つぎにこの発明を具体例に基づいて説明する。先ず、この発明で対象とする無段変速機を含む駆動機構について説明すると、この発明は、車両に搭載される無段変速機を対象とすることができ、その無段変速機は、ベルトを伝動部材としたベルト式の無段変速機や、パワーローラを伝動部材とするとともにオイル(トラクション油)のせん断力を利用してトルクを伝達するトロイダル型(トラクション式)無段変速機である。図9には、ベルト式の無段変速機1を含む車両用駆動機構の一例を模式的に示しており、この無段変速機1は、前後進切換機構2およびトルクコンバータ3を介して、動力源4に連結されている。
その動力源4は、一般の車両に搭載されている動力源と同様のものであって、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンあるいは天然ガスエンジンなどの内燃機関や、電動機、あるいは内燃機関と電動機とを組み合わせた機構などを採用することができる。なお、以下の説明では、動力源4をエンジン4と記す。
エンジン4の出力軸に連結されたトルクコンバータ3は、従来一般の車両で採用しているトルクコンバータと同様の構造であって、エンジン4の出力軸が連結されたフロントカバー5にポンプインペラー6が一体化されており、そのポンプインペラー6に対向するタービンランナー7が、フロントカバー5の内面に隣接して配置されている。これらのポンプインペラー6とタービンランナー7とには、多数のブレード(図示せず)が設けられており、ポンプインペラー6が回転することによりフルードの螺旋流を生じさせ、その螺旋流をタービンランナー7に送ることによりタービンランナー7にトルクを与えて回転させるようになっている。
また、ポンプインペラー6とタービンランナー7との間でこれらの内周側の位置には、タービンランナー7から送り出されたフルードの流動方向を選択的に変化させてポンプインペラー6に流入させるステータ8が配置されている。このステータ8は、一方向クラッチ9を介して所定の固定部10に連結されている。
このトルクコンバータ3は、ロックアップクラッチ11を備えている。ロックアップクラッチ11は、ポンプインペラー6とタービンランナー7とステータ8とからなる実質的なトルクコンバータに対して並列に配置されたものであって、フロントカバー5の内面に対向した状態で前記タービンランナー7に保持されており、油圧によってフロントカバー5の内面に押し付けられることにより、入力部材であるフロントカバー5から出力部材であるタービンランナー7に直接、トルクを伝達するようになっている。なお、その油圧を制御することによりロックアップクラッチ11のトルク容量を制御できる。
前後進切換機構2は、エンジン4の回転方向が一方向に限られていることに伴って採用されている機構であって、入力されたトルクをそのまま出力し、また反転して出力するように構成されている。図9に示す例では、前後進切換機構2としてダブルピニオン型の遊星歯車機構が採用されている。
すなわち、サンギヤ12と同心円上にリングギヤ13が配置され、これらのサンギヤ12とリングギヤ13との間に、サンギヤ12に噛合したピニオンギヤ14とそのピニオンギヤ14およびリングギヤ13に噛合した他のピニオンギヤ15とが配置され、これらのピニオンギヤ14,15がキャリヤ16によって自転かつ公転自在に保持されている。そして、二つの回転要素(具体的にはサンギヤ12とキャリヤ16と)を一体的に連結する前進用クラッチ17が設けられ、またリングギヤ13を選択的に固定することにより、出力されるトルクの方向を反転する後進用ブレーキ18が設けられている。
無段変速機1は、従来知られているベルト式無段変速機と同じ構成であって、互いに平行に配置された駆動プーリー19と従動プーリー20とのそれぞれが、固定シーブと、油圧式のアクチュエータ21,22によって軸線方向に前後動させられる可動シーブとによって構成されている。したがって各プーリー19,20の溝幅が、可動シーブを軸線方向に移動させることにより変化し、それに伴って各プーリー19,20に巻掛けたベルト23の巻掛け半径(プーリー19,20の有効径)が連続的に変化し、変速比が無段階に変化するようになっている。そして、上記の駆動プーリー19が前後進切換機構2における出力要素であるキャリヤ16に連結されている。これらの各プーリー19,20がこの発明の入出力部材に相当し、またベルト23が伝動部材に相当し、これら各プーリー19,20およびベルト23が無段変速部を構成している。
なお、従動プーリー20における油圧アクチュエータ22には、無段変速機1に入力されるトルクに応じた油圧(ライン圧もしくはその補正圧)が、図示しない油圧ポンプおよび油圧制御装置を介して供給されている。したがって、従動プーリー20における各シーブがベルト23を挟み付けることにより、ベルト23に張力が付与され、各プーリー19,20とベルト23との挟圧力(接触圧力)が確保されるようになっている。言い換えれば、挟圧力に応じたトルク容量が設定される。これに対して駆動プーリー19における油圧アクチュエータ21には、設定するべき変速比に応じた圧油が供給され、目標とする変速比に応じた溝幅(有効径)に設定するようになっている。
無段変速機1の出力部材である従動プーリー20がギヤ対24およびディファレンシャル25に連結され、さらにそのディファレンシャル25が左右の駆動輪26に連結されている。
上記の無段変速機1およびエンジン4を搭載した車両の動作状態(走行状態)を検出するために各種のセンサーが設けられている。すなわち、エンジン4の出力軸回転速度(ロックアップクラッチ11の入力軸回転速度)Ne を検出して信号を出力するエンジン回転速度センサー27、タービンランナー7の回転速度を検出して信号を出力するタービン回転速度センサー28、駆動プーリー19の回転速度Ninを検出して信号を出力する入力軸回転速度センサー29、従動プーリー20の回転速度Nout を検出して信号を出力する出力軸回転速度センサー30、従動プーリー20における油圧アクチュエータ22の油圧を検出するセンサー(図示せず)などが設けられている。
上記の前進用クラッチ17および後進用ブレーキ18の係合・解放の制御、および前記ベルト23の挟圧力の制御、ならびにロックアップクラッチ11の係合・解放を含むトルク容量の制御、さらには変速比の制御をおこなうために、変速機用電子制御装置(CVT−ECU)31が設けられている。この変速機用電子制御装置31は、一例としてマイクロコンピュータを主体として構成され、入力されたデータおよび予め記憶しているデータに基づいて所定のプログラムに従って演算をおこない、前進や後進あるいはニュートラルなどの各種の状態、および要求される挟圧力の設定、ならびに変速比の設定などの制御を実行するように構成されている。また、エンジン4を制御するエンジン用電子制御装置(E−ECU)32が設けられ、これらの電子制御装置31,32の間で相互にデータを通信するようになっている。
前述したように無段変速機における挟圧力は、滑りを生じることなくトルクを伝達できる範囲で可及的に低い圧力であることが好ましい。そこで上記の無段変速機1を対象とするこの発明の制御装置は、車両の走行状態が安定しているなどの所定の条件が成立した場合に挟圧力を無段変速機1に滑りが生じない範囲で可及的に低下させるにあたり、入力トルクに釣り合う挟圧力を検出する時の理論挟圧力と限界挟圧力との比率などの相互関係を求め、その相互関係によって挟圧力を補正して、挟圧力を制御もしくは設定するように構成されている。その制御の具体例を以下に説明する。
図1ないし図4はその一例を示すフローチャートを示している。このフローチャートで示すルーチンは、所定の短い時間毎に繰り返し実行され、先ず、図1において、車速SPDと無段変速機1の出力軸トルクTsec が読み込まれる(ステップS101)。続いて、挟圧力を相対的に低い圧力に設定する制御もしくは挟圧力を通常状態に対して低下させるいわゆる挟圧力低下制御を実行するべき条件すなわち制御開始条件が成立しているか否かが判断される(ステップS102)。この条件は、要は、無段変速機1に作用するトルクが安定している条件であり、例えば中高速で巡航していること、走行路面がほぼ平坦な良路であること、エンジン回転数やエンジン負荷率あるいは変速比などをパラメータとして運転領域を設定するとともに現在の運転状態が属している運転領域についての後述する学習制御が未完であることなどが条件とされる。
この制御開始条件が成立していないことによりステップS102で否定的に判断された場合には、各フラグF1,F2,Pがゼロリセットされるとともに、保存データがクリアされ、さらに挟圧力を設定する油圧指令値Pdtgt(i) として、理論挟圧力Pcal(i)に基づく指令値が設定され(ステップS115)、その後、一旦このルーチンを抜ける。なお、各フラグF1,F2,Pについては後述する。
また、理論挟圧力Pcal(i)は、無段変速機1に対する入力トルクから求められる挟圧力であり、具体的には入力トルクと無段変速機1での摩擦係数と各プーリー19,20でのベルト23の侠角とを主なパラメータとして求められ、
Pcal=Tt ・cosθ/(2・μ・Rin)
で算出される。ここで、Tt は入力トルク、θはプーリー19,20でのベルト23の侠角、μはプーリー19,20とベルト23との間の摩擦係数、Rinは駆動プーリー19におけるベルト23の巻き掛け半径である。その入力トルクTt と摩擦係数μとは推定値が使用され、これが挟圧力の誤差要因の一つになっている。その理論挟圧力Pcal(i)に所定の安全率SF(>1)を掛け、その値から遠心力による油圧および油圧アクチュエータ内のリターンスプリングの弾性力による圧力相当分の和Psch を減算して、油圧指令値Pdtgt(i) が求められる。すなわち、
Pdtgt(i)=Pcal(i)・SF−Psch
として算出される。
一方、制御開始条件が成立していることによりステップS102で肯定的に判断された場合には、学習領域が判定される(ステップS103)。すなわち、現在の運転状態が属している上記の運転領域が、エンジン回転数やエンジン負荷率などのパラメータによって判定される。このようにして判定された学習領域について以下に述べる挟圧力についての学習が終了しているか否か、すなわち現在の運転状態が属している領域が、挟圧力の学習が既におこなわれた既学習領域か否かが判断される(ステップS104)。このステップS104で否定的に判断された場合には、すなわち学習値が得られていない場合には、限界挟圧力の検出条件が成立しているか否かの判断として、現在の運転状態が属している運転領域が、限界挟圧力の検出領域にあるか否かが判断される(ステップS105)。すなわち図6に示すように、前述のステップS101で読み込まれた車速SPDと無段変速機1の出力軸トルクTsec とが、限界挟圧力検出条件が成立する領域である、限界挟圧力の検出領域として設定された所定範囲内(領域A)にあるか否かが判断される。
限界挟圧力の検出領域とは、無段変速機1にほぼ滑りが発生しない領域として、図6の領域Aで示される領域である。例えば、図6の(a)は、限界挟圧力の検出領域をロード・ロード近傍とした場合を示す図であって、定常走行状態もしくは準定常走行状態である平坦路ロード・ロードを示す曲線Lに対して上下所定の幅を持たせた領域Aが、無段変速機1にほぼ滑りが発生しない領域として、限界挟圧力の検出領域に設定されている。
また、図6の(b)は、限界挟圧力の検出領域を「下限挟圧力+所定値」(曲線M)以下とした場合を示す図であって、滑り発生の有無の境界を示す曲線M以下の領域Aが、限界挟圧力の検出領域として設定されている。この下限挟圧力とは、無段変速機1の構造により決まる最小の挟圧力のことであり、例えば「遠心油圧+リターンスプリングに基づく圧力+最低ライン圧」として求められる。したがって、限界挟圧力が下限挟圧力より低い場合は無段変速機1で滑りはほぼ発生しない。そのため、この下限挟圧力に滑りに対する余裕分である所定値を加算した値を境界(曲線M)とし、その曲線M以下の領域Aが、無段変速機1にほぼ滑りが発生しない領域として、限界挟圧力の検出領域に設定されている。
現在の運転状態が属している運転領域が、限界挟圧力の検出領域にないことによって、ステップS105で否定的に判断された場合は、前述のステップS115へ進み、同様の制御が実行され、その後、一旦このルーチンを抜ける。それに対して、現在の運転状態が属している運転領域が、限界挟圧力の検出領域にあることによって、ステップS105で肯定的に判断された場合は、挟圧力についての学習制御が実行される。
先ず、学習領域が変更されたか否かが判断される(ステップS106)。学習領域は、前述したように、エンジン回転数やエンジン負荷率あるいは変速比などのをパラメータとして設定された領域であるから、アクセルペダル(図示せず)が操作された場合や車速が変化した場合などには車両の運転状態が変化し、その変化が大きい場合には、従前の学習領域を外れることがある。このような場合にステップS106で肯定的に判断される。
ステップS106で肯定的に判断されると、ステップS116に進んで、フラグF1,F2がゼロリセットされ、またフラグPが“1”にセットされる。このフラグPは、制御の各段階(フェーズ)を示すものであり、制御開始前の“0”から制御終了時の“6”まで、順次設定されるフラグである。さらにその時点の入力トルクから求められる理論挟圧力Pcal(i)に基づく油圧指令値Pdtgt(i) (=Pcal(i)・SF−Psch )が求められる。その後、ステップS107に進む。これに対してステップS106で否定的に判断された場合には、直ちにステップS107に進む。
ステップS107およびそれ以降のステップS111までの各ステップでは、フェーズを示すフラグPについて判断される。すなわち、ステップS107ではフラグPが“6”か否かが判断され、以下、ステップS108ではフラグPが“5”か否か、ステップS109ではフラグPが“4”か否か、ステップS110ではフラグPが“3”か否か、ステップS111ではフラグPが“2”か否かが、それぞれ判断される。上述したようにステップS106で肯定的に判断された場合にはフラグPが“1”にセットされ、反対に否定的に判断された場合にはフラグPが“0”のままであるから、いずれの場合であっても、ステップS107ないしステップS111で否定的に判断される。その場合は、所定の油圧低下開始時の油圧指令値Pdstartに向けて油圧指令値Pdtgt(i) が所定の勾配ΔPdsw1で低下させられる(ステップS112)。すなわち、前回の指令値Pdtgt(i-1) から勾配ΔPdsw1を減算した値が今回の指令値Pdtgt(i) とされる。これがフェーズ1(phase1)での制御である。
ついで、油圧指令値Pdtgt(i) が所定の油圧低下開始時の油圧指令値Pdstartに達したか否かが判断される(ステップS113)。この油圧低下開始時の油圧指令値Pdstartは、前述した安全率SFが“1”の状態の指令値であり、したがって理論挟圧力に相当する指令値もしくは理論挟圧力に基づく指令値である。具体的には、
Pdstart=Pcal−Psch
である。
ステップS113で否定的に判断された場合には、油圧指令値およびそれに基づく挟圧力を漸減するために従前の制御を継続する。すなわち、図1に示すルーチンから一旦抜ける。これとは反対にステップS113で肯定的に判断された場合には、フェーズ1の制御が終了したことになるので、フェーズを示すフラグPを“2”にセット(ステップS114)した後、ルーチンを一旦抜ける。
ステップS113で否定的に判断された後、制御開始条件が成立していれば、上述した各ステップS102ないしステップS111を経てステップS112に進み、従前と同様に、油圧指令値Pdtgt(i) の漸減制御が継続される。これに対してフェーズ1の制御が完了してフラグPが“2”にセットされている場合には、上述したステップS111で肯定的に判断される。その場合は、フェーズ2の制御として、油圧指令値Pdtgt(i) が油圧低下開始時油圧指令値Pdstartに維持される(ステップS121)。言い換えれば、今回の指令値Pdtgt(i) が前回の指令値Pdtgt(i-1) と同じ値に設定される。
その状態で油圧指令値Pdtgt(i) と、従動プーリー20における油圧アクチュエータ22の実測した油圧Pdact(i) と、変速比γ(i) が保存される(ステップS122)。そして、所定時間T1 が経過したか否かが判断される(ステップS123)。このステップS123で否定的に判断された場合には、このルーチンを一旦抜ける。これに対してステップS123で肯定的に判断された場合には、フェーズを示すフラグPを“3”にセット(ステップS124)した後にこのルーチンを一旦抜ける。すなわち、油圧指令値Pdtgt(i) を一定値に維持する。そして、その所定時間T1 は、実油圧Pdact(i) が油圧指令値Pdtgt(i) に対応する圧力に安定するのに十分な時間であり、したがってこの所定時間T1 の間で、実油圧Pdact(i) と油圧指令値Pdtgt(i) もしくは理論挟圧力に基づく油圧指令値Pdtgt(i) の相互の関係が安定する。
油圧指令値Pdtgt(i) およびそれに基づく実油圧Pdact(i) を一定に維持する制御がフェーズ2での制御である。そして、所定時間T1 が経過してフラグPが“3”にセットされた後は、上記のステップS110で肯定的に判断されるので、フェーズ3の制御が実行される。すなわち、油圧指令値Pdtgt(i) が所定の勾配ΔPdsw3 (<ΔPdsw1)で漸減される(ステップS127)。そして、その過程における油圧指令値Pdtgt(i) および実油圧Pdact(i) ならびに変速比γ(i) が保存される(ステップS128)。また、油圧指令値Pdtgt(i) を所定の勾配ΔPdsw3で低下させている過程で無段変速機1での滑りが検出される(ステップS129)。
この無段変速機1での滑りの検出は、従来知られている適宜の方法でおこなうことができ、例えば現在時点より所定時間Tpre1前の時点における実変速比γ1と現在時点より所定時間Tpre2(<Tpre1)前の時点における実変速比γ2とから変速比の変化勾配を求め、その変化勾配に基づいて現在時点の推定変速γを求め、その推定変速比γと実変速比との偏差が所定の基準値を超えたことによって滑りを検出することができる。あるいは変速比変化速度(変速比変化率)に基づいて滑りを検出してもよい。
滑りが検出されないことによりステップS129で否定的に判断された場合には、従前の制御を継続するためにこのルーチンを一旦抜ける。これとは反対にステップS129で肯定的に判断された場合、すなわち滑りが検出された場合には、フラグPを“4”にセット(ステップS130)した後、このルーチンを一旦抜ける。
無段変速機1での滑りが検出された場合には、フラグPが“4”にセットされていることにより、上述したステップS109で肯定的に判断される。その場合は図2に示すフローチャートのステップS201に進み、フラグF1が“1”に設定されているか否かが判断される。このフラグF1は、“1”に設定されることにより、その時点の運転状態が属している学習領域について学習値が保存されていることを示すフラグであり、前述したように当初は“0”に設定される。したがってステップS201で否定的に判断され、その場合は、滑り開始点(滑りが実際に開始した時点)が検索される(ステップS202)。
その検索のための方法としては、従来知られている各種の方法を適宜採用することができ、例えば、上記の滑りの検出時点から順次過去に遡って、推定変速比と実変速比とを比較し、その差が予め定めた基準値を超えた時点を、滑り開始時点とすることができる。こうして滑り開始時点が検索されると、その時点の実油圧(すなわち滑り開始時実油圧あるいは滑り限界挟圧力)Pdlimと、油圧低下開始時油圧指令値Pdstartとが算出される(ステップS203)。
そして、限界挟圧力検出時の理論挟圧力PCが算出される(ステップS204)。これは上記のステップS203で算出された油圧低下開始時油圧指令値Pdstartが、前述したように理論挟圧力に相当する指令値として、この限界挟圧力検出時の理論挟圧力とされる。すなわち、
PC=Pdstart+Psch
として求められる。
次に、限界挟圧力検出時の限界挟圧力PRが算出される(ステップS205)。これは、上記のステップS203で算出された滑り開始時実油圧Pdlimに遠心油圧およびリターンスプリングに基づく圧力を加えた圧力Psch が加算されて求められる。すなわち、
PR=Pdlim+Psch
の演算で求められる。
そして、これらの値を使用して補正係数αが算出される(ステップS206)。すなわちこの補正係数αは、限界挟圧力検出時の理論挟圧力PCと限界挟圧力PRとの比率であって、
α=PR/PC
の演算で求められる。
こうして求められた補正係数αが、学習領域毎に保存される(ステップS207)。一例として補正係数αについてのマップが更新される。そして、フラグF1が“1”にセットされる(ステップS208)。
続いて、無段変速機1の滑りが検出されているので、その滑りを収束させるための制御が実行される。具体的には、滑りが検出された時点の滑り量Δslip(i) に所定の係数K1 を掛けて、エンジン4のトルクダウン量Tedown(i)が求められ、それに基づくエンジン4のトルク低下制御(例えば点火時期の遅角制御)が実行される(ステップS209)。なお、フラグF1が“1”にセットされていることによって、前述のステップS201で肯定的に判断された場合は、既に補正係数αが求められて学習領域毎に保存されているので、上記のステップS202ないしS208の各ステップを飛ばし、このステップS209へ進み、以降の制御が同様に実行される。
また、同時に、油圧指令値Pdtgt(i) が所定の勾配Pdsw4で増大させられる(ステップS210)。これらの制御の過程で滑りの収束が検出される(ステップS211)。この滑り収束の検出は、種々の方法によっておこなうことができ、例えば推定変速比と実変速比との差が所定値以下となったことによって滑りが収束したことを判定することができる。このステップS211で否定的に判断された場合には、従前の制御を継続するために、一旦このルーチンを抜ける。これとは反対に滑りが収束してステップS211で肯定的に判断された場合には、フェーズ5の制御をおこなうためにフラグPを“5”にセット(ステップS212)した後に、このルーチンを一旦抜ける。
滑りが収束した場合にはフラグPが“5”にセットされているので、前述した図1に示すステップS108で肯定的に判断される。その場合は、図3に示すフローチャートのステップS301に進み、所定時間T2 が経過したか否かが判断される。この所定時間T2 は滑り収束の判断が成立した時点からカウントされる時間であり、したがって当初はステップS301で否定的に判断される。そして、これに続けてフラグF2が“1”か否かが判断される(ステップS302)。このフラグF2は、油圧指令値Pdtgt(i) を所定値βだけステップアップする制御が実行されることにより“1”にセットされるフラグであり、当初は“0”になっているので、ステップS302で否定的に判断される。その場合は、油圧指令値Pdtgt(i) を所定値βだけステップアップする制御(Pdtgt(i) =Pdtgt(i-1) +β)が実行される(ステップS304)。そして、フラグF2が“1”にセットされる(ステップS305)。その後、一旦このルーチンを抜ける。
その後、所定時間T2 が経過していなくても、フラグF2が“1”にセットされているので、ステップS301で否定的に判断された後、ステップS302で肯定的に判断される。したがってこの場合は、油圧指令値Pdtgtの前回値Pdtgt(i-1) が今回値Pdtgt(i) とされる(ステップS303)。すなわち、油圧指令値Pdtgt(i) が、上記の所定値βだけステップアップした値に維持される。その過程で実際の油圧(挟圧力)が次第に上昇する。そして、所定時間T2 が経過すると、ステップS301で肯定的に判断される。その場合には、フラグF2がゼロリセットされ、またフェーズを示すフラグPが“6”にセットされる(ステップS306)。
こうしてフェーズ5で制御が終了すると、フラグPが“6”にセットされていることにより図1に示すステップS107で肯定的に判断される。その場合は、図4のフローチャートにおけるステップS401に進み、補正係数αによって補正された挟圧力を設定する油圧指令値になっているか否かが判断される。具体的には、前回の油圧指令値Pdtgt(i-1) が、その時点の入力トルクから求められる理論挟圧力Pcal(i-1)に所定の安全率SFと補正係数αとを掛け、遠心油圧およびリターンスプリング力相当の圧力Psch を引いた指令値となっていたか否かが判断される。
油圧指令値Pdtgt(i) を所定値βだけステップアップした状態では、油圧指令値Pdtgtが高くなっていてステップS401で否定的に判断され、その場合は、油圧指令値Pdtgt(i) が所定の勾配ΔPdsw6で漸減される(ステップS402)。このようにして油圧指令値Pdtgt(i) を低下させたことにより、ステップS401で肯定的に判断されると、フラグF1がゼロリセットされるとともに、保存データがクリアされ(ステップS403)、さらにフェーズを示すフラグPがゼロリセットされるとともに、現在の領域についての既学習フラグがONとされる(ステップS404)。
以上のようにして学習データ(補正係数)αが得られると、その運転領域が既学習領域であることの判断が成立するので、図1に示すステップS104で肯定的に判断される。その場合には、学習データαが読み込まれ(ステップS125)、その学習データαで補正された油圧指令値Pdtgt(i) が求められ、かつ出力される(ステップS126)。すなわち、
Pdtgt(i)=Pcal(i)・SF・α−Psch
として、学習データαで補正された油圧指令値Pdtgt(i) が求められる。そしてその後、一旦このルーチンを抜ける。
この発明では、前述したように図6の領域Aで示される限界挟圧力の検出領域が設定されるとともに、図6の領域Bで示される反映領域が設定されている。この反映領域とは、限界挟圧力制御条件が成立する領域であって、前述の検出領域において検出した限界挟圧力に基づいて算出された補正係数αを反映させて、限界挟圧力を設定し挟圧力を制御する領域である。具体的には、例えばエンジン負荷率とエンジン回転数が同一運転領域(領域C)にあるa点およびb点で示される運転状態において、先ず検出領域にあるb点で限界挟圧力が検出され、その検出された限界挟圧力とその点での理論挟圧力とに基づいて補正係数αが算出される。そしてその補正係数αを反映させて反映領域にあるa点での限界挟圧力が設定される。すなわち反映領域にあるa点の理論挟圧力にb点で求められた補正係数αを掛けることによって、a点の限界挟圧力が算出されて設定される。
さらに図7によって説明すると、限界挟圧力の検出領域で、検出時の理論挟圧力PCと限界挟圧力PRとが検出され、上記のステップS206の説明で述べたように、それらの理論挟圧力PCと限界挟圧力PRとによって補正係数αが求められる。そして、反映領域で、反映時の理論挟圧力PC’にこの補正係数αを掛けることによって、反映時の限界挟圧力PR’が算出されて設定される。
このように、限界挟圧力検出時の理論挟圧力と限界挟圧力との比率である補正係数αを求め、その補正係数αによって挟圧力を補正することによって、学習マップを簡略化し簡単に限界挟圧力に基づいた挟圧力制御を実行することができる。また、限界挟圧力の検出領域と、反映領域とを分けて設定することによって、上記のa点で設定される限界挟圧力のように、限界挟圧力検出のための滑りを生じさせることなく限界挟圧力を設定することができ、その結果、無段変速機1のベルト23や各シーブの耐久性の向上を図ることができる。
また、限界挟圧力の検出時に滑りが検出されない場合、すなわち検出される限界挟圧力が下限挟圧力より低く滑りが生じない場合は、図8に示すように限界挟圧力検出時の理論挟圧力と下限挟圧力とによって、補正係数α’が算出される。具体的には、限界挟圧力検出時の理論挟圧力と限界挟圧力とによって補正係数αが算出される図8の(a)に示す例に対して、図8の(b)は、検出される限界挟圧力が下限挟圧力以下であることにより、限界挟圧力の検出時に無段変速機1で滑りが生じないため、「下限挟圧力=限界挟圧力」として設定し、それと限界挟圧力検出時の理論挟圧力とによって、補正係数α’を算出することができる例を示したものである。
ここで、上記の具体例とこの発明との関係を簡単に説明すると、前述したステップS202ないしS205の機能的手段が、この発明の限界挟圧力検出手段に相当し、またステップS206の機能的手段が、この発明の相互関係検出手段に相当し、さらにステップS126の機能的手段が、この発明の補正手段もしくは挟圧力制御手段に相当する。
なお、この発明は、上記の具体例に限定されないのであって、ベルト式無段変速機以外にトロイダル型の無段変速機を対象とする制御装置にも適用することができる。また、この発明における相互関係検出手段で検出する理論挟圧力と限界挟圧力との相互関係として、理論挟圧力と限界挟圧力との比率を用いた具体例を示しているが、この相互関係とは、この比率以外にも、例えば理論挟圧力と限界挟圧力との偏差であってもよく、要は理論挟圧力と限界挟圧力、あるいはそれらに基づいて求められる関係式などに基づいて導かれる理論挟圧力と限界挟圧力との間の関係を示すものであってもよい。また、この発明で油圧指令値と実油圧との関係が安定する状態は、上述したように油圧指令値を一定値に維持している状態以外に、小さい勾配で油圧指令値を変化させ、それに追従して実油圧が変化している状態であってもよい。
1…無段変速機、 4…エンジン(動力源)、 19…駆動プーリー、 20…従動プーリー、 23…ベルト、 29…入力軸回転速度センサー、 30…出力軸回転速度センサー、 31…変速機用電子制御装置(CVT−ECU)。