プラスチックフィルム等の電気絶縁性シートにおける帯電は、シートを加工する工程において、所望の加工を阻害することがある。その結果、加工製品の品質が、期待通りのものとならない場合がある。例えば、静電気放電に起因するスタチックマークと呼ばれる局所的に強い帯電や放電痕が存在するシートに印刷や被膜剤塗布の加工を施した場合、得られた加工製品は、インクや被膜剤のムラを有するものとなる。コンデンサ用や包装用等の金属被覆フィルムの製造工程においては、真空蒸着やスパッタリング等の被膜加工後に、加工製品にスタチックマークが現れることがある。スタチックマークなどの強い帯電は、静電気力によるフィルムの他部材への密着をもたらし、搬送不良や位置あわせ、カットシートのつきそろえ不良など様々な問題を発生させる原因となる。
かかる問題を回避するために、従来、接地されたブラシ状の導電体を帯電した電気絶縁性シートに接近させ、ブラシ先端でコロナ放電を発生させて除電する自己放電式除電器や、針状電極に商用周波数の高電圧や直流高電圧を印加してコロナ放電を発生させて除電する交流式や直流式の電圧印加式除電器が使用されている。
以下、コロナ放電を利用する従来の除電方法を説明する。図1は、従来の電気絶縁性シートの除電方法の原理を示す図である。図1において、除電器1は、交流電源1aに接続されたイオン生成電極1bとアース電極1cとによりコロナ放電を発生させ、イオン生成電極1b近傍に正イオン301および負イオン302を発生させる。この正負のイオンのうち、正のイオン301が、電気絶縁性シートSの負の静電荷102との間に働くクーロン力700により、シートSに引き寄せられ、負の静電荷102と平衡する。これにより、電気絶縁性シートSの負の静電荷102は、除電される。
しかしながら、現実には、シートSの電荷は、この原理通りには除電されない場合が少なくない。写真用フィルムやコンデンサ用フィルム、磁気テープ用フィルム等に用いられるポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリプロピレンフィルム、アラミドフィルム等の電気絶縁性シートの表面固有抵抗および体積固有抵抗は、高い。従って、シートSに一旦帯電した電荷は、シートの面内あるいは厚さ方向に、ほとんど移動出来ない。そのため、多量の負電荷が蓄積されてシートSの電位が上昇すると、シートSとシートに近接する接地構造物(例えば、搬送ロール)との間で、放電が生ずることがある。表面固有抵抗および体積固有抵抗が高いシートでは、放電による電荷の移動はごく局所的部位にとどまるので、放電が発生した場合、局所的に負の静電荷が過剰に奪われ、正の静電荷をもつ部分が発生することがある。
この放電の痕跡である放電痕が、スタチックマークである。スタチックマークが発生すると、シートS上に正の静電荷101と負の静電荷102が混在する状況が生まれる。図2に示すように、繰り返し狭いピッチで生ずる正極性の帯電(正の静電荷101)と負極性の帯電(負の静電荷102)とが存在すると、すなわち、極性が異なる比較的高い電荷密度の帯電が互いに近接していると、シートSの電荷に起因する電気力線500が、極性の異なる帯電領域同士で閉じる現象が生じる。そのため、少し離れた位置にある除電器近傍のイオンに対し、クーロン力700がほとんど働かない状態が生じる。その結果、シートSにはイオンがほとんど引き寄せられなくなって、シートS上の静電荷101、102は、ほとんど除電されなくなる。
図3に示すように、シートSの両面に、正の静電荷101、201と負の静電荷102、202とが存在する場合もある。例えば、シートSの第1の面100に負の静電荷102が多量にあった場合に、シートと、シートの第2の面200に近接する接地構造物(例えば、搬送ロール)との間で放電が生じることがある。この時、シートSの第1の面100の負の静電荷102は、放電後もそのまま残り、また、この放電によって、シートSの第2の面200には、正の静電荷201を持つ部分が発生する。このような放電が、シートSの第1の面100と第2の面200との両方で起こると、シートSには、図3に示すように、両面のそれぞれにおいて、正極性と負極性の帯電領域が混在した状態が発生する。このような場合にも、シートSの電荷に起因する電気力線500は、第1の面100の負の静電荷102と第2の面200の正の静電荷201との間で閉じてしまうため、同じく除電器近傍のイオンに対し、クーロン力が働かず、必要なイオンを引き寄せることが出来ない。
すなわち、正極性と負極性の帯電領域が同一面内において狭いピッチで混在していたり、両面に混在していたりするといった細かい帯電模様を持つシートにおいては、電気力線500がシートSの近傍で閉じてしまう結果、シートSから少し離れた位置(除電器近傍)のイオン301、302に対するクーロン力700が小さく、イオンがシートSへ引き寄せられない。
このように、正極性と負極性の帯電領域が両面に混在しているシートの帯電状態における電荷密度の測定例が、非特許文献1に示されている。非特許文献1に説明されている測定例によれば、電気絶縁性シートであるフィルムの第1の面の電荷密度は、約−23μC/m2、シートの第2の面の電荷密度は、約+23μC/m2である。非特許文献1では、このようなフィルムの帯電状態を「両面両極性帯電」と呼んでいる。
一方、スタチックマークのような細かな帯電模様を持つシートの部位に対して、本発明者らが、後述の方法で、局所的な電荷密度を確認した。その結果、各面において、電荷密度が、局所的には、絶対値で数〜500μC/m2程度の部分が存在していることと、この部分において、面内方向の位置が同じ部位における両面の局所的な電荷密度の和(見かけ上の電荷密度)が、絶対値で1〜40μC/m2程度の部分が存在していることが判った。これらは、通常シートの製造工程中におけるシートの摩擦帯電により発生する平均的な電荷密度と比較して非常に大きな値である。なお、この平均的な電荷密度は、通常、絶対値で0.1〜1μC/m2程度とされている。
特に、スタチックマークなどの細かな帯電模様においては、各面の電荷密度(例えば、シートの第1の面100の電荷密度+500μC/m2、シート上の同じ位置の第2の面200の電荷密度−480μC/m2)の方が、見かけ上の電荷密度(上記例では、+20μC/m2)(通常、絶対値で1〜40μC/m2程度)より、はるかに大きい部位が多いことが判った。なお、本発明においては、シートにおける帯電量の分布状態を、主に局所的な電荷密度の分布を用いて評価している。特に断りのない限り、電荷密度とは、シートの局所的な電荷密度の値を意味する。以上の通り、スタチックマークのような帯電模様を持つシートおいては、シートの面内方向の位置が同じ部位の両面の電荷密度の和(見かけ上の電荷密度)の値と各面の電荷密度の値とは、大きく異なっている。
ここで、シートの面内方向の位置が同じ部位の両面の(局所的な)電荷密度の和は、その部位におけるシートの見かけ上の電荷密度(すなわち、厚さ方向の分布を無視した電荷密度)を意味する。この定義は、本発明において重要である。
見かけ上の電荷密度がシートの面内方向の各部位においてゼロである場合、シートは見かけ上の無帯電状態にあるように見え、非ゼロである場合、シートは見かけ上の帯電状態にあるように見える。非特許文献1に示されるように、フィルムなどの電気絶縁性シートが両面両極性帯電の状態にあることは、従来から知られていた。しかし、その電荷密度を局所的に調べた報告はなく、除電に関する説明は、シートの見かけ上の帯電を対象とするものであった。これに対し、本発明者らにより、絶縁性シートの除電の状態を検討する場合、シートの見かけ上の電荷密度と、各面の電荷密度の両方を検討することが本質的に重要であることが、明らかにされた。
かかる帯電模様を有する電気絶縁性シートを除電するためには、除電器からのイオンをシートSの帯電電荷によるクーロン力に依存することなく、シート近傍にまで、かつ、多量に照射するのが普通である。
かかる帯電模様を有する電気絶縁性シートの除電技術としては、図4に示すような除電器が知られている(例えば、特許文献1、参照。)。図4において、除電器2は、移動する電気絶縁性シートSを挟んで、対向して配置された、交流電源2aに接続された複数個の正負イオン生成電極2bと、交流電源2cに接続された面状の広がりを持つイオン吸引電極2dとからなる。除電器2は、正負イオン生成電極2bで正負イオンを生成しながら、イオン吸引電極2dに正負イオン生成電極2bとは正負が逆極性の高電圧を交互に印加し、正負イオン生成電極2bで生成した正負のイオンがイオン吸引電極2dで吸引されて、シートSに強制的に照射されるように操作される。
これにより、シートSに正負の電位が交互に誘起され、正負イオン生成電極2bからの正負のイオンがシートSの面に強制的に吸引されるので、細かい帯電模様をもつシートであっても除電が可能であるとされている。除電器2の除電作用は、複写機等に使用されている負極性のトナー粉(黒色の微粉末)をシートに静電気的に付着させることで確認できるとされている。
ここで、シートは薄い絶縁体であるため、トナー粉は、見かけ上の電荷密度が高い部分に付着する。すなわち、トナー粉が付着しないとは、シートが見かけ上の無帯電状態(見かけ上の電荷密度がほぼゼロの状態)であることを意味する。
しかしながら、このようにして除電を行い、見かけ上の無帯電状態となった電気絶縁性シートにおいても、その後のシートの加工時に、シートに金属蒸着や塗布等を行うと、元の帯電模様が再度発現することが、本発明者らにより、確認された。すなわち、特許文献1の除電器2では、シートの十分な除電効果が得られないことが明らかとなった。これは、インクや被膜剤のムラ、真空蒸着やスパッタリング等の被膜加工後のスタチックマークの発生、スベリ不良によるカットシートのつきそろえ不良等の問題が生じることで、確認される。これは、特許文献1における除電器が、先に述べた見かけ上の帯電のみを対象とした除電器であるために起こる本質的な問題である。
この問題を、図5〜7により説明する。なお、図5、図6では簡略化のために、正負イオン生成電極2bを1本のみ記載している。ここで、除電対象物であるシートS上には、各面100、200に正の静電荷101、201と負の静電荷102、202とが、図5に示すように混在していると仮定する。図5に示すように、正負イオン生成電極2bへの印加電圧が正、イオン吸引電極2dへの印加電圧が負の時、正負イオン生成電極2bによって生成された正イオン301は、正負イオン生成電極2bとイオン吸引電極2dとにより発生する電気力線500に沿って、シートS近傍へ引き寄せられ、シートSの第1の面100に付着し、シートSを正に帯電させる。
このとき、シートSの第1の面100に負の静電荷102がある部分があると、その部分に正イオン301がその周囲より選択的に多く引き寄せられ、これを除電する。これは、シートSの近傍まで正イオン301が搬送され、シートSの近傍で閉じている電荷101、102、201、202による電気力線500の形成される空間に入ったことで、正イオン301に対して、これらの電荷との間でクーロン力700が働くためである。
図5に示すように、シートSの各面100、200に正負の静電荷101、102、201、202が混在している場合、見かけ上の電荷密度が、負となっている位置に正イオン301が多く引き寄せられる。つまり、面内方向における位置が同じ位置のシートSの第1の面100に正の静電荷101が存在しないか、正の静電荷101が存在しても第2の面200の負の静電荷102よりも少ない場合、シートSの第1の面100に負の静電荷102がある位置だけでなく、シートSの第2の面200に負の静電荷202がある位置でも正イオン301が引き寄せられる。
次に、図6に示すように、正負イオン生成電極2bへの印加電圧が負(イオン吸引電極2dへの印加電圧が正)に転じると、正負イオン生成電極2bによって生成された負イオン302は、正負イオン生成電極2bとイオン吸引電極2dとにより発生する電気力線500に沿って、シートS近傍へ引き寄せられ、シートSの第1の面100に付着し、シートSを負に帯電させる。
このとき、シートSの第1の面100に正の静電荷101があると、その部分に負イオン302がその周囲より選択的に多く引き寄せられ、これを除電する。ここでも、シートSの見かけ上の電荷密度が正となっている位置に負イオン302がより多く引き寄せられる。従って、面内方向における位置が同じ位置のシートの第1の面100に負の静電荷102が存在しないか、負の静電荷102が存在しても第2の面200の正の静電荷201よりも少ない場合、シートSの第1の面100に正の静電荷101がある位置だけでなく、シートSの第2の面200に正の静電荷201がある位置でも負イオン302が引き寄せられる。正負イオン生成電極2bが複数個、シートの移動方向に並べられているので、この繰り返しにより、シートSの第1の面100(図5、図6の上側の面)には、次々に正、負イオン301、302が照射され、シートSが正負に帯電させられながら、それにともない見かけ上の帯電と逆極性のイオンが選択的に引き寄せられ、見かけ上の除電がなされてゆく。
なお、正、負イオン301、302の照射量は、個々の正負イオン生成電極2bの能力差、印加電圧位相等によって異なるため、シートSの各部における正負イオンの照射の総量にはバラツキがあり、シート上に正負の巨視的な帯電ムラが生じる(特許文献1の図18参照)。なお、巨視的な帯電ムラは、見かけ上の帯電のムラであり、その状態は、たとえば、トナー粉により確認できる。
これは、正(または負)イオン301(302)が正負イオン生成電極2bとイオン吸引電極2dとにより発生する電気力線500に沿ってシートSに強制照射されるために発生するものである。正負イオン生成電極2bへの印加電圧が時間的に交互に変化することによって、シートS上に周期的な正負の帯電のムラが生じる。この周期は、印加電圧の周期とシートの移動速度等によって決まる。この帯電ムラは、シートSの第1の面100のみに現れる。これは、シートSの第1の面100側からのみ正負イオン301、302が照射されるからであって、この状態は、シートが見かけ上の帯電状態にあることを示す。
この巨視的な帯電ムラを除電するために、特許文献1における除電器2は、図4に示す直流及び交流除電器2e、2fを必要としている。この巨視的な帯電ムラは、これらの直流及び交流除電器の印加電圧、設置位置等の条件を適正化すれば、除電可能であるが、直流および交流除電器を用いずにシートを巻き取ると、シート上に放電が生じるおそれがあるほど強い帯電である。特許文献1における除電器2は、このような直流および交流除電器を必要とするために、装置の大型化、高コスト化を招くとともに、既設のシート製造装置に付加することが困難である。
一方、直流および交流除電器2e、2fによって巨視的な帯電ムラが除電されたシートの帯電状態は、図7に示すようになる。ただし、図7は、直流および交流除電器2e、2fの電圧や配置等を適正化し、シート上の巨視的な正負の帯電ムラを除電した場合の図である。図7に示すように、シートS上の電荷は、両面でバランスしていて、シートSは、見かけ上の無帯電状態に見えるが、シートSの各面にはほぼ等量の正負の電荷が残存している。
これは、正負イオン生成電極2bが、シートSの第1の面100(図5では上面)の側にのみ配置されるため、除電中のどの時点においても、シートSの第2の面200(図5では下面)の電荷を減ずることが出来ないために起こる。この現象は、直流および交流除電器2e、2fが用いられる場合にも、生じる。結果的に、シートSの第1の面100の電荷密度も、第2の面200が除電前に持っていた電荷密度とバランスする状態、すなわち、見かけ上の電荷密度がゼロの状態までしか除電出来ないということである。
本発明者らが後述の方法で、この従来の除電器2によって除電されたシートの各面に残存する電荷密度を測定したところ、第2の面200のスタチックマーク部分の電荷密度は、除電前とほぼ同じ、すなわち、絶対値で数10〜500μC/m2程度であった。第1の面100の同じ位置(スタチックマーク部分)の電荷密度は、第2の面200と逆極性で絶対値がほぼ等しい、すなわち、逆極性で絶対値が数10〜500μC/m2程度であった。
すなわち、各面の電荷密度を減じるという効果から見ると、見かけ上の電荷密度(絶対値で数乃至10μC/m2)の部分のみしか除電されておらず、第1の面100の電荷密度の1割以下しか除電効果が得られていないといえる。むしろ、除電前における第2の面200の電荷密度の絶対値が第1の面100の電荷密度の絶対値に比べて大きいシート上の部位では、除電後の第1の面100の電荷密度の絶対値が、第2の面200の電荷密度の絶対値と等しくになる分だけ増加するという現象も確認された。この第1および第2の面100、200にそれぞれ残存する電荷が、被膜剤のムラや被膜加工後のスタチックマークの発生、スベリ不良などの問題の原因であることが判った。
この問題は、シートの片面の側からの除電による本質的な問題であり、いかに直流および交流除電器2e、2fの電圧や配置等を適正化しようとも解消出来ない。直流および交流除電器2e、2fは、見かけ上の巨視的な帯電ムラを見かけ上のゼロに除電する為のものである。
仮に、特許文献1における除電器(図4の除電器2)をシートの移動方向に2個、正負イオン生成電極2bとイオン吸引電極2dとの位置関係がシートの面に対して逆になるようにして並べ、シートの第1の面100の側からイオンを照射した後、更に第2の面200の側からイオンを照射したとしても、各面に存在する電荷を減少させる効果はない。これは特許文献1における除電器(図4に示される除電器2)が、先に述べたように見かけ上の帯電のみを対象とした「見かけ上の除電」用の除電器であるためである。既に第1の面100の側から除電を行ったことで「見かけ上の除電」が完了した後において、第2の面200の側からの除電を行っても、その操作は、全く意味をなさない。
これに対して、図8に示すように、イオン生成用電極とイオン加速用電極を対向配置したイオン照射装置を、電気絶縁性シートの第1の面100の側と第2の面200の側に、交互に配置した除電器が知られている(例えば、特許文献2、参照)。
この従来の除電器3は、移動する電気絶縁性シートSの第1の面100の上方位置に設けられ、交流電源3aに接続されたイオン生成用電極3bと、移動する電気絶縁性シートSの第2の面200の下方位置に設けられ、交流電源3cに接続されたイオン加速用電極3dとからなる。イオン生成用電極3bとイオン加速用電極3dとは、移動する電気絶縁性シートSを挟んで対向して配置されている。
シートSの第2の面200の下方位置で、イオン加速用電極3dの横に配置され、交流電源3eに接続された次段のイオン生成用電極3fと、シートSの第1の面100の上方位置でイオン生成用電極3bの横に配置され、交流電源3gに接続された次段のイオン加速用電極3hとが対向して配置されている。
この装置において、イオン生成用電極3bに交流高電圧が印加されることにより、イオンが生成されるとともに、イオン加速用電極3dに、イオン生成用電極3bに印加される極性とは逆極性の交流高電圧が、交互に印加される。イオン生成用電極3bで生成されたイオンは、イオン加速用電極3dで加速・吸引され、シートSの第1の面100に強制的に照射される。その後、イオン生成用電極3fに、イオン生成用電極3bとは逆極性の交流高電圧が電圧が印加されて、イオンを生成させながらイオン加速用電極3hにイオン生成用電極3fとは逆極性の高電圧が、交互に印加される。イオン生成用電極3fで生成されたイオンは、イオン加速用電極3hで加速・吸引され、シートSの第2の面200に強制的に照射される。
これによれば、電気絶縁性シートの両方の面からイオンが強制的にシートに照射されるので、細かい帯電模様を持つシートであっても、そのシートの除電が可能であるとされている。
なお、この装置では、イオン加速用電極3d、3hには、それぞれと対向配置されたイオン生成用電極3b、3fに印加されているのと逆極性の高電圧が、それぞれ、印加されている。しかし、この特許文献2の図4、5に形状が、図9にイオンの挙動が示されている通り、電極形状は、イオン生成可能には構成されていないので、イオンは生成されない。この特許文献2で、これらが「イオン加速用電極」と呼称されているのはこのためである。このような構成であるから、第1の面100と第2の面200へのイオンの照射は、同時にではなく、交互に行われる。
本発明者らの知見によると、このように電気絶縁性シートには各面から交互にイオンが照射されるため、特許文献2の除電器は、基本的には、先に述べた特許文献1の除電器(図4の除電器2)をシートの移動方向に2組、除電面と非除電面とをそれぞれ逆にして並べた場合と変わりはない。すなわち、最良の形態においてさえ、除電開始前に各面に存在していた電荷密度の分布に大きな変化を与えずに、単に、見かけ上の電荷密度をゼロとするのに必要な電荷量のイオンを供給するにとどまる。言い換えると、スタチックマークのような細かな帯電模様が存在する部位においては、第1の面のスタチックマークとちょうど帯電極性が反対の帯電パターンが第2の面に形成されることで見かけ上の除電がなされているに過ぎない。すなわち、特許文献2の除電器においても、細かな帯電模様を形成している各面の帯電電荷を大きく減ずる作用は得られない。
このことを更に詳しく説明する。特許文献2の除電器(図8の除電器3)によるシートSの各面の電荷(スタチックマークなど局所的に強い電荷、特に、シートの両面の逆極性の電荷)の除電能力に関しては、次のことがいえる。
ここで、図9に示すように、第1の面100に多量の正の静電荷101、第2の面200に多量の負の静電荷202が存在するシート上の部位を除電することを考える。もし、シートSの第1の面100に近接する1番目のイオン生成用電極3bによって、負イオン302がシートSの第1の面100に十分に照射され、この後に第2の面200に近接する2番目のイオン生成用電極3fによって正イオン301がシートSの第2の面200に十分に照射されるのであれば、シートSの各面の帯電を除電することが可能となる。
しかし、実際に各面が逆極性に強く帯電しているシートSにおいて、シートSの第1の面100の側から、図9に示すように、負イオン302を照射した場合、第1の面100の正の静電荷101が除電されることにより、図10に示すように、第1の面100の正の静電荷101に対して、第2の面200の負の静電荷202が過剰となる。第1の面100の正の電荷密度の絶対値に対して、第2の面200の負の電荷密度の絶対値が、例えば、僅か1μC/m2多いシート上の部位は、1番目のイオン生成用電極3bとイオン加速用電極3dとの間の空間中におかれている場合に、−10〜−100kV程度の電位を有すると計算される。この値は、1番目のイオン生成用電極3bとイオン加速用電極3dとの間の空間中におかれたシートSの静電容量を10〜100pF程度とした場合の値である。
この過剰となった負の静電荷によって、シート近傍において、負イオン302は、シートSから遠ざけられる方向へのクーロン力700を受け、十分に、シートSの正の静電荷101のある部分に到達出来ない。2番目のイオン生成用電極3fによって、シートSの第2の面200に正イオン301を照射する場合も同じで、第1の面の正の静電荷101が過剰となり、正イオン301の到達量が減少してしまう。
このように、シートSの各面が、絶対値で数10〜500μC/m2程度に帯電していても、到達出来るイオンの単位面積あたりの量は、僅かに絶対値で1μC/m2程度にも満たないほどであって、スタチックマークなどの強い帯電を持つシートSに対し、各面の帯電電荷を除電する能力は、ほとんどない。なお、シート上の見かけ上の電荷密度が非ゼロであった部位については、この非ゼロの分の電荷を除電することは、ある程度可能である。
ここで、特許文献2に示す除電器において、イオン生成用電極3bとイオン加速用電極3dを対向配置したイオン照射装置をシートSの各面に交互に配置した後に、シートSの第1の面100の側および第2の面200の側に、それぞれ1つずつのイオン生成用電極同士を対向配置する構成が、特許文献2の図2に示されている。この後段に設けられるイオン生成用電極は、残留電荷(図4の除電器2による巨視的な見かけ上の帯電のムラと同種の電荷)の除電を目的として設置されている。しかし、この後段に設けられるイオン生成用電極同士の対向配置の構成(寸法や印加電圧等)については、特許文献2に、何ら開示されていない。
例え、本発明者ら知見に基づいて、対向配置されたイオン生成電極に、適切と思われる電圧を印加したとしても、十分な除電効果を得ることは困難である。すなわち、例えば、シートSの第1の面100の側に置かれたイオン生成用電極から正イオンを照射し、第2の面200の側に置かれたイオン生成電極から負イオンを照射するとすると、第1の面100が負、第2の面200が正に帯電しているシート上の部位に対しては、除電効果が得られる。しかし、第1の面100が正、第2の面200が負に帯電しているシート上の部位に対する除電効果は得られない。
シートSの各面の帯電は、それぞれ正負が混在していることが多いため、シートSの各面の各部位の帯電電荷を減少させることは出来ない。除電出来る部分と除電出来ない部分とが発生する。むしろ、シートSの各面の帯電の極性と、各面に照射されるイオンの極性が同じ場合には、帯電電荷を増加させることもありうる。イオン生成用電極に印加する電圧が低周波数の交流の場合には、シートSの移動方向に、この除電効果のムラやイオン照射のムラが現れる。一方、イオン生成用電極に印加する電圧が高周波数の交流の場合には、シートSの移動方向の除電効果のムラは小さい。
しかし、イオン生成用電極に印加する電圧が高周波数の交流の場合には、次に述べる複写機用の除電器同様、イオン生成用電極から生成される正負のイオンが、シートSに到達する以前に混ざり合って再結合するため、シートSに到達するイオン量が著しく減少する。そのため、除電効果自体が小さい。このように、仮に、各部の寸法や印加電圧等を本発明者らの知見に基づいて調整したとしても、シートSの第1の面100の側および第2の面200の側に、それぞれ1つずつの(1組の)イオン生成用電極を配置しただけでは、シートSの移動方向の位置によるムラなく、両面で正負混在した帯電を除電するのは困難である。
一方、帯電物を挟んで両側に除電器を対向配置する構成をとるものとして、図11に示す複写機の転写材担持シートおよび転写材(用紙)除電用除電器4が知られている(例えば、特許文献3、特許文献4、参照。)。
図11は、特許文献3に示される複写機全体の図である。図11において、Aは、感光ドラム上へのトナー像形成のための部分を示し、Bは、転写材4aの供給部を示し、Cは、転写ドラムに巻装された転写材担持シート4b上で転写材4aへトナー像を転写する部分を示し、Dは、転写材担持シート4bからトナー像を転写された転写材4aを剥離する部分を示す。その細部については、本発明と全く関わりのないので、説明を省略する。
図11の除電器4において、帯電物である転写材4aと転写材担持シート4bとを挟み、外側に位置するワイヤコロトロン電極を用いたコロナ放電器4c、4dと、内側に位置するワイヤコロトロン電極を用いたコロナ放電器4e、4fとが、内外で対向する形に配置されている。その目的の第1は、転写材担持シート4bからの転写材4aの剥離性を高めることにあり、第2は、転写材担持シート4bの電位の初期化をすることにある。
このため、第1の目的を達成するために、コロナ放電器4c、4dに、交流電圧(500Hz、9.6kV)を印加し、コロナ放電器4eにDC電圧(−4kV)をパルス状に印加し、コロナ放電器4fにコロナ放電器4cおよび4dと180°位相の異なる電圧を印加する。なお、コロナ放電器4eにDC電圧を印加するのは、対向するコロナ放電器4fに印加された交流電圧にバイアスとしてのDC電圧を重畳印加する代わりに、放電器をコロナ放電器4fとコロナ放電器4eとに分離するためである。
これにより転写材4aと転写材担持シート4bの平均的電位を低減出来る。転写材4aは、前工程において、正に帯電しているため、DC電圧として負電圧が使用されるため、転写材担持シート4bの剥離性が向上する。第2の目的を達成するために、コロナ放電器4d、4fに、AC電圧のみを印加する。転写材担持シート4bの帯電に関して、外面と内面の帯電をそれぞれ除電する必要なく、外面と内面の帯電がバランスし、見かけ上の電位がほぼゼロとなれば、その目的を達しうる。
以上から明らかなように、特許文献3に記載の技術は、正極性と負極性の帯電領域が同一面内において狭いピッチで混在していたり、両面に混在している細かい帯電模様を持つシートの除電を目的とするものではない。なお、複写機における転写材である紙には、この種の帯電模様は発生しにくい。
このように高い周波数を用いる場合、上下電極間の電界によってシートに強制的にイオンを照射する能力は、ほとんどない。コロナ放電器4dおよびコロナ放電器4fにより生成された正および負イオン301、302は、コロナ放電器4dとコロナ放電器4fとの間の間隙で正負が混じり合ってしまう。この間隙の大きさは、特許文献3に明確に記載されていないが、複写機における除電器においては、他の関連文献等により、通常、20mm程度であり、特許文献4によれば、22mmとされている。
すなわち、上記のような20mm程度の電極間隔で、500Hzといった高い周波数の交流電圧を印加しているため、単一の極性のイオン雲を形成することが出来ない。周波数が高いため、正負イオン301、302が、第1の面100の側と第2の面200の側とのそれぞれで、シートに到達する前に混じり合う。そのため、シートを強制的に正負いずれかの極性に帯電させることは少ないが、再結合により、ほとんどの正負イオン301、302が消滅し、除電に寄与出来るイオンが著しく少なくなるのである。つまり、特許文献3や特許文献4に示される除電器は、シートを挟んで、コロナ放電器4dとコロナ放電器4fとを対向して配置させてはいるが、シート近傍にまで強制的に多量のイオンを照射することは、ほとんど出来ない。
結果的に、これらの複写機用の除電器は、図2、図3に示される除電器1同様に、正極性と負極性の帯電領域が同一面内において狭いピッチで混在していたり、両面に混在しているシートの各面の帯電を除電する能力に著しく劣るのである。これは、シートの移動速度がせいぜい数〜10数m/分程度と遅く、かつ、各面の細かな帯電模様を除電する必要がない転写材や紙のみに適用しうる技術であって、このような除電技術は、シートの移動速度が50〜500m/分程度と速く、各面における細かい帯電模様の除電を必要とする、プラスチックフィルム等の除電技術として、そのまま適用することは出来ない。
また、特許文献3や特許文献4に示される複写機用の除電器において、除電対象物である転写材や紙は、その幅がせいぜい500mm程度であり、電極の振動や強度、たるみなどを考慮する必要があまりない。このため、シートの幅方向に延在するワイヤに高電圧を印加して、そこからの放電によって、イオンを発生させるワイヤ電極を使用している。しかし、プラスチックフィルム等を除電対象物とした場合、その幅は、小さいものでも1m程度、大きい物では7m程度になる。ワイヤ電極では、このような広幅物を対象とした場合に、電極の振動や、両端間でのたるみによって、放電強度にシート幅方向のムラ等が発生してしまう。
例えば、コロナ放電器4dとコロナ放電器4fとの間の距離を更に短くしたり、印加電圧を上げる、周波数を低くする等を行うことにより、除電対象物(シート)へのイオン照射量を増加させようとした場合、ワイヤの振動が大きくなったり、また、ワイヤの平行度やたるみなどによって、対向するワイヤ間の距離が最も小さい部分に、放電が集中するなどして、対象物の全幅に亘る安定な除電効果が得られないのである。更に、電圧を上げた場合には、コロナ放電器4dとコロナ放電器4fの放電電極(ワイヤ電極)間や、放電電極とシールド電極との間で、火花放電が発生してしまい、十分な除電能力を得られない。
特許文献3や特許文献4に示される複写器用の除電器においては、コロナ放電器同士は対向構成をとっているものの、その除電の原理は、電気絶縁性シートの法線方向の強い電界によってイオンを強制的にシートに照射するものと全く異なる。従って、シートの移動方向における除電効果のムラは、発生し難く、これに対する対策は、何ら検討されていない。例えば、特許文献3に示される除電器(図11の除電器4)では、対向するコロナ放電器が2組、除電対象物(転写材および紙)の移動方向に並設されているが、これは先に述べたように、剥離性と、電位の初期化という異なる機能を持たせるためのものであって、シートの移動方向における除電効果のムラなどに対し、何らかの効果を期待して設けられたものではない。
ところで、近年、電気絶縁性シート、例えば、ポリエステルフィルムは耐熱性、耐薬品性、機械的特性において優れた特性を有することから、磁気記録材料、各種写真材料、電気絶縁材料、各種工程紙材料として多くの用途に用いられている。このため、用途毎に適した表面特性が必要になり、シート表面には、各種の被覆物が形成されている。例えば、磁性体塗料やインク塗料、易滑性塗料、離型性塗料、ハードコート塗料等が、シート表面に薄く塗布され、コーティング膜を形成している。
このようなコーティング膜を形成するコーティング塗工工程においては、ロールコーターやグラビアコーター等の各種塗工装置に、除電装置を取り付け、コーティング開始前に、電気絶縁性シートの帯電を除電すること、または、コーティングした後、塗料であるコーティング液が乾燥する前に、シートとコーティング液とを一体で除電することが提案されている(例えば、特許文献5、特許文献6、参照。)。塗布ムラの発生しないためのシートの帯電量として、特許文献5では、シートの表面電位が0〜80Vであることが、また、特許文献6では、シートの表面電位が0〜2kVであることが、好ましいとされている。
これらの従来技術において、表面電位は、シートが空中を搬送されている状態において測定された値である。以下、この表面電位を、架空時電位と呼ぶ。シートが空中を搬送されている状態においては、接地構造物との距離に対して、シートの厚さは十分小さいため、シートの第1の面と第2の面の電荷を区別することなく、電荷の総和による表面電位が測定される。すなわち、これらの従来技術における架空時電位は、見かけ上の帯電(見かけ上の電荷密度)に関係するものである。従って、従来技術において、シートの各面の電荷密度は、何ら考慮されていない。
この架空時電位を測定するのに使用される一般の表面電位計の視野は、通常、数10mm以上数10cm以下を直径とする略円状の面積部分であり、測定される電位の値は、この視野における電位の平均値として検出される(例えば、非特許文献2、参照)。電気絶縁性シート特有の正負が入り交じった緻密な帯電模様では、正と負の帯電が、この視野の範囲内で平均化されて、架空時電位は、ほぼゼロに見えてしまうことがある。
これらを原因として、従来技術において示される架空時電位が低いシートであっても、実際には、シート上に正と負の帯電電荷が多数存在することがあり、この場合に、コーティング膜に塗布ムラが発生するのである。
以上の通り、上で述べた正極性と負極性の帯電領域が同一面内において狭いピッチで混在していたり、両面に混在しているシートの帯電を、架空時電位で管理しても、その管理は十分ではなく、まして、コーティングした場合の塗布ムラを防止することは、到底出来なかった。
次に、シート両面が逆極性に、等量帯電した見かけ上の無帯電のシート(この場合、架空時電位もゼロとなる)が、なぜ問題になるのか、塗布ムラがなぜ発生するのか説明する。
塗布工程においては、例えば、ロールコーターでは、シートは、例えば、第2の面がバックアップロールに密着した状態で走行する。この状態において、コーターロールで、シートの第1の面は、塗工される。バックアップロールにシートを密着させることによって、安定な走行が確保されるとともに、塗工を安定させ、均一な膜厚を有する塗膜が形成される。バックアップロールの材質には、機械的な精度が要求されること、耐磨耗性等の耐久性が必要なことから、金属材料が使用されることが多い。よって、シートは、バックアップロールの金属面に、その一方の面において、密着せしめられ、もう一方の面において、コーティング膜の塗工を受ける。
ここで、シートの第1の面と第2の面とが等量で逆極性に帯電したシート(見かけ上の無帯電のシート)の場合を考える。金属面に接触したシート面(第2の面)の電荷により、導体である金属表面に等量で逆極性の電荷が誘導される。第2の面の電荷は、この逆極性の誘導電荷により見かけ上相殺される。一方、コーティング塗工面(第1の面)の電荷に対しても、金属表面に逆極性の電荷が誘導されるが、金属面から遠い分だけ、誘導される電荷の量が少ない。従って、第1の面の電荷は、逆極性の誘導電荷によって、完全には相殺されず、コーティング塗工面(第1の面)に電荷が顕在化した状態になる。
こうして、「見かけ上の無帯電」のシートは、塗工中、バックアップロール上で、第1の面の電荷が顕在化するために、塗布ムラが発生するのである。すなわち、見かけ上の無帯電のフィルムであっても、シートの各面に電荷が存在する限り、塗布ムラが発生し得るのである。この現象は、塗工後の搬送ロールや乾燥ロールにおいても同様に生じる。
以上の通り、従来技術のようにシートの架空時電位を低く抑えても、また、見かけ上の帯電で管理しても、従来技術では、塗布ムラの防止を行うことが出来ない。
以下、図面を用いて、本発明の最良の実施形態の例を、電気絶縁性シートとしてプラスチックフィルム(以下、単に、フィルムという)を用いる場合を例にとって、説明する。本発明は、これらの例に限られるものではない。
本発明において除電の効果を判定するに当たっては、除電後のフィルムの各面(表面と裏面、あるいは、第1の面と第2の面)の電荷密度の絶対値が、除電前の各面の電荷密度の絶対値に対し、10μC/m2以上低下している場合を、「両面両極性帯電した各面電荷の除電」効果が高いと判定している。あるいは、除電後のフィルムの各面の電荷密度の絶対値が、除電前の各面の電荷密度の絶対値の1/3以下である場合を、「両面両極性帯電した各面電荷の除電」効果が高いと判定している。その理由は、従来の除電技術による除電である「見かけ上の除電」においては、両面両極性帯電の電荷密度の低下が、ゼロ、もしくは、高々絶対値で1μC/m2であることによる。また、除電後のフィルムの各面の電荷密度が、それぞれ−30μC/m2以上+30μC/m2以下であれば、「見かけ上の無帯電」状態ではなく、「実質的な無帯電」状態と判定される。
フィルムの第1の面100の電荷の存在は、例えば、次の方法にて確認することが出来る。もちろん、第2の面200の電荷の存在も、同様にして、確認することことが出来る。
[第1の確認方法]
フィルムの第2の面200を接地導体に密着させた状態で、第1の面100の背面平衡電位Vfを測定する。測定された背面平衡電位Vfと電荷密度σの間には、σ=C×Vf、ここで、Cは単位面積当たりの静電容量、の関係が成り立つ。電位計センサをフィルムに2mm程度まで十分近接させることにより測定されるVfの値は、第1の面100におけるセンサ直下の局所的電荷によりもたらされる。
フィルムの厚さが薄い場合には、単位面積当たりの静電容量Cは、平行平板の単位面積当たりの静電容量C=ε0εr/df、ここで、ε0は真空中の誘電率:8.854×10−12F/m、εrはフィルムの比誘電率、dfはフィルムの厚さ、により求められる。これにより、第1の面におけるセンサ直下の局所的な電荷密度を求めることが出来る。この方法は、非破壊での帯電確認方法であるため、導体に密着させる面を反対にすることにより、フィルムの他の面の電荷密度も確認出来る。
このとき、導体に密着させたフィルムと電位計センサとを、その間隔を保ったまま、フィルムの面内方向に相対的に移動させれば、フィルムの第1の面100の電荷密度の分布を測定することが出来る。
[第2の確認方法]
フィルムの第2の面200を導体に密着させた状態で、第1の面100にトナー粉をふりかける。導体としては、金属の板や金属ロールなどを使用することが出来る。フィルムのコシが弱く、シワなどにより金属板への密着が難しい場合などは、導体として導電性液体を染み込ませた布、紙等を使用すると良い。この方法では、トナー粉をふりかけるため、フィルムに対しては破壊検査となるが、除電の効果を確認するには簡便な方法である。トナー粉としては、負極性のトナー粉のみを使用してもよいが、正負両極性の2色のトナー粉を使用してもよい。
[第3の確認方法]
フィルムの第2の面200の電荷のみを電荷中和する処理を施し、その後、第1の面100にトナー粉をふりかけ、第1の面100の電荷を確認する。第2の面200の電荷のみを電荷中和する処理方法としては、次の二つの方法が例示される。第1の電荷中和処理方法は、フィルムの第2の面200に、金属膜の蒸着を施す等して、第2の面200に導電性膜を設ける方法である。第2の電荷中和処理方法は、フィルムの第1の面100を導体に密着させた状態で、第2の面200に極性溶媒を塗布した後、乾燥させ、第2の面200の電荷のみを中和する方法である。極性溶媒による電荷の中和に関しては、イソプロピルアルコールなどの作用が、知られている(例えば、非特許文献3、参照。)。
フィルムの第1の面100が導体に密着した状態で、第2の面200に対して、極性溶媒を塗布する。この時、フィルムの第1の面100の電荷は、導体に誘導される逆極性電荷とバランスし、第2の面200の電荷は、極性溶媒に誘導される逆極性電荷とバランスする。このフィルムを乾燥すると、極性溶媒に誘導された逆極性電荷によって、第2の面200の電荷が中和処理される。中和処理が完了した後に、フィルムを導体から剥離すると、導体に誘導されていた逆極性電荷が無くなるため、結果的に、第1の面100の電荷のみが残存するフィルムが得られる。この手法は、本発明者らにより案出された片面にのみ電荷が存在するフィルムの簡便な作成方法である。
この方法によれば、常温、常圧の雰囲気中で、簡便、迅速に、フィルムの帯電状態の把握が出来る。電荷が存在する面へのトナーの付着感度も高いため、この方法が、推奨される。極性溶媒としては、取り扱いが容易で乾燥が早いエタノールやイソプロピルアルコール等がある。極性溶媒は、布などで拭くようにして塗布し、その後、乾燥するのが好ましい。
一方、金属等の導電性物質が蒸着されているフィルムについては、この蒸着フィルムをそのまま、非蒸着面の帯電状態の評価用のサンプルとして使用することが出来る。
これらの場合においても、帯電状態の把握は、負極性のトナー粉、あるいは、両極性の2色のトナー粉を使用して行われる。
本発明者らは、これらのフィルムの帯電状態の把握手法を利用して、フィルムの帯電状態を確認するとともに、フィルムに塗布材料を塗布したときの塗布材料の塗布ムラの発生問題や塗布材料が部分的にはじかれ塗布材料が付着しない個所の発生問題、あるいは、フィルムを複数枚重ねたときに発生するフィルムのスベリによる複数枚のフィルムの端辺の位置が不一致となる問題(つきそろえ不良問題)の発生メカニズムの検討を行い、帯電による後加工工程での問題を抑制し得るフィルムの好ましい帯電の状態を見出した。フィルムの帯電の状態の態様が、次に説明される。
[帯電状態の態様A]
フィルムの両面の帯電がバランスし、見かけ上の無帯電状態。すなわち、上記第1の確認方法による電荷密度の評価において、見かけ上の電荷密度が、−2μC/m2以上+2μC/m2以下である状態、あるいは、トナー粉がつかない状態。
[帯電状態の態様B]
フィルムの各面に存在する電荷密度が十分小さい状態。上記第1の確認方法による電荷密度の評価において、フィルムの各面の電荷密度が、それぞれ−150μC/m2以上+150μC/m2以下である状態。好ましくは、フィルムの各面の電荷密度が、それぞれ−30μC/m2以上+30μC/m2以下である状態。この状態は、「実質的に無帯電」と定義される。
[帯電状態の態様C]
フィルムの各面に存在する電荷密度が十分小さく、導体上に密着させたフィルムにおいて、導体と密着していない面の表面電位、つまり、背面平衡電位が、−340V以上340V以下である状態。好ましくは、背面平衡電位が、−200V以上200V以下である状態。
[帯電状態の態様D]
フィルムの各面における電荷密度が急峻に変化する部位や、局所的に電荷密度の高い部位がない状態。好ましくは、フィルムの各面における電荷密度が、10以上100mm以下程度の周期で、なめらかでかつ周期的に変化している状態。
対象とするフィルムの後加工工程によって異なるが、金属蒸着やアルミニウム等の金属箔との接着等の加工を後加工として行うなど片面に導電性膜を形成するなどの多くの場合は、フィルムは、態様Aおよび態様Bを満足していれば良い。例えば、片面導体付きフィルムにおいて、つきそろえ不良が発生することがある。この場合、導電性膜を有さない側の面の電荷量に比例したクーロン力が、フィルムのつきそろえ性(スベリ性)に影響する。従って、電荷密度によるフィルムの帯電状態の管理が好ましい。
後加工工程が塗工工程であって、塗布ムラ欠点を抑制したい場合にも、厚さが1μm程度から60μm程度のフィルムにおいては、態様Aおよび態様Bを満足していれば良い。厚さがこれより厚いフィルムにおいては、態様Bに代えて、態様Cの背面平衡電位を満足していることが好ましい。その理由は、塗布ムラ欠点が、フィルムの見かけ上の帯電と塗布面の電荷密度に起因する塗布面の背面平衡電位との両方の影響を受けることによる。その他の欠点を抑制する意味からも、態様Bおよび態様Cの状態を満足していることが好ましい。
本発明者らの検討により、塗布ムラ欠点には、次の2つの態様があることが判明した。
塗布ムラ欠点の第1の態様:
図12に示すように、フィルムSの見かけ上の電荷密度の絶対値が大きい態様。見かけ上の電荷密度は、−2μC/m2未満、あるいは、+2μC/m2を越える状態であり、見かけ上の無帯電状態ではない。この態様の塗布ムラは、フィルムの空中把持状態で発生する。
塗布ムラ欠点の第2の態様: 図7に示すように、フィルムSの塗布面の背面平衡電位の絶対値が大きい態様。背面平衡電位は、−340V未満、あるいは、+340Vを越える状態である。この態様の塗布ムラは、導電性のバックアップロール上において発生する。
次に、本発明者らにより解明された上記のそれぞれの塗布ムラ欠点発生メカニズムとこれらを抑制するためのフィルムの帯電状態が説明される。
塗布ムラ欠点の第1の態様において引用された図12に示す帯電状態を有するフィルムSにおいては、フィルムSを空中に把持した状態で、フィルムSの塗工面の外側近傍に、強い電界が形成されている。この電界は、フィルムSの見かけ上の電荷密度がゼロでないために発生するものである。この電界が、塗工されたコーティング液に、電気泳動や誘電泳動などの作用を及ぼし、塗布ムラを発生させる。
これに対して、上記帯電状態のAを満たすフィルム、例えば、図7に示すような帯電状態のフィルムSにおいては、フィルムを空中で把持した状態では、フィルムの両面に存在する逆極性の電荷間のフィルム内部で電界が閉じるため、コーティング塗工面の外側近傍に強い電界がほとんどかからない。そのため、塗工されたコーティング液に対して、後述する電気泳動や誘電泳動などの作用はほとんど働かず、塗布ムラが発生し難い。
コーティング塗工面内に正と負の電荷の混在した帯電模様があると、隣り合った正と負の電荷間で発生する電界が、コーティング塗工面の外側近傍にわずかに発生するが、この電界が、塗工されたコーティング液に及ぼす影響は小さい。これは、フィルムの両面に存在する正と負の電荷の距離が小さいためである。この距離は、フィルムの厚さに相当し、数μmから高々数100μmである。フィルムの面内に存在する正と負の電荷の距離がこれより十分大きい部分では、フィルム内部で電界が閉じ、コーティング塗工面の外側近傍に強い電界はかからない。唯一、フィルムの面内において正帯電部と負帯電部がフィルム厚さに匹敵する距離で隣接するその境界部において、コーティング塗工面の外側近傍に沿って、フィルム面内方向の電界がかかる。
しかしながら、この電界は、ごく限られたミクロな領域、すなわち、数μmから高々数100μmの領域にとどまり、コーティング液の移動領域がごく小さく、それに比例して移動出来る液量もごく僅かなため、ムラがあるとしても、そのムラは、目視確認出来る程のムラではない。以上の説明は、フィルムが空中に把持された状態でコーティングされる場合の帯電と塗布ムラの関係についてのものである。
他方、フィルムの塗工は、フィルムが空中に把持された状態で行われる場合の他に、フィルムがロール上を走行する状態で行われる場合がある。このロールとしては、例えば、ダイヘッドコーターのバックアップロールやフィルムの移動方向を変える搬送ロールがある。この場合、両面が逆極性に等量帯電し、見かけ上の電荷密度がゼロとなった「見かけ上の無帯電」のフィルム、すなわち、図7に示すようなフィルムSでは、上記塗布ムラ欠点の第2の態様の塗布ムラが発生するという大きな問題がある。この場合の塗布ムラの発生メカニズムが、次に詳細に説明される。
図13は、ダイヘッドコーターを用いた塗工工程の一部の概略図である。図13において、フィルムSは、フィルムSがロール状に巻き上げられたフィルムパッケージ(図示せず)から連続して引き出され、コーティング部13に至る。コーティング部13には、2個の搬送ロール15a、15b、これらの間に位置するバックアップロール14、および、ダイヘッド16が設けられている。コーティング部13に至ったフィルムSは、搬送ロール15a、バックアップロール14、および、搬送ロール15bに接触しながら、矢印17で示される方向に、走行方向を変えながら、移動する。ダイヘッド16から吐出されるコーティング液がフィルムSに塗布され、コーティング膜が塗工されたコーティング塗工面12がフィルムS上に形成される。コーティング液が塗布されたフィルムSは、乾燥部(図示せず)で、コーティング液の溶媒の蒸発と乾燥を受け、最後に巻取部(図示せず)で、ロール状に巻き取られる。
フィルムSが、バックアップロール14上に密着しながら走行している状態で、フィルムSに、ダイヘッド16から吐出される所定の塗剤(コーティング液)がコーティングされる。バックアップロール14は、フィルムSを安定に走行させるとともにフィルムSとダイヘッド16との間隙を一定に保つため設けられている。バックアップロール14は、例えば、ハードクロムメッキされた金属ロールや弾性体が被覆された金属ロールである。弾性体として、導体である導電性のゴムが用いられることが多い。
導電性のゴムは、バックアップロール14の帯電を防止する目的を持ち、静電気放電による有機溶媒への着火を防いでいる。このように、バックアップロール14は、多くの場合、導電性物質から構成されている。また、他のコーティング方法であるロールコーターやグラビアコーターでも、同様にバックアップロールが用いられることが多い。このような導電性のロール上におけるフィルムSの帯電状態は、図14に示す状態となる。
図14において、フィルムSが導体のバックアップロール14に密着した状態では、フィルムSの第2の面200が導体に密着し、第1の面100がコーター側(ダイヘッド16側)にあって、第1の面100上にコーティング塗工面12(以下、塗工面12という)が形成される。このとき、第2の面200の正の静電荷201と負の静電荷202に対して、バックアップロール14に逆極性の誘導電荷400が誘導される。その結果、第2の面200の電位はゼロとなる。
一方、塗工面12が形成される第1の面100の正の静電荷101と負の静電荷102とは、バックアップロール14の面からフィルムSの厚さ分の距離をおいているため、バックアップロール14に十分な誘導電荷400を発生させることが出来ない。その結果、第1の面100の電荷が顕在化する。よって、塗工面12に、第1の面100の正と負の静電荷101、102により形成される電界が生じる。この電荷の顕在化現象により、見かけ上の電荷密度がゼロであるフィルムSであっても、コーティングされたコーティング液に、電界が作用し、コーティング液の塗布ムラが発生する。
上において、ダイヘッドコーターにおけるバックアップロール14上での現象に関して説明したが、次のような場合にも、同様のメカニズムで、コーティングされたコーティング液に電界が作用する状態が生じる。すなわち、コーティング液を均一に塗工した後、含まれる溶媒を蒸発し乾燥するため、乾燥工程にフィルムSを搬送する場合である。この場合において、フィルムS上のコーティング液が未乾燥状態のまま、フィルムSを金属ロール面上を通過せしめたり、また、フィルムSへの熱伝導を良くするため、フィルムSを金属ロールに密着させて乾燥せしめることがある。このような金属ロール上においても、バックアップロール14の場合と同様の現象が起こり、フィルムSに塗布ムラが発生する。
本発明者らにより、帯電による塗布ムラは、コーティング液の薄い層に、あるレベル以上の強い電界がかかると発生することが見出された。これは、コーティング液が電界に従って移動し、コーティング液の不均一な分布を形成することによるものと理解される。コーティング液の移動は、帯電しているコーティング液にあっては、電気泳動によるものである。この電気泳動により、コーティング液の帯電の極性と逆極性に帯電しているフィルム上の部分に、コーティング液が集まる。その結果、その部分の塗布厚さが周囲の塗布厚さより厚くなって、塗布ムラが発生する。一方、無帯電のコーティング液にあっては、コーティング液の移動は、誘電泳動によるもので、電界の強いフィルム上の部分にコーティング液が集まり、その部分の塗布厚さが周囲の塗布厚さより厚くなって、塗布ムラが発生する。
見かけ上の無帯電状態にあるフィルムSにおける金属ロール上での塗布ムラの発生は、フィルムSの電荷密度に関連して電界の強さが決まるため、フィルムSの厚さが一定であれば、電荷密度が小さければ電界が弱くなって塗布ムラが発生しにくい。しかしながら、金属ロール上で発生する塗布ムラは、帯電の電荷密度だけで決まるものではなく、塗工面12が形成される第1の面100の外側近傍の電界の大きさ、すなわち、第1の面100における背面平衡電位の大きさが影響することが、本発明者らにより見出された。
見かけ上の無帯電状態にあるフィルムSの塗工面と逆の面(第2の面200)を金属板上に密着させた場合、第1の面100の外側近傍のフィルムSの法線方向の電界強度は、背面平衡電位が大きいほど大きい。すなわち、導体(金属板)と第1面100の距離、換言すれば、フィルムSの厚さdfが厚いほど、第1の面100の外側近傍のフィルムSの法線方向の電界強度は、大きい。例えば、フィルムの第1の面に同じ数の電荷が存在するとき、すなわち、フィルムの第1の面の電荷密度が同じとき、厚さの薄いフィルムSでは、導体との距離が非常に近いため、フィルムSの背面平衡電位が厚さの厚いフィルムSと比べて小さい。厚さの薄いフィルムSでは、第1の面に存在する電荷から発生する電気力線が、フィルム内部を通り導体側に集中した状態となる。これにより、第1の面の外側(フィルム内部と反対側)に現れる電気力線の本数は少ない。すなわち、法線方向の電界強度が小さい。厚さの厚いフィルムSでは、第1の面に存在する電荷から発生する電気力線のうち、フィルム内部を通り導体側に向かう電気力線の数が相対的に少なくなる。第1の面の外側に現れる電気力線の本数が多くなり、法線方向の電界強度が相対的に大きくなる。第1の面に存在する電荷の量が同じ時、この電荷から発生する電気力線の数は等しいため、厚さの厚いフィルムの方が、厚さの薄フィルムよりも、第1の面の外側の法線方向電界強度が大きい。
図15Aにおいて、上段に図示された厚さdf1と帯電状態を有するフィルムSの第1の面100の電荷密度[単位:μC/m2]を示すグラフ(a)が、中段に示され、更に、背面平衡電位[単位:V]を示すグラフ(b)が下段に示される。また、図15Bにおいて、上段に図示された厚さdf2と帯電状態を有するフィルムSの第1の面100の電荷密度[単位:μC/m2]を示すグラフ(a)が、中段に示され、更に、背面平衡電位[単位:V]を示すグラフ(b)が下段に示される。
これら図15A、および、15Bに図示された各フィルムSにおいて、各グラフ(a)が示すとおり、第1の面100の電荷密度[単位:μC/m2]の分布は等しい。一方、これら図15A、および、15Bに図示された各フィルムSにおいて、各グラフ(b)が示すとおり、背面平衡電位[単位:V]の分布は異なっている。
背面平衡電位[単位:V]は、フィルム厚さに依存する。すなわち、フィルムの厚さがdf2>df1の時、電荷密度の絶対値が同じでも、フィルム厚さがdf2であるフィルムの背面平衡電位の絶対値の方がフィルム厚さがdf1であるフィルムの背面平衡電位の絶対値より大きい。塗布ムラが発生するかしないかは、フィルムSの塗工面12が形成される第1の面100の帯電が、「背面平衡電位」の絶対値として、どのくらい大きいかが重要であり、「背面平衡電位」の絶対値の大きさは、フィルムSの電荷密度とフィルムSの厚さに依存する。すなわち、図15A、および、15Bの各グラフ(b)に示される背面平衡電位の絶対値が大きくなると、塗布ムラが発生する。
図16は、塗布ムラが発生する帯電の強さを実験的に求めた結果である。ここで用いたフィルムSは、フィルムSの第1の面100に、正と負の帯電部を縞状に交互に形成したものである。このフィルムSにおける正と負の帯電部分の周期は、約25mmで、背面平衡電位は、各正と負の帯電部の中央の部分でその絶対値が最も大きく、縞方向になだらかな正弦波状の分布を持っている。このような帯電状態のフィルムSを金属板上に第2の面200を接触させて載せ、合成イソパラフィン系炭化水素アイソパーH(エクソン化学社製)のコーティング液をフィルムSの第1の面100に手塗り塗布した。その結果が、図16のグラフに示される。なお、このアイソパーは、有機溶媒の中でも疎水的で、フィルム等へのヌレ性が悪く、帯電による塗布ムラを非常に発生しやすい溶液である。
図16のグラフには、厚さdfが、12、75、および、188μmのポリエチレンテレフタレートフィルムにおける塗布ムラの発生有無を調べた結果が示される。図16のグラフにおいて、縦軸は、第1の面100の背面平衡電位の絶対値の最大値[単位:V]を示し、横軸は、電荷密度の絶対値の最大値[単位:μC/m2]を示す。
第1の面100の背面平衡電位Vf[単位:V]は、塗布前に、表面電位計(モンロー社製244)のプローブ(モンロー社製1017)を、フィルムSに1mmまで近づけて、測定した。電荷密度は、電荷の確認の方法の第1の確認方法に記載の式に、測定で得られたVfの値を入れ、フィルムSの比誘電率εrの値は、ポリエチレンテレフタレートにおける誘電率である3を用いて、求めた。
図16中、○印は、塗布ムラが完全に発生していないことが目視により観察されたことを示す。△印は、若干の塗布ムラが観察されたが、品質上問題にならない程度であることを示す。×印は、塗布ムラが観察されたことを示す。図16に示される通り、厚さdfが12μmのフィルムSでは、電荷密度の絶対値の最大値が240μC/m2でも、背面平衡電位の絶対値の最大値が100V以下であるため、塗布ムラが発生しない。逆に、厚さdfが188μmのフィルムSでは、電荷密度の絶対値の最大値が90μC/m2と低くても、背面平衡電位の絶対値の最大値が600Vと高いために、塗布ムラが発生している。すなわち、塗布ムラは、第1の面100、つまり、塗工面の背面平衡電位の絶対値が約200Vを限界値として発生する。一方、コーティング液として、シリコーン系のコーティング液(溶媒トルエン)を用いたところ、問題となる塗布ムラが発生しない背面平衡電位の絶対値の最大値は、340Vであった。
このように、分厚いフィルムでは、塗工面が背面の金属物体から離れるため、静電容量が小さくなり、背面平衡電位が高くなり、微小な電荷密度でも、塗布ムラが発生する。すなわち、このようなフィルムにおいては、前記帯電状態の態様Cに説明されているフィルムの背面平衡電位による管理を行うのが好ましい。
本発明者らの知見によれば、このムラが発生する限界値は、コーティング液の物性パラメータ(表面張力、表面エネルギー、粘度、帯電量等)やフィルムの物性パラメーター(表面張力、表面エネルギー、表面粗さ等)によっても変化する。塗布ムラの程度は、金属ロールとの接触時間やコーティング液の移動しやすさにも関係する。また、導電性の低い、すなわち、絶縁性のコーティング液ほど、塗布ムラが発生しやすく、導電性の高いコーティング液では、ほとんど塗布ムラが発生しない。しかし、塗工面の背面平衡電位を、−340V以上+340V以下、より好ましくは、−200V以上+200V以下にすれば、コーティング液にかかる電界が小さくなり、塗布ムラが発生しない。
更に、第1の面100の面内における正電荷と負電荷の帯電分布が、10mm〜数10mm程度のピッチでの緩やかな分布であれば、正負帯電部の境界で発生する電界を弱めることが出来、塗布ムラがより発生し難くなることが判明した。目標とすべき前記帯電状態の態様A、態様B、態様C、および、態様Dの選定は、対象工程に応じて、上記の本発明者らの知見に基づき行うことが出来る。また、以下に説明される本発明の除電装置または除電方法を用いることにより、より帯電量の少ないフィルムを得ることが出来る。
次に、このような好適な帯電状態を有するフィルムを得るための除電方法、ならびに、除電装置が説明される。
図17は、本発明の除電装置の一実施態様の正面概略図である。この除電装置5は、プラスチックフィルムの除電に好ましく用いられる。図18Aは、図17に示された除電装置5における除電ユニットの一例の拡大斜視図である。図18Bは、図17に示された除電装置5における各除電ユニットにおける部材の位置関係を説明する正面図である。
図17において、除電装置5は、左側にガイドロール5aを、右側にガイドロール5bを有する。ガイドロール5aとガイドロール5bとに、走行するフィルムSが掛け渡されている。ガイドロール5a、および、ガイドロール5bは、それぞれモータ−(図示せず)により、右廻りに回転される。フィルムSは、ガイドロール5a、5bの回転により、矢印5abの方向に、速度u[単位:mm/秒]で連続的に移動する。ガイドロール5aとガイドロール5bとの間には、n個(n≧2)の除電ユニットSU1、・・・、SUnが、フィルムSの移動方向(矢印5abの方向)に、間隔をおいて設けられている。
一番目の除電ユニットSU1は、第1の電極ユニットEUd−1と第2の電極ユニットEUf−1とからなる。第1の電極ユニットEUd−1は、フィルムSの第1の面100に向かい、第1の面100に対し間隔をおいて設けられている。第2の電極ユニットEUf−1は、フィルムSの第2の面200に向かい、第2の面200に対し間隔をおいて設けられている。第1の電極ユニットEUd−1と第2の電極ユニットEUf−1とは、フィルムSを挟んで、互いに対向している。
kを1からnまでの整数とするとき、k番目の除電ユニットSUkは、第1の電極ユニットEUd−kと第2の電極ユニットEUf−kとからなる。第1の電極ユニットEUd−kは、フィルムSの第1の面100に向かい、第1の面100に対し間隔をおいて設けられている。第2の電極ユニットEUf−kは、フィルムSの第2の面200に向かい、第2の面200に対し間隔をおいて設けられている。第1の電極ユニットEUd−kと第2の電極ユニットEUf−kとは、フィルムSを挟んで、互いに対向している。
次に、除電装置5における除電ユニットSUkの構成が、図18A,Bに基づき説明される。この説明は、第1の除電ユニットSU1を代表させて行なわれる。除電ユニットの個数nは、2個以上であるが、本発明の主旨に応じて、その数や除電ユニットの間隔が、選定される。
図18Aにおいて、第1の電極ユニットEUd−1は、第1のイオン生成電極5d−1と、第1のイオン生成電極に対する開口部SOg−1を有する第1のシールド電極5g−1と、絶縁部材5i−1とからなる。第2の電極ユニットEUf−1は、第1の電極ユニットEUd−1と同様に、第2のイオン生成電極5f−1と、第2のイオン生成電極に対する開口部SOh−1を有する第2のシールド電極5h−1と絶縁部材5j−1とからなる。
図18Bにおいて、第1のシールド電極5g−1の開口部SOg−1は、第1のイオン生成電極5d−1の先端部近傍にフィルムSに向かって開口し、フィルムSの移動方向において、開口幅d41−1を有する。第2のシールド電極5h−1の開口部SOh−1は、第2のイオン生成電極5f−1の先端部近傍にフィルムSに向かって開口し、フィルムSの移動方向において、開口幅d42−1を有する。従って、第1および第2のシールド電極5g−1、5h−1は、第1および第2のイオン生成電極5d−1、5f−1との間に適切な電位差が与えられたときに、それぞれのイオン生成電極5d−1、5f−1における放電を助ける機能を有する。
第1のイオン生成電極5d−1の先端と、第2のイオン生成電極5f−1の先端とは、フィルムSの法線方向においてd1−1の間隔を置いて、フィルムSの移動方向においてd0−1の間隔を置いて配置されている。また、第1のシールド電極5g−1と第2のシールド電極5h−1とは、フィルムSに最も近い部位同士が、フィルムSの法線方向においてd3−1の間隔を置いて設けられている。
第1のイオン生成電極5d−1と第2のイオン生成電極5f−1とは、それぞれ互いに180度位相が異なる第1の交流電源5cと第2の交流電源5eに接続されている。図17に示される通り、実際には、1つの交流電源の接地点を挟んだ反対極性の端子に、第1のイオン生成電極5d−1と第2のイオン生成電極5f−1とが接続されているが、それぞれが、それぞれ独立した電源に接続されていても良い。第1および第2のシールド電極5g−1と5h−1とは、それぞれ接地されている。
次に、除電装置5における除電ユニットSUkの動作が、図19〜21に基づき説明される。この説明は、第1の除電ユニットSU1を代表させて行なわれる。
先ず、図19に示されるように、第1の除電ユニットSU1において、第1のイオン生成電極5d−1に正の電圧が印加され、第2のイオン生成電極5f−1に負の電圧が印加されている場合について説明する。このとき、第1のイオン生成電極5d−1により正イオン301が、第2のイオン生成電極5f−1により負イオン302が生成される。第1のイオン生成電極5d−1と、第2のイオン生成電極5f−1との間の電界強度が強いとき、電界によって、正負イオン301、302が強制的にフィルムSに照射される。
本発明者らは、電極間の電界強度が強いとき、2つのイオン生成電極5d−1、5f−1を対向させず、それぞれを単独で使用した場合に比べて、放電電流が増加することを発見し、この電流の増加が、フィルムSへのイオンの強制照射の目安となることを見出した。
放電電流の値は、第1の交流電源5cに設置される出力電流表示器(図示せず)で確認出来る。あるいは、第1の交流電源5cの出力電流を、第1のイオン生成電極5d−1と第1の交流電源5cとを結ぶ高圧線をクランプ式の電流計で挟んで、モニタすることによっても確認出来る。
第1のイオン生成電極5d−1を単独で使用する場合の放電電流値I0は、第1のイオン生成電極5d−1と第1のシールド電極5g−1とに与えられる電位差による第1のイオン生成電極5d−1の先端部近傍の電界によって、第1のイオン生成電極5d−1に生じる放電による電流によりもたらされる。
第1のイオン生成電極5d−1と、第2のイオン生成電極5f−1とを、対向させて配置し、それらの法線方向電極間距離d1[単位:mm]を徐々に小さくすると、法線方向電極間距離d1が大きいときには、一定の値I0を示していた放電電流値が、増加する。この現象は、第2のイオン生成電極5f−1との間の電位差によって、第1のイオン生成電極5d−1の先端部近傍の電界が強められていることを意味する。
上記の放電電流値の増加は、第1のイオン生成電極5d−1に接続される第1の交流電源5cの出力電流値を用いて説明したが、第2のイオン生成電極5f−1に接続される第2の交流電源5eの出力電流についても同様の増加が生じる。
この放電電流値の増加は、第1のイオン生成電極5d−1と第2のイオン生成電極5f−1との間の電位差(電界)によるものである。従って、この現象は、第1のイオン生成電極5d−1と第2のイオン生成電極5f−1との間のフィルムSの有無に関わりなく生じる。また、従って、フィルムSが存在する場合、第1のイオン生成電極5d−1と第2のイオン生成電極5f−1によって、フィルムSの帯電に関わりなく、正負イオン301、302が強制的にフィルムSに照射される。
本発明者らは、第1および第2のイオン生成電極5d−1、5f−1にそれぞれ印加する印加電圧V1、V2[単位:V](実効値)、法線方向電極間距離d1[単位:mm]の関係が、次式を満足する場合、放電電流の増加が生じ、正負イオンのフィルムSへの強制照射が起こることを見出した。
90×d1≦(V1+V2)/2
ここで、第1および第2のイオン生成電極5d−1、5f−1にそれぞれ印加する印加電圧は逆極性であるため、V=(V1+V2)/2とし、2×Vが、第1および第2のイオン生成電極間の電位差の実効値となる。
この関係式は、本発明者らが直流および商用周波数(50Hz、および、60Hz)の電圧を印加して行った実験から得られたもので、d1≦35mmの範囲で成立する。
一方、電極間隔が広い場合や、周波数が高い場合、第1のイオン生成電極5d−1と第2のイオン生成電極5f−1との間の電界強度が十分大きくても、正負イオンのフィルムSへの強制照射が起こり難くなる。これは、高い周波数では、印加電圧の極性変化が早く、正負イオンが電極間で引き戻され、混じり合うことで、単極性のイオン雲が形成されなくなるためと考えられる。通常、イオン生成電極の電位が正極性にあるときには、イオン生成電極の先端の近傍では、正の単極性イオン雲が形成されるし、イオン生成電極の電位が負極性にあるときには、イオン生成電極の先端の近傍では、負の単極性イオン雲が形成される。
しかし、イオンがイオン生成電極先端近傍で生成された後、電気絶縁性シートに到達するまでに、イオン生成電極の電圧の極性が2回以上反転すると、イオン生成電極と電気絶縁性シートとの間に、正負のイオンがそれぞれ存在し、正負のイオンが再結合して、イオンの濃度が低下する上、極性が反転するたびに、イオンに対するクーロン力の方向も反転するので、電気絶縁性シートに照射されるイオン雲は、単極性のイオン雲とはなり得ない。
この単極性イオン雲の形成については、非特許文献4に記載されている「矢印形コロナ風」を用いて説明出来る。コロナ放電により生成されたイオンは、電界下において、速度μE(ただし、μは移動度)で移動しながら、電極間に存在する中性粒子と衝突して、これに力を与え、イオンと中性粒子の全体としてあるレベルの速度で、イオン生成電極から遠ざかる。このイオン生成電極から遠ざかる向きに吹く風が、「イオン風」あるいは「コロナ風」として知られる風である。印加電圧が直流の場合、「コロナ風」はイオン生成電極から遠ざかる向きに、一方向に吹く。一方、イオン生成電極への印加電圧が交流の場合においては、イオン生成電極から遠ざかる向きに吹く風と、イオン生成電極に向かって戻るように吹く風とが同時に発生する。この両方向に向かって吹く風が混ざり合う位置で、矢印形の空気の流れが見られ、「矢印形コロナ風」と呼ばれている。
矢印形コロナ風は、イオン生成電極から生成されたイオンが対極(本発明においてはフィルムS)に到達する前に、イオン生成電極への印加電圧極性が反転してしまうため、イオンがイオン生成電極に速度μEで引き戻されることによって生じると説明されている。この矢印形コロナ風が発生する条件を解析的に求めることは難しいが、非特許文献4には、イオン生成電極と対極(非特許文献4では平板電極)の間隔が、僅か40mmであっても、アース電極に対向する針電極に60Hz、10kVの交流電圧が印加されている場合に、矢印形コロナ風を観測出来ると説明されている。更に、コロナ風そのものが、イオンの移動速度μEと密接な関係を持つことから、次の近似が可能と考えられる。
イオンの移動速度μEは、電極間電界Eに比例する。従って、電位差2Vおよび法線方向電極間距離d1に関して、コロナ風の速度も、E=2V/d1に比例する。イオン生成電極から生成されたイオンが、フィルムSに到達するまでに要する時間について、フィルムと第1のイオン生成電極との距離と、フィルムと第2のイオン生成電極との距離が同じ、すなわち、フィルムが第1および第2のイオン生成電極の法線方向の中央にある場合を考える。この時間は、法線方向電極間距離d1の半分をコロナ風の速度で割れば求まり、d1 2/Vに比例する。この時間内に、印加電圧極性が2回以上反転すると、イオンの濃度が低下するとともに、電気絶縁性シートに照射されるイオン雲は、単極性のイオン雲となり得なくなると考えられる。従って、単極性イオン雲の生成の条件は、次の関係式で表わすことが出来る。
1/f≦B×d1 2/V(ただし、Bは定数)
本発明者らは、種々の実験により、V<0.0425×d1 2xfの関係が成り立つ場合、電極間での正負イオンの強制照射が起こり難くなることを見出した。
この条件は、イオン生成電極から生成されたイオンがフィルムSに到達するまでに、印加電圧の極性が2回以上反転する、すなわち、反転回数が多いことを意味する。この状態においては、電極間において、正負のイオンが、フィルムSの法線方向(イオン照射の方向)に混在していると考えられる。
このように、正負のイオンが混在していると、イオンの再結合頻度が高くなり、フィルムSに照射されるイオンの量が急激に低下する。このとき、正イオン、負イオンとも周囲より少しイオン濃度は高いものの、正負のイオンが混在するため、フィルムSに照射されるイオンは、正負イオンが混じり合い、単極性のイオン雲が生成されない。一方、印加電圧の極性反転の回数が、1回以下の場合、正、負それぞれのイオン濃度の高い部分が、フィルムSの法線方向に層状に形成される。従って、イオンは、時間的に極性が反転するが、特定の時刻をみれば、単一極性のイオン雲の形態で、フィルムSに照射される。
なお、ここでは、フィルムSと第1のイオン生成電極との距離と、フィルムSと第2のイオン生成電極との距離が同じ場合を考えたが、フィルムSと第1のイオン生成電極との距離と、フィルムSと第2のイオン生成電極との距離の比が、2:1程度までずれていても問題ない。これは、仮に第1のイオン生成電極からフィルムSまでの距離が遠く、第1のイオン生成電極によってフィルムSに照射されるイオンが単一極性のイオン雲を形成しにくくても、第2のイオン生成電極によってフィルムSに照射されるイオンが単一極性のイオン雲を形成するためである。例えば、第2のイオン生成電極5f−1から単一極性の負イオン雲がフィルムSの第2の面200に強制的に照射される場合、フィルムSの第1の面100には正のイオンが選択的に照射される。この、フィルムSの両面に付着するイオン量が自動的にバランスする働きについては後述される。
これらの条件下において、正イオン301と負イオン302は、それぞれ、第1および第2イオンの生成電極5d−1、5f−1のつくる電気力線500に沿って、フィルムSの近傍まで引き寄せられ、フィルムSに付着する。このとき、フィルムSの近傍において、正イオン301と負イオン302とは、フィルムS上に負の静電荷102や正の静電荷201があると、クーロン力700によって、負の静電荷102、および、正の静電荷201に、より多く、選択的に引き寄せられる。従って、フィルムSの第1の面の負の静電荷102と第2の面の正の静電荷201が除電される。
次に、フィルムSの各面の帯電電荷、特にスタチックマークなど局所的に強い帯電、また、特にフィルムSの両面両極性帯電の電荷の除電能力について、詳細に説明される。
図20に示されるように、第1の面100に多量の正の静電荷101、第2の面200に多量の負の静電荷202があるフィルムS上の部位を考える。フィルムSの第1の面100に近接して設けられた第1のイオン生成電極5d−1によって、負イオン302が、第2の面200に近接して設けられた第2のイオン生成電極5f−1によって、正イオン301が、同時に照射されている最中のイオンの挙動に着目する。このとき、フィルムSの第1の面100の正の静電荷101と、第2の面200の負の静電荷202とは、同時に、逆極性のイオンにより除電される。従って、この直後においても、図21に示されるように、過剰電荷は現れない。
図10に示される従来の技術においては、第1の面100の正の静電荷101だけが除電されるために、第2の面200の負の静電荷202が過剰となり、負イオン302に、フィルムSから遠ざけられる方向へのクーロン力700が働く。これに対し、本発明の除電装置の除電ユニットSU1においては、このような現象は生じない。このため、第1のイオン生成電極5d−1によって生成される負イオン302と、第2のイオン生成電極5f−1によって生成される正イオン301とにより、フィルムSの第1の面100の正の静電荷101と、第2の面200の負の静電荷202は、効率的に除電される。
照射されるイオンの量は、発明者らの調査に寄れば、絶対値で数〜30μC/m2程度に達する。これにより、従来技術では達成することが出来なかったフィルムSの各面の電荷の大幅な低減が達成される。これは、両面両極性帯電の電荷に対する除電効果が高いことを意味する。この効果は、第1のイオン生成電極5d−1と、第2のイオン生成電極5f−1とを対向させ、同時に両面から逆極性のイオンを強制的に照射することにより初めて得られる効果である。
フィルムSの両面に混在する両面両極性帯電の電荷を除去する能力は、第1のイオン生成電極5d−1と、第2のイオン生成電極5f−1との対向関係の影響を非常に大きく受ける。幅方向の各位置において、第1および第2のイオン生成電極の先端間の移動方向距離が、第1のイオン生成電極および第2のシールド電極の先端の移動方向距離より小さく、かつ、第2のイオン生成電極および第1のシールド電極の先端の移動方向距離より小さいことが好ましい。すなわち、第1および第2のイオン生成電極が仮想平面に対して実質的に対称に対向して配置されるのが好ましく、両者は、完全に対向していることが最も好ましい。しかし、第1のイオン生成電極5d−1の先端と、第2のイオン生成電極5f−1の先端との間のフィルムSの移動方向における距離(電極ずれ量)d0が、幅方向の各位置において、次式の関係を満足していれば、第1のイオン生成電極5d−1と第2のイオン生成電極5f−1とによって、同時に、フィルムSの両面に対し、本発明の目的を達成し得る逆極性のイオンが照射行われる。
d0<1.5×d1 2/(d3×d4)[単位:mm]
この関係式は、本発明者らの検討により求められたものである。この関係式が意味するところは、次の通りである。
この関係式は、第1および第2のイオン生成電極先端の間のフィルム法線方向における距離(法線方向電極間距離)d1と第1および第2のシールド電極の間のフィルム法線方向における最短距離(法線方向シールド電極間距離)d3の比d1/d3が大きい程、電極ずれ量d0の許容範囲が広くなることを示している。また、この関係式は、法線方向電極間距離d1と第1および第2のシールド電極の開口部のフィルムSの移動方向における幅d4との比d1/d4が大きい程、電極ずれ量d0の許容範囲が広くなることを示している。ここでの開口部の幅d4の値は、第1のシールド電極5g−1の開口部の幅d41−1と第2のシールド電極5h−1の開口部の幅d42−1との平均値、すなわち、(d41−1+d42−1)/2の値である。
この関係式を満足しない場合は、イオン生成電極同士の対向の効果が小さくなり、イオン生成電極の対向による放電電流の増加がほとんど起こらなくなる。これは、第1のイオン生成電極5d−1と第2のイオン生成電極5f−1との間の電界が弱いため、正負イオン301、302のフィルムSへの強制的照射がほとんどないことを意味する。
一方、第1の面100に負の静電荷102、第2の面200に正の静電荷201があるフィルムS上の部位や、無帯電の部位に、第1の面100側から負イオン302、第2の面200側から正イオン301が照射される場合について考える。この場合も、フィルムSの第1の面100に、新たな負イオン302、第2の面200に、新たな正イオン301がある程度付着する。ただし、イオンはフィルムS上の静電荷によるクーロン力700の影響をも受けてフィルムSに付着するため、イオンの付着量は、第1の面100に正の静電荷101、第2の面200に負の静電荷202があるフィルムS上の部位より少ない。第1の面100側から負イオン302を照射したとき、負イオン302の付着量の多さは、フィルムSの部位により異なり、最も多い部位は、第1の面100の正の静電荷101がある部位であり、次いで多い部位は、無帯電の部位であり、次いで多い部位は、負の静電荷102がある部位である。
この新たなイオンの付着は、上述の従来技術の説明において引用した特許文献2の除電器の最後段のイオン生成電極対において、起こり得ると述べた問題である。このイオン付着は、両面からのイオン照射量が多い、本発明の除電ユニットを使う場合に、特に注意が必要な意図せざる帯電をもたらす。この意図せざる帯電への対策については後述するが、この意図せざる帯電があっても、フィルムSの見かけ上の電荷密度はほぼゼロであり、従来技術における特許文献1や特許文献2の除電器(最後段のイオン生成電極対を除く)のような巨視的な見かけ上の帯電ムラは起こり難い。これについて、次に説明する。
仮に、第1のイオン生成電極5d−1により生成される正イオン301と、第2のイオン生成電極5f−1により生成される負イオン302との量に、イオン生成電極の個体差、イオン生成能力差などによるバラツキがある場合について考える。仮に、第2のイオン生成電極5f−1により生成される負イオン302の量が、第1のイオン生成電極5d−1により生成される正イオン301の量より多いとする。フィルムSの第2の面200に、負イオン302が多く照射され、フィルムSに負イオン302が過剰に付着すると、この過剰に付着した負イオン302によるクーロン力700によって、第2の面200への負イオン302の付着が抑制され、第1の面100への正イオン301の付着が促進される。
これは、過剰な負イオン302の付着を解消する自動的な働きをもたらす。これにより、過剰な負イオン302の付着は、速やかに解消され、フィルムSの第1の面100と第2の面200との正負の電荷密度は、等量で逆極性となる。フィルムSの見かけ上の電荷密度は、ほぼゼロとなる。第1のイオン生成電極5d−1と、第2のイオン生成電極5f−1とのイオン生成能力およびイオン照射能力の差が、50%以上200%以下の程度バラツキがあっても、フィルムSの見かけ上の帯電は、ほぼゼロで保たれる。
フィルムSがもともといずれかの極性に偏って帯電している場合には、それに見合う逆極性のイオンがより多く引き寄せられてこれを除電する。このため、結果として、除電されたフィルムSの各部において、フィルムSの見かけ上の電荷密度は、ほぼゼロとなる。すなわち、フィルムSは、見かけ上の除電がなされた状態である。
この状態は、第1のイオン生成電極5d−1と、第2のイオン生成電極5f−1とを対向させ、同時に、フィルムSの両面に互いに逆極性のイオンが供給されることにより形成される。この状態の形成は、本発明により初めてもたらされる。フィルムSの両面の帯電のバランスは、全ての除電ユニットにおいて得られる。従って、この除電ユニットを並べて構成される除電器により除電されたフィルムSは、少なくとも見かけ上、非常に良好に除電されている。そのため、特許文献1や特許文献2の除電器(図4の除電器2や図8の除電器3)に示される、見かけ上の巨視的な帯電のムラを除電するための、後段の直流や交流の除電器を必要としない。
除電ユニットの働きについて、以上に述べたように、一つの除電ユニットにおいては、フィルムSの各部において、第1の面100の正(または負)の静電荷101(102)と第2の面200の負(または正)の静電荷202(201)とを大いに除電することが可能である。また、この除電ユニットにより除電されたフィルムSの見かけ上の電荷密度は、ほぼゼロとなる。しかしながら、一つの除電ユニットだけでは、第1の面100の負(または正)の静電荷102(101)と第2の面200の正(または負)の静電荷201(202)とを除電出来ない。このため、除電ユニットを複数設ける必要がある。
次に、次段の除電ユニットSUm(m=k+1)の動作が、図22に基づき説明される。この説明は、第2の除電ユニットを代表させて行われる。図22は、図19において、第1の除電ユニットSU1によって除電されたフィルムSの部位が、第2の除電ユニットSU2によって除電される働きを説明するものである。第1のイオン生成電極5d−2に負の電圧が印加され、第2のイオン生成電極5f−2に正の電圧が印加されている場合について考える。このとき、第1のイオン生成電極5d−2により負イオン302が、第2のイオン生成電極5f−2により正イオン301が生成される。負イオン302と正イオン301は、それぞれ、第1および第2のイオン生成電極5d−2、5f−2のつくる電気力線500に沿ってフィルムSの近傍まで引き寄せられ、フィルムSに付着する。これと同時に、正負のイオン301、302は、フィルムSの近傍ではクーロン力700によって、フィルムSの第1の面100の正の静電荷101と第2の面200の負の静電荷202とを除電する。このように、2つの除電ユニットを使用することで、第1の除電ユニットによって、第1の面100の負の静電荷102と第2の面200の正の静電荷201を除電し、第2の除電ユニットによって、第1の面100の正の静電荷101と第2の面200の負の静電荷202を除電することが可能となる。
このようにして除電されたフィルムSの帯電状態が、図23に示される。図23は、フィルムSが十分に除電された状態を示す。この状態は、図7に示される従来技術における特許文献1の除電器の除電状態と著しく異なる。図23は、正の静電荷101、201と負の静電荷102、202とが残留している状態を示しているが、この残留は、除電前のフィルムSの電荷密度と除電ユニット1つ当たりのイオン照射量とで決まる。
イオン照射量が除電前の電荷密度に比べて多ければ、原理的には、2つの除電ユニットだけでも、実質的に無帯電の状態まで除電出来る。イオン照射量が除電前の電荷密度に比べて少ない場合も、これを繰り返すことにより、残る正の静電荷101、201と負の静電荷102、202を除電することが出来る。このように、フィルムSの両面から同時に、逆極性のイオン雲対を照射した後、更にフィルムSの両面から同時に、それぞれ先の照射とは極性が反転した逆極性のイオン雲対を照射することにより、フィルムSの細かな帯電、特に両面両極性帯電を除電することが可能となる。
両面から同時に正負イオンを照射する方法として、イオン生成電極5d−1や5f−1に低周波の交流電圧を印加し、時系列的に変化する正負イオン301、302の雲対を照射する方法がある。その他に、特許文献3や特許文献4に開示された複写機における除電器のように、高周波の交流電圧を印加し、両面から、正負混在した状態のイオンを照射する方法や、直流電圧を印加する方法がある。直流電圧を印加する場合、第1の除電ユニットSU1における第1のイオン生成電極5d−1に正、第2のイオン生成電極5f−1に負電圧を印加したなら、第2の除電ユニットSU2における第1のイオン生成電極5d−2に負、第2のイオン生成電極5f−2に正電圧を印加する。
しかし、高周波での放電による方法では、従来技術の説明において述べた通り、フィルムSの同一の面側に正負のイオン301、302が短い周期で切り替わって存在しているため、イオンが混在し、単一極性のイオン雲を形成出来ない。そのため、正負イオンが再結合により消滅し、除電効果がほとんど得られず、好ましくない。一方、直流電圧を印加する方法においては、除電ユニット相互の能力のバラツキによって、フィルムSの各面の帯電極性がいずれかの極性に、例えば、第1の面100が負に、第2の面200が正に偏って帯電してしまう可能性が高い。
先に、各除電ユニットの働きに関して、第1のイオン生成電極5d−1によるイオンの生成能力と、第2のイオン生成電極5f−1によるイオンの生成能力との間にバラツキがあっても、イオンの付着量は自動的にバランスすることを説明したが、除電ユニット相互の能力については、これとは異なる。すなわち、電極の個体差、汚れ、経時摩耗、変形などにより、例えば第1の除電ユニットSU1のイオン生成能力が低く、第2の除電ユニットSU2のイオン生成能力が高いことは十分あり得る。この場合、上記のように直流電圧を印加すると、第1の面100には、正イオンに比べて負イオンが多く照射されて付着し、第2の面200には、負イオンに比べて正イオンが多く照射されて付着することになる。すなわち、フィルムSの第1の面100全体が負に、第2の面200全体が正に帯電することになる。ただし、この状態でも、見かけ上の電荷密度はゼロである。
この各面の逆極性の帯電の電荷密度は、除電ユニットの動作が正常範囲にある、すなわち、特に断線や極めて重大な電極の劣化等がない限り、弱いものであり、直接にフィルムSの品位に係わるほど強い帯電ではない。しかし、フィルムSをロール体として巻き上げた場合に、非特許文献1に示されるギャップの大きな電気二重層が生じるため好ましくない。
フィルムロール体における電気二重層とは、図27に示されるように、あたかも、第1層S1の第2の面(内面)200の正の静電荷201と、最表層Sfの第1の面(外面)100の負の静電荷102とのみがあるように見える状態となることをさす。これは、第1層S1の第1の面(外面)100の負の静電荷102と第2層S2の第2の面(内面)200の正の静電荷201とがバランスし、以下第j層(jは、正の整数)Sjの第1の面(外面)100の負の静電荷102と第j+1層Sj+1の第2の面(内面)200の正の静電荷201とがバランスし、電荷が存在しないように見えるために起こる。この状態においては、見かけ上のギャップの大きな電気二重層がフィルムロール体に形成され、フィルムロール体表面の電位が大きくなり、放電などの問題を起こしやすくなる。従って、この状態は、好ましくない。
直流電圧を印加した場合、フィルムSの全体に亘って、各面がいずれかの極性に偏って帯電することを避けるためには、除電後のフィルムSの背面平衡電位を測定し、この値を基に、各除電ユニットの第1および第2のイオン生成電極に印加する電圧を制御することも可能である。しかし、この手法は、別に制御系を設ける等の手立てを必要とし、装置が複雑となる傾向がある。
次に、交流電圧を印加した場合について考える。1つの除電ユニットの第1および第2のイオン生成電極に逆極性の交流電圧を印加し、イオンをフィルムSに強制照射すると、フィルムSの各面には、フィルムSの移動方向に、交互に正と負のイオン付着量の多い部分が現れる。前述の通り、イオンは、フィルムS上の帯電部位だけでなく、無帯電の部位にも付着するため、フィルムSの各面には、フィルムSの移動方向に、交互に正と負の意図せざる帯電が生じる。この交互に現れる正負の意図せざる帯電を照射ムラと呼称する。
この照射ムラにより、フィルムSの特定の部位においては、第1の面100が正に、第2の面200が負に帯電する。また、別の部位では、第1の面100が負に、第2の面200が正に帯電する。この状態は、除電ユニット相互に能力差があった場合にも、同様に発生する。すなわち、仮に、第1の除電ユニットSU1のイオン生成能力が低く、第2の除電ユニットSU2のイオン生成能力が高い場合があったとしても、フィルムSの全体に亘っては、第2の除電ユニットSU2による照射ムラの影響が相対的に強く現れて、フィルムSが帯電するだけであって、直流電圧を印加する場合と異なり、フィルムSの全体に亘って、各面がいずれかの極性に偏って帯電することは起こり難い。
従って、図28に示されるように、フィルムロール体のある部分で、第j層Sjの第1の面(外面)100の負の静電荷102と、第j+1層Sj+1の第2の面(内面)200の正の静電荷201とがバランスし、見かけ上の電荷が存在しないようになる部分があったとしても、第m層Smの第1の面(外面)100の負の静電荷102と、第m+1層Sm+1の第2の面(内面)200の負の静電荷202とが同極性となる部分が出来る状況が必ず発生する。なお、mはjと異なる正の整数とする。そのため、フィルムロール体の内層部にも、正負の電荷が確実に適宜均等に存在し、これらの間で電気力線が閉じ、最外層の電荷もその内側の電荷との間で、また、第1層の電荷もその外側の電荷との間で、電気力線が閉じる領域が多くなる。この結果、フィルムSをロール体として巻き上げても、ギャップの大きな電気二重層は生ぜず、ロール体の電位が過大となることはない。
フィルムSが停止状態にある場合においては、1つだけの除電ユニットを用い、印加電圧を交流とすることで、第1の面100の負の静電荷102と第2の面200の正の静電荷201を同時に除電した後、第1の面100の正の静電荷101と第2の面200の負の静電荷202を同時に除電すること、あるいは、これらの逆に除電することも原理的には可能である。
しかし、フィルムSが移動している場合においては、その移動速度が極めて遅い場合を除いて、1つの除電ユニットでは、第1の面100の負の静電荷102と第2の面200の正の静電荷201のみしか除電されないフィルムS上の部位と、第1の面100の正の静電荷101と第2の面の負の静電荷202のみしか除電されないフィルムS上の部位とが、フィルムSの移動方向に、交互に生じ、好ましくない。従って、移動速度が、50〜500m/分程度であるフィルムSを除電する場合には、複数の除電ユニットが必要となる。
これらを踏まえ、次に、除電ユニット相互の配置とその駆動条件について説明する。
除電ユニット相互の配置とその駆動条件による除電の効果の説明が、フィルムSの第1の面100を代表させて行われる。これは上述したとおり、フィルムSの第1の面100と第2の面200には同時に、夫々互いに逆極性のイオンが強制的に照射されるためである。これにより、フィルムSの第2の面200の電荷も、第1の面100同様に除電されるためである。
隣接する除電ユニットは、各々の第1および第2のイオン生成電極の先端の中点が、フィルムSの移動方向において、間隔d2をもって、離間配置されている。第1のイオン生成電極5d−1〜5d−n、および、第1のシールド電極5g−1〜5g−n、ならびに、第2のイオン生成電極5f−1〜5f−n、および、第2のシールド電極5h−1〜5h−nは、それぞれ、すべて同電位となるように接続されている。交流電圧を印加する場合、電源としては同一の交流電源を用いてもよいし、複数の交流電源を同期させて使用してもよい。複数の交流電源を同期させるとは、イオン生成電極5d−1〜5d−nに、相互に所定の位相差を保ちながら、交流電圧が印加されることをいう。
隣接する除電ユニットの第1のイオン生成電極への印加電圧は、同位相(位相差ゼロ)の交流電圧であることが好ましい。隣接する除電ユニットの第1のイオン生成電極に、逆極性の電圧が印加された場合、隣接する除電ユニット相互が近接していると、隣接する除電ユニットの第1のイオン生成電極から生成される逆極性のイオンが、相互に再結合して、消滅する。この状態においては、フィルム面に照射されるイオン量が低下するので、この状態は、好ましくない。第2のイオン生成電極においても同じである。
除電ユニットを並設する目的は、先に述べたように、第1の除電ユニットSU1によって、第1の面100の負の静電荷102(と第2の面200の正の静電荷201)を除電し、第2の除電ユニットSU2によって、第1の面100の正の静電荷101(と第2の面200の負の静電荷202)を除電するためである。ただし、第1の除電ユニットSU1と第2の除電ユニットSU2の役割は、この逆であっても良い。また、3以上の除電ユニットを使用する場合は、除電ユニットの全体において、いずれかの除電ユニットの間で、この関係が成り立てばよい。
また、以下に述べる弱充電モードのように、イオン雲が除電ユニット相互の間にまで広がりを有する場合においては、個々の除電ユニットの直下だけでなく、除電ユニット相互の間におけるイオンの照射までを含めて考えればよい。すなわち、後述の同期重畳が発生している状況の場合であっても、各除電ユニットの直下で、第1の面100の負の静電荷102(と第2の面200の正の静電荷201)を除電し、一方、除電ユニット相互の間で、第1の面100の正の静電荷101(と第2の面200の負の静電荷202)を除電するということでも全体を適切に除電できる場合がある。このときの除電ユニット並設の主目的は、移動速度が50〜500m/分程度のフィルムに対して、十分なイオン雲の広がりを確保するためとなる。このような除電ユニットの並設は、先に述べた照射ムラへの対策でもある。
これを実現するためには、除電ユニットを、単にフィルムSの移動方向に並設配置するだけでは十分でなく、フィルムSの各部において、各面に、それぞれ正負両極性のイオンが照射されるように、各除電ユニットの配置を適正化する必要がある。
この配置の適正化は、単極性のイオン雲を形成するとともに、イオンをフィルムSに強制照射する能力が高い本発明の除電ユニットを用いて除電装置を構成する際に、特に考慮されるべきである。イオン照射能力の低い通常の除電器においては、単極性のイオン雲が形成され難く、例え2以上の除電器が並設されていても、イオンの照射ムラによるフィルムSの強い帯電は生じ難い。また、従来技術の説明において述べた特許文献1や特許文献2の除電器において、巨視的な見かけ上の帯電ムラが確認されているものの、これらの文献において、イオン生成電極を単にフィルムの移動方向に並設配置する以上の対策は述べられていない。
除電ユニットの配置を適正化する方法として、本発明者らは、次の2つの態様を見出した。
[第1のモード(弱充電モード)]
イオンを強制的にフィルム面に照射するが、イオンが、イオン生成電極とフィルムとの間で十分な広がりを持ち、多段の除電ユニットにより構成される除電ゲート全体に広がる単一の極性のイオン雲を形成するモード。このモードを弱充電モードと呼称する。
[第2のモード(強充電モード)]
イオンをより強力にフィルム面に照射することで、イオンが、各除電ユニットの第1および第2のイオン生成電極間に集中し、各除電ユニットごとに、逆極性のイオン雲対を形成するモード。このモードを強充電モードと呼称する。
なお、強充電モードにおいては、各除電ユニットにおいて、フィルム両面が強く逆極性に帯電されるので、除電ユニット間隔、フィルム速度と印加電圧周波数の関係を適正化することにより、除電ユニット全体によるフィルムの両面の逆極性の帯電を低く抑える必要がある。
弱充電モードと強充電モードとを区別する境界は、法線方向電極間距離d1[単位:mm]、印加電圧V[単位:V]ならびにその周波数f[単位:Hz]によって表される次の関係式が成り立つ条件にある。
V=0.085×d1 2×f
印加電圧周波数が60Hzの場合におけるこの関係は、図24のグラフに示される。図24のグラフにおいて、横軸は、法線方向電極間距離d1[単位:mm]、縦軸は、印加電圧V[単位:kV]を示す。印加電圧Vの値が、上の関係式の右辺より小さいときが、弱充電モードである。すなわち、図24の領域24aが、弱充電モードの領域である。印加電圧Vの値が、上の関係式の右辺より大きいときが、強充電モードである。すなわち、図24の領域24bが、強充電モードの領域である。これらの関係には、先に述べた交流コロナ風(矢印形コロナ風)の定常的な発生の限界が関係していると思われる。
イオン生成電極から生成されたイオンが、フィルムに到達するまでに要する時間は、d1 2/Vに比例すると考えられ、この時間が、印加電圧極性が反転する時間、すなわち1/2fに相当するのが、矢印形コロナ風の定常的な発生の限界となる。これより、次式
1/2f=C×(d1 2/V)(Cは定数)
を解くことにより、次式が得られる。
V=D×d1 2×f (Dは定数)
本発明者らは、種々の実験により、式V=0.085×d1 2×fが、弱充電モードと強充電モードとの境界であることを見出した。
先のイオン強制照射の式と併せて考えると、式0.0425×d1 2×f≦V≦0.085×d1 2×fでは、イオン生成電極から生成されたイオンがフィルムに到達するまでの時間に、印加電圧極性が1回または2回反転する弱充電モードとなり、また、式0.085×d1 2×f<Vでは、イオン生成電極から生成されたイオンがフィルムに到達するまでの時間に、印加電圧極性が1回以下しか反転しない強充電モードとなる。
上記のイオンがフィルムに到達するまでの時間と、印加電圧極性の反転回数の関係は、フィルムが、第1および第2のイオン生成電極間の法線方向の中央にある場合の関係である。フィルムの位置がここからずれる、すなわち、フィルムと第1または第2のイオン生成電極との間の距離が異なると、印加電圧の反転回数はこれと異なることになる。但し、この2つの除電モードは、フィルムにかかる電界に依存するところが大きい。従って、フィルムと第1のイオン生成電極との距離と、フィルムと第2のイオン生成電極との距離の比が、1:2以上2:1以下までずれていても問題ない。
次に、それぞれのモードにおける除電の効果について説明する。
弱充電モードでは、イオン生成電極とフィルムとの間で、矢印形コロナ風が定常的に発生しているため、イオン生成電極により生成されたイオンが、フィルムの移動方向に、比較的大きな広がりを有するイオン雲として照射される。弱充電モードにおける1除電ユニット当たりのイオン雲の広がりaは、本発明者らの検討によると、次式で示される程度と推定出来ることが判明した。
a=15×d1 2/(d3×d4)[単位:mm]
すなわち、法線方向電極間距離d1と法線方向シールド電極間距離d3の比d1/d3が大きいほど、イオン雲の広がりaが大きくなり、かつ、法線方向電極間距離d1とシールド電極開口幅d4の比d1/d4が大きいほどイオン雲の広がりaが大きくなる傾向にある。このイオン雲の広がりaに対して、隣接電極が近くにあることが好ましい。
本発明者らの知見により、除電ユニット間隔d2がイオン雲の広がりaの80%程度以下、すなわち
d2<12×d1 2/(d3×d4)[単位:mm]
が満たされるとき、隣接する除電ユニットからのイオンが、相互にオーバーラップしながらフィルム面に到達する。並設される全ての除電ユニットの第1のイオン生成電極に、同位相の電圧を印加した場合、イオンは、フィルム面において実質的に単極性の一つのイオン雲として広がりを有しながら、フィルムに照射されるとみなせる。
すなわち、ある時刻においては、除電ゲート(1番目の除電ユニットから、最終の除電ユニットまで)の間にあるフィルムS上のいずれの位置にも、第1の面100に正のイオン301が照射されていることになる。この様子を図25に示す。この時点から、印加電圧の半周期分(1/2f)後の時刻においては、すなわち、フィルムSがこの時間変化分、つまり、u/2f分進行した状態においては、除電ゲートの範囲にあるフィルムS上のいずれの位置にも、第1の面100に負のイオン302が照射される。
この場合、必ずしも、第1の除電ユニットによって、第1の面100の負の静電荷102を除電し、第2の除電ユニットによって、第1の面100の正の静電荷101を除電する、あるいは、この逆の形になっていなくても良い。すなわち、フィルムS上の特定の部位が、各除電ユニットの直下を通る際に、第1の面100の側に照射されるイオンが、すべて同極性(同期重畳の状態)であっても良い。
これは、イオン雲が除電ゲート全体に広がっていることで、除電ユニットと除電ユニットの間、例えば、第1の除電ユニットの直下と第2の除電ユニットの直下との間の中央部分においても、フィルムSには、逆極性のイオンが十分に照射され得るからである。ただし、フィルムS上の各部において、第1の面100に正負両方のイオンを照射するため、イオン雲全体の広がりが、印加電圧が1周期変化する間にフィルムが移動する距離よりも大きい必要がある。
弱充電モードにおけるイオン雲全体の広がりは、除電ゲート長D2[単位:mm]にa[単位:mm]を足したものである。一方、周波数f[単位:Hz]で印加電圧が1周期変化する間に、フィルムが速度u[単位:mm/秒]で移動する距離は、u/fである。従って、式D2+a>u/fが満足されれば良い。除電ユニット数が多い場合、D2+aをD2で近似でき、式D2>u/fが満足されれば十分である。全ての除電ユニット間隔d2が一定の時、D2=d2×(n−1)である。
一方、照射ムラについては、次の様に考えられる。フィルムSの各部には、時間的・空間的に連続して正負のイオン301、302が照射されているため、フィルムSの第1の面100には、片極性のイオンのみが照射されている部位はない。従って、最終的なフィルムSの各面の帯電は、除電ユニット1つ当たりの照射ムラの総和(n倍)より小さくなる。
他方、弱充電モードは、もともと、矢印形イオン風が発生する領域であるため、除電ユニット1つ当たりの照射ムラも小さい。本発明者らが、無帯電のフィルムを用いて、この照射ムラの電荷密度を調べたところ、1〜15μC/m2程度の振幅をもつ正弦波状であった(これは、第1の面における値であるが、第2の面においても同様である)。従って、例えば、除電ユニットの数が10の除電装置では、フィルムSの第1の面100の最終的な電荷密度(照射ムラの総和)は、絶対値で150μC/m2以下となる。
除電能力に関しては、もともと帯電しているフィルムS上の部位においては、元の電荷密度の絶対値から150μC/m2を引いた程度にまで第1の面100の電荷密度が低減される。元の電荷密度の絶対値が150〜300μC/m2程度であれば、もともと帯電していたフィルムS上の部位と、もともと無帯電であったフィルムS上の部位との除電後の第1の面100における電荷密度の差はほとんどなくなる。
すなわち、第1の面100において、最終的に、局所的に強く帯電している部位がなくなり、印加電圧の周波数と、フィルムSの移動速度とで決まる移動方向になめらかに電荷密度が変化する状態となる。このような帯電の状態において、フィルムSの第1の面の近傍の面内方向電界は小さい。このため、面内方向の電界が問題となるような後工程においても、静電気の問題はなく、フィルムSを使用することが出来る。また、この最終的な帯電は、先に説明した通り、両面が逆極性で電荷密度もほぼ等量であり、見かけ上の電荷密度は、ほぼ0(−2μC/m2以上+2μC/m2以下)で、見かけ上の無帯電といえる。後段の直流や交流の除電器なしで、フィルムSをそのまま後工程で使用しても、帯電が引き起こす問題は解消されているフィルムSが得られる。
コーティング塗工に使用するフィルムなどで、フィルムの帯電量を電位で管理したい場合には、次のように考えればよい。
フィルムSの第1の面100の背面平衡電位Vfの絶対値を、例えば、V0[単位:V]以下にしたい場合、前述の電荷密度σ[単位:C/m2]とフィルム厚さdf[単位:m]、背面平衡電位Vf[単位:V]の関係式より、第1の面100の電荷密度の絶対値σ0が、式σ0≦C×V0=V0×ε0×εr/dfを満足するようにすれば良い。
ポリエチレンテレフタレートフィルムにおいて、シリコーンコーティング膜の塗布ムラを抑制するために許容される電荷密度の絶対値は、εr=3、V0=340Vを代入して
0.009/dfμC/m2以下となる。第1の面100の電荷密度の絶対値を150μC/m2以下に抑えた場合、厚さが約60μm以下のフィルムであれば、第1の面100の背面平衡電位の絶対値も340V以下に出来るが、これ以上の厚さを持つフィルムに対しては、電荷密度の絶対値を150μC/m2以下としていても第1の面100の背面平衡電位の絶対値が高くなりすぎ、塗布ムラが発生することがある。
このため、厚さが60μm以上のフィルムにおいては、−150μC/m2以上+150μC/m2以下に第1の面100の電荷密度を抑制するだけでなく、フィルム厚さdfがフィルムの背面平衡電位に及ぼす影響を考え、第1の面100の背面平衡電位を−340V以上+340V以下に抑制するよう除電することが塗布ムラ抑制の観点から好ましい。除電ユニット一つ当たりの照射ムラによる第1の面100の電荷密度の振幅は、上述の通り、弱充電モードの場合、最大で15μC/m2程度である。従って、同期重畳状態での使用が許容される正味の除電ユニットの数は、この許容される電荷密度の絶対値(0.009/df)[単位:μC/m2]を、照射ムラの電荷密度の振幅の最大値である15μC/m2で割り、0.0006/df以下で、0以上の整数個として求められる。
n個の除電ユニットのうち、この数を除く除電ユニットからの照射ムラについては、許容されないので、これを相殺する必要がある。フィルムの第1の面100の最終的な背面平衡電位を、−340以上+340V以下にするには、フィルム上の各部が、各除電ユニットの第1のイオン生成電極の直下を通る際、(n−0.0006/df)/2個以上(n+0.0006/df)/2個以下の除電ユニットにおける、第1のイオン生成電極への印加電圧の極性が同極性になるようにすれば良い。除電ユニットの数は正の整数であるので、上述の、第1のイオン生成電極への印加電圧の極性が同極性となる除電ユニットの数は、上式を満たす範囲の0以上n以下の範囲の整数を選べばよい。従って、除電ユニットの数がnであるとき、フィルム上の各部が各除電ユニットの第1のイオン生成電極の直下を通る際、(n−0.0006/df)/2を越える0以上、(n+0.0006/df)/2を越えないn以下、の整数個の除電ユニットにおいて、第1のイオン生成電極の印加電圧の極性が同極性になるようにすれば良い。
ここで、上記の(n−0.0006/df)/2の値が、負の数となることがある。例えば、除電ユニットの数nが10個からなる除電装置において、厚さが60μm未満のフィルムの場合がこれに相当する。これは、フィルム上の特定の部位が、各除電ユニットの第1のイオン生成電極の直下を通る際の、全ての除電ユニットの第1のイオン生成電極への印加電圧の極性が同極性でも良い、すなわち、同期重畳状態であっても良いことを意味する。この場合、フィルム上の各部位が通過する際に、第1のイオン生成電極に同極性の電圧を印加されている除電ユニットの個数は、0以上nまでのいすれでも良いことになる。弱充電モードにおいて、イオンが除電ゲート全体に広がるために、同期重畳の状態を許容出来るのは、先に述べた通りである。
フィルムの第1の面100の背面平衡電位を−200V以上+200V以下、すなわち、アイソパーによる塗布ムラが発生しない範囲にしたい場合も、同様に考えれば良い。このとき、許容される電荷密度の絶対値は、フィルムがポリエチレンテレフタレートフィルムであり、その誘電率εrの値を3とした場合、0.0053/df[単位:μC/m2]となる。従って、除電ユニットの数がnであるとき、フィルム上の各部が各除電ユニットの第1のイオン生成電極の直下を通る際、(n−0.00035/df)/2を越える0以上、(n+0.00035/df)/2を越えないn以下、の整数個の除電ユニットにおいて、第1のイオン生成電極の印加電圧の極性が同極性になるようにすれば良い。
一方、フィルムSの第1の面100の帯電量が非常に大きい場合、例えば、第1の面100の電荷密度が、絶対値で300μC/m2以上500μC/m2以下程度の場合や、フィルムSの移動速度が速い場合に、弱充電モードを使用出来ないことがある。その理由は、弱充電モードでは、イオンの絶対量が少ないため、第1の面100の帯電量を所望の値まで低減するために、非常に多くの除電ユニット、すなわち、数10〜100個の除電ユニットが必要となるためである。このような場合には、強充電モードでフィルムSを除電することが好ましい。ただし、強充電モードの場合においては、各イオン生成電極によるイオンの生成量も多く、照射ムラの総量も大きいため、これに対する対策が必要となる。
強充電モードにおいては、矢印形コロナ風の影響がほぼなくなり、イオンが生成されたイオン生成電極の直下に集中する。これにより、イオン雲は、除電ゲート全体に広がる単一の極性のイオン雲としてはとらえられなくなり、除電ユニット毎に形成される広がりの小さな複数のイオン雲対としてとらえる必要がある。
このとき、フィルムSには、空間的に離散した複数の正負のイオン雲対が照射される。フィルムSの第1の面100の最終的な帯電は、もともと無帯電であったフィルムS上の部位において、各除電ユニットによる照射ムラによる電荷密度の総和の形となる。フィルムSに照射されるイオン雲の数が、正負の極性毎にほぼ同じであれば、除電の効果は、最も高い。また、各除電ユニットによる照射ムラが、相互に打ち消されるため、最終的に、フィルムSの第1の面100の照射ムラによる帯電の電荷密度は、ほぼゼロになる。
全イオン雲中の1/4以上のイオン雲の極性が、残りのイオン雲と反対の極性であれば、照射されるイオンの半分以上が、除電に有効に消費される。また、各除電ユニットからの照射ムラを相互に弱める働きの方が、照射ムラを相互に強める働きより強い。従って、フィルムSの移動方向全ての部位において、フィルムSの第1の面100の各部に照射される全イオン雲のうち、1/4以上のイオン雲の極性が、残りのイオン雲と反対の極性になっていることが好ましい。イオン生成電極への印加電圧の変化が、正弦波や三角波、台形波など、極性がなめらかに変化する波形を有する場合、フィルムSの移動方向の2/3以上の部位において、フィルムSの第1の面100の各部に照射される全イオン雲のうち、1/4以上のイオン雲の極性が、残りのイオン雲と反対の極性になっていれば、実用上問題ない。
次に、この場合において、同極性のイオン雲が、全イオン雲の3/4以上重ね合わせて照射される部位、すなわち、フィルムSの移動方向の1/3以下の部位について検討する。この部位における第1の面100の照射ムラは、第1のイオン生成電極への印加電圧の極性が反転する時刻前後に生成されるイオンによって発生する。第1のイオン生成電極への印加電圧が、正弦波や三角波など、極性がなめらかに変化する波形を有する場合、印加電圧極性が反転される時刻前後に生成されるイオンは量が少ない。従って、この部位における第1の面100の照射ムラによる帯電は、その値が小さいので、フィルムSの各面の最終的な帯電に、大きなムラは生じない。
強充電モードにおいて、全ての除電ユニット間隔が一定値d20で並設され、各除電ユニットの第1のイオン生成電極に、同位相の交流電圧を印加した場合、フィルムSの第1の面100に照射されるイオンの同期重畳強さXは、次式で求められる。
X=|sin(nπfd20/u)/{n・sin(πfd20/u)}|
ただし、ku≠fd20、および、k=1,2,3・・・である。
なお、ku=fd20の場合は、X=1である。
この式は、次のようにして得られている。
各除電ユニットからの照射ムラによるフィルムSの第1の面100の電荷密度の分布を、正弦波状であると仮定して、sin(2πfx/u)の形で近似する。式中のxは、フィルム移動方向の相対位置を表す。
第1番目の除電ユニットからの照射ムラによるフィルムSの第1の面100の電荷密度の分布が、sin(2πfx/u)であるとき、第2番目の除電ユニットからの照射ムラによるフィルムSの第1の面100の電荷密度の分布は、除電ユニット間隔d20により、sin(2πf(x−d20)/u)の形で表される。すなわち、除電ユニット間隔d20で隣接する除電ユニット毎に、位相(2πfd20/u)ずつずれた電荷密度分布をもつ照射ムラが発生する。
これらの電荷密度分布の総和が、フィルムSの第1の面100の最終的な帯電分布となる。前記Xの値は、この総和の振幅を除電ユニットの総数nで規格化したものに相当する。このXの値が、0≦X<0.5であるとき、フィルムSの移動方向の2/3以上の部位において、全イオン雲のうち1/4以上のイオン雲の極性が、残りのイオン雲と反対の極性で、フィルムSの第1の面100に照射される。Xの値を、n=10(除電ユニット数10)の場合を例として、u/(d20×f)に対して求めた値が、図26のグラフに示される。図26のグラフにおいて、横軸は、周波数で規格化した速度対除電ユニット間隔の値(u/(d20×f))であり、縦軸は、同期重畳強さの値Xである。
この同期重畳強さXが、式0≦X<0.5を満足する場合、全除電ユニットからの照射ムラによる第1の面100の電荷密度が、その同期重畳の場合の半分以下に抑制される。複数の除電ユニットからの照射ムラが、さまざまな位相で、すなわち、距離d20、2d20、3d20・・・に相当する位相のずれをもって重ねることにより、照射ムラが、同位相で強調されるよりもむしろ、逆位相で相殺されることの方が多くなる。このことは、最終的に、フィルムSの帯電のムラが小さいことを意味する。
同期重畳強さXの値が、式0≦X<1/nを満足するように、フィルムSの移動速度u、除電ユニット間隔d20、あるいは、印加電圧周波数fを変えれば、照射ムラに起因する、フィルムSの第1の面100の最終的な帯電の電荷密度を、除電ユニット一つ分の照射ムラの電荷密度以下にまで低減することが出来、より好ましい。これにより、同時に、フィルムSの第1の面100の各部において、全除電ユニットのほぼ半分の除電ユニットから、正イオンが照射され、残りの、すなわち、ほぼ半分の除電ユニットから、負イオンが照射される状態が創出される。この状態は、除電効果が高い状態をもたらす最も理想的な正負イオンの照射状態である。
従って、フィルムの第1の面100の帯電量が非常に大きいため、あるいは、フィルムSの移動速度が速いため、弱充電モードでは除電が困難な場合は、強充電モードを積極的に利用するのが好ましい。強充電モードの成立要件は、先の矢印形コロナ風発生の場合の関係式より、式V>0.085×d1 2×fが成立する場合であり、強充電モードは、この条件下で、好適に使用される。
強充電モードにおいて、除電ユニット一つ当たりの照射ムラは、弱充電モードの場合に比べ、大きい。本発明者らが、無帯電のフィルムを用いて、この照射ムラによる帯電の分布を調べたところ、その電荷密度の分布状況は、10〜30μC/m2程度の振幅をもつ正弦波状であった(これは、第1の面における値であるが、第2の面においても同様である)。例えば、除電ユニットの数が10の除電装置において、上記Xの値を、式0≦X<0.5を満足するようにすることによって、フィルムSの第1の面100の最終的な電荷密度(照射ムラによる電荷密度の総和)の絶対値(振幅最大値)を、150μC/m2より小さく出来る。
元々帯電しているフィルムS上の部位においては、元の電荷密度の絶対値から、150〜300μC/m2を引いた程度にまで第1の面100の電荷密度が低減される。元の電荷密度の絶対値が、300〜500μC/m2程度であれば、元々帯電していたフィルムS上の部位と、元々無帯電であったフィルムS上の部位との除電後の第1の面100における電荷密度の差は、ほとんどなくなる。すなわち、第1の面100において、最終的に、局所的に強く帯電している部位がなくなり、印加電圧の周波数と、フィルムSの移動速度とで決まるなめらかに変化する帯電の状態となる。このような帯電の状態において、フィルムSの第1の面100の近傍の沿面電界は小さい。このため、沿面電界が問題となるような後工程においても、静電気の問題はなく、フィルムSを使用することが出来る。強充電モードにおいては、比較的強い照射ムラは発生するが、この照射ムラは、先に説明した通り、両面が逆極性で電荷密度もほぼ等量である。従って、最終的な帯電は、見かけ上の電荷密度は−2以上+2μC/m2以下で、見かけ上の無帯電といえる。後段の直流や交流の除電器なしで、フィルムSをそのまま後工程で使用しても、帯電が引き起こす問題は解消されているフィルムSが得られる。
上記Xの値を、式0≦X<1/nを満足するようにすれば、最終的なフィルムSの第1の面100の帯電の電荷密度の絶対値(振幅最大値)を、除電ユニット1つあたりの照射ムラによる帯電の電荷密度である30μC/m2程度以下にすることが出来、実質的に無帯電のフィルムSが得られる。
強充電モードの場合も、コーティング塗工に使用するフィルムなどで、フィルムの帯電量を電位で管理したい場合には、弱充電モードの場合同様、次のように考えればよい。
厚さdf[単位:m]を有するフィルムSにおいて、フィルムSの第1の面100の背面平衡電位が絶対値で340V以下となる電荷密度の絶対値は、先に述べた通り、0.009/df[単位:μC/m2]以下である。一方、除電ユニット一つ当たりの照射ムラによる第1の面100の電荷密度の振幅は、上述の通り、最大で30μC/m2程度である。従って、同期重畳状態での使用が許容される正味の除電ユニットの数は、この許容される電荷密度の絶対値(0.009/df)[単位:μC/m2]を、除電ユニット一つあたりの照射ムラによる電荷密度の振幅の最大値である30μC/m2で割ることにより、0.0003/df以下で、0以上の整数個として求められる。
n個の除電ユニットのうち、ここに求められた数を除く数の除電ユニットからの照射ムラを相殺する必要がある。フィルムSの第1の面100の最終的な背面平衡電位を、−340V以上+340V以下にするには、フィルムS上の各部が、各除電ユニットの第1のイオン生成電極の直下を通る際、(n−0.0003/df)/2個以上、(n+0.0003/df)/2個以下の除電ユニットにおいて、第1のイオン生成電極の印加電圧の極性が同極性になるようにすればよい。
ここで、上記の(n−0.0003/df)/2の式の値が、負の数となることがある。これは、フィルムS上の特定の部位が、各除電ユニットの第1のイオン生成電極の直下を通る際の、全ての除電ユニットの第1のイオン生成電極への印加電圧の極性が、同極性、すなわち、同期重畳状態でも、照射ムラの重畳により、最終的にフィルムSに発生した帯電では、後工程での塗布材料の塗布ムラが発生しないことを意味する。
例えば、除電ユニットの数nが10個からなる除電装置において、厚さが30μm未満のフィルムSの場合、(n−0.0003/df)/2の値は、負となる。これは、厚さが30μm未満のフィルムSであれば、強充電モードにおいて、10個の除電ユニットが同期重畳の状態にあっても、各除電ユニットからの照射ムラによりフィルムSに最終的に発生する第1の面100の背面平衡電位が−340V以上+340V以下の範囲となるため、後工程での塗布材料の塗布ムラは生じないことを意味する。しかし、強充電モードにおける除電では、除電ユニットの直下においてイオンが集中して照射されるため、全ての除電ユニットにおける第1のイオン生成電極に同極性電圧が印加される条件(同期重畳状態)では、フィルムSの第1の面100において、正イオンのみもしくは負イオンのみが照射される部位が生じる。
除電の観点から、また、塗布ムラ以外の欠点抑制の意味から、最低でも1つの除電ユニットにおいて、第1のイオン生成電極の印加電圧の極性を逆極性とするべきである。照射ムラの重畳によるフィルムSの第1の面100の最終的な帯電を原因とする塗布ムラに対して、同期重畳状態が許容範囲であっても、除電前のフィルムSの第1の面100の電荷密度を減ずる、すなわち、除電する観点からは、同期重畳は好ましくない状態である。除電の目的をも達成するためには、同期重畳状態での使用を許容出来る正味の除電ユニットの数を、最大でもn−1個までとするのが好ましい。このため、フィルムS上の各部が、各除電ユニットの第1のイオン生成電極の直下を通る際、n個の除電ユニットのうち、(n−0.0003/df)/2を越える1以上、(n+0.0003/df)/2を越えないn−1以下、の整数個の除電ユニットにおいて、第1のイオン生成電極の印加電圧の極性が、同極性になるようにすれば良い。
強充電モードを使用し、フィルムSの第1の面100の背面平衡電位を−200V以上200V以下、例えば、アイソパーによる塗布ムラが発生しない電位範囲にしたい場合は、フィルムS上の各部が、各除電ユニットの第1のイオン生成電極の直下を通る際、n個の除電ユニットのうち、(n−0.00018/df)/2を越える1以上、(n+0.00018/df)/2を越えないn−1以下、の整数個の除電ユニットにおいて、第1のイオン生成電極の印加電圧の極性が、同極性になるようにすれば良い。
強充電モードと弱充電モードの2つの除電モードは、フィルムSの2次加工工程、例えば、スリット工程において、1つの製品中に異なる速度を有する部分が存在する場合に、これらを適宜切り替えて使用することが出来る。すなわち、フィルムSが高速で定速移動をする速度領域において、例えば、0≦X<0.5となるように、除電ユニット間隔d2や印加電圧周波数fを設定しておき、この部分では、強充電モードを使用し、昇速や減速時に、Xの値が0.5以上となる速度領域において、強充電モードでの強い照射ムラをさけるために、弱充電モードとなる低い印加電圧で除電を行うことが出来る。0≦X<0.5とする代わりに、0≦X<1/nとなるように設定することも可能である。
以上の除電の効果の説明は、フィルムSの第1の面100を代表させて行ったが、第2の面200の除電の効果についても全く同じである。
印加電圧Vの上限は、火花放電への移行により決まる(例えば、非特許文献5、参照)。非特許文献5によれば、負コロナの火花電圧、すなわち、負直流電圧印加時の負コロナ放電が火花放電に移行する電圧の絶対値Vb[単位:V]は、電極間距離d[単位:mm]に比例し、約1500dである。一方、正コロナ火花電圧、すなわち、正直流電圧印加時の正コロナ放電が火花放電に移行する電圧は、Vbの約1/2である。
火花放電への移行を抑制するためには、正電圧印加時のピーク電圧をVb/2より小さくする必要がある。第1および第2のイオン生成電極への印加電圧の実効値V1と、V2が等しい時、片側ピーク電圧Vpを、この値より小さくする必要がある。すなわち、片側ピーク電圧Vp[単位:V]が、法線方向電極間距離d1[単位:mm]に対して、式Vp<750×d1を満足するようにすれば良い。これを交流印加の場合の実効電圧V[単位:V]で表わすと、V<530×d1となる。なお、イオン生成電極と、シールド電極との距離が近いなどの場合は、電極ユニット構造等に依存して、実際の印加電圧の上限が決まる。とり得る法線方向電極間距離d1の値は、周波数にも依存するが、20mm以上100mm以下程度、より好ましくは、25mm以上40mm以下程度である。
図17に示される実施形態においては、各除電ユニットの第1および第2のシールド電極5g−1〜5g−n、5h−1〜5h−nは、接地されているが、次の式を満足する範囲において、k番目の除電ユニットSUk(但しk=1,2・・・n)の第1および第2のシールド電極5g−k、5h−k(k=1,2・・・n)間に電位を付与し、これらの間に、電界を発生させるようにしても良い。なお、各除電ユニットの第1のシールド電極5g−1〜5g−nと、第2のシールド電極5h−1〜5h−nに付与される電位は、それぞれ同電位であることが好ましい。
|Vs1−Vs2|/d3<5[単位:V/mm]
Vs1:第1のシールド電極5g−k電位[単位:V]
Vs2:第2のシールド電極5h−k電位[単位:V]
ここで、Vs1−Vs2=Vsとし、Vsが、第1および第2のシールド電極5g−k、5h−k間の電位差となる。
第1および第2のシールド電極5g−k、5h−k間に弱い電界を発生させる方法は、例えば、第1の面100と第2の面200とで帯電特性が大きく異なるフィルムSを除電する際に、その摩擦帯電量のアンバランス分を解消するため、積極的に各面に微弱な帯電をさせるために、好ましく使用される。第1の面100と第2の面200とで帯電特性が大きく異なるフィルムSの例としては、ベースフィルムの第2の面に塗剤が塗布されているフィルムがある。このようなフィルムおいては、例えば、第1の面100がベースフィルムの特性により負に帯電しやすく、第2の面200が塗剤の影響により正に帯電しやすい。この場合、第1の面100を正に、第2の面200を負に帯電させるとよい。これ以上の電界を、第1および第2のシールド電極5g−k、5h−k間に発生させることは、フィルムSの各面に過大な帯電を生じさせるため、避けた方が良い。
摩擦帯電程度のフィルムSの各面の間の帯電傾向の多少の差が問題とならないフィルムSの場合は、第1および第2のシールド電極5g−1〜5g−nと、5h−1〜5h−nとを電気的に接続し、同電位にするのが好ましい。特に、搬送ロールなどの周辺の接地構造物との間にも電界を発生させないように、第1および第2のシールド電極5g−1〜5g−nと、5h−1〜5h−nとをともに接地することが最も簡便であり好ましい。
第1ならびに第2の電極ユニットEUd−k、EUf−kとして使用される放電電極の例が、図29、および、図30に示される。
図29において、電極ユニット7は、イオン生成電極7a、シールド電極7b、高圧電源(図示せず)に接続される高圧芯線7c、および、イオン生成電極7aとシールド電極7bとを分離する絶縁部材7dからなる。
図30において、電極ユニット8は、イオン生成電極8a、シールド電極8b、高圧電源(図示せず)に接続される高圧芯線8c、および、イオン生成電極8aとシールド電極8bとを分離する絶縁部材8dからなる。電極ユニットとしては、図29に示されるように、イオン生成電極7aと高圧芯線7cとが直接結合されているもの、図30に示されるように、イオン生成電極8aと高圧芯線8cとが絶縁部材8dを介して容量結合しているもののいずれを使用しても良い。イオン生成電極と高圧芯線とが、保護抵抗を介して、抵抗結合しているものでも良い。
本発明における電極ユニットは、図29や図30に示されるように、シールド電極7b、8bの少なくとも一部が、イオン生成電極7a、8aの背面部に位置し、かつ、イオン生成電極7a、8aとシールド電極7b、8bとの間が、絶縁部材7d、8dによって、絶縁されているものが好ましい。シールド電極は、イオン生成電極の先端近傍の開口部を形成する部材とイオン生成電極の背面部をシールドする部材とに分割されている形態のものでも良いし、図29、あるいは、図30に示されるように、シールド部材が一体になっているものでも良い。
第1および第2のイオン生成電極5d−kと、5f−kとを対向配置する図17に示されるような除電器において、印加電圧を上昇させると、第1のイオン生成電極5d−kと第2のイオン生成電極5f−kとの間で、火花放電が生じることがある。背面部にもシールド電極を位置させることで、シールド電極とイオン生成電極との間で、安定してコロナ放電が生じるようになる。絶縁部材で、イオン生成電極とシールド電極背面部との間を絶縁することにより、イオン生成電極とシールド電極との間での火花放電が、抑制出来る(例えば、特許文献9、参照。)。
ここで、背面とは、イオン生成電極先端部より、対向するイオン生成電極に対して、反対側に位置する面をいう。シールド電極は、イオン生成電極の近傍に配置されていれば、電極全体を支えるベースプレートなどと共用されていても良い。イオン生成電極とシールド電極との距離が、法線方向電極間距離d1より小さいことが好ましい。イオン生成電極とシールド電極との距離は、好ましくは5mm以上20mm以下程度、より好ましくは、10mm以上15mm以下程度である。
法線方向シールド電極間距離d3は、法線方向電極間距離d1より小さくすることも可能である。この場合、シールド電極の先端部が、イオン生成電極の先端部より対向電極方向の前に位置する。ただし、法線方向シールド電極間距離d3が、法線方向電極間距離d1より小さいと、生成されたイオンがシールド電極に多く吸収されるのでイオン量が減少する。シールド電極位置の目安は、式0.9≦d1/d3≦1.15を満足していることが好ましい。
イオン生成電極は、図29、図30、あるいは、図31に示されるように、針電極列からなるものが好ましい。ワイヤ電極のように、剛性の低いものでは、幅広のフィルムの除電の場合に、ワイヤのたるみや、ワイヤの平行度の僅かなズレなどにより、法線方向電極間距離d1に幅方向の不均一が生じ、幅方向の放電の均一性が失われ易くなり、好ましくない。針電極列の場合における針間隔(幅方向の間隔)d5としては、除電ユニット間隔d2の1/2〜2倍程度が好ましく、10mm以上40mm以下程度が好ましい。シールド電極の開口部は、図31に示されるように、幅方向に連続している開口しているのが好ましい。また、各イオン生成電極において、個々の針電極には実質的に同位相で同じ振幅の電圧が印加されているのが好ましい。これは、シールド電極の開口部が幅方向に連続していれば、各イオン生成電極の個々の針電極からのイオンが、幅方向に広がるためである。この場合、針直下と、幅方向にずれた位置とで、イオンの照射量の違いは小さい。弱充電モードでは、針直下を通過したフィルム上の部位と針直下を通過しなかったフィルム上の部位とで、照射ムラによる各面の電荷密度の大きさに、ほとんど差はなく、強充電モードでも、照射ムラによる各面の電荷密度の大きさは、最大でも半分程度しか違わない。なお、先に説明した照射ムラによるフィルムの各面の電荷密度の振幅の30μC/m2という値は、幅方向においても、最大の値であり、この値を示す位置は、針直下を通過したフィルム上の部位に該当する。
シールド電極の開口部が幅方向に連続している場合、各除電ユニットにおいて、第1のイオン生成電極を形成する各針電極の針先と、対応する第2のイオン生成電極を形成する針電極の針先との幅方向における間隔は、電極ずれ量d0より大きく、法線方向電極間距離d1程度となっていても問題ない。一方、シールド電極の開口部が、フィルム幅方向に離散している場合、例えば、針電極近傍のみに丸穴があいているパイプ状の電極がシールド電極として使用される場合、各除電ユニットにおいて、第1のイオン生成電極を形成する各針電極の針先と、対応する第2のイオン生成電極を形成する針電極の針先との幅方向における間隔は、電極ずれ量d0と同程度にするのが好ましい。
このように、シールド電極の開口部が幅方向に離散している場合、幅方向のある部分においては、シールド電極に開口部が存在しないことになる。この幅方向の位置においては、本発明におけるシールド電極開口幅d4等の値は、規定出来なくなる。この場合、シールド電極の開口部が存在する幅方向の部分の各位置において、本発明における関係式が成り立てば良いものとする。
一方、除電ユニット相互における、針電極の針先の幅方向の位置関係については、次のことがいえる。シールド電極の開口部が、図31に示されるように、幅方向に連続している場合、除電ユニット相互における針電極の針先の幅方向の位置関係は、さほど重要でない。ただし、より均一な除電を行う目的がある場合や、シールド電極の開口部が幅方向に離散している電極ユニットを使用する場合においては、除電ユニット相互における針電極の針先の幅方向の位置を相互に異ならしめることが好ましい。
除電ユニットの総数nについて、n=1は、移動するフィルムの各部の各面に正または負イオンのいずれかしか照射出来ない部分が生じるため、好ましくない。移動するフィルムの各部の各面に、正および負イオンの両方を照射するために、式n≧2が満足されていることが必要である。
本発明によれば、局所的な帯電、特に、スタチックマークなど局所的な両面両極性帯電を持つフィルムの除電において、フィルムの各面の電荷密度を十分に低下させることが出来るが、全体の除電ユニット数nは、フィルムの各面の局所的帯電量と、プロセスにより異なる許容される帯電量に基づき、選定される。低減したい各面の帯電の量が電荷密度の絶対値で30μC/m2以上200μC/m2以下程度であれば、弱充電モードで、除電ユニット数nは、10以上20以下、強充電モードで、除電ユニット数nは、5以上10以下であることが適切である。また、電荷密度の絶対値で300μC/m2以上500μC/m2以下程度であれば、弱充電モードで、除電ユニット数nは、20以上40以下、強充電モードで、除電ユニット数nは、10以上20以下であることが適切である。
除電ゲート長D2に理論的上限はなく、除電ゲート長D2は、使用する電極ユニット数nと実用寸法とに基づき、適当な値に定めることが出来る。実際のフィルムの製造装置、加工装置における上限は、1000mm程度といえる。これ以上の除電ゲート長D2が必要となる場合は、例えば、10個の除電ユニットを配置する場合に、5ユニットずつに2分割して、除電ユニットを配置しても、十分な効果が得られる。
これは、本発明による除電装置のそれぞれの除電ユニットにおいて、見かけ上の無帯電の状態が保たれることによる。従って、特許文献1に開示されている除電装置と違い、本発明による除電が行われたフィルムは、後段での直流および/または交流除電器がなくても、搬送ロールなどの周辺の接地構造物に対し接近あるいは接触しても、放電を生じることがない。
なお、先に述べた通り、複数の除電ユニットが、相互に関連性を持たずにバラバラに設置される形態は、弱充電モードでのイオンの広がりが確保出来なくなるため、好ましくない。強充電モードで本発明を実施する場合、始めの5つの除電ユニットと後の5つの除電ユニットとの間の距離に配慮したほうが良い。すなわち、除電ユニットを2〜10個程度まとめて設けることが好ましい。
隣接する除電ユニットの間、例えば、第1の除電ユニットSU1と第2の除電ユニットSU2との間で、シールド電極5g−1の一部と、シールド電極5g−2の一部とを共用することも可能である。
第1および第2のイオン生成電極5d、5fに印加される交流電圧の位相は、互いに180度異なっているのが好ましい。これは、もっとも電界が強く効率的に正負イオン301、302を引き寄せることが出来るためである。しかし、位相差がおおむね180度に近ければ、電源や負荷のもつ容量、特に、高圧線と針電極との間に直列に挿入された電撃保護用の容量等により発生する若干の位相ずれがあっても、問題なく使用することが出来る。
周波数fは、20Hz以上200Hz以下程度が好ましい。周波数fの値は、第1および第2のイオン生成電極5d、5f間において、フィルムSへの正負イオン301、302の強制照射が起こる条件式(0.0425xd1 2xf≦V)や、同期重畳強さをあらわすXの値、除電ゲート長と印加電圧の周期との関係をあらわす式を満足することを条件に、任意に選定することが出来るが、それらをあわせて考慮すると、上記の範囲、すなわち、20Hz以上200Hz以下が、適当といえる。商用周波数である周波数50Hzあるいは60Hzを使用するのは、除電の効果が十分に得られるとともに、装置の簡便化、低コスト化が図られるため好ましい。電極ユニットには、商用周波数を印加出来る通常の除電器の放電電極を使用することが可能であり、先に述べた図29や図30に示されるような放電電極が好ましく用いられる。
本発明においては、フィルムSの各部において、第1の面100および第2の面200のそれぞれに対して、同時に、実質的に互いに逆極性の単極性のイオン雲を照射し、その後、第1の面100および第2の面200のそれぞれに対して、前記照射の際とは極性が反転した単極性のイオン雲を照射しているので、フィルムSの両面に混在する正負の静電荷101、102、201、202を効率的に除電出来、実質的に無帯電のフィルムを製造することが出来る。
その結果、除電処理を受けたフィルムの帯電状態は、フィルムの各面の電荷密度が、フィルムの移動方向に、ほぼ正弦波状に周期的に変化し、その振幅が、2μC/m2以上150μC/m2以下で、かつ、フィルムの見かけ上の電荷密度が、−2μC/m2以上+2μC/m2以下となる。
各面の電荷密度がほぼ正弦波状になめらかに周期的に変化するフィルムは、フィルムの沿面方向の電界が小さいため、静電気による問題を引き起こし難い。本発明により得られる除電されたフィルムは、フィルムの各面の電荷密度が−150μC/m2以上150μC/m2以下であるため、少なくとも片方の面に機能性膜を設けるのに適している。本発明により得られる除電されたフィルムは、特に、機能性膜が金属蒸着膜で形成された金属蒸着フィルム等、導電性を有する機能性膜付きフィルムを製造するのに最適である。ここで、導電性を有する機能性膜付きフィルムを製造するには、金属蒸着や、メッキ、アルミニウム等の金属箔との貼りあわせを行なう等の方法があげられる。導電性を有する機能性膜付きフィルムの、導電性を有する機能性膜は、表面固有抵抗が、1012Ω/□以下が好ましい。この値は、接地による高い帯電防止効果が得られるとされている値であり、電荷が速やかに移動することを表す。特に、表面固有抵抗が1010Ω/□以下の機能性膜は、静電気的に導体と見なせるとされている値であり好ましい。
仮に、フィルムの各面が、正または負のいずれかの極性に偏って帯電している場合、金属蒸着フィルムにおいては、フィルム全体が正または負の電荷を持つことになり、金属蒸着フィルムとして好ましくない。これは、金属蒸着フィルムにおいては、電荷密度が小さくても、金属蒸着フィルム全体の面積が大きければ、全電荷量(電荷密度×面積)が大きくなり、放電時に大電流が流れやすくなるためである。帯電が正負両極性に変化する場合、金属蒸着フィルムの面積が大きくても、本発明により得られる除電されたフィルムでは、帯電は正負電荷の混在によりキャンセルされるため、全電荷量は、低く抑えられる。
また、本発明により得られる除電されたフィルムは、特に、シリコーン系などの離型性を持つ樹脂を用いて機能性膜が形成された、離型性を有する機能性膜付きフィルムを製造するのに好適に用いられる。これは、離型性を持つ樹脂においては、その表面エネルギーが小さいため、特にフィルム表面の電界による影響をうけ、塗布ムラを生じやすいためである。表面エネルギーが小さく、離型性を有する樹脂としてほかに、フッ素系や、ワックス系の樹脂が挙げられ、本発明により得られる除電されたフィルムに塗布されることで、好適に離型性を有する機能性膜を製造することが出来る。
更に、見かけ上の電荷密度が、−2μC/m2以上+2μC/m2以下とバランスし、見かけ上の無帯電の状態であることも重要である。本発明により除電されたフィルムは、見かけ上の無帯電の状態であるため、新たなスタチックマークの発生等の問題を起こし難い。また、特に、フィルム各面の電荷密度が−30μC/m2以上30μC/m2以下であれば、例えば、金属蒸着等で完全に片面電荷の影響を受ける工程があっても、放電などの問題を引き起こさない。この帯電状態のフィルムは、本質的に無帯電のフィルムといえる。電荷密度の値の制御は、印加電圧を弱充電モードの下限付近までさげる手法、あるいは、同期重畳強さを表わすXの値を小さくするように、除電ユニット間隔、フィルムの移動速度、あるいは、印加電圧周波数を制御する手法により、容易に行える。
本発明において、フィルムの面内の各部における各面の背面平衡電位、および各面の電荷密度とは、10cm×10cmのフィルムを切り出し、フィルムの移動方向に垂直な方向に20箇所以上の位置において、フィルムの移動方向に連続して、測定した結果のことをさす。
本発明において、フィルムの各部における、面内方向の位置が同じ部位の前記第1の面の電荷密度と前記第2の面の電荷密度の和、すなわち見かけ上の電荷密度が、−2μC/m2以上+2μC/m2以下であるとは、10cm×10cmのフィルムを切り出した際に、第1の面100と第2の面200の同じ位置の電荷密度の分布を、フィルムの移動方向に垂直な方向に20箇所以上の位置において、フィルムの移動方向に連続して、測定した結果が、この範囲に含まれていることをさす。
ただし、簡便には、以下の方法により、フィルムが見かけ上の無帯電であるか否か、すなわち見かけ上の電荷密度が、−2μC/m2以上+2μC/m2以下であるか否かを確認できる。
(1)フィルムへのトナー付着有無の調査:
フィルムを接地導体からフィルムの厚みに対して十分な距離、例えば100倍以上離した状態で、フィルムにトナーをふりかけ、トナーの局所的な付着を調べる。
トナー粉が、シートの見かけ上の電荷密度が高い部分に付着することは先に述べた通りである。通常、見かけ上の電荷密度が、絶対値で1μC/m2以上となる局所的な帯電があれば、フィルムにトナーが付着する。従って、トナーが局所的に付着しないフィルムにおいては、見かけ上の電荷密度が、絶対値で1μC/m2以上となる局所的な場所はないと判断できる。
(2)架空時電位の測定:
フィルムを接地導体からフィルムの厚みに対して十分な距離、例えば100倍以上離した状態で、表面電位計により、電位を測定する。
フィルムの見かけ上の電荷密度が、局所的でなく、全面ほぼ均一に、帯電している場合、トナーの局所的な付着は見られない。しかし、この場合、フィルムの架空時電位が高くなる。表面電位計の視野範囲において、見かけ上の電荷密度がσe[単位:μC/m2]で均一に帯電しているフィルムが、接地導体と平行に、接地導体からの距離de[単位:mm]の空中に保持されているとき、フィルムの架空時電位Ve[単位:V]はVe=1000×σe×de/8.854となる。例えば、接地導体に平行に、接地導体からの距離が8.854mmの空中に保持されたフィルムの電位が−1以上1kV以下の範囲であれば、表面電位計の視野範囲において、見かけ上の電荷密度の平均値は−1μC/m2以上1μC/m2以下の範囲である。接地導体からフィルムが遠ざかるほど、フィルム電位は上昇する。従って、簡易測定においては、接地導体とフィルムとの最短距離を基準にすれば十分である。例えば、接地導体とフィルムとの最短距離が10mm以上であって、架空時電位が−1kV以上1kV以下のフィルムであれば、見かけ上の電荷密度の平均値が−1μC/m2以下1μC/m2以下の範囲であると判断するに十分足りる。架空時電位の測定に用いられる表面電位計として、例えば、TRek社製表面電位計523等があげられる。TRek社製表面電位計523における視野は、測定距離40mmにおいて約150mmφ、60mmにおいて約300mmφとされており、この視野内における、フィルムの見かけ上の電荷密度の平均値が−1μC/m2以下1μC/m2以下の範囲にあるか否かを判断できる。なお、このような表面電位計によりフィルムの平均電位を測定する場合は、表面電位計の視野の大きさは、フィルムの面内方向の広さよりも十分小さく設定する必要がある。
このように、フィルムへのトナーの付着と、架空時電位の測定とを併用することで、フィルムの見かけ上の電荷密度が局所的にも、平均的にも−2μC/m2以上2μC/m2以下の範囲内にあることを簡易的に評価できる。
本発明の実施態様の説明においては、全ての除電ユニットは、全て同一の電極形状、同一の電極配置、同一の電極間隔、同一の印加電圧の実効値の下に説明されているが、それぞれの除電ユニットが、それぞれ異なる電極形状や電極配置や電極間隔のものであっても良いし、実効電圧も必ずしも同一でなくても良い。それぞれの除電ユニットが、それぞれ、本発明の作用、効果が得られる条件を具備していれば良い。
ただし、前述の除電ユニット間の能力差を考えれば、全ての除電ユニットが、同じ形状、配置を有し、同じ印加電圧で作動されることが好ましい。強充電モードで動作する除電ユニットと弱充電モードで動作する除電ユニットの両方を使用し、除電ユニットごとで、異なる除電動作をするものを組み合わせて用いても良いし、必要に応じて、本発明の除電装置以外の除電装置を併用することも可能である。
各除電ユニットの第1および第2のイオン生成電極とフィルムとの位置関係については、第1および第2のイオン生成電極からのイオンの照射量の差を小さくするため、また、フィルムとイオン生成電極の先端等との接触によってフィルムにキズ等が発生することを極力さけるために、フィルムが第1および第2のイオン生成電極の先端の中央を通ることが好ましい。このために、フィルムにたわみが発生しにくい条件で、フィルムを移動させることが好ましく、図32に示されるように、フィルムSの移動方向5lと、鉛直方向5kとのなす角θが、45°以下になるように、除電ユニットが構成されていることが好ましい。特に、フィルムSの移動方向5lと、鉛直方向5kとが一致、すなわち角度θが0°が最も好ましい。角度θは、絶対値で定義され、更に、フィルムSの移動方向が反対であっても、同一の角度であるものとする。
実施例および比較例における除電の効果は、次の方法により評価された。
[フィルムの見かけ上の帯電分布の判定方法(判定方法I)]
除電後のフィルムの被除電部位に、複写機で用いるトナーをふりかけた。その付着の様子により次の3段階で評価した。
符号E: トナーがフィルム全面のどこにも付着しないかごく薄く付着する
符号G: トナーが薄く付着するが、局所的にトナーが濃く付着する部位がない
符号B: トナーが濃く付着する部位が存在する
[フィルム各面の帯電分布の判定方法(判定方法II)]
フィルムの帯電分布を評価する面(以下、被評価面という)をステンレススチール(SUS)板に密着させておき、逆面をエタノールで拭いて乾燥させることにより、逆面の電荷のみを電荷中和する処理を施し、この後フィルムをSUS板から剥離し、被評価面からトナーをふりかけた。その付着の様子により、次の3段階で評価した。
符号E: 局所的にトナーが濃く付着する部位がなく、SUS板から剥離する際の剥離放電がない
符号G: SUS板から剥離する際の剥離放電はあるが、局所的にトナーが濃く付着する部位はない
符号B: トナーが濃く付着する部位が存在する
[塗布ムラの判定方法(判定方法III)]
[アイソパーにおける塗布ムラの判定方法(判定方法III−1)]
フィルムに塗布剤、アイソパー(アイソパーH)(エクソン株式会社の商品名)を塗布して、塗布ムラ、すなわち、塗布剤を局所的にはじく部位が生じないかを調べた。フィルムは、金属板の上に置き、ワイヤー直径0.25mmのメタリングバーで、約0.3m/秒の速さで、塗布剤をハンドコートし、金属板上に静置した状態でと、金属板から剥がす際に、目視にて塗布ムラを確認し、次の2段階で評価した。
符号G: 塗布ムラなし
符号B: 塗布ムラあり
[シリコーンにおける塗布ムラの判定方法(判定方法III−2)]
フィルムにシリコーン離型塗布剤(溶媒トルエン。信越化学(株)製KS847H 10重量部、PL−50T 0.1重量部、トルエン 100重量部)を塗布して、塗布ムラ、すなわち、塗布剤を局所的にはじく部位が生じないかを調べた。フィルムは、金属板の上に置き、ワイヤー直径0.25mmのメタリングバーで、約0.3m/秒の速さで、塗布剤をハンドコートし、金属板上に静置した状態でと、金属板から剥がす際に、目視にて塗布ムラを確認し、次の2段階で評価した。
符号G: 塗布ムラなし
符号B: 塗布ムラあり
[フィルムの各面の背面平衡電位、および、電荷密度の測定方法(測定方法IV)]
[背面平衡電位の測定方法(測定方法IV−1)]
フィルムの被評価面とは逆の面を、直径10cmのハードクロムメッキロールからなる金属ロールに密着させ、電位を測定した。電位計として、モンロー社製モデル244を、そのセンサとして、開口部直径1.75mmを有するモンロー社製プローブ1017を用いた。電位計をフィルム上2mmの位置に置いた。この位置での視野は、モンロー社カタログより、直径約6mmの範囲である。金属ロールをリニアモータを使用し、約1m/分の低速で回転させながら、電位計で背面平衡電位Vf[単位:V]を測定した。
また、次の方法で、背面平衡電位の絶対値の面内の最大値を求めた。すなわち、フィルム幅方向に、電位計を20mm程度スキャンさせて、絶対値の最大値が得られる幅方向の位置を決める。次いで、幅方向の位置を固定して、電位計を、フィルムが除電処理されたときのフィルムの移動方向、すなわち、フィルムの長さ方向に、スキャンさせて電位を測定する。フィルム面内の背面平衡電位は、2次元的にすべてのポイントを測定するのが理想であるが、前述の方法で、フィルム面内の電位の分布を近似する。フィルム幅が1mを越す場合には、フィルムの幅方向のほぼ中央部と端部において、20mm程度を切り出し、スキャンさせ、最大値が得られる場所を探し、その後、フィルムが除電処理されたときのフィルムの移動方向に、スキャンさせて、電位を測定する。また、判定方法I、IIにおいて、除電前のフィルムの幅方向の特定位置に、局所的に強い帯電箇所が見られた場合、除電前、後のフィルムに対し、その幅方向の位置において、フィルムの移動方向に、スキャンさせて、電位を測定する。これにより、フィルム面内の絶対値の最大値を求めた。測定結果は、背面平衡電位の絶対値の最大値により次の3段階に区分けした。
符号E: 200V以下
符号G: 200Vを越え、340V以下
符号B: 340Vを越える
[電荷密度の測定方法(測定方法IV−2)]
背面平衡電位Vf[単位:V]により、センサ直下のフィルム被評価面の電荷密度σ[単位:C/m2]を、関係式σ=C×Vf(ただし、Cは、単位面積当たりの静電容量[単位:F/m2])により求めた。フィルム厚さが、測定視野より十分小さいことから、単位面積当たりの静電容量Cは、平行平板の静電容量C=ε0×εr/df(ただし、dfは、フィルムの厚さ、ε0は真空中の誘電率8.854×10−12F/m、εrはフィルムの比誘電率)で近似した。ポリエチレンテレフタレートの比誘電率εrは、3とした。算出された電荷密度の絶対値の最大値により、次の3段階で評価した。
符号E: 30μC/m2未満
符号G: 30μC/m2以上、150μC/m2未満
符号B: 150μC/m2以上
[スベリの判定方法(判定方法V)]
フィルムを105mm×150mmに切り出し、切り出したフィルムの被評価面と反対の面に、同じサイズの厚さ12μmのアルミニウム箔を貼りあわせ、一回り大きい水平なSUS板の上に、被評価面がSUS板と接触する様にして、なるべく平坦になるように載せ、フィルムを水平に引き出し、フィルムが移動し始める際の最大荷重をバネばかりで測定した。得られた値に基づき、次の3段階で評価した。
符号E: 15g未満
符号G: 15g以上、20g未満
符号B: 20g以上
[見かけ上の電荷密度の簡易判定方法(判定方法VI)]
判定方法Iにより、フィルムの見かけ上の帯電分布を評価するとともに、接地金属からの最短距離が10〜30cmになるよう空中に把持したフィルムの架空時電位を測定した。電位計として、TRek社製モデル523を用いた。電位計をフィルム上40mmの位置に置いた。これはTRek社の推奨測定距離である。
測定結果は、判定方法Iおよび架空時電位の値により次の3段階に区分けした。
符号E: 判定方法Iの結果がEで、かつ架空時電位が−0.5kV以上0.5kV以下
符号G: 判定方法Iの結果がGで、かつ架空時電位が−0.5kV以上0.5kV以下
符号B: 判定方法Iの結果がB、または架空時電位が−0.5kV未満もしくは0.5kVより大きい
実施例1−2、ならびに、比較例1−3
図17に示される除電装置において、電気絶縁性シートSとして、幅200mm、厚さ6.3μmの2軸延伸されたポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製ルミラー6XV64F、以下、原反Aという)を用いた。このフィルムは、磁気テープ用ベースフィルムである。フィルムSを速度150m/分で移動させた。フィルムSは、平滑な磁性体形成面を有するため、摩擦帯電が起こりやすく、フィルムSの面には、巻取時に発生した放電痕があった。
第1および第2の電極ユニットとしては、図29に示される針電極列を備えたものを使用した。この針の幅方向の間隔d5は、12.7mmであった。この第1および第2の電極ユニットを、フィルムSの移動方向に対して直交するように、かつ、フィルムSの面と平行になるように、フィルムSを挟んで、上下に設置し、除電ユニットとした。第1および第2の電極ユニットにおいて、針の先端の幅方向位置はそれぞれ同じとした。除電ユニットの総数nは、10とした。
各針電極列の針の先端、すなわち各除電ユニットの各イオン生成電極の先端は、幅方向に直線状に並び、電極のたわみは、無視出来るほど小さかった。また、上述の通り、フィルムSの移動方向に直交するように、除電ユニットを並べたので、次のd0〜d4の値に、あきらかな幅方向の分布はないものと判断した。これらd0〜d4の値は、電極ユニット、ならびに、除電ユニットの幅方向端部において測定した値である。
各除電ユニットにおいて、電極ずれ量d0[単位:mm]は、表1に示される通りとし、法線方向電極間距離d1は、30mm、法線方向シールド電極間距離d3は、34mm、シールド電極開口幅d4は、8.5mmであった。
隣接する除電ユニットの間隔は、全て同じとした。除電ユニット間隔d2[単位:mm]は、表1に示される。各除電ユニットにおける針の先端の幅方向位置は、それぞれ同じとした。各除電ユニットの第1のイオン生成電極同士は全て同相とし、各除電ユニットの第2のイオン生成電極同士も全て同相とし、第1および第2のイオン生成電極5d、5fに接続する電源5c、5eには、周波数60Hz、実効電圧4kVの交流電源を用い、互いに位相が逆になるよう、電源内部の昇圧トランスの入力を切り替えた。シールド電極5g、5hは、ともに接地した。フィルムSは、各除電ユニットにおける第1および第2のイオン生成電極間の略中央を通るようにした。
実施例1−2、ならびに、比較例1−3における、除電のモードは、図24のグラフ上に点Aで示される通り、弱充電モードであった。
これらのフィルムの見かけ上の帯電分布について、上記判定方法Iに基づき、評価を行った。その結果が表1に示される。
実施例3−4、ならびに、比較例4
図17に示される除電装置において、電気絶縁性シートSとして、幅300mm、厚さ30μmの2軸延伸されたポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製ルミラー30R75、以下、原反Bという)を用い、表2に示されるフィルムSの移動速度u[単位:m/分]で移動させた。このフィルムには、巻取時に発生した放電痕があった。第1および第2の電極ユニットとしては、図29に示される針電極列を備えたものを使用した。この針の幅方向の間隔d5は、12.7mmであった。この第1および第2の電極ユニットを、フィルムSの移動方向に対して直交するように、かつ、フィルムSの面と平行になるように、フィルムSを挟んで、上下に設置し、除電ユニットとした。第1および第2の電極ユニットにおいて、針の先端の幅方向位置はそれぞれ同じとした。除電ユニットの総数nは10とした。
各針電極列の針の先端、すなわち各除電ユニットの各イオン生成電極の先端は、幅方向に直線状に並び、電極のたわみは、無視出来るほど小さかった。また、上述の通り、フィルムSの移動方向に直交するように除電ユニットを並べたので、次のd0〜d4の値に、あきらかな幅方向の分布はないものと判断した。これらd0〜d4の値は、電極ユニット、ならびに、除電ユニットの幅方向端部において測定した値である。
各除電ユニットにおいて、電極ずれ量d0は、0mm、法線方向電極間距離d1は、20mmとし、法線方向シールド電極間距離d3は、24mm、シールド電極開口幅d4は、8.5mmであった。
除電ユニット間隔d2は、全て23mmとし、各除電ユニットにおける針先端の幅方向位置は、同じとした。各除電ユニットの第1のイオン生成電極同士は全て同相とし、各除電ユニットの第2のイオン生成電極同士も全て同相とし、第1および第2のイオン生成電極5d、5fに接続する電源5c、5eには、周波数60Hz、実効電圧4kVの交流電源を用い、互いに位相が逆になるよう、電源内部の昇圧トランスの入力を切り替えた。シールド電極5g、5hは、ともに接地した。フィルムSは、各除電ユニットにおける第1および第2のイオン生成電極間の略中央を通るようにした。
実施例3、および、4、ならびに、比較例4における、除電のモードは、図24のグラフ上に点Bで示される通り、強充電モードであった。除電のモードと、強充電モードにおけるフィルムSの各部位への正負イオン照射割合、および、同期重畳強さXの値が、表2に示される。
比較例5、および、6
図4に示される除電装置において、実施例3の場合と同じフィルムS(原反B)を表2に示されるフィルムSの移動速度u[単位:m/分]で移動させた。正負イオン生成電極2bとして、針電極列からなるものを4本使用し、全ての正負イオン生成電極2b先端とイオン吸引電極2dとの距離が20mmになるように配置した。全ての正負イオン生成電極2bへの印加電圧は、実効値8kV、イオン吸引電極2dへの印加電圧は、実効値5kV、周波数は、それぞれ200Hzとし、全ての正負イオン生成電極2bへの印加電圧とイオン吸引電極2dへの印加電圧とが逆位相となるようにした。また、後段の2台の直流除電器2eには、それぞれ+5kVと−5kVの電圧を印加し、最後段の交流除電器2fには、実効値8kVの電圧を印加した。
実施例3、および、4、ならびに、比較例4、5、および、6で得られたフィルムSの第1の面の帯電分布、塗布ムラ有無、第1の面の背面平衡電位、および第1の面の電荷密度について、上記判定方法II、判定方法III−1、ならびに、測定方法IV−1、IV−2に基づき、評価を行った。その結果が表2に示される。
実施例5−6、ならびに、比較例7
図17に示される除電装置において、電気絶縁性シートSとして、幅300mm、厚さ12μmの2軸延伸されたポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製ルミラー12P60、以下、原反Cという)を用い、フィルムSを速度300m/分で移動させた。フィルムSは、蒸着用途で濡れ性改善のために、コロナ処理が施されている。そのために、細かい帯電模様が、コロナ処理面に見られた。
第1および第2の電極ユニットとしては、図29または図30に示される針電極列を備えたものを用いた。いずれの電極ユニットを用いたかは、表3に示される。図29に示される針の幅方向の間隔d5は、12.7mmであり、図30に示される針の幅方向の間隔d5は、19mmであった。この第1および第2の電極ユニットを、フィルムSの移動方向に対して直交するように、かつ、フィルムSの面と平行になるように、フィルムSを挟んで、上下に設置し、除電ユニットとした。第1および第2の電極ユニットにおいて、針の先端の幅方向位置はそれぞれ同じとした。除電ユニット数nは、2とした。
各針電極列の針の先端、すなわち各除電ユニットの各イオン生成電極の先端は、幅方向に直線状に並び、電極のたわみは、無視出来るほど小さかった。また、上述の通り、フィルムの移動方向に直交するように、除電ユニットを並べたので、次のd0〜d4の値に、あきらかな幅方向の分布はないものと判断した。これらd0〜d4の値は、電極ユニット、ならびに、除電ユニットの幅方向端部において測定した値である。
各除電ユニットにおいて、電極ずれ量d0は、0mmとし、法線方向電極間距離d1および法線方向シールド電極間距離d3[単位:mm]、シールド電極開口幅d4[単位:mm]は、表3に示される通りとした。
除電ユニット間隔d2mmは、表3に示される通りとし、各除電ユニットにおける針の先端の幅方向位置は、同じとした。各除電ユニットの第1のイオン生成電極同士は同相とし、各除電ユニットの第2のイオン生成電極同士は同相とし、第1および第2のイオン生成電極5d、5fに接続する電源5c、5eには、周波数60Hzの交流電源を用い、実効電圧を4kVまたは7kVとして、互いに位相が逆になるよう、電源内部の昇圧トランスの入力を切り替えた。いずれの実効電圧が用いられたかは、表3に示される。シールド電極5g、5hは、ともに接地した。フィルムは、各除電ユニットにおける第1および第2のイオン生成電極間の略中央を通るようにした。
実施例5、および、比較例7における除電のモードは、図24のグラフ上に点Bで示される通り、強充電モードであった。実施例6における除電のモードは、図24のグラフ上に点Cで示される通り、弱充電モードであった。除電のモードと、強充電モードにおけるフィルム各部への正負イオン照射割合、および、同期重畳強さXの値が、表3に示される。
これらのフィルム第1の面の帯電分布、スベリについて、上記判定方法II、および、判定方法Vに基づき、評価を行った。その結果が表3に示される。
実施例7
実施例1のフィルムに対し、上記絶縁シートの各面の背面平衡電位、および、電荷密度の測定の方法で、各面の電荷密度を測定したところ、平滑面(磁性体が形成される面)である第1の面が、平均して、−7μC/m2、第2の面が、平均して、+6.5μC/m2に帯電していた。
実施例8
各除電ユニットの第1のシールド電極に、+50V程度の電圧、各除電ユニットの第2のシールド電極に、−50V程度の電圧を印加した他は、実施例1と同じ方法で、除電すると、平滑面である第1の面と、それと反対側の第2の面ともに、それぞれの帯電が、−2μC/m2以上+2μC/m2以下となる。これは、各面の電荷密度の絶対値が減じられている結果を示す。
実施例9、および、8
原反B、ならびに、実施例3、比較例4、5、および、6で得られたフィルムの各面の帯電分布について、上記測定方法IV−2に基づき、各面の電荷密度を調べ、さらに、周期性の有無とフィルム上の面内方向が同じ位置における両面の電荷密度の和の絶対値、すなわち見かけ上の電荷密度の絶対値[単位:μC/m2]、各面の電荷密度分布のフィルム移動方向周期[単位:mm]について調べた。その結果が表4に示される。
実施例10−12、および、比較例9
図17に示される除電装置において、電気絶縁性シートSとして、幅300mm、厚さ9μmの2軸延伸されたポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製ルミラー9P60、以下、原反Dという)を用い、表5に示される速度u[単位:m/分]でフィルムSを移動させた。フィルムSは、濡れ性改善のために、コロナ処理が施されており、その処理による帯電が強く、強いスジ上の帯電模様が、コロナ処理面、非処理面の両方に見られた。
第1および第2の電極ユニットとしては、図29に示される針電極列を備えたものを使用した。この針の幅方向の間隔d5は、12.7mmであった。第1および第2の電極ユニットを、フィルムSの移動方向に対して直交するように、かつ、フィルムSの面と平行になるように、フィルムSを挟んで、上下に設置し、除電ユニットとした。第1および第2の電極ユニットにおいて、針の先端の幅方向位置はそれぞれ同じとした。除電ユニットの総数nは、10とした。
各針電極列の針の先端、すなわち各除電ユニットの各イオン生成電極の先端は、幅方向に直線状に並び、電極のたわみは、無視出来るほど小さかった。また、上述の通り、フィルムSの移動方向に直交するように除電ユニットを並べたので、次のd0〜d4の値に、あきらかな幅方向の分布はないものと判断した。これらd0〜d4の値は、電極ユニット、ならびに、除電ユニットの幅方向端部において測定した値である。
各除電ユニットにおいて、電極ずれ量d0は、0mm、法線方向電極間距離d1[単位:mm]および法線方向シールド電極間距離d3[単位:mm]は、表5に示される通りとし、シールド電極開口幅d4は、8.5mmであった。
除電ユニット間隔d2は、全て25mmとし、各除電ユニットにおける針先端の幅方向位置は、同じとした。各除電ユニットの第1のイオン生成電極同士は全て同相とし、各除電ユニットの第2のイオン生成電極同士も全て同相とし、第1および第2のイオン生成電極5d、5fに接続する電源5c、5eには、実効電圧4kV、周波数60Hzの交流電源を用い、互いに位相が逆になるよう、電源内部の昇圧トランスの入力を切り替えた。シールド電極5g、5hは、ともに接地した。フィルムは、各除電ユニットにおける第1および第2のイオン生成電極間の略中央を通るようにした。
実施例10および11における除電のモードは、図24のグラフ上に点Aで示される通り、弱充電モードであった。実施例12および比較例9における除電のモードは、図24のグラフ上に点Dで示される通り強充電モードであった。除電のモードと、強充電モードにおける、フィルム各部への正負イオン照射割合および同期重畳強さXの値が表5に示される。
これらのフィルムの帯電分布について、上記測定方法IV−2ならびに、判定方法VIに基づいて、第1の面の電荷密度、および(簡易方法による)見かけ上の電荷密度を調べた。さらに、周期性の有無と第1の面の電荷密度分布のフィルム移動方向周期[単位:mm]について調べた。その結果が表5に示される。
実施例13−22、および、比較例10−12
図17に示される除電装置において、電気絶縁性シートSとして、幅300mm、厚さ25μmの2軸延伸されたポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製ルミラー25R75、以下、原反Eという)を用い、表6に示される速度u[単位:m/分]でフィルムSを移動させた。フィルムSは、除電前に、各面がほぼ無帯電であることを確認した。
第1および第2の電極ユニットとしては、図29に示される針電極列を備えたものを使用した。この針の幅方向の間隔d5は、12.7mmであった。第1および第2の電極ユニットを、フィルムSの移動方向に対して直交するように、かつ、フィルムSの面と平行になるように、フィルムSを挟んで、上下に設置し、除電ユニットとした。第1および第2の電極ユニットにおいて、針の先端の幅方向位置はそれぞれ同じとした。除電ユニットの総数nは、10とした。
各針電極列の針の先端、すなわち各除電ユニットの各イオン生成電極の先端は、幅方向に直線状に並び、電極のたわみは、無視出来るほど小さかった。また、上述の通り、フィルムSの移動方向に直交するように、除電ユニットを並べたので、次のd0〜d4の値に、あきらかな幅方向の分布はないものと判断した。これらd0〜d4の値は、電極ユニット、ならびに、除電ユニットの幅方向端部において測定した値である。
各除電ユニットにおいて、電極ずれ量d0は、0mm、法線方向電極間距離d1は、25mmとし、法線方向シールド電極間距離d3は、29mm、シールド電極開口幅d4は、8.5mmであった。
除電ユニット間隔d2は、全て25mmとし、各除電ユニットにおける針先端の幅方向位置は、同じとした。各除電ユニットの第1のイオン生成電極同士は全て同相とし、各除電ユニットの第2のイオン生成電極同士も全て同相とし、第1および第2のイオン生成電極5d、5fに接続する電源5c、5eには、実効電圧4kV、周波数60Hzの交流電源を用い、互いに位相が逆になるよう、電源内部の昇圧トランスの入力を切り替えた。シールド電極5g、5hは、ともに接地した。フィルムSは、各除電ユニットにおける第1および第2のイオン生成電極間の略中央を通るようにした。
実施例13−22、および、比較例10−12における、除電のモードは、図24のグラフ上に点Dで示される通り、強充電モードであった。実施例13−22、および、比較例10−12における、フィルム各部への正負イオン照射割合および同期重畳強さXの値は、表6に示される。
これらのフィルムSの帯電分布について、上記測定方法IV−2ならびに、判定方法VIに基づき、第1の面の電荷密度、および(簡易方法による)見かけ上の電荷密度を調べた。さらに、周期性の有無と第1の面の電荷密度分布のフィルム移動方向周期[単位:mm]について調べた。その結果が表6、および、図33に示される。
図33において、横軸は、フィルムの移動速度u[単位:m/分]を示し、第1縦軸(左側軸)は,同期重畳強さXの値を示す。第2縦軸(右側軸)は、実施例13−22、および、比較例10−12における各面の電荷密度の絶対値の最大値の値を示す。図33における点a−mは、表6に示される通り、各実施例または比較例との対応を示している。
実施例23
図17に示される除電装置において、電気絶縁性シートSとして、幅1100mm、長さ6000m、厚さ38μmの2軸延伸されたポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製ルミラー38S28、以下、原反Fという)を用いた。フィルムロールからフィルムSを巻出し、フィルムSを速度100m/分で除電装置を通過させた。除電装置を通したフィルムSに、シリコーン離型コーティング液(信越化学社製)を塗工し、その後、乾燥機でコーティング液の溶剤を完全に除去した後、巻取部で、フィルムSをロール状に巻き取った。
除電前のフィルムSは、局所的な帯電部分を有していた。この帯電は、フィルムの長手方向において、正と負の周期的な変化を示し、正帯電部と負帯電部の大きさは、数10mm程度であった。
このフィルムSの帯電部分における第1の面の背面平衡電位の分布は、フィルムSの移動方向に電位計を移動させながら、測定され、結果は、図34に示される。図34のグラフにおける縦軸は、背面平衡電位の値[単位:V]を示し、横軸は、フィルムSの移動方向における適当な原点からの距離[単位:m]を示す。帯電部分における背面平衡電位の絶対値の最大値は、500Vを越えた。簡易評価による見かけ上の電荷密度は、判定方法VIの判定によりBであった。
第1および第2の電極ユニットとしては、図29に示される針電極列を備えたものを使用した。この針の幅方向の間隔d5は、12.7mmであった。第1および第2の電極ユニットを、フィルムSの移動方向に対して直交するように、かつ、フィルムSの面と平行になるように、フィルムSを挟んで、上下に設置し、除電ユニットとした。第1および第2の電極ユニットにおいて、針の先端の幅方向位置はそれぞれ同じとした。除電ユニットの総数nは、10とした。
各針電極列の針の先端、すなわち各除電ユニットの各イオン生成電極の先端は、幅方向に直線状に並び、電極のたわみは、無視出来るほど小さかった。また、上述の通り、フィルムの移動方向に直交するように除電ユニットを並べたので、次のd0〜d4の値に、あきらかな幅方向の分布はないものと判断した。これらd0〜d4の値は、電極ユニット、ならびに、除電ユニットの幅方向端部において測定した値である。
各除電ユニットにおいて、電極ずれ量d0は、0mm、法線方向電極間距離d1は、25mm、法線方向シールド電極間距離d3は、29mmとし、シールド電極開口幅d4は、8.5mmであった。
除電ユニット間隔d2は、全て23mmとし、各除電ユニットにおける針先端の幅方向位置は、同じとした。各除電ユニットの第1のイオン生成電極同士は全て同相とし、各除電ユニットの第2のイオン生成電極同士も全て同相とし、第1および第2のイオン生成電極5d、5fに接続する電源5c、5eには、実効電圧4kV、周波数50Hzの交流電源を用い、互いに位相が逆になるよう、電源内部の昇圧トランスの入力を切り替えた。シールド電極5g、5hは、ともに接地した。フィルムSは、各除電ユニットにおける第1および第2のイオン生成電極間の略中央を通るようにした。
フィルムSにおける前記コーティング膜の塗布ムラの状態を、塗布が局所的にはじかれている領域の有無を目視で観察することにより、調べた。
原反Fの帯電部分では、塗布ムラが発生したが、実施例24におけるフィルムSでは、塗布ムラは発生しなかった。この除電済みフィルムSの第1面(塗工面)の塗布前の背面平衡電位の分布は、フィルムSの移動方向に電位計を移動させながら、測定され、結果が、図35に示される。図35のグラフにおける縦軸は、背面平衡電位の値[単位:V]を示し、横軸は、フィルムSの移動方向における適当な原点からの距離[単位:m]を示す。除電後の背面平衡電位は、−300V以上300V以下の範囲に収まった。見かけ上の電荷密度は、判定方法VIの判定によりEであった。
実施例24−25、および、比較例13
図17に示される除電装置において、電気絶縁性シートSとして、幅200mm、厚さ125μm、および、75μmの厚さが異なる2種類の2軸延伸されたポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製ルミラー75K20、および、125E60)を用いた。フィルムSを表7に示される速度u[単位:m/分]で移動させた。使用されたフィルムの厚みdf[単位:μm]を表7に示す。除電前のフィルムSは、各面がほぼ無帯電状態であった。
第1および第2の電極ユニットとしては、図29に示される針電極列を備えたものを使用した。この針の幅方向の間隔d5は、12.7mmであった。第1および第2の電極ユニットを、フィルムSの移動方向に対して直交するように、かつ、フィルムSの面と平行になるように、フィルムSを挟んで、上下に設置し、除電ユニットとした。第1および第2の電極ユニットにおいて、針の先端の幅方向位置はそれぞれ同じとした。除電ユニット数nは、10とした。
各針電極列の針の先端、すなわち各除電ユニットのイオン生成電極の針電極先端は、幅方向に直線状に並び、電極のたわみは、無視出来るほど小さかった。また、上述の通り、フィルムSの移動方向に直交するように除電ユニットを並べたので、次のd0〜d4の値に、あきらかな幅方向の分布はないものと判断した。これらd0〜d4の値は、電極ユニット、ならびに、除電ユニットの幅方向端部において測定した値である。
各除電ユニットにおいて、電極ずれ量d0は、0mm、法線方向電極間距離d1[単位:mm]、および、法線方向シールド電極間距離d3[単位:mm]は、表7に示される通りとし、シールド電極開口幅d4は、8.5mmであった。
除電ユニット間隔d2は、全て25mmとし、各除電ユニットにおける針の先端の幅方向位置は、同じとした。
各除電ユニットの第1のイオン生成電極同士は全て同相とし、各除電ユニットの第2のイオン生成電極同士も全て同相とし、第1および第2のイオン生成電極5d、5fに接続する電源5c、5eには、表7に示される実効電圧V[単位:kV]で、周波数60Hzの交流電源を用い、互いに位相が逆になるよう、電源内部の昇圧トランスの入力を切り替えた。シールド電極5g、5hは、ともに接地した。
実施例24、25、および、比較例13における、除電のモードは、強充電モードであった。実施例24、25、および、比較例13における、フィルム各部への正負イオン照射割合および同期重畳強さXの値は、表7に示される。
実施例24〜25、および、比較例13において得られたフィルムSの第1の面の塗布ムラの有無、第1の面の背面平衡電位、および電荷密度、簡易方法による見かけ上の電荷密度について、上記判定方法III−1、III−2、測定方法IV−1、IV−2、および、VIに基づき、評価を行った。その結果が表7に示される。
実施例26
図17に示される除電装置において、電気絶縁性シートSとして、幅300mm、厚さ38μmの2軸延伸されたポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製ルミラー38S28)を用い、速度200m/分で移動させた。
除電前のフィルムSは、局所的な帯電部分を有していた。この帯電は、フィルムの長手方向において、正と負の周期的な変化を示し、正帯電部と負帯電部の大きさは、数10mm程度であった。
このフィルムSの帯電部分における両面の背面平衡電位の分布は、フィルムSの移動方向に電位計を移動させながら、測定され、結果は、図36AおよびBに示される。図36Aおよび図36Bのグラフにおける縦軸は、背面平衡電位の値[単位:V]を示し、横軸は、フィルムSの移動方向における適当な原点からの距離[単位:m]を示す。図36Aにおいて、太線が第1の面の背面平衡電位Vf1[単位:V]を、細線が第2の面の背面平衡電位Vf2[単位:V]を示している。また、図36Bにおいて、太線が第1の面の背面平衡電位Vf1[単位:V]を、細線が第2の面の背面平衡電位Vf2[単位:V]に−1をかけたもの、すなわち−Vf2[単位:V]を示している。図36Aに示されるとおり、帯電部分における背面平衡電位の絶対値の最大値は、500Vを越えた。図36Bの太線と細線の差は、Vf1−(−Vf2)、すなわち、Vf1+Vf2を意味しており、図36Bに示されるとおり、両面の背面平衡電位の和の絶対値の最大値は50Vを越えた。これは、見かけ上の電荷密度の絶対値の最大値が35μC/m2を越えることを意味する。
第1および第2の電極ユニットとしては、図29に示される針電極列を備えたものを使用した。この針の幅方向の間隔d5は、12.7mmであった。第1および第2の電極ユニットを、フィルムSの移動方向に対して直交するように、かつ、フィルムSの面と平行になるように、フィルムSを挟んで、上下に設置し、除電ユニットとした。第1および第2の電極ユニットにおいて、針の先端の幅方向位置はそれぞれ同じとした。除電ユニットの総数nは、10とした。
各針電極列の針の先端、すなわち各除電ユニットの各イオン生成電極の針先端は、幅方向に直線状に並び、電極のたわみは、無視出来るほど小さかった。また、上述の通り、フィルムの移動方向に直交するように除電ユニットを並べたので、次のd0〜d4の値に、あきらかな幅方向の分布はないものと判断した。これらd0〜d4の値は、電極ユニット、ならびに、除電ユニットの幅方向端部において測定した値である。
各除電ユニットにおいて、電極ずれ量d0は、0mm、法線方向電極間距離d1は、25mm、法線方向シールド電極間距離d3は、29mmとし、シールド電極開口幅d4は、8.5mmであった。
除電ユニット間隔d2は、全て30mmとし、各除電ユニットにおける針先端の幅方向位置は、同じとした。各除電ユニットの第1のイオン生成電極同士は全て同相とし、各除電ユニットの第2のイオン生成電極同士も全て同相とし、第1および第2のイオン生成電極5d、5fに接続する電源5c、5eには、実効電圧4kV、周波数60Hzの交流電源を用い、互いに位相が逆になるよう、電源内部の昇圧トランスの入力を切り替えた。シールド電極5g、5hは、ともに接地した。フィルムSは、各除電ユニットにおける第1および第2のイオン生成電極間の略中央を通るようにした。
この除電済みフィルムSの両面の背面平衡電位の分布は、フィルムSの移動方向に電位計を移動させながら、測定され、結果は、図37AおよびBに示される。図37Aおよび図37Bのグラフにおける縦軸は、背面平衡電位の値[単位:V]を示し、横軸は、フィルムSの移動方向における長さ[単位:m]を示す。図37Aにおいて、太線が第1の面の背面平衡電位Vf1を、細線が第2の面の背面平衡電位Vf2を示している。また、図37Bにおいて、太線が第1の面の背面平衡電位Vf1を、細線が第2の面の背面平衡電位Vf2に−1を掛けたもの、すなわち−Vf2を示している(図37Bにおいて、太線に示す第1の面の背面平衡電位Vf1と、細線に示す、第2の面の背面平衡電位Vf2に−1を掛けたもの、すなわち−Vf2とは完全に一致している)。図37Aに示されるとおり、除電後の各面の背面平衡電位は、−150V以上150V以下の範囲に収まった。これは、除電後の各面の電荷密度が、−100μC/m2以上100μC/m2以下の範囲に収まったことを意味する。図36Bに示されるとおり、各面の背面平衡電位は、逆極性で、絶対値は実質的に等しかった。これは、見かけ上の電荷密度が、ほぼゼロであったことを意味する。