JP2004332851A - 無段変速機の制御装置 - Google Patents
無段変速機の制御装置 Download PDFInfo
- Publication number
- JP2004332851A JP2004332851A JP2003130685A JP2003130685A JP2004332851A JP 2004332851 A JP2004332851 A JP 2004332851A JP 2003130685 A JP2003130685 A JP 2003130685A JP 2003130685 A JP2003130685 A JP 2003130685A JP 2004332851 A JP2004332851 A JP 2004332851A
- Authority
- JP
- Japan
- Prior art keywords
- change
- slip
- gear
- speed ratio
- continuously variable
- Prior art date
- Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
- Pending
Links
Images
Landscapes
- Control Of Transmission Device (AREA)
Abstract
【課題】ベルトの滑り終了時点を正確に検出する。
【解決手段】過去の変速比に基づいて推定変速比を求め、その推定変速比に基づいて滑りの終了を検出する無段変速機の制御装置において、滑り判定が成立した場合に、変速指令値の変更を制限する変速指令値制限手段(ステップS103)を有することを特徴としている。
【選択図】 図1
【解決手段】過去の変速比に基づいて推定変速比を求め、その推定変速比に基づいて滑りの終了を検出する無段変速機の制御装置において、滑り判定が成立した場合に、変速指令値の変更を制限する変速指令値制限手段(ステップS103)を有することを特徴としている。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、変速比を無段階に変化させることのできる無段変速機の制御装置に関し、特に無段変速機のトルク容量を設定する挟圧力を、滑りを検出することにより最適化する制御装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ベルト式無段変速機やトラクション式無段変速機は、ベルトとプーリとの間の摩擦力や、ディスクとローラとの間のトラクションオイルのせん断力を利用してトルクを伝達している。したがってこれらの無段変速機のトルク容量は、そのトルクの伝達が生じる箇所に作用する圧力に応じて設定される。
【0003】
無段変速機における上記の圧力は挟圧力と称され、その挟圧力を高くすれば、トルク容量を増大させて滑りを回避できるが、その反面、高い圧力を生じさせるために動力を必要以上に消費したり、あるいは動力の伝達効率が低下するなどの不都合がある。そのため、一般的には、意図しない滑りが生じない範囲で、挟庄カを可及的に低く設定している。
【0004】
その一例を挙げると、摩擦接触して動力を伝達する無段変速機あるいはその伝動システムを対象とした滑り検出方法であって、圧着力(すなわち挟圧力あるいは係合圧)を低下させることに伴う摩擦効率の上昇(具体的には油温の上昇)を検出して滑りを判定する方法が特許文献1に記載されている。この特許文献1に記載された方法では、伝達する力や速度あるいは伝達比がほぼ一定の状態で圧着力を徐々に低下させて滑り限界を決定し、次いで滑りを存在させないように、あるいは予め規定した滑り限界値を超えないように圧着力を調整している。
【0005】
【特許文献1】
特開2001−12593号公報(請求項1、2、6、7、段落(0013))
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上記の特許文献1に記載された方法では、滑り限界を決定した後、滑りを存在させないように圧着力を変化させるが、圧着力を変化させることによって生じる変速比の変化をとらえることで滑り発生時点および滑り終了時点を判断することもできる。その際、滑り発生以前の変速比の低下勾配により、滑り発生時および滑り終了時の変速比を推定し、その推定値と現在の値を比較することにより、滑りの発生、および終了を検出することができる。しかし、滑りにより入力回転数が変化すると、変速指令値が変化する。そのため、滑りによる変速比の変化に加えて、変速指令値の変化による変速比の変化が重なって発生するために、変速比を正確に推定することができない可能性があった。
【0007】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたもので、滑りなどの変速要因が生じても、精度良く、変速比を推定し、あるいは滑りの終了を判定できる装置を提供することを目的とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段およびその作用】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、過去の変速比に基づいて推定変速比を求め、その推定変速比に基づいて滑りの終了を検出する無段変速機の制御装置において、滑り判定が成立した場合に、変速指令値の変更を制限する変速指令値制限手段を有することを特徴とする制御装置である。
【0009】
したがって請求項1の発明では、滑り判定が成立した場合に、変速指令値を滑り判定が成立した時点での値に固定するなど、変速指令値の変更が制限される。そのため、変速指令値が変化することによる変速比の変化の変動が防止され、従前の変速比に基づく変速比の推定が精度良くおこなわれる。その結果、推定変速比と実際の変速比とを比較することに基づく滑り終了判定の精度が向上する。
【0010】
また、請求項2の発明は、過去の変速比に基づいて推定変速比を求め、その推定変速比に基づいて滑りの終了を検出する無段変速機の制御装置において、滑り開始時の変速指令値と現在時点の変速指令値とに基づいて、推定変速比を補正する推定変速比補正手段を備えていることを特徴とする制御装置である。
【0011】
したがって請求項2の発明では、滑りが検出されてから、滑りが終了するまでの間では、現在の変速指令値と滑り開始時の変速指令値に基づいて、推定変速比が補正される。すなわち、推定変速比が滑り判定成立前の値に固定されずに、変速指令値の変化に応じて変化するので、滑り収束時に設定される変速比と推定変速比との差異が抑制され、その結果、推定変速比に基づく滑り終了判定の精度が向上する。
【0012】
【発明の実施の形態】
つぎにこの発明を具体例に基づいて説明する。先ず、この発明で対象とする無段変速機を含む駆動系統の一例を説明すると、図5は、ベルト式無段変速機1を含む駆動機構を模式的に示しており、その無段変速機1は、前後進切換機構2およびロックアップクラッチ3付きの流体伝動機構4を介して動力源5に連結されている。
【0013】
その動力源5は、内燃機関、あるいは内燃機関と電動機、もしくは電動機などによって構成されている。なお、以下の説明では、動力源5をエンジン5と記す。また、流体伝動機構4は、例えば従来のトルクコンバータと同様の構成であって、エンジン5によって回転させられるポンプインペラとこれに対向させて配置した夕ービンランナーと、これらの間に配置したステータとを有し、ポンプインペラで発生させたフルードの螺旋流を夕ービンランナーに供給することより夕ービンランナーを回転させ、トルクを伝達するように構成されている。
【0014】
このような流体を介したトルクの伝達では、ポンプインペラと夕ービンランナーとの間に不可避的な滑りが生じ、これが動力伝達効率の低下要因となるので、ポンプインペラなどの入力側の部材と夕ービンランナーなどの出力側の部材とを直接連結するロックアップクラッチ3が設けられている。このロックアップクラッチ3は、油圧によって制御するように構成され、完全係合状態および完全解放状態、ならびにこれらの中間の状態である滑り状態に制御され、さらにその滑り回転数を適宜に制御できるようになっている。
【0015】
前後進切換機構2は、エンジン5の回転方向が一方向に限られていることに伴って採用されている機構であって、入力されたトルクをそのまま出力し、また反転して出力するように構成されている。図5に示す例では、前後進切換機構2としてダブルピニオン型の遊星歯車機構が採用されている。すなわち、サンギヤ6と同心円上にリングギヤ7が配置され、これらのサンギヤ6とリングギヤ7との間に、サンギヤ6に噛合したピニオンギヤ8とそのピニオンギヤ8およびリングギヤ7に噛合した他のピニオンギヤ9とが配置され、これらのピニオンギヤ8,9がキャリヤ10によって自転かつ公転自在に保持されている。そして、二つの回転要素(具体的にはサンギヤ6とキャリヤ10と)を一体的に連結する前進用クラッチ11が設けられ、またリングギヤ7を選択的に固定することにより、出力されるトルクの方向を反転する後進用ブレーキ12が設けられている。
【0016】
無段変速機1は、従来知られているベルト式無段変速機と同じ構成であって、互いに平行に配置された駆動プーリ13と従動プーリ14とのそれぞれが、固定シーブと、油圧式のアクチュエータ15,16によって軸線方向に前後動させられる可動シーブとによって構成されている。したがって各プーリ13,14の溝幅が、可動シーブを軸線方向に移動させることにより変化し、それに伴って各プーリ13,14に巻掛けたベルト17の巻掛け半径(プーリ13,14の有効径)が連続的に変化し、変速比が無段階に変化するようになっている。そして、上記の駆動プーリ13が前後進切換機構2における出力要素であるキャリヤ10に連結されている。
【0017】
なお、従動プーリ14における油圧アクチュエータ16には、無段変速機1に入力されるトルクに応じた油圧(ライン圧もしくはその補正圧)が、図示しない油圧ポンプおよび油圧制御装置を介して供給されている。したがって、従動プーリ14における各シーブがベルト17を挟み付けることにより、ベルト17に張力が付与され、各プーリ13,14とベルト17との挟圧力(接触圧力)が確保されるようになっている。これに対して駆動プーリ13における油圧アクチュエータ15には、設定するべき変速比に応じた圧油が供給され、目標とする変速比に応じた溝幅(有効径もしくは巻掛け径)に設定するようになっている。
【0018】
上記の従動プーリ14が、ギヤ対18を介してディファレンシャル19に連結され、このディファレンシャル19から駆動輪20にトルクを出力するようになっている。したがって上記の駆動機構では、エンジン5と駆動輪20との間に、ロックアップクラッチ3と無段変速機1とが直列に配列されている。
【0019】
上記の無段変速機1およびエンジン5を搭載した車両の動作状態(走行状態)を検出するために各種のセンサーが設けられている。すなわち、無段変速機1に対する入力回転数(前記夕ービンランナーの回転数)を検出して信号を出力する夕ービン回転数センサー21、駆動プーリ13の回転数を検出して信号を出力する入力回転数センサー22、従動プーリ14の回転数を検出して信号を出力する出力回転数センサー23、ベルト挟圧力を設定するための従動プーリ14側の油圧アクチュエータ16の圧力を検出する油圧センサー24が設けられている。また、特には図示しないが、アクセルペダルの踏み込み量を検出して信号を出力するアクセル開度センサー、スロットルバルブの開度を検出して信号を出力するスロットル開度センサー、ブレーキペダルが踏み込まれた場合に信号を出力するブレーキセンサーなどが設けられている。
【0020】
上記の前進用クラッチ11および後進用ブレーキ12の係合・解放の制御、および前記ベルト17の挟圧力の制御、ならびに変速比の制御、さらにはロックアップクラッチ3の制御をおこなうために、変速機用電子制御装置(CVT−ECU)25が設けられている。この電子制御装置25は、一例としてマイクロコンピュータを主体として構成され、入力されたデータおよび予め記憶しているデータに基づいて所定のプログラムに従って演算をおこない、前進や後進あるいはニュートラルなどの各種の状態、および要求される挟圧力の設定、ならびに変速比の設定、ロックアップクラッチ3の係合・解放ならびに滑り回転数などの制御を実行するように構成されている。
【0021】
ここで、変速機用電子制御装置25に入力されているデータ(信号)の例を示すと、無段変速機1の入力回転数(入力回転速度)Ninの信号、無段変速機1の出力回転数(出力回転速度)No の信号が、それぞれに対応するセンサーから入力されている。また、エンジン5を制御するエンジン用電子制御装置(E/G−ECU)26からは、エンジン回転数Ne の信号、エンジン(E/G)負荷の信号、アクセルペダル(図示せず)の踏み込み量であるアクセル開度信号などが入力されている。
【0022】
無段変速機1によれば、入力回転数であるエンジン回転数を無段階に(言い換えれば、連続的に)制御できるので、これを搭載した車両の燃費を向上できる。例えば、アクセル開度などによって表される要求駆動量と車速とに基づいて目標駆動力が求められ、その目標駆動力を得るために必要な目標出力が目標駆動力と車速とに基づいて求められ、その目標出力を最適燃費で得るためのエンジン回転数が予め用意したマップに基づいて求められ、そして、そのエンジン回転数となるように変速比が制御される。
【0023】
そのような燃費向上の利点を損なわないために、無段変速機1における動力の伝達効率が良好な状態に制御される。具体的には、無段変速機1のトルク容量すなわちベルト挟圧力が、エンジントルクに基づいて決まる目標トルクを伝達でき、かつベルト17の滑りが生じない範囲で可及的に低いベルト挟圧力に制御される。このような挟圧力のいわゆる低下制御は、外乱の可能性の低い状態、具体的には、平坦良路を特に加減速することなく走行している状態で実行され、悪路を走行している状態や大きく加速もしくは減速している状態では、挟圧力をライン圧程度の相対的に高い圧力に設定する。
【0024】
その低下制御で設定される挟圧力は、滑りを生じることなく入力トルクを伝達できる最低圧(いわゆる滑り限界圧)に、路面の状態に応じて出力側から入力されることが予想されるいわゆる路面入力に対応する圧力などの滑りに対する安全を見込んだ所定圧を加えた圧力に設定される。その所定圧は予め設定することができるが、滑り限界圧は、経時的に変化することのある摩擦係数や潤滑油の状態などに影響され、予め一義的に設定できないので、滑りの状態に基づいて設定することが好ましい。
【0025】
図5に示す無段変速機1を対象とするこの発明に係る制御装置は、以下のように滑り検出後の制御をおこなうよう構成されている。したがって、車両に搭載された無段変速機の制御は、一般に、エンジンの燃費が最適となる回転数を目標回転数とし、実際のエンジン回転数がその目標回転数に一致するように実行される。言い換えれば、目標回転数と実回転数との偏差に基づいて無段変速機の変速制御が実行される。そのため、無段変速機に滑りが生じると、入力回転数が変化するため、その変化した入力回転数を目標回転数に一致させるように変速が生じる。
【0026】
一方、無段変速機における滑りの収束を推定変速比に基づいて判定することがあるが、その場合、滑りに伴う変速が生じていると、変速比の推定値に誤差が生じる。そこで、この発明の係る制御装置は、滑りに伴う変速判断が成立した場合、以下に述べる制御を実施して、変速比の推定や滑り収束の判定の精度を向上させるように構成されている。
【0027】
図1はその制御例を示すフローチャートであって、このフローチャートは所定の短い時間毎に繰り返し実行される。先ず、限界力検出制御がおこなわれているか否かが判断される(ステップS101)。限界挟圧力とは無段変速機1に対する正入力トルクに釣り合うトルク容量を設定する挟圧力であって、その検出制御は挟圧力を徐々に低下させて無段変速機1に滑りを生じさせ、その滑り発生時点の挟圧力を求める制御である。その場合、無段変速機1に作用するトルクが安定していることが必要であるから、無段変速機1を搭載している車両が定常走行状態、あるいは、準定常走行状態にある場合に限界挟圧力検出制御が実行される。前記ステップS101ではこのような制御が開始されているか否かを判断する。
【0028】
ステップS101で肯定的に判断された場合には、限界挟圧力の検出がおこなわれたか否かが判断される(ステップS102)。これは、滑りの判定が成立し、それに基づいて、限界挟圧力が求められたか否かを判断するものである。なお、無段変速機1における滑りの判定は挟圧力の低下指令を出力した後の所定時間内における変速比に基づいて推定変速比あるいは変速比変化速度を求め、その推定変速比もしくは推定変速比変化速度と現在時点の変速比もしくは変速比変化速度とを比較することにより判定することができる。すなわち変速比もしくは変速比変化速度の推定値と現在値との偏差が所定のしきい値を超えることにより滑りの判定が成立する。
【0029】
このステップS102で肯定的に判断された場合には、変速指令値が前回値に固定される(ステップS103)。すなわち、無段変速機1に滑りが生じることにより、入力回転数もしくは駆動プーリ13の回転数が目標回転数から外れ、もしくは回転数偏差が増大する。そして、これが要因となって、変速判断が成立するが、ステップS103では変速指令値を変化させずに固定する。このように、滑りの判定成立に伴って、変速比の変更を制限することにより、滑りが生じている間においては、滑りに基づく入力回転数の変化を要因とした変速は実行されず、従前の変速状態が維持される。
【0030】
なお、ステップS101あるいはステップS102で否定的に判断された場合、すなわち挟圧力の低下制御が開始されていない場合、および滑りの判定やそれに基づく限界挟圧力の検出判定がおこなわれていない場合には、通常の変速制御がおこなわれる(ステップS104)。この通常制御では、挟圧力がライン圧もしくはその補正圧程度に高く設定される。
【0031】
上述した制御を実行した場合のタイムチャートを、変速指令値を固定しない場合のタイムチャートと併せて図2に示してある。図2において、制御の前提条件が成立している状態で所定の開始条件が成立することにより限界挟圧力検出制御が開始され、図2のA時点で挟圧力を徐々に低下させる指令信号が出力される。
【0032】
挟圧力を低下させる指令信号が出力されたことに伴って、所定時間遅れて実際の挟圧力が低下する(A時点からB時点)。この遅れは、油圧回路の応答遅れによるものである。この間、変速指令値は入力軸回転数を一定に保つように出力される。
【0033】
図2に示す例はアップシフトの例であり、したがって、この間、変速比は緩やかに低下する。この低下勾配から求められた推定変速比と、実際の変速比との偏差が予め設定されたしきい値を超えると、滑りが発生したと判断される(B時点)。
【0034】
B時点で滑りが判断されると、滑りが発生した時点の挟圧力指令値が一定時間保持され、その後、挟圧力のアップ指令が出力される。しかし、油圧回路の応答遅れによって、実際の挟圧力は遅れて上昇する。そのため、滑りが継続し、入力回転数は上昇し続ける(B時点からC時点)。
【0035】
滑りにより入力軸回転数が増加すると、入出力回転数から演算される実際の変速比が増加する。したがって、入力回転数が目標回転数から大きくかけ離れた状態となり、上記ステップS101からステップS103の制御をおこなわない従来例の場合には、入力軸回転数を低下させるために、変速指令値はアップシフトすなわち変速比を下げる方向の指令となる。したがって、掛り径変速比、すなわちプーリ13,14に実際にベルト17が掛かっている巻き掛け半径から求めた変速比が低下する。
【0036】
駆動プーリ13の掛り径が増大し、その結果、掛り径変速比が低下すると、駆動プーリ13での滑りが生じにくくなる。したがって、滑りが抑制され始める。それと相前後して、実際の挟圧力も上昇し始めるため、滑りが収束に向かい始める(C時点)。そのため、滑り量が減少し、入力軸回転数が減少すると、実際の変速比は減少する。したがって、入力軸回転数の低下を抑えるために、変速指令値はダウンシフト方向、すなわち変速比の低下を抑える方向に指令が出力される(C時点からD時点)。この間、掛り径変速比は低下し続けている。
【0037】
滑り量が更に減少し、滑りの影響が少なくなると、入力回転数は掛かり径変速比で決まる回転数に近づき、実際の変速比が掛り径変速比に近づく(D時点からE時点)。その結果、実際の変速比は推定変速比を大きく下回ることになる。
【0038】
そして、滑りがほぼ完全に収束した時点では、実際の変速比は掛かり径変速比にほぼ一致している(E時点)。そのため、実際の変速比と推定変速比との偏差が大きくなり、その偏差に基づく方法では滑り収束の判定が難しくなる。
【0039】
これに対し、この発明による上記のステップS101からS103の制御によれば、「本発明例」での滑りが検出された時点すなわちA時点で変速指令値が固定され、従前の変速状態が維持されるので、掛り径変速比が推定変速比の変化とほぼ同様に変化する。したがってこの場合、駆動プーリ13での掛り後半径が滑りを要因としては増大しないことになる。そのため、実際の挟圧力のみが上昇し始めることにより、滑りが収束方向に変化する。
【0040】
滑りが収束することにより、実際の変速比が低下するが、滑りがほぼ完全に収束した時点(E時点)では、掛り径に基づいて定まる変速比が設定される。その掛かり径変速比は、変速指令値が固定されていることにより、推定変速比に近い値となっている。そのため、滑りがほぼ完全に収束した時点での実際の変速値と推定変速値との偏差は小さくなっている。したがって、実際の変速比と、推定変速比との偏差に基づいて滑り収束の判定をおこなっても、誤判定を抑制もしくは防止することができる。
【0041】
つぎにこの発明の他の具体例を説明する。図3はその制御例を示すフローチャートであって、このフローチャートは所定の短い時間毎に繰り返し実行される。先ず、ステップS201で、現在時点の実際の変速比γ(i) を算出する。なお、実際の変速比を求めるのに必要となる回転数は入力軸と出力軸に取り付けられた入力回転数センサー22および、出力回転数センサー23で検出される。
【0042】
次に、限界力検出制御がおこなわれているか否かが判断される(ステップS202)。限界挟圧力とは無段変速機1に対する正入力トルクに釣り合うトルク容量を設定する挟圧力であって、その検出制御は挟圧力を徐々に低下させて無段変速機1に滑りを生じさせ、その滑り発生時点の挟圧力を求める制御である。その場合、無段変速機1に作用するトルクが安定していることが必要であるから、無段変速機1を搭載している車両が定常走行状態、あるいは、準定常走行状態にある場合に限界挟圧力検出制御が実行される。前記ステップS202ではこのような制御が開始されているか否かを判断する。
【0043】
ステップS202で肯定的に判断された場合には、限界挟圧力の検出がおこなわれたか否かが判断される(ステップS203)。これは、滑りの判定が成立し、それに基づいて、限界挟圧力が求められたか否かを判断するものである。なお、無段変速機1における滑りの判定は挟圧力の低下指令を出力した後の所定時間内における変速比に基づいて推定変速比あるいは変速比変化速度を求め、その推定変速比もしくは推定変速比変化速度と現在時点の変速比もしくは変速比変化速度とを比較することにより判定することができる。すなわち変速比もしくは変速比変化速度の推定値と現在値との偏差が所定のしきい値を超えることにより滑りの判定が成立する。
【0044】
ステップS203で肯定的に判断されると、所定時間前の推定変速比γpre(i−1)と推定変速比の変化率Δγpre が算出されているか否かが判断される(ステップS204)。ステップS204で否定的に判断された場合、すなわち、推定変速比の変化率が算出されていないと判断された場合、メモリーされている変速比γから所定時間前の推定変速比γpre(i−1)と推定変速比の変化率Δγpre を算出する(ステップS205)。
【0045】
ステップS204で肯定的に判断された場合およびステップS205で処理が終了した場合、現在の推定変速比γpre(i)を、所定時間前の推定変速比γpre(i−1)と推定変速比の変化率Δγpre との和として算出する(ステップS206)。さらに、限界挟圧力検出時すなわち滑り検出時の変速指令値と現在の変速指令値から算出した補正値で、推定変速比の変化率Δγpre を補正する(ステップS207)。すなわち、滑りによって変化している実変速比がその後の変速比の推定に反映される。
【0046】
なお、ステップS202、もしくは、ステップS203で否定的に判断された場合、制御開始条件が成立しておらず、あるいは滑りの判定が成立していない場合には、このルーチンを抜ける。
【0047】
上述した制御を実行した場合のタイムチャートを、図4に示してある。推定変速比が、滑り判定が成立した時から、掛り径変速比に近づくように常に補正がかけられている以外は図2と同様である。すなわち推定変速比は、変速指令値の変化に関係なく、掛り径変速比に近づくよう補正されているので、滑り収束時点でも推定変速比に近い値となっている(A 時点からE 時点)。そのため、滑りがほぼ完全に収束した時点の実変速比と推定変速比との偏差は小さい値に収まっている。したがって、実変速比と推定変速比との偏差に基づいて滑り収束の判定をおこなっても、誤判定を抑制もしくは防止することができる。
【0048】
ここで、上記の具体例とこの発明との関係を簡単に説明すると、ステップS103の機能的手段が、この発明の変速指令値制限手段に相当し、ステップS206の機能的手段が、この発明の推定変速比補正手段に相当する。
【0049】
なお、この発明は上記の具体例に限定されないのであって、この発明における無段変速機は、ベルト式無段変速機以外に、トロイダル型(トラクション式)無段変速機であってもよい。また、挟圧力を低下させて生じる滑りに限らず、無段変速機の通常の運転中での滑りを検出する場合にもこの発明を適用することができる。
【0050】
【発明の効果】
したがって請求項1の発明では、滑り判定が成立した場合に、変速指令値を滑り判定が成立した時点での値に固定するなど、変速指令値の変更が制限される。そのため、変速指令値が変化することによる変速比の変動が防止され、従前の変速比に基づく変速比の推定が精度良くおこなわれる。その結果、推定変速比と実際の変速比とを比較することに基づく滑り終了判定の精度を向上させることができる。
【0051】
また、請求項2の発明では、滑りが検出されてから、滑りが終了するまでの間では、現在の変速指令値と滑り開始時の変速指令値に基づいて、推定変速比が補正される。すなわち、推定変速比が滑り判定成立前の値に固定されずに、変速指令値の変化に応じて変化するので、滑り収束時に設定される変速比と推定変速比との差異が抑制され、その結果、推定変速比に基づく滑り終了判定の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の制御装置による制御の一例を説明するためのフローチャートである。
【図2】図1の制御を実行した場合と、実行しない場合を比較したタイムチャートを示す図である。
【図3】この発明の制御装置による制御の他の例を説明するためのフローチャートである。
【図4】図3の制御を実行した場合のタイムチャートを示す図である。
【図5】この発明で対象とする無段変速機を含む駆動装置を模式的に示す図である。
【符号の説明】
1…無段変速機、 5…エンジン(動力源)、 13…駆動プーリ、 14…従動プーリ、 17…ベルト、 20…駆動輪、 25…変速機用電子制御装置(CVT−ECU)、 26…エンジン用電子制御装置(E/G−ECU)。
【発明の属する技術分野】
この発明は、変速比を無段階に変化させることのできる無段変速機の制御装置に関し、特に無段変速機のトルク容量を設定する挟圧力を、滑りを検出することにより最適化する制御装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ベルト式無段変速機やトラクション式無段変速機は、ベルトとプーリとの間の摩擦力や、ディスクとローラとの間のトラクションオイルのせん断力を利用してトルクを伝達している。したがってこれらの無段変速機のトルク容量は、そのトルクの伝達が生じる箇所に作用する圧力に応じて設定される。
【0003】
無段変速機における上記の圧力は挟圧力と称され、その挟圧力を高くすれば、トルク容量を増大させて滑りを回避できるが、その反面、高い圧力を生じさせるために動力を必要以上に消費したり、あるいは動力の伝達効率が低下するなどの不都合がある。そのため、一般的には、意図しない滑りが生じない範囲で、挟庄カを可及的に低く設定している。
【0004】
その一例を挙げると、摩擦接触して動力を伝達する無段変速機あるいはその伝動システムを対象とした滑り検出方法であって、圧着力(すなわち挟圧力あるいは係合圧)を低下させることに伴う摩擦効率の上昇(具体的には油温の上昇)を検出して滑りを判定する方法が特許文献1に記載されている。この特許文献1に記載された方法では、伝達する力や速度あるいは伝達比がほぼ一定の状態で圧着力を徐々に低下させて滑り限界を決定し、次いで滑りを存在させないように、あるいは予め規定した滑り限界値を超えないように圧着力を調整している。
【0005】
【特許文献1】
特開2001−12593号公報(請求項1、2、6、7、段落(0013))
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上記の特許文献1に記載された方法では、滑り限界を決定した後、滑りを存在させないように圧着力を変化させるが、圧着力を変化させることによって生じる変速比の変化をとらえることで滑り発生時点および滑り終了時点を判断することもできる。その際、滑り発生以前の変速比の低下勾配により、滑り発生時および滑り終了時の変速比を推定し、その推定値と現在の値を比較することにより、滑りの発生、および終了を検出することができる。しかし、滑りにより入力回転数が変化すると、変速指令値が変化する。そのため、滑りによる変速比の変化に加えて、変速指令値の変化による変速比の変化が重なって発生するために、変速比を正確に推定することができない可能性があった。
【0007】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたもので、滑りなどの変速要因が生じても、精度良く、変速比を推定し、あるいは滑りの終了を判定できる装置を提供することを目的とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段およびその作用】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、過去の変速比に基づいて推定変速比を求め、その推定変速比に基づいて滑りの終了を検出する無段変速機の制御装置において、滑り判定が成立した場合に、変速指令値の変更を制限する変速指令値制限手段を有することを特徴とする制御装置である。
【0009】
したがって請求項1の発明では、滑り判定が成立した場合に、変速指令値を滑り判定が成立した時点での値に固定するなど、変速指令値の変更が制限される。そのため、変速指令値が変化することによる変速比の変化の変動が防止され、従前の変速比に基づく変速比の推定が精度良くおこなわれる。その結果、推定変速比と実際の変速比とを比較することに基づく滑り終了判定の精度が向上する。
【0010】
また、請求項2の発明は、過去の変速比に基づいて推定変速比を求め、その推定変速比に基づいて滑りの終了を検出する無段変速機の制御装置において、滑り開始時の変速指令値と現在時点の変速指令値とに基づいて、推定変速比を補正する推定変速比補正手段を備えていることを特徴とする制御装置である。
【0011】
したがって請求項2の発明では、滑りが検出されてから、滑りが終了するまでの間では、現在の変速指令値と滑り開始時の変速指令値に基づいて、推定変速比が補正される。すなわち、推定変速比が滑り判定成立前の値に固定されずに、変速指令値の変化に応じて変化するので、滑り収束時に設定される変速比と推定変速比との差異が抑制され、その結果、推定変速比に基づく滑り終了判定の精度が向上する。
【0012】
【発明の実施の形態】
つぎにこの発明を具体例に基づいて説明する。先ず、この発明で対象とする無段変速機を含む駆動系統の一例を説明すると、図5は、ベルト式無段変速機1を含む駆動機構を模式的に示しており、その無段変速機1は、前後進切換機構2およびロックアップクラッチ3付きの流体伝動機構4を介して動力源5に連結されている。
【0013】
その動力源5は、内燃機関、あるいは内燃機関と電動機、もしくは電動機などによって構成されている。なお、以下の説明では、動力源5をエンジン5と記す。また、流体伝動機構4は、例えば従来のトルクコンバータと同様の構成であって、エンジン5によって回転させられるポンプインペラとこれに対向させて配置した夕ービンランナーと、これらの間に配置したステータとを有し、ポンプインペラで発生させたフルードの螺旋流を夕ービンランナーに供給することより夕ービンランナーを回転させ、トルクを伝達するように構成されている。
【0014】
このような流体を介したトルクの伝達では、ポンプインペラと夕ービンランナーとの間に不可避的な滑りが生じ、これが動力伝達効率の低下要因となるので、ポンプインペラなどの入力側の部材と夕ービンランナーなどの出力側の部材とを直接連結するロックアップクラッチ3が設けられている。このロックアップクラッチ3は、油圧によって制御するように構成され、完全係合状態および完全解放状態、ならびにこれらの中間の状態である滑り状態に制御され、さらにその滑り回転数を適宜に制御できるようになっている。
【0015】
前後進切換機構2は、エンジン5の回転方向が一方向に限られていることに伴って採用されている機構であって、入力されたトルクをそのまま出力し、また反転して出力するように構成されている。図5に示す例では、前後進切換機構2としてダブルピニオン型の遊星歯車機構が採用されている。すなわち、サンギヤ6と同心円上にリングギヤ7が配置され、これらのサンギヤ6とリングギヤ7との間に、サンギヤ6に噛合したピニオンギヤ8とそのピニオンギヤ8およびリングギヤ7に噛合した他のピニオンギヤ9とが配置され、これらのピニオンギヤ8,9がキャリヤ10によって自転かつ公転自在に保持されている。そして、二つの回転要素(具体的にはサンギヤ6とキャリヤ10と)を一体的に連結する前進用クラッチ11が設けられ、またリングギヤ7を選択的に固定することにより、出力されるトルクの方向を反転する後進用ブレーキ12が設けられている。
【0016】
無段変速機1は、従来知られているベルト式無段変速機と同じ構成であって、互いに平行に配置された駆動プーリ13と従動プーリ14とのそれぞれが、固定シーブと、油圧式のアクチュエータ15,16によって軸線方向に前後動させられる可動シーブとによって構成されている。したがって各プーリ13,14の溝幅が、可動シーブを軸線方向に移動させることにより変化し、それに伴って各プーリ13,14に巻掛けたベルト17の巻掛け半径(プーリ13,14の有効径)が連続的に変化し、変速比が無段階に変化するようになっている。そして、上記の駆動プーリ13が前後進切換機構2における出力要素であるキャリヤ10に連結されている。
【0017】
なお、従動プーリ14における油圧アクチュエータ16には、無段変速機1に入力されるトルクに応じた油圧(ライン圧もしくはその補正圧)が、図示しない油圧ポンプおよび油圧制御装置を介して供給されている。したがって、従動プーリ14における各シーブがベルト17を挟み付けることにより、ベルト17に張力が付与され、各プーリ13,14とベルト17との挟圧力(接触圧力)が確保されるようになっている。これに対して駆動プーリ13における油圧アクチュエータ15には、設定するべき変速比に応じた圧油が供給され、目標とする変速比に応じた溝幅(有効径もしくは巻掛け径)に設定するようになっている。
【0018】
上記の従動プーリ14が、ギヤ対18を介してディファレンシャル19に連結され、このディファレンシャル19から駆動輪20にトルクを出力するようになっている。したがって上記の駆動機構では、エンジン5と駆動輪20との間に、ロックアップクラッチ3と無段変速機1とが直列に配列されている。
【0019】
上記の無段変速機1およびエンジン5を搭載した車両の動作状態(走行状態)を検出するために各種のセンサーが設けられている。すなわち、無段変速機1に対する入力回転数(前記夕ービンランナーの回転数)を検出して信号を出力する夕ービン回転数センサー21、駆動プーリ13の回転数を検出して信号を出力する入力回転数センサー22、従動プーリ14の回転数を検出して信号を出力する出力回転数センサー23、ベルト挟圧力を設定するための従動プーリ14側の油圧アクチュエータ16の圧力を検出する油圧センサー24が設けられている。また、特には図示しないが、アクセルペダルの踏み込み量を検出して信号を出力するアクセル開度センサー、スロットルバルブの開度を検出して信号を出力するスロットル開度センサー、ブレーキペダルが踏み込まれた場合に信号を出力するブレーキセンサーなどが設けられている。
【0020】
上記の前進用クラッチ11および後進用ブレーキ12の係合・解放の制御、および前記ベルト17の挟圧力の制御、ならびに変速比の制御、さらにはロックアップクラッチ3の制御をおこなうために、変速機用電子制御装置(CVT−ECU)25が設けられている。この電子制御装置25は、一例としてマイクロコンピュータを主体として構成され、入力されたデータおよび予め記憶しているデータに基づいて所定のプログラムに従って演算をおこない、前進や後進あるいはニュートラルなどの各種の状態、および要求される挟圧力の設定、ならびに変速比の設定、ロックアップクラッチ3の係合・解放ならびに滑り回転数などの制御を実行するように構成されている。
【0021】
ここで、変速機用電子制御装置25に入力されているデータ(信号)の例を示すと、無段変速機1の入力回転数(入力回転速度)Ninの信号、無段変速機1の出力回転数(出力回転速度)No の信号が、それぞれに対応するセンサーから入力されている。また、エンジン5を制御するエンジン用電子制御装置(E/G−ECU)26からは、エンジン回転数Ne の信号、エンジン(E/G)負荷の信号、アクセルペダル(図示せず)の踏み込み量であるアクセル開度信号などが入力されている。
【0022】
無段変速機1によれば、入力回転数であるエンジン回転数を無段階に(言い換えれば、連続的に)制御できるので、これを搭載した車両の燃費を向上できる。例えば、アクセル開度などによって表される要求駆動量と車速とに基づいて目標駆動力が求められ、その目標駆動力を得るために必要な目標出力が目標駆動力と車速とに基づいて求められ、その目標出力を最適燃費で得るためのエンジン回転数が予め用意したマップに基づいて求められ、そして、そのエンジン回転数となるように変速比が制御される。
【0023】
そのような燃費向上の利点を損なわないために、無段変速機1における動力の伝達効率が良好な状態に制御される。具体的には、無段変速機1のトルク容量すなわちベルト挟圧力が、エンジントルクに基づいて決まる目標トルクを伝達でき、かつベルト17の滑りが生じない範囲で可及的に低いベルト挟圧力に制御される。このような挟圧力のいわゆる低下制御は、外乱の可能性の低い状態、具体的には、平坦良路を特に加減速することなく走行している状態で実行され、悪路を走行している状態や大きく加速もしくは減速している状態では、挟圧力をライン圧程度の相対的に高い圧力に設定する。
【0024】
その低下制御で設定される挟圧力は、滑りを生じることなく入力トルクを伝達できる最低圧(いわゆる滑り限界圧)に、路面の状態に応じて出力側から入力されることが予想されるいわゆる路面入力に対応する圧力などの滑りに対する安全を見込んだ所定圧を加えた圧力に設定される。その所定圧は予め設定することができるが、滑り限界圧は、経時的に変化することのある摩擦係数や潤滑油の状態などに影響され、予め一義的に設定できないので、滑りの状態に基づいて設定することが好ましい。
【0025】
図5に示す無段変速機1を対象とするこの発明に係る制御装置は、以下のように滑り検出後の制御をおこなうよう構成されている。したがって、車両に搭載された無段変速機の制御は、一般に、エンジンの燃費が最適となる回転数を目標回転数とし、実際のエンジン回転数がその目標回転数に一致するように実行される。言い換えれば、目標回転数と実回転数との偏差に基づいて無段変速機の変速制御が実行される。そのため、無段変速機に滑りが生じると、入力回転数が変化するため、その変化した入力回転数を目標回転数に一致させるように変速が生じる。
【0026】
一方、無段変速機における滑りの収束を推定変速比に基づいて判定することがあるが、その場合、滑りに伴う変速が生じていると、変速比の推定値に誤差が生じる。そこで、この発明の係る制御装置は、滑りに伴う変速判断が成立した場合、以下に述べる制御を実施して、変速比の推定や滑り収束の判定の精度を向上させるように構成されている。
【0027】
図1はその制御例を示すフローチャートであって、このフローチャートは所定の短い時間毎に繰り返し実行される。先ず、限界力検出制御がおこなわれているか否かが判断される(ステップS101)。限界挟圧力とは無段変速機1に対する正入力トルクに釣り合うトルク容量を設定する挟圧力であって、その検出制御は挟圧力を徐々に低下させて無段変速機1に滑りを生じさせ、その滑り発生時点の挟圧力を求める制御である。その場合、無段変速機1に作用するトルクが安定していることが必要であるから、無段変速機1を搭載している車両が定常走行状態、あるいは、準定常走行状態にある場合に限界挟圧力検出制御が実行される。前記ステップS101ではこのような制御が開始されているか否かを判断する。
【0028】
ステップS101で肯定的に判断された場合には、限界挟圧力の検出がおこなわれたか否かが判断される(ステップS102)。これは、滑りの判定が成立し、それに基づいて、限界挟圧力が求められたか否かを判断するものである。なお、無段変速機1における滑りの判定は挟圧力の低下指令を出力した後の所定時間内における変速比に基づいて推定変速比あるいは変速比変化速度を求め、その推定変速比もしくは推定変速比変化速度と現在時点の変速比もしくは変速比変化速度とを比較することにより判定することができる。すなわち変速比もしくは変速比変化速度の推定値と現在値との偏差が所定のしきい値を超えることにより滑りの判定が成立する。
【0029】
このステップS102で肯定的に判断された場合には、変速指令値が前回値に固定される(ステップS103)。すなわち、無段変速機1に滑りが生じることにより、入力回転数もしくは駆動プーリ13の回転数が目標回転数から外れ、もしくは回転数偏差が増大する。そして、これが要因となって、変速判断が成立するが、ステップS103では変速指令値を変化させずに固定する。このように、滑りの判定成立に伴って、変速比の変更を制限することにより、滑りが生じている間においては、滑りに基づく入力回転数の変化を要因とした変速は実行されず、従前の変速状態が維持される。
【0030】
なお、ステップS101あるいはステップS102で否定的に判断された場合、すなわち挟圧力の低下制御が開始されていない場合、および滑りの判定やそれに基づく限界挟圧力の検出判定がおこなわれていない場合には、通常の変速制御がおこなわれる(ステップS104)。この通常制御では、挟圧力がライン圧もしくはその補正圧程度に高く設定される。
【0031】
上述した制御を実行した場合のタイムチャートを、変速指令値を固定しない場合のタイムチャートと併せて図2に示してある。図2において、制御の前提条件が成立している状態で所定の開始条件が成立することにより限界挟圧力検出制御が開始され、図2のA時点で挟圧力を徐々に低下させる指令信号が出力される。
【0032】
挟圧力を低下させる指令信号が出力されたことに伴って、所定時間遅れて実際の挟圧力が低下する(A時点からB時点)。この遅れは、油圧回路の応答遅れによるものである。この間、変速指令値は入力軸回転数を一定に保つように出力される。
【0033】
図2に示す例はアップシフトの例であり、したがって、この間、変速比は緩やかに低下する。この低下勾配から求められた推定変速比と、実際の変速比との偏差が予め設定されたしきい値を超えると、滑りが発生したと判断される(B時点)。
【0034】
B時点で滑りが判断されると、滑りが発生した時点の挟圧力指令値が一定時間保持され、その後、挟圧力のアップ指令が出力される。しかし、油圧回路の応答遅れによって、実際の挟圧力は遅れて上昇する。そのため、滑りが継続し、入力回転数は上昇し続ける(B時点からC時点)。
【0035】
滑りにより入力軸回転数が増加すると、入出力回転数から演算される実際の変速比が増加する。したがって、入力回転数が目標回転数から大きくかけ離れた状態となり、上記ステップS101からステップS103の制御をおこなわない従来例の場合には、入力軸回転数を低下させるために、変速指令値はアップシフトすなわち変速比を下げる方向の指令となる。したがって、掛り径変速比、すなわちプーリ13,14に実際にベルト17が掛かっている巻き掛け半径から求めた変速比が低下する。
【0036】
駆動プーリ13の掛り径が増大し、その結果、掛り径変速比が低下すると、駆動プーリ13での滑りが生じにくくなる。したがって、滑りが抑制され始める。それと相前後して、実際の挟圧力も上昇し始めるため、滑りが収束に向かい始める(C時点)。そのため、滑り量が減少し、入力軸回転数が減少すると、実際の変速比は減少する。したがって、入力軸回転数の低下を抑えるために、変速指令値はダウンシフト方向、すなわち変速比の低下を抑える方向に指令が出力される(C時点からD時点)。この間、掛り径変速比は低下し続けている。
【0037】
滑り量が更に減少し、滑りの影響が少なくなると、入力回転数は掛かり径変速比で決まる回転数に近づき、実際の変速比が掛り径変速比に近づく(D時点からE時点)。その結果、実際の変速比は推定変速比を大きく下回ることになる。
【0038】
そして、滑りがほぼ完全に収束した時点では、実際の変速比は掛かり径変速比にほぼ一致している(E時点)。そのため、実際の変速比と推定変速比との偏差が大きくなり、その偏差に基づく方法では滑り収束の判定が難しくなる。
【0039】
これに対し、この発明による上記のステップS101からS103の制御によれば、「本発明例」での滑りが検出された時点すなわちA時点で変速指令値が固定され、従前の変速状態が維持されるので、掛り径変速比が推定変速比の変化とほぼ同様に変化する。したがってこの場合、駆動プーリ13での掛り後半径が滑りを要因としては増大しないことになる。そのため、実際の挟圧力のみが上昇し始めることにより、滑りが収束方向に変化する。
【0040】
滑りが収束することにより、実際の変速比が低下するが、滑りがほぼ完全に収束した時点(E時点)では、掛り径に基づいて定まる変速比が設定される。その掛かり径変速比は、変速指令値が固定されていることにより、推定変速比に近い値となっている。そのため、滑りがほぼ完全に収束した時点での実際の変速値と推定変速値との偏差は小さくなっている。したがって、実際の変速比と、推定変速比との偏差に基づいて滑り収束の判定をおこなっても、誤判定を抑制もしくは防止することができる。
【0041】
つぎにこの発明の他の具体例を説明する。図3はその制御例を示すフローチャートであって、このフローチャートは所定の短い時間毎に繰り返し実行される。先ず、ステップS201で、現在時点の実際の変速比γ(i) を算出する。なお、実際の変速比を求めるのに必要となる回転数は入力軸と出力軸に取り付けられた入力回転数センサー22および、出力回転数センサー23で検出される。
【0042】
次に、限界力検出制御がおこなわれているか否かが判断される(ステップS202)。限界挟圧力とは無段変速機1に対する正入力トルクに釣り合うトルク容量を設定する挟圧力であって、その検出制御は挟圧力を徐々に低下させて無段変速機1に滑りを生じさせ、その滑り発生時点の挟圧力を求める制御である。その場合、無段変速機1に作用するトルクが安定していることが必要であるから、無段変速機1を搭載している車両が定常走行状態、あるいは、準定常走行状態にある場合に限界挟圧力検出制御が実行される。前記ステップS202ではこのような制御が開始されているか否かを判断する。
【0043】
ステップS202で肯定的に判断された場合には、限界挟圧力の検出がおこなわれたか否かが判断される(ステップS203)。これは、滑りの判定が成立し、それに基づいて、限界挟圧力が求められたか否かを判断するものである。なお、無段変速機1における滑りの判定は挟圧力の低下指令を出力した後の所定時間内における変速比に基づいて推定変速比あるいは変速比変化速度を求め、その推定変速比もしくは推定変速比変化速度と現在時点の変速比もしくは変速比変化速度とを比較することにより判定することができる。すなわち変速比もしくは変速比変化速度の推定値と現在値との偏差が所定のしきい値を超えることにより滑りの判定が成立する。
【0044】
ステップS203で肯定的に判断されると、所定時間前の推定変速比γpre(i−1)と推定変速比の変化率Δγpre が算出されているか否かが判断される(ステップS204)。ステップS204で否定的に判断された場合、すなわち、推定変速比の変化率が算出されていないと判断された場合、メモリーされている変速比γから所定時間前の推定変速比γpre(i−1)と推定変速比の変化率Δγpre を算出する(ステップS205)。
【0045】
ステップS204で肯定的に判断された場合およびステップS205で処理が終了した場合、現在の推定変速比γpre(i)を、所定時間前の推定変速比γpre(i−1)と推定変速比の変化率Δγpre との和として算出する(ステップS206)。さらに、限界挟圧力検出時すなわち滑り検出時の変速指令値と現在の変速指令値から算出した補正値で、推定変速比の変化率Δγpre を補正する(ステップS207)。すなわち、滑りによって変化している実変速比がその後の変速比の推定に反映される。
【0046】
なお、ステップS202、もしくは、ステップS203で否定的に判断された場合、制御開始条件が成立しておらず、あるいは滑りの判定が成立していない場合には、このルーチンを抜ける。
【0047】
上述した制御を実行した場合のタイムチャートを、図4に示してある。推定変速比が、滑り判定が成立した時から、掛り径変速比に近づくように常に補正がかけられている以外は図2と同様である。すなわち推定変速比は、変速指令値の変化に関係なく、掛り径変速比に近づくよう補正されているので、滑り収束時点でも推定変速比に近い値となっている(A 時点からE 時点)。そのため、滑りがほぼ完全に収束した時点の実変速比と推定変速比との偏差は小さい値に収まっている。したがって、実変速比と推定変速比との偏差に基づいて滑り収束の判定をおこなっても、誤判定を抑制もしくは防止することができる。
【0048】
ここで、上記の具体例とこの発明との関係を簡単に説明すると、ステップS103の機能的手段が、この発明の変速指令値制限手段に相当し、ステップS206の機能的手段が、この発明の推定変速比補正手段に相当する。
【0049】
なお、この発明は上記の具体例に限定されないのであって、この発明における無段変速機は、ベルト式無段変速機以外に、トロイダル型(トラクション式)無段変速機であってもよい。また、挟圧力を低下させて生じる滑りに限らず、無段変速機の通常の運転中での滑りを検出する場合にもこの発明を適用することができる。
【0050】
【発明の効果】
したがって請求項1の発明では、滑り判定が成立した場合に、変速指令値を滑り判定が成立した時点での値に固定するなど、変速指令値の変更が制限される。そのため、変速指令値が変化することによる変速比の変動が防止され、従前の変速比に基づく変速比の推定が精度良くおこなわれる。その結果、推定変速比と実際の変速比とを比較することに基づく滑り終了判定の精度を向上させることができる。
【0051】
また、請求項2の発明では、滑りが検出されてから、滑りが終了するまでの間では、現在の変速指令値と滑り開始時の変速指令値に基づいて、推定変速比が補正される。すなわち、推定変速比が滑り判定成立前の値に固定されずに、変速指令値の変化に応じて変化するので、滑り収束時に設定される変速比と推定変速比との差異が抑制され、その結果、推定変速比に基づく滑り終了判定の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の制御装置による制御の一例を説明するためのフローチャートである。
【図2】図1の制御を実行した場合と、実行しない場合を比較したタイムチャートを示す図である。
【図3】この発明の制御装置による制御の他の例を説明するためのフローチャートである。
【図4】図3の制御を実行した場合のタイムチャートを示す図である。
【図5】この発明で対象とする無段変速機を含む駆動装置を模式的に示す図である。
【符号の説明】
1…無段変速機、 5…エンジン(動力源)、 13…駆動プーリ、 14…従動プーリ、 17…ベルト、 20…駆動輪、 25…変速機用電子制御装置(CVT−ECU)、 26…エンジン用電子制御装置(E/G−ECU)。
Claims (2)
- 過去の変速比に基づいて推定変速比を求め、その推定変速比に基づいて滑りの終了を検出する無段変速機の制御装置において、
滑り判定が成立した場合に、変速指令値の変更を制限する変速指令値制限手段を有することを特徴とする無段変速機の制御装置。 - 過去の変速比に基づいて推定変速比を求め、その推定変速比に基づいて滑りの終了を検出する無段変速機の制御装置において、
滑り開始時の変速指令値と現在時点の変速指令値とに基づいて、推定変速比を補正する推定変速比補正手段を備えていることを特徴とする無段変速機の制御装置。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2003130685A JP2004332851A (ja) | 2003-05-08 | 2003-05-08 | 無段変速機の制御装置 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2003130685A JP2004332851A (ja) | 2003-05-08 | 2003-05-08 | 無段変速機の制御装置 |
Publications (1)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JP2004332851A true JP2004332851A (ja) | 2004-11-25 |
Family
ID=33506125
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP2003130685A Pending JP2004332851A (ja) | 2003-05-08 | 2003-05-08 | 無段変速機の制御装置 |
Country Status (1)
Country | Link |
---|---|
JP (1) | JP2004332851A (ja) |
Cited By (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
CN105757229A (zh) * | 2014-10-02 | 2016-07-13 | 奥特润株式会社 | 无级变速器的滑动控制方法 |
-
2003
- 2003-05-08 JP JP2003130685A patent/JP2004332851A/ja active Pending
Cited By (2)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
CN105757229A (zh) * | 2014-10-02 | 2016-07-13 | 奥特润株式会社 | 无级变速器的滑动控制方法 |
CN105757229B (zh) * | 2014-10-02 | 2018-04-10 | 奥特润株式会社 | 无级变速器的滑动控制方法 |
Similar Documents
Publication | Publication Date | Title |
---|---|---|
JP3885766B2 (ja) | 車両の動力源と無段変速機との協調制御装置 | |
JP2003120804A (ja) | 無段変速機を含む駆動機構の制御装置 | |
JP4148008B2 (ja) | 無段変速機の制御装置 | |
JP4244602B2 (ja) | 無段変速機の制御装置 | |
JP4106992B2 (ja) | 回転速度推定装置 | |
JP4396203B2 (ja) | 無段変速機の制御装置 | |
JP4411858B2 (ja) | 無段変速機の制御装置 | |
JP2004332851A (ja) | 無段変速機の制御装置 | |
JP4333211B2 (ja) | 車両の動力源と変速機との協調制御装置 | |
JP4158665B2 (ja) | 動力伝達機構の制御装置 | |
JP2004332878A (ja) | 無段変速機の制御装置 | |
JP2005042884A (ja) | 無段変速機の制御装置 | |
JP4285071B2 (ja) | 動力源と動力伝達機構との協調制御装置 | |
JP2004293654A (ja) | 動力伝達機構の制御装置 | |
JP4411857B2 (ja) | 無段変速機の制御装置 | |
JP2004293653A (ja) | クラッチの制御装置 | |
JP4314769B2 (ja) | 駆動機構の滑り検出装置 | |
JP4251037B2 (ja) | 無段変速機の制御装置 | |
JP2005083435A (ja) | 車両用路面状態判定装置 | |
JP2005188570A (ja) | 無段変速機の制御装置 | |
JP4126916B2 (ja) | 無段変速機構を含む駆動系統の制御装置 | |
JP4380170B2 (ja) | 無段変速機の制御装置 | |
JP2004301230A (ja) | 無段変速機の滑り検出装置 | |
JP2005083398A (ja) | 無段変速機の制御装置 | |
JP2005195095A (ja) | 無段変速機の制御装置 |