JP5590102B2 - 包接水和物の蓄熱速度の増加方法、包接水和物が生成又は成長する速度の増加方法、包接水和物及び包接水和物のスラリ - Google Patents

包接水和物の蓄熱速度の増加方法、包接水和物が生成又は成長する速度の増加方法、包接水和物及び包接水和物のスラリ Download PDF

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Description

本発明は、潜熱蓄熱剤又はその成分として使用可能な包接水和物の蓄熱速度を高め得る技術に関し、より詳しくは、当該技術を基礎とする包接水和物を生成する性質を有する水溶液、第四級アンモニウム塩をゲスト化合物とする包接水和物及び当該包接水和物のスラリ並びに、包接水和物の生成方法、包接水和物が生成又は成長する速度を増加させる方法及び包接水和物が生成又は成長する際に起こる過冷却現象を防止又は抑制する方法等に関する。
なお、本発明において、次に掲げる用語は、別段の説明がなされる場合を除き、以下のとおり解釈されるものとする。
(1) 「包接水和物」には、準包接水和物が含まれる。
(2) 「包接水和物」は「水和物」と略称される場合がある。
(3) 「ゲスト化合物」は「ゲスト」と略称される場合がある。
(4) 「スラリ」とは、液体中に固体粒子が分散又は懸濁した状態又はその状態にある物質をいう。沈降しがちな固体粒子を浮遊状態とするために界面活性剤を添加したり、機械的に攪拌したりすることもあるが、液体中に固体粒子が分散又は懸濁している限り、「スラリ」という。液体中に固体粒子が分散又は懸濁している限り、その分散又は懸濁が不均一なものであっても、「スラリ」という。
(5) 「原料水溶液」とは、包接水和物のゲスト化合物を含む水溶液をいう。当該ゲスト化合物とは別の微量物質が添加されていても「原料水溶液」という。また、包接水和物が分散又は懸濁していても、包接水和物のゲスト化合物を含む水溶液であれば「原料水溶液」という。
(6) 「水和物生成温度」とは、原料水溶液を冷却したとき、包接水和物が生成するべき平衡温度をいう。原料水溶液のゲスト化合物の濃度により包接化合物が生成する温度が変動する場合であっても、これを「水和物生成温度」という。なお、簡便のため、「水和物生成温度」を「融点」という場合がある。
(7) 「第四級アンモニウム塩をゲスト化合物とする包接水和物」は「第四級アンモニウム塩の水和物」と略称される場合がある。具体的な第四級アンモニウム塩をゲスト化合物とする包接水和物についても、当該具体的な第四級アンモニウム塩の水和物と略称される場合があり、従って、例えば「テトラnブチルアンモニウム塩をゲスト化合物とする包接水和物」は「テトラnブチルアンモニウム塩の水和物」と略称される場合がある。
(8) 「冷熱」とは、0℃よりも高温で、30℃よりも低温の範囲の温度を与える又は当該温度に対応する熱エネルギーをいう。「冷熱範囲」とは、0℃よりも高温で、30℃よりも低温の温度範囲をいう。「蓄冷」とは、冷熱範囲に水和物生成温度を有する包接水和物による熱エネルギーの蓄積をいう。
(9) 「蓄熱性」とは、熱エネルギーを蓄積することができる性質をいう。冷熱を蓄積する性質を「蓄冷性」という場合がある。
(10) 「蓄熱剤」とは、熱エネルギーの貯蔵や輸送その他の使用の目的や態様、利用分野等の如何を問わず、蓄熱性を有する物質をいう。蓄冷性を有する物質を「蓄冷剤」という場合がある。蓄熱性を有する包接水和物は、「蓄熱剤」又は「蓄冷剤」の構成成分となり得る。
(11) 「蓄熱材」とは、蓄熱性を有する部材をいう。蓄熱剤は「蓄熱材」の構成要素となり得る。「蓄冷材」とは、蓄冷性を有する部材をいう。蓄冷剤は「蓄冷材」の構成要素となり得る。
(12) 「蓄熱速度」とは、単位体積もしくは単位重量の蓄熱剤が、ある条件の熱交換操作により単位時間内に蓄積できる熱エネルギーの量又はこれに正の相関関係を有するパラメータをいう。蓄冷剤が冷熱を蓄積する場合の同様な速度を「蓄冷速度」という場合がある。
(13) 「調和融点」とは、原料水溶液の液相から包接水和物が生成する際、原料水溶液中のゲスト化合物の濃度と包接水和物中のゲスト化合物の濃度とが等しく、包接水和物の生成の前後において当該液相の組成が変わらない場合の温度をいう。
なお、縦軸を水和物生成温度、横軸を原料水溶液の液相のゲスト化合物の濃度とした状態図では極大点が「調和融点」となる。また、調和融点を与える原料水溶液中のゲスト化合物の濃度を「調和融点濃度」という。調和融点濃度未満の濃度の原料水溶液から包接水和物を生成する場合には、包接水和物の生成につれて原料水溶液のゲスト化合物の濃度が低下し、その濃度に対する水和物生成温度が低下する。
包接水和物は、原料水溶液を水和物生成温度以下まで冷却することにより生成し、かくして生成される包接水和物の結晶には潜熱相当の熱エネルギーが蓄積されることから、潜熱蓄熱剤又はその成分として使用される。
上記の包接水和物の一例として非気体をゲストとするもの、即ち非気体包接水和物が知られており(非特許文献1)、その非気体包接水和物の代表例として、第四級アンモニウム塩をゲストとするものが知られている(特許文献1)。
多くの第四級アンモニウム塩の水和物は、常圧で生成し、水和物を生成する際の潜熱が大きく比較的蓄熱量が大きく、またパラフィンのように可燃性ではないため取り扱いも容易である。
また、多くの第四級アンモニウム塩の水和物は、調和融点又は水和物生成温度が氷の融点(常圧下で0℃)よりも高いため、蓄熱剤を冷却して水和物を生成する際の冷媒の温度が高くてよく、冷媒を冷却する冷凍機の成績係数(COP)が高くなり省エネルギーが図れるという利点もある。
更に、第四級アンモニウム塩の水和物は水や水溶液に分散又は懸濁し易く、概して分散状態が均一で凝集性が低く、相分離も顕著でなく、流動抵抗もかなり低いので、スラリとして製造すれば(特許文献2、特許文献3)、蓄熱材又は蓄熱剤や熱輸送媒体をスラリとして構成でき、取り扱うことができる(特許文献4、特許文献5)。
それ故、第四級アンモニウム塩の水和物は、蓄熱材若しくは蓄熱剤又はその構成要素若しくは構成成分として有望であるといえる。
なお、第四級アンモニウム塩の水和物の具体例は、テトラnブチルアンモニウム塩やトリnブチルnペンチルアンモニウム塩をゲスト化合物とする包接水和物であり、特に臭化テトラnブチルアンモニウム(TBAB)をゲストとする包接水和物については、水和数が互いに異なる第一水和物と第二水和物が存在することが知られている(特許文献6)。
また、蓄熱主剤であるテトラブチル硝酸アンモニウムに対し、多孔質固体物質中にテトラアルキルアンモニウム塩水和物を含浸させて、これを過冷却防止剤とすることが知られている(特許文献7)。
特公昭57−35224号公報 特開2004−3718号公報 特開2002−263470号公報 特開平10−259978号公報 特開2001−301884号公報 特開2001−280875号公報 特許第3324392号公報
川崎成武他1名、"気体水和物の冷熱蓄熱材への応用"、ケミカル・エンジニアリング、株式会社化学工業社、昭和57年8月1日、Vol.27、No.8、p.603、表1
さて、蓄熱剤を利用するにあたり、その蓄熱速度はより高いほど好ましいといってよい。蓄熱剤の蓄熱速度が高ければ、より短時間でより多くの熱エネルギーを蓄積できるので、例えば、蓄熱剤を使用している蓄熱式空調装置や設備の運転に時間的余裕や技術仕様上の余裕ができ、その装置や設備の設計が容易になり、その装置や設備の構成、機構、運転等の複雑化を回避できる場合も多く、延いてはコスト低減に通じることになるからである。それ故、蓄熱剤の蓄熱速度をより高める技術が求められている。
他方、包接水和物を蓄熱剤とした潜熱蓄熱の場合、包接水和物の蓄熱速度は、包接水和物の結晶の生成や成長に密接に関連してくる。包接水和物による潜熱蓄熱は、原料水溶液が水和物生成温度まで冷却されたとき、蓄熱性を有する包接水和物の結晶が生成し、成長するという現象を基礎としているからである。
また、包接水和物の結晶は構造が複雑であるため、例えば氷に比べて結晶の生成や成長が遅い。このことは、包接水和物の結晶の生成や成長が包接水和物による蓄熱の律速となり得ることを意味している。それ故、包接水和物による潜熱蓄熱において包接水和物の蓄熱速度をより高める技術を構築しようとする場合には、包接水和物の結晶の生成や成長の挙動をより好ましく改善する手法が求められてくる。
また、原料水溶液を冷却して第四級アンモニウム塩の水和物を生成させようとする場合、ある程度の冷却速度で冷却すると、水和物生成温度以下になっても、水和物が生成せず、溶液状態が少なくとも一時的に維持される現象、即ち過冷却現象が起こる。この現象は、水和物の結晶の生成や成長を遅延させ、総じて蓄熱剤の蓄熱速度を低下させる。それ故、この蓄熱速度の低下を回避する又は当該蓄熱速度をより高めるためには、原料水溶液の過冷却を防止又は抑制する手法が求められてくる。
尤も、過冷却現象の悪影響は蓄熱速度の低下に止まらない。例えば、原料水溶液の過冷却状態が予期せず解除されると、包接水和物の結晶が多量に生成し、成長し、装置や設備の正常な運転を妨げることもある。それ故、原料水溶液の過冷却を防止又は抑制する目的は、包接水和物の蓄熱速度の低下を回避するためだけのものではない。
このような背景から、包接水和物を潜熱蓄熱剤又はその成分として利用する際には、水和物生成の核となる微粒子を原料水溶液に添加する、熱交換器の伝熱面に機械的振動を印加する、原料水溶液を攪拌させる等々の手段を適用して過冷却現象を防止若しくは抑制する又は過冷却解除を促進させる工夫がなされる(例えば特許文献3参照)。
しかし、これらの手段を、包接水和物を潜熱蓄熱剤又はその成分として利用する装置や設備に付帯させることは、装置や設備の構成、機構、運転等の複雑化を招来し、コスト低減の要請に反することになる。それ故、過冷却現象を抑制又は防止するのであれば、原料水溶液への添加物を工夫して、上記のコスト低減の要請に応える手法の方が望ましい。
また、特許文献7における過冷却解除手法では、アルミナ粒子のような多孔質固体物質が蓄熱材に混合されることが必要であり、従って蓄熱材の設置やハンドリングが煩雑になる問題があった。しかも、この過冷却解除手法では過冷却防止剤であるフッ化テトラnブチルアンモニウム水和物が多孔質固体物質内に含浸又は内包されつつも、その外部の蓄熱材と物理的に接触してなくてはならないという矛盾を抱えているため、いずれ過冷却防止剤の溶け出し等が起きて効果が長続きしないという問題があった。更に、蓄熱材を冷熱輸送媒体として利用する又は配管、容器等の内部において流通させる用途において、この過冷却解除手法を適用しようとすると、過冷却防止剤が含浸又は内包されたアルミナ粒子のような多孔質固体物質を蓄熱材に混合して一緒に流通させることになるが、かかる多孔質固体物質による過冷却解除効果が長続きするとは原理的に考え難く、また実現例を知らない。
本発明は、以上の事情に鑑みてなされたものであり、原料水溶液に特定の添加物を投入することにより、包接水和物を蓄熱剤とする場合の蓄熱速度を高める技術及び、過冷却を抑制又は防止する技術を提供することを目的とするものである。
発明者らは、鋭意研究の結果、テトラisoペンチルアンモニウム塩以外の第四級アンモニウム塩をゲスト化合物とする包接水和物を生成する性質を有する原料水溶液にテトラisoペンチルアンモニウム塩を添加すると、当該原料水溶液を冷却して包接水和物が生成する際、蓄熱速度が増加することを見出した。
また、発明者らは、テトラisoペンチルアンモニウム塩以外の第四級アンモニウム塩をゲスト化合物とする包接水和物を生成する性質を有する原料水溶液にテトラisoペンチルアンモニウム塩を添加すると、当該原料水溶液を冷却して包接水和物が生成する際、過冷却が防止又は抑制されることを見出した。
本発明はこれらの新たな知見に基づいてなされたものであり、以下の構成を有するものである。
本発明の第1の形態に係る水溶液(原料水溶液)は、テトラisoペンチルアンモニウム塩以外の第四級アンモニウム塩を含み、冷却されて前記第四級アンモニウム塩をゲスト化合物とする包接水和物を生成する性質を有する水溶液であって、テトラisoペンチルアンモニウム塩が添加されていることを特徴とするものである。
本発明の第2の形態に係る包接水和物は、テトラisoペンチルアンモニウム塩以外の第四級アンモニウム塩を含むとともに、テトラisoペンチルアンモニウム塩が添加された水溶液を冷却することにより生成される前記第四級アンモニウム塩をゲスト化合物とすることを特徴とするものである。
本発明の第3の形態に係る包接水和物のスラリは、第2の形態に係る包接水和物が原料水溶液中に分散又は懸濁してなるものである。
本発明の第4の形態に係る包接水和物の生成方法は、テトラisoペンチルアンモニウム塩以外の第四級アンモニウム塩を含むとともに、テトラisoペンチルアンモニウム塩が添加された水溶液を準備する工程と、前記水溶液を冷却することにより前記第四級アンモニウム塩をゲスト化合物とする包接水和物を生成させる工程とを有することを特徴とするものである。
本発明の第5の形態に係る包接水和物が生成又は成長する速度を増加させる方法は、テトラisoペンチルアンモニウム塩以外の第四級アンモニウム塩を含む水溶液中に前記第四級アンモニウムをゲスト化合物とする包接水和物が生成又は成長する速度を増加させる方法であって、テトラisoペンチルアンモニウム塩が添加された前記水溶液を準備する工程と、テトラisoペンチルアンモニウム塩を添加された前記水溶液を冷却する工程とを有するものである。
本発明の第6の形態に係る包接水和物を生成させる際に起こる過冷却現象を防止又は抑制する方法は、テトラisoペンチルアンモニウム塩以外の第四級アンモニウム塩を含む水溶液を冷却することにより前記第四級アンモニウム塩をゲスト化合物とする包接水和物が生成又は成長する際に起こる過冷却現象を防止又は抑制する方法であって、テトラisoペンチルアンモニウム塩が添加された前記水溶液を準備する工程と、テトラisoペンチルアンモニウム塩が添加された前記水溶液を冷却する工程とを有することを特徴とする包接水和物が生成又は成長する際に起こる過冷却現象を防止又は抑制するものである。
テトラisoペンチルアンモニウム塩をゲスト化合物とする包接水和物の調和融点は30℃程度であり、テトラisoペンチルアンモニウム塩以外の多くの第四級アンモニウム塩をゲスト化合物とする包接水和物の調和融点に比べて高い。このため、テトラisoペンチルアンモニウム塩以外の第四級アンモニウム塩を含む水溶液を冷却して当該第四級アンモニウム塩の包接水和物を生成させる際に、テトラisoペンチルアンモニウム塩を添加しておくことにより、冷却過程でテトラisoペンチルアンモニウム塩の包接水和物が先に生成され、当該第四級アンモニウム塩の包接水和物の生成を促進して過冷却現象を防止又は抑制する効果を生むと考えられる。
また、テトラisoペンチルアンモニウム塩を非常に低い濃度(例えば1wt%以下)で添加した場合でも、過冷却現象を防止又は抑制する効果があることを見出した。
このようなテトラisoペンチルアンモニウム塩としては、臭化テトラisoペンチルアンモニウム、フッ化テトラisoペンチルアンモニウム、塩化テトラisoペンチルアンモニウムが挙げられる。また、アニオン部がリン酸、硝酸、硫酸などのテトラisoペンチルアンモニウム塩が挙げられる。
また、本発明において、テトラisoペンチルアンモニウム塩以外の第四級アンモニウム塩の典型例は、テトラnブチルアンモニウム塩である。
本発明によれば、テトラisoペンチルアンモニウム塩以外の第四級アンモニウム塩の水和物を生成する性質を有する原料水溶液に、テトラisoペンチルアンモニウム塩が添加されているので、当該原料水溶液が水和物生成温度以下に冷却されて水和物が生成する際、蓄熱速度が増加する(以下「蓄熱速度増加効果」という)。
また、本発明によれば、テトラisoペンチルアンモニウム塩以外の第四級アンモニウム塩の水和物を生成する性質を有する原料水溶液に、テトラisoペンチルアンモニウム塩が添加されているので、当該原料水溶液が水和物生成温度以下に冷却されて包接水和物が生成する際、過冷却を防止又は抑制することができる(以下「過冷却抑制効果」という)。総じていえば、本発明は、蓄熱速度増加効果及び過冷却抑制効果のうち少なくとも一方の効果を奏する。
本発明の各形態が奏する作用効果は、以下のとおりである。
本発明の第1の形態によれば、水和物生成温度以下に冷却されたときテトラisoペンチルアンモニウム塩以外の第四級アンモニウム塩の水和物を生成する性質を有し、その生成の際、その水和物の蓄熱速度を増加させることが可能な原料水溶液を実現することができる。
また、本発明の第1の形態によれば、水和物生成温度以下に冷却されたときテトラisoペンチルアンモニウム塩以外の第四級アンモニウム塩の水和物を生成する性質を有し、その冷却の際、過冷却が防止又は抑制される原料溶液を実現することができる。これらは、潜熱蓄熱剤又はその成分として使用される包接水和物を生成させる原料水溶液として好適である。
本発明の第2の形態によれば、蓄熱速度がより高い包接水和物を実現することができる。また、テトラisoペンチルアンモニウム塩以外の第四級アンモニウム塩の水和物を生成する性質を有する原料水溶液が水和物生成温度以下に冷却されたとき、当該原料水溶液の過冷却が防止又は抑制されて生成する包接水和物を実現することができる。これらは、潜熱蓄熱剤又はその成分として使用される包接水和物として好適である。
本発明の第3の形態によれば、第2の形態に係る包接水和物のスラリを実現することができる。このスラリは、第1の形態に係る原料水溶液を水和物生成温度以下に冷却することにより製造することができ、これをもって蓄熱材又は蓄熱剤や熱輸送媒体を構成でき、取り扱うことができる。
本発明の第4の形態によれば、テトラisoペンチルアンモニウム塩以外の第四級アンモニウム塩を含むとともに、テトラisoペンチルアンモニウム塩が添加された水溶液を冷却することとにより前記第四級アンモニウム塩をゲスト化合物とする包接水和物を生成させるので、蓄熱速度増加効果及び過冷却抑制効果のうち少なくとも一方の効果が発揮される。その結果、第2の形態に係る包接水和物を実現することができる。
本発明の第5の形態によれば、テトラisoペンチルアンモニウム塩以外の第四級アンモニウム塩を含むとともに、テトラisoペンチルアンモニウム塩が添加された水溶液を冷却することにより前記第四級アンモニウム塩をゲスト化合物とする包接水和物を生成させるので、前記第四級アンモニウムの水和物が生成又は成長する速度、総じて蓄熱速度を増加させることができる技術を実現することができる。
なお、水和物の生成速度の増加と成長速度の増加は、いずれも蓄熱速度の増加に寄与している。水和物の成長はその生成を前提としているという観点からは、生成速度の増加の方が成長速度の増加よりも、蓄熱速度の増加に必要的に寄与しているといえるが、生成した水和物の結晶が別の結晶が生成する際の核となるという観点からは、成長速度の増加も蓄熱速度の増加に寄与しているといえる。
本発明の第6の形態によれば、テトラisoペンチルアンモニウム塩以外の第四級アンモニウム塩を含むとともに、テトラisoペンチルアンモニウム塩が添加された水溶液を冷却することにより前記第四級アンモニウム塩をゲスト化合物とする包接水和物を生成させるので、その生成の際におこる当該水溶液の過冷却を防止又は抑制することができる技術を実現することができる。
以下、実施例により発明を詳細に説明する。
[水和物生成ビーカー実験]
テトラisoペンチルアンモニウム塩以外の第四級アンモニウム塩の典型例としての臭化テトラnブチルアンモニウム(TBAB)の水溶液に、テトラisoペンチルアンモニウム塩の典型例としての臭化テトラisoペンチルアンモニウム(以下TiPABという)を添加して、包接水和物の生成挙動と蓄冷量を調べた。
下記の比較例及び実施例では、生成した包接水和物をガラスビーカに備えてある電気ヒータにより加熱して融解し水溶液温度が12℃になるまでの電気量から熱量を計測し、12℃を基準とした蓄冷量として求めた。12℃を基準とするのは、一般的なセントラル冷房空調システムにおいて負荷側に送った冷媒が戻ってくる温度が12℃であり、蓄冷剤または冷熱輸送媒体が一般的なセントラル冷房空調システムで用いられる際の温度範囲の上限温度が12℃であり、12℃までの温度範囲で保有する熱量を蓄熱量として評価するからである。
また、TBABの水和物には水和数が26の第一水和物と水和数が36の第二水和物とがあるが、水溶液中のTBAB濃度や温度等の冷却条件によって、生成する水和物が異なる。この実験では、潜熱量がより大きい第二水和物を生成する条件で行なった。
[比較例1]
<TBAB 水溶液のみ 攪拌なし>
TBABの調和融点濃度である40.5wt%濃度の常温の水溶液をガラスビーカに90g入れ、ガラスビーカを1℃の冷却液に挿入し、水溶液の攪拌はせず静置状態で冷却した。
水溶液の温度が約1℃になり、10時間経過したところで、包接水和物の生成は認められず、過冷却状態のままであった。したがって、潜熱を蓄えることができなかった。
<TBAB水溶液に、TiPABを添加 攪拌なし>
TBABの調和融点濃度である40.5wt%濃度の常温の水溶液にTiPABを1wt%添加した水溶液をガラスビーカに90g入れ、ガラスビーカを1℃の冷却液に挿入し、水溶液の攪拌はせず静置状態で冷却した。
水溶液の温度が約1℃になり、5時間経過したところで、包接水和物の生成が見られた。さらに冷却を継続し、冷却開始から10時間経過したところで、ガラスビーカを冷却液から取り出し、ガラスビーカに備えてある電気ヒータにより加熱して包接水和物が融解し水溶液温度が12℃になるまでの電気量から熱量を計測し、12℃を基準とした蓄熱量として求めたところ、水溶液1gあたり28calであった。
TiPABを添加することにより、TBAB水溶液の過冷却が解除され、包接水和物が生成され潜熱を蓄えることができることが判明した。
また、この水溶液を40℃にまで加熱して、その後冷却する一連の凝固融解の操作を60回繰り返したが、過冷却が解除される効果の低下は認められなかった。凝固融解の過程で、水溶液組成に変化が無いので、過冷却解除効果の低下は原理的に起きないが、実験的にも実証された。
[比較例2]
<TBAB 水溶液のみ 攪拌あり>
TBAB14.5wt%濃度の常温の水溶液をガラスビーカに90g入れ、ガラスビーカを1℃の冷却液に挿入し、水溶液を攪拌しながら冷却した。水溶液の温度が約1℃になり、30分経過したところで、水和物の生成は認められず、過冷却状態のままであった。したがって、潜熱を蓄えることができなかった。
30分経過したところで、ガラスビーカを冷却液から取り出し、攪拌を続けながらガラスビーカに備えてある電気ヒータにより加熱して水溶液温度が12℃になるまでの電気量から熱量を計測し、12℃を基準とした蓄熱量として求めたところ、水溶液1gあたり9.9calであった。これは水溶液の温度が1℃から12℃まで上昇した際の顕熱に相当する。
<TBAB水溶液に、TiPABを添加 攪拌あり>
TBABの14.5wt%濃度の常温の水溶液にTiPABを0.025wt%添加した水溶液をガラスビーカに90g入れ、ガラスビーカを1℃の冷却液に挿入し、水溶液を攪拌しながら冷却した。 水溶液の温度が約1℃になり、16分経過したところで、包接水和物の生成が認められ、やがてスラリ状を呈した。
さらに冷却を継続し、冷却開始から30分経過したところで、ガラスビーカを冷却液から取り出し、攪拌を続けながらガラスビーカに備えてある電気ヒータにより加熱して包接水和物が融解し水溶液温度が12℃になるまでの電気量から熱量を計測し、12℃を基準とした蓄熱量として求めたところ、水溶液1gあたり16calであった。
蓄熱量は比較例2と比べ大幅に増加している。仮に添加されたTiPABが全て水和物になったとしても、水溶液1gあたり僅か0.03〜0.05calの潜熱を発生するにとどまると見積もられる。また、水溶液状態の比熱を測定したところ、濃度0.025wt%のTiPABの添加による比熱変化は確認できなかった。従って、TiPABそのもの自体による蓄熱量への影響は極めて小さいといえるので、実施例2ではTBABの包接水和物の蓄熱量が増加したと認められる。
TiPABを添加することにより、TBAB水溶液の過冷却解除が促進され、包接水和物の生成が進み潜熱の蓄積が促進されることが確認された。
すなわち蓄冷速度の向上が認められた。
[比較例3]
<TBAB 水溶液のみ、攪拌あり、水和物生成用の核を添加>
常温のTBAB14.5wt%水溶液90gを入れたガラスビーカを4℃の冷却液に挿入し、水溶液を攪拌しながら冷却した。水溶液温度が5.4℃に到達した時点で、TBAB第二水和物を水和物生成用の核として0.05g投入した。TBAB第二水和物は、TBAB14.5wt%の水溶液をもとに別に作成したものを用いた。
前記核の投入と同時に、ガラスビーカを冷却液から取り出し冷却を一時停止し、攪拌は続けながら2.5分間保持した。この間に水溶液はスラリ状態を示すとともに、1〜2℃程度の温度上昇が見られた。TBAB水和物ができる反応は発熱反応であるので温度上昇と、スラリ状態を呈したことの目視での確認から、TBAB水和物の生成が確認できた。ここで生成しているTBAB水和物は第二水和物である。
前記2.5分間の保持後、再度ガラスビーカを4℃の冷却液に挿入し、3分間、攪拌しながら冷却した。徐々にスラリの温度が低下しながら、目視でスラリの濃度が上昇していく様子が見えた。
前記3分間の冷却後、ガラスビーカを冷却液から取り出し、攪拌を続けながら冷却を停止し、1分間保持後、攪拌しながらガラスビーカに挿入されている電気ヒータにより一定電力で加熱した。 加熱により水和物が融解しスラリは徐々に薄くなり、やがて透明な水溶液となった。
水溶液温度が更に上昇して12℃に到達するまで、電気ヒータでの加熱を続けた。
水溶液温度が12℃に到達するまでの加熱量を求め、12℃を基準とした蓄熱量を求めたところ水溶液1gあたり8.4calであった。
<TBAB水溶液に、TiPABを0.01wt%添加、攪拌あり、水和物生成用の核を添加>
常温のTBAB14.5wt%水溶液に、TiPABを0.01wt%添加した水溶液を90g入れたガラスビーカを4℃の冷却液中に挿入し、水溶液を攪拌しながら冷却した。水溶液温度が5.4℃に到達した時点で、TBAB第二水和物を水和物生成用の核として0.05g投入した。核として投入したTBAB第二水和物は、TBAB14.5wt%の水溶液をもとに別に作成したものを用いた。
水溶液温度が5.4℃に到達するまでの時間(冷却速度)は、比較例3と同じであった。
前記核の投入と同時に、ガラスビーカを冷却液から取り出し冷却を一時停止し、攪拌を続けながら2.5分間保持した。この間に水溶液はスラリ状態を示すとともに、温度上昇が計測され、温度上昇と、スラリ状態を呈したことの目視での確認から、TBAB水和物の生成が確認できた。
なお、核を投入して過冷却を解除してからの温度上昇幅は2〜3℃程度であり、比較例3より大きかった。また、温度上昇の速度も比較例3と比べ大きかった。
前記2.5分間の保持後、再度ガラスビーカを4℃の冷却液に挿入し、3分間、攪拌しながら冷却した。徐々にスラリの温度が低下しながら、目視でスラリの濃度が上昇していく様子が見えた。
前記3分間の冷却後、ガラスビーカを冷却液から取り出し、攪拌を続けながら冷却を停止し、1分間保持後、攪拌しながらガラスビーカに挿入されている電気ヒータにより一定電力で加熱した。加熱により水和物が融解しスラリは徐々に薄くなり、やがて透明な水溶液となった。水溶液温度が更に上昇して12℃に到達するまで、電気ヒータでの加熱を続けた。
水溶液温度が12℃に到達するまでの加熱量を求め、12℃を基準とした蓄熱量を求めたところ水溶液1gあたり9.8calであった。 比較例3と比べ水溶液1gあたり1.4cal増加しており、約20%の増加に相当する。
ここで、比較例3に比べて増加した実施例3の蓄熱量について、考察する。
TiPABはTBABの約7/10000しか添加されていない。仮に添加されたTiPABが全て水和物になったとしても、水溶液1gあたり僅か0.01〜0.02calの潜熱を発生するにとどまると見積もられる。
また、水溶液状態の比熱を測定したところ、濃度0.01wt%のTiPABの添加による比熱変化は確認できなかった。従って、TiPABそのもの自体による蓄熱量への影響は極めて小さいといえ、実施例3ではTBABの第二水和物の蓄熱量が増加したと認められる。
このようにTiPABの添加により、水溶液温度が12℃に達するまでの加熱量の増加、即ち一連の冷却過程でのTBABの第二水和物の蓄熱量を増加することができ、すなわち蓄熱速度を向上させることができた。
また、過冷却を解除してからの温度上昇幅の増加(すなわち水和物生成量の増加)や、温度上昇速度の増加は、TiPABの添加によりTBAB水和物の生成速度が増加していることを示している。
[比較例4]
比較例3で、12℃まで加熱した後の水溶液を、再度冷却した。即ち、12℃の水溶液が入ったガラスビーカを4℃の冷却液に挿入し、水溶液を攪拌しながら冷却した。
水溶液の温度が約4℃になり、10分経過したところで、水和物の生成は認められなかった。
比較例3では、TBAB第二水和物を水和物生成用の核として投入したが、12℃まで加熱されて融解し2回目の冷却時には水和物生成用の核として機能しないことが確認できた。
TiPABの添加濃度を0.025wt%としたこと以外は、実施例3と同様に実験を実施した。
水溶液温度が12℃に到達するまでの加熱量すなわち蓄熱量は、比較例3よりも向上しており、実施例3と同程度であった。
この12℃まで加熱した後の水溶液について、再度冷却した。
即ち、12℃の水溶液が入ったガラスビーカを4℃の冷却液に挿入し、水溶液を攪拌しながら冷却した。
その結果、TBAB第二水和物を水和物生成用の核として投入しなくても、水溶液が約7℃になったところで、過冷却が解除され、温度上昇とともに水和物の生成が確認された。
以降、同じ水溶液を12℃まで加熱した後、冷却することを繰り返したが、同様に約7℃にて過冷却解除が見られた。
水溶液を加熱する温度を35℃とした場合は、冷却時の過冷却解除は見られなかった。
TiPAB水和物の調和融点は30℃であるが、35℃まで加熱するとTiPAB水和物が融解して水溶液にTiPAB水和物粒子が残存しなくなることから、冷却と12℃までの加熱を繰り返した場合にはTiPAB水和物粒子が残存してTBAB水和物生成時の過冷却解除効果を発現していることが推定される。
前記のような冷却と加熱を繰り返しても過冷却解除効果が発現するのは、添加するTiPABの濃度が0.025wt%以上である場合であることが、TiPABの濃度を変えた同様の実験を繰り返すことで分かった。
一度TiPAB水和物を生成させた後は、TBAB第二水和物を水和物生成用の核として投入するような特段の過冷却解除の操作をすることなく、冷却だけで過冷却解除が達成できることが分かった。
[熱交換器による実験]
プレート式熱交換器(高さ1.6m、幅0.6m、奥行き0.9m、片側の保有水量0.2m、対向流方式)を用いて、所定温度まで過冷却されたTBAB水溶液をさらに冷却して過冷却解除する実験を行なった。
水溶液はTBAB濃度14.5wt%であり、この濃度におけるTBABの包接水和物生成温度は8.1℃である。
当該熱交換器に冷水を流入し、対向して所定温度まで過冷却されたTBAB水溶液を流入して熱交換させてさらに冷却する。熱交換器に流入したTBAB水溶液は冷水によってさらに冷却され熱交換器から流出した後、下流の別の熱交換器により加熱され、当初の所定温度の過冷却状態に戻されてから当該熱交換器に再度流入される。
このTBAB水溶液の循環を行いながら、当該熱交換器から流出する流体の温度を計測して観察した。ここで流体とは、過冷却状態の水溶液または過冷却解除され包接水和物が生成して水溶液中に浮遊しているスラリをいう。
過冷却状態の水溶液が過冷却解除され包接水和物が生成されると、温度上昇が生じ熱交換器から流出する流体の温度が高くなる。熱交換器での熱交換を開始してから、過冷却解除され包接水和物が生成されてこの熱交換器から流出する流体の温度が上昇するまでの時間を過冷却解除までの時間として計測して、TBAB水溶液のみの場合と、TBAB水溶液にTiPABを添加した場合とを比較した。
その結果を表1に示す。なお、過冷却状態の水溶液の包接水和物生成温度に対する過冷却度が1.7度と1.4度の場合に、熱交換器から流出する流体の温度上昇が生じるまでの時間を過冷却解除までの時間として示す。
Figure 0005590102
TBAB水溶液にTiPABを添加することにより、添加しない場合に比べて過冷却解除までの時間が大幅に短くなり、過冷却解除が促進されることが判明した。また、TiPABの添加濃度が高いほど過冷却解除までの時間を短縮する効果が高いことが分かった。
TBAB水溶液にTiPABを添加することにより、過冷却解除が促進されTBAB包接水和物の生成速度が高くなるので、蓄冷速度を向上させることができることが判明した。
[タンクによる実験]
タンク内に過冷却状態のTBAB水溶液を流通させ過冷却解除させる実験を行なった。
熱交換機能を有さない円筒タンク(容積0.4m)の側面上方から過冷却状態のTBAB水溶液を流入し、タンク内を通過させる間に過冷却解除させ包接水和物を生成して水和物スラリを生成して、水和物スラリをタンク真下から抜き出す。
流入する過冷却状態のTBAB水溶液には、包接水和物生成の核として水和物スラリを少量添加する。流入する過冷却状態の水溶液の温度と、流出する水和物スラリの温度を計測し、タンク内での温度上昇を計測した。タンク内で水溶液が過冷却解除されると温度上昇が発生し、温度上昇の値が大きいほど過冷却解除の割合が大きいことを意味する。
過冷却解除割合をタンク内で全く温度が上昇せず過冷却解除が全く進まなかった場合を0とし、タンク内で完全に過冷却解除して水和物スラリが本来到達すべき温度に到達した場合を100%として定義し、これを評価した。
過冷却解除割合を求めた。
タンクに流入させる過冷却状態の水溶液の流量は約0.1m/minで、タンクは完全密閉である。TBAB水溶液の濃度は14.5wt%とした。
TBAB水溶液のみの場合と、TBAB水溶液にTiPABを添加した場合とを比較し、過冷却水溶液の包接水和物生成温度に対する過冷却度が1.7度と1.5度の場合における、タンク内の過冷却解除割合を求めた。
その結果を表2に示す。
Figure 0005590102
TBAB水溶液にTiPABを添加することにより、添加しない場合に比べて過冷却解除割合が大きくなり、過冷却解除が促進されることが判明した。また、TiPABの添加濃度が高いほど過冷却解除割合を大きくする効果が高いことが分かった。
TBAB水溶液にTiPABを添加することにより、過冷却解除が促進されTBAB包接水和物の生成速度が高くなるので、蓄冷速度を向上させることができる。
[二段熱交換器による実験]
水和物スラリにより蓄熱を行なうための水和物スラリ製造装置として、特開2004−3718号公報に記載されたものがあり、水和物のゲスト化合物の水溶液を過冷却する水溶液過冷却熱交換器と、水和物スラリを冷却する水和物スラリ熱交換器を設け、二つの熱交換器間の配管途中に過冷却を解除する手段として水和物結晶生成の核として水和物スラリを過冷却水溶液に注入する手段を設けたものがある。
この製造装置では、二つの熱交換器間の配管途中で十分に過冷却解除されないため、後段の水和物スラリ熱交換器で十分に水和物スラリを冷却することができないという問題があった。
そこで、水溶液の過冷却を解除する手段として二つの熱交換器間にバッファタンクを設け、バッファタンクに流入する過冷却水溶液に水和物結晶生成の核として水和物スラリを注入して、過冷却解除を促進させる水和物スラリ製造装置が考案された。
しかし、過冷却水溶液がバッファタンク内で流通する間に十分に過冷却解除されず、水和物スラリ熱交換器内での水和物スラリ冷却が十分に行えず蓄熱量が不足することがあり、この問題を解決するためにバッファタンクでの滞留時間を長くするようにするには、バッファタンクを大きくする必要がありコスト増や設置場所の確保が問題となる。
そこで、TBAB水溶液にTiPABを添加して、過冷却解除を促進し包接水和物の生成を進めて蓄熱量を向上させる効果を調べる実験を、水溶液過冷却熱交換器と水和物スラリ熱交換器の二つの熱交換器間にバッファタンクを設け、バッファタンクに流入する過冷却水溶液に水和物結晶生成の核として水和物スラリを添加する構成の実験装置を用いて行なった。TBAB水溶液の濃度は14.5wt%である。前段の水溶液過冷却熱交換器により冷却される水溶液の温度条件と水和物スラリ熱交換器に流入させる流量は一定として実験を行なった。
水和物スラリ熱交換器での交換熱量を、熱交換器に流入する冷水温度と熱交換器から流出する冷水温度と、冷水流量を計測して求めた。
水和物スラリ熱交換器に流入する冷水温度を3.7℃、4.6℃、5.6℃と変え、TBAB水溶液のみの場合と、TBAB水溶液にTiPABを添加した場合との水和物スラリ熱交換器での交換熱量を求め、結果を表3に示す。
Figure 0005590102
TBAB水溶液にTiPABを添加することにより、添加しない場合に比べて水和物スラリ熱交換器での交換熱量が大きくなっており、バッファタンク内で過冷却解除が十分に行なわれ包接水和物の生成が進み、蓄熱量が向上していることが判明した。また、TiPABの添加濃度が高いほど交換熱量が大きくなり蓄熱量を大きくする効果が高いことが分かった。
TBAB水溶液にTiPABを添加することにより、過冷却解除が促進されTBAB包接水和物の生成速度が高くなるので、蓄熱速度を向上させることができる。
TBAB水溶液にTiPABを添加することにより、過冷却解除を十分に行なうことができるため、バッファタンクでの滞留時間を長くするようにバッファタンクを大きくする必要がないので、コスト増が生じたり、設置場所の確保が問題となったりするような問題を解決できる。
また、本実験は継続的に約40日に渡って実施したが、添加剤の過冷却解除を促進しTBAB包接水和物の生成速度を高くして、蓄熱速度を向上させる効果の低下が見られることは無かった。この期間、水溶液は凝固融解が1400回繰り返されたが、その間に添加剤の上記の効果の低下は認められなかった。
上記実施の形態では、テトラisoペンチルアンモニウム塩以外の四級アンモニウム塩の典型例として臭化テトラnブチルアンモニウム(TBAB)を挙げ、テトラisoペンチルアンモニウム塩の典型例として臭化テトラisoペンチルアンモニウム(TiPAB)を挙げたが、四級アンモニウム塩としてのリン酸テトラnブチルアンモニウムの水溶液に、テトラisoペンチルアンモニウム塩としてリン酸テトラisoペンチルアンモニウムを添加することにより、過冷却解除を促進し包接水和物の生成を進めて蓄熱速度を増加させることもできる。
[比較例5]
<TBAB 水溶液に、TBAF(フッ化テトラnブチルアンモニウム)水溶液を含浸させた多孔質粒子を混合 攪拌なし>
TBABの調和融点濃度である40.5wt%濃度の常温の水溶液に、TBAFを含浸させた多孔質粒子を混合して実験を実施した。
多孔質流体には活性炭粒子を用い、TBAF調和融点濃度水溶液を40℃に温めた状態で前記活性炭と混合させ、真空/常圧の圧力変化を繰り返して、活性炭内部の気体を追い出しTBAF水溶液を含浸させた。
前記TBAB水溶液90gに準備した活性炭を混合し、試験に供した。混合した活性炭に含まれるTBAF調和融点濃度水溶液の量は、TBAB水溶液の約0.1%に相当した。
これらの混合物をガラスビーカに入れ、ガラスビーカを1℃の冷却液に挿入し、水溶液の攪拌はせず静置状態で冷却した。
水溶液の温度が約1℃になると活性炭周辺から包接水和物の生成が認められた。これを40℃に温めて融解しまた冷却する凝固融解操作を繰り返したところ、凝固融解の繰返し5回目で水和物結晶が生成しなくなった。
この比較例5で示されるように、TBAFの調和融点濃度水溶液を多孔質体である活性炭粒子に含浸させる方法では、凝固融解操作の繰返しによる過冷却防止性能の低下が著しく問題があることが判明した。
[比較例6]
比較例5の多孔質体の活性炭粒子をアルミナ多孔質体に代えて、同様に過冷却防止性能の評価を行なった。凝固融解操作の繰返し20回目で水和物結晶が生成しなくなった。
この場合も凝固融解操作の繰返しによる過冷却防止性能の低下が著しく問題があることが判明した。

Claims (4)

  1. 臭化テトラnブチルアンモニウムを含む水溶液を冷却して生成する前記臭化テトラnブチルアンモニウムの包接水和物の蓄熱速度を増加する方法であって、前記水溶液に臭化テトラisoペンチルアンモニウムを添加する工程を有することを特徴とする包接水和物の蓄熱速度の増加方法。
  2. 臭化テトラnブチルアンモニウムを含む水溶液を冷却して生成する前記臭化テトラnブチルアンモニウムの包接水和物が生成又は成長する速度を増加する方法であって、前記水溶液に臭化テトラisoペンチルアンモニウムを添加する工程を有することを特徴とする包接水和物が生成又は成長する速度の増加方法。
  3. 臭化テトラnブチルアンモニウムを含み、臭化テトラisoペンチルアンモニウムが添加されている原料水溶液を冷却して生成することを特徴とする包接水和物。
  4. 請求項3に記載の包接水和物が臭化テトラnブチルアンモニウムを含む水溶液中に分散又は懸濁してなることを特徴とする包接水和物のスラリ。
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