JP4950598B2 - シート状物の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、鮮明な画像を表面に有するシート状物の製造方法に関し、さらに詳しくは皮革様シート状物に適した画像が鮮明でありながら物性に優れたシート状物の製造方法に関する。
従来、表面に高分子弾性体層を有する皮革様シート状物、いわゆる銀付調人工皮革は多岐に渡る用途に使用され、中でもその外観表現に対してはさまざまな工夫がなされてきた。たとえば外観表現方法として、シート状物の高分子弾性体層表面にグラビア印刷、ローラー印刷などの従来から知られている印刷技術で着色図柄を施す方法、あるいは転写による着色図柄を施す方法、あるいは捺染などによる着色図柄を施す方法が採用されている。これらの図柄はグラビアロール、彫刻ロール、捺染用スクリーンなどの図柄により高分子弾性体層表面に表現されるものであるが、これらの色合い、図柄を変更するにはロールへの図柄の彫刻、さらには調色を繰り返す必要がある。また、これらの従来方法では、一回の工程で一色のみ着色するという制約など、その図柄の表現範囲、色合いには限度があり、数多くの繊細な図柄をシート状物表面に施すには多大な費用と時間を費やさなければならなかった。
一方、近年になり印刷分野ではインクジェットプリンターによりコンピューター上で描いた情報図柄を多色かつ短時間で印刷することができ普及してきている。そしてこのインクジェット方式の印刷は先に述べた従来方式のグラビア印刷、ローラー印刷、転写、あるいは捺染と異なり、短時間で多様な色彩で多様な図柄を鮮明に印刷することができる点に特徴がある。しかし紙に対する印刷と異なり、高分子弾性体層からなるシート状物表面に印刷するのは容易ではなく、各種試みがなされているのが現状である。
例えば、特許文献1には、天然皮革などの皮革類の表面に水性下塗り剤層を形成し、その上にさらにアルミナ水和物を含有する多孔質インク受容層を設け、該多孔インク受容層上にインクジェット方式によって描画した皮革製品が記載されている。しかしながら、この皮革製品における多孔とはアルミナ水和物に依存するnmオーダーの多孔であり、多孔質インク受容層のインク受容性(染着性)が十分でないため、この方法をシート状物の高分子弾性体層表面に適用しても、微細で鮮明な図柄が形成されにくく、しかも図柄の色調も深みのないものとなり易いものであった。さらに、この方法では多孔質インク受容層を構成するアルミナ水和物が摩擦により脱落し易く、耐摩耗性の点でスポーツシューズなどに加工される皮革様シート状物に適用するだけの実用性を持たないものであった。
また、特許文献2では、繊維質基材の易染層上に染料を含有するインクを用いてインクジェット方式により描画し、その描画された画像上に透明または半透明の保護層を有する皮革様シートの製造方法が提案されている。しかしながら、この皮革様シートは、染料インクを使用しているために、特に屋外で使用するシューズ、競技用ボール、あるいは鞄類に加工されて実使用された場合、耐光堅牢性が十分でなく、インクジェット方式で得られた繊細でかつ鮮明な画像を長時間保持できないという欠点があった。さらに、染料を使用しているため、皮革様シート、あるいは皮革様シートから加工された靴、ボール、鞄、あるいは手袋などが表面同士で接触する場合に、染料が表面に移行し、接触された相手を汚染するという問題があった。
この問題を解決するためには、インクを染料ではなく、顔料からなるインクを着色剤として使用することが考えられる。これらの顔料インクをインクジェット方式に採用した場合には、画像が屋外使用される用途でも長期間保持できると考えられるためである。しかしながら、顔料インクを使用して皮革類の表面に図柄を施した場合、図柄が施されている層と隣接する層との接着が、接着性を阻害する顔料粒子のために極めて弱くなるという問題があった。特に皮革様シート状物として靴や鞄などに加工成型された場合には、屈曲を受けた部分が剥離する、あるいは屈曲を受けた部分の画像が脱落するなどの問題が発生したのである。すなわち、未だ微細な画像を表面に有するとともに、実用に耐えうるシート状物を製造する方法は得られていないのが現状であった。
特開平9−59700号公報 特開平11−158782号公報
本発明は、鮮明な画像を表面に有し、かつ描かれた画像が鮮明でありながら物性に優れたシート状物の製造方法を提供することにある。
本発明のシート状物の製造方法は、繊維質基材上に存在する高分子弾性体層上にUV硬化顔料からなる画像を形成させ、UV硬化後に水系高分子弾性体を塗布し、該水系高分子弾性体が表層となることを特徴とする。
さらには、画像を形成する方法がインクジェット法であることや、画像の解像度が5ドット/mm以上であること、高分子弾性体がポリウレタンであること、または高分子弾性体層が湿式ポリウレタン多孔層であることが好ましい。
また、繊維質基材が極細繊維を有するものであることが好ましい。
本発明によれば、鮮明な画像を表面に有し、かつ描かれた画像が鮮明でありながら物性に優れたシート状物の製造方法が提供される。
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明のシート状物の製造方法は、高分子弾性体層上にUV硬化顔料からなる画像を形成させ、画像をUV硬化させた後に水系高分子弾性体を塗布することを必須とする。
画像を形成させるベースとしての高分子弾性体としては、例えばポリウレタン、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、あるいはポリブタジエン、ポリイソプレンなどの合成ゴムなどを挙げることができる。この中では、耐摩耗性、弾性回復性、柔軟性等の面からポリウレタンが好ましい。またその厚みとしては十分な物性を得るためには0.05mm〜1.5mm程度が好ましい。
この高分子弾性体からなる層は無孔質でも良いが、好ましくは多孔質層であり、特には、湿式ポリウレタン多孔層であることが好ましい。同じ厚さの場合には多孔質であるほうが密度が減少し、風合いが向上する。密度としては0.20〜0.70g/cm、さらには0.3〜0.5g/cmの範囲であることが好ましい。多孔の種類としては連通孔でも独立孔であってもかまわない。
この高分子弾性体層に好ましく用いることができるポリウレタンとしては、人工皮革用として使用されるものが好ましく、たとえば有機ジイソシアネート、高分子ジオールおよび鎖伸長剤の重合反応で得られる従来公知の熱可塑性ポリウレタンを挙げることができる。有機ジイソシアネートとしては分子中にイソシアネート基を2個含有する脂肪族、脂環族または芳香族ジイソシアネート、特に4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート、P−フェニレンジイソシアネート、トルイレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4'−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等が挙げられる。高分子ジオールとしては例えばグリコールと脂肪族ジカルボン酸の縮合重合で得られたポリエステルグリコール、ラクトンの開環重合で得られたポリラクトングリコール、脂肪族または芳香族ポリカーボネートグリコール、あるいはポリエーテルグリコールの少なくとも1種から選ばれた平均分子量が500〜4000のポリマーグリコールなどが挙げられる。そして鎖伸長剤としてはイソシアネートと反応しうる水素原子を2個含有する分子量500以下のジオール、例えばエチレングリコール、1,4ブタンジオール、ヘキサメチレングリコール、キシリレングリコール、シクロヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール等が挙げられる。
このような高分子弾性体を用いて好ましい多孔質層を得る方法としては、従来から知られている方法が採用できる。例えば、ポリウレタンの良溶剤でありかつ水と相溶性のある有機溶剤にポリウレタンを溶解させ、このポリウレタン溶液を任意の厚みで支持体上にコーティングし、水浴中に浸漬して多孔凝固させるいわゆる湿式凝固法、またはポリウレタンを水と相溶性はないがポリウレタンを溶解あるいは分散できる有機溶剤に溶解、あるいは分散させた溶液、あるいは分散液を任意の厚みで支持体上にコーティングし、水の蒸発を妨げながら有機溶剤を選択的に蒸発させる乾式多孔成形法、またはポリウレタンの水溶液、あるいは水分散液中に熱膨張性微粒子カプセルを分散させ任意の厚みで支持体上にコーティングし、乾燥しながら熱膨張性カプセルを膨張させる方法、またはポリウレタンの分子末端にアルコール性水素を有するプレポリマーとポリイソシアネート、および水を混合し、直後に任意の厚みで支持体上にコーティングする方法、または溶融ポリウレタン中に不活性ガスを分散させて任意の厚みで支持体上にコーティング、発泡させる方法、または、ケミカル発泡剤を混合したポリウレタン溶液あるいは分散液を任意の厚みで支持体上にコーティングする方法などが挙げられる。中でも、湿式凝固法による湿式ポリウレタン多孔層が孔の形状を制御し易く多孔質を得るのに好ましい。
また、本発明で用いる高分子弾性体層が多孔質である場合、表面研削や最表層を溶剤で溶解するなどの方法により、開孔を有するものとすることも好ましい態様である。高分子弾性体層が開孔を有さない平滑面である場合はより微細な画像を形成しやすいという利点を有するのに対し、開孔を有する場合には画像を構成する顔料が開孔内部に侵入し、より脱落しにくい画像となりまた、顔料による接着性等の物性の低下を防止することが可能となる。
本発明のシート状物の製造方法は、このような高分子弾性体上にUV硬化顔料からなる画像を形成させるものである。本発明で用いるUV硬化顔料としては、紫外線の照射により硬化するものであれば特に制限は無いが、一般にモノマー、プレポリマー、光硬化開始剤、顔料から構成されるものである。このUV硬化顔料は紫外線の照射を受けることにより光硬化開始剤がモノマーをポリマーに転換させる光重合反応により硬化するタイプの顔料であり、ポリマーとしてはアクリル系樹脂などが一般に用いられる。またUV硬化顔料は、液体樹脂であるモノマー、プレポリマーが顔料の分散媒となるため、溶剤をほとんど含まず、有機溶剤や水を溶媒として大量に含む通常の有機溶剤系顔料や水系顔料と明確に区別されるものである。本発明で形成される画像はこのようにUV硬化顔料からなるものであるが、顔料タイプのインクを用いることにより、染料タイプのインクより粒子が大きいので耐光性や色移行に優れるものとなる。また有機溶剤系顔料と異なり、UV硬化顔料は高分子弾性体層間の接着性を阻害しない。
また、本発明のシート状物の製造方法においては画像を形成する方法がインクジェット法であることや、その画像の解像度が5ドット/mm以上であることが好ましい。さらには画像の解像度として10ドット/mm〜100ドット/mmの解像度の画像であることが好ましい。本発明の製造方法は、特にこのような細かい解像度の画像を印刷した場合にその画像のにじみ等が発生しないために最適である。より具体的にはこの画像は360ドット/inchや720ドット/inchのインクジェットプリンターを用いることにより行うことができる。図柄は任意に選択することができ、文字、写真、デザイン画等であっても適用可能である。インクジェットプリンターは、UV硬化顔料タイプのインクを使用可能なインクジェットプリンターであれば良く、コンピューターの画像展開ユニットから送られるデータに基づいて、高分子弾性体層上にUV硬化顔料からなる画像を形成させ、シート状物の表面に図柄を印刷するものである。
本発明の製造方法では、画像を形成させ顔料をUV硬化させた後に、さらにその画像の形成された面に水系高分子弾性体を塗布することを必須とする。有機溶剤系では無く水系の高分子弾性体ポリマーを塗布するため、画像をきわめてクリアーなまま保つことが可能となった。さらに画像の鮮明さを保つためにもこの高分子弾性体は透明あるいは半透明であることが好ましい。また水系とは高分子弾性体ポリマーの水溶液、あるいは水分散液として乳化、分散された高分子弾性体であり、有機溶剤を含まないか、含んでいたとしても極微量である高分子弾性体溶液のことをさす。このような高分子弾性体ポリマーとしては、例えばポリウレタン、ポリエステル、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、あるいはポリ塩化ビニリデンなどが挙げられる。中でも物性面からはポリウレタンであることが好ましい。
本発明は、画像の形成された面に水系高分子弾性体を塗布することにより、保護層として透明な、あるいは半透明なポリマー層を形成し、図柄の崩れや屈曲等の画像のクラックを防ぐものである。ポリマーによる保護膜の層を形成する方法としては、表面にインクジェット法による画像を有するシート状物の表面に直接、保護膜を形成し得るポリマーの水溶液、あるいは水分散液をコーティングして次いで乾燥させるコーティング方法、または、あらかじめ離型紙の上にポリマーの溶液あるいは分散液をコーティングして次いで乾燥させて得られる皮膜を、本発明の表面に画像を有するシート状物の表面に水系接着剤で貼り合わせるいわゆるラミネート方法、などを採用することができる。
より具体的には、たとえばコーティング方法としては、ナイフコーティング、ロールコーティング、スプレー、あるいはグラビアコーティング等が採用され、ラミネート方法としては、たとえば離型紙上に高分子弾性体皮膜をあらかじめ形成し、その層と画像を形成されたシート状物とを、水系高分子からなる接着剤によって接着させるラミネート法が採用される。塗布される水系高分子の厚さとしては0.01mm以上であることが好ましく、さらには0.02〜1mm程度の厚さであることが好ましい。
この水系高分子弾性体により、本発明ではシート状物表面のUV硬化顔料で描かれた画像を高度に保護することができ、シート状物表面の耐摩耗性や耐色移行性が向上する。ここで塗布する高分子弾性体溶液が水系ではなく有機溶剤系溶液である場合には、たとえUV硬化顔料が硬化後であったとしても、残存しているインクのモノマー成分等が有機溶剤によって溶解、あるいは膨潤して微細で繊細に描かれていた図柄の形が崩れ、微細な鮮明さが失われてしまう。またたとえある程度図柄の形を保っていたとしても、シート状物を屈曲させた場合に、図柄が描かれている顔料層にクラックが入り、屈曲するたとえば人工皮革のような用途での実用に耐えうるものにはならない。したがって本発明の製造方法においては、高分子弾性体溶液は水系であることが必須であり、溶液中には有機溶剤が全く含有していないか、たとえ含有していたとしても微量であることが必要である。
また、本発明では水系高分子弾性体を塗布して形成した面のさらに外側に高分子弾性体層を有するものとすることも好ましい。このような高分子弾性体層により、シート状物の物性や風合いを向上させることができる。用いられる高分子弾性体としては、例えばポリウレタン、ポリエステル、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、あるいはポリ塩化ビニリデンなどが挙げられる。
このような高分子弾性体層は、離型紙上で高分子弾性体層を形成させて接着剤により接着させても良いし、いったん画像を有するシートを形成した後に、その表面に高分子弾性体の有機溶剤溶液、有機溶剤分散液、水溶液、あるいは水分散液をコーティングし次いで乾燥させる方法などがあり、コーティングの方法としては、ナイフコーティング、ロールコーティング、スプレー、あるいはグラビアコーティング等を採用することができる。
さて、本発明のシート状物の製造方法は上記のような方法であるが、この画像を有する高分子弾性体層は繊維質基材上に存在することが好ましく、このような場合には表面に画像が形成された皮革様のシート状物を得ることができる。
より具体的には、たとえば高分子弾性体層が繊維質基材上に存在するものであり、その高分子弾性体層上にUV硬化顔料からなる画像を形成させ、UV硬化後に水系高分子弾性体を塗布することにより、水系高分子弾性体がシート状物の表層となるようにするシート状物の製造方法である。
あるいは、高分子弾性体層が離型紙上に存在するものであり、その高分子弾性体層上にUV硬化顔料からなる画像を形成させ、UV硬化後に接着剤となる水系高分子弾性体を塗布することにより、水系高分子弾性体によって離型紙上の高分子弾性体と繊維質基材を張り合わせ、次いで離型紙を剥離除去するシート状物の製造方法である。この場合、繊維質基材と、水系高分子弾性体と、画像が形成された高分子弾性体層とが順に積層されることとなる。ただし高分子弾性体層の画像が形成される面はシート状物の表面ではなく、接着剤となる水系高分子弾性体との界面となる。
もちろんこれらのシート状物も、その最表面側にさらに他の高分子弾性体を付与させてもかまわないことはいうまでも無い。
ここで本発明に用いられる繊維質基材としては、繊維集合体、あるいはこの繊維集合体に高分子弾性体を含浸させた複合繊維集合体が使用でき、従来から人工皮革用として用いられているものが好ましい。厚さとしては0.2〜5mm、さらには0.4〜2.5mmであることが好ましい。繊維集合体としては、不織布や織編物が挙げられ、これらを構成する繊維としては、例えばポリエステル、ポリアミドなどの合成繊維、または綿、麻、羊毛などの天然繊維、またはレーヨンなどの半合成繊維が挙げられ、また、これらの2種以上の混合であってもよい。
さらに繊維質基材としては極細繊維を含むものであることが好ましい。このような繊維質基材は、繊維集合体として単繊維繊度が0.3デシテックス以下、さらには0.1〜0.0001デシテックスの繊維が交絡された不織布を用いたものである。単繊維繊度が細くなることにより、得られる繊維質基材表面が平滑となり、インクジェット法等で描かれる微細な図柄がより引き立たせることが可能となる。このような単繊維繊度の繊維は、従来から知られている方法によって製造することができ、例えば、合成繊維製造における海島紡糸法、混合紡糸法、分割型複合紡糸法などを挙げることができる。これらの繊維は比較的太い極細化前の親繊維を短繊維となした後、従来から知られているカード機等による開繊、ニードル機等による交絡により不織布とし、後に極細化することによって極細繊維から成る不織布となる。極細化の方法としては、海島紡糸法および混合紡糸法で得られた親繊維から極細繊維となる以外の成分を抽出または分解除去する方法や、分割型複合紡糸法により得られた親繊維を機械的、または化学的に分割する方法を採用することができる。抽出または分解除去されるポリマー成分としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、あるいはこれらの共重合体が代表例として挙げられ、極細繊維となるポリマー成分としてはポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステルや、ナイロン6、ナイロン6,6などのポリアミドなどを挙げることができる。また効率的に生産する場合には、分割型複合紡糸を紡糸し直接ウェブ化した後、ニードル機等で交絡し、機械的分割処理するなどして極細不織布とすることが好ましい。
繊維質基材として用いられる繊維集合体と高分子弾性体からなる複合繊維集合体としては、上記の繊維集合体に高分子弾性体を含浸、凝固、乾燥させたものなどである。高分子弾性体としては、例えばポリウレタン、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、あるいはポリブタジエン、ポリイソプレンなどの合成ゴムなどを挙げることができる。この中では、耐摩耗性、弾性回復性、柔軟性等の面からポリウレタンが好ましく用いられる。これらの高分子弾性体は有機溶剤で溶解、あるいは分散された溶液、あるいは分散液として含浸に供される。好ましくは、これらの高分子は地球環境保護、および作業環境保護のためにも水溶液、あるいは水分散として含浸に供されることが好ましい。
またこの繊維質基材には、本発明の製造方法で用いられる画像を形成する高分子弾性体を付与する面に、さらに別の高分子弾性体からなる層があらかじめ存在するものであることも好ましい形態の一つである。その厚みとしては0.05mm〜1.5mmが好ましい。厚みが0.05mm以下であると繊維質層の凹凸が隠蔽しきれず表面の平滑性が得られにくく好ましくない。また、該層の厚みが1.5mm以上となると人工皮革としての風合いがゴム状となり好ましくない。
この高分子弾性体からなる層は無孔質でも良いが、好ましくは多孔質層であり、先に述べた画像を形成する高分子弾性体と同様なものを使用することができる。多孔の種類としては連通孔でも独立孔であってもかまわない。高分子重合体からなる多孔質層は、繊維質基材上に直接、コーティング法などにより形成することができ、または剥離性支持体上で作成されたポリウレタン等の多孔質膜を繊維質基材上に接着剤により貼り合わせても良い。また、本発明の製造方法では、これらの高分子重合体多孔質層を有さない繊維質基材のまま用いることも出来る。
このようにして得られた本発明のシート状物は、UV硬化顔料インクを使用した微細な図柄を有したものであり、しかもこれらの図柄は光による変退色もなく、染料移行性もなく、かつ耐摩耗性および人工皮革等の各種用途に耐えうる剥離強力等の物性を有したものである。本発明のシート状物に付与される画像は、インクジェットプリンターに接続されているコンピューター等で、デザイン、模様、写真などの図柄を自在にかつ容易にシート状物表面の意匠として表現できるため、たとえば繊維質基材の表面に付与し皮革様シート状物とした場合、従来から皮革様シート状物の使用されているスポーツシューズ、一般靴、各種競技用ボール、装丁用途、衣料、および家具・車両用途においても、個性を強調した「自分だけの図柄」を生かせるものとなる。
以下、具体的に実施例によって本発明を詳細に説明する。なお、実施例中「部」および「%」とあるのは、いずれも重量基準であり、特性測定値は下記の方法で得られたものである。また、以下の例において耐光堅牢度、耐色移行性、耐磨耗性および剥離強力は次ような方法で測定した。
(耐光堅牢度)
JIS−L0824に準ずる方法で50時間、カーボンアークの光照射を施した後の変退色を観察し、変化が無いものを5級とし、変退色が激しく元の図柄が読み取れないものを1級、元の図柄は残しているが変退色しているものを3級として判定した。
(耐色移行性)
各実施例、比較例で得られたインクジェット方式で印刷された図柄を表面に有する皮革様シート状物表面と、表面がポリウレタンで形成された一般的な白色の人工皮革の表面とを、A6サイズの面積で重ね合わせ、均一に2kgの荷重を与えて70℃の雰囲気下に3日間放置した後の白色人工皮革表面への色移行を観察し、白色の人工皮革表面に移行していないものを5級とし、激しく移行して白色人工皮革のほぼ全面に着色されているものを1級、3割から5割の面積が着色されているものを3級として判定した。
(耐磨耗性)
ASTM D−3886法に準じ、サンドペーパーとして、HANDY ROLL P320J(NORTON社製)を使用し、摩耗部位の繊維層が露出した大きさが直径10mmに到達する回数とした。
(剥離強力)
JIS K6301法に準じ、引張速度50mm/分で100mm剥離させ、20mm毎のミニマム値5点の平均値をN/cmで表し剥離強力とした。
(耐屈曲性)
JIS K6545法、JIS K6505法に準じ、表面に亀裂の入った回数で表し耐屈曲性とした。
[実施例1]
<繊維集合体の作成>
120℃で乾燥したナイロン−6(m−クレゾール中の極限粘度1.1)をエクストルーダーに供給し溶融した。別途160℃で乾燥したポリエチレンテレフタレート(o−クロロフェノール中の極限粘度0.64)を、前述とは別個のエクストルーダーにて溶融した。引き続き、ナイロン−6混合体溶融流は導管ポリマー温度250℃で、ポリエチレンテレフタレート溶融流は300℃で、275℃に保温されたスピンブロックへ導入し、中空形成吐出孔を格子状配列で有する矩形の紡糸口金を用いて両重合体溶融流を合流させ複合し2g/分・孔の量で吐出し、空気圧力0.35MPa(吐出量と複合繊維繊度から換算した紡速で約4860m/分)にて高速牽引した。牽引された複合繊維は、−30kVで高電圧印加処理し、空気流とともに分散板に衝突させ、開繊し、16分割の多層貼合せ型断面をもつ剥離分割型複合繊維からなるウェブとしてネットコンベアー上に幅1mで補集した。引き続き、得られたウェブを100℃に加熱された上下一対のエンボスカレンダーロールに通し熱接着を行った。得られたウェブをニードルパンチにて交絡処理を施した後、水に浸漬し、軽くマングルで絞った後シート状物打撃式揉み機にて剥離分割処理を行い目付210g/mの極細繊維不織布を得た。次いでこの不織布を70℃の温水中で収縮させ収縮前の面積に対し60%の面積のものを得た。
得られた繊維集合の目付は350g/m、厚さは1.0mmであり、繊度は0.15dtexであった。
<繊維質基材(複合構造物)の作成>
上記の繊維集合体に、10重量%のポリウレタン(大日本インキ化学工業(株)製;クリスボンTF50P)−ジメチルホルムアミド(以下、DMFと記す。)溶液を含浸させた後、繊維集合体表面の余分な溶液をかきとり、5%のDMFを含んだ水中に20分間浸漬してポリウレタンを凝固させ、DMFを水で十分に洗浄除去した後120℃で4分間乾燥して繊維質基材(複合構造物)を得た。
得られた繊維質基材(複合構造物)の表面は繊維とポリウレタンが混在するものであり、目付は455g/m、厚さは1.0mmであった。
<高分子多孔質層を表面に有する繊維質基材の作成>
上記のポリウレタンと繊維からなる繊維質基材の表面に20重量%のポリウレタン(大日本インキ化学工業(株)製;クリスボンTF50P)−DMF溶液(添加剤として東レ・ダウコーニング製SH28PAを溶液100部に対し0.3部を使用)を800g/mの目付けでコーティングした後、5%のDMFを含んだ水中に20分間浸漬してポリウレタンを凝固させDMFを水で十分に洗浄除去した後120℃で5分間乾燥して密度0.39のポリウレタン多孔質層(湿式多孔層)の形成された高分子多孔質層を有する繊維質基材を得た。得られた基材の剥離強力は31.2N/cmであり、スポーツシューズ用途を始め人工皮革の各用途での使用に耐えうる強度であった。
<皮革様シート状物(シート状物)−1の作成>
上記繊維質基材のポリウレタン多孔質層の表面にインクジェットプリンター(RP−720UVZ、ラスタープリンター社製)にてUV硬化顔料タイプのインク(シアン、マゼンタ、イエロー、ライトシアン、ライトマゼンタ、およびブラック)を使用して、720DPI(ドット/インチ)の解像度の風景画を印刷した後、この表面に、ポリウレタン樹脂の33%水分散液100部に増粘剤を混合し、攪拌して粘度を8000CPSに調整した調合液を、目付け90g/mでコートし、温度70℃で2分間、110℃で2分間乾燥して皮革様シート状物(シート状物、人工皮革)−1を得た。得られた皮革様シート状物−1の表面は、微細で鮮明な画像が印刷されていた。なお、耐光堅牢性を測定したところ、変化はなく5級の判定で良好なものであった。また、耐色移行性も無く5級の判定であり良好なものであった。剥離強力は24.6N/cmであり、その剥離箇所はインクジェット印刷図柄の界面であった。また、耐磨耗性は1150回であり、耐屈曲性は9000回であった。表1に物性を示す。
[実施例2]
<皮革様シート状物(シート状物)−2の作成>
離型紙(リンテック社製R53)上に、ポリウレタン樹脂の33%水分散液100部に増粘剤を混合し、攪拌して粘度を8000CPSに調整した調合液を目付け90g/mでコートし、温度70℃で2分間、110℃で2分間乾燥して高分子弾性体の膜を形成した。さらにその表面に、水分散型ポリウレタン系接着剤100部に増粘剤を混合して粘度を5000CPSに調整した調合液を目付け80g/mでコートした。次いで、温度90℃で2分乾燥後、その離型紙状の高分子弾性体と、実施例1で得られた皮革様シート状物とを重ね合わせ、温度110℃の加熱シリンダー表面上で0.6mmの間隙のロールに通過させ圧着した。その後、温度60℃の雰囲気下で2日間放置した後、離型紙を剥ぎ取り皮革様シート状物(シート状物、人工皮革)−2を得た。得られた皮革様シート状物−2は、耐光堅牢性を測定したところ、変化はなく5級の判定で良好なものであった。また、耐色移行性も無く5級の判定であり良好なものであった。剥離強力は26.2N/cmであり、その剥離箇所はインクジェット印刷の図柄の界面であった。また、耐磨耗性は1280回と良好であり、耐屈曲性は11000回であった。表1に物性を併せて示す。
参考例1
離型紙(リンテック社製R53)上に、ポリウレタン樹脂の33%水分散液100部に増粘剤を混合し、攪拌して粘度を8000CPSに調整した調合液を目付け90g/mでコートし、温度70℃で2分間、110℃で2分間乾燥して高分子弾性体層の膜を形成した。この高分子弾性体層の表面にインクジェットプリンター(RP−720UVZ ラスタープリンター社製)にてUV硬化顔料タイプのインク(シアン、マゼンタ、イエロー、ライトシアン、ライトマゼンタ、およびブラック)を使用して720DPI(ドット/インチ)の解像度の風景画を印刷した。次いで、この印刷面の表面に、水分散型ポリウレタン系接着剤100部に増粘剤を混合して粘度を5000CPSに調整した調合液を目付け80g/mでコートして温度90℃で2分間乾燥した後、次いで、実施例1で得られた繊維質基材(複合構造物)を重ね合わせ、温度110℃の加熱シリンダー表面上で0.6mmの間隙のロールに通過させ圧着した。その後、温度60℃の雰囲気下で2日間放置した後、離型紙を剥ぎ取り皮革様シート状物(シート状物、人工皮革)−3を得た。得られた皮革様シート状物−3は、耐光堅牢性を測定したところ、変化はなく5級の判定で良好なものであった。また、耐色移行性も無く5級の判定であり良好なものであった。剥離強力は28.5N/cmであり、その剥離箇所はインクジェット印刷の図柄の界面であった。また、耐磨耗性は1150回と良好であり、耐屈曲性は10500回であった。表1に物性を併せて示す。
[比較例1]
実施例1で得られた高分子多孔質層を表面に有する繊維質基材の表面に、UV硬化顔料タイプのインクを用いる代わりに、インクジェットプリンター(ローランド SJ−545EX)にて有機溶剤系顔料インク(ECO−SOLMAX)を使用して720DPI(ドット/インチ)の解像度の風景画を印刷した後、120℃で1分間熱処理を施した以外は実施例1と同様の操作を行い皮革様シート状物―4を得た。得られた皮革様シート状物−4の表面は、微細で鮮明な画像が印刷されていた。なお、耐光堅牢性を測定したところ、変化はなく5級の判定で良好なものであった。また、耐色移行性も無く5級の判定であり良好なものであった。しかしながら、剥離強力は5.2N/cmと低く、その剥離箇所はインクジェット印刷の顔料層であり、皮革様シート状物として各用途の使用に耐えられる物ではなかった。また、耐磨耗性は10回であり、顔料層の剥離が原因であった。さらに、耐屈曲性は1700回であり顔料層の剥離が起因していた。表1に物性を併せて示す。
[比較例2]
実施例1で得られた高分子多孔質層を表面に有する繊維質基材の表面に、UV硬化顔料タイプのインクを用いる代わりに、インクジェットプリンター(EPSON PM3700C)にて染料インク(IC5CL06、およびIC1BK05)を使用して720DPI(ドット/インチ)の解像度の風景画を印刷した後、120℃で1分間熱処理を施した以外は実施例1と同様の操作を行い皮革様シート状物―5を得た。得られた皮革様シート状物−5の表面は、微細で鮮明な画像が印刷されていたが、耐光堅牢性を測定したところ、部分的に色が退色変化し元の色彩とは程遠いものであり2級の判定であった。また、耐色移行性も3級の判定であり相手側の白色人工皮革表面に色が転写されていた。また、剥離強力は、17.8N/cmとインクジェットプリンターでの印刷前に比較して低下していた。その剥離箇所はインクジェット印刷の層が部分的にあり、剥離強力低下の原因であると考えられる。また、耐磨耗性は460回であり、印刷層の剥離が原因であった。また、耐屈曲性は10100回であった。表1に物性を併せて示す。
[比較例3]
実施例1で得られた高分子多孔質層を表面に有する繊維質基材の表面に、UV硬化顔料タイプのインクを使用して720DPI(ドット/インチ)の解像度の風景画を印刷した後、この表面に、ポリウレタンの水分散液の代わりに、レザミンLU−2109HV(大日精化社製ポリウレタン濃度25%)100部、DMF15部、およびイソプロピルアルコール15部を混合した溶液を目付け120g/mでコートして温度70℃で2分間、110℃で2分間乾燥する以外は実施例1と同様にして皮革様シート状物−6を得た。得られた皮革様シート状物−6の表面は、耐光堅牢性、および耐色移行性は5級で問題は無かったが、色素が有機溶剤で膨潤し互いに滲み出して画像が乱れ、微細な鮮明さが無かった。また、剥離強力は、10.5N/cmとインクジェットプリンターでの印刷前である高分子多孔質層を表面に有する繊維質基材に比較して低下していた。その剥離箇所はインクジェット印刷の層が部分的にあり、剥離強力低下の原因であると考えられる。また、耐磨耗性は460回であり、印刷層の剥離が原因であった。また、耐屈曲性は220回であり各種用途で使用出来ない物であった。表1に物性を併せて示す。
[比較例4]
実施例1で得られた高分子多孔質層を表面に有する繊維質基材の表面に、インクジェットプリンター(SJ−545EX、ローランド社製)にて、UV硬化顔料タイプのインクを用いる代わりに有機溶剤系顔料インク(ECO−SOLMAX、シアン ESL3−CY、マゼンタ ESL3−MG、イエロー ESL3−YE、ライトシアン ESL3−LC、ライトマゼンタ ESL3−LM、ブラック ESL3−BK)を使用して720DPI(ドット/インチ)の解像度の風景画を印刷した後、120℃で1分間熱処理を施した。この印刷面上に、レザミンLU−2109HV(大日精化社製ポリウレタン濃度25%)100部、DMF15部、およびイソプロピルアルコール15部を混合した溶液を目付け120g/mでコートして温度70℃で2分間、110℃で2分間乾燥して保護層(高分子弾性体層)を作成して皮革様シート状物−7を得た。得られた皮革様シート状物−7の表面は、耐光堅牢性、および耐色移行性は5級で問題は無かったが、色素が有機溶剤で若干膨潤したせいか僅かに画像が乱れていた。また、剥離強力は、8.2N/cmと低いものであり、その剥離箇所はインクジェット印刷の層であり、顔料層が剥離強力低下の原因であると考えられる。また、耐磨耗性は420回であり、印刷層の剥離が原因であった。また、耐屈曲性は350回であり各種用途で使用出来ない物であった。表1に物性を併せて示す。
Figure 0004950598

Claims (6)

  1. 繊維質基材上に存在する高分子弾性体層上にUV硬化顔料からなる画像を形成させ、UV硬化後に水系高分子弾性体を塗布し、該水系高分子弾性体が表層となることを特徴とするシート状物の製造方法。
  2. 画像を形成する方法がインクジェット法である請求項1記載のシート状物の製造方法。
  3. 画像の解像度が5ドット/mm以上である請求項1または2記載のシート状物の製造方法。
  4. 高分子弾性体がポリウレタンである請求項1〜3のいずれか1項記載のシート状物の製造方法。
  5. 高分子弾性体層が湿式ポリウレタン多孔層である請求項4記載のシート状物の製造方法。
  6. 繊維質基材が極細繊維を有するものである請求項1〜5のいずれか1項記載のシート状物の製造方法。
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