図1は、本発明が適用される車両10に備えられた変速機としての自動変速機12の構成を説明する骨子図である。図2は自動変速機12の複数のギヤ段GS(変速段GS)を成立させる際の摩擦係合装置の作動状態を説明する作動表である。この自動変速機12は、例えば車両10の左右方向(横置き)に搭載するFF車両に好適に用いられるものであって、車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスアクスルケース14(以下、ケース14)内において、シングルピニオン型の第1遊星歯車装置16を主体として構成されている第1変速部18と、ダブルピニオン型の第2遊星歯車装置20及びシングルピニオン型の第3遊星歯車装置22を主体としてラビニヨ型に構成されている第2変速部24とを共通の軸心C上に有し、入力軸26の回転を変速して出力歯車28から出力する。入力軸26は、自動変速機12の入力回転部材に相当するものであり、本実施例では走行用の駆動力源であるエンジン30によって回転駆動される流体伝動装置としてのトルクコンバータ32のタービン軸と一体的に構成されている。また、出力歯車28は、自動変速機12の出力回転部材に相当するものであり、本実施例では例えば図3に示す差動歯車装置34に動力を伝達する為に、デフリングギヤ35と噛み合うことでファイナルギヤ対を構成するデフドライブピニオンと同軸上に配置されたカウンタドリブンギヤと噛み合ってカウンタギヤ対を構成するカウンタドライブギヤとして機能している。そして、このように構成された自動変速機12等において、エンジン30の出力は、トルクコンバータ32、自動変速機12、差動歯車装置34、及び一対の車軸36等を含む車両用動力伝達装置11を順次介して左右の駆動輪38へ伝達されるようになっている(図3参照)。尚、自動変速機12やトルクコンバータ32は中心線(軸心)Cに対して略対称的に構成されており、図1の骨子図においてはその軸心Cの下半分が省略されている。
トルクコンバータ32は、エンジン30のクランク軸31に連結されたポンプ翼車32p、トルクコンバータ32のタービン軸(入力軸26に相当)を介して自動変速機12に連結されたタービン翼車32t、及び一方向クラッチによって一方向の回転が阻止されているステータ翼車32sとを備えており、ポンプ翼車32pとタービン翼車32tとの間で流体を介して動力伝達を行うようになっている。すなわち、本実施例のトルクコンバータ32においては、ポンプ翼車32pが入力回転部材に、タービン翼車32tが出力回転部材にそれぞれ対応し、流体を介してエンジン30の動力が自動変速機12側へ伝達される。また、ポンプ翼車32p及びタービン翼車32tの間には、それらの間すなわちトルクコンバータ32の入出力部材間を直結可能なロックアップクラッチ33が設けられている。また、ポンプ翼車32pには、自動変速機12を変速制御したり、ロックアップクラッチ33の作動を制御したり、或いは各部に潤滑油を供給したりする為の元圧となる作動油圧をエンジン30によって回転駆動されることにより発生する機械式のオイルポンプ40が連結されている。
ロックアップクラッチ33は、良く知られているように、油圧制御回路110によって係合側油室32on内の油圧PONと解放側油室32off内の油圧POFFとの差圧ΔP(=PON−POFF)が制御されることによりフロントカバー32cに摩擦係合させられる油圧式摩擦クラッチである。トルクコンバータ32の運転状態としては、例えば差圧ΔPが負とされてロックアップクラッチ33が解放される所謂ロックアップ解放(ロックアップオフ)、差圧ΔPが零以上とされてロックアップクラッチ33が滑りを伴って半係合される所謂ロックアップスリップ状態(スリップ状態)、及び差圧ΔPが最大値とされてロックアップクラッチ33が完全係合される所謂ロックアップ状態(係合状態、ロックアップオン)の3状態に大別される。例えば、ロックアップクラッチ33が完全係合(ロックアップオン)させられることにより、ポンプ翼車32p及びタービン翼車32tが一体回転させられてエンジン30の動力が自動変速機12側へ直接的に伝達される。また、所定のスリップ状態で係合するように差圧ΔPが制御されることにより、例えば入出力回転速度差(すなわちスリップ回転速度(スリップ量)=エンジン回転速度NE−タービン回転速度NT)NSがフィードバック制御されることにより、車両10の駆動(パワーオン)時には所定のスリップ量でタービン軸をクランク軸31に対して追従回転させる一方、車両の非駆動(パワーオフ)時には所定のスリップ量でクランク軸31をタービン軸に対して追従回転させられる。尚、ロックアップクラッチ33のスリップ状態においては、差圧ΔPが零とされることによりそのロックアップクラッチ33のトルク分担がなくなって、トルクコンバータ32は、ロックアップオフと同等の運転条件とされる。
自動変速機12は、第1変速部18及び第2変速部24の各回転要素(サンギヤS1〜S3、キャリアCA1〜CA3、リングギヤR1〜R3)のうちのいずれかの連結状態の組み合わせに応じて第1ギヤ段「1st」〜第6ギヤ段「6th」の6つの前進ギヤ段(前進変速段)が成立させられるとともに、後進ギヤ段「R」の後進ギヤ段(後進変速段)が成立させられる。図2に示すように、例えば前進ギヤ段では、クラッチC1とブレーキB2との係合により第1速ギヤ段が、クラッチC1とブレーキB1との係合により第2速ギヤ段が、クラッチC1とブレーキB3との係合により第3速ギヤ段が、クラッチC1とクラッチC2との係合により第4速ギヤ段が、クラッチC2とブレーキB3との係合により第5速ギヤ段が、クラッチC2とブレーキB1との係合により第6速ギヤ段が、それぞれ成立させられるようになっている。また、ブレーキB2とブレーキB3との係合により後進ギヤ段が成立させられ、クラッチC1、C2、及びブレーキB1〜B3の何れもが解放されることによりニュートラル状態となるように構成されている。
図2の作動表は、上記各ギヤ段GSとクラッチC1、C2、及びブレーキB1〜B3の作動状態との関係をまとめたものであり、「○」は係合、「◎」はエンジンブレーキ時のみ係合を表している。尚、第1ギヤ段「1st」を成立させるブレーキB2には並列に一方向クラッチF1が設けられている為、発進時(加速時)には必ずしもブレーキB2を係合させる必要は無い。つまり、発進時にはクラッチC1のみを係合させれば良く、例えば後述するニュートラル制御からの復帰時にはこのクラッチC1が係合させられる。このように、このクラッチC1は発進クラッチとして機能する。また、各ギヤ段GSの変速比γGS(=入力軸26の回転速度NIN/出力歯車28の回転速度NOUT)は、第1遊星歯車装置16、第2遊星歯車装置20、及び第3遊星歯車装置22の各ギヤ比(=サンギヤの歯数/リングギヤの歯数)ρ1、ρ2、ρ3によって適宜定められる。
上記クラッチC1、C2、及びブレーキB1〜B3(以下、特に区別しない場合は単にクラッチC、ブレーキBという)は、例えば多板式のクラッチやブレーキなど油圧アクチュエータによって係合制御され、係合によりエンジン30の動力を駆動輪38側へ伝達する油圧式摩擦係合装置である。そして、油圧制御回路110内のリニアソレノイドバルブSL1〜SL5(図3,4参照)の励磁、非励磁や電流制御により、各クラッチC及びブレーキBの係合、解放状態が切り換えられると共に、係合、解放時の過渡係合油圧などが制御される。
図3は、エンジン30や自動変速機12などを制御する為に車両10に設けられた電気的な制御系統の要部を説明するブロック線図である。図3において、車両10には、例えばエンジン30の動力を後段側(駆動輪38側)へ伝達するクラッチ(例えばクラッチC1やロックアップクラッチ33)の油圧制御をエンジン30の出力トルクに応じて実行する車両用油圧制御装置を含む電子制御装置50が備えられている。この電子制御装置50は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。例えば、電子制御装置50は、エンジン30の出力制御や自動変速機12の変速制御やロックアップクラッチ33のトルク容量制御等を実行するようになっており、必要に応じてエンジン制御用のエンジン制御装置、車速Vやエンジン制御装置によるエンジン30の出力制御の為の制御量(例えばスロットル弁開度θTH)等の車両走行状態に基づいて自動変速機12の変速を制御する自動変速機12の変速制御用の油圧制御装置、ロックアップクラッチ33の油圧制御用の油圧制御装置、車両発進に際してロックアップクラッチ33をスリップ係合させる発進時ロックアップスリップ制御や車両停止に際してクラッチC1をスリップ状態乃至解放状態としてエンジン30から駆動輪38までの間の動力伝達経路を動力伝達抑制状態とするニュートラル制御などに関連する発進制御装置、アクセル開度Accに拘わらず車両状態を自動制御する為に車両に対する出力要求量としての目標駆動力関連値を出力する制御装置(例えば車両姿勢安定制御の為の目標駆動力関連値を出力する車両姿勢安定制御用の制御装置、運転支援系制御の為の目標駆動力関連値を出力する運転支援系制御用の制御装置)等に分けて構成される。
電子制御装置50には、例えば作動油温センサ52により検出された油圧制御回路110内の作動油(例えば公知のATF)の温度である作動油温THOILを表す信号、アクセル開度センサ54により検出された運転者による車両10に対する要求量(ドライバ要求量)としてのアクセルペダル56の操作量であるアクセル開度Accを表す信号、エンジン回転速度センサ58により検出されたエンジン30の回転速度であるエンジン回転速度NEを表す信号、冷却水温センサ60により検出されたエンジン30の冷却水温THWを表す信号、吸入空気量センサ62により検出されたエンジン30の吸入空気量Qを表す信号、スロットル弁開度センサ64により検出された電子スロットル弁の開度であるスロットル弁開度θTHを表す信号、車速センサ66により検出された車速Vに対応する出力歯車28の回転速度である出力回転速度NOUTを表す信号、ブレーキスイッチ68により検出された常用ブレーキであるフットブレーキの作動中(踏込操作中)を示すフットブレーキペダル70の操作(ブレーキオン)BONを表す信号、レバーポジションセンサ72により検出されたシフトレバー74のレバーポジション(操作位置、シフトポジション)PSHを表す信号、タービン回転速度センサ76により検出されたトルクコンバータ32のタービン軸の回転速度であるタービン回転速度NT(すなわち入力軸26の回転速度である入力回転速度NIN)を表す信号などがそれぞれ供給される。
また、電子制御装置50からは、例えばエンジン30の出力制御の為のエンジン出力制御指令信号SEとして、アクセル開度Accに応じて電子スロットル弁の開閉を制御する為のスロットルアクチュエータへの駆動信号や燃料噴射装置から噴射される燃料噴射量を制御する為の噴射信号やイグナイタによるエンジン30の点火時期を制御する為の点火時期信号などが出力される。また、例えば自動変速機12の変速制御の為の油圧制御指令信号SPとして、自動変速機12のギヤ段GSを切り換える為に油圧制御回路110内のリニアソレノイドバルブSL1〜SL5の励磁、非励磁などを制御する為のバルブ指令信号(油圧指令信号、油圧指令値、駆動信号)や第1ライン油圧PL1などを調圧制御する為のリニアソレノイドバルブSLTへの油圧指令信号などが出力される。また、例えばロックアップクラッチ33の係合、解放、スリップ量NS(=NE−NT)を制御する為のロックアップ制御指令信号SLとして、油圧制御回路110内に備えられたソレノイド弁SL及びリニアソレノイド弁SLUを駆動する為の油圧指令信号などが油圧制御回路110へ出力される。
ここで、エンジン制御用のエンジン制御装置を例にすれば、電子制御装置50は、例えばアクセル開度Accに基づいて車両10が発生すべき目標となる駆動力関連値(目標駆動力関連値)を設定すると共にそのアクセル開度Accに基づく目標駆動力関連値と運転支援系制御用の制御装置から出力された目標駆動力関連値とを調停してドライバモデル目標駆動力関連値を設定し、そのドライバモデル目標駆動力関連値と車両姿勢安定制御用の制御装置から出力された目標駆動力関連値とをパワトレマネージャーにより調停して最終的な目標駆動力関連値を設定して、その目標駆動力関連値を実現するようにエンジン30の出力を制御する。
このように本実施例では、車両10の目標駆動力関連値を設定し、その目標駆動力関連値が得られるようにエンジン30の出力制御及び/または自動変速機12の変速制御が実行されることにより、車両駆動力Fが制御される所謂駆動力要求型(トルクデマンド型)制御が実行される。ここで、上記駆動力関連値とは、駆動輪38の接地面上に働く車両駆動力(以下、駆動力と表す)F[N]に1対1に対応する関連値(相当値)であって、駆動力関連値としてその駆動力Fはもちろんのことその他に、例えば加速度G[G、m/s2]、駆動軸トルクとしての車軸36上のトルク(以下、車軸トルクと表す)TD[Nm]、車両10の出力(以下、出力或いはパワーと表す)P[PS、kW、HP]、トルクコンバータ32の出力トルクとしてのトルクコンバータ32のタービン軸上のトルク(以下、タービントルクと表す)TT[Nm]すなわち自動変速機12の入力トルクとしての入力軸上のトルク(以下、入力軸トルクと表す)TIN[Nm]、自動変速機12の出力トルクとしての出力歯車28上のトルク(以下、出力軸トルクと表す)TOUT[Nm]、プロペラシャフト上のトルクTP[Nm]などが用いられる。以下、本実施例では、特に区別しない限り駆動力と表したものは駆動力関連値をも表すこととする。
シフトレバー74は、例えば運転席の近傍に配設され、図3に示すように、5つのレバーポジション「P」、「R」、「N」、「D」、または「S」へ手動操作されるようになっている。「P」ポジション(レンジ)は自動変速機12内の動力伝達経路を解放しすなわち自動変速機12内の動力伝達が遮断されるニュートラル状態(中立状態)とし且つメカニカルパーキング機構によって機械的に出力歯車28の回転を阻止(ロック)する為の駐車ポジション(位置)である。また、「R」ポジションは自動変速機12の出力歯車28の回転方向を逆回転とする為の後進走行ポジション(位置)である。また、「N」ポジションは自動変速機12内の動力伝達が遮断されるニュートラル状態とする為の中立ポジション(位置)である。また、「D」ポジションは自動変速機12の変速を許容する変速範囲(Dレンジ)で第1ギヤ段「1st」〜第6ギヤ段「6th」の総ての前進ギヤ段を用いて自動変速制御を実行させる前進走行ポジション(位置)である。また、「S」ポジションはギヤ段の変化範囲を制限する複数種類の変速レンジすなわち高車速側のギヤ段が異なる複数種類の変速レンジを切り換えることにより手動変速が可能な前進走行ポジション(位置)である。
上記「D」ポジションは自動変速機12の変速可能な例えば図2に示すような第1速ギヤ段乃至第6速ギヤ段の範囲で自動変速制御が実行される制御様式である自動変速モードを選択するレバーポジションでもあり、「S」ポジションは自動変速機12の各変速レンジの最高速側ギヤ段を超えない範囲で自動変速制御が実行されると共にシフトレバー74の手動操作により変更された変速レンジ(すなわち最高速側ギヤ段)に基づいて手動変速制御が実行される制御様式である手動変速モードを選択するレバーポジションでもある。尚、この実施例では、シフトレバー74が「S」ポジションに操作されることにより、最高速側の変速レンジが設定される(シフトレンジ固定)ものであったが、シフトレバー74の操作に基づいてギヤ段GS(変速段GS)が指定される(ギヤ段固定)ものであっても構わない。この場合、自動変速機12ではマニュアルシフト操作される度にその操作に対応する所望のギヤ段となるように変速制御が実行される。
図4は、油圧制御回路110のうちクラッチC1、C2、及びブレーキB1〜B3の各油圧アクチュエータ(油圧シリンダ)ACT1〜ACT5の作動を制御するリニアソレノイドバルブSL1〜SL5に関する油圧制御回路の要部を示す図である。
図4において、油圧供給装置112は、エンジン30によって回転駆動される機械式のオイルポンプ40(図1参照)から発生する油圧を元圧として第1ライン油圧PL1を調圧する例えばリリーフ型のプライマリレギュレータバルブ(第1調圧弁)114と、そのプライマリレギュレータバルブ114から排出される油圧を元圧として第2ライン油圧PL2を調圧するセカンダリレギュレータバルブ(第2調圧弁)116と、スロットル弁開度θTHや吸入空気量Q等で表されるエンジン負荷等に応じた第1ライン油圧PL1及び第2ライン油圧PL2が調圧される為にプライマリレギュレータバルブ114及びセカンダリレギュレータバルブ116へ信号圧PSLTを供給するリニアソレノイドバルブSLTと、第1ライン油圧PL1を元圧としてモジュレータ油圧PMを一定値に調圧するモジュレータバルブ118とを備えている。また、油圧供給装置112は、シフトレバー74の操作に基づいて機械的或いは電気的に油路が切り換えられるマニュアルバルブ120を備えている。このマニュアルバルブ120は、例えばシフトレバー74が「D」ポジション或いは「S」ポジションへ操作されたときには、入力された第1ライン油圧PL1をドライブ油圧PDとして出力し、シフトレバー74が「R」ポジションへ操作されたときには、入力された第1ライン油圧PL1をリバース油圧PRとして出力し、シフトレバー74が「P」ポジション或いは「N」ポジションへ操作されたときには、油圧の出力を遮断する(ドライブ油圧PD及びリバース油圧PRを排出側へ導く)。このように、油圧供給装置112は、第1ライン油圧PL1、第2ライン油圧PL2、モジュレータ油圧PM、ドライブ油圧PD、及びリバース油圧PRを出力するようになっている。
また、油圧制御回路110には、各油圧アクチュエータACT1〜ACT5に対応して、リニアソレノイドバルブSL1〜SL5(以下特に区別しない場合はリニアソレノイドバルブSLと記載する)がそれぞれ設けられている。油圧アクチュエータACT1、ACT2、ACT3、ACT5には、それぞれ対応するリニアソレノイドバルブSL1、SL2、SL3、SL5により、油圧供給装置112からそれぞれ供給されたドライブ油圧PDが電子制御装置50からの各指令信号に応じた各係合油圧PC1、PC2、PB1、PB3に調圧されてそれぞれ直接的に供給される。また、各油圧アクチュエータACT4には、対応するリニアソレノイドバルブSL4により、油圧供給装置112から供給された第1ライン油圧PL1が電子制御装置50からの指令信号に応じた係合油圧PB2に調圧されて直接的に供給される。尚、ブレーキB3の油圧アクチュエータACT5には、リニアソレノイドバルブSL5により調圧された係合油圧PB3またはリバース油圧PRのどちらかがシャトル弁122を介して供給されるようになっている。
リニアソレノイドバルブSL1〜SL5は、基本的には何れも同じ構成であり、電子制御装置50によりそれぞれ独立に励磁、非励磁や電流制御がなされて各油圧アクチュエータACT1〜ACT5へ供給される油圧を独立に調圧制御し、クラッチC1、C2、及びブレーキB1〜B3の係合油圧(クラッチ圧)PC1、PC2、及び係合油圧(ブレーキ圧)PB1、PB2、PB3をそれぞれ制御するものである。例えば、クラッチC1を例にすれば、電子制御装置50から供給される指令値に対応する駆動電流ISL1に応じたC1クラッチ圧PC1がリニアソレノイドバルブSL1から出力される。そして、自動変速機12は、例えば図2の係合作動表に示すように予め定められた係合装置が係合されることによって各ギヤ段GSが成立させられる。また、自動変速機12の変速制御においては、例えば変速に関与するクラッチCやブレーキBの解放側摩擦係合装置と係合側摩擦係合装置との掴み替えによる所謂クラッチツゥクラッチ変速が実行される。このクラッチツゥクラッチ変速の際には、変速ショックを抑制しつつ可及的に速やかに変速が実行されるように解放側摩擦係合装置の解放過渡係合油圧と係合側摩擦係合装置の係合過渡係合油圧とが適切に制御される。例えば、図2の係合作動表に示すように3速→4速のアップシフトでは、ブレーキB3が解放されると共にクラッチC2が係合され、変速ショックを抑制するようにブレーキB3の解放過渡油圧とクラッチC2の係合過渡油圧とが適切に制御される。
図5は、電子制御装置50による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図5において、ドライバ目標駆動力設定部すなわちドライバ目標駆動力設定手段80は、例えば図3に示すようなアクセル開度Accをパラメータとして車速Vとドライバ目標駆動力FDIMDとの予め実験的に求められて記憶された関係(ドライバ目標駆動力マップ)から実際のアクセル開度Accと車速Vとに基づいてドライバ目標駆動力FDIMDを設定する。
車両姿勢安定制御部すなわち車両姿勢安定制御手段82は、例えば車両姿勢安定制御としてアクセル開度Accに拘わらず旋回中の車両姿勢を安定化させる所謂VSCシステムを機能的に備えている。このVSCシステムは、車両の旋回中の後輪横滑り傾向所謂オーバステア傾向或いは前輪横滑り傾向所謂アンダステア傾向の程度に基づいて、後輪横滑り抑制モーメント或いは前輪横滑り抑制モーメントを発生させて車両姿勢の安定性を確保するように、例えば駆動力Fを抑制する為の姿勢安定目標駆動力FDIMVを出力すると共に車輪(駆動輪38及び不図示の従動輪)の制動力を制御する。
運転支援系制御部すなわち運転支援系制御手段84は、例えば運転支援系制御としてアクセル開度Accに拘わらず車速Vを自動制御する自動車速制御システム所謂クルーズコントロールシステムを機能的に備えている。このクルーズコントロールシステムは、運転者により設定された目標車速V*となるように、例えば駆動力Fを制御する為の運転支援目標駆動力FDIMSを出力すると共に車輪の制動力を制御する。
ドライバ目標駆動力設定手段80は、例えば実際のアクセル開度Accと車速Vとに基づいて設定したドライバ目標駆動力FDIMD及び運転支援系制御手段84による運転支援目標駆動力FDIMSのうちで、何れの目標駆動力FDIMを優先させるかを或いは何れの目標駆動力FDIMを加減算するかを、予め定められた駆動力調停手順に従って選択し、この選択した目標駆動力FDIMをドライバモデル目標駆動力FDIMDMに設定する。
目標駆動力調停部すなわち目標駆動力調停手段86は、例えばドライバ目標駆動力設定手段80によるドライバモデル目標駆動力FDIMDM及び車両姿勢安定制御手段82による姿勢安定目標駆動力FDIMVのうちで、何れの目標駆動力FDIMを優先させるかを或いは何れの目標駆動力FDIMを加減算するかを、予め定められた駆動力調停手順に従って選択し、この選択した目標駆動力FDIMを目標駆動力F*として設定する。このように、目標駆動力調停手段86は、車両の発生すべき目標駆動力F*を設定する目標駆動力設定部すなわち目標駆動力設定手段として機能する。上記駆動力調停手順は、例えば通常は姿勢安定目標駆動力FDIMVや運転支援目標駆動力FDIMSを優先するが、シフトレバー74の操作によって自動変速機12のギヤ段GSが切り換えられたときやアクセルペダル56が所定値以上大きく踏み込み操作された場合等にはドライバ目標駆動力FDIMDを優先するように定められている。
目標エンジントルク算出部すなわち目標エンジントルク算出手段88は、例えば目標駆動力調停手段86により設定された目標駆動力F*を実現する為のエンジン30の目標出力トルク(目標エンジントルク)TE *を算出する。例えば、目標エンジントルク算出手段88は、目標駆動力F*、自動変速機12の現在のギヤ段GSにおける変速比γGS、差動歯車装置34等の減速比i、駆動輪38のタイヤ有効半径rW、動力伝達効率η、及びトルクコンバータ32のトルク比(=タービントルクTT/ポンプトルク(エンジントルクTE))tから次式(1)に従って目標エンジントルクTE *を算出する。尚、このトルク比tは、トルクコンバータ32の速度比e(=タービン回転速度NT/ポンプ回転速度NP(エンジン回転速度NE))の関数であり、例えば速度比eとトルク比tとの予め実験的に求められて記憶された不図示の関係(マップ)から実際の速度比eに基づいて算出される。
TE *=(F*×rW)/(γ×i×η×t) ・・・(1)
エンジン出力制御部すなわちエンジン出力制御手段90は、例えば目標エンジントルク算出手段88により算出された目標エンジントルクTE *が得られる目標スロットル弁開度θTH *を算出する。例えば、エンジン出力制御手段90は、スロットル弁開度θTHをパラメータとしてエンジン回転速度NEとエンジントルクTEとの予め実験的に求められて記憶された図7に示すような関係(エンジントルクマップ)から実際のエンジン回転速度NEに基づいて目標エンジントルクTE *が得られるスロットル弁開度θTHとなるように目標スロットル弁開度θTH *を算出する。そして、エンジン出力制御手段90は、その算出した目標スロットル弁開度θTH *となるようにスロットルアクチュエータにより電子スロットル弁を開閉制御する他、燃料噴射装置により燃料噴射量を制御したり、イグナイタ等の点火装置により点火時期を制御する。
変速制御部すなわち変速制御手段92は、例えば車速Vを示す軸とスロットル弁開度θTHを示す軸とで構成される二次元座標においてアップシフトが判断される為の変速線であるアップシフト線(実線)及びダウンシフトが判断される為の変速線であるダウンシフト線(破線)を有する予め求められて記憶された図8に示すような関係(変速マップ、変速線図)から実際の車速Vとエンジン出力制御手段90により算出された目標スロットル弁開度θTH *とに基づいて変速判断を行い、自動変速機12の変速を実行すべきか否かを判断する。そして、変速制御手段92は、自動変速機12の変速すべきギヤ段GSを判断し、その判断したギヤ段GSが得られるように自動変速機12の自動変速制御を実行する変速指令を出力する。例えば、変速制御手段92は、上記判断したギヤ段GSが達成されるように、図2に示す係合表に従って自動変速機12の変速に関与する油圧式摩擦係合装置(クラッチC、ブレーキB)の係合状態を切り換える為の油圧制御指令信号(変速出力指令値)SPを油圧制御回路110へ出力する。
前記油圧制御指令信号SPは、例えばクラッチCやブレーキBのクラッチ圧(クラッチ係合圧)に対応するトルク伝達容量(クラッチトルク容量)を制御する為のトルク指令値、すなわち必要なクラッチトルク容量が得られる係合油圧を発生する為の油圧指令値であって、例えば解放側摩擦係合装置のトルク指令値として解放側摩擦係合装置を解放する為の必要なクラッチトルク容量が得られるように作動油が排出される油圧指令値が出力されると共に、係合側摩擦係合装置のトルク指令値として係合側摩擦係合装置を係合する為の必要なクラッチトルク容量が得られるように作動油が供給される油圧指令値が出力される。また、例えば自動変速機12の何れかのギヤ段GSを維持する非変速時やクラッチCやブレーキBの係合過渡時には、エンジントルクTEに相当する変速機入力トルクTINに耐えうる摩擦力を保持できる(すなわちクラッチトルク容量を確保できる)係合油圧を発生する為の油圧指令値が出力される。油圧制御回路110は、変速制御手段92による油圧制御指令信号SPに従って、クラッチCやブレーキBが係合或いは解放されるように(例えば自動変速機12の変速が実行されるように)、或いは自動変速機12の現在のギヤ段GSが維持されるように、油圧制御回路110内のリニアソレノイドバルブSL1〜SL5を作動させて、そのギヤ段GS成立(形成)に関与する油圧式摩擦係合装置の各油圧アクチュエータACT1〜ACT5を作動させる。
ここで、本実施例の車両10では、例えば車両停車中におけるエンジン30のアイドリング負荷を低減する為にニュートラル制御を実行する。このニュートラル制御は、例えば予め設定された所定のニュートラル制御条件が満たされた場合に、発進クラッチであるクラッチC1を所定のスリップ状態乃至解放状態として自動変速機12内の動力伝達経路を動力伝達抑制状態(すなわち動力伝達遮断状態と略同等の状態乃至動力伝達遮断状態)とする制御である。尚、クラッチC1の所定のスリップ状態とは、若干の滑りを有するが係合荷重の殆ど生じていないすなわちクラッチトルク容量を殆ど持たない解放状態と同等の状態である。
具体的には、ニュートラル制御条件判定部すなわちニュートラル制御条件判定手段94は、例えばシフトレバー74の走行ポジションにおいて所定のニュートラル制御条件が成立するか否かを判定する。すなわち、ニュートラル制御条件判定手段94は、所定のニュートラル制御条件が成立するか否かを判定することにより、ニュートラル制御の実行を開始するか否かを逐次判定するニュートラル制御実行判定手段である。この所定のニュートラル制御条件は、例えば車両10が停止中であってアクセルペダル56が踏み込まれておらず、フットブレーキペダル70が踏まれていることなどである。ニュートラル制御条件判定手段94は、例えばレバーポジションPSHが「D」ポジションであるときに、車速Vが車両停止を判定する為の所定の車速零判定値であり、アクセル開度Accがアクセルオフを判定する為の所定の開度零判定値であり、且つブレーキスイッチ68から操作(オン)BONを表す信号が出力されている場合に、ニュートラル制御条件が成立したと判定する。
また、ニュートラル制御条件判定手段94は、後述するニュートラル制御手段96によるニュートラル制御中に前記所定のニュートラル制御条件が成立するか否かを判定することにより、そのニュートラル制御を解除(終了)するか否かを逐次判定する、すなわちニュートラル制御からの復帰を開始するか否かを逐次判定するニュートラル制御解除判定手段でもある。例えば、ニュートラル制御条件判定手段94は、ニュートラル制御手段96によるニュートラル制御中に、例えばレバーポジションPSHが「D」ポジションから操作されたか、アクセルペダル56が踏込み操作されたと判定されるような所定のアクセル開度判定値以上となったか、或いはブレーキスイッチ68から操作(オン)BONを表す信号が出力されなくなったブレーキオフの場合に、ニュートラル制御の解除開始を判定する。
ニュートラル制御部すなわちニュートラル制御手段96は、例えばニュートラル制御条件判定手段94によりシフトレバー74の「D」ポジションにおいて前記所定のニュートラル制御条件が成立したと判定された場合には、第1速ギヤ段を達成する為の係合装置であるクラッチC1を所定のスリップ状態乃至解放状態とするニュートラル制御実行指令を変速制御手段92に出力して、自動変速機12を含む動力伝達経路を動力伝達抑制状態乃至動力伝達遮断状態とするニュートラル制御(N制御)を実行する。変速制御手段92は、そのニュートラル制御実行指令に従って、クラッチC1を所定のスリップ状態乃至解放状態とするように予め設定されたN制御時の設定圧としての所定の解放パターンすなわちクラッチC1の油圧指令値SPCIに従ってクラッチC1の係合圧を低下させるクラッチ解放指令を油圧制御回路110に出力する。自動変速機12内の動力伝達が抑制乃至遮断(解放)されることにより、トルクコンバータ32の後段側(下流側)の負荷が抑制され、トルクコンバータ32が略一体回転するようになってエンジン30のアイドリング負荷が抑制され、燃費やNVH(騒音・振動・乗り心地)性能が向上する。このように、ニュートラル制御では、クラッチC1が例えば解放状態(或いはわずかにスリップ係合するような係合直前状態)とさせられることにより、自動変速機12内の動力伝達経路が実質的に解放状態とされつつ、クラッチC1の半係合から係合への切換によって直ちに発進可能な発進待機状態とされる。
また、ニュートラル制御手段96は、ニュートラル制御中にニュートラル制御条件判定手段94によりニュートラル制御の解除開始が判定された場合には、自動変速機12を含む動力伝達経路を動力伝達可能状態とするように、第1速ギヤ段の係合側係合装置であるクラッチC1のクラッチトルク容量を増加させて係合させるニュートラル制御解除指令を変速制御手段92に出力して、ニュートラル制御を解除(終了)するすなわちニュートラル制御から復帰させる。変速制御手段92は、そのニュートラル制御解除指令に従って、クラッチC1を係合状態とするように予め設定されたN制御解除時の設定圧としての所定の係合パターンすなわちクラッチC1の油圧指令値SPCIに従ってクラッチC1の係合油圧(C1クラッチ圧)PC1を上昇させるクラッチ係合指令を油圧制御回路110に出力する。
ところで、例えばブレーキオフによりニュートラル制御が解除されるが未だアクセルオフのままであるときには、実エンジントルクは略変化しない。一方、例えばブレーキオフによりニュートラル制御が解除された後アクセルオンが為されたときには、或いはブレーキオフと共にアクセルオンが為されてニュートラル制御が解除されたときには、アクセルオンに伴って目標エンジントルクTE *が上昇し、実エンジントルクTEが上昇させられる。このとき、ニュートラル制御解除時のクラッチC1の油圧指令値SPCIとしては、例えば実エンジントルクの立ち上がりに対し、クラッチC1の急係合ショックやクラッチ滑りが抑制されるようにクラッチC1の実係合油圧が立ち上がる為の油圧指令値が出力されることが望ましい。その為、クラッチC1の油圧制御をエンジントルクTEに応じて実行する。但し、エンジン30の出力制御において、実エンジントルクTEの立ち上がりは目標エンジントルクTE *の立ち上がりに対して応答遅れがある。また、クラッチC1の油圧制御において、実C1クラッチ圧PC1の立ち上がりはC1クラッチ油圧指令値(指令油圧)SPCIの立ち上がりに対して応答遅れがある。
そこで、クラッチC1の油圧制御における指令油圧SPCIに対する実C1クラッチ圧PC1の立ち上がりの応答遅れを考慮し、実エンジントルクTEより前出しした先読みトルクである先読みエンジントルクTEmodを用いてクラッチC1の指令油圧SPCIを設定する。本実施例では、例えばエンジン30のエンジンユニットと自動変速機12のクラッチ関連装置ユニットとの組み合わせが変更になっても、その都度、相互に関連付けて適合を行うことなく、エンジントルクTEに対してクラッチC1の指令油圧SPCIを適切に設定することができる新しい手法を提案する。
図9は、クラッチC1の指令油圧SPCIを設定する為の制御の流れの概略を示すブロック線図である。図5、図9において、油圧応答時定数算出部すなわち油圧応答時定数算出手段98は、図9のブロックB1に対応するものであって、例えばクラッチC1の指令油圧SPCIに対する実C1クラッチ圧PC1の油圧応答特性を反映する所定の遅れを表す為の油圧応答性の時定数TCpを、予め設定された油圧応答モデルからクラッチC1の実際の状態に基づいて算出する。上記油圧応答特性を反映する所定の遅れは、例えばクラッチC1の指令油圧SPCIに対する零から1に向かうステップ応答における所定のなまし処理としての一次応答遅れ系(一次遅れ系)により構成された次式(2)で表される函数式である。この式(2)では、時定数TCpが大きい程一次遅れ系のPC1(t)の立ち上がりが遅くなるすなわち応答が遅くなる。
PC1(t)=SPCI(t)×(1−ε−t/TCp) ・・・(2)
また、前記油圧応答モデルは、例えばクラッチC1の油圧応答性に関与するクラッチC1及び油圧制御回路(油圧回路)110の物理的な形状からクラッチC1の実際の状態に基づいて油圧応答性の時定数TCpを算出する為の所定の関係(油圧応答時定数マップ)である。具体的には、前記クラッチC1の実際の状態は、例えばクラッチC1の現在のC1クラッチ圧PC1(例えばアクセルオン時の実C1クラッチ圧PC1’)や作動油温THOILなどで表されるクラッチC1の油圧制御における応答遅れに影響を及ぼすようなクラッチC1の状態を表すものである。また、クラッチC1及び油圧制御回路(油圧回路)110の物理的な形状は、例えばクラッチC1のピストン形状、クラッチC1の係合や解放時のショックを抑制する為に油圧制御回路(油圧回路)110に備えられたダンパ(アキュムレータ)の特性、油圧制御回路110内のリニアソレノイドバルブSL1の特性、油圧制御回路110内の油路やオリフィス径などの油圧制御時の応答遅れを決定するクラッチC1を含む油圧制御回路110の諸元である。また、上記式(2)における指令油圧SPCI(t)と実C1クラッチ圧PC1(t)との関係は、実C1クラッチ圧PC1(t)をラプラス変換した次式(3)に示す伝達関数PC1(s)で表される。そして、油圧制御回路110の諸元とクラッチC1の実際の状態とが判ればクラッチC1の油圧制御における応答遅れが算出できるという観点から、次式(3)に示す油圧応答性の時定数TCpを算出する為の上記油圧応答時定数マップmapTCpを予め求めて設定するのである。本実施例では、例えば次式(4)に示すように、油圧応答時定数マップmapTCpからアクセルオン時の実C1クラッチ圧PC1’及び作動油温THOILに基づいて油圧応答性の時定数TCpを算出する。尚、この油圧応答時定数マップmapTCpは、例えば自動変速機ユニットの種類毎に予め求められて設定される。
PC1(s)=L[PC1(t)]=SPCI(t)/(s×(1+TCp×s)) ・・・(3)
TCp=mapTCp(PC1’、THOIL) ・・・(4)
実クラッチ圧算出部すなわち実クラッチ圧算出手段100は、図9のブロックB1に対応するものであって、例えば前記式(2)から、ブレーキオフからアクセルオンまでの時間tに基づいてアクセルオン時の実C1クラッチ圧PC1’(図12参照)を算出する。尚、この実C1クラッチ圧PC1’を算出する時点では、未だ前記式(4)から油圧応答性の時定数TCpが算出されていないので、実C1クラッチ圧PC1’を算出する際に前記式(2)において用いる油圧応答性の時定数TCpは、例えばアクセルオフ時の時定数TCpとして予め求められて一定値に設定されている。
トルク算出用時定数算出部すなわちトルク算出用時定数算出手段102は、図9のブロックB2に対応するものであって、例えばクラッチC1の指令油圧SPCIに対する実C1クラッチ圧PC1の油圧応答特性を反映したエンジントルクTEである先読みエンジントルクTEmodを目標エンジントルクTE *に基づいて算出する為の遅れを有するエンジントルク応答モデルにて用いられるその遅れを表すトルク算出用時定数TCeを、油圧応答時定数算出手段98により算出された油圧応答性の時定数TCpに基づいて算出する。上記エンジントルク応答モデルは、例えば目標エンジントルクTE *に対する先読みエンジントルクTEmodの変化推移を算出する為の無駄時間TL及びトルク算出用時定数TCeをパラメータとする一次応答遅れ系により構成された次式(5)で表される函数式である。また、前記先読みエンジントルクTEmodは、例えば目標エンジントルクTE *に応じて出力される実エンジントルクTEに対してクラッチC1の指令油圧SPCIに対する実C1クラッチ圧PC1の油圧応答特性を反映するように前出しした先読みトルクである。従って、トルク算出用時定数TCeは、上記エンジントルク応答モデルにて用いられる遅れを表す先読みトルク算出用時定数TCeである。
TEmod(t)=TE *(t−TL)×(1−ε−(t−TL)/TCe) ・・・(5)
より具体的には、トルク算出用時定数算出手段102は、油圧応答性の時定数TCpが大きい程、先読みトルク算出用時定数TCeが小さくなるように予め求められて設定された例えば図10に示すような関係(先読みトルク算出用時定数マップ)から、油圧応答時定数算出手段98により算出された油圧応答性の時定数TCpに基づいて先読みトルク算出用時定数TCeを算出する。尚、この先読みトルク算出用時定数マップは、例えばエンジンユニットの種類毎に予め求められて設定される。
先読みトルク算出部すなわち先読みトルク算出手段104は、図9のブロックB2に対応するものであって、例えばトルク算出用時定数算出手段102により算出された先読みトルク算出用時定数TCeを用いた前記式(5)で表されるエンジントルク応答モデルから、目標エンジントルク算出手段88にて算出された目標エンジントルクTE *に基づいて先読みエンジントルクTEmodを算出する。
油圧指令値設定部すなわち油圧指令値設定手段106は、図9のブロックB3に対応するものであって、例えば先読みトルク算出手段104により算出された先読みエンジントルクTEmodに基づいて、実エンジントルクTEの立ち上がりに対してクラッチC1の急係合ショックやクラッチ滑りが抑制されるように実C1クラッチ圧PC1が立ち上がる為のクラッチC1の指令油圧SPCIを設定する。
図11は、電子制御装置50の制御作動の要部すなわちエンジンユニットと自動変速機ユニットとの組合わせ毎の適合をその都度行うことなくエンジントルクTEに対して適切なクラッチC1の指令油圧SPCIを設定する為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。また、図12は、図11のフローチャートに示す制御作動を実行した場合の一例を示すタイムチャートである。
図11において、先ず、ニュートラル制御条件判定手段94に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S10において、例えばニュートラル制御中に前記所定のニュートラル制御条件が成立するか否かが判定されることによりニュートラル制御からの復帰を開始するか否かが逐次判定される。このS10の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられるが肯定される場合はニュートラル制御手段96及び変速制御手段92に対応するS20において、例えば第1速ギヤ段の係合側係合装置であるクラッチC1のクラッチトルク容量を増加させて係合させることによりニュートラル制御から復帰させるニュートラル制御解除指令が出力され、そのニュートラル制御解除指令に従って、クラッチC1を係合状態とするように予め設定されたN制御解除時の所定の係合パターンにてC1クラッチ圧PC1を上昇させるクラッチ係合指令が油圧制御回路110に出力される(図12のt1時点)。次いで、ニュートラル制御条件判定手段94に対応するS30において、例えばニュートラル制御の解除開始を判定する条件の1つであるアクセルペダル56が踏込み操作されたと判定されるような所定のアクセル開度判定値以上となったか否かすなわちアクセルオンが為されたか否かが判定される。このS30の判断が否定される場合はニュートラル制御手段96及び変速制御手段92に対応するS40において、例えば単に所定の係合パターンにてC1クラッチ圧PC1を上昇させてクラッチC1を係合させるニュートラル制御からの通常復帰が継続される。上記S30の判断が肯定される場合は実クラッチ圧算出手段100に対応するS50において、例えば前記式(2)からアクセルオン時の実C1クラッチ圧PC1’が算出される(図12のt2時点)。次いで、油圧応答時定数算出手段98に対応するS60において、例えば前記予め設定された油圧応答モデルからクラッチC1の実際の状態に基づいて、より具体的には前記式(4)に示すように油圧応答時定数マップmapTCpから作動油温THOIL及び上記S50にて算出されたアクセルオン時の実C1クラッチ圧PC1’に基づいて、油圧応答性の時定数TCpが算出される(図12のt2時点)。次いで、トルク算出用時定数算出手段102に対応するS70において、例えば図10に示すような先読みトルク算出用時定数マップから上記S60にて算出された油圧応答性の時定数TCpに基づいて先読みトルク算出用時定数TCeが算出される(図12のt2時点)。次いで、先読みトルク算出手段104に対応するS80において、例えば上記S70にて算出された先読みトルク算出用時定数TCeを用いた前記式(5)で表されるエンジントルク応答モデルから目標エンジントルクTE *に基づいて先読みエンジントルクTEmodが算出される(図12のt2時点以降)。次いで、油圧指令値設定手段106に対応するS90において、例えば上記S80にて算出された先読みエンジントルクTEmodに基づいて、実エンジントルクTEの立ち上がりに対してクラッチC1の急係合ショックやクラッチ滑りが抑制されるように実C1クラッチ圧PC1が立ち上がる為のクラッチC1の指令油圧SPCIが設定される(図12のt2時点以降)。次いで、ニュートラル制御手段96及び変速制御手段92に対応するS100において、例えば上記S90にて設定されたクラッチC1の油圧指令値SPCIに従ってC1クラッチ圧PC1が上昇させられてニュートラル制御が終了に向けて制御される(図12のt2時点以降)。
図12において、クラッチC1における油圧応答性が比較的良好な場合にはすなわち油圧応答性の時定数TCpが比較的小さい場合には、先読みトルク算出用時定数TCeが比較的大きくされ、破線に示すように、目標エンジントルクTE *に対する先読みエンジントルクTEmodの立ち上がりが比較的遅くされる。従って、この先読みエンジントルクTEmodに基づくクラッチC1の油圧指令値SPCIの立ち上がりも比較的遅くされる。反対に、クラッチC1における油圧応答性が比較的悪い場合にはすなわち油圧応答性の時定数TCpが比較的大きい場合には、先読みトルク算出用時定数TCeが比較的小さくされ、二点鎖線に示すように、目標エンジントルクTE *に対する先読みエンジントルクTEmodの立ち上がりが比較的早くされる。従って、この先読みエンジントルクTEmodに基づくクラッチC1の油圧指令値SPCIの立ち上がりも比較的早くされる。これにより、クラッチC1における油圧応答性が比較的良好な場合と比較的悪い場合との何れにおいても、ニュートラル制御解除時のアクセルオンに伴う実C1クラッチ圧PC1の立ち上がりは略同様のものが得られる。つまり、クラッチC1における油圧応答性が比較的良好な場合と比較的悪い場合との何れにおいても、アクセルオンに伴う実エンジントルクTEの立ち上がりに対してクラッチC1の急係合ショックやクラッチ滑りが抑制されるように実C1クラッチ圧PC1を立ち上げることが可能になる。すなわち、クラッチC1における油圧応答性のバラツキに対し、クラッチC1のクラッチトルク容量とエンジントルクTE(すなわち変速機入力トルクTIN)とのバランスが常に安定的となり、クラッチC1の急係合ショックやクラッチ滑りが抑制される。このように、本実施例では、エンジンユニットと自動変速機ユニットとの組合わせ毎の適合をその都度行うことなくエンジントルクTEに対して適切なクラッチC1の指令油圧SPCIを設定することができる。例えば、自動変速機ユニットの種類毎に油圧応答時定数マップmapTCpを予め求めて設定し、エンジンユニットの種類毎に先読みトルク算出用時定数マップを予め求めて設定しておけば、エンジンユニットと自動変速機ユニットとの組合わせが替わったとしても、その組合わせ毎の適合をその都度行う必要はなく、前記図11のフローチャートに沿ってクラッチC1の指令油圧SPCIが適切に設定される。
上述のように、本実施例によれば、C1クラッチ圧PC1の指令値SPCIに対する実際値の油圧応答特性を反映する所定の遅れを表す為の油圧応答性の時定数TCpが予め設定された油圧応答モデルからクラッチC1の実際の状態に基づいて算出され、クラッチC1の油圧応答特性を反映したエンジントルクTEを目標エンジントルクTE *に基づいて算出する為の遅れを有するエンジントルク応答モデルにて用いられるその遅れを表すトルク算出用時定数TCeが油圧応答性の時定数TCpに基づいて算出されるので、例えばクラッチC1を含むクラッチ関連装置ユニット(自動変速機ユニット)においては自動変速機ユニット毎に油圧応答モデルを予め設定しておき、その油圧応答モデルから油圧応答性の時定数TCpを算出すれば良い。また、エンジンユニットにおいては、上記算出された油圧応答性の時定数TCpに基づいてトルク算出用時定数TCeを算出すれば良い。これにより、自動変速機ユニットとエンジンユニットとを相互に関連付けて適合を行うことなく、クラッチC1の油圧応答特性を反映したエンジントルクTEが適切に算出され、その算出されたエンジントルクTEに基づいてC1クラッチ圧PC1の指令値SPCIが適切に算出される。よって、自動変速機ユニットとエンジンユニットとの組み合わせが替わったとしても、各ユニットの組合わせ毎の適合を行うことなく、エンジントルクTEに対して適切なC1クラッチ圧PC1の指令値SPCIを設定することができる。
また、本実施例によれば、油圧応答性の時定数TCpが大きい程、トルク算出用時定数TCeが小さくなるように予め設定された関係(先読みトルク算出用時定数マップ)から、油圧応答性の時定数TCpに基づいてトルク算出用時定数TCeを算出するので、例えばエンジンユニットにおいてはエンジンユニット毎に上記関係を予め設定しておき、その関係からトルク算出用時定数TCeを算出すれば良い。つまり、自動変速機ユニットとエンジンユニットとを相互に関連付けて適合を行う必要が確実になくなる。
また、本実施例によれば、クラッチC1の油圧応答特性を反映したエンジントルクTEは目標エンジントルクTE *に応じて出力される実エンジントルクTEに対してクラッチC1の指令油圧SPCIに対する実C1クラッチ圧PC1の油圧応答特性を反映するように前出しした先読みトルク(先読みエンジントルクTEmod)であり、前記エンジントルク応答モデルは先読みエンジントルクTEmodを目標エンジントルクTE *に基づいて算出する為の遅れを有するものであり、トルク算出用時定数TCeは前記エンジントルク応答モデルにて用いられる前記遅れを表す先読みトルク算出用時定数TCeであるので、自動変速機ユニットとエンジンユニットとを相互に関連付けて適合を行うことなく、クラッチC1の油圧応答特性を反映した先読みエンジントルクTEmodが適切に算出され、その先読みエンジントルクTEmodに基づいてクラッチC1の指令油圧SPCIが適切に算出される。
また、本実施例によれば、クラッチC1の油圧応答特性を反映する所定の遅れは、C1クラッチ圧PC1の指令値SPCIに対する所定のなまし処理としての一次応答遅れ系により構成された函数式であるので、一次応答遅れ系により構成された函数式における時定数TCpによってクラッチの油圧応答遅れが適切に表される。
また、本実施例によれば、前記油圧応答モデルは、クラッチC1の油圧応答性に関与するクラッチC1及び油圧制御回路110の物理的な形状からクラッチC1の現在のC1クラッチ圧PC1に基づいて油圧応答性の時定数TCpを算出する為の所定の関係(油圧応答時定数マップ)であるので、クラッチC1の実際の状態に基づく油圧応答遅れを反映した油圧応答性の時定数TCpが油圧応答モデルから適切に算出される。
また、本実施例によれば、前記エンジントルク応答モデルは、目標エンジントルクTE *に対する先読みエンジントルクTEmodの変化推移を算出する為の無駄時間TL及びトルク算出用時定数TCeをパラメータとする一次応答遅れ系により構成された函数式であるので、先読みエンジントルクTEmodの変化推移が目標エンジントルクTE *に基づいて適切に算出される。
また、本実施例によれば、エンジン30の動力を自動変速機12を介して駆動輪38へ伝達する車両10において、ニュートラル制御を解除するときのアクセルオンの車両発進に際して係合するクラッチC1の指令油圧SPCIが適切に算出される。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前述の実施例では、自動変速機12が前進6速、後進1速の変速が可能な自動変速機であったが、自動変速機の変速段数や内部構造は特に前述した自動変速機12に限定されるものではない。すなわち、ニュートラル制御が実施可能であり、且つ、ニュートラル制御が解除される際に、所定の係合装置を係合させる構成であれば、本発明を適用することができる。また、ベルト式無段変速機などの無段変速機であっても本発明を適用することができる。尚、ベルト式無段変速機などの場合には、例えばエンジンとベルト式無段変速機との間の動力伝達経路を断接することが可能な係合装置や良く知られた前後進切換装置に設けられた係合装置などにおいて、本発明が適用される。
また、ニュートラル制御解除時のクラッチ係合に限らず、例えばアクセルオン時のクラッチ係合であれば、本発明を適用することができる。具体的にはアクセルオンに伴う自動変速機12の変速時のクラッチ係合やアクセルオンの発進時にロックアップクラッチ33を係合に向けてスリップ係合させる発進時スリップ制御などであっても本発明を適用することができる。このようにしても、自動変速機12の変速段を成立させる為に係合される油圧式摩擦係合装置の係合油圧の指令値が適切に算出される。また、ロックアップクラッチ33の係合油圧の指令値(具体的にはアクセルオンの車両発進時にスリップ乃至係合させるロックアップクラッチ33の係合油圧の指令値)が適切に算出される。
また、前述の実施例では、エンジントルク応答モデル等における一次遅れ系は、目標エンジントルクTE *等の所定のなまし処理の一例であり、二次遅れ系等の他のなまし処理であっても本発明は適用され得る。つまり、なまし処理における時定数は、例えば過渡現象においてそれが続く長さの目安となる定数であり、油圧応答性の時定数TCpや先読みトルク算出用時定数TCeは必ずしも一次遅れ系における時定数でなくとも良く、他のなまし処理における時定数であっても本発明は適用され得る。
また、前述の実施例において、ニュートラル制御手段96は、ニュートラル制御をシフトレバー74の「D」ポジションにおいて実行したが、シフトレバー74の「R」ポジションにおいて実行しても良い。この場合には、後進ギヤ段を達成するための係合装置であるブレーキB2及びブレーキB3の少なくとも何れかをスリップ状態乃至解放状態とする。このような「R」ポジションにおいてニュートラル制御を実行する場合でも、本発明は適用され得る。
また、前述の実施例では、流体伝動装置としてロックアップクラッチ33が備えられているトルクコンバータ32が用いられていたが、トルク増幅作用のないフルードカップリングが用いられても良い。
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。