図1は、本発明が適用された車両用駆動装置10の構成を説明する骨子図である。この車両用駆動装置10は横置き型自動変速機であって、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)型車両に好適に採用されるものであり、走行用の動力源としてエンジン12を備えている。内燃機関にて構成されているエンジン12の出力は、エンジン12のクランク軸、流体式伝動装置としてのトルクコンバータ14から前後進切換装置16、ベルト式の無段変速機(CVT)18、減速歯車装置20を介して差動歯車装置22に伝達され、左右の駆動輪24L、24Rへ分配される。
トルクコンバータ14は、エンジン12のクランク軸に連結されたポンプ翼車14p、およびトルクコンバータ14の出力側部材に相当するタービン軸34を介して前後進切換装置16に連結されたタービン翼車14tを備えており、流体を介して動力伝達を行うようになっている。また、それ等のポンプ翼車14pおよびタービン翼車14tの間にはロックアップクラッチ26が設けられており、油圧制御回路100(図2、図3参照)内の図示しないロックアップコントロールバルブ(L/C制御弁)などによって係合側油室および解放側油室に対する油圧供給が切り換えられることにより、係合または解放されるようになっており、完全係合させられることによってポンプ翼車14pおよびタービン翼車14tは一体回転させられる。ポンプ翼車14pには、無段変速機18を変速制御したりベルト挟圧力を発生させたり、ロックアップクラッチ26を係合解放制御したり、或いは各部に潤滑油を供給したりするための油圧をエンジン12により回転駆動されることにより発生する機械式のオイルポンプ28が連結されている。
前後進切換装置16は、ダブルピニオン型の遊星歯車装置を主体として構成されており、トルクコンバータ14のタービン軸34はサンギヤ16sに一体的に連結され、無段変速機18の入力軸36はキャリア16cに一体的に連結されている一方、キャリア16cとサンギヤ16sは前進用クラッチC1を介して選択的に連結され、リングギヤ16rは後進用ブレーキB1を介してハウジングに選択的に固定されるようになっている。前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1は断続装置に相当するもので、何れも油圧シリンダによって摩擦係合させられる油圧式摩擦係合装置である。
そして、前進用クラッチC1が係合させられるとともに後進用ブレーキB1が解放されると、前後進切換装置16は一体回転状態とされることによりタービン軸34が入力軸36に直結され、前進用動力伝達経路が成立(達成)させられて、前進方向の駆動力が無段変速機18側へ伝達される。また、後進用ブレーキB1が係合させられるとともに前進用クラッチC1が解放されると、前後進切換装置16は後進用動力伝達経路が成立(達成)させられて、入力軸36はタービン軸34に対して逆方向へ回転させられるようになり、後進方向の駆動力が無段変速機18側へ伝達される。また、前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1が共に解放されると、前後進切換装置16は動力伝達を遮断するニュートラル(遮断状態)になる。
無段変速機18は、入力軸36に設けられた入力側部材である有効径が可変の入力側可変プーリ(プライマリプーリ)42と、出力軸44に設けられた出力側部材である有効径が可変の出力側可変プーリ(セカンダリプーリ)46と、それ等の可変プーリ42、46に巻き掛けられた伝動ベルト48とを備えており、可変プーリ42、46と伝動ベルト48との間の摩擦力を介して動力伝達が行われる。
可変プーリ42および46は、入力軸36および出力軸44にそれぞれ固定された固定回転体である入力側固定シーブ42aおよび出力側固定シーブ46aと、入力軸36および出力軸44に対して軸まわりの相対回転不能かつ軸方向の移動可能に設けられた可動回転体である入力側可動シーブ42bおよび出力側可動シーブ46bと、それらの間のV溝幅を変更する推力を付与する油圧アクチュエータとしての入力側油圧シリンダ(プライマリプーリ側油圧シリンダ)42cおよび出力側油圧シリンダ(セカンダリプーリ側油圧シリンダ)46cとを備えて構成されており、入力側油圧シリンダ42cへの作動油の供給排出流量が油圧制御回路100によって制御されることにより、両可変プーリ42、46のV溝幅が変化して伝動ベルト48の掛かり径(有効径)が変更され、変速比γ(=入力軸回転速度NIN/出力軸回転速度NOUT)が連続的に変化させられる。また、出力側油圧シリンダ46cの油圧(ベルト挟圧Pd)が油圧制御回路100によって調圧制御されることにより、伝動ベルト48が滑りを生じないようにベルト挟圧力が制御される。このような制御の結果として、入力側油圧シリンダ42cの油圧(変速制御圧Pin)が生じるのである。
図2は、図1の車両用駆動装置10などを制御するために車両に設けられた制御系統の要部を説明するブロック線図である。電子制御装置50は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、エンジン12の出力制御や無段変速機18の変速制御およびベルト挟圧力制御やロックアップクラッチ26のトルク容量制御等を実行するようになっており、必要に応じてエンジン制御用や無段変速機18およびロックアップクラッチ26の油圧制御用等に分けて構成される。
電子制御装置50には、エンジン回転速度センサ52により検出されたクランク軸回転角度(位置)ACR(°)およびエンジン12の回転速度(エンジン回転速度)NEに対応するクランク軸回転速度を表す信号、タービン回転速度センサ54により検出されたタービン軸34の回転速度(タービン回転速度)NTを表す信号、入力軸回転速度センサ56により検出された無段変速機18の入力回転速度である入力軸36の回転速度(入力軸回転速度)NINを表す信号、車速センサ(出力軸回転速度センサ)58により検出された無段変速機18の出力回転速度である出力軸44の回転速度(出力軸回転速度)NOUTすなわち出力軸回転速度NOUTに対応する車速Vを表す信号、スロットルセンサ60により検出されたエンジン12の吸気配管32(図1参照)に備えられた電子スロットル弁30のスロットル弁開度θTHを表すスロットル弁開度信号、冷却水温センサ62により検出されたエンジン12の冷却水温TWを表す信号、CVT油温センサ64により検出された無段変速機18等の作動油温度(油温)TCVTを表す信号、アクセル開度センサ66により検出されたアクセルペダル68の操作量であるアクセル開度Accを表すアクセル開度信号、フットブレーキスイッチ70により検出された常用ブレーキであるフットブレーキの操作の有無BONを表すブレーキ操作信号、レバーポジションセンサ72により検出されたシフトレバー74のレバーポジション(操作位置)PSHを表す操作位置信号などが供給されている。
また、電子制御装置50からは、エンジン12の出力制御の為のエンジン出力制御指令信号SE、例えば電子スロットル弁30の開閉を制御するためのスロットルアクチュエータ76を駆動するスロットル信号や燃料噴射装置78から噴射される燃料の量を制御するための噴射信号や点火装置80によるエンジン12の点火時期を制御するための点火時期信号などが出力される。また、無段変速機18の変速比γを変化させる為の変速制御指令信号ST例えば入力側油圧シリンダ42cへの作動油の流量を制御するソレノイド弁DS1およびソレノイド弁DS2を駆動するための指令信号、伝動ベルト48の挟圧力を調整させる為の挟圧力制御指令信号SB例えばベルト挟圧Pdを調圧するリニアソレノイド弁SLSを駆動するための指令信号、ライン油圧PLを制御させる為のライン油圧制御指令信号SPL例えばライン油圧PLを調圧するリニアソレノイド弁SLTを駆動するための指令信号などが油圧制御回路100へ出力される。
シフトレバー74は、例えば運転席の近傍に配設され、順次位置させられている5つのレバーポジション「P」、「R」、「N」、「D」、および「L」(図3参照)のうちの何れかへ手動操作されるようになっている。
「P」ポジション(レンジ)は車両用駆動装置10の動力伝達経路を解放しすなわち車両用駆動装置10の動力伝達が遮断されるニュートラル状態(中立状態)とし且つメカニカルパーキング機構によって機械的に出力軸44の回転を阻止(ロック)するための駐車ポジション(位置)であり、「R」ポジションは出力軸44の回転方向を逆回転とするための後進走行ポジション(位置)であり、「N」ポジションは車両用駆動装置10の動力伝達が遮断されるニュートラル状態とするための中立ポジション(位置)であり、「D」ポジションは無段変速機18の変速を許容する変速範囲で自動変速モードを成立させて自動変速制御を実行させる前進走行ポジション(位置)であり、「L」ポジションは強いエンジンブレーキが作用させられるエンジンブレーキポジション(位置)である。このように、「P」ポジションおよび「N」ポジションは車両を走行させないときに選択される非走行ポジションであり、「R」ポジション、「D」ポジションおよび「L」ポジションは車両を走行させるときに選択される走行ポジションである。
図3は、油圧制御回路100のうち無段変速機18のベルト挟圧力制御、変速比制御、およびシフトレバー74の操作に伴う前進用クラッチC1或いは後進用ブレーキB1の係合油圧制御に関する要部を示す油圧回路図である。図3において、油圧制御回路100は、伝動ベルト48が滑りを生じないように出力側油圧シリンダ46cの油圧であるベルト挟圧Pdを調圧する挟圧力コントロールバルブ110、変速比γが連続的に変化させられるように入力側油圧シリンダ42cへの作動油の流量を制御する変速制御弁としての変速比コントロールバルブUP114および変速比コントロールバルブDN116、変速制御圧Pinとベルト挟圧Pdとの比率を予め定められた関係とする推力比コントロールバルブ118、前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1が係合或いは解放されるようにシフトレバー74の操作に従って油路が機械的に切り換えられるマニュアルバルブ120等を備えている。
ライン油圧PLは、エンジン12により回転駆動される機械式のオイルポンプ28から出力(発生)される作動油圧を元圧として、例えばリリーフ型のプライマリレギュレータバルブ(ライン油圧調圧弁)122によりリニアソレノイド弁SLTの出力油圧である制御油圧PSLTに基づいてエンジン負荷等に応じた値に調圧されるようになっている。
より具体的には、プライマリレギュレータバルブ122は、軸方向へ移動可能に設けられることにより入力ポート122iを開閉してオイルポンプ28から発生される作動油圧を出力ポート122tを経て吸入油路124へ排出するスプール弁子122aと、そのスプール弁子122aを閉弁方向へ付勢する付勢手段としてのスプリング122bと、そのスプリング122bを収容し且つスプール弁子122aに閉弁方向の推力を付与するために制御油圧PSLTを受け入れる油室122cと、スプール弁子122aに開弁方向の推力を付与するためにオイルポンプ28から発生される作動油圧を受け入れる油室122dとを備えている。
このように構成されたプライマリレギュレータバルブ122において、スプリング122bの付勢力をFS、油室122cにおける制御油圧PSLTの受圧面積をa、油室122dにおけるライン油圧PLの受圧面積差をbとすると、次式(1)で平衡状態となる。従って、ライン油圧PLは、次式(2)で表され、制御油圧PSLTに比例する。
PL×b=PSLT×a+FS ・・・(1)
PL=PSLT×(a/b)+FS/b ・・・(2)
このように、プライマリレギュレータバルブ122とリニアソレノイド弁SLTとは、油圧指令値としてのライン油圧制御指令信号SPLに基づいてオイルポンプ28から吐出される作動油をライン油圧PLに調圧する調圧装置として機能する。
モジュレータ油圧PMは、制御油圧PSLTおよびリニアソレノイド弁SLSの出力油圧である制御油圧PSLSの元圧となるものであると共に、電子制御装置50によってデューティ制御されるソレノイド弁DS1の出力油圧である制御油圧PDS1およびソレノイド弁DS2の出力油圧である制御油圧PDS2の元圧となるものであって、ライン油圧PLを元圧としてモジュレータバルブ126により一定圧に調圧されるようになっている。
出力油圧PLM2は、ライン油圧PLを元圧としてライン圧モジュレータNO.2バルブ128により制御油圧PSLTに基づいて調圧されるようになっている。
前記マニュアルバルブ120において、入力ポート120aには出力油圧PLM2が供給される。そして、シフトレバー74が「D」ポジション或いは「L」ポジションに操作されると、出力油圧PLM2が前進走行用出力圧として前進用出力ポート120fを経て前進用クラッチC1に供給され且つ後進用ブレーキB1内の作動油が後進用出力ポート120rから排出ポートEXを経て例えば大気圧にドレーン(排出)されるようにマニュアルバルブ120の油路が切り換えられ、前進用クラッチC1が係合させられると共に後進用ブレーキB1が解放させられる。
また、シフトレバー74が「R」ポジションに操作されると、出力油圧PLM2が後進走行用出力圧として後進用出力ポート120rを経て後進用ブレーキB1に供給され且つ前進用クラッチC1内の作動油が前進用出力ポート120fから排出ポートEXを経て例えば大気圧にドレーン(排出)されるようにマニュアルバルブ120の油路が切り換えられ、後進用ブレーキB1が係合させられると共に前進用クラッチC1が解放させられる。
また、シフトレバー74が「P」ポジションおよび「N」ポジションに操作されると、入力ポート120aから前進用出力ポート120fへの油路および入力ポート120aから後進用出力ポート120rへの油路がいずれも遮断され且つ前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1内の作動油が何れもマニュアルバルブ120からドレーンされるようにマニュアルバルブ120の油路が切り換えられ、前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1が共に解放させられる。
前記変速比コントロールバルブUP114は、軸方向へ移動可能に設けられることによりライン油圧PLを入力ポート114iから入出力ポート114jを経て入力側可変プーリ42へ供給可能且つ入出力ポート114kを閉弁するアップシフト位置と入力側可変プーリ42が入出力ポート114jを介して入出力ポート114kと連通させられる原位置とに位置させられるスプール弁子114aと、そのスプール弁子114aを原位置側に向かって付勢する付勢手段としてのスプリング114bと、そのスプリング114bを収容し且つスプール弁子114aに原位置側に向かう推力を付与するために制御油圧PDS2を受け入れる油室114cと、スプール弁子114aにアップシフト位置側に向かう推力を付与するために制御油圧PDS1を受け入れる油室114dとを備えている。
また、変速比コントロールバルブDN116は、軸方向へ移動可能に設けられることにより入出力ポート116jが排出ポートEXと連通させられるダウンシフト位置と入出力ポート116jが入出力ポート116kと連通させられる原位置とに位置させられるスプール弁子116aと、そのスプール弁子116aを原位置側に向かって付勢する付勢手段としてのスプリング116bと、そのスプリング116bを収容し且つスプール弁子116aに原位置側に向かう推力を付与するために制御油圧PDS1を受け入れる油室116cと、スプール弁子116aにダウンシフト位置側に向かう推力を付与するために制御油圧PDS2を受け入れる油室116dとを備えている。
このように構成された変速比コントロールバルブUP114および変速比コントロールバルブDN116において、中心線より左側半分に示すようにスプール弁子114aがスプリング114bの付勢力に従って原位置に保持されている閉じ状態では、入出力ポート114jと入出力ポート114kとが連通させられ、入力側可変プーリ42(入力側油圧シリンダ42c)の作動油が入出力ポート116jへ流通することが許容される。また、中心線より右側半分に示すようにスプール弁子116aがスプリング116bの付勢力に従って原位置に保持されている閉じ状態では、入出力ポート116jと入出力ポート116kとが連通させられ、推力比コントロールバルブ118からの推力比制御油圧Pτが入出力ポート114kへ流通することが許容される。
また、制御油圧PDS1が油室114dへ供給されると、中心線より右側半分に示すようにスプール弁子114aがその制御油圧PDS1に応じた推力によりスプリング114bの付勢力に抗してアップシフト位置側へ移動させられ、ライン油圧PLが制御油圧PDS1に対応する流量で入力ポート114iから入出力ポート114jを経て入力側油圧シリンダ42cへ供給されると共に、入出力ポート114kが遮断されて変速比コントロールバルブDN116側への作動油の流通が阻止される。これにより、入力側油圧シリンダ42c内の流量が増大させられ、入力側油圧シリンダ42cにより入力側可動シーブ42bのシーブ位置Xが入力側固定シーブ42a側へ移動させられ、入力側可変プーリ42のV溝幅が狭くされて変速比γが小さくされるすなわち無段変速機18がアップシフトされる。尚、このとき出力側可変プーリ46のV溝幅が広くされるが、後述するように挟圧力コントロールバルブ110により伝動ベルト48が滑りを生じないように出力側油圧シリンダ46cのベルト挟圧Pdが調圧させられる。
また、制御油圧PDS2が油室116dへ供給されると、中心線より左側半分に示すようにスプール弁子116aがその制御油圧PDS2に応じた推力によりスプリング116bの付勢力に抗してダウンシフト位置側へ移動させられ、入力側油圧シリンダ42cの作動油が制御油圧PDS2に対応する流量で入出力ポート114jから入出力ポート114kさらに入出力ポート116jを経て排出ポートEXから排出される。これにより、入力側油圧シリンダ42c内の流量が減少させられ、入力側油圧シリンダ42cにより入力側可動シーブ42bのシーブ位置Xが入力側固定シーブ42aとは反対側へ移動させられ、入力側可変プーリ42のV溝幅が広くされて変速比γが大きくされるすなわち無段変速機18がダウンシフトされる。尚、このとき出力側可変プーリ46のV溝幅が狭くされ、後述するように挟圧力コントロールバルブ110により伝動ベルト48が滑りを生じないように出力側油圧シリンダ46cのベルト挟圧Pdが調圧させられる。
このように、ライン油圧PLは変速制御圧Pinの元圧となるものであって、制御油圧PDS1が出力されると変速比コントロールバルブUP114に入力されたライン油圧PLが入力側油圧シリンダ42cへ供給されて変速制御圧Pinが高められて連続的にアップシフトされ、制御油圧PDS2が出力されると入力側油圧シリンダ42cの作動油が排出ポートEXから排出されて変速制御圧Pinが低められて連続的にダウンシフトされる。
前記シーブ位置Xは、変速比γが1であるときの入力側可動シーブ42bの位置を基準位置すなわちシーブ位置X=0として、軸と平行方向におけるその基準位置からの入力側可動シーブ42bの絶対位置を表すものである。例えば、入力側固定シーブ42a側を正(+)とし、入力側固定シーブ42aとは反対側を負(−)とする(図1参照)。
また、制御油圧PDS1は変速比コントロールバルブDN116の油室116cに供給され、制御油圧PDS2に拘らずその変速比コントロールバルブDN116を閉じ状態としてダウンシフトを制限する一方、制御油圧PDS2は変速比コントロールバルブUP114の油室114cに供給され、制御油圧PDS1に拘らずその変速比コントロールバルブUP114を閉じ状態としてアップシフトを禁止するようになっている。つまり、制御油圧PDS1および制御油圧PDS2が共に供給されないときはもちろんであるが、制御油圧PDS1および制御油圧PDS2が共に供給されるときにも、変速比コントロールバルブUP114および変速比コントロールバルブDN116は何れも原位置に保持されている閉じ状態とされる。これにより、電気系統の故障などでソレノイド弁DS1、DS2の一方が機能しなくなり、制御油圧PDS1または制御油圧PDS2が最大圧で出力され続けるオンフェール時となった場合でも、急なアップシフトやダウンシフトが生じたり、その急変速に起因してベルト滑りが発生したりすることが防止される。
前記挟圧力コントロールバルブ110は、軸方向へ移動可能に設けられることにより入力ポート110iを開閉してライン油圧PLを入力ポート110iから出力ポート110tを経て出力側可変プーリ46および推力比コントロールバルブ118へベルト挟圧Pdを供給可能にするスプール弁子110aと、そのスプール弁子110aを開弁方向へ付勢する付勢手段としてのスプリング110bと、そのスプリング110bを収容し且つスプール弁子110aに開弁方向の推力を付与するために制御油圧PSLSを受け入れる油室110cと、スプール弁子110aに閉弁方向の推力を付与するために出力ポート110tから出力されたベルト挟圧Pdを受け入れるフィードバック油室110dと、スプール弁子110aに閉弁方向の推力を付与するためにモジュレータ油圧PMを受け入れる油室110eとを備えている。
このように構成された挟圧力コントロールバルブ110において、伝動ベルト48が滑りを生じないように制御油圧PSLSをパイロット圧としてライン油圧PLが連続的に調圧制御されることにより、出力ポート110tからベルト挟圧Pdが出力される。このように、ライン油圧PLはベルト挟圧Pdの元圧となるものである。尚、出力ポート110tと出力側油圧シリンダ46cとの間の油路には油圧センサ130が設けられており、この油圧センサ130によりベルト挟圧Pdが検出される。
前記推力比コントロールバルブ118は、軸方向へ移動可能に設けられることにより入力ポート118iを開閉してライン油圧PLを入力ポート118iから出力ポート118tを経て変速比コントロールバルブDN116へ推力比制御油圧Pτを供給可能にするスプール弁子118aと、そのスプール弁子118aを開弁方向へ付勢する付勢手段としてのスプリング118bと、そのスプリング118bを収容し且つスプール弁子118aに開弁方向の推力を付与するためにベルト挟圧Pdを受け入れる油室118cと、スプール弁子118aに閉弁方向の推力を付与するために出力ポート118tから出力された推力比制御油圧Pτを受け入れるフィードバック油室118dとを備えている。
このように構成された推力比コントロールバルブ118において、油室118cにおけるベルト挟圧Pdの受圧面積をa、フィードバック油室118dにおける推力比制御油圧Pτの受圧面積をb、スプリング118bの付勢力をFSとすると、次式(3)で平衡状態となる。従って、推力比制御油圧Pτは、次式(4)で表され、ベルト挟圧Pdに比例する。
Pτ×b=Pd×a+FS ・・・(3)
Pτ=Pd×(a/b)+FS/b ・・・(4)
そして、制御油圧PDS1および制御油圧PDS2が共に供給されないか、或いは所定圧以上の制御油圧PDS1および所定圧以上の制御油圧PDS2がともに供給されて、変速比コントロールバルブUP114および変速比コントロールバルブDN116が何れも原位置に保持されている閉じ状態とされたときには、推力比制御油圧Pτが入力側油圧シリンダ42cに供給されることから、変速制御圧Pinが推力比制御油圧Pτと一致させられる。つまり、推力比コントロールバルブ118により変速制御圧Pinとベルト挟圧Pdとの比率を予め定められた関係に保つ推力比制御油圧Pτすなわち変速制御圧Pinが出力される。
例えば、入力軸回転速度センサ56や車速センサ58の精度上所定車速V’以下の低車速状態では入力軸回転速度NINや車速Vの検出精度が劣ることから、このような低車速走行時や発進時には、例えば制御油圧PDS1および制御油圧PDS2を共に供給せず変速比コントロールバルブUP114および変速比コントロールバルブDN116を何れも閉じ状態とする所謂閉じ込み制御を実行する。これにより、低車速走行時や発進時には変速制御圧Pinとベルト挟圧Pdとの比率を予め定められた関係とするようにベルト挟圧Pdに比例する変速制御圧Pinが入力側油圧シリンダ42cへ供給されて、車両停車時から極低車速時における伝動ベルト48のベルト滑りが防止されると共に、このとき例えば最大変速比γmaxに対応する推力比τ(=出力側油圧シリンダ推力WOUT/入力側油圧シリンダ推力WIN;WOUTはベルト挟圧Pd×出力側油圧シリンダ46cの受圧面積SOUT、WINは変速制御圧Pin×入力側油圧シリンダ42cの受圧面積SIN)より大きな推力比τが可能なように上記式(4)の右辺第1項の(a/b)やFS/bが設定されていると、最大変速比γmax又はその近傍の変速比γmax’にて良好な発進が行われる。また、上記所定車速V’は、所定回転部材の回転速度例えば入力軸回転速度NINが検出不可能な回転速度となる車速Vとして予め定められた下限の車速であって、例えば2km/h程度に設定されている。
図4は、電子制御装置50による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
図4において、目標シーブ位置設定手段150は、無段変速機18を変速制御するための目標値として目標シーブ位置Xtを設定する。具体的には、目標シーブ位置設定手段150は、入力軸回転速度NINの目標入力軸回転速度NIN *を設定する目標入力回転設定手段152と、目標入力軸回転速度NIN *を目標変速比γ*に変換する目標変速比算出手段154とを備え、目標変速比γ*をシーブ位置Xに変換して目標シーブ位置Xtを設定する。
例えば、前記目標入力回転設定手段152は、図5に示すようなアクセル開度Accをパラメータとして車速Vと無段変速機18の目標入力回転速度である目標入力軸回転速度NIN *との予め定められて記憶された関係(変速マップ)から実際の車速Vおよびアクセル開度Accで示される車両状態に基づいて入力軸回転速度NINの目標入力軸回転速度NIN *を設定する。
また、前記目標変速比算出手段154は、電子制御装置50に供給された出力軸回転速度NOUTを表す信号に基づいて出力軸回転速度NOUTを読み込むと共に、前記目標入力回転設定手段152により設定された目標入力軸回転速度NIN *とその出力軸回転速度NOUTとに基づいて目標変速比γ*(=NIN */NOUT)を算出する。
また、前記目標シーブ位置設定手段150は、変速比γとその変速比γに対して一義的に定まるシーブ位置Xとの予め定められて記憶された図示しない関係(シーブ位置マップ)から前記目標変速比算出手段154により算出された目標変速比γ*に基づいて目標シーブ位置Xtを設定する。
ここで、本実施例の変速制御においては、無段変速機18を変速制御するための目標値として上記目標シーブ位置Xtを設定し、実際のシーブ位置(以下、実シーブ位置という)Xが目標シーブ位置Xtとなるように変速を行うものであって、目標シーブ位置Xtの変化量(以下、目標シーブ位置変化量という)dXtに基づくフィードフォワード制御に加え、目標シーブ位置Xtと実シーブ位置Xとの偏差ΔX(=Xt−X)に基づくフィードバック制御を実行する。つまり、フィードフォワード制御の実行に必要なフィードフォワード制御量とフィードバック制御の実行に必要なフィードバック制御量とに基づいて無段変速機18の変速を行う。尚、本明細書においては、変化量は、単位時間当たりの変化量を示すものであり、また繰り返し実行される制御作動にて用いられることから実質的に変化速度と同義である。また、シーブ位置X(目標シーブ位置Xt)の変化量は移動量と同義である。
ところで、上記フィードフォワード制御においては、目標シーブ位置Xtが一定となる定常域すなわち目標シーブ位置Xtが変化せず目標シーブ位置変化量dXtが零となる定常域では、フィードフォワード制御量が零とされてすなわちフィードフォワード指令値が出力されず変速が行われない。しかしながら、上述したように目標シーブ位置Xtは目標変速比γ*に基づいて求められ、その目標変速比γ*を設定するに当たっては出力軸回転速度NOUTが用いられることから、この出力軸回転速度NOUTに含まれるノイズ(外乱成分)等により目標シーブ位置Xtが変化し、ノイズ等の影響を受けやすい目標シーブ位置変化量dXtが小さな領域においては、特に本来なら目標シーブ位置Xtが変化しない定常域においては、そのノイズ等によるフィードフォワード指令値が出力されることにより変速ハンチングが生じる可能性がある。
そこで、本実施例では、出力軸回転速度NOUTに含まれるノイズの影響を小さくするために、フィードフォワード指令値の算出に際して、そのフィードフォワード指令値の大きさを調整するためのゲインKを設け、目標シーブ位置変化量dXtの絶対値が小さいときには大きいときに比べてそのゲインKを小さくする。以下、ゲインKの設定について詳細に説明する。
目標シーブ位置変化量算出手段156は、前記目標シーブ位置設定手段150により設定された目標シーブ位置Xtに基づいて次式(5)に従って目標シーブ位置変化量dXtを算出する。尚、Xt(i)は繰り返し実行される制御作動(図9参照)におけるi回目の目標シーブ位置Xtであり、Xt(i−1)は(i−1)回目の目標シーブ位置Xtであり、dXt(i)はi回目の目標シーブ位置変化量dXtである。
dXt(i)=Xt(i)−Xt(i−1) ・・・(5)
ゲイン設定手段158は、前記目標シーブ位置変化量算出手段156により算出された目標シーブ位置変化量dXtに掛けることによりその目標シーブ位置変化量dXtをゲイン処理するための前記ゲインKを、目標シーブ位置変化量dXtに基づいてその目標シーブ位置変化量dXtの絶対値が小さいときには大きいときに比べて小さくなるように設定する。
例えば、ゲイン設定手段158は、ノイズの影響が一層小さくされるように、目標シーブ位置変化量dXtの絶対値が所定値Aよりも小さな範囲にあるときにはゲインKを零とする。この所定値Aは、ノイズ等の影響を受けやすい目標シーブ位置変化量dXtの絶対値が小さな領域においてフィードフォワード制御量を零として変速が行われないようにし、且つ変速応答性を悪化させないための予め実験的に求められて記憶された領域判定値である。
図6は、目標シーブ位置変化量(目標シーブ位置移動量)dXtに応じて設定されるゲインKの一例を示す図である。図6において、目標シーブ位置移動量dXtが零となる定常域を挟み、その定常域を含む目標シーブ位置移動量dXtの絶対値が所定値Aよりも小さな範囲(領域)では、フィードフォワード制御量が零とされてノイズ等の影響が除去されるようにゲインKが零に設定される。本実施例では、この定常域を含む所定値Aよりも小さな範囲を定常設定域と定める。また、この定常設定域ではない領域においては、目標シーブ位置移動量dXtに対応するフィードフォワード制御量が全て出力されるようにゲインKが1に設定される。
また、無段変速機18の油温TCVTが低くなる程変速応答性が悪くなることから、前記ゲイン設定手段158は、ゲインKを零とする定常設定域を狭くして変速応答性を向上するように、無段変速機18の油温TCVTが低いときには高いときに比べて所定値Aを小さくしても良い。
また、車速Vが低くなる程変速応答性が悪くなる場合には、前記ゲイン設定手段158は、ゲインKを零とする定常設定域を狭くして変速応答性を向上するように、車速Vが低いときには高いときに比べて所定値Aを小さくしても良い。
フィードフォワード制御量算出手段160は、前記目標シーブ位置設定手段150により設定された目標シーブ位置Xtに基づいてフィードフォワード制御の実行に必要なフィードフォワード制御量としてのフィードフォワード出力流量QFFを算出する。例えば、フィードフォワード制御量算出手段160は、前記目標シーブ位置変化量算出手段156により算出された目標シーブ位置変化量dXtに対して前記ゲイン設定手段158により設定されたゲインKを掛けてその目標シーブ位置変化量dXtをゲイン処理した後、ゲイン処理後の目標シーブ位置変化量dXtと入力側油圧シリンダ42cの受圧面積SINとに基づいて次式(6)に従ってフィードフォワード出力流量QFFを算出する。
QFF(i)=K×dXt(i)×SIN ・・・(6)
フィードバック補正量算出手段162は、前記目標シーブ位置設定手段150により設定された目標シーブ位置Xtと実シーブ位置Xとの偏差ΔX(=Xt−X)に基づいてフィードバック制御の実行に必要なフィードバック補正量としてのフィードバック出力流量QFBを算出する。例えば、フィードバック補正量算出手段162、次式(7)に従ってフィードバック出力流量QFBを算出する。尚、ΔX(i)は繰り返し実行される制御作動(図9参照)におけるi回目の偏差ΔXであり、Cはフィードバックゲインである。また、上記実シーブ位置Xは、例えば前記シーブ位置マップから電子制御装置50によって算出される実際の変速比γ(=入力軸回転速度NIN/出力軸回転速度NOUT)に基づいて算出される。
QFB(i)=C×ΔX(i)+C×∫dΔX(i)dt ・・・(7)
出力流量算出手段164は、前記フィードフォワード制御量算出手段160により算出されたフィードフォワード出力流量QFFおよび前記フィードバック補正量算出手段162により算出されたフィードバック出力流量QFBに基づいて、無段変速機18の変速制御に必要な変速制御量としての変速制御弁(変速比コントロールバルブUP114および変速比コントロールバルブDN116)の出力流量QFFFB(=QFF+QFB)を算出する。尚、この出力流量QFFFBは、基本的にはアップシフトの際には正の値となり、ダウンシフト時には負の値となる。
推定差圧算出手段166は、変速制御弁(変速比コントロールバルブUP114および変速比コントロールバルブDN116)の上流側油圧であるライン油圧PLと下流側油圧である変速制御圧Pinとのバルブ差圧の推定値(以下、推定バルブ差圧という)ΔPを算出する。具体的には、推定差圧算出手段166は、変速制御圧Pinの推定値(以下、推定Pin圧という)を算出する推定Pin算出手段168と、実際のライン油圧PLの推定値(以下、推定ライン油圧という)を算出する推定PL算出手段170とを備え、その推定Pin圧と推定ライン油圧とに基づいて推定バルブ差圧ΔPを算出する。
例えば、前記推定Pin算出手段168は、次式(8)〜(10)に従って推定Pin圧を算出する。尚、kINは入力側油圧シリンダ42cの遠心油圧係数、a、b、c、dは実験的に求められた係数、TINは無段変速機18への入力トルク、Pdは油圧センサ130により検出されたベルト挟圧、kOUTは出力側油圧シリンダ46cの遠心油圧係数である。
推定Pin圧=(WIN−kIN×NIN 2)/SIN ・・・(8)
WIN=WOUT/(a+b×log10γ+c×TIN+d×NIN) ・・・(9)
WOUT=Pd×SOUT+kOUT×NOUT 2 ・・・(10)
また、上記入力トルクTINは、エンジントルク推定値TE0、トルクコンバータ14のトルク比t、および入力慣性トルク等から算出される。例えば、このエンジントルク推定値TE0はスロットル弁開度θTHをパラメータとしてエンジン回転速度NEとエンジントルク推定値TE0との予め実験的に求めて記憶された図示しない関係(エンジントルクマップ)から実際のエンジン回転速度NEおよびスロットル弁開度θTHに基づいて算出され、トルク比tは(NIN/NE)の関数であり、入力慣性トルクは入力軸回転速度NINの時間変化量から算出される。
また、前記推定PL算出手段170は、例えばライン油圧制御指令信号SPLとライン油圧PLとの予め実験的に求められて記憶された図示しない関係(ライン油圧特性)から電子制御装置50により出力されているライン油圧制御指令信号SPLに基づいて推定ライン油圧を算出する。
また、前記推定差圧算出手段166は、前記推定PL算出手段170により算出された推定ライン油圧と前記推定Pin算出手段168により算出された推定Pin圧とに基づいて推定バルブ差圧ΔP(=推定ライン油圧−推定Pin圧)の演算値を算出する。
変速制御手段172は、前記出力流量算出手段164により算出された出力流量QFFFBが得られる為の変速指令値としての変速制御指令信号STを算出し、その変速制御指令信号STを油圧制御回路100へ出力して無段変速機18の変速を実行する。例えば、変速制御手段172は、図7に示すような流量Qをパラメータとして推定バルブ差圧ΔPと変速制御指令信号STとしてのDuty値(駆動指令値)との予め実験的に求められて記憶された関係(逆変換流量マップ)から上記出力流量QFFFBおよび前記推定差圧算出手段166により算出された推定バルブ差圧ΔPに基づいてDuty値を設定し、そのDuty値を油圧制御回路100へ出力して変速比γを連続的に変化させる。
ベルト挟圧力設定手段174は、例えば図8に示すような伝達トルクに対応するアクセル開度Accをパラメータとして変速比γとベルト挟圧力Pd*とのベルト滑りが生じないように予め実験的に求められて記憶された関係(ベルト挟圧力マップ)から実際の変速比γおよびアクセル開度Accで示される車両状態に基づいてベルト挟圧力Pd*を設定する。つまり、ベルト挟圧力設定手段174は、ベルト挟圧力Pd*が得られる為の出力側油圧シリンダ46cのベルト挟圧Pdを設定する。
ベルト挟圧力制御手段176は、前記ベルト挟圧力設定手段174により設定されたベルト挟圧力Pd*が得られる為の出力側油圧シリンダ46cのベルト挟圧Pdに調圧する挟圧力制御指令信号SBを油圧制御回路100へ出力してベルト挟圧力Pd*すなわち可変プーリ42、46と伝動ベルト48との間の摩擦力を増減させる。
油圧制御回路100は、上記変速制御指令信号STに従って無段変速機18の変速が実行されるようにソレノイド弁DS1およびソレノイド弁DS2を作動させて入力側油圧シリンダ42cへの作動油の供給・排出量を制御すると共に、上記挟圧力制御指令信号SBに従ってベルト挟圧力Pd*が増減されるようにリニアソレノイド弁SLSを作動させてベルト挟圧Pdを調圧する。
エンジン出力制御手段178は、エンジン12の出力制御の為にエンジン出力制御指令信号SE、例えばスロットル信号や噴射信号や点火時期信号などをそれぞれスロットルアクチュエータ76や燃料噴射装置78や点火装置80へ出力する。例えば、エンジン出力制御手段178は、アクセル開度Accに応じたスロットル開度θTHとなるように電子スロットル弁30を開閉するスロットル信号をスロットルアクチュエータ76へ出力してエンジントルクTEを制御する。
ここで、前記ゲインKの設定や前記フィードフォワード出力流量QFFの算出等に際して、前記目標シーブ位置変化量算出手段156により算出された目標シーブ位置変化量dXtをそのまま用いたが、ノイズ等の影響により目標シーブ位置変化量dXtは振動的であることから、本明細書において目標シーブ位置変化量dXtを用いる場合は、この目標シーブ位置変化量dXtに替えて目標シーブ位置変化量dXtをなまし処理したなまし後目標シーブ位置変化量dXt’を用いてもよい。
上記目標シーブ位置変化量dXtのなまし処理は、例えばなまし処理手段180により実行される。なまし処理手段180は、例えば所定時間当たりの目標シーブ位置変化量dXtの平均値をなまし後目標シーブ位置変化量dXt’として算出したり、次式(11)に従ってなまし後目標シーブ位置変化量dXt’を算出する。尚、dXt(i)およびdXt’(i)はそれぞれ繰り返し実行される制御作動(図9参照)におけるi回目の目標シーブ位置変化量dXtおよびなまし後目標シーブ位置変化量dXt’であり、dXt(i−1)およびdXt’(i−1)はそれぞれ(i−1)回目の目標シーブ位置変化量dXtおよびなまし後目標シーブ位置変化量dXt’であり、Nはなまし係数である。
dXt’(i)=dXt(i−1)+(dXt(i)−dXt’(i−1))/N ・・・(11)
図9は、電子制御装置50の制御作動の要部すなわち無段変速機18の変速の際にフィードフォワード出力流量QFF(見方を換えれば変速制御指令信号ST)を適切に算出して出力軸回転速度NOUTに含まれるノイズ等の影響を受けやすい領域(すなわち目標シーブ位置移動量dXtの絶対値が所定値Aよりも小さな定常設定域)において変速ハンチングを抑制する為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行されるものである。
図9において、先ず、前記目標入力回転設定手段152に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S1において、例えば図5に示す変速マップから実際の車速Vおよびアクセル開度Accに基づいて目標入力軸回転速度NIN *が設定(算出)される。
次いで、前記目標変速比算出手段154に対応するS2において、電子制御装置50に供給された出力軸回転速度NOUTを表す信号に基づいて出力軸回転速度NOUTが読み込まれる。
次いで、前記目標変速比算出手段154に対応するS3において、前記S1にて算出された目標入力軸回転速度NIN *と前記S2にて読み込まれた出力軸回転速度NOUTとに基づいて目標変速比γ*(=NIN */NOUT)が算出(演算)される。
次いで、前記目標シーブ位置設定手段150に対応するS4において、前記シーブ位置マップから前記S3にて演算された目標変速比γ*に基づいて目標シーブ位置Xtが設定(演算)される。
次いで、前記目標シーブ位置変化量算出手段156に対応するS5において、前記S4にて演算された目標シーブ位置Xtに基づいて前記式(5)に従って目標シーブ位置変化量(目標シーブ位置移動量)dXtが算出(演算)される。
次いで、前記なまし処理手段180に対応するS6において、前記S5にて演算された目標シーブ位置変化量dXtがなまし処理される。例えば、所定時間当たりの目標シーブ位置変化量dXtの平均値がなまし後目標シーブ位置変化量dXt’として算出されたり、前記式(11)に従ってなまし後目標シーブ位置変化量dXt’が算出される。尚、このS6は必ずしも備えられる必要はない。
次いで、前記ゲイン設定手段158および前記フィードフォワード制御量算出手段160に対応するS7において、前記S6にてなまし処理されたなまし後目標シーブ位置変化量dXt’に基づいてゲインKが設定される。例えば、図6に示すように、そのなまし後目標シーブ位置変化量dXt’の絶対値が所定値Aよりも小さな定常設定域にあるときにはゲインKが零とされ、定常設定域ではない領域にあるときには定常設定域からの過渡領域を除きゲインKが1に設定される。この所定値Aは、ゲインKを零とする定常設定域が狭くされて変速応答性が向上されるように、無段変速機18の油温TCVTが低いときには高いときに比べて小さくされたり、車速Vが低いときには高いときに比べて小さくされても良い。更に、なまし後目標シーブ位置変化量dXt’に対してこの設定されたゲインKが掛けられてなまし後目標シーブ位置変化量dXt’がゲイン処理される。
次いで、前記フィードフォワード制御量算出手段160に対応するS8において、前記S7にてゲイン処理されたゲイン処理後のなまし後目標シーブ位置変化量dXt’と入力側油圧シリンダ42cの受圧面積SINとに基づいて前記式(6)に従ってフィードフォワード出力流量QFFが算出される。次いで、図示しないステップにおいて、フィードフォワード出力流量QFFと偏差ΔXに基いて算出されたフィードバック出力流量QFBとに基づいて出力流量QFFFB(=QFF+QFB)が算出され、その出力流量QFFFBが得られる為の変速制御指令信号STが算出され、その変速制御指令信号STが油圧制御回路100へ出力されて無段変速機18の変速が実行される。
上述のように、本実施例によれば、フィードフォワード出力流量QFF(変速制御指令信号ST)の算出に際して、目標シーブ位置変化量dXtに基づいてその目標シーブ位置変化量dXtの絶対値が小さいときには大きいときに比べて小さくなるようにゲイン設定手段158によりフィードフォワード出力流量QFFの大きさを調整するためのゲインKが設定されるので、目標シーブ位置変化量dXtの絶対値が小さいときには大きいときに比べてフィードフォワード出力流量QFFの大きさが制限されて変速ハンチングの発生が抑制される。よって、目標シーブ位置変化量dXtが小さな定常設定域において、特に目標シーブ位置Xtが変化しない定常域において変速ハンチングを抑制することができる。
また、本実施例によれば、目標シーブ位置変化量dXtの絶対値が所定値Aよりも小さな範囲にあるときにはゲイン設定手段158によりゲインKが零とされるので、目標シーブ位置変化量dXtの絶対値が所定値Aよりも小さな定常設定域において、特に目標シーブ位置Xtが変化しない定常域において、フィードフォワード出力流量QFFが算出されるのが防止され言い換えればフィードフォワード制御のための変速制御指令信号STが出力されるのが防止され、一層変速ハンチングが抑制される。
また、本実施例によれば、ゲイン設定手段158により無段変速機18の油温TCVTが低いときには高いときに比べて所定値Aが小さくされるので、油温TCVTが低いために変速応答性が悪くなるときにはゲインKを零とする定常設定域が狭くされて変速応答性が向上される。
また、本実施例によれば、ゲイン設定手段158により車速Vが低いときには高いときに比べて所定値Aが小さくされるので、車速Vが低いために変速応答性が悪くなるときにはゲインKを零とする定常設定域が狭くされて変速応答性が向上される。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前述の実施例では、変速制御手段172は、出力流量算出手段164により算出された出力流量QFFFBが得られる為の変速制御指令信号STを算出し、その変速制御指令信号STを油圧制御回路100へ出力して無段変速機18の変速を実行したが、フィードフォワード制御量算出手段160により算出されたフィードフォワード出力流量QFFが得られる為のフィードフォワード指令値と、フィードバック補正量算出手段162により算出されたフィードバック出力流量QFBが得られる為のフィードバック指令値とをそれぞれ算出し、それらフィードフォワード指令値とフィードバック指令値とをそれぞれ油圧制御回路100へ出力して無段変速機18の変速を実行するようにしても良い。
また、前述の実施例では、目標シーブ位置変化量dXtに対してゲインKが掛けられて目標シーブ位置変化量dXtがゲイン処理されたが、このゲイン処理は最終的にフィードフォワード指令値がゲイン処理されておればよく、例えばフィードフォワード出力流量QFF(=dXt×SIN)にゲインKが掛けられてフィードフォワード出力流量QFFがゲイン処理されたり、フィードフォワード指令値にゲインKが掛けられてフィードフォワード指令値がゲイン処理されても良い。このように、フィードフォワード出力流量QFFがゲイン処理される場合には、例えば図6に示したゲインKの設定例における目標シーブ位置変化量(目標シーブ位置移動量)dXtがフィードフォワード出力流量QFFに置き換えられる。
また、前述の実施例では、目標シーブ位置Xtを目標値としてフィードバック制御およびフィードフォワード制御が実行されたが、フィードバック制御はフィードフォワード制御とは必ずしも同一の目標値を用いて実行する必要はなく、フィードフォワード制御とは別に設定された相互に関連する目標値を用いて実行するようにしても良い。例えば、目標シーブ位置Xtを目標値として目標シーブ位置変化量ΔXtに基づいてフィードフォワード制御を実行し、目標シーブ位置Xtと一対一に対応する目標入力軸回転速度NIN *を目標値としてその目標入力軸回転速度NIN *と実際の入力軸回転速度NINとの偏差に基づいてフィードバック制御を実行しても良い。
また、前述の実施例では、フィードバック制御とフィードフォワード制御とにより無段変速機18の変速が行われる変速制御装置を説明したが、フィードフォワード制御のみにより無段変速機18の変速が行われる変速制御装置であっても良い。
また、前述の実施例では、推定Pin算出手段168による推定Pin圧の算出に際して、ベルト挟圧Pdとして、油圧センサ130により検出されるベルト挟圧Pdを用いたが、ベルト挟圧力設定手段174により設定されたベルト挟圧Pdを用いてもよい。尚、ベルト挟圧Pdとして、油圧センサ130により検出されるベルト挟圧Pdを用いない場合には、この油圧センサ130は必ずしも備えられなくとも良い。
また、前述の実施例における入力軸回転速度NINやそれに関連する目標入力軸回転速度NIN *などは、それら入力軸回転速度NINなどに替えて、エンジン回転速度NEやそれに関連する目標エンジン回転速度NE *など、或いはタービン回転速度NTやそれに関連する目標タービン回転速度NT *などであっても良い。
また、前述の実施例において、流体伝動装置としてロックアップクラッチ26が備えられているトルクコンバータ14が用いられていたが、ロックアップクラッチ26は必ずしも設けられなくてもよく、またトルクコンバータ14に替えて、トルク増幅作用のない流体継手(フルードカップリング)などの他の流体式動力伝達装置が用いられてもよい。
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。