しかしながら、アルカリ性物質に限らず無害化物質を電池内部に設けることは、電池内の構造の複雑化を招き、電池サイズの増大を招いてしまう。また、特許文献1のようにアルカリ性物質を用いた場合、当該アルカリ性物質に接触する他の物質(例えば、電池容器)を侵食するおそれがあるため、このような侵食を防止するために別途対策を施す必要が生じ、電池の内部構造はより一層複雑化してしまう懸念がある。
また、リチウム電池は、充放電電圧が温度依存性を有している。例えば、低温領域において充放電電圧が大幅に低下してしまうなど、高温状態と同等に取り扱うことが困難であるという問題点も有している。この点に関して、上記特許文献1では何ら解決が図られていない。
本発明は、例えばこのような問題点に鑑みてなされたものであり、硫化水素の発生を効果的に防止することが可能な、硫化物系電解質含有層を備える全固体リチウム二次電池を提供することを課題とする。
上述した課題を解決するため本発明に係る第1の電池システムは、硫化物系固体電解質材料を用いた全固体リチウム二次電池と、前記全固体リチウム二次電池の内部の温度が第1閾値に達した場合に、前記全固体リチウム二次電池の充放電量を低下させる低下手段とを備える。
本発明に係る「全固体リチウム二次電池」は、硫化物系固体電解質材料を含有する電解質(以下、適宜電解質含有層と呼ぶ)を備えた全固体リチウム二次電池である。全固体リチウム二次電池の内部には、例えば硫化物系固体電解質材料を含む電解質含有層があり、水分を含む外気等に接触することによって当該水分と反応を起こし、硫化水素を発生する可能性がある。この硫化水素が発生する可能性は、以下に説明する低下手段によって効果的に減少又は解消させることができる。
尚、本発明に係る全固体リチウム二次電池には、例えば、仮に全固体リチウム二次電池が破損等した場合であっても、電解質含有層が水分を含有する外気等に直接接触しないように、電解質含有層の一部が酸化されることによって形成された酸化物層等によって、電解質含有層の表面が保護されていてもよい。この場合、酸化物層の存在により、電解質含有層が直接水分に外気に接触することを防止できるので、硫化水素が発生する可能性をより効果的に減少又は解消させることができる。
全固体リチウム二次電池の内部の温度は、温度センサ等を介してモニタリングすることが可能である。このような温度のモニタリングは、例えば、サーミスタや熱電対などの温度を検出可能な素子をセンサとして組み込んだ一般的な温度測定回路等によって行えばよい。
本発明に係る「低下手段」は、全固体リチウム二次電池の内部の温度が第1閾値に達した場合に、前記全固体リチウム二次電池の充放電量を低下させる。ここで、「達した場合」とは、「以上となった又は大きくなった(超えた)場合」を意味する。上述のように、全固体リチウム二次電池の内部の温度が上昇し、当該全固体リチウム二次電池の内部に存在する、例えば硫化物系固体電解質材料が、所定の温度より高温に曝されると、その組成は硫化水素が発生しやすい組成に変更されるという特性を有している。そこで、温度が所定の温度(即ち第1閾値)に達した場合に、全固体リチウム二次電池の充放電量を低下させることによって、全固体リチウム二次電池の内部の温度上昇を抑制することができる。
硫化物系固体電解質材料の組成変更を効果的に防止するために、第1閾値は、例えば全固体リチウム二次電池の内部に含まれる硫化物系固体電解質材料に組成変更が生じる温度と同等の温度、或いはそれよりも若干低い温度に設定されることが好ましい。このように第1閾値を設定すると、硫化物系固体電解質材料の温度が組成変更を生ずる温度に達する前に、全固体リチウム二次電池の充放電量が低下されることが可能になるので、硫化物系固体電解質材料の温度上昇を効果的に抑制することができる。
尚、第1閾値は、理論的、実験的若しくはシミュレーション的な各種方法によって求めることが可能であり、予め当該電池に付属して設けられた記憶手段(例えばメモリ)に記憶しておいてもよい。
以上説明したように本発明に係る電池システムによれば、硫化物系固体電解質材料の温度が上昇した場合に、充放電量を低減することによって、硫化水素が発生するリスクを効果的に抑制することが可能となる。
本発明に係る電池システムの一の態様では、前記低下手段は、前記全固体リチウム二次電池の充放電経路における通電状態のオンオフを選択的に切り替え可能なスイッチング手段と、前記全固体リチウム二次電池の内部の温度が前記第1閾値に達した場合に、前記充放電経路の通電状態がオフになるように前記スイッチング手段を制御する制御手段とを備えてなる。
本態様に係る「スイッチング手段」は、全固体リチウム二次電池の充放電経路における通電状態のオンオフを切り替えすることができる手段である。ここで充放電経路とは、電池に充放電される電圧及び電流が印加される電気的な経路を意味する。スイッチング手段は、例えば、充放電経路上において定常状態では互いに接触状態にある二つの端子間を所定のタイミングで非接触状態に物理的且つ直接的に切り替え可能な電磁スイッチであってもよいし、充放電経路に電圧及び電流を供給する回路の入出力を所定のタイミングで中断することにより間接的に通電状態を切り替え可能なデバイスでもよい。即ち、本発明に係るスイッチング手段は、充放電経路における通電状態のオンオフを切り替えすることができる限りにおいて、その態様を自由に選択することが可能である。
本態様に係る「制御手段」は、全固体リチウム二次電池の内部の温度が第1閾値に達した場合に、充放電経路の通電状態がオフになるようにスイッチング手段を制御する。制御手段は、全固体リチウム二次電池の内部の温度と第1閾値とを比較することによって、スイッチング手段を適宜制御する。例えば、全固体リチウム二次電池の内部の硫化物系固体電解質材料の温度が第1閾値に達した場合、制御手段は、充放電経路の通電状態がオフになるようにスイッチング手段を制御する。このようにスイッチング手段を制御することにより、全固体リチウム二次電池の内部の温度上昇を効果的に抑制することができる。
本発明に係る電池システムの一の態様では、前記全固体リチウム二次電池の内部の温度が第2閾値に達した場合に、所定種類の告知信号を出力する信号出力手段を更に備える。
告知信号は、全固体リチウム二次電池の内部の温度が第2閾値に達した際に出力される信号である限りにおいて何ら限定されず、例えば、電気的信号として出力される。特に告知信号が電気的信号である場合、当該告知信号の入力に応じて点灯可能なミルランプなどに入力されることにより、全固体リチウム二次電池の内部の温度が第2閾値に達したことを視覚的にユーザに認識させることができるため、非常に実践的である。この場合、ミルランプの点灯を認識したユーザは電池の使用を中断或いは中止等することによって、全固体リチウム二次電池が接続されている周辺機器等への影響を最小限に留めたり、電池から有害な硫化水素が発生する前に全固体リチウム二次電池の動作を手動により終了させるなど、各種の対応を取ることが可能となる。
尚、第2閾値は、第1閾値と同様に、理論的、実験的若しくはシミュレーション的な各種方法によって求めることが可能であり、予め当該電池に付属して設けられた記憶手段(例えばメモリ)に記憶しておいてもよい。
上述の信号出力手段を備える態様では、前記第2閾値は、前記第1閾値より高く設定されるとよい。
この場合、全固体リチウム二次電池の内部の温度が第1閾値に達することにより、上述の低下手段によって全固体リチウム二次電池の充放電量を低下したにもかかわらず、全固体リチウム二次電池の内部の温度が上昇し、第2閾値に達した場合に告知信号が出力される。このように信号出力手段は、低下手段によって全固体リチウム二次電池の内部の温度上昇が抑制できない場合に、その旨をユーザに告知するという機能を発揮することができる。
また、前記信号出力手段は、前記温度が前記第2閾値に達した場合に、後に、前記温度が前記第2閾値よりも下がった場合にも、前記告知信号を出力し続けるとよい。
この場合、全固体リチウム二次電池の内部の温度が一度第2閾値に達すると、その後第2閾値より低下したとしてもそのまま告知信号が出力され続ける。つまり、この場合において出力される告知信号は、全固体リチウム二次電池の内部の温度が過去に第2閾値に達したという事実の存在を意味する。特に第2閾値が全固体リチウム二次電池の内部に含まれる例えば硫化物系固体電解質材料に組成変更が生じる温度として設定されている場合、一度でも硫化物系固体電解質材料の温度が第2閾値に達していると、その後温度が第2閾値以下に低下したとしても、硫化物系固体電解質材料自体には少なからず組成変更が生じていることとなる。このような場合であっても、告知信号が出力され続けるため、ユーザは、告知信号が出力されているか否かによって、例えば硫化物系固体電解質材料に組成変更が生じることにより硫化水素が発生しやすい状態になっていることを知ることができる。
本発明に係る電池システムの一の態様では、前記低下手段は、前記全固体リチウム二次電池の内部の温度が第1閾値に達した場合に、前記全固体リチウム二次電池の充放電経路を物理的に切断することにより前記充放電量を低下させる。
本態様において、低下手段は、全固体リチウム二次電池の充放電経路を物理的に切断することにより充放電量を低下させることができる。補足して説明すると、本態様における低下手段は、充放電経路自体を物理的に切断する点において、充放電経路上の通電状態をスイッチング切り替えする上述のスイッチング手段とは異なる概念である。例えば、スイッチング手段が動作した場合、充放電経路そのものは切断されることなく保持されたままなので、スイッチング手段が正常に動作しなかった場合に、充放電経路の通電状態が完全にオフにならない可能性が少なからずある。一方、本態様に係る低下手段は、充放電経路そのものを物理的に切断するため、スイッチング手段の場合に比べて、より確実に充放電経路の通電状態をオフにすることができる。
本態様に係る低下手段は、例えば、ヒューズなど、その部品自体のスペックとして第1閾値に相当する特性を有しているものを用いるとよい。
尚、上述のスイッチング手段及び制御手段を備える態様のように、物理的に充放電経路を切断する低下手段についても、作動させるタイミングを判断するための制御手段を別途設けてもよい。
尚、本発明に係る低下手段は、スイッチング手段及び制御手段を含んでなる低下手段と、全固体リチウム二次電池の充放電経路を物理的に切断することにより前記充放電量を低下させる低下手段とを共に備えるように構成されていてもよい。つまり、本発明に係る電池システムは、異なる態様からなる低下手段を複数備えていてもよい。この場合、一方の態様からなる低下手段が正常に動作しなかった場合であっても、他方が動作することによって、全固体リチウム二次電池の内部の温度上昇をより確実に抑制することが可能となる。また、このように複数の手段を用いて低下手段を構成する場合、全固体リチウム二次電池の充放電経路を物理的に切断する低下手段の動作タイミングはその他の手段に比べて遅れるように設定するとよい。充放電経路が物理的に切断されてしまうと、後に再度、全固体リチウム二次電池を使用しようとした場合に、ユーザは切断された充放電経路を修復する作業を強いられることとなる。つまり、後にこのような修復作業を強いられることのないその他の手段によって充放電経路の遮断が望めた場合には、このような修復作業はユーザにとって不必要な負担を課すことになり、効率が大変悪い。そのため、まずその他の手段によって充放電経路の遮断を試みて、遮断が達成できなかった場合に、全固体リチウム二次電池の充放電経路を物理的に切断する手段を作動させることにより、このようなユーザの負担を軽減しつつ、より確実に充放電経路をオフにすることができる。
本発明に係る電池システムの他の態様では、前記全固体リチウム二次電池の内部の温度は、前記硫化物系固体電解質材料の温度である。
硫化物系固体電解質材料は、硫黄、リチウム、ホウ素、ケイ素、ゲルマニウム、リン及びアルミニウムのうち少なくとも一つを含むとよい。好ましくは、硫化物系固体電解質材料は、Li2S−P2S5系ガラスセラミックスであるとよい。Li2S−P2S5はある温度以上に加熱されると組成変更が起こることによって硫化水素を発生しやすくなる。そのため、低下手段によって、好適なタイミングで温度上昇を抑制することで硫化水素が発生する可能性を効果的に減少又は解消させることができる。
更にこの場合、前記Li2S−P2S5系ガラスセラミックスは、Li2S含量が75mol%であるとよい。本願発明者の研究によれば、全固体リチウム二次電池の内部にある硫化物系固体電解質材料としてLi2S−P2S5系ガラスセラミックスを用いた場合、Li2S含量を75mol%とすると、電解質含有層が外気に含まれる水分に触れた際に硫化水素が発生する可能性を極めて効果的に抑制できることが判明している。詳細な実験データは後述するが、Li2S含量を70mol%とした場合に比べて、Li2S含量を75mol%とした場合は、硫化水素の発生量が約1/50まで抑制可能とされている。従って、このようなLi2S含量の硫化物系固体電解質材料を用いた全固体リチウム二次電池から電池システムを構築することにより、何らかの原因によって硫化物系固体電解質材料が外気に含まれる水分に触れたとしても、硫化水素が発生する可能性を低く抑えることができる。
尚、硫化物系固体電解質材料として、例えば、Li2S−P2S5系ガラスセラミックスを用いた場合、第1閾値は、290℃の温度に対応するように設定されるとよい。本願発明者の研究によれば、Li2S−P2S5系ガラスセラミックスは熱処理することにより、当該熱処理を行わなかった場合に比べて、外気等の水分に曝された際に発生する硫化水素の量が減少するとされている。一方で、Li2S−P2S5系ガラスセラミックスは290℃以上に加熱されると組成変更を生じ、硫化水素の発生量が増加してしまうことが判明している。そこで、第1閾値を組成変更の生じる290℃に設定することにより、低下手段を適切なタイミングで作動させることが可能となる。
本発明のこのような作用及び他の利得は次に説明する実施形態から明らかにされる。
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。
<1:実施形態の構成>
始めに、図1を参照し、本発明の実施形態に係る電池システム100の構成について説明する。図1は、本実施形態に係る電池システム100の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
図1において、電池システム100は、全固体リチウム二次電池1、電池保護回路2、スイッチ3、ミルランプ4、ヒューズ5を備えた、本発明に係る「電池システム」の一例である。
電池保護回路2は、全固体リチウム二次電池1の温度を検出するための温度検出回路を含んでなる電子回路であり、スイッチ3と共に本発明に係る「低下手段」として機能する。電池保護回路2は、検出した温度に基づいて、全固体リチウム二次電池1の充放電経路に配置されたスイッチ3を制御することができる。
スイッチ3は、全固体リチウム二次電池1が充放電する電圧及び電流が印加される充放電経路において、定常状態では互いに接触状態にある二つの端子間を所定のタイミングで非接触状態に物理的且つ直接的に切り替え可能な電磁スイッチであり、充放電経路における通電状態のオンオフを切り替え可能なように構成されている。つまり、スイッチ3は、定常状態(即ち、全固体リチウム二次電池1が正常な状態)では、充放電経路上の二つの端子間は短絡するように接触しているが、電池保護回路2によって指定される所定のタイミングで、二つの端子間の接触状態を解除することによって充放電経路を非通電状態(即ち、通電状態がオフ)にすることができる。
スイッチ3は上述のスイッチング手段の一例として機能し、この場合、電池保護回路2は上述の制御手段の一例として機能する。電池保護回路2は、全固体リチウム二次電池1の硫化物を含有する電解質含有層の温度が上昇することによって組成変更が生じるおそれがあると判断した場合に、全固体リチウム二次電池1の充放電経路の通電状態がオフになるようにスイッチ3を制御するが、その具体的な制御内容に関しては、後に詳述する。
ここで、図2を参照して、電池保護回路2が備える温度検出回路20の具体的な構成について説明する。図2は、本実施形態に係る電池システムの電池保護回路2が備える温度検出回路20のブロック図である。
温度検出回路20は、電流検出回路21、電圧検出回路22、及びサーミスタ素子23を含んで構成されている。サーミスタ素子23は、電池システム100において、全固体リチウム二次電池1の電解質含有層に直接的或いは間接的に接触するように配置されることにより、全固体リチウム二次電池1の温度を測定することができる。尚、本実施形態ではサーミスタ素子を用いた温度検出回路について詳述するが、他に熱電対等の温度検出に用いられる各種の素子を用いて温度検出回路を構成してもよい。
サーミスタ素子23は、電気抵抗値が温度依存性を有する抵抗体の一種であるサーミスタ素子である。尚、サーミスタ素子23は、PTC型、NTC型或いはCTR型を問わない。
電流検出回路21はサーミスタ素子23に対して直列的に挿入されることによって、サーミスタ素子23に流れる電流の大きさを測定する。一方、電圧検出回路22は、サーミスタ素子23に対して並列に挿入されることによって、サーミスタ素子23の両端間の電位差を測定する。
このように配置された電流検出回路21及び電圧検出回路22によって、サーミスタ素子23に印加される電流及び電圧値を測定することができるので、サーミスタ素子23の電気抵抗値を算出することができる。サーミスタ素子23の電気抵抗値は温度依存性を有するため、予めメモリ等の記憶手段に記録された当該サーミスタ素子23に関する温度―電気抵抗特性に対応するマップ等を参照することによって、算出された電気抵抗値から全固体リチウム二次電池1の温度を検出することができる。
再び図1に戻って、ミルランプ4は、上述の告知信号が電池保護回路2から出力された場合に点灯することにより、電解質含有層に組成変更が生じた可能性があることをユーザに告知するランプである。本実施形態では、告知信号は所定のタイミングで電池保護回路2から電圧信号として出力され、当該電圧信号がミルランプ4に印加されることによって、ミルランプ4が点灯するように構成されている。全固体リチウム二次電池1の電解質含有層は硫化物を含有しており、その温度が所定の値以上になると組成変更が生じ、外気に含まれる水分等と反応することで硫化水素が発生しやすくなる。本実施形態における当該所定の値は、例えば、全固体リチウム二次電池1の電界質が組成変更を生じる温度と同等の値に設定される。その結果、電池保護回路1によって検出された全固体リチウム二次電池1の温度が当該所定の値を超えた場合に、ミルランプ4を点灯させることによって、電解質に組成変更が生じたことをユーザに知らしめることができる。そのため、ミルランプ4の点灯を認識したユーザは、全固体リチウム二次電池1を新品に交換する等により、電池システム100が好適な状態にあるように維持管理するなどの対応を取ることができる。
ヒューズ5は、全固体リチウム二次電池1の充放電経路に挿入された温度ヒューズであり、上述の電池保護回路2及びスイッチ3と同様に、本発明に係る「低下手段」の一例として機能する。本実施形態におけるヒューズ5は、温度ヒューズであり、全固体リチウム二次電池1の温度が所定の値に達した際に、全固体リチウム二次電池1の充放電経路を物理的に切断するように構成されている。つまり、充放電経路自体を物理的に切断する点において、充放電経路上の通電状態をスイッチング切り替えする上述のスイッチ3及び電池保護回路2に対して相違点を有している。言い換えれば、本実施形態に係る電池システム100は、本発明に係る低下手段として、充放電経路をオンオフ切り替え可能なスイッチ3と、充放電経路を物理的に切断可能なヒューズ5との2種類の手段を有する。
続いて、図3を参照して、全固体リチウム二次電池1の構成について詳細に説明する。図3は、本実施形態に係る電池システムが備える全固体リチウム二次電池1の断面構造を示す模式図である。
全固体リチウム二次電池1は、発電素子31が電池ケース32で覆われた形状を有している。
発電素子31は、固体電解質層33、固体電解質層33の一方の表面に配置された正極層34、固体電解質層33の他方の表面に配置された負極層35、正極層34の固体電解質層33側とは反対側に配置された正極集電体36及び負極層35の固体電解質層33側とは反対側に配置された負極集電体37から構成されている。固体電解質層33、正極層34、負極層35は、夫々、発電素子31内のLi+イオン伝導性を向上させるために、硫化物系固体電解質材料を含んだ電解質含有層として形成されている。
ここで更に図4及び図5を参照して、固体電解質層33におけるLi2Sの含量と、硫化水素発生量及びLi+伝導度との関係について説明する。図4は、本願発明者の実験によって得られた、固体電解質層33におけるLi2Sの含量と、硫化水素発生量及びLi+伝導度との関係を示すグラフ図である。尚、図4に示す実験結果は室温下で得られたものである。図5は、Li2Sの含量に対する硫化化合物の組成分布を示す模式図である。
まず硫化水素発生量に着目すると、図4に示すように、Li2S含量が75mol%近傍にて、硫化水素発生量は極小値を有する。これは、固体電解質層33におけるLi2S含量を75mol%近傍に設定することにより、硫化水素の発生量が最も抑制できることが実験的に示されたことを意味している。尚、Li2S含量が75mol%近傍から離れるに従って、硫化水素発生量は次第に増加する。
一方、固体電解質層33のLi+伝導度に着目すると、Li2S含量が75mol%近傍において極大値を有することが示されている。これは、固体電解質層33におけるLi2S含量を75mol%近傍に設定することにより、全固体リチウム二次電池1の出力電力を効果的に増大できることを意味している。尚、Li2S含量が75mol%近傍から離れるに従い、Li+伝導度は次第に減少し、全固体リチウム二次電池1の出力電力が減少する。
このように固体電解質層33におけるLi2S含量を75mol%近傍に設定することにより、硫化水素発生量の抑制と、Li+伝導度の増加に伴う全固体リチウム二次電池1の出力電力の増大とを両立することができる。本実施形態では、このような固体電解質層33を備える全固体リチウム二次電池1を採用することにより、出力電力が大きく、且つ、硫化水素の発生リスクの少ない電池システム100を実現している。
続いて図5に示すように、固体電解質層33におけるLi2S含量が75mol%近傍である場合、硫化物系固体電解質材料に含まれる化合物は、架橋硫黄の無く安定なオルト組成を有することが本願発明者の研究によって判明している。特にLi2S含量が70mol%の場合に比べて、Li2S含量が75mol%近傍の場合は、硫化水素発生量が約1/50であるとされている。これは、Li2S含量が75mol%近傍になるように形成された固体電解質層33は架橋硫黄の無い物質的に安定なオルト組成を有するため、化学反応によって硫化水素が発生する可能性が減少することを示している。一方、Li2S含量が70mol%近傍になるように形成された固体電解質層33は、架橋硫黄の無い物質的に不安定なメタ組成を有するため、化学反応を生じやすく、硫化水素が発生する可能性が増大すると考えられる。
再び図3に戻って、固体電解質層33は、例えば、Li、A、Sらなる硫化物系固体電解質材料(Li−A−S)であり、硫化物系固体電解質材料からなるものである限りにおいて何ら限定されない。この場合、Li−A−SにおけるAは、P、Ge、B、Si及びIからなる群より選ばれる少なくとも一種である。このような硫化物系固体電解質材料Li−A−Sとしては、具体的には、70Li2S−30P2S5、LiGe0.25P0.75S4、80Li2S−20P2S5、Li2S−SiS2等を挙げることができる。特に、70Li2S−30P2S5はイオン伝導度が高いため、全固体リチウム二次電池1の出力電力を増大することができるという観点から好適である。
正極層34は、一般的な全固体リチウム二次電池に用いられるもの(即ち、電池分野において正極活性物質として使用されているもの)と同様のものを用いることができ、正極層として機能するものである限りにおいて何ら限定されない。例えば、正極材料のみからなるものであってもよいし、正極材料と固体電解質材料とを混合した正極用合材等からなるものであってもよい。具体的には、正極層34は、硫化物系では、硫化チタン(TiS2)、硫化モリブデン(MoS2)、硫化鉄(FeS、FeS2)、硫化銅(CuS)及び硫化ニッケル(Ni3S2)等から形成されていてもよいし、酸化物系では、酸化ビスマス(Bi2O3)、鉛酸ビスマス(Bi2Pb2O5)、酸化銅(CuO)、酸化バナジウム(V6O13)、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMnO2)等、又はセレン化ニオブ(NbSe3)等から形成されていてもよい。更にこれらを混合して用いることも可能である。また、導電性を向上させるために、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、及びカーボンファイバー等の導電助剤を含有してもよい。
尚、正極層34の膜厚は、一般的な全固体リチウム二次電池に用いられるもの(即ち、電池分野において負極活性物質としてしようされているもの)と同様のものを用いることができ、負極層として機能するものである限りにおいて何ら限定されない。通常の全固体リチウム二次電池に用いられる正極層の膜厚と同様のものである限りにおいて、何ら限定されない。例えば、負極材料のみからなるものであってもよいし、負極材料と固体電解質材料とを混合した負極用合材等からなるものであってもよい。具体的には、負極層34は炭素材料、例えば、人造黒鉛、黒鉛炭素繊維、樹脂焼成炭素、熱分解気相成長炭素、コークス、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、フルフリルアルコール樹脂焼成炭素、ポリアセン、ピッチ系炭素繊維、気相成長炭素繊維、天然黒鉛及び難黒鉛化性炭素から形成されていてもよい(好ましくは、人造黒鉛である)。更にこれらを混合して用いることも可能である。また、導電性を向上させるために、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、及びカーボンファイバー等の導電助剤を含有していてもよい。
また、負極層35として、金属リチウム、金属インジウム、金属アルミ、金属ケイ素やこれらの金属自体や他の元素、化合物と組み合わせた合金を用いてもよい。
尚、負極層35の膜厚は、通常の全固体リチウム二次電池に用いられる負極層の膜厚と同様のものである限りにおいて、何ら限定されない。
正極集電体36及び負極集電体37は、夫々、正極層34及び負極層35の集電を行う機能を有しており、導電性を有する物質から形成されている。この限りにおいて、正極集電体36及び負極集電体37の態様は何ら限定されない。正極集電体36及び負極集電体37の材料としては、例えば、銅、マグネシウム、ステンレス鋼、チタン、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛、アルミニウム、ゲルマニウム、インジウム、リチウム及びこれらの合金等から成る板状体や箔状体等が好適である。尚、本実施形態に係る正極集電体36及び負極集電体37は、綿密質集電体であってもよく、多孔質集電体であってもよい。
尚、正極集電体36及び負極集電体37は、電池ケースの機能を兼ね備えていてもよい。例えばSUS(ステンレス鋼)製の電池ケースを用意し、その一部を正極集電体36及び負極集電体37として用いてもよい。
以上説明したように、本実施形態に係る電池システムにおける全固体リチウム二次電池1の態様は、少なくとも、このような発電素子1を有する限りにおいて限定されず、図3に例示したもの以外にも、例えば発電素子31がコイン型、ラミネート型等の電池ケースで覆われたものであっても良く、発電素子を覆う絶縁リング、電池ケース等がないものであっても良い。
尚、万が一、電池ケース32が破損等した場合であっても、硫化物系固体電解質材料が含まれている電解質含有層(即ち、固体電解質層33、正極層34、及び負極層35)が直接外気に曝されることによって硫化水素が発生しないように、当該電解質含有層の表面を覆うように酸化物層が形成されていてもよい。このような酸化物層は、電解質含有層の表面を酸化処理することによって容易に形成可能である。このように酸化物層を備える場合、発電素子中の電解質含有層が直接外気等に含まれる水分に曝されるリスクを低減することができるため、硫化水素の発生を効果的に抑制できる。その結果、優れた耐水性を有し、高出力かつ安定性の高い全固体リチウム二次電池を実現することができる。
電池ケース32は、一般的な全固体リチウム二次電池と同様のものを用いる限りにおいて、何ら限定されるものではない。電池ケース32は、例えばステンレス製などの金属製のものが一般的に用いられる。
また、発電素子31が外気に触れることを防ぐために、例えば、電池ケース32の継ぎ目部分には樹脂パッキン等が施されることによって、発電素子31は電池ケース32の内側に封入されている。この樹脂パッキンの材料としては、吸水性の低い樹脂等が好ましく、例えばエポキシ樹脂等が好適である。
続いて図6を参照して、固体電解質層33に含まれる硫化物系材料であるLi7P3S11が高温に曝された際に、その温度と硫化水素発生量との関係について説明する。図6は、固体電解質層33に含まれる硫化物系材料であるLi7P3S11が300秒間高温に曝された場合の、温度と硫化水素発生量との関係を示すグラフ図である。
Li7P3S11が高温に曝されない場合(図6において最も左側のバーを参照)、硫化水素の発生量は1cc/gを大きく超えており、外気等に含まれる水分に曝された場合に多くの硫化水素が発生する。一方、Li7P3S11が高温に曝された場合(図6において最も左側のバーを除く各バーを参照)には、硫化水素の発生量は夫々1cc/g未満であり、外気等に含まれる水分に曝された場合でも硫化水素の発生量は抑制される。これは、Li7P3S11が高温に曝されることによって結晶化が促進されたためと考えられる。
Li7P3S11が高温に曝された場合(図6において最も左側のバーを除く各バーを参照)、硫化水素の発生量は、Li7P3S11が曝される温度に依存する。具体的には、図6に示すように、230度近傍からLi7P3S11が曝される温度を上昇させていくと、290℃近傍にかけて硫化水素発生量が次第に減少する。これは、熱処理時の温度が上昇することにより、Li7P3S11の結晶化が促進されることに起因するものと考えられる。一方、熱処理温度が290℃近傍より高くなると、硫化水素発生量は上昇に転じる。これはLi2Sリッチな結晶が析出することに起因するものと考えられる。
固体電解質層33に含まれる硫化物系材料であるLi7P3S11はこのような特性を有するため、固体電解質層33の温度が290℃より高くなると、固体電解質層33においてLi2Sリッチな結晶が析出することによって、硫化水素発生量が上昇してしまう。このような事態を防止するために、本実施形態に係る電池システム100では、上述のスイッチ2やヒューズ5が好適なタイミングで作動するよう構成されている。尚、当該制御の詳細については、後述する。
尚、Li7P3S11が高温に曝される時間が長くなるに従い、硫化水素発生量もまた減少する。例えば、Li7P3S11が290℃の温度に十分に長い時間曝されると、図6の場合(即ち、高温に曝される時間が300秒の場合)に比べて、硫化水素発生量を1/10程度に抑制することができることが、本願発明者の実験から判明している。
このように、Li7P3S11が290℃近傍の高温に曝された場合に硫化水素発生量が効果的に抑制されることは、次に説明するラマン測定による実験結果からもサポートすることが可能である。図7は、複数の高温に曝されたLi7P3S11のスペクトラム分布を示すグラフ図である。
図7において、物質的に安定なPS4 3−に対応する波長成分(図7において波数420(cm―1)に対応する成分)に着目すると、290℃の高温に曝されたLi7P3S11に関するデータが最も鋭いピーク値を有している。この事実は、290℃の熱処理温度で形成されたLi7P3S11が物質的に安定なPS4 3−を最も多く含有していることを示している。このように、ラマン測定による実験結果からも、固体電解質層33が曝される温度を290℃近傍に制限することにより、硫化水素発生量を効果的に抑制できることが示されている。
<2:実施形態の制御>
次に、図8を参照しながら、上述の電池システム100の電池保護制御について詳細に説明する。図8は、本実施形態に係る電池システムにおける電池保護制御のフローチャート図である。
図8において、電池保護回路2は、全固体リチウム二次電池1の温度Tを読み込み(ステップS101)、全固体リチウム二次電池1の温度Tが、第1温度閾値T1に比べて大きいか否かを判断する(ステップS102)。ここで、第1温度閾値T1は、本発明に係る「第1閾値」の一例であり、本実施形態では特に、290℃に設定されている。この290℃という温度は、上述のように、全固体リチウム二次電池1の固体電解質層33に含まれているLi7P3S11が曝された場合に、硫化水素発生量が効果的に抑制される温度である(図6参照)。
全固体リチウム二次電池1の温度Tが、第1温度閾値T1に比べて低い場合(ステップS102:NO)、電池保護回路2はステップS101に処理を戻し、再び全固体リチウム二次電池1の温度Tを読み込んだ後、温度Tが第1温度閾値T1に比べて大きいか否かを判断する(ステップS102)。
一方、全固体リチウム二次電池1の温度Tが、第1温度閾値T1に比べて高い場合(ステップS102:YES)、電池保護回路2は全固体リチウム二次電池1から過電流が出入力されることによって更に温度が上昇することを防止するために、上述のスイッチ3をオフに制御する(ステップS103)。このように第1温度閾値T1を基準としてスイッチ3を作動させることにより、固体電解質層33に含まれるLi7P3S11が組成変更して硫化水素発生量の発生するリスクが高まることを予防することができる。
続いて、電池保護回路2は再度、全固体リチウム二次電池1の温度を読み込み(ステップS104)、読み込んだ全固体リチウム二次電池1の温度T´が、温度T1´に比べて大きいか否かを判断する(ステップS105)。ここで、温度T1´はヒューズ5の切れる温度であり、ヒューズ5がスペックとして固有に有する温度値である。
全固体リチウム二次電池1の温度T´が、温度T1´に比べて低い場合(ステップS105:NO)、処理はステップS104に戻り、ステップS105が再度実行される。一方、全固体リチウム二次電池1の温度T´が、温度T1´に比べて高い場合(ステップS105:YES)、ヒューズ5が自動的に切れることにより、全固体リチウム二次電池1の充放電が完全に遮断される(ステップS106)。
つまり、ステップ104からステップ106の各ステップは、実際には電池保護回路2による制御ではなく、ヒューズ5そのものの特性に基づいて実行される。即ち、全固体リチウム二次電池1の温度が温度T1´を超えた場合には、自動的にヒューズ5が切れることによって、全固体リチウム二次電池1の充放電が完全に遮断されることとなる。このように、ステップS103においてスイッチ3が制御されることによって、全固体リチウム二次電池1の温度上昇が抑制できなかった場合には、ヒューズ5が作動することによって、確実に全固体リチウム二次電池1の充放電経路を切断することによって、全固体リチウム二次電池1の温度上昇を抑制することができる。
尚、ヒューズ5が作動する温度T1´は、スイッチ3が作動する温度であるT1に比べて同等若しくは若干高温側に設定されるとよい。ヒューズ5が作動する温度T1´が第1温度閾値T1より高温側に設定された場合、スイッチ3によって全固体リチウム二次電池1の温度上昇が抑制できなかった場合に、ヒューズ5を作動させることが可能となる。
その後、電池保護回路2は再度、全固体リチウム二次電池1の温度を読み込み(ステップS107)、読み込んだ全固体リチウム二次電池1の温度T´´が、第2温度閾値T2に比べて大きいか否かを判断する(ステップS108)。ここで、第2温度閾値T2は「第2閾値」の一例であり、本発明に係る「第1閾値」の一例である第1温度閾値T1に比べて高温側に設定されている。
全固体リチウム二次電池1の温度T´´が、第2温度閾値T2に比べて低い場合(ステップS108:NO)、即ち上記制御により全固体リチウム二次電池1の温度の上昇が効果的に抑制されていることが確認できた場合、電池保護回路2はステップS107に処理を戻し、再び全固体リチウム二次電池1の温度を読み込んだ後(ステップS107)、ステップS108を実行する。
一方、全固体リチウム二次電池1の温度T´´が、第2温度閾値T2に比べて高い場合(ステップS108:YES)、即ち、上記制御にもかかわらず依然として全固体リチウム二次電池1の温度上昇が効果的に抑制されなかった場合、電池保護回路2は告知信号を出力することによってミルランプ4を点灯する(ステップS109)。このミルランプ4が点灯することにより、ユーザは全固体リチウム二次電池1の固体電解質層33に含まれているLi7P3S11が組成変更を生じたことを認識することができる。
尚、全固体リチウム二次電池1の温度T´が第2温度閾値T2を一度超えた場合、その後にユーザが適切な処置を行うこと等によって、固体リチウム二次電池1の温度が第2温度閾値T2以下になったとしても、電池保護回路2は告知信号を出力し続けるので、ミルランプ4は点灯したままの状態に保持される。つまり、ミルランプ4の点灯状態は、全固体リチウム二次電池1の固体電解質層33の温度が過去に第2温度閾値T2に達したという事実の存在を表す情報をユーザに告知することとなる。
尚、上述の第1温度閾値T1及び第2温度閾値T2は、夫々、理論的、実験的若しくはシミュレーション的な各種方法によって予め設定されており、当該電池に付属して設けられた図不示の記憶手段(例えばメモリ)に記憶されている。
以上説明したように、本実施形態に係る電池システム100によれば、硫化物系電解質含有層を備える全固体リチウム二次電池において、硫化水素の発生を効果的に抑制することができる。