JP5003213B2 - 蓄熱剤、包接水和物の蓄熱速度を増加させる方法 - Google Patents

蓄熱剤、包接水和物の蓄熱速度を増加させる方法 Download PDF

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Description

本発明は、潜熱蓄熱剤又はその成分として使用可能な包接水和物の蓄熱速度を高め得る技術に関し、より詳しくは、当該技術を基礎とする包接水和物を生成する性質を有する水溶液、第四級アンモニウム塩をゲスト化合物とする包接水和物及び当該包接水和物のスラリ並びに、包接水和物の生成方法、包接水和物が生成又は成長する速度を増加させる方法及び包接水和物が生成又は成長する際の過冷却現象を防止又は抑制する方法等に関する。
なお、本発明において、次に掲げる用語は、別段の説明がなされる場合を除き、以下のとおり解釈されるものとする。
(1) 「包接水和物」には、準包接水和物が含まれる。
(2) 「包接水和物」は「水和物」と略称される場合がある。
(3) 「ゲスト化合物」は「ゲスト」と略称される場合がある。
(4) 「スラリ」とは、液体中に固体粒子が分散又は懸濁した状態又はその状態にある物質をいう。沈降しがちな固体粒子を浮遊状態とするために界面活性剤を添加したり、機械的に攪拌したりすることもあるが、液体中に固体粒子が分散又は懸濁している限り、「スラリ」という。液体中に固体粒子が分散又は懸濁している限り、その分散又は懸濁が不均一なものであっても、「スラリ」という。
(5) 「原料水溶液」とは、包接水和物のゲスト化合物を含む水溶液をいう。当該ゲスト化合物とは別の微量物質が添加されていても「原料水溶液」という。また、包接水和物が分散又は懸濁していても、包接水和物のゲスト化合物を含む水溶液であれば「原料水溶液」という。
(6) 「水和物生成温度」とは、原料水溶液を冷却したとき、包接水和物が生成するべき平衡温度をいう。原料水溶液のゲスト化合物の濃度により包接化合物が生成する温度が変動する場合であっても、これを「水和物生成温度」という。なお、簡便のため、「水和物生成温度」を「融点」という場合がある。
(7) 「第四級アンモニウム塩をゲスト化合物とする包接水和物」は「第四級アンモニウム塩の水和物」と略称される場合がある。
(8) 「冷熱」とは、0℃よりも高温で、30℃よりも低温の範囲の温度を与える又は当該温度に対応する熱エネルギーをいう。「冷熱範囲」とは、0℃よりも高温で、30℃よりも低温の温度範囲をいう。「蓄冷」とは、冷熱範囲に水和物生成温度を有する包接水和物による熱エネルギーの蓄積をいう。
(9) 「蓄熱性」とは、熱エネルギーを蓄積することができる性質をいう。冷熱を蓄積する性質を「蓄冷性」という場合がある。
(10) 「蓄熱剤」とは、熱エネルギーの貯蔵や輸送その他の使用の目的や態様、利用分野等の如何を問わず、蓄熱性を有する物質をいう。蓄冷性を有する物質を「蓄冷剤」という場合がある。蓄熱性を有する包接水和物は、「蓄熱剤」又は「蓄冷剤」の構成成分となり得る。
(11) 「蓄熱材」とは、蓄熱性を有する部材をいう。蓄熱剤は「蓄熱材」の構成要素となり得る。「蓄冷材」とは、蓄冷性を有する部材をいう。蓄冷剤は「蓄冷材」の構成要素となり得る。
(12) 「蓄熱速度」とは、単位体積もしくは単位重量の蓄熱剤が、ある条件の熱交換操作により単位時間内に蓄積できる熱エネルギーの量又はこれに正の相関関係を有するパラメータをいう。
(13) 「調和融点」とは、原料水溶液の液相から包接水和物が生成する際、原料水溶液中のゲスト化合物の濃度と包接水和物中のゲスト化合物の濃度とが等しく、包接水和物の生成の前後において当該液相の組成が変わらない場合の温度をいう。
なお、縦軸を水和物生成温度、横軸を原料水溶液の液相のゲスト化合物の濃度とした状態図では極大点が「調和融点」となる。また、調和融点を与える原料水溶液中のゲスト化合物の濃度を「調和融点濃度」という。調和融点濃度未満の濃度の原料水溶液から包接水和物を生成する場合には、包接水和物の生成につれて原料水溶液のゲスト化合物の濃度が低下し、その濃度に対する水和物生成温度が低下する。
包接水和物は、原料水溶液を水和物生成温度以下まで冷却することにより生成し、かくして生成される包接水和物の結晶には潜熱相当の熱エネルギーが蓄積されることから、潜熱蓄熱剤又はその成分として使用される。
上記の包接水和物の一例として非気体をゲストとするもの、即ち非気体包接水和物が知られており(非特許文献1)、その非気体包接水和物の代表例として、第四級アンモニウム塩をゲストとするものが知られている(特許文献1)。
多くの第四級アンモニウム塩の水和物は、常圧で生成し、水和物を生成する際の潜熱が大きく比較的蓄熱量が大きく、またパラフィンのように可燃性ではないため取り扱いも容易である。
また、多くの第四級アンモニウム塩の水和物は、調和融点又は水和物生成温度が氷の融点(常圧下で0℃)よりも高いため、蓄熱剤を冷却して水和物を生成する際の冷媒の温度が高くてよく、冷媒を冷却する冷凍機の成績係数(COP)が高くなり省エネルギーが図れるという利点もある。
更に、第四級アンモニウム塩の水和物は水や水溶液に分散又は懸濁し易く、概して分散状態が均一で凝集性が低く、相分離も顕著でなく、流動抵抗もかなり低いので、スラリとして製造してやれば(特許文献2、特許文献3)、蓄熱材又は蓄熱剤や熱輸送媒体をスラリとして構成でき、取り扱うことができる(特許文献4、特許文献5)。
それ故、第四級アンモニウム塩の水和物は、蓄熱材若しくは蓄熱剤又はその構成要素若しくは構成成分として有望であるといえる。なお、第四級アンモニウム塩の水和物の具体例は、テトラnブチルアンモニウム塩やトリnブチルnペンチルアンモニウム塩をゲスト化合物とする包接水和物であり、特に臭化テトラnブチルアンモニウム(TBAB)をゲストとする包接水和物については、水和数が互いに異なる第一水和物と第二水和物が存在することが知られている(特許文献6)。
川崎成武他1名、"気体水和物の冷熱蓄熱材への応用"、ケミカル・エンジニアリング、株式会社化学工業社、昭和57年8月1日、Vol.27、No.8、p.603、表1 特公昭57−35224号公報 特開2004−3718号公報 特開2002−263470号公報 特開平10−259978号公報 特開2001−301884号公報 特開2001−280875号公報
さて、蓄熱剤を利用するにあたって、その蓄熱速度はより高いほど好ましいといってよい。蓄熱剤の蓄熱速度が高ければ、より短時間でより多くの熱エネルギーを蓄積できるので、例えば、蓄熱剤を使用している蓄熱式空調装置や設備の運転に時間的余裕や技術仕様上の余裕ができ、その装置や設備の設計が容易になり、その装置や設備の構成、機構、運転等の複雑化を回避できる場合も多く、延いてはコスト低減に通じることになるからである。それ故、蓄熱剤の蓄熱速度をより高める技術が求められている。
他方、包接水和物を蓄熱剤とした潜熱蓄熱の場合、その蓄熱速度は、包接水和物の結晶の生成や成長に密接に関連してくる。包接水和物による潜熱蓄熱は、原料水溶液が水和物生成温度まで冷却されたとき、蓄熱性を有する包接水和物の結晶が生成し、成長するという現象を基礎としているからである。
また、包接水和物の結晶は構造が複雑であるため、例えば氷に比べて結晶の生成や成長が遅い。このことは、包接水和物の結晶の生成や成長が包接水和物による蓄熱の律速となり得ることを意味している。それ故、包接水和物による潜熱蓄熱において包接水和物の蓄熱速度をより高める技術を構築しようとする場合には、包接水和物の結晶の生成や成長の挙動をより好ましく改善する手法が求められてくる。
また、原料水溶液を冷却して第四級アンモニウム塩の水和物を生成させようとする場合、ある程度の冷却速度で冷却すると、水和物生成温度以下になっても、水和物が生成せず、溶液状態が少なくとも一時的に維持される現象、即ち過冷却現象が起こる。この現象は、水和物の結晶の生成や成長を遅延させ、総じて蓄熱剤の蓄熱速度を低下させる。それ故、この蓄熱速度の低下を回避する又は当該蓄熱速度をより高めるためには、原料水溶液の過冷却を防止又は抑制する手法が求められてくる。
尤も、過冷却現象の悪影響は蓄熱速度の低下に止まらない。例えば、原料水溶液の過冷却状態が予期せず解除されると、包接水和物の結晶が多量に生成し、成長し、装置や設備の正常な運転を妨げることもある。それ故、原料水溶液の過冷却を防止又は抑制する目的は、包接水和物の蓄熱速度の低下を回避するためだけのものではない。
このような背景から、包接水和物を潜熱蓄熱剤又はその成分として利用する際には、水和物生成の核となる微粒子を原料水溶液に添加する、熱交換器の伝熱面に機械的振動を印加する、原料水溶液を攪拌させる等々の手段を適用して過冷却現象を防止若しくは抑制する又は過冷却解除を促進させる工夫がなされる(例えば特許文献3参照)。
しかし、これらの手段を、包接水和物を潜熱蓄熱剤又はその成分として利用する装置や設備に付帯させることは、装置や設備の構成、機構、運転等の複雑化を招来し、コスト低減の要請に反することになる。それ故、過冷却現象を抑制又は防止するのであれば、原料水溶液への添加物を工夫して、上記のコスト低減の要請に応える手法の方が望ましい。
本発明は、以上の事情に鑑みてなされたものであり、原料水溶液に特定の添加物を投入することにより、包接水和物を蓄熱剤とする場合の蓄熱速度を高める技術及び、過冷却を抑制又は防止する技術を提供することを目的とするものである。
発明者らは、鋭意研究の結果、第四級アンモニウム塩の水和物を生成する性質を有する原料溶液にアルカリ金属のリン酸塩を添加すると、当該原料水溶液を冷却して包接水和物が生成する際、その蓄熱速度が増加することを見出した。また、発明者らは、原料水溶液にアルカリ金属のリン酸塩を添加すると、原料水溶液を冷却して包接水和物が生成する際、過冷却が防止又は抑制されることを見出した。
本発明はこれらの新たな知見に基づきなされたものであり、具体的には以下の構成を備えている。
本発明に係る蓄熱剤は、第四級アンモニウム塩を含む水溶液を冷却することにより生成される前記第四級アンモニウム塩をゲスト化合物とする包接水和物を含む蓄熱剤であって、前記水溶液にアルカリ金属のリン酸塩が添加されていることにより蓄熱速度が向上していることを特徴とするものである。
また、本発明に係る包接水和物の蓄熱速度を増加させる方法は、第四級アンモニウム塩を含む水溶液を冷却することにより生成する第四級アンモニウム塩をゲスト化合物とする包接水和物の蓄熱速度を増加させる方法であって、アルカリ金属のリン酸塩が添加された前記水溶液を準備する工程と、アルカリ金属のリン酸塩を添加された前記水溶液を冷却する工程とを有することを特徴とするものである。
本発明の第1の形態に係る水溶液(原料水溶液)は、包接水和物のゲスト化合物となる第四級アンモニウム塩を含み、冷却されて前記包接水和物を生成する性質を有する水溶液であって、アルカリ金属のリン酸塩が添加されていることを特徴とするものである。
本発明の第2の形態に係る包接水和物は、第四級アンモニウム塩とアルカリ金属のリン酸塩を含む原料水溶液を冷却することにより生成される前記第四級アンモニウム塩をゲスト化合物とすることを特徴とするものである。
本発明の第3の形態に係る包接水和物のスラリは、第2の形態に係る包接水和物が原料水溶液中に分散又は懸濁してなるものである。
本発明の第4の形態に係る包接水和物の生成方法は、第四級アンモニウム塩とアルカリ金属のリン酸塩を含む水溶液を準備する工程と、前記水溶液を冷却することとにより前記第四級アンモニウム塩をゲスト化合物とする包接水和物を生成させる工程とを有することを特徴とするものである。
本発明の第5の形態に係る包接水和物が生成又は成長する速度を増加させる方法は、第四級アンモニウム塩を含む水溶液中に前記第四級アンモニウムをゲスト化合物とする包接水和物が生成又は成長する速度を増加させる方法であって、アルカリ金属のリン酸塩が添加された前記水溶液を準備する工程と、アルカリ金属のリン酸塩を添加された前記水溶液を冷却する工程とを有するものである。
本発明の第6の形態に係る包接水和物を生成させる際に起こる過冷却現象を防止又は抑制する方法は、包接水和物のゲスト化合物となる第四級アンモニウム塩を含む水溶液を冷却することにより前記包接水和物を前記水溶液中に生成させる際に起こる過冷却現象を防止又は抑制する方法であって、アルカリ金属のリン酸塩が添加された前記水溶液を準備する工程と、アルカリ金属のリン酸塩を添加された前記水溶液を冷却する工程とを有するものである。
なお、本発明において、アルカリ金属のリン酸塩の典型例は、ナトリウムのリン酸塩、カリウムのリン酸塩であり、具体的にはリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウムであり、その混合物であっても良い。また、本発明において、第四級アンモニウム塩の典型例は、テトラnブチルアンモニウム塩である。
本発明によれば、第四級アンモニウム塩の水和物を生成する性質を有する原料水溶液に、アルカリ金属のリン酸塩が添加されているので、当該原料水溶液が水和物生成温度以下に冷却されて水和物が生成する際、その蓄熱速度が増加する(以下「蓄熱速度増加効果」という)。
また、本発明によれば、第四級アンモニウム塩の水和物を生成する性質を有する原料水溶液に、アルカリ金属のリン酸塩が添加されているので、当該原料水溶液が水和物生成温度以下に冷却されて包接水和物が生成する際、過冷却を防止又は抑制することができる(以下「過冷却抑制効果」という)。
総じていえば、本発明は、蓄熱速度増加効果及び過冷却抑制効果のうち少なくとも一方の効果を奏する。
本発明の各形態が奏する作用効果は、以下のとおりである。
本発明の第1の形態によれば、水和物生成温度以下に冷却されたとき第四級アンモニウム塩の水和物を生成する性質を有し、その生成の際、その水和物の蓄熱速度を増加させることが可能な原料溶液を実現することができる。
また、本発明の第1の形態によれば、水和物生成温度以下に冷却されたとき第四級アンモニウム塩の水和物を生成する性質を有し、その冷却の際、過冷却が防止又は抑制される原料溶液を実現することができる。これらは、潜熱蓄熱剤又はその成分として使用される包接水和物を生成させる原料水溶液として好適である。
本発明の第2の形態によれば、蓄熱速度がより高い包接水和物を実現することができる。また、原料水溶液が水和物生成温度以下に冷却されたとき、当該原料水溶液の過冷却が防止又は抑制されて生成する包接水和物を実現することができる。これらは、潜熱蓄熱剤又はその成分として使用される包接水和物として好適である。
本発明の第3の形態によれば、第2の形態に係る包接水和物のスラリを実現することができる。このスラリは、第1の形態に係る原料水溶液を水和物生成温度以下に冷却することにより製造することができ、これをもって蓄熱材又は蓄熱剤や熱輸送媒体を構成でき、取り扱うことができる。
本発明の第4の形態によれば、第四級アンモニウム塩とアルカリ金属のリン酸塩を含む水溶液を冷却することにより前記第四級アンモニウム塩をゲスト化合物とする包接水和物を生成させるので、蓄熱速度増加効果及び過冷却抑制効果のうち少なくとも一方の効果が発揮される。その結果、第2の形態に係る包接水和物を実現することができる。
本発明の第5の形態によれば、第四級アンモニウム塩とアルカリ金属のリン酸塩を含む水溶液を冷却することにより前記第四級アンモニウム塩をゲスト化合物とする包接水和物を生成させるので、前記第四級アンモニウムの水和物が生成又は成長する速度、総じて蓄熱速度を増加させることができる技術を実現することができる。
なお、水和物の生成速度の増加と成長速度の増加は、いずれもその水和物の蓄熱速度の増加に寄与している。水和物の成長はその生成を前提としているという観点からは、生成速度の増加の方が成長速度の増加よりも、蓄熱速度の増加に必要的に寄与しているといえるが、生成した水和物の結晶が別の結晶が生成する際の核となるという観点からは、成長速度の増加も蓄熱速度の増加に寄与しているといえる。
本発明の第6の形態によれば、四級アンモニウム塩とアルカリ金属のリン酸塩を含む水溶液を冷却することとにより前記第四級アンモニウム塩をゲスト化合物とする包接水和物を生成させるので、その生成の際におこる当該水溶液の過冷却を防止又は抑制することができる技術を実現することができる。
以下、実施例により発明を詳細に説明する。
<水和物生成ビーカー実験>
四級アンモニウム塩の典型例としての臭化テトラnブチルアンモニウム(TBAB)の水溶液に、アルカリ金属のリン酸塩の典型例としてのナトリウムのリン酸塩またはカリウムのリン酸塩を添加して、包接水和物の生成挙動と蓄熱量を調べた。
TBAB16wt%水溶液をブランクの原料水溶液とし、その水和物生成温度は7℃以上9℃未満である。
[実験方法]
原料水溶液を90g入れ回転攪拌翼を設けたガラスビーカを4℃の冷却液に挿入したり取り出したりして、冷却や冷却の一時停止を行い包接水和物の生成挙動を観察した。
また、生成した包接水和物をガラスビーカに備えた電気ヒータにより加熱して融解して水溶液温度が12℃になるまでの累積熱量を計測し、12℃を基準とした蓄熱量として求めた。12℃を基準とするのは、一般的なセントラル冷房空調システムにおいて負荷側に送った冷媒が戻ってくる温度が12℃であり、蓄熱剤または熱輸送媒体が一般的なセントラル冷房空調システムで用いられる際の温度範囲の上限温度が12℃であり、12℃までの温度範囲で保有する熱量を蓄熱量として評価するからである。
[比較例1]
TBAB水溶液のみ
常温のTBAB16wt%水溶液を入れたガラスビーカを4℃の冷却液に挿入し、水溶液を攪拌しながら冷却した。水溶液の温度が約4℃になり、60分経過したところで、水和物の生成は認められず、過冷却状態のままであった。
[比較例2]
常温のTBAB16wt%水溶液を入れたガラスビーカを4℃の冷却液に挿入し、水溶液を攪拌しながら冷却した。水溶液温度が5.4℃に到達した時点で、TBAB第一水和物の核を水和物生成用の核として1g投入した。TBAB第一水和物は、TBAB16wt%の水溶液をもとに別に作成したものを用いた。
前記核の投入と同時に、ガラスビーカを冷却液から取り出し冷却を一時停止し、攪拌は続けながら2.5分間保持した。この間に水溶液はスラリ状態を示すとともに、1〜1.5℃程度の温度上昇が計測された。TBAB水和物ができる反応は発熱反応であるので温度上昇と、目視でのスラリの確認から、TBAB水和物の生成が確認できた。
前記2.5分間の保持後、再度ガラスビーカを4℃の冷却液に挿入し、3分間、攪拌しながら冷却した。徐々にスラリの温度が低下しながら、目視でスラリの濃度が上昇していく様子が見えた。
前記3分間の冷却後、ガラスビーカを冷却液から取り出し、攪拌は続けながら冷却を停止し、1分間保持後、攪拌しながらガラスビーカに挿入されている電気ヒータにより一定電力で加熱した。加熱により水和物が融解しスラリは徐々に薄くなり、やがてほぼ透明な水溶液となった。水溶液温度が更に上昇して12℃に到達するまで、電気ヒータでの加熱を続けた。
水溶液温度が12℃に到達するまでの加熱量を求め、12℃を基準とした蓄熱量を求めたところ、水溶液1gあたり7.7calであった。
[比較例3]
比較例2において12℃まで加熱した水溶液を、さらに40℃まで加熱し再度冷却した。
即ち、40℃の水溶液が入ったガラスビーカを4℃の冷却液に挿入し、水溶液を攪拌しながら冷却した。水溶液の温度が約4℃になり、60分経過したところで、水和物の生成は認められなかった。
比較例2では、TBAB第一水和物を水和物生成用の核として投入したが、12℃まで加熱されて融解し2回目の冷却時には水和物生成用の核として機能しないことが確認できた。
[TBAB水溶液に、リン酸水素二カリウム2wt%添加]
TBAB 16wt%水溶液に、リン酸水素二カリウムを2wt%添加して原料水溶液を調整し、さらに水酸化ナトリウムを微量(0.1wt%以下)添加してpHを10.5に調整した。
常温の前記水溶液が入ったガラスビーカを4℃の冷却液中に挿入し、水溶液を攪拌しながら冷却した。水溶液温度が5.4℃に到達した時点で、TBAB第一水和物を水和物生成用の核として1g投入した。核として投入したTBAB第一水和物は、TBAB16wt%の水溶液をもとに別に作成したものを用いた。
水溶液温度が5.4℃に到達するまでの時間(冷却速度)は、比較例2と同じであった。
前記核の投入と同時に、ガラスビーカを冷却液から取り出し冷却を一時停止し、攪拌は続けながら2.5分間保持した。この間に水溶液はスラリ状態を示すとともに、温度上昇が計測され、目視でのスラリの確認と、温度上昇から、TBAB水和物の生成が確認できた。
なお、核を投入して過冷却を解除してからの温度上昇幅は1.5〜2℃程度であり、比較例2より0.5℃ほど大きかった。また、温度上昇の速度も比較例2と比べ大きかった。
前記2.5分間の保持後、再度ガラスビーカを4℃の冷却液に挿入し、3分間、攪拌しながら冷却した。徐々にスラリの温度が低下しながら、目視でスラリの濃度が上昇していく様子が見えた。
前記3分間の冷却後、ガラスビーカを冷却液から取り出し、攪拌は続けながら冷却を停止し、1分間保持後、攪拌しながらガラスビーカに挿入されている電気ヒータにより一定電力で加熱した。加熱により水和物が融解しスラリは徐々に薄くなり、やがてほぼ透明な水溶液となった。水溶液温度が更に上昇して12℃に到達するまで、電気ヒータでの加熱を続けた。
水溶液温度が12℃に到達するまでの加熱量を求め、12℃を基準とした蓄熱量を求めたところ水溶液1gあたり8.1calであった。比較例2と比べ水溶液1gあたり0.4cal増加しており、約5%の増加に相当する。
ここで、比較例2に比べて増加した実施例1の蓄熱量について、考察する。
実施例1の原料水溶液の比熱を測定したところ、リン酸水素二カリウムを2wt%添加したことによる変化は確認できなかった。また、本実施例1の冷却や加熱条件における、リン酸水素二カリウムおよびリン酸水素二カリウムの水和物の溶解度は十分大きく析出することはなかった。従って、リン酸水素二カリウムそのもの自体による蓄熱量への影響は極めて小さいといえ、実施例1ではTBABの水和物の蓄熱量が増加したと認められる。
このようにリン酸水素二カリウムの添加により、水溶液温度が12℃に達するまでの加熱量の増加、即ち一連の冷却過程でのTBABの水和物の蓄熱量を増加することができ、
すなわち蓄熱速度を向上させることができた。
また、過冷却を解除してからの温度上昇幅の増加(すなわち水和物生成量の増加)や、温度上昇速度の増加は、リン酸水素二カリウムの添加によりTBAB水和物の生成速度が増加していることを示している。
[TBAB水溶液に、リン酸水素二ナトリウム1wt%添加]
実施例1でリン酸水素二カリウムを2wt%添加することを、リン酸水素二ナトリウムを1wt%添加することとしたこと以外は、実施例1と同様に実験を実施した。
水溶液温度が5.4℃に到達するまでの時間(冷却速度)は、比較例2と同じであった。
核の投入と同時に、冷却を一時停止し保持した間に水溶液はスラリ状態を示すとともに、温度上昇が計測され、目視でのスラリの確認と、温度上昇から、TBAB水和物の生成が確認できた。なお、核を投入して過冷却を解除してからの温度上昇幅は1.5〜2℃程度であり、比較例2より0.5℃ほど大きかった。また、温度上昇の速度も比較例2と比べ大きかった。
水溶液温度が12℃に到達するまでの加熱量を求め、12℃を基準とした蓄熱量を求めたところ水溶液1gあたり8.1calであった。比較例2と比べ水溶液1gあたり0.4cal増加しており、約5%の増加に相当する。
ここで、比較例2に比べて増加した実施例2の蓄熱量について、考察する。
実施例2の原料水溶液の比熱を測定したところ、リン酸水素二ナトリウムを1wt%添加したことによる変化は確認できなかった。また、本実施例2の冷却や加熱条件における、リン酸水素二ナトリウムおよびリン酸水素二ナトリウムの水和物の溶解度は十分大きく析出することはなかった。従って、リン酸水素二ナトリウムそのもの自体による蓄熱量への影響は極めて小さいといえ、実施例2ではTBABの水和物の蓄熱量が増加したと認められる。
このようにリン酸水素二ナトリウムの1wt%添加により、水溶液温度が12℃に達するまでの加熱量の増加、即ち一連の冷却過程でのTBABの水和物の蓄熱量を増加することができ、
すなわち蓄熱速度を向上させることができた。
また、過冷却を解除してからの温度上昇幅の増加(すなわち水和物生成量の増加)や、温度上昇速度の増加は、リン酸水素二ナトリウムの添加によりTBAB水和物の生成速度が増加していることを示している。
[TBAB水溶液に、リン酸水素二ナトリウム3wt%添加]
実施例1でリン酸水素二カリウムを2wt%添加することを、リン酸水素二ナトリウムを3wt%添加することとしたこと、さらに実施例1でTBAB第一水和物を水和物生成用の核として投入したことを、水和物生成用の核を投入しないこととしたこと以外は、実施例1と同様に実験を実施した。
常温の原料水溶液が入ったガラスビーカを4℃の冷却液に挿入し、水溶液を攪拌しながら冷却した。水溶液の温度が約7℃となったところで、水溶液の温度上昇が計測され、更に冷却を継続して水溶液温度が5℃になったところで2度目の温度上昇が計測された。2度目の温度上昇は、常温の水溶液の冷却を開始してから10分以内に起きた。
2度目の温度上昇が計測されたときの水溶液はスラリ状態を呈しており、TBAB水和物の生成が認められた。
すなわち、実施例3のごとくTBAB水溶液に、リン酸水素二ナトリウムを3wt%添加した原料水溶液においては、水和物生成用の核としてTBAB第一水和物を投入するような特段の過冷却解除の操作をすることなく、過冷却解除が達成できることが分かった。
比較例1と同じように60分経過した時点では、濃厚なスラリが生成しており、そのスラリの温度もほぼ4℃となっていた。12℃に達するまでの加熱量は、比較例1に比べて2倍以上であった。
このようにリン酸水素二ナトリウムの3wt%添加により、水溶液温度が12℃に達するまでの加熱量の増加、即ち一連の冷却過程でのTBABの水和物の蓄熱量を増加することができ、すなわち蓄熱速度を向上させることができた。
実施例3の原料水溶液(TBAB水溶液に、リン酸水素二ナトリウム3wt%添加)を用いて加熱と冷却を繰り返す実験を行なった。
実施例3の実験を行なった後、さらに40℃まで加熱した後の水溶液を再度冷却した。
即ち、40℃の水溶液が入ったガラスビーカを4℃の冷却液に挿入し、水溶液を攪拌しながら冷却した。 その結果、水溶液が約5〜7℃になったところで、過冷却が解除され、温度上昇とともに水和物の生成が確認された。
以降、同じ水溶液を12℃まで加熱した後、冷却することを繰り返したが、同様に約5〜7℃にて過冷却解除が見られた。
TBAB水溶液に、リン酸水素二ナトリウムを3wt%添加した原料水溶液においては、水和物生成用の核としてTBAB第一水和物を投入するような特段の過冷却解除の操作をすることなく、過冷却解除が達成されることが分かった。
[TBAB13wt%水溶液に、リン酸水素二カリウム9wt%添加]
TBAB13wt%水溶液に、リン酸水素二カリウムを9wt%添加して原料水溶液を調整し、更に水酸化ナトリウムを微量(0.1wt%以下)添加してpHを10.5に調整した。
常温の前記水溶液が入ったガラスビーカを4℃の冷却液中に挿入し、水溶液を攪拌しながら冷却した。水溶液温度が5.4℃に到達した時点で、TBAB第一水和物を水和物生成用の核として1g投入して、過冷却を解除させた。核として投入したTBAB一水和物は、TBAB16wt%の水溶液をもとに別に作成したものを用いた。
水溶液温度が5.4℃に到達するまでの時間(冷却速度)は、比較例2とほぼ同じであった。
前記核の投入と同時に、ガラスビーカを冷却液から取り出し冷却を一時停止し、攪拌は続けながら2.5分間保持した。この間に水溶液はスラリ状態を示すとともに、温度上昇が計測され、目視でのスラリの確認と、温度上昇から、水和物の生成が確認できた。
なお、核を投入して過冷却を解除してからの温度上昇幅は3〜4℃程度であり、比較例2より2.5℃ほど大きかった。また、温度上昇の速度も比較例2と比べ大きかった。
前記2.5分間の保持後、再度ガラスビーカを4℃の冷却液に挿入し、3分間、攪拌しながら冷却した。徐々にスラリの温度が低下しながら、目視でスラリの濃度が上昇していく様子が見えた。
前記3分間の冷却後、ガラスビーカを冷却液から取り出し、攪拌は続けながら冷却を停止し、1分間保持後、攪拌しながらガラスビーカに挿入されている電気ヒータにより一定電力で加熱した。加熱により水和物が融解しスラリは徐々に薄くなり、やがてほぼ透明な水溶液となった。水溶液温度が更に上昇して12℃に到達するまで、電気ヒータでの加熱を続けた。
水溶液温度が12℃に到達するまでの加熱量を求め、12℃を基準とした蓄熱量を求めたところ水溶液1gあたり10.1calであった。比較例2と比べ水溶液1gあたり2.4cal増加しており、約31%の増加に相当する。
実施例5の原料水溶液の比熱を測定したところ、TBAB13%水溶液にリン酸水素二カリウムを9wt%添加したことによる変化は確認できなかった。また、本実施例5の冷却や加熱条件における、リン酸水素二カリウムおよびリン酸水素二カリウムの水和物の溶解度は十分に大きく析出することはなかった。従って、リン酸水素二カリウムそのもの自体による蓄熱量への影響は極めて小さいといえ、実施例5ではTBAB由来の水和物の生成速度が増加し、蓄熱量が増加したと言える。
[比較例4]
TBAB16wt%水溶液の代わりにTBAB13wt%水溶液を用いた以外は比較例2と同様に実験したところ、12℃を基準とした蓄熱量は、比較例2より下回った。
実施例5で示したように、TBAB13wt%水溶液にリン酸水素二カリウムを9wt%添加することにより、比較例2のTBAB16wt%水溶液と比べて、TBAB濃度が低いのにも関わらず、12℃を基準とした蓄熱量を大幅に増加することができ、すなわち蓄熱速度を向上させることができた。
また、リン酸水素二カリウムの添加により、所望の蓄熱量を得るために必要なTBABの量を相対的に減少させることができることを意味している。
このように安価なアルカリ金属のリン酸塩を添加することにより、同じ蓄熱量を有する包接水和物及びそのスラリ並びに当該包接水和物を含む潜熱蓄熱剤を得るために必要な、高価な第四級アンモニウム塩の量を相対的に減少させることができる。
それ故、同じ蓄熱量を有する包接水和物及びそのスラリ並びに当該包接水和物を含む潜熱蓄熱剤をより安価に実現することができ、これらの物質を使用する技術の経済性を向上させることができる。

Claims (2)

  1. 第四級アンモニウム塩を含む水溶液を冷却することにより生成される前記第四級アンモニウム塩をゲスト化合物とする包接水和物を含む蓄熱剤であって、前記水溶液にアルカリ金属のリン酸塩が添加されていることにより蓄熱速度が高められていることを特徴とする蓄熱剤。
  2. 第四級アンモニウム塩を含む水溶液を冷却することにより生成する第四級アンモニウム塩をゲスト化合物とする包接水和物の蓄熱速度を増加させる方法であって、アルカリ金属のリン酸塩が添加された前記水溶液を準備する工程と、アルカリ金属のリン酸塩を添加された前記水溶液を冷却する工程とを有することを特徴とする包接水和物の蓄熱速度を増加させる方法。
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