本発明のラクトン環含有重合体の製造方法では、保護基により保護されたヒドロキシ基が2位の炭素原子に結合したプロペン酸エステル由来の単位(A)と、(メタ)アクリル酸エステル由来の単位(B)とを構成単位として有する共重合体(C)に対して、保護基の脱離反応と、単位(A)および単位(B)間の環化反応とを進行させて、主鎖にラクトン環構造を有する重合体(ラクトン環含有重合体)を得る。共重合体(C)は、脱離反応および環化反応によりラクトン環含有重合体が形成される前駆重合体である。
この製造方法は、例えば、以下のような各特徴を有する。
一つの特徴は、5員環であるラクトン環構造を主鎖に有するラクトン環含有重合体を、特定の単量体の段階から効率良く製造できることである。5員環であるラクトン環含有重合体を製造するための前駆重合体は、例えば、重合後に前駆重合体の主鎖に位置する炭素原子にヒドロキシ基が結合した単量体を含む単量体群の重合により形成される。しかし、このような単量体は、ビニルアルコール単量体で見られるものと同様の異性化をおこしやすい。一方、本発明の製造方法では、ラクトン環含有重合体を製造するための前駆重合体として、保護基により保護されたヒドロキシ基が2位の炭素原子に結合したプロペン酸エステル由来の単位(A)と、(メタ)アクリル酸エステル由来の単位(B)とを構成単位として有する共重合体(C)を使用する。ヒドロキシ基が保護基により保護されていることにより、上述の異性化を抑制しながら前駆重合体である共重合体(C)を形成できるとともに、この製造方法では、共重合体(C)からの環化反応に関しても、保護基の脱離反応とともにスムーズに進行させることができる。このため、本発明の製造方法では、5員環であるラクトン環構造を主鎖に有するラクトン環含有重合体を、特定の単量体の段階から効率良く製造できる。
別の一つの特徴は、保護基の脱離反応の制御によって、保護基が残留したラクトン環含有重合体を製造できることである。このようなラクトン環含有重合体では、保護基の存在を反映した特性および/または機能、例えば保護基自体が有する特性および/または機能を反映した特性および/または機能、を得ることができる。一例として、保護基がケイ素系基である場合、Si含有重合体としての特性および/または機能を示すことが期待される。その具体例は、屈折率、表面硬度、濡れ性などの特性の変化、および他の樹脂との相溶性の変化である。また、通常、重合体の側鎖に存在するケイ素系基は耐熱性が低く、熱分解しやすいが、本発明の製造方法により製造したラクトン環含有重合体では、主鎖のラクトン環構造によって当該重合体の主鎖の歪みが大きく、立体的に混んでいるためか、このような技術常識に反し、ケイ素系基が残留した状態(すなわち、ケイ素系基を有する状態)においても高い耐熱性を実現することが可能である。
これらの特徴とは別に、本発明の製造方法ではさらに、ラクトン環含有重合体の製造時、および当該重合体または当該重合体を含む樹脂組成物の成形加工時(以下、単に「ラクトン環含有重合体の成形加工時」)におけるゲル化および発泡の発生が抑制される効果も期待される。
特許文献1には、ヒドロキシ基を含有するアクリル酸エステル単位(X)と、ヒドロキシ基を含有しない(メタ)アクリル酸エステル単位(Y)とを構成単位として有する前駆重合体に対して環化反応を進行させてラクトン環含有重合体を形成することが記載されている。環化反応は互いに隣接する単位(X)と単位(Y)との間で進行するが、この前駆重合体は純然たるランダム重合体であり、その分子鎖には単位(X)が3以上連続する部分が存在する。すると、当該連続部分の両端に位置する単位(X)以外の単位(X)は環化反応時および環化反応後もそのまま残留し、すなわち、得られたラクトン環含有重合体にはヒドロキシ基が残留することになる。残留するヒドロキシ基は、前駆重合体における単位(X)の含有率が高いほど多い。本発明者らは、検討の結果、この残留ヒドロキシ基が、ラクトン環含有重合体の形成時および成形加工時におけるゲル化および発泡の発生の原因の一つであることを見出した。残留ヒドロキシ基によって、重合体の分子鎖間の架橋、典型的にはアルコールが脱離する分子鎖間の架橋、が誘起されるためである。架橋はゲル化を引き起こすし、脱離したアルコールは発泡を引き起こす。
一方、本発明の製造方法では、保護基により保護されたヒドロキシ基が2位の炭素原子に結合したプロペン酸エステル由来の単位(A)と、(メタ)アクリル酸エステル由来の単位(B)とを構成単位として有する共重合体(C)に対して環化反応を進行させてラクトン環含有重合体を形成する。共重合体(C)は、例えば、保護基により保護されたヒドロキシ基が2位の炭素原子に結合したプロペン酸エステル単量体と、(メタ)アクリル酸エステル単量体とを含む単量体群の重合により形成されるが、このとき、保護基の存在によって前者の単量体の単独重合性が低下するために、共重合体(C)において単位(A)が連続する数および頻度が、従来の前駆重合体に比べて低下する。このため、共重合体(C)に環化反応を進行させる際に残留するヒドロキシ基、および当該反応を経て得たラクトン環含有重合体に残留するヒドロキシ基の数が減少し、これにより、ラクトン環含有重合体の形成時および成形加工時におけるゲル化および発泡の発生が抑制されることになる。
保護基の種類によっては、当該基により保護されたプロペン酸エステル単量体の単独重合性が失われる。このとき、共重合体(C)における単位(A)の連続が最も抑制され、ラクトン環含有重合体の形成時および成形加工時におけるゲル化および発泡の発生が最も抑制されることになる。
共重合体(C)をラクトン環含有重合体の形成に使用することによる効果は、ゲル化および発泡の発生の抑制という直接的な効果に必ずしも限られない。共重合体(C)において単位(A)が連続する数および頻度が従来よりも低いことは、前駆重合体である共重合体(C)における単位(A)の含有率を従来よりも大きくできることを意味する。当該含有率を大きくした場合においても、ラクトン環含有重合体の形成時および成形加工時におけるゲル化および発泡の発生を抑制できるためである。そして、共重合体(C)における単位(A)の含有率を大きくできることは、形成したラクトン環含有重合体が示す特性の制御の自由度の向上をもたらす。特性は、例えば、熱的特性、光学的特性である。熱的特性は、例えば、ラクトン環含有重合体のTgである。より具体的な例として、形成時および成形加工時におけるゲル化および発泡の発生が抑制されながらもTgがより高いラクトン環含有重合体を形成できる。このような特性の制御の自由度の向上により、光学用途など、従来の用途におけるさらなる要請に対して応えることができる他、例えば、さらなる耐熱性が求められる用途へのラクトン環含有重合体の適用拡大などが期待される。なお、ラクトン環構造を主鎖に導入することによるTg上昇の程度は、ラクトン環が6員環であるときよりも5員環であるときの方が大きい。
単位(A)は、保護基により保護されたヒドロキシ基が2位の炭素原子に結合したプロペン酸エステル由来の単位である限り限定されない。単位(A)は、例えば、以下の式(1)に示す単位である。
式(1)のR1は、水素原子または炭素数1〜20の有機残基であり、当該有機残基は酸素を含んでいてもよい。R2は、保護基である。
有機残基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基などの炭素数が1〜20の範囲のアルキル基;エテニル基、プロペニル基などの炭素数が1〜20の範囲の不飽和脂肪族炭化水素基;フェニル基、ナフチル基などの炭素数が1〜20の範囲の芳香族炭化水素基;上記アルキル基、上記不飽和脂肪族炭化水素基、および上記芳香族炭化水素基において、水素原子の一つ以上が、カルボキシル基、エーテル基およびエステル基から選ばれる少なくとも1種の基により置換された基;である。
R1は、水素原子;メチル基、エチル基などの炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、水素原子、メチル基がより好ましい。
式(1)に示す単位は、以下の式(2)に示す単量体に由来する(単量体の重合により形成された)構成単位である。式(2)のR1,R2は、式(1)のR1,R2と同様である。
式(2)に示す単量体は、2−ヒドロキシプロペン酸エステルのヒドロキシ基が保護基R2により保護された、2−ヒドロキシプロペン酸エステル誘導体である。すなわち、式(1)に示す単位は、ヒドロキシ基が保護基により保護された2−ヒドロキシプロペン酸エステル単位、あるいは単に2−ヒドロキシプロペン酸エステル誘導体単位と表現することもできる。
ヒドロキシ基が保護基R2により保護される前の状態における当該単量体は、例えば、2−ヒドロキシプロペン酸、2−ヒドロキシプロペン酸メチル、2−ヒドロキシプロペン酸エチル、2−ヒドロキシプロペン酸n−プロピル、2−ヒドロキシプロペン酸イソプロピル、2−ヒドロキシプロペン酸n−ブチル、2−ヒドロキシプロペン酸イソブチル、2−ヒドロキシプロペン酸t−ブチル、2−ヒドロキシプロペン酸n−オクチル、2−ヒドロキシプロペン酸イソオクチル、2−ヒドロキシプロペン酸2−エチルヘキシル、2−ヒドロキシプロペン酸ステアリル、2−ヒドロキシプロペン酸シクロペンチル、2−ヒドロキシプロペン酸シクロヘキシル、2−ヒドロキシプロペン酸フェニル、2−ヒドロキシプロペン酸o−メトキシフェニル、2−ヒドロキシプロペン酸p−メトキシフェニル、2−ヒドロキシプロペン酸p−ニトロフェニル、2−ヒドロキシプロペン酸o−メチルフェニル、2−ヒドロキシプロペン酸p−メチルフェニル、2−ヒドロキシプロペン酸p−t−ブチルフェニルである。これらの単量体のうち、2−ヒドロキシプロペン酸メチル、2−ヒドロキシプロペン酸エチル、2−ヒドロキシプロペン酸n−ブチル、2−ヒドロキシプロペン酸2−エチルヘキシルが、重合により単位(B)となる(メタ)アクリル酸エステル単量体との共重合性、および共重合体(C)としての環化反応の安定性の観点から好ましく、さらにラクトン環含有重合体のTgを向上させる効果が高い観点からは、2−ヒドロキシプロペン酸メチル(HPM)が好ましい。
保護基R2は、例えば、ケイ素系基、アセタール系基、ベンジル基およびその誘導体、アセチル基、ならびにベンゾイル基から選ばれる少なくとも1種である。これらの基は、共重合体(C)を形成する際に、保護基により保護されたヒドロキシ基を含有する単量体(例えば2−ヒドロキシプロペン酸エステル誘導体)の単独重合性を低下させる作用が高いとともに、共重合体(C)からラクトン環含有重合体を形成する際に当該単量体から脱離しやすく、共重合体(C)の環化を阻害しにくい。
保護基であるケイ素系基は限定されず、例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基、t−ブチルジフェニルシリル基、およびトリイソプロピルシリル基から選ばれる少なくとも1種である。保護基であるアセタール系基は限定されず、例えば、メトキシメチル基、テトラヒドロピラニル基、エトキシエチル基、メトキシエチル基、メチルチオメチル基、ベンゾイロキシメチル基、およびメトキシエトキシメチル基から選ばれる少なくとも1種である。保護基であるベンジル基およびその誘導体は、例えば、ベンジル基、p−メチルフェニルベンジル基およびp−メトキシフェニルベンジル基から選ばれる少なくとも1種である。
保護基は、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基、t−ブチルジフェニルシリル基、トリイソプロピルシリル基、メトキシメチル基、テトラヒドロピラニル基、エトキシエチル基、メトキシエチル基、メチルチオメチル基、ベンゾイロキシメチル基、メトキシエトキシメチル基、ベンジル基、アセチル基、およびベンゾイル基から選ばれる少なくとも1種でありうる。
上記単独重合性を低下させる作用が特に高いとともに、共重合体(C)からラクトン環含有重合体を形成する際に脱離がより確実である観点から、保護基は、ケイ素系基およびアセタール系基が好ましい。
単位(B)は、(メタ)アクリル酸エステル由来の単位((メタ)アクリル酸エステル単量体の重合により形成される単位)である限り限定されない。単位(B)はヒドロキシ基を有していてもいなくてもよいが、典型的には、ヒドロキシ基を有さない(メタ)アクリル酸エステル単位である。(メタ)アクリル酸エステル単位は、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジルなどのアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジルなどのメタクリル酸エステルの各単量体の重合により形成される単位である。なかでも、単位(A)との環化反応性に優れるとともに、環化後に得られたラクトン環含有重合体が高い耐熱性および光学的透明性を有することから、単位(B)はメタクリル酸メチル(MMA)単位が好ましい。
共重合体(C)は、2種以上の単位(A)および/または2種以上の単位(B)を構成単位として有していてもよい。
共重合体(C)における単位(A)の含有率(共重合体(C)の全構成単位に占める単位(A)の割合)は、例えば、1〜60モル%である。上述のように、共重合体(C)における単位(A)の連続する数およびその頻度は、保護基の配置によって従来の前駆重合体よりも低くでき、これによりラクトン環含有重合体の形成時および成形加工時におけるゲル化および発泡の発生を抑制できることから、共重合体(C)における単位(A)の含有率を大きくできる。
重合体を構成する各構成単位の含有率は、公知の方法、例えば、1H−核磁気共鳴(NMR)法および/または赤外分光分析(IR)法により評価できる。
共重合体(C)は、単位(A)および単位(B)以外の構成単位を有していてもよい。
当該構成単位は、例えば、保護基によってヒドロキシ基が保護されていない、ヒドロキシ基含有プロペン酸エステル単位である。このような構成単位の一例を、以下の式(3)に示す。式(3)のR1は、式(1)のR1と同様である。
単位(A)および単位(B)以外の構成単位は、例えば、不飽和カルボン酸の重合により形成される単位、および/または以下の式(4)に示す単量体の重合により形成される単位である。式(4)のR3は、水素原子またはメチル基であり、Xは、水素原子、炭素数1〜20の範囲のアルキル基、アリール基、−OAc基、−CN基、−C(=O)R4基、または−C−O−R5基である。Acはアセチル基、R4およびR5は、水素原子または式(1)における有機残基として例示した基である。
不飽和カルボン酸は、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、α−置換アクリル酸、α−置換メタクリル酸である。なかでも、アクリル酸およびメタクリル酸から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
式(4)に示される単量体は、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル、メチルビニルケトン、エチレン、プロピレン、酢酸ビニルである。なかでも、スチレンおよびアクリロニトリルから選ばれる少なくとも1種が好ましい。
共重合体(C)が単位(A)および(B)以外の構成単位を有する場合、共重合体(C)における当該構成単位の含有率は、例えば、0.1〜30モル%であり、その上限は、20モル%以下が好ましく、15モル%以下がより好ましい。
共重合体(C)は新規な重合体である。この新規な重合体は、上記説明した共重合体(C)の各構成および各特徴を任意の組み合わせで有しうる。
共重合体(C)の分子量は限定されず、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した重量平均分子量Mwにして5万〜50万であり、好ましくは8万〜40万、より好ましくは10万〜30万である。
共重合体(C)は、特に限定されないが、その分子量分布(Mw/Mn)について、例えば1〜5、1.2〜4.5、さらには1.5〜4の範囲をとりうる。Mwおよび数平均分子量Mnは、GPCにより測定できる。
共重合体(C)の形成方法は限定されない。共重合体(C)は、例えば、保護基により保護されたヒドロキシ基が2位の炭素原子に結合したプロペン酸エステル単量体と、(メタ)アクリル酸エステル単量体とを含む単量体群の共重合により形成できる。前者および後者の単量体の例は、上記説明したとおりである。
単量体群の共重合方法は限定されない。共重合体(C)が得られる限り、任意の重合工程を実施できる。
より具体的に、共重合は、例えば溶液重合により行う。溶液重合により共重合体(C)を形成した場合、重合生成物には、共重合体(C)以外に重合に用いた重合溶媒が含まれるが、必ずしも当該溶媒を除去して共重合体(C)を固体として取り出さなくてもよい。共重合体(C)の種類によっては、溶媒を含んだ状態のまま重合生成物を、共重合体(C)からラクトン環含有重合体を形成するための脱離反応および環化反応に供することもできる。もちろん、共重合体(C)を固体として取り出した後、改めて脱離反応および/または環化反応に適した状態にしてこれらの反応を進行させてもよい。
溶液重合により共重合体(C)を形成する場合、用いる重合溶媒は、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;クロロホルム、ジメチルスルフォキシド(DMSO)、テトラヒドロフランである。なかでも芳香族炭化水素、ケトン類が好ましく、特にトルエン、メチルイソブチルケトンが好ましい。
共重合体(C)の重合時には、必要に応じて重合開始剤を使用できる。重合開始剤は限定されないが、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートなどの有機過酸化物;2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル);(AIBN)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルイソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)などのアゾ化合物である。2種以上の重合開始剤を使用してもよい。重合開始剤の使用量は、単量体の組み合わせ、あるいは重合条件などに応じて適宜設定でき、限定されない。
単位(A)および単位(B)以外の構成単位を有する共重合体(C)を形成するために、単量体群は、重合により当該構成単位が形成される単量体をさらに含みうる。
共重合に供する単量体群は、保護基により保護されたヒドロキシ基が2位の炭素原子に結合したプロペン酸エステル単量体を2種以上、および/または(メタ)アクリル酸エステル単量体を2種以上含みうる。
本発明の製造方法では、共重合体(C)に対して保護基R2の脱離反応と、単位(A)および単位(B)間の環化反応とを進行させて、主鎖にラクトン環構造を有するラクトン環含有重合体を形成する。
脱離反応では、共重合体(C)の単位(A)から保護基R2を脱離させる。保護基を脱離できる限り、脱離反応を進行させる具体的な手段は限定されない。脱離反応は、例えば、共重合体(C)への熱の印加、共重合体(C)の環境の変化、および脱離剤の使用から選ばれる少なくとも1種により実施できる。環境の変化は、例えば、酸性雰囲気または塩基性雰囲気への変化、還元性雰囲気への変化であり、それぞれ、酸または塩基の使用、還元剤の使用により実施できる。脱離剤は、例えば、フッ素系化合物である。これらの手段を任意に組み合わせてもよい。組み合わせる各手段は、同時に実施しても段階的に実施してもよい。脱離反応を進行させる具体的な手段は、共重合体(C)の構成および保護基の種類により選択できる。
保護基と具体的な手段との組み合わせの例は、ケイ素系の保護基について、熱の印加、酸性雰囲気への変化(例えば酸の使用)、および脱離剤の使用から選ばれる少なくとも1種である。アセタール系の保護基について、熱の印加および/または酸性雰囲気への変化である。ベンジル基およびその誘導体である保護基について、還元性雰囲気への変化である。アセチル基およびベンゾイル基である保護基について、塩基性雰囲気への変化および/または還元性雰囲気への変化である。
脱離反応では、少なくとも一部の保護基を単位(A)から脱離できればよいし、もちろん、全ての保護基を単位(A)から脱離してもよい。一部の保護基を単位(A)から脱離させることによって、環化反応後に、保護基が残留したラクトン環含有重合体を得ることができる。すなわち、本発明の製造方法では、脱離反応を、当該反応後に保護基の一部が残留するように進行させて、保護基を有するラクトン環含有重合体を形成してもよい。保護基を単位(A)から(共重合体(C)から)脱離させる程度は、例えば、脱離反応の時間、脱離反応を進行させる温度、酸または塩基の添加量および添加濃度、還元剤の添加量および添加濃度、脱離剤の添加量および添加濃度、溶液系において脱離反応を進行させる場合には当該溶液系の組成、などにより制御できる。
熱を印加して脱離反応を進行させる場合、その温度は保護基の種類によっても異なるが、例えば、ケイ素系およびアセタール系保護基の場合、100〜300℃程度である。
酸性雰囲気への変化により脱離反応を進行させる場合、例えば、共重合体(C)がおかれている雰囲気に酸性物質を添加すればよい。酸性物質は限定されず、例えば、塩酸、硫酸、リン酸化合物などの無機酸およびその化合物、有機酸、例えばメタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸などのスルホン酸、ギ酸、酢酸などのカルボン酸である。酸性物質とともに、水、および/またはメタノール、エタノールなどのアルコールを添加してもよい。
塩基性雰囲気への変化により脱離反応を進行させる場合、例えば、共重合体(C)がおかれている雰囲気に塩基性物質を添加すればよい。塩基性物質は限定されず、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属およびこれらの塩、水酸化物である。塩基性物質とともに、水、および/またはメタノール、エタノールなどのアルコールを添加してもよい。
還元性雰囲気への変化により脱離反応を進行させる場合、例えば、共重合体(C)がおかれている雰囲気に還元性物質を添加すればよい。還元性物質は限定されず、例えば、金属水素化物である。金属と水素とを添加することにより、上記雰囲気において金属水素化物を生じさせてもよい。
脱離剤の使用により脱離反応を進行させる場合、例えば、共重合体(C)がおかれている雰囲気に脱離剤を添加すればよい。脱離剤であるフッ素系化合物は、例えば、フッ化水素、フッ化テトラブチルアンモニウムなどのフッ化水素の塩、フッ化セシウムなどの金属フッ化物である。
環化反応では、脱離反応により保護基R2が外れることで露出した単位(A)のヒドロキシ基と、単位(B)のエステル基との間に環化縮合反応が進行することにより、ラクトン環構造が重合体の主鎖に形成される。環化反応は、共重合体(C)の分子鎖内で進行するエステル交換反応の一種であり、アルコールが副生する反応である。共重合体(C)から保護基が脱離した共重合体は、環化反応によりラクトン環含有重合体となる前駆重合体と捉えることもできる。
環化反応を進行させる具体的な手段は限定されない。環化反応は、例えば、保護基R2が脱離した共重合体(C)への熱の印加、および/または当該共重合体(C)の環境を変化させることにより実施できる。環境の変化は、例えば、脱離反応の説明において例示した変化であり、具体的な例は、保護基R2が脱離した共重合体(C)がおかれている雰囲気の酸性または塩基性への変化である。環化反応を制御する、典型的には環化反応を促進させる環化触媒を併用することもできる。環化触媒には公知の触媒を使用できる。
熱を印加して環化反応を進行させる場合、その温度は、例えば、100〜300℃であり、150〜250℃が好ましい。
酸性雰囲気への変化により環化反応を進行させる場合、例えば、保護基R2が脱離した共重合体(C)がおかれている雰囲気に酸性物質を添加すればよい。酸性物質は限定されず、例えば、塩酸、硫酸、リン酸化合物などの無機酸およびその化合物、有機酸、例えばメタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸などのスルホン酸、ギ酸、酢酸などのカルボン酸である。
塩基性雰囲気への変化により環化反応を進行させる場合、例えば、保護基R2が脱離した共重合体(C)がおかれている雰囲気に塩基性物質を添加すればよい。塩基性物質は限定されず、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属およびこれらの塩、水酸化物である。
環化反応は、脱アルコール縮合反応である。このため、環化反応の雰囲気を減圧することによって副生成物であるアルコールを積極的に除去し、これにより環化反応を促進させてもよい。
環化反応では、少なくとも単位(A)と単位(B)との間の環化反応を進行させる。このとき、単位(A)または単位(B)と、共重合体(C)を構成する他の構成単位との間でさらなる環化反応が進行してもよい。
脱離反応と環化反応とは個別に進行させてもよいし、両反応の条件さえ整えば、同時に進行させてもよい。また、脱離反応、または脱離反応および環化反応の双方の反応は、これら反応の条件と共重合体(C)の重合条件とが整えば、共重合体(C)の形成から連続的に実施してもよい。
共重合体(C)と、保護基に対して0.001モル%〜50モル%の酸とを混合することにより、脱離反応および環化反応を進行させる手法を採用することもできる。このとき保護基は、例えばケイ素系基またはアセタール系基である。ケイ素系基およびアセタール系基は、ヒドロキシ基の保護基として用いた場合、酸により脱離する保護基である。
この手法(低容量酸法)では、脱離対象である保護基のモル数(保護基を脱離させるヒドロキシ基のモル数)の50モル%以下のモル数の酸を使用する。これは、平均的な一つの酸分子を想定したときに、当該酸分子が少なくとも2回以上保護基の脱離に関わることを意味し、この意味において、低容量酸法では保護基の脱離に触媒量の酸を使用している。
保護基を脱離させるためのこのような酸の使用では、例えば保護基脱離後の共重合体および環化反応後に得られるラクトン環含有重合体に残留する酸の量を低減できる。このことは、これら共重合体およびラクトン環含有重合体を工業的に生産する際に多大なメリットをもたらす。
メリットの一つは、残留した酸を除去する処理を簡略化または不要にできることである。後述のように、重合体に残留した酸は当該重合体に悪影響を与える可能性があるため、残留した酸を除去することが好ましい。この処理を簡略化または不要にできることは、ラクトン環含有重合体の製造コストを低減させる。
メリットの別の一つは、重合体に残留した酸を除去することが事実上困難なケースが多いことによる。低分子化合物では、残留した酸を除去する種々の手法、例えば再沈殿、分液、中和、クロマトグラフなどを状況に応じて選択可能である。しかし、重合体では、とりわけ重合体が溶解する溶媒が限られる点から、選択できる手法が限られる。あるいは選択できる手法があったとしても残留した酸を十分に除去できないことが多い。低容量酸法によれば、このような問題を回避できる。
メリットのまた別の一つは、重合体に残留した酸は、後に酸が除去できるとしても当該重合体に悪影響を与える可能性があるが、低容量酸法ではこのようなリスクを回避できることにある。悪影響は、例えば、酸による重合体分子鎖の切断に基づく分子量の低下、着色の発生、特性の低下である。特性の低下は、例えば、酸により生じた分解物により誘因される。特性の例は、Tgなどの熱的特性、透明性および複屈折発現性などの光学的特性である。このメリットは、例えば、光学部材に使用するラクトン環含有重合体を製造する際に、特に顕著となる。
より具体的に、ラクトン環含有重合体は光学フィルムなどの光学部材に使用可能であるが、低容量酸法では、得られたラクトン環含有重合体の光学的特性の低下が抑制される。熱的特性の低下、例えばTgの低下、の抑制も、得られたラクトン環含有重合体を光学部材に使用する場合に有利に働く。Tgが高いラクトン環含有重合体により構成される光学部材は耐熱性が高く、例えば、液晶表示装置(LCD)などの画像表示装置における電源、回路基板、光源などの発熱部の近傍への配置が可能であることから、画像表示装置の設計およびデザインの自由度が向上する。
もっとも、脱離反応への低容量酸法の採用は必須ではない。
低容量酸法によって脱離反応を進行させる具体的な手法は、共重合体(C)と、共重合体(C)が含有する保護基に対して0.001モル%〜50モル%の酸とを混合して保護基を共重合体(C)から脱離できる(共重合体(C)を脱保護できる)限り限定されない。保護基の脱離、すなわち脱離反応の進行は、共重合体(C)、上記酸、および保護基脱離後の共重合体を溶解する溶液系にて行うことが好ましい。
このような溶液系を構成する溶媒は、共重合体(C)、酸および保護基脱離後の共重合体の種類に応じて選択できる。溶媒は、例えば、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;メチルエチルケトン、アセトンなどのケトン類;テトラヒドロフランなどのエーテル類;塩化メチレン、クロロホルムなどのハロメタン類;ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミドなどのアミド類;ジメチルスルホキシドである。酸および溶媒の組み合わせの一例は、酸が、パラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸などの有機スルホン酸;塩酸;およびリン酸、リン酸エステルなどのリン酸化合物から選ばれる少なくとも1種であり、溶媒が、芳香族炭化水素、ケトン類およびエーテル類から選ばれる少なくとも1種である組み合わせである。
上記溶液系において脱離反応を進行させる場合、溶液系における共重合体(C)の濃度は、例えば10〜80質量%であり、好ましくは25〜60質量%である。
共重合体(C)と混合する酸の量は、共重合体(C)が含有する保護基に対して0.001モル%〜50モル%であり、好ましくは0.05モル%〜20モル%であり、より好ましくは0.5モル%〜10モル%である。共重合体(C)と混合する酸の量が0.001モル%未満になると、脱離反応を十分に進行させることができないか、仮に進行させることができたとしても脱離反応に必要な時間が非常に長くなる。共重合体(C)と混合する酸の量が50モル%を超えると、低容量酸法を採用するメリットが小さくなる。
低容量酸法に使用する酸は、例えば、塩酸、硫酸、リン酸化合物(リン酸、亜リン酸、リン酸エステル)などの無機酸およびその化合物、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸などのスルホン酸、ギ酸、酢酸などのカルボン酸、金属カルボン酸塩である。
酸として有機酸を選択しうる。酸が有機酸である場合、溶液系において脱離反応を進行させる際に非水溶性の溶媒を使いやすくなるため、溶媒として有機溶媒の選択の自由度が増す。有機酸は、例えば、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸などの有機スルホン酸、リン酸エステル、ギ酸、酢酸などのカルボン酸、金属カルボン酸塩であり、有機スルホン酸が好ましく、有機スルホン酸のなかではパラトルエンスルホン酸が特に好ましい。
低容量酸法の脱離反応は、極性溶媒の存在下で行ってもよく、このとき脱離反応をより効率よく進行させることができる。これは、低容量酸法の系において極性溶媒と保護基とが直接結合することで、保護基の脱離が促進されるためと考えられる。保護基の脱離を極性溶媒の存在下で行うには、例えば、極性溶媒をさらに加えた上記溶液系にて脱離反応を進行させればよい。
極性溶媒は限定されず、例えば、水およびアルコールから選ばれる少なくとも1種である。アルコールは、例えば、炭素数1〜10のアルコールであり、好ましくはメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールである。
低容量酸法の脱離反応を極性溶媒の存在下で行う場合、極性溶媒の量は、共重合体(C)の保護基に対して、例えば0.1モル%〜10000モル%であり、1モル%〜1000モル%が好ましく、5モル%〜500モル%がより好ましい。例えば、これらの範囲の量の極性溶媒をさらに加えた上記溶液系にて脱離反応を進行させることができる。極性溶媒の量がこれらの範囲にある場合、低容量酸法における脱離反応をさらに効率よく進行させることができる。なお、上記溶液系における過剰な極性溶媒の存在は、溶液系への共重合体(C)の溶解性を低下させる可能性がある。
低容量酸法の脱離反応は、熱を加えながら進行させてもよい。熱の印加、例えば上記溶液系への熱の印加により、脱離反応をより効率よく進行させることができる。熱を印加する場合、その具体的な温度は保護基の種類によっても異なるが、例えば、30〜300℃程度である。
共重合体(C)に存在する保護基の一部を脱離させる場合においても、脱離反応に用いる酸の量は上述の範囲、より具体的には共重合体(C)に存在する保護基の0.001モル%〜50モル%、である。
低容量酸法では、保護基の脱離反応とともに、保護基の脱離によって形成された共重合体への環化反応を併せて進行させうる。より具体的には、共重合体(C)の組成および/または後述の環化触媒によっては、脱離反応に用いた触媒量の酸の雰囲気下で環化反応を進行させることができ、このとき、脱離反応と環化反応とをともに進行させうる。環化反応を制御する触媒、典型的には環化反応を促進させる環化触媒を併用することもできる。環化触媒には公知の触媒を使用できる。
本発明の製造方法により得たラクトン環含有重合体(D)は、ラクトン環構造をその主鎖に有する。形成されるラクトン環構造の具体的な構造は特に限定されないが、典型的には5員環のラクトン環構造であり、例えば、以下の式(5)に示す構造である。式(5)のR1は式(1)のR1と同様であり、R6は水素原子(単位(B)がアクリル酸エステル単位のとき)またはメチル基(単位(B)がメタクリル酸エステル単位のとき)である。
重合体(D)は、環化反応時に未反応のまま残留した、単位(A)、単位(A)から保護基R2が脱離した単位および単位(B)から選ばれる少なくとも1種の単位を構成単位として有しうる。単位(A)を有する場合、保護基を有するラクトン環含有重合体(D)となる。また、重合体(D)は、共重合体(C)が単位(A)および単位(B)以外の構成単位を有している場合、当該構成単位をさらに有しうる。
重合体(D)は、典型的には熱可塑性重合体である。重合体(D)は、例えば、非晶性重合体でありうる。
単位(B)は(メタ)アクリル酸エステル単位である。単位(A)は、アクリル酸エステル単位を有する。このため、単位(A)および単位(B)間の環化反応により形成されたラクトン環構造は、(メタ)アクリル酸エステル単位の誘導体である。また、重合体(D)は、環化反応時に未反応のまま残留した、単位(A)、単位(A)から保護基R2が脱離した単位および単位(B)から選ばれる少なくとも1種の単位を構成単位として有しうる。このため、重合体(D)におけるラクトン環構造の含有率と(メタ)アクリル酸エステル単位の含有率との合計が50質量%以上であれば、重合体(D)はアクリル重合体である。このとき、重合体(D)は、アクリル重合体であるが故の特性、例えば、高い透明性、高い表面光沢および耐候性、ならびに機械的強度、成形加工性および表面硬度の高いバランスを有しうる。
重合体(D)におけるラクトン環構造の含有率は、その形成時および成形加工時におけるゲル化および発泡の発生を抑制できることもあって、従来のラクトン環含有重合体よりも大きくすることが可能である。具体的に、重合体(D)におけるラクトン環構造の含有率は、例えば、10〜100質量%とすることもできる。
重合体(D)の分子量は限定されず、例えば、GPCにより測定した重量平均分子量Mwにして5万〜50万であり、好ましくは8万〜40万、より好ましくは10万〜30万である。
重合体(D)は、特に限定されないが、その分子量分布(Mw/Mn)について、例えば1〜5、1.2〜4.5、さらには1.5〜4の範囲をとりうる。Mwおよび数平均分子量Mnは、GPCにより測定できる。
重合体(D)は、主鎖のラクトン環構造に基づく特性を有する。特性は、例えば、熱的特性、光学的特性である。
熱的特性は、例えばTgであり、ラクトン環含有重合体(D)のTgは、ラクトン環構造を主鎖に有さない場合に比べて高い。ラクトン環含有重合体(D)のTgは、例えば、100℃以上であり、ラクトン環構造の構成および含有率によっては、130℃以上、150℃以上、さらには180℃以上となりうる。ラクトン環含有重合体(D)ではこのような高いTgが、例えば当該重合体(D)の形成時および成形加工時におけるゲル化および発泡の発生を抑制しながら、達成される。
また、ラクトン環含有重合体(D)では、従来の製造方法により形成したラクトン環含有重合体に比べて、同じラクトン環構造の含有率のときにTgがより高くなる。これは、上述した効果によって、ラクトン環構造がより均一にラクトン環含有重合体の分子鎖に配置されることに基づくと考えられる。
そして、重合体(D)が主鎖に有するラクトン環構造が5員環である場合、6員環である場合に比べて、同じラクトン環構造の含有率のときに示す重合体(D)のTgはより高くなる傾向を示す。
光学的特性は、例えば複屈折特性である。主鎖に位置するラクトン環構造によって重合体の複屈折発現性(位相差発現性)が向上する。ラクトン環構造は、重合体(D)に正の固有複屈折を与える作用を有する。重合体(D)としての固有複屈折の正負は、当該重合体(D)が有する各構成単位が示す複屈折特性の兼ね合いにより決定される。
重合体(D)は、主鎖のラクトン環構造に基づくその他の特性をさらに有しうる。その他の特性の一例は、高い熱分解開始温度である。重合体(D)は、特に限定されるわけではないが、例えば230℃以上、当該重合体の構成によっては、280℃以上、さらには300℃以上の熱分解開始温度を有しうる。重合体(D)がこのような高い熱分解開始温度を有することにより、例えば、フィルム化といった各種の加工成形に供する際に当該重合体の分解を抑制できる。
その他の特性の別の一例は、高い機械的特性である。例えば、重合体(D)は、高い強度および/または硬度を有しうる。このうち強度について重合体(D)は、例えば3mJ以上、当該重合体の構成によっては、5mJ以上、さらには7mJの破壊強度(破壊エネルギー)を示しうる。破壊強度の上限は限定されないが、例えば50mJである。破壊強度は、厚さ100μmの未延伸フィルムに成形したときの値であり、破壊強度を測定する際の未延伸フィルムへの成形は、重合体のTg+150℃での溶融を経て行う。具体的に破壊強度は、形成した未延伸フィルムの上に、高さを変えて質量0.0054kg、直径10mmの球を落とす試験を実施し、フィルムが破壊されたときの高さ(破壊高さ)の平均値(15回の平均値)から、次式に従って求めることができる。フィルムが破壊されたか否かは、フィルムへの落球後、当該フィルムの表面に変形が見られたか否かを目視により確認して判断する。変形が確認された場合、フィルムが破壊されたと判断できる。
破壊エネルギー(mJ)=球の質量(kg)×破壊高さ平均値(mm)×9.8(m/秒2)
また、硬度について重合体(D)は、例えば150N/mm2以上、当該重合体の構成によっては、160N/mm2以上、さらには170N/mm2以上のマルテンス硬さを示しうる。マルテンス硬さは、厚さ100μmの未延伸フィルムに成形したときの値であり、マルテンス硬さを測定する際の未延伸フィルムへの成形は、重合体のTg+150℃の溶融を経て行う。具体的にマルテンス硬さは、形成した未延伸フィルムに対して、超微小硬度計(例えば、フィッシャーインストルメンツ社製、フィッシャースコープHM−2000を利用できる)を用い、ISO−14577−1に準拠した方法により評価する。評価は、未延伸フィルムをガラス基板に固定した状態で実施する。測定条件の典型的な一例は、四角錐型のビッカース圧子(対面角a=136°)を使用;最大試験荷重1mN;荷重付加時のアプリケーション時間20秒;クリープ時間5秒;荷重減少時のアプリケーション時間20秒;測定温度室温;である。
ラクトン環含有重合体(D)はこれらの特性に基づき、種々の用途に使用できる。用途は、例えば、光学部材である。ラクトン環含有重合体(D)における上述した熱的特性および光学的特性は、光学部材の有利な特徴になりうる。また、ラクトン環含有重合体(D)が透明性および耐熱性に優れ、かつその形成時および成形加工時におけるゲル化および発泡の発生が抑制されていることも、光学部材の有利な特徴になりうる。光学部材は、例えば、光学レンズ、光学プリズム、光学フィルム、光学ファイバー、光学ディスクである。
光学部材の形状は特に限定されず、例えばフィルム(光学フィルム)である。光学フィルムの具体的な用途は特に限定されず、例えば、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイなどの画像表示装置に用いられる複屈折フィルム、位相差フィルム、視野角補償フィルム、光拡散フィルム、反射フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム、輝度向上フィルム、画素部(発光部)保護フィルム、偏光子保護フィルム、紫外線吸収フィルムである。
ラクトン環含有重合体(D)のその他の用途は、例えば、看板・ディスプレイ、弱電・工業部品、感光性電子材料、自動車を中心とする車輌部品、建材・店装、コーティング材料、脱塗装用保護フィルム、照明器具、大型水槽、ミラー、繊維、文具、テーブルウェアなどの雑貨類、化粧品、食品などである。
ラクトン環含有重合体(D)が保護基を有する場合、当該保護基に由来する特性を有しうる。特性の例は、保護基がケイ素系基である場合、当該基が含むSi原子に由来する屈折率、表面硬度、濡れ性などである。また、上述したように、通常、重合体の側鎖に存在するケイ素系基は耐熱性が低く、熱分解しやすいが、ラクトン含有重合体(D)では、主鎖のラクトン環構造によって当該重合体の主鎖の歪みが大きく、立体的に混んでいるためか、このような技術常識に反し、ケイ素系基が残留した状態においても高い耐熱性を実現することが可能である。高い耐熱性は、例えば、熱分解開始温度にして300℃以上により現される。保護基の種類および含有率(残留量)を含む重合体(D)の具体的な構成によっては、310℃以上の熱分解開始温度が達成されうる。このような高い耐熱性は、上述した各用途への重合体(D)の使用のメリットになりうる。なお、一般的なアクリル重合体の熱分解開始温度は遥かに低く、例えば単純なポリメタクリル酸メチル(PMMA)の熱分解開始温度はおよそ220℃である。
ラクトン環含有重合体(D)は、用途に応じて様々な形状に成形できる。成形可能な形状は、例えば、フィルム、シート、プレート、ディスク、ブロック、ボール、レンズ、ロッド、ストランド、コードおよびファイバーである。ラクトン環含有重合体(D)を、これらの形状に成形する方法は、公知の方法に従えばよい。
ラクトン環含有重合体(D)は単独で使用しても、ラクトン環含有重合体(D)と、他の重合体および/または添加剤とを含む樹脂組成物(E)として使用してもよい。
他の重合体は限定されないが、光学部材といった透明性が要求される用途に樹脂組成物(E)を使用する場合は、ラクトン環含有重合体(D)と他の重合体とが互いに相溶する必要があることに留意する。他の重合体は、例えば、熱可塑性重合体である。他の重合体の具体例は、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)などのオレフィン系ポリマー;塩化ビニル、塩素化ビニル樹脂などの含ハロゲン系ポリマー;ポリスチレン、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンブロック共重合体などのスチレン系ポリマー;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル;ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネートなどの生分解性ポリエステル;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610などのポリアミド;ポリアセタール;ポリカーボネート;セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどのセルロース系ポリマー;ポリフェニレンオキシド;ポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルエーテルケトン;ポリエーテルニトリル;ポリサルホン;ポリエーテルサルホン;ポリオキシペンジレン;ポリアミドイミド;ポリブタジエン系ゴム、アクリル系ゴムを配合したABS樹脂やASA樹脂などのゴム質重合体である。
添加剤は、例えば、紫外線吸収剤、酸化防止剤、滑剤、耐電防止剤、可塑剤、流動化剤、着色剤、染料、難燃剤、フィラーである。
樹脂組成物(E)は、2種以上の他の重合体および/または2種以上の添加剤を含んでいてもよい。
樹脂組成物(E)におけるラクトン環含有重合体(D)の含有率は、樹脂組成物(E)として求められる特性に応じて自由に設定できる。ラクトン環含有重合体(D)は、樹脂組成物(E)の主成分であってもよい。主成分とは、樹脂組成物中で最も含有率が大きい成分をいう。主成分の含有率は、例えば、50質量%以上であり、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、さらには90質量%以上でありうる。
樹脂組成物(E)における他の重合体の含有率は、樹脂組成物(E)として求められる特性に応じて自由に設定できる。樹脂組成物(E)における他の重合体の含有率の合計は、例えば50質量%以下であり、40質量%以下でありうる。樹脂組成物(E)における添加剤の含有率も、樹脂組成物(E)として求められる特性に応じて自由に設定できる。樹脂組成物(E)における添加剤の含有率の合計は、ラクトン環含有重合体(D)100質量部に対して、例えば5質量部以下である。
樹脂組成物に含まれる各重合体の含有率は、公知の手法、例えば1H−NMR法および/またはIR法により評価できる。
樹脂組成物(E)は、例えば、熱可塑性樹脂組成物である。
樹脂組成物(E)の形成方法は限定されない。例えば、ラクトン環含有重合体(D)と、上記他の重合体および/または添加剤とを公知の混合方法で混合して形成できる。混合は、例えば、オムニミキサーなどの混合機でプレブレンドした後、得られた混合物を混練して実施できる。混練機は特に限定されず、例えば、単軸押出機、二軸押出機などの押出機や加圧ニーダーなど、公知の混練機を使用できる。樹脂組成物(E)は、本発明の製造方法で形成したラクトン環含有重合体(D)を含む。このため、樹脂組成物(E)についても、例えば、その形成時および成形加工時におけるゲル化および発泡の発生を抑制できる。
樹脂組成物(E)は、ラクトン環含有重合体(D)をはじめ、当該組成物(E)が含む重合体および添加剤の種類および含有率に基づく特性を有する。特性は、例えば、上述した熱的特性、光学的特性である。樹脂組成物(E)は、例えば、高いTgを示す。樹脂組成物(E)のTgは、例えば、100℃以上であり、当該組成物に含まれるラクトン環含有重合体(D)の構成および含有率によっては、120℃以上、130℃以上、さらには150℃以上となりうる。樹脂組成物(E)ではこのような高いTgが、例えばその形成時および成形加工時におけるゲル化および発泡の発生を抑制しながら達成される。
樹脂組成物(E)は、ラクトン環含有重合体(D)と同様の用途に使用できる。
ラクトン環含有重合体(D)または樹脂組成物(E)を成形加工して、樹脂成形体(F)を形成できる。樹脂成形体(F)は、ラクトン環含有重合体(D)または樹脂組成物(E)により構成される。
樹脂成形体(F)の形状は限定されず、例えば、フィルム、シート、プレート、ディスク、ブロック、ボール、レンズ、ロッド、ストランド、コード、またはファイバーである。
樹脂成形体(F)は、当該成形体を構成するラクトン環含有重合体(D)または樹脂組成物(E)の特性に基づく特性を有する。
樹脂成形体(F)の用途は、ラクトン環含有重合体(D)および樹脂組成物(E)の用途と同様である。
樹脂成形体(F)の形成方法は限定されない。溶融押出法、キャスト法、プレス成形法などの公知の成形手法によりラクトン環含有重合体(D)または樹脂組成物(E)を成形して、樹脂成形体(F)を形成することができる。
樹脂成形体(F)は、ラクトン環含有重合体(D)または樹脂組成物(E)の特性に基づく特性を有する。特性は、例えば、上述した熱的特性、光学的特性である。そして、樹脂成形体(F)ではゲル化および発泡の発生が抑制されており、これは樹脂成形体(F)の光学部材としての使用に特に有利な点となる。ゲルおよび発泡は、光学部材としての重大な欠陥である光学的欠点となるからである。
共重合体(C)は新規な重合体である。この重合体は、保護基により保護されたヒドロキシ基が2位の炭素原子に結合したプロペン酸エステル由来の単位(A)と、(メタ)アクリル酸エステル由来の単位(B)と、を構成単位として有する。
単位(A)および単位(B)ならびに共重合体(C)の構成、含有率、特性、具体例などについては、上記説明のとおりである。単位(A)は、例えば、以下の式(1)に示す単位である。式(1)のR1は、水素原子または炭素数1〜20の有機残基であり、当該有機残基は酸素を含んでいてもよい。R2は、保護基である。
保護基が残留したラクトン環含有重合体(D)は、新規な重合体である。この重合体は、主鎖にラクトン環構造を有し、保護基により保護されたヒドロキシ基が2位の炭素原子に結合したプロペン酸エステル単位(A)を構成単位として有する。単位(A)、ラクトン環構造およびラクトン環含有重合体(D)の構成、含有率、特性、具体例などについては、上記説明のとおりである。単位(A)は、例えば、以下の式(1)に示す単位である。式(1)のR1は、水素原子または炭素数1〜20の有機残基であり、当該有機残基は酸素を含んでいてもよい。R2は、保護基である。
ラクトン環構造の具体的な構造は特に限定されないが、典型的には5員環のラクトン環構造であり、例えば、以下の式(5)に示す構造である。式(5)のR1は式(1)のR1と同様であり、R6は水素原子(単位(B)がアクリル酸エステル単位のとき)またはメチル基(単位(B)がメタクリル酸エステル単位のとき)である。
実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。本発明は、以下に示す実施例に限定されない。
最初に、本実施例において作製した各重合体の評価方法を示す。
[共重合体(C)における各構成単位の含有率]
共重合体(C)が有する各構成単位の含有率は、共重合体(C)に対して1H−NMR測定を行って得た1H−NMRプロファイルの面積比から求めた。具体的には、当該プロファイルにおける、トリメチルシリル基に由来する化学シフト0〜0.5ppm付近のピークと、メチルエステル基のメチル基に由来する3.5〜4.0ppm付近のピークとの面積比から求めた。1H−NMR測定には、核磁気共鳴分光計(BRUKER製、AV300M)を用い、測定溶媒には重クロロホルム(和光純薬製)を用いた。
[ガラス転移温度(Tg)]
作製したラクトン環含有重合体および比較例の重合体であるポリメタクリル酸メチル(PMMA)のTgは、JIS K7121の規定に準拠して求めた。具体的には、示差走査熱量計(リガク製、Thermo plus EVO DSC−8230)を用い、窒素ガス雰囲気下、約10mgのサンプルを常温から300℃まで昇温(昇温速度20℃/分)して得られたDSC曲線から、始点法により評価した。リファレンスにはα−アルミナを用いた。
[熱分解開始温度(DyTGA)]
作製したラクトン環含有重合体および比較例の重合体であるPMMAのDyTGAは、これら重合体に対するダイナミックTG測定により求めた。具体的には、以下のとおりである。
差動型示差熱天秤装置(リガク製、Thermo plus2 Tg−8120)を用い、窒素ガス雰囲気下、約10mgのサンプルを常温から500℃まで昇温した。このとき、昇温中のサンプルの質量減少速度が0.005質量%/秒以下の場合は昇温速度を10℃/分として、0.005質量%/秒を超える場合は、質量減少速度が0.005質量%/秒以下を保つように階段状等温制御を併用して、昇温した。上記質量減少速度を保つために最初に階段状等温制御とした温度(階段状等温制御とした最も低い温度)を、重合体のDyTGAとした。
[分子量]
共重合体(C)、作製したラクトン環含有重合体、および比較例の重合体であるPMMAの重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用い、標準ポリスチレン換算にて、以下の測定条件により求めた。
測定システム:東ソー社製「GPCシステムHLC−8220」
展開溶媒:N,N-ジメチルホルアミド(和光純薬工業製、特級)
溶媒流量:1mL/分
標準試料:TSK標準ポリスチレン(東ソー社製「PS−オリゴマーキット」)
測定側カラム構成:ガードカラム(東ソー社製「TSK guardcolumn ALPHA」)、分離カラム(東ソー社製「TSK Gel ALPHA−5000」、「TSK Gel ALPHA−2500」)、2本直列接続
(製造例1:2−トリメチルシロキシプロペン酸メチル単量体の作製)
製造例1では、重合により単位(A)となる、保護基であるトリメチルシリル基(TMS基)によりヒドロキシ基が保護された2−ヒドロキシプロペン酸メチル単量体、すなわち、2−トリメチルシロキシプロペン酸メチル単量体(TMS−HPM)を作製した。
最初に、内容積200mLの三口フラスコに滴下漏斗、冷却管および温度計を取り付け、そこにピルビン酸メチル単量体(31mmol、3.2g)、クロロトリメチルシラン(TMS−Cl;35mmol、3.8g)、および溶媒としてテトラヒドロフラン(THF;40mL)を投入した。次に、フラスコ内に、室温下で滴下漏斗を介して、トリエチルアミン(42mmol、4.3g)およびTHF(25mL)の混合物を10分かけて滴下した後、室温で3時間撹拌した。反応終了後、フラスコ内にヘキサン(40mL)を投入し、フラスコの内容物を濾過した後、得られた液体を水および飽和食塩水を用いて分液処理して有機層を抽出した。次に、抽出した有機層を硫酸ナトリウムにより乾燥した後、溶媒を留去して透明な液体を得た。次に、得られた液体を中性シリカゲルクロマトグラフィーにより単離して、TMS−HPM単量体3.4g(19.5mmol)を収率63%で得た。
(製造例2:共重合体(C−1)の作製)
製造例1で作製したTMS−HPM単量体と、メタクリル酸メチル(MMA)単量体とを共重合して、単位(A)であるTMS−HPM単位と単位(B)であるMMA単位とを構成単位として有する共重合体(C−1)を作製した。
具体的には、内容積100mLの耐圧チューブ内に、製造例1で作製したTMS−HPM単量体(5mmol、0.87g)と、MMA単量体(45mmol、4.5g)とを投入した後、開始剤として10.7mgのAIBN、および溶媒として3.6gのトルエンをさらに投入した。次に、チューブ内を2分間窒素バブリングした後、チューブを密閉して65℃のオイルバスに8時間浸漬させた。次に、チューブの内容物をクロロホルムに溶解させ、さらにヘキサンで再沈殿させた後、溶媒を除去した。このようにしてTMS−HPM単量体とMMA単量体との共重合を進行させ、TMS−HPM/MMA共重合体である白色固体の共重合体(C−1)を得た。共重合体(C−1)におけるTMS−HPM単位の含有率を1H−NMRにより評価したところ、20モル%であった。また、共重合体(C−1)の重量平均分子量は15.9万、数平均分子量は8.9万であった。図1に、共重合体(C−1)の1H−NMRプロファイルを示す。
(製造例3:共重合体(C−2)の作製)
耐圧チューブに投入したMMA単量体の量を95mmol(9.5g)、AIBNの量を20.7mg、トルエンの量を6.9gとした以外は製造例2と同様にして、TMS−HPM/MMA共重合体である白色固体の共重合体(C−2)を得た。共重合体(C−2)におけるTMS−HPM単位の含有率を1H−NMRにより評価したところ、10モル%であった。また、共重合体(C−2)の重量平均分子量は19.4万、数平均分子量は12.1万であった。
(実施例1)
実施例1では、製造例2で作製した共重合体(C−1)に対して保護基(TMS基)の脱離反応および環化反応を進行させて、ラクトン環含有重合体を得た。具体的には、次のとおりである。
最初に、内容積100mLのオートクレーブにおいて、製造例2で作製した共重合体(C−1)2gをメチルエチルケトン(MEK)18mLに溶解させた。次に、オートクレーブ内に26mgのパラトルエンスルホン酸(共重合体(C−1)が有する保護基に対して4.3モル%)および0.22gのメタノールを加え、さらにオートクレーブ内を窒素置換した後、250℃に保持したオイルバスを用いて全体を3.5時間加熱処理した。次に、加熱処理後の液体を室温まで冷却し、オートクレーブから取り出した後、240℃に保持した真空オーブンで乾燥させて、ラクトン環含有重合体(D−1)を得た。この反応では、脱離反応と環化反応とが併せて進行した。より具体的には、脱離反応により形成された、保護基が脱離した共重合体(C−1)において、保護基の脱離後、速やかに環化反応が進行した。1H−NMRにより確認したところ、得られたラクトン環含有重合体(D−1)には保護基の残留は認められなかった(重合体(D−1)におけるTMS−HPM単位の含有率は0モル%であった)。
このようにして得たラクトン環含有重合体(D−1)の重量平均分子量は11.5万、数平均分子量は5.4万、Tgは137℃、DyTGAは310℃であった。1H−NMRにより確認したところ、重合体(D−1)が主鎖に有するラクトン環構造は、式(5)に示す構造(ただし、R1およびR6はメチル基)を有していた。重合体(D−1)におけるラクトン環構造の含有率は25モル%であり、すなわち、共重合体(C−1)におけるTMS−HPM単位の保護基の脱離反応およびMMA単位との環化反応が完全に進行していた。図2に、ラクトン環含有重合体(D−1)の1H−NMRプロファイルを示す。実施例1で作製したラクトン環含有重合体(D−1)について判明した上記各事項は、当該プロファイルにおいて、トリメチルシリル基に由来する化学シフト0〜0.5ppm付近のピークが消失していること、および主鎖に直接結合したメチル基に由来する0.7〜1.5ppm付近のピークと、メチルエステル基のメチル基に由来する3.4〜4.0ppm付近のピークとの面積比により確認された。
(実施例2)
20mgのパラトルエンスルホン酸(共重合体(C−1)が有する保護基に対して3.3モル%)、および0.17gのメタノールを用いるとともに、加熱処理の時間を2時間とした以外は実施例1と同様にして、ラクトン環含有重合体(D−2)を得た。1H−NMRにより確認したところ、得られたラクトン環含有重合体(D−2)には保護基の残留が認められた(重合体(D−2)におけるTMS−HPM単位の含有率は3モル%であった)。
このようにして得たラクトン環含有重合体(D−2)の重量平均分子量は11.7万、数平均分子量は5.5万、Tgは134℃、DyTGAは310℃であった。重合体(D−2)が主鎖に有するラクトン環構造は実施例1と同じであり、重合体(D−2)におけるラクトン環構造の含有率は20.5モル%であった。図3に、ラクトン環含有重合体(D−2)の1H−NMRプロファイルを示す。実施例2で作製したラクトン環含有重合体(D−2)について判明した上記各事項は、当該プロファイルにおける、トリメチルシリル基に由来する化学シフト0〜0.5ppm付近のピーク、主鎖に直接結合したメチル基に由来する0.7〜1.5ppm付近のピーク、およびメチルエステル基のメチル基に由来する3.4〜4.0ppm付近のピークの面積比により確認された。
(実施例3)
6mgのパラトルエンスルホン酸(共重合体(C−1)が有する保護基に対して1モル%)、および0.05gのメタノールを用いるとともに、加熱処理の時間を1.5時間とした以外は実施例1と同様にして、ラクトン環含有重合体(D−3)を得た。1H−NMRにより確認したところ、得られたラクトン環含有重合体(D−3)には保護基の残留が認められた(重合体(D−3)におけるTMS−HPM単位の含有率は18モル%であった)。
このようにして得たラクトン環含有重合体(D−3)の重量平均分子量は11.9万、数平均分子量は6.2万、Tgは130℃、DyTGAは310℃であった。重合体(D−3)が主鎖に有するラクトン環構造は実施例1と同じであり、重合体(D−3)におけるラクトン環構造の含有率は2モル%であった。図4に、ラクトン環含有重合体(D−3)の1H−NMRプロファイルを示す。実施例3で作製したラクトン環含有重合体(D−3)について判明した上記各事項は、当該プロファイルにおける、トリメチルシリル基に由来する化学シフト0〜0.5ppm付近のピーク、主鎖に直接結合したメチル基に由来する0.7〜1.5ppm付近のピーク、およびメチルエステル基のメチル基に由来する3.4〜4.0ppm付近のピークの面積比により確認された。
(実施例4)
製造例2で作製した共重合体(C−1)の代わりに製造例3で作製した共重合体(C−2)を用いるとともに、12mgのパラトルエンスルホン酸(共重合体(C−2)が有する保護基に対して3.7モル%)および0.1gのメタノールを用い、加熱処理の時間を2時間とした以外は実施例1と同様にして、ラクトン環含有重合体(D−4)を得た。1H−NMRにより確認したところ、得られたラクトン環含有重合体(D−4)には保護基の残留は認められなかった(重合体(D−4)におけるTMS−HPM単位の含有率は0モル%であった)。
このようにして得たラクトン環含有重合体(D−4)の重量平均分子量は14.5万、数平均分子量は7.4万、Tgは124℃、DyTGAは315℃であった。重合体(D−4)が主鎖に有するラクトン環構造は、実施例1と同じであった。重合体(D−4)におけるラクトン環構造の含有率は11.1モル%であり、すなわち、共重合体(C−2)におけるTMS−HPM単位の保護基の脱離反応およびMMA単位との環化反応が完全に進行していた。実施例4で作製したラクトン環含有重合体(D−4)について判明した上記各事項は、当該プロファイルにおいて、トリメチルシリル基に由来する化学シフト0〜0.5ppm付近のピークが消失していること、および主鎖に直接結合したメチル基に由来する0.7〜1.5ppm付近のピークと、メチルエステル基のメチル基に由来する3.4〜4.0ppm付近のピークとの面積比により確認された。
実施例1−4の結果を、比較例の重合体として準備したポリメタクリル酸メチル(PMMA)の重量平均分子量、数平均分子量、TgおよびDyTGAの値とともに、以下の表1にまとめる。