(1)本発明の環含有(メタ)アクリル系重合体の製造方法は、環化触媒の存在下、主鎖に環形成性官能基を有する(メタ)アクリル系重合体を加熱して環構造を形成させる環化反応工程、および、前記環構造が形成された(メタ)アクリル系重合体を含有する系中から、前記環化触媒を除去する工程を含むことを特徴とする。
(1−1)まず、環化触媒の存在下、主鎖に環形成性官能基を有する(メタ)アクリル系重合体を加熱して環構造を形成させる環化反応工程について説明する。
ア)本発明において使用する「主鎖に環形成性官能基を有する(メタ)アクリル系重合体」とは、少なくとも(メタ)アクリル酸またはそのエステルを重合体の構成成分として使用して得られた重合体であって、主鎖に環形成性官能基を有するものであれば、特に限定されない。前記環形成性官能基として、例えば、ヒドロキシル基、カルボキシル基、エステル基、アミノ基、酸無水物基などを挙げることができる。これらの中でも、主鎖に環形成性官能基を有する(メタ)アクリル系重合体としては、例えば、環形成性官能基として、主鎖にヒドロキシル基とエステル基とを有する(メタ)アクリル系重合体、環形成性官能基として、主鎖にエステル基を有する(メタ)アクリル系重合体、主鎖にカルボキシル基とエステル基とを有する(メタ)アクリル系重合体などを挙げることができる。
前記「主鎖に環形成性官能基を有する(メタ)アクリル系重合体」を構成する単量体成分であって、環形成性官能基を有する単量体成分としては、例えば、カルボキシル基を有する重合性単量体、エステル基を有する重合性単量体、ヒドロキシル基を有する重合性単量体、アミノ基もしくはアミド基を有する重合性単量体などを挙げることができる。
カルボキシル基を有する重合性単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、α−置換アクリル酸、α−置換メタクリル酸、マレイン酸、コハク酸などが挙げられる。これらのカルボキシル基を有する重合性単量体は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらのカルボキシル基を有する重合性単量体のうち、本発明の効果が充分に発揮されることから、アクリル酸、メタクリル酸が特に好ましい。
エステル基を有する重合性単量体としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジルなどのアクリル酸エステル;または、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジルなどのメタクリル酸エステルなどが挙げられる。これらのエステル基を有する重合性単量体は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの(メタ)アクリル酸エステルのうち、得られる重合体の耐熱性や透明性が優れることから、メタクリル酸メチルが特に好ましい。
ヒドロキシル基を有する重合性単量体としては、特に限定されるものではないが、例えば、α−ヒドロキシメチルスチレン、α−ヒドロキシエチルスチレンなどのα−ヒドロキシアルキルスチレン;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルエステル;2―(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸メチルなどの2−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸アルキルエステル;2―(ヒドロキシメチル)アクリル酸、2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸などの2−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸;などが挙げられる。これらのヒドロキシル基を有する重合性単量体は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
特に、本発明では、環形成性官能基として主鎖にヒドロキシル基とエステル基とを有する(メタ)アクリル系重合体を用いることが好ましい態様であり、ヒドロキシル基を有する重合性単量体とエステル基とを有する重合性単量体とを共重合させてなるものが好ましい。この際、ヒドロキシル基を有する重合性単量体としては、下記式(1)で表される単量体が好ましい。
[式中、R
1およびR
2は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜20の有機残基を表す]
前記式(1)で示される単量体としては、例えば、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸イソプロピル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸n−ブチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸t−ブチルなどが挙げられる。これらの単量体は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの単量体のうち、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチルが好ましく、耐熱性を向上させる効果が高いことから、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルが特に好ましい。また、エステル基を有する重合性単量体としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルなどが好ましい。
本発明で使用する「主鎖に環形成性官能基を有する(メタ)アクリル系重合体」が、上述した単量体のほかに、紫外線吸収性重合性単量体を構成成分とすることも好ましい態様である。紫外線吸収性重合性単量体を構成成分とすることによって、紫外線に対する耐久性が向上する。
前記紫外線吸収性重合性単量体としては、例えば、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収性モノマー、トリアジン系紫外線吸収性モノマーなどが挙げられる。ベンゾトリアゾール系紫外線吸収性モノマーとしては、2−[2´−ヒドロキシ−5´−メタクリロイルオキシ]エチルフェニル−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2´−ヒドロキシ−5´−メタクリロイルオキシ]フェニル−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2´−ヒドロキシ−3´−t−ブチル−5´−メタクリロイルオキシ]フェニル−2H−ベンゾトリアゾール、および、下記式(2)で表されるベンゾトリアゾール系紫外線吸収性モノマーが挙げられる。また、前記トリアジン系紫外線吸収性モノマーとしては、例えば、下記化学式(3)〜(5)で表されるトリアジン系紫外線吸収性モノマーを挙げることができる。
本発明において使用する主鎖に環形成性官能基を有する(メタ)アクリル系重合体は、上述した重合性単量体成分を適宜重合することにより得られるものであることが好ましい。重合温度や重合時間は、使用する重合性単量体の種類や割合などに応じて変化するが、例えば、好ましくは、重合温度が0℃〜150℃、重合時間が0.5時間〜20時間であり、より好ましくは、重合温度が80℃〜140℃、重合時間が1時間〜10時間である。
溶剤を使用する重合形態の場合、重合溶剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤;テトラヒドロフランなどのエーテル系溶剤;などが挙げられる。これらの溶剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。また、溶剤の沸点が高すぎると、最終的に得られる環含有重(メタ)アクリル系重合体の揮発成分が多くなりすぎることから、沸点が50℃〜200℃である溶剤が好ましい。
重合反応時には、必要に応じて、重合開始剤を添加してもよい。重合開始剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートなどの有機過酸化物;2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)などのアゾ化合物;などが挙げられる。これらの重合開始剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。重合開始剤の使用量は、重合性単量体の組合せや反応条件などに応じて適宜設定すればよく、特に限定されるものではない。
重合を行う際には、反応液のゲル化を抑制するために、重合反応混合物中に生成した重合体の濃度が50質量%以下となるように制御することが好ましい。具体的には、重合反応混合物中に生成した重合体の濃度が50質量%を超える場合には、重合溶剤を重合反応混合物に適宜添加して50質量%以下となるように制御することが好ましい。重合反応混合物中に生成した重合体の濃度は、より好ましくは45質量%以下、さらに好ましくは40質量%以下である。なお、重合反応混合物中に生成した重合体の濃度が低すぎると生産性が低下するので、重合反応混合物中に生成した重合体の濃度は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上である。
重合溶剤を重合反応混合物に適宜添加する形態としては、特に限定されるものではなく、例えば、連続的に重合溶剤を添加してもよいし、間欠的に重合溶剤を添加してもよい。このように重合反応混合物中に生成した重合体の濃度を制御することによって、反応液のゲル化をより充分に抑制することができ、特に、ラクトン環含有割合を増やして耐熱性を向上させるために分子鎖中のヒドロキシル基とエステル基との割合を高めた場合であっても、ゲル化を充分に抑制することができる。添加する重合溶剤としては、例えば、重合反応の初期仕込み時に使用した溶剤と同じ種類の溶剤であってもよいし、異なる種類の溶剤であってもよいが、重合反応の初期仕込み時に使用した溶剤と同じ種類の溶剤を用いることが好ましい。また、添加する重合溶剤は、1種のみの単一溶剤であっても2種以上の混合溶剤であってもよい。
以上の重合工程を終了した時点で得られる重合反応混合物中には、通常、得られた重合体以外に溶剤が含まれているが、溶剤を完全に除去して重合体を固体状態で取り出す必要はなく、溶剤を含んだ状態で、後述する環化反応工程を行うことが好ましい態様である。また、必要な場合は、固体状態で取り出した後に、続く環化反応工程に好適な溶剤を再添加してもよい。
(イ)次に、主鎖に環形成性官能基を有する(メタ)アクリル系重合体の環化反応工程について説明する。
前記環化反応工程の態様としては、例えば、環形成性官能基として、主鎖にヒドロキシ基とエステル基とを有する(メタ)アクリル系重合体を加熱処理することにより、ラクトン環構造を形成させる態様(例えば、下記式(6));環形成性官能基として、主鎖にカルボキシル基とエステル基を有する(メタ)アクリル系重合体を加熱処理して、グルタル酸無水物の環状無水物を形成させる態様(例えば、下記式(7));環形成性官能基として、主鎖にエステル基を有する(メタ)アクリル系重合体にメチルアミンなどのイミド化剤を加えて加熱処理することにより、グルタルイミド環構造を形成させる態様(例えば、下記式(8))などを挙げることができる。これらの中でも、環形成性官能基として主鎖にヒドロキシ基とエステル基とを有する(メタ)アクリル系重合体を加熱して、分子内でラクトン環構造を形成させる態様が好適である。
本発明で使用する「環化触媒」としては、後述する除去工程において除去し得るものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、有機カルボン酸が好ましく、炭素数が4〜18の脂肪酸、乳酸(沸点122℃/15torr)、および、ピルビン酸(沸点165℃)から選択される少なくとも1種を用いることがより好ましい。前記炭素数が4〜18の脂肪酸としては、酪酸(沸点164℃)、吉草酸(ペンタン酸、沸点187℃)、カプロン酸(ヘキサン酸、沸点205℃)、エナント酸(ヘプタン酸、沸点223℃)、カプリル酸(オクタン酸、沸点239℃)、ペラルゴン酸(ノナン酸、沸点253℃)、カプリン酸(デカン酸、沸点269℃)、ラウリン酸(ドデカン酸、沸点225℃)、ミリスチン酸(テトラデカン酸、沸点251℃)、ペンタデカン酸、パルミチン酸(ヘキサデカン酸、セタン酸、沸点269℃)、マルガリン酸(ヘプタデカン酸、沸点227℃)、ステアリン酸(オクタデカン酸、沸点287℃)、オレイン酸(沸点223℃)、オクチル酸(2−エチルヘキサン酸、沸点227℃)などを挙げることができる。
前記環化触媒としての有機カルボン酸は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。後述する脱揮工程における環化触媒の除去の容易さから、前記有機カルボン酸は、大気圧下における沸点が300℃以下であることが好ましく、270℃以下がより好ましく、250℃以下がさらに好ましい。また、腐食の問題から、水への溶解度が低いものであることが好ましい。これらの中でも、前記環化触媒としてオクチル酸を用いることが好ましい態様である。
環化反応の際に用いる環化触媒の使用量は、特に限定されるものではないが、例えば、主鎖に環形成性官能基を有する(メタ)アクリル系重合体100質量部に対して、0.01質量部以上が好ましく、0.1質量部以上がより好ましく、0.5質量部以上がさらに好ましく、1質量部以上がさらに好ましく、15質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましく、5質量部以下がさらに好ましい。環化触媒の使用量が0.01質量部未満であると、環化反応の反応率が充分に向上しないことがある。逆に、環化触媒の使用量が15質量部を超えると、得られた重合体が着色することや、重合体が架橋して、溶融賦形が困難になることがある。触媒の添加時期は、特に限定されるものではなく、例えば、反応初期に添加してもよいし、反応途中に添加してもよいし、それらの両方で添加してもよい。
環化反応工程を溶剤の存在下で行うことも好ましい態様である。前記溶剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンケトンなどのケトン系溶剤;テトラヒドロフランなどのエーテル系溶剤;などが挙げられる。これらの溶剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。また、溶剤の沸点が高すぎると、最終的に得られる環含有(メタ)アクリル系重合体の残存揮発分が多くなることから、沸点が50℃〜200℃である溶剤が好ましい。
環化反応の温度は、特に限定されるものではなく、環化反応に使用する溶剤の還流温度で行うことが好ましい態様であるが、環化反応温度としては、室温以上が好ましく、50℃以上がより好ましく、80℃以上がさらに好ましく、200℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましく、120℃以下がさらに好ましい。環化反応の時間は、所望の環化反応率に応じて適宜設定すればよい。
また、環化反応の反応率を高めるために、オートクレーブなどを用いて、さらに高温および高圧下で処理をすることも好ましい態様である。この場合の温度としては、200℃以上が好ましく、220℃以上がより好ましく、240℃以上がさらに好ましく、400℃以下が好ましく、350℃以下がより好ましく、300℃以下がさらに好ましい。また、圧力としては、1MPa以上が好ましく、1.5MPa以上がより好ましく、2MPa以上がさらに好ましく、4MPa以下が好ましく、3.5MPa以下がより好ましく、3MPa以下がさらに好ましい。
環化反応に採用できる反応器は、特に限定されるものではないが、例えば、オートクレーブ、管型反応器、釜型反応器などを挙げることができる。
(1−2)本発明では、環化反応によって環構造が形成された(メタ)アクリル系重合体を含有する系中から、前記環化触媒を除去する。
ここで、「環構造が形成された(メタ)アクリル系重合体を含有する系」とは、環構造が形成された(メタ)アクリル系重合体単独の場合を含め、環化反応によって生成する副生成物、または、重合工程や環化反応工程で溶剤を使用した場合にはこれらの溶剤を含む混合物を意味する。
環化触媒の除去は、環構造が形成された(メタ)アクリル系重合体を含有する系を減圧下で加熱処理(以下、単に「脱揮処理」と称する場合がある)することにより行うことが好ましい態様である。また、斯かる脱揮処理によって、環化触媒とともに、重合工程や環化反応工程に使用した溶剤および環化反応によって生成した副生成物を合わせて除去することも好ましい態様である。
前記脱揮処理は、環化触媒を除去できるような条件、より好ましくは、環化反応により生成する副生成物、および、重合工程や環化反応工程に使用した溶剤など除去できるような条件を適宜選択して行えばよい。前記脱揮処理の温度は、例えば、150℃以上が好ましく、200℃以上がより好ましく、350℃以下が好ましく、300℃以下がより好ましい。脱揮処理温度が150℃未満であると、揮発成分が多く残存することがある。逆に、脱揮処理温度が350℃を超えると、得られる(メタ)アクリル系重合体の着色や分解が起こることがある。
前記脱揮処理の圧力は、931hPa(700mmHg)以下が好ましく、798hpa(600mmHg)以下がより好ましく、665hPa(500mmHg)以下がさらに好ましく、1.33hPa(1mmHg)以上が好ましく、13.3hPa(10mmHg)以上がより好ましく、66.5hPa(50mmHg)以上がさらに好ましい。脱揮処理圧力が、931hPa(700mmHg)を超えると、揮発成分が残存しやすいことがある。逆に、脱揮処理圧力が1.33hPa(1mmHg)未満であると、工業的な実施が困難になることがある。
脱揮処理は、例えば、ベント付き押出機を用いて行うことが好ましい態様である。ベントは1個でも複数個でもいずれでもよいが、複数個のベントを有するものが好ましい。脱揮処理後、環構造が形成された(メタ)アクリル系重合体は、ベント付き押出機から排出、冷却され、必要に応じて、ペレタイザーなどを用いてペレット化されることが好ましい。
前記脱揮処理によって、環構造が形成された(メタ)アクリル系重合体を含有する系から、環化触媒を実質的に除去することができ、得られる環含有(メタ)アクリル系重合体を成形する際に加熱しても、成形品中に気泡が発生するのが抑制される。環構造が形成された(メタ)アクリル系重合体中に残存する環化触媒の残存量は、500ppm以下が好ましく、200ppm以下がより好ましく、100ppm以下がさらに好ましい。
(2)本発明の環含有(メタ)アクリル系重合体は、主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル系重合体であって、金属含有量が50ppm以下であって、下記方法によって測定される気泡の数が20個/g以下であることを特徴とする。
(気泡の数の測定方法)
乾燥した環含有(メタ)アクリル系重合体をJIS K7210に規定されるメルトインデクサーのシリンダー内に装填し、260℃で20分間保持した後、ストランド状に押出し、得られたストランドの上部標線と下部標線との間に存在する気泡の個数を計測し、重合体1gあたりの個数に換算する。すなわち、本発明の環含有(メタ)アクリル系重合体は、環化触媒の失活剤に由来する金属の含有量が少ないにも拘らず、環化反応後の加熱工程(例えば、成形工程)において発生する気泡の数が抑制されているところに最大の特徴がある。
(ア)まず、「主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル系重合体」の構造について説明する。「主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル系重合体」とは、少なくとも(メタ)アクリル酸またはそのエステルを重合体の構成成分として使用して得られる重合体であって、主鎖に環構造を有するものであれば特に限定されない。なお、構成成分として使用した(メタ)アクリル酸またはそのエステルが環構造を形成している場合もある。
本発明の環含有(メタ)アクリル系重合体が主鎖に有する環構造としては、例えば、ラクトン構造、無水グルタル酸構造、イミド構造(例えば、グルタルイミド構造、または、マレイミド構造)を有する環を挙げることができ、好ましくは、ラクトン構造を有する環である。ラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体は、透明性、耐熱性、および、機械的強度に優れ、光学用途における新規な成形材料として実用化が期待されているからである。
前記ラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体は、好ましくは、下記式(9):
[式中、R3、R4およびR5は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜20の有機残基を表す;なお、有機残基は酸素原子を含有していてもよい]で示されるラクトン環構造を有する。特に、R3としては、水素原子または炭素数1〜10のアルキル基が好ましく、R4としては、炭素数1〜10のアルキル基が好ましく、R5としては、炭素数1〜10のアルキル基が好ましい。
ラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体の構造中における上記式(9)で示されるラクトン環構造の含有割合は、好ましくは5質量%〜90質量%、より好ましくは10質量%〜70質量%、さらに好ましくは10質量%〜60質量%、特に好ましくは10質量%〜50質量%である。ラクトン環構造の含有割合が5質量%未満であると、得られた(メタ)アクリル系重合体の耐熱性、耐溶剤性および表面硬度が低下することがある。逆に、ラクトン環構造の含有割合が90質量%を超えると、得られた重合体の成形加工性が低下することがある。
ラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体は、上記式(9)で示されるラクトン環構造以外の構造を有していてもよい。上記式(9)で示されるラクトン環構造以外の構造としては、特に限定されないが、例えば、ラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体の製造方法として上述したような、エステル基を有する重合性単量体と、ヒドロキシ基を有する重合性単量体と、カルボキシル基を有する重合性単量体と、紫外線吸収性重合性単量体と、下記式(10):
[式中、R6は水素原子またはメチル基を表し、Xは水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、−OAc基、−CN基、−CO−R7基、または−CO−O−R8基を表し、Acはアセチル基を表し、R7およびR8は水素原子または炭素数1〜20の有機残基を表す]で示される単量体とからなる群から選択される少なくとも1種の単量体を重合して形成される重合体構造単位(繰り返し構造単位)が好ましい。
ラクトン環含有重合体の構造中における上記式(9)で示されるラクトン環構造以外の構造の含有割合は、エステル基を有する重合性単量体を重合して形成される重合体構造単位(繰り返し構造単位)の場合、好ましくは10〜95質量%、より好ましくは10〜90質量%、さらに好ましくは40〜90質量%、特に好ましくは50〜90質量%であり、ヒドロキシ基を有する重合性単量体を重合して形成される重合体構造単位(繰り返し構造単位)の場合、好ましくは0〜30質量%、より好ましくは0〜20質量%、さらに好ましくは0〜15質量%、特に好ましくは0〜10質量%である。また、カルボキシル基を有する重合性単量体を重合して形成される重合体構造単位(繰り返し構造単位)の場合、好ましくは0〜30質量%、より好ましくは0〜20質量%、さらに好ましくは0〜15質量%、特に好ましくは0〜10質量%である。さらに、上記式(10)で示される重合性単量体を重合して形成される重合体構造単位(繰り返し構造単位)の場合、好ましくは0〜30質量%、より好ましくは0〜20質量%、さらに好ましくは0〜15質量%、特に好ましくは0〜10質量%であり、紫外線吸収性重合性単量体を重合して形成される重合体構造単位(繰り返し構造単位)の場合、好ましくは0〜30質量%、より好ましくは0〜20質量%、さらに好ましくは0〜15質量%、特に好ましくは0〜10質量%である。
(イ)次に、本発明の環含有(メタ)アクリル系重合体が含有する金属含有量について説明する。本発明の環含有(メタ)アクリル系重合体において、金属含有量は、50ppm以下であり、40ppm以下がより好ましく、30ppm以下がさらに好ましい。前記金属含有量は、環化触媒失活剤に由来する金属成分の含有量である。特に、環化触媒失活剤としては、有機酸の亜鉛塩が好適に使用されることから、亜鉛含有量を、50ppm以下、より好ましくは40ppm以下、さらに好ましくは30ppm以下とすることも望ましい態様である。
前記金属含有量は、例えば、ICP発光分光分析装置を用いて定量することができる。
ウ)本発明の環含有(メタ)アクリル系重合体が、種々の添加剤を含有することも好ましい態様である。前記添加剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系、リン系、イオウ系などの酸化防止剤;耐光安定剤、耐候安定剤、熱安定剤などの安定剤;ガラス繊維、炭素繊維などの補強材;紫外線吸収剤;近赤外線吸収剤;トリス(ジブロモプロピル)ホスフェート、トリアリルホスフェート、酸化アンチモンなどの難燃剤;アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤などの帯電防止剤;無機顔料、有機顔料、染料などの着色剤;有機フィラーや無機フィラー;樹脂改質剤;有機充填剤や無機充填剤;可塑剤;滑剤;帯電防止剤;難燃剤;などが挙げられる。
前記紫外線吸剤としては、例えば、メチル3−(3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートとポリエチレングリコール300の反応生成物、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−デシル−4−メチルフェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−p−クレゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)―4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール、2−(5−クロロ(2H)−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−メチル−6−(tert−ブチル)フェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール、2,2´−メチレンビス[6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール]などのベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤;2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]フェノールなどのトリアジン系紫外線吸収剤、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−オクチルベンゾフェノンなどのベンゾフェノン系紫外線吸収剤などを挙げることができる。
添加剤の含有量は、所望の特性に応じて適宜決定すればよいが、例えば、環含有(メタ)アクリル系重合体100質量部に対して、0.01質量部以上が好ましく、0.05質量部以上がより好ましく、0.1質量部以上がさらに好ましく、5質量部以下が好ましく、2質量部以下がより好ましく、1質量部以下がさらに好ましい。
エ)本発明の環含有(メタ)アクリル系重合体(好ましくは、ラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体)の重量平均分子量は、好ましくは1,000〜2,000,000、より好ましくは5,000〜1,000,000、さらに好ましくは10,000〜500,000、特に好ましくは50,000〜500,000である。
本発明の環含有(メタ)アクリル系重合体(好ましくは、ラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体)は、ダイナミックTG測定における150℃〜300℃の範囲内における質量減少率が好ましくは1%以下、より好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.3%以下である。
本発明の環含有(メタ)アクリル系重合体(好ましくは、ラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体)は、濃度15質量%のクロロホルム溶液にした場合、その着色度(YI値)が、好ましくは15以下、より好ましくは10以下、さらに好ましくは5以下である。着色度(YI値)が15を超えると、着色により透明性が損なわれ、本来目的とする用途に使用できない場合がある。
本発明の環含有(メタ)アクリル系重合体(好ましくは、ラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体)は、熱質量分析(TG)における5%質量減少温度が、好ましくは330℃以上、より好ましくは350℃以上、さらに好ましくは360℃以上である。熱質量分析(TG)における5%質量減少温度は、熱安定性の指標であり、これが330℃未満であると、充分な熱安定性を発揮できないことがある。
本発明の環含有(メタ)アクリル系重合体(好ましくは、ラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体)は、ガラス転移温度(Tg)が、好ましくは110℃以上、より好ましくは115℃以上、さらに好ましくは120℃以上、さらに好ましくは125℃以上であり、また、その上限は特に限定されるものではないが、好ましくは170℃、より好ましくは160℃、さらに好ましくは150℃である。
本発明の環含有(メタ)アクリル系重合体(好ましくは、ラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体)は、それに含まれる残存揮発成分の総量が、好ましくは5,000ppm以下、より好ましくは2,000ppm以下、さらに好ましくは1,500ppm、特に好ましくは1,000ppmである。残存揮発分の総量が5,000ppmを超えると、成形時の変質などによって着色したり、発泡したり、シルバーストリークなどの成形不良の原因となる。
本発明の環含有(メタ)アクリル系重合体(好ましくは、ラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体)は、射出成形により得られる成形品に対するASTM−D−1003に準拠した方法で測定された全光線透過率が、好ましくは85%以上、より好ましくは88%以上、さらに好ましくは90%以上である。全光線透過率は、透明性の指標であり、これが85%未満であると、透明性が低下し、本来目的とする用途に使用できないことがある。
本発明の環含有(メタ)アクリル系重合体(好ましくは、ラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体)は、厚さ50μmにおける波長380nmの光線透過率が30%以下であることが好ましく、光線透過率が15%以下であることがより好ましく、光線透過率が5%以下であることがさらに好ましい。本発明の環含有(メタ)アクリル系重合体に、紫外線吸収成分を含有させた場合、紫外線領域の波長380nmの光線透過率が30%以下になる。環含有(メタ)アクリル系重合体に紫外線吸収成分を含有させる場合に、本発明の着色改善効果が大きくなり、本発明を好適に適用できる。
本発明の環含有(メタ)アクリル系重合体は、上述した本発明の製造方法により得ることができる。
(3)本発明の環含有(メタ)アクリル系重合体の用途および成形
本発明の環含有(メタ)アクリル系重合体は、透明性や耐熱性に優れるだけでなく、機械的強度、成形加工性などの所望の特性を備えるので、その用途としては、例えば、看板、ディスプレイ、弱電・工業部品、自動車を中心とする車輌部品、建材・店装、コーティング材料、脱塗装用保護フィルム、照明器具、大型水槽、光学レンズ、光学プリズム、光学フィルム、光学ファイバー、光学ディスク、その他ミラー、文具、テーブルウェアなどの雑貨類と極めて多岐にわたっているが、これらの用途のうち、光学レンズ、光学プリズム、光学フィルム、光学ファイバー、光学ディスクなどが特に好ましい。
本発明の環含有(メタ)アクリル系重合体は、用途に応じて様々な形状に成形することができる。成形可能な形状としては、例えば、フィルム、シート、プレート、ディスク、ブロック、ボール、レンズ、ロッド、ストランド、コード、ファイバーなどが挙げられる。成形方法としては、従来公知の成形方法の中から形状に応じて適宜選択すればよく、特に限定されるものではない。
本発明の環含有(メタ)アクリル系重合体は、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の重合体とブレンドして使用することもできる。その他の重合体としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)などのオレフィン系重合体;塩化ビニル、塩化ビニリデン、塩素化ビニル樹脂などのハロゲン化ビニル系重合体;ポリメタクリル酸メチルなどのアクリル系重合体;ポリスチレン、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンブロック共重合体などのスチレン系重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610などのポリアミド;ポリアセタール;ポリカーボネート;ポリフェニレンオキシド;ポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルエーテルケトン;ポリスルホン;ポリエーテルスルホン;ポリオキシベンジレン;ポリアミドイミド;ポリブタジエン系ゴム、アクリル系ゴムを配合したABS樹脂やASA樹脂などのゴム質重合体;などが挙げられる。
その他の重合体の配合量は、特に限定されないが、環含有(メタ)アクリル系重合体100質量部に対して、1質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましく、5質量部以上がさらに好ましく、30質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましく、10質量部以下がさらに好ましい。
<光学フィルムの製造>
以下、特に好ましい用途である光学フィルムを一例として、本発明の環含有(メタ)アクリル系重合体から光学フィルムを製造する方法について詳しく説明する。本発明の環含有(メタ)アクリル系重合体を原料として用いて光学フィルムを製造するには、例えば、オムニミキサーなど、従来公知の混合機でフィルム原料をプレブレンドした後、得られた混合物を押出混練する。この場合、押出混練に用いる混合機は、特に限定されるものではなく、例えば、単軸押出機、二軸押出機などの押出機や加圧ニーダーなど、従来公知の混合機を用いることができる。
フィルム成形の方法としては、例えば、溶液キャスト法(溶液流延法)、溶融押出法、カレンダー法、圧縮成形法など、従来公知のフィルム成形法が挙げられる。これらのフィルム成形法のうち、溶融押出法が特に好適である。
溶融押出法としては、例えば、Tダイ法、インフレーション法などが挙げられ、その際の成形温度は、フィルム原料のガラス転移温度に応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、好ましくは150℃〜350℃、より好ましくは200℃〜300℃である。
Tダイ法でフィルム成形する場合は、公知の単軸押出機や二軸押出機の先端部にTダイを取り付け、フィルム状に押出されたフィルムを巻取って、ロール状のフィルムを得ることができる。この際、巻取りロールの温度を適宜調整して、押出方向に延伸を加えることで、1軸延伸することも可能である。また、押出方向と垂直な方向にフィルムを延伸することにより、同時2軸延伸、逐次2軸延伸などを行うこともできる。
本発明の環含有(メタ)アクリル系重合体を用いて得られるフィルムは、未延伸フィルムまたは延伸フィルムのいずれでもよい。延伸フィルムである場合は、1軸延伸フィルムまたは2軸延伸フィルムのいずれでもよい。2軸延伸フィルムである場合は、同時2軸延伸フィルムまたは逐次2軸延伸フィルムのいずれでもよい。2軸延伸した場合は、機械的強度が向上し、フィルム性能が向上する。本発明の環含有(メタ)アクリル系重合体は、その他の熱可塑性樹脂を混合することにより、延伸しても位相差の増大を抑制することができ、光学的等方性を保持したフィルムを得ることができる。
延伸温度は、フィルム原料である環含有(メタ)アクリル系重合体のガラス転移温度近傍であることが好ましく、具体的には、好ましくは(ガラス転移温度−30℃)〜(ガラス転移温度+100℃)、より好ましくは(ガラス転移温度−20℃)〜(ガラス転移温度+80℃)の範囲内である。延伸温度が(ガラス転移温度−30℃)未満であると、充分な延伸倍率が得られないことがある。逆に、延伸温度が(ガラス転移温度+100℃)超えると、環含有(メタ)アクリル系重合体の流動(フロー)が起こり、安定な延伸が行えなくなることがある。
面積比で定義した延伸倍率は、好ましくは1.1〜25倍、より好ましくは1.3〜10倍の範囲内である。延伸倍率が1.1倍未満であると、延伸に伴う靭性の向上につながらないことがある。逆に、延伸倍率が25倍を超えると、延伸倍率を上げるだけの効果が認められないことがある。
延伸速度は、一方向で、好ましくは10〜20,000%/min、より好ましく100〜10,000%/minの範囲内である。延伸速度が10%/min未満であると、充分な延伸倍率を得るために時間がかかり、製造コストが高くなることがある。逆に、延伸速度が20,000%/minを超えると、延伸フィルムの破断などが起こることがある。
なお、本発明の環含有(メタ)アクリル系重合体を用いて得られるフィルムは、その光学的等方性や機械的特性を安定化させるために、延伸処理後に熱処理(アニーリング)などを行うことができる。熱処理の条件は、従来公知の延伸フィルムに対して行われる熱処理の条件と同様に適宜選択すればよく、特に限定されるものではない。
本発明の環含有(メタ)アクリル系重合体を用いて得られるフィルムは、その厚さが好ましくは5μm〜200μm、より好ましくは10μm〜100μmである。厚さが5μm未満であると、フィルムの強度が低下するだけでなく、他の部品に貼着して耐久性試験を行うと捲縮が大きくなることがある。逆に、厚さが200μmを超えると、フィルムの透明性が低下するだけでなく、透湿性が小さくなり、他の部品に貼着する際に水系接着剤を使用した場合、その溶剤である水の乾燥速度が遅くなることがある。
本発明の環含有(メタ)アクリル系重合体を用いて得られるフィルムは、その表面の濡れ張力が、好ましくは40mN/m以上、より好ましくは50mN/m以上、さらに好ましくは55mN/m以上である。表面の濡れ張力が少なくとも40mN/m以上であると、本発明の環含有(メタ)アクリル系重合体を用いて得られるフィルムと他の部品との接着強度がさらに向上する。表面の濡れ張力を調整するために、例えば、コロナ放電処理、オゾン吹き付け、紫外線照射、火炎処理、化学薬品処理、その他の従来公知の表面処理を施すことができる。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例により制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
[評価方法]
<ダイナミックTG>
重合体(または重合体溶液もしくはペレット)を一旦テトラヒドロフランに溶解または希釈し、過剰のヘキサンまたはメタノールに投入して再沈殿を行い、取り出した沈殿物を真空乾燥(1mmHg(1.33hPa)、80℃、3時間以上)することによって揮発成分などを除去し、得られた白色固形状の樹脂を以下の方法(ダイナミックTG法)で分析した。
測定装置:差動型示差熱天秤(Thermo Plus 2 TG−8120 ダイナミックTG、(株)リガク製)
測定条件:試料量5mg〜10mg
昇温速度:10℃/min
雰囲気:窒素フロー200mL/min
方法:階段状等温制御法(60℃から500℃までの範囲内における質量減少速度値0.005%/s以下に制御)
<環構造の含有割合>
まず、得られた重合体からすべてのヒドロキシ基がメタノールとして脱アルコールした際に起こる質量減少量を基準にし、ダイナミックTG測定において質量減少が始まる前の150℃から重合体の分解が始まる前の300℃までの脱アルコール反応による質量減少から、脱アルコール反応率を求めた。
すなわち、主鎖に環構造を有する重合体のダイナミックTG測定において150℃から300℃までの間の質量減少率の測定を行い、得られた実測値を実測質量減少率(X)とする。他方、当該重合体の組成から、その重合体組成に含まれるすべての水酸基が環構造の形成に関与するためにアルコールになり脱アルコールすると仮定した時の質量減少率(すなわち、その組成上において100%脱アルコール反応が起きたと仮定して算出した質量減少率)を理論質量減少率(Y)とする。なお、理論質量減少率(Y)は、より具体的には、重合体中の脱アルコール反応に関与する構造(水酸基)を有する原料単量体のモル比、すなわち当該重合体組成における原料単量体の含有率から算出することができる。これらの値を脱アルコール計算式:
1−(実測質量減少率(X)/理論質量減少率(Y))
に代入してその値を求め、百分率(%)で表記すると、脱アルコール反応率が得られる。
一例として、後述の環含有(メタ)アクリル系重合体1で得られたペレットにおけるラクトン環構造の含有割合を計算する。この重合体の理論質量減少率(Y)を求めてみると、メタノールの分子量は32であり、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルの分子量は116であり、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルの重合体中の含有率(質量比)は組成上20質量%であるから、(32/116)×20%≒5.52質量%となる。他方、ダイナミックTG測定による実測質量減少率(X)は0.18質量%であった。これらの値を上記の脱アルコール計算式に当てはめると、1−(0.18/5.52)≒0.967となるので、脱アルコール反応率は、96.7%である。そして、この脱アルコール反応率の分だけ所定のラクトン環化が行われたものとして、ラクトン環化に関与する構造(ヒドロキシ基)を有する原料単量体の当該共重合体組成における含有率(質量比)に、脱アルコール反応率を乗じ、ラクトン環構造の含有率(質量比)に換算することにより、当該共重合体におけるラクトン環構造の含有割合を算出することができる。
環含有(メタ)アクリル系重合体1の場合、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルの当該共重合体における含有率が20質量%、算出した脱アルコール反応率が96.7%、分子量が116の2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルがメタクリル酸メチルと縮合した場合に生成するラクトン環構造の式量が170であることから、当該共重合体中におけるラクトン環構造の含有割合は、28.3(20×0.967×170/116)質量%となる。
<YI値の測定方法>
試料を15質量%のクロロホルム溶液として光路長1cmの石英セルに入れて、色差計(SZ−Σ90/日本電色工業(株)製)を用いてJIS K7103に準拠して測定した。
<重合体の熱分析>
重合体の熱分析は、示差走査熱量計(DSC−8230、(株)リガク製)を用いて、試料約10mg、昇温速度10℃/min、窒素フロー50mL/minの条件で行った。なお、ガラス転移温度(Tg)は、ASTM−D−3418に準拠して、中点法で求めた。
<気泡の数の測定>
乾燥した環含有(メタ)アクリル系重合体をJIS K7210に規定されるメルトインデクサーのシリンダー内に装填し、260℃で20分間保持した後、ストランド状に押出し、メルトインデクサーのピストンの上部標線から下部標線との間に押出されたストランドに存在する気泡の個数を数えて、重合体1gあたりの個数に換算して示した。
<金属含有量の測定>
金属の含有量は、環含有(メタ)アクリル系重合体をメチルエチルケトンに溶解した2.5wt%溶液を試料とし、ICP発光分光分析装置(CIROS CCD、(株)リガク製)を用いて、金属原子の含有量として測定した。
<光線透過率の測定方法>
厚さ50μmのフィルムを溶融押出し成形により作製し、分光光度計(島津製作所社製 UV−3100)を用いて380nmの透過率を測定した。
[ラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体の製造]
<ラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体1>
まず、撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素ガス導入管を備えた容量30Lの反応容器に、メタクリル酸メチル40質量部、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル10質量部、トルエン50質量部を仕込んだ。この反応容器に窒素ガスを導入しながら、105℃まで昇温し、還流したところで、重合開始剤として、t−アミルパーオキシイソノナノエート(アトフィナ吉富(株)製、ルパゾール570)0.05質量部を添加すると同時に、t−アミルパーオキシイソノナノエート(アトフィナ吉富(株)製、ルパゾール570)0.10質量部を2時間かけて滴下しながら、還流下、約105〜110℃で溶液重合を行い、さらに4時間かけて熟成を行った。
得られた重合体溶液に、環化触媒としてオクチル酸を1.5質量部加え、還流下、約90〜110℃で5時間、環化反応を行った。次いで、環化反応率を高めるために、オートクレーブにより、240℃で30分間加熱処理を行って、ラクトン環構造が形成された(メタ)アクリル系重合体の重合体溶液を得た。
得られた重合体溶液を、バレル温度260℃、回転数100rpm、減圧度13.3hPa〜400hPa(10mmHg〜300mmHg)、リアベント数1個、フォアベント数4個のベントタイプスクリュー二軸押出機(φ=29.75mm、L/D=30)に、樹脂量換算で、2.0kg/hの処理速度で導入し、脱揮することにより、オクチル酸、溶剤、および、アルコールなどを除去した。その際、別途、スミライザーGS(住友化学社製)40質量部をトルエン200質量部に溶解して得た酸化防止剤溶液を第1ベントの後から高圧ポンプを用いて0.02kg/時間の投入速度で注入した。また、脱揮効率を高めるために第3ベントの後から高圧ポンプを用いてイオン交換水を0.01kg/時間の投入速度で投入した。押出機から出てきたラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体を冷却して、ペレタイザーで切断し、透明なペレット状のラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体1を得た。最終的に得られたペレット状のラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体1の金属含有量と加熱処理時の気泡の数を測定した結果を表1に示した。
<ラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体2>
重合体のモノマー組成を、メタクリル酸メチル39質量部、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル7.5質量部、RUVA−93(大塚化学社製、紫外線吸収性モノマー)3.5質量部とした以外は、ラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体1と同様にして透明なラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体2を得た。最終的に得られたペレット状のラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体2の金属含有量と加熱処理時の気泡の数を測定した結果を表1に示した。
<ラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体3>
重合体のモノマー組成を、メタクリル酸メチル30質量部、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル15質量部、メタクリル酸ブチル5質量部とした以外は、ラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体1と同様にして透明なラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体3を得た。最終的に得られたペレット状のラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体3の金属含有量と加熱処理時の気泡の数を測定した結果を表1に示した。
<ラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体4>
環化触媒として、オクチル酸1.5質量部の代わりに、0.05質量部のリン酸ステアリル(堺化学社製、Phoslex A−18)を用いた以外は、ラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体1と同様にして、透明なラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体4を得た。最終的に得られたペレット状のラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体4の金属含有量と加熱処理時の気泡の数を測定した結果を表1に示した。
<ラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体5>
環化触媒として、オクチル酸1.5質量部の代わりに、0.05質量部のリン酸ステアリル(堺化学社製、Phoslex A−18)を用い、脱揮処理中に注入する酸化防止剤溶液を、酸化防止剤・環化触媒失活剤混合溶液とした以外は、ラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体2と同様にして透明なラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体5を得た。酸化防止剤・環化触媒失活剤としては、酸化防止剤としてスミライザーGS(住友化学社製)40質量部と、環化触媒失活剤としてオクチル酸亜鉛(日本化学産業社製ニッカオクチクス亜鉛3.6%)40質量部とをトルエン200質量部に溶解して作製したものを用いた。最終的に得られたペレット状のラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体5の金属含有量と加熱処理時の気泡の数を測定した結果を表1に示した。
表1より、本発明によれば、成形工程などの加熱処理時においても気泡の発生量が少ない環含有(メタ)アクリル系重合体が得られていることが分かる。また、得られた環含有(メタ)アクリル系重合体は、金属含有量が低く、着色度合いも低いことが分かる。
ラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体4は、環化触媒としてリン酸ステアリルを使用し、環化触媒失活剤を使用しなかった場合であるが、加熱処理によって気泡が多く発生した。ラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体5は、環化触媒としてリン酸ステアリルを使用し、環化触媒失活剤としてオクチル酸亜鉛を使用した場合であるが、著しく黄色に着色したペレットが得られた。