≪ラクトン環含有重合体≫
本発明のラクトン環含有重合体は、ある様相では、平均粒径50μm以上のポリマーゲルの含有量が100個/100g以下であり、重量平均分子量が50,000〜170,000であることを特徴とする。ここで、「ポリマーゲル」とは、ポリマーが化学結合によって、あるいはポリマー分子鎖間の相互作用によって、3次元的な網目構造を構成したものを意味する。なお、本発明では、「ポリマーゲル」と「異物」とを交換可能なように使用する。
ラクトン環含有重合体を成形材料として光学用途に用いる場合、平均粒径50μmを超えるポリマーゲルが問題となる。そこで、本発明では、平均粒径50μm以上のポリマーゲルの含有量が100個/100g以下と規定した。なお、ポリマーゲルの含有量は、100gのラクトン環含有重合体をラクトン環含有重合体が可溶であり、精密濾過により精製された溶剤(例えば、メチルエチルケトンなど)500mLに溶解した後、平均孔径1.0μmのポリテトラフルオロエチレン製メンブランフィルターで濾過して、フィルター上に残留した平均粒径50μm以上のポリマーゲルの個数を顕微鏡下、目視によって計数して求めるものとする。ポリマーゲルの含有量が100個/100gを超えると、成形材料として用いた場合に、光学用途に適さないことがある。ポリマーゲルの含有量は、好ましくは50個/100g以下、より好ましくは20個/100g以下である。ポリマーゲルの含有量の下限は、理想的には、0個/100gである。
また、ラクトン環含有重合体は、分子量が高くなると、ポリマーゲルを発生しやすい傾向がある。そこで、本発明では、重量平均分子量が50,000〜170,000と規定した。重量平均分子量は、好ましくは100,000〜150,000の範囲内である。なお、重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフを用いて、ポリスチレン換算による求めた値であるとする。重合体の重量平均分子量が50,000未満であると、メルトフローレートが高くなり、成形材料として用いた場合、例えば、溶融押出法などによる成形加工が困難になることがある。逆に、重合体の重量平均分子量が170,000を超えると、ポリマーゲルが発生しやすくなると共に、メルトフローレートが低くなり、成形材料として用いた場合に、例えば、射出成形法などによる成形加工が困難になることがある。
本発明のラクトン環含有重合体は、別の様相では、280℃で30分間加熱した後の粘度増加率が2.0倍以下であることを特徴とする。ここで、「粘度増加率」とは、重合体を280℃で30分間加熱する前後に、温度250℃、荷重10kgf/cm2、ダイ形状0.5mmφ×1mmの条件で溶融粘度を測定し、得られた両方の溶融粘度の比率(加熱後/加熱前)を意味する。重合体の粘度増加率が2.0倍を超えると、成形材料として用いた場合に、成形加工性が低下することがある。重合体の粘度増加率の下限は、理想的には、1.0倍であるが、重合体の一部が分解する場合を考慮すると、0.8倍である。なお、粘度増加率は、重合体に熱を加えた際に起こるゲル化の指標であり、値が小さい方がゲル化を起こし難い。
本発明のラクトン環含有重合体は、ダイナミックTG測定における150〜300℃の範囲内における質量減少率が好ましくは1%以下、より好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.3%以下である。
本発明のラクトン環含有重合体は、環化縮合反応率が高いので、成形後の成形品中に泡やシルバーストリークが入るという欠点が回避できる。さらに、高い環化縮合反応率によってラクトン環構造が重合体に充分に導入されるので、得られたラクトン環含有重合体が充分に高い耐熱性を有している。
本発明のラクトン環含有重合体は、濃度15質量%のクロロホルム溶液にした場合、その着色度(YI)が、好ましくは6以下、より好ましくは3以下、さらに好ましくは2以下、特に好ましくは1以下である。着色度(YI)が6を超えると、着色により透明性が損なわれ、特に光学用途に使用できないことがある。
本発明のラクトン環含有重合体は、熱質量分析(TG)における5%質量減少温度が、好ましくは300℃以上、より好ましくは320℃以上、さらに好ましくは330℃以上である。熱質量分析(TG)における5%質量減少温度は、熱安定性の指標であり、これが300℃未満であると、充分な熱安定性を発揮できないことがある。
本発明のラクトン環含有重合体は、ガラス転移温度(Tg)が、好ましくは100℃以上、より好ましくは110℃以上、さらに好ましくは120℃以上、特に好ましくは130℃以上である。
本発明のラクトン環含有重合体は、それに含まれる残存揮発分の総量が、好ましくは1,500ppm以下、より好ましくは1,000ppm以下である。残存揮発分の総量が1,500ppmを超えると、成形時の変質などによって着色したり、発泡したり、シルバーストリークなどの成形不良の原因となる。
本発明のラクトン環含有重合体は、射出成形により得られる成形品に対するASTM−D−1003に準拠した方法で測定された全光線透過率が、好ましくは85%以上、より好ましくは88%以上、さらに好ましくは90%以上である。全光線透過率は、透明性の指標であり、これが85%未満であると、透明性が低下し、特に光学用途に使用できないことがある。
本発明のラクトン環含有重合体は、好ましくは、下記式(1):
[式中、R1、R2およびR3は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜20の有機残基を表す;なお、有機残基は酸素原子を含有していてもよい]
で示されるラクトン環構造を有する。
ラクトン環含有重合体の構造中における上記式(1)で示されるラクトン環構造の含有割合は、好ましくは5〜90質量%、より好ましくは10〜70質量%、さらに好ましくは10〜60質量%、特に好ましくは10〜50質量%である。ラクトン環構造の含有割合が5質量%未満であると、得られた重合体の耐熱性、耐溶剤性および表面硬度が低下することがある。逆に、ラクトン環構造の含有割合が90質量%を超えると、得られた重合体の成形加工性が低下することがある。
ラクトン環含有重合体は、上記式(1)で示されるラクトン環構造以外の構造を有していてもよい。上記式(1)で示されるラクトン環構造以外の構造としては、特に限定されるものではないが、例えば、ラクトン環含有重合体の製造方法として後述するような、(メタ)アクリル酸エステルと、ヒドロキシ基含有単量体と、下記式(3):
[式中、R6は水素原子またはメチル基を表し、Xは水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、−OAc基、−CN基、−CO−R7基、または−COOH基を表し、Acはアセチル基を表し、R7は水素原子または炭素数1〜20の有機残基を表す]
で示される単量体とからなる群から選択される少なくとも1種の単量体を重合して形成される重合体構造単位(繰り返し構造単位)が好ましい。
ラクトン環含有重合体の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、重合工程によって分子鎖中にヒドロキシ基とエステル基とを有する重合体(a)を得た後、得られた重合体(a)を加熱処理することによりラクトン環構造を重合体に導入するラクトン環化縮合工程を行うことによって得られる。
重合工程においては、例えば、下記式(2):
[式中、R4およびR5は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜20の有機残基を表す;なお、有機残基は酸素原子を含有していてもよい]
で示される単量体(以下、「2−ヒドロキシメチルアクリル酸エステル」ということがある。)を配合した単量体成分の重合反応を行うことにより、分子鎖中にヒドロキシ基とエステル基とを有する重合体が得られる。
上記式(2)で示される単量体としては、例えば、(a)R4で表される置換基が水素原子である単量体、例えば、2−ヒドロキシメチルアクリル酸、2−(1−ヒドロキシエチル)アクリル酸、2−(1−ヒドロキシブチル)アクリル酸、2−(1−ヒドロキシ−2−エチルヘキシル)アクリル酸など;(b)R4で表される置換基が炭素数1〜18のアルキル基である単量体、例えば、2−ヒドロキシメチルアクリル酸メチル、2−(1−ヒドロキシエチル)アクリル酸メチル、2−(1−ヒドロキシブチル)アクリル酸メチル、2−(1−ヒドロキシ−2−エチルヘキシル)アクリル酸メチル、2−ヒドロキシメチルアクリル酸エチル、2−(1−ヒドロキシエチル)アクリル酸エチル、2−(1−ヒドロキシブチル)アクリル酸エチル、2−(1−ヒドロキシ−2−エチルヘキシル)アクリル酸エチル、2−ヒドロキシメチルアクリル酸n−プロピル、2−(1−ヒドロキシエチル)アクリル酸n−プロピル、2−(1−ヒドロキシブチル)アクリル酸n−プロピル、2−(1−ヒドロキシ−2−エチルヘキシル)アクリル酸n−プロピル、2−ヒドロキシメチルアクリル酸イソプロピル、2−(1−ヒドロキシエチル)アクリル酸イソプロピル、2−(1−ヒドロキシブチル)アクリル酸イソプロピル、2−(1−ヒドロキシ−2−エチルヘキシル)アクリル酸イソプロピル、2−ヒドロキシメチルアクリル酸n−ブチル、2−ヒドロキシメチルアクリル酸イソブチル、2−ヒドロキシメチルアクリル酸t−ブチル、2−ヒドロキシメチルアクリル酸n−オクチル、2−ヒドロキシメチルアクリル酸イソオクチル、2−ヒドロキシメチルアクリル酸2−エチルヘキシル、2−ヒドロキシメチルアクリル酸ステアリルなど;(c)R4で表される置換基が炭素数3〜10のシクロアルキル基である単量体、例えば、2−ヒドロキシメチルアクリル酸シクロペンチル、2−(1−ヒドロキシエチル)アクリル酸シクロペンチル、2−(1−ヒドロキシブチル)アクリル酸シクロペンチル、2−(1−ヒドロキシ−2−エチルヘキシル)アクリル酸シクロペンチル、2−ヒドロキシメチルアクリル酸シクロヘキシルなど;(d)R4で表される置換基がアリール基である単量体、例えば、2−ヒドロキシメチルアクリル酸フェニル、2−(1−ヒドロキシエチル)アクリル酸フェニル、2−(1−ヒドロキシブチル)アクリル酸フェニル、2−(1−ヒドロキシ−2−エチルヘキシル)アクリル酸フェニル、2−ヒドロキシメチルアクリル酸o−メトキシフェニル、2−ヒドロキシメチルアクリル酸p−メトキシフェニル、2−ヒドロキシメチルアクリル酸p−ニトロフェニル、2−ヒドロキシメチルアクリル酸o−メチルフェニル、2−ヒドロキシメチルアクリル酸p−メチルフェニル、2−ヒドロキシメチルアクリル酸p−t−ブチルフェニルなど;が挙げられる。これらの単量体は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの単量体のうち、2−ヒドロキシメチルアクリル酸メチル、2−ヒドロキシメチルアクリル酸エチル、2−ヒドロキシメチルアクリル酸n−ブチル、2−ヒドロキシメチルアクリル酸2−エチルヘキシル、2−ヒドロキシメチルアクリル酸2−ヒドロキシエチル、2−ヒドロキシメチルアクリル酸2−ヒドロキシプロピルが好適であり、耐熱性を向上させる効果が高いことから、2−ヒドロキシメチルアクリル酸メチルが特に好適である。
重合工程に供する単量体成分中における上記式(2)で示される単量体の含有割合は、好ましくは2.5〜50質量%、より好ましくは5〜40質量%、さらに好ましくは5〜35質量%、特に好ましくは5〜30質量%である。上記式(2)で示される単量体の含有割合が2.5質量%未満であると、得られた重合体の耐熱性、耐溶剤性および表面硬度が低下することがある。逆に、上記式(2)で示される単量体の含有割合が50質量%を超えると、重合工程やラクトン環化縮合工程においてゲル化が起こることや、得られた重合体の成形加工性が低下することがある。
重合工程に供する単量体成分には、上記式(2)で示される単量体以外の単量体を配合してもよい。このような単量体としては、特に限定されるものではないが、例えば、(メタ)アクリル酸エステル、および、下記式(3):
[式中、R6は水素原子またはメチル基を表し、Xは水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、−OAc基、−CN基、−CO−R7基、または−COOH基を表し、Acはアセチル基を表し、R7は水素原子または炭素数1〜20の有機残基を表す]
で示される単量体などが挙げられる。これらの単量体は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
(メタ)アクリル酸エステルとしては、上記式(2)で示される単量体以外の(メタ)アクリル酸エステルである限り、特に限定されるものではないが、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジルなどのアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジルなどのメタクリル酸エステル;などが挙げられる。これらの(メタ)アクリル酸エステルは、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの(メタ)アクリル酸エステルのうち、得られた重合体の耐熱性や透明性が優れることから、メタクリル酸メチルが特に好ましい。
上記式(2)で示される単量体以外の(メタ)アクリル酸エステルを用いる場合、重合工程に供する単量体成分中におけるその含有割合は、本発明の効果を充分に発揮させる上で、好ましくは10〜97.5質量%、より好ましくは10〜95質量%、さらに好ましくは40〜95質量%、特に好ましくは50〜95質量%である。
上記式(3)で示される単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、アクリロニトリル、メチルビニルケトン、エチレン、プロピレン、酢酸ビニルなどが挙げられる。これらの単量体は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
上記式(3)で示される単量体を用いる場合、重合工程に供する単量体成分中におけるその含有割合は、本発明の効果を充分に発揮させる上で、好ましくは0〜30質量%、より好ましくは0〜20質量%、さらに好ましくは0〜15質量%、特に好ましくは0〜10質量%である。
単量体成分を重合して分子鎖中にヒドロキシ基とエステル基とを有する重合体を得るための重合反応の形態としては、溶剤を使用する重合形態であることが好ましく、溶液重合が特に好ましい。また、リビングラジカル重合は、開始反応と成長反応のみから成り、停止または連鎖移動などの成長末端を失活させる副反応が起こらないので、ポリマー分子鎖から水素を引き抜くことが少なく、ポリマーゲルの発生を抑制するのに特に好適である。
重合温度や重合時間は、使用する単量体の種類や割合などに応じて変化するが、例えば、好ましくは、重合温度が0〜150℃、重合時間が0.5〜20時間であり、より好ましくは、重合温度が80〜140℃、重合時間が1〜10時間である。
溶剤を使用する重合形態の場合、重合溶剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤;テトラヒドロフランなどのエーテル系溶剤;などが挙げられる。これらの溶剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。また、溶剤の沸点が高すぎると、最終的に得られるラクトン環含有重合体の残存揮発分が多くなることから、沸点が50〜200℃である溶剤が好ましい。
重合反応時には、必要に応じて、重合開始剤を添加してもよい。重合開始剤としては、ポリマー分子鎖から水素を引き抜く能力が低い開始剤である限り、特に限定されるものではないが、例えば、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−アミルパーオキシイソノナノエート、t−アミルパーオキシアセテート、t−アミルパーオキシベンゾエート、1,1−ジ(t−アミルパーオキシ)シクロヘキサンなどのt−アミル型の過酸化物;2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、ジメチル2,2’−アゾビスイソブチレートなどのアゾ系開始剤;ジクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、アルミニウムトリイソプロポキシド、2、2’−ジクロロアセトフェノンなどのリビングラジカル系開始剤などが挙げられる。これらの重合開始剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの重合開始剤のうち、後述するように、上記式(2)で示される単量体を特定の方法で精製した場合には、ラクトン環含有重合体におけるポリマーゲルの発生を極めて効果的に抑制できることから、t−アミル型の過酸化物が特に好適である。なお、重合開始剤の使用量は、単量体の組合せや反応条件などに応じて適宜設定すればよく、特に限定されるものではない。
重合を行う際には、反応液のゲル化を抑制するために、重合反応混合物中に生成した重合体の濃度が50質量%以下となるように制御することが好ましい。具体的には、重合反応混合物中に生成した重合体の濃度が50質量%を超える場合には、重合溶剤を重合反応混合物に適宜添加して50質量%以下となるように制御することが好ましい。重合反応混合物中に生成した重合体の濃度は、より好ましくは45質量%以下、さらに好ましくは40質量%以下である。なお、重合反応混合物中に生成した重合体の濃度が低すぎると生産性が低下するので、重合反応混合物中に生成した重合体の濃度は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上である。
重合溶剤を重合反応混合物に適宜添加する形態としては、特に限定されるものではなく、例えば、連続的に重合溶剤を添加してもよいし、間欠的に重合溶剤を添加してもよい。このように重合反応混合物中に生成した重合体の濃度を制御することによって、反応液のゲル化をより充分に抑制することができ、特に、ラクトン環含有割合を増やして耐熱性を向上させるために分子鎖中のヒドロキシ基とエステル基との割合を高めた場合であっても、ゲル化を充分に抑制することができる。添加する重合溶剤としては、例えば、重合反応の初期仕込み時に使用した溶剤と同じ種類の溶剤であってもよいし、異なる種類の溶剤であってもよいが、重合反応の初期仕込み時に使用した溶剤と同じ種類の溶剤を使用することが好ましい。また、添加する重合溶剤は、1種のみの単一溶剤であっても2種以上の混合溶剤であってもよい。
以上の重合工程を終了した時点で得られる重合反応混合物中には、通常、得られた重合体以外に溶剤が含まれているが、溶剤を完全に除去して重合体を固体状態で取り出す必要はなく、溶剤を含んだ状態で、続くラクトン環化縮合工程に導入することが好ましい。また、必要な場合は、固体状態で取り出した後に、続くラクトン環化縮合工程に好適な溶剤を再添加してもよい。
重合工程で得られた重合体は、分子鎖中にヒドロキシ基とエステル基とを有する重合体(a)であり、重合体(a)の重量平均分子量は、好ましくは50,000〜170,000、より好ましくは60,000〜170,000、さらに好ましくは70,000〜170,000である。重合工程で得られた重合体(a)は、続くラクトン環化縮合工程において、加熱処理されることによりラクトン環構造が重合体に導入され、ラクトン環含有重合体となる。
重合体(a)にラクトン環構造を導入するための反応は、加熱により、重合体(a)の分子鎖中に存在するヒドロキシ基とエステル基とが環化縮合してラクトン環構造を生じる反応であり、その環化縮合によってアルコールが副生する。ラクトン環構造が重合体の分子鎖中(重合体の主骨格中)に形成されることにより、高い耐熱性が付与される。ラクトン環構造を導く環化縮合反応の反応率が不充分であると、耐熱性が充分に向上しないことや、成形時の加熱処理によって成形途中に縮合反応が起こり、生じたアルコールが成形品中に泡やシルバーストリークとなって存在することがある。
ラクトン環化縮合工程において得られるラクトン環含有重合体は、好ましくは、下記式(1):
[式中、R1、R2およびR3は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜20の有機残基を表す;なお、有機残基は酸素原子を含有していてもよい]
で示されるラクトン環構造を有する。
重合体(a)を加熱処理する方法については、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を利用すればよい。例えば、重合工程によって得られた、溶剤を含む重合反応混合物を、そのまま加熱処理してもよい。あるいは、溶剤の存在下で、必要に応じて閉環触媒を用いて加熱処理してもよい。あるいは、揮発成分を除去するための真空装置あるいは脱揮装置を備えた加熱炉や反応装置、脱揮装置を備えた押出機などを用いて加熱処理を行うこともできる。
環化縮合反応を行う際に、重合体(a)に加えて、他の熱可塑性樹脂を共存させてもよい。また、環化縮合反応を行う際には、必要に応じて、環化縮合反応の触媒として一般に使用されるp−トルエンスルホン酸などのエステル化触媒またはエステル交換触媒を用いてもよいし、酢酸、プロピオン酸、安息香酸、アクリル酸、メタクリル酸などの有機カルボン酸類を触媒として用いてもよい。さらに、例えば、特開昭61−254608号公報や特開昭61−261303号公報に開示されているように、塩基性化合物、有機カルボン酸塩、炭酸塩などを使用してもよい。
あるいは、環化縮合反応の触媒として有機リン化合物を用いてもよい。使用可能な有機リン酸化合物としては、例えば、メチル亜ホスホン酸、エチル亜ホスホン酸、フェニル亜ホスホン酸などのアルキル(アリール)亜ホスホン酸(ただし、これらは、互変異性体であるアルキル(アリール)ホスフィン酸になっていてもよい)およびこれらのモノエステルまたはジエステル;ジメチルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、フェニルメチルホスフィン酸、フェニルエチルホスフィン酸などのジアルキル(アリール)ホスフィン酸およびこれらのエステル;メチルホスホン酸、エチルホスホン酸、トリフルオルメチルホスホン酸、フェニルホスホン酸などのアルキル(アリール)ホスホン酸およびこれらのモノエステルまたはジエステル;メチル亜ホスフィン酸、エチル亜ホスフィン酸、フェニル亜ホスフィン酸などのアルキル(アリール)亜ホスフィン酸およびこれらのエステル;亜リン酸メチル、亜リン酸エチル、亜リン酸フェニル、亜リン酸ジメチル、亜リン酸ジエチル、亜リン酸ジフェニル、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリフェニルなどの亜リン酸モノエステル、ジエステルまたはトリエステル;リン酸メチル、リン酸エチル、リン酸2−エチルヘキシル、リン酸オクチル、リン酸イソデシル、リン酸ラウリル、リン酸ステアリル、リン酸イソステアリル、リン酸フェニル、リン酸ジメチル、リン酸ジエチル、リン酸ジ−2−エチルヘキシル、リン酸ジイソデシル、リン酸ジラウリル、リン酸ジステアリル、リン酸ジイソステアリル、リン酸ジフェニル、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリイソデシル、リン酸トリラウリル、リン酸トリステアリル、リン酸トリイソステアリル、リン酸トリフェニルなどのリン酸モノエステル、ジエステルまたはトリエステル;メチルホスフィン、エチルホスフィン、フェニルホスフィン、ジメチルホスフィン、ジエチルホスフィン、ジフェニルホスフィン、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリフェニルホスフィンなどのモノ−、ジ−またはトリ−アルキル(アリール)ホスフィン;メチルジクロロホスフィン、エチルジクロロホスフィン、フェニルジクロロホスフィン、ジメチルクロロホスフィン、ジエチルクロロホスフィン、ジフェニルクロロホスフィンなどのアルキル(アリール)ハロゲンホスフィン;酸化メチルホスフィン、酸化エチルホスフィン、酸化フェニルホスフィン、酸化ジメチルホスフィン、酸化ジエチルホスフィン、酸化ジフェニルホスフィン、酸化トリメチルホスフィン、酸化トリエチルホスフィン、酸化トリフェニルホスフィンなどの酸化モノ−、ジ−またはトリ−アルキル(アリール)ホスフィン;塩化テトラメチルホスホニウム、塩化テトラエチルホスホニウム、塩化テトラフェニルホスホニウムなどのハロゲン化テトラアルキル(アリール)ホスホニウム;などが挙げられる。これらの有機リン化合物は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの有機リン化合物のうち、触媒活性が高くて着色性が低いことから、アルキル(アリール)亜ホスホン酸、亜リン酸モノエステルまたはジエステル、リン酸モノエステルまたはジエステル、アルキル(アリール)ホスホン酸が好ましく、アルキル(アリール)亜ホスホン酸、亜リン酸モノエステルまたはジエステル、リン酸モノエステルまたはジエステルがより好ましく、アルキル(アリール)亜ホスホン酸、リン酸モノエステルまたはジエステルが特に好ましい。
環化縮合反応の際に用いる触媒の使用量は、特に限定されるものではないが、例えば、重合体(a)に対して、好ましくは0.001〜5質量%、より好ましくは0.01〜2.5質量%、さらに好ましくは0.01〜1質量%、特に好ましくは0.05〜0.5質量%である。触媒の使用量が0.001質量%未満であると、環化縮合反応の反応率が充分に向上しないことがある。逆に、触媒の使用量が5質量%を超えると、得られた重合体が着色することや、重合体が架橋して、溶融成形が困難になることがある。
触媒の添加時期は、特に限定されるものではなく、例えば、反応初期に添加してもよいし、反応途中に添加してもよいし、それらの両方で添加してもよい。
環化縮合反応を溶剤の存在下で行い、かつ、環化縮合反応の際に、脱揮工程を併用することが好ましい。この場合、環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態、および、脱揮工程を環化縮合反応の過程全体にわたっては併用せずに過程の一部においてのみ併用する形態が挙げられる。脱揮工程を併用する方法では、縮合環化反応で副生するアルコールを強制的に脱揮させて除去するので、反応の平衡が生成側に有利となる。
脱揮工程とは、溶剤、残存単量体などの揮発分と、ラクトン環構造を導く環化縮合反応により副生したアルコールを、必要に応じて減圧加熱条件下で、除去処理する工程を意味する。この除去処理が不充分であると、得られた重合体中の残存揮発分が多くなり、成形時の変質などにより着色することや、泡やシルバーストリークなどの成形不良が起こることがある。
環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態の場合、用いる装置については、特に限定されるものではないが、例えば、本発明をより効果的に行うために、熱交換器と脱揮槽からなる脱揮装置やベント付き押出機、また、脱揮装置と押出機を直列に配置したものを用いることが好ましく、熱交換器と脱揮槽からなる脱揮装置またはベント付き押出機を使用することがより好ましい。
熱交換器と脱揮槽からなる脱揮装置を用いる場合の反応処理温度は、好ましくは150〜350℃、より好ましくは200〜300℃である。反応処理温度が150℃未満であると、環化縮合反応が不充分となって残存揮発分が多くなることがある。逆に、反応処理温度が350℃を超えると、得られた重合体の着色や分解が起こることがある。
熱交換器と脱揮槽からなる脱揮装置を用いる場合の反応処理圧力は、好ましくは931〜1.33hPa(700〜1mmHg)、より好ましくは798〜66.5hPa(600〜50mmHg)である。反応処理圧力が931hPa(700mmHg)を超えると、アルコールを含めた揮発分が残存しやすいことがある。逆に、反応処理圧力が1.33hPa(1mmHg)未満であると、工業的な実施が困難になることがある。
ベント付き押出機を用いる場合、ベントは1個でも複数個でもいずれでもよいが、複数個のベントを有する方が好ましい。
ベント付き押出機を用いる場合の反応処理温度は、好ましくは150〜350℃、より好ましくは200〜300℃である。反応処理温度が150℃未満であると、環化縮合反応が不充分となって残存揮発分が多くなることがある。逆に、反応処理温度が350℃を超えると、得られた重合体の着色や分解が起こることがある。
ベント付き押出機を用いる場合の反応処理圧力は、好ましくは931〜1.33hPa(700〜1mmHg)、より好ましくは798〜13.3hPa(600〜10mmHg)である。反応処理圧力が931hPa(700mmHg)を超えると、アルコールを含めた揮発分が残存しやすいことがある。逆に、反応処理圧力が1.33hPa(1mmHg)未満であると、工業的な実施が困難になることがある。
なお、環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態の場合、後述するように、厳しい熱処理条件では得られるラクトン環含有重合体の物性が劣化することがあるので、前述した脱アルコール反応の触媒を用い、できるだけ温和な条件で、ベント付き押出機などを使用して行うことが好ましい。
また、環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態の場合、好ましくは、重合工程で得られた重合体(a)を溶剤と共に環化縮合反応装置に導入するが、この場合、必要に応じて、もう一度ベント付き押出機などの環化縮合反応装置に通してもよい。
脱揮工程を環化縮合反応の過程全体にわたっては併用せずに、過程の一部においてのみ併用する形態を行ってもよい。例えば、重合体(a)を製造した装置を、さらに加熱し、必要に応じて脱揮工程を一部併用して、環化縮合反応を予めある程度進行させておき、その後に引き続いて脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行い、反応を完結させる形態である。
先に述べた環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態では、例えば、重合体(a)を、二軸押出機を用いて、250℃付近、あるいはそれ以上の高温で熱処理する時に、熱履歴の違いにより環化縮合反応が起こる前に一部分解などが生じ、得られるラクトン環含有重合体の物性が劣化することがある。そこで、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行う前に、予め環化縮合反応をある程度進行させておくと、後半の反応条件を緩和でき、得られるラクトン環含有重合体の物性の劣化を抑制できるので好ましい。特に好ましい形態としては、例えば、脱揮工程を環化縮合反応の開始から時間をおいて開始する形態、すなわち、重合工程で得られた重合体(a)の分子鎖中に存在するヒドロキシ基とエステル基とを予め環化縮合反応させて環化縮合反応率をある程度上げておき、引き続き、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行う形態が挙げられる。具体的には、例えば、予め釜型反応器を用いて溶剤の存在下で環化縮合反応をある程度の反応率まで進行させておき、その後、脱揮装置を備えた反応器、例えば、熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置や、ベント付き押出機などで、環化縮合反応を完結させる形態が好ましく挙げられる。特に、この形態の場合、環化縮合反応用の触媒が存在していることがより好ましい。
前述したように、重合工程で得られた重合体(a)の分子鎖中に存在するヒドロキシ基とエステル基とを予め環化縮合反応させて環化縮合反応率をある程度上げておき、引き続き、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行う方法は、本発明においてラクトン環含有重合体を得る上で好ましい形態である。この形態により、ガラス転移温度がより高く、環化縮合反応率もより高まり、耐熱性に優れたラクトン環含有重合体が得られる。この場合、環化縮合反応率の目安としては、例えば、実施例に示すダイナッミクTG測定における150〜300℃の範囲内における質量減少率が、好ましくは2%以下、より好ましくは1.5%以下、さらに好ましくは1%以下である。
脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の際に採用できる反応器は、特に限定されるものではないが、例えば、オートクレーブ、釜型反応器、熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置などが挙げられ、さらに、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応に好適なベント付き押出機も使用可能である。これらの反応器のうち、オートクレーブ、釜型反応器が特に好ましい。しかし、ベント付き押出機などの反応器を用いる場合でも、ベント条件を温和にしたり、ベントをさせなかったり、温度条件やバレル条件、スクリュー形状、スクリュー運転条件などを調整することにより、オートクレーブや釜型反応器での反応状態と同じ様な状態で環化縮合反応を行うことが可能である。
脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の際には、例えば、重合工程で得られた重合体(a)と溶剤とを含む混合物を、(i)触媒を添加して、加熱反応させる方法、(ii)無触媒で加熱反応させる方法、および、前記(i)または(ii)を加圧下で行う方法などが挙げられる。
なお、ラクトン環化縮合工程において環化縮合反応に導入する「重合体(a)と溶剤とを含む混合物」とは、重合工程で得られた重合反応混合物それ自体、あるいは、いったん溶剤を除去した後に環化縮合反応に適した溶剤を再添加して得られた混合物を意味する。
脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の際に再添加できる溶剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;クロロホルム、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン;などが挙げられる。これらの溶媒は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。重合工程に使用した溶剤と同じ種類の溶剤を使用することが好ましい。
方法(i)で添加する触媒としては、例えば、一般に使用されるp−トルエンスルホン酸などのエステル化触媒またはエステル交換触媒、塩基性化合物、有機カルボン酸塩、炭酸塩などが挙げられるが、本発明においては、前述の有機リン化合物を用いることが好ましい。触媒の添加時期は、特に限定されるものではないが、例えば、反応初期に添加してもよいし、反応途中に添加してもよいし、それらの両方で添加してもよい。触媒の添加量は、特に限定されるものではないが、例えば、重合体(a)の質量に対して、好ましくは0.001〜5質量%、より好ましくは0.01〜2.5質量%、さらに好ましくは0.01〜1質量%、特に好ましくは0.05〜0.5質量%である。方法(i)の加熱温度や加熱時間は、特に限定されるものではないが、例えば、加熱温度は、好ましくは室温〜180℃、より好ましくは50〜150℃であり、加熱時間は、好ましくは1〜20時間、より好ましくは2〜10時間である。加熱温度が室温未満であるか、あるいは、加熱時間が1時間未満であると、環化縮合反応率が低下することがある。逆に、加熱温度180℃を超えるか、あるいは、加熱時間が20時間を超えると、樹脂の着色や分解が起こることがある。
方法(ii)は、例えば、耐圧性の釜型反応器などを用いて、重合工程で得られた重合反応混合物をそのまま加熱すればよい。方法(ii)の加熱温度や加熱時間は、特に限定されるものではないが、例えば、加熱温度は、好ましくは100〜180℃、より好ましくは100〜150℃であり、加熱時間は、好ましくは1〜20時間、より好ましくは2〜10時間である。加熱温度が100℃未満であるか、あるいは、加熱時間が1時間未満であると、環化縮合反応率が低下することがある。逆に、加熱温度が180℃を超えるか、あるいは加熱時間が20時間を超えると、樹脂の着色や分解が起こることがある。
いずれの方法においても、条件によっては、加圧下となっても何ら問題はない。
脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の際には、溶剤の一部が反応中に自然に揮発しても何ら問題ではない。
脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の終了時、すなわち、脱揮工程開始直前における、ダイナミックTG測定における150〜300℃の範囲内における質量減少率は、好ましくは2%以下、より好ましくは1.5%以下、さらに好ましくは1%以下である。質量減少率が2%を超えると、続けて脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行っても、環化縮合反応率が充分高いレベルまで上がらず、得られるラクトン環含有重合体の物性が劣化することがある。なお、上記の環化縮合反応を行う際に、重合体(a)に加えて、他の熱可塑性樹脂を共存させてもよい。
重合工程で得られた重合体(a)の分子鎖中に存在するヒドロキシ基とエステル基とを予め環化縮合反応させて環化縮合反応率をある程度上げておき、引き続き、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行う形態の場合、予め行う環化縮合反応で得られた重合体(分子鎖中に存在するヒドロキシ基とエステル基との少なくとも一部が環化縮合反応した重合体)と溶剤を、そのまま脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応に導入してもよいし、必要に応じて、前記重合体(分子鎖中に存在するヒドロキシ基とエステル基との少なくとも一部が環化縮合反応した重合体)を単離してから溶剤を再添加するなどのその他の処理を経てから脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応に導入しても構わない。
脱揮工程は、環化縮合反応と同時に終了することには限らず、環化縮合反応の終了から時間をおいて終了しても構わない。
≪2−ヒドロキシメチルアクリル酸エステル≫
本発明の2−ヒドロキシメチルアクリル酸エステルは、下記式(2):
[式中、R4およびR5は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜20の有機残基を表す;なお、有機残基は酸素原子を含有していてもよい]
で示される2−ヒドロキシメチルアクリル酸エステルであって、90℃で2時間の加熱試験後の濁度が0.05以下であることを特徴とする。本発明の2−ヒドロキシメチルアクリル酸エステルは、90℃で2時間の加熱試験後の濁度が好ましくは0.02以下、より好ましくは0.01以下である。
ここで、濁度の測定は、以下のようにして行うものとする。まず、2−ヒドロキシメチルアクリル酸エステル10gを容量20mLのガラス製スクリュー管に入れ、重合防止剤としてハイドロキノンモノメチルエーテル500ppmを添加し、蓋をする。このスクリュー管を90℃の恒温槽に入れ、2時間の加熱試験を行う。2時間経過後、スクリュー管を取り出して室温に冷却し、分光光度計(UV−1650PC、(株)島津製作所製)の波長を400nmとして、純水で吸光度0を合わせた状態で、目的物の吸光度(濁度)を測定する。
以下、上記式(2)で示される2−ヒドロキシメチルアクリル酸エステルの製造方法および精製方法について説明する。
上記式(2)で示される2−ヒドロキシメチルアクリル酸エステルは、下記式(4):
[式中、R4は水素原子または炭素数1〜20の有機残基を表す;なお、有機残基は酸素原子を含有していてもよい]
で示されるアクリル酸エステルと、アルデヒド系化合物とを、3級アミン化合物、および、反応終了時において水相を形成するに足る水の存在下で反応させることにより、製造することができる。
上記式(4)で示されるアクリル酸エステルとしては、例えば、(a)R4で表される置換基が水素原子であるアクリル酸;(b)R4で表される置換基が炭素数1〜18のアルキル基であるアクリル酸アルキルエステル、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸イソオクチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリルなど;(c)R4で表される置換基が炭素数3〜10のシクロアルキル基であるアクリル酸シクロアルキルエステル、例えば、アクリル酸シクロペンチル、アクリル酸シクロヘキシルなど;(d)R4で表される置換基がアリール基であるアクリル酸アリールエステル、例えば、アクリル酸フェニル、アクリル酸o−メトキシフェニル、アクリル酸p−メトキシフェニル、アクリル酸p−ニトロフェニル、アクリル酸o−メチルフェニル、アクリル酸p−メチルフェニル、アクリル酸p−t−ブチルフェニルなど;が挙げられる。これらのアクリル酸エステルのうち、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシルが特に好適である。
アルデヒド系化合物としては、アルデヒド基を含有する化合物;トリオキサン;パラアセトアルデヒド;および、下記式(5):
[式中、Yは水素原子、炭素数1〜8の直鎖状もしくは分枝鎖状のアルキル基、または炭素数3〜10のシクロアルキル基を表し、pは1〜100の整数を表す]
で示されるオキシメチレン化合物が挙げられる。なお、上記式(5)において、Yで表される置換基が炭素数3〜10のシクロアルキル基である場合、該シクロアルキル基は、さらに別の置換基を含有していてもよい。
アルデヒド基を含有する化合物としては、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、バレルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、ピバルアルデヒド、シクロヘキシルアルデヒド、シクロヘキセンアルデヒド、ベンズアルデヒド、トルアルデヒド、アニスアルデヒド、フルフラールなどが挙げられる。
上記式(5)で示されるオキシメチレン化合物としては、例えば、ホルムアルデヒドの重合体(2量体〜100量体)であるパラホルムアルデヒド、ホルムアルデヒドの20〜50質量%水溶液(水和ホルムアルデヒド)、ホルムアルデヒドの濃度が20〜50質量%であるメタノール水溶液などが挙げられる。
これらのアルデヒド系化合物のうち、アセトアルデヒド、パラホルムアルデヒド、ホルムアルデヒドの20〜50質量%水溶液、およびホルムアルデヒドの濃度が20〜50質量%であるメタノール水溶液が特に好適である。アルデヒド系化合物は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
上記式(4)で示されるアクリル酸エステルとアルデヒド系化合物とを反応させることにより、上記式(2)で示される2−ヒドロキシメチルアクリル酸エステルが得られる。上記式(2)において、R5で表される置換基は、アルデヒド系化合物に由来する置換基である。
上記反応における触媒として使用される3級アミン化合物としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリイソプロピルアミンなどのトリアルキルアミン;N,N−ジメチルエチルアミン、N,N−ジメチルプロピルアミン、N,N−ジメチルイソプロピルアミン、N,N−ジメチルブチルアミン、N,N−ジメチルイソブチルアミン、N,N−ジメチル−t−ブチルアミン、N,N−ジメチル(トリメチルシリル)アミンなどのN,N−ジメチルアルキルアミン;N,N−ジエチルメチルアミン、N,N−ジエチルプロピルアミン、N,N−ジエチルイソプロピルアミンなどのN,N−ジエチルアルキルアミン;などが挙げられる。これらの3級アミン化合物は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの3級アミン化合物のうち、水に対する溶解度が比較的高い化合物が好ましく、常圧における沸点が100℃以下であり、かつ、少なくとも1個のN−メチル基を有するN−メチルアルキルアミン(N−メチル化合物)がより好ましく、常圧における沸点が100℃以下であり、かつ、2個のN−メチル基を有するN,N−ジメチルアルキルアミンがさらに好ましく、トリメチルアミンが最も好ましい。
3級アミン化合物は、液体状、ガス状など、種々の状態での使用が可能であるが、5〜80質量%水溶液として使用することが好ましく、20〜60質量%水溶液として使用することがより好ましい。3級アミン化合物を水溶液の状態で使用することにより、反応開始時および反応時における取り扱いが容易になると共に、反応終了後に3級アミン化合物を回収して再使用する場合における取り扱いなども容易となる。
上記式(4)で示されるアクリル酸エステルとアルデヒド系化合物とのモル比(上記式(4)で示されるアクリル酸エステル/アルデヒド系化合物)は、特に限定されるものではないが、少なくとも2以上、より好ましくは2.5〜15、さらに好ましくは2.5〜8の範囲内である。このモル比が2未満であると、アルデヒド系化合物に由来する不純物の生成が多くなり、上記式(2)で示される2−ヒドロキシメチルアクリル酸エステルの選択率が低下すると共に、その精製に多くの労力を要することがある。
3級アミン化合物とアルデヒド系化合物とのモル比(3級アミン化合物/アルデヒド系化合物)は、特に限定されるものではないが、好ましくは0.01〜2、より好ましくは0.02〜1、さらに好ましくは0.05〜0.8の範囲内である。このモル比が0.01未満であると、反応速度の向上が認められず、副反応物の生成が多くなり、上記式(2)で示される2−ヒドロキシメチルアクリル酸エステルの選択率が低下することがある。逆に、このモル比が2を超えると、反応条件にもよるが、原料である上記式(4)で示されるアクリル酸エステルまたは生成物である上記式(2)で示される2−ヒドロキシメチルアクリル酸エステルの加水分解が起こることがある。
上記式(4)で示されるアクリル酸エステルとアルデヒド系化合物とは、反応終了時に水相を形成するに足る水の存在下で反応させる。好ましくは、反応開始時、反応時および反応終了時を通じて、反応溶液(反応系)が有機相および水相の2相系を形成して、反応が進行することができ得る量の水の存在下で反応させる。なお、有機相とは、実質的に水に不溶な化合物、すなわち、原料である上記式(4)で示されるアクリル酸エステル、生成物である上記式(2)で示される2−ヒドロキシメチルアクリル酸エステル、および後述する溶媒などからなる混合物を意味する。
水の使用量は、特に限定されるものではなく、例えば、上記式(4)で示されるアクリル酸エステル、アルデヒド系化合物、3級アミン化合物、および溶媒などの種類(性質)や組合せ、使用量;得られる式(2)で示される2−ヒドロキシメチルアクリル酸エステルの性質;反応温度などの反応条件;などを考慮に入れて、最適な量となるように、適宜設定すればよい。具体的には、例えば、上記式(4)で示されるアクリル酸エステルとしてアクリル酸メチルを用い、アルデヒド系化合物としてパラホルムアルデヒドを用い、3級アミン化合物としてトリメチルアミンを用いる場合には、反応条件にもよるが、アクリル酸メチルおよびパラホルムアルデヒドの合計量に対する水の量が2〜40質量%程度となるように、水を添加すればよい。このような量の水を添加することにより、反応開始時、反応時および反応終了時を通じて、反応溶液が有機相および水相の2相系を形成し、反応が効率的に進行する。
反応に際しては、必要に応じて、有機相を形成するために水に不溶な溶媒を用いることができる。溶媒の種類は、上記式(4)で示されるアクリル酸エステル、アルデヒド系化合物、および上記式(2)で示される2−ヒドロキシメチルアクリル酸エステルなどを溶解し、かつ、反応に対して不活性な化合物である限り、特に限定されるものではない。溶媒の使用量は、特に限定されるものではないが、例えば、上記式(4)で示されるアクリル酸エステル、アルデヒド系化合物、3級アミン化合物、および溶媒などの種類(性質)や組合せ、使用量;得られる式(2)で示される2−ヒドロキシメチルアクリル酸エステルの性質;反応温度などの反応条件;などを考慮に入れて、最適な量となるように、適宜設定すればよい。溶媒は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。なお、上記式(4)で示されるアクリル酸エステルを大過剰に使用することにより、溶媒として利用することもできる。
上記反応を行う際の反応条件などは、特に限定されるものではないが、原料である上記式(4)で示されるアクリル酸エステルおよび生成物である上記式(2)で示される2−ヒドロキシメチルアクリル酸エステルは、分子内に重合性二重結合を有するので、重合しやすい性質を有している。そこで、上記式(4)で示されるアクリル酸エステルとアルデヒド系化合物とを反応させる際には、これらの化合物が重合するのを抑制するために、反応系に重合防止剤(または重合禁止剤)や分子状酸素を添加することが好ましい。
重合防止剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン、t−ブチルハイドロキノン、2,4−ジ−t−ブチルハイドロキノン、2,4−ジメチルハイドロキノンなどのキノン類;フェノチアジンなどのアミン化合物;2,4−ジメチル−6−t−ブチルフェノール、2,4−ジ−t−ブチルフェノール、p−メトキシフェノールなどのフェノール類;などが挙げられる。これらの重合防止剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。重合防止剤の添加量は、特に限定されるものではないが、例えば、上記式(4)で示されるアクリル酸エステルに対する割合が0.001〜1質量%の範囲内になるようにすればよい。
分子状酸素としては、例えば、空気、または、分子状酸素と窒素などとの混合ガスを用いることができる。この場合、反応溶液、つまり、有機相または水相に分子状酸素を含有させるために攪拌するとか分子状酸素を含有するガスを吹き込むように(いわゆる、バブリング)すればよい。そして、重合を充分に抑制するために、重合防止剤と分子状酸素とを併用することが好ましい。
反応温度は、特に限定されるものではないが、重合を抑制するためには、好ましくは10〜150℃、より好ましくは40〜100℃、さらに好ましくは40〜80℃の範囲内である。反応温度が10℃未満であると、反応速度が遅くなるので、反応時間が長くなり過ぎ、上記式(2)で示される2−ヒドロキシメチルアクリル酸エステルを効率的に製造することができないことがある。逆に、反応温度が150℃を超えると、重合を抑制することができなくなると共に、上記式(4)で示されるアクリル酸エステルの加水分解が起こることがある。
反応時間は、上記反応が完結するように、反応温度や、上記式(4)で示されるアクリル酸エステル、アルデヒド系化合物、3級アミン化合物、および溶媒などの種類(性質)や組合せ、使用量などに応じて、適宜設定すればよい。そこで、反応時間は、特に限定されるものではないが、おおよそ0.5〜10時間程度で充分である。また、反応圧力は、特に限定されるものではなく、常圧(例えば、大気圧)、減圧、加圧のいずれであってもよい。
反応終了後、分液などの所定の操作を行い、反応溶液を有機相と水相とに分離する。必要に応じて、有機相を充分に水洗してから、分別蒸留により、未反応の上記式(4)で示されるアクリル酸エステル、および溶媒を分離・回収する。そして、所定の温度で還流して熱処理を行った後、精留することにより、高純度の上記式(2)で示される2−ヒドロキシメチルアクリル酸エステルを簡便に得ることができる。一般的に、上記式(4)で示されるアクリル酸エステルとアルデヒド系化合物とを反応させることにより得られた粗製の上記式(2)で示される2−ヒドロキシメチルアクリル酸エステルには、微量ではあるが、複数の副生成物が含まれている。そして、その副生成物のうちいくつかは、目的物である上記式(2)で示される2−ヒドロキシメチルアクリル酸エステルとの沸点差が小さい不純物である。
熱処理される不純物、すなわち目的物である上記式(2)で示される2−ヒドロキシメチルアクリル酸エステルとの沸点差が小さい不純物とは、粗製の上記式(2)で示される2−ヒドロキシメチルアクリル酸エステルに含まれるアセタール化合物である。このアセタール化合物としては、例えば、目的物が2−ヒドロキシメチルアクリル酸エチルである場合には、2−エトキシメトキシメチルアクリル酸エチルなどが挙げられる。
上記アセタール化合物は、目的物である上記式(2)で示される2−ヒドロキシメチルアクリル酸エステルとの沸点差が小さいので、そのままでは、蒸留による分離は困難である。しかし、本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、上記アセタール化合物は、熱処理により、容易に、上記式(2)で示される2−ヒドロキシメチルアクリル酸エステルより高沸点の化合物に変化することが判明した。
粗製の上記式(2)で示される2−ヒドロキシメチルアクリル酸エステルを熱処理する温度は、それに含まれるアセタール化合物が高沸点の化合物に変化する温度であり、かつ精留時のボトム温度に対して、−10〜30℃の範囲内であれば、得られた上記式(2)で示される2−ヒドロキシメチルアクリル酸エステルを貯蔵中に白色異物が発生することはない。さらに、熱処理の温度は、精留時のボトム温度に対して、0〜25℃の範囲内が好ましく、効率的に処理するためには、精留時のボトム温度に対して、10〜20℃の範囲内がより好ましい。熱処理の温度が精留時のボトム温度に対して、−10℃より低い場合には、得られた上記式(2)で示される2−ヒドロキシメチルアクリル酸エステルを貯蔵している間に白色異物が発生しやすくなることがある。また、上記式(2)で示される2−ヒドロキシメチルアクリル酸エステルは、分子内に重合性二重結合を有するので、重合しやすい性質を有している。このため、熱処理の温度が精留時のボトム温度に対して、30℃よりも高い場合には、重合を抑制できなくなることがある。
さらに、熱処理に際しては、真空下、沸騰状態で行う方が好ましい。上記式(2)で示される2−ヒドロキシメチルアクリル酸エステルは、沸騰して留出するが、コンデンサで冷却されて蒸留装置内に戻される。この際の真空度については、精留時のボトム温度に対して、−10〜30℃の範囲内の温度で沸騰する圧力であればよい。
熱処理の時間は、熱処理の温度に応じて適宜設定すればよく、特に限定されるものではないが、通常、0.5〜5時間の範囲内である。
また、上記式(2)で示される2−ヒドロキシメチルアクリル酸エステルは、重合しやすい性質を有しているので、熱処理を行う際には、この化合物が重合するのを抑制するために、重合防止剤(重合禁止剤)や分子状酸素を添加することが好ましい。
重合防止剤としては、特に限定されるものではないが、上記式(4)で示されるアクリル酸エステルとアルデヒド系化合物とを反応させる際に使用可能な重合防止剤として列挙した上記のような重合防止剤が挙げられる。重合防止剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。重合防止剤の添加量は、特に限定されるものではないが、例えば、粗製の上記式(2)で示される2−ヒドロキシメチルアクリル酸エステルに対する割合が0.01〜1質量%の範囲内になるようにすればよい。
分子状酸素としては、例えば、空気、または、分子状酸素と窒素などとの混合ガスを用いることができる。この場合、反応溶液、つまり、有機相または水相に分子状酸素を含有するガスを吹き込むように(いわゆる、バブリング)すればよい。そして、重合を充分に抑制するために、重合防止剤と分子状酸素とを併用することが好ましい。
このように、上記式(4)で示されるアクリル酸エステルとアルデヒド系化合物とを反応させて得られる粗製の上記式(2)で示される2−ヒドロキシメチルアクリル酸エステルを精製するに際して、精留時のボトム温度に対して、−10〜30℃の範囲内の温度で熱処理を行った後、精留することにより、高純度の上記式(2)で示される2−ヒドロキシメチルアクリル酸エステルが得られる。上記熱処理により、目的物である上記式(2)で示される2−ヒドロキシメチルアクリル酸エステルとの沸点差が小さい不純物であるアセタール化合物は、上記式(2)で示される2−ヒドロキシメチルアクリル酸エステルより高沸点の化合物に変化する。この際、軽沸成分も発生するので、精留前に高い温度で熱処理することにより、精留時に白濁の要因となる成分を除去しておくことができる。このため、高品質の上記式(2)で示される2−ヒドロキシメチルアクリル酸エステルを高い収率で得ることができる。
上記したように、ラクトン環含有重合体を製造するにあたり、このような高品質の上記式(2)で示される2−ヒドロキシメチルアクリル酸エステルを単量体に用い、かつt−アミル型の過酸化物を重合開始剤に用いれば、ラクトン環含有重合体におけるポリマーゲルの発生を極めて効果的に抑制することができる。
≪ラクトン環含有重合体の用途および成形≫
本発明のラクトン環含有重合体は、透明性や耐熱性に優れるだけでなく、低着色性、機械的強度、成形加工性などの所望の特性を備えると共に、特に異物が少なくゲル化し難い成形材料であるので、光学用途に特に好適である。本発明のラクトン環含有重合体は、例えば、導光体、光学レンズ、光学フィルム、光学プリズム、光学ディスクなどの光学部品に有用であるが、これらの光学部品のうち、導光体、光学レンズ、光学フィルムなどが特に好ましい。
本発明のラクトン環含有重合体は、用途に応じて様々な形状に成形することができる。通常、本発明のラクトン環含有重合体は、加熱造粒してなる、例えば、ペレットなどの成形材料とした後、様々な形状に2次成形される。成形可能な形状としては、例えば、フィルム、シート、プレート、ディスク、ブロック、ボール、レンズ、ロッド、ストランド、コードなどが挙げられる。成形方法としては、従来公知の成形方法の中から形状に応じて適宜選択すればよく、特に限定されるものではない。
以下、特に好ましい用途である光学フィルムを一例として、本発明のラクトン環含有重合体から光学フィルムを製造する方法について詳しく説明する。
<光学フィルムの製造>
本発明のラクトン環含有重合体から光学フィルムを製造するには、例えば、オムニミキサーなど、従来公知の混合機でフィルム原料をプレブレンドした後、得られた混合物を押出混練する。この場合、押出混練に用いる混合機は、特に限定されるものではなく、例えば、単軸押出機、二軸押出機などの押出機や加圧ニーダーなど、従来公知の混合機を用いることができる。
フィルム成形の方法としては、例えば、溶液キャスト法(溶液流延法)、溶融押出法、カレンダー法、圧縮成形法など、従来公知のフィルム成形法が挙げられる。これらのフィルム成形法のうち、溶液キャスト法(溶液流延法)、溶融押出法が特に好適である。
溶液キャスト法(溶液流延法)に使用する溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;シクロヘキサン、デカリンなどの脂肪族炭化水素類;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類;アセトン、メチルエチエルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブなどのアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素類;ジメチルホルムアミド;ジメチルスルホキシド;などが挙げられる。これらの溶媒は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
溶液キャスト法(溶液流延法)を行うための装置としては、例えば、ドラム式キャスティングマシン、バンド式キャスティングマシン、スピンコーターなどが挙げられる。
溶融押出法としては、例えば、Tダイ法、インフレーション法などが挙げられ、その際の成形温度は、フィルム原料のガラス転移温度に応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、好ましくは150〜350℃、より好ましくは200〜300℃である。
Tダイ法でフィルム成形する場合は、公知の単軸押出機や二軸押出機の先端部にTダイを取り付け、フィルム状に押出されたフィルムを巻取って、ロール状のフィルムを得ることができる。この際、巻取りロールの温度を適宜調整して、押出方向に延伸を加えることで、1軸延伸することも可能である。また、押出方向と垂直な方向にフィルムを延伸することにより、同時2軸延伸、逐次2軸延伸などを行うこともできる。
本発明のラクトン環含有重合体からなるフィルムは、未延伸フィルムまたは延伸フィルムのいずれでもよい。延伸フィルムである場合は、1軸延伸フィルムまたは2軸延伸フィルムのいずれでもよい。2軸延伸フィルムである場合は、同時2軸延伸フィルムまたは逐次2軸延伸フィルムのいずれでもよい。2軸延伸した場合は、機械的強度が向上し、フィルム性能が向上する。本発明のラクトン環含有重合体は、その他の熱可塑性樹脂を混合することにより、延伸しても位相差の増大を抑制することができ、光学的等方性を保持したフィルムを得ることができる。
延伸温度は、フィルム原料であるラクトン環含有重合体のガラス転移温度近傍であることが好ましく、具体的には、好ましくは(ガラス転移温度−30℃)〜(ガラス転移温度+100℃)、より好ましくは(ガラス転移温度−20℃)〜(ガラス転移温度+80℃)の範囲内である。延伸温度が(ガラス転移温度−30℃)未満であると、充分な延伸倍率が得られないことがある。逆に、延伸温度が(ガラス転移温度+100℃)超えると、重合体の流動(フロー)が起こり、安定な延伸が行えなくなることがある。
面積比で定義した延伸倍率は、好ましくは1.1〜25倍、より好ましくは1.3〜10倍の範囲内である。延伸倍率が1.1倍未満であると、延伸に伴う靭性の向上につながらないことがある。逆に、延伸倍率が25倍を超えると、延伸倍率を上げるだけの効果が認められないことがある。
延伸速度は、一方向で、好ましくは10〜20,000%/min、より好ましく100〜10,000%/minの範囲内である。延伸速度が10%/min未満であると、充分な延伸倍率を得るために時間がかかり、製造コストが高くなることがある。逆に、延伸速度が20,000%/minを超えると、延伸フィルムの破断などが起こることがある。
なお、本発明のラクトン環含有重合体からなるフィルムは、その光学的等方性や機械的特性を安定化させるために、延伸処理後に熱処理(アニーリング)などを行うことができる。熱処理の条件は、従来公知の延伸フィルムに対して行われる熱処理の条件と同様に適宜選択すればよく、特に限定されるものではない。
本発明のラクトン環含有重合体からなるフィルムは、その厚さが好ましくは5〜200μm、より好ましくは10〜100μmである。厚さが5μm未満であると、フィルムの強度が低下するだけでなく、他の部品に貼着して耐久性試験を行うと捲縮が大きくなることがある。逆に、厚さが200μmを超えると、フィルムの透明性が低下するだけでなく、透湿性が小さくなり、他の部品に貼着する際に水系接着剤を用いた場合、その溶剤である水の乾燥速度が遅くなることがある。
本発明のラクトン環含有重合体からなるフィルムは、その表面の濡れ張力が、好ましくは40mN/m以上、より好ましくは50mN/m以上、さらに好ましくは55mN/m以上である。表面の濡れ張力が少なくとも40mN/m以上であると、本発明のラクトン環含有重合体からなるフィルムと他の部品との接着強度がさらに向上する。表面の濡れ張力を調整するために、例えば、コロナ放電処理、オゾン吹き付け、紫外線照射、火炎処理、化学薬品処理、その他の従来公知の表面処理を施すことができる。
本発明のラクトン環含有重合体からなるフィルムには、種々の添加剤を含有していてもよい。添加剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系、リン系、イオウ系などの酸化防止剤;耐光安定剤、耐候安定剤、熱安定剤などの安定剤;ガラス繊維、炭素繊維などの補強材;フェニルサリチレート、(2,2’−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−ヒドロキシベンゾフェノンなどの紫外線吸収剤;近赤外線吸収剤;トリス(ジブロモプロピル)ホスフェート、トリアリルホスフェート、酸化アンチモンなどの難燃剤;アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤などの帯電防止剤;無機顔料、有機顔料、染料などの着色剤;有機充填剤や無機充填剤;樹脂改質剤;可塑剤;滑剤;帯電防止剤;などが挙げられる。
ラクトン環含有重合体を主成分とする熱可塑性樹脂フィルム中における添加剤の含有割合は、好ましくは0〜5質量%、より好ましくは0〜2質量%、さらに好ましくは0〜0.5質量%である。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例により制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
まず、ラクトン環含有重合体の評価方法について説明する。
<重合反応率、重合体組成分析>
重合反応時の反応率および重合体中の特定単量体単位の含有率は、得られた重合反応混合物中の未反応単量体の量をガスクロマトグラフ(GC17A、(株)島津製作所製)を使用して測定して求めた。
<ダイナミックTG>
重合体(または重合体溶液もしくはペレット)をいったんテトラヒドロフランに溶解または希釈し、過剰のヘキサンまたはメタノールに投入して再沈殿を行い、取り出した沈殿物を真空乾燥(1.33hPa(1mmHg)、80℃、3時間以上)することによって揮発成分などを除去し、得られた白色固形状の樹脂を以下の方法(ダイナミックTG法)で分析した。
測定装置:差動型示差熱天秤(Thermo Plus 2 TG−8120 ダイナミックTG、(株)リガク製)
測定条件:試料量5〜10mg
昇温速度:10℃/min
雰囲気:窒素フロー200mL/min
方法:階段状等温制御法(60℃から500℃までの範囲内における質量減少速度値0.005%/s以下に制御)
<ラクトン環化率>
例としてメタクリル酸メチルと2−ヒドロキシメチルアクリル酸メチルから得られた重合体組成の場合、すべてのヒドロキシ基がメタノールとして脱アルコールした際に起こる質量減少量を基準にし、ダイナミックTG測定において質量減少が始まる前の150℃から重合体の分解が始まる前の300℃までの脱アルコール反応による質量減少から、脱アルコール反応率を求めることができる。
すなわち、ラクトン環構造を有する重合体のダイナミックTG測定において150℃から300℃までの間の質量減少率の測定を行い、得られた実測値を実測質量減少率(X)とする。他方、当該重合体の組成から、その重合体組成に含まれるすべてのヒドロキシ基がラクトン環の形成に関与するためにアルコールになり脱アルコールすると仮定した時の質量減少率(すなわち、その組成上において100%脱アルコール反応が起きたと仮定して算出した質量減少率)を理論質量減少率(Y)とする。なお、理論質量減少率(Y)は、より具体的には、重合体中の脱アルコール反応に関与する構造(ヒドロキシ基)を有する原料単量体のモル比、すなわち当該重合体組成における原料単量体の含有率から算出することができる。これらの値を脱アルコール計算式:
1−(実測質量減少率(X)/理論質量減少率(Y))
に代入してその値を求め、百分率(%)で表記すると、脱アルコール反応率(ラクトン環化率)が得られる。
一例として、後述の実施例1で得られたペレットにおけるラクトン環構造の含有割合を計算する。この重合体の理論質量減少率(Y)を求めてみると、メタノールの分子量は32であり、2−ヒドロキシメチルアクリル酸メチルの分子量は116であり、2−ヒドロキシメチルアクリル酸メチルの重合体中の含有率(質量比)は組成上20.0質量%であるから、(32/116)×20.0質量%≒5.52質量%となる。他方、ダイナミックTG測定による実測質量減少率(X)は0.17質量%であった。これらの値を上記の脱アルコール計算式に当てはめると、1−(0.17/5.52)≒0.969となるので、脱アルコール反応率(ラクトン環化率)は、96.9%である。
<重量平均分子量>
重合体の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフ(GPCシステム、東ソー(株)製)を用いて、ポリスチレン換算により求めた。展開液はクロロホルムを用いた。
<重合体の熱分析>
重合体の熱分析は、示差走査熱量計(DSC−8230、(株)リガク製)を用いて、試料約10mg、昇温速度10℃/min、窒素フロー50mL/minの条件で行った。なお、ガラス転移温度(Tg)は、ASTM−D−3418に準拠して、中点法で求めた。
<メルトフローレート>
メルトフローレートは、JIS−K6874に準拠して、試験温度240℃、荷重10kgで測定した。
<溶融粘度の測定>
重合体の溶融粘度は、フローテスター(CFT−500C、(株)島津製作所製)を用いて、温度250℃、荷重10kgf/cm2、ダイ形状0.5mmφ×1mmの条件で測定した。
<ポリマーゲルの含有量>
100gの重合体を、精密濾過により精製したメチルエチルケトン500mLに溶解した。得られた重合体溶液を、平均孔径1.0μmのポリテトラフルオロエチレン製メンブランフィルターに通過させて、ポリマーゲルをメンブランフィルター上に濾取した。得られたポリマーゲルのうち、平均粒径50μm以上のものについて、顕微鏡下、目視によって計数し、重合体100gあたりの個数として表した。
次に、2−ヒドロキシメチルアクリル酸メチルの合成例について説明する。なお、合成例1では、分別蒸留時における蒸留釜内の温度に対して、0〜26.5℃高い温度で熱処理を行い、高純度の2−ヒドロキシメチルアクリル酸メチルを得た。合成例2では、分別蒸留時のおける蒸留釜内の温度に対して、2〜30℃低い温度で熱処理を行い、低純度の2−ヒドロキシメチルアクリル酸メチルを得た。
≪合成例1≫
温度計、ガス吹き込み管、冷却管、攪拌装置、水浴を備えた容量3Lの4つ口フラスコに、上記式(4)で示されるアクリル酸エステルとしてアクリル酸メチル2,066g(24モル)、アルデヒド系化合物として92質量%パラホルムアルデヒド195.8g(6モル)、3級アミン化合物として30質量%トリメチルアミン水溶液237.8g(1.2モル)、重合防止剤としてp−メトキシフェノール2.1gを仕込んだ。アクリル酸メチルに対するp−メトキシフェノールの割合は、1,000ppmであった。その後、反応溶液に空気を吹き込みながら、反応溶液を70℃で8時間攪拌して反応させた。
反応終了後、反応溶液を分液ロートに移し、有機相と水相とに分液した。次に、有機相に水100gを加えて水洗を行った。有機相と水相とに分液した後、有機相をさらに同量の水で水洗し、有機相と水洗液とに分液した。
得られた有機相を、温度計、ガス吹き込み管、空塔蒸留管、攪拌装置、油浴を備えた容量2Lの4つ口フラスコに移し、安定剤としてのフェノチアジン5gを添加し、空気を吹き込みながら、内温が100℃を超えないように調節しつつ、圧力400〜133hPa(300〜100mmHg)でアクリル酸メチルを回収した。
次いで、圧力を40hPa(30mmHg)とし、内温110〜120℃で沸騰させながら熱処理を行った。沸騰した液は、コンデンサで冷却してフラスコに戻した。
熱処理後、有機相の分別蒸留を行い、塔頂温度86〜87℃/13.3hPa(10mmHg)の留分である2−ヒドロキシメチルアクリル酸メチル418gを得た。この目的物を得た際の精留時のボトム温度は93.5〜110℃であった。
かくして得られた2−ヒドロキシメチルアクリル酸メチル10gを容量20mLのガラス製スクリュー管に入れ、重合防止剤としてハイドロキノンモノメチルエーテル500ppmを添加し、蓋をした。このスクリュー管を90℃の恒温槽に入れ、2時間の加熱試験を行った。2時間経過後、スクリュー管を取り出して冷却し、分光光度計(UV−1650PC、(株)島津製作所製)の波長を400nmとして、純水で吸光度0を合わせた状態で、目的物の吸光度(濁度)を測定した。この目的物の濁度は0.001であった。
この目的物を40℃で3ヶ月貯蔵したが、目的物は無色透明であり、白濁異物は発生しなかった。
≪合成例2≫
アクリル酸メチルを回収する工程までは、実施例1と同様の操作を行った。その後、圧力を26.7hPa(20mmHg)とし、内温100〜110℃で沸騰させながら熱処理を行った。沸騰した液はコンデンサで冷却してフラスコに戻した。
熱処理後、有機相の分別蒸留を行い、塔頂温度105〜106℃/40hPa(30mmHg)の留分である2−ヒドロキシメチルアクリル酸メチル407gを得た。この目的物を得た際の精留時のボトム温度は112〜130℃であった。
かくして得られた2−ヒドロキシメチルアクリル酸メチル10gを容量20mLのガラス製スクリュー管に入れ、重合防止剤としてのハイドロキノンモノメチルエーテル500ppmを添加し、蓋をした。このスクリュー管を90℃の恒温槽に入れ、2時間の加熱試験を行った。2時間経過後、スクリュー管を取り出して冷却し、分光光度計(UV−1650PC、(株)島津製作所製)の波長を400nmとして、純水で吸光度0を合わせた状態で、目的物の吸光度(濁度)を測定した。この目的物の濁度は0.072であった。
この目的物を40℃で3ヶ月貯蔵したが、2ヶ月目より白く曇り、3ヶ月後には白色の沈殿物が発生していた。
≪実施例1≫
攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管を備えた容量30Lの釜型反応器に、8,000gのメタクリル酸メチル(MMA)、2,000gの2−ヒドロキシメチルアクリル酸メチル(MHMA;合成例1で調製)、10,000gのトルエンを仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温し、還流したところで、重合開始剤として10.0gのt−アミルパーオキシイソノナノエート(ルパゾール570、アトフィナ吉富(株)製)を添加すると同時に、20.0gのt−アミルパーオキシイソノナノエートと100gのトルエンからなる溶液を2時間かけて滴下しながら、還流下、約105〜110℃で溶液重合を行い、さらに4時間かけて熟成を行った。
得られた重合体溶液に、10gのリン酸ステアリル/リン酸ジステアリル混合物(Phoslex A−18、堺化学工業(株)製)を加え、還流下、約90〜110℃で5時間、環化縮合反応を行った。次いで、得られた重合体溶液を、バレル温度260℃、回転数100rpm、減圧度13.3〜400hPa(10〜300mmHg)、リアベント数1個、フォアベント数4個のベントタイプスクリュー二軸押出し機(φ=29.75mm、L/D=42)に、樹脂量換算で、2.0kg/hの処理速度で導入し、この押出し機内で、さらに環化縮合反応と脱揮を行い、押し出すことにより、ラクトン環含有重合体の透明なペレットを得た。
得られたラクトン環含有重合体について、ダイナミックTGの測定を行ったところ、0.17質量%の質量減少を検知した。また、このラクトン環含有重合体は、重量平均分子量が147,700、ガラス転移温度が130℃、メルトフローレートが11.0g/10min、ラクトン環化率は97%、ポリマーゲル含有量は2個/100gであった。結果を表1に示す。
また、得られたラクトン環含有重合体のペレットを、バレル温度270℃、回転数100rpmの2軸押出機(φ=29.75mm、L/D=30)で混練試験を行ったところ、ポリマーゲルの含有量は2個/100gのままであった。結果を表1に示す。
得られたラクトン環含有重合体のペレットの250℃における溶融粘度を測定したところ、2,100ポアズであった。次いで、このラクトン環含有重合体のペレットを280℃のオーブン中に30分間放置した後、再びラクトン環含有重合体の250℃における溶融粘度を測定したところ、3,700ポアズであった。加熱前後の溶融粘度から、粘度増加率(加熱後/加熱前)は1.76であった。結果を表1に示す。
《参考例》
攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管を備えた容量30Lの釜型反応器に、8,000gのメタクリル酸メチル(MMA)、2,000gの2−ヒドロキシメチルアクリル酸メチル(MHMA;合成例2で調製)、10,000gのトルエン、5.0gのn−ドデシルメルカプタンを仕込み、これに窒素を通じつつ、100℃まで昇温し、還流したところで、重合開始剤として10.0gのt−アミルパーオキシイソノナノエート(ルパゾール570、アトフィナ吉富(株)製)を添加すると同時に、20.0gのt−アミルパーオキシイソノナノエートと100gのトルエンからなる溶液を2時間かけて滴下しながら、還流下、約95〜110℃で溶液重合を行い、さらに4時間かけて熟成を行った。
得られた重合体溶液に、10gのリン酸ステアリル/リン酸ジステアリル混合物(Phoslex A−18、堺化学工業(株)製)を加え、還流下、約90〜110℃で5時間、環化縮合反応を行った。次いで、得られた重合体溶液を、実施例1と同様に、押出し機内で環化縮合反応と脱揮を行い、押し出すことにより、ラクトン環含有重合体の透明なペレットを得た。
得られたラクトン環含有重合体について、ダイナミックTGの測定を行ったところ、0.18質量%の質量減少を検知した。また、このラクトン環含有重合体は、重量平均分子量が141,000、ガラス転移温度が130℃、メルトフローレートが13.0g/10min、ラクトン環化率は97%、ポリマーゲル含有量は58個/100gであった。結果を表1に示す。
また、得られたラクトン環含有重合体のペレットを、実施例1と同様の条件で混練試験を行ったところ、ポリマーゲルの含有量は60個/100gに増加した。結果を表1に示す。
得られたラクトン環含有重合体のペレットの250℃における溶融粘度を測定したところ、2,050ポアズであった。次いで、このラクトン環含有重合体のペレットを280℃のオーブン中に30分間放置した後、再びラクトン環含有重合体の250℃における溶融粘度を測定したところ、3,800ポアズであった。加熱前後の溶融粘度から、粘度増加率(加熱後/加熱前)は1.85であった。結果を表1に示す。
≪実施例3≫
攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管を備えた容量30Lの釜型反応器に、8,000gのメタクリル酸メチル(MMA)、2,000gの2−ヒドロキシメチルアクリル酸メチル(MHMA;合成例1で調製)、10,000gのトルエンを仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温し、還流したところで、重合開始剤として5.0gの1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)(V−40、和光純薬工業(株)製)を添加すると同時に、10.0gの1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)と100gのトルエンからなる溶液を2時間かけて滴下しながら、還流下、約105〜110℃で溶液重合を行い、さらに4時間かけて熟成を行った。
得られた重合体溶液に、10gのリン酸ステアリル/リン酸ジステアリル混合物(Phoslex A−18、堺化学工業(株)製)を加え、還流下、約90〜110℃で5時間、環化縮合反応を行った。次いで、得られた重合体溶液を、実施例1と同様に、押出し機内で環化縮合反応と脱揮を行い、押し出すことにより、ラクトン環含有重合体の透明なペレットを得た。
得られたラクトン環含有重合体について、ダイナミックTGの測定を行ったところ、0.31質量%の質量減少を検知した。また、このラクトン環含有重合体は、重量平均分子量が168,000、ガラス転移温度が131℃、メルトフローレートが7.2g/10min、ラクトン環化率は94%、ポリマーゲル含有量は5個/100gであった。結果を表1に示す。
また、得られたラクトン環含有重合体のペレットを、実施例1と同様の条件で混練試験を行ったところ、ポリマーゲルの含有量は5個/100gのままであった。結果を表1に示す。
得られたラクトン環含有重合体のペレットの250℃における溶融粘度を測定したところ、4,400ポアズであった。次いで、このラクトン環含有重合体のペレットを280℃のオーブン中に30分間放置した後、再びラクトン環含有重合体の250℃における溶融粘度を測定したところ、8,000ポアズであった。加熱前後の溶融粘度から、粘度増加率(加熱後/加熱前)は1.82であった。結果を表1に示す。
≪実施例4≫
攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管を備えた容量30Lの釜型反応器に、800gのメタクリル酸メチル(MMA)、200gの2−ヒドロキシメチルアクリル酸メチル(MHMA;合成例1で調製)、1000gのトルエンを仕込み、重合開始剤として、12.0gのジクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、10.2gのアルミニウムトリイソプロポキシド、4.7gの2,2’−ジクロロアセトフェノンを添加した。還流下、約105〜110℃で溶液重合を行い、さらに24時間かけて熟成を行った。
得られた重合体溶液を過剰のヘキサンに添加し、ポリマー分を沈殿させ、沈殿物をヘキサンと水とで洗浄した後、80℃、1.33hPa(1mmHg)で3時間以上真空乾燥することによって、揮発成分などを除去した。
得られたポリマーを再度トルエンに溶解させ、50%溶液とした。この溶液に、ポリマー1gに対して0.001gのリン酸ステアリル/リン酸ジステアリル混合物(Phoslex A−18、堺化学工業(株)製)を加え、還流下、約90〜110℃で5時間、環化縮合反応を行った。次いで、得られた重合体溶液を、実施例1と同様に、押出し機内で環化縮合反応と脱揮を行い、押し出すことにより、ラクトン環含有重合体の透明なペレットを得た。
得られたラクトン環含有重合体について、ダイナミックTGの測定を行ったところ、0.22質量%の質量減少を検知した。また、このラクトン環含有重合体は、重量平均分子量が72,000、ガラス転移温度が130℃、メルトフローレートが32.5g/10min、ラクトン環化率は96%、ポリマーゲル含有量は20個/100gであった。結果を表1に示す。
また、得られたラクトン環含有重合体のペレットを、実施例1と同様の条件で混練試験を行ったところ、ポリマーゲルの含有量は20個/100gのままであった。結果を表1に示す。
得られたラクトン環含有重合体のペレットの250℃における溶融粘度を測定したところ、1,700ポアズであった。次いで、このラクトン環含有重合体のペレットを280℃のオーブン中に30分間放置した後、再びラクトン環含有重合体の250℃における溶融粘度を測定したところ、2,500ポアズであった。加熱前後の溶融粘度から、粘度増加率(加熱後/加熱前)は1.47であった。結果を表1に示す。
≪比較例1≫
攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管を備えた容量30Lの釜型反応器に、8,000gのメタクリル酸メチル(MMA)、2,000gの2−ヒドロキシメチルアクリル酸メチル(MHMA;合成例2で調製)、10,000gのトルエン、5.0gのn−ドデシルメルカプタンを仕込み、これに窒素を通じつつ、100℃まで昇温し、還流したところで、重合開始剤として10.0gのt−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート(カヤカルボンBIC−75、化薬アクゾ(株)製)を添加すると同時に、20.0gのt−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートと100gのトルエンからなる溶液を2時間かけて滴下しながら、還流下、約95〜110℃で溶液重合を行い、さらに4時間かけて熟成を行った。
得られた重合体溶液に、10gのリン酸ステアリル/リン酸ジステアリル混合物(Phoslex A−18、堺化学工業(株)製)を加え、還流下、約90〜110℃で5時間、環化縮合反応を行った。次いで、得られた重合体溶液を、実施例1と同様に、押出し機内で環化縮合反応と脱揮を行い、押し出すことにより、ラクトン環含有重合体の透明なペレットを得た。
得られたラクトン環含有重合体について、ダイナミックTGの測定を行ったところ、0.24質量%の質量減少を検知した。また、このラクトン環含有重合体は、重量平均分子量が133,000、ガラス転移温度が130℃、メルトフローレートが11.3g/10min、ラクトン環化率は96%、ポリマーゲル含有量は130個/100gであった。結果を表1に示す。
また、得られたラクトン環含有重合体のペレットを、実施例1と同様の条件で混練試験を行ったところ、ポリマーゲルの含有量は380個/100gに増加した。結果を表1に示す。
得られたラクトン環含有重合体のペレットの250℃における溶融粘度を測定したところ、2,400ポアズであった。次いで、このラクトン環含有重合体のペレットを280℃のオーブン中に30分間放置した後、再びラクトン環含有重合体の250℃における溶融粘度を測定したところ、103,400ポアズであった。加熱前後の溶融粘度から、粘度増加率(加熱後/加熱前)は43.08であった。結果を表1に示す。
≪比較例2≫
攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管を備えた容量30Lの釜型反応器に、8,500gのメタクリル酸メチル(MMA)、1,500gの2−ヒドロキシメチルアクリル酸メチル(MHMA;合成例2で調製)、3,800gのメチルイソブチルケトン(MIBK)、950gのメチルエチルケトン(MEK)を仕込み、初期モノマー濃度を68%とし、重合開始剤として7.0gのt−アミル−3,5,5−トリメチルヘキサノエート(カヤエステルAN、化薬アクゾ(株)製)を添加すると同時に、7.0gのt−アミル−3,5,5−トリメチルヘキサノエートと280gのMIBKと70gのMEKからなる溶液を4時間かけて滴下しながら、還流下、約95〜110℃で溶液重合を行い、さらに4時間かけて熟成を行った。溶液中のポリマー濃度が45%以下となるように、混合溶媒(MIBK:MEK=4:1)を重合反応開始2時間後から4時間後までは2,500g/hの速度で、4時間後から7時間後までは1,600g/hの速度で滴下した。
得られた重合体溶液の重合体成分1gに対して、0.005gのリン酸ステアリル/リン酸ジステアリル混合物(Phoslex A−18、堺化学工業(株)製)を加え、窒素を通じつつ、還流下、約80〜100℃で5時間、環化縮合反応を行った。次いで、得られた重合体溶液を、実施例1と同様に、押出し機内で環化縮合反応と脱揮を行い、押し出すことにより、ラクトン環含有重合体の透明なペレットを得た。
得られたラクトン環含有重合体について、ダイナミックTGの測定を行ったところ、0.26質量%の質量減少を検知した。また、このラクトン環含有重合体は、重量平均分子量が305,000、ガラス転移温度が129℃、メルトフローレートが0.5g/10min、ラクトン環化率は95%、ポリマーゲル含有量は280個/100gであった。結果を表1に示す。
また、得られたラクトン環含有重合体のペレットを、実施例1と同様の条件で混練試験を行ったところ、ポリマーゲルの含有量は830個/100gに増加した。結果を表1に示す。
表1から明らかなように、実施例1および参考例のラクトン環含有重合体は、t−アミル型の過酸化物を重合開始剤に用いて製造され、実施例3のラクトン環含有重合体は、アゾ系開始剤を用いて製造され、また、実施例4のラクトン環含有重合体は、リビングラジカル系開始剤を用いて製造され、いずれも分子量が所定の範囲内であるので、高いラクトン環化率を示し、耐熱性が高く、成形加工に適したメルトフローレートを有し、ポリマーゲルの含有量が非常に少なく、特に光学用途に好適である。
これに対し、比較例1のラクトン環含有重合体は、分子量が所定の範囲内であるが、t−ブチル型の過酸化物を重合開始剤に用いて製造されているので、また、比較例2のラクトン環含有重合体は、t−アミル型の過酸化物を重合開始剤に用いて製造されているが、分子量が所定の範囲外であるので、高いラクトン環化率を示し、耐熱性は高いが、ポリマーゲルの含有量が非常に多く、特に光学用途には不適である。
また、合成例1で調製した高純度の2−ヒドロキシメチルアクリル酸メチルを単量体に用い、かつt−アミル型の過酸化物を重合開始剤に用いて製造された実施例1のラクトン環含有重合体は、合成例2で調製した低純度の2−ヒドロキシメチルアクリル酸メチルを用い、かつt−アミル型の過酸化物を重合開始剤に用いて製造された参考例のラクトン環含有重合体に比べて、ポリマーゲルの含有量が極めて少ない。このことは、ラクトン環含有重合体を製造するにあたり、特定の方法で精製した2−ヒドロキシメチルアクリル酸エステルを単量体に用い、かつt−アミル型の過酸化物を重合開始剤に用いれば、ラクトン環含有重合体におけるポリマーゲルの発生を極めて効果的に抑制できることを示している。
また、表1から明らかなように、実施例1、3、4および参考例のラクトン環含有重合体は、上記した理由により、280℃で30分間加熱した後の粘度増加率が2.0倍以下であり、加熱してもポリマー分子鎖の分岐や分子間架橋がそれほど起こらず、ゲル化が抑制されたものと考えられる。
これに対し、比較例1のラクトン環含有重合体は、t−ブチル型の過酸化物を重合開始剤に用いて製造されたためか、加熱すると急激に溶融粘度が上昇し、ポリマー分子鎖の分岐や分子間架橋により、ゲル化が発生したものと考えられる。
かくして、ラクトン環含有重合体を製造するにあたり、従来の製造方法で使用されていたt−ブチル型の過酸化物ではなく、t−アミル型の過酸化物、アゾ系開始剤、リビングラジカル系開始剤などのように、ポリマー分子鎖から水素を引き抜く能力が低い重合開始剤を用い、かつ分子量が所定の範囲内にあるように製造すれば、異物が少なくゲル化し難いラクトン環含有重合体が得られることがわかる。