JP4052270B2 - 変速機の制御装置 - Google Patents

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Description

この発明は、挟圧力の増大に伴ってトルク容量が増大するトルク伝達機構を含む変速機を対象とした制御装置に関するものである。
ベルト式無段変速機やトラクション式無段変速機は、ベルトとプーリとの間の摩擦力や、ディスクとローラとの間のトラクションオイルのせん断力を利用してトルクを伝達している。したがってこれらの無段変速機のトルク容量は、そのトルクの伝達が生じる箇所に作用する圧力に応じて設定される。
無段変速機における上記の圧力は挟圧力と称され、その挟圧力を高くすれば、トルク容量を増大させて滑りを回避できるが、その反面、高い圧力を生じさせるために動力を必要以上に消費したり、あるいは動力の伝達効率が低下するなどの不都合がある。そのため、一般的には、意図しない滑りが生じない範囲で、挟圧力を可及的に低く設定している。
例えば、ベルト式無段変速機を搭載した車両では、エンジンの回転数を無段変速機によって制御して燃費の向上を図ることができるので、その利点を損なわないために、無段変速機での動力伝達効率を可及的に向上させるべく、挟圧力を、滑りが生じない範囲で可及的に低く設定するように制御されている。ベルト式無段変速機に要求される挟圧力は、理論上は、摩擦係数やプーリによるベルトの挟み角などの構造上のパラメータを定数とし、入力トルクやベルトの巻き掛け半径などの動作状態を表すパラメータを変数として決定できる。しかしながら、摩擦係数などの定数のみならず、入力トルクなどの変数には、個体差や経時変化あるいは推定誤差などが要因となってばらつきがあり、正確な値を予め決定することが困難である。そのため、実際の無段変速機の運転状態もしくは動作状態に基づいて、滑りの生じ始める圧力である滑り限界圧力(すなわちこの場合は滑り限界挟圧力)あるいは実際の入力トルクに対応する挟圧力を測定もしくは学習し、その測定もしくは学習の結果をその後の制御に反映させるようにしている。
その一例を挙げると、特許文献1には、円錐円板対と巻き掛け伝動節とを有する変速機であって、伝達される力、速度、伝達比またはこれらの組み合わせに関する条件がほぼ一定の場合に、その円錐円板対が巻き掛け伝動節を挟み付ける圧着力(すなわち挟圧力)を変化させてスリップ限界(すなわち滑り限界挟圧力)を決定し、そのスリップ限界(滑り限界挟圧力)を超えないように圧着力(挟圧力)を調整するように構成された変速機が記載されている。
この特許文献1に記載された発明では、検出されたスリップ限界(滑り限界挟圧力)に基づいて圧着力(挟圧力)を制御することにより、滑りが生じない範囲で無段変速機の圧着力(挟圧力)が低下される。また、その圧着力(挟圧力)は、回転数、トルク、変速比、温度に関連した、特定のスリップに対して必要な圧着力(挟圧力)を表すところの特性フィールドを記憶し、かつ、この特性フィールドに相応して調整されることとしている。
特開2001−12593号公報
無段変速機における挟圧力あるいは上記の圧着力は、入力されたトルクを過不足なく伝達するトルク容量を設定する圧力であるから、その学習は、トルクや回転数などの運転状態に対応させて実行され、その運転状態と同一もしくは近似する運転状態でその学習値が挟圧力の制御に反映される。そして、上記の特許文献1に記載された発明では、所定の条件が成立した運転状態で挟圧力を変化させてその滑り限界挟圧力を求めるようにしている。その滑り限界挟圧力の検出は、例えば既知の挟圧力に相当する油圧から徐々に油圧を低下させて、滑りが発生する直前の油圧を滑り限界挟圧力相当油圧として検出している。そのため、滑り限界挟圧力は、その滑り限界挟圧力が検出された際の入力トルクおよびベルトとプーリとの間の摩擦係数などから求まる理論挟圧力相当油圧と滑り限界挟圧力相当油圧との差(あるいは割合)として算出される。
しかしながら、上記の理論挟圧力を求める際に用いられる摩擦係数は、設計上あるいは理論上で算出される設計(理論)摩擦係数であり、その設計(理論)摩擦係数と実際の摩擦係数である実摩擦係数とは必ずしも一致しない。すなわち、前述したように、実摩擦係数には、無段変速機の個体差や経時変化あるいは推定誤差などを要因とするばらつきがあり、かつ実摩擦係数を正確に検出することは困難なため、設計(理論)摩擦係数と実摩擦係数との間には不可避的な差が生じることになる。
そのようなばらつきの影響によって、挟圧力が本来必要な値よりも小さく設定されて滑りが発生してしまう事態を回避するためには、摩擦係数のばらつき分を見込んだ滑りに対する余裕分を挟圧力に上乗せして設定することになる。そのため、挟圧力が必要以上に大きな値に設定されることによって、挟圧力を低下させることによる燃費向上効果を十分に得ることができなくなってしまう可能性があった。
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、トルク伝達機構のトルク容量を定める挟圧力を制御する際に、例えば摩擦係数などで表される挟圧力とトルク容量との関係を規定する係数を精度良く検出あるいは学習することができる制御装置を提供することを目的とするものである。
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、入力トルクに対する挟圧力が相対的に低い場合に滑りを生じるとともに挟圧力の増大に伴ってトルク容量が増大するトルク伝達機構を含む変速機が、既知のトルクを出力できる動力源の出力側に連結され、前記挟圧力を前記トルク伝達機構に対する入力トルクに応じた圧力に設定する変速機の制御装置において、前記動力源が出力する前記既知のトルクに基づく入力トルクで、滑りを生じることなくトルクを伝達できる範囲で可及的に低い挟圧力になるように挟圧力を制御する挟圧力制御手段と、前記変速機で変化される変速比が所定値以上の運転領域と所定値より小さい運転領域との少なくとも二つの運転領域で、前記挟圧力制御手段で制御された挟圧力に基づいて、前記トルク伝達機構における挟圧力とトルク容量との関係を規定する係数についての学習値をそれぞれ求めて学習する学習手段とを備えていることを特徴とする制御装置である。
また、請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記挟圧力制御手段は、前記動力源が出力する前記既知のトルクに基づく入力トルクにつり合う滑り限界圧力を検出する滑り限界圧力検出手段を含む制御装置である。
さらに、請求項3の発明は、請求項1の発明において、前記挟圧力制御手段は、前記動力源が前記既知のトルクを出力している状態で、前記挟圧力を、前記トルク伝達機構における挟圧力とトルク容量との関係を規定する係数の設計値と前記既知のトルクに基づく入力トルクとから求まる理論値に設定する挟圧力設定手段を含み、前記学習手段は、前記挟圧力を前記理論値に設定した状態で前記トルク伝達機構に滑りが生じない場合に、前記既知のトルクと前記理論値に設定されている挟圧力とに基づいて、前記係数を求めて学習値として学習する制御装置である。
さらにまた、請求項4の発明は、請求項2の発明において、前記動力源が、内燃機関と電動機とを有し、前記滑り限界圧力検出手段は、前記電動機のみがトルクを出力している場合に前記滑り限界圧力を検出する手段を含む制御装置である。
またさらに、請求項5の発明は、請求項3の発明において、前記動力源が、内燃機関と電動機とを有し、前記挟圧力設定手段は、前記電動機のみがトルクを出力している場合に前記挟圧力を設定する手段を含む制御装置である。
そして、請求項6の発明は、請求項1ないし5のいずれかの発明において、前記変速機の前記所定値は1である制御装置である。
請求項1の発明によれば、トルク伝達機構の挟圧力を設定する制御がおこなわれる場合、既知のトルクが入力されている状態でトルク伝達機構に滑りが生じない範囲で可及的に低い挟圧力が設定され、その挟圧力とトルク容量との関係を規定する摩擦係数などの係数について、変速比が所定値以上の運転領域と所定値より小さい運転領域とで学習がおこなわれる。そのため、前記係数についての学習値が、既知のトルクに基づいて求められることになり、しかも変速比に基づいて分けられた運転領域について求められるので、前記係数を精度良く学習することができる。
また、請求項2の発明によれば、既知の入力トルクに対応する滑り限界圧力を求めることができる。
さらに、請求項3の発明によれば、トルク伝達機構の挟圧力を設定する制御がおこなわれる場合、挟圧力が、トルク伝達機構における挟圧力とトルク容量との関係を規定する係数の設計値と前記既知のトルクに基づく入力トルクとから求まる理論値に設定される。そして、挟圧力が前記理論値に設定された場合は、前記既知のトルクと前記理論値に基づいて前記係数についての学習がおこなわれる。そのため、トルク伝達機構における滑りを生じさせなくとも前記係数についての学習値を求めることができ、かつ前記係数についての学習値が、既知のトルクに基づいて求められることになり、前記係数を精度良く学習することができる。
またさらに、請求項4の発明によれば、出力しているトルクの値を精度良く検知することが可能な、電動機のみによってトルクが出力されている場合に、その電動機が出力する既知のトルクに基づく入力トルクにつり合う限界圧力が検出される。そして、その検出された滑り限界圧力に基づいて、前記係数についての学習がおこなわれる。そのため、前記係数を精度良く学習することができる。
さらにまた、請求項5の発明によれば、出力しているトルクの値を精度良く検知することが可能な電動機のみによってトルクが出力されている場合に、前記挟圧力が設定されるので、前記係数を精度良く学習することができる。
そして、請求項6の発明によれば、滑りの発生する場所が変化する変速比が「1」を境界として区分された各運転領域について学習が行われるので、前記係数をより精度良く学習することができる。
つぎにこの発明を具体例に基づいて説明する。先ず、この発明で対象とする車両用の無段変速機について説明すると、この発明で対象とする無段変速機は、ベルトを伝動部材とし、これを回転部材であるプーリに巻き掛けるとともに挟み付けるベルト式の無段変速機や、パワーローラを伝動部材とするとともにこれを回転部材である入出力側のディスクによって、オイル(トラクション油)を介して挟み付け、そのオイルのせん断力を利用してトルクを伝達するトロイダル型(トラクション式)無段変速機である。図3には、ベルト式無段変速機1を含む車両用駆動機構の一例を模式的に示しており、この無段変速機1の入力側に、動力源としてのエンジン2と、エンジン2の出力トルクに付加トルクを加減し、またエンジン2の回転数を制御する発電機能のある電動機(すなわちモータ・ジェネレータ)3とが配置されている。
そのエンジン2は、要は、燃料を燃焼させて動力を出力する動力機関であって、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンあるいは天然ガスエンジンなどの内燃機関である。また、モータ・ジェネレータ3は、電流が供給されることにより電動機として作用し、また強制的に回転させられることにより発電機として機能する動力装置であって、永久磁石式同期電動機を使用することができる。したがってこのモータ・ジェネレータ3には、インバータ4を介してバッテリー5などの蓄電装置が接続されている。
これらのエンジン2とモータ・ジェネレータ3とが、ダブルピニオン型の遊星歯車機構6を介して連結されている。この遊星歯車機構6は、無段変速機1に対する動力の入力態様を変更する動力切換機構を構成しており、そのサンギヤ7にエンジン2が連結されている。そのサンギヤ7と同心円上に、内歯歯車であるリングギヤ8が配置され、互いに噛み合っている二つのピニオンギヤを一対として複数対のピニオンギヤがサンギヤ7とリングギヤ8との間に配置され、それらのピニオンギヤがキャリヤ9によって自転かつ公転自在に保持されている。そして、そのキャリヤ9に前記モータ・ジェネレータ3が連結されている。さらに、リングギヤ8の回転を選択的に止めるブレーキB1 が設けられている。このブレーキB1 は、多板ブレーキやバンドブレーキなどの適宜の形式のブレーキであってよい。
無段変速機1は、従来知られているベルト式無段変速機と同様の構成であって、入力軸(プライマリーシャフト)11上に駆動プーリ(プライマリープーリ)12が設けられ、その入力軸11と平行に配置されている出力軸(セカンダリーシャフト)13上に従動プーリ(セカンダリープーリ)14が配置され、これらのプーリ12,14にベルト15が巻き掛けられている。これらのプーリ12,14は、ベルト15を巻き掛ける溝幅および巻き掛け半径を連続的に変化させるために、固定シーブと可動シーブとによって構成されている。そして、その可動シーブを軸線方向に前後動させるためのアクチュエータ16,17が、駆動プーリ12と従動プーリ14とのそれぞれに設けられている。
これらのアクチュエータ16,17は、油圧によって可動シーブを前後動させるように構成されており、駆動プーリ12側のアクチュエータ16に圧油を給排することにより、駆動プーリ12の溝幅が変化し、それに伴って従動プーリ14の溝幅が追従して変化し、その結果、それぞれのプーリ12,14に対するベルト15の巻き掛け半径が変化して、変速がおこなわれるようになっている。これに対して従動プーリ14側のアクチュエータ17は、各プーリ12,14がベルト15を挟み付ける挟圧力を設定するためのものであって、無段変速機1に対する入力トルクに応じた油圧が供給されるようになっている。なお、圧油が供給されない場合であっても、最低限の挟圧力を生じるように構成されており、具体的には、従動プーリ14側のアクチュエータ17内のピストン(図示せず)を、圧油による押圧方向と同方向に押圧するスプリング(図示せず)が、アクチュエータ17に内蔵されている。
無段変速機1における入力軸11を前記遊星歯車機構6に選択的に連結する二つのクラッチC1 ,C2 が設けられている。これらのクラッチC1 ,C2 は、一例として油圧によって動作する多板クラッチなどのクラッチであって、入力軸11とキャリヤ9との間に第1クラッチC1 が設けられ、また入力軸11とリングギヤ8との間に第2クラッチC2 が設けられている。すなわち、これらのクラッチC1 ,C2 と前記ブレーキB1 とを適宜に係合・解放させることにより、多様な走行パターンを設定できるようになっている。なお、出力軸13は、ギヤ対18を介して車軸19に連結されている。
例えば、二つのクラッチC1 ,C2 を係合させた場合には、エンジン2の出力トルクを無段変速機1に伝達して前進走行し、もしくはモータ・ジェネレータ3で発電しつつ前進走行するパターン、あるいはエンジン2の出力トルクにモータ・ジェネレータ3のトルクを加えて前進走行するパターンが設定される。これに対して第1クラッチC1 のみを係合させれば、モータ・ジェネレータ3が入力軸11にいわゆる直結されるので、モータ・ジェネレータ3のみで走行するパターンが設定される。なお、この場合、前進走行および後進走行のいずれも可能である。さらに、ブレーキB1 と第1クラッチC1 とを係合させた場合には、エンジン2のみによって後進走行するパターンが設定される。
上記のブレーキB1 や各クラッチC1 、C2 の係合・解放の制御や変速制御あるいは挟圧力制御をおこなうための油圧制御装置20が設けられている。この油圧制御装置20は、電気信号によって動作して油圧の給排や調圧をおこなうように構成されており、この油圧制御装置20には、ハイブリッド用電子制御装置(HV−ECU)21およびエンジン用電子制御装置(E/G−ECU)22から指令信号が入力されている。なお、ハイブリッド用電子制御装置21は、主として前記モータ・ジェネレータ3を制御するためのものであって、前記インバータ4との間で信号を送受信するようになっている。また、エンジン用電子制御装置22は、エンジン2の燃料噴射量や点火時期、スロットル開度などを制御するように構成されている。
また、これらの制御装置20,21,22による制御をおこなうためのデータを検出するセンサーとして、入力軸11の回転数を検出する入力回転数センサー23、出力軸13の回転数を検出する出力回転数センサー24、従動プーリ14側のアクチュエータ17における油圧を検出する油圧センサー25などが設けられている。
無段変速機1によれば、入力回転数であるエンジン回転数を無段階に(言い換えれば、連続的に)制御できるので、これを搭載した車両の燃費を向上できる。例えば、アクセル開度などによって表される要求駆動量と車速とに基づいて目標駆動力が求められ、その目標駆動力を得るために必要な目標出力が目標駆動力と車速とに基づいて求められ、その目標出力を最適燃費で得るためのエンジン回転数が予め用意したマップに基づいて求められる。そして、そのエンジン回転数となるように変速比が制御される。
そのような燃費向上の利点を損なわないために、無段変速機1における動力の伝達効率が良好な状態に制御される。具体的には、無段変速機1のトルク容量すなわち挟圧力が、エンジントルクに基づいて決まる目標トルクを伝達でき、かつベルト15の滑りが生じない範囲で可及的に低い挟圧力になるよう制御される。例えば、加減速が比較的頻繁におこなわれたり、路面の凹凸もしくは起伏がある悪路を走行している場合などのいわゆる非定常走行状態では、挟圧力が、無段変速機1を制御する油圧系統における全体の元圧となるライン圧もしくはその補正圧程度の相対的に高い圧力に設定される
これに対して平坦路をある程度以上の車速で定速走行しているなどの定常走行状態もしくはこれに準ずる準定常走行状態では、滑りを生じずに入力トルクを伝達できる最低の圧力すなわち滑り限界挟圧力を検出するために、挟圧力が徐々に低下される。そしてその挟圧力が、検出された滑り限界挟圧力に所定の安全率もしくは滑りに対する余裕伝達トルクを設定する圧力を加えた挟圧力に設定される。そして、この無段変速機1における挟圧力は、滑りを生じることなくトルクを伝達できる範囲で可及的に低い圧力であることが好ましい。
この滑り限界挟圧力は、前述したように、滑りが検出された際の入力トルクおよびベルト15とプーリ12,14との間の摩擦係数などから求まる理論挟圧力に基づいて算出される。ここで理論挟圧力は、入力トルクと無段変速機1のベルト15とプーリ12,14との間の摩擦係数とを主なパラメータとして求めることができ、理論挟圧力をPt とすると、
Pt =T'in ×cosθ/(2×μs ×Rin×Aout ) ・・・・・(a)として算出される。ここで、T'in は入力トルクの推定値(すなわち推定入力トルク)、θはプーリ12,14でのベルト15の侠角、μs はプーリ12,14とベルト15との間の摩擦係数の設計値(すなわち設計もしくは理論摩擦係数)、Rinは駆動プーリ12におけるベルト15の巻き掛け半径、Aout は従動プーリ14の可動シーブの受圧面積である。
また、滑り限界挟圧力は、上記の理論挟圧力Pt の算出式((a)式)に基づいて求めることができ、滑り限界挟圧力をPrim とすると、
Prim =Tin×cosθ/(2×μ×Rin×Aout ) ・・・・・(b)として表すことができる。ここで、Tinは実際の入力トルク(すなわち実入力トルク)、μはプーリ12,14とベルト15との間の実際の摩擦係数(すなわち実摩擦係数)である。
上記の(a),(b)式において、可動シーブの受圧面積Aout は、無段変速機1の運転状態に関わらず一定の値である。これに対して、駆動プーリ12におけるベルト15の巻き掛け半径Rin、推定入力トルクT'in 、実入力トルクTin、設計(理論)摩擦係数μs 、実摩擦係数μは、無段変速機1の運転状態に応じて変化する。特に、推定入力トルクT'in 、実入力トルクTin、実摩擦係数μなどについては、前述したように、それらの値を正確に検出することは困難であり、また、個体差や経時変化あるいは推定誤差などを要因とするばらつきがある。
そこで、この発明の制御装置は、無段変速機1で例示されるような、トルク伝達機構を含む変速機のトルク容量を定める挟圧力を制御する際に、例えば摩擦係数などで表される挟圧力とトルク容量との関係を規定する係数を精度良く検出あるいは学習することによって、適切な挟圧力制御を実行することができるように構成されている。その制御の具体例を以下に説明する。
図1はこの発明における第1の制御例を示すフローチャートである。これらのフローチャートで示されるルーチンは、所定の短時間毎に繰り返し実行される。図1において、先ず、実摩擦係数μの学習値が学習済みであるか否かが判断される(ステップS101)。未だ学習値が得られていないことにより、ステップS101で否定的に判断された場合は、ステップS102へ進み、車両がモータ・ジェネレータ3のみによって走行するモータ走行中であるか否かが判断される。
前述したように、無段変速機1の滑り限界挟圧力あるいは理論挟圧力は、入力トルクT'in もしくはTinや、摩擦係数μs もしくはμをパラメータとして算出される。これらのうち、入力トルクT'in ,Tinは、エンジン2が出力しているトルクによって無段変速機1が運転されている場合は、そのトルクの値を正確に検知することが困難である。これに対して、モータ・ジェネレータ3のみが出力しているトルクによって無段変速機1が運転されている場合には、モータ・ジェネレータ3に供給される電流を検知することによって、モータ・ジェネレータ3が出力しているトルク、すなわち無段変速機1に対する入力トルクの値を精度良く検出することができる。そこでこの発明では、車両の運転状態が、モータ走行中であるか否かを判断して、モータ走行中である場合に、後述するように、滑り限界挟圧力あるいは理論挟圧力の検出制御を実行し、その検出値に基づいて摩擦係数についての学習値を算出するように構成されている。
車両がモータ走行中であることにより、このステップS102で肯定的に判断された場合は、ステップS103へ進み、制御開始条件が成立しているか否かが判断される。ここで説明している具体例は、無段変速機1の挟圧力を低下させ、その際の滑りを検出するとともに、その検出結果に基づいて滑り限界挟圧力(あるいは理論挟圧力)を検出する制御の例である。したがって無段変速機1に作用するトルクが安定している必要がある。ステップS103はそのようなトルクの安定状態を判断するためのものであり、そのための制御開始条件とは、例えば、アクセル開度の変化が予め定めた範囲内であること、道路の勾配が所定範囲内であること、走行路が舗装された平坦路であるなど良路であること、各センサーが正常に機能していること、無段変速機1やモータ・ジェネレータ3についての制御が正常に実行できる状態となっていることなどであり、これらの条件の全てが成立している場合にステップS103で肯定的に判断される。
これらの制御開始条件がすべて成立していることにより、このステップS103で肯定的に判断された場合は、ステップS105へ進み、滑り限界挟圧力検出制御が実行される。この滑り限界挟圧力検出制御とは、従来知られている適宜の方法でおこなうことができ、例えば、従動プーリ14側の挟圧力を徐々に低下させて、挟圧力と実摩擦係数μとから求められる伝達トルク容量と、実入力トルクTinとがつり合う挟圧力を求めることによって滑り限界挟圧力を検出することができる。
続いて、実摩擦係数μの学習値αが算出されて保存される(ステップS107)。この実摩擦係数μの学習値αは、限界挟圧力検出時の設計摩擦係数μs_gkと、限界挟圧力検出時の実摩擦係数μ_gk との割合として求められる。具体的には、次のようにして算出される。
α=μs_gk/μ_gk ・・・・・(c)ここで、限界挟圧力検出時の実摩擦係数μ_gk は、限界挟圧力検出時のモータ・ジェネレータ3が出力しているトルクをTm_gk、限界挟圧力検出時の実際の従動プーリ14に作用する油圧をP_gk 、従動プーリ14に作用する遠心油圧とアクチュエータ17に内蔵されているリターンスプリングの弾性力との和に相当する油圧をPsch 、限界挟圧力検出時の駆動プーリ12におけるベルト15の巻き掛け半径をRin_gk とすると、
μ_gk =Tm_gk×cosθ/{2×(P_gk +Psch)×Rin_gk ×Aout }
・・・・・(d)として表される。したがって、学習値αは、上記の(c),(d)式により、
α=μs_gk×2×(P_gk +Psch)×Rin_gk ×Aout/Tm_gk×cosθ
・・・・・(e)として求めることができる。このステップS107で学習値αが算出されて保存されると、その後、このルーチンを一旦終了する。
なお、上記の制御例では、実摩擦係数μの学習値αを算出するために、無段変速機1での滑りを検出することによって、滑る限界挟圧力を検出している例を示しているが、この滑り限界挟圧力の検出制御に替えて、理論挟圧力を検出してその理論挟圧力に基づいて実摩擦係数μの学習値αを算出する、同様の制御をおこなうように構成することも可能である。すなわち、その場合には、無段変速機1の挟圧力を滑り限界挟圧力まで低下させることの代わりに、推定入力トルクT'in と設計摩擦係数μs とから求められる理論挟圧力まで挟圧力を低下させて、挟圧力を理論挟圧力まで低下させた際に無段変速機1での滑りが生じていない場合に、その理論挟圧力を滑り限界挟圧力に相当する挟圧力として設定する制御である。そのように制御することによって、無段変速機1での滑りを生じさせることなく滑り限界挟圧力に相当する挟圧力を設定し、その挟圧力に基づいて実摩擦係数μの学習値αを算出することができる。
一方、車両がエンジン2のみで走行しているか、あるいはエンジン2とモータ・ジェネレータ3を併用して走行していることにより、前述のステップS102で否定的に判断された場合、あるいは制御開始条件のいずれかが成立しないことによって、前述のステップS103で否定的に判断された場合には、ステップS106へ進み、通常の挟圧力制御が実行される。通常の挟圧力制御とは、無段変速機1での滑りを生じさせずにトルクを伝達することを主眼とする内容の制御であり、前記油圧制御装置20の元圧であるライン圧を従動プーリ14側のアクチュエータ17に供給し、あるいは入力トルク(推定値)に基づいて定まる理論挟圧力に、ばらつきを見込んだ補正圧さらには路面の凹凸などが原因となって無段変速機1に作用するトルクの変動を見込んだ悪路対応分の圧力などを加えた挟圧力を設定する制御である。
具体的には、この通常挟圧力制御が実行される際の挟圧力の指令圧をPn とすると、Pn は、前述の理論挟圧力Pt を用いて次のように求められる。
Pn =Pt ×SF−Psch ・・・・・(f)ここで、SFは、通常挟圧力制御実行時の入力トルクの推定分に対する安全率である。そして、このステップS106で通常の挟圧力制御が実行されると、その後、このルーチンを一旦終了する。
また、前述のステップS101で、既に学習値が得られていることにより肯定的に判断された場合には、ステップS104へ進み、学習値αを利用した挟圧力制御(反映制御)が実行される。前述したように、学習値αは、実際に必要な挟圧力に対する、推定誤差や制御のばらつきを見込んで上乗せしている補正圧などのいわゆる過剰分を、実機に基づいて評価した値である。したがってステップS104では、その時点の負荷率などに基づいて求められる推定入力トルクT'in と、無段変速機1のプーリ12,14とベルト15との間の設計摩擦係数μs とから演算される理論挟圧力Pt を学習値αで補正し、その補正された挟圧力を設定するように油圧が制御される。
具体的には、この学習値αの反映制御が実行される際の挟圧力の指令圧をPreとすると、Preは、前述の理論挟圧力Pt を用いて次のように求められる。
Pre=Pt ×SF’×α−Psch ・・・・・(g)ここで、SF’は、反映制御実行時の入力トルクの推定分に対する安全率である。なおこの安全率SF’は前述の安全率SFと等しい値であってもよい。
このように学習値αを挟圧力制御に反映させる反映制御が実行されることによって、推定誤差などを見込んだいわゆる過剰分が挟圧力から削除されるので、挟圧力を適正化することができる。そして、このステップS104で反映制御が実行されると、その後、このルーチンを一旦終了する。
以上に説明したように、図1に示す第1の制御例によれば、入力トルクを精度良く検知することのできるモータ走行時に、滑り限界挟圧力もしくは理論挟圧力を検出し、その検出結果に基づいて実摩擦係数μが学習補正される。そしてその補正された実摩擦係数μの学習値αを反映させて挟圧力が制御される。そのため、精度良く検出された滑り限界挟圧力(もしくは理論挟圧力)および摩擦係数に基づいて挟圧力を適切に制御することができ、設定される挟圧力が必要な挟圧力に対して過剰な状態となって、動力を必要以上に消費し燃費が低下してしまう事態を回避することができる。
次に、図2はこの発明における第2の制御例を説明するためのフローチャートである。無段変速機1での滑りは、無段変速機1の変速比が変化すると、特に変速比が“1”の状態を境界としてその大小が異なるように変化すると、無段変速機1での滑りの発生する場所が変化する傾向がある。このとき、滑りの発生する場所が変化することに伴って無段変速機1のプーリ12,14とベルト15との間の実摩擦係数μも変化する場合がある。したがって、無段変速機1での変速比が変化すると、実摩擦係数μも変化する場合がある。そこで、この図2に示す第2の制御例では、無段変速機1の変速比の大小に応じて領域を区分して実摩擦係数μの学習値を求め、挟圧力の設定制御に反映させるように構成されている。なお、図2において、図1に示す制御例と同じ制御内容のステップについては、図1と同様の参照符号を付してその説明を省略する。
図2において、先ず、実摩擦係数μの学習値α1が学習済みであり、かつその時点の無段変速機1の変速比が“1”以上であるか否かが判断される(ステップS201)。実摩擦係数μの学習値α1が未だ得られていないか、もしくはその時点の無段変速機1の変速比が“1”より小さいことにより、このステップS201で否定的に判断された場合は、ステップS202へ進み、実摩擦係数μの学習値α2が学習済みであり、かつその時点の無段変速機1の変速比が“1”より小さいか否かが判断される(ステップS201)。
前述したように、無段変速機1の変速比が“1”の状態を境界としてその大きさが変化すると、無段変速機1での滑りの発生場所が変化する場合がある。変速比が“1”の状態とは、例えば無段変速機1の駆動プーリ12におけるベルト15の巻き掛け半径Rinと従動プーリ14におけるベルト15の巻き掛け半径Rout とがほぼ等しくなる状態であり、その状態を境界として変速比が変化すると、それらの巻き掛け半径Rin,Rout が互いに異なった値になる。そのため、このようなプーリ12,14におけるベルト15の巻き掛け状態(半径)の変化に伴って、それらのプーリ12,14とベルト15との間の摩擦係数が変化するのである。そこで、無段変速機の運転状態に応じて適切な摩擦係数の学習値を得ることができるように、このステップS203では、その時点の無段変速機1の運転状態が、変速比が“1”の状態を境界として区分された二つの運転領域のうち、いずれの領域に属しているかが判断される。
上記のステップS201,S202で共に否定的に判断された場合は、変速比の大小に応じた学習値を設定するため、限界挟圧力(あるいは理論挟圧力)の検出制御がおこなわれる。ステップS105の制御により、限界挟圧力(理論挟圧力)が検出されると、ステップS203へ進み、その時点の無段変速機1の変速比が“1”以上であるか否かが判断される。変速比が“1”以上であることにより、このステップS203で肯定的に判断された場合は、ステップS204へ進み、その時点(検出時)の摩擦係数に基づいて学習値が求められ、その値が学習値α1として保存される。一方、変速比が“1”より小さいことにより、ステップS203で否定的に判断された場合には、ステップS205へ進み、その時点(検出時)の摩擦係数に基づいて学習値が求められ、その値が学習値α2として保存される。
上記のステップS204もしくはステップ205で、学習値α1もしくは学習値α2が算出されて保存されると、その後、このルーチンを一旦終了する。
一方、前記のステップS201、あるいはステップS202で肯定的に判断された場合には、ステップS104へ進み、学習値を反映させた挟圧力制御(反映制御)が実行される。前述のように、学習値α1あるいは学習値α2は、ステップS203ないしS205で無段変速機1の変速比の大きさに応じて領域分けされて求められる学習値である。したがって、これらのステップS201,202の判断ステップとステップS104の制御ステップとにより反映制御が実行されることによって、その時点の走行状態に応じた適切な学習値を挟圧力制御に反映させることができる。
以上に説明したように、図2に示す第2の制御例によれば、摩擦係数の学習値を求め、その学習値を挟圧力制御に反映させて挟圧力を設定する制御が実行される場合、無段変速機1の運転状態が、無段変速機1の変速比が“1”以上である状態の運転領域と、変速比が“1”より小さい状態の運転領域とに領域分けされて、実摩擦係数μについての学習値α1,α2が求められる。そしてそれらの運転領域毎に、その運転領域に応じた学習値α1もしくはα2を反映させて挟圧力が設定される。そのため、例えば摩擦係数の学習時とその学習値の挟圧力制御への反映時とで走行状態が変化したことなどによって、無段変速機1の変速比が異なっている場合でも、その時点の走行状態あるいは無段変速機1の運転状態に応じて求められた適切な学習値を挟圧力制御に反映することができる。
ここで、上述した具体例とこの発明との関係を簡単に説明すると、上述したステップS105の機能的手段が、この発明の滑り限界圧力検出手段に相当し、特にステップS102,S105の各機能的手段が、この発明の請求項4に記載の滑り限界圧力検出手段に相当する。また、ステップS105の機能的手段が、この発明の挟圧力設定手段に相当し、特にステップS102,S105の各機能的手段が、この発明の請求項5に記載の挟圧力設定手段に相当する。そして、ステップS107,S204,S205の各機能的手段が、この発明の学習手段に相当し、特にステップS203,S204,S205の各機能的手段が、この発明の請求項1に記載の学習手段に相当する。
なお、この発明は上記の具体例に限定されないのであって、具体例では、ベルト式無段変速機を対象とする制御装置を例に採って説明したが、この発明は、トロイダル型無段変速機などの他の形式の無段変速機を対象とする制御装置にも適用することができる。また、この発明で対象とする車両の駆動装置は、図3に示す構成のものに限定されない。そして、上記の具体例では、無段変速機の変速比が所定値以上の運転領域と所定値より小さい運転領域として、変速比が“1”以上の状態である運転領域と“1”より小さい状態である運転領域との二つの運転領域に分けられた例を示しているが、複数の閾値を設定して、二つ以上の運転領域に分けるようにしてもよい。
この発明の制御装置による第1の制御例を説明するためのフローチャートである。 この発明の制御装置による第2の制御例を説明するためのフローチャートである。 この発明で対象とする無段変速機を含む駆動系統の一例を模式的に示す図である。
符号の説明
1…無段変速機、 2…エンジン(動力源)、 3…モータ・ジェネレータ、 12…駆動プーリ、 14…従動プーリ、 20…油圧制御装置、 21…ハイブリッド用電子制御装置、 22…エンジン用電子制御装置。

Claims (6)

  1. 入力トルクに対する挟圧力が相対的に低い場合に滑りを生じるとともに挟圧力の増大に伴ってトルク容量が増大するトルク伝達機構を含む変速機が、既知のトルクを出力できる動力源の出力側に連結され、前記挟圧力を前記トルク伝達機構に対する入力トルクに応じた圧力に設定する変速機の制御装置において、
    前記動力源が出力する前記既知のトルクに基づく入力トルクで、滑りを生じることなくトルクを伝達できる範囲で可及的に低い挟圧力になるように挟圧力を制御する挟圧力制御手段と、
    前記変速機で変化される変速比が所定値以上の運転領域と所定値より小さい運転領域との少なくとも二つの運転領域で、前記挟圧力制御手段で制御された挟圧力に基づいて、前記トルク伝達機構における挟圧力とトルク容量との関係を規定する係数についての学習値をそれぞれ求めて学習する学習手段と
    を備えていることを特徴とする変速機の制御装置。
  2. 前記挟圧力制御手段は、前記動力源が出力する前記既知のトルクに基づく入力トルクにつり合う滑り限界圧力を検出する滑り限界圧力検出手段を含む
    請求項1に記載の変速機の制御装置。
  3. 記挟圧力制御手段は、前記動力源が前記既知のトルクを出力している状態で、前記挟圧力を、前記トルク伝達機構における挟圧力とトルク容量との関係を規定する係数の設計値と前記既知のトルクに基づく入力トルクとから求まる理論値に設定する挟圧力設定手段を含み、
    前記学習手段は、前記挟圧力を前記理論値に設定した状態で前記トルク伝達機構に滑りが生じない場合に、前記既知のトルクと前記理論値に設定されている挟圧力とに基づいて、前記係数を求めて学習値として学習する
    求項1に記載の変速機の制御装置。
  4. 前記動力源が、内燃機関と電動機とを有し、
    記滑り限界圧力検出手段は、前記電動機のみがトルクを出力している場合に前記滑り限界圧力を検出する手段を含
    求項2に記載の変速機の制御装置。
  5. 記動力源が、内燃機関と電動機とを有し、
    前記挟圧力設定手段は、前記電動機のみがトルクを出力している場合に前記挟圧力を設定する手段を含む
    請求項3に記載の変速機の制御装置。
  6. 前記変速機の前記所定値は1である
    請求項1から5のいずれかに記載の変速機の制御装置。
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