図1は、本発明が適用された車両用駆動装置10の構成を説明する骨子図である。この車両用駆動装置10は横置き型自動変速機であって、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)型車両に好適に採用されるものであり、走行用の動力源としてエンジン12を備えている。内燃機関にて構成されているエンジン12の出力は、エンジン12のクランク軸、流体式伝動装置としてのトルクコンバータ14から前後進切換装置16、ベルト式の無段変速機(CVT)18、減速歯車装置20を介して差動歯車装置22に伝達され、左右の駆動輪24L、24Rへ分配される。
トルクコンバータ14は、エンジン12のクランク軸に連結されたポンプ翼車14p、およびトルクコンバータ14の出力側部材に相当するタービン軸34を介して前後進切換装置16に連結されたタービン翼車14tを備えており、流体を介して動力伝達を行うようになっている。また、それ等のポンプ翼車14pおよびタービン翼車14tの間にはロックアップクラッチ26が設けられており、油圧制御回路100(図2、図3参照)内の図示しないロックアップコントロールバルブ(L/C制御弁)などによって係合側油室および解放側油室に対する油圧供給が切り換えられることにより、係合または解放されるようになっており、完全係合させられることによってポンプ翼車14pおよびタービン翼車14tは一体回転させられる。ポンプ翼車14pには、無段変速機18を変速制御したりベルト挟圧力を発生させたり、ロックアップクラッチ26を係合解放制御したり、或いは各部に潤滑油を供給したりするための油圧をエンジン12により回転駆動されることにより発生する機械式のオイルポンプ28が連結されている。
前後進切換装置16は、ダブルピニオン型の遊星歯車装置を主体として構成されており、トルクコンバータ14のタービン軸34はサンギヤ16sに一体的に連結され、無段変速機18の入力軸36はキャリア16cに一体的に連結されている一方、キャリア16cとサンギヤ16sは前進用クラッチC1を介して選択的に連結され、リングギヤ16rは後進用ブレーキB1を介してハウジングに選択的に固定されるようになっている。前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1は断続装置に相当するもので、何れも油圧シリンダによって摩擦係合させられる油圧式摩擦係合装置である。
そして、前進用クラッチC1が係合させられるとともに後進用ブレーキB1が解放されると、前後進切換装置16は一体回転状態とされることによりタービン軸34が入力軸36に直結され、前進用動力伝達経路が成立(達成)させられて、前進方向の駆動力が無段変速機18側へ伝達される。また、後進用ブレーキB1が係合させられるとともに前進用クラッチC1が解放されると、前後進切換装置16は後進用動力伝達経路が成立(達成)させられて、入力軸36はタービン軸34に対して逆方向へ回転させられるようになり、後進方向の駆動力が無段変速機18側へ伝達される。また、前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1が共に解放されると、前後進切換装置16は動力伝達を遮断するニュートラル(遮断状態)になる。
無段変速機18は、入力軸36に設けられた入力側部材である有効径が可変の入力側可変プーリ(プライマリシーブ)42と、出力軸44に設けられた出力側部材である有効径が可変の出力側可変プーリ(セカンダリシーブ)46と、それ等の可変プーリ42、46に巻き掛けられた伝動ベルト48とを備えており、可変プーリ42、46と伝動ベルト48との間の摩擦力を介して動力伝達が行われる。
可変プーリ42および46は、入力軸36および出力軸44にそれぞれ固定された固定回転体42aおよび46aと、入力軸36および出力軸44に対して軸まわりの相対回転不能かつ軸方向の移動可能に設けられた可動回転体42bおよび46bと、それらの間のV溝幅を可変とする推力を付与する入力側油圧シリンダ42cおよび出力側油圧シリンダ46cとを備えて構成されており、入力側油圧シリンダ42cの油圧(変速制御圧PRATIO)が油圧制御回路100によって制御されることにより、両可変プーリ42、46のV溝幅が変化して伝動ベルト48の掛かり径(有効径)が変更され、変速比γ(=入力軸回転速度NIN/出力軸回転速度NOUT)が連続的に変化させられる。また、出力側油圧シリンダ46cの油圧(挟圧力制御圧PBELT)は、伝動ベルト48が滑りを生じないように油圧制御回路100によって調圧制御される。
図2は、図1の車両用駆動装置10などを制御するために車両に設けられた制御系統の要部を説明するブロック線図である。電子制御装置50は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、エンジン12の出力制御や無段変速機18の変速制御およびベルト挟圧力制御やロックアップクラッチ26のトルク容量制御等を実行するようになっており、必要に応じてエンジン制御用や無段変速機18およびロックアップクラッチ26の油圧制御用等に分けて構成される。
電子制御装置50には、エンジン回転速度センサ52により検出されたクランク軸回転角度(位置)ACR(°)およびエンジン12の回転速度(エンジン回転速度)NEに対応するクランク軸回転速度を表す信号、タービン回転速度センサ54により検出されたタービン軸34の回転速度(タービン回転速度)NTを表す信号、入力軸回転速度センサ56により検出された無段変速機18の入力回転速度である入力軸36の回転速度(入力軸回転速度)NINを表す信号、車速センサ(出力軸回転速度センサ)58により検出された無段変速機18の出力回転速度である出力軸44の回転速度(出力軸回転速度)NOUTすなわち出力軸回転速度NOUTに対応する車速Vを表す車速信号、スロットルセンサ60により検出されたエンジン12の吸気配管32(図1参照)に備えられた電子スロットル弁30のスロットル弁開度θTHを表すスロットル弁開度信号、冷却水温センサ62により検出されたエンジン12の冷却水温TWを表す信号、CVT油温センサ64により検出された無段変速機18等の油圧回路の油温TCVTを表す信号、アクセル開度センサ66により検出されたアクセルペダル68の操作量であるアクセル開度Accを表すアクセル開度信号、フットブレーキスイッチ70により検出された常用ブレーキであるフットブレーキの操作の有無BONを表すブレーキ操作信号、レバーポジションセンサ72により検出されたシフトレバー74のレバーポジション(操作位置)PSHを表す操作位置信号などが供給されている。
また、電子制御装置50からは、エンジン12の出力制御の為のエンジン出力制御指令信号SE、例えば電子スロットル弁30の開閉を制御するためのスロットルアクチュエータ76を駆動するスロットル信号や燃料噴射装置78から噴射される燃料の量を制御するための噴射信号や点火装置80によるエンジン12の点火時期を制御するための点火時期信号などが出力される。また、無段変速機18の変速比γを変化させる為の変速制御指令信号ST例えば変速制御圧PRATIOを制御するための指令信号、伝動ベルト48の挟圧力を調整させる為の挟圧力制御指令信号SB例えば挟圧力制御圧PBELTを制御するための指令信号、ロックアップクラッチ26の係合、解放、スリップ量を制御させる為のロックアップ制御指令信号例えば油圧制御回路100内の前記ロックアップコントロールバルブの弁位置を切り換える図示しないオンオフソレノイド弁DSUを駆動するための指令信号やロックアップクラッチ26のトルク容量を調節するソレノイド弁DS2を駆動するための指令信号、ライン油圧PLを制御するリニアソレノイド弁SLTやリニアソレノイド弁SLSを駆動するための指令信号などが油圧制御回路100へ出力される。
シフトレバー74は、例えば運転席の近傍に配設され、順次位置させられている5つのレバーポジション「P」、「R」、「N」、「D」、および「L」(図3参照)のうちの何れかへ手動操作されるようになっている。
「P」ポジション(レンジ)は車両用駆動装置10の動力伝達経路を解放しすなわち車両用駆動装置10の動力伝達が遮断されるニュートラル状態(中立状態)とし且つメカニカルパーキング機構によって機械的に出力軸44の回転を阻止(ロック)するための駐車ポジション(位置)であり、「R」ポジションは出力軸44の回転方向を逆回転とするための後進走行ポジション(位置)であり、「N」ポジションは車両用駆動装置10の動力伝達が遮断されるニュートラル状態とするための中立ポジション(位置)であり、「D」ポジションは無段変速機18の変速を許容する変速範囲で自動変速モードを成立させて自動変速制御を実行させる前進走行ポジション(位置)であり、「L」ポジションは強いエンジンブレーキが作用させられるエンジンブレーキポジション(位置)である。このように、「P」ポジションおよび「N」ポジションは車両を走行させないときに選択される非走行ポジションであり、「R」ポジション、「D」ポジションおよび「L」ポジションは車両を走行させるときに選択される走行ポジションである。
図3は、油圧制御回路100のうち無段変速機18のベルト挟圧力制御、変速比制御、およびシフトレバー74の操作に伴う前進用クラッチC1或いは後進用ブレーキB1の係合油圧制御に関する部分を示す要部油圧回路図である。図3において、油圧制御回路100は、伝動ベルト48が滑りを生じないように出力側油圧シリンダ46cの油圧である挟圧力制御圧PBELTを調圧する挟圧力コントロールバルブ110、リニアソレノイド弁SLTにより調圧された第1油圧としての制御油圧PSLTを出力する第1位置とライン圧モジュレータNO.2バルブ122からの第2油圧としての出力油圧PLM2を出力する第2位置とに切り換えられる切換弁として機能するクラッチアプライコントロールバルブ112、変速比γが連続的に変化させられるように入力側油圧シリンダ42cの油圧である変速制御圧PRATIOを調圧する変速比コントロールバルブUP114および変速比コントロールバルブDN116、変速制御圧PRATIOと挟圧力制御圧PBELTとの比率を予め定められた関係とする推力比コントロールバルブ118、前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1が係合或いは解放されるようにシフトレバー74の操作に従って油路が機械的に切り換えられるマニュアルバルブ120等を備えている。
また、ライン油圧PLは、エンジン12により回転駆動される機械式のオイルポンプ28(図1参照)から出力(発生)される作動油圧を元圧として、例えばリリーフ型のプライマリレギュレータバルブ(調圧弁)124によりリニアソレノイド弁SLTからの信号圧PSLT或いはリニアソレノイド弁SLSからの信号圧PSLSに基づいてエンジン負荷等に応じた値に調圧されるようになっている。上記出力油圧PLM2は、ライン油圧PLを元圧として前記ライン圧モジュレータNO.2バルブ122によりリニアソレノイド弁SLTからの信号圧PSLT或いはリニアソレノイド弁SLSからの信号圧PSLSに基づいて調圧されるようになっている。出力油圧PLM3は、制御油圧(信号圧)PSLTおよび信号圧PSLSの元圧となるものであって、ライン油圧PLを元圧としてライン圧モジュレータNO.3バルブ126により一定圧に調圧されるようになっている。モジュレータ油圧PMは、電子制御装置50によってデューティ制御されるソレノイド弁DS1の出力油圧である制御油圧PDS1およびソレノイド弁DS2の出力油圧である制御油圧PDS2の元圧となるものであって、出力油圧PLM3を元圧としてモジュレータバルブ128により一定圧に調圧されるようになっている。
前記マニュアルバルブ120において、入力ポート120aにはクラッチアプライコントロールバルブ112から出力された係合油圧PAが供給される。そして、シフトレバー74が「D」ポジション或いは「L」ポジションに操作されると、係合油圧PAが前進走行用出力圧として前進用出力ポート120fを経て前進用クラッチC1に供給され且つ後進用ブレーキB1内の作動油が後進用出力ポート120rから排出ポートEXを経て例えば大気圧にドレーン(排出)されるようにマニュアルバルブ120の油路が切り換えられ、前進用クラッチC1が係合させられると共に後進用ブレーキB1が解放させられる。
また、シフトレバー74が「R」ポジションに操作されると、係合油圧PAが後進走行用出力圧として後進用出力ポート120rを経て後進用ブレーキB1に供給され且つ前進用クラッチC1内の作動油が前進用出力ポート120fから排出ポートEXを経て例えば大気圧にドレーン(排出)されるようにマニュアルバルブ120の油路が切り換えられ、後進用ブレーキB1が係合させられると共に前進用クラッチC1が解放させられる。
また、シフトレバー74が「P」ポジションおよび「N」ポジションに操作されると、入力ポート120aから前進用出力ポート120fへの油路および入力ポート120aから後進用出力ポート120rへの油路がいずれも遮断され且つ前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1内の作動油が何れもマニュアルバルブ120からドレーンされるようにマニュアルバルブ120の油路が切り換えられ、前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1共に解放させられる。
前記クラッチアプライコントロールバルブ112は、軸方向へ移動可能に設けられることにより制御油圧PSLTを入力ポート112iから出力ポート112sを経て係合油圧PAとしてマニュアルバルブ120へ供給し且つ信号圧PSLSを入力ポート112jから出力ポート112tを経てライン圧モジュレータNO.2バルブ122およびプライマリレギュレータバルブ124へ供給する第1の油路を構成する第1位置(CONTROL位置)と出力油圧PLM2を入力ポート112kから出力ポート112sを経て係合油圧PAとしてマニュアルバルブ120へ供給し且つ制御油圧PSLTを入力ポート112iから出力ポート112tを経てライン圧モジュレータNO.2バルブ122およびプライマリレギュレータバルブ124へ供給する第2の油路を構成する第2位置(NORMAL位置)とに位置させられるスプール弁子112aと、そのスプール弁子112aを第2位置側に向かって付勢する付勢手段としてのスプリング112bと、スプール弁子112aに第1位置側に向かう推力を付与するために制御油圧PDS1を受け入れる油室112cと、スプール弁子112aに第1位置側に向かう推力を付与するために制御油圧PDS2を受け入れる径差部112dとを備えている。
このように構成されたクラッチアプライコントロールバルブ112において、例えば所定車速以下の低車速時や車両停止時等にシフトレバー74が「N」ポジションから「D」ポジション或いは「R」ポジションへ操作されるガレージシフト(N→Dシフト或いはN→Rシフト)が行われ、所定圧以上の制御油圧PDS1が油室112cへ供給され且つ所定圧以上の制御油圧PDS2が径差部112dへ供給されると、中心線より右側半分に示す第1位置側に切り換えられて制御油圧PSLTがマニュアルバルブ120を介して前進用クラッチC1或いは後進用ブレーキB1に供給される。これにより、ガレージシフト時のクラッチC1やブレーキB1の係合過渡油圧が第1の電磁弁としてのリニアソレノイド弁SLTによって調圧される。例えば、制御油圧PSLTは、N→Dシフト或いはN→RシフトにおいてクラッチC1やブレーキB1の過渡的な係合状態を制御するための油圧であって、クラッチC1或いはブレーキB1が滑らかに係合させられ、係合時のショックが抑制されるように、予め定められた規則に従って調圧される。
また、例えばガレージシフト後のクラッチC1やブレーキB1が係合させられた定常時等に、制御油圧PDS1および制御油圧PDS2のうち少なくとも一方の供給が停止させられると、中心線より左側半分に示す第2位置側に切り換えられて出力油圧PLM2がマニュアルバルブ120を介して前進用クラッチC1或いは後進用ブレーキB1に供給される。これにより、ガレージシフト後のクラッチC1やブレーキB1の係合が出力油圧PLM2によって保持される。例えば、出力油圧PLM2は、クラッチC1やブレーキB1を完全係合状態とするための所定油圧であって、少なくとも予め定められた一定圧に調圧されると共に信号圧PSLTに応じた油圧分を加えて調圧される。
このように、クラッチアプライコントロールバルブ112は、クラッチC1或いはブレーキB1への油圧の供給油路を、ガレージシフト時には前進用クラッチC1或いは後進用ブレーキB1の過渡的な係合状態を制御するために制御油圧PSLTを供給する第1油路と、定常時にはクラッチC1或いはブレーキB1を完全係合状態とするために出力油圧PLM2を供給する第2油路とのいずれかに、第2の電磁弁としてのソレノイド弁DS1およびソレノイド弁DS2からの制御油圧PDS1および制御油圧PDS2に基づいて切り換える切換弁として機能する。
尚、本実施例では、リニアソレノイド弁SLTの出力油圧を制御油圧PSLTと信号圧PSLTとで2通りの記載をしているが、ガレージシフト時の係合過渡油圧を制御油圧PSLTとし、ライン油圧PLを調圧するパイロット圧を信号圧PSLTとして明確に区別して用いる。すなわち、リニアソレノイド弁SLTは、クラッチアプライコントロールバルブ112が第1位置に切り換えられているときには前進用クラッチC1或いは後進用ブレーキB1の過渡的な係合状態を制御するために制御油圧PSLTを出力し、クラッチアプライコントロールバルブ112が第2位置に切り換えられているときにはライン油圧PLを調圧するために信号圧PSLTを出力する。また、この信号圧PSLTはプライマリレギュレータバルブ124によりライン油圧PLを調圧するパイロット圧であり、クラッチC1或いはブレーキB1を係合するために直接的にそれら係合装置の油圧アクチュエータに供給される油圧でないことから、上記出力油圧PLM2よりも小さな油圧とされている。
前記変速比コントロールバルブUP114は、軸方向へ移動可能に設けられることによりライン油圧PLを入力ポート114iから入出力ポート114jを経て入力側可変プーリ42へ供給可能且つ入出力ポート114kを閉弁するアップシフト位置と入力側可変プーリ42が入出力ポート114jを介して入出力ポート114kと連通させられる原位置とに位置させられるスプール弁子114aと、そのスプール弁子114aを原位置側に向かって付勢する付勢手段としてのスプリング114bと、そのスプリング114bを収容し且つスプール弁子114aに原位置側に向かう推力を付与するために制御油圧PDS2を受け入れる油室114cと、スプール弁子114aにアップシフト位置側に向かう推力を付与するために制御油圧PDS1を受け入れる油室114dとを備えている。
また、変速比コントロールバルブDN116は、軸方向へ移動可能に設けられることにより入出力ポート116jが排出ポートEXと連通させられるダウンシフト位置と入出力ポート116jが入出力ポート116kと連通させられる原位置とに位置させられるスプール弁子116aと、そのスプール弁子116aを原位置側に向かって付勢する付勢手段としてのスプリング116bと、そのスプリング116bを収容し且つスプール弁子116aに原位置側に向かう推力を付与するために制御油圧PDS1を受け入れる油室116cと、スプール弁子116aにダウンシフト位置側に向かう推力を付与するために制御油圧PDS2を受け入れる油室116dとを備えている。
このように構成された変速比コントロールバルブUP114および変速比コントロールバルブDN116において、中心線より左側半分に示すようにスプール弁子114aがスプリング114bの付勢力に従って原位置に保持されている閉じ状態では、入出力ポート114jと入出力ポート114kとが連通させられ、入力側可変プーリ42(入力側油圧シリンダ42c)の作動油が入出力ポート116jへ流通することが許容される。また、中心線より右側半分に示すようにスプール弁子116aがスプリング116bの付勢力に従って原位置に保持されている閉じ状態では、入出力ポート116jと入出力ポート116kとが連通させられ、推力比コントロールバルブ118からの推力比制御油圧Pτが入出力ポート114kへ流通することが許容される。
また、制御油圧PDS1が油室114dへ供給されると、中心線より右側半分に示すようにスプール弁子114aがその制御油圧PDS1に応じた推力によりスプリング114bの付勢力に抗してアップシフト位置側へ移動させられ、ライン油圧PLが制御油圧PDS1に対応する流量で入力ポート114iから入出力ポート114jを経て入力側油圧シリンダ42cへ供給されると共に、入出力ポート114kが遮断されて変速比コントロールバルブDN116側への作動油の流通が阻止される。これにより、変速制御圧PRATIOが高められ、入力側可変プーリ42のV溝幅が狭くされて変速比γが小さくされるすなわち無段変速機18がアップシフトされる。
また、制御油圧PDS2が油室116dへ供給されると、中心線より左側半分に示すようにスプール弁子116aがその制御油圧PDS2に応じた推力によりスプリング116bの付勢力に抗してダウンシフト位置側へ移動させられ、入力側油圧シリンダ42cの作動油が制御油圧PDS2に対応する流量で入出力ポート114jから入出力ポート114kさらに入出力ポート116jを経て排出ポートEXから排出される。これにより、変速制御圧PRATIOが低められ、入力側可変プーリ42のV溝幅が広くされて変速比γが大きくされるすなわち無段変速機18がダウンシフトされる。
このように、制御油圧PDS1が出力されると変速比コントロールバルブUP114に入力されたライン油圧PLが入力側油圧シリンダ42cへ供給されて変速制御圧PRATIOが連続的にアップシフトされ、制御油圧PS2が出力されると入力側油圧シリンダ42cの作動油が排出ポートEXから排出されて変速制御圧PRATIOが連続的にダウンシフトされる。
例えば図4に示すようにアクセル開度Accをパラメータとして車速Vと無段変速機18の目標入力回転速度である目標入力軸回転速度NIN *との予め記憶された関係(変速マップ)から実際の車速Vおよびアクセル開度Accで示される車両状態に基づいて設定される目標入力軸回転速度NIN *と実際の入力軸回転速度(以下、実入力軸回転速度という)NINとが一致するように、それ等の回転速度差(偏差)ΔNIN(=NIN *−NIN)に応じて無段変速機18の変速がフィードバック制御により実行される、すなわち入力側油圧シリンダ42cに対する作動油の供給および排出により変速制御圧PRATIOが調圧されて変速比γがフィードバック制御により連続的に変化させられる。
図4の変速マップは変速条件に相当するもので、車速Vが小さくアクセル開度Accが大きい程大きな変速比γになる目標入力軸回転速度NIN *が設定されるようになっている。また、車速Vは出力軸回転速度NOUTに対応するため、入力軸回転速度NINの目標値である目標入力軸回転速度NIN *は目標変速比に対応し、無段変速機18の最小変速比γmin と最大変速比γmax の範囲内で定められる。
また、制御油圧PDS1は変速比コントロールバルブDN116の油室116cに供給され、制御油圧PDS2に拘らずその変速比コントロールバルブDN116を閉じ状態としてダウンシフトを制限する一方、制御油圧PDS2は変速比コントロールバルブUP114の油室114cに供給され、制御油圧PDS1に拘らずその変速比コントロールバルブUP114を閉じ状態としてアップシフトを禁止するようになっている。つまり、制御油圧PDS1および制御油圧PDS2が共に供給されないときはもちろんであるが、制御油圧PDS1および制御油圧PDS2が共に供給されるときにも、変速比コントロールバルブUP114および変速比コントロールバルブDN116は何れも原位置に保持されている閉じ状態とされる。これにより、電気系統の故障などでソレノイド弁DS1、DS2の一方が機能しなくなり、制御油圧PDS1または制御油圧PDS2が最大圧で出力され続けるオンフェール時となった場合でも、急なアップシフトやダウンシフトが生じたり、その急変速に起因してベルト滑りが発生したりすることが防止される。
前記挟圧力コントロールバルブ110は、軸方向へ移動可能に設けられることにより入力ポート110iを開閉してライン油圧PLを入力ポート110iから出力ポート110tを経て出力側可変プーリ46および推力比コントロールバルブ118へ挟圧力制御圧PBELTを供給可能にするスプール弁子110aと、そのスプール弁子110aを開弁方向へ付勢する付勢手段としてのスプリング110bと、そのスプリング110bを収容し且つスプール弁子110aに開弁方向の推力を付与するために制御油圧PSLSを受け入れる油室110cと、スプール弁子110aに閉弁方向の推力を付与するために出力ポート110tから出力された挟圧力制御圧PBELTを受け入れるフィードバック油室110dと、スプール弁子110aに閉弁方向の推力を付与するためにモジュレータ油圧PMを受け入れる油室110eとを備えている。
このように構成された挟圧力コントロールバルブ110において、伝動ベルト48が滑りを生じないように制御油圧PSLSをパイロット圧としてライン油圧PLが連続的に調圧制御されることにより、出力ポート110tから挟圧力制御圧PBELTが出力される。
例えば図5に示すように伝達トルクに対応するアクセル開度Accをパラメータとして変速比γと必要油圧PBELT *(ベルト挟圧力に相当)とのベルト滑りが生じないように予め実験的に求められて記憶された関係(挟圧力マップ)から実際の変速比γおよびアクセル開度Accで示される車両状態に基づいて決定された必要油圧PBELT *が得られるように出力側油圧シリンダ46cの挟圧力制御圧PBELTが調圧され、この挟圧力制御圧PBELTに応じてベルト挟圧力すなわち可変プーリ42、46と伝動ベルト48との間の摩擦力が増減させられる。
前記推力比コントロールバルブ118は、軸方向へ移動可能に設けられることにより入力ポート118iを開閉してライン油圧PLを入力ポート118iから出力ポート118tを経て変速比コントロールバルブDN116へ推力比制御油圧Pτを供給可能にするスプール弁子118aと、そのスプール弁子118aを開弁方向へ付勢する付勢手段としてのスプリング118bと、そのスプリング118bを収容し且つスプール弁子118aに開弁方向の推力を付与するために挟圧力制御圧PBELTを受け入れる油室118cと、スプール弁子118aに閉弁方向の推力を付与するために出力ポート118tから出力された推力比制御油圧Pτを受け入れるフィードバック油室118dとを備えている。
このように構成された推力比コントロールバルブ118において、油室118cにおける挟圧力制御圧PBELTの受圧面積をa、フィードバック油室118dにおける推力比制御油圧Pτの受圧面積をb、スプリング118bの付勢力をFSとすると、次式(1)で平衡状態となる。
Pτ×b=PBELT×a+FS ・・・(1)
従って、推力比制御油圧Pτは、次式(2)で表され、挟圧力制御圧PBELTに比例する。
Pτ=PBELT×(a/b)+FS/b ・・・(2)
そして、制御油圧PDS1および制御油圧PDS2が共に供給されないか、或いは所定圧以上の制御油圧PDS1および所定圧以上の制御油圧PDS2がともに供給されて、変速比コントロールバルブUP114および変速比コントロールバルブDN116が何れも原位置に保持されている閉じ状態とされたときには、推力比制御油圧Pτが入力側油圧シリンダ42cに供給されることから、変速制御圧PRATIOが推力比制御油圧Pτと一致させられる。つまり、推力比コントロールバルブ118により変速制御圧PRATIOと挟圧力制御圧PBELTとの比率を予め定められた関係に保つ推力比制御油圧PτすなわちPRATIOが出力される。
例えば、車速センサ58の精度上所定車速未満の極低車速では車速Vの検出精度が劣ることから、このような極低車速走行時や発進時には回転速度差(偏差)ΔNINに基づいた変速比γのフィードバック制御に替えて、制御油圧PDS1および制御油圧PDS2を供給せず変速比コントロールバルブUP114および変速比コントロールバルブDN116を何れも閉じ状態とする所謂閉じ込み制御を実行する。これにより、車両発進時には変速制御圧PRATIOと挟圧力制御圧PBELTとの比率を一定とするようにPBELTに比例するPRATIOが入力側油圧シリンダ42cへ供給されて、車両停車時から極低車速時における伝動ベルト48のベルト滑りが防止されると共に、このとき例えば最大変速比γmaxに対応する推力比τ(=出力側推力WOUT/入力側推力WIN;WOUTは挟圧力制御圧PBELT×出力側油圧シリンダ46cの断面積、WINは変速制御圧PRATIO×入力側油圧シリンダ42cの断面積)より大きな推力比τが可能なように上記式(2)の(a/b)が設定されていると、最大変速比γmax又はその近傍の変速比γmax’にて良好な発進が行われる。
図6は、電子制御装置50による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図6において、目標入力回転設定手段150は、例えば図4に示すような予め記憶された変速マップから実際の車速Vおよびアクセル開度Accで示される車両状態に基づいて入力軸回転速度NINの目標入力軸回転速度NIN *を逐次設定する。
変速制御手段152は、実入力軸回転速度NINが前記目標入力回転設定手段150によって設定された目標入力軸回転速度NIN *と一致するように、回転速度差ΔNIN(=NIN *−NIN)に応じて無段変速機18の変速をフィードバック実行する。すなわち、入力側油圧シリンダ42cの変速制御圧PRATIOを調圧する変速制御指令信号(油圧指令)STを油圧制御回路100へ出力して変速比γを連続的に変化させる。
ベルト挟圧力設定手段154は、例えば図5に示すような予め実験的に求められて記憶された挟圧力マップから実際の変速比γおよびアクセル開度Accで示される車両状態に基づいて必要油圧PBELT *を設定する。
ベルト挟圧力制御手段156は、前記ベルト挟圧力設定手段154により設定された必要油圧PBELT *が得られるように出力側油圧シリンダ46cの挟圧力制御圧PBELTを調圧する挟圧力制御指令信号SBを油圧制御回路100へ出力してベルト挟圧力を増減させる。
油圧制御回路100は、上記変速制御指令信号STに従って無段変速機18の変速が実行されるようにソレノイド弁DS1およびソレノイド弁DS2を作動させて変速制御圧PRATIOを調圧すると共に、上記挟圧力制御指令信号SBに従ってベルト挟圧力が増減されるようにリニアソレノイド弁SLSを作動させて挟圧力制御圧PBELTを調圧する。
エンジン出力制御手段158は、エンジン12の出力制御の為にエンジン出力制御指令信号SE、例えばスロットル信号や噴射信号や点火時期信号などをそれぞれスロットルアクチュエータ76や燃料噴射装置78や点火装置80へ出力する。例えば、エンジン出力制御手段158は、アクセル開度Accに応じたスロットル開度θTHとなるように電子スロットル弁30を開閉するスロットル信号をスロットルアクチュエータ76へ出力してエンジントルクTEを制御する。
係合制御手段160は、ガレージシフト時には、クラッチアプライコントロールバルブ112を第1位置側へ切り換えると共に、前進用クラッチC1或いは後進用ブレーキB1の過渡的な係合状態を制御するために制御油圧PSLTを出力し且つライン油圧PLを調圧するために信号圧PSLSを出力する制御指令信号SAを油圧制御回路100へ出力する。例えば、係合制御手段160は、リニアソレノイド弁SLTをデューティー制御するための指令信号SLTDUTYとして係合過渡油圧指令圧pcltexc’を油圧制御回路100へ出力する。
油圧制御回路100は、ガレージシフト時には上記制御指令信号SAに従って、クラッチアプライコントロールバルブ112が第1位置側へ切り換えられるようにソレノイド弁DS1およびソレノイド弁DS2を作動させて所定圧以上の制御油圧PDS1および所定圧以上の制御油圧PDS2を出力すると共に、予め定められた規則に従って前進用クラッチC1或いは後進用ブレーキB1が係合されるようにリニアソレノイド弁SLTを作動させて制御油圧PSLTを出力し且つエンジン負荷等に応じてライン油圧PLが調圧されるようにリニアソレノイド弁SLSを作動させて信号圧PSLSを出力する。
また、係合制御手段160は、ガレージシフト後例えばガレージシフト開始から所定時間経過後や制御油圧PSLTが所定の係合油圧以上となった後等の定常時には、前進用クラッチC1或いは後進用ブレーキB1へ出力油圧PLM2を供給して完全係合状態とするためにクラッチアプライコントロールバルブ112を第2位置側へ切り換えると共に、ライン油圧PLを調圧するために信号圧PSLTを出力する制御指令信号SAを油圧制御回路100へ出力する。例えば、係合制御手段160は、リニアソレノイド弁SLTをデューティー制御するための指令信号SLTDUTYとしてライン圧指令圧plctgtを油圧制御回路100へ出力する。
油圧制御回路100は、定常時には上記制御指令信号SAに従って、前進用クラッチC1或いは後進用ブレーキB1へ出力油圧PLM2が供給されて完全係合状態とされるようにソレノイド弁DS1およびソレノイド弁DS2を同時に作動させずにクラッチアプライコントロールバルブ112を第2位置側へ切り換えると共に、エンジン負荷等に応じてライン油圧PLが調圧されるようにリニアソレノイド弁SLTを作動させて信号圧PSLTを出力する。
このように、リニアソレノイド弁SLTは、ガレージシフト時にはクラッチアプライコントロールバルブ112の第1位置において、前進用クラッチC1或いは後進用ブレーキB1が係合されるように制御油圧PSLTを出力する(クラッチ圧モードという)。また、リニアソレノイド弁SLTは、定常時にはクラッチアプライコントロールバルブ112の第2位置において、ライン油圧PLが調圧されるように信号圧PSLTを出力する(ライン圧モードという)。
ところで、上記定常時(ライン圧モード時)に、ソレノイド弁DS1或いはソレノイド弁DS2が所定圧以上の制御油圧を出力するオンフェール状態となり且つ正常状態である方のソレノイド弁から所定圧以上の制御油圧が出力されると、或いはソレノイド弁DS1およびソレノイド弁DS2の何れもが所定圧以上の制御油圧を出力するオンフェール状態となると、クラッチアプライコントロールバルブ112が第1位置に切り換えられて油圧回路上はクラッチ圧モードとされる。
しかしながら、このフェール時は、係合制御手段160による制御上はライン圧モードのままであることから、前進用クラッチC1或いは後進用ブレーキB1へは係合装置を完全係合状態とするための出力油圧PLM2よりも小さな信号圧PSLTが供給される。そうすると、係合装置に入力される入力トルクTIN例えばタービントルクTTやエンジントルクTEの大きさによっては、入力トルクTINに対して係合装置の係合圧が不足して係合装置の滑り(スリップ)が発生する可能性がある。
そこで、係合されている係合装置が所定のスリップ状態であるときには、制御油圧PSLTを入力トルクTIN例えばエンジントルクTEに基づいてリニアソレノイド弁SLTにより調圧する。つまり、信号圧PSLTの出力に替えて前進用クラッチC1或いは後進用ブレーキB1へエンジントルクTEに基づいて調圧された制御油圧PSLTを出力する。
具体的には、スリップ状態検出手段162は、係合されている係合装置のスリップ状態を検出する。例えば、スリップ状態検出手段162は、「D」ポジションであるときには、入力軸回転速度NINとタービン回転速度NTとの回転速度差ΔNC(=NT−NIN)が所定回転速度差例えば200〜300rpm以上のときに前進用クラッチC1がスリップ状態であると検出する。また、スリップ状態検出手段162は、「R」ポジションであるときには、リングギヤ16rの回転速度N16rが所定回転速度例えば200〜300rpm以上のときに後進用ブレーキB1がスリップ状態であると検出する。
スリップ判定手段164は、係合されている係合装置が所定のスリップ状態であるか否かを判定する。例えば、スリップ判定手段164は、前記スリップ状態検出手段162によりスリップ状態が所定時間以上連続して(継続して)検出されたときに所定のスリップ状態であると判定し、スリップ判定フラグxfclslpをオン(ON)に設定する。
上記所定のスリップ状態は、ソレノイド弁DS1およびソレノイド弁DS2の少なくとも何れかがオンフェール状態となる異常によりクラッチアプライコントロールバルブ112が第2位置から第1位置に切り換えられている異常切換状態を反映しているものである。また、上記所定時間は、前記スリップ状態検出手段162により検出されたスリップ状態が係合装置の過渡係合状態におけるスリップ状態と上記異常切換状態におけるスリップ状態とを明確に区別するための予め実験的に求められた判定時間である。
上記異常切換状態としては、ガレージシフト後の定常時に、前記係合制御手段160によりクラッチアプライコントロールバルブ112を第1位置側へ切り換える制御指令信号SAが出力されていないにも拘わらず、言い換えれば係合制御手段160により指令信号SLTDUTYとして係合過渡油圧指令圧pcltexc’に替えてライン圧指令圧plctgtが出力されているにも拘わらず、ソレノイド弁DS1およびソレノイド弁DS2からクラッチアプライコントロールバルブ112を第1位置に切り換える所定圧以上の制御油圧が出力されているようなときが想定される。
エンジントルク算出手段166は、例えば図7に示すようなスロットル弁開度θTHをパラメータとしてエンジン回転速度NEとエンジントルク推定値TE0との予め実験的に求めて記憶された関係(エンジントルクマップ)から実際のエンジン回転速度NEおよびスロットル弁開度θTHに基づいて推定されるエンジントルクTE0を算出する。
スリップ時調圧制御手段168は、前記スリップ判定手段164によりスリップ判定フラグxfclslpがオン(ON)に設定されたときには、制御油圧PSLTをエンジントルクTEに基づいてリニアソレノイド弁SLTにより調圧する指令を前記係合制御手段160に出力する。
係合制御手段160は、スリップ時調圧制御手段168による指令に従って、指令信号SLTDUTYとしてライン圧指令圧plctgtに替えて係合圧指令圧pcltexcを油圧制御回路100へ出力する。例えば、この係合圧指令圧pcltexcは、図8に示すようなエンジントルクTEが大きくなる程係合圧指令圧pcltexcが大きくなるように予め求められて記憶されたエンジントルクTEと係合圧指令圧pcltexcとの関係から前記エンジントルク算出手段166により算出されたエンジントルクTE0に基づいて係合制御手段160により決定される。この図8の予め求められて記憶された関係は、係合されている係合装置のスリップ状態を防止する為の油圧例えば必要最小限の油圧が設定されている。
図9は、電子制御装置50の制御作動の要部すなわち前後進切換装置16の切換え状態を切り換える係合装置のスリップ時に係合圧を適切に設定する為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行されるものである。
先ず、前記スリップ状態検出手段162に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S1において、係合されている係合装置のスリップ状態が検出される。例えば、「D」ポジションであるときには、回転速度差ΔNC(=NT−NIN)が所定回転速度差例えば200〜300rpm以上のときに前進用クラッチC1がスリップ状態であると検出される。
次いで、前記スリップ判定手段164に対応するS2において、係合されている係合装置が所定のスリップ状態であるか否かが判定される。例えば、上記S1におけるスリップ状態が所定時間以上継続して検出されたときに所定のスリップ状態であると判定され、スリップ判定フラグxfclslpがオン(ON)に設定される。
スリップ判定フラグxfclslpがオン(ON)に設定されて上記S2の判断が肯定される場合は前記スリップ時調圧制御手段168および係合制御手段160に対応するS3において、制御油圧PSLTをエンジントルクTEに基づいてリニアソレノイド弁SLTにより調圧する指令が出力され、指令信号SLTDUTYとしてライン圧指令圧plctgtに替えて係合圧指令圧pcltexcが油圧制御回路100へ出力される。例えば、この係合圧指令圧pcltexcは、図7に示すようなエンジントルクマップから実際のエンジン回転速度NEおよびスロットル弁開度θTHに基づいて算出されたエンジントルクTE0に基づいて、図8に示すような予め求められて記憶された関係から決定される。
スリップ判定フラグxfclslpがオン(ON)に設定されず前記S2の判断が否定される場合は前記係合制御手段160に対応するS3において、指令信号SLTDUTYとしてライン圧指令圧plctgtが油圧制御回路100へ出力されて、ライン圧モード時の制御が維持される。
上述のように、本実施例によれば、ソレノイド弁DS1およびソレノイド弁DS2の少なくとも何れかがオンフェール状態となる異常によりクラッチアプライコントロールバルブ112が第2位置から第1位置に切り換えられている異常切換状態となった場合でも、係合されている係合装置が所定のスリップ状態であるときに、エンジントルクTEに基づいてスリップ時調圧制御手段168により制御油圧PSLTがリニアソレノイド弁SLTにて調圧されるので、出力油圧PLM2が供給されないことによる前進用クラッチC1或いは後進用ブレーキB1の係合圧の不足が抑制されてその係合装置のスリップの発生が抑制される。
また、本実施例によれば、スリップ時調圧制御手段168により信号圧PSLTの出力に替えて前進用クラッチC1或いは後進用ブレーキB1へエンジントルクTEの増加に伴って高くなるように調圧された制御油圧PSLTが出力されるので、すなわちスリップ時調圧制御手段168による指令に従って係合制御手段160により指令信号SLTDUTYとしてライン圧指令圧plctgtに替えて係合圧指令圧pcltexcが油圧制御回路100へ出力されるので、上記異常切換状態となって係合されている係合装置へ信号圧PSLTが供給された場合でも、スリップ判定フラグxfclslpがオン(ON)に設定されたときには、その信号圧PSLTに替えてエンジントルクTEに応じた制御油圧PSLTが供給され、その係合装置の係合圧の不足が抑制されて係合装置のスリップの発生が抑制される。
また、本実施例によれば、スリップ状態検出手段162によるスリップ状態の検出が所定時間以上連続しているときにスリップ判定手段164により所定のスリップ状態と判定されるので、係合装置の過渡係合状態におけるスリップ状態と上記異常切換状態におけるスリップ状態とが明確に区別される。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前述の実施例における入力軸回転速度NINやそれに関連する目標入力軸回転速度NIN *などは、それら入力軸回転速度NINなどに替えて、エンジン回転速度NEやそれに関連する目標エンジン回転速度NE *など、或いはタービン回転速度NTやそれに関連する目標タービン回転速度NT *などであっても良い。
また、前述の実施例において、流体伝動装置としてロックアップクラッチ26が備えられているトルクコンバータ14が用いられていたが、ロックアップクラッチ26は必ずしも設けられなくてもよく、またトルクコンバータ14に替えて、トルク増幅作用のない流体継手(フルードカップリング)などの他の流体式動力伝達装置が用いられてもよい。
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。