JP4310972B2 - ベルト挟圧力決定装置 - Google Patents

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Description

【0001】
本発明は、ベルト挟圧力決定装置に係り、特に入力側シーブ、出力側シーブ及びVベルトからなる無段階変速機に用いて好適なベルト挟圧力決定装置に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
特開平10−89429号公報では、無段階変速機(以下「CVT」という。)のドリブンシーブの軸推進力、すなわち最適なベルト挟圧力QDN1を算出する技術(以下「従来技術1」という。)が提案されている。
【0003】
従来技術1は、定常運転状態におけるベルトフロックとフープ間、ベルトブロックとシーブ間の摩擦力、ブロック押し付け力とベルト張力の各関係をモデル化し、入力信号に基づいてブロック−シーブ間の摩擦係数であるベルトμを推定する。そして、推定したベルトμを用いて、次式に従ってベルト挟圧力QDN1を算出する。
【0004】
【数1】
Figure 0004310972
【0005】
ここで、各パラメータは次の通りである。
IN:エンジン駆動トルク
μDN:セカンダリ側のベルトμ
DN:セカンダリ掛かり系
SF:安全率
α:シーブ傾き角
一方、CVTは、通常エンジンからの駆動トルクのほかに、タイヤから未知量の外乱トルクが加わる。外乱トルクをΔTとすると、実際のベルト挟圧力QDN2は次式となる。
【0006】
【数2】
Figure 0004310972
【0007】
上記式によると、ベルト挟圧力DN2は、外乱トルクΔTの大きさに応じて増加しなければならない。これに対して、従来技術1では、外乱トルクΔTの最大値を考慮して予め安全率SF(≧1)を設定することで、トルク外乱ΔTの変動を考慮することなくベルト挟圧力QDN1を求めている。
【0008】
しかし、安全率SFの許容範囲外の外乱トルクΔTが加わった場合では、従来技術1は、加わった外乱トルクΔTに対してベルト挟圧力QDN1が不足し、ベルト滑りが生じてしまう問題があった。一方、外乱トルクΔTがない場合では、安全率SFによって過剰に大きな必要挟圧力QDN1を算出してしまうので、定常的にポンプ損失が大きくなってしまい、燃費が低下してしまう問題があった。
【0009】
外乱トルクΔTを直接検出することができれば上記問題を解決することができるが、そのためには路面摩擦係数が必要になってしまい、外乱トルクΔTを検出するのは困難である。
【0010】
また、特開平2001−349418号公報では、エンジン負荷を低減すると共にスリップを防止した無断変速機の油圧制御装置(以下「従来技術2」という。)が提案されている。
【0011】
従来技術2の仮想変速比演算部28は、同公報の図1に示すように、CVT変速比検出部22により検出される実際の変速比γに対して1次遅れフィルタ処理を施し、仮想減速比γeを算出する。ここで、フィルタ時定数は、ベルト滑り時のγの変化に追従しないように十分大きな値に設定されている。
【0012】
ベルトスリップ検出部27は、ある一定時間ΔT内で、減速比γと仮想減速比γeの偏差の符号が+、−の両極性を示し、かつ偏差が閾値αを2回超えた時点で、ベルト滑りがあることを示すスリップ検出信号を生成する。加算器25は、スリップ検出信号が生成されたときに、目標ライン圧演算部23で演算された目標ライン圧に補正量演算部26で演算された補正量を加算する。そして、PID演算部24は、実際のライン圧と補正された目標ライン圧とが一致するように制御量(ベルト挟圧力)を演算する。
【0013】
図25は、従来技術2を用いたときの減速比γ(=プライマリシーブ回転数/セカンダリシーブ回転数)の経時変化を示す図である。
【0014】
低μ路では、図25に示すように、アクセル操作時のセカンダリ回転数が大きく上昇し、減速比γが急激に変化する。その結果、減速比γと仮想減速比γeの偏差が大きくなる。そこで、ベルト滑りの誤検出を防止するためには、閾値αを大きくする必要がある。
【0015】
しかし、閾値αを大きく設定すると、実際にベルト滑りが生じたにも拘わらず、ベルト滑りを検出できなくなる場合があり、ベルト挟圧力を増圧することができずにベルトが損傷してしまう問題があった。
【0016】
逆に、閾値αを小さく設定すると、ベルト滑りを検出することができるものの、ベルト滑りの誤検出が増加してしまう。その結果、不必要にベルト挟圧力を増圧してしまい燃費が低下する問題があった。
【0017】
本発明は、上述した課題を解決するために提案されたものであり、最適なベルト挟圧力を決定して燃費の低下を抑制するベルト挟圧力決定装置を提供することを目的とする。
【0018】
また、本発明は、どのような路面状態であっても正確にベルト滑りを検出してベルト挟圧力を決定するベルト挟圧力決定装置を提供することを目的とする。
【0036】
【課題を解決するための手段】
上述した課題を解決するために、請求項1記載の発明は、入力側シーブ、出力側シーブ、及びベルトを備えた無段階変速機のベルト滑り検出装置であって、入力側シーブの回転数を検出する第1の回転数検出手段と、出力側シーブの回転数を検出する第2の回転数検出手段と、前記第1及び第2の回転数検出手段により各々検出された回転数に基づいて、前記入力側シーブ及び前記出力側シーブの各々の掛かり径を演算する掛かり径演算手段と、エンジントルクを推定するエンジントルク推定手段と、入力側シーブ、出力側シーブ、及びベルト間のトルク伝達モデルに対して、前記第1及び第2の回転数検出手段により各々検出された回転数と、前記掛かり径演算手段により演算された掛かり径と、前記エンジントルク推定手段により推定されたエンジントルクとを用いて、ベルト滑りを検出するベルト滑り検出手段と、を備えている。
【0037】
ベルト滑り検出手段は、無段階変速機の入力側シーブ、出力側シーブ、及びベルト間のトルク伝達モデルと、入力側シーブ及び出力側シーブの各々の回転数、掛かり径、エンジントルクを少なくとも用いて、所定のパラメータを演算し、所定のパラメータとしきい値とを比較してベルト滑りを検出する。これにより、請求項8記載の発明は、ベルト滑りを確実に検出することができる。
【0038】
記ベルト滑り検出手段は、入力側シーブ、出力側シーブ、及びベルト間のトルク伝達を、入力側シーブと出力側シーブの各々の掛かり径位置におけるねじれ角に応じたばね力を用いて表したトルク伝達モデルに対して、前記第1及び第2の回転数検出手段により各々検出された回転数と、前記掛かり径演算手段により演算された掛かり径と、前記エンジントルク推定手段により推定されたエンジントルクとに基づいて、前記ばね力を表すばね定数を決定し、前記決定したばね定数が所定の閾値未満のときにベルト滑りを検出する。
【0039】
トルク伝達モデルは、入力側シーブ、出力側シーブ、ベルト間のトルク伝達を、入力側シーブと出力側シーブの各々の掛かり径位置におけるねじれ角に応じたばね力を用いて構築されたものである。上記トルク伝達モデルは、ベルト速度を未知要素として含んでなく、非常に簡易な構成になる。さらに、ばね力を表すばね定数は、ベルト滑りが起きるときに低下する性質を有し、ベルト滑りを検出するためのパラメータとなる。
【0040】
したがって、請求項1記載の発明によれば、前記トルク伝達モデルに対して、入力側シーブ及び出力側シーブの各々の回転数と、掛かり径と、エンジントルクとに基づいて、ばね力を表すばね定数を決定し、ばね定数が所定の閾値未満のときにベルト滑りを検出することにより、演算負荷を大きく低減しつつ、ベルト滑りを確実に検出することができる。
【0043】
請求項1記載の発明は、更に、前記出力側シーブのタイヤ回転慣性トルクを演算するタイヤ回転慣性トルク演算手段と、前記ベルト滑り検出装置によりベルト滑りが検出されたときに、前記タイヤ回転慣性トルク演算手段により演算されたタイヤ回転慣性トルクと、ベルト最大摩擦係数とを少なくとも用いて、ベルト挟圧力を決定するベルト挟圧力決定手段と、を備えている。
【0044】
したがって、請求項1記載の発明によれば、ベルト滑りが生じたときに必要な分だけのベルト挟圧力を求めるので、従来に比べて燃費を抑制すると共に、従来のように常時必要以上にベルト挟圧力を上げてベルト損傷が生じるのを防止することができる。
【0045】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、無段階変速機の所定の状態量毎に、前記ベルト挟圧力決定装置で使用されるベルト最大摩擦係数を記憶する記憶手段と、前記ベルト滑り検出装置により検出されたベルト滑りの回数を計数する計数手段と、前記計数手段により計数されたベルト滑りの回数の頻度が閾値を超えたときに、前記無段階変速機の現在の状態量に対応するベルト最大摩擦係数を前記ベルト滑りの回数の頻度に応じて低下するように、前記記憶手段に記憶されている最大摩擦係数を修正する修正手段と、を更に備えている。
【0046】
無段階変速機のベルト摩擦特性は、無段階変速機の例えば減速比や出力側シーブの回転数等の様々な状態量によって異なっている。そこで、記憶手段は、無段階変速機の所定の状態量毎に、ベルト挟圧力決定装置で使用されるベルト最大摩擦係数を予め記憶している。一方、計数手段は、ベルト滑り検出装置により検出されたベルト滑りの回数を計数する。
【0047】
ベルト最大摩擦係数は、ベルトが摩耗するに従って低下する。そして、実際のベルト最大摩擦係数が、記憶手段に記憶されているベルト最大摩擦係数に比べて低下すると、ベルト滑りを検出する頻度が高くなる。
【0048】
そこで、修正手段は、計数手段により計数されたベルト滑りの回数の頻度を求め、滑り回数の頻度が閾値を超えたか否かを判定する。そして、滑り回数の頻度が閾値を超えたときに、無段階変速機の現在の状態量に対応するベルト最大摩擦係数を、ベルト滑りの回数の頻度に応じて低下するように、記憶手段に記憶されている最大摩擦係数を修正する。
【0049】
したがって、請求項2記載の発明によれば、ベルトが摩耗してベルト最大摩擦係数が変化したような場合であっても、常に最新のベルト最大摩擦係数を用いることができるので、正確にベルト挟圧力を決定することができる。
【0050】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好ましい実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各実施の形態では、最初に推定原理を説明し、次に具体的な実施形態について説明する。
【0051】
[第1の実施の形態]
1.推定原理
ベルト滑り率を算出するためには、ベルト速度とシーブ速度が必要となる。シーブ速度は、プライマリシーブ(以下「プライマリ」と省略する。)、セカンダリシーブ(以下「セカンダリ」と省略する。)の回転数及び減速比に基づき算出したベルトの掛かり径から得ることができる。しかし、ベルト速度は検出することが困難である。
【0052】
そこで、CVTトルク伝達モデルを用いてベルト速度を推定する。
【0053】
(1)ベルト速度の推定に必要な信号
第1の実施の形態では、ベルト速度の推定に必要な信号として、プライマリ回転数、セカンダリ回転数、プライマリシーブ圧、セカンダリシーブ圧、エンジントルクの各々の信号を用いる。なお、エンジントルクは、スロットル開度と空気流量とに基づいて推定される。
【0054】
(2)ベルト滑り率の定義
ベルト滑り率は、駆動時、非駆動時に応じて(1)式から(4)式で定義される。なお、ω1、ω2は(5)式及び(6)式の通りである。
【0055】
【数3】
Figure 0004310972
【0056】
(1)式から(6)式において、Slip1はプライマリのベルト−シーブ間の滑り率、Slip2はセカンダリのベルト−シーブ間の滑り率、Vはベルト速度、Ninはプライマリの回転数、Noutはセカンダリの回転数、R1はプライマリのベルト掛かり径、R2はセカンダリのベルト掛かり径である。プライマリ及びセカンダリの掛かり径は、それぞれの回転数に基づいて算出することができる。
【0057】
ここで、駆動時であるか非駆動時であるかについては、エンジントルクTTの符号に基づいて判別する。具体的には(7)式に基づいて判別する。
【0058】
【数4】
Figure 0004310972
【0059】
(1)式から(4)式において得られていない状態量はベルト速度Vである。そこで、CVTトルク伝達モデルを構築し、トルク伝達モデルに基づくオブザーバを用いてベルト速度Vを推定する。
【0060】
(3)CVTトルク伝達モデル
図1は、エンジンからタイヤまでのトルク伝達を表したCVTトルク伝達モデルの構成を示す図である。CVTトルク伝達モデルは、エンジン慣性、プライマリシーブ慣性、セカンダリシーブ慣性、タイヤ慣性で構成され、ベルト−シーブ間の滑りによって発生する摩擦力によってトルク伝達を行っている。
【0061】
(3−1)ベルトμ特性の定義
CVTトルク伝達モデルでは、ベルト摩擦力の表現方法が重要である。ここではベルト−シーブ間の平均摩擦係数(以下「ベルトμ」という。)を(8)式で表現する。
【0062】
【数5】
Figure 0004310972
【0063】
(8)式において、μmaxはベルト−シーブ間の最大摩擦係数、αはベルトμ特性を決定するパラメータである。
【0064】
図2は、μmax=0.12、α=−40としたときのベルトμ特性と、固定シーブ比のCVTを用いて計測したベルトμ特性とを比較した図である。
【0065】
固定シーブ比については、減速比γ=2.0、入力回転数Nin=1000rpmに設定し、入力トルクを0〜40Nmまで数Nm毎に1点ずつ上げていった時の計測結果である。固定シーブ比におけるベルト滑り率は、無負荷時(=0Nm)の出力回転数をベルト速度とみなして算出している。図2より、ベルトμの値は異なるが、滑り率に対して湾曲する特性は似ている。したがって、ベルトμ特性は上述した(8)式によって表すことができる。
【0066】
(3−2)ベルトμ特性の線形化
図2に示すベルトμ特性は、非線形特性を持ち、図1のCVTトルク伝達モデルで取り扱うのが困難である。そこで、ベルトμ特性を現時点の動作点で線形化する。
【0067】
図3は、ベルトμ特性を現時点の動作点(滑り率Slip1)で線形化することを説明する図である。なお、μk1、μp0は、動作点Slip1における接線勾配と切片である。
【0068】
動作点Slip1におけるベルトμを、図3、(1)式及び(2)式を用いて、(9)式及び(10)式で表す。ここでは、駆動時の場合を示す。
【0069】
【数6】
Figure 0004310972
【0070】
なお、μk1はプライマリの接線勾配、μk2はセカンダリの接線勾配、μp0はプライマリの切片、μs0はセカンダリの切片である。
【0071】
CVTトルク伝達モデルは、(9)式及び(10)式のベルトμ特性の線形パラメータμk1、μk2、μp0、μs0を用いて構築する。プライマリ側の接線勾配μk1は、(8)式を滑り率Slip1で偏微分して、(11)式を得る。
【0072】
【数7】
Figure 0004310972
【0073】
また、プライマリ側のμ切片μp0は、(9)式から(12)式を得る。
【0074】
【数8】
Figure 0004310972
【0075】
滑り率Slipは、推定したベルト速度Vを(1)式から(4)式へ代入することによって得ることとする。(9)式及び(10)式は分母に状態量を含み、後述するようにCVTトルク伝達モデルでの取り扱いが複雑になる。そこで、次の(13)式から(16)式を用いて、滑り速度Svに対する接線勾配μkvに変換する。
【0076】
【数9】
Figure 0004310972
【0077】
ここで、iは現時点のサンプリング刻みを表す。
【0078】
以下では、(13)式から(16)式が成り立つこと、すなわち、滑り率に対する接線勾配を滑り速度に対する接線勾配に変換できることについて、駆動時及びプライマリ側について説明する。
【0079】
プライマリ側における動作点近傍でのベルトμの微小変化量Δμpを(17)式で表す。
【0080】
【数10】
Figure 0004310972
【0081】
ΔSlip1は、(1)式を線形近似することで(18)式で表される。
【0082】
【数11】
Figure 0004310972
【0083】
ただし、(18)式の各偏微分項は(19)式から(21)式の通りである。
【0084】
【数12】
Figure 0004310972
【0085】
(19)式から(21)式をぞれぞれ(20)式に代入すると(22)式となる。
【0086】
【数13】
Figure 0004310972
【0087】
ミクロスリップ状態のベルト滑りは1〜2%と考えられるので、V[i]≒ω1[i]・R1[i]が成り立つ。この関係を用いると、(22)式は(23)式となる。
【0088】
【数14】
Figure 0004310972
【0089】
一方、駆動時、プライマリ側の滑り速度Svは、(24)式で表される。
【0090】
【数15】
Figure 0004310972
【0091】
滑り速度の微小変化量ΔSv1は、(24)式を線形近似して(25)式で得られる。
【0092】
【数16】
Figure 0004310972
【0093】
ただし、(25)式の各偏微分項は、(26)式から(28)式の通りである。
【0094】
【数17】
Figure 0004310972
【0095】
(26)式から(28)式をそれぞれ(25)式へ代入すると、(29)式となる。
【0096】
【数18】
Figure 0004310972
【0097】
(29)式のΔSv1を(ω1[i]・R1[i])で除すると(30)式となる。
【0098】
【数19】
Figure 0004310972
【0099】
(30)式と(23)式は同じであり、(17)式から(31)式が成り立つ。
【0100】
【数20】
Figure 0004310972
【0101】
(31)式を変形すると(32)式が得られる。
【0102】
【数21】
Figure 0004310972
【0103】
(32)式は滑り速度に対するベルトμの接線勾配であり、(13)式と一致する。これにより、(13)式が成り立つことが証明された。同様にして、(14)式から(16)式も成り立つことを証明することができる。
【0104】
(3−3)CVTトルク伝達モデルの構築
ベルトμ特性は、μkvを用いると、(9)式及び(10)式と同様に、次の(33)式から(36)式で表される。
【0105】
【数22】
Figure 0004310972
【0106】
(33)式から(36)式の関係を用いると、図1に示すCVTトルク伝達モデルは、(37)式から(42)式によって表される。
【0107】
【数23】
Figure 0004310972
【0108】
なお、(37)式及び(40)式はプライマリ側の関係式、(38)式及び(41)式はセカンダリ側の関係式、(39)式及び(42)式はベルトの関係式である。また、Jeはエンジン慣性、Jpはプライマリ慣性、Jsはセカンダリ慣性、Mはベルト質量、Tiはプライマリ入力トルク、Toはタイヤからの伝達トルク、F1はプライマリのベルト挟圧力、F2はセカンダリのベルト挟圧力である。プライマリ入力トルクTiは、エンジントルクTT、ポンプトルクPumpTRQを用いると、(43)式で表される。
【0109】
【数24】
Figure 0004310972
【0110】
また、(38)式及び(41)式におけるタイヤからの伝達トルクToはタイヤ回転慣性トルクとし、(44)式で算出される。
【0111】
【数25】
Figure 0004310972
【0112】
ただし、Jtはタイヤ慣性、Gearはデフを含むCVT出力段ギア比である。(44)式を(38)式及び(41)式へ代入すると、それぞれ(45)式、(46)式になる。
【0113】
【数26】
Figure 0004310972
【0114】
(37)式、(40)式、(45)式、(46)式において、プライマリ側、セカンダリ側の慣性を、(47)式及び(48)式のようにJ1及びJ2とする。
【0115】
【数27】
Figure 0004310972
【0116】
(37)式から(42)式、(45)式から(48)式に基づき、(49)式及び(50)式の状態方程式が得られる。
【0117】
【数28】
Figure 0004310972
【0118】
ただし、X=[ω1 ω2 V]T、U=[TT μp0・F1 μs0・F2]T、Y=[ω1 ω2]Tであり、Tは転置を表す。
【0119】
u2=μp0・F1、u3=μs0・F2は、次の(51)式及び(52)式に従ってフィルタ処理を行い、滑り率ノイズによる急激な変化を防ぐ。
【0120】
【数29】
Figure 0004310972
【0121】
ただし、Hz5f1、Hz5f2は、ローパスフィルタ係数である。また、(49)式及び(50)式において、A,B,Cの各行列は、(53)式から(55)式の通りである。
【0122】
【数30】
Figure 0004310972
【0123】
ただし、(54)式において、qは符号パラメータであり、駆動時はq=1、非駆動時はq=−1である。
【0124】
(4)オブザーバの設計
オブザーバは、推定誤差を補正する機能がある。そこで、オブザーバの機能を利用して、(49)式、(50)式、(53)式から(55)式に基づくオブザーバを構築する。同次元オブザーバは、(56)式及び(57)式で表される。
【0125】
【数31】
Figure 0004310972
【0126】
なお、^は推定値であることを表す。また、(56)式において、Kは次の(58)式で表されるオブザーバゲインである。
【0127】
【数32】
Figure 0004310972
【0128】
ここで、オブザーバゲインKは、下記のように設定する。(49)式から(56)式を差し引いた誤差方程式は(59)式となる。
【0129】
【数33】
Figure 0004310972
【0130】
なお、(59)式のeは誤差偏差である。オブザーバは、誤差方程式の極を設定することで構築される。(53)式、(55)式、(57)式より、(A−K・C)は次の(60)式となる。
【0131】
【数34】
Figure 0004310972
【0132】
(60)式中、a11〜a33は、(53)式のA行列の各要素を表す。(60)式は3×3の行列であり、オブザーバゲインKによって動かすことのできる極の数は2つである。(60)式が次の(61)式となるようにオブザーバゲインKを設定する。
【0133】
【数35】
Figure 0004310972
【0134】
(61)式のλは希望の極である。(53)式より、a33は負値(マクロスリップ時は近似的に−0)であり、λを安定な極に設定すれば、(59)式の誤差方程式は安定となる。(60)式及び(61)式より、オブザーバゲインKを(62)式のように設定する。
【0135】
【数36】
Figure 0004310972
【0136】
オブザーバの極は、ω1,ω2の定常的な偏差と推定ノイズを考慮して、(63)式のように設定した(重根)。
【0137】
【数37】
Figure 0004310972
【0138】
(56)式は微分方程式であるので、次の(64)式を用いて推定値Xを更新する。
【0139】
【数38】
Figure 0004310972
【0140】
(5)演算時の制限
上述のオブザーバは、推定した滑り率に基づいて現サンプリング時点のモデルを決定している。したがって、推定誤差が大きくなった場合、モデル誤差が拡大する可能性がある。そこで、モデル定数決定の際は制限を設けることで、モデル誤差の拡大を防止する必要がある。
【0141】
(5−1)μ切片の制限
μ切片の制限は、(65)式及び(66)式の通りである。
【0142】
【数39】
Figure 0004310972
【0143】
(5−2)ベルト速度Vの制限
ベルト速度Vの制限は、(67)式から(70)式の通りである。
【0144】
【数40】
Figure 0004310972
【0145】
(5−3)ベルト滑り率の制限
現サンプリング時点のベルトμ及び接線勾配μvkの算出では、(1)式から(4)式のベルト滑り率が必要となる。(1)式から(4)式は、モデル定数決定前に演算しなければならないため、ベルト速度推定値は1サンプリング前のV[i−1]を用いる。演算したベルト滑り率に対して、次の(71)式及び(72)式の制約条件を与える。
【0146】
【数41】
Figure 0004310972
【0147】
(6)ベルト滑り率の算出方法
(63)式で設定したオブザーバの極は比較的大きい値のため、推定値はノイズ成分が大きくなる。そこで、ベルト速度推定値Vに、(73)式のローパスフィルタ処理を施す。
【0148】
【数42】
Figure 0004310972
【0149】
ここで、Hz3f1,Hz3f2は、ローパスフィルタ係数である。シーブ速度(ω1・R1),(ω2・R2)についても、ベルト速度と位相を揃えるため、(73)式と同様のフィルタ処理を施す。
【0150】
ベルト滑り率については、(1)式から(4)式に従って、次の(74)式から(77)式で算出する。
【0151】
【数43】
Figure 0004310972
【0152】
ミクロスリップ状態を検出するためのベルト滑り率は、最終的には次の(78)式及び(79)式で算出する。
【0153】
【数44】
Figure 0004310972
【0154】
つぎに、このような推定原理を用いたベルト挟圧力決定装置の実施形態について説明する。
【0155】
2.具体的な実施形態
図4は、第1の実施の形態に係るベルト挟圧力決定装置の構成を示すブロック図である。
【0156】
ベルト挟圧力決定装置は、エンジンのスロットル開度を検出するスロットルポジションセンサ11、エンジンの吸気圧を検出する吸気圧センサ12と、プライマリシーブ(以下「プライマリ」と省略する。)のパルス信号を生成する第1のパルスピックアップ13と、セカンダリシーブ(以下「セカンダリ」と省略する。)のパルス信号を生成する第2のパルスピックアップ14と、プライマリのシーブ圧を検出する第1の油圧センサ15と、セカンダリのシーブ圧を検出する第2の油圧センサ16と、各センサからの信号に基づいてベルト挟圧力を演算する電子制御ユニット(以下「ECU」という。)20とを備えている。
【0157】
第1のパルスピックアップ13は、プライマリの回転速度に応じた周波数のパルス信号を生成し、生成したパルス信号をECU20に供給する。第2のパルスピックアップ14は、セカンダリの回転速度に応じた周波数のパルス信号を生成し、生成したパルス信号をECU20に供給する。
【0158】
第1の油圧センサ15は、プライマリのシーブ圧Pc1を検出して、検出結果をECU20に供給する。第2の油圧センサ16は、セカンダリのシーブ圧Pc2を検出して、検出結果をECU20に供給する。
【0159】
図5は、ECU20の機能的な構成を示すブロック図である。ECU20は、上述した推定原理を適用したCVTトルク伝達モデルを用いて、ベルト速度、ベルト滑り率を演算して、そしてベルト挟圧力を決定するものである。
【0160】
ECU20は、エンジントルクを推定するエンジントルク推定回路21と、パルス信号に基づいてプライマリの回転数を検出するプライマリ回転数検出回路22と、パルス信号に基づいてセカンダリの回転数を検出するセカンダリ回転数検出回路23と、プライマリ及びセカンダリの掛かり径を演算する掛かり径演算回路24と、タイヤトルクを演算するタイヤトルク演算回路25とを備えている。
【0161】
ECU20は、さらに、CVTトルク伝達モデルを用いてベルト速度を演算するベルト速度演算回路26と、シーブ速度を演算するシーブ速度演算回路27と、ベルト滑り率を演算するベルト滑り率演算回路28と、ベルト挟圧力を決定するベルト挟圧力決定回路40と、ベルト挟圧力決定回路40内の後述するベルトμmaxマップを補正するベルトμmax補正回路50とを備えている。
【0162】
エンジントルク推定回路21は、スロットルポジションセンサ11で検出されたスロットル開度と、吸気圧センサ12で検出された吸気圧とに基づいてエンジントルクTTを推定し、推定したエンジントルクTTをベルト速度演算回路26に供給する。
【0163】
プライマリ回転数検出回路22は、第1のパルスピックアップ13で検出されたパルス信号に基づいてプライマリ回転数Ninを検出し、プライマリ回転数Ninを掛かり径演算回路24、ベルト速度演算回路26及びシーブ速度演算回路27に供給する。
【0164】
セカンダリ回転数検出回路23は、第2のパルスピックアップ14で検出されたパルス信号に基づいてセカンダリ回転数Noutを検出し、セカンダリ回転数Noutを掛かり径演算回路24、タイヤトルク演算回路25、ベルト速度演算回路26及びシーブ速度演算回路27に供給する。
【0165】
掛かり径演算回路24は、プライマリ回転数Nin、セカンダリ回転数Noutを用いて、(80),(81)式に従って、プライマリ及びセカンダリの掛かり径R1,R2を演算する。
【0166】
【数45】
Figure 0004310972
【0167】
ただし、減速比γ=(Nin/Nout)であり、a,b,cは定数である。そして、掛かり径演算回路24は、掛かり径R1,R2をベルト速度演算回路26及びシーブ速度演算回路27に供給する。
【0168】
タイヤトルク演算回路25は、セカンダリ回転数検出回路23で検出されたセカンダリ回転数Noutをセカンダリシーブ回転速度ω2に変換した後、これを微分してセカンダリシーブ回転加速度を演算する。さらに、セカンダリシーブ回転加速度、タイヤ慣性Jt、デフを含むCVT出力段ギア比Gearに基づいて、(82)式に従ってタイヤ回転慣性トルクToを演算する。
【0169】
【数46】
Figure 0004310972
【0170】
そして、タイヤトルク演算回路25は、演算したタイヤ回転慣性トルクToをベルト速度演算回路26に供給する。
【0171】
ベルト速度演算回路26は、(83)式の非線形ベルトμ特性を用いて、以下のようにベルト速度を演算する。
【0172】
【数47】
Figure 0004310972
【0173】
ここで、αはμ特性を決定するパラメータであり、μmaxは後述するベルトμmaxマップ41に記述されている値である。ベルト速度演算回路26は、上記ベルトμ特性を線形化し、さらに各回路で逐次演算されたパラメータを用いてCVTトルク伝達モデルによりベルト速度を演算する。
【0174】
図6は、ベルト速度演算回路26の処理手順を示すフローチャートである。すなわち、ベルト速度演算回路26は、各回路から供給されたパラメータを用いて、ステップST1からステップST6までの処理を実行することでベルト速度Vを推定する。
【0175】
ステップST1では、前回のサンプリング時点のベルト滑り率Slip1を上述した(83)式に代入して、現在のベルトμpを演算する。同様に、前回のサンプリング時点のベルト滑り率Slip2を上述した(83)式に代入して、現在のベルトμsを演算して、ステップST2に移行する。
【0176】
ステップST2では、ベルトμp,μs、前回のサンプリング時点のベルト滑り率Slip1,Slip2を用いて、プライマリ及びセカンダリの接線勾配μkv1,μkv2、切片μp0,μs0を演算する。
【0177】
例えばプライマリ側については、前回のベルト滑り率Slip1を用いて(84)式に従って、接線勾配μk1を演算する。
【0178】
【数48】
Figure 0004310972
【0179】
そして、駆動時の場合には接線勾配μk1を(85)式に代入し、非駆動時の場合には接線勾配μk1を(86)式に代入して、接線勾配μkv1を演算する。
【0180】
【数49】
Figure 0004310972
【0181】
ただし、非駆動時のV[i]は前回のサンプリング時点のベルト速度である。一方、μ切片μp0については、ベルトμpを用いて次の(87)式に従ってμp0を演算する。
【0182】
【数50】
Figure 0004310972
【0183】
そして、セカンダリ側についても同様に、ベルトμs、前回のベルト滑り率Slip2を用いて、接線勾配μkv2及びμ切片μs0を演算して、ステップST3に移行する。なお、切片μp0,μs0を演算する際には、(65)式及び(66)式の制限を適用する。
【0184】
ステップST3では、現在のプライマリシーブ圧Pc1に基づいてプライマリ側のベルト挟圧力F1(=Pc1・プライマリシーブ受圧面積A1)と、現在のセカンダリシーブ圧Pc2に基づいてセカンダリ側のベルト挟圧力F2(=Pc2・セカンダリシーブ受圧面積A2)とを演算して、ステップST4に移行する。
【0185】
ステップST4では、滑り率ノイズによる急激な変化を抑制すべく、u2(=μp0・F1)及びu3(=μs0・F2)に対して、上述した(51)式及び(52)式に従ってフィルタ処理を行い、ステップST5に移行する。
【0186】
ステップST5では、ステップST2及び3で演算された各パラメータ、他の回路から逐次供給されるパラメータ、予め初期値として設定されたパラメータ(例えば、(48)式のセカンダリ側の慣性J2等)を用いて、次の(88)から(94)式に従って、行列Xに含まれるベルト速度Vを同定する。
【0187】
【数51】
Figure 0004310972
【0188】
なお、行列A,B,Cは、上述した(53)から(55)式の通りである。行列Uのパラメータ(μp0・F1)及び(μs0・F2)は、ステップST4でフィルタ処理されたものである。また、ベルト速度Vの演算では、(67)式から(70)式の制限を適用する。そして、ベルト速度Vを同定すると、ステップST6に移行する。
【0189】
ステップST6では、推定されたベルト速度Vに対して、上述した(73)式に従ってローパスフィルタ処理を行って、再びステップST1にリターンする。そして、ベルト速度演算回路26は、このような処理によって得られたベルト速度Vをベルト滑り率演算回路28に供給する。
【0190】
以上のように、ベルト速度演算回路26は、上述したCVTトルク伝達モデルを用いてベルト速度Vを演算する。ここで、CVTトルク伝達モデルは、エンジン慣性、プライマリ慣性、セカンダリ慣性、タイヤ慣性で構成され、CVTベルトと各シーブ間の滑りによって発生する非線形ベルトμ特性を、ある動作点における線形ベルトμ特性で表したもの用いて構築されたモデルである。
【0191】
したがって、ベルト速度演算回路26は、ベルトμ特性が線形領域だけでなく非線形領域にある場合でも、精度よくベルト速度を演算することができる。また、タイヤからの伝達トルクをタイヤ回転慣性モデルで表すことにより、タイヤ外乱があった場合でもその影響を考慮して、正確にベルト速度を演算することができる。
【0192】
シーブ速度演算回路27は、プライマリ回転数検出回路22で検出されたプライマリ回転数Ninと、掛かり径演算回路24で演算されたプライマリの掛かり径R1とに基づいて、プライマリシーブ速度(ω1・R1)を演算する。同様に、セカンダリ回転数検出回路23で検出されたセカンダリ回転数Noutと、掛かり径演算回路24で演算されたセカンダリの掛かり径R2とに基づいて、セカンダリのシーブ速度(ω2・R2)を演算する。
【0193】
さらに、シーブ速度演算回路27は、ベルト速度Vと位相を揃えるために、シーブ速度(ω1・R1),(ω2・R2)の各々に対して、(73)式に従ってローパスフィルタ処理を行う。そして、ローパスフィルタ処理済みのシーブ速度(ω1・R1),(ω2・R2)をベルト滑り率演算回路28に供給する。
【0194】
ベルト滑り率演算回路28は、ベルト速度V、プライマリシーブ速度(ω1・R1)及びセカンダリシーブ速度(ω2・R2)に基づいて、ベルト滑り率を演算する。
【0195】
具体的に駆動時では、(74)式及び(75)式に従ってプライマリ側のベルト滑り率Slip1を演算する。非駆動時では、(76)式及び(77)式に従ってセカンダリ側のベルト滑り率Slip2を演算する。そして、ミクロスリップ状態を検出するために、(78)式及び(79)式に従ってフィルタ処理を行い、フィルタ処理済みのベルト滑り率Slip1,Slip2をベルト挟圧力決定回路40に供給する。
【0196】
(ベルト挟圧力決定回路40)
ベルト挟圧力決定回路40は、CVT状態量毎にベルトμmaxを記憶しているベルトμmaxマップ41と、ベルトμmax及びベルト滑り率Slipを用いてベルト挟圧力を演算する挟圧力演算回路42とを備えている。
【0197】
ベルトμmaxマップ41は、CVT状態量(例えば、減速比γやセカンダリ回転数)毎に、セカンダリの最適なシーブ圧を演算するためのベルトμmaxを記憶している。そして、ベルトμmaxマップ41は、現在のCVT状態量に対応するベルトμmaxを読み出して、挟圧力演算回路42に供給する。
【0198】
挟圧力演算回路42は、ベルト滑り率演算回路28で演算されたセカンダリ側のベルト滑り率Slip2と所定の閾値とを比較し、ベルト滑り率Slip2が所定の閾値を超えたときにベルト滑りを検出する。
【0199】
そして、挟圧力演算回路42は、ベルト滑りを検出したときに、ベルト滑り率演算回路28から供給されたベルト滑り率Slip2と、ベルトμmaxマップ41から読み出されたベルトμmaxを用いて、次の(95)式から(97)式に従ってセカンダリ側の最適なシーブ圧Pc2を演算する。
【0200】
【数52】
Figure 0004310972
【0201】
ここで、Dはベルト滑り率偏差に対する油圧補正係数、Slip_dはベルトの最大摩擦力μmaxを発生させるための目標ベルト滑り率(2%程度)、11°はシーブ面傾角である。また、シーブ圧Pc20は、必要最低限の値である。つまり、(95)式は、シーブ圧Pc20に[D(Slip2−Slip_d)]を加算することで、必要最低限の値に若干余裕を持たせたシーブ圧Pc2を求めることを示している。
【0202】
さらに、挟圧力演算回路42は、(95)式により演算されたシーブ圧Pc2とセカンダリシーブ受圧面積A2とに基づいて、セカンダリの最適なベルト挟圧力F2(=Pc2・A2)を演算する。
【0203】
(ベルトμmax補正回路50)
図7は、ベルトμmax補正回路50の機能的な構成を示すブロック図である。ベルトμmax補正回路50は、CVTベルトの経時劣化によって実際のベルトμmaxが低下した場合に、低下量に応じてベルトμmaxマップ41を補正するものである。
【0204】
ベルトμmax補正回路50は、ベルト滑りを検出するベルト滑り検出回路51と、ベルト滑りの有無に応じてタイマON信号又はタイマOFF信号を発生するタイマON−OFF回路52と、時間カウントを行うタイマ回路53と、滑り回数をカウントする滑り回数カウンタ回路54と、滑り回数カウント値と所定の閾値とを比較するしきい値比較回路55と、ベルトμmaxの低下量を決定するμmax低下量決定回路56と、ベルトμmaxマップ41を修正するベルトμmaxマップ修正回路57とを備えている。
【0205】
ベルト滑り検出回路51は、ベルト滑り率演算回路28から供給されたセカンダリのベルト滑り率Slip2と所定の閾値とを比較する。そして、ベルト滑り率Slip2が所定の閾値を超えたときにベルト滑りを検出し、検出結果をタイマON−OFF回路52及びタイマ回路53に供給する。
【0206】
タイマON−OFF回路52は、ベルト滑り検出回路51によってベルト滑りが検出されていないときはタイマOFF信号を生成し、ベルト滑りが検出されているときにタイマON信号を生成し、生成した信号をタイマ回路53及び滑り回数カウンタ回路54に供給する。
【0207】
タイマ回路53は、タイマON−OFF回路52からタイマON信号が供給されると時間カウントを開始し、時間カウント値をタイマON−OFF回路52及びμmax低下量決定回路56に供給する。なお、タイマOFF信号が供給されると時間カウントを停止する。
【0208】
ところで、タイマON−OFF回路52は、タイマ回路53でカウントされた時間カウント値が所定の閾値以下の場合では、タイマON信号を発生し続けてタイマ回路53を動作させる。一方、時間カウント値が所定の閾値を超えた場合では、タイマOFF信号してタイマ回路53を停止(=カウント値ゼロ)させる。
【0209】
滑り回数カウンタ回路54は、タイマON−OFF回路52からタイマON信号が供給されている間、ベルト滑り検出回路51で検出された滑り回数をカウントアップして、滑り回数カウント値をしきい値比較回路55に供給する。なお、滑り回数カウンタ回路54は、タイマON−OFF回路52からタイマOFF信号が供給されると、滑り回数カウント値をゼロにする。
【0210】
しきい値比較回路55は、滑り回数カウンタ回路54でカウントされた滑り回数カウント値と所定の閾値とを比較する。滑り回数カウント値が所定の閾値を超えた場合、当該滑り回数カウント値をμmax低下量決定回路56に供給する。
【0211】
μmax低下量決定回路56は、タイマ回路53でカウントされた時間カウント値と、しきい値比較回路55から供給された滑り回数カウント値とに基づいて、滑り頻度(=滑り回数カウント値/時間カウント値)を演算する。そして、滑り頻度に基づいてベルトμmax低下量を演算する。ここで、ベルトμmax低下量は、滑り頻度が大きくなるに従って大きくなる。そして、μmax低下量決定回路56は、演算したベルトμmax低下量をベルトμmaxマップ修正回路57に供給する。
【0212】
ベルトμmaxマップ修正回路57は、ベルトμmaxマップ41に記述されている現在のCVT状態量に対応するベルトμmaxを修正することを決定する。そして、μmax低下量決定回路56で決定されたベルトμmax低下量に従って、ベルトμmaxマップ41のベルトμmaxの値を下げる修正を行う。
【0213】
このように、ベルトμmax補正回路50は、ベルト滑りの頻度が高くなった場合には、CVTベルトが摩耗してベルトμmaxが低下したと判定して、ベルト滑りの頻度の大きさに応じてベルトμmaxを低下させる。
【0214】
この結果、ベルト挟圧力決定回路40は、常に最新のベルトμmaxを用いることができるので、CVTベルトが摩耗してベルトμmaxが変化したような場合であっても、正確にベルト挟圧力を決定することができる。
【0215】
図8は、低μ路でのアクセル操作によりタイヤ空転後、高μ路に進入してタイヤ回転慣性によりベルト滑りを起こした場合のミクロスリップ推定結果を示す図である。(A)は減速比γ及びスロットル開度、(B)は入力推定トルクTi及びドライブシャフトトルク、(C)はプライマリシーブ圧及びセカンダリシーブ圧、(D)はプライマリ回転数、(E)はセカンダリ回転数、(F)はセカンダリシーブ速度、(G)はプライマリのベルト滑り率の経時変化を示す図である。
【0216】
同図(G)に示すように、ベルト滑り率の推定値は1〜2%程度になり、妥当な推定結果を得ることができた。また、低μ路でのアクセル操作後、高μ路へ進入した時点でタイヤ慣性トルクによりベルト滑りを起こしたときは、ベルト滑り率の大きさが2%を超え、ベルト滑りを検出することができた。
【0217】
図9は、車速100km/hの定常走行時のミクロスリップ推定結果を示す図である。(A)から(G)は図8と同様である。図9(G)に示すように、ベルト滑り率の推定値は1〜2%程度になり、妥当な推定結果を得ることができた。
【0218】
以上のように、第1の実施の形態に係るベルト挟圧力決定装置は、エンジン慣性、プライマリ慣性、セカンダリ慣性、タイヤ慣性で構成され、CVTベルトと各シーブ間の滑りによって発生する非線形ベルトμ特性を介して構築されたCVTトルク伝達モデルを用いることで、ベルトμ特性が線形領域だけでなく非線形領域にある場合でも、ベルト速度やベルト滑り率を精度よく演算することができる。また、タイヤからの伝達トルクをタイヤ回転慣性モデルで表すことにより、タイヤ外乱があった場合でもその影響を考慮して、ベルト速度やベルト滑り率を正確に演算することができる。
【0219】
そして、ベルト挟圧力決定装置は、このようなベルト滑り率を用いてベルト滑りを検出するので、タイヤ外乱の影響によってベルト滑りが起きたときでも、正確に検出することができる。さらに、ベルト滑りが生じていないときはベルト挟圧力を上げる必要がなく、ベルト滑りを検出したときに必要な分だけベルト挟圧力(シーブ圧)を上げるので、従来に比べて燃費を抑制すると共に、従来のように常時必要以上にベルト挟圧力を上げてベルト損傷が生じるのを防止することができる。
【0220】
[第2の実施の形態]
1.推定原理
(1)ベルト速度の推定に必要な信号
第2の実施の形態では、ベルト速度の推定に必要な信号として、プライマリ回転数、セカンダリ回転数、エンジントルクの各々の信号を用いる。
【0221】
(2)CVTトルク伝達モデル
図10は、ベルト式CVTをモデル化した第2の実施の形態に係るCVTトルク伝達モデルを示す図である。上記CVTトルク伝達モデルは、ベルト摩擦力によってプライマリからセカンダリへエンジントルクを伝達し、ギアを介してタイヤを駆動する様子を表すモデルである。このCVTトルク伝達モデルにおいては、ベルト摩擦力は、線形領域ではベルト滑り速度に比例するので、ばね定数k1,k2を持つばね力を用いて表現できる。
【0222】
図11は、ベルト滑り速度(=ベルト速度−シーブ速度)に対するベルト摩擦力特性の実験結果を示す図である。図11によると、ベルト摩擦力は、ベルト滑り域に達するまでほぼ線形である。第2の実施の形態では、ベルト滑り域のベルト摩擦力は扱わないので、ベルト摩擦力は、ばね定数kとベルト滑り速度の積で表現できる。
【0223】
図10に示すCVTトルク伝達モデルに対し、下記の(101)から(104)式までの運動方程式が成り立つ。
【0224】
【数53】
Figure 0004310972
【0225】
(101)式はプライマリ、(102)式はセカンダリ、(103)式はベルト、(104)式はタイヤ慣性の運動方程式である。ただし、各記号は次の通りである。
【0226】
J1,J2:プライマリ慣性,セカンダリ慣性[kg・m2
MB:ベルト質量[kg]
VB:ベルト速度[m/s]
ω1,ω2:プライマリ回転速度、セカンダリ回転速度[rad/s]
R1:プライマリのベルト掛かり径[m]
R2:プライマリのベルト掛かり径[m]
k1:プライマリ側の摩擦力勾配[N・s/rad]
k2:セカンダリ側の摩擦力勾配[N・s/rad]
F1:プライマリ側のベルト摩擦力切片[N]
F2:セカンダリ側のベルト摩擦力切片[N]
TT:エンジントルク[Nm]
Tout:タイヤ外乱トルク[Nm]
Jt:タイヤ慣性[kg・m2
Gear:デフ等のギア比
ωt:タイヤ回転速度(=ω1/Gear)[rad/s]
R1,R2は、減速比γ(=ω1/ω2)を用いて、次の(105)式及び(106)式の近似式により算出する。
【0227】
【数54】
Figure 0004310972
【0228】
ただし、a,b,cは定数である。
【0229】
(3)ベルト加速度の推定
(101)式から(104)式までを微分してまとめると、(107)から(109)式が得られる。
【0230】
【数55】
Figure 0004310972
【0231】
図11より、摩擦力切片は、ベルト滑り近傍までほぼ固定値として扱えるため、微分によって消去される。また、微小時間内の掛かり径の変化は、CVTの応答が数Hz程度であることから無視できる。
【0232】
(107)から(109)式より、次の(110)から(114)式の状態方程式が得られる。
【0233】
【数56】
Figure 0004310972
【0234】
ただし、行列A,B,Cは次の(115)から(117)式の通りである。
【0235】
【数57】
Figure 0004310972
【0236】
(4)オブザーバの設計
(110)から(117)式に基づきベルト加速度を推定するオブザーバを設計する。同次元オブザーバは、次の(118)から(121)式で表すことができる。ただし、式中の“^”は推定値であることを表す。
【0237】
【数58】
Figure 0004310972
【0238】
(118)式におけるKがオブザーバゲインであり、ベルト加速度の推定精度を左右する。オブザーバゲインKは、(110)式から(118)式を差し引いた誤差方程式の極が希望の極となるように設定する。誤差方程式は(122)式となる。
【0239】
【数59】
Figure 0004310972
【0240】
[A−K・C]を希望の極に設定する最も簡単な方法は、[A−K・C]を対角行列にすることである。オブザーバゲインKによって動かせる要素は第1列及び第2列であり、第1列及び第2列が対角となるようにオブザーバゲインKを決定する。ここで、見やすくするために、行列Aを(123)式で記述し、オブザーバゲインKを(124)式で記述する。
【0241】
【数60】
Figure 0004310972
【0242】
(117),(123),(124)式より、[A−K・C]は(125)から(131)式となる。
【0243】
【数61】
Figure 0004310972
【0244】
ただし、(126),(129)式におけるλは希望の極である。(125)から(131)式によると、オブザーバゲインKは次の(132)式となる。
【0245】
【数62】
Figure 0004310972
【0246】
(125),(132)式より、(125)式の[A−K・C]は(133)式となる。
【0247】
【数63】
Figure 0004310972
【0248】
(133)式のλは負の値となるように設計する。また、a33は、(115)式から明らかなように、必ず負の値である。以上の結果から、(115)から(121),(132)式を用いてベルト加速度を推定することができる。
【0249】
(5)ベルト速度の推定
(118)式をTustine変換により離散化し、離散化したモデルからベルト加速度が得られる。ベルト速度は、ベルト加速度の積分により、(134)式のように算出される。
【0250】
【数64】
Figure 0004310972
【0251】
ただし、サンプリングの刻みをiで表し、iは現在のサンプリング時点を表す。
【0252】
ベルト滑り率Slipを(135)式に従って算出する。
【0253】
【数65】
Figure 0004310972
【0254】
上述したように、オブザーバの基本である運動方程式は、微小時間内でのベルト摩擦力切片及び掛かり径の時間的変化を無視している。ただし、実際にはこれらの値はゼロではない。また、掛かり径は近似式で算出するために誤差が生じ、(134)式は定常的な積分誤差が生じる可能性がある。
【0255】
そこで、(135)式で演算される滑り率に対し、次の(136)式によるハイパスフィルタ処理を施し、定常的な滑り率誤差を除去する。つまり、(136)式は、ベルト滑りが生じて過渡的に滑り率誤差が大きくなった場合に値を持つ。
【0256】
【数66】
Figure 0004310972
【0257】
ただし、AH,BHはハイパスフィルタ係数である。
【0258】
(6)トラクションタイプのCVTの場合
ここまでベルト式CVTを例に挙げて説明したが、トラクションタイプのCVTについても同様に適用することができる。トラクションタイプの場合、(101)から(103)式の代わりに、次の(137)から(140)式の運動方程式を用いればよい。
【0259】
【数67】
Figure 0004310972
【0260】
ただし、各記号は次の通りである。
【0261】
J1:プライマリパワーローラ慣性[kg・m2
J2:セカンダリパワーローラ慣性[kg・m2
ω1,ω2:プライマリ回転速度、セカンダリ回転速度[rad/s]
VB:ディスク回転速度[m/s]
MB:ベルト質量[kg]
R1:プライマリのディスク掛かり径[m]
R2:プライマリのディスク掛かり径[m]
k1:プライマリ側の摩擦力勾配[N・s/rad]
k2:セカンダリ側の摩擦力勾配[N・s/rad]
F1:プライマリ側のディスク摩擦力切片[N]
F2:セカンダリ側のディスク摩擦力切片[N]
TT:エンジントルク[Nm]
Tout:タイヤ外乱トルク[Nm]
Jt:タイヤ慣性[kg・m2
Gear:デフ等のギア比
ωt:タイヤ回転速度(=ω1/Gear)[rad/s]
以上より、常に最適なベルト挟圧力でCVTを運転することが可能となる。つぎに、このような推定原理を用いたベルト挟圧力決定装置の実施形態について説明する。
【0262】
2.具体的な実施形態
図12は、第2の実施の形態に係るベルト挟圧力決定装置の構成を示すブロック図である。なお、第1の実施の形態と同一の回路には同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0263】
ベルト挟圧力決定装置は、エンジンのスロットル開度を検出するスロットルポジションセンサ11、エンジンの吸気圧を検出する吸気圧センサ12と、プライマリのパルス信号を生成する第1のパルスピックアップ13と、セカンダリのパルス信号を生成する第2のパルスピックアップ14と、各センサからの信号に基づいてベルト挟圧力を演算するECU20とを備えている。
【0264】
図13は、ECU20の機能的な構成を示すブロック図である。
【0265】
ECU20は、エンジントルクを推定するエンジントルク推定回路21と、パルス信号に基づいてプライマリの回転数を検出するプライマリ回転数検出回路22と、パルス信号に基づいてセカンダリの回転数を検出するセカンダリ回転数検出回路23と、プライマリ及びセカンダリの掛かり径を演算する掛かり径演算回路24と、タイヤトルクを演算するタイヤトルク演算回路25とを備えている。
【0266】
ECU20は、さらに、ベルト加速度を演算するベルト加速度演算回路29と、ベルト加速度を積分してベルト速度を演算するベルト速度演算回路30と、シーブ速度を演算するシーブ速度演算回路27と、ベルト滑り率を演算するベルト滑り率演算回路28と、ベルト挟圧力を決定するベルト挟圧力決定回路40と、ベルト挟圧力決定回路30内の後述するベルトμmaxマップを補正するベルトμmax補正回路50とを備えている。
【0267】
エンジントルク推定回路21は、推定したエンジントルクTTをベルト加速度演算回路29に供給する。
【0268】
プライマリ回転数検出回路22は、プライマリ回転数Ninを検出し、掛かり径演算回路24、シーブ速度演算回路27及びベルト加速度演算回路29に供給する。セカンダリ回転数検出回路23は、セカンダリ回転数Noutを検出し、掛かり径演算回路24、タイヤトルク演算回路25、シーブ速度演算回路27及びベルト加速度演算回路29に供給する。
【0269】
掛かり径演算回路24は、プライマリ及びセカンダリの掛かり径R1,R2を演算し、シーブ速度演算回路27及びベルト加速度演算回路29に供給する。
【0270】
タイヤトルク演算回路25は、セカンダリ回転数検出回路23で検出されたセカンダリ回転数Noutからセカンダリシーブ回転速度ω2を演算した後、これを微分する。そして、セカンダリシーブ回転加速度、タイヤ慣性Jt、デフを含むCVT出力段ギア比Gearに基づいて、(141)式に従ってタイヤ外乱トルクToutを演算する。
【0271】
【数68】
Figure 0004310972
【0272】
そして、タイヤトルク演算回路25は、演算したタイヤ外乱トルクToutをベルト加速度演算回路29に供給する。
【0273】
ベルト加速度演算回路29は、プライマリ回転数Ninから回転速度ω1を、セカンダリ回転数Noutから回転速度ω2を演算し、これらの微分値であるプライマリ及びセカンダリの回転加速度を演算する。
【0274】
そして、上記プライマリ及びセカンダリの回転加速度、プライマリ及びセカンダリの掛かり径R1,R2、タイヤ外乱トルクTout、さらに予め設定されたパラメータである摩擦力勾配k1,k2、ベルト質量MB、プライマリ慣性J1、セカンダリ慣性J2を用いて、次の(142)から(150)式に従って、行列Xに含まれるベルト加速度を同定する。
【0275】
【数69】
Figure 0004310972
【0276】
ベルト速度演算回路30は、ベルト加速度演算回路29で同定されたベルト加速度について、上述した(134)式に従って積分してベルト速度VBを求め、ベルト滑り率演算回路28に供給する。
【0277】
ベルト滑り率演算回路28は、ベルト速度VBと、シーブ速度演算回路27から供給されたプライマリシーブ速度(ω1・R1)とに基づいて、上述した(135)式に従ってプライマリ側のベルト滑り率Slip1を演算する。同様に、ベルト速度VBとセカンダリシーブ速度(ω2・R2)とに基づいて、セカンダリ側のベルト滑り率Slip2を演算する。
【0278】
さらに、ベルト滑り率演算回路28は、演算したベルト滑り率Slip1,Slip2に対して、上述した(136)式に従ってハイパスフィルタ処理を施し、処理済みのベルト滑り率Slip_Hをベルト挟圧力決定回路40に供給する。なお、ベルト滑り率演算回路28は、第1の実施の形態と同様にベルト滑り率Slip1,Slip2を演算してもよい。
【0279】
ベルト挟圧力決定回路40は、第1の実施の形態と同様に構成されており、CVT状態量毎にベルトμmaxを記憶しているベルトμmaxマップ41と、ベルト挟圧力を演算する挟圧力演算回路42とを備えている。
【0280】
挟圧力演算回路42は、ベルト滑りを検出したときに、ベルト滑り率演算回路28から供給されたベルト滑り率Slip2と、ベルトμmaxマップ41から読み出されたベルトμmaxとを用いて、上述した(95)式から(97)式に従ってセカンダリ側の最適なシーブ圧Pc2を演算する。さらに、シーブ圧Pc2とセカンダリシーブ受圧面積A2とに基づいて、セカンダリの最適なベルト挟圧力F2(=Pc2・A2)を演算する。
【0281】
ベルトμmax補正回路50は、第1の実施の形態と同様に図7に示すように構成されている。したがって、ベルトμmax補正回路50は、CVTベルトの経時劣化によって実際のベルトμmaxが低下した場合に、低下量に応じてベルトμmaxマップ41を補正することができる。
【0282】
図14は、実車データを用いたベルト滑り率Slip_Hの推定結果を示す図である。(A)はプライマリ回転数及びセカンダリ回転数、(B)はスロットル開度、エンジントルク及び前後加速度、(C)はドライブシャフトトルク、(D)はシーブ速度及びベルト速度推定値、(E)はベルト滑り率推定値のそれぞれの経時変化を示す図である。
【0283】
ここでは、低μ路でのアクセルによりタイヤが空転し、空転状態で高μ路に進入したためにベルト滑りを起こした。同図(C)及び(E)によると、インパルス的なドライブシャフトトルクの増加時にベルト滑りが生じていると考えられ、その時点に対応して滑り率が大きくなった。つまり、ベルト滑りが起きたときに、ベルト滑りを正確に検出することができた。
【0284】
以上のように、第2の実施の形態に係るベルト挟圧力決定装置は、エンジン慣性、プライマリ慣性、セカンダリ慣性、タイヤ慣性で構成され、かつCVTベルトと各シーブ間の滑りによって発生する線形領域のベルトμ特性を介して構築されたCVTトルク伝達モデルを用いることで、ベルト速度やベルト滑り率を精度よく演算することができる。特に、線形領域のベルトμ特性をばね定数とベルト滑り速度の積で表すことで、演算負荷を低減することができる。
【0285】
また、タイヤからの伝達トルクをタイヤ回転慣性モデルで表すことにより、タイヤ外乱があった場合でもその影響を考慮して、ベルト速度やベルト滑り率を正確に演算することができる。
【0286】
したがって、第2の実施の形態に係るベルト挟圧力決定装置は、第1の実施の形態と同様に、タイヤ外乱の影響によってベルト滑りが起きたときでも、正確にベルト滑りを検出し、さらに、必要な分だけベルト挟圧力を上げることができるので、必要以上にベルト挟圧力を上げてベルトに損傷が生じるのを防止することができる。
【0287】
[第3の実施の形態]
1.推定原理
第3の実施の形態では、プライマリ、セカンダリのトルク伝達をばね力による伝達とみなし、未知はね定数を持つモデルと回転数およびエンジントルクに基づきばね定数を同定し、同定したばね定数の低下時にベルト滑り検出(以下「マクロスリップ検出」という。)する方法を用いる。以下に、ばね定数の同定に必要な信号、トルク伝達モデル、ばね定数同定方法、マクロスリップ検出方法について述べる。
【0288】
(1)ばね定数の同定に必要な信号
第3の実施の形態では、ばね定数の同定に必要な信号として、第2の実施の形態と同様にプライマリ回転数、セカンダリ回転数、エンジントルクの各々の信号を用いる。
【0289】
(2)トルク伝達モデル
図15は、第3の実施の形態に係るCVTトルク伝達モデルを示す図である。
【0290】
CVTトルク伝達モデルは、エンジン慣性Je、プライマリ慣性Jp、セカンダリ慣性Js、タイヤ慣性Jtで構成されている。プライマリ、セカンダリ間のトルク伝達は、両者間の掛かり径位置でのねじれ角に応じたばね力と掛かり径で表現する。そして、CVTトルク伝達モデルでは、プライマリ−セカンダリ間のばね定数kが所定値より小さくなったときにベルト滑りが生じたとみなし、マクロスリップを検出する。
【0291】
R1,R2はプライマリ、セカンダリの掛かり径であり、次の(201)式から(203)式の近似式で算出される。
【0292】
【数70】
Figure 0004310972
【0293】
(201)式のa,b,cは係数、(202)式のγは減速比、(203)式のNinはプライマリ回転数[rpm]、Noutはセカンダリ回転数[rpm]である。
【0294】
図15のCVTトルク伝達モデルについて、次の(204)式から(207)式が成り立つ。
【0295】
【数71】
Figure 0004310972
【0296】
kは、ばね定数で未知パラメータであり後述の方法で同定する。Tinはプライマリシーブヘの入力トルク、Toutはセカンダリシーブでの負荷トルク、θ1はプライマリシーブにおける回転角、θ2はセカンダリシーブにおける回転角である。(206)式のPumpTRQはCVT内のポンプを駆動するのに必要なポンプ駆動トルク、(207)式のTtはタイヤからの外乱トルクである。なお、外乱トルクTtは、タイヤ−路面間の摩擦力の影響を受けるが、路面摩擦係数は検出できない物理量である。そこで、タイヤ−路面間の摩擦力を無視し、外乱トルクTtは(208)式のようにタイヤ回転慣性トルクで表わされるとする。
【0297】
【数72】
Figure 0004310972
【0298】
ただし、ωtはタイヤ回転速度[rad/s]、ω2はセカンダリシーブ回転速度[rad/s]である。(207)式及び(208)式を用いると、(205)式は次の(209)式のように表わされる。
【0299】
【数73】
Figure 0004310972
【0300】
(204),(209)式は、プライマリ、セカンダリのシーブ回転角θ1,θ2が必要である。θ1,θ2は計測不能な信号であるので、(204),(209)式を微分すると、(210),(211)式を得る。
【0301】
【数74】
Figure 0004310972
【0302】
ただし、J1=Je+Jp,J2=Js+Jt/(Gear)2である。ばね定数kにはプライマリ、セカンダリ間のトルク伝達を表わす係数、すなわち、ベルト−シーブ間の摩擦力特性を表わす係数であり、微分値
【0303】
【数75】
Figure 0004310972
【0304】
が存在する。しかし、ばね定数kの微分値を考慮すると入力変数が多くなり、ばね定数の同定精度が低下するため、上記積分値は省略する。
【0305】
(3)ばね定数の同定方法
(210),(211)式に基づき、最小自乗法を用いてばね定数kをオンライン同定する。(210),(211)式について、サンプリング刻みiを用いて次の(212),(213)式のように表わす。なお、(212),(213)式では、(214)式から(217)式を満たしている。
【0306】
【数76】
Figure 0004310972
【0307】
なお、ω1はプライマリシーブ回転速度[rad/s]である。(212),(213)式の右辺では、プライマリ、セカンダリの各々について、相手側の回転角、回転速度および掛かり径を1サンプリング刻みづつずらせた。刻みをずらせた理由は、第1に、同じサンプリング時点の回転速度、掛かり径を用いると(202),(203)式から(212),(213)式右辺第1項の値が0となってしまうためである。第2に、プライマリからセカンダリヘのトルク伝達はブロック圧縮によって生じ、若干のロスタイムがあると考えられるためである。
【0308】
最小自乗法では、計測可能な入力信号ξおよび出力信号yの間に次の線形式が成り立つとしてパラメータτを同定する。
【0309】
【数77】
Figure 0004310972
【0310】
(218)式中、Tは転置を表わす。プライマリ側のy、ξ、およびτは、(212)式に基づいて、次の(219)から(221)式で表される。
【0311】
【数78】
Figure 0004310972
【0312】
同様にセカンダリ側のy、ξ、τは、(213)式を変形すると、次の(222)式から(224)式で表される。
【0313】
【数79】
Figure 0004310972
【0314】
(219),(220),(222),(223)式のy,ξを用いてτをオンライン同定する。最小自乗同定法として、次の(225),(226)式の重み付け同定法を用いる。
【0315】
【数80】
Figure 0004310972
【0316】
Pは3×3の対角行列であり、パラメータ同定の収束を早くするため、各要素は大きな値に設定する。λは重みである。
【0317】
上述では、1つの出力信号に基づいて3つのパラメータを同定しなければならない。また、エンジントルク信号は、誤差を持つ信号である。なお、後述では、同定の確からしさについて、プライマリ、セカンダリ側の同定値の比較して検証する。
【0318】
3つのパラメータ同定は、演算量が多く実用的ではない。掛かり径の時間的変化項
【0319】
【数81】
Figure 0004310972
【0320】
を無視すると、(212),(213)式の第3行目が省略できる。その結果、行列P、ベクトルξ、τは全てスカラとなり、演算量の低減を図ることができる。後述では、3つのパラメータを同定した場合と1つのパラメータを同定した場合とを比較し、最終的には、1つのパラメータを同定した場合の結果を示す。その場合、プライマリ側の(219)〜(221)式は、次の(227)〜(229)式となる。
【0321】
【数82】
Figure 0004310972
【0322】
また、セカンダリ側の(222)〜(224)式は、次の(230)〜(232)式となる。
【0323】
【数83】
Figure 0004310972
【0324】
(4)マクロスリップ検出方法
マクロスリップのような大きなベルト滑りを起した場合、プライマリ回転数が急激に上昇し、CVTは不安定状態となる。一方、(210),(211)式においてkが負の値を持つ場合、不安定系となる。したがって、(229),(232)式で同定したパラメータτが負となった場合、マクロスリップ検出できる。
【0325】
しかし、プライマリ側は誤差を含むエンジントルクを用いている問題があり、セカンダリ側はタイヤからの伝達トルクにタイヤ−路面間の摩擦力が考慮されていない問題がある。また、定常走行時、(219)〜(224)式の各値が先全に0となった場合、ばね定数同定値の信頼性が低下する。路面の凸凹によるランダムな振動を持つセカンダリ回転速度と比べ、プライマリ側は特に信頼性の低下が大きくなる。
【0326】
そこで、下記の(223),(224)式の条件を満足した場合に、マクロスリップを検出する。
【0327】
プライマリ回転数500rpm以上において、
1)kp<0成立後、1秒以内にks<0成立時 …(233)
2)ks<0成立後、1秒以内にkP<0成立時 …(234)
(233),(234)式において、kp,ksは各々プライマリ、セカンダリ側のばね定数kの同定値である。1秒間の余裕を持たせた理由は、エンジントルクの推定誤差等の影響によりマクロスリップ検出に位相ずれを起す可能性があるためである。
【0328】
つぎに、上述のような原理を用いたベルト挟圧力決定装置について説明する。
【0329】
2.具体的な実施形態
第3の実施の形態に係るベルト挟圧力決定装置は、図12と同様に構成されている。なお、以下の説明では、上述した実施の形態と同一の回路には同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0330】
図16は、第3の実施の形態に係るECU20の機能的な構成を示すブロック図である。
【0331】
ECU20は、第1の実施の形態と同様に、エンジントルク推定回路21と、プライマリ回転数検出回路22と、セカンダリ回転数検出回路23と、掛かり径演算回路24と、タイヤトルク演算回路25とを備えている。
【0332】
ECU20は、さらに、ばね定数を同定するばね定数同定回路31と、ばね定数に基づいてベルト滑りを検出するベルト滑り検出回路32と、ベルト挟圧力を決定するベルト挟圧力決定回路40と、ベルト挟圧力決定回路40内の後述するベルトμmaxマップを補正するベルトμmax補正回路50とを備えている。
【0333】
エンジントルク推定回路21は、推定したエンジントルクTTをばね定数同定回路31に供給する。
【0334】
プライマリ回転数検出回路22は、プライマリ回転数Ninを検出して、掛かり径演算回路24、シーブ速度演算回路27及びばね定数同定回路31に供給する。セカンダリ回転数検出回路23は、セカンダリ回転数Noutを検出し、掛かり径演算回路24、タイヤトルク演算回路25、シーブ速度演算回路27及びばね定数同定回路31に供給する。
【0335】
掛かり径演算回路24は、プライマリ及びセカンダリの掛かり径R1,R2を演算し、シーブ速度演算回路27及びばね定数同定回路31に供給する。
【0336】
タイヤトルク演算回路25は、セカンダリ回転数検出回路23から供給されるセカンダリ回転数Noutを用いて、上述した(208)式に従って外乱トルクTtを演算し、ばね定数同定回路31に供給する。
【0337】
ばね定数同定回路31は、エンジントルクを用いて、プライマリシーブへの入力トルクTin(=TT−PumpTQR)を演算する。さらに、プライマリ回転数Ninから回転速度ω1を、セカンダリ回転数Noutから回転速度ω2を演算する。
【0338】
そして、上記各パラメータ、プライマリ及びセカンダリの掛かり径R1,R2、予め設定されたパラメータであるプライマリ側の慣性J1、セカンダリ側の慣性J2を用いて、次の(235)から(240)式に従って、ばね定数kを同定する。
【0339】
【数84】
Figure 0004310972
【0340】
そして、ばね定数同定回路31は、同定されたばね定数kp,ksをベルト滑り検出回路32に供給する。
【0341】
ベルト滑り検出回路32は、ばね定数同定回路31で同定されたプライマリ側のばね定数kp、セカンダリ側のばね定数ksに基づいて、主にタイヤから過剰な伝達トルクが加わった場合に生じるマクロスリップを検出する。具体的には、プライマリ回転数Nin=500[rpm]以上において、
kp<0成立後、1秒以内にks<0、かつ
ks<0成立後、1秒以内にkp<0
が成立したときに、マクロスリップを検出する。そして、ベルト滑り検出回路32は、検出結果をベルト挟圧力決定回路40に供給する。
【0342】
(同定の検証)
ここで、プライマリ側とセカンダリ側で同定したばね定数kp,ksがどの程度一致するかを検証する。
【0343】
プライマリ側及びセカンダリから同一対象であるばね定数を同定しているため、基本的には同定結果は一致しなければならない。検証のため、セカンダリ側のタイヤからの伝達トルクは、上述のタイヤ回転慣性トルクではなく、計測用に用意したドライブシャフトトルクセンサの信号を用いた。これに伴い、(219)〜(224)式において、(222)式として次の(241)式を用いた。
【0344】
【数85】
Figure 0004310972
【0345】
ただし、Toutはセカンダリシーブにおけるタイヤ伝達トルクであり、片輪のドライブシャフトトルクDriveTRQを用いて、次の(242)式で示される。
【0346】
【数86】
Figure 0004310972
【0347】
図17は、車速60km/h定常走行、段差乗り越しの実車データを用いて、プライマリ側とセカンダリ側のばね定数同定結果を比較検証した結果を示す図である。(A)はプライマリ回転数、セカンダリ回転数及び減速比γ、(B)はセカンダリ圧及びスロットル開度、(C)はエンジントルクから算出されたセカンダリトルク及びドライブシャフトトルクから算出されたセカンダリトルク、(D)はプライマリ側で算出されたばね定数kp及びセカンダリ側で算出されたばね定数ksの経時変化を示す図である。
【0348】
同図(D)によると、10秒当りまでの定常状態では、プライマリ、セカンダリ側各々から同定したばね定数kは比較的一致した。10〜20秒間の加速時はドライブシャフトトルク、エンジントルクの各々から算出したセカンダリトルクの過渡的な波形が異なるため、同定結果に違いが出た。20秒以降では、ばね定数は約2倍程度異なっている。その原因としては、エンジントルクの推定誤差、タイヤからの伝達トルクの推定誤差、減速比から算出した掛かり径の実際値とのずれの可能性、ばね定数kの微分項を無視したことによる影響等が考えられる。
【0349】
ただし、段差乗り越し時にマクロスリップを起したと見られる22秒付近では、プライマリ側、セカンダリ側ともにばね定数kが0以下になった。したがって、同定されたばね定数kは、マクロスリップ検出に使用可能な精度を有していることが判別できた。
【0350】
図18は、掛かり径の時間的変化を無視し、同定するパラメータ数を3つから1つに減らした場合の結果を示す図である。(A)はプライマリ回転数、セカンダリ回転数及び減速比γ、(B)は同定パラメータが3つの場合及び1つの場合におけるばね定数kp、(C)は同定パラメータが3つの場合及び1つの場合におけるばね定数ksの経時変化を示す図である。実車データは、図17と同じである。セカンダリ側のばね定数ksを算出した際、パラメータ数3つの場合のy[i]として上述した(222)式を用いた。
【0351】
同図(B)及び(C)によると、同定パラメータの数の違いにより同定結果に違いが見られる。しかし、22秒付近のマクロスリップ時は、同定パラメータ1つの場合についても、プライマリ、セカンダリともにばね定数kp,ks<0となっており、マクロスリップを検出することができた。
【0352】
以上のことから、マクロスリップを検出するためには、プライマリ側、セカンダリ側のばね定数kp,ksのいずれを同定してもよく、また同定パラメータは1つでも3つでもよいことが判断できた。
【0353】
(挟圧力決定)
ベルト挟圧力決定回路40は、CVT状態量毎にベルトμmaxを記憶しているベルトμmaxマップ41と、セカンダリシーブの負荷トルクToutを用いてベルト挟圧力を演算する挟圧力演算回路43とを備えている。
【0354】
ベルトμmaxマップ41は、第1の実施の形態と同様に構成されており、現在のCVT状態量に対応するベルトμmaxを読み出して、挟圧力演算回路43に供給する。
【0355】
挟圧力演算回路43は、ベルト滑り検出回路32がベルト滑りを検出したときに、(207)式の負荷トルクToutと、ベルトμmaxマップ41から読み出されたベルトμmaxを用いて、次の(243),(244)式に従ってセカンダリ側の最適なシーブ圧Pc2を演算する。
【0356】
【数87】
Figure 0004310972
【0357】
(243)式におけるKはタイヤ回転慣性トルクに対する1以上の係数、(244)式における11°はセカンダリのシーブ面傾角、A2はセカンダリシーブ受圧面積である。また、シーブ圧Pc20は、必要最低限の値である。つまり、(243)式は、シーブ圧Pc20にK・Toutを加算することで、必要最低限の値に若干余裕を持たせたシーブ圧Pc2を求めることを示している。
【0358】
さらに、挟圧力演算回路43は、演算されたシーブ圧Pc2とセカンダリシーブ受圧面積A2とに基づいて、セカンダリの最適なベルト挟圧力F2(=Pc2・A2)を演算する。
【0359】
(ベルトμmax補正回路60)
ベルトμmax補正回路60は、負荷トルクTout<T_bの成立時において、マクロスリップ検出回数が所定回数以上になったときに、実際のベルトμmaxがベルトμmaxマップ41に記述されているベルトμmaxよりも低下したと判定して、ベルトμmaxマップ41を補正する。
【0360】
ここで、T_bは負荷トルクの閾値である。上記条件を満たす場合は、タイヤ回転慣性トルクが小さい状況にも拘わらずマクロスリップを生じている。これは、エンジントルクに対するベルト挟圧力が低下している状況を示している。そこで、ベルトμmax補正回路60は、ベルトμmaxマップ41のベルトμmaxが低下しているとみなして、μmax値を下方修正する。
【0361】
これにより、ベルト挟圧力決定回路40は、CVTベルトが摩耗してベルトμmaxが変化したような場合であっても、常に最新のベルトμmaxを用いて正確にベルト挟圧力を決定することができる。
【0362】
図19は、従来のマクロスリップ検出性能の結果を示す図である。(A)はプライマリ回転数及びセカンダリ回転数、(B)は減速比γ及びそのフィルタ値、(C)は減速比偏差、(D)はドライブシャフトトルクの経時変化を示す図である。ここでは、低μ路でのアクセル操作によりタイヤ空転後、高μ路へ進入してタイヤ回転慣性によりマクロスリップを起して、低μ路、高μ路の進入を繰り返した。(B)では、仮想減速比γeを算出するために、一次遅れフィルタのカットオフ周波数は0.5Hzとした。
【0363】
同図(C)に示すように、従来は、減速比偏差の絶対値がしきい値以上になったときにマクロスリップを検出した。なお、マクロスリップ検出のためのしきい値は、5秒付近の減速比偏差の値に基づいて設定した。一方、(D)に示すように、ドライブシャフトトルクが大きい時点で何度もベルト滑りが起きている。したがって、(C)によると、従来は、高μ路進入後の第1回目のベルト滑りは検出できているが、それ以降のベルト滑りを検出できなかった。
【0364】
図20は、図19と同じ走行データを用いたものであり、第3の実施の形態に係るベルト挟圧力決定装置(以下「本願」という。)のマクロスリップ検出結果を示す図である。(A)はプライマリ回転数、セカンダリ回転数及び減速比γ、(B)はセカンダリ圧(シーブ圧)及びスロットル開度、(C)はエンジントルク及びドライブシャフトトルク、(D)は同定されたプライマリ側のばね定数kp、(E)は同定されたセカンダリ側のばね定数ks、(F)はマクロスリップ検出結果(マクロスリップ検出時に“1”)の経時変化を示す図である。(F)によると、(A)から(C)の各マクロスリップ時点で、マクロスリップを検出することができた。
【0365】
図21は、車速60km/hの定常走行時に段差を乗り越した場合の本願のマクロスリップ検出結果を示す図である。(A)から(F)はそれぞれ図20と同様である。段差を乗り越したときにタイヤトルク外乱が入り、マクロスリップが起きた場合でも、(F)によるとそのマクロスリップを検出することができた。
【0366】
図22は、セカンダリ圧を下げた状態でアクセルを吹かし強制的にマクロスリップを起した場合の本願のマクロスリップ検出結果を示す図である。(A)から(F)はそれぞれ図20と同様である。セカンダリ圧を下げて強制的にマクロスリップを複数回起こした場合でも、(F)によると全部のマクロスリップを検出することができた。
【0367】
図23は、急加減速時の本願のマクロスリップ検出結果を示す図である。(A)から(F)はそれぞれ図20と同様である。急加減速時ではマクロスリップは発生せず、(F)によるとマクロスリップを検出していない。つまり、誤検出することはなかった。
【0368】
図24は、マクロスリップ検出時間を調べるため、図20の第1回目のマクロスリップ検出時の各状態を拡大した結果を示す図である。(A)はプライマリ回転数、セカンダリ回転数及び減速比γ、(B)はドライブシャフトトルク及び前後加速度(前後G)、(C)はプライマリ側同定値(ばね定数kp)及びセカンダリ側同定値(ばね定数ks)、(D)はマクロスリップ検出結果及びタイヤ回転慣性トルクの経時変化を示す図である。(D)によると、マクロスリップ発生後10msでマクロスリップを検出することができた。
【0369】
図21から図24のマクロスリップ検出結果によると、本願は、誤検出することなく、マクロスリップが起きた場合には正確にマクロスリップを検出できることが分かった。そこで、マクロスリップ検出時にセカンダリ側のシーブ圧を増圧すれば、ベルトの損傷を回避することができる。
【0370】
以上のように、第3の実施の形態に係るベルト挟圧力決定装置は、エンジン慣性、プライマリ慣性、セカンダリ慣性、タイヤ慣性で構成され、かつプライマリ−セカンダリ間のトルク伝達を両者の掛かり径位置でのねじれ角に応じたばね力で表したCVTトルク伝達モデルを用いることで、ばね力の低下をベルト滑りとみなすことで、ベルト滑りを正確に検出することができる。
【0371】
特に、本実施の形態に係るCVTトルク伝達モデルでは、ばね定数kのみを同定すればよく、また、プライマリ側、セカンダリ側のいずれのばね定数kを同定してもよいので、演算負荷を大幅に低減しつつ、ベルト滑りを検出することができる。また、タイヤからの伝達トルクをタイヤ回転慣性モデルで表すことにより、タイヤ外乱があった場合でもその影響を考慮して、ベルト滑り率を検出し、そしてベルト挟圧力を決定することができる。
【0372】
したがって、第3の実施の形態に係るベルト挟圧力決定装置は、第1の実施の形態と同様に、タイヤ外乱の影響によってベルト滑りが起きたときでも、正確にベルト滑りを検出し、さらに、必要な分だけベルト挟圧力を上げることができるので、必要以上にベルト挟圧力を上げてベルトに損傷が生じるのを防止することができる。
【0373】
なお、上述した実施の形態ではベルト式CVTについて記述したが、本発明はトロイダル式CVTについても同様に適用可能である。また、本実施の形態に係るベルト挟圧力決定装置は、1つのパラメータを同定する演算を行ったが、3つのパラメータを同定してもよい。
【0374】
さらに、ベルトμmax補正回路60の代わりに、第1の実施の形態で説明したベルトμmax補正回路50を用いてもよい。このとき、ベルトμmax補正回路50は、ベルト滑り検出回路51の代わりにベルト滑り検出回路32を用いればよい。
【0375】
【発明の効果】
本発明に係るベルト挟圧力決定装置は、入力側シーブ、出力側シーブ、及びベルト間のトルク伝達モデルと、第1及び第2の回転数検出手段により各々検出された回転数と、前記掛かり径演算手段により演算された掛かり径と、エンジントルク推定手段により推定されたエンジントルクとを用いて、ベルト挟圧力を決定することにより、無段階変速機の動作状態に応じた最適なベルト挟圧力を決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】エンジンからタイヤまでのトルク伝達を表したCVTトルク伝達モデルの構成を示す図である。
【図2】μmax=0.12、α=−40としたときのベルトμ特性と、固定シーブ比のCVTを用いて計測したベルトμ特性とを比較した図である。
【図3】ベルトμ特性を現時点の動作点で線形化することを説明する図である。
【図4】第1の実施の形態に係るベルト挟圧力決定装置の構成を示すブロック図である。
【図5】ECUの機能的な構成を示すブロック図である。
【図6】ベルト速度演算回路の処理手順を示すフローチャートである。
【図7】ベルトμmax補正回路の機能的な構成を示すブロック図である。
【図8】低μ路でのアクセル操作によりタイヤ空転後、高μ路に進入してタイヤ回転慣性によりベルト滑りを起こした場合のミクロスリップ推定結果を示す図である。
【図9】車速100km/hの定常走行時のミクロスリップ推定結果を示す図である。
【図10】ベルト式CVTをモデル化した第2の実施の形態に係るCVTトルク伝達モデルを示す図である。
【図11】ベルト滑り速度に対するベルト摩擦力特性の実験結果を示す図である。
【図12】第2の実施の形態に係るベルト挟圧力決定装置の構成を示すブロック図である。
【図13】ECUの機能的な構成を示すブロック図である。
【図14】実車データを用いたベルト滑り率Slip_Hの推定結果を示す図である。
【図15】第3の実施の形態に係るCVTトルク伝達モデルを示す図である。
【図16】第3の実施の形態に係るECUの機能的な構成を示すブロック図である。
【図17】車速60km/h定常走行、段差乗り越しの実車データを用いて、プライマリ側とセカンダリ側のばね定数同定結果を比較検証した結果を示す図である。
【図18】掛かり径の時間的変化を無視し、同定するパラメータ数を3つから1つに減らした場合の結果を示す図である。
【図19】従来のマクロスリップ検出性能の結果を示す図である。
【図20】第3の実施の形態に係るベルト挟圧力決定装置のマクロスリップ検出結果を示す図である。
【図21】車速60km/hの定常走行時に段差を乗り越した場合の本願のマクロスリップ検出結果を示す図である。
【図22】セカンダリ圧を下げた状態でアクセルを吹かし強制的にマクロスリップを起した場合の本願のマクロスリップ検出結果を示す図である。
【図23】急加減速時の本願のマクロスリップ検出結果を示す図である。
【図24】図20の第1回目のマクロスリップ検出時の各状態を拡大した結果を示す図である。
【図25】従来技術を用いたときの減速比γの経時変化を示す図である。
【符号の説明】
20 ECU
21 エンジントルク推定回路
22 プライマリ回転数検出回路
23 セカンダリ回転数検出回路
24 掛かり径演算回路
25 タイヤトルク演算回路
26 ベルト速度演算回路
27 シーブ速度演算回路
28 ベルト滑り率演算回路
29 ベルト加速度演算回路
30 ベルト速度演算回路
31 ばね定数同定回路
32 ベルト滑り検出回路
40 ベルト挟圧力決定回路
50,60 ベルトμmax補正回路

Claims (2)

  1. 入力側シーブ、出力側シーブ、及びベルトを備えた無段階変速機のベルト滑り検出装置であって、入力側シーブの回転数を検出する第1の回転数検出手段と、出力側シーブの回転数を検出する第2の回転数検出手段と、前記第1及び第2の回転数検出手段により各々検出された回転数に基づいて、前記入力側シーブ及び前記出力側シーブの各々の掛かり径を演算する掛かり径演算手段と、エンジントルクを推定するエンジントルク推定手段と、入力側シーブ、出力側シーブ、及びベルト間のトルク伝達モデルに対して、前記第1及び第2の回転数検出手段により各々検出された回転数と、前記掛かり径演算手段により演算された掛かり径と、前記エンジントルク推定手段により推定されたエンジントルクとを用いて、ベルト滑りを検出するベルト滑り検出手段と、を備え、前記ベルト滑り検出手段は、入力側シーブ、出力側シーブ、及びベルト間のトルク伝達を、入力側シーブと出力側シーブの各々の掛かり径位置におけるねじれ角に応じたばね力を用いて表したトルク伝達モデルに対して、前記第1及び第2の回転数検出手段により各々検出された回転数と、前記掛かり径演算手段により演算された掛かり径と、前記エンジントルク推定手段により推定されたエンジントルクとに基づいて、前記ばね力を表すばね定数を決定し、前記決定したばね定数が所定の閾値未満のときにベルト滑りを検出するベルト滑り検出装置と、
    前記出力側シーブのタイヤ回転慣性トルクを演算するタイヤ回転慣性トルク演算手段と、
    前記ベルト滑り検出装置によりベルト滑りが検出されたときに、前記タイヤ回転慣性トルク演算手段により演算されたタイヤ回転慣性トルクと、ベルト最大摩擦係数とを用いて、ベルト挟圧力を決定するベルト挟圧力決定手段と、
    を備えたベルト挟圧力決定装置。
  2. 無段階変速機の所定の状態量毎に、前記ベルト挟圧力決定装置で使用されるベルト最大摩擦係数を記憶する記憶手段と、
    前記ベルト滑り検出装置により検出されたベルト滑りの回数を計数する計数手段と、
    前記計数手段により計数されたベルト滑りの回数の頻度が閾値を超えたときに、前記無段階変速機の現在の状態量に対応するベルト最大摩擦係数を前記ベルト滑りの回数の頻度に応じて低下するように、前記記憶手段に記憶されている最大摩擦係数を修正する修正手段と、
    を更に備えた請求項1記載のベルト挟圧力決定装置。
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