JP4895007B2 - 蓄熱剤の調製方法 - Google Patents
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また、空調システムにおいては設備費や運転費の削減のため、熱媒体を輸送するポンプ動力の低減が求められており、熱輸送密度を増大させるために蓄熱密度の高い潜熱蓄熱剤を用いることが検討されている。
このような潜熱蓄熱剤として、テトラアルキルアンモニウム化合物の準包接水和物が知られている。
また、テトラアルキルアンモニウム化合物の準包接水和物は、調和融点が氷の融点の0℃よりも高いため、蓄熱剤を冷却して水和物を生成する際の冷媒の温度が高くてよく、冷凍機の成績係数(COP)が高くなり省エネルギーが図れるという利点もある。
なお、調和融点とはある水和物数をもった水和物が生成する際、水溶液(液相)から水和物(固相)に変相する前後の組成が変わらない場合(例えばもとの液相と同じ組成の固相を生じる)の温度をいう。なお、縦軸を融点温度、横軸を組成とした状態図では極大点が調和融点となる。調和濃度より濃度が低くなるか高くなると、水和物生成温度及び融解温度は調和融点より低くなる。
特許文献1では、冷熱輸送媒体は、蓄熱スラリからなることが開示されている。この蓄熱スラリは、水に代表される溶媒中にテトラアルキルアンモニウム化合物の準包接水和物固体が分散したものであり、溶媒と準包接水和物固体の比重は全く同じではないものの、空調用配管などに流通させて熱輸送媒体として利用するという使用条件の下では水和物は溶媒中に十分良好に分散して熱輸送媒体として好適に利用できるものである。
以下、この点を詳細に説明する。
蓄熱が求められる温度が蓄熱剤の調和融点以下の場合、調和融点を与える濃度(調和濃度という)未満の濃度の蓄熱剤生成物質を含む水溶液を冷却することになる。調和濃度未満の濃度の蓄熱剤生成物質を含む水溶液を冷却すると、水和物が生成するにしたがって未だ水和物になっていない水溶液中の蓄熱剤生成物質濃度が低下し、当該水溶液の融点が低下する。そのため水和物が生成されるにしたがって水溶液を冷却するために熱交換器に供給する冷媒温度がより低い温度になるように、冷凍機を運転する必要がある。すると、冷凍機のCOPが低下してしまい、要求される冷媒温度があまり低くなると冷凍機のCOPの低下率が大きくなりすぎるため、それ以上冷媒温度を下げるのは省エネルギーの観点から好ましくない場合が生ずる。
このような事情から、蓄熱槽内の蓄熱剤生成物質を含む水溶液中に蓄熱に寄与しない蓄熱剤生成物質が残存する場合が生ずるのである。
蓄熱剤生成物質を含む水溶液を冷却して生成される水和物が水溶液に分散してなる蓄熱性溶液のうち、当該水和物がスラリ状態で分散しているもの(以下、水和物固相の溶液中の比率(固相率)、水和物固相の分散均一性、水和物の形状を問わず、「蓄熱スラリ」という)は、流動性が高く搬送性に優れていることから熱輸送媒体として好適であることが知られている。
例えば、TBAB水溶液から生成されるTBAB水和物が水溶液中に分散した蓄熱スラリを冷房空調のための冷熱蓄熱輸送媒体として使用する場合に、仮にTBAB水和物の融点を8〜9℃に調整するとすれば、TBAB水溶液は約15〜20wt%の濃度に調整される。このようなTBAB水溶液を融点以下に冷却すると、TBAB水和物が生成して潜熱を蓄え、水溶液中に水和物が分散したスラリ状態になる。
例えば、前記15〜20wt%のTBAB水溶液の場合、冷却時に水溶液中のTBABの30〜40%程度が水和物になるが、残りのTBABは水溶液中に残存しており潜熱蓄熱に寄与しない。
しかし、蓄熱に寄与しない蓄熱剤生成物質が多く残存することは、蓄熱剤を収容する蓄熱槽容積を大きくする必要があることや、冷熱蓄熱輸送媒体の輸送量を多くする必要があることなどから、蓄熱効率を高めるという要望を満足させることができないこととなる。
また、蓄熱剤生成物質は価格が高い場合があり、そのうちの蓄熱に寄与しない割合が多いということはコストパフォーマンスが低くなることになる。
(A)第1の第4級アンモニウム化合物と外来の塩とを含む水溶液を冷却して準包接水和物を生成すると、第1の第4級アンモニウム化合物からできる第1の第4級アンモニウム化合物の準包接水和物以外に、第1の第4級アンモニウム化合物の陰イオンと、外来の塩の陰イオンとが置換した第2の第4級アンモニウム化合物の準包接水和物が生成する。
(B)第2の第4級アンモニウム化合物の準包接水和物もまた蓄熱性を有し、第1の第4級アンモニウム化合物の準包接水和物と異なる融点である。
(C)第1の第4級アンモニウム化合物の準包接水和物と第2の第4級アンモニウム化合物の準包接水和物の生成比率は、第1の第4級アンモニウム化合物と外来の塩の種類や濃度によって影響を受ける。
(D)第1の第4級アンモニウム化合物の準包接水和物と第2の第4級アンモニウム化合物の準包接水和物を併せて組成物とする蓄熱剤または蓄熱スラリを構成することができる。
(E)第1の第4級アンモニウム化合物を含む水溶液に外来の塩を加えることにより、蓄熱剤または蓄熱スラリとして用いる第1の第4級アンモニウム化合物の使用量を低減できる条件がある。
本発明は、上記の新たな知見を端緒とする新たな研究の結果に基づきなされたものであり、具体的には以下の構成を有するものである。
前記第1の第4級アンモニウム化合物の水和物と、前記第2の第4級アンモニウム化合物の水和物とを含む蓄熱剤を生成することを特徴とするものである。
固相率(重量分率、体積分率)が大きいと蓄熱スラリの粘度が高く流動性が低くなるので、蓄熱式空調システムの冷熱輸送媒体として配管内を流送させる場合には、流動性を考慮して適正な固相率に設定することが必要である。例えばTBAB水溶液を冷却して生成する蓄熱スラリでは、固相率を50重量%以下に、より好ましくは20重量%以下にすることにより、搬送性の優れた蓄熱スラリを得ることができる。
一方、本発明においては、第1の第4級アンモニウム化合物と外来の塩が蓄熱剤の構成物であるが、その一部のみが潜熱発揮に貢献する。外来の塩はその一部のイオンが第1の第4級アンモニウム化合物のイオンと置き換わり、第2の第4級アンモニウム化合物の水和物を形成し潜熱発揮に貢献するが、水和物を形成しない残りのイオンは潜熱発揮に貢献しない。
このように、本発明と従来知られている無機水和塩と無機塩との共融組成物とは、その構成物の潜熱蓄熱に用いられるものが一部であるか全部であるかが相違する。
前記第1の第4級アンモニウム化合物の水和物と、前記第2の第4級アンモニウム化合物の水和物とを含む蓄熱剤を生成することを特徴とすることから、蓄熱に寄与しない第1の第4級アンモニウム化合物の割合を少なくでき、コストパフォーマンスの高い蓄熱剤を得ることができる。
TBABのみの水溶液を冷却して得られる蓄熱スラリの融点と、TBABとNaClとの水溶液についてTBAB濃度とNaCl濃度を変えて調製した複数種類の水溶液を冷却して得られる蓄熱スラリの融点を、それぞれ測定した。その結果を表1に示す。
TBA-Br+Cl-→TBA-Cl+Br-
以下、この点を具体的に説明する。
一方、NaClの代わりに、NaBrをTBAB濃度10wt%のTBAB水溶液に加えたところ、NaBr濃度を10wt%まで添加したが、ほとんど蓄熱スラリの融点に変化がなかった。これは、NaBrから電離して生成する陰イオンは、TBABと同じBr−イオンであるため、陰イオンの置換の効果が無いためと考えられる。
このことは、融点9℃の蓄熱スラリを得るのにTBABのみの水溶液ではTBAB濃度は20%である必要があるのに対して、TBABの使用量を大幅に低減できることを示している。
本発明の実施例の蓄熱スラリと比較例の蓄熱スラリについて、流動性と蓄熱量についての比較を行った。
[実施例]
TBAB濃度10wt%、NaCl濃度4wt%の水溶液を冷却して、蓄熱スラリを生成し、流動性と蓄熱量を評価した。
水溶液を冷却すると約9℃になったときから水和物が生成し始めた。さらに冷却を続けると、水溶液温度が約6℃になったときに蓄熱スラリの粘度が高くなり、搬送するのに不適な程度にまで流動性が低下した。
粘度が高くなり流動性が低下した原因は、スラリ中に生成した固体水和物の比率つまり固相率が高くなりすぎためと考えられる。冷熱輸送媒体として蓄熱性スラリを好適に利用するためには、十分な流動性を確保する必要があり、すなわち固相率を高くしすぎないことが必要である。
なお、流動性が好適な約6℃までの冷却において蓄えられた潜熱蓄熱量は、約9cal/gであった。
TBAB濃度15%の水溶液を冷却して、蓄熱スラリを生成し、流動性と蓄熱量を評価した。
水溶液を冷却すると約8℃になったときから水和物が生成し始めた。さらに冷却を続けると、水溶液温度が約7℃になったときに蓄熱スラリの粘度が高くなり、搬送するのに不適な程度にまで流動性が低下した。粘度が高くなり流動性が低下した原因は、実施例と同様にスラリ中に生成した固体水和物の比率つまり固相率が高くなりすぎためと考えられる。
なお、流動性が好適な約7℃までの冷却において蓄えられた潜熱蓄熱量は、約9cal/gであった。
このことから、TBAB濃度10wt%、NaCl濃度4wt%の水溶液は、TBAB濃度15wt%の水溶液と同程度の蓄熱性能を有しながら、高価なTBABの使用量をほぼ2/3に節約することができることが分かる。
蓄熱スラリを蓄熱空調システムの冷熱輸送媒体として配管などで搬送する場合には、蓄熱スラリの流動性が適正となるように粘度を低くする必要があり、蓄熱スラリ中の水和物固相の比率(固相率)を適正な範囲にすることで良好な流動性の蓄熱スラリが得られる。例えばTBABのみの水溶液を冷却して生成される蓄熱スラリでは、固相率を50重量%以下に、より好ましくは20重量%以下にすることにより、搬送性の優れた蓄熱スラリを得ることができる。
一方、蓄熱スラリの蓄熱量と冷熱輸送量の点からは、固相率が高いほど水和物が多く存在して蓄熱量と冷熱輸送量を高くすることができる。
従って、蓄熱スラリを蓄熱空調システムの冷熱輸送媒体として配管などで搬送する場合には、搬送性および蓄熱量、冷熱輸送量とを考慮して、蓄熱スラリ中の水和物固相の比率(固相率)を適正な範囲にすることが必要である。
なお、固相率の高い蓄熱スラリは粘度が高く流動性が低いので、冷熱輸送媒体としては不適であるが、蓄熱槽内で蓄熱スラリを生成して貯留して蓄熱媒体として用いることができる。
とTBAClを含む水溶液を調製しておき、この水溶液とTBAB水溶液との混合水溶液を冷却して蓄熱スラリを得るようにしてもよい。
例えば、NaClの代わりにリン酸塩にも同様の効果があり、10wt%のTBAB水溶液に、K2HPO4を5%加えた場合の蓄熱スラリの融点は8℃、K2HPO4を9%加えた場合の蓄熱スラリの融点は9℃になり、TBAB単独の場合に比べて高くなる。
調和融点を与える濃度(調和濃度という)未満の濃度のTBAB水溶液を冷却すると、水和物が生成して水溶液中のTBAB濃度が低下するにつれて、融点が低下する。そのためTBAB水溶液を冷却するために熱交換器に供給する冷媒温度を低下した融点より十分に低い温度になるように、冷凍機を運転する必要がある。
この点、TBAB水溶液にNaClを添加することにより、混合物水溶液の融点がTBAB水溶液より高くなると、冷媒温度をTBABのみの水溶液に比べて高くして冷凍機を運転することができるので、冷凍機のCOPが向上して省エネルギーが可能となる。
Claims (2)
- 第1の第4級アンモニウム化合物を含む水溶液に、前記第1の第4級アンモニウム化合物から電離する第1の陰イオンとは異なる第2の陰イオンを電離させる塩であって、該塩の添加により、前記第1の第4級アンモニウム化合物の第1の陰イオンが前記第2の陰イオンに置換された第2の第4級アンモニウム化合物の水和物であって、かつ、その融点が第1の第4級アンモニウム化合物の水和物の融点より高い第2の第4級アンモニウム化合物の水和物を生成する塩を該塩の濃度が2重量%以上になるように前記水溶液に添加して冷却し、
前記第1の第4級アンモニウム化合物の水和物と、前記第2の第4級アンモニウム化合物の水和物とを含む蓄熱剤を生成することを特徴とする蓄熱剤の調製方法。 - 前記第1の第4級アンモニウム化合物が臭化テトラnブチルアンモニウムであり、前記第2の陰イオンがCl−であることを特徴とする請求項1に記載の蓄熱剤の調製方法。
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