JP2023172331A - 走行制御システム及び走行制御方法 - Google Patents

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Kyohei Sakagami
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Abstract

【課題】 車両制御システム及び車両制御方法において、弾性滑り限界に対応したタイヤの駆動力を推定し、タイヤを弾性滑り状態に維持する。【解決手段】 車両1の走行制御システムは、少なくとも駆動源及びホイールの回転速度と車体速とに基づいて、タイヤの剛性であるタイヤねじり剛性と、タイヤと路面との摩擦特性である路面摩擦係数と、タイヤの路面に対する粘着限界に対応した粘着限界スリップ率と、タイヤの駆動力が最大になるときのスリップ率である最大駆動力スリップ率とを推定する推定部14Aと、車両の走行状態、粘着限界スリップ率、及び最大駆動力スリップ率に基づいて制限スリップ率を設定し、車両のスリップ率が制限スリップ率を超えないように駆動源5及び制動装置8の少なくとも一方を制御する制御部14Bとを有する。【選択図】 図7

Description

本発明は、走行制御システム及び走行制御方法に関する。
近年、交通参加者の中でも高齢者や子供といった脆弱な立場にある人々にも配慮した持続可能な輸送システムへのアクセスを提供する取り組みが活発化している。この実現に向けて車両の挙動安定性に関する開発を通して交通の安全性や利便性をより一層改善する研究開発が注力されている。
タイヤがグリップした状態ではドライブシャフト捩れ振動が発生し、タイヤがスリップした状態ではタイヤ滑りによりドライブシャフトの捩れが解放され、ドライブシャフト捩れ振動が消滅する。特許文献1には、ドライブシャフト捩れ振動発生時に、エンジンブロック、及びばね上(車体)にエンジンブロック前後共振とドライブシャフト捩れ共振の複合した振動モードが現れ、ドライブシャフト捩れ振動消滅時にエンジン前後共振の単振動が現れることから、各部位の振動モードを確認することで路面判定する路面判定装置が記載されている。
特許文献2には、差動装置、ドライブシャフトを介して差動装置に接続されたホイールの回転変動を検出し、差動装置の回転変動振幅に対するホイールの回転変動振幅の振幅比、及び位相遅れに基づいて滑り識別量を設定し、滑り識別量がタイヤの路面に対する弾性滑り限界に対応した滑り識別量閾値を超えないようにタイヤの駆動力を制御する走行制御方法が記載されている。
特開2018-155696号公報 特開2019-31112号公報
特許文献1では、加速度センサを用いた振動計測により、主としてドライブシャフト捩れ振動の消滅が確認された際にタイヤスリップを判定する。しかし、ドライブシャフト捩れ振動が消滅した際には既にタイヤはスリップした状態(路面μmax状態)にあり、車両挙動は不安定挙動に移行し始めている。車両挙動を安定化するための理想的な制御はスリップ直前にスリップを抑制することであるが、ドライブシャフト捩れ振動が消滅してからの判断を行う場合、このような理想的な制御を実現することはできない。また、特許文献1では、低速時における車輪速の検出精度の低下を避けるために加速度センサを用いた振動計測に基づいた手法を提案している。しかし、エンジンブロック、ばね上(車体)の振動は、サスペンションやマウントといった多くの構成分品によって連成されており、構成部品のばらつきや劣化による誤差影響を受けやすい。また、ばね上(車体)質量にも影響を受けることから、乗車人数や積載量といったユースケースも誤差要因となり得る。
特許文献2では、弾性滑り限界を判定することができる滑り識別量を導入したことにより、タイヤスリップ(移動滑り)を生じない限界である粘着限界(弾性滑り限界)をスリップ発生前に予測することができる。しかし、滑り識別量はタイヤの滑り速度によって正規化された指標であり、粘着限界に対応したタイヤの滑り速度は予測できるものの、そのときのタイヤの駆動力を直接予測することはできない。実際の制御ではタイヤの駆動力を制御することで間接的に滑り速度を制御するため、瞬間的には移動滑り状態になってしまうことから特許文献2の走行制御方法には改善の余地がある。そのため、粘着限界に対応したタイヤの駆動力を直接推定することによって、タイヤを弾性滑り状態に維持することができる。
また、特許文献1及び特許文献2のいずれにおいても何らかの振動や回転変動を利用するため、当該振動が生じていない、あるいは、センサノイズに対して微小であるときにはタイヤスリップを判定することができない。
本発明は、以上の背景を鑑み、車両制御システム及び車両制御方法において、粘着限界に対応したタイヤの駆動力を、構成部品の劣化やばらつき、及び車両のユースケースの違いに依らず高精度に推定し、走行状態に応じてタイヤの駆動力を制御することを課題とする。また、特定の振動や回転変動が必ずしも生じていない場合に対しても適用可能な車両制御システム及び車両制御を提供することを課題とする。そして、本発明は、延いては持続可能な輸送システムの発展に寄与するものである。
上記課題を解決するために本発明のある態様は、駆動源(5)と、前記駆動源に動力伝達部材(6)を介して接続されたホイール(W)及び前記ホイールに取り付けられたタイヤ(T)を有する車輪(3)と、前記車輪を制動する制動装置(8)とを有する車両(1)の走行制御システムであって、前記駆動源の回転速度を取得する第1回転センサ(12C)と、前記ホイールの回転速度を取得する第2回転センサ(12A)と、車体速に関連する情報を取得する車体速取得手段(12B、12D)と、前記ホイールのトルクを取得するトルク取得手段(14C)と、少なくとも前記駆動源及び前記ホイールの回転速度、車体速、及び前記ホイールのトルクに基づいて、前記タイヤの剛性であるタイヤねじり剛性及び前記タイヤと路面との摩擦特性である路面摩擦係数を推定し、前記タイヤねじり剛性及び前記路面摩擦係数に基づいて前記タイヤの前記路面に対する粘着限界に対応した粘着限界スリップ率と前記タイヤの駆動力が最大になるときのスリップ率である最大駆動力スリップ率とを推定する推定部(14A)と、前記車両の走行状態、前記粘着限界スリップ率、及び前記最大駆動力スリップ率に基づいて制限スリップ率を設定し、前記車両の駆動力が前記制限スリップ率に対応する制限駆動力を超えないように前記駆動源及び前記制動装置の少なくとも一方を制御する制御部とを有する制御部(14B)とを有する。
この態様によれば、走行状態に応じてタイヤの駆動力を制御することができる。例えば、旋回時にはタイヤを弾性滑り状態に維持することによって、操舵操作と車両の挙動とを一致させることができると共に、エネルギーロスを低減することができる。また、低速時や直進時には、タイヤの駆動力を最大にすることによって、低速時の加速性能及び登坂性能を向上させることができる。
上記の態様において、前記走行状態は、前記車体速であり、前記制御部は、前記制限スリップ率を前記粘着限界スリップ率以上、かつ前記最大駆動力スリップ率以下の値に設定し、前記車体速が大きいほど前記制限スリップ率を前記粘着限界スリップ率に近づけてもよい。
この態様によれば、車体速が大きいほどタイヤが弾性滑り状態に維持される。一方、車体速が小さくなるにつれて、タイヤの移動滑りが許容される。これにより、操舵操作と車両の挙動とを一致させることができると共に、低速時の加速性能及び登坂性能を向上させることができる。
上記の態様において、前記走行状態は、前記車両の操舵角であり、前記制御部は、前記制限スリップ率を前記粘着限界スリップ率以上、かつ前記最大駆動力スリップ率以下の値に設定し、前記操舵角が大きいほど前記制限スリップ率を前記粘着限界スリップ率に近づけてもよい。
この態様によれば、操舵角が大きいほどタイヤが弾性滑り状態に維持される。一方、操舵角が小さくなるにつれて、すなわち直進状態に近づくにつれて、タイヤの移動滑りが許容される。これにより、操舵操作と車両の挙動とを一致させることができると共に、直進時の加速性能及び登坂性能を向上させることができる。
上記の態様において、前記走行状態は、前記操舵角と前記車両の横加速度であり、前記制御部は、前記操舵角が所定の閾値以下である場合に、前記横加速度が大きいほど前記制限スリップ率を前記粘着限界スリップ率に近づけてもよい。
この態様によれば、横加速度が大きいほどタイヤが弾性滑り状態に維持される。一方、横加速度が小さくなるにつれて、タイヤの移動滑りが許容される。これにより、操舵操作と車両の挙動とを一致させることができると共に、直進時の加速を円滑に行うことができる。また、直進状態でもカントが大きい場合には横加速度が生じる。直進状態でも急カント条件下では横滑りの危険性が高まるため、弾性滑り状態を維持することで直進安定性を高めることができる。
上記の態様において、前記走行状態は、前記車両の横滑り速度であり、前記制御部は、前記制限スリップ率を前記粘着限界スリップ率以上、かつ前記最大駆動力スリップ率以下の値に設定し、前記横滑り速度が大きいほど前記制限スリップ率を前記粘着限界スリップ率に近づけてもよい。
この態様によれば、横滑り速度が大きいほどタイヤが弾性滑り状態に維持される。一方、横滑り速度が小さくなるにつれて、すなわち直進状態に近づくにつれて、タイヤの移動滑りが許容される。これにより、操舵操作と車両の挙動とを一致させることができると共に、直進時の加速を円滑に行うことができる。また、横滑り速度が生じると最大駆動力は低下する。したがって、横風などの外乱影響に対しても最大駆動力の低下を予見し弾性滑り状態を維持することで直進安定性を高めることができる。
本発明の他の態様は、駆動源(5)と、前記駆動源に動力伝達部材(6)を介して接続されたホイール(W)及び前記ホイール(W)に取り付けられたタイヤ(T)を有する車輪(3)と、前記車輪を制動する制動装置(8)と、制御装置(14)とを有する車両(1)において、前記制御装置が実行する走行制御方法であって、少なくとも前記駆動源及び前記ホイールの回転速度と車体速とに基づいて、前記タイヤの剛性であるタイヤねじり剛性及び前記タイヤと路面との摩擦特性である路面摩擦係数を推定し、前記タイヤねじり剛性及び前記路面摩擦係数に基づいて前記タイヤの粘着限界に対応した粘着限界スリップ率と前記タイヤの駆動力が最大になるときのスリップ率である最大駆動力スリップ率とを推定し、前記車両の走行状態、前記粘着限界スリップ率、及び前記最大駆動力スリップ率に基づいて制限スリップ率を設定し、前記車両の駆動力が前記制限スリップ率に対応する制限駆動力を超えないように前記駆動源及び前記制動装置の少なくとも一方を制御する。
この態様によれば、走行状態に応じてタイヤの駆動力を制御することができる。例えば、旋回時にはタイヤを弾性滑り状態に維持することによって、操舵操作と車両の挙動とを一致させることができると共に、エネルギーロスを低減することができる。また、低速時や直進時には、タイヤの駆動力を最大にすることによって、発進や登坂を円滑に行うことができる。
以上の構成によれば、車両制御システム及び車両制御方法において、粘着限界に対応したタイヤの駆動力を推定し、走行状態に応じてタイヤの駆動力を制御することができる。
車両制御システムが搭載される車両の構成図 スリップ率とタイヤ駆動力との関係を示すグラフ 駆動輪の力学モデルを示す説明図 (A)差動装置及び駆動輪間の回転変動伝達特性を示すグラフ、(B)周波数と振動モードとの関係を示す説明図 弾性滑りモード及び移動滑りモードの根軌跡を示す図 タイヤねじり剛性、路面摩擦係数、及び限界スリップ率の関係を示すマップ 制御装置が実行する走行制御方法の手順を示すフロー図 車体速と制限スリップとの関係を示すマップ 実施例及び比較例の前輪舵角に対する横加速度を示すグラフ 実施例及び比較例の理論軌跡に対する軌跡を示す説明図 舵角と制限スリップとの関係を示すマップ 横加速度と制限スリップとの関係を示すマップ 横滑り速度と制限スリップとの関係を示すマップ
以下、図面を参照して、本発明に係る走行制御システム及び車両制御方法について説明する。図1に示すように、車両1は、4輪自動車であり、車体2と、車体2に設けられた4つの車輪3とを有する。車輪3は、駆動輪である2つの前輪3Fと、従動輪である2つの後輪3Rとを有する。各車輪3は、ホイールWと、ホイールWに取り付けられたタイヤTとを有する。
車両1は、前輪3Fを駆動するための駆動源5を有する。駆動源5は、内燃機関又は電動モータであってよい。駆動源5は、減速装置及び差動装置を含んでよい。本実施形態では、駆動源5は、内燃機関5A、減速装置5B、及び差動装置5C(DN)によって構成されている。駆動源5の差動装置5Cは、動力伝達部材6を介して各前輪3Fに接続されている。動力伝達部材6は、ドライブシャフトであってよい。
車両1は、各車輪を制動するための制動装置8を有する。制動装置8は、油圧供給装置8Aと、各車輪のホイールWに設けられ、油圧供給装置8Aからの油圧によって作動するディスクブレーキ8Bとを有する。
車両1は、駆動源5及び制動装置8を制御する走行制御システム10を有する。走行制御システム10は、運転操作子11及び車両センサ12からの信号に基づいて、駆動源5及び制動装置8を制御する制御装置14を有する。運転操作子11は、運転者の操舵操作を受け付けるステアリングホイール11A、運転者の加速操作を受け付けるアクセルペダル11B、運転者の減速操作を受け付けるブレーキペダル11Cを含む。
車両センサ12は、左右の前輪の回転速度を検出する左右の前輪車輪速センサ12A(第1回転センサ)、左右の後輪の回転速度を検出する左右の後輪車輪速センサ12B(従動輪回転センサ)、駆動源5の出力端の回転速度を検出する駆動源回転速センサ12C(第2回転センサ)、車体2の前後加速度及び横加速度を検出する加速度センサ12Dを有する。前輪車輪速センサ12A及び後輪車輪速センサ12Bは、ホイールWの回転速度を検出する。左右の後輪車輪速センサ12B及び加速度センサ12Dは、車体速に関連する情報を取得する車体速取得手段として機能する。
駆動源回転速センサ12Cは、駆動源5の差動装置のファイナルギヤの回転速度を検出する。また、車両センサ12は、ステアリングホイール11Aの操舵角を検出する操舵角センサ12E、アクセルペダル11Bの操作量を検出するアクセルペダルセンサ12F、ブレーキペダル11Cの操作量を検出するブレーキペダルセンサ12G、内燃機関5Aの回転数を検出するエンジン回転数センサ12Hを有する。また、車両センサ12は、車体2の上下加速度を検出する上下加速度センサ12Kを有する。上下加速度センサ12Kは、各車輪3に対応して設けられているとよい。また、上下加速度センサ12Kは、各車輪3を支持するサスペンションアーム(不図示)に設けられてもよい。加速度センサ12D及び上下加速度センサ12Kは、共通の3軸又は6軸加速度センサとして構成されてもよい。内燃機関5Aの出力トルクは、後述する制御装置14によって推定される。
制御装置14は、CPU、ROM、及びRAM等から構成される電子制御装置(ECU)である。制御装置14はCPUでプログラムに沿った演算処理を実行することで、各種の車両制御を実行する。制御装置14は、推定部14A、制御部14B、及びトルク取得部14C(トルク取得手段)を有する。推定部14Aは、少なくとも駆動源5及びホイールWの回転速度、車体速、及びホイールWのトルクに基づいて、タイヤTのねじり剛性であるタイヤねじり剛性及びタイヤTと路面との摩擦特性である路面摩擦係数を推定する。また、推定部14Aは、タイヤねじり剛性及び路面摩擦係数に基づいてタイヤの路面に対する粘着限界に対応したスリップ率である粘着限界スリップ率と、タイヤの駆動力が最大になるときのスリップ率である最大駆動力スリップ率とを推定する。制御部14Bは、車両の走行状態、粘着限界スリップ率、及び最大駆動力スリップ率に基づいて制限スリップ率を設定し、車両の駆動力が制限スリップ率に対応する制限駆動力を超えないように駆動源5及び制動装置8の少なくとも一方を制御する。車両の走行状態は、車体速、車両の舵角、車両の横加速度、車両の横滑り速度の少なくとも1つを含む。
トルク取得部14Cは、内燃機関5Aの出力トルクを取得する。トルク取得部14Cは、例えば吸入空気量や、インテークマニホールドの負圧に基づいて推定されるとよい。また、駆動源5が電動モータである場合には、電動モータに供給される相電流に基づいて電動モータの出力トルクが推定されるとよい。なお、他の実施形態では、内燃機関5A又は電動モータに、出力トルクを検出するためのトルクセンサが設けられてもよい。また、トルク取得部14Cは、制御部14Bによる制動装置8の制御量に基づいてホイールWに加わる制動トルクを推定する。
以下に、推定部14Aによる、タイヤねじり剛性、路面摩擦係数、粘着限界スリップ率、粘着限界駆動力、最大駆動力スリップ率、及び最大駆動力の推定方法について説明する。推定部14Aは、以下に示す理論に基づいて作成されたプログラムを実行することによって推定を行う。
ホイールWはアルミや鋼などの金属から形成されているため、ゴム製のタイヤTに比べて剛性が十分に高い。ホイールWに駆動トルクが与えられた場合には、タイヤTのサイドウォール部およびトレッド部に弾性変形が生じる。そのため、ホイールWとタイヤTのトレッド表面とを剛体質量で表し、両者のねじれを抑制する方向にばね力が作用する状態であると考える。タイヤTと路面との接地部では、車両1の質量のためタイヤTが変形し、ある一定幅(接地幅)にてタイヤTと路面とが接触(接地面)した状態となる。接地面にはタイヤと路面との間に摩擦力Fが作用し、この摩擦力Fは次式で表される。
Figure 2023172331000002
μはタイヤTと路面との間の摩擦係数である路面摩擦係数であり、NはタイヤTの接地荷重である輪荷重である。路面摩擦係数μは、タイヤTの空気圧や経年変化、路面、天候、気候などにより変化する。摩擦力Fは走行抵抗に対抗して車両1を走行(加速、減速、等速走行)させるために必要な力、すなわち駆動力とその合力の大きさが釣り合う必要がある。
ホイールWに駆動トルクが与えられた瞬間にはタイヤTにトルクは伝達されておらず、タイヤTはまだ転動しない。このときタイヤTは弾性変形しホイールWとタイヤTとの間にはねじれ角が生じる。この状態においてタイヤTは、ホイールWの駆動トルクに比例してねじれ角が生じる静ねじり状態にある。ねじれ角が生じるとその反力としてタイヤTにトルクが伝達され、タイヤTは転動を始める。タイヤTが転動するに伴い弾性変形を生じていたタイヤTの1要素は接地面を離れるとともに弾性ひずみが解放される。このとき解放された弾性ひずみに対応する分の反力がホイールWの駆動トルクを伝達するために必要な大きさに対して不足するため、タイヤTの転動は一時的に止まろうとする。しかしながら、接地面を離れたタイヤTの1要素と交代に新たな要素が路面と接地し弾性ひずみを生じることで失われた反力を回復しタイヤTは再び転動する。このように個々の要素に係る境界条件が各要素に固有ではなく、要素の運動に伴い移動する場合を特に移動境界と呼ぶ。実際のタイヤTが継続して転動するとき上記のような現象が連続して起こるため、ホイールWの回転角に対して一定の割合でタイヤTの転動角は減少する。単位時間あたりでのホイールWの回転角は回転数(回転角速度)に比例するため、タイヤTの転動角もホイールWの回転数に比例して減少し一定の回転伝達ロスが生じる。この現象を弾性変形に起因してホイールWと路面との間に見かけ上滑りが生じることから弾性滑りと呼ぶ。弾性滑り量はホイールWの回転数に対して一定の割合で生じるため、滑りによる回転数ロスΔωとホイールWの回転数ωwheelとの比Srを滑り速度比とする。
Figure 2023172331000003
タイヤTの弾性滑りの特性を図示すると図2のようになる。タイヤTと路面との間の摩擦力には限界があるので、ホイールWの駆動トルクが増加していくと、タイヤTの接地面と路面とが滑り始める。これを弾性滑りと区別して移動滑りとする。このように、ホイールWの駆動トルクを増加していくと、最初は弾性滑り状態から移動滑り状態に変化する。弾性滑り状態と移動滑り状態の境界を弾性滑り限界又は粘着限界といい、粘着限界に対応した駆動力(トルク)を粘着限界駆動力(トルク)という。駆動力が粘着限界駆動力になるときのスリップ率を粘着限界スリップ率という。また、タイヤ駆動力は移動滑り状態において最大駆動力(トルク)になる。最大駆動力になるときのスリップ率を最大駆動力スリップ率という。
弾性滑り状態において、弾性変形によりホイールWとタイヤTとの間にねじれ角φEが生じ、接地面が接地長さだけ移動した状態では、転動前の接地面には弾性変形によるひずみエネルギ(kT×φE 2/2)が蓄えられ、転動によってこのひずみエネルギーが解放される。このひずみエネルギーは車両1の走行に関して仕事をしないので、ホイールWから与えられた駆動エネルギーをひずみの生成と解放というサイクルで散逸している状態と考えることができる。このようなエネルギー散逸が見かけ上の滑り(弾性滑り)によって生じるものと捉えれば、接地面に作用する摩擦力をFとして、次式のように書ける。
Figure 2023172331000004
すなわち、エネルギー散逸を式3のように摩擦力と見かけ上の滑りによる仮想仕事に置き換えることができる。kTはタイヤTのねじり剛性[Nm/rad]、RはタイヤTの動半径[m]、Tfは接地面に生じる摩擦トルク[Nm]に相当する。ねじれ角φEに対応してタイヤTが転動したとき、ねじれ角φEを含めてホイールWの回転角がφwheelであったとすると滑り速度比Srは幾何学的関係より、次の式4で表される。
Figure 2023172331000005
式2および式4より、φEは以下の式5で表される。
Figure 2023172331000006
これを式3に代入すると、以下の式が導かれる。
Figure 2023172331000007
式6で表されるように、摩擦トルクTfはホイールWと路面との間に生じる滑り(回転数ロス)Δωに比例した粘性抵抗力で表される。ここで、cTはタイヤと路面との間の摩擦減衰[Nm/(rad/s)]であり、粘性係数に相当し、タイヤねじり剛性kTに比例する。
駆動源5から接触面までの力学的モデルは、図3のように表すことができる。このモデルに基づいて、状態方程式は、以下の式7のように表される。以下の式は、内燃機関を車両1の前部に搭載し、トランスミッションを介して前輪を駆動するFF車両の左右いずれかの車輪を抜き出したものである。
Figure 2023172331000008
ここで、θDNは差動装置DNのファイナルギヤ(駆動源5の出力軸)の回転角摂動[rad]、θWはホイールの回転角摂動[rad]、θTはタイヤの回転角摂動[rad]、Iwはホイールの慣性モーメント[kgm2]、ITはタイヤの慣性モーメント[kgm2]、kDは動力伝達部材6(ドライブシャフト)のねじり剛性[Nm/rad]である。
式7を以下の式8によって無次元化すると、式9によって表される状態変数(ベクトル量)は、式10で表される。
Figure 2023172331000009
Figure 2023172331000010
Figure 2023172331000011
差動装置DNの回転変動に対するホイールWの回転変動の周波数応答を式10により求めると図4(A)のようになる。図4(A)は、周波数に対する差動装置DNの回転変動振幅に対するホイールWの回転変動振幅の増幅比(振幅比m)と、差動装置DNの回転変動に対するホイールWの回転変動の位相遅れ(位相遅れΨ1)とを示す。
式6より、滑り状態は摩擦減衰係数cTの値が小さくなるほど移動滑り状態に近づく。図4(A)中の(a)は弾性滑り状態の応答を表し、(c)は移動滑り状態の応答を表している。また、(b)は両滑り状態の境界(粘着限界)にあたる。図4(A)中の振幅比を示すグラフ(a)と(c)とを比較すると移動滑り状態になると低周波数側に新たなピークが出現すると共に、高周波数側のピークが高周波側に移動することが判る。高周波数側のピークに対応した振動モードを弾性滑りモード、低周波数側のピークに対応した振動モードを移動滑りモードと呼ぶことにする。
周波数と摩擦減衰係数cTに対する弾性滑りモード及び移動滑りモードの存在範囲を図示すると図4(B)のようになる。図4(B)は、弾性滑りモード及び移動滑りモードの存在範囲を実線で示している。
弾性滑りモードでは、タイヤTの弾性変形により駆動力を路面に伝達するので、タイヤねじり剛性kTによって生じた弾性力はホイールWにも反力として作用する。そのため、ホイールWがドライブシャフト剛性kDおよびタイヤねじり剛性kTによって生じる弾性力の合力を受け振動する。弾性滑りモードは、図4(A)及び(B)において高周波数側に見られる。弾性滑りモードは、図4(B)に示すように、摩擦減衰係数cTが減少するにつれて、すなわち、弾性滑り状態から移動滑り状態に近づくにつれて、より高周波側へと遷移する。このことは、図4(A)中の振幅比を示すグラフにおいて、移動滑り状態になると高周波数側のピークがより高周波側に移動することに対応している。
移動滑りモードでは、タイヤTと路面とが動的に滑ることからタイヤねじり剛性kTによって生じる弾性力は滑りによって解放され、ホイールWに作用する反力も消失する。そのため、ホイールWとタイヤTが一体となってドライブシャフト剛性kDによって生じる弾性力のみを受け同相で振動する。移動滑りモードは、図4(A)及び(B)において低周波数側に見られる。移動滑りモードは、図4(B)に示すように、摩擦減衰係数cTが一定値より小さくなった場合に、すなわち、移動滑り状態となった場合に出現し、弾性滑り状態では現れない。このことは、図4(A)中の振幅比を示すグラフにおいて、移動滑り状態になると低周波数側に新たなピークが出現することに対応している。
以上より、弾性滑り状態から移動滑り状態へと移行するに伴い、移動滑りモードが発現する。したがって、移動滑りモードの発現を監視することによって、粘着限界の判定ができるように思える。しかし、図4(A)中の振幅比をみると、粘着限界では未だに低周波数側のピークを確認することはできない。特許文献1に記載の路面判定装置のように、低周波数側のピークが明確に確認された段階では、すでに移動滑りが進展した状態しか判定することはできない(特許文献1では振動観測位置が異なるため移動滑りに伴い当該モードが消滅したようにみえるが、事象としては同義である)。すなわち、単純に振動波形を観測するだけでは移動滑りモードの発現を厳密に判定することはできない。そもそも、弾性滑り状態から粘着限界を予測することはできない。そこで、系の減衰状態を表す無次元量ζ2に着目する。式8に示すように、無次元量ζ2は、摩擦減衰係数cTとタイヤねじり剛性kTとによって無次元化されており、諸元の変化に関係なく系の減衰状態を一義的に表現する量である。現在の無次元量ζ2を推定できれば、粘着限界に対応するしきい値と比較することにより,移動滑りの発生を厳密に判定することができる。また、無次元量ζ2と前記しきい値との偏差は移動滑りが発生するまでの余裕度の判断材料にもなることから、無次元量ζ2を知ることは有用である。以下ではまず、無次元量ζ2の取得方法について説明する。
車両1の駆動源5となる内燃機関には一般にトルク変動が生じ、このトルク変動は差動装置DNからタイヤにも伝達される。トルク変動の要因として、内燃機関であれば筒内圧の変動、電動モータであればポール数に起因したコギングトルクがある。差動装置DNには入力されたトルク変動に起因した回転変動が同時に生じる。このとき、差動装置DNの回転変動は以下の式11で表される。
Figure 2023172331000012
式11は境界条件での強制加振と捉えることができる。A1は差動装置DNの回転変動振幅[m]、Ωは加振力(内燃機関Eのトルク変動)の角振動数[rad/s]、tは時間[s]である。このような強制加振状態において、式10に示す状態方程式は次式となる。
Figure 2023172331000013
式12より、Bは外力(加振入力)を表し、もともとの系がもつ固有の振動モード(以下、固有モードと呼ぶ)はヤコビ行列Aによって決まる。ヤコビ行列Aを決定するパラメータはρ,ω1、ω2、ζ2であるが、そのうちρ、ω1は設計諸元(既知数)である。そのため、無次元量ω2と、滑り識別量に対応する無次元量ζ2とが判ると、固有モードが判る。式7において、支配方程式は二つであり、対して未知数となる無次元量もω2、ζ2の二つであるからω2、ζ2は一義的に決定できるはずである。なお、無次元量ω2はタイヤねじり剛性kTから、無次元量ζ2は摩擦減衰係数cT及びタイヤねじり剛性kTから成るので、無次元量ω2、ζ2を決定できることは摩擦減衰係数cT及びタイヤねじり剛性kTを決定できることと同義である。
式12の周期解を次式のように仮定する。
Figure 2023172331000014
式13の周期解を式12に代入し、ガラーキン法に立脚して係数決定を行うと、次の関係式を得る。
Figure 2023172331000015
mは差動装置DNの回転変動振幅に対するホイールの回転変動振幅の増幅比(振幅比)であり、Ψ1は差動装置DNの回転変動に対するホイールの回転変動の位相遅れであるから、差動装置DNの回転変動とホイールの回転変動を計測することで式14より無次元量ω2、ζ2を求めることができる。
つぎに、式14より現在の無次元量ω2、ζ2が判明したとして、無次元量ζ2と固有モードとの関係の取得方法について説明する。無次元量ω2はタイヤねじり剛性kTの変化を反映しているが、同一条件下では大きな変化はないため、タイヤねじり剛性kTは一定であるとして無次元量ζ2と固有モードとの関係について説明する。このとき、無次元量ζ2は摩擦減衰係数cTと一義的に対応する。固有モードの振る舞いはヤコビ行列Aの固有値λを求めることによって記述できる。上述の移動滑りモードに対応する固有値λの振る舞い(根軌跡)を図5に示す。図5の(a)~(b)は図4(a)~(c)に対応する。なお、タイヤねじり剛性kTが変化すると振動モードの周波数が変化するため、図5の根軌跡の縮尺が変化するが、以下で説明する主要な性質に変化はない。また、その際には現状の無次元量ω2,ひいてはタイヤねじり剛性kTが判明していることから、制御上の問題もない。
図5の横軸は実軸、縦軸は虚軸を表し、虚数部は振動解を示す。弾性滑り状態(図5の(a)参照)において一組の根は実軸上にあり振動解が存在しないことを示す。すなわち、移動滑りモードに対応する振動は生じていない。一方で、移動滑り状態(図5の(c)参照)となると、この根は虚数部をもち振動が発生することを示す。すなわち、無次元量ζ2<ζC(図5の(c)参照)となったとき移動滑りモードが発現することが分かる。したがって、無次元量ζCの値に基づき下記のように滑り状態を判定することができる。
無次元量ζ2>ζCとき、弾性滑り状態
無次元量ζ2=ζCのとき、粘着限界
無次元量ζ2<ζCとき、移動滑り状態
ζCは、設計諸元によって異なる値である。図5には、ζCが0.86である場合について、ζ2及び摩擦減衰係数cTcの数値を例示している。無次元量ζCが判ると、式8から弾性滑り限界となるときの摩擦減衰係数cTcを取得することができる。
しかし、以上の理論に基づいて無次元量ω2、ζ2を推定するには、特定の振動が必要になる(例えば、駆動源5となる内燃機関のトルク変動)。すなわち、当該振動が生じていない、あるいは、センサノイズに対して微小であるときにはタイヤスリップを判定することができないという課題がある。そこで、上述したように、もともとの系がもつ固有モードはヤコビ行列Aによって決まることに着目する。すなわち、図3に示す駆動源5からタイヤTと路面との接触面までの力学的モデルを同定し、同定したモデルに対してヤコビ行列Aを評価することによって当該振動が生じていなくても無次元量ω2、ζ2(摩擦減衰係数cT及びタイヤねじり剛性kT)を推定することができる。
以下に、推定部14Aが図3に示す力学的モデル及びタイヤモデルを同定する手法について説明する。このモデルの同定では、主にタイヤねじり剛性kT及び路面摩擦係数λμxをモデルパラメータとして推定する。推定部14Aは、例えば公知のカルマンフィルタやオブザーバを利用してタイヤねじり剛性kT及び路面摩擦係数λμxを推定するとよい。本実施形態では、カルマンフィルタを使用した推定方法の例について説明する。図3に示す駆動源5から接触面までの力学的モデルに基づいた状態方程式は、以下の式15のように表される。以下では、内燃機関を車両1の前部に搭載し、トランスミッションを介して前輪を駆動するFF車両の左前の車輪について例示する。その他の車輪についても、動力伝達部材6(ドライブシャフト)のねじり剛性kDや荷重移動の式などを適切に読み替えることで同様に推定することができる。
Figure 2023172331000016
ここで、θDNは差動装置DNのファイナルギヤ(駆動源5の出力軸)の回転角摂動[rad]、θWはホイールの回転角摂動[rad]、θTはタイヤの回転角摂動[rad]、kTはタイヤのねじり剛性[Nm/rad]、λμxは前後方向の路面摩擦係数(タイヤと路面との摩擦係数)[-]、Fzは輪荷重[N]、aDNはトルク変動振幅[Nm]、φはトルク変動の位相[rad]、Vxは車両重心における前後方向対地速度[m/s]、IDNは差動装置DNのファイナルギヤ(駆動源5の出力軸)の慣性モーメント[kgm2]、kDは動力伝達部材6(ドライブシャフト)のねじり剛性[Nm/rad]、Iwはホイールの慣性モーメント[kgm2]、ITはタイヤの慣性モーメント[kgm2]、Reはタイヤ動半径[m]、Fxは駆動力[N]、Vcxflは車輪(左前車輪)の長手方向における対地速度[m/s]、α^f(^はハットを表す)は前輪のタイヤ横滑り角[deg]、γ^flは車輪(左前車輪)のキャンバ角[deg]、kfはフロントのロール剛性[Nm/rad]、krはリヤのロール剛性[Nm/rad]、hは重心高さ[m]、dfはフロントのトレッド幅[m]、mは車両重量[kg]、ayは横加速度[m/s2]、axは前後加速度[m/s2]、TDNoは差動装置DNのファイナルギヤ(駆動源5の出力軸)の平均トルク[Nm]、Tbrkは制動装置8によりホイールに作用する制動トルク[Nm]、Neはエンジン回転数[rpm]、νは内燃機関の形式に応じた係数であり、直列4気筒4ストロークエンジンの場合は2である。差動装置DNの平均トルクTDNoは、駆動源5の推定出力トルク及びトランスミッションの減速比により求まる。駆動源5の推定出力トルクは、駆動源5が内燃機関の場合にはインテークマニホールド内への空気流入量または負圧によって、駆動源5が電動モータの場合には相電流によって推定することが一般的に可能である。制動トルクTbrkは、油圧供給装置8Aからの油圧に基づいて推定することが一般的に可能である。また、上付き文字の「^(ハット)」は推定値であることを表す。前輪のタイヤ横滑り角α^f及び左前車輪のキャンバ角γ^flは、慣性センサの信号やサスペンションジオメトリなどに基づき、一般的な手法で推定することができる。
一般的に駆動源5が内燃機関である場合には,その点火周期に基づいたトルク変動が生じるため、トランスミッションの出力トルクとして周期的なトルク変動を考慮する必要がある。そのため、トルク変動TDN=aDN・sinφ+TDNoがドライブシャフトを介して車輪に伝達されている状況を想定する。内燃機関では点火周期毎のトルク変動が生じることから,トルク変動の周波数は内燃機関の回転数に比例する。すなわち、トルク変動の角振動数φ・(・はドットを表す)は、次の式16で表される。上付き文字の「・(ドット)」は微分演算子であり、φ・は位相角の微分(すなわち角振動数)を表す。なお、駆動源5が内燃機関である場合には推定精度をより向上させるために周期的なトルク変動をモデル上は考慮しているが、このようなトルク変動や特定の振動が生じていない場合においても以下のカルマンフィルタは機能する。
Figure 2023172331000017
式15の輪荷重Fzは前後左右の各車輪に作用する垂直荷重であり,車両1の加減速や旋回状態による荷重移動を考慮すると次式のように表される。式15は、式17の内の左前の輪荷重Fzflについて記述している。
Figure 2023172331000018
Re(Fz)はタイヤの動半径であり、輪荷重Fzに依存する。Fxはタイヤと路面との間に生じるタイヤ長手方向の摩擦力(駆動力)である。Fxは、マジックフォーミュラ(Magic Formula、Pacejka)に基づくタイヤモデルを用いてkT、λμx、Fz、θW、Vcxfl、α^、γ^を引数とした関数で表され、以下にその詳細を説明する。
タイヤの使用条件のうち、輪荷重や、タイヤと路面との滑りが変化すると、タイヤに生じる駆動力に影響が生じる。以下の式18~21に基づいて、これらの影響を補正係数としてタイヤモデルに実装する。
Figure 2023172331000019
ここで、Fzoは使用するタイヤにて想定されている輪荷重の標準値[N]である。この例において、Fzには左前の輪荷重Fzflが対応する。
Figure 2023172331000020
ここで、αはタイヤ横滑り角[deg]、Vcxは車輪の長手方向における対地速度[m/s]、Vcyは横速度[m/s]である。この例において、αには前輪のタイヤ横滑り角(推定値)α^fを代入する。また、Vcxには後述する(式38)左前車輪の長手方向における対地速度Vcxflを代入する。
Figure 2023172331000021
ここで、γは車輪のキャンバ角[deg]であり、左前車輪のキャンバ角(推定値)γ^flを代入する。
Figure 2023172331000022
ここで、κはスリップ率であり、駆動力方向の滑りを表す指標である。
車両1が直進状態、すなわち横滑り角が0である場合(Pure slip)では,タイヤのねじり剛性kT,路面摩擦係数λμx,輪荷重Fzが主たる摩擦特性を決定付け、駆動力Fxoは、以下の式で表される。
Figure 2023172331000023
Figure 2023172331000024
Figure 2023172331000025
Figure 2023172331000026
Figure 2023172331000027
Figure 2023172331000028
Figure 2023172331000029
Figure 2023172331000030
ここで、pcx1、pDx1、pDx2、pDx3、pEx1、pEx2、pEx3、pEx4、εxは、定数である。εxは、0で割ることを防止するために設定する十分小さな値であり、物理的な意味はない。
横滑り角が生じている場合(Combined slip)、横滑り角が摩擦力飽和に寄与するため、駆動力Fxは次の式30~式37で表される。
Figure 2023172331000031
Figure 2023172331000032
Figure 2023172331000033
Figure 2023172331000034
Figure 2023172331000035
Figure 2023172331000036
Figure 2023172331000037
Figure 2023172331000038
ここで、rBx1、rBx2、rBx3、λxa、rCx1、rEx1、rEx2は、定数である。
車輪速(ホイールの回転速度、θWの微分値)、及び駆動輪(左前輪)の長手方向対地速度Vcxflはスリップ率κを求めるための変数である。駆動輪(左前輪)の長手方向対地速度Vcxflは、車両重心位置の前後方向対地速度(車体速)Vx、前輪舵角δf [deg]、ヨー角速度γ[deg/s]とから次式により求められる。
Figure 2023172331000039
ここで、lはホイールベース[m]である。
車体速Vxは前後加速度ax *の積分値として得られる。前後加速度ax *は,簡易的にax *=axとしてもよいが、6軸慣性センサなどが使える場合には傾斜補正後の値(平面投影)とすることが望ましい。
式15の状態方程式に対して観測方程式は次の式で表される。
Figure 2023172331000040
λμは路面摩擦係数の疑似観測量であり、路面摩擦係数の推定値が0以上1以下の値となるように制限を加える際に使用する。λμは0以上1以下の値が設定されるとよい。例えば、路面摩擦係数の推定値が0より小さくなる場合にはλμは0に設定され、路面摩擦係数の推定値が1より大きくなる場合にはλμは1に設定されるとよい。Vrrは従動輪である後輪の車輪速である。後輪がスリップしていないと仮定した場合には、後輪車輪速Vrrは車体速Vxと等しくなる。観測値は、左後輪の車輪速VWrlと右後輪の車輪速VWrrとに基づいて次の式40のようにする。
Figure 2023172331000041
式15は連続時間表現の状態方程式であり、推定部14Aは観測値y=t(y1, y2, y3, y4)のサンプリング周期毎に計算を実行する。式15及び式39の離散時間表現は次式のように表される。
Figure 2023172331000042
ここで、kはサンプリング周期毎の離散時間であり、y(k)は4次元時系列、x(k)は12次元状態ベクトル、u(k)は12次元システム入力ベクトルである。x(k)及びu(k)は、次の式によって表される。
Figure 2023172331000043
また、v(k)は平均値ベクトル0、共分散行列Qの12次元システム雑音ベクトルであり、w(k)は平均値ベクトル0、共分散行列Rの4次元観測雑音ベクトルである。v(k)とw(k)とは、互いに独立な正規性白色雑音と仮定すると、次の式43で表される。
Figure 2023172331000044
f(x, u)は、式15の離散時間積分(前進オイラー法)に基づいて、次の式44の12次元関数で表される。h(x)は、次の式45で表される4次元関数である。Δtは離散時間間隔(サンプリング周期)である。
Figure 2023172331000045
Figure 2023172331000046
以下に、非線形カルマンフィルタの一種であるEKF(Extended Kalman Filter)を用いて状態推定値x^(k)(^はハットを表す)を計算する手順を示す。
状態推定値x^(k)の初期値x^(0)(^はハットを表す)は、N(x0, Σ0)に従う正規性確率ベクトルとし、次の式46のように表す。
Figure 2023172331000047
k=1, 2,...に対して、事前状態推定値x^-(k)は、次の式47のように表される。
Figure 2023172331000048
線形近似により、次の式48及び式49のようにすると、事前誤差共分散行列が式50のようになる。
Figure 2023172331000049
Figure 2023172331000050
Figure 2023172331000051
これにより、カルマンゲイン行列G(k)は式51になる。
Figure 2023172331000052
状態推定値x^(k)(^はハットを表す)は式52になる。
Figure 2023172331000053
事後誤差共分散行列P(k)は式53になる。
Figure 2023172331000054
以上より、状態推定値x^(k)(式52)が求まり、x^(k)の7番目の要素としてタイヤねじり剛性の推定値k^T、8番目の要素として路面摩擦係数の推定値λ^μxが求まる。カルマンフィルタを用いた手法では、周波数解析による振幅、位相を明示的に求める必要が無く,過渡状態においても適用が容易である。
Figure 2023172331000055
推定車体速V^xは、後輪車輪速センサ12Bによって取得された第1速度と、加速度センサ12Dが取得した前後加速度を積分することによって取得された第2速度との重み付き平均になる。また、重みは、カルマンゲインによって、状態量x(k)の尤度が最大となるように設定される。
状態推定値x^(k)に含まれるタイヤのパラメータをタイヤモデルに反映させることによって、タイヤと路面との間の摩擦減衰係数cT([Nm (rad/s)])を次の式55で表すことができる。
Figure 2023172331000056
ここで、κx、Bx、Cx、Dx、Exは以下の式56で表される。
Figure 2023172331000057

ここで、pCx1、pDx1、pDx2、pDx3、pEx1、pEx2、pEx3、pEx4は定数である。
一方で、無次元量ζCが判ると、式8から粘着限界となるときの摩擦減衰係数cTcを取得できることを上述した。式55において粘着限界となるときのスリップ率をκcとおいて、これが無次元量ζCより求まる粘着限界となるときの摩擦減衰係数cTcと等しいことから、式57の関係が成立する。
Figure 2023172331000058
この式からκcを求めることによって、粘着限界となるときのスリップ率である粘着限界スリップ率κcを取得することができる。粘着限界スリップ率は、オフラインで予め数値的に計算されてマップ化されているとよい。例えば、図6に示すマップを使用して、粘着限界スリップ率は、タイヤねじり剛性kT及び路面摩擦係数λμxに基づいて設定されるとよい。
粘着限界スリップ率が定まると、式22~式37のタイヤモデルに基づいて、粘着限界に対応したタイヤの駆動力Fxである粘着限界駆動力Fxcが定まる。粘着限界駆動力Fxcは、粘着限界に対応したタイヤの駆動トルクTxである粘着限界トルクTxcに変換されてもよい。推定部14Aは、タイヤねじり剛性kT及び路面摩擦係数λμxと粘着限界駆動力Fxc(又は粘着限界トルクTxc)との関係に基づくマップを使用して、タイヤねじり剛性kT及び路面摩擦係数λμxから粘着限界駆動力Fxcを設定してもよい。
タイヤねじり剛性kT及び路面摩擦係数λμxが定まると、式22~式37のタイヤモデルに基づいて、任意のスリップ率κに対するタイヤの駆動力Fxの関係が求まる。この関係に基づいて、最大駆動力スリップ率κmax及び最大駆動力Fxmaxを求めることができる。例えば、数値計算によりdFx/dκ=0となるスリップ率κを探索することで最大駆動力スリップ率κmaxが求まる。最大駆動力スリップ率κmaxが定まると、式22~式37のタイヤモデルに基づいて、最大駆動力に対応したタイヤの駆動力Fxである最大駆動力Fxmaxが定まる。また、タイヤねじり剛性kT及び路面摩擦係数λμxと最大駆動力スリップ率κmax及び最大駆動力Fxmaxとの関係に基づくマップを使用して、タイヤねじり剛性kT及び路面摩擦係数λμxから最大駆動力スリップ率κmax及び最大駆動力Fxmaxを設定してもよい。
次に、図7を参照して制御装置14が行う制御手順について説明する。制御装置14は、所定の時間間隔毎に図7に示す手順を実行する。
最初に、推定部14Aは、車両1が走行する路面が悪路であるか否かを判定する(S1)。本実施形態では、推定部は、車体2に設けられた上下加速度センサからの信号に基づいて車体2の上下加速度を取得し、上下加速度の絶対値が所定の判定値以下であるか否かを判定する。推定部14Aは、上下加速度の絶対値が判定値より大きいとき、路面が悪路であると推定する。他の実施形態では、推定部14Aは、上下加速度に基づく悪路判定に代えて、カメラで撮像した路面画像に基づいて悪路か否かを判定してもよい。また、推定部は、車体2に対する車輪3の上下ストロークをストロークセンサによって検出し、上下ストロークの変化量や変化速度に基づいて悪路か否かを判定してもよい。
路面が悪路である場合(S1の判定結果がYes)、推定部14Aは車体速Vx(車両重心における前後方向対地速度)を求めるときの従動輪速度である後輪速度の影響を小さくする。車体速Vxは、上述したように、後輪車輪速センサ12Bによって取得された後輪速度と、加速度センサ12Dによって取得された前後加速度の積分値との重み付き平均によって取得される。後輪3Rが路面に対してスリップしていない場合、後輪車速と車体速とは一致する。しかし、路面が悪路である場合、路面の凹凸によって従動輪には回転変動が生じるが、この凹凸を通過するタイミングは駆動輪と従動輪とで異なるため、この回転変動は車体速を求める上では観測ノイズとなる。この観測ノイズによる誤差を小さくすることを目的として、路面が悪路ある場合に、推定部14Aは後輪速度が車体速Vxに与える影響を小さくする。本実施形態では、推定部14Aは、ステップS2において、観測誤差の共分散行列Rの4行4列目のパラメータを悪路に対応した値に変更する。これにより、観測値である後輪速度に基づく、車体速Vxの修正量が小さくなる。
推定部14Aは、ステップS1の判定結果がNoの場合又はステップS2の処理を実行した後に、上述したカルマンフィルタを用いてタイヤパラメータを含む状態推定値x^(k)を取得する(S3)。推定部14Aは、カルマンフィルタに、駆動源回転速センサ12Cによって取得された差動装置DNのファイナルギヤの回転速度、前輪車輪速センサ12Aによって取得されたホイールWの回転速度、加速度センサ12Dによって取得された前後加速度、エンジン回転数センサ12Hによって取得されたエンジン回転数、トルク取得部14Cによって取得されたエンジントルク及びホイールWの制動トルクを入力し、状態推定値x^(k)をカルマンフィルタの出力として取得する。
続いて、推定部14Aは、状態推定値x^(k)に含まれるタイヤねじり剛性kT及び路面摩擦係数λμxに基づいて、粘着限界に対応したスリップ率κxである粘着限界スリップ率κCを設定する(S4)。推定部14Aは、上述したように図6に示すマップを使用して、タイヤねじり剛性kT及び路面摩擦係数λμxに基づいて粘着限界スリップ率κCを設定するとよい。
続いて、推定部14Aは、粘着限界スリップ率κCに基づいて、粘着限界に対応したタイヤの駆動力Fxである粘着限界駆動力Fxcを設定する(S5)。推定部14Aは、上述したように、式22~式37のタイヤモデルを使用して、粘着限界スリップ率κCに基づいて粘着限界駆動力Fxcを設定するとよい。推定部14Aは、粘着限界スリップ率κCと粘着限界駆動力Fxcとの関係を規定したマップに基づいて粘着限界駆動力Fxcを設定してもよい。他の実施形態では、推定部14Aは、ステップS4及びS5に代えて、タイヤねじり剛性kT及び路面摩擦係数λμxに基づいて、粘着限界駆動力Fxcを設定してもよい。
続いて、推定部14Aは、状態推定値x^(k)に含まれるタイヤねじり剛性kT及び路面摩擦係数λμxに基づいて、最大駆動力に対応したスリップ率κxである最大駆動力スリップ率κmaxを設定する(S6)。推定部14Aは、例えばタイヤねじり剛性kT及び路面摩擦係数λμxと最大駆動力スリップ率κmaxとの関係を規定するマップを使用して、タイヤねじり剛性kT及び路面摩擦係数λμxに基づいて最大駆動力スリップ率κmaxを設定するとよい。
続いて、推定部14Aは、最大駆動力スリップ率κmaxに基づいて最大駆動力Fxmaxを設定する(S7)。推定部14Aは、上述したように、式22~式37のタイヤモデルを使用して、最大駆動力スリップ率κmaxに基づいて最大駆動力Fxmaxを設定するとよい。推定部14Aは、最大駆動力スリップ率κmaxと最大駆動力Fxmaxとの関係を規定したマップに基づいて最大駆動力Fxmaxを設定してもよい。他の実施形態では、推定部14Aは、タイヤねじり剛性kT及び路面摩擦係数λμxに基づいて、最大駆動力Fxmaxを設定してもよい。
次に、制御部14Bは、車両の走行状態、粘着限界スリップ率κC、及び最大駆動力スリップ率κmaxに基づいて制限スリップ率κlimitを設定する(S8)。車両の走行状態は、車体速Vx、車両の操舵角δ、車両の横加速度、車両の横滑り速度の少なくとも1つを含む。操舵角δは、操舵角センサ12Eによって取得される。他の実施形態では、操舵角δに代えて前輪舵角が使用されてもよい。横加速度ayは、加速度センサ12Dによって取得されるとよい。車両の横滑り速度Vyは、車両の横滑り角βと車体速Vxとに基づいて取得されるとよい(Vy=Vx×sinβ)。車両の横滑り角βは、前輪舵角と前輪のタイヤ横滑り角(推定値)α^fとに基づいて取得されるとよい。
制限スリップ率κlimitは、粘着限界スリップ率κC以上、かつ最大駆動力スリップ率κmax以下の値に設定される。ステップS8において、制御部14Bは、例えば、車体速Vx、粘着限界スリップ率κC、及び最大駆動力スリップ率κmaxに基づいて制限スリップ率κlimitを設定する。制御部14Bは、車体速Vxが大きいほど制限スリップ率κlimitを粘着限界スリップ率κCに近づけるとよい。また、制御部14Bは、車体速Vxが小さいほど制限スリップ率κlimitを最大駆動力スリップ率κmaxに近づけるとよい。
制御部14Bは、図8に示すマップを使用して、車体速Vx、粘着限界スリップ率κC、及び最大駆動力スリップ率κmaxに基づいて制限スリップ率κlimitを設定するとよい。図8に示すように、車体速Vxが低閾値VthL以下のとき、制限スリップ率κlimitは最大駆動力スリップ率κmaxに設定される。一方、車体速Vxが高閾値VthH以上のとき、制限スリップ率κlimitは粘着限界スリップ率κCに設定される。車体速Vxが低閾値VthLより大きく、かつ高閾値VthHより小さいとき、制限スリップ率κlimitは車体速Vxの増加に応じて直線状に減少する。
次に、制御部14Bは、制限スリップ率κlimitに基づいて、制限スリップ率κlimitに対応したタイヤの駆動力Fxである制限駆動力Fxlimitを設定する(S9)。推定部14Aは、式22~式37のタイヤモデルを使用して、制限スリップ率κlimitに基づいて制限駆動力Fxlimitを設定するとよい。推定部14Aは、制限スリップ率κlimitと制限駆動力Fxlimitとの関係を規定したマップに基づいて制限駆動力Fxlimitを設定してもよい。制限駆動力Fxlimitは、粘着限界駆動力Fxc以上、かつ最大駆動力Fxmax以下の値に設定される。
次に、制御部14Bは、駆動源5の要求駆動力Ftが制限駆動力Fxlimit以下であるか否かを判定する(S10)。制御部14Bは、アクセルペダルセンサ12Fからの信号に基づいてアクセルペダル11Bの操作量を取得し、アクセルペダル11Bの操作量に基づいて、駆動源5の要求駆動力Ftを設定するとよい。また、制御部14Bは、アクセルペダル11Bの操作量に加えて内燃機関5Aの回転数に基づいて要求駆動力Ftを設定してもよい。
制御部14Bは、要求駆動力Ftが制限駆動力Fxlimit以下である場合(ステップS10の判定結果がYes)、スリップ率κxが制限スリップ率κlimit以下であるか否かを判定する(S11)。
制御部14Bは、ステップS10の判定結果がNoの場合、又はステップS11の判定結果がNoの場合、タイヤTの駆動力Fxが制限駆動力Fxlimit以下、かつスリップ率κxが制限スリップ率κlimit以下になるように内燃機関5Aの出力を制限する、或いは制動装置8を作動させる(S12)。制御部14Bは、例えば要求駆動力を所定の閾値以下に制限することによってタイヤTの駆動力Fxを制限駆動力Fxlimit以下、或いはスリップ率κxを制限スリップ率κlimit以下にしてもよい。また、制御部14Bは、内燃機関の5Aの出力を所定の閾値以下に制限することによってタイヤTの駆動力Fxを制限駆動力Fxlimit以下、或いはスリップ率κxを制限スリップ率κlimit以下にしてもよい。
以上の実施形態によれば、推定部14Aは、モデルに基づいてタイヤねじり剛性及び路面摩擦係数を推定し、推定されたタイヤねじり剛性及び路面摩擦係数に基づいて粘着限界スリップ率κC、粘着限界駆動力Fxc、最大駆動力スリップ率κmax、及び最大駆動力Fxmaxを推定する。推定部14Aは、差動装置DN、ホイールW、タイヤTによって構成される、駆動源5からタイヤ接触面までの力学的モデルに基づいて粘着限界駆動力を推定するため、構成部品のばらつきや劣化による影響を受け難い。また、推定部14Aは、タイヤねじり剛性及び路面摩擦係数に基づいて粘着限界駆動力を推定するため、乗車人数や積載量といったユースケースによる影響を受け難い。
制御部14Bは、制限駆動力Fxlimitに基づいてタイヤTの駆動力Fxを制御する。制限駆動力Fxlimitは、車体速Vxに応じて変更される。車体速Vxが比較的低い場合(例えば、車体速Vxが低閾値VthL以下)には、タイヤTに移動滑りが生じてもアンダーステア等の車両挙動に与える影響が小さい。そのため、車体速Vxが比較的低い場合には、制限駆動力Fxlimitに粘着限界駆動力Fxcよりも高い値を設定することによって、加速性能や登坂性能を向上させることができる。
制御部14Bは、車体速Vxが比較的高い場合(例えば、車体速Vxが高閾値VthH以上)には、制限駆動力Fxlimitに粘着限界駆動力Fxcを設定する。これにより、タイヤTは弾性滑り状態に維持される。これにより、図9の実施例に示すように、舵角が大きい場合にもタイヤTは弾性滑り状態に維持され、舵角に応じた横加速度を発生させることができる。一方、タイヤTの駆動力Fxを粘着限界駆動力Fxc以下に維持する制御を行わない比較例では、舵角の増加に応じてスリップ率が増加し、舵角に対する横加速度の増加率が低下する。これにより、図10に示すように、実施例では舵角によって定まる理論軌道に比較例よりも近づけることができる。
制御部14Bは、車体速Vxが大きいほどタイヤTを弾性滑り状態に維持する。一方、制御部14Bは、車体速Vxが小さくなるにつれて、タイヤTの移動滑りを許容する。これにより、操舵操作と車両の挙動とを一致させることができると共に、低速時の加速性能及び登坂性能を向上させることができる。
制御装置14が実行する、タイヤTの駆動力Fxを粘着限界駆動力Fxc以下に維持する制御方法は、スリップ率を低い状態に維持するため、エネルギーの損失を低減することができる。これにより、燃費を向上させることができる。
また、タイヤTが移動滑り状態になることが抑制されるため、操舵による車両挙動が路面によって大きく変化せず、乗員は車両1の挙動に対して安心感を得ることができる。
推定部14Aが、駆動源5からタイヤまでの力学モデルと、タイヤモデルとに基づいてタイヤねじり剛性を推定するため、走行制御システム10はタイヤTのひずみセンサ等のタイヤTの状態を直接的に取得するための付加的なセンサを必要としない。
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。例えば、制御装置14が行う制御手順として、アクセルペダル11Bの操作量に基づいて、駆動源5の要求駆動力Ftを設定する加速側の手順を説明したが、ブレーキペダルによって要求駆動力Ftを設定する減速側の手順であってもよい。減速側では、駆動力Fx及びスリップ率κCは負の値で定義されるので、これらの絶対値が制限駆動力Fxlimit及び制限スリップ率κlimitを超えないように駆動源5及び制動装置8の少なくとも一方を制御すればよい。このとき、駆動源5はエンジンブレーキ(電動モータの場合は回生)を加減し、制動装置8は制動トルクを加減することによって、減速側においてもタイヤを弾性滑り状態に維持することができる。
図7のステップS8において、制御部14Bは、車両の操舵角δ、粘着限界スリップ率κC、及び最大駆動力スリップ率κmaxに基づいて制限スリップ率κlimitを設定してもよい。制御部14Bは、操舵角δが大きいほど制限スリップ率κlimitを粘着限界スリップ率κCに近づけるとよい。また、制御部14Bは、操舵角δが小さいほど制限スリップ率κlimitを最大駆動力スリップ率κmaxに近づけるとよい。
制御部14Bは、図11に示すマップを使用して、操舵角δ、粘着限界スリップ率κC、及び最大駆動力スリップ率κmaxに基づいて制限スリップ率κlimitを設定するとよい。図11に示すように、操舵角δが低閾値δthL以下のとき、制限スリップ率κlimitは最大駆動力スリップ率κmaxに設定される。一方、操舵角δが高閾値δthH以上のとき、制限スリップ率κlimitは粘着限界スリップ率κCに設定される。操舵角δが低閾値δthLより大きく、かつ高閾値δthHより小さいとき、制限スリップ率κlimitは操舵角δの増加に応じて直線状に減少する。
この態様によれば、制御部14Bは、操舵角δが大きいほどタイヤTを弾性滑り状態に維持する。一方、操舵角δが小さくなるにつれて、すなわち直進状態に近づくにつれて、タイヤの移動滑りを許容する。これにより、旋回時のアンダーステアを抑制することができ、操舵操作と車両の挙動とを一致させることができる。また、直進時の加速性能及び登坂性能を向上させることができる。
また、図7のステップS8において、制御部14Bは、車両の横加速度ay、粘着限界スリップ率κC、及び最大駆動力スリップ率κmaxに基づいて制限スリップ率κlimitを設定してもよい。制御部14Bは、横加速度ayが大きいほど制限スリップ率κlimitを粘着限界スリップ率κCに近づけるとよい。また、制御部14Bは、横加速度ayが小さいほど制限スリップ率κlimitを最大駆動力スリップ率κmaxに近づけるとよい。
制御部14Bは、図12に示すマップを使用して、横加速度ay、粘着限界スリップ率κC、及び最大駆動力スリップ率κmaxに基づいて制限スリップ率κlimitを設定するとよい。図12に示すように、横加速度ayが低閾値aythL以下のとき、制限スリップ率κlimitは最大駆動力スリップ率κmaxに設定される。一方、横加速度ayが高閾値aythH以上のとき、制限スリップ率κlimitは粘着限界スリップ率κCに設定される。横加速度ayが低閾値aythLより大きく、かつ高閾値aythHより小さいとき、制限スリップ率κlimitは横加速度ayの増加に応じて直線状に減少する。
この態様によれば、制御部14Bは、横加速度ayが大きいほどタイヤTを弾性滑り状態に維持する。一方、横加速度ayが小さくなるにつれて、すなわち直進状態に近づくにつれて、タイヤの移動滑りを許容する。また、直進状態でもカントが大きい場合には横加速度が生じる。直進状態でも急カント条件下では横滑りの危険性が高まるため、弾性滑り状態を維持することで直進安定性を高めることができる。これにより、操舵操作と車両の挙動とを一致させることができる。また、直進時の加速性能及び登坂性能を向上させることができると共に、急カント条件下においても直進安定性を高めることができる。
また、図7のステップS8において、制御部14Bは、操舵角δ、車両の横加速度ay、粘着限界スリップ率κC、及び最大駆動力スリップ率κmaxに基づいて制限スリップ率κlimitを設定してもよい。例えば、制御部14Bは、最初に操舵角δが直進判定値δs以下であるか否かを判定する。直進判定値δsは、車両が直進状態であるか否かを判定するための判定値である。制御部14Bは、操舵角δが直進判定値δs以下である場合に図12のマップを使用して制限スリップ率κlimitを設定する。すなわち、車両が直進状態であると判定された場合に、横加速度ayに基づいて制限スリップ率κlimitが設定される。一方、制御部14Bは、操舵角δが直進判定値δs以上大きい場合に図11のマップを使用して制限スリップ率κlimitを設定する。すなわち、車両が直進状態ではない(旋回状態)と判定された場合に、操舵角δに基づいて制限スリップ率κlimitが設定される。
図7のステップS8において、制御部14Bは、車両の横滑り速度Vy、粘着限界スリップ率κC、及び最大駆動力スリップ率κmaxに基づいて制限スリップ率κlimitを設定してもよい。制御部14Bは、横滑り速度Vyが大きいほど制限スリップ率κlimitを粘着限界スリップ率κCに近づけるとよい。また、制御部14Bは、横滑り速度Vyが小さいほど制限スリップ率κlimitを最大駆動力スリップ率κmaxに近づけるとよい。
制御部14Bは、図13に示すマップを使用して、横滑り速度Vy、粘着限界スリップ率κC、及び最大駆動力スリップ率κmaxに基づいて制限スリップ率κlimitを設定するとよい。図13に示すように、横滑り速度Vyが低閾値VythL以下のとき、制限スリップ率κlimitは最大駆動力スリップ率κmaxに設定される。一方、横滑り速度Vyが高閾値VythH以上のとき、制限スリップ率κlimitは粘着限界スリップ率κCに設定される。操舵角δが低閾値VythLより大きく、かつ高閾値VythHより小さいとき、制限スリップ率κlimitは横滑り速度Vyの増加に応じて直線状に減少する。
この態様によれば、制御部14Bは、横滑り速度Vyが大きいほどタイヤTを弾性滑り状態に維持する。一方、横滑り速度Vyが小さくなるにつれて、すなわち直進状態に近づくにつれて、タイヤの移動滑りを許容する。また、横滑り速度が生じると最大駆動力は低下する。したがって、横風などの外乱影響に対しても最大駆動力の低下を予見し弾性滑り状態を維持することで直進安定性を高めることができる。これにより、旋回時のアンダーステアを抑制することができ、操舵操作と車両の挙動とを一致させることができる。また、直進時の加速性能及び登坂性能を向上させることができると共に、横風などの外乱作用時においても直進安定性を高めることができる。
1 :車両
2 :車体
3F :前輪
3R :後輪
5 :駆動源
5A :内燃機関
5B :減速装置
5C :差動装置
6 :動力伝達部材
8 :制動装置
10 :走行制御システム
11 :運転操作子
12 :車両センサ
12A :前輪車輪速センサ
12B :後輪車輪速センサ
12C :駆動源回転速センサ
12D :加速度センサ
12E :操舵角センサ
12F :アクセルペダルセンサ
12G :ブレーキペダルセンサ
12H :エンジン回転数センサ
14 :制御装置
14A :推定部
14B :制御部

Claims (6)

  1. 駆動源と、前記駆動源に動力伝達部材を介して接続されたホイール及び前記ホイールに取り付けられたタイヤを有する車輪と、前記車輪を制動する制動装置とを有する車両の走行制御システムであって、
    前記駆動源の回転速度を取得する第1回転センサと、
    前記ホイールの回転速度を取得する第2回転センサと、
    車体速に関連する情報を取得する車体速取得手段と、
    前記ホイールのトルクを取得するトルク取得手段と、
    少なくとも前記駆動源及び前記ホイールの回転速度、前記車体速、及び前記ホイールのトルクに基づいて、前記タイヤの剛性であるタイヤねじり剛性及び前記タイヤと路面との摩擦特性である路面摩擦係数を推定し、前記タイヤねじり剛性及び前記路面摩擦係数に基づいて前記タイヤの前記路面に対する粘着限界に対応したスリップ率である粘着限界スリップ率と前記タイヤの駆動力が最大になるときのスリップ率である最大駆動力スリップ率とを推定する推定部と、
    前記車両の走行状態、前記粘着限界スリップ率、及び前記最大駆動力スリップ率に基づいて制限スリップ率を設定し、前記車両の駆動力が前記制限スリップ率に対応する制限駆動力を超えないように前記駆動源及び前記制動装置の少なくとも一方を制御する制御部とを有する走行制御システム。
  2. 前記走行状態は、前記車体速であり、
    前記制御部は、前記制限スリップ率を前記粘着限界スリップ率以上、かつ前記最大駆動力スリップ率以下の値に設定し、前記車体速が大きいほど前記制限スリップ率を前記粘着限界スリップ率に近づける請求項1に記載の走行制御システム。
  3. 前記走行状態は、前記車両の操舵角であり、
    前記制御部は、前記制限スリップ率を前記粘着限界スリップ率以上、かつ前記最大駆動力スリップ率以下の値に設定し、前記操舵角が大きいほど前記制限スリップ率を前記粘着限界スリップ率に近づける請求項1に記載の走行制御システム。
  4. 前記走行状態は、前記操舵角と前記車両の横加速度であり、
    前記制御部は、前記操舵角が所定の閾値以下である場合に、前記横加速度が大きいほど前記制限スリップ率を前記粘着限界スリップ率に近づける請求項3に記載の走行制御システム。
  5. 前記走行状態は、前記車両の横滑り速度であり、
    前記制御部は、前記制限スリップ率を前記粘着限界スリップ率以上、かつ前記最大駆動力スリップ率以下の値に設定し、前記横滑り速度が大きいほど前記制限スリップ率を前記粘着限界スリップ率に近づける請求項1に記載の走行制御システム。
  6. 駆動源と、前記駆動源に動力伝達部材を介して接続されたホイール及び前記ホイールに取り付けられたタイヤを有する車輪と、前記車輪を制動する制動装置と、制御装置とを有する車両において、前記制御装置が実行する走行制御方法であって、
    少なくとも前記駆動源及び前記ホイールの回転速度と車体速とに基づいて、前記タイヤの剛性であるタイヤねじり剛性及び前記タイヤと路面との摩擦特性である路面摩擦係数を推定し、
    前記タイヤねじり剛性及び前記路面摩擦係数に基づいて前記タイヤの粘着限界に対応した粘着限界スリップ率と前記タイヤの駆動力が最大になるときのスリップ率である最大駆動力スリップ率とを推定し、
    前記車両の走行状態、前記粘着限界スリップ率、及び前記最大駆動力スリップ率に基づいて制限スリップ率を設定し、
    前記車両の駆動力が前記制限スリップ率に対応する制限駆動力を超えないように前記駆動源及び前記制動装置の少なくとも一方を制御する走行制御方法。
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