図1は、本発明が適用される車両10を構成するエンジン12から駆動輪24までの動力伝達経路の概略構成を説明する図である。図1において、エンジン12により発生させられた動力は、流体伝動装置としてのトルクコンバータ14から前後進切換装置16、車両用無段変速機(以下、無段変速機(CVT)という)18、減速歯車装置20、差動歯車装置22等を経て、左右の駆動輪24へ伝達される。
トルクコンバータ14は、エンジン12のクランク軸13に連結されたポンプ翼車14p、トルクコンバータ14の出力側部材に相当するタービン軸30を介して前後進切換装置16に連結されたタービン翼車14t、及び一方向クラッチによって一方向の回転が阻止されているステータ翼車14sとを備えており、ポンプ翼車14pとタービン翼車14tとの間で流体を介して動力伝達を行うようになっている。また、ポンプ翼車14p及びタービン翼車14tの間には、それらの間すなわちトルクコンバータ14の入出力間を直結可能なロックアップクラッチ26が設けられている。また、ポンプ翼車14pには、無段変速機18を変速制御したり、無段変速機18のベルト挟圧を発生させたり、ロックアップクラッチ26の作動を制御したり、或いは各部に潤滑油を供給したりする為の油圧をエンジン12により回転駆動されることにより発生する機械式のオイルポンプ28が連結されている。
ロックアップクラッチ26は、良く知られているように、油圧制御回路100によって係合側油室14on内の油圧PONと解放側油室14off内の油圧POFFとの差圧ΔP(=PON−POFF)が制御されることによりフロントカバー14cに摩擦係合させられる油圧式摩擦クラッチである。トルクコンバータ14の運転状態としては、例えば差圧ΔPが負とされてロックアップクラッチ26が解放される所謂ロックアップ解放(ロックアップオフ)、差圧ΔPが零以上とされてロックアップクラッチ26が滑りを伴って半係合される所謂ロックアップスリップ状態(スリップ状態)、及び差圧ΔPが最大値とされてロックアップクラッチ26が完全係合される所謂ロックアップ状態(係合状態、ロックアップオン)の3状態に大別される。例えば、ロックアップクラッチ26が完全係合(ロックアップオン)させられることにより、ポンプ翼車14p及びタービン翼車14tが一体回転させられてエンジン12の動力が無段変速機18側へ直接伝達される。また、所定のスリップ状態で係合するように差圧ΔPが制御されることにより、例えば入出力回転速度差(すなわちスリップ回転速度(スリップ量)=エンジン回転速度NE−タービン回転速度NT)NSがフィードバック制御されることにより、車両10の駆動(パワーオン)時には所定のスリップ量でタービン軸30をクランク軸13に対して追従回転させる一方、車両の非駆動(パワーオフ)時には所定のスリップ量でクランク軸13をタービン軸30に対して追従回転させられる。尚、ロックアップクラッチ26のスリップ状態においては、差圧ΔPが零とされることによりそのロックアップクラッチ26のトルク分担がなくなって、トルクコンバータ14は、ロックアップオフと同等の運転条件とされる。
前後進切換装置16は、発進クラッチとしての前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1とダブルピニオン型の遊星歯車装置16pとを主体として構成されている。トルクコンバータ14のタービン軸30はサンギヤ16sに一体的に連結され、無段変速機18の入力回転要素としての入力軸32はキャリア16cに一体的に連結されている一方、キャリア16cとサンギヤ16sとは前進用クラッチC1を介して選択的に連結され、リングギヤ16rは後進用ブレーキB1を介して非回転部材としてのハウジング34に選択的に固定されるようになっている。前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1は係合によりエンジン12の動力を駆動輪24側へ伝達する所定の摩擦係合装置としての断続装置に相当するもので、何れも油圧シリンダによって摩擦係合させられる油圧式摩擦係合装置である。
そして、前進用クラッチC1が係合させられると共に後進用ブレーキB1が解放されると、前後進切換装置16は一体回転状態とされることによりタービン軸30が入力軸32に直結され、前進用動力伝達経路が成立(達成)させられて、前進方向の駆動力が無段変速機18側へ伝達される。また、後進用ブレーキB1が係合させられると共に前進用クラッチC1が解放されると、前後進切換装置16は後進用動力伝達経路が成立(達成)させられて、入力軸32はタービン軸30に対して逆方向へ回転させられるようになり、後進方向の駆動力が無段変速機18側へ伝達される。また、前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1が共に解放されると、前後進切換装置16は動力伝達を遮断するニュートラル状態(動力伝達遮断状態)になる。
エンジン12としては、例えば燃料の燃焼によって動力を発生する内燃機関等のガソリンエンジンやディーゼルエンジン等が好適に用いられるが、電動機等の他の原動機をエンジンと組み合わせて採用することもできる。エンジン12の吸気配管36には、スロットルアクチュエータ38を用いてエンジン12の吸入空気量QAIRを電気的に制御する為の電子スロットル弁40が備えられている。
無段変速機18は、入力軸32に設けられた入力側部材である有効径が可変の駆動側プーリ(プライマリプーリ、プライマリシーブ)42と、出力回転要素としての出力軸44に設けられた出力側部材である有効径が可変の従動側プーリ(セカンダリプーリ、セカンダリシーブ)46と、それ等の両可変プーリ42、46に巻き掛けられた伝動ベルト48とを備えており、両可変プーリ42、46と伝動ベルト48との間の摩擦力を介して動力伝達が行われるベルト式の無段変速機である。
両可変プーリ42及び46は、入力軸32及び出力軸44にそれぞれ固定された固定回転体42a及び46aと、入力軸32及び出力軸44に対して軸まわりの相対回転不能且つ軸方向の移動可能に設けられた可動回転体42b及び46bと、それらの間のV溝幅を変更する推力を付与する油圧アクチュエータとしての駆動側油圧シリンダ(プライマリプーリ側油圧シリンダ)42c及び従動側油圧シリンダ(セカンダリプーリ側油圧シリンダ)46cとを備えて構成されている。そして、駆動側油圧シリンダ42cへの作動油の供給排出流量が油圧制御回路100によって制御されることにより、両可変プーリ42、46のV溝幅が変化して伝動ベルト48の掛かり径(有効径)が変更され、変速比γ(=入力軸回転速度NIN/出力軸回転速度NOUT)が連続的に変化させられる。また、従動側油圧シリンダ46cの油圧であるセカンダリプーリ圧(以下、ベルト挟圧という)Pdが油圧制御回路100によって調圧制御されることにより、伝動ベルト48が滑りを生じないようにベルト挟圧力が制御される。このような制御の結果として、駆動側油圧シリンダ42cの油圧であるプライマリプーリ圧(以下、変速制御圧という)Pinが生じるのである。
図2は、エンジン12や前後進切換装置16や無段変速機18などを制御する為に車両10に設けられた制御系統の要部を説明するブロック線図である。図2において、車両10には、例えば無段変速機18の変速制御やベルト挟圧力制御などに関連する油圧制御の為の車両用無段変速機の制御装置を含む電子制御装置50が備えられている。電子制御装置50は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。例えば、電子制御装置50は、エンジン12の出力制御や無段変速機18の変速制御及びベルト挟圧力制御やロックアップクラッチ26のトルク容量制御等を実行するようになっており、必要に応じてエンジン制御用や無段変速機18及びロックアップクラッチ26の油圧制御用等に分けて構成される。
電子制御装置50には、例えばクランク軸回転速度センサ52により検出されたクランク軸13の回転角度(位置)ACR及びクランク軸13の回転速度(すなわちエンジン回転速度)NEに対応するクランク軸回転速度を表す信号、タービン回転速度センサ54により検出されたタービン軸30の回転速度(タービン回転速度)NTを表す信号、入力軸回転速度センサ56により検出された無段変速機18の入力回転速度である入力軸32の回転速度(入力軸回転速度)NINを表す信号、出力軸回転速度センサ58により検出された無段変速機18の出力回転速度である出力軸44の回転速度(出力軸回転速度)NOUTすなわち出力軸回転速度NOUTに対応する車速Vを表す信号、スロットルセンサ60により検出されたエンジン12の吸気配管36(図1参照)に備えられた電子スロットル弁40のスロットル弁開度θTHを表す信号、冷却水温センサ62により検出されたエンジン12の冷却水温TWを表す信号、CVT油温センサ64により検出された無段変速機18等の油圧制御回路100内の作動油の油温TCVTを表す信号、アクセル開度センサ66により検出された運転者の加速要求量としてのアクセルペダル68の操作量であるアクセル開度Accを表す信号、吸入空気量センサ70により検出されたエンジン12の吸入空気量QAIRを表す信号、フットブレーキスイッチ72により検出された常用ブレーキであるフットブレーキが操作されたブレーキオンBONを表す信号、レバーポジションセンサ74により検出されたシフトレバー76の操作ポジション(操作位置)PSHを表す信号などが供給されている。
また、電子制御装置50からは、例えばエンジン12の出力制御の為のエンジン出力制御指令信号SEとして、電子スロットル弁40の開閉を制御する為のスロットルアクチュエータ38への駆動信号や燃料噴射装置78から噴射される燃料の量を制御する為の噴射信号や点火装置80によるエンジン12の点火時期を制御する為の点火時期信号などが出力される。また、無段変速機18の変速比γを変化させる為の変速制御指令信号ST例えば駆動側油圧シリンダ42cへの作動油の流量を制御するソレノイド弁DS1及びソレノイド弁DS2を駆動するための油圧指令信号、伝動ベルト48の挟圧力を調整させる為の挟圧力制御指令信号SB例えばベルト挟圧Pdを調圧するリニアソレノイド弁SLSを駆動する為の油圧指令信号、ロックアップクラッチ26の係合、解放、スリップ量NSを制御する為のロックアップ制御指令信号SL例えば油圧制御回路100内のロックアップリレーバルブの弁位置を切り換えるリニアソレノイド弁を駆動する為の油圧指令信号やロックアップクラッチ26のトルク容量TCを調節するリニアソレノイド弁を駆動する為の油圧指令信号、ライン油圧PLを調圧するリニアソレノイド弁を駆動する為の油圧指令信号などが油圧制御回路100へ出力される。
シフトレバー76は、例えば運転席の近傍に配設され、順次位置させられている5つの操作ポジション「P」、「R」、「N」、「D」、及び「L」のうちの何れかへ手動操作されるようになっている。「P」ポジションは車両10の動力伝達経路を解放しすなわち車両10の動力伝達が遮断されるニュートラル状態(中立状態)とし且つメカニカルパーキング機構によって機械的に出力軸44の回転を阻止(ロック)するための駐車ポジション(位置)であり、「R」ポジションは出力軸44の回転方向を逆回転とする為の後進走行ポジション(位置)であり、「N」ポジションは車両10の動力伝達が遮断されるニュートラル状態とする為の中立ポジション(位置)であり、「D」ポジションは無段変速機18の変速を許容する変速範囲で自動変速モードを成立させて自動変速制御を実行させる為の前進走行ポジション(位置)であり、「L」ポジションは強いエンジンブレーキが作用させる為のエンジンブレーキポジション(位置)である。このように、「P」ポジション及び「N」ポジションは動力伝達経路をニュートラル状態とし車両を走行させないときに選択される非走行ポジションであり、「R」ポジション、「D」ポジション、及び「L」ポジションは動力伝達経路を動力伝達経路の動力伝達を可能とする動力伝達可能状態とし車両10を走行させるときに選択される走行ポジションである。
図3は、油圧制御回路100のうち無段変速機18のベルト挟圧力制御及び変速比制御等に関する要部を示す油圧回路図である。図3において、油圧制御回路100は、変速比γが連続的に変化させられるように駆動側油圧シリンダ42cへの作動油の流量を制御する変速制御弁として機能する変速比コントロールバルブUP116及び変速比コントロールバルブDN118、伝動ベルト48が滑りを生じないように従動側油圧シリンダ46cの油圧であるベルト挟圧Pdを調圧する挟圧力コントロールバルブ120、前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1が係合或いは解放されるようにシフトレバー76の操作に従って油路が機械的に切り換えられるマニュアルバルブ122等を備えている。
ここで、油圧制御回路100内の第1ライン油圧PL1は、例えばエンジン12により回転駆動される機械式のオイルポンプ28から出力(発生)される作動油圧を元圧として、例えばリリーフ型のプライマリレギュレータバルブ(第1ライン油圧調圧弁)110によりリニアソレノイド弁の出力油圧である制御油圧に基づいて無段変速機18への入力トルクTIN等に応じた値に調圧されるようになっている。また、第2ライン油圧PL2は、例えばプライマリレギュレータバルブ110による第1ライン油圧PL1の調圧の為にプライマリレギュレータバルブ110から排出される油圧を元圧として、例えばリリーフ型のセカンダリレギュレータバルブ(第2ライン油圧調圧弁)112によりリニアソレノイド弁の出力油圧である制御油圧に基づいて調圧されるようになっている。また、モジュレータ油圧PMは、例えば第1ライン油圧PL1を元圧としてモジュレータバルブ114によりリニアソレノイド弁の出力油圧である制御油圧に基づいて一定油圧に調圧されるようになっている。
変速比コントロールバルブUP116は、軸方向へ移動可能に設けられることにより入出力ポート116t及び入出力ポート116iを開閉するスプール弁子116aと、そのスプール弁子116aを入出力ポート116tと入出力ポート116iとが連通する方向へ付勢する付勢手段としてのスプリング116bと、そのスプリング116bを収容し且つスプール弁子116aに入出力ポート116tと入出力ポート116iとが連通する方向の推力を付与する為に電子制御装置50によってデューティ制御されるソレノイド弁DS2の出力油圧である制御油圧PS2を受け入れる油室116cと、スプール弁子116aに入出力ポート116iを閉弁する方向の推力を付与する為に電子制御装置50によってデューティ制御されるソレノイド弁DS1の出力油圧である制御油圧PS1を受け入れる油室116dとを備えている。また、変速比コントロールバルブDN118は、軸方向へ移動可能に設けられることにより入出力ポート118tを開閉するスプール弁子118aと、そのスプール弁子118aを閉弁方向へ付勢する付勢手段としてのスプリング118bと、そのスプリング118bを収容し且つスプール弁子118aに閉弁方向の推力を付与する為に制御油圧PS1を受け入れる油室118cと、スプール弁子118aに開弁方向の推力を付与する為に制御油圧PS2を受け入れる油室118dとを備えている。
ソレノイド弁DS1は、駆動側油圧シリンダ42cへ作動油を供給してその油圧を高め駆動側プーリ42のV溝幅を小さくして変速比γを小さくする側すなわちアップシフト側へ制御する為に制御油圧PS1を出力する。また、ソレノイド弁DS2は、駆動側油圧シリンダ42cの作動油を排出してその油圧を低め駆動側プーリ42のV溝幅を大きくして変速比γを大きくする側すなわちダウンシフト側へ制御するために制御油圧PS2を出力する。具体的には、制御油圧PS1が出力されると変速比コントロールバルブUP116の供給ポート116sに入力された第1ライン油圧PL1が入出力ポート116tを経て駆動側油圧シリンダ42cへ供給されて結果的に変速制御圧Pinが連続的に制御される。また、制御油圧PS2が出力されると駆動側油圧シリンダ42cの作動油が入出力ポート116t、入出力ポート116iさらに入出力ポート118tを経て排出ポート118xから排出されて結果的に変速制御圧Pinが連続的に制御される。例えば、図4に示すような運転者の加速要求量に対応するアクセル操作量Accをパラメータとして予め実験的に求められて記憶された車速Vと目標入力軸回転速度NIN *との関係(変速マップ)に従って算出された目標入力軸回転速度NIN *に実際の入力軸回転速度NIN(実入力軸回転速度NIN)が一致するように、それ等の偏差ΔNIN(=NIN *−NIN)に応じて例えばフィードバック制御により無段変速機18が変速制御され、すなわち駆動側油圧シリンダ42cに対する作動油の供給、排出によって変速制御圧Pinが制御され、変速比γが連続的に変化させられる。図4の変速マップは変速条件に相当するもので、車速Vが小さくアクセル開度Accが大きい程大きな変速比γになる目標入力軸回転速度NIN *が設定されるようになっている。また、車速Vは出力軸回転速度NOUTに対応するため、入力軸回転速度NINの目標値である目標入力軸回転速度NIN *は目標変速比に対応し、無段変速機18の最小変速比γminと最大変速比γmaxの範囲内で定められている。
図3に戻り、挟圧力コントロールバルブ120は、例えば軸方向へ移動可能に設けられることにより出力ポート120tを開閉するスプール弁子120aと、そのスプール弁子120aを開弁方向へ付勢する付勢手段としてのスプリング120bと、そのスプリング120bを収容し、スプール弁子120aに開弁方向の推力を付与する為に電子制御装置50によってデューティ制御されるリニアソレノイド弁SLSの出力油圧である制御油圧PSLSを受け入れる油室120cと、スプール弁子120aに閉弁方向の推力を付与する為に出力したベルト挟圧Pdを受け入れるフィードバック油室120dとを備えている。そして、挟圧力コントロールバルブ120は、リニアソレノイド弁SLSからの制御油圧PSLSをパイロット圧として第1ライン油圧PL1を連続的に調圧制御してベルト挟圧Pdを出力するようになっている。例えば、図5に示すような伝達トルクに対応する無段変速機18の入力トルクTINをパラメータとしてベルト滑りが生じないように予め実験的に求められて記憶された変速比γと必要油圧(目標ベルト挟圧に相当)Pd*との関係(ベルト挟圧マップ)に従って従動側油圧シリンダ46cへのベルト挟圧Pdが調圧され、このベルト挟圧Pdに応じてベルト挟圧力すなわち両可変プーリ42、46と伝動ベルト48との間の摩擦力が増減させられる。また、この挟圧力コントロールバルブ120の出力油圧である従動側油圧シリンダ46c内のベルト挟圧Pdは、油圧センサ120sにより検出されるようになっている。
また、ベルト挟圧Pdを調圧する際に用いる無段変速機18の入力トルクTINは、例えばエンジントルクTEにトルクコンバータ14のトルク比t(=トルクコンバータ14の出力トルク(以下タービントルクTTという)/トルクコンバータ14の入力トルク(以下ポンプトルクTPという))を乗じたトルク(=TE×t)として電子制御装置50により算出される。このエンジントルクTEは、例えばエンジン12に対する要求負荷としての吸入空気量QAIR(或いはそれに相当するスロットル弁開度θTH等)をパラメータとしてエンジン回転速度NEとエンジントルクTEとの予め実験的に求められて記憶された図6に示すような関係(マップ、エンジントルク特性図)から吸入空気量QAIR及びエンジン回転速度NEに基づいて推定エンジントルクTEesとして電子制御装置50により算出される。或いは、エンジントルクTEは、例えばトルクセンサなどにより検出されるエンジン12の実出力トルク(実エンジントルク)TEなどが用いられても良い。また、トルクコンバータ14のトルク比tは、トルクコンバータ14の速度比e(=トルクコンバータ14の出力回転速度(以下タービン回転速度NTという)/トルクコンバータ14の入力回転速度(以下ポンプ回転速度NP(エンジン回転速度NE)という))の関数であり、例えば速度比eとトルク比t、効率η、及び容量係数Cとのそれぞれの予め実験的に求められて記憶された図7に示すような関係(マップ、トルクコンバータ14の所定の作動特性図)から実際の速度比eに基づいて電子制御装置50により算出される。尚、推定エンジントルクTEesは、実エンジントルクTEそのものを表すように算出されるものであり、特に実エンジントルクTEと区別する場合を除き、推定エンジントルクTEesを実エンジントルクTEとしての取り扱うものとする。従って、推定エンジントルクTEesには実エンジントルクTEも含むものとする。
図3に戻り、マニュアルバルブ122において、入力ポート122aには例えばモジュレータバルブ114により一定油圧に調圧されたモジュレータ油圧PMが供給される。そして、シフトレバー76が「D」ポジション或いは「L」ポジションに操作されると、モジュレータ油圧PMが前進走行用出力圧として前進用出力ポート122fを経て前進用クラッチC1に供給され且つ後進用ブレーキB1内の作動油が後進用出力ポート122rから排出ポートEXを経て例えば大気圧にドレーン(排出)されるようにマニュアルバルブ122の油路が切り換えられ、前進用クラッチC1が係合させられると共に後進用ブレーキB1が解放させられる。
また、シフトレバー76が「R」ポジションに操作されると、モジュレータ油圧PMが後進走行用出力圧として後進用出力ポート122rを経て後進用ブレーキB1に供給され且つ前進用クラッチC1内の作動油が前進用出力ポート122fから排出ポートEXを経て例えば大気圧にドレーン(排出)されるようにマニュアルバルブ122の油路が切り換えられ、後進用ブレーキB1が係合させられると共に前進用クラッチC1が解放させられる。
また、シフトレバー76が「P」ポジション或いは「N」ポジションに操作されると、入力ポート122aから前進用出力ポート122fへの油路及び入力ポート122aから後進用出力ポート122rへの油路がいずれも遮断され且つ前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1内の作動油が何れもマニュアルバルブ122からドレーンされるようにマニュアルバルブ122の油路が切り換えられ、前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1が共に解放させられる。
ここで、本実施例の無段変速機18においては、目標入力軸回転速度NIN *と実入力軸回転速度NINとの回転偏差ΔNIN(=NIN *−NIN)に基づいてフィードバック制御により無段変速機18が変速制御される為、つまり回転偏差ΔNINが生じて初めて変速制御開始となる為、例えば図8に示すように、車両発進後の変速開始時に目標入力軸回転速度NIN *に対して実入力軸回転速度NINのオーバーシュートが必ず発生する。また、最大変速比γmax(最低車速側の変速比(最LOW))としてハード的最LOWを用いている無段変速機では、例えば可変プーリ42における固定回転体42aと可動回転体42bとの間のV溝幅を最大として最大変速比γmaxを形成する為の可動回転体42bの位置が機械的に位置決めされている無段変速機では、発進時、図4に示すようなアクセル開度Accに応じた各変速開始車速V’までは変速比γがハード的最LOWで走行することになる。そして、γmaxから高車速側変速比への変速開始時は、両可変プーリ42、46における伝動ベルト48の掛かり位置を変位させることになる。この際、その変位の為に必要な変速制御圧Pinは、変速比γに対応する所定の推力比τ(=セカンダリプーリ側油圧シリンダ推力WOUT/プライマリプーリ側油圧シリンダ推力WIN;WOUTはベルト挟圧Pd×セカンダリプーリ側油圧シリンダ46cの受圧面積、WINは変速制御圧Pin×プライマリプーリ側油圧シリンダ42cの受圧面積)より大きな推力比τが可能なように、その推力比τから算出される必要変速制御圧以上の油圧が必要とされる為、その必要変速制御圧に到達するまでに遅れが発生し、上記オーバーシュートが発生する要因となる。尚、これは、図14に示すようにフィードバック制御とフィードフォワード制御と併用する変速制御であっても、FB制御量をFF制御量よりも十分に大きくすることにより(すなわちFB制御ゲインをFF制御ゲインよりも十分に大きくすることにより)フィードバック制御を主体として変速する場合には、フィードバック制御のみで変速する場合と同様にオーバーシュートが発生する。尚、本明細書全体を通して、フィードバック制御を主体として変速する場合とフィードバック制御のみで変速する場合とを同等のものとして取り扱う。
このようなオーバーシュートに対して、実入力軸回転速度NINの追従性向上の為に、回転偏差ΔNINに対するFB制御量を求める為のFB制御ゲインを大きくすることが考えられる。しかしながら、FB制御ゲインを大きくすると、FB制御量が過敏に変動するようになる為、実入力軸回転速度NINのハンチングが発生する可能性がある。また、上記オーバーシュートを想定し、図4に示すような変速マップから求められる本来の目標入力軸回転速度NIN *における変速開始車速V’よりも低車速から早めに変速を開始させるような低い目標入力軸回転速度を設定することが考えられる。しかしながら、例えば車両10の発進(車両発進)に際して、エンジン回転速度NEの吹け上がりを抑制して燃料消費を抑制する為に、車両発進時の比較的低車速からロックアップクラッチ26を係合に向けてスリップ係合させる公知の発進時ロックアップスリップ制御を実行するような場合には、上昇が抑制された入力軸回転速度NINにエンジン回転速度NEが引き込まれて低回転状態となり、こもり音が発生したりエンジン12自体の回転が不安定になる可能性がある。このように、フィードバック制御単独やフィードバック制御を主体として無段変速機18の変速を実行する場合には、実入力軸回転速度NINのハンチング、エンジン回転速度NEの低回転状態、或いはこもり音等が発生する懸念があり、上記オーバーシュートを適切に低減することは困難である。
そこで、本実施例では、最終的に実現すべき第1目標回転速度としての図4に示すような変速マップから求められる本来の目標入力軸回転速度NIN *と、目標入力軸回転速度NIN *を用いる場合よりも早く変速を開始させる為の第2目標回転速度としての第2目標入力軸回転速度NIN2*との2種類の異なる目標回転速度を設定する。そして、図9に示すように、目標入力軸回転速度NIN *と実入力軸回転速度NINとの回転偏差ΔNINに基づくフィードバック制御により実行される実入力軸回転速度NINの回転変化と、実入力軸回転速度NINを第2目標入力軸回転速度NIN2*とする為のフィードフォワード制御により実行される実入力軸回転速度NINの回転変化とを加算することにより、目標入力軸回転速度NIN *となるように実入力軸回転速度NINを追従させる車両発進時の変速制御を実行する。
図10は、無段変速機18の変速制御において目標入力軸回転速度NIN *と第2目標入力軸回転速度NIN2*との異なる2つの目標回転速度を求める際に用いられる変速マップの一例を示す図であって、図4の変速マップに相当する図である。図10において、実線に示す目標回転速度は、目標入力軸回転速度NIN *であり、図4の変速マップに示す目標入力軸回転速度NIN *と同じである。また、二点鎖線に示す目標回転速度は、第2目標入力軸回転速度NIN2*であり、二点鎖線部分のみが目標入力軸回転速度NIN *と相違している。この第2目標入力軸回転速度NIN2*は、図10からも明らかなように、例えば最大変速比γmaxから高車速側変速比への変速を目標入力軸回転速度NIN *を用いる場合よりも早く開始させるように、二点鎖線部分においてその目標入力軸回転速度NIN *よりも低く設定されている。つまり、第2目標入力軸回転速度NIN2*は、最大変速比γmaxに維持されるように車速Vの上昇に伴って目標回転速度を上昇させる過程で、最大変速比γmaxから高車速側変速比への変速を目標入力軸回転速度NIN *を用いる場合よりも低車速にて開始させるように、例えば最大変速比γmaxから高車速側変速比への変速を開始させる車速が目標入力軸回転速度NIN *における変速開始車速V’よりも低車速な変速開始車速V”とされるように、二点鎖線部分においてその目標入力軸回転速度NIN *よりも低く設定されている。例えば、変速開始車速V”は、オーバーシュートを抑制し、変速制御指令信号STに対する変速制御圧Pin変化の応答遅れ分を前出しするように予め実験的に求められて設定されている。また、第2目標入力軸回転速度NIN2*で定められる変速開始車速V”は、変速制御上の変速開始車速すなわち制御開始車速であり、目標入力軸回転速度NIN *で定められる変速開始車速V’は、実入力軸回転速度NINで実際に実現したい変速開始車速でもある。尚、この図10の実施例では、目標入力軸回転速度NIN *と第2目標入力軸回転速度NIN2*とが同じマップ上に設定されているが、それぞれ単独の変速マップ上に設定されるものであっても良い。
以下、より具体的に電子制御装置50による制御機能を説明する。図11は、電子制御装置50による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図11において、エンジン出力制御部すなわちエンジン出力制御手段82は、エンジン12の出力制御の為にエンジン出力制御指令信号SE、例えばスロットル信号や噴射信号や点火時期信号などをそれぞれスロットルアクチュエータ38や燃料噴射装置78や点火装置80へ出力する。例えば、エンジン出力制御手段82は、目標スロットル弁開度θTH *をアクセル開度Accに応じた目標エンジントルクTE *が得られる為のスロットル開度θTHとし、その目標エンジントルクTE *が得られるようにスロットルアクチュエータ38により電子スロットル弁40を開閉制御する他、燃料噴射装置78により燃料噴射量を制御したり、点火装置80により点火時期を制御する。
ベルト挟圧力制御部すなわちベルト挟圧力制御手段84は、例えば図5に示すようなベルト挟圧マップから無段変速機18の入力トルクTIN(=エンジントルクTE×トルク比t:TEは例えば推定エンジントルクTEes)及び実変速比γ(=NIN/NOUT)で示される車両状態に基づいて目標ベルト挟圧Pd*を設定する。そして、ベルト挟圧力制御手段84は、その目標ベルト挟圧Pd*が得られるように従動側油圧シリンダ46cのベルト挟圧Pdを調圧する為の挟圧力制御指令信号SBを油圧制御回路100へ出力する。油圧制御回路100は、ベルト挟圧力制御手段84からの挟圧力制御指令信号SBに従ってベルト挟圧Pdが増減されるようにリニアソレノイド弁SLSを作動させてベルト挟圧Pdを調圧する。このように、ベルト挟圧力制御手段84は、無段変速機18の入力トルクTINに応じてリニアソレノイド弁SLSを作動させてベルト挟圧Pdを制御することにより、ベルト滑りが発生しない範囲で燃費向上の為出来るだけ低い値になるようにベルト挟圧力を制御する。
ロックアップクラッチ制御部すなわちロックアップクラッチ制御手段86は、例えばスロットル弁開度θTH及び車速Vを変数としてロックアップ解放(ロックアップオフ)領域、スリップ制御領域(ロックアップスリップ制御作動領域)、ロックアップ制御作動領域(ロックアップオン)領域を有する予め記憶された不図示の関係(マップ、ロックアップ領域線図)から実際のスロットル弁開度θTH及び車速Vで示される車両状態に基づいてロックアップクラッチ26の作動状態の切換えを制御する。例えば、ロックアップクラッチ制御手段86は、上記ロックアップ領域線図から実際の車両状態に基づいてロックアップクラッチ26のロックアップ解放領域、ロックアップスリップ制御作動領域、ロックアップ制御作動領域の何れかであるかを判断し、ロックアップクラッチ26のロックアップ解放への切換え或いはロックアップスリップ制御作動乃至ロックアップ制御作動への切換えの為のロックアップ制御指令信号SLを油圧制御回路100へ出力する。また、ロックアップクラッチ制御手段86は、ロックアップスリップ制御作動領域であると判断すると、ロックアップクラッチ26の実際のスリップ量NSを逐次算出し、その実際のスリップ量NSが目標スリップ量NS *となるように差圧ΔPを制御する為のロックアップ制御指令信号SLを油圧制御回路100へ出力する。また、ロックアップクラッチ制御手段86は、例えばアクセルオンに伴う車両発進に際して、エンジン回転速度NEが抑制されるようにロックアップクラッチ26をスリップ係合させながら係合に向けて制御する為のロックアップ制御指令信号SLを油圧制御回路100へ出力する発進時ロックアップスリップ制御を実行する発進時ロックアップスリップ制御手段として機能する。例えば、ロックアップクラッチ制御手段86は、アクセル開度Accに応じて燃費や動力性能を両立させる為の目標エンジン回転速度NE *を設定し、その目標エンジン回転速度NE *以上にエンジン回転速度NEが吹け上がるのを抑制すると共に目標エンジン回転速度NE *にエンジン回転速度NEが維持(収束)されるように、ロックアップクラッチ26をスリップ係合させながら係合に向けて制御する。つまり、目標エンジン回転速度NE *と車速Vと共に変化する入力軸回転速度NIN(タービン回転速度NT)とのスリップ量NSを制御して、エンジン回転速度NEの吹け上がりを抑制すると共に目標エンジン回転速度NE *に維持する。
油圧制御回路100は、ロックアップクラッチ制御手段86からのロックアップ制御指令信号SLに従ってロックアップクラッチ26の解放とスリップ状態乃至係合とが切り換えられるように切換用ソレノイド弁を作動させる。また、油圧制御回路100は、ロックアップクラッチ制御手段86からのロックアップ制御指令信号SLに従ってロックアップクラッチ26のスリップ状態乃至係合におけるトルク容量TCが増減されるようにスリップ制御用リニアソレノイド弁を作動させてロックアップクラッチ26を係合したりロックアップクラッチ26のスリップ量NSを制御する。例えば、比較的高車速領域においては、ロックアップクラッチ26をロックアップ(完全係合)してポンプ翼車14pとタービン翼車14tとを直結することで、トルクコンバータ14の滑り損失(内部損失)を無くして燃費を向上させている。また、比較的低中速領域においては、ポンプ翼車14pとタービン翼車14tとの間に所定の微少な滑りを与えて係合させるスリップ制御(ロックアップスリップ制御)を実施することで、ロックアップ作動領域を拡大し、トルクコンバータ14の伝達効率を向上して燃費を向上させている。
変速制御部すなわち変速制御手段88は、例えばアクセルオンに伴う車両発進に際して、例えば図10に示すような変速マップ(二点鎖線)から実際の車速V及びアクセル開度Accで示される車両状態に基づいてフィードフォワード制御に用いるFF用目標回転速度としての第2目標入力軸回転速度NIN2*を設定する。そして、変速制御手段88は、例えば実入力軸回転速度NINを第2目標入力軸回転速度NIN2*とする為の次式(1)に示すような予め定められたフィードフォワード制御式から第2目標入力軸回転速度NIN2*に基づいて、FF制御量としてのFF制御用プライマリプーリ圧PinFF(或いはFF制御用プライマリプーリ圧PinFFとする為の駆動側油圧シリンダ42cに対する作動油の流量に相当するソレノイド弁DS1及びソレノイド弁DS2への油圧指令信号等)を算出する。尚、この式(1)において、KFFはフィードフォワード定数(FFゲイン)である。
PinFF=KFF×(f(NIN2*)) ・・・(1)
また、変速制御手段88は、例えば図10に示すような変速マップ(実線)から実際の車速V及びアクセル開度Accで示される車両状態に基づいてフィードバック制御に用いるFB用目標回転速度としての目標入力軸回転速度NIN *を設定する。そして、変速制御手段88は、例えば実入力軸回転速度NINを目標入力軸回転速度NIN *と一致させる為の次式(2)に示すような予め定められたフィードバック制御式から目標入力軸回転速度NIN *に基づいて、FB制御量としてのFB制御用プライマリプーリ圧PinFB(或いはFB制御用プライマリプーリ圧PinFBとする為の駆動側油圧シリンダ42cに対する作動油の流量に相当するソレノイド弁DS1及びソレノイド弁DS2への油圧指令信号等)を算出する。この式(2)において、eは目標入力軸回転速度NIN *と実入力軸回転速度NINとの回転偏差ΔNIN(=NIN *−NIN)、KPはフィードバック比例定数(FB比例ゲイン)、KIは積分定数(FB積分ゲイン)である。
PinFB=(KP×e+KI×(∫edt)) ・・・(2)
また、変速制御手段88は、FF制御用プライマリプーリ圧PinFFとFB制御用プライマリプーリ圧PinFBとを加算することにより、最終制御量としての制御用プライマリプーリ圧Pinc(=PinFF+PinFB)を算出する。そして、変速制御手段88は、変速制御手段88は、例えば制御用プライマリプーリ圧Pincに基づいて駆動側油圧シリンダ42cに対する作動油の流量を制御することにより両可変プーリ42、46のV溝幅を変化させる為の変速制御指令信号(油圧指令)STを油圧制御回路100へ出力して変速比γを連続的に変化させる。油圧制御回路100は、変速制御手段88からの変速制御指令信号STに従って無段変速機18の変速が実行されるようにソレノイド弁DS1及びソレノイド弁DS2を作動させて駆動側油圧シリンダ42cへの作動油の供給・排出により変速制御圧Pinを調圧する。このように、異なる2つの目標値(目標入力軸回転速度NIN *、第2目標入力軸回転速度NIN2*)からそれぞれFB制御量及びFF制御量を算出し、1つの実回転速度NINを実現させることで発進時のオーバーシュートを抑制する制御を発進時制御としてのオーバーシュート対策制御と称する。
一方、変速制御手段88は、例えばアクセルオンに伴う車両発進時以外の通常の車両走行に際して、例えば図10に示すような変速マップ(実線)から実際の車速V及びアクセル開度Accで示される車両状態に基づいて目標入力軸回転速度NIN *を設定する。そして、そして、変速制御手段88は、実入力軸回転速度NINがその目標入力軸回転速度NIN *と一致するように、例えば実入力軸回転速度NINと目標入力軸回転速度NIN *との回転偏差ΔNIN(=NIN *−NIN)に基づいて無段変速機18の変速を例えばフィードバック制御により実行する。つまり、変速制御手段88は、例えば通常の車両走行に際して、FF制御用プライマリプーリ圧PinFFを零とすることにより制御用プライマリプーリ圧PincをFB制御用プライマリプーリ圧PinFBとし、そのFB制御用プライマリプーリ圧PinFBに基づいて変速制御指令信号STを油圧制御回路100へ出力して変速比γを連続的に変化させる。
車両状態判定部すなわち車両状態判定手段90は、例えばアクセル開度Acc及び車速Vに基づいて車両停止状態からアクセルペダル68が踏み込み操作された車両発進時であるか否かすなわちアクセルオンに伴う車両発進時であるか否かを判定する。
発進時制御実行判定部すなわち発進時制御実行判定手段92は、例えば車両状態判定手段90によりアクセルオンに伴う車両発進時であると判定された場合には、変速制御手段88により設定される第2目標入力軸回転速度NIN2*から定められる変速開始車速V”に実際の車速Vが到達したか否かに基づいて、変速制御手段88による発進時制御(オーバーシュート対策制御)を開始するか否かを判定する。そして、発進時制御実行判定手段92は、変速制御手段88によるオーバーシュート対策制御を開始すると判定したときには、オーバーシュート対策制御フラグをオフからオン(OFF→ON)とする。変速制御手段88は、オーバーシュート対策制御フラグがオンであるときには、前記式(1)に従ってFF制御用プライマリプーリ圧PinFF(FF制御量)を算出し、オーバーシュート対策制御を実行する。
また、発進時制御実行判定手段92は、例えば第2目標入力軸回転速度NIN2*が変速制御手段88により設定される目標入力軸回転速度NIN *と一致したか否か(すなわち目標入力軸回転速度NIN *と第2目標入力軸回転速度NIN2*との差回転速度(NIN *−NIN2*)が零判定値となったか否か)に基づいて、変速制御手段88によるオーバーシュート対策制御を終了するか否かを判定する。また、発進時制御実行判定手段92は、変速制御手段88によるオーバーシュート対策制御を終了すると判定したときには、オーバーシュート対策制御フラグをオンからオフ(ON→OFF)とする。変速制御手段88は、オーバーシュート対策制御フラグがオフであるときには、FF制御用プライマリプーリ圧PinFFを零(FF制御量=0)とする。
図12は、電子制御装置50の制御作動の要部すなわち車両発進時の無段変速機18の変速においてオーバーシュートの発生を適切に抑制する為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。また、図13は、図12のフローチャートに示す制御作動を実行した場合の一例を示すタイムチャートである。
図12において、先ず、車両状態判定手段90に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S10において、例えばアクセル開度Acc及び車速Vに基づいてアクセルオンに伴う車両発進時であるか否かが判定される。このS10の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられるが肯定される場合(図13のt1時点)は発進時制御実行判定手段92に対応するS20において、例えば図10に示すような変速マップ(二点鎖線)から実際の車速V及びアクセル開度Accで示される車両状態に基づいて設定されるフィードフォワード制御用の第2目標入力軸回転速度NIN2*から定められる変速開始車速V”に実際の車速Vが到達したか否かに基づいて、発進時制御(オーバーシュート対策制御)を開始するか否かが判定される。このS20の判断が否定される場合(図13のt2時点以前)は発進時制御実行判定手段92及び変速制御手段88に対応するS30において、例えばオーバーシュート対策制御フラグのオフ状態が維持されると共に、FF制御用プライマリプーリ圧PinFFが零(FF制御量=0)とされる。一方、上記S20の判断が肯定される場合(図13のt2時点)は発進時制御実行判定手段92及び変速制御手段88に対応するS40において、例えばオーバーシュート対策制御フラグがオンからオフ(ON→OFF)とされると共に、例えば図10に示すような変速マップ(二点鎖線)から実際の車速V及びアクセル開度Accで示される車両状態に基づいてフィードフォワード制御用の第2目標入力軸回転速度NIN2*が設定される。次いで、変速制御手段88に対応するS50において、例えば前記式(1)から上記第2目標入力軸回転速度NIN2*に基づいてFF制御用プライマリプーリ圧PinFF(FF制御量)が算出される。上記S30或いは上記S50に続いて変速制御手段88に対応するS60において、例えば図10に示すような変速マップ(実線)から実際の車速V及びアクセル開度Accで示される車両状態に基づいてフィードバック制御用の目標入力軸回転速度NIN *が設定される。次いで、変速制御手段88に対応するS70において、例えば前記式(2)から上記目標入力軸回転速度NIN *に基づいてFB制御用プライマリプーリ圧PinFB(FB制御量)が算出される。次いで、変速制御手段88に対応するS80において、例えばFF制御用プライマリプーリ圧PinFFとFB制御用プライマリプーリ圧PinFBとが加算される。次いで、変速制御手段88に対応するS90において、例えば最終制御量としての制御用プライマリプーリ圧Pinc(=PinFF+PinFB)が算出される。
そして、図13に示すように、t2時点から先ず第2目標入力軸回転速度NIN2*に基づくフィードフォワード制御が開始され、その後回転偏差ΔNINに基づくフィードバック制御がフィードフォワード制御に加えて実行される。第2目標入力軸回転速度NIN2*が目標入力軸回転速度NIN *と一致するとオーバーシュート対策制御フラグがオンからオフ(ON→OFF)とされ、FF制御用プライマリプーリ圧PinFFが零(FF制御量=0)とされる。t4時点以降は、フィードバック制御により実入力軸回転速度NINが目標入力軸回転速度NIN *に追従させられる。上記オーバーシュート対策制御が実行されることにより、実線に示すように実入力軸回転速度NINのオーバーシュートが抑制されると共に、入力軸回転速度NINの低下も防止される。尚、破線に示す実入力軸回転速度NINは、フィードバック制御を主体とした場合の一例であり、変速が開始されt3時点以降において実入力軸回転速度NINのオーバーシュートが発生している。
上述のように、本実施例によれば、最終的に実現すべき目標入力軸回転速度NIN *と実入力軸回転速度NINとの回転偏差ΔNINに基づくフィードバック制御により実行される実入力軸回転速度NINの回転変化と、実入力軸回転速度NINを目標入力軸回転速度NIN *を用いる場合よりも早く変速を開始させる為の第2目標入力軸回転速度NIN2*とする為のフィードフォワード制御により実行される実入力軸回転速度NINの回転変化とを加算することにより、すなわちFF制御用プライマリプーリ圧PinFFとFB制御用プライマリプーリ圧PinFBとを加算することにより、目標入力軸回転速度NIN *となるように実入力軸回転速度NINを追従させる変速制御が実行されるので、回転偏差ΔNINに基づくフィードバック制御の実行による変速の遅れに対して、第2目標入力軸回転速度NIN2*とする為のフィードフォワード制御の実行により変速開始が早められる。よって、無段変速機18の変速において、オーバーシュートの発生が適切に抑制される。また、最終的に実現すべき目標入力軸回転速度NIN *に対し、フィードバック制御ゲイン(FB比例ゲイン、FB積分ゲイン)を大きくすることなく、実入力軸回転速度NINを目標入力軸回転速度NIN *に追従させることが可能となる為、変速ハンチングも発生しない。
また、本実施例によれば、変速制御の対象となる回転要素は、無段変速機18の入力回転要素(例えば入力軸32)であり、第2目標入力軸回転速度NIN2*は、高車速側の変速比への変速(アップシフト)を目標入力軸回転速度NIN *を用いる場合よりも早く開始させるように、目標入力軸回転速度NIN *よりも低く設定されているので、第2目標入力軸回転速度NIN2*とする為のフィードフォワード制御の実行により変速開始が早められるときに、実入力軸回転速度NINが最終的に実現すべき目標入力軸回転速度NIN *よりも小さくなってその目標入力軸回転速度NIN *とに回転偏差ΔNINが生じることになるが、その回転偏差ΔNINをなくすようにフィードバック制御の実行により実入力軸回転速度NINが回転変化させられるので、無段変速機18の変速において、実入力軸回転速度NINの低下を抑制しながらオーバーシュートの発生を適切に抑制することができる。
また、本実施例によれば、オーバーシュート対策制御は車両10の発進時の変速制御であり、第2目標入力軸回転速度NIN2*は、最低車速側の変速比γmaxに維持されるように車速Vの上昇に伴って目標入力軸回転速度NIN *を上昇させる過程で、最低車速側の変速比γmaxから高車速側の変速比への変速(アップシフト)を目標入力軸回転速度NIN *を用いる場合よりも低車速にて開始させるように、目標入力軸回転速度NIN *よりも低く設定されているので、車両発進時において、実入力軸回転速度NINの低下を抑制しながらオーバーシュートの発生を適切に抑制することができる。
つまり、オーバーシュートを想定して早めに変速開始とする第2目標入力軸回転速度NIN2*を設定し、その第2目標入力軸回転速度NIN2*の実現に必要なFF制御量を算出して出力(FF制御)することは、例えばハード的最LOWから伝動ベルト48の掛かり位置を変位させる為に必要な変速制御圧(プライマリプーリ圧)Pinの応答遅れに対して有効となる。このとき、変速開始を早めたことにより実現すべき目標入力軸回転速度NIN *と実入力軸回転速度NINとの間に回転偏差ΔNINが生じる(NIN<NIN *)。その際、その回転偏差ΔNINをなくす為に必要なFB制御量を算出して出力(FB制御)する為、実入力軸回転速度NINの低下によるエンジン回転速度NEの低回転状態(すなわちエンジン12自体の回転が不安定になる状態)の懸念に対して効果がある。加えて、異なった2種類の目標回転速度(変速マップ)から1つの実入力軸回転速度NINを実現させるという本実施例の特有の技術を用いると、実際に実現したい目標入力軸回転速度NIN *に対し、FB制御ゲインを大きくすることなく追従させることが可能となる為、変速ハンチングの発生も抑制される。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前述の実施例では、発進時制御実行判定手段92(図12のステップS20)は、第2目標入力軸回転速度NIN2*から定められる変速開始車速V”に実際の車速Vが到達したか否かに基づいて、オーバーシュート対策制御を開始するか否かを判定したが、必ずしもこれに限らなくとも良い。例えば、変速開始車速V”は一定値としても良い。また、アクセルオンの車両発進から所定時間経過したか否かに基づいてオーバーシュート対策制御を開始するか否かを判定しても良い。また、この所定時間は、例えば油圧応答遅れ等を考慮して予め設定した一定値であっても良いし、例えば変速開始車速V”と同様にアクセル開度Accに応じて変化させても良い。また、変速開始車速V”や上記所定時間を車速Vの変化速度に応じて変化させるなど種々の態様が考えられる。
また、前述の実施例では、最大変速比γmax(最低車速側の変速比(最LOW))としてハード的最LOWを用いる無段変速機18を例示したが、ソレノイド弁DS1及びソレノイド弁DS2に対する所定の油圧指令信号により最大変速比γmaxが維持される無段変速機であっても本発明は適用され得る。
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。