図1は、本発明が適用された車両用駆動装置10の構成を説明する骨子図である。この車両用駆動装置10は横置き型自動変速機であって、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)型車両に好適に採用されるものであり、走行用の動力源としてエンジン12を備えている。内燃機関にて構成されているエンジン12の出力は、エンジン12のクランク軸、流体式伝動装置としてのトルクコンバータ14から前後進切換装置16、ベルト式の無段変速機(CVT)18、減速歯車装置20を介して差動歯車装置22に伝達され、左右の駆動輪24L、24Rへ分配される。
トルクコンバータ14は、エンジン12のクランク軸に連結されたポンプ翼車14p、およびトルクコンバータ14の出力側部材に相当するタービン軸34を介して前後進切換装置16に連結されたタービン翼車14tを備えており、流体を介して動力伝達を行うようになっている。また、それ等のポンプ翼車14pおよびタービン翼車14tの間にはロックアップクラッチ26が設けられており、油圧制御回路100(図2、図3参照)内の図示しない切換弁などによって係合側油室および解放側油室に対する油圧供給が切り換えられることにより、係合または解放されるようになっており、完全係合させられることによってポンプ翼車14pおよびタービン翼車14tは一体回転させられる。ポンプ翼車14pには、無段変速機18を変速制御したりベルト挟圧力を発生させたり、ロックアップクラッチ26を係合解放制御したり、或いは各部に潤滑油を供給したりするための油圧をエンジン12により回転駆動されることにより発生する機械式のオイルポンプ28が連結されている。
前後進切換装置16は、ダブルピニオン型の遊星歯車装置を主体として構成されており、トルクコンバータ14のタービン軸34はサンギヤ16sに一体的に連結され、無段変速機18の入力軸36はキャリア16cに一体的に連結されている一方、キャリア16cとサンギヤ16sは前進用クラッチC1を介して選択的に連結され、リングギヤ16rは後進用ブレーキB1を介してハウジングに選択的に固定されるようになっている。前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1は断続装置に相当するもので、何れも油圧シリンダによって摩擦係合させられる油圧式摩擦係合装置である。
そして、前進用クラッチC1が係合させられるとともに後進用ブレーキB1が解放されると、前後進切換装置16は一体回転状態とされることによりタービン軸34が入力軸36に直結され、前進用動力伝達経路が成立(達成)させられて、前進方向の駆動力が無段変速機18側へ伝達される。また、後進用ブレーキB1が係合させられるとともに前進用クラッチC1が解放されると、前後進切換装置16は後進用動力伝達経路が成立(達成)させられて、入力軸36はタービン軸34に対して逆方向へ回転させられるようになり、後進方向の駆動力が無段変速機18側へ伝達される。また、前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1が共に解放されると、前後進切換装置16は動力伝達を遮断するニュートラル(遮断状態)になる。
無段変速機18は、入力軸36に設けられた入力側部材である有効径が可変の入力側可変プーリ(プライマリシーブ)42と、出力軸44に設けられた出力側部材である有効径が可変の出力側可変プーリ(セカンダリシーブ)46と、それ等の可変プーリ42、46に巻き掛けられた伝動ベルト48とを備えており、可変プーリ42、46と伝動ベルト48との間の摩擦力を介して動力伝達が行われる。
可変プーリ42および46は、入力軸36および出力軸44にそれぞれ固定された固定回転体42aおよび46aと、入力軸36および出力軸44に対して軸まわりの相対回転不能かつ軸方向の移動可能に設けられた可動回転体42bおよび46bと、それらの間のV溝幅を可変とする推力を付与する入力側油圧シリンダ42cおよび出力側油圧シリンダ46cとを備えて構成されており、入力側油圧シリンダ42cの油圧(変速制御圧PRATIO)が油圧制御回路100によって制御されることにより、両可変プーリ42、46のV溝幅が変化して伝動ベルト48の掛かり径(有効径)が変更され、変速比γ(=入力軸回転速度NIN/出力軸回転速度NOUT)が連続的に変化させられる。また、出力側油圧シリンダ46cの油圧(挟圧力制御圧PBELT)は、伝動ベルト48が滑りを生じないように油圧制御回路100によって調圧制御される。
図2は、図1の車両用駆動装置10などを制御するために車両に設けられた制御系統の要部を説明するブロック線図である。電子制御装置50は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、エンジン12の出力制御や無段変速機18の変速制御およびベルト挟圧力制御やロックアップクラッチ26のトルク容量制御等を実行するようになっており、必要に応じてエンジン制御用や無段変速機18およびロックアップクラッチ26の油圧制御用等に分けて構成される。
電子制御装置50には、エンジン回転速度センサ52により検出されたクランク軸回転角度(位置)ACR(°)およびエンジン12の回転速度(エンジン回転速度)NEに対応するクランク軸回転速度を表す信号、タービン回転速度センサ54により検出されたタービン軸34の回転速度(タービン回転速度)NTを表す信号、入力軸回転速度センサ56により検出された無段変速機18の入力回転速度である入力軸36の回転速度(入力軸回転速度)NINを表す信号、車速センサ(出力軸回転速度センサ)58により検出された無段変速機18の出力回転速度である出力軸44の回転速度(出力軸回転速度)NOUTすなわち出力軸回転速度NOUTに対応する車速Vを表す車速信号、スロットルセンサ60により検出されたエンジン12の吸気配管32(図1参照)に備えられた電子スロットル弁30のスロットル弁開度θTHを表すスロットル弁開度信号、冷却水温センサ62により検出されたエンジン12の冷却水温TWを表す信号、CVT油温センサ64により検出された無段変速機18等の油圧回路の油温TCVTを表す信号、アクセル開度センサ66により検出されたアクセルペダル68の踏込操作量であるアクセル操作量(アクセル開度)Accを表すアクセル開度信号、フットブレーキスイッチ70により検出された常用ブレーキであるフットブレーキの操作の有無BONを表すブレーキ操作信号、レバーポジションセンサ72により検出されたシフトレバー74のレバーポジション(操作位置)PSHを表す操作位置信号などが供給されている。
また、電子制御装置50からは、エンジン12の出力制御の為のエンジン出力制御指令信号、例えば電子スロットル弁30の開閉を制御するためのスロットルアクチュエータ76を駆動するスロットル信号や燃料噴射装置78から噴射される燃料の量を制御するための噴射信号や点火装置80によるエンジン12の点火時期を制御するための点火時期信号などが出力される。また、無段変速機18の変速比γを変化させる為の変速制御指令信号例えば変速制御圧PRATIOを制御するための指令信号、伝動ベルト48の挟圧力を調整させる為の挟圧力制御指令信号例えば挟圧力制御圧PBELTを制御するための指令信号、ロックアップクラッチ26の係合、解放、スリップ量を制御させる為のロックアップ制御指令信号例えば油圧制御回路100内の図示しないオンオフソレノイド弁やロックアップクラッチ26のトルク容量を調節するリニアソレノイド弁を駆動するための指令信号、ライン油圧PLを制御するリニアソレノイド弁SLTを駆動するための指令信号などが油圧制御回路100へ出力される。
このライン油圧PLは、例えば無段変速機18へ入力される変速機入力トルクTINに応じた値が得られるように出力された上記指令信号に従って駆動されるリニアソレノイド弁SLTの出力油圧である制御油圧PSLTに基づいて、油圧制御回路100内の図示しない例えばリリーフ型調圧弁(レギュレータバルブ)によってエンジン12により回転駆動される機械式オイルポンプ28から発生する油圧を元圧として調圧される。
シフトレバー74は、例えば運転席の近傍に配設され、5つのレバーポジション「P」、「R」、「N」、「D」、および「L」(図3参照)のうちの何れかへ手動操作されるようになっている。
「P」ポジション(レンジ)は車両用駆動装置10の動力伝達経路を解放しすなわち車両用駆動装置10の動力伝達が遮断されるニュートラル状態(中立状態)とし且つメカニカルパーキング機構によって機械的に出力軸44の回転を阻止(ロック)するための駐車ポジション(位置)であり、「R」ポジションは出力軸44の回転方向を逆回転とするための後進走行ポジション(位置)であり、「N」ポジションは車両用駆動装置10の動力伝達が遮断されるニュートラル状態とするための中立ポジション(位置)であり、「D」ポジションは無段変速機18の変速を許容する変速範囲で自動変速モードを成立させて自動変速制御を実行させる前進走行ポジション(位置)であり、「L」ポジションは強いエンジンブレーキが作用させられるエンジンブレーキポジション(位置)である。
図3は、油圧制御回路100のうち無段変速機18のベルト挟圧力制御、変速比制御、およびシフトレバー74の操作に伴う前進用クラッチC1或いは後進用ブレーキB1の係合油圧制御に関する部分を示す要部油圧回路図であり、伝動ベルト48が滑りを生じないように出力側油圧シリンダ46cの油圧である挟圧力制御圧PBELTを調圧する挟圧力コントロールバルブ110、変速比γが連続的に変化させられるように入力側油圧シリンダ42cの油圧である変速制御圧PRATIOを調圧する変速比コントロールバルブUP116および変速比コントロールバルブDN118、前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1が係合或いは解放されるようにシフトレバー74の操作に従って油路が機械的に切り換えられるマニュアルバルブ120を備えている。
上記マニュアルバルブ120において、入力ポート120aにはライン油圧PLを元圧として図示しないモジュレータバルブによって調圧された一定圧のモジュレータ油圧PMが供給される、すなわちモジュレータバルブによってモジュレータ油圧PMに調圧された作動油が供給される。
そして、シフトレバー74が「D」ポジション或いは「L」ポジションに操作されると、モジュレータ油圧PMが前進走行用出力圧として前進用出力ポート120fを経て前進用クラッチC1に供給され且つ後進用ブレーキB1内の作動油が後進用出力ポート120rから排出ポートEXを経て例えば大気圧にドレーン(排出)されるようにマニュアルバルブ120の油路が切り換えられ、前進用クラッチC1が係合させられると共に後進用ブレーキB1が解放させられる。
また、シフトレバー74が「R」ポジションに操作されると、モジュレータ油圧PMが後進走行用出力圧として後進用出力ポート120rを経て後進用ブレーキB1に供給され且つ前進用クラッチC1内の作動油が前進用出力ポート120fから排出ポートEXを経て例えば大気圧にドレーン(排出)されるようにマニュアルバルブ120の油路が切り換えられ、後進用ブレーキB1が係合させられると共に前進用クラッチC1が解放させられる。
また、シフトレバー74が「P」ポジションおよび「N」ポジションに操作されると、入力ポート120aから前進用出力ポート120fへの油路および入力ポート120aから後進用出力ポート120rへの油路がいずれも遮断され且つ前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1内の作動油が何れもマニュアルバルブ120からドレーンされるようにマニュアルバルブ120の油路が切り換えられ、前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1共に解放させられる。
変速比コントロールバルブUP116は、軸方向へ移動可能に設けられることにより入出力ポート116tおよび入出力ポート116iを開閉するスプール弁子116aと、そのスプール弁子116aを入出力ポート116tと入出力ポート116iとが連通する方向へ付勢する付勢手段としてのスプリング116bと、そのスプリング116bを収容し、スプール弁子116aに入出力ポート116tと入出力ポート116iとが連通する方向の推力を付与するために電子制御装置50によってデューティ制御されるソレノイド弁DS2の出力油圧である制御油圧PS2を受け入れる油室116cと、スプール弁子116aに入出力ポート116iを閉弁する方向の推力を付与するために電子制御装置50によってデューティ制御されるソレノイド弁DS1の出力油圧である制御油圧PS1を受け入れる油室116dとを備えている。
また、変速比コントロールバルブDN118は、軸方向へ移動可能に設けられることにより入出力ポート118tを開閉するスプール弁子118aと、そのスプール弁子118aを閉弁方向へ付勢する付勢手段としてのスプリング118bと、そのスプリング118bを収容し、スプール弁子118aに閉弁方向の推力を付与するために電子制御装置50によってデューティ制御されるソレノイド弁DS1の出力油圧である制御油圧PS1を受け入れる油室118cと、スプール弁子118aに開弁方向の推力を付与するために電子制御装置50によってデューティ制御されるソレノイド弁DS2の出力油圧である制御油圧PS2を受け入れる油室118dとを備えている。
ソレノイド弁DS1は、入力側油圧シリンダ42cへ作動油を供給してその油圧(変速制御圧PRATIO)を高め入力側可変プーリ42のV溝幅を小さくして変速比γを小さくする側すなわちアップシフト側へ制御するために制御油圧PS1を出力する。また、ソレノイド弁DS2は、入力側油圧シリンダ42cの作動油を排出して変速制御圧PRATIOを低め入力側可変プーリ42のV溝幅を大きくして変速比γを大きくする側すなわちダウンシフト側へ制御するために制御油圧PS2を出力する。
具体的には、制御油圧PS1が出力されると変速比コントロールバルブUP116に入力されたライン油圧PLが入力側油圧シリンダ42cへ供給されて変速制御圧PRATIOが連続的に制御され、制御油圧PS2が出力されると入力側油圧シリンダ42cの作動油が入出力ポート116tから入出力ポート116iさらに入出力ポート118tを経て排出ポート118xから排出されて変速制御圧PRATIOがな連続的に制御される。
例えば図4に示すようなアクセル開度Accをパラメータとして車速Vと無段変速機18の目標入力軸回転速度NIN *との予め記憶された関係(変速マップ)から実際の車速Vおよびアクセル開度Accで示される車両状態に基づいて設定される目標入力軸回転速度NIN *と実際の入力軸回転速度(以下、実入力軸回転速度という)NINとが一致するように、それ等の回転速度差(偏差)ΔNIN(=NIN *−NIN)に応じて無段変速機18の変速が実行される、すなわち入力側油圧シリンダ42cに対する作動油の供給および排出により変速制御圧PRATIOが調圧されて変速比γが連続的に変化させられる。
図4の変速マップは変速条件に相当するもので、車速Vが小さくアクセル開度Accが大きい程大きな変速比γになる目標入力軸回転速度NIN *が設定されるようになっている。また、車速Vは出力軸回転速度NOUTに対応するため、入力軸回転速度NINの目標値である目標入力軸回転速度NIN *は目標変速比に対応し、無段変速機18の最小変速比γmin と最大変速比γmax の範囲内で定められる。
挟圧力コントロールバルブ110は、軸方向へ移動可能に設けられることにより出力ポート110tを開閉するスプール弁子110aと、そのスプール弁子110aを開弁方向へ付勢する付勢手段としてのスプリング110bと、そのスプリング110bを収容し、スプール弁子110aに開弁方向の推力を付与するために電子制御装置50によってデューティ制御されるリニアソレノイド弁SLTの出力油圧である制御油圧PSLTを受け入れる油室110cと、スプール弁子110aに閉弁方向の推力を付与するために出力した挟圧力制御圧PBELTを受け入れるフィードバック油室110dとを備えており、リニアソレノイド弁SLTからの制御油圧PSLTをパイロット圧としてライン油圧PLを連続的に調圧制御して挟圧力制御圧PBELTを出力する。
例えば図5に示すような伝達トルクに対応する変速機入力トルクTINをパラメータとして変速比γと必要油圧PBELT *(ベルト挟圧力に相当)とのベルト滑りが生じないように予め記憶された関係(挟圧力マップ)から例えば所定の手順で設定された変速機入力トルクTINおよび実際の変速比γで示される車両状態に基づいて決定された必要油圧PBELT *が得られるように出力側油圧シリンダ46cの挟圧力制御圧PBELTが調圧され、この挟圧力制御圧PBELTに応じてベルト挟圧力すなわち可変プーリ42、46と伝動ベルト48との間の摩擦力が増減させられる。
図6は、電子制御装置50による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図6において、変速制御手段150は、例えば図4に示すような変速マップから実際の車速Vおよびアクセル開度Accに基づいて目標入力軸回転速度NIN *を設定し、実入力軸回転速度NINがその目標入力軸回転速度NIN *と一致するように回転速度差ΔNIN(=NIN *−NIN)に応じて無段変速機18の変速比γをフィードバック制御する。すなわち、入力側油圧シリンダ42cの変速制御圧PRATIOを調圧する変速制御指令信号(油圧指令)STを油圧制御回路100へ出力して変速比γを連続的に変化させる。
ベルト挟圧力制御手段152は、例えば図5に示すような挟圧力マップから実際の変速比γおよび所定の手順で設定された変速機入力トルクTINに基づいて伝動ベルト48のベルト挟圧力すなわち出力側油圧シリンダ46cの必要油圧PBELT *を設定し、その必要油圧PBELT *が得られるように出力側油圧シリンダ46cの挟圧力制御圧PBELTを調圧する挟圧力制御指令信号SBを油圧制御回路100へ出力してベルト挟圧力を増減させる。
油圧制御回路100は、上記変速制御指令信号STに従って無段変速機18の変速が実行されるようにソレノイド弁DS1およびソレノイド弁DS2を作動させて変速制御圧PRATIOを調圧すると共に、上記挟圧力制御指令信号SBに従ってベルト挟圧力が増減されるようにリニアソレノイド弁SLTを作動させて挟圧力制御圧PBELTを調圧する。
エンジン出力制御手段154は、エンジン12の出力制御の為にエンジン出力制御指令信号SE、例えばスロットル信号や噴射信号や点火時期信号などをそれぞれスロットルアクチュエータ76や燃料噴射装置78や点火装置80へ出力する。例えば、エンジン出力制御手段154は、アクセル開度Accが大きくなる程大きな開き角とされるように予め定められたスロットル開度θTHとなるように電子スロットル弁30を開閉するスロットル信号をスロットルアクチュエータ28へ出力し、スロットル開度θTHに対応する吸入空気量Aおよび燃料噴射量F(すなわち空燃比A/F)となるように噴射信号を燃料噴射装置78へ出力してエンジン12の出力トルク(以下エンジントルクという)TEを制御する。
ところで、油圧制御回路100においては、上記変速制御指令信号STや上記挟圧力制御指令信号SBに対して実際の油圧値例えばライン圧や変速制御圧PRATIOや挟圧力制御圧PBELT等にはある程度の油圧応答遅れが生じることが良く知られている。
例えば、ベルト挟圧力制御手段152において、所定の手順で設定された変速機入力トルクTINとして実際の変速機入力トルク(以下実変速機入力トルクという)TINcを用い、その実変速機入力トルクTINcに基づいて設定した必要油圧PBELT *が得られるように挟圧力制御指令信号SBが油圧制御回路100へ出力されると、油圧制御回路100の応答遅れにより実際の挟圧力制御圧PBELTは必要油圧PBELT *に対して小さくなる。そうすると、必要油圧PBELT *が不足した状態ですなわち実変速機入力トルクTINcの伝達に必要な挟圧力制御圧PBELTが不足した状態で実変速機入力トルクTINcが無段変速機18へ入力されることになり、ベルト滑りが過度に発生して耐久性が損なわれる可能性がある。
一方で、同じくベルト挟圧力制御手段152において、所定の手順で設定された変速機入力トルクTINとしてスロットル弁開度θTHやそのスロットル弁開度θTHから求まる吸入空気量A等のエンジン負荷に基づいて算出された推定エンジントルクTE0にトルクコンバータ14のトルク比(=トルクコンバータ14の出力トルク(以下トルコン出力トルクという)TT/トルクコンバータ14の入力トルク(以下トルコン入力トルクという)TP)tを掛けて算出された推定変速機入力トルクTIN0を用い、その推定変速機入力トルクTIN0に基づいて設定した必要油圧PBELT *が得られるように挟圧力制御指令信号SBが油圧制御回路100へ出力されると、特にスロットル弁開度θTHが増加する加速操作中である場合にはスロットル弁開度θTH等の増大に対して実際のエンジントルク(以下実エンジントルクという)TEcの発生に応答遅れが生じることにより実変速機入力トルクTINcにも応答遅れが生じて必要油圧PBELT *は実変速機入力トルクTINcに対して大きくなる。つまり、推定エンジントルクTE0に基づいた必要油圧PBELT *が実変速機入力トルクTINcに対して過剰となる。そうすると、実変速機入力トルクTINcの伝達のために必要以上の挟圧力制御圧PBELTを発生することになり、挟圧力制御圧PBELT発生のためのオイルポンプ28駆動による動力損失が増えて燃費が悪化する可能性がある。
そこで、本実施例では、実変速機入力トルクTINcの伝達に必要な無段変速機18の油圧が確保され且つ実変速機入力トルクTINcの伝達のために過剰な油圧とならないように、無段変速機18の油圧制御の基になる変速機入力トルクTINを所定の手順で設定する。以下に、その変速機入力トルクTINを設定する所定の手順を詳細に説明する。
なお、前進走行時には、前進用クラッチC1の係合によりタービン軸34が入力軸36に直結されて変速機入力トルクTINがトルコン出力トルクTTに等しくなることから、前進走行時と後進走行時とを特に区別しない場合にはトルコン出力トルクTTは変速機入力トルクTINを表すものとする。本実施例では、前進走行時を前提として変速機入力トルクTINの設定を説明するが、後進走行時の場合にはトルコン出力トルクTTに前後進切換装置16の所定の変速比を掛けることにより変速機入力トルクTINとなる。また、トルクコンバータ14の入力回転速度はエンジン回転速度NEに等しいので、エンジン回転速度NEで表す。
図6に戻り、推定エンジントルク算出手段156は、スロットル弁開度θTH、吸入空気量A、燃料噴射量F、空燃比A/Fなどのエンジン12に要求される負荷(出力)すなわちエンジン負荷に基づいて推定エンジントルクTE0を算出(推定)する。例えば、推定エンジントルク算出手段156は、図7に示すようなスロットル弁開度θTH(或いは吸入空気量A)をパラメータとしてエンジン回転速度NEと推定エンジントルク(エンジントルク推定値)TE0との予め実験的に求められて記憶された関係(エンジントルクマップ)から実際のエンジン回転速度NEおよびスロットル弁開度θTH(或いは吸入空気量A)に基づいて推定エンジントルクTE0を求める。或いは、推定エンジントルク算出手段156は、よく知られた式からエンジン12の吸入負圧に基づいてエンジン負荷率を算出し、そのエンジン負荷率により推定エンジントルクTE0を算出する。
実トルコン入力トルク算出手段158は、実際のトルコン入力トルク(以下実トルコン入力トルクという)TPcを算出する。例えば、実トルコン入力トルク算出手段158は、トルクコンバータ14の容量係数Cなどの予め定められた作動特性に基づいて実トルコン入力トルクTPcを算出する。
より具体的には、図8に示すように、実トルコン入力トルク算出手段158は、エンジン回転速度NEおよびタービン回転速度NTに基づいてトルクコンバータ14の速度比e(=NT/NE)を算出する速度比演算部160、図9に示すような速度比eに対するトルク比t、効率η、および容量係数Cがそれぞれ定められている予め記憶された関係(トルクコンバータ特性曲線)から、速度比演算部160で算出された実際の速度比eに基づいてトルクコンバータ14の容量係数Cを算出する容量係数演算部162、次式(1)に示す関係からその容量係数Cおよびエンジン回転速度NEに基づいて実トルコン入力トルクTPcを算出する実トルコン入力トルク演算部164を備え、トルクコンバータ14の予め定められた作動特性に基づいて実トルコン入力トルクTPcを算出する。
TPc=C×NE 2 ・・・(1)
図6に戻り、先読みエンジン回転速度算出手段166は、前記推定エンジントルクTE0と前記実トルコン入力トルクTPcとの差分トルクΔTE、無段変速機18の油圧を制御する際の油圧応答遅れ時間tdに対応する所定時間tdf、およびエンジン回転部慣性モーメント(エンジンイナーシャ)IEに基づいて、所定時間tdf後のエンジン回転速度NEを先読みした先読みエンジン回転速度NEfを算出する。つまり、トルコン入力トルクTPの増分値である差分トルクΔTEとエンジンイナーシャIEとから油圧応答遅れ分を先読みした先読みエンジン回転速度NEfを算出する。
ここで、油圧応答遅れ時間tdは予め実験的に求められて記憶された定数(実験値)であり、エンジンイナーシャIEは設計的にもしくは予め実験的に求められて記憶された定数(実験値)である。また、所定時間tdfは、現時点から油圧応答遅れ時間td分だけ経過した時点の車両状態を現時点にて油圧応答遅れ時間tdを考慮して算出するための先読み時間であって、油圧応答遅れ時間tdと同程度の時間が設定される。例えば、所定時間tdfは、0.1秒程度に設定される。
より具体的には、図10に示すように、先読みエンジン回転速度算出手段166は、推定エンジントルクTE0および実トルコン入力トルクTPcに基づいて差分トルクΔTE(=TE0−TPc)を算出するトルコン入力トルク増分演算部168、次式(2)を基本式とする次式(3)に示す関係からその差分トルクΔTE、エンジンイナーシャIE、および所定時間tdfに基づいてトルクコンバータ14の出力増分回転速度としてのエンジン回転速度増分ΔNEを算出するエンジン回転速度増分演算部170、現在のエンジン回転速度NEおよびそのエンジン回転速度増分ΔNEに基づいて先読みエンジン回転速度NEf(=NE+ΔNE)を算出する先読みエンジン回転速度演算部172を備え、差分トルクΔTE、所定時間tdf、およびエンジンイナーシャIEに基づいて先読みエンジン回転速度NEfを算出する。
IE×(dNE/dt)=ΔTE ・・・(2)
ΔNE=ΔTE/IE×tdf ・・・(3)
図6に戻り、先読みトルコン出力トルク算出手段174は、前記先読みエンジン回転速度算出手段166により差分トルクΔTEおよび所定時間tdfに基づいて算出された先読みエンジン回転速度NEf、およびトルクコンバータ14の容量係数C、トルク比tなどの予め定められた作動特性に基づいて、変速機入力トルクTINに対応する所定時間tdf後の実際のトルコン出力トルク(以下実トルコン出力トルクという)TTcを先読みした先読みトルコン出力トルクTTfを算出する。つまり、先読みエンジン回転速度NEfとトルクコンバータ14の予め定められた作動特性とから油圧応答遅れ分を先読みした先読みトルコン出力トルクTTfを算出する。
より具体的には、図11に示すように、先読みトルコン出力トルク算出手段174は、先読みエンジン回転速度NEfおよびタービン回転速度NTに基づいて所定時間tdf後のトルクコンバータ14の速度比eを先読みした先読み速度比ef(=NT/NEf)を算出する先読み速度比演算部176、前記図9に示すような予め記憶されたトルクコンバータ特性曲線からその先読み速度比efに基づいて所定時間tdf後のトルクコンバータ14の容量係数Cを先読みした先読み容量係数Cfを算出する先読み容量係数演算部178、前記図9に示すような予め記憶されたトルクコンバータ特性曲線からその先読み速度比efに基づいて所定時間tdf後のトルクコンバータ14のトルク比tを先読みした先読みトルク比tfを算出する先読みトルク比演算部180、次式(4)に示す関係からその先読み容量係数Cf、先読みエンジン回転速度NEf、および先読みトルク比tfに基づいて先読みトルコン出力トルクTTfを算出する先読みトルコン出力トルク演算部182を備え、先読みエンジン回転速度NEfおよびトルクコンバータ14の予め定められた作動特性に基づいて先読みトルコン出力トルクTTfを算出する。
TTf=Cf×NEf 2×tf ・・・(4)
図12は、電子制御装置50の制御作動の要部すなわち無段変速機18の油圧制御の基になる先読みトルコン出力トルクTTfを設定するための制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行されるものである。
先ず、ステップ(以下、ステップを省略する)S1において、エンジン回転速度NE、タービン回転速度NT、スロットル弁開度θTH、所定時間tdf、エンジンイナーシャIEなどが読み込まれる。
続いて、前記推定エンジントルク算出手段156に対応するS2において、例えば図7に示すようなエンジントルクマップから実際のエンジン回転速度NEおよびスロットル弁開度θTH(或いは吸入空気量A)に基づいて推定エンジントルクTE0(=エンジントルクマップ(エンジン回転速度NE、スロットル弁開度θTH))が求められる。
続いて、前記実トルコン入力トルク算出手段158に対応するS3において、トルクコンバータ14の容量係数Cなどの予め定められた作動特性に基づいて実トルコン入力トルクTPcが算出される。具体的には、前記速度比演算部160に対応するS31において、エンジン回転速度NEおよびタービン回転速度NTに基づいてトルクコンバータ14の速度比e(=NT/NE)が算出される。次いで、前記容量係数演算部162に対応するS32において、例えば図9に示すようなトルクコンバータ特性曲線から上記S31にて算出された速度比eに基づいてトルクコンバータ14の容量係数C(=トルクコンバータ特性曲線(速度比e))が算出される。さらに、前記実トルコン入力トルク演算部164に対応するS33において、上記S32にて算出された容量係数Cおよびエンジン回転速度NEに基づいて実トルコン入力トルクTPc(=C×NE 2)が算出される。
続いて、前記先読みエンジン回転速度算出手段166に対応するS4において、トルコン入力トルクTPの増分トルクである差分トルクΔTE、油圧応答遅れ時間tdに対応する所定時間tdf、およびエンジンイナーシャIEに基づいて先読みエンジン回転速度NEfが算出される。具体的には、前記トルコン入力トルク増分演算部168に対応するS41において、前記S2にて算出された推定エンジントルクTE0および前記S3にて算出された実トルコン入力トルクTPcに基づいて差分トルクΔTE(=TE0−TPc)が算出される。次いで、前記エンジン回転速度増分演算部170に対応するS42において、上記S41にて算出された差分トルクΔTE、エンジンイナーシャIE、および所定時間tdfに基づいてエンジン回転速度増分ΔNE(=ΔTE/IE×tdf)が算出される。さらに、前記先読みエンジン回転速度演算部172に対応するS43において、現在のエンジン回転速度NEおよび上記S42にて算出されたエンジン回転速度増分ΔNEに基づいて先読みエンジン回転速度NEf(=NE+ΔNE)が算出される。
続いて、前記先読みトルコン出力トルク算出手段174に対応するS5において、先読みエンジン回転速度NEf、およびトルクコンバータ14の容量係数C、トルク比tなどの予め定められた作動特性に基づいて、無段変速機18の油圧制御の基になる先読みトルコン出力トルクTTfが算出される。具体的には、前記先読み速度比演算部176に対応するS51において、前記S4にて算出された先読みエンジン回転速度NEfおよびタービン回転速度NTに基づいて先読み速度比ef(=NT/NEf)が算出される。次いで、前記先読み容量係数演算部178に対応するS52において、例えば図9に示すようなトルクコンバータ特性曲線から上記S51にて算出された先読み速度比efに基づいてトルクコンバータ14の先読み容量係数Cf(=トルクコンバータ特性曲線(先読み速度比ef))が算出される。また、前記先読みトルク比演算部180に対応するS53において、例えば図9に示すようなトルクコンバータ特性曲線から上記S51にて算出された先読み速度比efに基づいてトルクコンバータ14の先読みトルク比tf(=トルクコンバータ特性曲線(先読み速度比ef))が算出される。さらに、前記先読みトルコン出力トルク演算部182に対応するS54において、上記S52にて算出された先読み容量係数Cf、前記S4にて算出された先読みエンジン回転速度NEf、および上記S53にて算出された先読みトルク比tfに基づいて先読みトルコン出力トルクTTf(=Cf×NEf 2×tf)が算出される。
図13は、アクセルペダル68が定常状態のときにt0時点にてアクセルペダル68が踏み込み操作された場合のトルコン出力トルクTTの模式図である。
図13において、一点鎖線は、前記実トルコン入力トルク算出手段158(図12のS3)により容量係数Cなどの予め定められた作動特性に基づいて算出された実トルコン入力トルクTPc(=C×NE 2)にトルク比t(=トルクコンバータ特性曲線(速度比e))を掛けて算出された実トルコン出力トルクTTcすなわち実変速機入力トルクTINcである。この実変速機入力トルクTINcが必要伝達トルク容量となる。
また、破線は、この実トルコン出力トルクTTcに基づいて無段変速機18の油圧指令が出力される従来例の場合の伝達トルク容量であって、油圧応答遅れが生じたために無段変速機18に入力される実変速機入力トルクTINcのトルク伝達に必要なトルク容量を保証することができないことを示している。
また、二点鎖線は、前記推定エンジントルク算出手段156(図12のS2)により算出された推定エンジントルクTE0(=エンジントルクマップ(エンジン回転速度NE、スロットル弁開度θTH))にトルク比t(=トルクコンバータ特性曲線(速度比e))を掛けて算出された推定トルコン出力トルクTT0すなわち推定変速機入力トルクTIN0である。前述したように、この推定トルコン出力トルクTT0に基づいて無段変速機18の油圧指令が出力されると、実エンジントルクTEcの発生に応答遅れが生じる分指令油圧が過剰となり、油圧発生のためのオイルポンプ28駆動等による動力損失が増えて燃費を悪化させる可能性がある。
そこで、油圧の応答遅れ時間分だけ実トルコン出力トルクTTc(実変速機入力トルクTINc)を先読みすることによって、変速機入力トルクTINに基づいて無段変速機18の油圧を制御するときに実変速機入力トルクTINcの伝達に必要な油圧が確保され且つ実変速機入力トルクTINcの伝達のために過剰な油圧とならないような先読みトルコン出力トルクTTfを演算する。実線は、電子制御装置50の制御作動により設定された(図12のフローチャート)無段変速機18の油圧制御の基になるその先読みトルコン出力トルクTTfである。
上述のように、本実施例によれば、推定エンジントルク算出手段156によりエンジン負荷に基づいて算出された推定エンジントルクTE0と実トルコン入力トルク算出手段158により算出された実トルコン入力トルクTPcとの差分トルクΔTE、無段変速機18の油圧を制御する際の油圧応答遅れ時間tdに対応する所定時間tdf、およびエンジンイナーシャIEに基づいて先読みエンジン回転速度算出手段166により算出された先読みエンジン回転速度NEf、およびトルクコンバータ14の容量係数C、トルク比tなどの予め定められた作動特性に基づいて、先読みトルコン出力トルク算出手段174により先読みトルコン出力トルクTTfが算出され、その先読みトルコン出力トルクTTfに基づいて無段変速機18の油圧が制御されるので、実トルコン出力トルクTTc(実変速機入力トルクTINc)が入力されるタイミングでその実変速機入力トルクTINcに応じた無段変速機18の油圧が発生させられることから、油圧応答遅れによる無段変速機18の油圧不足が回避されると共に、必要以上の油圧発生が回避される。よって、実変速機入力トルクTINcの伝達に必要な油圧が確保され且つ実変速機入力トルクTINcの伝達のために過剰な油圧とならないような無段変速機18の油圧制御の基になる先読みトルコン出力トルクTTfが得られる。
また、本実施例によれば、実トルコン入力トルク算出手段158は、トルクコンバータ14の予め定められた作動特性に基づいて実トルコン入力トルクTPcを算出するので、高い精度で実トルコン入力トルクTPcが算出される。
また、本実施例によれば、先読みトルコン出力トルクTTfに基づいて出力側油圧シリンダ46cの油圧(挟圧力制御圧PBELT)が制御されるときに、実トルコン出力トルクTTc(実変速機入力トルクTINc)の伝達に必要な挟圧力制御圧PBELTが確保され且つ実トルコン出力トルクTTcの伝達のために過剰な挟圧力制御圧PBELTとならない。
次に、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の説明において実施例相互に共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
前述の実施例では、無段変速機18の油圧制御を実行する際の基になる変速機入力トルクTINを油圧の応答遅れ時間分だけ実変速機入力トルクTINcを先読みした先読みトルコン出力トルクTTfとすることによって、実変速機入力トルクTINcの伝達に必要な油圧を確保し且つ実変速機入力トルクTINcの伝達のために過剰な油圧となることを抑制した。
ところで、低μ路などで駆動輪24がスリップした後に高μ路で駆動輪24がグリップしたときや悪路で駆動輪24が空中から接地したときなど、駆動輪24から無段変速機18へ入力される駆動輪側入力トルクTINtが上記先読みトルコン出力トルクTTfに対して無視できない程増大する可能性がある。また、エアコン用コンプレッサやオルタネータ等のエンジン12に作動的に連結されて駆動される補機の負荷(以下、補機負荷という)AUXが小さくなって実変速機入力トルクTINcが増大する可能性がある。しかしながら、この先読みトルコン出力トルクTTfは駆動輪側入力トルクTINtが無視できない場合等を想定していないため、このような場合にそのまま先読みトルコン出力トルクTTfを基にして無段変速機18の油圧制御を実行すると例えばベルト滑りが発生して無段変速機18の耐久性が損なわれる可能性がある。
そこで、本実施例では、実変速機入力トルクTINcが増大するか或いは増大すると予想される運転状態であるときには、例えば駆動輪側入力トルクTINtが大きいか或いは大きくなると予想される運転状態であったり、或いは補機負荷AUXの小さくなる側への変動量(すなわち減少量)dAUX−が大きくなる運転状態であるときには、無段変速機18の油圧制御を実行する際の基になる変速機入力トルクTINを先読みトルコン出力トルクTTfよりも大きなトルクとする。
具体的には、図14は電子制御装置50による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図であって、前記図6に相当する図である。この図14においては、実変速機入力トルクTINcが増大するか或いは増大すると予想される運転状態であるか否かを判断する運転状態判断手段200、および実変速機入力トルクTINcが増大するか或いは増大すると予想される運転状態であるときには変速機入力トルクTINを先読みトルコン出力トルクTTfよりも大きなトルクとする駆動輪側入力トルク増大時油圧制御手段214を更に備えている点等が図6と主に相違する。
運転状態判断手段200は、実変速機入力トルクTINcが増大するか或いは増大すると予想される運転状態であるか否かを、例えば駆動輪側入力トルクTINtが大きいか或いは大きくなると予想される運転状態であるか否かに基づいて、或いは補機負荷AUXの減少量dAUX−が大きくなる運転状態であるか否かに基づいて判断する。
運転状態判断手段200によって判断される実変速機入力トルクTINcが増大するか或いは増大すると予想される運転状態について以下に例示する。
アクセルオン且つブレーキオンの場合、発生駆動力が大きいにも拘わらず車両が走行していない(或いは想定よりも走行していない)所謂ストール状態となり、その後ブレーキオフとされると急発進(急加速)→駆動輪24のスリップ→駆動輪24のグリップという車両挙動が予想され、駆動輪側入力トルクTINtが無視できないと考えられる。そこで、運転状態判断手段200は、アクセル開度信号Accに基づいてアクセルペダル68の操作の有無を判定するアクセル操作判定手段202と、ブレーキ操作信号BONに基づいてフットブレーキ操作の有無を判定するブレーキ操作判定手段204とを備え、アクセルオンが判定され且つブレーキオンが判定された場合に駆動輪側入力トルクTINtが大きくなると予想される運転状態であると判断する。
また、アクセルオン且つブレーキオフの場合、駆動輪24がスリップ状態となると、その後駆動輪24のグリップという車両挙動が予想され、駆動輪側入力トルクTINtが無視できないと考えられる。そこで、運転状態判断手段200は、駆動輪24がスリップ状態であるか否かを判定する駆動輪スリップ判定手段206を更に備え、駆動輪24がスリップ状態であると判定された場合に駆動輪側入力トルクTINtが大きくなると予想される運転状態であると判断する。
前記駆動輪スリップ判定手段206は、例えば駆動輪24の車輪速と従動輪の車輪速との速度差が所定速度(例えば10km/h)を超えるまでは駆動輪24はスリップしていないと判定し、速度差がその所定速度を超えるとスリップ状態であると判定する。また、駆動輪スリップ判定手段206は、例えば上記速度差が所定解除速度(例えば2km/h)以下となるとスリップ状態の判定を解除する。
また、アクセルオフ且つブレーキオンの場合、車両の加速度G+が所定値以下(すなわち車両の減速度G−が所定値以上)の急減速状態となると、駆動輪側入力トルクTINtが無視できないと考えられる。そこで、運転状態判断手段200は、車両が急減速状態であるか否かを判定する急減速判定手段208を更に備え、車両が急減速状態であると判定された場合に駆動輪側入力トルクTINtが大きい運転状態であると判断する。
前記急減速判定手段208は、例えば車両の加速度G+としての車速Vの変化率(以下、車速変化率)dVが所定値を超えているか否かを判定し、車速変化率dVが所定値以下であるときに車両が急減速状態であると判定する。この所定値は、駆動輪側入力トルクTINtが無視できないと考えられる程の急減速状態を判定するための予め実験的に求められて記憶された急減速判定値である。
また、補機負荷AUXが小さくなる場合、実変速機入力トルクTINcが増大すると予想される。そこで、運転状態判断手段200は、補機負荷AUXを推定する補機負荷推定手段210と、推定された補機負荷AUXに基づいて補機負荷AUXの減少量dAUX−が所定値を超えていないか否かを判定する補機負荷変動量判定手段212とを更に備え、補機負荷AUXの減少量dAUX−が所定値以上であると判定された場合に実変速機入力トルクTINcが増大するか或いは増大すると予想される運転状態であると判断する。この所定値は、実変速機入力トルクTINcの増大が無視できないと考えられる程の減少量dAUX−の大きさであることを判定するための予め実験的に求められて記憶された補機負荷変動判定値である。
前記補機負荷推定手段210は、例えば予め実験的に求められて記憶された関係からオルタネータの発電電圧と発電電流とに基づいてオルタネータによる駆動負荷を算出すると共に、予め実験的に求められて記憶された関係からエアコンスイッチのオン状態や車室内の気温などに基づいて求めたエアコン用コンプレッサの稼働容量に基づいてエアコン用コンプレッサによる駆動負荷を算出するなどし、オルタネータによる駆動負荷やエアコン用コンプレッサによる駆動負荷などを合算して補機負荷AUXを推定する。
駆動輪側入力トルク増大時油圧制御手段214は、前記運転状態判断手段200により実変速機入力トルクTINcが増大するか或いは増大すると予想される運転状態であると判断されるときには、実変速機入力トルクTINcの伝達に必要な油圧が保証されて無段変速機18の耐久性が向上するように、無段変速機18の油圧制御を実行する際の基になる変速機入力トルクTINを先読みトルコン出力トルクTTfよりも大きなトルクとする。例えば、駆動輪側入力トルク増大時油圧制御手段214は、容量係数法によるトルク推定すなわち先読みトルコン出力トルク算出手段174によるトルクコンバータ14の容量係数C等に基づく先読みトルコン出力トルクTTfの算出を禁止し、変速機入力トルクTINとして先読みトルコン出力トルクTTfに替えてその先読みトルコン出力トルクTTfより大きな前記推定トルコン出力トルクTT0(図13の二点鎖線参照)を用いる。駆動輪側入力トルク増大時油圧制御手段214は、例えば図9に示すようなトルクコンバータ特性曲線から速度比演算部160により算出された速度比eに基づいてトルク比tを算出し、前記推定エンジントルク算出手段156により算出された推定エンジントルクTE0にそのトルク比tを掛けて推定トルコン出力トルクTT0を算出する。
図15は、電子制御装置50の制御作動の要部すなわち無段変速機18の油圧制御を実行する際の基になる変速機入力トルクTINを適切に設定するための制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行されるものである。
先ず、前記アクセル操作判定手段202に対応するSA1において、アクセル開度信号Accに基づいてアクセルオフであるか否かが判定される。
前記SA1の判断が肯定される場合は前記ブレーキ操作判定手段204に対応するSA2において、ブレーキ操作信号BONに基づいてブレーキオフであるか否かが判定される。
前記SA2の判断が否定される場合は前記急減速判定手段208に対応するSA3において、車両の加速度G+としての車速変化率dVが所定値を超えているか否かが判定される。
前記SA1の判断が否定される場合は前記ブレーキ操作判定手段204に対応するSA4において、ブレーキ操作信号BONに基づいてブレーキオフであるか否かが判定される。
前記SA4の判断が肯定される場合は前記駆動輪スリップ判定手段206に対応するSA5において、駆動輪24がスリップしていないか否かが、例えば駆動輪24の車輪速と従動輪の車輪速との速度差が所定速度を超えていないか否かに基づいて判定される。
前記SA2の判断が肯定されるか、前記SA3の判断が肯定されるか、或いは前記SA5の判断が肯定される場合は前記補機負荷変動量判定手段212に対応するSA6において、推定された補機負荷AUXに基づいて補機負荷AUXの減少量dAUX−が所定値を超えていないか否かが判定される。
前記SA6の判断が肯定される場合は前記図12のフローチャートに対応するSA7において、容量係数法によるトルク推定が実施される。すなわちトルクコンバータ14の容量係数C等に基づいて先読みトルコン出力トルクTTfが算出される。そして、無段変速機18の油圧制御を実行する際の基になる変速機入力トルクTINがこの先読みトルコン出力トルクTTfとされる。
前記SA3の判断が否定されるか、前記SA4の判断が否定されるか、前記SA5の判断が否定されるか、或いは前記SA6の判断が否定される場合は前記駆動輪側入力トルク増大時油圧制御手段214に対応するSA8において、容量係数法によるトルク推定が禁止される。そして、無段変速機18の油圧制御を実行する際の基になる変速機入力トルクTINが先読みトルコン出力トルクTTfに替えてその先読みトルコン出力トルクTTfより大きな例えば推定トルコン出力トルクTT0とされる。
上述のように、本実施例によれば、前述の実施例1の効果に加え、運転状態判断手段200により実変速機入力トルクTINcが増大するか或いは増大すると予想される運転状態であると判断されるときには、例えば運転状態判断手段200により駆動輪側入力トルクTINtが大きいか或いは大きくなると予想される運転状態であると判断されるときには、無段変速機18の油圧制御を実行する際の基になる変速機入力トルクTINが駆動輪側入力トルク増大時油圧制御手段214により先読みトルコン出力トルクTTfよりも大きなトルクとされるので、例えば駆動輪側入力トルクTINtが大きくなるときであっても、実変速機入力トルクTINcの伝達に必要な油圧が保証されて無段変速機18の耐久性が向上する。
前述の実施例2では、駆動輪側入力トルク増大時油圧制御手段214は、前記運転状態判断手段200により実変速機入力トルクTINcが増大するか或いは増大すると予想される運転状態であると判断されるときには、容量係数法によるトルク推定を禁止し、変速機入力トルクTINとして推定トルコン出力トルクTT0を用いることにより、無段変速機18の油圧制御を実行する際の基になる変速機入力トルクTINを先読みトルコン出力トルクTTfよりも大きなトルクとした。
本実施例では、上記運転状態であるときには、容量係数法によるトルク推定を禁止することに替えて、変速機入力トルクTINとして先読みトルコン出力トルクTTfを増大補正することにより、無段変速機18の油圧制御を実行する際の基になる変速機入力トルクTINを先読みトルコン出力トルクTTfよりも大きなトルクとする。
具体的には、図16は電子制御装置50による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図であって、前記図14に相当する図である。この図14においては、駆動輪側入力トルクTINtの推定値(以下、推定駆動輪側入力トルクという)TINt ’を算出する推定駆動輪側入力トルク算出手段216を更に備え、前記駆動輪側入力トルク増大時油圧制御手段214が先読みトルコン出力トルクTTfを補正する点等が図14と主に相違する。
前記駆動輪側入力トルク増大時油圧制御手段214は、前記運転状態判断手段200により実変速機入力トルクTINcが増大するか或いは増大すると予想される運転状態であると判断されるときには、実変速機入力トルクTINcの伝達に必要な油圧が保証されて無段変速機18の耐久性が向上するように、容量係数法によるトルク推定を禁止することに替えて、先読みトルコン出力トルク算出手段174により算出された先読みトルコン出力トルクTTfを増大補正する。例えば、駆動輪側入力トルク増大時油圧制御手段214は、前記推定駆動輪側入力トルク算出手段216により算出された推定駆動輪側入力トルクTINt ’に基づいて先読みトルコン出力トルクTTfに推定駆動輪側入力トルクTINt ’分を上乗せする増大補正を行ったり、補機負荷推定手段210により推定された補機負荷AUXに基づく補機負荷AUXの減少量dAUX−に基づいて先読みトルコン出力トルクTTfに減少量dAUX−分を上乗せする増大補正を行ったりして、無段変速機18の油圧制御を実行する際の基になる変速機入力トルクTINを先読みトルコン出力トルクTTfよりも大きなトルクとする。
前記推定駆動輪側入力トルク算出手段216は、アクセルオン且つブレーキオンとなるか或いは駆動輪24がスリップ状態となって駆動輪24のグリップが想定される場合は、例えば次式(5)、(6)に従って推定駆動輪側入力トルクTINt ’(Nm)を算出する。つまり、最大発生可能な駆動輪24のグリップ力に基づいて推定駆動輪側入力トルクTINt ’を算出するのである。尚、Fslip-grip(N)は駆動輪24による最大グリップ力であり、μwは駆動輪−路面間摩擦係数であり、Fw(N)は駆動輪24一本当たりにかかる垂直荷重であり、nwは駆動輪24の本数であり、rw(m)は駆動輪24の半径である。
Fslip-grip=μw×Fw×nw ・・・(5)
TINt ’=Fslip-grip×rw ・・・(6)
また、前記推定駆動輪側入力トルク算出手段216は、車両の加速度G+が所定値以下の急減速状態となる場合は、例えば次式(7)、(8)に従って推定駆動輪側入力トルクTINt ’(Nm)を算出する。つまり、最大発生可能なブレーキのつかみ力に基づいて推定駆動輪側入力トルクTINt ’を算出するのである。尚、Fbrake(N)はブレーキの最大つかみ力であり、μpはブレーキパッドの摩擦係数であり、Fp(N)はブレーキパッドの押しつけ力(ブレーキのつかみ力)であり、nwは駆動輪24の本数であり、rp(m)はブレーキパッドの半径である。
Fbrake =2×μp×Fp×nw ・・・(7)
TINt ’=Fbrake×rp ・・・(8)
図17は、電子制御装置50の制御作動の要部すなわち無段変速機18の油圧制御を実行する際の基になる変速機入力トルクTINを適切に設定するための制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行されるものである。この図17におけるSB1乃至SB7は、前記図15におけるSA1乃至SA7と同じであるので説明を省略する。
前記SB3の判断が否定されるか、前記SB4の判断が否定されるか、前記SB5の判断が否定されるか、或いは前記SB6の判断が否定される場合は前記駆動輪側入力トルク増大時油圧制御手段214に対応するSB8において、容量係数法によるトルク推定値が補正される。すなわち、推定駆動輪側入力トルクTINt ’や補機負荷AUXに基づいて先読みトルコン出力トルクTTfが増大補正される。そして、無段変速機18の油圧制御を実行する際の基になる変速機入力トルクTINが先読みトルコン出力トルクTTfに替えてその増大補正された先読みトルコン出力トルクTTfとされる。
上述のように、本実施例によれば、前述の実施例2の効果に加え、駆動輪側入力トルク増大時油圧制御手段214により、推定駆動輪側入力トルク算出手段216により算出された推定駆動輪側入力トルクTINt ’に基づいて先読みトルコン出力トルクTTfが増大補正されたり、補機負荷推定手段210により推定された補機負荷AUXに基づく補機負荷AUXの減少量dAUX−に基づいて先読みトルコン出力トルクTTfが増大補正されるので、適正に増大補正された先読みトルコン出力トルクTTfを基にして無段変速機18の油圧制御を実行することができる。これによって、過剰な油圧の発生を抑制することができて燃費悪化を抑制することができる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前述の実施例では、タービン回転速度NTや入力軸回転速度NINは、それぞれタービン回転速度センサ54や入力軸回転速度センサ56により検出されたが、出力軸回転速度センサ58により検出された出力軸回転速度NOUTと無段変速機18の変速比γとに基づいて算出(NIN=NOUT×γ)されても良い。また、同様に、駆動輪の回転速度と減速歯車装置20等の減速比および無段変速機18の変速比γとに基づいて算出されても良い。
また、前述の実施例において、実トルコン入力トルクTPcや実トルコン出力トルクTTcや実変速機入力トルクTINcなどの動力伝達経路の回転部材における実際の軸トルクは、それら動力伝達経路の回転部材に備えられたトルクセンサによって検出されても良い。
また、前述の実施例では、ブレーキのオンオフ判定やブレーキのつかみ力はフットブレーキを想定したものであったが、良く知られたパーキングブレーキ等の補助ブレーキの作動であっても本発明は適用され得る。
また、前述の実施例では、運転状態判断手段200は、アクセルオンが判定され且つブレーキオンが判定された場合に駆動輪側入力トルクTINtが大きくなると予想される運転状態であると判断したが、トルクコンバータ14の速度比e(=NT/NE)が所定値以下である場合にストール状態であると判定して、駆動輪側入力トルクTINtが大きくなると予想される運転状態であると判断しても良い。
また、前述の実施例では、駆動輪側入力トルク増大時油圧制御手段214は、推定駆動輪側入力トルクTINt ’に基づいて先読みトルコン出力トルクTTfを増大補正したり、補機負荷AUXの減少量dAUX−に基づいて先読みトルコン出力トルクTTfを増大補正したが、推定駆動輪側入力トルクTINt ’は予め実験的に求められて記憶された値であっても良いし、また想定される減少量dAUX−の最大値を先読みトルコン出力トルクTTfに上乗せする増大補正を行っても良い。
また、前述の実施例では、車両の加速度Gとして車速Vの変化率dVを用いたが、車両に備えられた加速度センサによって検出された車両加速度Gであっても良い。
また、前述の実施例では、補機負荷推定手段210は、オルタネータの発電電圧と発電電流とに基づいてオルタネータによる駆動負荷を算出したが、オルタネータの発電電流に替えて、エアコン用ブロアモータやワイパー等の電気負荷例えばエアコンスイッチのオン状態やワイパー作動スイッチのオン状態等や充放電電流等が用いられても良い。
また、前述の実施例では、補機負荷としてオルタネータによる駆動負荷やエアコン用コンプレッサによる駆動負荷を例示し、補機負荷推定手段210はこれら補機負荷を合算して補機負荷AUXを求めたが、これらの補機負荷に限らず他の補機負荷例えばウォーターポンプやパワーステアリングポンプ等の駆動負荷を合算して補機負荷AUXを求めても良いし、何れか1つを単独で或いは何れか複数の駆動負荷を合算して補機負荷AUXとしても良い。
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。