以下、図面を用いて本発明の実施の形態を電気絶縁性シートとしてプラスチックフィルムを用いる場合を例にとって説明するが、本発明は、これに限られるものではない。
フィルムの表面に混在した正と負の帯電は電荷密度が数〜500[μC/m2]程度と非常に大きな帯電量である。フィルムの第1および第2の面に正極性と負極性の帯電量域が混在している場合には、それぞれの面が逆極性で数10〜500[μC/m2]程度に帯電しているが、2つの面の電荷密度の和は数〜数10[μC/m2]以下になっている。すなわち、見かけ電位の値が小さくても、その各面の電荷密度は非常に大きいのである。
この帯電状態の概略図が図10、図1である。図10は、シートSの第1面100に正電荷101と負電荷102、第2の面200に正電荷201と負電荷202が存在し、2つの面の帯電電荷の和がゼロではなく、「見かけ上実質ゼロ電位」ではない状態を表す。一方、図1では第1面100の正電荷101と負電荷102と第2の面200の正電荷201と負電荷202が、フィルムを挟んでそれぞれ逆極性に対をなし、2つの面の帯電電荷の和はほぼゼロとなっている。図1の状態が「見かけ上実質ゼロ電位」の状態であって、この場合は、通常、架空時電位も実質ゼロになる。
ここで、フィルム各面の電荷密度を知る方法としては次の方法が有効である。フィルムの片面を導体に密着させ、表面電位(背面平衡電位)を測定する。表面電位計のプローブをフィルムに1〜2[mm]程度まで十分近接させれば、得られた表面電位v[V]と単位面積あたりの静電容量C[μF/m2]、および電位vの関係式σ=C・vにより測定面における局所的電荷密度σ[μC/m2]を求めることができる。ここで、フィルムのように薄いシート状物においては、単位面積あたりの静電容量Cは、平行平板の単位面積あたりの静電容量C=ε0εr/t(ただし、ε0は真空中の誘電率:8.854×10−12[F/m]、εrはフィルムの比誘電率、tはフィルムの厚み[m])により求められる。この方法は、非破壊での帯電確認方法であるため、導体に密着させる面を表裏反対にすることにより、フィルムの各面それぞれの表面電位v[V]をそれぞれ知ることができる。また、フィルムに金属等の導電性物質の蒸着したものであっては、蒸着層が、金属ロールと同様の働きをし、フィルム面の背面平衡電位を測定することが可能である。
フィルムの表面にコーティング層を加工する工程において、本発明者らは、コーティング膜の塗布ムラの発生現象を深く検討し、帯電による塗布ムラが発生しないフィルムを見出し、本発明をなすに至った。
本発明者らの知見によると、塗布ムラが発生するメカニズム、並びに、塗布ムラが発生しないフィルムの帯電状態の好ましい条件は次の通りである。
まず第1の条件は、フィルムが空中に把持された状態でコーティングした場合における塗布ムラが発生しないように、見かけ上実質ゼロ電位の状態を維持することである。以下、これに関連する現象を述べ、塗布ムラが発生しないフィルムの帯電状態を説明する。架空時電位が数[kV]から数10[kV]のフィルムにおいては帯電による塗布ムラが発生する(帯電状態が図10に示された様な状態になっている)。この状態では、フィルム各部における見かけ電位も実質ゼロではなく、見かけ上実質ゼロ電位のフィルムではない。一方、図1に示した見かけ上実質ゼロ電位の帯電状態のフィルムにあっては、空中で把持した状態では塗布ムラが発生しにくい。これは、フィルムの第1の面および第2の面の間でフィルム内部で電界を閉じるので、この状態でコーティングしても、コーティング液に強い電界がかからないためである。言い換えると、フィルム両面が丁度バランスの良い見かけ上実質ゼロ電位のフィルムは空中でコーティングした場合やコーティング後のコーティング液が液体のままの状態では塗布ムラにならないのである。
コーティング塗工面内に正と負の電荷の混在した帯電模様があると、隣り合った正と負の電荷間で発生する電界がコーティング液に作用し塗布ムラが発生することもあり得るが、このようなフィルムであっても、フィルムの第1の面と第2の面が丁度等量の逆極性の電荷でバランスされていれば、帯電電荷が形成する電界のほとんどはフィルム内部に閉じこめられるため塗布ムラになりにくい。この状態では、フィルムの厚みは数[μm]から高々数100[μm]でありフィルムの第1の面と第2の面の電荷間の距離は非常に小さく、一方、面内の帯電模様の正帯電部と負帯電部のピッチは10[mm]から数100[mm]とフィルム厚みと比較して数10倍から10000倍大きい。このため、正と負の帯電部分のほとんどすべての部分においてフィルム内部で電界が閉じ、コーティング液に強い電界がかからず塗布ムラは発生しない。唯一、正帯電部と負帯電部の境界部において沿面方向(=フィルム面内方向)の電界がかかる。しかしながら、電界はごく限られたミクロな領域にとどまり、コーティング液の移動領域がごく小さく、それに比例して移動できる液量もごく僅かなため、ムラが弱すぎて、目視確認できる程のムラにはならず問題にならないことが多い。
以上は、フィルムが空中に把持された状態でコーティングする場合の帯電と塗布ムラの関係である。
フィルムは、空中に把持された状態ばかりではなく、ロール上を走行する状態でコーティングされることもある。例えば、コーターのバックアップロール上やフィルムの移動方向を変える搬送ロール上である。この場合、両面が逆極性に等量帯電した「見かけ上実質ゼロ電位」のフィルムでも塗布ムラを解決できないのがふつうである。
フィルムの帯電状態の好ましい第2の条件は、バックアップロール等の上でコーティングする場合でも塗布ムラが発生しないように、フィルムの第1面および第2面の背面平衡電位の絶対値の最大値と最小値の差をそれぞれ小さくに維持することである。以下、これに関連する現象を述べ、この重要な塗布ムラ現象の発生メカニズムを説明する。
塗布ムラの発生現象を図を用いて詳細に説明する。フィルムの帯電状態は、図1に示すものでフィルムの第1の面100と第2の面200に等量の正電荷と負電荷があり、第1の面100の正電荷101と第2の面200の負電荷202がフィルムを挟んで同じ位置にあるため、両面の和がゼロとなり見かけ上実質ゼロ電位である。よって、上述のように空中では塗布ムラが発生しない一見問題のない帯電状態にある。
図2はダイヘッドコーターを用いたコーティングのプロセスの概略図(一部)を示したものである。ロール状のフィルムロールから巻き出されたフィルムは図に示す矢印の方向に搬送されている。フィルムはロールの形態で保持されつつ巻出し部で巻き出され、搬送ロール15で走行方向を変えながら、コーティング部13でコーティングされ、乾燥部で乾燥され、最後に巻取部で巻き取られる(巻出し部、乾燥部、巻取部は図示せず)。フィルムはバックアップロール14上に密着しながらダイヘッド16により所定の塗液をコーティングされる。バックアップロール14はフィルムSを安定に走行させダイ16との間隙を一定に保つため設けられている。バックアップロール14は、たとえば、ハードクロムメッキされた金属ロールや弾性体が被覆された金属ロールが用いられている。弾性体として導体である導電性のゴムがバックアップロール表面に使用されていることが多い。導電性ゴムは、バックアップロール14の帯電を防止する目的を持ち、静電気放電による有機溶媒への着火を防いでいる。このように、バックアップロール14は、多くの場合、導電性物質から構成されている。また、他のコーティング方法であるロールコーターやグラビアコーターでも同様にバックアップロールが設けられていることが多い。このような導電性のロール上においては図3のような帯電状態となる。
図3において、フィルムSが導体のバックアップロール14に密着した状態では、フィルムSの第2の面200が導体に密着し、第1の面がコーター側にあってコーティング塗工面12となる。このとき、第2の面200の正の電荷201と負の電荷202はバックアップロール14に逆極性の誘導電荷400が誘導されるので、あたかも第2の面2の帯電を中和した状態となっている。一方、コーティング塗工面となる第1の面の正の電荷101と負の電荷102はバックアップロール14面からフィルム厚み分の距離をおいているためバックアップロール14に十分な誘導電荷400が存在せず、第1の面100に電荷が顕在化してくる。よって、コーティング液に帯電電荷が形成する電界が存在する状態となる。この電界の顕在化現象により、見かけ上実質ゼロ電位のフィルムであってもコーティング液に電界が作用し、塗布ムラが発生するのである。
なお、上記はダイヘッドコーターにおいてバックアップロール上での電荷の挙動に関して説明したが、次のような場合にも同様のメカニズムでコーティング塗工面に電界が存在する状態ができる。すなわち、コーティング膜を均一に塗った後、含まれる溶媒を蒸発し乾燥するため乾燥工程にフィルムを搬送する場合である。このとき、フィルム上のコーティング液が液体のまま、金属ロール面上を通過したり、また、フィルムへの熱伝導を良くするため金属ロールに密着させて乾燥することもある。このような金属ロール上においても同様の現象が起こり塗布ムラが発生する。
本発明者らの知見によると、帯電による塗布ムラは塗工するフィルムに電荷が存在し、コーティング液の薄い層に電界がかかると発生する。これは、コーティング液が電界に従って移動し不均一な分布になる為である。ここで、コーティング液、つまり塗剤の移動する現象は帯電した塗液にあっては電気泳動により、塗液の帯電と逆極性の帯電部分に塗剤が集まり、その結果、塗布厚みが周囲より厚くなって塗布ムラが発生する。まったく無帯電な塗液であっても、誘電泳動により電界の強いところに塗液が集まり塗布厚みが周囲より厚くなって塗布ムラが発生するのである。
従来、両面における帯電電荷が逆極性でちょうど同じ帯電量であるようなフィルムにおける金属ロール上での塗布ムラの発生は、フィルムのコーティング塗工面の電荷密度に関連して電界の強さが決まるため、電荷密度が小さければ電界が弱くなって塗布ムラが発生しないと考えられていた。しかしながら、本発明者らの知見によると、驚くべきことにコーティング塗工面の電荷密度をいくら小さくしても塗布ムラが発生しやすいフィルムがあるし、電荷密度をいくら大きくしても塗布ムラが発生しにくいフィルムがあることが判った。つまり、金属ロール上で発生する塗布ムラは帯電の電荷密度だけで決まるものではなく、電荷から発生する電気力線がコーティング塗工面にどの程度強くかかるのか、つまり、コーティング塗工面に存在する電荷からコーティング層に垂直方向の電界がどのくらい強いかか、コーティング塗工面の「背面平衡電位」の大きさが決め手になることが判った。さらに、背面平衡電位の絶対値の最大値と最小値の差がいくらであるかがポイントであることが判った。また、例えば、第1の面100の面内において正電荷と負電荷の帯電領域の大きさが、10[mm]から数10[mm]程度のピッチで正と負が周期的に変化した状態であれば、背面平衡電位は緩やかな変化を示すため、正と負帯電部の境界で発生する電界を弱めることができ、正と負の帯電の境界である沿面において発生する塗布ムラが発生しにくくなることが判った。
本発明者らの知見によると、コーティング液の厚み、すなわち塗布厚みは、背面平衡電位の絶対値の大きい箇所で塗布厚みが厚くなり、背面平衡電位の絶対値の小さい箇所で塗布厚みが薄くなる。図14は背面平衡電位とその絶対値と塗布厚みの関係を示した概略模式図である。図14の横軸はフィルムの長手方向の位置を示しており、上図では、第1の面の背面平衡電位17の分布(図14では点線)は0Vを中心に正と負の値を取り、帯電の分布は、正と負の帯電のそれぞれの大きさは12〜13mmで正弦波状のなだらかな勾配を有している。塗布厚みを調べると、図14下図に示す通り、背面平衡電位の絶対値の最大値でもっとも厚く、背面平衡電位の絶対値の最小値である0Vでもっとも薄くなる。塗布厚みは背面平衡電位の強度が高いほど厚く、背面平衡電位の分布における背面平衡電位の絶対値18(図14上図実線)と強い相関を有する。正と負の帯電が交互に存在する場合、背面平衡電位の絶対値の最小値は0Vのときでありこのとき塗布厚みがもっとも小さいことが判った。
つまり、背面平衡電位の絶対値の最大値と最小値の差が塗布ムラにもっとも影響するのである。背面平衡電位の絶対値における最小値と最大値がほとんど違わなければ、塗布面の厚みの差はほとんどない。仮に、背面平衡電位の最大値と最小値がいくら大きくても塗布厚みが全体に分厚くなるが、最大値と最小値との差が小さければムラにならない。多くの場合、塗布厚みが全体的に厚くなっても問題とはならず、全体の平均的な塗布厚みは、たとえば、コーティングに用いてメタリングバーのワイヤーの線径を変えることで全体の厚みを制御することができる。
図15は、背面平衡電位の絶対値の最大値はおよそ450Vでほぼ均一な帯電となっており、最小値のとの差はほとんどないため、塗布厚みもほぼ同じで塗布ムラが発生しないことを示す模式図である。
次に、帯電電荷密度と背面平衡電位と塗布ムラの発生について説明する。以下、帯電状態は、第1の面と第2の面が、それぞれ正と負の帯電部がフィルム移動方向に交互に並んだ状態で、その帯電のフィルム移動方向における周期がおよそ12〜13mmで0Vを中心とした正弦波状の帯電分布を有し、第1の面と第2の面の背面平衡電位の合計は−10以上10V以下である電気絶縁性シートを例にとって説明する。
フィルム表裏が逆極性に等量帯電したフィルムは、見かけ電位がゼロとなることは前述したとおりである。このフィルムの第2の面200を金属板上に密着させた場合、コーティング塗工面側に出る電気力線500の本数、すなわち電界強度は、導体と第1面100の距離、つまりフィルム厚みに関係する。例えば、同じ数の電荷(=同じ電荷密度)が存在するとき、厚みの薄いフィルムSでは導体との距離が非常に近くフィルム外部にしみ出る電気力線500の数が、厚みの厚いフィルムと比べて少なくなる。このため、前述の測定方法で各面の背面平衡電位[V]を詳細に測定すると、フィルム厚みによって同じ電荷密度でも異なることになる。
図4(a)はフィルムの厚み[m]と第1の面100の電荷密度[μC/m2]の関係、(b)は、フィルムの厚み[m]と第1の面の背面平衡電位[V]の関係を示した模式図である。なお、各面の背面平衡電位が0[V]を中心とした周期的は分布をする場合、背面平衡電位の絶対値の最大値と最小値の電位差は背面平衡電位の0Vと背面平衡電位の絶対値の最大値と間の電位差、すなわち背面平衡電位の絶対値の最大値と一致する。背面平衡電位[V]はフィルム厚みに依存し、フィルムの厚みが厚い時、電荷密度が小さくても背面平衡電位は大きくなる。逆に、厚みの薄いフィルムでは電荷密度が大きくても背面平衡電位が小さいことを示している。塗布ムラが発生するかしないかは、フィルムSのコーティング塗工面である第1の面100の帯電が「背面平衡電位の絶対値の最大ちと最小値の差」としてどのくらい大きいかがポイントであり、フィルムの帯電量とフィルムの厚みに依存する。つまり、図4(b)で示す背面平衡電位が大きくなり0Vとの差が大きくなると塗布ムラが発生するのである。
図5は、塗布ムラが発生する帯電の強さを実験的に求めた結果である。フィルムの帯電状態は、フィルムの第1の面に0Vを中心に正と負の帯電部を縞状に交互にパターン化したもので、正と負の周期はおよそ25mm(正と負の各帯電部のフィルム移動方向における幅はそれぞれ12〜13mm)、背面平衡電位は各帯電部の中央で最も高く、縞方向になだらかな正弦波状の分布を持っている場合である。この場合では、背面平衡電位の絶対値の最小値が0なので、最大値と最小値の差は、最大値と一致する。図5は、このような帯電状態のフィルムを金属板上に載せ、コーティング液として合成イソパラフィン系炭化水素アイソパーH(エクソン化学社製)を用いて手塗り塗布を行った結果を示している。このアイソパーは有機溶媒の中でも疎水的でフィルム等へのヌレ性が悪く、帯電による塗布ムラが非常に発生しやすい溶液である。
図5は、縦軸にフィルムコーティング塗工面である第1の面100の背面平衡電位の絶対値の最大値と最小値の差[V]、横軸に電荷量の絶対値[μC/m2]をとり、12[μm]、75[μm]、188[μm]の厚みのフィルムにおける塗布ムラの発生有無を調査した結果を示している。
コーティング塗工面となるフィルムの第1の面の背面平衡電位v[V]は、表面電位計のプローブをフィルムに1[mm]まで近づけフィルムの片面を接地導体に密着させ、測定した。電荷密度は、フィルムの単位面積あたりの静電容量C[μF/m2]と背面平衡電位vの関係式σ=C・vから求めた。フィルムの単位面積あたりの静電容量Cは、平行平板の単位面積あたりの静電容量の関係式C=ε0εr/t(ただし、ε0は真空中の誘電率:8.854×10−12[F/m]、εrはフィルムの比誘電率、3とした、tはフィルムの厚み[m])により求めた。
図5中、「○」は塗布ムラが、目視上、完全に発生しないこと、「△」は若干の塗布ムラは見られるが品質上問題にならない程度であること、「×」は塗布ムラが発生したことを示している。図5から明白な通り、12[μm]のフィルムでは電荷密度220[μC/m2]でも背面平衡電位の絶対値の最大値と最小値の差の最大値が100[V]以下であるため塗布ムラが発生しない。逆に、188[μm]フィルムでは電荷密度90[μC/m2]と低くても背面平衡電位の絶対値の最大値が600V以上と高いために塗布ムラが発生した。すなわち、塗布ムラは第1の面、つまり、コーティング塗工面に相当する背面平衡電位の絶対値の最大値と最小値の電位差がおよそ200[V]を限界値として発生した。
なお、コーティング液として離型性を有するシリコーン系の塗液(溶媒トルエン)を用いたところ、問題となる塗布ムラが発生しない背面平衡電位の絶対値の最大値と最小値の差は340[V]であった。
このように、膜厚の厚いフィルムはコーティング塗工面が背面の金属物体から離れるため静電容量が小さくなり、背面平衡電位が高くなってしまうので、微小な帯電量でも塗布ムラが発生する。言い換えると、離型用途、電気絶縁用途、ハードコート等の膜厚が厚いフィルムは塗布ムラが出やすいことが判る。
以上のように、本発明者らの検討によりフィルムの帯電による塗布ムラの発生しやすさの判断基準として、コーティング塗工面の帯電による背面平衡電位が重要であることが明らかになった。コーティング塗工面の背面を接地導体上に密着させたとき、導体と接していない面に対して測定した背面平衡電位P[V]の絶対値の最大値と最小値の差が340[V]以下、より好ましくは200[V]以下で、かつ、第1の面と第2の面の両面の和がゼロ(=見かけ上無帯電)であれば、実質的に塗布ムラが発生しないのである。
本発明者らの知見によれば、このムラが発生する限界値は塗剤の物性パラメータ(表面張力、表面エネルギー、粘度、塗剤の帯電量等)やフィルムの物性パラメーター(表面張力、表面エネルギー、表面粗さ等)によっても若干変化し、塗布ムラの程度は金属ロールとの接触時間や塗剤の移動しやすさにも関係するが、概ね340[V]、より好ましくは200[V]以下に表面の背面平衡電位の絶対値の最大値と最小値の差を抑えれば、フィルム表面のコーティング塗剤に塗布ムラが発生しないので好ましい。
次にこのような好適な帯電状態をもつフィルムを得る除電方法を説明する。
上述のようにスタチックマークのように正極性と負極性の帯電量域が同一面内において狭いピッチで混在しているものや、表裏面にそれぞれ混在していたりするフィルムの電荷密度は数〜500[μC/m2]程度と非常に大きな帯電量である。このような大きな帯電量のフィルムでは、フィルム厚み:1〜200[μm]といった実用的な範囲のあらゆる厚みで塗布ムラが発生しない好適な帯電状態は保てない。正負が混在しているため、背面平衡電の最小値は0であり、背面平衡電位の最大値と最小値の差を340[V]以下になるためには、たとえば厚みが100μmを越えるような場合、帯電量が数10[μC/m2]以下の場合に限り、塗布ムラが発生しないことになる。
本出願人は、上記特願2004−221441号において、正と負が混在した帯電や表裏が逆極性に帯電した状態を好適に除電できる方法、および装置の発明を提案した。
以下、これを用いてコーティング塗工面の背面平衡電位の絶対値の最小値と最大値の差を小さくしうる除電方法を説明する。図6は、上記発明の一実施形態に係るプラスチックフィルムの除電装置5の概略断面図であり、図7はその除電装置5における除電ユニットの1例における部材の位置関係を示す拡大図である。除電装置5の左側にガイドロール5aが、右側にガイドロール5bが配設されている。これらは、シートの搬送手段である。ガイドロール5aとガイドロール5bとに走行するフィルムSが掛け渡されており、図示しないモーターの駆動力によりガイドロール5a、5bが時計回りに回転することで、図の矢印方向に、速度u[m/分]で連続的に移動する。ガイドロール5aおよび5bの間には、N[個]の除電ユニットSU1、・・・、SUnが、フィルムSを挟んで互いに対向する位置に、間隔を置いて設けられている。
一番目の除電ユニットSU1は、第1の電極ユニットENd−1と第2の電極ユニットENf−1からなる。第1の電極ユニットは、フィルムSの第1の面100に向かい、第1の面100に対して間隔をおいて設けられている。第2の電極ユニットENf−1は、フィルムSの第2の面200に向かい、第2の面200に対して間隔をおいて設けられている。第1の電極ユニットENd−1と第2の電極ユニットENf−1とは、フィルムSを挟んで、互いに対向している。
kを1からnまでの整数とするとき、k番目の除電ユニットSUkは、第1の電極ユニットEUd−kと第2の電極ユニットEUf−kとからなる。第1の電極ユニットは、フィルムのSの第1の面100に向かい、第1の面100に対して間隔をおいて設けられている。第2の電極ユニットENf−kは、フィルムSの第2の面200に向かい、第2の面200に対して間隔をおいて設けられている。第1の電極ユニットENd−kと第2の電極ユニットENf−kとは、フィルムSを挟んで、互いに対向している。
次に、除電装置5における除電ユニットSUkの構成について説明する。この説明は、第1の除電ユニットSU1を代表させて行なわれる。除電ユニットの個数Nは、本発明の主旨に応じて、その数や除電ユニットの間隔が選定される。
第1の電極ユニットEUd−1は、第1のイオン生成電極5d−1と、第1のイオン生成電極に対する開口部を有する第1のシールド電極5g−1と、絶縁部材とからなる。第2の電極ユニットは、第2のイオン生成電極5f−1と第2のイオン生成電極のに対する開口部を有する第2のシールド電極5h−1と、絶縁部材とからなる
第1のシールド電極5g−1の開口部は、第1のイオン生成電極5d−1の先端近傍にフィルムSに向かって開口し、フィルムSの移動方向において、開口幅を有する.したがって、第1および第2のシールド電極5g−1、5h−1は、第1および第2のイオン生成電極5d−1、5f−1との間に適切な電位差をあたえられたときに、それぞれのイオン生成電極5d−1、5f−1における放電を助ける機能を有する。
第1のイオン生成電極5d−1の先端と、第2のイオン生成電極5f−1の先端とは、フィルムSの法線方向においてd1−1間隔を置いて、フィルムSの移動方向においてd0−1の間隔を置いて配置される。また、第1のシールド電極5g−1と第2のシールド電極5h−1とは、フィルムSにもっとも近い部位同士が、フィルムSの法線において、d3−1の間隔を置いて設けられている。
第1のイオン生成電極5d−1と第2のイオン生成電極5f−1とは、それぞれ互いに180度位相が異なる第1の交流電源5cと第2の交流電源5eに接続されている。図6に示される通り、実際には、1つの交流電源の接地点を挟んた反対極性の端子に、第1のイオン生成電極5d−1と第2のイオン生成電極5f−1とが接続されているが、それぞれが、それぞれ独立した電源に接続されていても良い。第1および第2のシールド電極5g−1と5h−1とは、それぞれ接地されている。
ここで、帯電による塗布ムラを抑制するためには以下が重要である。
(1)フィルム表裏の帯電がバランスしており、見かけ上実質ゼロ電位であって、シート各部における第1面および第2面の背面平衡電位の合計がほぼゼロであること。すなわち、フィルムの各部における背面平衡電位の合計が−10[V]〜+10[V]である状態にする。測定方法は前述のとおりである。
(2)フィルム表裏面それぞれに存在する電荷密度が十分小さく、背面平衡電位の絶対値の最大値と最小値の差が340[V]以下、より好ましくは200[V]以下であり、正と負の帯電周期が20mm以上の状態とする。
この(1)、(2)の状態を達成する除電装置5の除電条件について以下に述べる。
そこでまず、特願2004−221441号にて開示した除電装置を基に、本実施形態の除電装置5における除電ユニットSUkの動作について簡単に説明する。この説明は、第1の除電ユニットSU1を代表させて行う。第1の除電ユニットSU1において、第1のイオン生成電極5d−1に正の電圧が印加され、第2のイオン生成電極5f−1に負の電圧が印加されている場合について説明する。このとき、第1のイオン生成電極5d−1からは正イオンが、第2のイオン生成電極5f−1からは負イオンが生成される。第1のイオン生成電極5d−1と第2のイオン生成電極5f−1との間の電界強度が強いとき、電界によって、正負のイオンが強制的にフィルムSに照射される。第1のイオン生成電極5d−1から生成された正イオンと第2のイオン生成電極5f−1から生成された負イオンはそれぞれ、対向する第1および第2のイオン生成電極5d−1、5f−1のつくる電気力線に沿って、フィルムSの近傍まで引き寄せられ、フィルムSに付着する。このとき、フィルムSの近傍において、正イオンと負イオンとは、フィルムS上に負の静電荷や正の静電荷があると、クーロン力によって、負の静電荷、および、正の静電荷に、より多く、選択的に引き寄せられる。従って、フィルムSの第1の面の負の静電荷と第2の面の正の静電荷が除電される。
次に、各除電ユニットの第1および第2のイオン生成電極に印加する交流電圧の位相が反転し、第1のイオン生成電極5d−1に負の電圧が印加され、第2のイオン生成電極5f−1に正の電圧が印加される。この時、逆に第1のイオン生成電極5d−1からは負イオンが、第2のイオン生成電極5f−1からは正イオンが照射される。第1のイオン生成電極5d−1から生成された負イオンと第2のイオン生成電極5f−1から生成された正イオンはそれぞれ、対向する第1および第2のイオン生成電極5d−1、5f−1のつくる電気力線に沿って、フィルムSの近傍まで引き寄せられ、フィルムSに付着する。このとき、フィルムSの近傍において、負イオンと正イオンとは、フィルムS上に正の静電荷や負の静電荷があると、クーロン力によって、正の静電荷、および、負の静電荷に、より多く、選択的に引き寄せられる。従って、フィルムSの第1の面の正の静電荷と第2の面の負の静電荷が除電される。
これを繰り返すことにより、フィルムSの各面の正の静電荷と負の静電荷を除電することができる。これによって、フィルムは大いに除電された状態となる。 さらに、特願2004−221441号にて指摘したように、各除電ユニットの第1および第2のイオン生成電極5d−1、5f−1に属する電極先端の間のシートの法線方向における距離d1[mm]、第1および第2のイオン生成電極5d−1、5f−1の各イオン生成電極に印加する交流電圧の周波数f[Hz]、実効交流電圧V[V]の関係において、次の2つの除電モードが存在する。
(1)イオンを強制的にフィルム面に照射するが、イオンがイオン生成電極−フィルム間で1つの単極性のイオン雲を形成するのに十分な広がりを持ち、多段の除電ユニットにより構成される除電ゲート全体に広がる単一の極性のイオン雲を形成するモード。このモードを弱充電モードと呼称する。
(2)イオンをより強力にフィルム面に照射することで、イオンが、各除電ユニットの第1および第2のイオン生成電極間に集中し、各除電ユニットごとに、逆極性のイオン雲対を形成するモード。このモードを強充電モードと呼称する。
この(1)および(2)の充電モードを分ける境界は、対向する各除電ユニットの第1および第2のイオン生成電極間距離d1[mm]、印加電圧V[V]ならびにその周波数f[Hz]によって決定される。
本発明者らは、種々の実験により、第1および第2のイオン生成電極5d−1、5f−1にそれぞれ印加する印加電圧V1、V2[単位:V](実効値)、法線方向電極間距離d1[単位:mm]であるとき、第1および第2のイオン生成電極5d−1、5f−1にそれぞれ印加する印加電圧(V1,V2)は逆極性であるため、V=(V1+V2)/2とし、2×Vが、第1および第2のイオン生成電極間の電位差の実効値となるとき、
放電電流が増加する強制照射が発生する下限が90×d1≦(V1+V2)/2=Vであること、上限はコロナ放電から火花放電に以降するV≦530×d1であることを見出した。本関係式は、印加する交流電圧の周波数にほとんど依存せず、第1および第2にイオン生成電極の法線方向電極間距離d1[単位:mm]と第1および第2のイオン生成電極間の電位差に依存することを見出した。印加極性の時間的な変化がないか、ゆっくりした極性の変化のとき、つまり、直流電源を使用した場合本式が有効に使用される。
また、本発明者らは、イオンの移動度についての詳細な検討から、イオン生成電極に印加する交流電圧の周波数との関係が、0.0425×d1 2×f≦Vの関係が成り立つ場合、イオン生成電極間での正負イオンの強制照射が起き、かつ、式V=0.085×d1 2×fが弱充電モードと強充電モードとの境界であることを見出した。つまり、式0.0425×d1 2×f≦V≦0.085×d1 2×fでは、イオン生成電極から生成されたイオンがフィルムに到達するまでの時間に、印加電圧極性が1回または2回反転する弱充電モードとなり、また、式0.085×d1 2×f≦Vでは、イオン生成電極から生成されたイオンがフィルムに到達するまでの時間に、印加電圧極性が1回以下しか反転しない強充電モードとなるのである。
さらに、各除電ユニットの第1および第2のイオン生成電極に印加する電圧が商用周波数50Hzから60Hzの場合で、かつ、第1および第2にイオン生成電極の法線方向電極間距離d1[単位:mm]が20から60mmの場合には、90×d1≦Vの関係は、商用交流周波数f[Hz]において1.5×d1×f≦Vに近似できる。さらに、V≦530×d1で示される範囲とV≦0.085×d1 2×fで示される範囲を比較すると、V≦0.085×d1 2×fの方が、V≦530×d1より範囲が狭く、この場合、1.5×d1×f≦V≦0.085d1 2fが実質的な弱充電モードの範囲となる。強充電モードに関しても、0.085d1 2f≦V≦0.17d1 2fが実用的な範囲であることを見出した。
一方、フィルムにイオンを照射し強制的に充電するため、フィルムには正負イオンの照射ムラが残る。この照射ムラの強さは、たとえば、(1)の弱充電モードでは、第1および第2の除電ユニットのイオン生成電極の1対あたり絶対値で1〜15[μC/m2]程度、(2)の強充電モードでは、10〜30[μC/m2]程度となる。なお、この照射ムラは表裏が逆極性で帯電の量もほぼ等しいため、表裏の電荷密度の和をとると、−2〜+2[μC/m2]であり、見かけ上の表面電位はほぼゼロである。この照射ムラはフィルム厚みに関係なく一定の電荷密度[μC/m2]が重畳される特徴がある。
また、照射ムラは正と負の帯電部がフィルム移動方向に交互に並び、第1の面および第2の面の背面平衡電位の分布は、0Vを中心に対称となっており正と負の両極性を有している。このような照射ムラの帯電においては、背面平衡電位の絶対値の最大値と最小値の電位差は、背面平衡電位の絶対値の最大値と一致する。
例えば、(1)弱充電モードの除電ユニットの一対あたりの電荷密度を15[μC/m2](最大値)とする。除電ユニットの数Nは、対象物の局所的帯電量と、除電したい量により、任意に選ぶことが出来るが、通常、N=5〜20程度程度が好ましい。除電能力は対をなす除電ユニットの数Nが多い程高いが、装置の大きさやコストを考えると、除電ユニットの数Nは少ない方が良い。両者のバランスを考えると、除電ユニットの数として10個程度が好ましく用いられる。そこで、例えば除電ユニットの数N数を10[個]とすると、照射ムラが最も強くなる場合で150[μC/m2 ]に昇る。これは、フィルムの面内方向のある部位が移動しながら各電極の直下を通過するときにすべての除電ユニットのイオン生成電極が同じ極性のイオンを発生し、除電ユニット1個あたり15[μC/m2]が10個分重畳された場合である。
図8は、帯電電荷密度[C/m2]に対して、フィルム厚み[m]と各面の背面平衡電位[V]の関係を示したものである(電荷密度と背面平衡電位の関係は上述)。なお、上述のように、本発明の除電方法で強制照射されて残る照射ムラは、正と負の帯電部を有し背面平衡電位の最大値は、背面平衡電位の絶対値の最大値と最小値の差と一致する。以下の説明では「背面平衡電位の絶対値の最大値と最小値の差」と表記するが、本実施態様のように背面平衡電位が0Vを中心に正と負の極性を取り正弦波状分布する場合には、「背面平衡電位の絶対値の最大値と最小値の差」は「背面平衡電位の最大値」と一致する。
電荷密度0.00015[C/m2](図中●印の線)と塗布ムラの発生する背面平衡電位の絶対値の最大値と最小値の差が340[V](点線)との交点は、フィルム厚みがおよそ0.00006[m]である。よって、(1)弱充電モードでほとんどの場合に実質的に塗布ムラが発生しないフィルム厚みの範囲は60μm以下であることが判る。
一方、最終的にフィルムに残る照射ムラは各除電ユニットのイオン生成電極から照射されたイオン雲の電荷量の総和できまる。各除電ユニットのイオン生成電極が生成するイオン雲の極性のうち、いくらかが正と負の逆極性のイオン雲を生成し相殺すれば照射ムラの程度を和らげることができ、塗布ムラの発生を抑制できる。許容できる電荷密度はフィルム厚みに反比例するので、例えば、60[μm]の2倍の厚みを持つ120[μm]のフィルムでは背面平衡電位の絶対値の最大値と最小値の差が340[V]となる電荷密度は150[μC/m2]の1/2に相当する75[μC/m2]である。よって、フィルムの面内方向の位置の同一の部位について、各除電ユニットの第1のイオン生成電極が生成するイオン雲が同一極性のイオン雲を照射する正味の除電ユニットの数として許容できる数は、75/15(弱充電モード、除電ユニット1個あたりの電荷密度)=5[個]となる。よって、10[個]のうち5[個]、つまり、全体の1/2を相殺する必要がある。よって、その半分の1/4以上のイオン雲の極性が、残りのイオン雲と反対の極性であれば電荷を相殺して全体で1/2を相殺できる。つまり、その関係式は(1−0.00006/0.000012)×1/2=1/4である。同様に、150[μm]にあっては、(1−0.00006/0.00015)×1/2=3/10以上のイオン雲の極性が、残りのイオン雲と反対の極性であれば良い。この場合の除電ユニットの総個数は10[個]であるので、3/10×10[個]=3[個]以上に残りのイオン雲と反対の極性を印加すれば良い。つまり、除電ユニットの総数を1としたときに、(1−0.00006/t)×1/2以上の割合で除電ユニットの第1のイオン生成電極が生成するイオン雲が残りのイオン雲と反対極性であれば良い。フィルム厚みtが小さく左記の関係式が負の値をとる場合もあるが、除電ユニットの数[個]は0以上の整数であるので、負の値は0とし、小数点以下は切り上げて整数化する。なお、0の状態とは逆の極性のイオンを照射することがない状態である(これを同期重畳状態という)。
上述の場合は、除電ユニットの数が10[個]の場合について説明したが、除電ユニットの数が増減すると、照射ムラの強さも変化する。除電ユニットの数をN[個]とすると、照射ムラの強さは0.000015・N[C/m2]となり、背面平衡電位v[V]はフィルムの厚みt[m]とv=0.000015・N/(26.55/t)の関係となる(電荷密度と静電容量、フィルム厚みとの関係は前述。フィルムの比誘電率を3とする)。この値が塗布ムラを発生させにくい背面平衡電位[V]の絶対値の最大値と最小値の差である340[V]以下であれば塗布ムラが発生しにくいので、340>0.000015・N/(26.55/t)が成り立てば良い。すなわち、除電ユニットの数Nは、N≦0.0006/tを満足すれば良い。この関係を満たす場合にはすべての除電ユニットの第1のイオン生成電極に同じ極性の電圧を印加して、フィルムが各電極直下を通過する際の電位の極性をすべて同じ極性とする同期重畳状態とし、イオン生成電極に逆の極性を印加する個数を0[個]してもかまわない。しかしながら、第1と第2の各面に存在する正帯電部と負帯電部を除電するためには、少なくとも1度は正と負の極性を各面に印加しなければならい。すなわち、除電ユニットの数の最小値は2[個]で、そのうち、少なくとも1つのイオン雲の極性が反対である。
除電ユニットの数N[個]とフィルム厚みt[m]がN≦0.0006/tを満たせば問題ないが、N>0.0006/tの場合には、フィルムの面内方向の位置の同一の部位が直下を通過するときの除電ユニットのイオン生成電極の極性がすべて同一では許容できる帯電量を越えてしまう可能性がある。例えば、0.000038[m]のフィルムを20[個]で除電する場合や0.0001[m]のフィルムを10[個]で除電する場合である。このとき除電ユニットの数N[個]のうち、許容できる最大の除電ユニットの数m[個]を引いた残りのイオン生成電極の組数である(N−m)[個]の照射ムラを相殺すれば良いことになる(相殺の仕方は上述)。すなわち、(N−m)/2[個]である、(N−0.0006/t)/2[個]以上に残りのイオン雲と反対の極性を印加すれば良い。すなわち、N>0.0006/tであって、(N−0.0006/t)/2[個]以上が残りのイオン雲と反対の極性を印加すれば良い。この場合、除電ユニットの数は整数であるので、小数点以下は切り上げとし最小値を1[個]とする。
次に、(2)強充電モードの場合は、除電ユニット1個あたりの照射ムラも強くなり、その値は10〜30[μC/m2]に昇る。例えば、30[μC/m2]の場合、10[個]での総和は300[μC/m2]となる。よって、図8より、(2)強充電モードでほとんどの場合に実質的に塗布ムラが発生しないフィルム厚みの範囲は30[μm]以下であることが判る。30μmを越えるフィルムの場合には照射ムラを正負の逆極性のイオンで相殺する必要があり、その割合は次の通りである。フィルム厚みが4倍の120μmのフィルムでは背面平衡電位の絶対値の最大値と最小値の差が340[V]となる電荷密度は300[μC/m2]の1/4に相当する75[μC/m2]であり、75/30(強充電モード1組あたり)=2.5[個]となる。よって、10[個]のうち2.5[個]、すなわち1/4が許容でき、3/4を相殺しなければならない。相殺するにはその半分の3/8以上の割合でイオン雲の極性が、残りのイオン雲と反対の極性であれば良いことになる。この場合除電ユニットの数は10[個]であったので、(3/8)・10=3.75[個]となる。除電ユニットの数は整数であるので、3.75を越える最小の整数である4[個]に残りのイオン雲と逆の極性を印加すれば良いことになる。つまり、除電ユニットの数を10[個]としたときに、(1−0.00003/t)×1/2・10[個]以上の割合で残りのイオン雲と反対極性であれば良い。
この強充電モードの場合も弱充電モードと同様に、除電ユニットの数をN[個]とすると、照射ムラの強さは0.00003・N[C/m2]となり、塗布ムラを発生しにくい背面平衡電位340[V]以下とフィルムの厚みt[m]との関係から、N<=0.0003/tを満足すれば良いことになる。この関係を満たす場合にはすべての除電ユニットのイオン生成電極に同じ極性の電圧を印加して、フィルムが各電極直下を通過する際の電位の極性をすべて同じ極性とする同期重畳状態とし、イオン生成電極に逆の極性を印加する個数を0[個]してもかまわない。しかしながら、第1と第2の各面に存在する正帯電部と負帯電部を除電するためには、少なくとも1度は正と負の極性を各面に印加しなければならい。すなわち、除電ユニットの数の最小値は2[個]で、そのうち、少なくとも1つのイオン雲の極性が反対であるほうがよい。
また、N>0.0003/tの場合には、除電ユニットの数N[個]のうち、許容できる最大の除電ユニットの数m[個]を引いた残りの除電ユニットの数(N−m)[個]の照射ムラを相殺すれば良いことになる。この場合、(N−m)/2[個]以上に残りのイオン雲と反対の極性を印加すれば良い。すなわち、N>0.0003/tであって、(N−0.0003/t)/2[個]以上に残りのイオン雲と反対の極性を印加すれば良い。この場合、除電ユニットの数は整数であるので、小数点以下は切り上げとし最小値を1とする。
次に、照射ムラの帯電量(=電荷密度)を制御し、どのようなイオンの照射状態であっても塗布ムラが発生しない除電方法を提供する。もっとも照射ムラの電荷密度が多い照射状態は、除電条件が「同期重畳」状態での場合であり、いかなる場合でも「照射ムラ」の程度を抑え、塗布ムラが発生しにくい除電条件について次に考える。
照射ムラの帯電の特徴は、各面の背面平衡電位がフィルムの移動方向で0Vを中心として正負の極性を取る正弦波状の帯電分布を有することである。つまり、「背面平衡電位の絶対値の最大値と最小値の差」は「背面平衡電位の最大値」と一致する。
除電ユニットの第1および第2のイオン生成電極1対あたりの照射ムラの電荷密度は、概ね、除電ユニットの第1および第2のイオン生成電極先端の間のシート法線方向における距離(以下、法線方向電極間距離という)d1[mm]と除電ユニットのイオン生成電極に印加する印加電圧V[V](実効交流電圧)を関数として決まる。「照射ムラ」帯電の電荷密度をフィルム厚みを考慮として「背面平衡電位」とし、法線方向電極間距離d1と印加電圧Vの適正な条件を設定する。これにより、たとえ、強充電モードですべて同極性のイオンが同期重畳されても塗布ムラが発生しない適切な帯電状態、また、弱充電モードで発生していた厚いフィルムでの塗布ムラを防止できる適切な帯電状態が得られる除電条件を考える。
「照射ムラ」を制御する方法としては、たとえば、除電ユニットの第1および第2のイオン生成電極への印加電圧を変更するという簡単な方法でも実現する。例えば、フィルム厚みが厚くなればその分電荷密度を下げる必要があり、除電ユニットの第1およに第2のイオン生成電極の印加電圧を小さくするのである。印加電圧の変更は、手間のかかる法線方向電極間距離の変更や高価な電源が必要となる印加周波数を変更するよりも簡便で安価である。 まず、移動しているフィルムをその法線方向の両側からを挟んで対向配置された第1および第2のイオン生成電極に互いに実質的に逆極性の交流電圧を印加することにより、フィルムに第1および第2のイオン生成電極からそれぞれ時間的に極性が反転する第1および第2のイオン雲群を同時に照射するに際し、各イオン生成電極に印加する実効交流電圧V[V]と、法線方向電極間距離d1[mm]を変化させ、照射ムラの帯電の強さを調べ、適正な除電条件を見出した。
照射ムラの作成方法について以下に示す。印加する周波数は商用周波数(50または60[Hz])とし、イオン生成電極に印加する1周期に相当する時間にフィルムが移動する距離とフィルム移動方向におけるイオン生成電極間距離が同期重畳を起こす帯電条件を用いた。つまり、印加周波数f[Hz]とフィルム速度u[mm/秒]の関係において、u/fで得られる交流電圧の1周期分に進むフィルムの移動距離[mm]と隣りあうイオン生成電極の先端の間のフィルム走行方向における距離(以下、除電ユニット間隔という)d2[mm]を一致させる、例えば、印加周波数60[Hz]、除電ユニット間隔d2[mm]が25mmであれば、フィルム速度uが90[m/分]に設定した。この照射ムラは、塗布ムラに影響するコーティング塗工面直下の第1の面1内の正と負の1周期が25mmで緩やかな電位勾配を有する。つまり、背面平衡電位の最大値を調整し抑えるばかりでなく、正負帯電部の境界で発生する電界を弱めることができるので、面内の帯電境界部で発生するミクロな塗布ムラまでも発生させにくくさせる利点がある。
照射ムラの強さは、実効交流電圧V[V]が大きくなると、イオン生成電極からのイオン発生量が印加電圧にほぼ比例して増加する。また、対向するイオン生成電極の電圧が高くなるため、対向したイオン生成電極で発生したイオンを電界に比例して加速しフィルム面に引き寄せる。よって、照射ムラの強さは実効交流電圧Vの2乗に比例して強くなる。一方、イオン生成電極間距離が小さくなると、対向したイオン生成電極との距離が近くなり電界が強くなり、さらに、距離が近づくことで各イオン生成電極から発生するイオン雲が凝縮され強められる。よって、距離が小さくなれば、ほぼ2乗に反比例して照射ムラが大きくなる。照射ムラの強さをフィルムのコーティング塗工面の背面平衡電位で表す場合には、電荷密度と表面電位との関係はフィルム厚みに比例するので、照射ムラの強さp[V]において、
p=A・V2・(d1 2)−1・t
V2=(p・A−1・d1 2・t−1) V∝d1・t−1/2となり
pを一定値以下にするため、イオン生成電極への印加電圧V[V]は V<B・d1・t−1/2 を満足するように設定すれば良い(A、Bは定数)。なお、交流印加電圧Vは第1および第2のイオン生成電極に印加する実効電圧の絶対値を示している。
この照射ムラ帯電の強さを種々の厚みのフィルムで調査した。このとき、イオン生成電極対の組数Nは、10[個]とし、イオン生成電極に印加する交流実効電圧V[V]と、第1と第2のイオン生成電極間距離d1[mm]を変化させて実験した結果より、定数Bを求めると、B=1.45であった。よって、f=50[Hz]以上60[Hz]以下の商用周波数において、V<1.45・d1・t−1/2を満たすように除電条件を設定すればよい。塗布ムラは厚いシートの場合に発生しやすいので、この方法は特に50[μm]以上のフィルムに好適である。
印加周波数については、イオン生成電極からのイオン発生量が商用周波数とほぼ同じでイオン付着の効率が同じと見なされる周波数範囲に限って、照射ムラの強さとイオン生成電極間距離と印加電圧の関係も同じと考えて良い。よって、このような商用周波数に近似できる周波数範囲に限っては、前述の式にV<1.45d1・t−1/2を満足する除電条件で塗布ムラが発生しにくい。また、照射ムラ帯電の強さは除電ユニットの数N[個]に比例することから、N[個]の組数では、V<1.45d1・t−1/2・N/10を満足するのがよい。
図9に、除電ユニットの数Nを10[個]、イオン生成電極に印加する電圧の周波数を60Hz、電極間距離d1=20,25,25[mm]としたときの、フィルム厚みと印加した実効電圧[V]の関係を示す。この図からフィルム厚みにより印加電圧を好適に選べば、塗布ムラの発生しにくい良好なフィルムを簡単に得ることができる。なお、印加電圧Vを下げると、取りたい帯電の除電能力も落ちてしまうが、厚いフィルムの帯電は比較的除電しやすいことから適宜選べば良い。厚いフィルムではフィルムの第1の面および第2の面に存在する電荷間の距離が、薄いフィルムに比べると離れている。つまり、帯電電荷が作る電界がフィルムのごく近傍で薄いフィルムに比べて強くなっている。第1の面に照射される除電イオンは法線方向の強い電界によりフィルム近傍に運ばれ選択的に付着するが、フィルムのごく近傍では帯電部の電界の影響を受け、除電イオンが引き寄せられ易くなるため厚いフィルムでは除電しやすいと考えられる。さらに、逆面である第2の面の逆極性の電荷による反発力もフィルム厚みの距離をおいた分小さくなって除電イオンが付着しやすいと考えられる。
さらに、このような装置を実現する方法とし、良好な除電装置であっては、フィルムの厚みを入力する手段を有し、フィルムの厚みから適正な印加電圧を演算する手段と、その演算した結果を基に、除電ユニットのイオン生成電極の印加電圧を調整する手段を有する除電装置で実現できる。このような具体例として、フィルム厚みが100[μm]、法線方向電極間距離d1=25[mm]では、およそ3500[V]を印加するように演算することができる。この演算した印加電圧以下の印加電圧に設定して塗布ムラを防止することができる。なお、入力手段としてキーパッドのようなものを用い、電圧の演算を適当なコンピュータにて実施し、その結果を電源に反映させるようにしてもよい。入力手段は、簡便には、可変電圧の電源のボリュームとして、目盛に印加電圧にかわって(または印加電圧とともに)その印加電圧でフィルムの背面平衡電位の絶対値の最大値と最小値の差が200[V]といった適切な値となるフィルム厚みが表示されているようなものを用いてもよい(この場合、「背面平衡電位の絶対値の最大値と最小値の差」は「背面平衡電位の最大値」と一致する)。この場合、このボリュームがフィルム厚みの入力手段と印加電圧の演算手段となりうる。これによって、フィルム厚みを入力することで適切な印加電圧を設定できるようにすることができる。
以上のように、表面にコーティングを行うフィルムであって、帯電による塗布ムラが発生しないフィルムを提供できる。さらに、そのような好適なフィルムを得るための除電方法を提供することができる。比較的厚みの厚いフィルムにおいても、フィルム厚みに応じて、イオン生成電極に印加する電圧を変更するという簡単な方法で塗布ムラの発生を抑制できるため、離型用途やハードコートフィルムにも好ましく適用できる。
なお、上記実施形態においては、各除電ユニットの第1および第2の各イオン生成電極やこれに対応する各シールド電極は、それぞれ実質的に同一の形態を有するものを用い、実質的に同電位となるように構成した。また、各除電ユニットの第1のイオン生成電極電極に印加した電圧の実効値は第2のイオン生成電極に印加した電圧の実効値と実質的に同一とした。
しかし、本発明において、一般には、各除電ユニットのイオン生成電極は必ずしも実質的に同一の形態を有している必要はなく、印加される実効電圧Vも第1およに第2の各イオン生成電極が同一の電位でなくてもよい。寸法や位置関係や印加電圧は、本発明に規定した条件を個別のイオン生成電極等がそれぞれ個別に満たしておればよい。また、互いに対向する第1のイオン生成電極に印加する電圧と第2のイオン生成電極に印加する電圧とは、常時実質的な位相差が所定の範囲内にある必要はあるが、電圧の実効値等は多少違っていても、上記の作用効果を奏する範囲内であれば、別段問題ない。
以下に示す実施例および比較例において、本発明の効果を以下の方法により評価した。
(1)塗布ムラ1:ハンドコートテスト
絶縁フィルムにアイソパーH(溶媒100%。エクソン株式会社の商品名)、あるいは、シリコーン離型塗剤(溶媒トルエン。信越化学(株)製KS847H 10重量部、PL−50T 0.1重量部、トルエン 100重量部)を塗布して、塗布ムラ(塗布を局所的にはじく領域)が生じないかを調べた。フィルムは金属板の上に置き、ワイヤー直径0.25[mm]のメタリングバーで約0.3[m/秒]の速さでハンドコートし、金属板上に静置した後金属板から剥がす際に目視にて塗布ムラを確認し、以下の3段階で評価した。
○:塗布ムラなし
△:僅かにムラが確認できるが、品質上問題がない。
×:塗布ムラあり
(2)電気絶縁シートの各面の背面平衡電位測定:絶縁フィルムの被評価面とは逆の面を金属ロール(直径10[cm]のハードクロムメッキロール)に密着させ、電位を測定した。絶縁フィルムと金属ロールの界面の間に実質的にギャップがない状態にまでぴったりと接触させて測定するこの状態で電位計(モンロー社製モデル244)センサ(モンロー社製プローブ1017、開口部直径1.75[mm])をフィルム上2[mm](2[mm]位置においた時の視野はモンロー社カタログより直径約6[mm]の範囲となる)の位置におき、金属ロールを低速回転(リニアモータを使用し、約0.3[m/分]で低速回転させながら電位を測定し、背面平衡電位P[V]を得た。
フィルムの面内の背面平衡電位は、まず、フィルム幅方向に電位計を20mm程度スキャンさせて最大値が得られる幅方向の位置を決め、幅方向の位置を固定して、電位計をフィルム移動方向、つまりフィルムの長さ方向にスキャンさせて電位を測定した。フィルム面内の背面平衡電位は2次元的にすべてのポイントを測定するのが理想であるが、前述の方法でフィルム面内の電位の分布を近似した。フィルム幅が1mを越す場合には、フィルムの幅方向のほぼ中央部と端部において、20mm程度を切り出しスキャンさせ、最大値が得られる場所を探し、その後、フィルム移動方向にスキャンさせて電位を測定する。中央部と端部の測定結果から最大値を求め、この最大値で評価する。
◎:200[V]以下
○:200[V]を越える〜340[V]以下
×:340[V]を越える
実施例および比較例を以下に示す。
実施例1
電気絶縁性シートSとして幅1100[mm]、長さ6000mの厚さ38[μm]の2軸延伸されたポリエチレンテレフタレートフィルム(「東レ株式会社製ルミラー」。品番38S28)を用いた。ロール状の電気絶縁性フィルムロールを巻出し、除電装置を通した後、シリコーン離型塗剤(信越化学社製)を塗工、その後、乾燥機で溶剤を完全に除去した後、巻取部でロール状に巻き取った。
図11は、かかる状況におけるフィルムの第1の面の背面平衡電位の分布の例である。このフィルムには、あらかじめ局所的な帯電部分が存在した。帯電はフィルム移動方向に正と負の周期的な変化があり、正帯電部と負帯電部の大きさは数10mm程度であった。また、第1の面の帯電の強さを示す背面平衡電位の分布[V]は図11に示す通り、背面平衡電位の絶対値の最大値が500Vを越えていた。つまり、背面平衡電位の絶対値の最大値が500V、最小値が0Vであり、その差は500Vであった。各面における第1の面と第2の面の背面平衡電位[V]の合計は場所による違いはあるが35V〜50Vであった。なお、図11の横軸はフィルム移動方向における長さで、長さ方向に電位計を移動させながら第1の面の背面平衡電位の分布状態を測定したものである。
除電方法として、図6,7に示す電極が対向した除電器を用い、電極がフィルムの走行方向に対して直交するように、かつ、フィルムの面と平行になるようにフィルムを挟んで設置した。除電ユニットの数Nは、10[個]とした。上下のイオン生成電極先端同士の間隔d1は25[mm]とした。また、フィルムは電極間の略中央を通るようにした。除電ユニット間隔d2[mm]は23mmとし、イオン生成電極5d−k(k=1〜10)、5f−k(k=1〜10)に接続する電源5c、5eには周波数50[Hz]の交流電源を用い、互いに位相が逆になるよう、電源内部の昇圧トランスの入力を切り替えた。各除電ユニットの第1および第2の各イオン生成電極に実効電圧4.0[kV]を印加し、シールド電極5g−k(k=1〜10)、5h−k(k=1〜10)はともに接地とした。フィルム幅の方向におけるイオン生成電極の針間隔は12.7mmでフィルム移動方向に針が1列に並ぶように配置した。フィルム移動速度は100m/分に設定した。塗布ムラ(塗布を局所的にはじく領域)の有無を目視で観察した。
除電前のフィルムの帯電部分では塗布ムラが発生したが、除電済みフィルムでは塗布ムラは発生しなかった。この除電済みフィルムの図11に示した例に対応する測定例を図12に示す。図12は、背面平衡電位[V]の分布を示しており、背面平衡電位の絶対値は300V以下になっており、背面平衡電位の絶対値の最大値と最小値の差は300V以下になっている。また、各部における第1の面と第2の面の背面平衡電位[V]の合計は−10V〜+10Vの範囲内であった。
実施例2〜4および比較例1〜2
電気絶縁性フィルムSとして幅200[mm]、厚さ125、75、38[μm]の2軸延伸されたポリエチレンテレフタレートフィルム(「東レ株式会社製ルミラー」38S10、75K20、125T60)を用いた。
除電方法として、電極がフィルムの走行方向に対して直交するように、かつ、フィルムの面と平行になるようにフィルムを挟んで設置した。除電ユニット数は、10[個](10対配置)とした。フィルムを挟んで対向する第1と第2のイオン生成電極先端同士の間隔d1は20、25[mm]とした。また、フィルムは電極間の略中央を通るようにした。除電ユニット間隔d2[mm]は25mmとし、イオン生成電極5d−k(k=1〜10)、5f−k(k=1〜10)に接続する電源5c、5eには周波数60[Hz]の交流電源を用い、互いに位相が逆になるよう、電源内部の昇圧トランスの入力を切り替えた。各除電ユニットの第1および第2の各イオン生成電極に実効電圧3.1、4.0[kV]を印加し、シールド電極5g−k(k=1〜10)、5h−k(k=1〜10)はともに接地とした。
フィルム移動速度は90m/分、120m/分、180m/分の3水準で行った。90m/分でのイオン照射は同期重畳状態であり、各除電ユニットの第1および第2のイオン生成電極に逆極性を印加した割合はゼロであった。180m/分では逆極性を印加した割合は半分の0.5であった。ここで、すべてのイオン生成電極に占める逆電位を印加した割合は移動するフィルムが各イオン生成電極直下を通過した時にイオン生成電極に印加される電位の極性をカウントすることで求めた。表1に各パラメーターの条件を、表2に結果を示す。
実施例5〜11および比較例3〜6
電気絶縁性フィルムSとして幅200[mm]、厚さ12、38,75,188[μm]の2軸延伸されたポリエチレンテレフタレートフィルム(「東レ株式会社製ルミラー、12P60、38S10、75K20、188S10)を用い、移動速度90[m/分]で走行させた。
除電方法として、図6,7に示す電極が対向した除電器を用い、電極がフィルムの走行方向に対して直交するように、かつ、フィルムの面と平行になるようにフィルムを挟んで設置した。除電ユニットの数Nは、10[個]とした。上下のイオン生成電極先端同士の間隔d1は20、23、25、30[mm]の4種類とした。また、フィルムは電極間の略中央を通るようにした。隣接するイオン生成電極先端同士の間隔d2[mm]は25mmとし、イオン生成電極5d−k(k=1〜10)、5f−k(k=1〜10)に接続する電源5c、5eには周波数60[Hz]の交流電源を用い、互いに位相が逆になるよう、電源内部の昇圧トランスの入力を切り替えた。各除電ユニットの第1および第2の各イオン生成電極に実効電圧2.0〜4.8[kV]を印加し、シールド電極5g−k(k=1〜10)、5h−k(k=1〜10)はいずれも接地とした。
これらのフィルムの各面の背面平衡電位について上記(2)の方法により評価を行った。評価結果から、背面平衡電位の絶対値の最大値と最小値の電位差を求めた。得られたフィルムの塗布ムラ有無を調べるため、上記(1)の方法でハンドコートし、塗布ムラの有無を調査した。表3に各パラメーター条件を、表4に結果を示す。なお、実施例6におけるフィルム各面の背面平衡電位の分布を示す測定結果を図13に示す。実線は第1の面の、破線は第2の面の背面平衡電位を表し、フィルム長さ方向に電位計を移動させて帯電の正負縞を測定した結果である。図13からわかるように、第1の面と第2の面の背面平衡電位の合計は実質ゼロであり、−10[V]以上〜+10[V]以下であった。
実施例12〜16および比較例7〜8
電気絶縁性シートSとして幅1000[mm]、長さ2000mの厚さ38,75,188[μm]の2軸延伸されたポリエチレンテレフタレートフィルム(「東レ株式会社製ルミラー」を用いた。ロール状の絶縁フィルムロールを巻出し、除電装置を通した後、シリコーン離型塗剤(信越化学社製)を塗工、その後、乾燥機で溶剤を完全に除去した後、巻取部でロール状に巻き取った。フィルム移動速度は69m/分に設定した。塗布ムラ(塗布を局所的にはじく領域)の有無を目視で観察し、次の評価を行った。
○:塗布ムラなし
×:塗布ムラあり
除電装置は、実施例1と同様の除電装置を用いたが、隣接するイオン生成電極先端同士の距離d2が23mm、d1が20,25[mm]、イオン生成電極に印加する周波数50Hzとした。除電装置はイオン生成電極の向きがフィルム移動方向に直交するようにフィルムを挟んで設置した。除電ユニット数Nは10[個]とし、イオン生成電極に2.0〜4.4[kV]の交流電圧を印加し、各除電ユニットの第1のイオン生成電極5d−k(k=1〜10)と第2イオン生成電極5f−k(k=1〜10)に印加する電圧が互いに位相が逆になるよう、電源内部の昇圧トランスの入力を切り替えた。さらに、電源に印加電圧を調整するボリューム(ボリュームの目盛には印加電圧と共にその印加電圧でフィルムの背面平衡電位の絶対値の最大値と最小値の差が200[V]となるフィルム厚みが表示されている。これによって、フィルム厚みを入力することで適切な印加電圧を設定できるようになっている)を取り付け、フィルム厚みに応じて印加電圧を調整できるようにした。また、シールド電極5g−k(k=1〜10)、5h−k(k=1〜10)はともに接地とした。
熱硬化性シリコーン系樹脂塗剤塗工剤の組成は以下の通りである。
信越化学(株)製KS847H 10重量部
信越化学(株)製PL−50T 0.1重量部
トルエン 95重量部
酢酸エチル 5重量部
なお、シリコーンのコーティングはグラビアロールを用いて行った。
各パラメーターの条件と結果を表5、表6に示す。なお、シート各部における第1の面の背面平衡電位と第2の面の背面平衡電位の合計はいずれも−10[V]以上〜+10[V]以下であった。
実施例17〜18および比較例9
電気絶縁性フィルムSとして幅200[mm]、厚さ75[μm]の2軸延伸されたポリエチレンテレフタレートフィルム(「東レ株式会社製ルミラー75K20」を用い、移動速度90[m/分]で走行させた。除電方法として、図6,7に示す電極が対向した除電器を用い、電極がフィルムの走行方向に対して直交するように、かつ、フィルムの面と平行になるようにフィルムを挟んで設置した。除電ユニットの数Nは、10[個]とした。上下のイオン生成電極先端同士の間隔d1は25[mm]とした。また、フィルムは電極間の略中央を通るようにした。隣接するイオン生成電極先端同士の間隔d2[mm]は25mmとし、イオン生成電極5d−k(k=1〜10)、5f−k(k=1〜10)に接続する電源5c、5eには周波数60[Hz]の交流電源を用い、互いに位相が逆になるよう、電源内部の昇圧トランスの入力を切り替えた。各除電ユニットの第1および第2のイオン生成電極に実効電圧2.0〜4.0[kV]を印加し、シールド電極5g−k(k=1〜10)、5h−k(k=1〜10)はともに接地とした。
上記第1の条件でフィルムを走行させコアに巻き上げた。こうして、フィルムの走行方向に正負の照射ムラを作成した。さらに、一旦巻いたフィルムを、巻出した。このときの第2の条件を以下に示す。
除電ユニットのイオン生成電極がフィルムの走行方向に対して直交するように、かつ、フィルムの面と平行になるようにフィルムを挟んで設置した。除電ユニットの数Nは、1[個]とした。上下のイオン生成電極先端同士の間隔d1は25[mm]とした。また、フィルムは電極間の略中央を通るようにした。第1と第2のイオン生成電極には逆極性の直流電圧を印加した。印加した直流電圧の絶対値は2〜4[kV]とし、フィルムの走行速度は10m/分以下とした。このようにして、0Vを中心とした背面平衡電位の分布を、フィルム各面を逆極性に帯電させて、0Vを中心としない背面平衡電位の分布を強制的に作った。
実施例17は第1の条件の交流電圧が4kV、第2の条件の直流電圧が4kVとし、実施例18は第1の条件の交流電圧が2kV、第2の条件の直流電圧が4kVとし、比較例9は第1の条件の交流電圧が4kV、第2の条件の直流電圧が2kVとした。
これらのフィルムの各面の背面平衡電位の分布を上記(2)の方法により評価を行った。評価結果から、背面平衡電位の絶対値の最大値と最小値の電位差を求めた。得られたフィルムの塗布ムラ有無を調べるため、上記(1)の方法でハンドコートし、塗布ムラの有無を調査した。結果を表7に示す。背面平衡電位の絶対値の最大値が340[V]を越えていても、最小値との差が340[V]以下であれば塗布ムラが発生しにくいことがわかる。