本発明のラクトン環含有重合体の製造方法では、保護基により保護されたヒドロキシ基を含有するアクリル酸エステル単位(A)と、ヒドロキシ基を含有しない(メタ)アクリル酸エステル単位(B)とを構成単位として有する共重合体(C)に対して、保護基の脱離反応と、単位(A)および(B)間の環化反応とを進行させて、主鎖にラクトン環構造を有する重合体を得る。共重合体(C)は、環化反応によりラクトン環含有重合体が形成される前駆重合体である。
特許文献1,2には、ヒドロキシ基を含有するアクリル酸エステル単位(X)と、ヒドロキシ基を含有しない(メタ)アクリル酸エステル単位(Y)とを構成単位として有する前駆重合体に対して環化反応を進行させてラクトン環含有重合体を形成することが記載されている。環化反応は互いに隣接する単位(X)と単位(Y)との間で進行するが、この前駆重合体は純然たるランダム重合体であり、その分子鎖には単位(X)が3以上連続する部分が存在する。すると、当該部分の両端に位置する単位(X)以外の単位(X)は環化反応時および環化反応後もそのまま残留し、すなわち、得られたラクトン環含有重合体にはヒドロキシ基が残留することになる。残留するヒドロキシ基は、前駆重合体における単位(X)の含有率が高いほど多い。本発明者らは、検討の結果、この残留ヒドロキシ基が、ラクトン環含有重合体の形成時および成形加工時におけるゲル化および発泡の発生の原因の一つであることを見出した。残留ヒドロキシ基によって、重合体の分子鎖間の架橋、典型的にはアルコールが脱離する分子鎖間の架橋、が誘起されるためである。架橋はゲル化を引き起こすし、脱離したアルコールは発泡を引き起こす。
一方、本発明では、保護基により保護されたヒドロキシ基を含有するアクリル酸エステル単位(A)と、ヒドロキシ基を含有しない(メタ)アクリル酸エステル単位(B)とを構成単位として有する共重合体(C)に対して環化反応を進行させてラクトン環含有重合体を形成する。共重合体(C)は、例えば、保護基により保護されたヒドロキシ基を含有するアクリル酸エステル単量体と、ヒドロキシ基を含有しない(メタ)アクリル酸単量体とを含む単量体群の重合により形成されるが、このとき、保護基の存在によって前者の単量体の単独重合性が低下するために、共重合体(C)において単位(A)が連続する数および頻度が、単位(X)および単位(Y)から構成される従来の前駆重合体に比べて低下する。このため、共重合体(C)に環化反応を進行させる際に残留するヒドロキシ基、および当該反応を経て得たラクトン環含有重合体に残留するヒドロキシ基の数が減少し、これにより、ラクトン環含有重合体の形成時および成形加工時におけるゲル化および発泡の発生が抑制されることになる。
保護基の種類によっては、当該基により保護されたアクリル酸エステル単量体の単独重合性が失われる。このとき、共重合体(C)における単位(A)の連続が最も抑制され、ラクトン環含有重合体の形成時および成形加工時におけるゲル化および発泡の発生が最も抑制されることになる。
共重合体(C)をラクトン環含有重合体の形成に使用することによる効果は、ゲル化および発泡の発生の抑制という直接的な効果に必ずしも限られない。共重合体(C)において単位(A)が連続する数および頻度が従来よりも低いことは、前駆重合体である共重合体(C)における単位(A)の含有率を従来よりも大きくできることを意味する。当該含有率を大きくした場合においても、ラクトン環含有重合体の形成時および成形加工時におけるゲル化および発泡の発生を抑制できるためである。そして、共重合体(C)における単位(A)の含有率を大きくできることは、形成したラクトン環含有重合体が示す特性の制御の自由度の向上をもたらす。特性は、例えば、熱的特性、光学的特性である。熱的特性は、例えば、ラクトン環含有重合体のTgである。より具体的な例として、形成時および成形加工時におけるゲル化および発泡の発生が抑制されながらもTgがより高いラクトン環含有重合体を形成できる。このような特性の制御の自由度の向上により、光学用途など、従来の用途におけるさらなる要請に対して応えることができる他、例えば、さらなる耐熱性が求められる用途へのラクトン環含有重合体の適用拡大などが期待される。
単位(A)は、保護基により保護されたヒドロキシ基を含有するアクリル酸エステル単位である限り限定されない。単位(A)は、例えば、以下の式(1)に示す単位である。
式(1)のR1およびR2は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜20の有機残基であり、当該有機残基は酸素を含んでいてもよい。R3は、保護基である。
有機残基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基などの炭素数が1〜20の範囲のアルキル基;エテニル基、プロペニル基などの炭素数が1〜20の範囲の不飽和脂肪族炭化水素基;フェニル基、ナフチル基などの炭素数が1〜20の範囲の芳香族炭化水素基;上記アルキル基、上記不飽和脂肪族炭化水素基、および上記芳香族炭化水素基において、水素原子の一つ以上が、カルボキシル基、エーテル基およびエステル基から選ばれる少なくとも1種の基により置換された基;である。
R1は、水素原子;メチル基、エチル基などの炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、水素原子、メチル基がより好ましい。R2は、水素原子、メチル基、エチル基などの炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、水素原子、メチル基がより好ましい。
式(1)に示す構成単位は、以下の式(2)に示す単量体の重合により形成された構成単位である。式(2)のR1〜R3は、式(1)のR1〜R3と同様である。
式(2)に示す単量体は、2−ヒドロキシメチルアクリル酸エステルのヒドロキシ基が保護基R3により保護されるとともに、当該ヒドロキシ基が結合している炭素原子に結合していた一つの水素原子がR2基により置換された、2−ヒドロキシメチルアクリル酸エステル誘導体である。すなわち、式(1)に示す構成単位は、2−ヒドロキシメチルアクリル酸エステル誘導体単位と表現することもできる。
ヒドロキシ基が保護基R3により保護される前の状態における当該誘導体は、例えば、2−ヒドロキシメチルアクリル酸、2−(1−ヒドロキシエチル)アクリル酸、2−(1−ヒドロキシブチル)アクリル酸、2−(1−ヒドロキシ−2−エチルヘキシル)アクリル酸(以上、R1が水素原子)、2−ヒドロキシメチルアクリル酸メチル、2−(1−ヒドロキシエチル)アクリル酸メチル、2−(1−ヒドロキシブチル)アクリル酸メチル、2−(1−ヒドロキシ−2−エチルヘキシル)アクリル酸メチル、2−ヒドロキシメチルアクリル酸エチル、2−(1−ヒドロキシエチル)アクリル酸エチル、2−(1−ヒドロキシブチル)アクリル酸エチル、2−(1−ヒドロキシ−2−エチルヘキシル)アクリル酸エチル、2−ヒドロキシメチルアクリル酸n−プロピル、2−(1−ヒドロキシエチル)アクリル酸n−プロピル、2−(1−ヒドロキシブチル)アクリル酸n−プロピル、2−(1−ヒドロキシ−2−エチルヘキシル)アクリル酸n−プロピル、2−ヒドロキシメチルアクリル酸イソプロピル、2−(1−ヒドロキシエチル)アクリル酸イソプロピル、2−(1−ヒドロキシブチル)アクリル酸イソプロピル、2−(1−ヒドロキシ−2−エチルヘキシル)アクリル酸イソプロピル、2−ヒドロキシメチルアクリル酸n−ブチル、2−ヒドロキシメチルアクリル酸イソブチル、2−ヒドロキシメチルアクリル酸t−ブチル、2−ヒドロキシメチルアクリル酸n−オクチル、2−ヒドロキシメチルアクリル酸イソオクチル、2−ヒドロキシメチルアクリル酸2−エチルヘキシル、2−ヒドロキシメチルアクリル酸ステアリル、2−ヒドロキシメチルアクリル酸シクロペンチル、2−(1−ヒドロキシエチル)アクリル酸シクロペンチル、2−(1−ヒドロキシブチル)アクリル酸シクロペンチル、2−(1−ヒドロキシ−2−エチルヘキシル)アクリル酸シクロペンチル、2−ヒドロキシメチルアクリル酸シクロヘキシル、2−ヒドロキシメチルアクリル酸フェニル、2−(1−ヒドロキシエチル)アクリル酸フェニル、2−(1−ヒドロキシブチル)アクリル酸フェニル、2−(1−ヒドロキシ−2−エチルヘキシル)アクリル酸フェニル、2−ヒドロキシメチルアクリル酸o−メトキシフェニル、2−ヒドロキシメチルアクリル酸p−メトキシフェニル、2−ヒドロキシメチルアクリル酸p−ニトロフェニル、2−ヒドロキシメチルアクリル酸o−メチルフェニル、2−ヒドロキシメチルアクリル酸p−メチルフェニル、2−ヒドロキシメチルアクリル酸p−t−ブチルフェニルである。これらの単量体のうち、2−ヒドロキシメチルアクリル酸メチル、2−ヒドロキシメチルアクリル酸エチル、2−ヒドロキシメチルアクリル酸n−ブチル、2−ヒドロキシメチルアクリル酸2−エチルヘキシル、2−ヒドロキシメチルアクリル酸2−ヒドロキシエチル、2−ヒドロキシメチルアクリル酸2−ヒドロキシプロピルが、ヒドロキシ基を含有しない(メタ)アクリル酸エステル単量体との共重合性、および共重合体(C)としての環化反応の安定性の観点から好ましく、さらにラクトン環含有重合体のTgを向上させる効果が高い観点からは、2−ヒドロキシメチルアクリル酸メチル(RHMA)が好ましい。
保護基R3は、例えば、ケイ素系基、アセタール系基、ベンジル基およびその誘導体、アセチル基、ならびにベンゾイル基から選ばれる少なくとも1種である。これらの基は、共重合体(C)を形成する際に、保護基により保護されたヒドロキシ基を含有する単量体(例えば2−ヒドロキシメチルアクリル酸エステル誘導体)の単独重合性を低下させる作用が高いとともに、共重合体(C)からラクトン環含有重合体を形成する際に当該単量体から脱離しやすく、共重合体(C)の環化を阻害しにくい。
保護基であるケイ素系基は限定されず、例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基、t−ブチルジフェニルシリル基、およびトリイソプロピルシリル基から選ばれる少なくとも1種である。保護基であるアセタール系基は限定されず、例えば、メトキシメチル基、テトラヒドロピラニル基、エトキシエチル基、メトキシエチル基、メチルチオメチル基、ベンゾイロキシメチル基、およびメトキシエトキシメチル基から選ばれる少なくとも1種である。保護基であるベンジル基およびその誘導体は、例えば、ベンジル基、p−メチルフェニルベンジル基およびp−メトキシフェニルベンジル基から選ばれる少なくとも1種である。
保護基は、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基、t−ブチルジフェニルシリル基、トリイソプロピルシリル基、メトキシメチル基、テトラヒドロピラニル基、エトキシエチル基、メトキシエチル基、メチルチオメチル基、ベンゾイロキシメチル基、メトキシエトキシメチル基、ベンジル基、アセチル基、およびベンゾイル基から選ばれる少なくとも1種でありうる。
上記単独重合性を低下させる作用が特に高いとともに、共重合体(C)からラクトン環含有重合体を形成する際に脱離がより確実である観点から、保護基は、ケイ素系基およびアセタール系基が好ましい。
単位(B)は、ヒドロキシ基を含有しない(メタ)アクリル酸エステル単位である限り限定されない。(メタ)アクリル酸エステル単位は、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジルなどのアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジルなどのメタクリル酸エステルの各単量体の重合により形成される単位である。なかでも、単位(A)との環化反応性に優れるとともに、環化後に得られたラクトン環含有重合体が高い耐熱性および光学的透明性を有することから、単位(B)はメタクリル酸メチル(MMA)単位が好ましい。
共重合体(C)は、2種以上の単位(A)および/または2種以上の単位(B)を構成単位として有していてもよい。
共重合体(C)における単位(A)の含有率(共重合体(C)の全構成単位に占める単位(A)の割合)は、例えば、1〜60モル%である。上述のように、共重合体(C)における単位(A)の連続する数およびその頻度は従来の前駆重合体よりも低く、これによりラクトン環含有重合体の形成時および成形加工時におけるゲル化および発泡の発生を抑制できることから、共重合体(C)における単位(A)の含有率を大きくできる。
重合体を構成する各構成単位の含有率は、公知の方法、例えば、1H−核磁気共鳴(NMR)法および/または赤外分光分析(IR)法により評価できる。
共重合体(C)は、単位(A)および単位(B)以外の構成単位を有していてもよい。
当該構成単位は、例えば、保護基によってヒドロキシ基が保護されていない、ヒドロキシ基含有アクリル酸エステル単位である。このような構成単位の一例を、以下の式(3)に示す。式(3)のR1およびR2は、式(1)のR1およびR2と同様である。
単位(A)および単位(B)以外の構成単位は、例えば、不飽和カルボン酸の重合により形成される単位、以下の式(4)に示す単量体の重合により形成される単位である。式(4)のR4は、水素原子またはメチル基であり、Xは、水素原子、炭素数1〜20の範囲のアルキル基、アリール基、−OAc基、−CN基、−C(=O)R5基、または−C−O−R6基である。Acはアセチル基、R5およびR6は、水素原子または式(1)における有機残基として例示した基である。
不飽和カルボン酸は、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、α−置換アクリル酸、α−置換メタクリル酸である。なかでも、アクリル酸およびメタクリル酸から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
式(4)に示される単量体は、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル、メチルビニルケトン、エチレン、プロピレン、酢酸ビニルである。なかでも、スチレンおよびアクリロニトリルから選ばれる少なくとも1種が好ましい。
共重合体(C)が単位(A)および(B)以外の構成単位を有する場合、共重合体(C)における当該構成単位の含有率は、例えば、0.1〜30モル%であり、その上限は、20モル%以下が好ましく、15モル%以下がより好ましい。
共重合体(C)は新規重合体である。この新規重合体は、上記説明した共重合体(C)の各構成および各特徴を任意の組み合わせで有しうる。
共重合体(C)の形成方法は限定されない。
共重合体(C)は、例えば、保護基により保護されたヒドロキシ基を含有するアクリル酸エステル単量体と、ヒドロキシ基を含有しない(メタ)アクリル酸エステル単量体とを含む単量体群の共重合により形成できる。前者および後者の単量体の例は、上記説明したとおりである。
単量体群の共重合方法は限定されない。当該単量体群が、保護基により保護されたヒドロキシ基を含有するアクリル酸エステル単量体と、ヒドロキシ基を含有しない(メタ)アクリル酸エステル単量体とを含むこと以外は、例えば、特開2007-70607号公報に開示されている重合工程と同様にして単量体群の共重合を実施できる。
より具体的に、共重合は、例えば溶液重合により行う。溶液重合により共重合体(C)を形成した場合、重合生成物には、共重合体(C)以外に重合に用いた重合溶媒が含まれるが、必ずしも当該溶媒を除去して共重合体(C)を固体として取り出さなくてもよい。共重合体(C)の種類によっては、溶媒を含んだ状態のまま重合生成物を、共重合体(C)からラクトン環含有重合体を形成するための脱離反応および環化反応に供することもできる。もちろん、共重合体(C)を固体として取り出した後、改めて脱離反応および/または環化反応に適した状態にしてこれらの反応を進行させてもよい。
溶液重合により共重合体(C)を形成する場合、用いる重合溶媒は、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;クロロホルム、ジメチルスルフォキシド(DMSO)、テトラヒドロフランである。なかでも芳香族炭化水素、ケトン類が好ましく、特にトルエン、メチルイソブチルケトンが好ましい。
共重合体(C)の重合時には、必要に応じて重合開始剤を使用できる。重合開始剤は限定されないが、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートなどの有機過酸化物;2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル);(AIBN)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルイソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)などのアゾ化合物である。2種以上の重合開始剤を使用してもよい。重合開始剤の使用量は、単量体の組み合わせ、あるいは重合条件などに応じて適宜設定でき、限定されない。
単位(A)および単位(B)以外の構成単位を有する共重合体(C)を形成するために、単量体群は、重合により当該構成単位が形成される単量体をさらに含みうる。
共重合に供する単量体群は、保護基により保護されたヒドロキシ基を含有するアクリル酸エステル単量体を2種以上、および/またはヒドロキシ基を含有しない(メタ)アクリル酸エステル単量体を2種以上含みうる。
本発明の製造方法では、共重合体(C)に対して保護基R3の脱離反応と、単位(A)および単位(B)間の環化反応とを進行させて、主鎖にラクトン環構造を有するラクトン環含有重合体を形成する。
脱離反応では、共重合体(C)の単位(A)から保護基R3を脱離させる。保護基を脱離できる限り、脱離反応を進行させる具体的な手段は限定されない。脱離反応は、例えば、共重合体(C)への熱の印加、共重合体(C)の環境の変化、および脱離剤の使用から選ばれる少なくとも1種により実施できる。環境の変化は、例えば、酸性または塩基性への変化、還元性雰囲気への変化である。脱離剤は、例えば、フッ素系化合物である。これらの手段を任意に組み合わせてもよい。組み合わせる各手段は、同時に実施しても段階的に実施してもよい。脱離反応を進行させる具体的な手段は、共重合体(C)の構成および保護基の種類により選択できる。
保護基と具体的な手段との組み合わせの例は、ケイ素系の保護基について、熱の印加、酸性雰囲気への変化、および脱離剤の使用から選ばれる少なくとも1種である。アセタール系の保護基について、熱の印加および/または酸性雰囲気への変化である。ベンジル基およびその誘導体である保護基について、還元性雰囲気への変化である。アセチル基およびベンゾイル基である保護基について、塩基性雰囲気への変化および/または還元性雰囲気への変化である。
脱離反応では、少なくとも一部の保護基を単位(A)から脱離できればよいし、もちろん、全ての保護基を単位(A)から脱離してもよい。
熱を印加して脱離反応を進行させる場合、その温度は保護基の種類によっても異なるが、例えば、ケイ素系およびアセタール系保護基の場合、100〜300℃程度である。
酸性雰囲気への変化により脱離反応を進行させる場合、例えば、共重合体(C)がおかれている雰囲気に酸性物質を添加すればよい。酸性物質は限定されず、例えば、塩酸、硫酸、リン酸化合物などの無機酸およびその化合物、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸などのスルホン酸、ギ酸、酢酸などのカルボン酸である。酸性物質とともに、水、および/またはメタノール、エタノールなどのアルコールを添加してもよい。
塩基性雰囲気への変化により脱離反応を進行させる場合、例えば、共重合体(C)がおかれている雰囲気に塩基性物質を添加すればよい。塩基性物質は限定されず、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属およびこれらの塩、水酸化物である。塩基性物質とともに、水、および/またはメタノール、エタノールなどのアルコールを添加してもよい。
還元性雰囲気への変化により脱離反応を進行させる場合、例えば、共重合体(C)がおかれている雰囲気に還元性物質を添加すればよい。還元性物質は限定されず、例えば、金属水素化物である。金属と水素とを添加することにより、上記雰囲気において金属水素化物を生じさせてもよい。
脱離剤の使用により脱離反応を進行させる場合、例えば、共重合体(C)がおかれている雰囲気に脱離剤を添加すればよい。脱離剤であるフッ素系化合物は、例えば、フッ化水素、フッ化テトラブチルアンモニウムなどのフッ化水素の塩、フッ化セシウムなどの金属フッ化物である。
環化反応では、脱離反応により保護基R3が外れることで露出した単位(A)のヒドロキシ基と、単位(B)のエステル基との間に環化縮合反応が進行することにより、ラクトン環構造が重合体の主鎖に形成される。環化反応は、共重合体(C)の分子鎖内で進行するエステル交換反応の一種であり、アルコールが副生する反応である。
環化反応を進行させる具体的な手段は限定されない。環化反応は、例えば、保護基R3が脱離した共重合体(C)への熱の印加、および/または当該共重合体(C)の環境を変化させることにより実施できる。環境の変化は、例えば、脱離反応の説明において例示した変化であり、具体的な例は、保護基R3が脱離した共重合体(C)がおかれている雰囲気の酸性または塩基性への変化である。環化反応を制御する、典型的には環化反応を促進させる環化触媒を併用することもできる。環化触媒には公知の触媒を使用できる。
熱を印加して環化反応を進行させる場合、その温度は、例えば、100〜300℃であり、150〜250℃が好ましい。
酸性雰囲気への変化により環化反応を進行させる場合、例えば、保護基R3が脱離した共重合体(C)がおかれている雰囲気に酸性物質を添加すればよい。酸性物質は限定されず、例えば、塩酸、硫酸、リン酸化合物などの無機酸およびその化合物、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸などのスルホン酸、ギ酸、酢酸などのカルボン酸である。
塩基性雰囲気への変化により環化反応を進行させる場合、例えば、保護基R3が脱離した共重合体(C)がおかれている雰囲気に塩基性物質を添加すればよい。塩基性物質は限定されず、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属およびこれらの塩、水酸化物である。
環化反応は、脱アルコール縮合反応である。このため、環化反応の雰囲気を減圧することによって副生成物であるアルコールを積極的に除去し、これにより環化反応を促進させてもよい。
環化反応では、少なくとも単位(A)と単位(B)との間の環化反応を進行させる。このとき、単位(A)または単位(B)と、共重合体(C)を構成する他の構成単位との間でさらなる環化反応が進行してもよい。
脱離反応と環化反応とは個別に進行させてもよいし、両反応の条件さえ整えば、同時に進行させてもよい。また、脱離反応、または脱離反応および環化反応の双方の反応は、これら反応の条件と共重合体(C)の重合条件とが整えば、共重合体(C)の形成から連続的に実施してもよい。
本発明の製造方法により得たラクトン環含有重合体(D)は、ラクトン環構造をその主鎖に有する。形成されるラクトン環構造の具体的な構造は特に限定されないが、例えば、以下の式(5)に示す構造である。式(5)のR1およびR2は、式(1)のR1およびR2と同様であり、R7は水素原子(単位(B)がアクリル酸エステル単位のとき)またはメチル基(単位(B)がメタクリル酸エステル単位のとき)である。
重合体(D)は、環化反応時に未反応のまま残留した単位(A)、単位(A)から保護基R3が脱離した単位、および単位(B)から選ばれる少なくとも1種の単位を構成単位として有しうる。また、重合体(D)は、共重合体(C)が単位(A)および単位(B)以外の構成単位を有している場合、当該構成単位をさらに有しうる。
重合体(D)は、典型的には熱可塑性重合体である。重合体(D)は、例えば、非晶性重合体でありうる。
単位(A)はアクリル酸エステル単位であり、単位(B)は(メタ)アクリル酸エステル単位である。このため、単位(A)および単位(B)間の環化反応により形成されたラクトン環構造は、(メタ)アクリル酸エステル単位の誘導体である。また、重合体(D)は、環化反応時に未反応のまま残留した単位(A)、単位(A)から保護基が脱離した単位、および単位(B)を構成単位として有しうるが、これらの単位は(メタ)アクリル酸エステル単位である。このため、重合体(D)におけるラクトン環構造の含有率と(メタ)アクリル酸エステル単位の含有率との合計が50質量%以上であれば、重合体(D)はアクリル重合体である。このとき、重合体(D)は、アクリル重合体であるが故の特性、例えば、高い透明性、高い表面光沢および耐候性、ならびに機械的強度、成形加工性および表面硬度の高いバランスを有しうる。
重合体(D)におけるラクトン環構造の含有率は、その形成時および成形加工時におけるゲル化および発泡の発生を抑制しながら、従来のラクトン環含有重合体よりも大きくすることが可能である。具体的に、重合体(D)におけるラクトン環構造の含有率は、例えば、10〜100質量%とすることもできる。
重合体(D)は、主鎖のラクトン環構造に基づく特性を有する。特性は、例えば、熱的特性、光学的特性である。
熱的特性は、例えばTgであり、ラクトン環含有重合体(D)のTgは、ラクトン環構造を主鎖に有さない場合に比べて高い。ラクトン環含有重合体(D)のTgは、例えば、100℃以上であり、ラクトン環構造の構成および含有率によっては、130℃以上、150℃以上、さらには180℃以上となりうる。ラクトン環含有重合体(D)ではこのような高いTgが、当該重合体(D)の形成時および成形加工時におけるゲル化および発泡の発生を抑制しながら達成される。
また、ラクトン環含有重合体(D)では、従来の製造方法により形成したラクトン環含有重合体に比べて、同じラクトン環構造の含有率のときにTgがより高くなる。これは、上述した効果によって、ラクトン環構造がより均一にラクトン環含有重合体の分子鎖に配置されることに基づくと考えられる。Tgの上昇は、例えば、1〜20℃である。
光学的特性は、例えば複屈折特性である。主鎖に位置するラクトン環構造によって重合体の複屈折発現性(位相差発現性)が向上する。ラクトン環構造は、重合体(D)に正の固有複屈折を与える作用を有する。重合体(D)としての固有複屈折の正負は、当該重合体(D)が有する各構成単位が示す複屈折特性の兼ね合いにより決定される。
ラクトン環含有重合体(D)はこれらの特性に基づき、種々の用途に使用できる。用途は、例えば、光学部材である。ラクトン環含有重合体(D)における上述した熱的特性および光学的特性は、光学部材の有利な特徴になりうる。また、ラクトン環含有重合体(D)が透明性および耐熱性に優れ、かつその形成時および成形加工時におけるゲル化および発泡の発生が抑制されていることも、光学部材の有利な特徴になりうる。光学部材は、例えば、光学レンズ、光学プリズム、光学フィルム、光学ファイバー、光学ディスクである。
光学部材の形状は特に限定されず、例えばフィルム(光学フィルム)である。光学フィルムの具体的な用途は特に限定されず、例えば、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイなどの画像表示装置に用いられる複屈折フィルム、位相差フィルム、視野角補償フィルム、光拡散フィルム、反射フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム、輝度向上フィルム、画素部(発光部)保護フィルム、偏光子保護フィルム、紫外線吸収フィルムである。
ラクトン環含有重合体(D)のその他の用途は、例えば、看板・ディスプレイ、弱電・工業部品、感光性電子材料、自動車を中心とする車輌部品、建材・店装、コーティング材料、脱塗装用保護フィルム、照明器具、大型水槽、ミラー、繊維、文具、テーブルウェアなどの雑貨類、化粧品、食品などである。
ラクトン環含有重合体(D)は、用途に応じて様々な形状に成形できる。成形可能な形状は、例えば、フィルム、シート、プレート、ディスク、ブロック、ボール、レンズ、ロッド、ストランド、コードおよびファイバーである。ラクトン環含有重合体(D)を、これらの形状に成形する方法は、公知の方法に従えばよい。
ラクトン環含有重合体(D)は単独で使用しても、ラクトン環含有重合体(D)と、他の重合体および/または添加剤とを含む樹脂組成物(E)として使用してもよい。
他の重合体は限定されないが、光学部材といった透明性が要求される用途に樹脂組成物(E)を使用する場合は、ラクトン環含有重合体(D)と他の重合体とが互いに相溶する必要があることに留意する。他の重合体は、例えば、熱可塑性重合体である。他の重合体の具体例は、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)などのオレフィン系ポリマー;塩化ビニル、塩素化ビニル樹脂などの含ハロゲン系ポリマー;ポリスチレン、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンブロック共重合体などのスチレン系ポリマー;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル;ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネートなどの生分解性ポリエステル;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610などのポリアミド;ポリアセタール;ポリカーボネート;セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどのセルロース系ポリマー;ポリフェニレンオキシド;ポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルエーテルケトン;ポリエーテルニトリル;ポリサルホン;ポリエーテルサルホン;ポリオキシペンジレン;ポリアミドイミド;ポリブタジエン系ゴム、アクリル系ゴムを配合したABS樹脂やASA樹脂などのゴム質重合体である。
添加剤は、例えば、紫外線吸収剤、酸化防止剤、滑剤、耐電防止剤、可塑剤、流動化剤、着色剤、染料、難燃剤、フィラーである。
樹脂組成物(E)は、2種以上の他の重合体および/または2種以上の添加剤を含んでいてもよい。
樹脂組成物(E)におけるラクトン環含有重合体(D)の含有率は、樹脂組成物(E)として求められる特性に応じて自由に設定できる。ラクトン環含有重合体(D)は、樹脂組成物(E)の主成分であってもよい。主成分とは、樹脂組成物中で最も含有率が大きい成分をいう。主成分の含有率は、例えば、50質量%以上であり、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、さらには90質量%以上でありうる。
樹脂組成物(E)における他の重合体の含有率は、樹脂組成物(E)として求められる特性に応じて自由に設定できる。樹脂組成物(E)における他の重合体の含有率の合計は、例えば50質量%以下であり、40質量%以下でありうる。樹脂組成物(E)における添加剤の含有率も、樹脂組成物(E)として求められる特性に応じて自由に設定できる。樹脂組成物(E)における添加剤の含有率の合計は、ラクトン環含有重合体(D)100質量部に対して、例えば5質量部以下である。
樹脂組成物に含まれる各重合体の含有率は、公知の手法、例えば1H−NMR法および/またはIR法により評価できる。
樹脂組成物(E)の形成方法は限定されない。例えば、ラクトン環含有重合体(D)と、上記他の重合体および/または添加剤とを公知の混合方法で混合して形成できる。混合は、例えば、オムニミキサーなどの混合機でプレブレンドした後、得られた混合物を混練して実施できる。混練機は特に限定されず、例えば、単軸押出機、二軸押出機などの押出機や加圧ニーダーなど、公知の混練機を使用できる。樹脂組成物(E)は、本発明の製造方法で形成したラクトン環含有重合体(D)を含む。このため、樹脂組成物(E)についても、その形成時および成形加工時におけるゲル化および発泡の発生を抑制できる。
樹脂組成物(E)は、ラクトン環含有重合体(D)をはじめ、当該組成物(E)が含む重合体および添加剤の種類および含有率に基づく特性を有する。特性は、例えば、上述した熱的特性、光学的特性である。樹脂組成物(E)は、例えば、高いTgを示す。樹脂組成物(E)のTgは、例えば、100℃以上であり、当該組成物に含まれるラクトン環含有重合体(D)の含有率によっては、120℃以上、130℃以上、さらには150℃以上となりうる。樹脂組成物(E)ではこのような高いTgが、その形成時および成形加工時におけるゲル化および発泡の発生を抑制しながら達成される。
樹脂組成物(E)は、ラクトン環含有重合体(D)と同様の用途に使用できる。
ラクトン環含有重合体(D)または樹脂組成物(E)を成形加工して、樹脂成形体(F)を形成できる。樹脂成形体(F)は、ラクトン環含有重合体(D)または樹脂組成物(E)により構成される。
樹脂成形体(F)の形状は限定されず、例えば、フィルム、シート、プレート、ディスク、ブロック、ボール、レンズ、ロッド、ストランド、コード、またはファイバーである。
樹脂成形体(F)は、当該成形体を構成するラクトン環含有重合体(D)または樹脂組成物(E)の特性に基づく特性を有する。
樹脂成形体(F)の用途は、ラクトン環含有重合体(D)および樹脂組成物(E)の用途と同様である。
樹脂成形体(F)の形成方法は限定されない。溶融押出法、キャスト法、プレス成形法などの公知の成形手法によりラクトン環含有重合体(D)または樹脂組成物(E)を成形して、樹脂成形体(F)を形成することができる。
樹脂成形体(F)は、ラクトン環含有重合体(D)または樹脂組成物(E)の特性に基づく特性を有する。特性は、例えば、上述した熱的特性、光学的特性である。そして、樹脂成形体(F)ではゲル化および発泡の発生が抑制されており、これは樹脂成形体(F)の光学部材としての使用に特に有利な点となる。ゲルおよび発泡は、光学部材としての重大な欠陥である光学的欠点となるからである。
実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。本発明は、以下に示す実施例に限定されない。
最初に、本実施例において作製した重合体(前駆重合体を含む)の評価方法を示す。
[前駆重合体におけるRHMA単位の含有率]
前駆重合体(実施例1〜4では共重合体(C))における2−ヒドロキシメチルアクリル酸メチル単位(RHMA単位;共重合体(C)では、ヒドロキシ基がテトラメチルシリル(TMS)基により保護されたRHMAの誘導体単位)の含有率は、前駆重合体に対して1H−NMR測定を行い、得られた1H−NMRプロファイルの面積比から求めた。1H−NMR測定には、核磁気共鳴分光計(BRUKER製、AV300M)を用い、測定溶媒には重クロロホルム(和光純薬製)を用いた。
[ガラス転移温度(Tg)]
作製したラクトン環含有重合体のTgは、JIS K7121の規定に準拠して求めた。具体的には、示差走査熱量計(リガク製、Thermo plus EVO DSC−8230)を用い、窒素ガス雰囲気下、約10mgのサンプルを常温から300℃まで昇温(昇温速度20℃/分)して得られたDSC曲線から、始点法により評価した。リファレンスにはα−アルミナを用いた。
[重量平均分子量]
作製したラクトン環含有重合体の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用い、標準ポリスチレン換算にて、以下の測定条件により求めた。
測定システム:東ソー社製「GPCシステムHLC−8220」
展開溶媒:N,N-ジメチルホルアミド(和光純薬工業製、特級)
溶媒流量:1mL/分
標準試料:TSK標準ポリスチレン(東ソー社製「PS−オリゴマーキット」)
測定側カラム構成:ガードカラム(東ソー社製「TSK guardcolumn ALPHA」)、分離カラム(東ソー社製「TSK Gel ALPHA−5000」、「TSK Gel ALPHA−2500」)、2本直列接続
[溶媒への可溶性]
作製したラクトン環含有重合体の溶媒への可溶性を以下のように評価した。最初に、作製したラクトン環含有重合体10mgを5mLのDMSOに投入し、室温にて12時間以上撹拌した。これにより、DMSOへの可溶性の有無を確認した。次に、DMSOをクロロホルムに変更して同様に、クロロホルムへの可溶性の有無を確認した。ラクトン環含有重合体では、通常、DMSOに対する可溶性の方がクロロホルムに対する可溶性よりも高くなる。
(製造例1)
製造例1では、重合により単位(A)となる、保護基であるTMS基によりヒドロキシ基が保護された2−ヒドロキシメチルアクリル酸誘導体(RHMA−TMS)を作製した。
最初に、内容積300mLの三口フラスコに滴下漏斗、冷却管および温度計を取り付け、そこにRHMA単量体(160mmol、18.6g)、塩基としてトリエチルアミン(320mmol、32.4g)、および溶媒としてジクロロメタン100mLを投入した。次に、フラスコを氷水につけて全体を冷却した後、滴下漏斗を介して、クロロトリメチルシラン(TMS−Cl;320mmol、34.1g)を30分かけて滴下した。滴下終了後、フラスコ内の収容物を室温で一晩撹拌した。次に、フラスコ内の反応液を300mLの水に投入し、有機層をジクロロメタンにより抽出した。抽出した有機層は硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒を留去した。このようにして得た褐色の液体をシリカゲルクロマトグラフィーにより単離して、RHMA−TMS単量体22g(117mmol)を収率73%で得た。
(実施例1)
最初に、製造例1で作製したRHMA−TMS単量体と、メタクリル酸メチル(MMA)単量体とを共重合して、単位(A)であるRHMA−TMS単位と単位(B)であるMMA単位とを構成単位として有する共重合体(C)を作製した。
具体的には、内容積100mLの耐圧チューブ内に、製造例1で作製したRHMA−TMS単量体(1.4mmol、2.64g)と、MMA(1.4mmol、1.40g)単量体とを投入した後、開始剤として8mgのAIBN、および溶媒として2.4gのトルエンをさらに投入した。次に、チューブ内を2分間窒素バブリングした後、チューブを密閉して65℃のオイルバスに8時間浸漬させた。次に、チューブの内容物をクロロホルムに溶解させ、さらにヘキサンで再沈殿させた後、溶媒を除去した。このようにしてRHMA−TMS単量体とMMA単量体との共重合を進行させ、RHMA−TMS/MMA共重合体である白色固体の共重合体(C−1)を得た。共重合体(C−1)におけるRHMA−TMS単位の含有率を1H−NMRにより評価したところ、49モル%であった。
次に、このようにして得た共重合体(C−1)に対して、保護基の脱離反応および環化反応を進行させた。
具体的には、内容積100mLの三口フラスコに滴下漏斗、冷却管および温度計を取り付けた後、作製した共重合体(C−1)2gをフラスコ内でテトラヒドロフラン(THF)18mLに溶解させた。次に、濃度6NのHCl4mLを滴下漏斗よりフラスコ内に滴下した後、フラスコ内の収容物を2時間、室温で撹拌した。撹拌後、フラスコ内の反応物を水で希釈し、析出した白色固体を濾過してヘキサンで洗浄した。このようにして得た固体をジメチルアセトアミド(DMAc)に溶解させ、2−プロパノールで再沈殿させた。次に、再沈殿物から溶媒を乾燥させ、さらに240℃および1時間の加熱処理を施して、主鎖にラクトン環構造を有するラクトン環含有重合体(D−1)を得た。重合体(D−1)のTgは、188℃であった。また、重合体(D−1)をプレス成形機により240℃でプレス成形してフィルムを作製したが、得られたフィルムに発泡は生じなかった。
(実施例2)
共重合体(C)を形成する際の耐圧チューブへの単量体の仕込み量を、RHMA−TMS単量体について1.06mmol(2g)、およびMMA単量体について2mmol(2g)とした以外は実施例1と同様にして、RHMA−TMS/MMA共重合体である白色固体の共重合体(C−2)を得た。共重合体(C−2)におけるRHMA−TMS単位の含有率を1H−NMRにより評価したところ、36モル%であった。
次に、このようにして得た共重合体(C−2)に対して実施例1と同様に保護基の脱離反応および環化反応を進行させて、ラクトン環含有重合体(D−2)を得た。重合体(D−2)のTgは、158℃であった。また、重合体(D−2)をプレス成形機により240℃でプレス成形してフィルムを作製したが、得られたフィルムに発泡は生じなかった。
(実施例3)
共重合体(C)を形成する際の耐圧チューブへの単量体の仕込み量を、RHMA−TMS単量体について1mmol(1.88g)、およびMMA単量体について2mmol(2g)とした以外は実施例1と同様にして、RHMA−TMS/MMA共重合体である白色固体の共重合体(C−3)を得た。共重合体(C−3)におけるRHMA−TMS単位の含有率を1H−NMRにより評価したところ、32モル%であった。
次に、このようにして得た共重合体(C−3)に対して実施例1と同様に保護基の脱離反応および環化反応を進行させて、ラクトン環含有重合体(D−3)を得た。重合体(D−3)のTgは、151℃であった。また、重合体(D−3)をプレス成形機により240℃でプレス成形してフィルムを作製したが、得られたフィルムに発泡は生じなかった。
(実施例4)
共重合体(C)を形成する際の耐圧チューブへの単量体の仕込み量を、RHMA−TMS単量体について0.6mmol(1.13g)、およびMMA単量体について2.7mmol(2.7g)とした以外は実施例1と同様にして、RHMA−TMS/MMA共重合体である白色固体の共重合体(C−4)を得た。共重合体(C−4)におけるRHMA−TMS単位の含有率を1H−NMRにより評価したところ、20モル%であった。
次に、このようにして得た共重合体(C−4)に対して実施例1と同様に保護基の脱離反応および環化反応を進行させて、ラクトン環含有重合体(D−4)を得た。重合体(D−4)のTgは、137℃であった。また、重合体(D−4)をプレス成形機により240℃でプレス成形してフィルムを作製したが、得られたフィルムに発泡は生じなかった。
(比較例1)
最初に、RHMA単量体とMMA単量体とを共重合して、RHMA単位とMMA単位とを構成単位として有する前駆重合体(G)を作製した。
具体的には、内容積100mLの耐圧チューブ内に、RHMA単量体(1.38mmol、1.6g)とMMA単量体(2.4mmol、2.40g)とを投入した後、開始剤として8mgのAIBN、および溶媒として2.4gのトルエンをさらに投入した。次に、チューブ内を2分間窒素バブリングした後、チューブを密閉して65℃のオイルバスに8時間浸漬させた。次に、チューブの内容物をクロロホルムに溶解させ、さらにヘキサンで再沈殿させた後、溶媒を除去した。このようにしてRHMA単量体とMMA単量体との共重合を進行させ、RHMA/MMA共重合体である白色固体の共重合体(G−1)を得た。共重合体(G−1)におけるRHMA単位の含有率を1H−NMRにより評価したところ、36モル%であった。
次に、このようにして得た共重合体(G−1)に対して、環化反応を進行させた。
具体的には、内容積100mLの三口フラスコに滴下漏斗、冷却管および温度計を取り付けた後、作製した共重合体(G−1)2gをフラスコ内でTHF18mLに溶解させた。次に、濃度6NのHCl4mLを滴下漏斗よりフラスコ内に滴下した後、フラスコ内の収容物を4時間、室温で撹拌した。撹拌後、フラスコ内の反応物を水で希釈し、析出した白色固体を濾過してTHFで洗浄した。このようにして得た固体をDMAcに溶解させ、2−プロパノールで再沈殿させた。次に、再沈殿物から溶媒を乾燥させ、さらに240℃および1時間の加熱処理を施して、主鎖にラクトン環構造を有するラクトン環含有重合体(H−1)を得た。重合体(H−1)ではその一部にゲル化が進行しており、重合体(H−1)をDMSOに溶解させることを試みたが、不溶成分が残留した。重合体(H−1)のTgは、152℃であった。また、重合体(H−1)をプレス成形機により240℃でプレス成形してフィルムを作製したところ、得られたフィルムに発泡が生じた。
(比較例2)
共重合体(G)を形成する際の耐圧チューブへの単量体の仕込み量を、RHMA単量体について1.2mmol(1.03g)、およびMMA単量体について2.8mmol(2.8g)とした以外は比較例1と同様にして、RHMA/MMA共重合体である白色固体の共重合体(G−2)を得た。共重合体(G−2)におけるRHMA単位の含有率を1H−NMRにより評価したところ、27モル%であった。
次に、このようにして得た共重合体(G−2)に対して比較例1と同様に環化反応を進行させて、ラクトン環含有重合体(H−2)を得た。重合体(H−2)では、依然としてその一部にゲル化が進行しており、重合体(H−2)をDMSOに溶解させることを試みたが、不溶成分が残留した。重合体(H−2)のTgは、140℃であった。また、重合体(H−2)をプレス成形機により240℃でプレス成形してフィルムを作製したところ、得られたフィルムに発泡が生じた。
(比較例3)
共重合体(G)を形成する際の耐圧チューブへの単量体の仕込み量を、RHMA単量体について0.8mmol(0.69g)、およびMMA単量体について3.2mmol(3.2g)とした以外は比較例1と同様にして、RHMA/MMA共重合体である白色固体の共重合体(G−3)を得た。共重合体(G−3)におけるRHMA単位の含有率を1H−NMRにより評価したところ、18モル%であった。
次に、このようにして得た共重合体(G−3)に対して比較例1と同様に環化反応を進行させて、ラクトン環含有重合体(H−3)を得た。重合体(H−3)のTgは、127℃であった。重合体(H−3)では、ゲル化した部分は見られなかった。また、重合体(H−3)をプレス成形機により240℃でプレス成形してフィルムを作製したが、得られたフィルムに発泡は生じなかった。
各実施例および比較例で作製した前駆重合体の組成、ならびにラクトン環含有重合体の重量平均分子量Mw、溶媒への可溶性およびTgを以下の表1にまとめる。また、前駆重合体におけるRHMA誘導体単位(実施例1〜4)またはRHMA単位(比較例1〜3)の含有率と、当該前駆重合体を環化して得たラクトン環含有重合体のTgとの関係を図1に示す。
表1に示すように、実施例1〜4では比較例1〜3に比べて、前駆重合体におけるRHMA誘導体単位の含有率が高い場合においても、ラクトン環含有重合体の形成時のゲル化および成形時の発泡が抑制された。より具体的に、RHMA単量体を用いた比較例1〜3では、前駆重合体におけるRHMA単位の含有率が18モル%を超えると、形成したラクトン環含有重合体の一部にゲル化が見られるとともに、当該重合体をフィルム成形する際に発泡が生じた。これに対してRHMA−TMS単量体を用いた実施例1〜4では、前駆重合体におけるRHMA−TMS単位の含有率がより高い場合においても、ゲル化することなくラクトン環含有重合体を形成でき、当該重合体をフィルム成形する際にも発泡が生じなかった。
また、表1および図1に示すように、前駆重合体におけるRHMA誘導体単位(実施例1〜4)およびRHMA単位(比較例1〜3)の含有率が同等の場合、比較例に比べて実施例で得られたラクトン環含有重合体のTgが高くなった。