本発明者は、回収グリコールの再利用による経済性の高い製造方法において、静電密着を利用したフィルム製造にも好適なポリエステルを高い清澄度を維持したまま安定的に連続製造する方法について鋭意検討を行った。その結果、本願発明者らは以下の知見を得て本発明に至った。そこで、まずこれらの特徴について説明する。
(1)重合反応後の濾過工程に用いるフィルターろ過孔径の制御
本発明では、ポリエステルに静電密着性を付与するためにアルカリ金属またはアルカリ土類金属を添加する。本願出願人はこれらの添加剤の濃度や添加方法を制御することで高い清澄度のポリエステルを製造する方法を開示しているが(特許文献1)。長期間連続運転する場合は、これら添加剤に起因する不溶性異物が経時的に蓄積するため、安定的に高い清澄度を維持することは困難な場合があった。そこで、本発明者は、鋭意検討した結果、ポリエステル製造における重合反応後のフィルターろ過孔径の大きさの分布態様が、清澄度の高いポリエステルの安定的な連続生産に重要であることを見いだした。
清澄度の高いポリエステル、特に5μm以下の粗大粒子(異物)が少ないポリエステルを得るためには、フィルターの中間孔径は少なくとも5μm以下であることが望ましい。一方、フィルターの孔径は中間孔径を中心としたある一定の分布を示すが、フィルターの最大孔径が中間孔径を大きく上回ると捕捉し切れなかった異物の量が増し、清澄度が低下する。しかし、最大孔径が小さい場合は、連続製造により蓄積した異物の目詰まりに背圧が増大し、濾過寿命が低下する。さらに、フィルターを洗浄によっても蓄積した異物が除去しきれない場合が生じる。よって、本発明では最大孔径の大きさは10μmであることが望ましい。このように、フィルターの孔径分布を制御することで安定的な連続製造を実現したことが本発明の重要な知見である。
(2)重合反応後の濾過工程に用いるフィルター形状の制御
フィルターの濾過寿命を長くする為には、フィルターの濾過面積を大きくすることが望ましい。また、ポリエステルの生産効率をあげる点においても、フィルターの濾過面積を大きくすることが望ましい。しかしながら、重合後のポリエステルを濾過する場合、フィルター部分での滞留時間が長くなると、ポリエステルの熱劣化が生じ、重合度が低下したり、変色が生じたり場合がある。そのため、本発明ではフィルターの濾過面積を4〜200m2にすることが重要である。
また、フィルター濾過工程においてデッドスペースがあると、その部位でポリエステルが滞留し、熱劣化が生じる。よって、単位体積あたりの濾過面積は大きくすることが望ましい。そのため、本発明では円筒形のプリーツ形エレメントの集合体を、フィルターハウジング内に空間充填率が大きくなるように設置することが好ましい。しかし、単位体積あたりの濾過面積を大きくしすぎると、フィルターエレメントの耐圧性が低下し、容易に変形したり、フィルターエレメントの洗浄再生においても蓄積した異物が除去しきれない場合が生じる。そこで、本発明では、所定の形状を有したフィルターエレメントを用いることが好ましい。最適なフィルターエレメントの形状、および濾過速度については、後述する。
(3)回収グリコールの循環再使用工程の異物除去
ポリエチレングリコールの製造において、回収グリコールを再利用する場合は、重合反応槽から留出する留出液には熱により一部劣化した固形成分を多く含む。よって、単に回収グリコールを再利用すると係る固形分などによりポリエステルの清澄度が低下する。そこで、留出分については湿式コンデンサーと液封タンクを用いて凝集させ、さらに蒸留塔により分留した回収グリコールを利用する。このような一連の循環再使用工程を採る場合、回収グリコールに含まれる固形分が原因となって、連続運転が不可能になる場合が生じる。そのため、本発明では、かかる循環再使用工程を採る場合、各工程において固定分を除去することが好ましい。固形分の除去方法については限定しないが、具体的には後述する。
本発明は上記の達成手段をとることが重要であるが、以下、本発明について詳細に説明する。
本発明に言うポリエステルとは、芳香族ジカルボン酸を主体とするジカルボン酸と、炭素数2〜4のアルキレングリコールのいずれか1種を原料とするものである。
本発明において、芳香族ジカルボン酸とは、オルソフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、5ー(アルカリ金属)スルホイソフタル酸、ジフェニン酸、1,3ーナフタレンジカルボン酸、1,4ーナフタレンジカルボン酸、1,5ーナフタレンジカルボン酸、2,6ーナフタレンジカルボン酸、2,7ーナフタレンジカルボン酸、4、4’ービフェニルジカルボン酸、4、4’ービフェニルスルホンジカルボン酸、4、4’ービフェニルエーテルジカルボン酸、1,2ービス(フェノキシ)エタンーp,p’ージカルボン酸、パモイン酸、アントラセンジカルボン酸などに例示される分子構造中に芳香族環構造を含むジカルボン酸、またはこれらのエステル形成性誘導体である。なお、本発明において「主体とする」とは、カルボン酸成分中、50モル%以上が上記芳香族ジカルボン酸であることをいう。
上記芳香族ジカルボン酸のうちテレフタル酸および2,6ーナフタレンジカルボン酸が、得られるポリエステルの物性等の点で好ましく、必要に応じて他のジカルボン酸を構成成分とする。
本発明において炭素数2〜4のアルキレングリコールとしては、エチレングリコール、n−プロピレングリコール、n−ブチレングリコールが例示される。上記アルキレングリコールとしては、エチレングリコールが特に好ましい。
なお、上記芳香族ジカルボン酸、炭素数2〜4のアルキレングリコールの他に、本発明の効果を奏するのであれば、他のジカルボン酸成分、グリコール成分、及び、これらの誘導体を3〜10モル%程度添加しても構わない。
本発明のポリエステルとしてはPET、PBT、PTT、PEN、ポリブチレンナフタレート、ポリプロピレンナフタレートおよびこれらの共重縮合体が好ましく、これらのうちポリエチレンテレフタレートおよびこの共重縮合体が特に好ましい。共重縮合体としてはエチレンテレフタレート単位を50モル%以上よりなるものが好ましく、70モル%以上がより好ましい。
本発明において用いられる重縮合触媒は、限定されない。アンチモン化合物、ゲルマニウム化合物、チタン化合物、スズ化合物およびアルミニウム化合物等の従来公知の重縮合触媒が使用できる。
本発明において使用可能なアンチモン化合物としては、特に限定はされないが、好適な化合物として三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、酢酸アンチモン、アンチモングリコキサイドなどが挙げられ、特に三酸化アンチモンの使用が好ましい。また、ゲルマニウム化合物としては、特に限定はされないが、二酸化ゲルマニウム、四塩化ゲルマニウムなどが挙げられ、特に二酸化ゲルマニウムが好ましい。二酸化ゲルマニウムとしては結晶性のものと非晶性のものの両方が使用できる。
本発明において使用可能なチタン化合物としては特に限定はされないが、テトラ−n−プロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、テトライソブチルチタネート、テトラ−tert−ブチルチタネート、テトラシクロヘキシルチタネート、テトラフェニルチタネート、テトラベンジルチタネート、蓚酸チタン酸リチウム、蓚酸チタン酸カリウム、蓚酸チタン酸アンモニウム、酸化チタン、チタンとケイ素やジルコニウムやアルカリ金属やアルカリ土類金属などとの複合酸化物、チタンのオルトエステルまたは縮合オルトエステル、チタンのオルトエステルまたは縮合オルトエステルとヒドロキシカルボン酸からなる反応生成物、チタンのオルトエステルまたは縮合オルトエステルとヒドロキシカルボン酸とリン化合物からなる反応生成物、チタンのオルトエステルまたは縮合オルトエステルと少なくとも2個のヒドロキシル基を有する多価アルコール、2−ヒドロキシカルボン酸および塩基からなる反応生成物などが挙げられ、このうちチタンとケイ素の複合酸化物、チタンとマグネシウムの複合酸化物、チタンのオルトエステルまたは縮合オルトエステルとヒドロキシカルボン酸とリン化合物からなる反応生成物が好ましい。
またスズ化合物としては、ジブチルスズオキサイド、メチルフェニルスズオキサイド、テトラエチルスズ、ヘキサエチルジスズオキサイド、トリエチルスズハイドロオキサイド、モノブチルヒドロキシスズオキサイド、トリイソブチルスズアセテート、ジフェニルスズジラウレート、モノブチルスズトリクロライド、ジブチルスズサルファイド、ジブチルヒドロキシスズオキサイド、メチルスタンノン酸、エチルスタンノン酸などが挙げられ、特にモノブチルヒドロキシスズオキサイドの使用が好ましい。
また、アルミニウム化合物としては、ギ酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、プロピオン酸アルミニウム、シュウ酸アルミニウム、アクリル酸アルミニウム、ラウリン酸アルミニウム、ステアリン酸アルミニウム、安息香酸アルミニウム、トリクロロ酢酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、クエン酸アルミニウム、酒石酸アルミニウム、サリチル酸アルミニウムなどのカルボン酸塩、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、炭酸アルミニウム、リン酸アルミニウム、ホスホン酸アルミニウムなどの無機酸塩、アルミニウムメトキサイド、アルミニウムエトキサイド、アルミニウムn−プロポキサイド、アルミニウムiso−プロポキサイド、アルミニウムn−ブトキサイド、アルミニウムt−ブトキサイドなどアルミニウムアルコキサイド、アルミニウムアセチルアセトネート、アルミニウムアセチルアセテート、アルミニウムエチルアセトアセテート、アルミニウムエチルアセトアセテートジiso−プロポキサイドなどのアルミニウムキレート化合物、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウムなどの有機アルミニウム化合物及びこれらの部分加水分解物、アルミニウムのアルコキサイドやアルミニウムキレート化合物とヒドロキシカルボン酸からなる反応生成物、酸化アルミニウム、超微粒子酸化アルミニウム、アルミニウムシリケート、アルミニウムとチタンやケイ素やジルコニウムやアルカリ金属やアルカリ土類金属などとの複合酸化物などが挙げられる。これらのうちカルボン酸塩、無機酸塩及びキレート化合物が好ましく、これらの中でもさらに酢酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化塩化アルミニウム及びアルミニウムアセチルアセトネートが特に好ましい。
これらのアルミニウム化合物の中でも、アルミニウム含有量が高い酢酸アルミニウム、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化塩化アルミニウムが好ましく、さらに溶解度の観点から酢酸アルミニウム、塩化アルミニウム、水酸化塩化アルミニウムが好ましい。さらに、装置を腐食しない観点から、酢酸アルミニウムの使用がとくに好ましい。
ここで、水酸化塩化アルミニウムは一般にポリ塩化アルミニウムや塩基性塩化アルミニウムなどとも呼ばれるものの総称であり、水道用に使われるものなどが使用できる。これらは、例えば一般構造式[Al2(OH)nCl6−n]m(ただし1≦n≦5)で表される。これらの中でも、装置を腐食しない観点から塩素含有量の少ないものが好ましい。
上記の酢酸アルミニウムは、塩基性酢酸アルミニウム、トリ酢酸アルミニウム、酢酸アルミニウム溶液などに代表される酢酸のアルミニウム塩の構造を有するものの総称であり、これらの中でも、溶解性および溶液の安定性の観点から、塩基性酢酸アルミニウムの使用が好ましい。塩基性酢酸アルミニウムの中でも、モノ酢酸アルミニウム、ジ酢酸アルミニウム、あるいはこれらがホウ酸で安定化されたものが好ましい。ホウ酸で安定化されたものを用いる場合、塩基性酢酸アルミニウムに対して等モル以下の量のホウ酸で安定化されたものを用いることが好ましく、とくに1/2〜1/3モル量のホウ酸で安定化された塩基性酢酸アルミニウムの使用が好ましい。塩基性酢酸アルミニウムの安定剤としては、ホウ酸以外に尿素、チオ尿素などが挙げられる。
本発明においては、上記重縮合触媒の添加量は限定されない。実用的な重縮合触媒活性を示す範囲で適宜設定すればよい。ただし、該重縮合触媒起因の異物生成を抑制し、得られるポリエステルの清澄度を確保する点より必要最低限の添加に留めるのがよい。例えば、重縮合触媒としてアンチモン化合物を用いる場合、当該アンチモン化合物は、最終的に得られるポリエステルに対するアンチモン原子の含有量が100〜200ppmとなる量添加するのが好ましく、100ppm未満であると重合生産性が低下し、逆に、200ppmを超えると、不溶性の異物を生じやすくなる。より好ましいアンチモン原子の含有量は140〜170ppmである。また、ゲルマニウム化合物、チタン化合物を用いる場合は、それぞれ、最終的に得られるポリエステルに対するゲルマニウム原子またはチタン原子の含有量が多くても50ppm以下となる量とすることが好ましい。
本発明においては、上記重縮合触媒とともにマグネシウム化合物の存在下で実施するのが好ましい。該マグネシウム化合物はポリエステルの溶融比抵抗を下げ、静電密着性を向上するために添加される。
また、本発明においては、さらにアルカリ金属化合物の存在下で実施するのがより好ましい。該アルカリ金属化合物を添加することにより、静電密着性向上効果を増大させることができ、かつ、副反応であるグリコール成分同士の縮合反応、例えば、グリコール成分としてエチレングリコールを用いた場合はジエチレングリコールの副生が抑制される。
本発明において使用するアルカリ金属は、Li,Na,K,Rb,Csである。NaまたはK化合物の使用が好ましい。
上記のマグネシウム化合物やアルカ金属化合物としては、例えば、これら金属のギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、蓚酸などの飽和脂肪族カルボン酸塩、アクリル酸、メタクリル酸などの不飽和脂肪族カルボン酸塩、安息香酸などの芳香族カルボン酸塩、トリクロロ酢酸などのハロゲン含有カルボン酸塩、乳酸、クエン酸、サリチル酸などのヒドロキシカルボン酸塩、炭酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホスホン酸、炭酸水素、リン酸水素、硫化水素、亜硫酸、チオ硫酸、塩酸、臭化水素酸、塩素酸、臭素酸などの無機酸塩、1−プロパンスルホン酸、1−ペンタンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸などの有機スルホン酸塩、ラウリル硫酸などの有機硫酸塩、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、iso−プロポキシ、n−ブトキシ、tert−ブトキシなどのアルコキサイド、アセチルアセトネートなどとのキレート化合物、水素化物、酸化物、水酸化物などが挙げられる。これらのアルカリ金属やマグネシウム化合物のうち、水酸化物等のアルカリ性の強いものを用いる場合、これらはエチレングリコール等のジオールもしくはアルコール等の有機溶媒に溶解しにくい傾向があるため、水溶液で重合系に添加しなければならず重合工程上問題となる場合が有る。さらに、水酸化物等のアルカリ性の強いものを用いた場合、重合時にポリエステルが加水分解等の副反応を受け易くなるとともに、重合したポリエステルは着色し易くなる傾向があり、耐加水分解性も低下する傾向がある。従って、本発明のアルカリ金属化合物あるいはマグネシウム化合物として好適なものは、アルカリ金属あるいはマグネシウム金属の飽和脂肪族カルボン酸塩、不飽和脂肪族カルボン酸塩、芳香族カルボン塩、ハロゲン含有カルボン酸塩、ヒドロキシカルボン酸塩、硫酸、硝酸、リン酸、ホスホン酸、リン酸水素、硫化水素、亜硫酸、チオ硫酸、塩酸、臭化水素酸、塩素酸、臭素酸から選ばれる無機酸塩、有機スルホン酸塩、有機硫酸塩、キレート化合物、および酸化物である。これらの中でもさらに、取り扱い易さや入手のし易さ等の観点から、マグネシウム金属あるいはアルカリ金属などの金属の飽和脂肪族カルボン酸塩、特に酢酸塩の使用が好ましい。
ポリエステル中のマグネシウム化合物の含有量はマグネシウム原子の量として5〜160ppmがより好ましく、10〜120ppmがさらに好ましく、15〜100ppmがよりさらに好ましい。マグネシウム原子含有量が3ppm未満ではポリエステルの溶融比抵抗の低下が少なくなり静電密着性が悪化するので好ましくない。逆に、200ppmを超えた場合は、該アルカリ土類金属起因の異物生成が増大するとともに、ポリエステルの熱安定性等の安定性が低下したり、ポリエステルの着色が増大するので好ましくない。
ポリエステル中のアルカリ金属化合物量は、アルカリ金属原子の含有量として1〜40ppmがより好ましく、2〜30ppmがさらに好ましく、3〜20ppmがよりさらに好ましい。アルカリ金属原子の含有量が0.5ppm未満ではポリエステルの溶融比抵抗の低下が少なくなり静電密着性が悪化する。さらに、副反応であるグリコール成分同士の縮合反応が増加し、例えば、グリコール成分としてエチレングリコールを用いた場合はジエチレングリコールの副生が増大する。該副反応の増大によりポリエステルの融点低下や熱酸化安定性等の品質低下が低下するので好ましくない。逆に、50ppmを超えた場合は、ポリエステルの溶融比抵抗の低下やグリコール成分同士の縮合反応の抑制効果が頭打ちになり、かつポリエステルの着色が増大し色調の低下が起こるので好ましくない。
本発明においては、リン化合物の存在下で実施するのが好ましい。該リン化合物は、例えば、リン酸、亜リン酸、ホスホン酸およびそれらの誘導体等が挙げられ、具体例としては、リン酸、リン酸トリメチル、リン酸トリブチル、リン酸トリフェニル、リン酸モノメチル、リン酸ジメチル、リン酸モノブチル、リン酸ジブチル、亜リン酸、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリブチル、メチルホスホン酸、メチルホスホン酸ジメチル、エチルホスホン酸ジメチル、フェニールホスホン酸ジメチル、フェニールホスホン酸ジエチル、フェニールホスホン酸ジフェニール等が挙げられる。これらはいずれか1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。また、これらのうちでもリン酸トリメチルおよび/またはリン酸が好ましい。
当該リン化合物量は、マグネシウム原子/リン原子(モル比)で1.0〜10の範囲が好ましく、1.5〜3.5が特に好ましい。マグネシウム原子/リン原子(モル比)が1.0未満ではポリエステルの静電密着性向上効果が低下するので好ましくない。一方、10を超えた場合はポリエステルの耐熱性やレジンカラーが悪化するので好ましくない。
本発明においては、得られるポリエステルは275℃での溶融比抵抗が0.5×108Ω・cm以下であることが好ましい。0.4×108Ω・cm以下がより好ましく、0.3×108Ω・cm以下がさらに好ましい。該ポリエステルの溶融比抵抗が0.5×108Ω・cmを超えた場合は、静電密着性が悪化し、キャスティング速度が遅くなり生産性が悪くなる。ここで、溶融比抵抗とは、静電密着キャスト法においてピンナーブルの発生を抑制しながらキャストできる最高のキャスティング速度、すなわち静電密着性と相関している。溶融比抵抗が低いポリマーほど、高速でキャスティングすることが可能となり、フィルム生産性の面から非常に重要である。ただし、0.1×108Ω・cm未満になると該ポリエステルを用いた成型体がエレクトレットを形成し易くなるので好ましくないことも発生する。
該ポリエステルの溶融比抵抗は、275℃で溶融したポリエステル中に2本の電極(ステンレス針金)を置き、120Vの電圧を印加した時の電流(io)を測定し、これを次式に当てはめて求めた比抵抗値Si(Ω・cm)である。
Si(Ω・cm)=(A/L)×(V/io)
[A:電極間面積(cm2)、L=電極間距離(cm)、V=電圧(V)]
本発明においては、得られるポリエステルの清澄度が高いことが好ましい。該ポリエステルの清澄度は、ポリエステルチップに含まれる粗大粒子(5μm以上の粒子)を位相差顕微鏡で観察して、その個数によっても評価できる。すなわち、この方法は、ポリエステルチップ(一粒)を2枚のカバーグラス間に挟んで280℃で溶融プレス(樹脂厚み:0.6mm)し、急冷したのち、100倍の位相差顕微鏡で20視野観察(合計視野面積:2.4mm2)し、イメージアナライザーで2.4mm2当たりの5μm以上の粒子の数をカウントして評価する方法によっても行うことができる。この方法で測定した2.4mm2当たりの5μm以上の粒子の合計個数が30個以下であれば、そのようなポリエステルは、不溶性の異物(粗大粒子)が少なく、高度の清澄度を有し、例えば、製膜して得られるフィルムは高度の清澄度を有するので高度の清澄度が要求される光学用フィルムとしても好適に使用することができる。
また、該ポリエステルの清澄度は、該ポリエステルを溶媒に溶解し、その溶液を平均孔径0.1μmのメンブランフィルターでろ過した後のフィルター上の残渣における金属量を定量することによっても測定することができる。本発明においては、該ポリエステル中の不溶性のアルカリ土類金属分が、該ポリエステル1kg当たり1mg以下であることが好ましく、0.8mg以下がより好ましく、0.6mg以下がさらに好ましい。
さらに、本発明においては、ポリエステルを長期に渡り連続生産した場合に、上記の清澄度がポリエステルの製造開始より少なくとも3ヶ月間に渡り維持されることが好ましい。
本発明のポリエステルは、0.580〜0.630dl/gの極限粘度を有することが好ましい。極限粘度が0.580dl/g未満であるようなポリエステルは、製膜して得られるフィルムの力学的特性が劣悪になるため好ましくなく、逆に、0.630dl/gを超えるようなポリエステルは、ポリエステルチップをシート状に押出す際の押出機負荷が大きくなって、生産性が低下するので好ましくない。より好ましい極限粘度は0.600〜0.620dl/gである。
また、本発明のポリエステルは、10〜25eq/tonの酸価を有することが好ましい。酸価が10eq/ton未満のポリエステルを得ようとすると、重合生産性が低下する傾向となり、逆に、酸価が25eq/tonを超えるようなポリエステルは、加水分解安定性が低下し、フィルムに製膜する際の極限粘度が低下してしまう。より好ましい酸価は15〜20eq/tonである。
本発明において、マグネシウム化合物、リン化合物を添加する態様としては、次の(a)〜(c)の条件を満たすことが好ましい。
(a)缶内を常圧以上の圧力とした少なくとも3缶以上のエステル化反応缶を用いてエステル化反応を行う。
(b)マグネシウム化合物は前記3缶以上のエステル化反応缶のうちの第2番目以降のエステル化反応缶に添加する。
(c)リン化合物は前記3缶以上のエステル化反応缶のうちのマグネシウム化合物を添加するエステル化反応缶以降のエステル化反応缶であって、少なくとも2缶以上の反応缶に分けて添加する。
すなわち、上記(a)〜(c)の条件を満足することは、以下の技術内容を意味する。エステル化反応缶の缶内を減圧状態にすると、マグネシウム化合物およびリン化合物が逃散してしまう。従って、これを避けるためにエステル化反応缶の圧力を常圧以上にする。圧力の上限はゲージ圧で29.4kPaが好ましい。29.4kPaを超えると、ジエチレングリコール(DEG)の副生量が増加し、ポリエステルの軟化点を低下させ、例えば、フィルムの製膜時にフィルムの破断等を生じて、製膜作業を悪化させてしまう。
エステル化反応缶内に、ジカルボン酸とグリコールを供給すると、エステル化反応によって、ジカルボン酸−グリコールジエステルおよび/またはそのオリゴマーを生成する(例えば、テレフタル酸とエチレングリコールを供給した場合、ビス−(β−ヒドロキシエチルテレフタレート)および/またはそのオリゴマーを生成する。)が、第1エステル化反応缶では生成するオリゴマーの酸価が大きく、この段階でマグネシウム化合物を供給(添加)すると、マグネシウム化合物とジカルボン酸間で不溶性の異物(Mg塩)が生成しやすくなる。従って、マグネシウム化合物を2缶目以降のオリゴマーの酸価が小さいエステル化反応缶に供給する。
リン化合物は液状で低沸点のものが多いので、リン化合物をマグネシウム化合物が存在しない反応缶に添加すると、逃散して反応系に有効に取り込まれなくなる。従って、マグネシウム化合物の存在下に添加する(マグネシウム化合物と反応させる)のが好ましく、そのために、リン化合物を、マグネシウム化合物を供給(添加)する反応缶と同じ反応缶に添加する。また、リン化合物は1つの反応缶に添加するよりも、2つ以上の反応缶に分けて添加することによって、不溶性の異物(Mg塩)の低減効果がより高くなる。
マグネシウム化合物は前記のように第2番目以降のエステル化反応缶に供給(添加)すればよいが、第3番目以降のエステル化反応缶に供給(添加)すれば、生成オリゴマーの酸価がより小さくなっており、不溶性の異物(Mg塩)の低減効果がより高くなり、好ましい。
なお、かかる本発明のポリエステルの製造方法において、重合触媒であるアンチモン化合物の添加時期は特に制限されない。すなわち、エステル化反応における初期段階で添加しておいても、その後に添加してもよい。また、マグネシウム化合物およびリン化合物は、供給精度の点からエチレングリコール溶液として添加するのが好ましい。また。3缶以上のエステル化反応缶における缶内(反応系)温度は通常240〜280℃、好ましくは255〜265℃である。240℃未満では、オリゴマーが固化する恐れがあり、反応速度が低下するので、好ましくなく、逆に、280℃を超えるとDEGの副生量が増大し、また、生成ポリマーの色相が変化する傾向を示すので好ましくない。また、エステル化反応缶はポリエステルの製造効率の観点からは、5缶以下とするのが好ましい。
本発明においてエステル化反応や重縮合反応の条件は限定されないが、例えば、下記条件が例示される。例えば、テレフタル酸1モルに対して1.02〜1.5モル、好ましくは1.03〜1.4モルのエチレングリコ−ルが含まれたスラリ−を調製し、これをエステル化反応工程に連続的に供給する。エステル化反応は、少なくとも3個のエステル化反応槽を直列に連結した多段式装置を用いて、反応によって生成した水を精留塔で系外に除去しながら実施する。第1段目のエステル化反応の温度は240〜270℃、好ましくは245〜265℃、圧力は常圧〜0.29MPa、好ましくは0.005〜0.19MPaである。最終段目のエステル化反応の温度は通常250〜290℃好ましくは255〜275℃であり、圧力は通常0〜0.15MPa、好ましくは0〜0.13MPaである。3段階以上で実施する場合には、中間段階のエステル化反応の反応条件は、上記第1段目の反応条件と最終段目の反応条件の間の条件が好ましく。これらエステル化反応の反応率の上昇は、それぞれの段階で滑らかに分配されることが好ましい。最終的にはエステル化反応率は90%以上、好ましくは93%以上に達することが望ましい。これらのエステル化反応により分子量500〜2000程度の低次縮合物が得られる。
引き続き重縮合反応槽に移送し重縮合を行う。該重縮合工程の反応槽数も限定されない。一般には初期重縮合、中期重縮合および後期重縮合の3段階方式が取られている。重縮合反応条件は、第1段階目の重縮合の反応温度は250〜290℃、好ましくは260〜280℃であり、圧力は0.065〜0.0026MPa、好ましくは0.026〜0.0039MPaで、最終段階の重縮合反応の温度は265〜300℃、好ましくは275〜295℃であり、圧力は0.0013〜0.000013MPa、好ましくは0.00065〜0.000065MPaである。3段階以上で実施する場合には、中間段階の重縮合反応の反応条件は、上記第1段目の反応条件と最終段目の反応条件の間の条件である。これらの重縮合反応工程の各々において到達される極限粘度の上昇の度合は滑らかに分配されることが好ましい。
本発明では、ポリエステルを連続的に製造する方法において、重縮合反応後に中間孔径が5μm以下で、かつバブルポイント法での最大孔径が10μm以下であるフィルターでポリエステルを濾過することが好ましい。重縮合反応を多槽で行う場合は、該フィルターは最終重合反応槽の出口に設置することが好ましい。一般にポリエステルの製造においてポリエステルの濾過に用いられるフィルターは、該濾過においてフィルターの背圧が所定値を超えたらその使用を取りやめ、該使用済みのフィルターを洗浄し再使用される。しかしながら、上記使用において発生した目詰まり等のフィルターの汚染や目開きの変化等により生じた機能劣化を該洗浄で取り除くことは困難であり、該フィルターの使用回数の増大により、該フィルターの性能低下を引き起こし、該フィルターの繰り返し使用により前記したような高清澄なポリエステルを長期に渡り安定して生産することが困難であることが発生することがある。そこで、本発明者等は、該課題の解決法について鋭意検討して、上記の特性を有したフィルターを常時、用いることで該課題が解決できて、高清澄なポリエステルを長期に渡り安定して生産することができることを見出して本発明を完成した。
上記フィルターの中間孔径は4μm以下がより好ましく、3μm以下がさらに好ましい。また、中間孔径の下限は1μm以上が好ましい。中間孔径が1μm未満では、濾過時の背圧が高くなり過ぎるので、濾過面積を大きく増やす必要があり経済的に不利になるだけでなく、偏流によるポリマーの滞留が生じてポリマーが劣化して不溶性の異物を生成するので好ましくない。フィルターの中間孔径が5μm以上ではポリエステルの清澄が低下し、前記したような高清澄なポリエステルを長期に渡り安定して生産することが困難となるので好ましくない。
なお、上記中間孔径は、JIS K 3832 のバブルポイント法に準じて以下に示す方法により測定する。
(1)あらかじめ10分以上イソプロピルアルコールに浸したフィルターエレメントを水平にし、タンク内に配管された空気管に取り付ける。
(2)タンクにイソプロピルアルコールを満たし、その液面の高さは、フィルター上端から15mmとする。
(3)フィルターエレメント内の空気圧を0から徐々に増加させ、メディアより連続して気泡が発生する時点(初期バブルポイント)より、空気流量−空気圧曲線を実測して描く。
(4)一般にある空気圧までは空気圧に対して空気流量が出にくい状態が続き、その後空気流量が急激に増加して空気圧に対する空気流量の変化率が一定となる。
(5)この両曲線の接線の交点に相当する空気圧を交点のバブルポイント圧(PE)とする。
(6)このPEからイソプロピルアルコールによるヘッド圧(15mmイソプロピルアル コール)を差し引いて、標準状態に補正をした値PESが細孔に発生する気泡とイソ プロピルアルコールの界面張力(すなわち表面張力S)と釣り合うことから導き出される次の式から中間孔径(DM)を算出する。
DM= 4Scosθ/PES(ただし、θは接触角)
上記の中間孔径を満たすフィルターとして、例えば、ステンレス、アルミニウムなどの金属繊維を積層し、燒結圧縮成形した3次元網状構造をもつ焼結繊維フィルター、焼結金属粉末フィルターが望ましが、特に限定はしない。
バブルポイント法による最大孔径が10μm以下であることが好ましく、8μm以下であるフィルターの使用がより好ましく、6μm以下であるフィルターの使用がさらに好ましい。最大孔径が1μm未満では、濾過時の背圧が高くなり過ぎるので、濾過面積を大きく増やす必要があり経済的に不利になるだけでなく、偏流によるポリマーの滞留が生じてポリマーが劣化するので好ましくない。フィルターの最大孔径が10μm以上ではポリエステルの清澄が低下し、前記したような高清澄なポリエステルを長期に渡り安定して生産することが困難となるので好ましくない。
なお、上記のバブルポイント法による最大孔径はJIS K 3832 に準じて、実施例において後述する方法により評価し求められたものである。
上記のバブルポイント法による最大孔径を満たす方法は限定されないが、使用済みのフィルターの洗浄を以下のごとくの方法で実施するのが好ましい実施態様である。
(1)フィルターハウジングの配管の出入口を閉じ、270℃以上、300℃未満で1〜5日間静置し、ハウジング内のポリエステルを熱劣化させる。ポリエステルを熱劣化させた後、劣化したポリエステルを抜き出してから、フィルターハウジングからフィルターエレメントを取り出す。
(2)フィルターハウジング内を、常圧下で、270〜290℃のトリエチレングリコールなどの溶媒で、2〜10時間、循環洗浄する。その後、ハウジング内の残留した溶媒を抜き取り、乾燥させる。
(3)フィルターエレメントを単体に分解し、フィルターエレメントに対して、3〜10倍容量のトリエチレングリコールなどの溶媒に浸漬させ、常圧下、270〜290℃で、5〜15時間加熱する。次いで、水洗後、アルカリ溶液(例えば、20質量% NaOH水溶液)で常圧下、60〜100℃で、4〜8時間加熱する。さらに水洗後、必要により20質量%の硝酸水溶液で常温で1分間フィルターエレメントを浸漬したのち、超音波洗浄を行い乾燥する。
(4)乾燥したフィルターエレメントについては1本ずつ、バブルポイント法により最大孔径を検査する。
本発明において、上記フィルターが円筒形のプリーツ型エレメントの集合体よりなることが好ましい。円筒形のプリーツ型エレメントの集合体にすることで、フィルター部におけるポリエステルの流れのデットスペースを少なくし、かつ効率的な濾過が可能となる。デットスペースを低減することにより、該ポリエステルの滞留によるポリエステルの劣化を抑制することが可能となり、フィルターの背圧上昇の抑制や得られるポリエステルの清澄度の向上に繋がる。
本発明においては、上記単位エレメントの外径が40〜60mmで、かつ内径/外径比が0.50〜0.75であることが好ましい。外径は43〜57mmがより好ましく、45〜55mmがさらに好ましい。また、内径/外径比は0.55〜0.70がより好ましく、0.60〜0.65がさらに好ましい。上記対応により単位エレメントの濾過面積、耐圧性、デッドスペースおよび成形性のバランスが取れる。ここで、外径とは上記単位エレメントのプリーツの外側に外接する外接円の直径をいい、内径とは上記単位エレメントのプリーツの内側に内接する内接円の直径をいう。
本発明においては、上記フィルターが上記単位エレメントの複数本をフィルターハウジングに収納されてなり、該フィルターハウジング容量1リットル当たりの総エレメントの濾過面積が0.05〜0.3m2であることが好ましい。フィルターハウジング容量1リットル当たりの総エレメントの濾過面積は0.1〜0.25m2がより好ましく、0.15〜0.2m2がさらに好ましい。
上記対応により、フィルターハウジング内におけるポリエステルの流れのデットスペースを低減することにより、該ポリエステルの滞留によるポリエステルの劣化を抑制することが可能となり、フィルターの背圧上昇の抑制や得られるポリエステルの清澄度の向上に繋がる。
上記要件を満たす方法は限定されないが、上記要件を満たす単位エレメントを用いることが重要である。さらに、フィルターハウジング内の単位エレメントの配置を最適化するのが好ましい。例えば、プリーツ型円筒フィルターを円筒型のフィルターハウジング内に配置する場合は、同心円状や、スパイラル状に配置することが好ましい。また、多角型のフィルターハウジングについてはハニカム状に配置することが好ましい。このような配置にすることで、単位体積当りのろ過面積を大きくすることができ、ろ過速度を上昇し、生産性を高めることができる。
本発明においては、上記フィルターハウジングに収納されてなる総エレメントに対するポリエステルの通過量が0.1〜0.3g/cm2・分であることが好ましい。該通過量は0.13〜0.27g/cm2・分がより好ましく、0.15〜0.25g/cm2・分がさらに好ましい。該通過量が0.1g/cm2・分未満では、フィルターの総面積を増大する必要があり、例えば、単位エレメントの本数を増大したり、フィルターハウジングの容量を大きくする必要がある等、経済性が低下するだけでなく、偏流によるポリマーの滞留が生じてポリマーが劣化して不溶性の異物を生成するので好ましくない。また、フィルター部でのポリエステルの滞留量が増大するので前記と同様の課題発生にも繋がる。逆に、0.3g/cm2・分を超えた場合は、フィルターの背圧が上がり、ゲル状物が通過するなど濾過効率が低下して得られるポリエステルの清澄度が低下するので好ましくない。
本発明において、フィルターの合計ろ過面積は、重合設備の大きさにも依存するが、4〜200m2であることが好ましい。該ろ過面積は、10〜150m2がより好ましく、20〜100m2がさらに好ましい。ろ過面積を上記範囲内にすることでポリエステルの通過量を上記範囲に制御することができる。ろ過面積が4m2未満の場合は、フィルターの背圧が上がり濾過効率が低下して得られるポリエステルの清澄度が低下するので好ましくない。逆に、ろ過面積が200m2を越えると、経済性が低下するので好ましくない。
本発明においては、ポリエステルを上記単位エレメントの外側から内側の方向に通過させてなることが好ましい。理由は定かでないが、逆方向、すなわち、ポリエステルの通過をエレメントの内側から外側の方向に通過させた場合は、フィルターエレメントの変形を招き易く、フィルターを洗浄して再使用する場合に、目詰まりした異物を除去し難く不適である。
本発明において、ポリエステルの製造工程で留出するグリコールを該ポリエステル製造装置に直結した蒸留塔で分留し回収グリコールとして連続的に循環再使用するのが好ましい。上記対応によりポリエステルの製造コストを大幅に低減することができる。
上記のグリコールの回収方法は限定されないが、重縮合反応槽より留出する留出分は減圧系で取り出されると共に、固形分を多く含むので、一般に重縮合反応槽より留出する留出分は湿式コンデンサーと液封タンクを用いて凝縮させて、該凝縮液を上記ポリエステル製造装置に直結した蒸留塔に供給して分留し回収グリコールとして循環再使用する方法が採用されている。本発明においても該方法で実施するのが好ましい。
しかしながら、上記方法で実施する場合は、湿式コンデンサーに付着する付着固形分による湿式コンデンサーの閉塞トラブルが起こることがあり、長期にわたり連続して生産する場合に該閉塞トラブルによりポリエステルの品質変動に繋がるのでその解決策が求められてきている。
本発明においては、上記湿式コンデンサーの入り口側に、湿式コンデンサーに付着する付着固形分を自動的に掻き取る掻き取り装置を設けて掻き取り、該掻き取った固形分を除去し配管および冷却スプレーの閉塞を防止することが好ましい実施態様である。該対応により湿式コンデンサーに付着する付着固形分による湿式コンデンサーの閉塞トラブルが回避でき長期にわたり安定生産をすることができる。また、掻き取った固形分の除去は、回収グリコールへの固形分の混入抑制にも繋がり、得られるポリエステルの清澄度の向上にも繋がる。
上記の掻き取る掻き取り装置や固形分除去の方法は限定されないが、例えば、以下の方法で実施するのが好ましい。上記掻き取り装置の一態様としては、例えば、直径が配管径より小さい掻く取り棒を有し、該掻き取り棒が配管壁に沿って、間欠的、または連続的に配管内を回転しながら往復することで配管壁に付着した付着物を除去することができる。また、掻き取った固形物を除去する方法の一態様としては、例えば、液封タンク内、もくしは、冷却スプレーの流路の一部(例えば、送液口、出液口)にストレーナーを設けることにより固形物を除去することができる。該ストレーナーとしては、好ましくは5〜100メッシュ、より好ましくは10〜50メッシュであることが望ましい。具体的には、該ストレーナーとして、5〜100メッシュの金網などが使用できる。
本発明においては、上記分留を低沸点留分の分留と高沸点留分の分留を別個の蒸留塔で実施することが好ましい。該対応により、低沸点留分の分留と高沸点留分の分留を1基の蒸留塔で分留するより効率的な分留を行なうことができ、経済性が向上する。
低沸点留分および高沸点留分除去のそれぞれの蒸留塔は前者では8〜15段、後者では20〜30段が好ましい。泡鐘カラムおよび充填カラムのどちらでもよい。還流比は蒸留塔の段数や回収グリコールの要求品質により適宜設定される。なお、ここで低沸点留分、高沸点留分の温度区分は回収するグリコール成分沸点を基準とする。例えば、エチレングリコールの場合、その沸点は198℃であるので、198℃より高い領域を高沸点流分とし、198℃より低い領域を低沸点留分とする。
本発明においては、上記低沸点留分の分留処理する蒸留塔の塔底部より取り出される残留分の一部を該蒸留塔に循環させることが好ましい。
該方法の実施により、該残留分の送液ラインのライン詰りの発生が抑制され、長期の安定生産が可能となる。ポリエステル製造工程で留出するグリコール中には、飛沫同伴等によりポリエステルのオリゴマー類等よりなるグリコールに難溶性あるいは不溶性の固形分が含まれる。該固形分は、当然のことであるが上記蒸留において、蒸留塔残留分中に含まれポリエステル製造工程に循環される。従って、ポリエステルの製造を長期に渡り連続して実施した場合に、該残留分の送液ラインにおいて、残留分中に存在する固形分あるいは送液ライン中で析出する固形分により該送液ラインの送液性の低下やライン詰まりが発生し安定運転が困難な場合があるという課題を有しておりその改善が嘱望されていたが、上記の極めて単純な方法で該課題を解決できることを見出した。上記蒸留塔液循環法の実施により上記課題が解決される理由は明確でないが、残留分の送液流量および流速の増加、液温度維持、該温度変動抑制および残留分の蒸留塔内の滞留延長による固形分の構造変化等の複数の要因の総和により固形分の析出が抑制されることにより引き起こされるものと推察される。ここで、構造変化は、化学変化と物理変化の両方の効果が加味されていると推察される。すなわち、化学変化としては、固形分中のオリゴマーのグリコリシスによる低分子量化によりグリコールへの溶解性の向上および結晶性低下等が、また、物理変化としては固形分の結晶性等の等の変化が考えられる。また、蒸留塔液循環法の実施は、ライン詰りの抑制に加えて分留精度の向上にも繋がる。
従って、残留分の液温および該温度範囲の設定、蒸留塔底部の残留分の貯留容量、循環液の戻し位置および循環量等が重要となる。該条件は限定されないが、以下の方法が好ましい。例えば、循環液の戻し位置は、蒸留塔の中段から蒸留塔底部の残留分の貯留部の最上部が好ましい。蒸留精度向上の点では蒸留塔の中段への戻しが好ましいが、温度管理の点では不利になる。両者のバランスにおいて適宜決定される。また、該循環液の蒸留塔への供給は該液を噴霧状態で供給するのが好ましい。該対応により分留効率の増進や蒸留塔トレイの飛沫同伴による汚染防止効果が付加される上に該供給液の供給量の安定化ができ、循環液の流量変動による循環ラインの詰まり発生が抑制できる。さらに、該循環ライン内での詰まり発生防止のために該循環ラインの配管内面をバフ研磨、または電解研磨処理をしたり、該配管の曲がり半径を大きくする等の対応をするのが好ましい。循環に用いるポンプはリバース形とノンリバース形のどちらでもよいが、リバース形が好ましい。貯留量は循環量に対し25〜70質量%に保つことが好ましい。該循環量は残留分の30〜75質量%が好ましい。また、循環液温度は、エチレングリコールの場合、160〜180℃が好ましく。164〜175℃がより好ましく、168〜173がさらに好ましい。該温度維持および温度制御のために循環ラインに温度調整機能を付加するのが好ましい。該温度が160℃未満の場合は、ライン詰り頻度が高くなる。逆に、180℃を超えた場合は、エネルギーロスの増加に繋がり経済的に不利となる。また、蒸留精度の低下に繋がる。
一方、エステル化反応槽より留出するグリコールは常圧系であるので、凝縮させることなく直接蒸留塔に供給するのが好ましい。また、エステル化反応槽より留出するグリコールは、上記の重縮合工程より留出したグリコールに比べて飛沫同伴等により混入するポリエステルのオリゴマー類等よりなるグリコールに難溶性あるいは不溶性の固形分量が少なく、かつその融点も低く、さらに熱による劣化が少ないので、基本的には水等の低沸点不純物を除去するのみで高沸点留分の除去は必要ではない。従って、該エステル化反応槽より留出するグリコールは上記の重縮合工程で留出するグリコールとは別の蒸留塔で低沸点分のみを分留して回収グリコールとして循環再使用するのが好ましい実施態様である。エステル化反応槽より留出するグリコールは重縮合工程より留出するグリコールとは上記のような相違点を有しているが、従来公知の低沸点留分のみを分留した残留分をそのまま回収グリコールとして循環再使用すると、品質が劣る上に、該残留分の送液ラインのライン詰りの発生が起こり長期に渡り安定して連続生産できないことが起こることがあるので好ましくない。
本発明においては、前記したごとくリン化合物の存在下で実施するのが好ましい。該方法で実施した場合は、ポリエステルの製造工程において添加されるリン化合物はその一部が留出グリコールに混入するために、該留出グリコールを再使用する場合には、回収グリコール中にリン化合物の混入を阻止あるいは制御するのが好ましい。該対応をしないと静電密着性が低下する等の問題が生ずる。
従って、本発明においては、リン化合物を添加する前の反応槽より留出する留出物とリン化合物を添加した反応槽およびそれ以降の反応槽より留出する留出物を区分して処理することによりグリコールを回収し、循環再使用するのが好ましい。
本発明においては、回収グリコール中のリン原子含有量が10ppm以下になるようにして循環再使用するのが好ましい。8ppm以下がより好ましく、5ppm以下がさらに好ましい。リン原子含有量が10ppmを超える回収グリコールを使用した場合は、ポリエステルに残存するリン原子の量の設計値からの変動により、静電密着性や触媒活性が不安定になり、品質や操業性に悪影響を及ぼす場合がある。
ポリエステルの製造工程で添加されたリン化合物は該工程において化学反応によりその構造が変化をして、例えば、グリコールのリン酸エステル等の構造になっており、留出するグリコール中に含まれるリン化合物はグリコールより高沸点化合物に変質している。従って、上記の回収グリコール中のリン原子含有量が10ppm以下になるようにするには上記蒸留において高沸点留分を分留除去するのが好ましい。
リン化合物を添加する前の反応槽より留出する留出物は、リン化合物を含まないので水を主体とした低沸点留分を分留除去し、残留分を回収グリコールとして循環再使用することが好ましい。
一方、リン化合物を添加した反応槽およびそれ以降の反応槽より留出する留出物は、水を主体とした低沸点留分とポリエステルオリゴマーやリン化合物等を含む高沸点留分を分留除去した中留分を回収グリコールとして循環再使用するのが好ましい。該対応により経済性が向上する。
すなわち、本発明においては、リン化合物を添加したエステル化反応槽およびそれ以降のエステル化反応槽より留出する留出物の関しては、前記した重縮合工程より留出した留出分の低沸点成分を分留する蒸留塔に供給するのが好ましい。一方、上記以前のエステル化反応槽より留出する留出分に関しては、別の低沸点成分を分留する蒸留塔を設置して水を主体とした低沸点留分を分留除去し、残留分を回収グリコールとして循環再使用することが好ましい。該蒸留塔においても、前記したと同様の方法で蒸留塔の塔底部より取り出される残留分の一部を該蒸留塔に循環させる方法で実施するのが好ましい。
本発明においては、エステル化反応槽からの留出物の低沸点留分の分留除去は留出物自体が有する熱により連続的に行うことが好適である。従って、インラインで行うのが好ましい。このことにより、運転経費の節減と設備の簡略化をより高めることができる。必要において、配管の加熱や熱交換により補助加熱することも排除はされない。
一方、重縮合反応槽からの留出物は、湿式コンデンサーで冷却凝縮して回収されるので、加熱して蒸留塔に供給することが必要となる。従って、高沸点留分の分留除去は回分式で実施してもよい。
さらに、本発明においては、設備費および運転経費が増大するリン化合物を含む留出分の処理量を出来るだけ軽減するために、リン化合物の添加を第2エステル化反応槽以降のできるかぎりエステル化反応工程の後の方で行うことが好ましい。
上記方法で回収されたグリコールの再使用方法は限定されない。グリコール貯槽に蓄えた後に、循環再使用するのが好ましい。
上記方法で回収されたグリコールは回収グリコールをそのままスラリー調製に用いて、スラリー調製におけるグリコールの組成の調整はスラリー調製時に新規グリコールの組成を変更させてもよいし、回収グリコールの組成を測定して、新規グリコールを用いてスラリー調製に必要な組成に予め調整しておいてスラリー調製槽に供給してもよい。該回収グリコールのグリコール組成評価方法は、ガスクロマトグラフィー分析、近赤外線吸分光法およびNMR分析法等で行うのが好ましい。
回収グリコールの使用割合は制限がなく、適宜設定して使用することができる。
本発明のポリエステル中には、他の任意の重縮合体や制電剤、消泡剤、染色性改良剤、染料、顔料、艶消剤、蛍光増白剤、安定剤、酸化防止剤、その他の添加剤が含有されていてもよい。酸化防止剤としては、芳香族アミン系、フェノール系等の酸化防止剤が使用可能であり、安定剤としては、リン酸やリン酸エステル系等のリン系、硫黄系、アミン系等の安定剤が使用可能である。
これらの添加剤は、ポリエステルの重縮合時もしくは重縮合後、あるいはポリエステル成形時の任意の段階で添加することが可能であり、どの段階が好適かは対象とするポリエステルの構造や得られるポリエステルの要求性能に応じてそれぞれ適宜選択すれば良い。
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。なお、評価法は以下の方法で実施した。
なお、以下の実施例、比較例においてTPAはテレフタル酸、EGはエチレングリコール、を意味する。また、各特性、物性値は下記の試験方法で測定した。
(1)極限粘度
JIS K 7367−5に準拠し、ポリエステルをフェノール(6重量部)と1,1,2,2−テトラクロルエタン(4重量部)の混合溶媒に溶解し、30℃で測定する。
(2)ポリエステルの溶融比抵抗(ρi)
275℃で溶融したポリエステル中に2枚の電極板を置き、120Vの電圧を印加した時の電流値(i0)を測定し、比抵抗値ρiを次式により求める。
ρi(Ω・cm)=A/l×V/ i0
ここで、A=電極面積(cm2)、l=電極間距離(cm)、V=電圧(V)である。
(3)ポリエステル中の不溶性のマグネシウム(Mg)およびアンチモン(Sb)量
ポリエステルチップ100gを水洗乾燥してから、パラクロロフェノールとテトラクロルエタンの75:25(重量比)の混合溶媒に溶解し、この溶液を、親水性ポリテトラフルオロエチレン製の平均孔径0.1μmのメンブランフィルターでろ過し、フィルターを乾燥後、フィルター上の残渣のマグネシウム分およびアンチモン分を蛍光X線で測定し、これをポリエステル1kg当りの量に換算した。
(4)ポリエステル中の粗大粒子数(粒径5μm以上の粒子数)
ポリエステルチップ(一粒)を2枚のカバーグラス間に挟んで280℃で溶融プレス(樹脂厚み:0.6mm)し、急冷したのち、100倍の位相差顕微鏡で20視野観察(合計視野面積:2.4mm2)し、最大径5μm以上の粒子の数をカウントした。2.4mm2当たりの個数で表示した。
(5)ポリエステルの静電密着性
押出機の口金部と冷却ドラムの間にタングステンワイヤー製の電極を設け、電極とキャスティングドラム間に10〜15KVの電圧を印加してキャスティングを行い、得られたキャスティング原反の表面を肉眼で観察し、ピンナーバブルの発生が起こり始めるキャスティング速度で評価する。キャスティング速度が大きいポリマー程、静電密着性が良好である。
(6)フィルターエレメントの最大孔径
予め10分以上イソプロピルアルコール(25℃での表面張力21dyne/cm)に浸漬したフィルターエレメントを水平にして、イソプロピルアルコールの入ったタンクに入れ、JIS K 3832に準拠したバブルポイント法により、最初に連続的にバブルが発生した時の圧力PA(初期バブルポイント圧)を測定した。測定した圧力PからWashburn式(D=4Scosθ/PA、D:最大孔径、S:イソプロパノールの表面張力、θ:接触角)により最大孔径を求めた。
(7)フィルターエレメントの中間孔径
予め10分以上イソプロピルアルコール(25℃での表面張力21dyne/cm)に浸漬したフィルターエレメントを水平にして、イソプロピルアルコールの入ったタンクに入れ、JIS K 3832に準拠したバブルポイント法により、フィルターエレメント内の空気圧を0から徐々に増加させ、メディアより連続して気泡が発生する時点(初期バブルポイント)より、空気流量−空気圧曲線を実測して描いた。この両曲線の接線の交点に相当する空気圧を交点のバブルポイント圧(PE)とし、このPEからイソプロピルアルコールによるヘッド圧(15mmイソプロピルアル コール)を差し引いて、標準状態に補正をした値PESが細孔に発生する気泡とイソ プロピルアルコールの界面張力(すなわち表面張力S)と釣り合うことから導き出される次の式から中間孔径(DM)を算出した。DM= 4Scosθ/PES(ただし、θは接触角)
実施例1
〔スラリー調製〕
スラリー調合槽の保持量が0.5時間量となったら、TPA2700kgと第一エステル化反応槽から留出する留出分を後述の方法で蒸留し蒸留塔最下部から回収したEG(水分3.5%含有)1080kg、新規のEG664kgの3種を原料とし、同時に20分掛けて一定速度でスラリー調合槽に仕込み、TPAのEGスラリーを調合した。保持量が0.5時間量になった時点で上記の調合を繰り返した。
[エステル化反応〕
エステル化反応装置として、攪拌装置、仕込み口、生成物取り出し口および蒸気放出口を有する4基の完全混合槽よりなるエステル化反応槽と2基の蒸留塔を使用し、第一エステル化反応槽は温度259℃、絶対圧力125kpaで、平均滞留時間4時間となるように、TPAのEGスラリーを反応槽上部から連続して受け入れ、生成オリゴマーを連続して反応槽下部から第二エステル化反応槽へ移送した。なお、第二エステル化反応槽に送られたオリゴマーの酸価は1600eq/トン、水酸基価(OH価)は1650eq/トンであった。またスラリーの受け入れ配管から三酸化アンチモンを含むEG溶液(アンチモン原子として12g/L)を51kg/Hrの速度で第一エステル化反応槽に連続供給した(生成PETに対してSb原子で146ppm相当量)。
第ニエステル化反応槽液中にTPAのEGスラリー調合に使用した回収EGと同じEGを生成PETに対する比率で8質量%だけ供給しエステル化反応を進めた。第ニエステル化反応槽は温度260℃、圧力常圧で平均滞留時間0.95時間となるように、横部受け入れ口からオリゴマーを第一エステル化反応槽より受け入れ、生成オリゴマーを反応槽下部から第三エステル化反応槽へ移送した。なお、第三エステル化反応槽に送られたオリゴマーの酸価は520eq/トン、水酸基価(OH価)は1150eq/トンであった。
第三エステル化反応槽は温度260℃、圧力常圧で平均滞留時間0.35時間となるよう、オリゴマーを反応槽下部から受け入れ、堰からのオーバーフローでオリゴマーを第四エステル化反応槽に移送した。第三エステル化反応槽の上部の添加ノズルから、酢酸マグネシウム4水和物を含むEG溶液(50g/L)と、リン酸トリメチルを含むEG溶液(65g/L)を別々に、生成PETに対してマグネシウム原子として65ppm、リン原子として20ppmのとなるように添加した。
第四エステル化反応槽は温度260℃、圧力常圧で平均滞留時間0.35時間となるよう、第三エステル化反応槽の堰からオーバーフローでオリゴマーを受け入れ,第四エステル化反応槽の下部からギアポンプでオリゴマーをとりだし、初期重縮合槽に移送した。なお、第四エステル化反応槽から取り出されたオリゴマーの酸価は350eq/トン、水酸基価(OH価)は1270eq/トンであった。
第四エステル化反応槽上部の添加ノズルから第三エステル化反応槽に添加したものと同じリン酸トリメチルを含むEG溶液(65g/L)と、酢酸ナトリウムを含むEG溶液(20g/L)を別々に、生成PETに対してリン原子として23ppm、ナトリウム原子として10ppmとなるように添加した。
〔重縮合反応〕
重縮合反応装置として攪拌装置、仕込み口、生成物取り出し口および蒸気放出口を有する、1基の縦型反応槽(初期重縮合反応槽)と2基の横型反応槽(中期重縮合反応槽、後期重縮合反応槽)を使用し水蒸気エジェクターで真空を発生させながら重縮合を行った。初期重縮合反応槽は温度275℃、絶対圧力4kpaで、平均滞留時間1.4時間となるよう第四エステル化反応槽からギアポンプで反応槽横部の受け入れ口からオリゴマーを受け入れ、反応槽下部のプレポリマー取り出し口からギアポンプでPETの生産量が90t/日となるように一定回転でプレポリマーを取り出し、中期重縮合反応槽に移送した。なお、初期重縮合反応槽から取り出されたプレポリマーの酸価は105eq/トン、極限粘度は0.18dl/gであった。
中期重縮合反応槽は温度277℃、絶対圧力0.5kpaで平均滞留時間0.7時間となるよう初期重縮合反応槽からギアポンプで反応槽底部の受け入れ口からプレポリマーを受け入れ、受け入れ口とは反対方向の反応槽底部のプレポリマー取り出し口からギアポンプで取り出し、後期重縮合反応槽に移送した。なお、中期重縮合反応槽から取り出されたプレポリマーの酸価は31eq/トン、極限粘度は0.40dl/gであった。
後期重縮合反応槽は温度282℃、平均滞留時間0.7時間となるよう中期重縮合反応槽からギアポンプで反応槽底部から受け入れ、受け入れ口とは反対方向の反応槽底部のポリマー取り出し口からギアポンプで取り出し、中間孔径3μmの焼結金属繊維フィルターで濾過を行い、ダイからポリマーをストランド状に押し出した後、中間孔径5μmの焼結金属繊維フィルターで濾過し塩素滅菌した水で冷却し、カッターで3.5mm長に切断してから金網で水切りを行い、中間ホッパー経由した2段の空送設備で空送してサイロに投入した。後期重縮合反応槽の圧力は取り出されるポリマーの極限粘度が0.620dl/gとなるように制御したので0.05〜0.25kpaであった。またポリマーの酸価は15eq/トン、溶融比抵抗は0.24×108Ω・cm、切断後のチップの大きさは100粒で3.2gであった。なお。チップの空送に使用する空気は全て、0.3μmのヘパフィルターで濾過したものを用いた。
〔ポリマー濾過〕
なお、ポリマーの濾過に用いたフィルターは、ハウジング容量が300Lであり、その中にプリーツ(襞)数(山数)が1本当たり38個で、プリーツの外接円の直径が50mm、長さが87cmの円筒状のフィルターエレメント(内径/外径比0.6)について、バブルポイント法による最大孔径が7μm以下のフィルターエレメントを選別し、87本をセットした。この時の合計濾過面積は44m2であり、濾過速度は1分当たり0.14g/cm2であった。また、フィルターハウジング容量1リットル当たりの総エレメントの濾過面積は0.147m2であった。また、ポリエステルは上記単位エレメントの外側から内側の方向に通過させた。
〔フィルターエレメントの洗浄〕
上記フィルターエレメントは使用済みのものを下記方法で洗浄して用いた。
(1)フィルターハウジングの配管の出入口を閉じ、280℃で2日間静置し、ハウジング内のポリエステルを熱劣化させる。ポリエステルを熱劣化させた後、劣化したポリエステルを抜き出してから、フィルターハウジングからフィルターエレメントを取り出した。
(2)フィルターハウジング内を、常圧下で、285℃のトリエチレングリコーで、4時間、循環洗浄した。その後、ハウジング内を洗浄した後、トリエチレングリコールを抜き取り、乾燥させた。
(3)フィルターエレメントを単体に分解し、フィルターエレメントに対して、5倍容量のトリエチレングリコールに浸漬させる。常圧下、280℃で、8時間加熱した。次いで、水洗後、20質量% NaOH水溶液で常圧下、90℃で、2時間加熱する。さらに、水洗後、超音波洗浄を行った後、乾燥した。
(4)乾燥したフィルターエレメントについては1本ずつ、バブルポイント法により最大孔径を検査した。
〔留出EGの回収〕
第一エステル化反応槽から蒸発するEGと水の混合蒸気は12段の蒸留塔(第一蒸留塔塔頂部、126KPa制御)下部に供給し、上段から5番目の段の蒸気温度が108℃となるように、留出する水を塔頂に還流させながら蒸留を行った。塔底の含水EGはオリゴマーによる配管閉塞防止のためポンプを使用し循環を行った。
第二、第三、第四エステル化反応槽から蒸発した蒸気は8段の蒸留塔(第二蒸留塔塔頂部、大気開放)下部に供給し、上段から5番目の蒸気温度が104℃となるように留出する水を塔頂に還流させながら蒸留を行った。なお塔底部の含水EGは第一蒸留塔と同様に、オリゴマーによる配管閉塞防止のためポンプを使用して、蒸留塔下部に循環を行った。更にオリゴマーによる配管の閉塞防止を目的として、エステル化工程の全ての含水EGが通過する配管を、2重管とし外側にはゲージ圧力1MPaの飽和水蒸気で加熱し、含水EGが通過する配管径は50A(JIS規格)とし、配管中の含水EGの流速は100m/分とした。なお第二蒸留塔底部の含水EGは、系内の別の蒸留塔(第三蒸留塔)に送り、高沸点部分を除去してから第一蒸留塔下部に移送し原料として再利用した。
また、3基の重縮合反応槽から副生するEG蒸気はそれぞれ個別に三段の冷却EGスプレー設備を備えた湿式コンデンサーと液封タンクを用いて回収した。湿式コンデンサーの直径は80cmで、スプレー1段当たりの冷EGの量は8000L/Hrであり、反応缶からの含EG蒸気が湿式コンデンサーに入る入り口には、付着固形分を自動的に掻き取る掻き取り機を設け、3時間に一回3分間の掻き取りを自動で行った。また掻き取った固形分は液封タンク内の20メッシュの金網、および冷却EGスプレー用のEG送液ポンプ前のストレーナー(20メッシュ)で除去し、配管及びスプレーの閉塞を防止した。
後期重縮合反応槽に接続した液封タンクには、未使用のEGを200kg/Hrで連続的に供給し、液封タンクのオーバーフローEGは中期重縮合反応槽に接続した液封タンクに供給し、中期重縮合反応槽に接続の液封タンクのオーバーフローEGは初期重縮合反応槽に接続の液封タンクに供給した。初期重縮合反応槽に接続した液封タンクからのオーバーフローEGは熱交換機で170℃に加熱後、第二蒸留塔下部に送液した。
結果を表1に示す。本実施例においては、長期に渡り安定して連続運転ができ、かつ該連続運転をしても得られるポリエステルの清澄度の悪化は僅かである。また、ポリマーフィルターの背圧上昇も小さい。なお、ポリエステルの清澄度は、初期値としてポリエステルの製造を開始後3日経過時に得られたポリエステルについて評価し、さらに1ヶ月連続運転した時点での清澄度を評価したものである。以下の実施例および比較例についても同様の取り扱いをした。
実施例2
実施例1の方法において、液封タンクのオーバーフローEG、および第二、第三、第四エステル反応槽からの留分EGの回収再使用を行わなかった以外は、実施例1と同様の方法でポリエステルを得た。結果を表1に示す。本実施例においては、グリコール再使用による経済性は低下するものの、清澄度の高いポリエステルの連続製造は可能であった。
実施例3
実施例2の方法においてさらに第一エステル反応槽からの留分EGの回収再使用を行わなかった以外は、実施例2と同様の方法でポリエステルを得た。結果を表1に示す。本実施例においては、グリコール再使用による経済性は低下するものの、清澄度の高いポリエステルの連続製造は可能であった。
実施例4
実施例1の方法において、ポリエステルをフィルターの単位エレメントの内側から外側の方向に通過させるように変更する以外は、実施例1と同様の方法でポリエステルを得た。結果を表1に示す。本実施例においては、1ヶ月の連続運転は可能であったが、フィルターエレメントが変形して、フィルターエレメントの再使用ができなかった。
比較例1
実施例1の方法において、バブルポイント法による最大孔径が15μmのフィルターエレメントを選別使用する以外は、実施例1と同様にしてポリエステルを得た。結果を表1に示す。本比較例においては、運転初期のポリエステルの清澄度は高いが、長期に渡る連続運転により得られるポリエステルの清澄度が悪化した。
比較例2
実施例1の方法において、中間孔径10μmの焼結金属繊維フィルターで、かつバブルポイント法による最大孔径が20μmのフィルターに替える以外は、実施例1と同様にしてポリエステルを得た。結果を表1に示す。本比較例においては、運転初期よりポリエステルの清澄度は低く、かつ、長期に渡る連続運転により得られるポリエステルの清澄度がさらに悪化した。
比較例3
実施例1の方法において、ろ過面積を400m2とし、それに併せてフィルターハウジング容量などの条件を表1のように変更した以外は、実施例1と同様にしてポリエステルを得た。結果を表1に示す。本比較例においては、ポリエステルの熱劣化が進み、ポリエステルの製造開始後3日経過時には茶色のポリエステルの劣化物が生成され、長期の連続運転ができなかった。
比較例4
実施例1の方法において、フィルターエレメントの外径を75mmとし、それに併せて他の条件を表1のように変更した以外は、実施例1と同様にしてポリエステルを得た。結果を表1に示す。本比較例においては、ポリエステルの連続開始後10日以降では、背圧の急激な上昇が見られ、フィルターを取り出して観察すると、フィルターエレメントのプリーツの襞形状が変形し、長期の連続運転ができなかった。
比較例5
実施例1の方法において、フィルターエレメントの内径/外径比を0.20とし、それに併せて他の条件を表1のように変更した以外は、実施例1と同様にしてポリエステルを得た。結果を表1に示す。本比較例においては、ポリエステルの連続開始後2日後に比較例4と同じ現象が発生し、長期の連続運転ができなかった。
比較例6
実施例1の方法において、フィルターエレメントの内径/外径比が0.80とし、それに併せて他の条件を表1のように変更した以外は、実施例1と同様にしてポリエステルを得た。結果を表1に示す。本比較例においては、ポリエステルの生産能力を40%減少する必要が生じた。
比較例7
実施例1の方法において、湿式コンデンサーの反応缶からの含EG蒸気が湿式コンデンサーに入る入り口の付着固形分を自動的に掻き取る掻き取り機を設けることなく実施した。本比較例においては、ポリエステルの連続開始後3日以降ではコンデンサー入り口に固形分が付着し、配管が閉塞するため、真空度が上がらず、極限粘度が0.62dl/gがポリエステルを連続製造することができなかった。
比較例8
実施例1の方法において、湿式コンデンサーの凝縮液の金網およびストレーナーによる固形分濾過を行なうことなく実施した。結果を表1に示す。本比較例においては、湿式コンデンサーの冷却EGスプレーの配管が閉塞し、ポリエステルを連続製造することができなかった。
比較例9
実施例1の方法において、第一蒸留塔および第二蒸留塔に設けた蒸留塔の底部より抜き出した残留分の蒸留塔への循環ラインを取り外し、該循環を取りやめて蒸留塔底部の抜き出し液(残留液)の全量をそれぞれの供給先に送液するように変更した。本比較例で実施した場合は、ポリエステルの連続開始後10日以降では、蒸留塔底部から抜き出した残留分の送液ラインにおいて、固形分析出によるライン詰りが起こり、ポリエステルを連続製造することができなかった。