊維生成物の適用性および用途、または他の組成物を含んだ混合物での使用も本発明によって企図される。
明らかなのは、本発明のスパイダーシルクタンパク質の最も好ましい適用が、服地(織物)および皮革、自動車のカバーおよび部品、航空機建造材料の製造および加工、ならびに紙の製造および加工にあることである。
本発明の組換えスパイダーシルクタンパク質をセルロースおよびケラチンおよびコラーゲンの製品に加えてもよく、したがって、本発明は、セルロース、ケラチンおよび/またはコラーゲンと本発明のスパイダーシルクタンパク質とを含んでなる紙またはスキンケアおよびヘアケア製品にも関する。本発明のタンパク質が組み込まれた紙およびスキンケア
およびヘアケア製品は、改善された特性、特に引張強さまたは引裂き強さの改善を示す。
さらに、本発明の組換えスパイダーシルクタンパク質は、織物および皮革製品のコーティングとして使用されることによって、コーティングを施した製品に安定性および耐久性を与えうる。該シルクタンパク質は、特に皮革製品のコーティングへの適用可能性を示すが、この場合、タンニングおよびタンニングの環境への悪影響を回避または少なくとも低減することが可能であるからである。
別途定義されない限り、本明細書において使用される技術用語および科学用語はすべて本発明が関係する分野の当業者が一般に理解するのと同じ意味を有する。本明細書において言及された全ての出版物、特許出願明細書、特許文献、および他の参照文献は、その全体が援用される。矛盾がある場合には、定義を含めて本願明細書に従うものとする。さらに、材料、方法および実施例は単なる例であって、限定されることを意図するものではない。
ここで本発明を、実施例および添付の図面によりさらに説明する。
[実験手順]
材料
化学薬品はメルク社(Merck KGaA)(ドイツ連邦共和国ダルムシュタット(Darmstadt)所在)から入手し、そうでない場合には記載してある。DNAの操作および修飾は、以前に報告されているようにして(19)実施した。制限酵素はニューイングランドバイオラボ(米国マサチューセッツ州ベヴァリー(Beverly)所在)から、リガーゼはプロメガバイオサイエンシズ社(Promega Biosciences Inc.)(米国カリフォルニア州サンルイスオビスポ(San Luis Obispo)所在)から入手した。DNA精製はキアゲン(Qiagen)(ドイツ連邦共和国ヒルデン(Hilden)所在)のキットを使用して実施した。合成オリゴヌクレオチドはエムヴェーゲーバイオテクアーゲー(MWG Biotech AG)(ドイツ連邦共和国エーバースベルク(Ebersberg)所在)から入手した。クローニング工程はすべて、ノバジェン(Novagen)(米国ウィスコンシン州マディソン(Madison)所在)の大腸菌株DHlOBで実施した。
クローニングベクターpAZLの構造
BglIIおよびHindIIIによって生成される粘着末端に相補的な粘着末端を備えたクローニングカセットを、2つの合成オリゴヌクレオチドCC1(GATCGAGGAGGATCCATGGGACGAATTCACGGCTAATGAAAGCTTACTGCAC)(配列番号18)およびCC2(AGCTGTGCAGTAAGCTTTCATTAGCCGTGAATTCGTCCCATGGATCCTCCTC)(配列番号19)をアニーリングすることにより作成した。アニーリングは、50pmol/μl(各々)のオリゴヌクレオチド溶液の温度を0.1℃/秒で95℃から20℃まで低下させることにより遂行した。ミスマッチな二本鎖は、70℃で変性させた後でやはり温度を低下させて20℃とした。20℃‐70℃‐20℃のサイクルを10回繰り返した後に、65℃の変性温度で追加の10サイクルを実施した。得られたクローニングカセットを、BglIIおよびHindIIIで消化したpFastbac1ベクター(インビトロジェン(Invitrogen)、米国カリフォルニア州カールスバード(Carlsbad)所在)とライゲーションした。いずれの制限酵素認識配列もこのクローニング工程で破壊された。得られた新しいクローニングベクターをpAZLと命名した。
pAZLベクター内へのシルクのモジュールおよびNR領域のクローニング
牽引糸シルクタンパク質ADF−3およびADF−4に由来する3つのアミノ酸モジュール(図1E)を細菌のコドン利用を考慮してDNA配列に逆翻訳した。対応する相補的DNAオリゴヌクレオチド、A1(TCCGTACGGCCCAGGTGCTAGCGCCGCAGCGGCAGCGGCTGGTGGCTACGGTCCGGGCTCTGGCCAGCAGGG)(配列番号20)およびA2(CTGCTGGCCAGAGCCCGGACCGTAGCCACCAGCCGCTGCCGCTGCGGCGCTAGCACCTGGGCCGTACGGACC)(配列番号21)、Q1(TCCGGGCCAGCAGGGCCCGGGTCAACAGGGTCCTGGCCAGCAAGGTCCGGGCCAGCAGGG)(配列番号22)およびQ2(CTGCTGGCCCGGACCTTGCTGGCCAGGACCCTGTTGACCCGGGCCCTGCTGGCCCGGACC)(配列番号23)、C1(TTCTAGCGCGGCTGCAGCCGCGGCAGCTGCGTCCGGCCCGGGTGGCTACGGTCCGGAAAACCAGGGTCCATCTGGCCCGGGTGGCTACGGTCCTGGCGGTCCGGG)(配列番号24)およびC2(CGGACCGCCAGGACCGTAGCCACCCGGGCCAGATGGACCCTGGTTTTCCGGACCGTAGCCACCCGGGCCGGACGCAGCTGCCGCGGCTGCAGCCGCGCTAGAACC)(配列番号25)を合成し、上述のようにアニーリングし、BsglおよびBseRIで消化したpAZLベクターとライゲーションした。スパイダーシルク遺伝子adf−3(gi|1263286)およびadf−4(gi|1263288)のNR領域(カナダ国バンクーバーのゴスリン教授(Prof.Gosline)から入手)を、次のプライマー:NR3f(GAAAAACCATGGGTGCGGCTTCTGCAGCTGTATCTG)(配列番号26)、NR3r(GAAAAGAAGCTTTCATTAGCCAGCAAGGGCTTGAGCTACAGATTG)(配列番号27)、NR4f(GAAAAACCATGGGAGCATATGGCCCATCTCCTTC)(配列番号28)およびNR4r(GAAAAGAAGCTTTCATTAGCCTGAAAGAGCTTGGCTAATCATTTG)(配列番号29)を使用してPCRによって増幅した。
Flagの配列については、次のプライマーおよびカセットが使用できる:
PCRプライマー:
FLAG−N−chr−センス:(配列番号43)
5’−GAAAAACCATGGGCGAAAGCAGCGGAGGCGAT−3’
FLAG−N−chr−アンチセンス:(配列番号44)
5’−GAAAAGAAGCTTTCATTAGCCTGGGCTGTATGGTCC−3’
FLAG−C−chr−センス:(配列番号45)
5’−GAAAAACCATGGGTGCTTATTATCCTAGCTCGC−3’
FLAG−C−chr−アンチセンス:(配列番号:46)
5’−GAAAAGAAGCTTTCATTAGCCATAAGCGAACATTCTTCCTAC−3’
カセット作製に使用した反復配列用のオリゴ:
モジュールY−(GPGGX)−ds:(配列番号47)
5’−TCCGGGCGGTGCGGGCCCAGGTGGCTATGGTCCGGGCGGTTCTGGGCCGGGTGGCTACGGTCCTGGCGGTTCCGGCCCGGGTGGCTACGG−3’
モジュールY−(GPGGX)−cs:(配列番号48)
5’−GTAGCCACCCGGGCCGGAACCGCCAGGACCGTAGCCACCCGGCCCAGAACCGCCCGGACCATAGCCACCTGGGCCCGCACCGCCCGGACC−3’
モジュールsp−(スペーサー)−ds:(配列番号49)
5’−TGGCACCACCATCATTGAAGATCTGGACATCACTATTGATGGTGCGGACGGCCCGATCACGATCTCTGAAGAGCTGACCATCGG−3’
モジュールsp−(スペーサー)−cs:(配列番号50)
5’−GATGGTCAGCTCTTCAGAGATCGTGATCGGGCCGTCCGCACCATCAATAGTGATGTCCAGATCTTCAATGATGGTGGTGCCACC−3’
モジュールK−(GPGGAGGPY)−ds:(配列番号51)
5’−TCCGGGCGGTGCTGGCGGTCCGTACGGCCCTGGTGGCGCAGGTGGGCCATATGGTCCGGGCGGTGCGGGCGGTCCGTACGG−3’
モジュールK−(GPGGAGGPY)−cs:(配列番号52)
5’−GTACGGACCGCCCGCACCGCCCGGACCATATGGCCCACCTGCGCCACCAGGGCCGTACGGACCGCCAGCACCGCCCGGACC−3’
モジュールX−(GGX)−ds:(配列番号53)
5’−TGGCGCTGGTGGCGCCGGTGGCGCAGGTGGCTCTGGCGGTGCGGGCGGTTCCGG−3’
モジュールX−(GGX)−Cs:(配列番号54)
5’−GGAACCGCCCGCACCGCCAGAGCCACCTGCGCCACCGGCGCCACCAGCGCCACC−3’
PCR生成物およびpAZLベクターを、NcoIとHindIIIで消化した後でライゲーションした。PCR生成物ならびに合成モジュールのクローニングによりクローニングカセットのスペーサーが置換されたが、その構成要素の配置構成は保持された。より効率的な翻訳のために、NR3およびNR4において、大腸菌ではほとんど翻訳されないコドンAGA(Arg)を、PCR突然変異誘発(79)を使用してCGT(Arg)に変異させた。
合成スパイダーシルク遺伝子の構築
2つの遺伝子断片(例えば単一モジュール、モジュール多量体またはNR領域)の接続は、クローニング戦略の基礎的なステップに相当した。この目的のために、指定の5’末端遺伝子断片を含んでいるpAZLベクターをBsaIおよびBsgIで消化し、3’末端遺伝子断片を含む該ベクターをBseRIおよびBsaIでそれぞれ消化した(図1B)。この適切なプラスミド断片のライゲーションにより、2つの遺伝子断片が接続され、その結果正しい構築物の特定を容易にするpAZLベクターのアンピシリン耐性遺伝子(Ap)が再構成された。
遺伝子の構築については、単一モジュールを最初に接続して反復単位を作製した(図1D+図5)。これらを徐々に多量体化し、任意選択でNR領域と連結した。最後に、合成遺伝子構築物ならびにNR領域をBamHIとHindIIIでpAZLベクターから切り出し、同様に消化した、T7タグ(MASMTGGQQMGR)(配列番号30)コード配列(20)を提供する細菌の発現ベクターpET21a(ノバジェン(Novagen))とライゲーションした。すべての構築物の忠実度はDNA塩基配列決定により確認した。
遺伝子発現
シルクの遺伝子はすべて大腸菌株BLR[DE3](ノバジェン)中で発現させた。細胞をLB培地中37℃で増殖させてOD600=0.5とした。1mMのIPTG(イソプロピル−β−D−チオガラクトシド)で誘導する前に、細胞を、(AQ)12、(AQ
12NR3、(QAQ)および(QAQ)NR3の場合には30℃、ならびにC16、C16NR4、NR3およびNR4の場合は25℃にそれぞれシフトした。あるいは、細胞を複合培地(21)および流加培養技術(22)を使用して発酵槽でOD600=40〜50に増殖させた。この場合も同様に、1mMのIPTGで誘導する前に細胞を25℃または30℃へそれぞれシフトした。(AQ)12、(AQ)12NR3、(QAQ)、(QAQ)NR3、C16およびC16NR4を発現する細胞は誘導の3−4時後にハーベストし、NR3およびNR4を発現する細胞は16時間後にハーベストした。
タンパク質精製
細胞を、20mMのN−(2−(ヒドロキシエチル)ピペラジン−N’−(2−エタンスルホン酸)(HEPES)pH7.5、100mMのNaCl、0.2mg/mlのリゾチーム(シグマ・アルドリッチ(Sigma−Aldrich)(米国ミズーリ州セントルイス所在))を含んでいる5ml/gのバッファーに再懸濁し、40℃で30分間インキュベートした。細胞を、HD/UW2200/KE76超音波破砕機(ドイツ連邦共和国ベルリン所在のバンデリン社(Bandelin))を用いた超音波処理によって溶解し、細胞溶解物を0.1mg/mlのデオキシリボヌクレアーゼI(ドイツ連邦共和国マンハイム所在のロッシュ(Roche))および3mMのMgClとともに4℃で60分間インキュベートして、ゲノムDNAを消化した。不溶性の細胞断片を、50,000×g、4℃で30分間沈殿させた。(AQ)12、(AQ)12NR3、(QAQ)、(QAQ)NR3、C16およびC16NR4を含んでいる溶解物の可溶性大腸菌タンパク質を、80℃で20分間加熱変性して沈殿させ、NR3およびNR4を含んでいる溶解物は70℃で同じ時間加熱した。沈殿したタンパク質を、50,000×gで30分間沈降させて除去した。加熱変性の間可溶性を維持していたシルクタンパク質を、室温で20%硫酸アンモニウム(800mM)((AQ)12、(AQ)12NR3、(QAQ)、(QAQ)NR3、C16およびC16NR4)または30%硫酸アンモニウム(1200mM)(NR3およびNR4)で沈殿させ、10,000×gで10分間遠心分離してハーベストした。(AQ)12、(AQ)12NR3、(QAQ)、(QAQ)NR3、NR3およびNR4のペレットを、沈殿に使用したのと同じ濃度の硫酸アンモニウムを含む溶液ですすぎ、6Mの塩化グアニジン(GdmCl)に溶解した。一方、C16およびC16NR4は8M尿素で洗浄し、6Mのチオシアン酸グアニジン(GdmSCN)に溶解した。全てのタンパク質を10mMのNHHCOに対して透析した。透析中に形成された沈殿を、50,000×gで30分間沈降させて除去し、残った可溶性シルクタンパク質を凍結乾燥した。分析に先立って、凍結乾燥したタンパク質を6MのGdmSCNに溶解してから適切なバッファーに対して透析した。125,000×gで30分間沈降させて凝集物を除去した。タンパク濃度は、光路長1cmのキュベット中で、消光係数計算値(表1)(23)を使用して276nmで測光により決定した。タンパク質の同一性は、硫酸ドデシルナトリウム‐ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE;>20kDaのタンパク質については10%トリス‐グリシンゲル、<20kDaのタンパク質については10〜20%のトリス−トリシンゲル(インビトロジェン(Invitrogen))を実施した後にポリフッ化ビニリデン(PVDF)メンブレン(ミリポア(Millipore、米国マサチューセッツ州ビレリカ(Billerica)))にブロッティングし、一次抗体としてマウス抗T7モノクローナル抗体(ノバジェン、1:10,000)および二次抗体として抗マウスIgGペルオキシダーゼ共役抗体(シグマ・アルドリッチ、1:5,000)を使用して検出することにより確認した。ペルオキシダーゼ活性を、アマシャムバイオサイエンシズ(Amersham Biosciences(米国ニュージャージー州ピスカタウェイ))のECLplus(商標)ウエスタンブロット検出キットを使用して視覚化した。
蛍光
蛍光スペクトルは、FluoroMax(R)分光蛍光計(ジョバンイボン社(Job
in Yvon Inc.)、米国ニュージャージー州エジソン)で記録した。スペクトルは、室温で10mMトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(トリス)/HCl(pH8.0)中でタンパク質濃度100μg/mlとして測定した。積分時間は1秒、ステップサイズは0.5nm、帯域幅はそれぞれ5nm(励起)および5nm(発光)とした。
二次構造分析
遠紫外線円偏光二色性(CD)スペクトルは、温度調節装置を装備したJasco715型分光旋光計(ジャスコインターナショナル株式会社(Jasco International Co.Ltd.)、日本国東京)を使用して得られた。スペクトルはすべて、光路長0.1cmの石英キュベットで、5mMトリス/HCl(pH8.0)中でタンパク質濃度150μg/mlとして20℃で測定した。スキャン速度を20nm/分とし、ステップサイズを0.2nmとし、積分時間を1秒にセットし、帯域幅は1nmとした。4回のスキャンを平均してバッファーで補正した。熱転移は220nmで1℃/分の加熱/冷却変化率として分析した。
溶解度分析
可溶性タンパク質の最大濃度を決定するために、10mMトリス/HCl(pH8.0)中の1mg/ml(=0.1%(w/v))の溶液を、カットオフ分子量10,000Daのポリエーテルスルホンメンブレン(ビバサイエンス・アーゲー(Vivascience AG)、ドイツ連邦共和国ハノーバー)を使用して限外濾過によって濃縮した。タンパク質が沈殿し始めるまで、該溶液から異なる間隔でサンプルを採取した。サンプルを10mMトリス(pH8.0)で希釈して測光分析によりタンパク濃度を決定した。
凝集分析
すべてのサンプルを、10mMトリス/HCl(pH8.0)中の1mg/mlに調節した。シルクタンパク質の凝集に対するイオンの影響を試験するために、塩を加えて終濃度300mMとした。酸性化の影響は、HClを加えて終濃度100mM(pH=1)とすることにより調査した。サンプルはすべて室温で1時間インキュベートした。125,000×gで25分間沈降させることによって、すべてのサンプルからタンパク質沈殿物を取り除き、残った可溶性タンパク質の量を測光分析により決定した。可溶性タンパク質および凝集タンパク質の合計は最初の可溶性タンパク質の量と等しいはずので、最初に用いたタンパク質の量から可溶性タンパク質の量を差し引くことにより、凝集タンパク質の割合(%)を計算することができた。
[結果]
シルク様タンパク質を設計するためのクローニング戦略
遺伝子の一部が細菌中で効率的に翻訳されないコドンを含んでいるので、細菌宿主において天然型のスパイダーシルク遺伝子を発現させるのは非能率的である(24)。さらに、PCRによる遺伝子操作および遺伝子増幅は、シルクの反復性により困難である。スパイダーシルクタンパク質の特性を調査するために、対応する発現用宿主に適したコドン利用の合成DNAモジュールを使用するクローニング戦略が用いられてきた。スパイダーシルクの反復領域に似たタンパク質をコードする合成遺伝子が得られている(25−28)。重要なことには、これらのタンパク質の設計はいずれも、すべての牽引糸シルクに見出されるカルボキシル末端NR領域を含んでいなかった。
本発明者らは、様々な合成DNAモジュールならびに天然型遺伝子断片を制御して組み合せることを可能にする、継ぎ目のない(シームレスの)クローニング戦略(29)を開発した。合成遺伝子のプレースホルダーとして作用するスペーサーと、制限酵素BseRIおよびBsgIの認識部位とを備えたクローニングカセットを含むクローニングベクタ
ーpAZLを設計した(図1A)。これらの酵素の認識部位および切断部位が8ヌクレオチド(BseRI)あるいは12ヌクレオチド(BsgI)離れているので、翻訳開始コドンおよび停止コドンならびに組み立てた遺伝子の切り出しに必要な追加の制限酵素切断部位を、前記スペーサーに近接して配置することが可能であった。
最初のクローニング工程で、pAZLのスペーサー領域を、合成したDNAモジュール(モジュールの設計については以下を参照のこと)で置き替えた。続いて、部位特異的な方法(材料および方法および図1Bを参照)で2つのモジュールを連結することができた。BsgIとBseRIによる切断で生じた相補的な一本鎖の3’延長部分であるGG(センス鎖)およびCC(アンチセンス鎖)を、2つのモジュールの接続のために使用した(図1C)。したがって、2つのモジュールを連結するのに必要なDNA塩基配列は、グリシン・コドン(GGX)に限定された。グリシンは、スパイダーシルクタンパク質において元来豊富であり(〜30%)、したがって、翻訳後に天然型のアミノ酸配列と一致する制限酵素認識部位を探索する必要なくモジュールを設計することが可能であった。クローニングカセットの構成要素の配置構成はクローニングおよび多量体化の際に変化しないので、様々なモジュールの組合せを構築することが可能であった(図1D)。
合成スパイダーシルクの設計、合成および精製
本発明者らは、合成構築物の鋳型としてニワオニグモAraneus diadematus由来の牽引糸シルクタンパク質ADF−3およびADF−4(3)を選択した。部分的に同定されたADF−3の一次構造は、大部分は反復単位で構成されており、該反復単位はいずれもポリアラニンモチーフを含む共通配列を含んでなる。個々の反復単位の長さはモチーフGPGQQの数を変えることにより決定される。ADF−3の反復配列を模倣するために、本発明者らは2つのモジュールを設計した。Aと名付けた1つのモジュールは、ポリアラニンを含む共通配列に由来するものとした(図1E)。別のモジュールはQと名付け、GPGQQモチーフが4回繰り返したものを含めた。異なる長さの反復単位を研究するために、1つあるいは2つのQモジュールを1つのAモジュールと組み合わせて(AQ)または(QAQ)を得た。これらの反復単位を多量体化して、反復タンパク質(repタンパク質)(AQ)12および(QAQ)をコードする合成遺伝子を生成させた。
ADF−4の反復部分は一般に、変異のごく少ない保存的な単一反復単位で構成されている。本発明者らはこれらの変異を組み合わせて、1つの共通モジュールを設計してCと名付け(図1E)、該モジュールを多量体化してrepタンパク質C16を得た。すべての合成遺伝子におけるモジュールの繰り返し数を、同程度の分子量(〜50kDa)のタンパク質をコードするように選択した。
ADF−3およびADF−4はいずれもそのカルボキシル末端に、それぞれ124および109アミノ酸からなる相同的なNR領域を示す。これらの領域をコードする遺伝子配列をPCRによって増幅し、細菌での発現には問題のあるコドンを、部位特異的突然変異誘発(材料と方法を参照)によってより適切なコドンに変更した。したがって、すべての使用した合成遺伝子を適切な天然型NR領域と結合させて、repNRタンパク質(AQ)12NR3、(QAQ)NR3およびC16NR4をコードする遺伝子を生成させることが可能であった。さらに、NR3およびNR4を単独で発現させることも可能であった。
細菌で合成した後、シルクタンパク質を加熱工程に続いて硫安沈澱することによって精製した。タンパク質の同一性は、イムノブロッティングにより、すべてのシルクタンパク質のアミノ末端に結合しているT7ペプチドタグ配列に対する抗体を使用して確認した(図2A)。すべてのrepタンパク質およびすべてのrepNRタンパク質が同程度の分
子量を有していた(表1)が、SDS−PAGEに供すると異なる移動速度を示した。この結果は、アミノ酸組成の違いに起因する硫酸ドデシルの該タンパク質への結合の違いにより、タンパク質の総電荷の変化がもたらされることが原因かもしれない。イムノブロッティングにより、完全長タンパク質に加えて、repNRタンパク質調製物中の分子量の低い微量のタンパク質が見出された。これらのタンパク質に抗T7タグ抗体が結合したことから、該タンパク質はカルボキシル末端部分が欠損しているシルクタンパク質であることが確認された。各精製タンパク質をSDS−PAGEおよび銀染色法によって分析したところ、すべてのタンパク質調製物において別のタンパク質は検出されなかった(図2B)。タンパク質純度を、蛍光発光の測定によりさらに測定した。波長280nmの入射光はチロシンとトリプトファンの励起および蛍光発光をもたらし、一方295nmの光は専らトリプトファンを励起する。設計したスパイダーシルクタンパク質はいずれもトリプトファンを含まないので、295nmで励起した際の蛍光発光は、平均1.5%のトリプトファンを含んでいる(30)大腸菌タンパク質の混入を示すことになる。すべてのシルクタンパク質調製物の蛍光測定により、シルクタンパク質中に豊富に存在するチロシンのスペクトルと同種の発光スペクトルが示された。対照的に、トリプトファンの蛍光は検出されず、該タンパク質調製物が高純度であることが示された(データをC16NR4について図2Bに典型的に示す)。
エルレンマイヤーフラスコにおける合成シルクタンパク質の細菌による生産で、すべての構築物について同様のタンパク質を生成させた。個々の調製物の収率は、培地1リットル当たり精製タンパク質10〜30mgの範囲であった。タンパク質合成のスケールアップの可能性を調査するために、細胞の発酵を用いた。こうして、(QAQ)NR3およびC16NR4の収率をそれぞれ140mg/lおよび360mg/lに増大させることができた。
repNRタンパク質は、あまり構造化していない反復性領域と高度に構造化した非反復ドメインとで構成される
二次構造をCD分光法によって調査した。repタンパク質は、本質的に構造化しないタンパク質に典型的なスペクトルを示した。対照的に、NRタンパク質は高い二次構造含有率を示すスペクトルを示した。これらの領域は、独立にフォールディングするタンパク質ドメインを表わすように見える。repNRタンパク質のスペクトルは、repNRタンパク質中での占有率によって重み付けされたrepスペクトルおよびNRスペクトルの組合せにほぼ相当した。相互に連結された際のrep領域またはNRドメイン内の小さな構造変化は排除できないが、repNRタンパク質は、主としてランダムコイル構造を示す領域およびカルボキシル末端の折りたたまれた(フォールディングした)タンパク質ドメインで構成されている。特筆すべきことに、repNRタンパク質のスペクトルは、クモ(アメリカジョロウグモ(Nephila clavipes))から直接抽出された大瓶状(major ampullate)シルクドープから得られたCDスペクトルに類似していた(9)。
シルクタンパク質は熱変性および化学変性の後でリフォールディングする
加熱の際にCD分光法によって構造変化を調査すると、20℃〜90℃ではrepタンパク質について協同的な熱転移は観察されなかった。協同的な熱転移は本質的にアンフォールディングしている他のタンパク質についても観察されている効果である(31;32)(図3)。repNRタンパク質は少なくとも部分的に構造化しているので、高温では該構造化領域の熱によるアンフォールディングが検知できるはずである。結果的に、協同的な熱転移が観察された。熱転移の中間点は、それぞれ67℃((QAQ)NR3)、66℃((AQ)12NR3)および72℃(C16NR4)であった(図3Bおよび表1)。さらに、熱転移はすべて完全に可逆的であった。加熱時の構造変化の可逆性から、タンパク質精製中に使用された加熱工程の後で可溶性のシルクタンパク質が高回収率で得
られたことが説明付けられた。トリスは、分光特性が良いことやシルクタンパク質の凝集を促進しにくいことから、CD分光法によって測定した全ての溶液の緩衝剤として使用した。トリス緩衝液の強い温度依存性により、サンプルのpHは20℃から90℃まで加熱する際にpH8からpH6へと変化することが予想された(19)。しかしながら、温度非依存的なpK値を示すpH8のリン酸緩衝液中のシルクタンパク質の熱転移は、恐らくタンパク質凝集が原因で完全に可逆的ではなかったが(以下を参照)、等しい中間点温度(データは示さない)を示した。このことから、シルクタンパク質の熱転移が、熱により引き起こされたトリス緩衝液のpH変化による影響を受けないことが示された。
二次構造に対する化学的な変性および再生の影響について、6MのGuaHClに対する透析およびトリス緩衝液に対する透析による再生の後で、トリス緩衝液中でrepNRタンパク質の円偏光二色性を測定することにより調査した。初期およびリフォールディングしたタンパク質のスペクトルが同一であることから、化学的変性が可逆的であることが示された(データは示さない)。
シルクタンパク質の溶解度は該タンパク質の反復配列によって決まる
ドープ中で高いタンパク濃度を獲得するためには、シルクタンパク質は高度に可溶性でなければならない。本発明者らは、溶解度を決定する一次構造の構成要素を特定するために、repタンパク質およびrepNRタンパク質が可溶性を維持する最大濃度を試験した。モジュールAおよびQを含む全てのタンパク質が、NRドメインの存在とは無関係に、眼に見える凝集物の形成を伴わずに限外濾過によって30%(w/v)超まで濃縮することが可能であった。対照的に、モジュールCを含むタンパク質は、それぞれ8%(w/v)(C16)および9%(w/v)(C16NR4)までしか濃縮できなかった(表1)。いずれのタンパク質もさらに濃縮するとゲル様の固体を形成した(データは示さない)。したがって、シルクタンパク質の溶解度は、その反復配列によって専ら決定され、NRドメインによる影響は受けなかった。
カリウムは、合成シルクタンパク質の凝集を、その一次構造に関わらず促進しない
pH、カリウムやリン酸のようなイオン、および機械的ストレスが、天然のシルクのアセンブリに関与する。ここで、本発明者らは、これらの要因が合成シルクタンパク質のアセンブリをどのように促進するか調査したいと考えた。液晶ドープに見出されるような関連タンパク質の予備的配向を要する天然のアセンブリ過程(33)を真似ることはできないので、本発明者らは配向秩序を示さないタンパク質溶液から始めて凝集分析を行なった。試験したrepタンパク質、repNRタンパク質およびNRタンパク質はいずれも緩衝液中でインキュベートしても有意な凝集を示さず(<5%)、全てのタンパク質が試験条件では本質的に可溶性であることが示された(図4)。イオンの添加がイオン強度の増大による凝集を引き起こすかどうか調べるために、タンパク質を塩化ナトリウムとともにインキュベートした。しかしながら、凝集は観察されなかった。ナトリウムとは対照的に、カリウムはシルクの凝集を特異的に促進することが以前に報告されている(34)。しかし、塩化カリウムも、合成シルクタンパク質の溶解度に対する影響を示さなかった(図4)。
酸性化およびリン酸塩の添加は、repタンパク質の一次構造に依存して該タンパク質の凝集を開始させる
スパイダーシルクのアセンブリの際の酸性化の正確な機能はまだ決定されていない。しかしながら、負に荷電した基(例えばホスホリル基)がプロトン化されてスパイダーシルクタンパク質の総電荷および斥力が低下することはありそうに見える。合成シルクタンパク質が紡糸プロセス中に観察されたpH変化の範囲内のpK値を示す化学基を含んでいなかったので、本発明者らは末端および側鎖のカルボキシル基すべてをプロトン化することによりこの効果を模倣することを目指した。末端カルボキシル基しかない(QAQ)
および(AQ)12は、凝集を示さない(<5%)かまたはpH1で弱い凝集(18%)を示した。興味深いことに、C16の16個のグルタミン酸残基のプロトン化もごく弱い凝集(8%)を引き起こした(図4)。紡糸プロセスの際にドープに加えられると報告されているリン酸塩は、(QAQ)の凝集は引き起こさず、C16の弱い沈殿(12%)を引き起こした。対照的に、(AQ)12は、リン酸カリウム処理の後で凝集しやすい傾向の増大(47%)を示した。同様の結果がリン酸ナトリウムを用いて得られ、この効果がリン酸イオンによって特異的に引き起こされることが示された(データは示さない)。
NRドメインは、凝集を促進する要因に対する反応を増幅する
NRドメインの影響を調べるために、低pHおよびリン酸塩処理時のrepNRタンパク質ならびにNRタンパク質の凝集について試験した。(QAQ)NR3および(AQ)12NR3、ならびにNR3の酸性化により、弱い凝集(10%、15%および13%)が引き起こされたが、その凝集は対応するrepタンパク質が示した範囲内にあった。興味深いことに、NR4ドメインはpH1で沈殿しなかったが(0%)、C16NR4はpH1で強い凝集を示した(70%)。したがって、反復性のC16と、酸性化では有意に凝集しなかったNR4ドメインとの組合せが、この凝集促進要因に対する感度の高いタンパク質をもたらした。同様の結果はリン酸塩の添加についても得られた。NR3もNR4もリン酸塩の存在下で凝集を示さなかった(1%および0%)が、NRドメインを反復領域に付加することにより、repNRタンパク質の凝集はrepタンパク質に比べて増大した((QAQ)NR3:57%、(AQ)12NR3:81%、C16NR4:80%)。
継ぎ目のない、制御されたDNAモジュールのアセンブリを可能にするクローニング戦略を使用して、スパイダーシルク様タンパク質をコードする合成遺伝子が構築された。タンパク質の設計により、反復単位と天然型NR領域との様々な組合せを生産して、そのような単一の一次構造要素の特性を系統的に試験した。CD分光法による構造分析から、反復領域が可溶状態ではほとんど非構造化しており、他の本質的にアンフォールディングしたタンパク質に共通する特性(31;32)を示すことが明らかとなった。同じ構造状態が、反復タンパク質配列を特徴とする大瓶状部含有物の大部分について提示されている(10)。対照的に、NR領域は、熱変性ならびにカオトロピック剤処理の後でもその構造をとる、独立にフォールディングするタンパク質ドメインに相当することが分かった。NR領域は反復領域と比較して相対的に大きさが小さいため、repNRにおいて、構造全体の特性に対する影響は小さかった。
数百kDaの反復領域を示す天然のスパイダーシルクでは、NR領域の構造上の寄与はさらに小さいと予想することが可能であり、このことは大瓶状部含有物の研究においてNR領域の存在の証明がないことを説明するものである。repNRタンパク質の熱変性および化学変性の可逆性、ならびに本研究で提示する天然シルクドープ液から得られたCDデータの類似性から、精製および試料調製の際に熱やカオトロピック剤で処理した後でも、水溶液中の調べた全てのスパイダーシルク構成成分がドープ液内の天然シルクタンパク質に匹敵する構造状態にあったと仮定することが可能である。
ウベルスキー(Uversky)らによれば、タンパク質の本質的なアンフォールディングは該タンパク質の総電荷および平均的疎水性親水性指標に基づいて予測することが可能である。タンパク質の総電荷は、「境界の」疎水性親水性指標を計算するために使用される。タンパク質の平均的疎水性親水性指標が「境界」値未満である場合、該タンパク質は本質的にアンフォールディングすると予測される(35;36)。提示した結果に従えば、反復配列(QAQ)および(AQ)12は本質的にアンフォールディングしていると予測される(表1)。タンパク質の本質的なアンフォールディングとは、周囲の溶剤とアミノ酸残基との相互作用が、同じもしくは他のポリペプチド鎖のアミノ酸との相互作用
よりも有利であることを意味する。従って、(QAQ)および(AQ)12は高濃度でも可溶である。これに対し、C16は、境界値よりわずかに高い疎水性親水性指標を示す。本質的にアンフォールディングしたタンパク質の特性をさらに示す一方、ポリペプチド鎖間の相互作用が高濃度では一層有利となり、タンパク質の凝集をもたらし、結果として(QAQ)および(AQ)12と比較してより低い溶解度となる(表1)。
反復配列はスパイダーシルクタンパク質の中で大部分を構成するので、反復配列が該タンパク質の特性の多くを決定すると思われる。従って、repNRタンパク質の溶解度は、repタンパク質と著しくは異ならない。(QAQ)および(AQ)12の溶解度および計算上の疎水性親水性指標は、天然型のADF−3の値とよく相関する(表1)。C16およびADF−4はいずれも比較的低い溶解度を示すが、C16はADF−4のような本質的な高度の不溶性は共有しない。この違いは、ADF−4がC16に比べて疎水性親水性指標が高く、総電荷が低いことにより説明することが可能である。
反復領域とは対照的に、NRドメインはスパイダーシルクタンパク質のごく一部分に相当する。NRドメインはいずれもαへリックスに富んだ構造を示す。ADF−3およびADF−4のNRドメイン間の高い類似性(類似性81%および同一性67%)から、両方とも関連する機能を果たすと仮定することができる。生体内でシルクタンパク質のアセンブリを引き起こすことが知られている要因で処理してシルクタンパク質の凝集について調べると、NRドメインの機能に関するさらに詳しい情報が得られた。シルクタンパク質のカルボキシル基のプロトン化によって陰性荷電を低減すると、Cモジュールを含むタンパク質に主として影響すると予想された。従って、モジュールAおよびQで構成された、アスパラギン酸またはグルタミン酸を含んでいないタンパク質は、弱い凝集しか示さなかった。C16は、その16個の陰性荷電を中和した後でもほとんど可溶のままだった。驚くべきことに、単独では酸性化に対して何ら反応を示さなかったNR4ドメインと、弱い凝集を示すC16とを組み合わせると、プロトン化に対する感度の高いタンパク質となった。したがって、反復領域の電荷の低減およびNRドメインの存在が効率的な凝集に必要である。同様の結果は、リン酸塩をタンパク質溶液に加えると得られた。他のリオトロピック・イオンのように、リン酸塩は、水の表面張力を増加させて疎水的相互作用を促進することが知られている(37)。スパイダーシルクタンパク質の場合には、リン酸塩の添加により、疎水性のポリアラニンモチーフ間の相互作用が生じ、その結果タンパク質の凝集を引き起こすようである。従って、(AQ)12の凝集は、(AQ)12より3分の1だけポリアラニンモチーフが少ない(QAQ)よりも高かった。しかしながら、ポリアラニンモチーフが最も長く最も数の多いC16は、リン酸塩で処理しても最大の凝集を示さなかった。この予想外の結果についての可能な説明としては、負に荷電したグルタミン酸側鎖およびリン酸イオンの斥力により、周囲の溶媒から排斥され、かつリオトロピックな作用が弱まることが考えられる。両方のNRドメインがリン酸塩の添加に応答したとは限らないが、repタンパク質へのNRドメインの付加により、リン酸塩に対する感度が大きく増大した。提示したデータは最終的な結論を引き出すのには十分ではないが、凝集促進要因に対する感度の非特異的なエンハンサーとしてNRドメインが機能することはありそうである。効率的な凝集に関して、NRドメインの存在は、反復領域がこれらの要因に応答する能力と同じくらい重要である。
この増強のメカニズムには、シルクタンパク質のオリゴマー状態の変化が関与している可能性がある。NRドメインは、ジスルフィドで架橋された二量体を形成することが見出されている(38)。さらにオリゴマー化すると、分子間相互作用の形成を促進する溶媒条件によって支援された凝集の開始に必要な、ポリペプチド配列の局所濃度の増大に結びつく可能性が考えられる。
合成反復配列を天然型のNR領域と組み合わせる本発明のタンパク質工学的手法は、天
然型のシルクタンパク質に非常によく似ているタンパク質を高収率で生産することが可能であることを明らかにするものである。容易にスケールアップすることが可能な、細菌の発現系ならびに簡単で安値な精製工程により、スパイダーシルク様タンパク質を資金効率良く工業規模生産するための基礎が提供される。本研究に基づいて、スパイダーシルクのアセンブリの分子メカニズムがさらに研究され、組換えタンパク質からシルク糸を人工的に紡糸し、バイオテクノロジーおよび医学のための新素材を獲得するのに必要な知見を得ることができよう。
スパイダーシルク由来タンパク質のアセンブリ
次の実験は、スパイダーシルク配列ADF−3(配列番号1)またはADF−4(配列番号2)に由来するタンパク質をアセンブリさせて形態学的に別個の形態にすることが可能であることを実証するために行なわれた。タンパク質(AQ)24NR3およびC16NR4を、Biochemistry 2004年、第43巻、pp.13604−11362に記述されているように、構築し、生産し、水溶液に調製した。別途記載のないかぎり、タンパク質溶液には10mMトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(トリス)pH8.0が含まれていた。
1.球体
0.2%(w/v)のC16溶液に0.8Mの硫酸アンモニウムを加えることにより、直径0.5〜2μmのタンパク質球体(図7a)が生成された。
2.ナノ繊維
1%(w/v)のC16NR4溶液を室温で2週間インキュベートすることにより、直径0.7〜4nmのナノ繊維(図7b)が形成された。
3.ミクロフィブリル
ミクロフィブリルの形成については、5〜10μlの25%(w/v)(AQ)24NR3溶液を、0.5Mのリン酸カリウムpH8.0にゆっくり注入し、タンパク質溶液の安定な液滴を形成した。1分間のインキュベーションの後、このタンパク質滴を溶液からピンセットで取り出した。空気中でさらに1分間インキュベーションした後、別のピンセットを使用して、およそ2cm/秒の速度でタンパク質滴からタンパク質原繊維を取り出すことができた。この原繊維は、直径4μmの円形の断面を示した(図7c、d)。
4.発泡体
タンパク質の発泡体(図7e、f)は、2.5mMのペルオキソ二硫酸アンモニウム(APS)、100μMのトリス(2,2’−ビピリジル)ジクロロルテニウム(II)(Rubpy)および10%(w/v)の(AQ)24NR3または2%(w/v)のC16NR4を含んでいる溶液から生成された。該タンパク質溶液を、空気を用いて発泡させた。得られた発泡体構造を安定させるために、タングステンランプの可視光に1分間曝露してタンパク質を架橋させた(プロトコール:PNAS、1999年、第96巻、pp.6020−6024)。続いて発泡体を95℃で乾燥させた。
5.ゲル
濃度1%(w/v)のC16NR4ナノ繊維は、撹拌または剪断力によって容易に崩壊しうるゲル様の外観を示した。該ゲルの機械的性質を改善するために、APSおよびRubpyをゲル中に拡散させて、最終濃度10mM APSおよび100μM Rubpyとした。光により架橋を誘導した後(第4節を参照)、寸法の安定したゲルを得ることができた(図7g)。
6.フィルム
6.1 スパイダーシルクタンパク質の可溶状態
フィルムを成型するために、本発明者らは、ニワオニグモAraneus diadematus由来の牽引糸シルクタンパク質ADF−3およびADF−4に由来する2つの合成シルクタンパク質、(AQ)24NR3およびC16(さらなる説明については上記参照のこと)を使用した。本発明者らは、ADF−3およびADF−4ならびにその誘導体が溶解度およびアセンブリに関して著しく異なる挙動を示すという過去の観察に基づいて上記異なる2つのタンパク質を選択した。いずれのタンパク質の水溶液も、凍結乾燥されたタンパク質を6Mのチオシアン酸グアニジンに溶解した後、5mMリン酸カリウム(pH8.0)のような低塩緩衝液に対し透析して塩を除くことによって調製することができた。凍結乾燥されたタンパク質をHFIPに直接溶解することもできた。タンパク質溶液の円偏光二色性(CD)の測定により、二次構造に対する2つの溶媒の影響が異なることが明らかとなった。水溶液中では、いずれのタンパク質も、主としてランダムコイル状のタンパク質を示す波長200nm未満での単一の極小を備えたCDスペクトルを示した(図8)。対照的に、HFIP中の両タンパク質のスペクトルは、201〜202nmで1つの極小、および220nmで別の極小((AQ)24NR3)またはショルダー(C16)を示したが、このことはα−らせん含量の増大を示すものである(図8)。
6.2 フィルム形成
フィルムは、2%(w/v)のタンパク質を含んでいるHFIP溶液からポリスチレン表面上(またはCD測定用石英ガラス上)で成型した。溶媒を蒸発させた後、(AQ)24NR3およびC16はいずれも表面から容易に剥離しうる透明フィルムを形成した(図9および非表示データ)。溶媒が完全に蒸発し、タンパク質フィルムの密度がクモの牽引糸シルクについて報告されている値1.3g/cmと同一であると仮定すると、フィルムの厚さは0.5〜1.5μmと算出された。いずれかのタンパク質で作製した鋳放しの(調製したての)フィルムは、水と接触させると溶解した。水に不溶であることがタンパク質フィルムのほとんどの用途についての前提条件であるので、本発明者らはフィルムを不溶性にするための加工方法を捜した。リン酸カリウムは、使用した該シルクタンパク質の凝集および化学的に安定な構造の形成を引き起こすことがわかっている。従って、1Mのリン酸カリウムで鋳放しフィルムを加工(インキュベート)した結果、フィルムは水に不溶な状態へと変換した。
6.3 二次構造
タンパク質フィルムの構造上の特性を調べるために、その二次構造をCD分光法によって調査した。鋳放しフィルムは、208nmおよび220nmに2つの極小を伴うスペクトルを示したが、これはα−らせん含量が高いことを示すものである(図10)。1Mのリン酸カリウムで処理した後、フィルムはβシートに富む構造に典型的な218nmで単一の極小を伴うスペクトルを示した。したがって、水溶性から水不溶性への移行は、タンパク質の二次構造がα−らせんからβシートへ変換するのと並行していた。
6.4 化学的安定性
化学的安定性を試験するために、フィルムを8M尿素、6M塩酸グアニジンおよび6Mチオシアン酸グアニジンに曝露した(表2)。両タンパク質の鋳放しフィルムならびに(AQ)24NR3の加工フィルムは、これらの変性剤に可溶であった。これに対し、C16の加工フィルムはチオシアン酸グアニジンにしか溶解できなかった。C16フィルムのこの著しい化学的安定性は、組換え生産してアセンブリさせたADF−4および天然牽引糸シルクの化学的安定性と同じである。前記の研究は、アセンブリ構造のアセンブリ特性および安定性をシルクタンパク質のアミノ酸配列と直接関連付けるものであった。したがって、スパイダーシルク・フィルムの特性は、対応するシルク遺伝子の操作によってシルクタンパク質の一次構造を変えることにより直接改良することが可能であると結論付けることができる。
6.5 フィルムの改良
タンパク質フィルムの用途の多くは、フィルム表面上に特定の官能性が存在することを必要とする。本発明者らのスパイダーシルクタンパク質フィルムを、有機小分子ならびにタンパク質などの生体高分子で修飾することが可能であることを実証するために、発色体フルオレセインおよびβ−ガラクトシダーゼ酵素を加工C16フィルムに化学的にカップリングさせた。カップリングは、表面に露出しているC16のカルボキシル基を、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)を使用して活性化することにより達成された(反応の詳細については、以降に示す補足資料を参照のこと)。その後、フィルムをエチレンジアミンとともにインキュベートしてアミドを形成させた。続いて、残存しているエチレンジアミンの遊離アミノ基を、フルオレセインイソチオシアネートとカップリングして、安定なチオ尿素誘導体の形成を介してフルオレセインと効率的に共有結合させた(図11A)。同様に、β−ガラクトシダーゼをEDCで活性化したC16フィルムとともにインキュベートして、C16のカルボキシル基と、β−ガラクトシダーゼ表面のアクセス可能な(例えばリジン残基からの)第一アミンとの間のアミド結合を形成させた。この修飾フィルムを繰り返し洗浄した後、基質として5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−ガラクトピラノシド(X−Gal)を使用して、β−ガラクトシダーゼ活性を検出することができた(図11B)。
6.6 結論
本明細書において、合成スパイダーシルクタンパク質からタンパク質フィルムが得られることを実証することができた。最初は水溶性であったフィルムは、リン酸カリウムで処理することにより、多くの用途についての主たる必要条件である水への不溶性を獲得することが可能である。2つの異なる合成スパイダーシルクタンパク質から作製されたフィルムの化学的安定性の比較から、フィルムの特性はタンパク質の一次構造に基づいていることが示唆される。したがって、特定の性質を示すフィルムを形成するシルクタンパク質を生成させることが可能であろう。様々な機能性分子をフィルム表面に共有結合させることが可能であるので、今後は種々様々な技術的用途または医学的用途を検討することが可能である。
6.7 補足資料および結果
タンパク質溶液の調製
すでに記述したようにしてタンパク質の生産および精製を実施した。(AQ)24NR3およびC16の水溶液を得るために、凍結乾燥されたタンパク質を、6Mのチオシアン酸グアニジンに溶解して濃度10mg/mlとし、続いて5mMリン酸カリウム(pH8.0)に対して透析した。15,000×gで10分間沈降させて凝集物を除去した。タンパク濃度は、光路長1cmのキュベット中276nmでの測光分析により、(AQ)24NR3については73950のM−1cm−1およびC16については46400M−1cm−1の理論上の消光係数を使用して決定した。あるいは、凍結乾燥されたシルクタンパク質を、ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)に直接溶解した。
二次構造分析
遠紫外線円偏光二色性(CD)スペクトルを、Jasco 715型分光旋光計(Jascoインターナショナル株式会社(日本国東京))を使用して得た。可溶性タンパク質のスペクトルは、5mMリン酸カリウム(pH8.0)中またはHFlP中でタンパク濃度200μg/mlとして、光路長0.1cmの石英キュベットで20℃にて測定した。フィルムの測定については、2mg/mlのHFIP中タンパク質溶液100μlを、4cmの平坦な石英グラス上に広げ、CD測定の前に空気乾燥させた。走査速度を20nm/分、ステップサイズを0.2nmとし、積分時間は1秒にセットし、帯域幅は1nmとした。4回のスキャンを平均した。
フィルムの修飾
1.C16フィルム表面へのフルオレセインのカップリング
HFIP中の20mg/mlのC16を、24ウェルプレートの底に1ウェルあたり15μl塗り拡げることによってフィルムを調製した。HFIPを蒸発させた後、フィルムを1Mのリン酸カリウムとともに5分間インキュベートした。水ですすいだ後、100mM 2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)(pH5.0)、100mM 1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)および20mM N−ヒドロキシスルホ−スクシンイミド(NHS)とともに15分間インキュベートすることによってカルボキシル基を活性化した。続いて、エチレンジアミンを添加して終濃度500mMとした。2時間インキュベートした後、フィルムを水で徹底的にすすいだ。最後に、100mM炭酸ナトリウム(pH9.0)中1mg/mlのフルオレセインイソチオシアネートとともにフィルムを1時間インキュベートした後、水ですすいで空気乾燥した。
2.C16フィルム表面へのβ−ガラクトシダーゼのカップリング
フィルムを上述のように調製して活性化した。EDC/NHSとともに15分間インキュベートした後、フィルムを水ですすぎ、続いて100μg/mlのβ−ガラクトシダーゼ、4mMのKHPO、16mMのNaHPO、115mMのNaClを含む溶液(PBS)で2時間インキュベートした。PBSで完全にすすいだ後、フィルム表面上で酵素活性を試験した。
β−ガラクトシダーゼ分析
β−ガラクトシダーゼを連結させたフィルムを、100mMリン酸ナトリウム(pH7.0)、10mM塩化カリウム、1mM硫酸マグネシウム、50mMのβ−メルカプトエタノールおよび2mg/mlの5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−ガラクトピラノシド(X−Gal)を含む溶液とともに室温で16時間インキュベートした。
7.別のヒドロゲル
ADF−4の反復部分は一般に、変異をごくわずかしか示さない保存的な単一反復単位から構成されている。本発明者らは、これらの変異を組み合わせて、1つの共通モジュールC(GSSAAAAAAAASGPGGYGPENQGPSGPGGYGPGGP)(配列番号5)を設計した。モジュールCが多量体化するとrepタンパク質C16が得られ、その結果分子量48kDaのタンパク質となる。
16シルク遺伝子を大腸菌株BLR[DE3](ノバジェン(Novagen))中で発現させた。細胞をLB培地中37℃でOD600=0.5まで増殖させた。1mMのIPTG(イソプロピル−β−D−チオガラクトシド)で誘導する前に、細胞を25℃にシフトした。細胞を誘導の3〜4時間後にハーベストした。
16タンパク質を、ヒュンメリッヒ(Huemmerich)らの文献(40)に記述されるようにして精製した。C16のペレットを8Mの尿素で洗浄し、6Mのチオシアン酸グアニジン(GdmSCN)に溶解した後で10mMのNHHCOに対して透析した。透析中に形成された沈殿を、50,000×gで30分間沈降させて除去し、残った可溶性のシルクタンパク質を凍結乾燥した。分析に先立って、凍結乾燥したタンパク質を6MのGdmSCNに溶解した後、10mMトリス/HClに対して透析した。125,000×gで30分間沈降して凝集物を除去した。タンパク濃度は、光路長1cmのキュベット中276nmでの測光分析により、理論上の消光係数を使用して決定した(40)。
16は、濃度5〜30mg/mlで、10%(w/v)メタノールの追加後にナノ繊維へと自己アセンブリした(図12)。特筆すべきことに、使用した濃度では、ナノ繊維は、ヒドロゲルに相当する繊維ネットワークの形成をもたらした。C16ヒドロゲルは、撹拌または剪断力によって容易に分断可能であった。該ゲルの機械的性質を改善するために、ペルオキソ二硫酸アンモニウム(APS)、およびトリス(2,2’−ビピリジル)ジクロロルテニウム(II)(Rubpy)をゲル内に拡散させ、終濃度10mM APSおよび100μM Rubpyとした。寸法的に安定したゲルを得るために、タングステンランプの可視光線への1分間の曝露によってタンパク質を架橋させた(IV)(図13)。
架橋ヒドロゲルおよび非架橋ヒドロゲルの動的なレオロジー測定を、25mmのプレート‐プレート配置のPhysica MCR 301を使用して実施した。上側プレートとサンプル皿との間の間隔は、最初にサンプル表面のおよそ2mm上方に上側プレートを移動させることによりセットした。垂直抗力をモニターしながら上側プレートを非常にゆっくり(5μm/秒)低下させ、限界の垂直抗力0.1Nで停止させた。
サンプルに対して適切な大きさの間隔を見つけた後で、垂直抗力が一定の値に平衡化するまでサンプルを0.5Hzおよび変形1%で剪断した。動的なレオロジー測定は、サンプルに定荷重を加えることにより室温で実施した。レオロジー測定は、タンパク質濃度5〜30mg/mlのサンプルについて実施した。
乾燥ヒドロゲルのAFM画像は、ナノ繊維が直径およそ3nmであり、長さと同じ規模の持続長を備えた半屈曲性のようであることを示している(図12)。ナノ繊維の多くは、分岐した構造を有するようにも見える。AFM画像からは、分岐様の構造が、各ポリマー繊維中の物理的な分岐であるか、ナノ繊維の束化の結果であるかを決定することはできなかった。
ほとんどの凝縮されたポリマーネットワークと同様に、組換えC16スパイダーシルクタンパク質のヒドロゲルは粘弾性の挙動を示す。粘弾性のC16シルクネットワークに応力を加えると、ひずみは時間とともにゆっくり変化し、加えられた応力に釣り合う。図14は、濃度10mg/mlの架橋ヒドロゲルおよび非架橋ヒドロゲルの応力/ひずみ挙動を示す。架橋されていないC16シルクヒドロゲルは38Paの初期剪断弾性係数を有する。しかしながら、応力が増大するにつれて、この非架橋ヒドロゲルは応力に対してより高い変形応答を示し、20%ひずんだ後は、応答は比較的線形である。応力を増大させると、ネットワークは90%のひずみに到達するまで変形し続けるが、90%のひずみでは非架橋ヒドロゲルは断裂および流動する。架橋されていない繊維ネットワークとは異なり、架橋ネットワークは、あらゆるひずみについて線形の粘弾性の応答を示し、はるかに高い820Paの剪断弾性係数を有し、より低い30%のひずみで断裂する。
ポリマー濃度20mg/mlの非架橋繊維ネットワークの動的な粘弾性の測定から、貯蔵弾性率(G’)および損失弾性率(G”)が、周波数(ω)に、高いω範囲および低いω範囲のいずれにおいても高度に依存することが明らかである(図15)。該ネットワークは、0.49Hzを交差点として低周波では粘着性の挙動、中周波では弾性の挙動を示す。観察されたヒドロゲルの挙動は、混乱した(エンタングルした)ポリマーネットワークについて予想される挙動に似ており、液晶溶液または強粘液から期待される挙動には似ていない。
架橋されていないC16シルクヒドロゲルは、化学的に架橋されたヒドロゲル中で観察されるのとは非常に異なる動的な粘弾性挙動も示す(図15)。架橋されていない繊維ネットワークの挙動とは異なり、架橋された繊維ネットワークの貯蔵弾性率は、試験した最
も高い周波数を除き、すべての周波数でほとんど一定である。架橋されたC16シルクヒドロゲルはまた、架橋されていないネットワーク中で観察されるよりも高い貯蔵弾性率および低い損失弾性率を示す。
予想されるように、架橋ヒドロゲルの貯蔵弾性率は、試験したすべての濃度について、架橋されていないネットワークより高い(図16)。しかしながら、予想外なことに、架橋ネットワークおよび非架橋ネットワーク両方の貯蔵弾性率が、濃度[c]につれて増大し、[c]依存性を有している。持続長がメッシュサイズより大きい、架橋された線形の半屈曲性バイオポリマーネットワークの場合には、該ポリマーネットワークの貯蔵弾性率は、架橋されたC16シルクヒドロゲルに近い[c]依存性を有すると予想される。混乱しているが架橋していない線形の半屈曲性のバイオポリマーネットワークの場合には、貯蔵弾性率は[c]のはるかに低い濃度依存性を有すると予想される。そのような依存性は、Fアクチンのような他のバイオポリマーについて妥当であることが示されているが、架橋されていないシルクヒドロゲルの依存性について述べるものではない。
この不一致については、AFM画像で観察された分岐様の構造がポリマーネットワーク中の実際の物理的な分岐であれば説明することができるかもしれない。分岐した半屈曲性のポリマーネットワークの貯蔵弾性率は、架橋ポリマーネットワークおよび非架橋ポリマーネットワークについて予想される濃度依存性の間の濃縮依存性を示すと予想されるだろう。
AFM画像およびレオロジー測定データは、分岐した半屈曲性のポリマーネットワークのモデルと矛盾しない。しかしながら、該ヒドロゲルの貯蔵弾性率が増大減少する挙動は、線形の半屈曲性ポリマーネットワークを最も広く除外したモデルの枠内では説明することができない。
Figure 0005128943
上記表中、
人工的に改変したタンパク質の分子量にはT7タグが含まれている。
消光係数はギル(Gill)およびヒッペル(Hippel)の文献(23)に従って算出した。
荷電したアミノ酸残基はシルク遺伝子配列のみに関するものである;T7タグはさらにアルギニンを含んでいる。
疎水性親水性指標は過去に報告(39)されているようにして計算した。疎水性親水性指標の値とともに疎水性が増大する。
疎水性親水性指標を0〜1の範囲に正規化した。「境界の」疎水性親水性指標はウベルスキー(Uversky)らによって計算された(35;36)。正規化された疎水性親水性指標の値が「境界の」値未満である場合、タンパク質は本質的にアンフォールディングしていると予想される。ADF−3およびADF−4の値は、反復配列のみに関するものである。
中間温度はCD分光法によって測定した。
ADF−3およびADF−4の値は(75)および未公開の結果から得たものである。
Figure 0005128943

Figure 0005128943
Figure 0005128943
Figure 0005128943
Figure 0005128943
合成スパイダーシルク遺伝子用のクローニング戦略を示す図。(A)クローニングカセットにはモジュールの多量体化に必要な制限酵素切断部位(BsgIおよびBseRI)ならびに組み立てた遺伝子を切り出すための制限酵素切断部位(NcoI、BamHIおよびHindIII)を含んでいた。遺伝子構築の際にスペーサー領域をモジュールおよびモジュール多量体で置き換えた。(B)2つのモジュールの部位特異的な連結は、2つの適切なプラスミド断片のライゲーションによって実施した。ベクターのアンピシリン耐性遺伝子(Ap)が再構築された。(C)2つのモジュールの連結に必要なヌクレオチドは、各モジュールの最初のコドン内にとどめた。(D)モジュール多量体を単一モジュールと同様に連結して合成遺伝子の組み立てを調節した。(E)設計したシルクモジュールのアミノ酸配列は、牽引糸シルクタンパク質ADF−3およびADF−4に由来するものとした。 スパイダーシルクタンパク質の分析を示す図。(A)組換えシルクタンパク質のT7タグが、抗T7タグ抗体を用いたウエスタンブロッティング後に検出された。(B)タンパク質をSDS−PAGEに供した後、銀染色した。(AQ)12および(QAQ)の染色が弱いため、画像のコントラストを電気的に高めた。(C)励起波長をそれぞれ280nm(実線)または295nm(点線)とした精製C16NR4の蛍光発光スペクトルを示す。 スパイダーシルクタンパク質の二次構造および熱転移を示す図。(A)repタンパク質(実線)、repNRタンパク質(点線)およびNRタンパク質(長破線)のCDスペクトルを20℃で記録した。(B)可溶性スパイダーシルクタンパク質の平均残基分子量(MRW)楕円率を、合成シルクタンパク質を90℃に加熱(実線)、続いて20℃に冷却(点線)しながら220nmで測定した。 合成スパイダーシルクタンパク質の凝集を示す図。緩衝液中(対照)、300mMのNaClもしくは300mMのKCl存在下(pH1)、または300mMのリン酸カリウムの存在下で1時間インキュベートした後にタンパク質の凝集を測定した。棒グラフは、ADF−3由来タンパク質:明灰色、ADF−4由来タンパク質:暗灰色である。 合成フラジェリン型スパイダーシルク遺伝子用のクローニング戦略(図1参照)を示す図。単一モジュールをホモ多量体(a)ならびにヘテロ多量体(b)に連結した。(c)は、アメリカジョロウグモ(Nephila clavipes)のフラジェリン型シルクタンパク質(Flag)由来の設計されたフラジェリン型シルクモジュールのアミノ酸配列を示す。 ベクターpAZLの制限酵素切断地図を示す図。 スパイダーシルクタンパク質のアセンブリ形態を示す図。(A)走査電子顕微鏡(SEM)で視覚化した、C16で形成された球体。(B)原子力間顕微鏡(高さ情報)によりで視覚化した、C16NR4で形成されたナノ繊維。(C,D)SEMで調査した、(AQ)24NR3で形成されたミクロフィブリル(C)。該フィブリルを切断してその断面を視覚化するために、Ga集束イオンビームを用いた(D)。(E)(AQ)24NR3溶液から生成させた発泡体。(F)C16NR4溶液から生成させた発泡体。(G)C16NR4ナノ繊維で形成された架橋ゲル。 合成シルクタンパク質(AQ)24NR3およびC16を6Mチオシアン酸グアニジンに溶解してから5mMリン酸カリウム(pH8.0)に対して透析したもの(実線)およびHFIPに溶解したもの(点線)のCDスペクトルを示す図。 16のHFIP中の2%(w/v)溶液から成型したフィルムを示す図。 (AQ)24NR3およびC16から作製したタンパク質フィルムのCDスペクトルを示す図。フィルムはタンパク質のHFIP溶液から直接平坦な石英ガラス上で成型し、CD分光法により分析した(点線)。続いてフィルムを1Mリン酸カリウムで加工処理して再分析した。フィルム厚が正確ではないため、□ΘMRWは測定できなかった。 HFIP溶液から成型してリン酸カリウムで加工処理したC16フィルムの改良について示す図。(A)C16のカルボキシル基がEDCを用いて活性化された場合(+)にのみ効率よくフルオレセイン(黄色)がカップリングした。これに対し、EDCにより活性化されていない場合(−)はフィルムにフルオレセインがほとんど結合しなかった。(B)カップリングしたβ−ガラクトシダーゼの活性を、X−Galを基質として用いてモニターした。EDCで活性化されたフィルム上にのみ青色の沈殿が出現して酵素活性を示し(+)、活性化されていないフィルムは残存酵素活性を示すのみであった(−)。 16ナノ繊維のAFM画像を示す図。 16ナノ繊維で調製したヒドロゲルを示す図。 濃度10mg/mlの架橋ヒドロゲルおよび非架橋ヒドロゲルの応力/ひずみ挙動を示す図。 濃度20mg/mlの架橋および非架橋いずれの繊維ネットワークも、貯蔵弾性率(G’)および損失弾性率(G”)が周波数に依存することを示す図。 架橋ヒドロゲルおよび非架橋ヒドロゲルのいずれについても周波数0.5Hzでの貯蔵弾性率が濃度依存性であることを示す図。いずれのネットワークも濃度の二乗[c]に比例する貯蔵弾性率を有している。

Claims (34)

  1. 組換えスパイダーシルクタンパク質であって、
    以下の5〜50個の反復単位を含む、1つ以上の合成のスパイダーシルクタンパク質反復配列を含んでなる組換えスパイダーシルクタンパク質:
    (i)前記反復単位は、配列番号5のアミノ酸配列(モジュールC)またはそのバリアントから成る
    (ii)前記反復単位は、配列番号35のアミノ酸配列(モジュールK)またはそのバリアントから成る;
    (iii)前記反復単位は、配列番号37のアミノ酸配列(モジュールsp)またはそのバリアントから成る;
    v)前記反復単位は、配列番号39のアミノ酸配列(モジュールX)またはそのバリアントから成る;
    )前記反復単位は、配列番号41のアミノ酸配列(モジュールY)またはそのバリアントから成る;
    (vi) 前記反復単位は、配列番号4のアミノ酸配列(モジュールQ)またはそのバリアントから成ると共に、配列番号5のアミノ酸配列(モジュールC)またはそのバリアントから成る反復配列と組み合わされる;
    (vii)前記反復単位は、配列番号3のアミノ酸配列(モジュールA)またはそのバリアントから成ると共に、配列番号4のアミノ酸配列(モジュールQ)またはそのバリアントから成る反復配列と組み合わされる;または
    (xiii)前記反復単位は、配列番号4のアミノ酸配列(モジュールQ)またはそのバリアントから成ると共に、配列番号3のアミノ酸配列(モジュールA)またはそのバリアントから成る反復配列と組み合わされ、これがさらに配列番号4のアミノ酸配列(モジュールQ)またはそのバリアントと組み合わされる;
    前記(i)〜(xiii)の各々におけるバリアントは、前記(i)〜(xiii)の各々における前記アミノ酸配列に対し、1つのアミノ酸の置換、1または2アミノ酸の欠失、および1または2アミノ酸の挿入のうちの少なくとも一つを含み、前記組換えスパイダーシルクタンパク質の凝集特性に悪影響を及ぼさないアミノ酸配列から成る。
  2. 1つ以上の天然型のスパイダーシルクタンパク質非反復配列をさらに含み、
    前記天然型の非反復配列をコードする核酸配列は、
    (i)配列番号14(NR3)、または配列番号10(NR3)のアミノ酸配列であって、1つのアミノ酸の置換、1または2アミノ酸の欠失、および1または2アミノ酸の挿入のうちの少なくとも一つを含み、前記組換えスパイダーシルクタンパク質の凝集特性に悪影響を及ぼさないアミノ酸配列をコードするバリアント、
    (ii)配列番号15(NR4)、または配列番号11(NR4)のアミノ酸配列であって、1つのアミノ酸の置換、1または2アミノ酸の欠失、および1または2アミノ酸の挿入のうちの少なくとも一つを含み、前記組換えスパイダーシルクタンパク質の凝集特性に悪影響を及ぼさないアミノ酸配列をコードするバリアント、
    (iii)配列番号32(FlagN−NR)、または配列番号31(FlagN−NR)のアミノ酸配列であって、1つのアミノ酸の置換、1または2アミノ酸の欠失、および1または2アミノ酸の挿入のうちの少なくとも一つを含み、前記組換えスパイダーシルクタンパク質の凝集特性に悪影響を及ぼさないアミノ酸配列をコードするバリアント、または
    (iv)配列番号34(FlagC−NR)、または配列番号33(FlagC−NR)のアミノ酸配列であって、1つのアミノ酸の置換、1または2アミノ酸の欠失、および1または2アミノ酸の挿入のうちの少なくとも一つを含み、前記組換えスパイダーシルクタンパク質の凝集特性に悪影響を及ぼさないアミノ酸配列をコードするバリアント、
    からなる
    請求項1に記載の組換えスパイダーシルクタンパク質。
  3. 合成反復配列は(AQ)12、(AQ)24、(QAQ)、(QAQ)16、C16またはC32であり、
    Aは配列番号3のアミノ酸配列を表し、
    Qは配列番号4のアミノ酸配列を表し、
    Cは配列番号5のアミノ酸配列を表し、
    AQは前記(AQ)12で12回反復され、
    AQは前記(AQ)24で24回反復され、
    QAQは前記(QAQ)で8回反復され、
    QAQは前記(QAQ)16で16回反復され、
    Cは前記C16で16回反復され、
    Cは前記C32 32回反復される、請求項1または2に記載の組換えスパイダーシルクタンパク質。
  4. 合成反復配列はY、Y16、X、X16、K、またはK16であり、
    Yは配列番号41のアミノ酸配列を表し、
    Xは配列番号39のアミノ酸配列を表し、
    Kは配列番号35のアミノ酸配列を表し、
    Yは前記Yで8回反復され、
    Yは前記Y16で16回反復され、
    Xは前記Xで8回反復され、
    Xは前記X16で16回反復され、
    Kは前記Kで8回反復され、
    Kは前記K16で16回反復される、請求項1または2に記載の組換えスパイダーシルクタンパク質。
  5. 完全長の組換えスパイダーシルクタンパク質は、式(QAQ)NR3、(QAQ)16NR3、(AQ)12NR3、(AQ)24NR3、C16NR4、またはC32NR4、(QAQ)、(QAQ)16、(AQ)12、(AQ)24、C16、またはC
    であり、
    Aは配列番号3のアミノ酸配列を表し、
    Qは配列番号4のアミノ酸配列を表し、
    Cは配列番号5のアミノ酸配列を表し、
    NR3は配列番号10のアミノ酸配列を有する非反復単位を表し、
    NR4は配列番号11のアミノ酸配列を有する非反復単位を表し、
    AQは前記(AQ)12で12回反復され、
    AQは前記(AQ)24で24回反復され、
    QAQは前記(QAQ)で8回反復され、
    QAQは前記(QAQ)16で16回反復され、
    Cは前記C16で16回反復され、
    Cは前記C32 32回反復される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組換えスパイダーシルクタンパク質。
  6. 請求項1〜5のいずれか一項に記載の組換えスパイダーシルクタンパク質をコードする核酸配列。
  7. 請求項6に記載の核酸配列を含むベクター。
  8. 1つ以上の調節配列をさらに含み、前記ベクターは発現ベクターである、請求項7に記載のベクター。
  9. 請求項7または8に記載のべクターで形質転換されたヒト以外の宿主。
  10. 原核細胞または真核細胞である、請求項に記載の宿主。
  11. 前記原核細胞は大腸菌(E.coli)または枯草菌(Bacillus subtilis)であ前記真核細胞は哺乳動物細胞、植物細胞、酵母細胞または昆虫細胞である、請求項10に記載の宿主。
  12. スパイダーシルクタンパク質の凝集方法であって、
    a)請求項1〜のいずれか一項に記載の配向していないスパイダーシルクタンパク質を含んでいるタンパク質溶液を準備する工程と、
    b)工程a)で準備された溶液を、スパイダーシルクタンパク質の凝集を増強する凝集トリガーに曝露する工程であって、前記凝集トリガーは酸性化、リン酸カリウムおよび機械的ストレスから選択される工程と、
    c)沈殿したスパイダーシルクタンパク質を回収する工程と
    を含む方法。
  13. 工程a)で使用されるスパイダーシルクタンパク質は、請求項7または8に記載のベクターまたは請求項に記載の核酸を用いて請求項11のいずれか一項に記載の適切な宿主を形質転換し、適切な条件の下でスパイダーシルク遺伝子を発現させることにより生産される、請求項23に記載の方法。
  14. 工程a)で準備された、または工程c)で回収された前記タンパク質を、適切な方法によってフィラメント、ナノ繊維および糸へと紡糸するか、またはフィルムを形成する工程を含む、請求項12または13に記載の方法。
  15. バイオテクノロジーおよび医学のうち少なくともいずれか一方の分野において使用される、請求項1〜5のいずれか一項に記載のタンパク質。
  16. バイオテクノロジーおよび医学のうち少なくともいずれか一方の分野において使用される、請求項14で紡糸された糸。
  17. 請求項1〜5のいずれか一項に記載のタンパク質の、創傷閉鎖システムもしくは創傷被覆システムの製造のための使用。
  18. 請求14で紡糸された糸の、創傷閉鎖システムもしくは創傷被覆システムの製造のための使用。
  19. 縫合材料の製造のための、請求項17または18に記載の使用。
  20. 請求項1〜5のいずれか一項に記載のタンパク質の、置換材料の製造のための使用。
  21. 請求項14で紡糸された糸の、置換材料の製造のための使用。
  22. 請求項1〜5のいずれか一項に記載のタンパク質の、自動車部品および航空機部品の製造における使用。
  23. 請求項14で紡糸された糸の、自動車部品および航空機部品の製造における使用。
  24. 請求項12または13に記載の方法によって得ることができる請求項1〜5のいずれか一項に記載のタンパク質を含む、創傷閉鎖システムまたは創傷被覆システム、縫合材料、置換材料、自動車部品、または航空機建造に使用される部品。
  25. 請求項14で紡糸された糸を含む、創傷閉鎖システムまたは創傷被覆システム、縫合材料、置換材料、自動車部品、または航空機建造に使用される部品。
  26. 請求項1〜5のいずれか一項に記載の組換えスパイダーシルクタンパク質を含んでなる紙製品。
  27. 請求項1〜5のいずれか一項に記載の組換えスパイダーシルクタンパク質を含んでなる織物製品または皮革製品。
  28. 組換えスパイダーシルクタンパク質がコーティングとして存在する、請求項27に記載の織物製品または皮革製品。
  29. 請求項1〜5のいずれか一項に記載のタンパク質を含んでなるかまたは該タンパク質で構成されるゲルまたは発泡体。
  30. (QAQ)NR3、(QAQ)16NR3、(AQ)12NR3、(AQ)24NR3、C16NR4、またはC32NR4、(QAQ)、(QAQ)16、(AQ)12、(AQ)24、C16、またはC32に基づいたタンパク質を含んでなるかまたは該タンパク質で構成される、請求項29に記載のゲル。
  31. 請求項1〜5のいずれか一項に記載のタンパク質を含んでなるかまたは該タンパク質で構成される、インプラントおよびステント用のコーティング。
  32. 請求項1〜5のいずれか一項に記載のタンパク質と、さらに、クモ由来ではない繊維とをさらに含むことを特徴とする、球体、ビーズ、糸または繊維。
  33. 請求項14で紡糸された糸と、さらに、クモ由来ではない繊維とをさらに含むことを特徴とする、球体、ビーズ、糸または繊維。
  34. 請求項1〜5のいずれか一項に記載のタンパク質、あるいは(QAQ)NR3、(QAQ)16NR3、(AQ)12NR3、(AQ)24NR3、C16NR4、またはC32NR4、(QAQ)、(QAQ)16、(AQ)12、(AQ)24、C16、またはC32に基づいたタンパク質を含んでなるかまたは該タンパク質で構成されていることを特徴とするフィルム。
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