ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等に代表されるポリエステルは、機械的特性および化学的特性に優れており、それぞれのポリエステルの特性に応じて、例えば衣料用や産業資材用の繊維、包装用、磁気テープ用、光学用などのフィルムやシート、中空成形品であるボトル、電気・電子部品のケーシング、その他エンジニアリングプラスチック成形品等の広範な分野において使用されている。
近年、市場多様化により、上記ポリエステルに他のグリコール成分を共重合した共重合ポリエステルが注目されている。特に、ネオペンチルグリコールや1,4−シクロヘキサンジメタノールの共重合体は非晶質でガラス転移点が高いという特徴を有しており、フィルム分野等で広く使用されており、これらの共重合ポリエステルの製造方法が開示されている(例えば、特許文献1〜14等参照)。
特開2004−67733号公報
特開2004−83620号公報
特開2004−123984号公報
特開2004−137292号公報
特開2003−96169号公報
特開2003−119267号公報
特開2003−221435号公報
特開2003−292592号公報
特開2004−35657号公報
特開2004−35658号公報
特開2004−35659号公報
特開2004−35660号公報
特開2004−43733号公報
特開2004−256819号公報
上記共重合ポリエステルの用途の一つにフィルムやシート分野がある。該分野においては、フィルムやシートの厚みの均一性が極めて重要な特性であり、この特性をいかにして確保するか、及び、生産性の面では、生産性がキャスティング速度に直接依存するため、生産性の向上のためにキャスティング速度をいかにして高めるかが重要な課題となる。
この課題を解決するためには、T−ダイスから溶融押出したシート状物を回転冷却ドラム面で急冷する際に、該シート状物とドラム表面との密着性を高めることが必要となる。このシート状物とドラム表面の密着性を高める方法として、T−ダイスと回転冷却ドラムの間にワイヤー状の電極を設けて高電圧を印加し、未固化のシート状物面に静電気を析出させて該シートを冷却体表面に密着させながら急冷する方法(静電密着キャスト法)が有効である。
静電密着キャスト法を効果的に行うためには、シート状物とドラム表面との静電密着性を高めることが必要であり、そのためには、シート状物表面にいかに多くの電荷量を析出させるかが重要である。電荷量を多くするためには、ポリエステルを改質して比抵抗を低くすることが有効であり、従来から多くの検討がなされている。例えば、共重合ポリエステルに関しても上記の特許文献1、5、6、8、9、10、11および14等において該静電密着性を高める方法が開示されている。
一方、これらの共重合ポリエステルは、反応性を高めるために酸成分に対してグリコール成分を過剰に用いて、エステル化反応あるいはエステル交換反応により両末端にグリコールが縮合されたオリゴマーとして、これを高温、減圧下でエステル交換による脱グリコール反応、いわゆる重縮合反応により高分子量の共重合ポリエステルを得る2段階反応の方法がとられている。また、近年、製造コストが安いことより、芳香族ジカルボン酸とグリコールを原料とする、いわゆる直接エステル化法が主流になってきている。そして、それぞれ別の反応槽が用いられており、エステル化反応および重縮合反応ともに均一に段階的に反応を進行させるために、これらの反応装置はそれぞれ複数の反応槽を有している。
直接エステル化法においては、ポリエステルの製造は芳香族ジカルボン酸とグリコールをスラリー調合槽でスラリーを調合しエステル化反応槽に供給されエステル化反応が行われる。芳香族ジカルボン酸が固体でありグリコールに不溶であることより、これらの原料はスラリー状でエステル化反応槽に供給されるが、このスラリーの流動性を確保するため、理論必要量以上のグリコールを原料として供給し、過剰部分を回収する方法が一般的である。また、エステル化されたオリゴマーは重縮合反応槽で脱グリコール反応によりポリエステルが生成される。これらの過剰使用のグリコールや重縮合反応により生ずるグリコールは回収され再使用する必要がある。これらのグリコールの回収、再使用の方法はポリエステルの製造コストに大きく影響を及ぼすので、各種方法が開示されている。
エステル化反応槽の留出液の低沸点留分を精留除去しスラリー調合槽に循環し再使用する方法(特許文献15参照)、エステル化反応槽から排出されるエチレングリコールの低沸点留分を精留除去しエチレングリコール貯槽に供給するとともに、この一部を重縮合反応槽に設けられた湿式コンデンサーの循環液として用い凝縮液をエチレングリコール貯槽に供給し、該エチレングリコール貯槽に滞留したエチレングリコールをスラリー調合用に再使用する方法(特許文献16参照)、重縮合反応槽より発生する留出液を湿式コンデンサーにて凝縮し、エステル化反応槽に設けられた蒸留塔へ送り低沸点留分を除いた後、スラリー調合槽に戻して再使用する方法(特許文献17参照)、重縮合反応槽で発生する留出液を連続的に単蒸留し、この連続単蒸留缶の底部抜き出し液を回分式単蒸留缶に送液して単蒸留を行い、初留部分を除いた蒸留液を重縮合反応ガスの凝縮用冷媒液の一部と使用する方法(特許文献18参照)、エステル化反応槽留出液および重縮合反応槽留出液の一部は低沸点留分を精留除去し、重縮合反応槽留出液の残りの一部は低沸点留分と高沸点留分を除去し、スラリー調合に循環し再使用する方法(特許文献19参照)、エステル化反応2段階目の反応槽から排出される留出液を蒸留精製せずに直接、原料の一部、または全量として再使用する方法(特許文献20参照)、重縮合反応槽からの留出液をフラッシュ蒸留により低沸点留分を精留除去して原料グリコールの一部として再使用する方法(特許文献21参照)が開示されている。
特開昭53−126096号公報
特開昭55−56120号公報
特開昭60−163918号公報
特開平8−325363号公報
特許第3424755号公報
特開平10−279677号公報
WO01/083582号公報
上記特許文献において開示されている方法はいずれもがグリコール成分が単一成分よりなるホモポリエステルに関する技術であり共重合ポリエステルの製造方法におけるグリコールの回収技術は見当たらない。
また、ポリエステルの製造においては、エステル化やエステル交換反応触媒に用いられる金属化合物の封鎖、ポリエステル製造工程で例えば金属化合物との反応により微粒子を析出させるいわゆる内部粒子法あるいはポリエステルに静電密着性を付与するために添加する金属化合物の封鎖や静電密着特性の向上のため等にリン化合物が添加される場合が多い。これらのリン化合物はその一部が留出グリコールに混入する。該留出グリコールに混入したリン化合物は再使用の際に上記反応に影響するのでその混入を阻止あるいは制御する必要があるが、上記の特許文献において開示された技術では、循環再使用されるグリコールへのリン化合物の混入に関しては全く配慮がなされていない。
例えば、特定構造のリン化合物を用いた内部粒子法によるポリエチレンテレフタレートの製造方法おいて、リン化合物の一部がエチレングリコールと共に系外に留出し、このエチレングリコールを再使用すると、エステル交換反応や析出粒子の粒子径や粒子量が変化しフィルムとした時、望みの表面特性を与えるポリエステルが再現よく得られないという課題が知られている。該課題を解決する方法として、ポリエステルの製造工程より留出したエチレングリコールをアルカリ化合物の存在下で加熱処理後蒸留したエチレングリコールを使用する方法(特許文献22)、留出エチレングリコールを同容量以上の水を加えて加熱して、混入したリン化合物を水と共に留去させて得たエチレングリコールを使用する方法(特許文献23参照)および留出エチレングリコールに対して0.2〜10wt%の水を添加し加熱処理した後、蒸留して回収したエチレングリコールを使用する方法(特許文献24参照)が開示されている。
特開昭57−14619号公報
特開昭57−14620号公報
特開昭59−96124号公報
上記方法はリン化合物の回収エチレングリコールに混入を阻止する方法としては有効な方法であるが、経済性の点で不利であるという問題を有する。従って、リン化合物の存在下でポリエステルを連続的に製造する方法において、ポリエステルの製造工程で留出されるグリコールを経済性の高い方法で留出グリコールに混入するリン化合物を除去し循環再使用できる方法の確立が嘱望されている。
近年、上記共重合ポリエステルに関しても、その使用用途や使用量の拡大に伴い製造コストの低減に対する要求が強くなってきている。該要求を満たす一つの方法として過剰使用のグリコールや重縮合反応により生ずるグリコールを回収して循環再使用する方法がある。このような背景において、得られる共重合ポリエステルの品質低下することなく経済性の高い方法でグリコールを回収し、循環再使用できる共重合ポリエステルの製造方法の確立が強く嘱望されている。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の共重合ポリエステルは、芳香族ジカルボン酸と2種以上のグリコールとよりなる共重合ポリエステルである。
本発明で用いられる芳香族ジカルボン酸としては、例えばオルソフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、5−(アルカリ金属)スルホイソフタル酸、ジフェニン酸、1,3−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、4、4’−ビフェニルジカルボン酸、4、4’−ビフェニルスルホンジカルボン酸、4、4’−ビフェニルエーテルジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタン−p,p’−ジカルボン酸、パモイン酸、アントラセンジカルボン酸などが挙げられる。
また、全ジカルボン酸に対して30モル%以下であればジカルボン酸としては、蓚酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、テトラデカンジカルボン酸、ヘキサデカンジカルボン酸、1,3−シクロブタンジカルボン酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、2,5―ノルボルナンジカルボン酸、ダイマー酸などに例示される飽和脂肪族ジカルボン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸などに例示される不飽和脂肪族ジカルボン酸を併用してもよい。
また、本発明の共重合ポリエステルには、例えばトリメリット酸、ピロメリット酸、グリセロール等の三官能以上の多官能化合物あるいは安息香酸、イソシアン酸フェニル等の単官能化合物等の化合物を全ジカルボン酸に対して5モル%以下の範囲で用いることができる。
また、ヒドロキシカルボン酸を併用しても良い。該ヒドロキシカルボン酸としては、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、ヒドロキシ酢酸、3―ヒドロキシ酪酸、p−ヒドロキシ安息香酸、p―(2―ヒドロキシエトキシ)安息香酸、4―ヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸が挙げられる。
上記芳香族ジカルボン酸の中でテレフタル酸および2,6−ナフタレンジカルボン酸の使用が好ましい。
グリコールとしては、エチレングリコール(EG)、1,3−プロパンジオールまたは1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール(NPG)、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、プロピレングリコール等より選ばれた2種以上のグリコールよりなる。
上記グリコール以外に、全グリコールの5モル%以下であれば多価アルコールを併用しても良い。該多価アルコールとしては、トリメチロールメタン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、グリセロール、ヘキサントリオールなどが挙げられる。
また、環状エステルの併用も許容される。該環状エステルとしては、ε−カプロラクトン、β−プロピオラクトン、β−メチル−β−プロピオラクトン、δ−バレロラクトン、グリコリド、ラクチドなどが挙げられる。
上記グリコールの中で、主グリコール成分をEGとして、該EGとNPGおよび/または1,4−シクロヘキサンジメタノールとの組み合わせが好ましい。当然であるが、反応の副生物であるジエチレングリコールの含有は許容されるし、上記組成に対して積極的にジエチレングリコールを添加した方がよい場合もある。
上記組成における組成比は限定されない。共重合ポリエステルの使用目的に応じて適宜選定すればよいが、EGが50モル%以上であることが好ましい。60モル%以上がより好ましい。EGが50モル%未満では重合度が上がりにくくなり、所定固有粘度に到達するまでに著しく時間を要する。そのために、その間の熱履歴により色調が悪化するので好ましくない。
本発明の共重合ポリエステルの製造は重縮合触媒の存在下で行われる。
本発明において使用される重縮合触媒は、公知の反応触媒であり、例えばアンチモン化合物、チタン化合物、スズ化合物、ゲルマニウム化合物およびアルミニウム化合物等を用いることができる。
アンチモン化合物としては、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、酢酸アンチモン、アンチモングリコキサイドなどが好適であり、特に好ましくは三酸化アンチモンである。また、ゲルマニウム化合物としては、二酸化ゲルマニウム、四塩化ゲルマニウムなどが好適であり、特に好ましくは二酸化ゲルマニウムである。二酸化ゲルマニウムとしては、結晶性のものと非晶性のものもいずれもが使用できる。
チタン化合物としては、テトラ−n−プロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、テトライソブチルチタネート、テトラ−tert−ブチルチタネート、テトラシクロヘキシルチタネート、テトラフェニルチタネート、テトラベンジルチタネート、蓚酸チタン酸リチウム、蓚酸チタン酸カリウム、蓚酸チタン酸アンモニウム、酸化チタン、チタンとケイ素やジルコニウムやアルカリ金属やアルカリ土類金属などとの複合酸化物、チタンのオルトエステルまたは縮合オルトエステル、チタンのオルトエステルまたは縮合オルトエステルとヒドロキシカルボン酸からなる反応生成物、チタンのオルトエステルまたは縮合オルトエステルとヒドロキシカルボン酸とリン化合物からなる反応生成物、チタンのオルトエステルまたは縮合オルトエステルと少なくとも2個のヒドロキシル基を有する多価アルコール、2−ヒドロキシカルボン酸および塩基からなる反応生成物などが挙げられ、このうちチタンとケイ素の複合酸化物、チタンとマグネシウムの複合酸化物、チタンのオルトエステルまたは縮合オルトエステルとヒドロキシカルボン酸とリン化合物からなる反応生成物が好ましい。
またスズ化合物としては、ジブチルスズオキサイド、メチルフェニルスズオキサイド、テトラエチルスズ、ヘキサエチルジスズオキサイド、トリエチルスズハイドロオキサイド、モノブチルヒドロキシスズオキサイド、トリイソブチルスズアセテート、ジフェニルスズジラウレート、モノブチルスズトリクロライド、ジブチルスズサルファイド、ジブチルヒドロキシスズオキサイド、メチルスタンノン酸、エチルスタンノン酸などが挙げられ、特にモノブチルヒドロキシスズオキサイドの使用が好ましい。
また、アルミニウム化合物としては、ギ酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、塩基性酢酸アルミニウム、プロピオン酸アルミニウム、シュウ酸アルミニウム、アクリル酸アルミニウム、ラウリン酸アルミニウム、ステアリン酸アルミニウム、安息香酸アルミニウム、トリクロロ酢酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、クエン酸アルミニウム、酒石酸アルミニウム、サリチル酸アルミニウムなどのカルボン酸塩、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、炭酸アルミニウム、リン酸アルミニウム、ホスホン酸アルミニウムなどの無機酸塩が挙げられる。これらのうちカルボン酸塩が特に好ましい。
このような触媒を供給する位置や供給方法については、特に限定されるものではなく、製造条件に対応して適宜決定すればよい。
本発明では、リン化合物の使用が必須である。リン化合物としては、特に限定はされないが、リン酸ならびにトリメチルリン酸、トリエチルリン酸、フェニルリン酸、トリフェニルリン酸等のリン酸エステル、亜リン酸ならびにトリメチルホスファイト、トリエチルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)4,4’−ビフェニレンジホスファイト等の亜リン酸エステルなどが挙げられる。
本発明においては、アルカリ土類金属化合物の使用が好ましい。さらに、アルカリ金属化合物の併用がより好ましい。
アルカリ金属としては、Li、Na、K、Rb、Csであり、特に好ましくはNaまたはK化合物の使用である。アルカリ土類金属としては、Be、Mg、Ca、Sr、Baから選択される少なくとも1種であることが好ましく、特に高度な静電密着性を付与するためには、Mg化合物またはCa化合物を使用することが好ましい。
上記のアルカリ金属やアルカリ土類金属などの金属化合物としては、例えば、これら金属のギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、蓚酸などの飽和脂肪族カルボン酸塩、アクリル酸、メタクリル酸などの不飽和脂肪族カルボン酸塩、安息香酸などの芳香族カルボン酸塩、トリクロロ酢酸などのハロゲン含有カルボン酸塩、乳酸、クエン酸、サリチル酸などのヒドロキシカルボン酸塩、炭酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホスホン酸、炭酸水素、リン酸水素、硫化水素、亜硫酸、チオ硫酸、塩酸、臭化水素酸、塩素酸、臭素酸などの無機酸塩、1−プロパンスルホン酸、1−ペンタンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸などの有機スルホン酸塩、ラウリル硫酸などの有機硫酸塩、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、iso−プロポキシ、n−ブトキシ、tert−ブトキシなどのアルコキサイド、アセチルアセトネートなどとのキレート化合物、水素化物、酸化物、水酸化物などが挙げられる。
これらのアルカリ金属、アルカリ土類金属などの化合物のうち、水酸化物等のアルカリ性の強いものを用いる場合、これらはEG等のジオールもしくはアルコール等の有機溶媒に溶解しにくい傾向があるため、水溶液で重合系に添加しなければならず重合工程上問題となる場合が有る。さらに、水酸化物等のアルカリ性の強いものを用いた場合、重合時に共重合ポリエステルが加水分解等の副反応を受け易くなるとともに、重合した共重合ポリエステルが着色し易くなる傾向があり、耐加水分解性も低下する傾向がある。
従って、本発明で好適に使用することのできるアルカリ金属化合物あるいはアルカリ土類金属化合物としては、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属の飽和脂肪族カルボン酸塩、不飽和脂肪族カルボン酸塩、芳香族カルボン塩、ハロゲン含有カルボン酸塩、ヒドロキシカルボン酸塩、硫酸、硝酸、リン酸、ホスホン酸、リン酸水素、硫化水素、亜硫酸、チオ硫酸、塩酸、臭化水素酸、塩素酸、臭素酸から選ばれる無機酸塩、有機スルホン酸塩、有機硫酸塩、キレート化合物、および酸化物である。これらの中でもさらに、取り扱い易さや入手のし易さ等の観点から、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属などの金属の飽和脂肪族カルボン酸塩、特に酢酸塩の使用が好ましい。
上記のアルカリ土類金属化合物、アルカリ金属化合物およびリン化合物を添加することにより、共重合ポリエステルの静電密着性を向上させることができる。共重合ポリエステルの静電密着性とは、例えば、共重合ポリエステルをフィルムやシートに溶融押出し法で成型する場合のキャスティング時に必要な特性である。すなわち、押出口金から溶融押出したフィルム状物を回転冷却ドラムで急冷する際、該フィルム状物の表面に静電荷を析出させ、フィルム状物を冷却ドラムの表面に静電力で密着させる静電密着法が知られている。しかし、この方法においては、生産能力を高めるために冷却ドラムの回転速度を上げるとフィルム状物と冷却ドラムとの密着力が減少し、フィルム状物と冷却ドラムとの間に気体を噛み込むようになるピンナーバブルの発生がおこり、厚み斑や外観不良発生の原因となる。静電密着性とは、この静電密着法において、大きな静電密着力が付与でき、高速でキャスティングしても厚み精度の高い製膜製品が得られる共重合ポリエステル樹脂の特性である。
近年共重合ポリエステルフィルムやシートに対する品質に対する要求特性はますます厳しくなり、それに伴い厚み精度を向上させることが重要な要件となってきており、共重合ポリエステルの重要な特性の一つである。
この静電密着性は共重合ポリエステルの溶融比抵抗と相関しており、共重合ポリエステルの溶融比抵抗により静電密着キャスト法においてピンナーバブルの発生を抑制しながらキャストできる最高のキャスティング速度、すなわち静電密着性が変化する。溶融比抵抗が低い共重合ポリエステルほど、高速でキャスティングすることが可能となり、フィルム生産性の面から非常に重要である。
共重合ポリエステルの溶融比抵抗は、0.5×108Ω・cm以下であることが好ましい。溶融比抵抗が0.5×108Ω・cmより高ければ、静電密着性が悪化し、キャスティング速度が遅くなり生産性が悪くなる。好ましくは、0.4×108Ω・cm以下、さらに好ましくは、0.3×108Ω・である。一方、耐熱性や着色の点から、下限値は0.05×108Ω・cmとすることが好ましく、特に好ましくは0.09×108Ω・cmである。
共重合ポリエステルに溶融比抵抗に付与する方法としては、上記のアルカリ土類金属化合物、アルカリ金属化合物およびリン化合物を共重合ポリエステルに添加し、これらの原子の原子数比を特定範囲にすることが好ましい実施態様である。この場合、リン原子の量により共重合ポリエステルの溶融比抵抗が大きく変化するので厳密な制御が必要である。
アルカリ土類金属化合物は、アルカリ土類金属原子の残存量として、共重合ポリエステルに対し3〜300ppmとなるように反応系に添加することが好ましい。アルカリ土類金属原子の残存量が3ppm未満では、共重合ポリエステルの溶融比抵抗が大きくなり、静電密着性が悪化しやすくなる。一方、300ppmを超えた場合は、共重合ポリエステルの熱安定性が低下しやすくなり、共重合ポリエステルの着色が増大しやすくなる。
共重合ポリエステル中のアルカリ土類金属原子の残存量は、静電密着性の点から、下限値を5ppmに制御することがより好ましく、さらに好ましくは10ppm、特に好ましくは15ppmに制御する。一方、熱安定性の点から、上限値を160ppmに制御することがより好ましく、さらに好ましくは120ppm、特に好ましくは100ppmに制御する。
また、アルカリ金属化合物は、アルカリ金属原子の残存量として、共重合ポリエステルに対し0.5〜20ppmとなるように反応系に添加することが好ましい。アルカリ金属原子の残存量が0.5ppm未満では、共重合ポリエステルの溶融比抵抗が大きくなり、静電密着性が悪化しやすくなる。さらに、副反応であるグリコール成分同士の縮合反応が増加し、例えば、グリコール成分としてEGを用いた場合は、ジエチレングリコールの副生が増大する。該副反応の増大により、共重合ポリエステルの融点低下や熱酸化安定性等の品質が低下しやすくなる。一方、50ppmを超えた場合は、共重合ポリエステルの溶融比抵抗の低下やグリコール成分同士の縮合反応の抑制効果が頭打ちになり、かつ共重合ポリエステルの着色が増大により色調の低下が起こりやすくなる。
共重合ポリエステル中のアルカリ金属原子の残存量は、静電密着性、副生成物による融点低下や熱酸化安定性の点から、下限値を1ppmに制御することがより好ましく、さらに好ましくは2ppm、特に好ましくは3ppmに制御する。一方、色調の点から、上限値を40ppmに制御することがより好ましく、さらに好ましくは30ppm、特に好ましくは20ppmに制御する。
また、リン化合物は、共重合ポリエステル中の残存量として、リン原子/アルカリ土類金属原子の原子数比で0.1〜5.0の範囲となるように、添加量を制御することが好ましい。
また、リン化合物は、共重合ポリエステル中の残存量として、リン原子/アルカリ土類金属原子の原子数比で0.1〜5.0の範囲となるように、添加量を制御することが好ましい。
リン原子/アルカリ土類金属原子(残存原子数比)が、0.10未満では共重合ポリエステルの熱安定性が低下しやすくなる。一方、リン原子/アルカリ土類金属原子(原子数比)が5.0を超えた場合は、共重合ポリエステルの溶融比抵抗が大きくなり、静電密着性が悪化しやすくなる。リン原子/アルカリ土類金属原子(残存原子数比)は、熱安定性の点から、下限値を0.15に制御することがより好ましく、特に好ましくは0.20に制御する。一方、静電密着性の点から、上限値を4.0に制御することがより好ましく、特に好ましくは3.0に制御する。
また、本発明においては、共重合ポリエステルの色調を改善するために、コバルト化合物を含有させても良い。コバルト化合物をリン化合物と併用する場合には、コバルト化合物とリン化合物を等モル含有させることが好ましい。
前記コバルト化合物としては、酢酸コバルト、塩化コバルト、安息香酸コバルト、クロム酸コバルト等が挙げられる。なかでも、酢酸コバルトが好ましい。コバルト化合物は、生成する共重合ポリエステルに対して通常50ppm以下となるように含有させるが、使用する重合触媒の種類に応じて適宜変更することが好ましい。
また、本発明の共重合ポリエステルの製造時に、本発明の目的を妨げない限り、酸化チタン、シリカ、炭酸カルシウムなどの不活性粒子、顔料、耐熱・酸化安定剤、離型剤、UV吸収剤、着色剤などを必要に応じて添加してもよい。
本発明における共重合ポリエステルの製造方法は連続式重縮合法であることが重要である。連続式重縮合法は回分式重縮合法に比して品質の均一性や経済性において有利である。該方法におけるエステル化工程および重縮合工程の反応槽の個数やサイズは限定なく適宜選択できる。また、各工程の製造条件は、前記した重縮合触媒や静電密着性向上のための添加剤の種類や量、反応槽の個数やサイズ等により適宜選択できる。
代表例として、芳香族ジカルボン酸としてテレフタル酸をグリコールとしてEGとNPGを用いた場合の製造法を以下に例示する。
テレフタル酸1モルに対して1.02〜1.5モル、好ましくは1.03〜1.4モルのEGとNPGを含むスラリ−を調製し、これをエステル化反応工程に連続的に供給する。
エステル化反応は、複数のエステル化反応槽を直列に連結した多段式装置を用いて、反応によって生成した水を精留塔で系外に除去しながら実施する。第1段のエステル化反応の温度は240〜270℃、好ましくは245〜265℃、圧力は圧常圧〜290KPa、好ましくは20〜190KPaである。最終段階のエステル化反応の温度は通常250〜290℃好ましくは255〜275℃であり、圧力は通常は第1段目と同じ範囲が好ましい。3段階以上で実施する場合には、中間段階のエステル化反応の反応条件は、上記範囲の間で適宜設定するのが好ましい。最終的にはエステル化反応率は90%以上、好ましくは93%以上に達することが望ましい。
引き続き重縮合反応槽に移送し重縮合を行う。該重縮合工程の反応槽数も限定されない。一般には初期重縮合、中期重縮合および後期重縮合の3段階方式が取られている。重縮合反応条件は、第1段階目の重縮合の反応温度は250〜290℃、好ましくは260〜280℃であり、圧力は6.5〜0.27KPa、好ましくは2.7〜0.40KPaで、最終段階の重縮合反応の温度は265〜300℃、好ましくは275〜295℃であり、圧力は1.3〜0.013KPa、好ましくは0.65〜0.065KPaである。3段階以上で実施する場合には、中間段階の重縮合反応の反応条件は、上記第1段目の反応条件と最終段目の反応条件の間の条件である。これらの重縮合反応工程の各々において到達される極限粘度の上昇の度合は滑らかに分配されることが好ましい。
本発明においては、リン化合物を添加する前の反応槽より留出する留出物とリン化合物を添加した反応槽およびそれ以降の反応槽より留出する留出物を区分して処理することによりグリコールを回収し、該回収グリコールを前記した原料グリコールの一部または全量として循環再使用することが重要である。
前述のごとく、共重合ポリエステルの製造工程において添加されるリン化合物はその一部が留出グリコールに混入するために、該留出グリコールを再使用する場合には、回収グリコール中にリン化合物の混入を阻止あるいは制御する必要がある。特に、共重合ポリエステルの静電密着性を向上させるために、リン化合物に加えて、アルカリ土類金属化合物およびアルカリ金属化合物を反応系に添加し、これらの原子の原子数比を特定範囲にする方法においては、リン化合物のリン原子の量により静電密着性が大きく変化する。また、重縮合触媒としてチタン系、錫系あるいはアルミニウム系触媒を用いる場合もリン化合物の量は重縮合触媒活性に大きく影響する。
従って、本発明においては、上記回収グリコール中のリン原子含有量が10ppm以下になるようにして循環再使用するのが好ましい。8ppm以下がより好ましく、5ppm以下がさらに好ましい。リン原子含有量が10ppmを超える回収グリコールを使用した場合は、ポリエステルに残存するリン原子の量の設計値からの変動により、静電密着性や触媒活性が不安定になり、品質や操業性に悪影響を及ぼす場合がある。
ポリエステルの製造工程で添加されたリン化合物は該工程において化学反応によりその構造が変化をして、例えば、グリコールのリン酸エステル等の構造になっており、留出するグリコール中に含まれるリン化合物はグリコールより高沸点化合物に変質している。従って、上記の回収グリコール中のリン原子含有量が10ppm以下になるようにするには上記蒸留において高沸点留分を分留除去するのが好ましい。
一方、ポリエステルの製造工程より留出するグリコール中にリン化合物が含まれていなければ、水等の低沸点混入物を分留除去するのみで、高沸点留分を分留除去せずに循環再使用してもポリエステルの品質等に悪影響を及ぼすことが少ないので、高沸点留分を除去せず循環再使用するのが好ましい。両者を区分して回収処理し循環再使用することは、経済性、すなわち、運転経費の節減と設備の簡略化に大きく寄与する。
リン化合物を添加する前の反応槽より留出する留出物(A)は、水を主体とした低沸点留分を分留除去し、残留分をポリエステル製造用のグリコールの一部または全量として再使用することが好ましい。
一方、リン化合物を添加した反応槽およびそれ以降の反応槽より留出する留出物(B)は、水を主体とした低沸点留分とポリエステルオリゴマーやリン化合物等を含む高沸点留分を分留除去した中留分をポリエステル製造用のグリコールの一部または全量として再使用することが好ましい。該留出物(B)も留出物(A)と同様に水を主体とした低沸点留分を分留除去し、残留分をエステル化反応用のグリコールの一部または全量として再使用する方法、すなわち、特許文献17に記載の方法に準じた方法で実施した場合は、回収グリコールにリン化合物が混入し悪影響を及ぼすので好ましくない。一方、留出物(A)も留出物(B)と同様に低沸点留分と高沸点留分を分留除去した中留分をエステル化反応用のグリコールの一部または全量として再使用した場合は、留出物(A)の処理が過剰となり設備および運転経費の増大に繋がり経済的に不利となり好ましくない。一般に、留出物(A)は留出物(B)に比して量が多いので、本発明の方法である両者を区分して実施することの経済的効果は大きい。
本発明においては、留出物(B)は1基の蒸留塔で低沸点留分と高沸点留分を同時に分留して中留分(B’)を回収グリコールとして循環再使用してもよいし、蒸留塔を2基に分割し、水を主体とした低沸点留分を分留除去した後に、再度別の蒸留塔で分留してポリエステルオリゴマーやリン化合物等を含む高沸点留分を分留除去した中留分(B’)を回収グリコールとして循環再使用してもよい。後者の方が効率的な蒸留が行えるので好ましい。
本発明においては、エステル化反応槽からの留出物の低沸点留分の分留除去は留出物自体が有する熱により連続的に行うことが好適である。従って、インラインで行うのが好ましい。このことにより、運転経費の節減と設備の簡略化をより高めることができる。必要において、配管の加熱や熱交換により補助加熱することも排除はされない。
上記のエステル化反応槽より留出するグリコールを回収する方法においては、該回収において用いられる蒸留塔の底部より抜き出した残留分の一部を該蒸留塔に循環させること(以下、蒸留塔液循環法と称する)が好ましい実施態様である。該方法の実施により、該残留分の送液ラインのライン詰りの発生が抑制され、長期の安定生産が可能となる。共重合ポリエステル製造工程で留出するグリコール中には、飛沫同伴等により共重合ポリエステルのオリゴマー類等よりなるグリコールに難溶性あるいは不溶性の固形分が含まれる。該固形分は、当然のことであるが上記蒸留において、蒸留塔残留分中に含まれ共重合ポリエステル製造工程に循環される。従って、共重合ポリエステルの製造を長期に渡り連続して実施した場合に、該残留分の送液ラインにおいて、残留分中に存在する固形分あるいは送液ライン中で析出する固形分により該送液ラインの送液性の低下やライン詰まりが発生し安定運転が困難な場合があるという課題を有しておりその改善が嘱望されていた。本発明は上記の極めて単純な方法で該課題を解決したものである。上記蒸留塔液循環法の実施により上記課題が解決される理由は明確でないが、残留分の送液流量および流速の増加、液温度維持、該温度変動抑制および残留分の蒸留塔内の滞留延長による固形分の構造変化等の複数の要因の総和により固形分の析出が抑制されることにより引き起こされるものと推察される。ここで、構造変化は、化学変化と物理変化の両方の効果が加味されていると推察される。すなわち、化学変化としては、固形分中のオリゴマーのグリコリシスによる低分子量化によりグリコールへの溶解性の向上および結晶性低下等が、また、物理変化としては固形分の結晶性等の等の変化が考えられる。また、蒸留塔液循環法の実施は、ライン詰りの抑制に加えて分留精度の向上にも繋がる。
従って、残留分の液温および該温度範囲の設定、蒸留塔底部の残留分の貯留容量、循環液の戻し位置および循環量等が重要となる。該条件は限定されないが、以下の方法が好ましい。例えば、循環液の戻し位置は、蒸留塔の中段から蒸留塔底部の残留分の貯留部の最上部が好ましい。蒸留精度向上の点では蒸留塔の中段への戻しが好ましいが、温度管理の点では不利になる。両者のバランスにおいて適宜決定される。また、該循環液の蒸留塔への供給は該液を噴霧状態で供給するのが好ましい。該対応により分留効率の増進や蒸留塔トレイの飛沫同伴による汚染防止効果が付加される上に該供給液の供給量の安定化ができ、循環液の流量変動による循環ラインの詰まり発生が抑制できる。さらに、該循環ライン内での詰まり発生防止のために該循環ラインの配管内面をバフ研磨、または電解研磨処理をしたり、該配管の曲がり半径を大きくする等の対応をするのが好ましい。循環に用いるポンプはリバース形とノンリバース形のどちらでもよいが、リバース形が好ましい。貯留量は循環量に対し25〜70質量%に保つことが好ましい。該循環量は残留分の30〜75質量%が好ましい。また、循環液温度は、160〜180℃がより好ましい。164〜173℃がより好ましく、168〜175℃がさらに好ましい。該温度維持および温度制御のために循環ラインに温度調整機能を付加するのが好ましい。該温度が160℃未満の場合は、ライン詰り頻度が高くなる。逆に、180℃を超えた場合は、エネルギーロスの増加に繋がり経済的に不利となる。また、蒸留精度の低下に繋がる。
一方、重縮合反応槽からの留出物は、湿式コンデンサーで冷却凝縮して回収されるので、加熱して蒸留塔に供給することが必要となる。従って、高沸点留分の分留除去は回分式で実施してもよい。
さらに、本発明においては、設備費および運転経費が増大する留出物(B)の処理量を出来るだけ軽減するために、リン化合物の添加を第2エステル化反応槽以降のできるかぎりエステル化反応工程の後の方で行うことが好ましい。
低沸点留分および高沸点留分除去のそれぞれの蒸留塔は前者では8〜15段、後者では20〜30段が好ましい。1基の蒸留塔で低沸点留分および高沸点留分の除去を行う場合は、25〜40段が好ましい。泡鐘カラムおよび充填カラムのどちらでもよい。還流比は蒸留塔の段数や回収グリコールの要求品質により適宜設定される。
上記方法で回収されたグリコールの再使用方法は限定されない。グリコール貯槽に蓄えた後に、共重合ポリエステル製造用のグリコールとして再使用するのが好ましい。留出物(A)および(B)からの回収グリコールはそれぞれ別個の貯槽に蓄えてもよいし、一括して蓄えてもよい。また、回収されたプラントで使用してもよいし、別プラントで使用してもよい。また、留出物(A)の場合は、蒸留塔下部の体積を大きくしてこの部分に貯留をしてもよい。
上記方法で回収されたグリコールは回収グリコールをそのままスラリー調製に用いて、スラリー調製におけるグリコールの組成の調整はスラリー調製時に新規グリコールの組成を変更させることにより行ってもよし、回収グリコールの組成を測定して、新規グリコールを用いてスラリー調製に必要な組成に予め調整しておいてスラリー調製槽に供給してもよい。該回収グリコールのグリコール組成評価方法は、ガスクロマトグラフィー分析、遠赤外線吸分光法およびNMR分析法等で行うのが好ましい。
回収グリコールの使用割合は制限がなく、適宜設定して使用することができる。全量を回収グリコール用いて共重合ポリエステルを製造してもよい。
本発明におけるエステル化条件や生成物のオリゴマーの特性および重縮合反応条件は、共重合ポリエステルの品質や生産性を考慮し適宜設定すればよい。
なお、本発明においては、回収PETボトルの化学分解回収法で得られたテレフタル酸、あるいはEG等のリサイクル原料を用いることは、省資源や環境保護に役立つので好ましい実施態様である。
本発明方法により得られた共重合ポリエステルを減圧下あるいは不活性ガス気流下で共重合ポリエステル樹脂を加熱し、さらに重縮合を進めたり、該共重合ポリエステル樹脂中に含まれている環状3量体等のオリゴマーやアセトアルデヒド等の副生成物を除去する等の手段を取ることも何ら制約を受けない。また、例えば超臨界圧抽出法等の抽出法で共重合ポリエステル樹脂を精製し前記の副生成物等の不純物を除去する等の処理を行うことを取り入れても良い。
本発明の共重合ポリエステル中には、有機系、無機系、及び有機金属系のトナー、ならびに蛍光増白剤などを含むことができ、これらを一種もしくは二種以上含有することによって、共重合ポリエステルの黄み等の着色をさらに優れたレベルにまで抑えることができる。また他の任意の重合体や制電剤、消泡剤、染色性改良剤、染料、顔料、艶消剤、蛍光増白剤、安定剤、酸化防止剤、その他の添加剤が含有されていてもよい。酸化防止剤としては、芳香族アミン系、フェノール系等の酸化防止剤が使用可能であり、安定剤としては、リン酸やリン酸エステル系等のリン系、硫黄系、アミン系等の安定剤が使用可能である。
これらの添加剤は、共重合ポリエステルの重合時もしくは重合後、あるいは共重合ポリエステルの成形時の任意の段階で添加することが可能であり、どの段階が好適かは対象とする共重合ポリエステルの構造や得られる共重合ポリエステルの要求性能に応じてそれぞれ適宜選択すれば良い。
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。なお、評価法は以下の方法で実施した。
1、固有粘度(IV)の測定
フェノール/テトラクロロエタン(60:40、重量比)混合溶媒を用いて、30℃で測定した。
2、ポリマー溶融比抵抗(ρi)
275℃で溶融した共重合ポリエステル中に2枚の電極板を置き、120Vの電圧を印加した時の電流値(i0)を測定し、比抵抗値ρiを次式により求める。
ρi(Ω・cm)=A/l×V/ i0
ここで、A=電極面積(cm2)、l=電極間距離(cm)、V=電圧(V)である。
3、静電密着性
押出機の口金部と冷却ドラムの間にタングステンワイヤー製の電極を設け、電極とキャスティングドラム間に10〜15KVの電圧を印加してキャスティングを行い、得られたキャスティング原反の表面を肉眼で観察し、ピンナーバブルの発生が起こり始めるキャスティング速度で評価する。キャスティング速度が大きいポリマー程、静電密着性が良好である。
4、共重合ポリエステルの組成比
サンプル約5mgを重クロロホルムとトリフルオロ酢酸の混合溶液(9/1:体積比)0.7mlに溶解し、1H−NMR(Varian製、UNITY500)を使用して求めた。
5、回収グリコールの組成分析
試料液に30容量%のジメチルスルホキサイドを添加し、H−NMRおよびC−NMR測定を行い評価した。
6、回収グリコール中のリン原子含有量の定量
試料を硝酸マグネシウム共存下、550℃で灰化後、1.2M塩酸溶液としてから高周波プラズマ発光分析法により定量した。
実施例1
〔スラリー調合〕
スラリー調合槽にテレフタル酸を1質量部、後述の方法で留出物(A)より回収した水分3.4質量%、EG70.8質量%、NPG25.8質量%よりなる回収グリコール0.464質量部および留出物(B)より回収された回収グリコールおよび/または新規のEGと新規のNPGよりなるEG45.7質量%とNPG54.3質量%からなる混合グリコールを0.325質量部、未使用のEGを0.044質量部ずつ供給し攪拌しながらテレフタル酸のグリコールスラリーを調合した。
〔エステル化および重縮合〕
エステル化反応装置として、攪拌装置、蒸留塔、原料仕込口および生成物取り出し口を有する3段の完全混合槽よりなる連続エステル化反応装置を使用し、上記方法で調製したテレフタル酸のグリコールスラリー1651kg/Hrと共に三酸化アンチモンのEG溶液(三酸化アンチモン濃度1.3wt%)を41kg/Hr、ジエチレングリコールを2kg/Hrづつ、第一のエステル化反応槽に供給し、絶対圧122kpa・温度258℃・平均滞留時間6時間でエステル化反応を行った。
第1のエステル化反応槽内の液面が一定となるように反応生成物を取り出し、第2のエステル化反応槽に投入した。第2のエステル化反応槽の別の投入口からは、後述方法で第1および第2エステル化反応槽より留出したグリコールを蒸留塔で分留して得た残留分(A’)を0.055質量部で投入し、絶対圧122kpa・温度260℃・平均滞留時間1.5時間でエステル化反応を行った。上記残留分(A’)の組成は水分3.4質量%、EG70.8質量%、NPG25.8質量%であった。第2のエステル化反応槽出口のオリゴマー酸価は平均値で1950eq/トンであった。
第2エステル化反応槽内の液面が一定となるように反応生成物を取り出し、第3のエステル化反応槽に投入した。第3のエステル化反応槽の別の添加口からは、酢酸マグネシウム4水和物のEG溶液(濃度4.3質量%)を0.051質量部、りん酸トリメチルのEG溶液(濃度5.9質量%)を0.018質量部、酢酸ナトリウムのEG溶液(濃度1.0質量%)を0.009質量部、酢酸コバルト4水和物のEG溶液(濃度1.76質量%)を0.003質量部ずつ投入し、圧力は常圧・温度261℃・平均滞留時間1.0時間でエステル化反応を行った。第3エステル化反応槽出口オリゴマーの酸価は平均値で350eq/トンであった。
第3エステル化反応槽内の液面が一定となるように反応生成物を取り出し、初期重縮合反応槽に投入し圧力5.3kpa・温度261℃・平均滞留時間1.5時間で初期重縮合反応を行った。
初期重縮合反応槽内の液面が一定となるように反応生成物を取り出し、中期重縮合反応槽に投入した。圧力0.45kpa・温度272℃・平均滞留時間1.2時間で中期重縮合反応を行った。
中期重縮合反物の液面が一定となるように反応生成物を取り出し、後期中縮合反応槽に投入した。温度272℃・平均滞留時間1.2時間で、反応生成物の平均極限粘度が0.74となるように真空度(圧力)を調節した。圧力は0.06〜0.15kpaの範囲で調整した。
後期重縮合反応内の液面が一定となるように共重合ポリエステルをストランド状に取り出し、ストランドカッターでペレット化した。
得られた共重合ポリエステルの極限粘度は0.74、全グリコール成分に対するNPGの含有量は30モル%、ジエチレングリコールの含有量は1.5モル%、酸価は13eq/トン、融点(流動点)は181℃、溶融比抵抗は0.21×108Ω・cm、また共重合ポリエステル中のテレフタル酸とEGの環状3量体の含有量は3700ppm、テレフタル酸とNPGの環状2量体の含有量は2200ppmであった。
〔グリコールの回収〕
上記共重合ポリエステル製造工程におけるグリコールの流れを図1に示す。
第1エステル化反応槽3および第2エステル化反応槽4より留出する留出分(留出分A)は段数が15段の泡鐘タイプの蒸留塔9に、第3エステル化反応槽5および3基の重縮合反応槽6〜8よりから留出する留出分留出する留分(留出分B)は段数が9段の泡鐘タイプの蒸留塔10に供給され水を主体として低沸点留分を除去する。両蒸留塔ともに、底部より取り出される残留分の一部をそれぞれの蒸留塔の中間部に循環させた。該循環液の温度は168℃近辺で安定していた。該循環により蒸留塔底部より取り出される残留液(本実施例の場合は回収グリコール)の送液ラインの詰まりは発生しなかった。蒸留塔9は、7段目に設置した温度検出器で検出した温度が130±2℃になるよう制御した。得られた残留分はグリコール貯層17に供給される。得られた回収グリコールの組成は平均値で水分3.4質量%、EG70.8質量%、NPG25.8質量%であった。得られた回収グリコールをスラリー調製に用いた。
蒸留塔10において水を主体として低沸点留分を除去した蒸留塔底部より取り出される残留液は高沸点留分除去用の25段の蒸留塔14に供給される。蒸留塔14で高沸点留分を留去した回収グリコール中の水分は0.1wt%以下、ジエチレングリコール成分は0.2wt%であり、新規NPGを添加してNPG含有量を54.3質量%に調節して回収グリコール貯槽18に貯留しスラリー調合の原料の一部とした。リン原子含有量は1.3ppmであった。
なお、エステル化反応槽3〜5からの留出分に関しては、蒸留に必要な熱は留出分自体が有する熱量で足りるので加熱の必要はない。なお、蒸留塔の塔頂の圧力を100kPa±1.3%以内に制御した。該圧力は蒸留塔ベント配管に設置した調圧弁で制御した。
3基の重縮合反応槽6〜8よりから留出する留出分は減圧系で発生するため各反応槽に設置された湿式コンデンサー11〜13で凝縮させてグリコール凝縮液貯槽20〜22に供給された後に蒸留塔10に供給される。そのために、熱交換器26で蒸留のための熱量が供給される。この時、湿式コンデンサーに噴霧されるグリコール液の温度の上昇を抑えるために冷却器23〜25で冷却し湿式コンデンサーに供給される。この凝縮液は各湿式コンデンサーで凝縮された凝縮液自体の自己循環で実施されるが、必要に応じて新規EGを供給してもよい。
比較例1
実施例1の方法において、蒸留塔10の塔底留分を蒸留塔14に供給して高沸点留分の除去処理を行うことなくグリコール貯槽18に供給するように変更する以外は、実施例1と同様にして重縮合を行い共重合ポリエステルを得た。本比較例1における共重合ポリエステル製造工程におけるグリコールの流れを図2に示す。蒸留塔10の塔底留分中にはリン原子が200ppm含まれていた。本比較例で得られた共重合ポリエステルの溶融比抵抗は0.88×108Ω・cmと高く、最大キャスチング速度は28m/分であり、静電密着性が著しく劣っていた。本比較例において、静電密着性が低下するのは、回収グリコール中のリン化合物が重縮合系に循環されるために引き起こされたものである。
実施例2
実施例1の方法において、三酸化アンチモンをテトラブチルチタネートに変更し、かつその添加量を生成共重合ポリエステルに対してチタン原子として15ppmになるように変更する以外は、実施例1と同様の方法で実施例2の共重合ポリエステルを得た。得られた共重合ポリエステルの極限粘度は0.74であった。また、溶融比抵抗は0.20×108Ω・cmであり、静電密着性は良好であった。
比較例2
実施例2の方法において、グリコールの回収方法を比較例1と同様の方法に変更する以外は、実施例2と同様にして比較例2の共重合ポリエステルを得た。回収グリコール中に存在するリン化合物の影響で比較例1の課題に加えて、チタン触媒の失活が起こり極限粘度が0.50で頭打ちになり所定の極限粘度の共重合ポリエステルが得られなかった。
実施例3
実施例1の方法において、第3エステル化反応槽5より留出したグリコールの蒸留塔10による分留を取り止め、全量を凝縮器16で凝縮し、全重縮合反応槽より留出したグリコールの凝縮液とを併せて、段数が30段の蒸留塔15を用いて分留し、低沸点留分および高沸点留分をカットした中留分を回収グリコール貯槽18に貯留しスラリー調合の原料の一部とするように変更する以外は実施例1と同様の方法で実施例3の共重合ポリエステルを得た。得られた共重合ポリエステルの品質は実施例1で得られた共重合ポリエステルと同等の品質を有しており高品質であった。なお、上記中留分のリン原子含有量は1.8ppmであった。本実施例3における共重合ポリエステル製造工程におけるグリコールの流れを図3に示す。