図1は、本発明が適用された車両用駆動装置10の構成を説明する骨子図である。この車両用駆動装置10は横置き型自動変速機であって、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)型車両に好適に採用されるものであり、走行用の動力源としてエンジン12を備えている。内燃機関にて構成されているエンジン12の出力は、エンジン12のクランク軸、流体式伝動装置としてのトルクコンバータ14から前後進切換装置16、ベルト式の無段変速機(CVT)18、減速歯車装置20を介して差動歯車装置22に伝達され、左右の駆動輪24L、24Rへ分配される。
トルクコンバータ14は、エンジン12のクランク軸に連結されたポンプ翼車14p、およびトルクコンバータ14の出力側部材に相当するタービン軸34を介して前後進切換装置16に連結されたタービン翼車14tを備えており、流体を介して動力伝達を行うようになっている。また、それ等のポンプ翼車14pおよびタービン翼車14tの間にはロックアップクラッチ26が設けられており、油圧制御回路100(図2、図3参照)内の図示しない切換弁などによって係合側油室および解放側油室に対する油圧供給が切り換えられることにより、係合または解放されるようになっており、完全係合させられることによってポンプ翼車14pおよびタービン翼車14tは一体回転させられる。ポンプ翼車14pには、無段変速機18を変速制御したり、伝動ベルト48の挟圧力(以下、ベルト挟圧力という)を発生させたり、ロックアップクラッチ26を係合解放制御したり、或いは各部に潤滑油を供給したりするための油圧をエンジン12により回転駆動されることにより発生する機械式のオイルポンプ28が連結されている。
前後進切換装置16は、ダブルピニオン型の遊星歯車装置を主体として構成されており、トルクコンバータ14のタービン軸34はサンギヤ16sに一体的に連結され、無段変速機18の入力軸36はキャリア16cに一体的に連結されている一方、キャリア16cとサンギヤ16sは前進用クラッチC1を介して選択的に連結され、リングギヤ16rは後進用ブレーキB1を介してハウジングに選択的に固定されるようになっている。前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1は断続装置に相当するもので、何れも油圧シリンダによって摩擦係合させられる油圧式摩擦係合装置である。
そして、前進用クラッチC1が係合させられるとともに後進用ブレーキB1が解放されると、前後進切換装置16は一体回転状態とされることによりタービン軸34が入力軸36に直結され、前進用動力伝達経路が成立(達成)させられて、前進方向の駆動力が無段変速機18側へ伝達される。また、後進用ブレーキB1が係合させられるとともに前進用クラッチC1が解放されると、前後進切換装置16は後進用動力伝達経路が成立(達成)させられて、入力軸36はタービン軸34に対して逆方向へ回転させられるようになり、後進方向の駆動力が無段変速機18側へ伝達される。また、前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1が共に解放されると、前後進切換装置16は動力伝達を遮断するニュートラル(遮断状態)になる。
無段変速機18は、入力軸36に設けられた入力側部材である有効径が可変の入力側可変プーリ(プライマリシーブ)42と、出力軸44に設けられた出力側部材である有効径が可変の出力側可変プーリ(セカンダリシーブ)46と、それ等の可変プーリ42、46に巻き掛けられた伝動ベルト48とを備えており、可変プーリ42、46と伝動ベルト48との間の摩擦力を介して動力伝達が行われる。
可変プーリ42および46は、入力軸36および出力軸44にそれぞれ固定された固定回転体42aおよび46aと、入力軸36および出力軸44に対して軸まわりの相対回転不能かつ軸方向の移動可能に設けられた可動回転体42bおよび46bと、それらの間のV溝幅を可変とする推力を付与する入力側油圧シリンダ42cおよび出力側油圧シリンダ46cとを備えて構成されており、入力側油圧シリンダ42cの油圧(変速制御圧PIN)が油圧制御回路100によって制御されることにより、両可変プーリ42、46のV溝幅が変化して伝動ベルト48の掛かり径(有効径)が変更され、変速比γ(=入力軸回転速度NIN/出力軸回転速度NOUT)が連続的に変化させられる。また、出力側油圧シリンダ46cの油圧(ベルト挟圧、挟圧力制御圧POUT)は、伝動ベルト48が滑りを生じないように油圧制御回路100によって調圧制御される。
図2は、図1の車両用駆動装置10などを制御するために車両に設けられた制御系統の要部を説明するブロック線図である。電子制御装置50は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、エンジン12の出力制御や無段変速機18の変速制御およびベルト挟圧力制御やロックアップクラッチ26のトルク容量制御等を実行するようになっており、必要に応じてエンジン制御用や無段変速機18およびロックアップクラッチ26の油圧制御用等に分けて構成される。
電子制御装置50には、エンジン回転速度センサ52により検出されたクランク軸回転角度(位置)ACR(°)およびエンジン12の回転速度(エンジン回転速度)NEに対応するクランク軸回転速度を表す信号、タービン回転速度センサ54により検出されたタービン軸34の回転速度(タービン回転速度)NTを表す信号、入力軸回転速度センサ56により検出された無段変速機18の入力回転速度である入力軸36の回転速度(入力軸回転速度)NINを表す信号、車速センサ(出力軸回転速度センサ)58により検出された無段変速機18の出力回転速度である出力軸44の回転速度(出力軸回転速度)NOUTすなわち出力軸回転速度NOUTに対応する車速Vを表す車速信号、スロットルセンサ60により検出されたエンジン12の吸気配管32(図1参照)に備えられた電子スロットル弁30のスロットル弁開度θTHを表すスロットル弁開度信号、冷却水温センサ62により検出されたエンジン12の冷却水温TWを表す信号、CVT油温センサ64により検出された無段変速機18内等の作動油(CVTフルード)の油温TCVTを表す信号、アクセル開度センサ66により検出されたアクセルペダル68の踏込操作量であるアクセル操作量(アクセル開度)Accを表すアクセル開度信号、フットブレーキスイッチ70により検出された常用ブレーキであるフットブレーキの操作の有無BONを表すブレーキ操作信号、レバーポジションセンサ72により検出されたシフトレバー74のレバーポジション(操作位置)PSHを表す操作位置信号などが供給されている。
また、電子制御装置50からは、エンジン12の出力制御の為のエンジン出力制御指令信号、例えば電子スロットル弁30の開閉を制御するためのスロットルアクチュエータ76を駆動するスロットル信号や燃料噴射装置78から噴射される燃料の量を制御するための噴射信号や点火装置80によるエンジン12の点火時期を制御するための点火時期信号などが出力される。また、無段変速機18の変速比γを変化させる為の変速制御指令信号例えば変速制御圧PINを制御するための指令信号、ベルト挟圧力を調整させる為の挟圧力制御指令信号例えば挟圧力制御圧POUTを制御するための指令信号、ロックアップクラッチ26の係合、解放、スリップ量を制御させる為のロックアップ制御指令信号例えば油圧制御回路100内の図示しないオンオフソレノイド弁やロックアップクラッチ26のトルク容量を調節するリニアソレノイド弁を駆動するための指令信号、ライン油圧PLを制御するリニアソレノイド弁SLTを駆動するための指令信号などが油圧制御回路100へ出力される。
このライン油圧PLは、例えば無段変速機18へ入力される変速機入力トルクTINに応じた値が得られるように出力された上記指令信号に従って駆動されるリニアソレノイド弁SLTの出力油圧である制御油圧PSLTに基づいて、油圧制御回路100内の図示しない例えばリリーフ型調圧弁(レギュレータバルブ)によってエンジン12により回転駆動される機械式オイルポンプ28から発生する油圧を元圧として調圧される。
シフトレバー74は、例えば運転席の近傍に配設され、5つのレバーポジション「P」、「R」、「N」、「D」、および「L」(図3参照)のうちの何れかへ手動操作されるようになっている。
「P」ポジション(レンジ)は車両用駆動装置10の動力伝達経路を解放しすなわち車両用駆動装置10の動力伝達が遮断されるニュートラル状態(中立状態)とし且つメカニカルパーキング機構によって機械的に出力軸44の回転を阻止(ロック)するための駐車ポジション(位置)であり、「R」ポジションは出力軸44の回転方向を逆回転とするための後進走行ポジション(位置)であり、「N」ポジションは車両用駆動装置10の動力伝達が遮断されるニュートラル状態とするための中立ポジション(位置)であり、「D」ポジションは無段変速機18の変速を許容する変速範囲で自動変速モードを成立させて自動変速制御を実行させる前進走行ポジション(位置)であり、「L」ポジションは強いエンジンブレーキが作用させられるエンジンブレーキポジション(位置)である。
図3は、油圧制御回路100のうち無段変速機18のベルト挟圧力制御、変速比制御、およびシフトレバー74の操作に伴う前進用クラッチC1或いは後進用ブレーキB1の係合油圧制御に関する部分を示す要部油圧回路図であり、伝動ベルト48が滑りを生じないように出力側油圧シリンダ46cの油圧である挟圧力制御圧POUTを調圧する挟圧力コントロールバルブ110、変速比γが連続的に変化させられるように入力側油圧シリンダ42cの油圧である変速制御圧PINを調圧する変速比コントロールバルブUP116および変速比コントロールバルブDN118、前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1が係合或いは解放されるようにシフトレバー74の操作に従って油路が機械的に切り換えられるマニュアルバルブ120を備えている。
上記マニュアルバルブ120において、入力ポート120aにはライン油圧PLを元圧として図示しないモジュレータバルブによって調圧された一定圧のモジュレータ油圧PMが供給される、すなわちモジュレータバルブによってモジュレータ油圧PMに調圧された作動油が供給される。
そして、シフトレバー74が「D」ポジション或いは「L」ポジションに操作されると、モジュレータ油圧PMが前進走行用出力圧として前進用出力ポート120fを経て前進用クラッチC1に供給され且つ後進用ブレーキB1内の作動油が後進用出力ポート120rから排出ポートEXを経て例えば大気圧にドレーン(排出)されるようにマニュアルバルブ120の油路が切り換えられ、前進用クラッチC1が係合させられると共に後進用ブレーキB1が解放させられる。
また、シフトレバー74が「R」ポジションに操作されると、モジュレータ油圧PMが後進走行用出力圧として後進用出力ポート120rを経て後進用ブレーキB1に供給され且つ前進用クラッチC1内の作動油が前進用出力ポート120fから排出ポートEXを経て例えば大気圧にドレーン(排出)されるようにマニュアルバルブ120の油路が切り換えられ、後進用ブレーキB1が係合させられると共に前進用クラッチC1が解放させられる。
また、シフトレバー74が「P」ポジションおよび「N」ポジションに操作されると、入力ポート120aから前進用出力ポート120fへの油路および入力ポート120aから後進用出力ポート120rへの油路がいずれも遮断され且つ前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1内の作動油が何れもマニュアルバルブ120からドレーンされるようにマニュアルバルブ120の油路が切り換えられ、前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1が共に解放させられる。
変速比コントロールバルブUP116は、軸方向へ移動可能に設けられることにより入出力ポート116tおよび入出力ポート116iを開閉するスプール弁子116aと、そのスプール弁子116aを入出力ポート116tと入出力ポート116iとが連通する方向へ付勢する付勢手段としてのスプリング116bと、そのスプリング116bを収容し、スプール弁子116aに入出力ポート116tと入出力ポート116iとが連通する方向の推力を付与するために電子制御装置50によってデューティ制御されるソレノイド弁DS2の出力油圧である制御油圧PS2を受け入れる油室116cと、スプール弁子116aに入出力ポート116iを閉弁する方向の推力を付与するために電子制御装置50によってデューティ制御されるソレノイド弁DS1の出力油圧である制御油圧PS1を受け入れる油室116dとを備えている。
また、変速比コントロールバルブDN118は、軸方向へ移動可能に設けられることにより入出力ポート118tを開閉するスプール弁子118aと、そのスプール弁子118aを閉弁方向へ付勢する付勢手段としてのスプリング118bと、そのスプリング118bを収容し、スプール弁子118aに閉弁方向の推力を付与するために電子制御装置50によってデューティ制御されるソレノイド弁DS1の出力油圧である制御油圧PS1を受け入れる油室118cと、スプール弁子118aに開弁方向の推力を付与するために電子制御装置50によってデューティ制御されるソレノイド弁DS2の出力油圧である制御油圧PS2を受け入れる油室118dとを備えている。
ソレノイド弁DS1は、入力側油圧シリンダ42cへ作動油を供給してその油圧(変速制御圧PIN)を高め入力側可変プーリ42のV溝幅を小さくして変速比γを小さくする側すなわちアップシフト側へ制御するために制御油圧PS1を出力する。また、ソレノイド弁DS2は、入力側油圧シリンダ42cの作動油を排出して変速制御圧PINを低め入力側可変プーリ42のV溝幅を大きくして変速比γを大きくする側すなわちダウンシフト側へ制御するために制御油圧PS2を出力する。
具体的には、制御油圧PS1が出力されると変速比コントロールバルブUP116に入力されたライン油圧PLが入力側油圧シリンダ42cへ供給されて変速制御圧PINが連続的に制御され、制御油圧PS2が出力されると入力側油圧シリンダ42cの作動油が入出力ポート116tから入出力ポート116iさらに入出力ポート118tを経て排出ポート118xから排出されて変速制御圧PINが連続的に制御される。
例えば図4に示すようなアクセル開度Accをパラメータとして車速Vと無段変速機18の目標入力軸回転速度NIN *との予め記憶された関係(変速マップ)から実際の車速Vおよびアクセル開度Accで示される車両状態に基づいて設定される目標入力軸回転速度NIN *と実際の入力軸回転速度(以下、実入力軸回転速度という)NINとが一致するように、それ等の回転速度差(偏差)ΔNIN(=NIN *−NIN)に応じて無段変速機18の変速が実行される、すなわち入力側油圧シリンダ42cに対する作動油の供給および排出により変速制御圧PINが調圧されて変速比γが連続的に変化させられる。
図4の変速マップは変速条件に相当するもので、車速Vが小さくアクセル開度Accが大きい程大きな変速比γになる目標入力軸回転速度NIN *が設定されるようになっている。また、車速Vは出力軸回転速度NOUTに対応するため、入力軸回転速度NINの目標値である目標入力軸回転速度NIN *は目標変速比に対応し、無段変速機18の最小変速比γmin と最大変速比γmax の範囲内で定められる。
挟圧力コントロールバルブ110は、軸方向へ移動可能に設けられることにより出力ポート110tを開閉するスプール弁子110aと、そのスプール弁子110aを開弁方向へ付勢する付勢手段としてのスプリング110bと、そのスプリング110bを収容し、スプール弁子110aに開弁方向の推力を付与するために電子制御装置50によってデューティ制御されるリニアソレノイド弁SLTの出力油圧である制御油圧PSLTを受け入れる油室110cと、スプール弁子110aに閉弁方向の推力を付与するために出力した挟圧力制御圧POUTを受け入れるフィードバック油室110dとを備えており、リニアソレノイド弁SLTからの制御油圧PSLTをパイロット圧としてライン油圧PLを連続的に調圧制御して挟圧力制御圧POUTを出力する。
例えば無段変速機18内の作動油(CVTフルード)の特性によって定まる予め記憶された摩擦特性(図7、8参照)から求められるベルト・プーリ間摩擦係数μに基づいて設定された可変プーリ42、46にベルト挟圧力を付与するために必要な出力側油圧シリンダ46cの目標ベルト挟圧POUT *すなわち必要油圧POUT *が得られるように出力側油圧シリンダ46cの挟圧力制御圧POUTが調圧され、この挟圧力制御圧POUTに応じてベルト挟圧力が増減させられる。
図5は、電子制御装置50による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図5において、変速制御手段150は、例えば図4に示すような変速マップから実際の車速Vおよびアクセル開度Accに基づいて目標入力軸回転速度NIN *を設定し、実入力軸回転速度NINがその目標入力軸回転速度NIN *と一致するように回転速度差ΔNIN(=NIN *−NIN)に応じて無段変速機18の変速比γをフィードバック制御する。すなわち、入力側油圧シリンダ42cの変速制御圧PINを調圧する変速制御指令信号(油圧指令)STを油圧制御回路100へ出力して変速比γを連続的に変化させる。
目標ベルト挟圧算出手段152は、次(式1)に示す関係から可変プーリ42、46のV溝角θ(図1参照)、変速機入力トルクTIN、ベルト・プーリ間摩擦係数μ、入力側可変プーリ42における伝動ベルト48の掛かり径(有効径)rIN、および出力側可変プーリ46(出力側油圧シリンダ46c)の受圧面積AOUTに基づいて目標ベルト挟圧(必要油圧)POUT *を算出する。なお、本実施例でのベルト・プーリ間摩擦係数μは、ベルトとプーリとの接触長さを加味した摩擦係数μである。また、この(式1)は、目標ベルト挟圧POUT *を算出するための基本式であって、油圧シリンダにおける遠心油圧力やリターンスプリング力などを加えて補正した式が用いられても良い。
POUT *=(COSθ×TIN)/(2×μ×rIN×AOUT) ・・・(式1)
変速機入力トルク算出手段154は、エンジン負荷例えばスロットル弁開度θTH(或いは吸入空気量QA、燃料噴射量F、空燃比QA/Fなど)をパラメータとしてエンジン回転速度NEと推定エンジントルク(エンジントルク推定値)TE0との予め実験的に求められて記憶された図6に示すような関係(エンジントルクマップ)から実際のエンジン回転速度NEおよびスロットル弁開度θTH(或いは吸入空気量QAなど)に基づいて求めた推定エンジントルクTE0を変速機入力トルクTINとして算出する。この実施例では便宜上トルクコンバータ14のトルク比(=トルクコンバータ14の出力トルク(以下トルコン出力トルクという)TT/トルクコンバータ14の入力トルク(以下トルコン入力トルクという)TP)を1とする。
なお、前進走行時には、前進用クラッチC1の係合によりタービン軸34が入力軸36に直結されて変速機入力トルクTINがトルコン出力トルクTTに等しくなることから、前進走行時と後進走行時とを特に区別しない場合にはトルコン出力トルクTTは変速機入力トルクTINを表すものとする。本実施例では、前進走行時を前提として変速機入力トルクTINを設定するが、後進走行時の場合にはトルコン出力トルクTTに前後進切換装置16の所定の変速比を掛けることにより変速機入力トルクTINとなる。
摩擦係数算出手段156は、例えば図7、8に示すようなCVT油温TCVTをパラメータとして無段変速機18の変速比γとベルト・プーリ間摩擦係数μとの予め定められて記憶された関係(摩擦特性マップ)から実際の変速比γおよびCVT油温TCVTに基づいてベルト・プーリ間摩擦係数μを算出する。この摩擦特性マップは、異なる作動油の特性毎に予め定められて記憶手段158に複数種類記憶されている。つまり、摩擦係数算出手段156は、記憶手段158に記憶された複数種類の摩擦特性マップから後述する摩擦特性決定手段160により決定された摩擦特性マップを用いて、作動油の特性に対応するベルト・プーリ間摩擦係数μを算出する。
前記図7はオイルAの摩擦特性マップmapμAであり、例えば予め設定された規定の作動油の特性である。また、前記図8はオイルBの摩擦特性マップmapμBであり、例えばオイルAとは異なる作動油へ交換された場合や異なる作動油を混ぜ合わされた場合や規定の作動油の特性が経時変化した場合等により想定しているオイルAよりもベルト・プーリ間摩擦係数μが高くなったときの作動油の特性である。
ベルト挟圧力制御手段162は、前記目標ベルト挟圧算出手段152により算出された目標ベルト挟圧POUT *が得られるように出力側油圧シリンダ46cの挟圧力制御圧POUTを調圧する挟圧力制御指令信号SBを油圧制御回路100へ出力してベルト挟圧力を増減させる。
油圧制御回路100は、前記変速制御指令信号STに従って無段変速機18の変速が実行されるようにソレノイド弁DS1およびソレノイド弁DS2を作動させて変速制御圧PINを調圧すると共に、前記挟圧力制御指令信号SBに従ってベルト挟圧力が増減されるようにリニアソレノイド弁SLTを作動させて挟圧力制御圧POUTを調圧する。
エンジン出力制御手段164は、エンジン12の出力制御の為にエンジン出力制御指令信号SE、例えばスロットル信号や噴射信号や点火時期信号などをそれぞれスロットルアクチュエータ76や燃料噴射装置78や点火装置80へ出力する。例えば、エンジン出力制御手段164は、アクセル開度Accが大きくなる程大きな開き角とされるように予め定められたスロットル開度θTHとなるように電子スロットル弁30を開閉するスロットル信号をスロットルアクチュエータ28へ出力し、スロットル開度θTHに対応する吸入空気量QAおよび燃料噴射量F(すなわち空燃比QA/F)となるように噴射信号を燃料噴射装置78へ出力してエンジントルクTEを制御する。
ここで、記憶手段158に記憶された複数種類の摩擦特性マップから摩擦特性決定手段160により実際の作動油の特性に対応する摩擦特性マップが選択される手順を詳細に説明する。
実際の作動油の特性を決定することが必要であるが、本実施例では伝動ベルト48のスリップ率SLIPを用いて実際の作動油の特性を決定する。所定の変速比γにおいて無負荷状態から伝動ベルト48に負荷をかけると、その負荷によって入力側可変プーリ42に巻き掛けられた伝動ベルト48が沈み込み(すなわち掛かり径rINが小さくなり)、元々の所定の変速比γより低速側(ローギヤ側)とされて無負荷状態に比較して出力軸回転速度NOUTが低下する。そして、無負荷状態すなわち変速機入力トルクTINが零のときの出力軸回転速度NOUT(TIN=0)から負荷TINをかけたことによって低下した回転速度(=NOUT(TIN=0)−NOUT(TIN))を出力軸回転速度NOUT(TIN=0)で除したものをスリップ率SLIPとする。
実スリップ率算出手段166は、無段変速機18への負荷すなわち変速機入力トルクTINと出力軸回転速度NOUTとに基づいて現在の変速比γにおける実際のスリップ率(以下、実スリップ率という)SLIP(γ)を算出する。具体的には、実スリップ率算出手段166は、次(式2)に示す関係から負荷TINをかけたときの出力軸回転速度NOUT(TIN)および無負荷状態のときの出力軸回転速度NOUT(TIN=0)に基づいて実スリップ率SLIP(γ)を算出する。
SLIP(γ)=1−NOUT(TIN)/NOUT(TIN=0) ・・・(式2)
図9、10は、挟圧力制御圧POUT一定時において、無段変速機18の変速比γをパラメータとして変速機入力トルクTINとスリップ率SLIPとの予め定められて記憶された関係(スリップ率特性マップ)である。このようなスリップ率特性マップは、異なる作動油の特性毎に予め定められて記憶手段158に複数種類記憶されている。
前記図9、10に示すように、本実施例の無段変速機18は、変速比γが大きい程すなわちローギヤ程、また変速機入力トルクTINが大きい程、伝動ベルト48の入力側可変プーリ42間の沈み込み量が大きくなって出力軸回転速度NOUTが回転変化しやす為、スリップ率SLIPが大きくなるような機械的な特徴がある。
また、作動油の特性が変化すると例えばベルト・プーリ間摩擦係数μが変化すると伝動ベルト48が入力側可変プーリ42間を沈み込む力が変化する。例えば、ベルト・プーリ間摩擦係数μが高い程、高抵抗になって伝動ベルト48が入力側可変プーリ42間を沈み込み難い傾向がある。前記図9は、例えば予め設定された規定の作動油の特性を持つ前記オイルAのスリップ率特性マップmapAである。図10は、そのオイルAよりもベルト・プーリ間摩擦係数μが高くなったときの作動油の特性を持つ前記オイルBのスリップ率特性マップmapBであり、全体にスリップ率SLIPが小さな傾向がある。但し、ベルト・プーリ間摩擦係数μのみに着目すれば、図9、10に示すようにベルト・プーリ間摩擦係数μが高い程スリップ率SLIPが小さくなる傾向があるが、作動油の様々な状態によって種々の傾向があり、実際の作動油においては必ずしもそのような傾向になるとは言えず、スリップ率特性マップは全体的な作動油の性質(特性)を含んだ上で(考慮した上で)予め実験的に求められてマップmapAとなったりマップmapBとなったりする。
作動油特性決定手段168は、前記記憶手段158に記憶されているスリップ率特性マップから求めたスリップ率SLIP(=map(TIN、γ))と前記実スリップ率算出手段166により算出された実スリップ率SLIP(γ)とを比較して、記憶手段158に記憶されている複数種類のスリップ率特性マップから実際の作動油の特性に対応するスリップ率特性マップを判別することにより、実際の作動油の特性を決定する。
具体的には、前記作動油特性決定手段168は、記憶手段158に記憶されているスリップ率特性マップmapAから前記変速機入力トルク算出手段154により算出された変速機入力トルクTINおよび実際の無段変速機18の変速比γに基づいてマップAスリップ率SLIP(=mapA(TIN、γ))を算出する。そして、実スリップ率SLIP(γ)とそのマップAスリップ率SLIPとの差ΔSA(=|SLIP(γ)−mapA(TIN、γ)|)が判定値αより小さいか否かを判定する。さらに、作動油特性決定手段168は、差ΔSAが判定値αより小さいと判定した場合は、実際の作動油の特性をオイルAの特性と決定し、すなわちオイルAを使用していると判定し、オイルA使用フラグXOILAをオン(XOILA=ON)にすると共にオイルB使用フラグXOILBをオフ(XOILB=OFF)にする。
また、前記作動油特性決定手段168は、同様に、記憶手段158に記憶されているスリップ率特性マップmapBから変速機入力トルクTINおよび変速比γに基づいてマップBスリップ率SLIP(=mapB(TIN、γ))を算出する。そして、実スリップ率SLIP(γ)とそのマップBスリップ率SLIPとの差ΔSB(=|SLIP(γ)−mapB(TIN、γ)|)が判定値αより小さいか否かを判定する。さらに、作動油特性決定手段168は、差ΔSBが判定値αより小さいと判定した場合は、実際の作動油の特性をオイルBの特性と決定し、すなわちオイルBを使用していると判定し、オイルB使用フラグXOILBをオン(XOILB=ON)にすると共にオイルA使用フラグXOILAをオフ(XOILA=OFF)にする。
前記判定値αは、実スリップ率SLIP(γ)がスリップ率特性マップから求めたスリップ率SLIPに近いか否かを判定して、実際の作動油の特性をそのスリップ率特性マップにおける作動油の特性と決定するための予め実験的に求められて記憶された判定値である。
前記摩擦特性決定手段160は、前記摩擦係数算出手段156により実際の作動油の特性に対応するベルト・プーリ間摩擦係数μが算出され、前記目標ベルト挟圧算出手段152により実際の作動油の特性に応じて目標ベルト挟圧POUT *が設定されるように、前記記憶手段158に記憶された複数種類の摩擦特性マップから前記作動油特性決定手段168により決定された実際の作動油の特性に基づいてその実際の作動油の特性に対応する摩擦特性マップを決定する。
具体的には、摩擦特性決定手段160は、オイルA使用フラグXOILAがオンであるか否かを判定し、オイルA使用フラグXOILAがオンである場合には摩擦特性マップmapμAを決定する一方で、オイルA使用フラグXOILAがオンでない場合には摩擦特性マップmapμBを決定する。
図11は、電子制御装置50の制御作動の要部すなわち作動油の特性を決定するための制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行されるものである。
先ず、前記実スリップ率算出手段166に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S1において、負荷TINをかけたときの出力軸回転速度NOUT(TIN)および無負荷状態のときの出力軸回転速度NOUT(TIN=0)に基づいて現在の変速比γにおける実スリップ率SLIP(γ)(=1−NOUT(TIN)/NOUT(TIN=0))が算出される。
続いて、前記作動油特性決定手段168に対応するS2において、前記記憶手段158に記憶されているスリップ率特性マップmapAから前記変速機入力トルク算出手段154により算出された変速機入力トルクTINおよび現在の変速比γに基づいてマップAスリップ率SLIP(=mapA(TIN、γ))が算出される。そして、前記S1にて算出された実スリップ率SLIP(γ)とそのマップAスリップ率SLIPとの差ΔSA(=|SLIP(γ)−mapA(TIN、γ)|)が判定値αより小さいか否かが判定される。
前記S2の判断が肯定される場合は同じく前記作動油特性決定手段168に対応するS3において、実際の作動油の特性がオイルAの特性と決定され、すなわちオイルAを使用していると判定され、オイルA使用フラグXOILAがオン(XOILA=ON)にされると共にオイルB使用フラグXOILBがオフ(XOILB=OFF)にされる。
前記S2の判断が否定される場合は同じく前記作動油特性決定手段168に対応するS4において、前記記憶手段158に記憶されているスリップ率特性マップmapBから前記変速機入力トルクTINおよび現在の変速比γに基づいてマップBスリップ率SLIP(=mapB(TIN、γ))が算出される。そして、前記S1にて算出された実スリップ率SLIP(γ)とそのマップBスリップ率SLIPとの差ΔSB(=|SLIP(γ)−mapB(TIN、γ)|)が判定値αより小さいか否かが判定される。
前記S4の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられるが肯定される場合は同じく前記作動油特性決定手段168に対応するS5において、実際の作動油の特性がオイルBの特性と決定され、すなわちオイルBを使用していると判定され、オイルB使用フラグXOILBがオン(XOILB=ON)にされると共にオイルA使用フラグXOILAがオフ(XOILA=OFF)にされる。
図12は、電子制御装置50の制御作動の要部すなわち目標ベルト挟圧POUT *を設定するための制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行されるものである。
先ず、前記摩擦特性決定手段160に対応するS11において、オイルA使用フラグXOILAがオンであるか否かが判定される。
前記S11の判断が肯定される場合は前記摩擦特性決定手段160および摩擦係数算出手段156に対応するS12において、記憶手段158に記憶された複数種類の摩擦特性マップから摩擦特性マップmapμAが決定されると共に、その摩擦特性マップmapμAから現在の変速比γおよびCVT油温TCVTに基づいてベルト・プーリ間摩擦係数μ(=mapμA(γ、TCVT))が算出される。
前記S11の判断が否定される場合は前記摩擦特性決定手段160および摩擦係数算出手段156に対応するS13において、記憶手段158に記憶された複数種類の摩擦特性マップから摩擦特性マップmapμBが決定されると共に、その摩擦特性マップmapμBから現在の変速比γおよびCVT油温TCVTに基づいてベルト・プーリ間摩擦係数μ(=mapμB(γ、TCVT))が算出される。
前記S12或いはS13に続いて、前記目標ベルト挟圧算出手段152に対応するS14において、可変プーリ42、46のV溝角θ、前記変速機入力トルク算出手段154により算出された変速機入力トルクTIN、前記S12或いはS13にて算出されたベルト・プーリ間摩擦係数μ、入力側可変プーリ42における伝動ベルト48の掛かり径rIN、および出力側油圧シリンダ46cの受圧面積AOUTに基づいて目標ベルト挟圧POUT *(=(COSθ×TIN)/(2×μ×rIN×AOUT))が算出される。
上述のように、本実施例によれば、作動油特性決定手段168により決定された実際の作動油の特性に応じて目標ベルト挟圧POUT *が設定されるように、予め定められて記憶手段158に記憶された複数種類の摩擦特性マップmapμから摩擦特性決定手段160によりその実際の作動油の特性に基づいてその実際の作動油の特性に対応する摩擦特性マップmapμが決定されるので、作動油の特性が規定の作動油とは異なる特性に変化した場合でも、実際の作動油の特性に応じた適切な目標ベルト挟圧POUT *が設定される。
また、本実施例によれば、前記摩擦特性マップmapμは、CVT油温TCVTをパラメータとして予め記憶された無段変速機18の変速比γとベルト・プーリ間摩擦係数μとの関係であるので、CVT油温TCVTを考慮した実際の作動油の特性に応じたベルト・プーリ間摩擦係数μが簡単に求められて、実際の作動油の特性に応じた適切な目標ベルト挟圧POUT *が設定される。
また、本実施例によれば、作動油特性決定手段168により、記憶手段158に記憶されているスリップ率特性マップから求めたスリップ率SLIP(=map(TIN、γ))と実スリップ率算出手段166により算出された実スリップ率SLIP(γ)とが比較されて、記憶手段158に記憶されている複数種類のスリップ率特性マップから実際の作動油の特性に対応するスリップ率特性マップが判別されることにより、実際の作動油の特性が決定されるので、実際の作動油の特性が簡単に決定される。
また、本実施例によれば、前記スリップ率特性マップは、挟圧力制御圧POUT一定時において、無段変速機18の変速比γをパラメータとして予め記憶された変速機入力トルクTINとスリップ率SLIPとの関係であるので、実際の作動油の特性が簡単に決定される。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前述の実施例において、作動油の特性に対応するスリップ率特性マップや摩擦特性マップとして、オイルAおよびオイルBにそれぞれ対応するスリップ率特性マップmapA、mapBや摩擦特性マップmapμA、mapμBを例示したが、これ以外にオイルAおよびオイルBとは異なる作動油の特性に対応するスリップ率特性マップや摩擦特性マップが記憶手段158に記憶されていても良い。そして、前述したように、作動油特性決定手段168により記憶手段158に記憶されている複数種類のスリップ率特性マップから実際の作動油の特性に対応するスリップ率特性マップが判別されて実際の作動油の特性が決定され、摩擦特性決定手段160により記憶手段158に記憶された複数種類の摩擦特性マップからその作動油特性決定手段168により決定された実際の作動油の特性に対応する摩擦特性マップが決定される。
また、前述の実施例において、実際の作動油の特性に対応するスリップ率特性マップや摩擦特性マップが記憶手段158に記憶されてない場合には、作動油特性決定手段168はそれぞれのスリップ率特性マップの間の値を補間することにより実際の作動油の特性を決定し、摩擦特性決定手段160は、その決定結果に基づいて、それぞれの摩擦特性マップの間の値を補間することにより実際の作動油の特性に対応する摩擦特性マップを求めても良い。
また、前述の実施例では、ベルト・プーリ間摩擦係数μは、ベルトとプーリとの接触長さを加味した摩擦係数μであったが、ベルトとプーリとの接触長さを加味しない単なる摩擦係数μであっても良い。この場合には、図7、8に示したような変速比γの変化に応じてベルト・プーリ間摩擦係数μが変化する摩擦特性マップに替えて、変速比γの変化に拘わらずベルト・プーリ間摩擦係数μが一律とされる摩擦特性マップが用いられ、前記(式1)においてベルトとプーリとの接触長さが加味される。
また、前述の実施例では、タービン回転速度NTや入力軸回転速度NINは、それぞれタービン回転速度センサ54や入力軸回転速度センサ56により検出されたが、出力軸回転速度センサ58により検出された出力軸回転速度NOUTと無段変速機18の変速比γとに基づいて算出(NIN=NOUT×γ)されても良い。また、同様に、駆動輪の回転速度と減速歯車装置20等の減速比および無段変速機18の変速比γとに基づいて算出されても良い。
また、前述の実施例において、エンジントルクTEや変速機入力トルクTINなどの動力伝達経路の回転部材における軸トルクは、それら動力伝達経路の回転部材に備えられたトルクセンサによって検出されても良い。
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。