JP5055661B2 - フィルム用ポリエステルおよびその製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はフィルム用ポリエステルおよびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリエチレンテレフタレートに代表される飽和線状ポリエステルは、優れた力学特性、耐熱性、電気絶縁性、耐薬品性等を有するため、従来から包装用途、写真用途、電気用途、磁気テープ等の様々な用途に使用されている。また、近年においては、光学用フィルムとして有用されている。例えば、液晶表示装置における液晶反射板のレンズフィルムに用いる基材フィルムやプラズマディスプレイ、CRTおよび液晶表示装置の保護膜等である。なお、液晶反射板のレンズフィルムとは、基材フィルムの少なくとも一方の面に透明性樹脂(例えば、PMMA等)からなるレンズを固着したものである。
【0003】
通常、ポリエステルフィルムは、ポリエステルを溶融押出した後、2軸延伸して得られる。すなわち、押出機により溶融押出されたシート状物を回転する冷却ドラムの表面に密着させて引き取り、次いで、該シート状物を冷却ドラムの後段に配置された延伸ロールへと導いて縦延伸し、さらに、テンターで横延伸した後、熱固定(熱セット)される。ここで、フィルムの厚みの均一性を高め、また、キャスティングの速度を高めるには、押出口金から溶融押出したシート状物を回転冷却ドラム表面で冷却する際に、該シート状物とドラム表面とが十分に高い付着力で密着していなければならない。このため、シート状物と回転ドラムの表面との付着力を高めるための方法として、押出口金と冷却回転ドラムの間にワイヤー状の電極を設けて高電圧を印加し、未固化のシート状物の表面に静電気を析出させて、該シート状物を冷却ドラムの表面に静電付着させて、急冷する、所謂、静電密着キャスト法が多く使用されている。すなわち、冷却ドラムにシート状物を静電付着させることで、ドラムの表面にシート状物が該表面との間に隙間を形成することなく高い付着力で密着し、冷却回転ドラムの回転速度を速めてもシート状物が位置ずれすることなく引き取られて一様にキャスティングされ、厚みの均一性に優れたフィルムが効率良く製造される。
【0004】
静電密着キャスト法において、シート状物の冷却ドラムへの静電密着性を向上させるにはシート状物表面における電荷量を多くすることが有効であり、該電荷量を多くするには、原料となるポリエステル(以下、原料ポリエステルと称す)を改質してその比抵抗を低くすることが有効であることが知られている。そして、この比抵抗を低くする方法として、原料ポリエステルの製造段階において、エステル化またはエステル交換反応中にアルカリ金属またはアルカリ土類金属化合物を添加すること等が行われている。
【0005】
一方、ポリエステルフィルムは厚みの均一性が高くても、それのみでは十分な品質を有しているとは言えず、フィルム中の異物量を少なくして、フィッシュ・アイ等の欠陥を極力少なくする必要がある。すなわち、ポリエステルフィルムには清澄度が要求される。そのために、原料ポリエステルにも高度の清澄度が必要となり、清澄度を高めるための対策がとられている。その一つとして、ポリエステルの反応生成物であるポリマーを微細なフィルターを使ってろ過することによって清澄度を高める方法が一般に採用されている。しかしながら、近年、その使用が拡大している光学用フィルムに使用するポリエステルフィルムにおいては、より高度の清澄度が要求され、従来の原料ポリエステルを成膜して得られるポリエステルフィルムでは、かかる要求に十分に対応できず、原料ポリエステルの更なる清澄度の向上が求められている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記事情に鑑み、良好な静電密着性を有し、しかも、異物の存在量が極めて少なく、従来よりも高度の清澄度を有するフィルム用ポリエステルおよびその製造方法を提供することを目的としている。
また、特に、良好な静電密着性および高度の清澄度を有するとともに、優れた耐熱性を有するフィルム用ポリエステルおよびその製造方法を提供することを目的としている。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記目的を達成すべく、鋭意研究した結果、フィルム用ポリエステルの良好な静電密着性を達成するには、重縮合触媒にアンチモン化合物を使用し、抵抗調整剤(低抵抗化剤)としてマグネシウム化合物を使用するのがよく、さらに抵抗調整剤(低抵抗化剤)としてリン化合物を併用するとポリエステルが良好な耐熱性を示すので好ましいが、金属アンチモンが不溶性の異物(粗大粒子)となり、また、マグネシウム化合物とジカルボン酸間の反応物およびマグネシウム化合物とリン化合物間の反応物が不溶性の異物(粗大粒子)の発生源であることを突き止めた。そして、かかる知見に基づき、さらに研究を重ねた結果、缶内を常圧以上の圧力とした少なくとも3缶以上のエステル化反応缶でエステル化反応を行い、マグネシウム化合物とリン化合物をかかるエステ化反応工程で添加し、その際に3缶以上のエステル化反応缶への添加パターン(すなわち、マグネシウム化合物とリン化合物を3缶以上のエステル化反応缶のいずれの反応缶に添加するか)を最適化することで、不溶性の異物(粗大粒子)が極めて減少し、従来では達成できなかった高度の清澄度のポリエステルが得られることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下の構成を特徴とする。
【0008】
(1)重縮合触媒にアンチモン化合物を使用し、かつ、マグネシウム化合物とリン化合物を添加して、得られるフィルム用ポリエステルであって、
当該ポリエステルの275℃での溶融比抵抗が0.15〜0.45×108Ω・cmであり、かつ、当該ポリエステルを溶媒に溶解し、その溶液を平均孔径0.1μmのメンブランフィルターでろ過した後のフィルター上の残渣におけるマグネシウム分およびアンチモン分が、それぞれ、当該ポリエステル1kg当たり1mg以下であることを特徴とするフィルム用ポリエステル。
(2)重縮合触媒にアンチモン化合物を使用し、かつ、マグネシウム化合物とリン化合物を添加して、得られるフィルム用ポリエステルであって、
当該ポリエステルの275℃での溶融比抵抗が0.15〜0.45×108Ω・cmであり、かつ、当該ポリエステルのチップ内を100倍の顕微鏡で20視野観察したときの5μm以上の粒子の合計個数が30個以下であることを特徴とするフィルム用ポリエステル。
(3)さらに下記(A)(E)の条件を満たす上記(1)または(2)記載のフィルム用ポリエステル。
(A)極限粘度:0.580〜0.630dl/g
(B)酸価:当該ポリエステルに対して10〜25eq/ton
(C)Mg含有量:当該ポリエステルに対して40〜70ppm
(D)リン含有量:当該ポリエステルに対して20〜55ppm
(E)Sb含有量:当該ポリエステルに対して100〜200ppm
(4)主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレートである上記(1)〜(3)のいずれかに記載のフィルム用ポリエステル。
(5)重縮合触媒にアンチモン化合物を使用し、ポリエステルを製造する方法であって、下記の(a)〜(c)の条件を満たすことを特徴とするフィルム用ポリエステルの製造方法。
(a)缶内を常圧以上の圧力とした少なくとも3缶以上のエステル化反応缶でエステル化反応を行う。
(b)マグネシウム化合物は前記3缶以上のエステル化反応缶のうちの第2番目以降のエステル化反応缶に添加する。
(c)リン化合物は前記3缶以上のエステル化反応缶のうちのマグネシウム化合物を添加するエステル化反応缶以降のエステル化反応缶であって、少なくとも2缶以上の反応缶に分けて添加する。
(6)マグネシウム化合物とリン化合物の両方が添加されるエステル化反応缶を有する上記(5)記載のフィルム用ポリエステルの製造方法。
【0009】
本明細書の前記および以下の記載において、「エステル化反応」とは、ジカルボン酸−グリコールジエステルおよび/またはそのオリゴマーを生成する反応を意味し、特に断りがない場合、直接エステル化反応に限らず、エステル交換反応をも含む概念である。また、「エステル化反応缶」とは、かかる「エステル化反応」が行われる反応缶を意味する。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明のフィルム用ポリエステル(以下、単にポリエステルともいう)は、重縮合触媒にアンチモン化合物を使用し、かつ、マグネシウム化合物とリン化合物を添加して、得られるフィルム用ポリエステルであって、当該ポリエステルの275℃での溶融比抵抗が0.15〜0.45×108Ω・cmであり、かつ、当該ポリエステルを溶媒に溶解し、その溶液を平均孔径0.1μmのメンブランフィルターでろ過した後のフィルター上の残渣におけるマグネシウム分およびアンチモン分、すなわち、当該ポリエステル中の不溶性のマグネシウム(Mg)およびアンチモン(Sb)が、それぞれ、当該ポリエステル1kg当たり1mg以下となるように調製されたものである。
【0011】
上記275℃での溶融比抵抗とは、275℃で溶融したポリエステル中に2本の電極(ステンレス針金)を置き、120Vの電圧を印加した時の電流(io)を測定し、これを次式に当てはめて求めた比抵抗値Si(Ω・m)である。
Si(Ω・m)=(A/L)×(V/io
[A:電極間面積(cm2)、L=電極間距離(cm)、V=電圧(V)]
【0012】
かかるポリエステルの275℃での溶融比抵抗(比抵抗値Si(Ω・m))は、ポリエステルを静電密着キャスト法で製膜する際の静電密着性の指標として用いており、これが0.15〜0.45×108Ω・cmの範囲であれば、良好な静電密着性が得られて、厚みの均一性に優れたフィルムを安定に形成することができる。かかる溶融比抵抗が0.15×108Ω・cm未満であると、そのようなポリエステルは、概ね抵抗調整剤(低抵抗化剤)が過多であり、不溶性の異物が多量に存在して高度の清澄度が得られない。逆に、0.45×108Ω・cmを超えるようなものは、シート(フィルム)の表面に静電気が十分に析出されず、良好な静電密着性が得られない。
【0013】
また、上記ポリエステル中の不溶性のマグネシウム(Mg)およびアンチモン(Sb)は、ポリエステルチップ100gを水洗乾燥してから、パラクロロフェノールとテトラクロルエタンの75:25(重量比)の混合溶媒に溶解し、この溶液を、親水性ポリテトラフルオロエチレン製の平均孔径0.1μmのメンブランフィルターでろ過し、フィルターを乾燥後、フィルター上の残渣のマグネシウム分およびアンチモン分を蛍光X線で測定し、これをポリエステル1kg当りの量に換算することで得られる。かかるポリエステル中の不溶性のマグネシウム(Mg)およびアンチモン(Sb)がともに1mg以下であれば、ポリエステル中における不溶性の異物(粗大粒子)であるマグネシウム塩(Mg塩)および金属アンチモンが極めて少なく、高度の清澄度を有し、製膜して得られるフィルムは高度の清澄度を有する。一方、不溶性のマグネシウム(Mg)およびアンチモン(Sb)の少なくとも一方が1mgを超える場合、そのようなポリエステルは不溶性の異物(粗大粒子)であるマグネシウム塩(Mg塩)および金属アンチモンの少なくとも一方が比較的多く生成しており、これから得られるフィルムは清澄度の低いものとなる。
【0014】
また、ポリエステルの清澄度は、ポリエステルチップに含まれる粗大粒子(5μm以上の粒子)を顕微鏡で観察して、その個数によっても評価できる。すなわち、この方法は、ポリエステルチップ(一粒)を2枚のカバーグラス間に挟んで280℃で溶融プレスし、急冷したのち、100倍の位相差顕微鏡で20視野観察し、イメージアナライザーで5μm以上の粒子の数をカウントして評価する方法である。この方法で測定した5μm以上の粒子の合計個数が30個以下であれば、そのようなポリエステルは、不溶性の異物(粗大粒子)であるマグネシウム塩(Mg塩)および金属アンチモンが極めて少なく、高度の清澄度を有し、製膜して得られるフィルムは高度の清澄度を有する。一方、5μm以上の粒子の合計個数が30個を超える場合、そのようなポリエステルは高度の清澄度が得られない。
【0015】
本発明のフィルム用ポリエステルは、重縮合触媒にアンチモン化合物を使用し、マグネシウム化合物とリン化合物を添加することによって製造できる。その詳細については後述する。
【0016】
本発明のフィルム用ポリエステルは、目的の高度の清澄度を有する観点から、主たるエステル単位(繰り返し単位)がエチレンテレフタレートからなるものが好適であり、具体的には、全エステル単位(繰り返し単位)の好ましくは80モル%以上(より好ましくは90〜100モル%)がエチレンテレフタレートからなるものが好適である。共重合成分としては、ジカルボン酸成分として、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸類;1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸類;テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4,4'−ビフェニルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸類等が挙げられる。また、グリコール成分として、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール等の脂肪族グリコール類;1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール等の脂環式グリコール類;p−キシリレングリコール、m−キシリレングリコール等の芳香族グリコール類等が挙げられる。かかる共重合成分は、ジカルボン酸成分及びグリコール成分のいずれにおいても、いずれか1種を単独で使用しても、2種以上を任意の割合で組み合わせて使用してもよい。
【0017】
本発明のフィルム用ポリエステルの重縮合触媒として使用するアンチモン化合物としては、例えば、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、酢酸アンチモン、アンチモングリコキサイド等が挙げられ、これらはいずれか1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。特に三酸化アンチモンが好ましい。
当該アンチモン化合物は、最終的に得られるポリエステルに対するアンチモン原子の含有量が100〜200ppmとなる量添加するのが好ましく、100ppm未満であると重合生産性が低下し、逆に、200ppmを超えると、不溶性の異物を生じやすくなる。より好ましいアンチモン原子の含有量は140〜170ppmである。
【0018】
なお、本発明において、重合触媒には、上記アンチモン化合物以外のものを併用してもよく、該アンチモン化合物以外の重合触媒としては、例えば、ゲルマニウム化合物、チタン化合物などが挙げられる。これらの使用量は、それぞれ、最終的に得られるポリエステルに対するゲルマニウム原子またはチタン原子の含有量が多くても50ppm以下となる量である。
【0019】
本発明で使用するマグネシウム化合物としては、例えば、水酸化マグネシウム、酢酸マグネシウムのような低級脂肪酸塩や、マグネシウムメトキサイドのようなアルコキサイド等が挙げられ、これらはいずれか1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。特に酢酸マグネシウムが好ましい。
当該マグネシウム化合物は、最終的に得られるポリエステルに対するマグネシウム原子の含有量が40〜70ppmとなる量添加するのが好ましく、40ppm未満であると、そのようなポリエステルは溶融比抵抗が十分に低下せず、製膜時に十分な静電密着性が得られにくく、逆に、70ppmを超えると、そのようなポリエステルは、不溶性の異物(Mg塩)の生成量が多くなり、好ましくない。より好ましいマグネシウム原子の含有量は50〜60ppmである。
【0020】
本発明で使用するリン化合物は、例えば、リン酸、亜リン酸、ホスホン酸およびそれらの誘導体等が挙げられ、具体例としては、リン酸、リン酸トリメチル、リン酸トリブチル、リン酸トリフェニル、リン酸モノメチル、リン酸ジメチル、リン酸モノブチル、リン酸ジブチル、亜リン酸、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリブチル、メチルホスホン酸、メチルホスホン酸ジメチル、エチルホスホン酸ジメチル、フェニールホスホン酸ジメチル、フェニールホスホン酸ジエチル、フェニールホスホン酸ジフェニール等が挙げられる。これらはいずれか1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。また、これらのうちでもリン酸トリメチルおよび/またはリン酸が好ましい。
当該リン化合物は、最終的に得られるポリエステルに対するリン原子の含有量が20〜55ppmとなる量添加するのが好ましく、20ppm未満であると、そのようなポリエステルは耐熱性が低下し、また、溶融比抵抗が十分に低下せず、逆に、55ppmを超えると、不溶性の異物(Mg塩)の生成量が多くなり、好ましくない。より好ましいリン原子の含有量は35〜45ppmである。
【0021】
本発明のポリエステル樹脂は、0.580〜0.630dl/gの極限粘度を有することが好ましい。極限粘度が0.580dl/g未満であるようなポリエステルは、製膜して得られるフィルムの力学的特性が劣悪になるため好ましくなく、逆に、0.630dl/gを超えるようなポリエステルは、重縮合反応後に製造したポリエステルチップをシート状に押出す際の押出機負荷が大きくなって、生産性が低下するので好ましくない。より好ましい極限粘度は0.600〜0.620dl/gである。
【0022】
また、本発明のポリエステル樹脂は、10〜25eq/tonの酸価を有することが好ましい。酸価が10eq/ton未満のポリエステルを得ようとすると、重合生産性が低下する傾向となり、逆に、酸価が25eq/tonを超えるようなポリエステルは、加水分解安定性が低下し、フィルムに製膜する際の極限粘度が低下してしまう。より好ましい酸価は15〜20eq/tonである。
【0023】
本発明のポリエステルは、重縮合触媒にアンチモン化合物を使用し、かつ、マグネシウム化合物とリン化合物を添加して、製造でき、その際に次の(a)〜(c)の条件を満たすことが少なくとも必要である。
(a)缶内を常圧以上の圧力とした少なくとも3缶以上のエステル化反応缶を用いてエステル化反応を行う。
(b)マグネシウム化合物は前記3缶以上のエステル化反応缶のうちの第2番目以降のエステル化反応缶に添加する。
(c)リン化合物は前記3缶以上のエステル化反応缶のうちのマグネシウム化合物を添加するエステル化反応缶以降のエステル化反応缶であって、少なくとも2缶以上の反応缶に分けて添加する。
【0024】
すなわち、上記(a)〜(c)の条件を満足することは、以下の技術内容を意味する。
エステル化反応缶の缶内を減圧状態にすると、マグネシウム化合物およびリン化合物が逃散してしまう。従って、これを避けるためにエステル化反応缶の圧力を常圧以上にする。圧力の上限は29.4kPaが好ましい。29.4kPaを超えると、ジエチレングリコール(DEG)の副生量が増加し、ポリエステルの軟化点を低下させ、フィルムの製膜時にフィルムの破断等を生じて、製膜作業を悪化させてしまう。
【0025】
エステル化反応缶内に、ジカルボン酸(またはそのジアルキルエステル)とグリコールを供給すると、エステル化反応によって、ジカルボン酸−グリコールジエステルおよび/またはそのオリゴマーを生成する(例えば、テレフタル酸とエチレングリコールを供給した場合、ビス−(β−ヒドロキシエチルテレフタレート)および/またはそのオリゴマーを生成する。)が、第1エステル化反応缶では生成するオリゴマーの酸価が大きく、この段階でマグネシウム化合物を供給(添加)すると、マグネシウム化合物とジカルボン酸間で不溶性の異物(Mg塩)が生成しやすくなる。従って、マグネシウム化合物を2缶目以降のオリゴマーの酸価が小さいエステル化反応缶に供給する。
【0026】
リン化合物は液状のものが多く、リン化合物をマグネシウム化合物が存在しない反応缶に添加すると、逃散して反応系に有効に取り込まれなくなる。従って、マグネシウム化合物の存在下に添加する(マグネシウム化合物と反応させる)のが好ましく、そのために、リン化合物を、マグネシウム化合物を供給(添加)する反応缶と同じ反応缶に添加する。また、リン化合物は1つの反応缶に添加するよりも、2つ以上の反応缶に分けて添加することによって、不溶性の異物(Mg塩)の低減効果がより高くなる。
【0027】
マグネシウム化合物は前記のように第2番目以降のエステル化反応缶に供給(添加)すればよいが、第3番目以降のエステル化反応缶に供給(添加)すれば、生成オリゴマーの酸価がより小さくなっており、不溶性の異物(Mg塩)の低減効果がより高くなり、好ましい。
【0028】
なお、かかる本発明のポリエステルの製造方法において、重合触媒であるアンチモン化合物の添加時期は特に制限されない。すなわち、エステル化反応における初期段階で添加しておいても、その後に添加してもよい。また、マグネシウム化合物およびリン化合物は、供給精度の点からエチレングリコール溶液として添加するのが好ましい。また。3缶以上のエステル化反応缶における缶内(反応系)温度は通常240〜280℃、好ましくは255〜265℃である。240℃未満では、オリゴマーが固化しやすくなり、反応速度が低下するので、好ましくなく、逆に、280℃を超えるとDEGの副生量が増大し、また、生成ポリマーの色相が変化する傾向を示すので好ましくない。また、エステル化反応缶はポリエステルの製造効率の観点からは、5缶以下とするのが好ましい。また、最終生成物(ポリマー)はろ過してから、チップ化されるのが好ましい。かかるろ過には、通常、目開き3〜20μm程度のフィルターが使用される。
【0029】
【実施例】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら制限されるものではない。なお、以下の実施例、比較例においてTPAはテレフタル酸、EGはエチレングリコール、TMPAはリン酸トリメチルを意味する。また、各特性、物性値は下記の試験方法で測定した。
【0030】
(1)酸価
ポリエステルチップを粉砕、乾燥し、0.2gの乾燥物を10mlのベンジルアルコールにより加熱溶解し、酒精カリでフェノールレッドを指示薬として滴定により求める。
(2)極限粘度
ポリエステルをフェノール(6重量部)と1,1,2,2−テトラクロルエタン(4重量部)の混合溶媒に溶解し、30℃で測定する。
(3)275℃での溶融比抵抗
先に説明した通り。
(4)不溶性MgおよびSb
先に説明した通り。
(5)ポリエステル中の粗大粒子数(粒径5μm以上の粒子数)
先に説明した通り。
(6)静電密着性
押出機の口金部と冷却ドラムの間にタングステンワイヤー製の電極を設け、電極とキャスティングドラム間に10〜15KVの電圧を印加してキャスティングを行い、得られたキャスティング原反の表面を肉眼で観察し、ピンナーバブルの発生が起こり始めるキャスティング速度で評価する。キャスティング速度が大きいポリマー程、静電密着性が良好である。
(7)フィルムヘイズ
直読ヘイズメーター(東洋精機株式会社製)で測定する。1.0%以下が合格。
(8)ポリマーの耐熱性
ポリマーを13.3kPaの窒素減圧下でガラスアンプルに封入し、300℃で2時間加熱処理した時の極限粘度の変化を測定する。耐熱性は、加熱処理による極限粘度低下(ΔIV)で表示する。ΔIVが小さいほど耐熱性は良好である。
【0031】
実施例1
エステル化反応装置として、攪拌装置、分縮器、原料仕込口および生成物取り出し口を有する3段の完全混合槽よりなる連続エステル化反応装置を使用し、TPAを2トン/hrとし、EGをTPA1モルに対して2モルとし、三酸化アンチモンを生成PETに対してSb原子が160ppmとなる量とし、これらのスラリーをエステル化反応装置の第1エステル化反応缶に連続供給し、常圧にて平均滞留時間4時間で255℃で反応させた。
次に、上第1エステル化反応缶内の反応性生物を連続的に系外に取り出して第2エステル化反応缶に供給し、第2エステル化反応缶内に第1エステル化反応缶から留去されるEGを生成ポリマー(生成PET)に対し8重量%供給し、さらに、生成PETに対してMg原子が65ppmとなる量の酢酸マグネシウムを含むEG溶液と、生成PETに対してP原子が20ppmのとなる量のTMPAを含むEG溶液を添加し、常圧にて平均滞留時間1.5時間で260℃で反応させた。
次に、上記第2エステル化反応缶内の反応生成物を連続的に系外に取り出して第3エステル化反応缶に供給し、さらに生成PETに対してP原子が20ppmのとなる量のTMPAを含むEG溶液を添加し、常圧にて平均滞留時間0.5時間で260℃で反応させた。
【0032】
上記第3エステル化反応缶内で生成したエステル化反応生成物を3段の連続重縮合反応装置に連続的に供給して重縮合を行い、極限粘度0.620dl/gのポリエステルを得た。該ポリマーの特性、物性値を測定するとともに、該ポリマーを290℃で溶融押出しし、90℃で縦方向に3.5倍延伸、130℃で横方向に3.5倍延伸した後、220℃で熱処理して得られた厚み38μmのフィルムのヘイズを測定した。この結果を表1に示す。
【0033】
実施例2
エステル化反応装置として、攪拌装置、分縮器、原料仕込口および生成物取り出し口を有する4段の完全混合槽よりなる連続エステル化反応装置を使用し、TPAとEGの供給量は実施例1と同様にして、実施例1において第2エステル化反応缶に供給した酢酸マグネシウムとTMPAを第3エステル化反応缶に供給するようにし(第2エステル化反応缶には第1エステル化反応缶から留去されるEGのみ供給)、さらに、実施例1において第3エステル化反応缶に供給したTMPAを第4エステル化反応缶に供給し、第1〜第3エステル化反応缶における圧力、滞留時間および温度は実施例1と同じにし、第4エステル化反応缶は圧力を常圧、滞留時間を0.5時間、温度を260℃にして反応を行った。
上記第4エステル化反応缶内に生成したエステル化反応生成物を3段の連続重縮合反応装置に連続的に供給して重縮合を行い、極限粘度0.620dl/gのポリエステルを得た。該ポリマーの特性、物性値を測定するとともに、実施例1と同様の条件で厚み38μmのフィルムを製膜し、該フィルムのヘイズを測定した。この結果を表1に示す。
【0034】
比較例1
エステル化反応装置として、攪拌装置、分縮器、原料仕込口および生成物取り出し口を有する2段の完全混合槽よりなる連続エステル化反応装置を使用し、TPAとEGの供給量は実施例1と同様にして、実施例1において第2エステル化反応缶に供給した酢酸マグネシウムとTMPAを第1エステル化反応缶に供給し、さらに実施例1において第3エステル化反応缶に供給したTMPAを第2エステル化反応缶に供給するようにし(第2エステル化反応缶には第1エステル化反応缶から留去されるEGとTMPAを供給)、第1および第2エステル化反応缶における圧力、滞留時間および温度は実施例1と同じにして反応を行った。
上記第2エステル化反応缶内に生成したエステル化反応生成物を3段の連続重縮合反応装置に連続的に供給して重縮合を行い、極限粘度0.620dl/gのポリエステルを得た。該ポリマーの特性、物性値を測定するとともに、実施例1と同様の条件で厚み38μmのフィルムを製膜し、該フィルムのヘイズを測定した。この結果を表1に示す。
【0035】
比較例2
エステル化反応装置として、実施例1と同様の攪拌装置、分縮器、原料仕込口および生成物取り出し口を有する3段の完全混合槽よりなる連続エステル化反応装置を使用し、TPA、EGの供給量は実施例1と同様にし、さらに実施例1で使用した量と同量の酢酸マグネシウムおよびTMPAを第2エステル化反応缶にのみ供給するようにし(第2エステル化反応缶には第1エステル化反応缶から留去されるEGと酢酸マグネシウム(全量)とTMPA(全量)を供給し、第3エステル化反応缶には何も供給しない。)、第1〜第3エステル化反応缶における圧力、滞留時間および温度は実施例1と同じにして反応を行った。
上記第3エステル化反応缶内に生成したエステル化反応生成物を3段の連続重縮合反応装置に連続的に供給して重縮合を行い、極限粘度0.620dl/gのポリエステルを得た。該ポリマーの特性、物性値を測定するとともに、実施例1と同様の条件で厚み38μmのフィルムを製膜し、該フィルムのヘイズを測定した。この結果を表1に示す。
【0036】
【表1】
Figure 0005055661
【0037】
*表1中、EGTは第1エステル化反応缶から留去されるEGを示す。
【0038】
表1から、実施例1および実施例2で得られるポリエステルは、同じ原料(重合触媒、抵抗調整剤(低抵抗化剤))を使用して製造された比較例1および比較例2のポリエステルに比べて、粗大粒子の個数が極めて少なく、高度の清澄度を有している。従って、本発明の3缶以上のエステル化反応缶を使用し、それらに対してのマグネシウム化合物およびリン化合物のそれぞれの添加パターン(マグネシウム化合物およびリン化合物を3缶以上のエステル化反応缶のいずれの反応缶に添加するか)を最適化することで、不溶性の粗大粒子の生成を抑制する効果が得られ、それによって、良好な静電密着性と高度の清澄度を有するポリエステルが得られることがわかる。そして、このようなポリエステルを静電密着キャスト法で製膜することで、厚みが均一で、高度の清澄度のフィルムを、高速(効率良く)かつ安定に成形することが可能となる。
【0039】
【発明の効果】
以上の説明により明らかなように、本発明によれば、良好な静電密着性と極めて高い清澄度を有するフィルム用ポリエステル、さらには良好な静電密着性と極めて高い清澄度に加え、優れた耐熱性を有するフィルム用ポリエステルを提供することができる。

Claims (6)

  1. 重縮合触媒にアンチモン化合物を使用し、かつ、マグネシウム化合物とリン化合物を添加して、得られるフィルム用ポリエステルであって、
    当該ポリエステルの275℃での溶融比抵抗が0.15〜0.45×10Ω・cmであり、かつ、当該ポリエステルをパラクロロフェノールとテトラクロルエタンの75:25(重量比)の混合溶媒に溶解し、その溶液を平均孔径0.1μmのメンブランフィルターでろ過した後のフィルター上の残渣におけるマグネシウム分およびアンチモン分が、それぞれ、当該ポリエステル1kg当たり1mg以下であることを特徴とするフィルム用ポリエステル。
  2. 重縮合触媒にアンチモン化合物を使用し、かつ、マグネシウム化合物とリン化合物を添加して、得られるフィルム用ポリエステルであって、
    当該ポリエステルの275℃での溶融比抵抗が0.15〜0.45×10Ω・cmであり、かつ、当該ポリエステルのチップ内を100倍の顕微鏡で20視野観察したときの5μm以上の粒子の合計個数が30個以下であることを特徴とするフィルム用ポリエステル。
  3. さらに下記(A)〜(E)の条件を満たす請求項1または2記載のフィルム用ポリエステル。
    (A)極限粘度:0.580〜0.630dl/g
    (B)酸価:当該ポリエステルに対して10〜25eq/ton
    (C)Mg含有量:当該ポリエステルに対して40〜70ppm
    (D)リン含有量:当該ポリエステルに対して20〜55ppm
    (E)Sb含有量:当該ポリエステルに対して100〜200ppm
  4. 主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレートである請求項1〜3のいずれかに記載のフィルム用ポリエステル。
  5. 重縮合触媒にアンチモン化合物を使用し、かつ、マグネシウム化合物とリン化合物を添加して、ポリエステルを製造する方法であって、
    前記マグネシウム化合物は、最終的に得られるポリエステルに対するマグネシウム原子の含有量が40〜70ppmとなる量添加し、かつ、下記の(a)〜(c)の条件を満たすことを特徴とするフィルム用ポリエステルの製造方法。
    (a)缶内を常圧以上の圧力とした少なくとも3缶以上のエステル化反応缶でエステル化反応を行う。
    (b)マグネシウム化合物は前記3缶以上のエステル化反応缶のうちの第2番目以降のエステル化反応缶に添加する。
    (c)リン化合物は前記3缶以上のエステル化反応缶のうちのマグネシウム化合物を添加するエステル化反応缶以降のエステル化反応缶であって、少なくとも2缶以上の反応缶に分けて添加する。
  6. マグネシウム化合物とリン化合物の両方が添加されるエステル化反応缶を有する請求項5記載のフィルム用ポリエステルの製造方法。
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