以上の通り、従来技術のようにシートの「架空時電位」を低く抑えても、塗布ムラを防止することができないという問題点があった。本発明者らの知見によると、従来の技術で解決できなかった課題は次の通りである。
(1)塗布ムラを発生させない帯電状態のシートを提供すること。
(2)1つの面に正負が混在した帯電模様のシートやシートの表面と裏面が逆極性に帯電したシートの除電を行い、各面の帯電量を真に減じ、塗布ムラの発生しない帯電模様とすること。
(1)の課題に関して、特に、最近の工程紙、反射防止材料、ハードコート材料、電気絶縁材料等に用いられているシートに対して、帯電による塗布ムラの発生を防止する必要があった。このような状況の中、片面を金属などの導体に接触させた状態で非接触面の帯電分布から背面平衡電位の分布を求め、その背面平衡電位の絶対値の最大値と最小値の差を一定値以下とすることでコーティングムラを抑制する技術が本発明者らによって開示されている(特願2005−号)。
しかしながら、背面平衡電位の絶対値の最大値と最小値の差を一定値以下としても、塗布ムラが発生する場合があった。その場合について以下に説明する。
背面平衡電位の絶対値の最大値と最小値の差を一定以下にすることで、フィルム厚みの方向、つまり、コーティング塗工面に垂直な方向にコーティング液を貫く電界による塗布厚みのムラを抑制することができる。この塗布ムラは、背面平衡電位の絶対値が最も大きい部分で塗布厚みが厚くなり、背面平衡電位の絶対値の最も小さい部分で塗布厚みが薄くなるのである。特に、背面平衡電位が0Vを中心に正と負になだらかな正弦波状帯電分布を有し、その帯電の変化の周期性が比較的大きく、例えば、20[mm]以上である場合には、正負の帯電の境界部では塗布ムラが目視では観測されないほど小さく問題にはならなかった。
しなしながら、帯電の変化の周期が細かく切り替わるような緻密な帯電の場合、例えば、正と負の帯電部が交互に狭いピッチで分布しているような場合には、正と負帯電の境界部分に発生する沿面方向の電界がコーティング液に影響し、正と負の帯電の境界部で塗布ムラが発生してしまう場合があった。この沿面方向の電界による塗布ムラに対しては、上述の背面平衡電位の絶対値の最大値と最小値の差を一定値以下としても解消することができないでいた。
(2)の課題に関して、かかる帯電模様を有する電気絶縁性シートを除電するためには、除電器からのイオンをシートSの電界に依存することなく、シート近傍にまで、かつ多量にイオンを照射する必要があり、かかる帯電模様を有する電気絶縁性シートの除電技術として、本出願人は、電気絶縁性シートを挟んで対向配置された除電ユニットを少なくとも2個配置し、電気絶縁性シートを移動させながら該電気絶縁性シートにその第1の面の側から第1のイオン雲を照射し、前記電気絶縁性シートの第2の面の側から前記第1のイオン雲と実質的に逆極性の第2のイオン雲を前記第1のイオン雲と同時に照射し、少なくとも第1の面に正イオンと負のイオンを1回以上、および、第2の面に負イオンと正イオンを1回以上照射する電気絶縁性シートの除電方法を提案した(特願2004−221441号)。
この除電装置ならびに除電方法によって、シート表面に混在した正と負電荷による複雑な帯電模様やシートの表裏が逆極性に帯電した状態を、架空時電位が実質ゼロあるいは、「見かけ上実質ゼロ電位」になるように正電荷と負電荷のバランスを取るだけでなく、シート表面に存在する正電荷と負電荷を真に中和し減ずることができる。この技術により、シートの各面に存在する帯電電荷(正と負)に対して、除電器からのイオンを選択的に付着させることができ、かつ、法線方向の強い電界によりシートの余分な帯電量を問題のないレベルまで低く抑えることが可能となっている。
しかしながら、対向させたイオン生成電極間の強い電界によって、強制的にイオンを照射するため、正電荷と負電荷が混在した「照射ムラ」と呼ばれる新たな帯電が付与されることがあった。この照射ムラによる塗布ムラの発生を防止する、電気絶縁性シートの除電方法と電気絶縁性シートのコーティング方法に適した除電方法の提供が必要であった。
本発明の目的は、上述した従来の技術の上記問題点を解決し、電気絶縁性シート、特にフィルム各面に正と負の細かい帯電模様が小さい周期で交互に存在する場合であって、電気絶縁性シートに形成されるコーティング膜に塗布ムラ、塗布はじきが発生しにくい電気絶縁性シートを提供するための除電方法を提供することにある。かかる電気絶縁性シートの除電方法、除電装置、コーティング方法、コーティング装置およびその製造方法を提供することにある。
上記課題を解決するために本発明によれば、移動している電気絶縁性シートを、該シートの移動方向に間隔をおいて設けられ、その法線方向の両側から挟んで対向配置された第1および第2のイオン生成電極を有する少なくとも2個の除電ユニットの前記第1および第2のイオン生成電極に時間的に極性が変化しない直流電圧を印加することにより、該電気絶縁性シートにその第1の面の側からそれぞれ時間的に極性が変化しない単一極性の第1のイオン雲を照射し、前記電気絶縁性シートの第2の面の側から前記第1のイオン雲と実質的に逆極性の単一極性の第2のイオン雲を前記第1のイオン雲と同時に照射することにより得られる電気絶縁性シートであって、電気絶縁性シートの面内の各部における、第1の面の帯電電荷密度および第2の面の帯電電荷密度の単位長さあたりの絶対値の変化率がそれぞれ0.18[C/m2/m]以下であり、かつ、背面平衡電位の絶対値の最大値と最小値の差が340[V]であり、かつ、前記第1の面および前記第2の面の背面平衡電位の合計が−10[V]以上+10[V]以下であることを特徴とする電気絶縁性シートが提供される。
また、本発明の好ましい形態によれば、第1の面および第2の各面が実質的に均一に逆極性に帯電した電気絶縁性シートが提供される。
また、本発明の好ましい形態によれば、前記各面が均一に逆極性に帯電した電気絶縁性シートであって、帯電電荷密度の絶対値の平均値が0.04[mC/m2]以上20[mC/m2]以下であることを特徴とする電気絶縁性シートが提供される。
また、本発明の別の形態によれば、移動している電気絶縁性シートを、該シートの移動方向に間隔をおいて設けられ、その法線方向の両側から挟んで対向配置された第1および第2のイオン生成電極を有する少なくとも2個の除電ユニットの前記第1および第2のイオン生成電極に時間的に極性が変化しない直流電圧を印加することにより、該電気絶縁性シートにその第1の面の側からそれぞれ時間的に極性が変化しない単一極性の第1のイオン雲を照射し、前記電気絶縁性シートの第2の面の側から前記第1のイオン雲と実質的に逆極性の単一極性の第2のイオン雲を前記第1のイオン雲と同時に照射する電気絶縁性シートの除電方法であって、
電気絶縁性シートの面内の各部における、第1の面の帯電電荷密度および第2の面の帯電電荷密度の単位長さあたりの絶対値の変化率がそれぞれ0.18[C/m2/m]以下であり、かつ、背面平衡電位の絶対値の最大値と最小値の差が340[V]であり、かつ、第1の面と第2の面の背面平衡電位の合計が−10[V]以上+10[V]以下となるように前記第1のイオン雲および前記第2のイオン雲を前記電気絶縁性シートに照射することを特徴とする電気絶縁性シートの除電方法が提供される。
また、本発明の別の形態によれば、移動している電気絶縁性シートを、該シートの移動方向に間隔をおいて設けられ、その法線方向の両側から挟んで対向配置された第1および第2のイオン生成電極を有する少なくとも2個の除電ユニットの前記第1および第2のイオン生成電極に時間的に極性が変化しない直流電圧を印加することにより、該電気絶縁性シートにその第1の面の側からそれぞれ時間的に極性が変化しない単一極性の第1のイオン雲を照射し、前記電気絶縁性シートの第2の面の側から前記第1のイオン雲と実質的に逆極性の単一極性の第2のイオン雲を前記第1のイオン雲と同時に照射する電気絶縁性シートの除電方法であって、
電気絶縁性シートの面内の各部における、第1の面の帯電電荷密度および第2の面の帯電電荷密度の単位長さあたりの絶対値の変化率がそれぞれ0.12[C/m2/m]以下であり、かつ、背面平衡電位の絶対値の最大値と最小値の差が340[V]であり、かつ、第1の面と第2の面の背面平衡電位の合計が−10[V]以上+10[V]以下となるように前記第1のイオン雲および前記第2のイオン雲を前記電気絶縁性シートに照射することを特徴とする電気絶縁性シートの除電方法が提供される。
また、本発明の好ましい形態によれば、前記電気絶縁性シートの面内の各部における、第1の面の前記背面平衡電位の絶対値の最大値と最小値の差および第2の面の前記背面平衡電位の絶対値の最大値と最小値の差がそれぞれ200[V]以下になるように前記第1のイオン雲および第2のイオン雲を前記電気絶縁性シートに照射することを特徴とする、電気絶縁性シートの除電方法が提供される。
また、本発明の別の形態によれば、電気絶縁性シートを移動させながら該電気絶縁性シートにその第1の面の側から時間的に極性が反転する単一極性の第1のイオン雲を照射し、前記電気絶縁性シートの第2の面の側から前記第1のイオン雲と実質的に逆極性の時間的に極性が反転する単一極性の第2のイオン雲を前記第1のイオン雲と同時に照射する処理を、少なくとも2個以上の複数個の除電ユニットで繰り返し行う電気絶縁性シートの除電方法であって、電気絶縁性シートの面内の各部における、第1の面の帯電電荷密度および第2の面の帯電電荷密度の単位長さあたりの帯電電荷密度の絶対値の変化率がそれぞれ0.18[C/m2/m]以下であり、かつ、背面平衡電位の絶対値の最大値と最小値の差が340[V]であり、かつ、第1の面と第2の面の背面平衡電位の合計が−10[V]以上+10[V]以下となるように前記第1のイオン雲および前記第2のイオン雲を前記電気絶縁性シートに照射することを特徴とする電気絶縁性シートの除電方法が提供される。
また、本発明の別の形態によれば、電気絶縁性シートを移動させながら該電気絶縁性シートにその第1の面の側から時間的に極性が反転する単一極性の第1のイオン雲を照射し、前記電気絶縁性シートの第2の面の側から前記第1のイオン雲と実質的に逆極性の時間的に極性が反転する単一極性の第2のイオン雲を前記第1のイオン雲と同時に照射する処理を、少なくとも2個以上の複数個の除電ユニットで繰り返し行う電気絶縁性シートの除電方法であって、電気絶縁性シートの面内の各部における、第1の面の帯電電荷密度および第2の面の帯電電荷密度の単位長さあたりの帯電電荷密度の絶対値の変化率がそれぞれ0.12[C/m2/m]以下であり、かつ、背面平衡電位の絶対値の最大値と最小値の差が340[V]であり、かつ、第1の面と第2の面の背面平衡電位の合計が−10[V]以上+10[V]以下となるように前記第1のイオン雲および前記第2のイオン雲を前記電気絶縁性シートに照射することを特徴とする電気絶縁性シートの除電方法が提供される。
また、本発明の好ましい形態によれば、前記電気絶縁性シートの面内の各部における、第1の面の前記背面平衡電位の絶対値の最大値と最小値の差および第2の面の前記背面平衡電位の絶対値の最大値と最小値の差がそれぞれ200[V]以下になるように前記第1のイオン雲および第2のイオン雲を前記電気絶縁性シートに照射することを特徴とする、電気絶縁性シートの除電方法が提供される。
また、本発明の別の形態によれば、電気絶縁性シートの少なくとも片面の表面に、コーティング層を形成するコーティング装置であって、
電気絶縁性シートを巻き出すための巻出し装置と、
該巻出し装置のシート移動方向の下流に配置された、少なくとも1個の除電ユニットを有し、該除電ユニットは電気絶縁性シートを挟んで対向して配置された第1の電極ユニットと第2の電極ユニットを有し、前記第1の電極ユニットは、第1のイオン生成電極と該第1のイオン生成電極の先端近傍に開口部を有する第1のシールド電極とを有し、前記第2の電極ユニットは、第2のイオン生成電極と該第1のイオン生成電極の先端近傍に開口部を有する第2のシールド電極とを有するものであり、
前記除電ユニットの前記シート移動方向の下流に配置された、前記電気絶縁性シートにコーティング膜を形成するコーティング塗布装置と、
該コーティング塗布装置の前記シートの移動方向の下流に配置された、コーティング膜を乾燥させるための乾燥装置と、
該乾燥装置の前記シートの移動方向の下流に配置された、コーティング済みシートを巻き取るための巻取装置を有することを特徴とする電気絶縁性シートのコーティング装置が提供される。
また、本発明の別の形態によれば、電気絶縁性シートの少なくとも片面の表面に、コーティング層を形成するコーティング方法であって、
電気絶縁性シートを移動させながら該電気絶縁性シートにその第1の面の側から第1のイオン雲を照射し、前記電気絶縁性シートの第2の面の側から前記第1のイオン雲と実質的に逆極性の第2のイオン雲を前記第1のイオン雲と同時に照射し、その後前記電気絶縁性シートの前記第1の面または前記第2の面にコーティング膜を形成することを特徴とする電気絶縁性シートのコーティング方法が提供される。
また、本発明の別の形態によれば、電気絶縁性シートの製造方法であって、上記の除電方法を用いて前記電気絶縁性シートを除電することを特徴とする電気絶縁性シートの製造方法。
また、本発明の別の形態によれば、上記電気絶縁性シートの除電方法を用いて電気絶縁性シートを除電し、前記除電した電気絶縁性シートの少なくとも片面にコーティング層を形成することを特徴とするコーティング済み電気絶縁性シートの製造方法が提供される。
また、本発明の好ましい形態によれば、前記コーティング材が離型材であることを特徴とする請求項17記載のコーティング済み電気絶縁性シートの製造方法が提供される。
また、本発明の好ましい形態によれば、前記離型材がシリコーン系樹脂からなることを特徴とするコーティング済み電気絶縁性シートの製造方法が提供される。
また、本発明の別の形態によれば、上記の除電方法を用いて電気絶縁性シートを除電し、その後除電済みの前記電気絶縁性シートをコーティングすることを特徴とするコーティング済みシートの製造方法が提供される。
本発明が適用される電気絶縁性シートとして、代表的なものには、プラスチックフィルム、布帛、紙等のシートや枚葉体があるが、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリイミドフィルム、ポリフェニレンサルファイドフィルム、ナイロンフィルム、アラミドフィルム、ポリエチレンフィルム等のプラスチックフィルムは、電気絶縁性が高いため、本発明を適用するのに特に好適である。
本発明において、「電気絶縁性シートの移動経路」とは、電気絶縁性シートが除電のために通過すべき所定の空間をいう。
また、本発明において、「電気絶縁性シートの法線方向」とは、移動経路を移動中の電気絶縁性シートを幅方向のたるみがない平面とみなしたときのこの平面の法線方向をいう。
また、本発明において、「仮想平面」とは、第1および第2のイオン生成電極の間に仮想的に想定した所定の平面をいう。移動経路を移動中の電気絶縁性シートを幅方向のたるみがない平面とみなし、かつ、電気絶縁性シートの移動に伴うシート法線方向のシートの位置の変動がある場合には、時間的に平均した位置にあるものとしたときの上記平面が仮想平面に一致することがある。
本発明において、「イオン生成電極の先端」とは、イオン生成電極の各部のうち、イオンを生成する電界を形成する部位であって、かつ仮想平面に最も近い部位をいう。イオン生成電極は、仮想平面の面内の方向であって、電気絶縁性シートの移動方向または仮想平面内の所定方向に対して直交する方向(この方向を「幅方向」という)に延在している場合が多い。この場合、イオン生成電極の幅方向の各位置において幅方向に垂直な断面内にイオンを生成する電界を形成する部位が存在する場合には、その部位のうち仮想平面に最も近い部位が幅方向の当該位置における「先端」となる。たとえば、イオン生成電極が、幅方向に所定間隔に設けられた電気絶縁性シートの法線方向に延在する針電極の列の場合は、その針の先端が該当するし、イオン生成電極がシートの幅方向に延在するワイヤで形成されたワイヤ電極の場合は、ワイヤの幅方向の各部における仮想平面に一番近い部位が該当する。
また、本発明において、「除電ユニット」とは、電気絶縁性シートを挟んで、対向して配置された、第1の電極ユニットと第2の電極ユニットを有し、第1の電極ユニットは、少なくとも第1のイオン生成電極を有し、第2の電極ユニットは、少なくとも第2のイオン生成電極とを有する。
また、本発明において、「第1および第2のイオン生成電極が対向配置される」とは、第1および第2のイオン生成電極がシート移動の経路や仮想平面を挟んで向かい合っていて、かつ、第1のイオン生成電極の先端から、第2のイオン生成電極の先端の位置を含み仮想平面に平行な平面におろした垂線の足の位置と第2のイオン生成電極の先端の位置との間にシールド電極などの導体が存在しないことをいう。
なお、電気絶縁性シートの移動方向に並んだ2本以上のワイヤ電極や2列以上の針電極列が1つのイオン生成電極を構成する場合もありうる。ただし、隣り合うワイヤ電極または針電極列が別のイオン生成電極として動作する場合、たとえば、隣り合うワイヤ電極または針電極列の先端近傍同士の間にこれらの電極に印加されるべき交流電圧の実効値の1/2以上異なる電位を有する導体(たとえば、シールド電極)が存在する場合、隣り合うワイヤ電極または針電極列の間に印加される電圧が異なる場合、隣り合うワイヤ電極または針電極列の間の距離が当該電極の先端と対向するイオン生成電極の先端との距離d1よりも大きい場合は、これらは別のイオン生成電極、つまり別の除電ユニットに属するものであるとみなすものとする。
また、本発明において、「イオン」とは、電子、電子を授受した原子、電荷をもった分子、分子クラスター、浮遊粒子等、さまざまな形態の電荷担体をいう。
また、本発明において、「イオン雲」とは、イオン生成電極で生成されたイオンの集団であって、特定の場所に固定されずに雲のようにある空間に広がりながら浮遊するものをいう。
また、本発明において、「単極性のイオン雲」とは、イオン雲内部において正または負の一方の極性のイオンが他方の極性のイオンより圧倒的に多いものをいう。通常、イオン生成電極の電位が正極性にあるときには、イオン生成電極の近傍では正の単極性イオン雲が形成されるし、イオン生成電極の電位が負極性にあるときにはイオン生成電極の近傍では負の単極性イオン雲が形成される。しかし、イオンがイオン生成電極近傍で生成された後、電気絶縁性シートに到達までにイオン生成電極の電圧の極性が2回以上反転すると、イオン生成電極と電気絶縁性シートとの間に正負のイオンがそれぞれ存在し、正負のイオンが再結合してそもそもイオンの濃度が低下する上、極性が反転するたびにイオンに対するクーロン力の方向も反転するので、電気絶縁性シートに照射されるイオン雲はもはや単極性のイオン雲とはなり得ない。
また、本発明において、「イオン生成電極」とは、高電圧の印加によるコロナ放電等によって、電極先端近傍の空気中においてイオンを生成電極をいう。また、「シールド電極」とは、イオン生成電極近傍に配置され、イオン生成電極との間に適当な電位差を与えることで、イオン生成電極先端でのコロナ放電を補助する電極をいう。
また、本発明において、「帯電模様」とは、電気絶縁性シートの少なくとも一部が局所的に正および/または負に帯電している状態をいう。その状況は、たとえば、微粉体(トナー)等によって、その帯電の様子(分布)を模様として確認できる。
本発明において、電気絶縁性シートの第1の面の「背面平衡電位」とは、反対の面(背面)に接地導体をシートの厚みの20%または10μmのいずれか小さいほうよりも近く近接させるか密着させて上記背面の電荷と等量逆極性の電荷を上記接地導体に誘導させ、これによって上記背面の電位を実質的に0電位とした状態において上記第1の面の電位を、表面電位計の測定プローブ(測定開口部直径が数[mm]以下の微小なもの。例えば、モンロー社製プローブ1017、開口部直径1.75[mm]や1017EH、開口部直径0.5[mm]等)を、第1の面側から0.5〜2[mm]程度までシートに十分近接させた状態で測定したものをいう。第1の面上の帯電の分布状態は、表面電位計のプローブ、または、背面に接地導体を密着させた状態のシートのいずれか一方をXYステージなどの位置調整可能な移動手段を用いて低速(5[mm/秒]程度)で移動させながら背面平衡電位を順次測定し、得られたデータを2次元的にマッピングすることで得られる。第2の面の背面平衡電位も同様に測定する。
また、本発明において、「見かけ電位」とは、電気絶縁性シートの面内方向のある部位において、第1の面の背面平衡電位と第2の面の背面平衡電位との合計をいう。なお、架空時電位はシートを空中に浮いた状態(背面に密着または近接する導体が存在しない状態)で測定されたものである。電気絶縁性シートの表裏面に存在する電荷が互いに逆極性でちょうど同一の電荷量であれば、理論上、見かけ電位も架空時電位も同じ0[V]になるが、電荷のアンバランスが存在するときは、アースからシート表面までの距離が異なるので、一般には、両者は一般には同じ値にはならない。また、架空時電位はアースからの距離が長いので、周囲の導体の存在等の影響を受けやすく、一般に再現性は低いが、背面平衡電位に基づく見かけ電位は、シートの各面の電位を反対面にアースが存在する状態で測定するので、一般に再現性が高い。
また、本発明において、「実質的に均一に帯電」とは、第1の面の背面平衡電位と第2の面の背面平衡電位の分布において、それぞれの振幅(p−p)が100V以下になっていることを言う。このとき、第1の面の背面平衡電位と第2の面の背面平衡電位の平均値はいくらでもかまわない。好適には、絶対値で0Vから数kVである。
また、本発明において、「見かけ上実質ゼロ電位」とは、見かけ電位が−10[V]以上10[V]以下であることをいう。
また、本発明において、各電位は、特に断らない限り、接地点からの電位であるものとする。多くの場合、シールド電極やコーティング時のバックアップロールなどは接地されて使用される。
また、本発明において、「帯電電荷密度」とは、電荷密度や表面電荷密度のことで、単位面積あたりに存在する電荷の量を表す(単位は[C/m2])。
また、本発明において、「第1の面の帯電電荷密度および第2の面の帯電電荷密度の単位長さあたり絶対値の変化率」とは、第1の面の背面平衡電位の分布状態と第2の面の背面平衡電位の分布状態から求められた、第1の面の帯電電荷密度の分布と第2の面の帯電電荷密度の分布において、電荷密度[C/m2]の変化がどのくらいの距離の間[m]にどのくらいの変化をするか、帯電電荷密度の分布曲線の微分をとり、その勾配の大きさ、つまり変化率を表す。単位はC[/m2/m]である。フィルムサンプルからの帯電電荷密度の変化率[C/m2/m]の求め方について示す。フィルムの長手方向をX軸、幅方向をY軸として、各面について、XY軸の2次元の背面平衡電位を測定する(背面平衡電位の測定方法は上述)。フィルムをリニアガイド等でXY軸に移動するステージ(ステージには接地された導体からなる金属板)に載せる。100mm角のフィルム測定片に対して、X軸のライン間隔0.2mm、ライン数500に設定し、X軸1ラインごとに、Y軸方向にステージ移動速度を20mm/秒で移動させ、電位計のサンプリング間隔10m秒で背面平衡電位の値を測定する。測定した背面平衡電位を帯電電荷密度[C/m2]に変換し、行列変換した上で等高線図を描き2次元分布とする。等高線図の勾配のもっとも大きい任意の方向に線分を設定し、その曲線の微分値から帯電電荷密度の変化率[C/m2/m]を求める。
上記のように帯電電荷密度の2次元分布から帯電電荷密度の変化率[C/m2/m]を求めることが理想であるが、次の簡易方法で帯電電荷密度の変化率[C/m2/m]を求め、近似することができる。
フィルムの長手方向をX軸、幅方向をY軸として、各面について、X軸方向とY軸方向の背面平衡電位をそれぞれ測定する(背面平衡電位の測定方法は上述)。100mm角のフィルム測定片に対して、X軸のライン間隔0.2mm、ライン数500に設定し、X軸1ラインごとに、Y軸方向にステージ移動速度を20mm/秒で移動させ、電位計のサンプリング間隔10m秒で背面平衡電位の値を測定する。Y軸に関しても同様に測定する。X軸500ラインとY軸500ラインをもとに、100mm角のサンプルに500×500の小領域を設定する。各小領域において、X軸、Y軸、XY軸で隣接する8つの小領域との間のそれぞれの帯電電荷密度の変化率[C/m2/m]を求め、すべての方向のうち絶対値がもっと大きい変化率をその小領域の帯電電荷密度の変化率の値とする。すべての小領域において得られた値からその100mm角の面内の最大値を求める。この値が所定の帯電電荷密度の変化率[C/m2/m]以下であるかを判定する。
本発明によれば、後述の通り、実施例と比較例との対比からも明らかなように、電気絶縁性シートの表面に形成されるコーティング膜の塗布ムラ、塗布はじきが発生しにくい電気絶縁性シートを得ることができる。
同一面内において正負が混在して帯電していたり、表裏に正負の帯電が混在していたりする電気絶縁性シートの帯電の正負を平衡させ、表裏それぞれの帯電を実質的に除去した、実質的に無帯電の電気絶縁性シートを、極めて簡単な方法および装置で製造することができ、これにより、上記塗布ムラが発生しない電気絶縁性シートを得ることができる。
以下、図面を用いて本発明の実施の形態を電気絶縁性シートとしてプラスチックフィルムを用いる場合を例にとって説明するが、本発明は、これに限られるものではない。
フィルムの表面に混在した正と負の帯電は電荷密度が数〜500[μC/m2]程度と非常に大きな帯電量である。フィルムの第1および第2の面に正極性と負極性の帯電領域が混在している場合には、それぞれの面が逆極性で数10〜500[μC/m2]程度に帯電しているが、2つの面の電荷密度の和は数〜数10[μC/m2]以下になっている。すなわち、見かけ電位の値が小さくても、その各面の電荷密度は非常に大きいのである。
この帯電状態の概略図が図13、図1である。図13は、シートSの第1面100に正電荷101と負電荷102、第2の面200に正電荷201と負電荷202が存在し、2つの面の帯電電荷の和がゼロではなく、「見かけ上実質ゼロ電位」ではない状態を表す。一方、図1では第1面100の正電荷101と負電荷102と第2の面200の正電荷201と負電荷202が、フィルムのおもて面と裏面とでそれぞれ逆極性に対をなし、2つの面の帯電電荷の和はほぼゼロとなっている。図1の状態が「見かけ上実質ゼロ電位」の状態であって、この場合は、通常、架空時電位も実質ゼロになる。
ここで、フィルム各面の電荷密度を知る方法には次の方法が有効である。フィルムの片面を導体に密着させ、「背面平衡電位」を測定して得られる。背面平衡電位の測定は、表面電位計のプローブをフィルムに1〜2[mm]程度まで十分近接させて行う。得られた背面平衡電位v[V]と単位面積あたりの静電容量C[μF/m2]、および電荷密度σの関係式、σ=C・vにより測定面における局所的な電荷密度σ[μC/m2]を求めることができる。ここで、フィルムのように薄いシート状物においては、単位面積あたりの静電容量Cは、平行平板の単位面積あたりの静電容量C=ε0εr/t(ただし、ε0は真空中の誘電率:8.854×10−12[F/m]、εrはフィルムの比誘電率、tはフィルムの厚み[m])により求められる。この方法は、非破壊での帯電確認方法であるため、導体に密着させる面を表裏反対にすることにより、フィルムの各面それぞれの背面平衡電位v[V]と帯電密度[μC/m2]をそれぞれ知ることができる。また、フィルムに金属等の導電性物質の蒸着したものであっては、蒸着層が、金属ロールと同様の働きをし、フィルム面の背面平衡電位を測定することが可能である。
フィルムの表面にコーティング層を加工する工程において、本発明者らは、コーティング膜の塗布ムラの発生現象を深く検討し、帯電による塗布ムラが発生しないフィルムを見出し、本発明をなすに至った。
本発明者らの知見によると、塗布ムラが発生するメカニズム、並びに、塗布ムラが発生しないフィルムの帯電状態の好ましい条件は次の通りである。3つの条件はそれぞれ独立した発生メカニズムであるため、3つが揃うことで塗布ムラを事実上問題ないレベルにまで抑制できる。
(1)フィルムの第1の面と第2の面の背面平衡電位の合計が−10〜+10Vで見かけ上実質ゼロ電位の状態。
(2)フィルムの第1の面および第2の面の各背面平衡電位の絶対値の最大値と最小値の差が340V以下であること。好ましくは、200V以下である状態。
(3)フィルムの第1の面および第2の面の各帯電電荷密度の絶対値の単位距離あたりの変化率が、0.18C/m2/m以下であること。このましくは、0.12C/m2/m以下である状態。
以下、各条件について、塗布ムラのメカニズムを交えて説明する。
まず第1の条件は、フィルムが空中に把持された状態でコーティングした場合における塗布ムラが発生しないように、見かけ上実質ゼロ電位の状態を維持することである。以下、これに関連する現象を述べ、塗布ムラが発生しないフィルムの帯電状態を説明する。架空時電位が数[kV]から数10[kV]のフィルムにおいては帯電による塗布ムラが発生する(帯電状態は、たとえば図13のようになる)。この状態では、フィルム各部における見かけ電位も実質ゼロではなく、見かけ上実質ゼロ電位のフィルムではない。一方、図1に示した見かけ上実質ゼロ電位の帯電状態のフィルムにあっては、空中で把持した状態では塗布ムラが発生しにくい。これは、フィルムの第1の面および第2の面の間でフィルム内部で電界を閉じるので、この状態でコーティングしても、コーティング液に強い電界がかからないためである。言い換えると、フィルム両面が丁度バランスの良い見かけ上実質ゼロ電位のフィルムは空中でコーティングした場合やコーティング後のフィルムを空中で搬送した状態では塗布ムラにならないのである。
次に、第2の条件と第3の条件について説明する。第2と第3の条件は、フィルムが金属ロールなどに保持された状態で発生する塗布ムラに関する条件である。
フィルムのコーティングプロセスでは、フィルムは空中に把持された状態ばかりではなく、ロール上を走行する状態でコーティングされるのが普通である。例えば、コーターのバックアップロール上やフィルムの移動方向を変える搬送ロール上である。この場合、両面が逆極性に等量帯電した「見かけ上実質ゼロ電位」のフィルムでも塗布ムラを解決できないのがふつうである。
塗布ムラの発生現象を図を用いて詳細に説明する。フィルムの帯電状態は、図1に示すものでフィルムの第1の面100と第2の面200に等量の正電荷と負電荷があり、第1の面100の正電荷101と第2の面200の負電荷202がフィルムを挟んで同じ位置にあるため、両面の和がゼロとなり見かけ上実質ゼロ電位である。よって、上述のように空中では塗布ムラが発生しない一見問題のない帯電状態にある。
図2はダイヘッドコーターを用いたコーティングのプロセスの概略図(一部)を示したものである。ロール状のフィルムロールから巻き出されたフィルムは図に示す矢印の方向に搬送されている。フィルムはロールの形態で保持されつつ巻出し部で巻き出され、搬送ロール15で走行方向を変えながら、コーティング部13でコーティングされ、乾燥部で乾燥され、最後に巻取部で巻き取られる(巻出し部、乾燥部、巻取部は図示せず)。フィルムはバックアップロール14上に密着しながらダイヘッド16により、コーティング塗工面12に所定の塗液をコーティングされコーティング液層20が形成される。バックアップロール14はフィルムSを安定に走行させダイ16との間隙を一定に保つため設けられている。バックアップロール14は、たとえば、ハードクロムメッキされた金属ロールや弾性体が被覆された金属ロールが用いられている。弾性体として導体である導電性のゴムがバックアップロール表面に使用されていることが多い。導電性ゴムは、バックアップロール14の帯電を防止する目的を持ち、静電気放電による有機溶媒への着火を防いでいる。このように、バックアップロール14は、多くの場合、導電性物質から構成されている。また、他のコーティング方法であるロールコーターやナイフコータ−やグラビアコーターでも同様にバックアップロールが設けられていることが多い。このような導電性のロール上においては図3のような帯電状態となる。
図3は、フィルムSが導体のバックアップロール14に密着した様子を示す拡大図である。図3において、フィルムSが導体のバックアップロール14に密着した状態では、シートSの第2の面200が導体に密着し、第1の面100がコーター側にあってコーティング塗工面12となっている。このとき、第2の面200の正の電荷201と負の電荷202はバックアップロール14に逆極性の誘導電荷400が誘導されるので、あたかも第2の面2の帯電を中和した状態となっている。一方、コーティング塗工面12の正の電荷101と負の電荷102はバックアップロール14面からフィルム厚み分の距離をおいているためバックアップロール14に十分な誘導電荷400が存在せず、コーティング塗工面12の静電荷が顕在化してくる。よって、コーティング液層20に帯電電荷が形成する電界が存在する状態となる。この電界の顕在化現象により、見かけ上実質ゼロ電位のフィルムであっても、各面に静電荷が存在する限りコーティング液層20に電界が作用し、塗布ムラが発生するのである。
なお、上記はダイヘッドコーターにおいてバックアップロール上での電荷の挙動に関して説明したが、次のような場合にも同様のメカニズムでコーティング塗工面12に電界が存在する状態ができる。すなわち、コーティング膜を均一に塗った後、含まれる溶媒を蒸発し乾燥するため乾燥工程にフィルムを搬送する場合である。このとき、フィルム上のコーティング液が液体のまま、金属ロール面上を通過したり、また、フィルムへの熱伝導を良くするため金属ロールに密着させて乾燥することもある。このような金属ロール上においても同様の現象が起こり塗布ムラが発生する。
フィルムの帯電状態の好ましい第2の条件は、フィルムSがバックアップロール等の上に配設された状態でコーティングしても塗布ムラが発生しないように、フィルムの第1面および第2面の各背面平衡電位の絶対値の最大値と最小値の差をそれぞれ小さく維持することである。本出願人は、上記特願2005− 号において、フィルム各面に正と負が混在した帯電や表裏が逆極性に帯電した状態であっても塗布ムラが発生しない好適な背面平衡電位の絶対値の最大値と最小値の差を有するフィルムとその除電方法および装置の発明を提案した。
第2の条件が満たされないことに起因して発生する塗布ムラは、コーティング塗工面12に存在する静電荷から、おもにフィルムの厚み方向に働く電界がコーティング液層20に作用し塗布ムラが発生するものであり、この第2の条件をフィルム厚み方向の塗布ムラ抑制条件と呼ぶ。特願2005− 号によると、コーティング塗工面12である第1の面100の背面平衡電位の絶対値の最大値と最小値の差[V]が塗布ムラの発生を左右するパラメーターである。
厚みの異なるフィルムが同量の帯電電荷密度を有している場合、背面平衡電位の絶対値の最大値と最小値の差は各フィルムで異なり、厚みが厚いフィルムにおいて背面平衡電位の最大値と最小値の差は大きくなる。これは、背面平衡電位がフィルム厚さに比例するためである。膜厚の厚いフィルムはコーティング塗工面が背面の金属物体から離れるため静電容量が小さくなり、背面平衡電位が高くなってしまうからである。言い換えると、離型用途、電気絶縁用途、ハードコート等の厚みの厚いフィルムでは背面平衡電位の絶対値の最大値と最小値の差が大きくなりやすく、帯電電荷密度が小さくてもフィルム厚み方向の電界による塗布ムラが発生しやすいことになる。
コーティング液の厚み、すなわち塗布厚みは、背面平衡電位の絶対値の大きさに比例し、背面平衡電位の絶対値の大きい箇所で塗布厚みが厚くなり、背面平衡電位の絶対値の小さい箇所で塗布厚みが薄くなる。正と負の帯電が存在する場合、背面平衡電位の絶対値の最小値は0Vの時で、正と負の帯電の境界、つまり、0Vとなっている箇所がもっとも塗布厚みが小さく、背面平衡電位の絶対値に比例して帯電部分の塗布厚みが厚くなる。
また、背面平衡電位の絶対値の最小値と最大値がほとんど違わなければ、塗布面の厚みの差はほとんどない。たとえ、背面平衡電位の絶対値の最大値と最小値が340[V]を越えていても、塗布厚みが全体に大きくなるが、最大値と最小値の差が小さければ、塗布ムラにはならない。多くの場合、塗布厚みが全体的に厚くなっても、ムラがなければ問題とはならない。
コーティング液として離型性を有するシリコーン系の塗液(溶媒トルエン)を用いたところ、問題となる塗布ムラが発生しない背面平衡電位の絶対値の最大値と最小値の差は340Vとなる。本発明者らの知見によれば、このムラが発生する限界値は塗剤の物性パラメータ(表面張力、表面エネルギー、粘度、塗剤の帯電量等)やフィルムの物性パラメーター(表面張力、表面エネルギー、表面粗さ等)によっても変化し、塗布ムラの程度は金属ロールとの接触時間や塗剤の移動しやすさにも関係するが、概ね340[V]、より好ましくは200[V]以下に背面平衡電位の絶対値の最大値と最小値の差を抑えれば、フィルムのコーティング塗液に塗布ムラが発生しないので好ましい。
しかしながら、本発明者らは、上述の第1および第2の条件を満たしても塗布ムラが発生する場合があることをさらに見出した。このような場合として、正帯電部と負帯電部が細かい周期で交互に存在する場合が挙げられる。フィルム各面の正と負の静電荷からフィルム面に沿った沿面方向に作用する電界による塗布ムラである。これは、特願2005− 号で提供した電気絶縁性シートの背面平衡電位の絶対値の最大値と最小値の差を管理することだけでは解消出来ず、この問題を解決するための条件が第3の条件である。第3の条件も、第2の条件と同様、フィルムが金属ロールなどに保持された状態で発生する塗布ムラに関する条件であり、フィルムが空中に把持された状態では、第1の面と第2の面が見かけ上無帯電のフィルムとなっていれば塗布ムラは発生しない。
第3の条件で発生する塗布ムラは、コーティング塗工面12に存在する静電荷から、おもにフィルムの各面内で隣接する正帯電部と負帯電部、または、正帯電部と無帯電部、または、負帯電部と無帯電部等の沿面の電界が、コーティング液層20に作用し塗布ムラが発生するものであり、この第3の条件をフィルム沿面方向の塗布ムラ抑制条件と呼ぶ。
フィルム各面に正と負の帯電が交互にある場合、帯電の境界部には沿面電界が作用し、工程中で発生する最も緻密な帯電は、1周期が0.2mmから数mm程度で、正と負の境界が過密な状態のため正帯電と負帯電の切り替わりはシャープになっている。帯電の分布をフィルムの長さ方向に見てみると帯電の分布曲線は矩形波的な曲線となる。このような場合、特に、沿面電界の影響を受け易い。
このようなフィルムの沿面方向の電界による塗布ムラは、塗布ムラの発生状態をよく観察すると、正帯電部と負帯電部の境界部でコーティング液層20の膜厚が厚くなることを見出した。
帯電したフィルムによって塗布ムラが発生する物理現象は次のように説明される。静電荷から発生する電気力線がコーティング塗工面12からどの程度強く発生しているか、つまり、コーティング塗工面12からの電界がどのくらいであるかがポイントになる。本発明者らの知見によると、帯電による塗布ムラは塗工するフィルムに電荷が存在し、コーティング液層20に電界がかかると発生する。これは、コーティング液が電界に従って移動し不均一な分布になる為である。ここで、コーティング液、つまり塗剤の移動する現象は帯電した塗液にあっては電気泳動により、塗液の帯電と逆極性の帯電部分に塗剤が集まり、その結果、塗布厚みが周囲より厚くなって塗布ムラが発生する。まったく無帯電な塗液であっても、誘電泳動により電界の強いところに塗液が集まり塗布厚みが周囲より厚くなって塗布ムラが発生するのである。
本発明者らは、種々の実験により、正や負の帯電の強さとその周期をパラメータとした沿面電界の強さによって塗布ムラが発生すること、塗布ムラを抑制するためには、沿面電界の強さを示す測定可能な、第1および第2のフィルム面の帯電電荷密度の変化率が0.18[C/m2/m]以下、より好ましくは0.12[C/m2/m]以下であることを見出した。
以下、本発明を図面を用いて詳細に説明する。
以下、帯電状態は、第1の面と第2の面が、それぞれ正と負の帯電部がフィルム移動方向に交互に並んだ状態で、第1の面および第2の面にそれぞれ正帯電と負帯電が交互に存在した帯電模様を有する厚さ25μmのフィルムを例にとって説明する。本フィルムは、第1の面と第2の面が逆極性に等量帯電しており、第1の条件:第1の面と第2の面の背面平衡電位の合計が−10〜+10[V]を満たしているものとする。このため、空中では塗布ムラの発生しにくい。また、コーティング塗工面12である第1の面100の背面平衡電位の最大値と最小値の差は340[V]以下となっており、第2の条件を満たしている。このため、フィルム厚み方向の電界による塗布ムラは発生しにくい。フィルムの帯電状態の模式図を図4に示す。
図4には、説明を容易にするために、コーティング塗工面12に正電荷101と負電荷102が存在し、正と負の帯電周期が異なる2つのフィルムの帯電状態を模式的に示している。帯電の模式図の下には、背面平衡電位の分布を示す。図4右図は、図4左図に比べて1つの正と負の帯電面積が小さく、正と負の帯電を1周期とした時の図の左右方向(フィルムの長手方向に一致するものとする)の帯電の空間的周期が短い。一方、背面平衡電位のピーク−ピークの振幅(つまり、最大値と最小値の差)は同じである。なお、フィルムの厚みが同じであるので、帯電電荷密度の振幅(つまり、最大値と最小値の差)も、背面平衡電位の振幅と同様に、図4右図と左図は同じである。1つの帯電の図の左右方向の広がりの大きさは、図4右図で約5mm、正負の帯電の空間的周期は約10mmとし、左図で約2.5mm、正負の帯電周期は約5mmとし、両者の背面平衡電位の最大値と最小値は、約−200[V]と約+200[V]で、振幅(0−P)は200[V]とする。
ここで、背面平衡電位の測定により帯電電荷密度を知る方法を以下に示す。
コーティング塗工面となるフィルムの第1の面の背面平衡電位v[V]は、表面電位計のプローブをフィルムに0.5[mm]まで近づけフィルムの片面を接地導体に密着させ、測定した。電荷密度は、フィルムの単位面積あたりの静電容量C[μF/m2]と背面平衡電位vの関係式σ=C・vから求めた。フィルムの単位面積あたりの静電容量Cは、平行平板の単位面積あたりの静電容量の関係式C=ε0εr/t(ただし、ε0は真空中の誘電率:8.854×10−12[F/m]、εrはフィルムの比誘電率、3とした、tはフィルムの厚み[m])により求めた。表面電位計にはモンロー社製model244、センサ(モンロー社製プローブ1017EH、開口部直径0.5[mm])をフィルム上0.5[mm]に設置して測定した。0.5[mm]位置においた時の視野はモンロー社カタログより直径約0.25[mm]以下の範囲となる。帯電の大きさに対して充分小さい視野の表面電位を用いることで、微小面積の局所的な背面平衡電位、ひいては、局所的な帯電電荷密度を正確に知ることができる。
図4に示す帯電状態のフィルムにアイソパーH(溶媒100%。エクソン株式会社)を塗布して、塗布ムラ(塗布を局所的にはじく領域)が生じないかを調べた。フィルムは金属板の上に置き、ワイヤー直径0.25[mm]のメタリングバーで約0.3[m/秒]の速さでハンドコートし、金属板上に静置した状態で目視にて塗布ムラを確認した。コーティング液として用いたアイソパーHは、合成イソパラフィン系炭化水素で有機溶媒の中でも疎水的でフィルム等へのヌレ性が悪く、帯電による塗布ムラが非常に発生しやすい溶液である。塗布ムラの発生は、背面平衡電位が同じでも帯電模様の空間的な広がりの大きさによって発生しやすさが異なる。帯電のピッチが細かい(周期5mm)と粗い(周期10mm)時に比べて塗布ムラが発生しやすく、塗布ムラの発生箇所は正帯電部と負帯電部の境界に集中する。このように、各面の正負の帯電が細かいピッチで緻密に分布していると塗布ムラが発生しやすいのである。さらに、背面平衡電位の最大値と最小値の差、つまり、局所的な帯電電荷密度の最大値と最小値の差が大きいと塗布ムラは発生しやすい。もちろん、背面平衡電位の絶対値の最大値と最小値の差が340V以上に大きくなると、フィルム厚み方向の電界によって塗布ムラが正および負帯電部で発生する。
ここで、背面平衡電位の分布状態から沿面電界を求める。
正帯電と負帯電間、または、正帯電あるいは負帯電と無帯電部の沿面方向の電界強度は、簡便には背面平衡電位の分布曲線をフィルムの長手方向に微分することで得ることができる(厳密には前述の方法による)。正負の帯電の分布曲線を、正と負の帯電の周期T[mm]、0−ピーク間の振幅V0[V]の正弦波状帯電V(x)=V0 sin(2πx/T)で近似すると、沿面電界強度は、E(x) = dV(x)/dx = V0 2π/T cos(2πx/T) [V/mm]と表せる。沿面電界が最大となる場所は、正負帯電の境界部(π、2π)で、沿面電界強度の最大値はV02π/T [V/mm]となる。すなわち、上記条件下では、沿面電界強度は、帯電の周期に反比例し、帯電の強さに比例する。例えば、図4右図に示す帯電においては、背面平衡電位の分布で表された沿面電界強度が約250[kV/m]となり、図4左図は背面平衡電位の分布で表された沿面電界強度が約125[kV/m]となり、右図の方が背面平衡電位の分布で表された沿面電界強度が大きく、塗布ムラが発生しやすいのである。
ここで、フィルム各面の静電荷から発生する沿面電界について考える。正と負の静電荷の間の沿面電界の強さは、沿面方向に隣り合う静電荷と負電荷から発生する電気力線の集中度合いに関係し、コーティング塗工面12に存在する静帯電間の距離と帯電の強さ、つまり、帯電電荷密度に関連して沿面電界の強さは決まる。よって、電荷密度を小さくすれば沿面電界が弱くなって塗布ムラが発生しないと考えるのがふつうである。正と負の境界部に存在する正電荷と負電荷が形成する沿面電界は、数10μmから数100μmのフィルム厚みに対してはフィルム厚みに関わらず帯電電荷密度に比例して沿面電界の強さが決まる。よって、背面平衡電位[V]を注目している電界の方向(通常、フィルムの長手方向であり、フィルムを走行させてコーティングするときに走行方向となる方向をとる)の位置で微分することで得られた沿面電界強度[V/m]について、背面平衡電位[V]を帯電電荷密度[C/m2]に置き換え、長さあたりの帯電電荷密度の変化率[C/m2/m]とすれば良い。つまり、フィルム各面の沿面方向の電界の強さはフィルム面(特に、境界部)に存在する電荷密度[C/m2]の変化がどのくらいの距離の間[m]にどのくらいの変化をするのか、コーティング塗工面12の帯電電荷密度の分布曲線の微分をとり、その勾配の大きさ、変化率[C/m2/m]を基準に考えれば良い。第1の面および第2の面の背面平衡電位はフィルム厚みが厚くなると、同じ帯電電荷密度でも大きくなるが、帯電電荷密度の変化率が小さなければ沿面方向の電界による塗布ムラは発生しない。
図5は、塗布ムラが発生する帯電電荷密度の変化率を実験的に求めた結果である。フィルムの帯電状態は、フィルムの第1の面に正と負の帯電を縞状に交互にパターン化したもので、帯電電荷密度は0[C/m2]を中心に各帯電部の中央で最も高く、正弦波状の分布を持っている。塗布方法は上述の方法である。
図5は、縦軸にフィルムコーティング塗工面12である第1の面100のフィルム長手方向の帯電電荷密度の変化率[C/m2/m]をとり、横軸に正と負の帯電周期[m]をとり、帯電電荷密度の絶対値の最大値が0.00051[C/m2]、0.00032[C/m2]、0.000245[C/m2]、0.000182[C/m2]、0.000129[C/m2]のフィルムにおける沿面方向の電界による塗布ムラの発生有無を調査した結果を示している。ここで、フィルム幅方向の帯電電荷密度は実質的に変化しない。図5中、「○」は塗布ムラが、目視上、完全に発生しないこと、「△」は若干の塗布ムラは見られるが完全にはムラになっておらず品質上問題にならない程度であること、「×」は塗布ムラが発生したことを示している。図5から明白な通り、帯電の周期や帯電の強さによらず帯電電荷密度の変化率が0.12[C/m2/m]を境に、この値を越える場合では塗布ムラが発生し、この値以下では塗布ムラが発生しないことを見出した。アイソパーHに比べて電界に対する影響が小さいシリコーンなどは閾値が高く、0.18[C/m2/m]を境に、この値を越える場合では塗布ムラが発生し、この値以下では塗布ムラが発生しない好適な条件であることを見出した。
本発明者らの知見によれば、このムラが発生する限界値は塗剤の物性パラメータ(表面張力、表面エネルギー、粘度、塗剤の帯電量等)やフィルムの物性パラメーター(表面張力、表面エネルギー、表面粗さ等)によっても変化し、塗布ムラの程度は金属ロールとの接触時間や塗剤の移動しやすさにも関係するが、概ね、原理的にはフィルム長手方向および幅方向を含む沿面方向のあらゆる方向について0.18[C/m2/m]より好ましくは0.12[C/m2/m]以下に帯電電荷密度の変化率を抑えれば、フィルム表面に形成するコーティングに塗布ムラが発生しないので好ましい。
工程で発生する帯電の各面の帯電電荷密度は〜500[μC/m2](0.0005[C/m2])であることを上述したが、帯電電荷密度の分布が正弦波的であれば、図5で横軸の帯電周期が0.02mを越える場合には、帯電電荷密度の変化率は、0.16[C/m2/m]以下となり、沿面方向の塗布ムラは発生しにくい。このような現象は、第1の面100の面内において正電荷と負電荷の1つの帯電領域の大きさが、10[mm]から数10[mm]程度で正と負の帯電周期が20mmを越え、緩やかな正弦波状の背面平衡電位の変化を示すフィルムは、正負帯電部の境界で発生する電界を弱めることができ、正と負の帯電の境界である沿面で発生する塗布ムラが発生しにくいと言える。これは、コーティング液の移動距離がごく小さく、それに比例して移動できる液量もごく僅かなため、ムラが弱すぎて、目視確認できる程のムラにはならず問題にならない。特願2005−19308号で開示したフィルムの帯電周期は数10〜数100mmであり、このような長周期を有する帯電においては、正と負の帯電部の境界部で発生する塗布ムラはほとんど発生しないことが理解できる。一方、帯電周期が10mm以下(正と負の1つの帯電の大きさが5mm以下)となると、沿面方向の電界による塗布ムラが発生しやすくなるのである。
具体的には、コーティング塗工面12に緻密な正と負の帯電が交互に存在するフィルムであって、帯電電荷密度の分布曲線が正弦波に近似できるとき、帯電周期が5mmの場合には帯電電荷密度の最大値を約140μC/m2、帯電周期が10mmの場合には帯電電荷密度の最大値を約280μC/m2にできれば沿面方向の電界による塗布ムラは抑制できる。
上記では、帯電電荷密度の分布曲線を正弦波に近似したが、次に、矩形波や三角派といった代表的な波形について述べる。実際に、正と負の帯電の周期10mmと帯電のピーク値0.00017「C/m2」を同じにして、正弦波と矩形波で塗布ムラの発生しやすさを比較した。矩形波でははっきりしたはじきが境界部に発生したが、正弦波では帯電が目視で観察できず塗布ムラはなかった。矩形波と正弦波では、矩形波の方が正負帯電境界での沿面電界が強いため、正と負の帯電の境界で塗布ムラが発生する。
帯電電荷密度の分布曲線が矩形波の場合には、曲線の勾配、変化率が最大となるのは、位相π、2πの時で理論上最大値は+∞、−∞である。正弦波の場合(最大値をP(0−P)、帯電周期をTとする)には、位相π、2πの時で+P×2π/T、−P×2π/Tである。三角波の場合(最大値をP(p−p)、帯電周期を2Tとする)には、三角波の傾き部(1/2π、3/2π以外)の時で+P/T、−P/Tである。以上から、同じ帯電周期で同じ最大値を持つ帯電電荷密度分布曲線の場合、沿面電界強度は矩形波、正弦波、三角波の順に弱くなり、塗布ムラが発生しにくくなる。以上から、電気絶縁性シートに通常見られる帯電欠点の状態は正と負の帯電電荷密度の分布曲線が矩形波に近く、この状態を正弦波や三角波のような滑らかな分布曲線に変化させることで塗布ムラが発生しにくくできる。
以上のように、本発明者らの検討によりフィルムの帯電による塗布ムラの発生しやすさの判断基準として、コーティング塗工面の帯電を問題のないレベルまで低減することが重要であることが判明した。コーティング塗工面の帯電電荷密度の変化率が0.18[C/m2/m]以下、より好ましくは、0.12[C/m2/m]以下で、かつ、背面平衡電位P[V]の絶対値の最大値と最小値の差が340[V]以下、より好ましくは200[V]以下で、かつ、第1の面と第2の面の両面の和がゼロ(=見かけ上無帯電)であれば、実質的に塗布ムラが発生しないのである。特に、フィルム厚み方向の電界による塗布ムラはフィルムの厚みが厚いフィルムで、沿面方向の電界による塗布ムラは正負の空間的な帯電周期が小さいときに塗布ムラが発生しやすい。
次にこのような好適な帯電状態をもつフィルムを得る除電方法を説明する。
上述のようにスタチックマークのように正極性と負極性の帯電量域が同一面内において狭いピッチで混在しているものや、表裏面にそれぞれ混在していたりするフィルムの電荷密度は数〜500[μC/m2]程度と非常に大きな帯電量である。
本出願人は、上記特願2004−221441号において、正と負が混在した帯電や表裏が逆極性に帯電した状態を好適に除電できる方法、および装置の発明を提案した。上記特願2004−221441号によると、正と負が混在した帯電や表裏が逆極性に帯電した状態を、第1の面と第2の面との両面のバランスを取り、見かけ上無帯電な状態である「見かけ上実質0電位」を実現するとともに、第1の面と第2の面の正電荷と負電荷を低減することができる。これにより、帯電電荷密度の変化率を好適な状態にまで減じ、正と負の帯電による沿面方向の電界により発生する塗布ムラを抑制できる。しかしながら、各除電ユニットの第1のイオン生成電極と第2のイオン生成電極間の強い法線方向の電界により、フィルムにイオンを強制的に充電するため、フィルムには正負のイオンの照射ムラが残る。正と負の照射ムラの帯電電荷密度の分布は、なだらかな正弦波状の曲線で、その帯電周期は20〜100mmと長いため、帯電電荷密度変化率は、上述のように大きな値とはならず、沿面方向の電界による塗布ムラには問題のないことが多い。
しかしながら、特願2004−221441号において提供した除電装置、並びに除電方法で好適な除電が可能であるが、いかなる照射ムラも発生せず、かつ、コーティングの塗布ムラが有効に抑制できる別の好適な除電方法を以下に提供する。
照射ムラは、印加する周波数は商用周波数(50または60[Hz])とし、イオン生成電極に印加する1周期に相当する時間に、つまり、印加周波数f[Hz]とフィルム速度u[mm/秒]の関係において、u/fで得られる交流電圧の1周期分に進むフィルムの移動距離[mm]が照射ムラの帯電の周期となる。よって、照射ムラはイオン生成電極に印加する電圧の変化率が小さいほぼ一定の直流電圧を印加すれば起こり得ない。
ここで、帯電による塗布ムラ欠点を抑制するためには、上述の通り、以下が重要である。
(1)フィルム表裏の帯電がバランスしており、見かけ上実質ゼロ電位であって、シート各部における第1面および第2面の背面平衡電位の合計がほぼゼロであること。すなわち、フィルムの各部における背面平衡電位の合計が−10[V]〜+10[V]である状態にする。測定方法は前述のとおりである。
(2)フィルム表裏面それぞれに存在する電荷密度が十分小さく、背面平衡電位の絶対値の最大値と最小値の差が340[V]以下、より好ましくは200[V]以下であり、正と負の帯電周期が20mm以上の状態とする。
(3)フィルム表裏面それぞれに存在する電荷密度が十分小さく、帯電電荷密度の変化率が0.18[C/m2/m]以下、より好ましくは0.12[C/m2/m]以下である状態とする。
この(1)〜(3)の状態を達成する除電装置ならびに除電条件について以下に述べる。(1)〜(3)の条件をすべて満たす好適な除電後の帯電状態とは、各面の背面平衡電位が0V付近で問題のないレベルにまで小さくなるか、または、各面の背面平衡電位が0Vではないが背面平衡電位が問題のないレベルにまで均一な帯電状態となり、かつ、見かけ上無帯電の状態であって、正負の帯電の周期が短い帯電欠点を、正と負の帯電の境界が滑らかで帯電電荷密度の変化率が問題のないレベルにまで小さくなった帯電状態である。この帯電状態を得るための除電方法として、フィルムの第1の面および第2の面を逆極性に均一に帯電させながら帯電欠点を除電する方法が提供される。従来、フィルムの第1の面および第2の面の静電荷をいかに小さくし実質ゼロとすることが目的とされていたが、意外なことに、第1の面と第2の面を強い均一な帯電で塗りつぶすことで帯電欠点を緩和することで塗布ムラが抑制することができることが判った。ただし、強い均一な帯電を、いかに効率良く放電の発生等を起こさず付与することが重要であり、鋭意検討の結果本発明をなすに至った。
ここで、本発明の除電方法と特許文献3に示される除電装置および除電方法の相違点を述べる。特許文献3において、シートの各面に配置するイオン生成電極の形態として、同極性の直流電圧を印加される3本のワイヤ電極をシートの移動方向に平行して配置する形態や、交流電圧を印加される1本のワイヤ電極があげられているが、これらはいずれも、フィルムの各部位に、各面から片極性ずつのイオンの照射を1回だけ行なうにすぎないものであった。
一方、本発明のフィルムの第1の面および第2の面を逆極性に均一に強く帯電させ除電する方法は、除電ユニットの個数をすくなくとも2個以上の複数個とすることで初めて実現できるものであり、これにより沿面方向の電界による塗布ムラが抑制できる。除電ユニットの第1および第2のイオン生成電極に互いに実質的に逆極性の電圧を印加することにより、各除電ユニットの第1および第2のイオン生成電極から実質的に逆極性の単極性のイオン雲の対を同時に生成し、これを電気絶縁性シートに同時に照射する場合、複数の除電ユニットを併設し、同極性のイオン雲を発生させることで、イオン雲の空間が広がり、あたかも除電ゲートとして成り立つ。これは、正と負のイオン間の結合が起こりにくく除電ゲートの中に充分なイオンを保持できること、同極性のイオンの反発でフィルム長手方向にイオンが拡散しやすく、除電ユニットの数を単に増やした以上の効果を得ることができる。
以下、図を用いて本発明の各面逆極性均一帯電除電方法を説明する。図6は、本発明の一実施形態に係るプラスチックフィルムの除電装置5の概略断面図であり、図7はその除電装置5における除電ユニットの1例における部材の位置関係を示す拡大図である。除電装置5の左側にガイドロール5aが、右側にガイドロール5bが配設されている。これらは、シートの搬送手段である。ガイドロール5aとガイドロール5bとに走行するフィルムSが掛け渡されており、図示しないモーターの駆動力によりガイドロール5a、5bが時計回りに回転することで、図の矢印方向に、速度u[m/分]で連続的に移動する。ガイドロール5aおよび5bの間には、N[個]の除電ユニットSU1、・・・、SUnが、フィルムSを挟んで互いに対向する位置に、間隔を置いて設けられている。
一番目の除電ユニットSU1は、第1の電極ユニットENd−1と第2の電極ユニットENf−1からなる。第1の電極ユニットは、フィルムSの第1の面100に向かい、第1の面100に対して間隔をおいて設けられている。第2の電極ユニットENf−1は、フィルムSの第2の面200に向かい、第2の面200に対して間隔をおいて設けられている。第1の電極ユニットENd−1と第2の電極ユニットENf−1とは、フィルムSを挟んで、互いに対向している。
kを1からnまでの整数とするとき、k番目の除電ユニットSUkは、第1の電極ユニットEUd−kと第2の電極ユニットEUf−kとからなる。第1の電極ユニットは、フィルムのSの第1の面100に向かい、第1の面100に対して間隔をおいて設けられている。第2の電極ユニットENf−kは、フィルムSの第2の面200に向かい、第2の面200に対して間隔をおいて設けられている。第1の電極ユニットENd−kと第2の電極ユニットENf−kとは、フィルムSを挟んで、互いに対向している。
次に、除電装置5における除電ユニットSUkの構成について説明する。この説明は、第1の除電ユニットSU1を代表させて行なわれる。除電ユニットの個数Nは、本発明の主旨に応じて、その数や除電ユニットの間隔が選定される。
第1の電極ユニットEUd−1は、第1のイオン生成電極5d−1と、第1のイオン生成電極に対する開口部を有する第1のシールド電極5g−1と、絶縁部材とからなる。第2の電極ユニットは、第2のイオン生成電極5f−1と第2のイオン生成電極に対する開口部を有する第2のシールド電極5h−1と、絶縁部材とからなる
第1のシールド電極5g−1の開口部は、第1のイオン生成電極5d−1の先端近傍にフィルムSに向かって開口している。第1および第2のシールド電極5g−1、5h−1は、第1および第2のイオン生成電極5d−1、5f−1との間に適切な電位差をあたえられたときに、それぞれのイオン生成電極5d−1、5f−1における放電を助ける機能を有する。
第1のイオン生成電極5d−1の先端と、第2のイオン生成電極5f−1の先端とは、フィルムSの法線方向においてd1−1間隔を置いて、フィルムSの移動方向においてd0−1の間隔を置いて配置される。また、第1のシールド電極5g−1と第2のシールド電極5h−1とは、フィルムSにもっとも近い部位同士が、フィルムSの法線方向において、d3−1の間隔を置いて設けられている。
各除電ユニットSUk(1〜n)の第1のイオン生成電極5d−1と第2のイオン生成電極5f−1とは、逆極性の第1の直流電源5cと第2の直流電源5eに接続されている。第1および第2のシールド電極5g−1と5h−1とは、それぞれ接地されている。
各除電ユニットSUk(1〜n)の第1のイオン生成電極5dk(1〜n)はすべて同極性の直流電源に接続され、第2のイオン生成電極5fk(1〜n)は第1のイオン生成電極とは逆極性にすべて同極性の直流電源に接続されている。なお、直流電源は1つとしても良いし、複数台用いて印加する電圧を変化させても良い。
次に、本実施形態の図6の除電装置5の動作について簡単に説明する。
除電ユニットSUkの動作について簡単に説明する。この説明は、第1の除電ユニットSU1を代表させて行う。第1の除電ユニットSU1において、第1のイオン生成電極5d−1に正の電圧が印加され、第2のイオン生成電極5f−1に負の電圧が印加されている場合について説明する。このとき、第1のイオン生成電極5d−1からは正イオンが、第2のイオン生成電極5f−1からは負イオンが生成される。第1のイオン生成電極5d−1と第2のイオン生成電極5f−1との間の電界強度が強いとき、電界によって、正負のイオンが強制的にフィルムSに照射される。第1のイオン生成電極5d−1から生成された正イオンと第2のイオン生成電極5f−1から生成された負イオンはそれぞれ、対向する第1および第2のイオン生成電極5d−1、5f−1のつくる電気力線に沿って、フィルムSの近傍まで引き寄せられ、フィルムSに付着する。このとき、第1の面および第2の面に正負の帯電を有するフィルムSの近傍において、正イオンと負イオンとは、フィルムS上に負の静電荷や正の静電荷があると、クーロン力によって、負の静電荷、および、正の静電荷に、より多く、選択的に引き寄せられる。従って、フィルムSの第1の面の負の静電荷と第2の面の正の静電荷が除電される。
ここで、フィルムにイオンを照射し強制的に充電するため、除電ユニット1[個]あたり、10〜30[μC/m2]程度のイオンが照射される。なお、このイオンの照射は表裏が逆極性で帯電の量もほぼ等しいため、表裏面の背面平衡電位の和が−10[V]から+10[V]で見かけ上の無帯電である。このイオン照射はフィルム厚みに関係なく一定の電荷密度[μC/m2]が重畳される特徴がある。イオン照射の強さは、印加電圧V[V]が大きくなると、イオン生成電極からのイオン発生量が印加電圧にほぼ比例して増加する。また、対向するイオン生成電極の電圧が高くなるため、対向したイオン生成電極で発生したイオンを電界に比例して加速しフィルム面に引き寄せる。よって、イオン照射の強さは印加電圧Vの2乗に比例して強くなる。一方、各除電ユニットの第1と第2のイオン生成電極間距離が小さくなると、対向したイオン生成電極との距離が近くなるので電界が強くなり、さらに、距離が近づくことで各イオン生成電極から発生するイオン雲が凝縮され強められる。よって、距離が小さくなれば、ほぼ2乗に反比例してイオン照射が大きくなると考えられる。
このようなイオンの照射における各面の帯電状態を説明する。第1の面100、の正電荷101と負電荷102が、第2の面200には正電荷201と負電荷202が混在した帯電状態のフィルムを、第1の面側から第1の面に向けて各除電ユニットの第1のイオン生成電極から正イオンを照射し、第2の面側から第2の面に向けて各除電ユニットの第2のイオン生成電極から負イオンを照射する。図10は、除電装置5で除電する前のフィルムのサンプルにおける第1の面の帯電電荷密度[C/m2]の分布のフィルムの長さ方向の変化の様子を示している。図10では、フィルムは0を中心に正と負に交互に帯電し、帯電電荷密度の変化率[C/m2/m]は沿面方向の電界による塗布ムラの発生閾値を越えている。このため、図10下図に模式的に示したように正と負の帯電の境界部で塗布ムラが発生している。この帯電状態のフィルムを図6に示す除電装置5により除電する。照射した正イオンおよび負イオンはフィルムの第1の面と第2の面に充電され、第1の面を正に、第2の面を負に強く帯電させる。このとき、第1の面の負電荷102にはより多くの正イオンが選択的に引き寄せられ、第1の面の正電荷101には正のイオンは選択的に遠ざけられる。すなわち、第1の面に存在した正電荷と負電荷の差を縮めつつ、第1の面を正極性に塗り潰すのである。この状態を図11に示す。図11は、図10に示した帯電状態をほぼ均一帯電に除電した結果を示している。帯電電荷密度の中心値は大きく正極性にシフトしているが、正電荷と負電荷による帯電電荷密度分布は問題のないレベルにまで滑らかに整えられ、図11下図に模式的に示すように帯電電荷密度の変化率[C/m2/m]は沿面方向の電界による塗布ムラの発生閾値以下となり正と負の帯電の境界部で塗布ムラは抑制される。 特に、照射されたイオンは、フィルムの近傍で帯電の静電荷がつくる電界の強い部位に付着しやすく、正と負の帯電の境界を有効に除電する。すなわち、何らかの原因で帯電したフィルム面上の帯電電荷密度の分布曲線の正と負の帯電の境界部における電荷密度の変化率を小さくできるため、沿面方向の電界を弱めることができ、より塗布ムラを発生させにくくする利点がある。
第2の面ついては、逆極性に同様にほぼ均一帯電に除電される。第2の面に照射された負イオンは、第2の面の正電荷101にはより多くの負イオンが選択的に引き寄せられ、第2の面の負電荷202には負のイオンは選択的に遠ざけられる。すなわち、第2の面に存在した正電荷と負電荷の差を縮めつつ、第2の面を負極性に塗り潰すのである。第1の面と第2の面は逆極性にそれぞれ実質的に均一に帯電しているので、フィルムは見かけ上無帯電で、かつ、背面平衡電位の絶対値の最大値と最小値の差も340[V]以下であり、塗布ムラを抑制する帯電状態を有している。
複数個の除電ユニットが、上記のイオンの照射を繰り返すことにより、第1の面と第2の面に逆極性の実質的に均一な帯電を付与しながら、フィルムSの各面の正の静電荷、あるいは、負の静電荷を大いに除電することができる。
均一な帯電の最大許容量について説明する。電気絶縁性シートが大気中で保持できる最大電荷密度は、空気中で絶縁破壊が発生するまでのおよそ27μC/m2である(素材がポリエステルで、厚みが1〜100μmの場合)。しかしながら、電気絶縁性シートの厚みが〜0.5mmと薄く背面に導体が密着する場合は、絶縁物の表面電荷と異符号の電荷が背面に誘導され、絶縁物表面の電界強度が弱められ、最大電荷密度を超える帯電が許容される。フィルム表面に許容される電荷密度は背面の導体との距離に反比例する。非特許文献2によると、絶縁物の厚さが8mmでは表面電荷密度が250μC/m2以上になると絶縁物の表面に沿って強い発光を伴う放電が発生する。よって、第1および第2の面が逆極性に等量帯電したフィルムであって、フィルムの厚みが100μm以下のものでは、通常の空中搬送状態では見かけ上無帯電であるので放電が発生せず上限はなく、金属板に載せた状態で最大20mC/m2の電荷密度が許容しうる上限の均一帯電とみなせる。
以上が、図6、図7に示す実施態様による第1の面および第2の面を逆極性に均一に帯電させながら帯電欠点を除電する方法であるが、電気絶縁性シートを移動させながら、そのシートに、そのシートの第1の面の側および第2の面の側から、同時に、実質的に互いに逆極性の、それぞれ時間的に極性が変化しないイオン雲の対を照射し、その後、そのシートの第1の面および第2の面に対して、同時に、さきの照射の際とは極性が反転した、それぞれ時間的に極性が変化しないイオン雲の対を、それぞれの面に照射される、それぞれの極性のイオンの量が実質的に等しくなるよう照射する除電方法を用いてもかまわない。この場合、図6に示す直流電源5cを併設する複数個の除電ユニットの各第1/第2のイオン生成電極のうちの一部に接続し、直流電源5eを残りの各第1/第2のイオン生成電極に接続し、各第1および第2のイオン生成電極は互いに逆極性の直流電圧を印加するよう構成する。これにより、照射ムラの発生を抑制し、第1および第2の面の静電荷を大いに除電することができる。
さらに、上記特願2004−221441号で提案した除電方法であっても、前述したように、沿面方向の電界による塗布ムラが抑制できる。この除電方法についてさらに説明を加える。
図8は、一実施態様に係るプラスチックフィルムの除電装置5の概略断面図であり、図9はその除電装置5における除電ユニットの1例における部材の位置関係を示す拡大図である。図8から明らかなように、図6に示す直流電源5cを交流電源5pに、直流電源5eを交流電源5qとし、各除電ユニットの第1および第2のイオン生成電極に互いに逆極性の交流電圧を印加する除電装置である。次に、本実施形態の図8、図9の除電装置5の動作について簡単に説明する。
除電ユニットSUkの動作について、第1の除電ユニットSU1を代表させて行う。第1の除電ユニットSU1において、第1のイオン生成電極5d−1には時間的に極性が反転する交流電圧が印加され、時間的極性の反転に応じて第1および第2のイオン生成電極から正および負のイオンが生成する。第1のイオン生成電極5d−1に正の電圧が印加され、第2のイオン生成電極5f−1に負の電圧が印加されている場合について説明する。このとき、第1のイオン生成電極5d−1からは正イオンが、第2のイオン生成電極5f−1からは負イオンが生成される。第1のイオン生成電極5d−1と第2のイオン生成電極5f−1との間の電界強度が強いとき、電界によって、正負のイオンが強制的にフィルムSに照射される。第1のイオン生成電極5d−1から生成された正イオンと第2のイオン生成電極5f−1から生成された負イオンはそれぞれ、対向する第1および第2のイオン生成電極5d−1、5f−1のつくる電気力線に沿って、フィルムSの近傍まで引き寄せられ、フィルムSに付着する。このとき、第1の面および第2の面に正負の帯電を有するフィルムSの近傍において、正イオンと負イオンとは、フィルムS上に負の静電荷や正の静電荷があると、クーロン力によって、負の静電荷、および、正の静電荷に、より多く、選択的に引き寄せられる。従って、フィルムSの第1の面の負の静電荷と第2の面の正の静電荷が除電される。次に、各除電ユニットの第1および第2のイオン生成電極に印加する交流電圧の位相が反転し、第1のイオン生成電極5d−1に負の電圧が印加され、第2のイオン生成電極5f−1に正の電圧が印加されると、第1および第2のイオン生成電極から時間的に前のイオンとは逆極性のイオンが生成され、同様の作用でフィルムSの第1の面の負の静電荷と第2の面の正の静電荷が除電される。これを繰り返すことにより、フィルムSの各面の正の静電荷と負の静電荷を除電することができる。これによって、フィルムは大いに除電された状態となる。図8に示す除電装置5は、特に低速度では有効であり、正と負の帯電がフィルム面内の全域でほどよく除電できる。
以上のように、表面にコーティングを行うフィルムであって、帯電による塗布ムラが発生しないフィルムを提供できる。さらに、そのような好適なフィルムを得るための除電方法を提供することができる。本発明の除電方法は離型性を有するフィルムやハードコートフィルムにも好ましく適用できる。
なお、上記実施形態においては、各除電ユニットの第1および第2のイオン生成電極やこれに対応するシールド電極は、それぞれ実質的に同一の形態を有するものを用い、実質的に同電位となるように構成した。また、第1のイオン生成電極に印加した電圧の実効値は第2のイオン生成電極に印加した電圧の実効値と実質的に同一とした。
しかし、本発明において、一般には、各イオン生成電極は必ずしも実質的に同一の形態を有している必要はなく、印加される電位も同一の電位でなくてもよい。寸法や位置関係や印加電圧は、本発明に規定した条件を個別のイオン生成電極等がそれぞれ個別に満たしておればよい。各除電ユニットの第1のイオン生成電極に印加する電圧と第2のイオン生成電極に印加する電圧とは、電圧の実効値等は多少違っていても、上記の作用効果を奏する範囲内であれば、別段問題ない。
次に、本発明のコーティング装置ならびにコーティング方法について図12を用いて説明する。図12はダイヘッドコーターを用いたコーティングのプロセスの概略図(一部)を示したものである。ロール状のフィルムロールから巻き出されたフィルムは図に示す矢印の方向に搬送されている。フィルムはロールの形態で保持されつつ巻出し部で巻き出され、搬送ロール5a、5b、15で走行方向を変えながら、コーティング部でコーティングされ、乾燥部で乾燥され、最後に巻取部で巻き取られる(巻出し部、乾燥部、巻取部は図示せず)。
コーティング部の説明は前述の図3の説明の通りである。巻出し部からコーティング部の間に本発明の図6の除電装置5がフィルムSを挟んで配置されている。除電ユニットの個数は2[個]で、SU1とSU2の各イオン生成電極の先端のシート移動方向における間隔d2は50[mm]である。なお、図12では除電ユニットは2個としたが、除電ユニットの個数は、2個以上であればコーティング速度や取りたい帯電によって適宜選べばよい。また、第1および第2のイオン生成電極にいずれの極性の電圧を印加するかも適宜選べばよい。また、コーティング後付与した均一帯電を別の除電装置で除電してもかまわない。
本実施形態のコーティング装置では、フィルムを巻き出した後コーティング前に除電するため、ロール状のフィルムから巻出す際に発生しやすい剥離放電痕やコーティングプロセスに用いられている金属ロールやゴムロール等との摩擦帯電を含めて除電できるため特に有効である。
また、図6の除電装置5を用いて、第1の面および第2の面が逆極性に実質的に均一に帯電したフィルムにあっては、フィルムをロール体として巻き上げると、隣接するフィルム層の表面と裏面が丁度逆極性の帯電となるため、フィルムロール体に見かけ上ギャップの大きな電気二重層が形成される。このため、フィルムロール体の表面の電位が大きくなり、異常な放電などの問題を起こしやすくなる。しかし、上記のように、フィルムを巻きだした後に除電し、そのまま、いったん巻き取ることなくコーティング処理をするため、コーティング時に異常な放電の影響を受けることがなくこの問題も回避できる。 また、コーティング塗液が絶縁物であって帯電している場合には、フィルムの第1の面あるいは第2の面の均一帯電とのクーロン力を発生し、コーティングの塗工を安定させる働きがある。
以下に示す実施例および比較例において、本発明の効果を以下の方法により評価した。
<1>塗布ムラの評価:ハンドコートテスト
絶縁フィルムにアイソパーH(溶媒100%。エクソン株式会社の商品名)、を塗布して、塗布ムラ(塗布を局所的にはじく領域)が生じないかを調べた。フィルムは金属板の上に置き、ワイヤー直径0.5[mm]のメタリングバーで約0.3[m/秒]の速さでハンドコートし、金属板上に静置した状態で目視にて塗布ムラを確認し、以下の3段階で評価した。
○:塗布ムラなし
△:僅かにムラが確認できるが、品質上問題のないレベル。
×:塗布ムラあり
<2>電気絶縁シートの各面の背面平衡電位測定
絶縁フィルムの被評価面とは逆の面を金属ロール(直径10[cm]のハードクロムメッキロール)に密着させ、電位を測定した。絶縁フィルムと金属ロールの界面の間に実質的にギャップがない状態にまでぴったりと接触させて測定するこの状態で電位計(モンロー社製モデル244)センサ(モンロー社製プローブ1017EH、開口部直径0.5[mm])をフィルム上0.5[mm](0.5[mm]位置においた時の視野はモンロー社カタログより直径0.25[mm]以下の範囲となる)の位置におき、金属ロールを低速回転(リニアモータを使用し、約0.3[m/分]で低速回転させながら電位を測定し、背面平衡電位P[V]を得た。
フィルムの面内の背面平衡電位は、まず、フィルム幅方向に電位計を20mm程度スキャンさせて最大値が得られる幅方向の位置を決め、幅方向の位置を固定して、電位計をフィルム移動方向、つまりフィルムの長手方向にスキャンさせて電位を測定した。フィルム面内の背面平衡電位は2次元的にすべてのポイントを測定するのが理想であるが、前述の方法でフィルム面内の電位の分布を近似することで、通常、実用上は差し支えない。フィルム幅が1mを越す場合には、フィルムの幅方向のほぼ中央部と端部において、20mm程度を切り出しスキャンさせ、最大値が得られる場所を探し、その後、フィルム移動方向にスキャンさせて電位を測定する。
得られた背面平衡電位の分布から帯電電荷密度の分布を求めた。帯電電荷密度は、フィルムの単位面積あたりの静電容量C[μF/m2]と背面平衡電位vの関係式σ=C・vから求めた。フィルムの単位面積あたりの静電容量Cは、平行平板の単位面積あたりの静電容量の関係式C=ε0εr/t(ただし、ε0は真空中の誘電率:8.854×10−12[F/m]、εrはフィルムの比誘電率、3とした、tはフィルムの厚み[m])により求めた。さらに、帯電電荷密度の分布を微分して帯電電荷密度の変化率「C/m2/m」を求めた。
なお、帯電電荷密度の分布曲線が正弦波に近似できる場合、帯電電荷密度変化率の最大値は、帯電周期をT[m]、帯電電荷密度の振幅(0−p)をV0とし、V02π/T [C/m2/m]を計算して求めた。
◎:0.12[C/m2/m]以下
○:0.12[C/m2/m]を越える〜0.18[C/m2/m]以下
×:0.18[C/m2/m]を越える
実施例および比較例を以下に示す。
実施例1〜12および比較例1〜8 (帯電ピッチと塗布ムラ実験結果)
電気絶縁性フィルムSとして幅200[mm]、厚さ30,60[μm]の2軸延伸されたポリエチレンテレフタレートフィルム(「東レ株式会社製ルミラー、30R75、60R75」を用いた。このフィルムにはあらかじめ正負の帯電が付与されていた。その帯電状態とは、フィルムの長さ方向に正帯電と負帯電が交互に並び、第1の面および第2の面の背面平衡電位の分布は、0[V]を中心とした正弦波状で、第1の面と第2の面は互いに逆極性であった。
背面平衡電位および帯電電荷密度の測定は、上述の<2>電気絶縁性シートの各面の背面平衡電位測定によって測定した。
塗布ムラの有無は、上述の<1>塗布ムラの評価ハンドコート塗布により判定した。表1に各パラメーター条件を、表2に結果を示す。なお、第1の面と第2の面の背面平衡電位の合計は−10[V]から+10[V]の範囲内であり、フィルムを空中に配置して実施した塗布ムラ評価では塗布ムラは発生しなかった。
表中、条件(1)はフィルムの第1の面と第2の面の背面平衡電位の合計が−10〜+10Vで見かけ上実質ゼロ電位の状態を満たすか、条件(2)はフィルムの第1の面および第2の面の各背面平衡電位の絶対値の最大値と最小値の差が340V以下であること。好ましくは、200V以下である状態を満たすか、条件(3)はフィルムの第1の面および第2の面の各帯電電荷密度の絶対値の単位距離あたりの変化率が、0.18C/m2/m以下であること。このましくは、0.12C/m2/m以下である状態を満たすかを示す値と、その条件での塗布ムラ評価結果である。
なお、条件(2)厚み方向の電界による塗布ムラと、条件(3)沿面方向の電界による塗布ムラの発生は、塗布ムラの形状や帯電部における発生場所が異なることから、いずれの原因で塗布ムラが発生したか判断できる。このため、それぞれの条件による塗布ムラの評価結果を分けて記載した。表3の結果は、沿面方向の電界による塗布ムラの発生有無で実施例と比較例を示した。
実施例13〜14および比較例10〜11(均一帯電塗り潰し)
電気絶縁性フィルムSとして電気絶縁性シートSとして幅300[mm]、長さ2000mの厚さ38[μm]の2軸延伸されたポリエチレンテレフタレートフィルム(「東レ株式会社製ルミラー」38R72)を用いた。このフィルムは、あらかじめ帯電が付与されていた。その帯電状態とは、フィルムの長さ方向に正帯電と負帯電が交互に並び、第1の面および第2の面の背面平衡電位の分布は、0[V]を中心とした正弦波状で、帯電の周期は5[mm]、背面平衡電位の振幅V0−pは約240[V]で、第1の面と第2の面は互いに逆極性であった。
このような帯電状況のフィルムの除電方法として、図6,7に示す電極が対向した除電器を用い、電極がフィルムの走行方向に対して直交するように、かつ、フィルムの面と平行になるようにフィルムを挟んで設置した。除電ユニットの数Nは、0、1、5、10[個]の4水準とした。上下のイオン生成電極先端同士の間隔d1は35[mm]とした。また、フィルムは電極間の略中央を通るようにした。フィルム移動方向において隣接するイオン生成電極先端同士の間隔d2[mm]は55mmとし、イオン生成電極5d、5fに接続する電源5c、5eには直流電源を用い、互いに逆極性になるよう接続した。
フィルムは100[m/分]で走行させた。第1および第2の各イオン生成電極に電圧7.0[kV]を印加し、シールド電極5g、5hはともに接地とした。すべての除電ユニットの各第1のイオン生成電極には+7.0kVを、すべての除電ユニットの各第2のイオン生成電極には−7.0kVを、こうして、第1の面および第2の面を逆極性に均一に帯電させながら、除電を行った
これらのフィルムの各面の背面平衡電位について上記<2>の方法により評価を行った。評価結果から帯電電荷密度の分布を求め、その分布曲線から帯電電荷密度の変化率[C/m2/m]を求めた。帯電電荷密度の分布は、フィルムの移動方向に正弦波状であったので、正弦波に近似し、変化率の最大値を求めた。
上記<1>の方法でハンドコートし、塗布ムラの有無を調査した。
除電条件を表3に、結果を表4に示す。なお、第1の面と第2の面の背面平衡電位の合計は−10[V]から+10[V]の範囲内であり、フィルムを空中に配置して実施した塗布ムラ評価では塗布ムラは発生しなかった。
実施例15および比較例12
電気絶縁性シートであるフィルムSとして幅1100[mm]、長さ6000mの厚さ38[μm]の2軸延伸されたポリエチレンテレフタレートフィルム(「東レ株式会社製ルミラー」。品番38S28)を用いた。このフィルムにはあらかじめ正負の帯電欠点が存在し、その帯電状態は、フィルムの長さ方向に正帯電と負帯電が交互に並び、帯電周期が2.2[mm]、第1の面と第2の面は互いに逆極性であった。第1の面と第2の面の背面平衡電位の合計は、場所によっては30〜50[V]であった。ロール状の電気絶縁性フィルムロールを巻出し、除電装置を通した後、シリコーン離型塗剤(信越化学社製)を塗工、その後、乾燥機で溶剤を完全に除去した後、巻取部でロール状に巻き取った。熱硬化性シリコーン系樹脂塗剤塗工剤の組成は以下の通りである。
信越化学(株)製KS847H 10重量部
信越化学(株)製PL−50T 0.1重量部
トルエン 95重量部
酢酸エチル 5重量部
シリコーンのコーティングはグラビアロールを用い、キスコートを実施した。
巻き取ったフィルムの塗布ムラ有無の判定は目視で行った。
○:塗布ムラなし
×:塗布ムラあり
除電方法として、図8,9に示す電極が対向した除電装置5を用い、電極がフィルムの走行方向に対して直交するように、かつ、フィルムの面と平行になるようにフィルムを挟んで設置した。除電ユニットの数Nは、10[個]とした。上下のイオン生成電極先端同士の間隔d1は25[mm]とした。また、フィルムは電極間の略中央を通るようにした。除電ユニット間隔d2[mm]は23mmとし、イオン生成電極5d、5fに接続する電源5c、5eには周波数50[Hz]の交流電源を用い、互いに位相が逆になるよう、電源内部の昇圧トランスの入力を切り替えた。第1および第2のイオン生成電極に属する各イオン生成電極に実効電圧4.0[kV]を印加し、シールド電極5g、5hはともに接地とした。フィルム幅の方向におけるイオン生成電極の針間隔は12.7mmでフィルム移動方向に針が1列に並ぶように配置した。フィルム移動速度は120m/分に設定した。塗布ムラ(塗布を局所的にはじく領域)の有無を目視で観察した。
条件(3)の沿面方向の電界による塗布ムラについては、除電前のフィルムの正と負の帯電の境界では塗布ムラが発生したが、除電済みフィルムでは塗布ムラは発生しなかった。除電前のフィルムの帯電電荷密度の変化率は0.220[C/m2/m]で、除電済みのフィルムの帯電電荷密度の変化率は0.138[C/m2/m]であった。なお、除電済みフィルムの背面平衡電位の絶対値の最大値と最小値は200[V]以下であり、条件(2)の厚み方向の電界による塗布ムラも発生しなかった。除電済みフィルムでは、第1の面と第2の面の背面平衡電位の合計は−10[V]から+10[V]の範囲内であり、フィルムを空中に配置して実施した塗布ムラ評価では塗布ムラは発生しなかった。