JP4778862B2 - 皮革様シート状物の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、微細な画像を表面に有する皮革様シート状物に関し、さらに詳しくは画像が鮮明でありながら物性に優れた皮革様シート状物の製造方法に関する。
従来、皮革様シート状物は多岐に渡る用途に使用され、中でも表面に高分子弾性体層を有するいわゆる銀付調人工皮革はその外観表現に工夫がなされてきた。その外観表現方法としては、シート状物表面にグラビア印刷、ローラー印刷などの従来から知られている印刷技術で着色図柄を施す方法、あるいは転写による着色図柄を施す方法、あるいは捺染などによる着色図柄を施す方法が採用されている。これらの図柄はグラビアロール、彫刻ロール、捺染用スクリーンなどの図柄によりシート状物表面に表現されるものであるが、これらの色合い、図柄を変更するにはロールへの図柄の彫刻、さらには調色を繰り返す必要がある。また、これらの従来方法では、一回の工程で一色のみ着色するという制約など、その図柄の表現範囲、色合いには限度があり、数多くの繊細な図柄をシート状物表面に施すには多大な費用と時間を費やなければならなかった。
一方、近年になり印刷分野ではインクジェットプリンターによりコンピューター上で描いた情報図柄を多色かつ短時間で印刷することができ普及してきている。そしてこのインクジェット方式の印刷は先に述べた従来方式のグラビア印刷、ローラー印刷、転写、あるいは捺染と異なり、短時間で多様な色彩で多様な図柄を鮮明に印刷することができる点に特徴がある。しかし紙に対する印刷と異なり、皮革様シート状物に印刷するのは容易ではなく、各種試みがなされているのが現状である。
例えば、特許文献1には、天然皮革などの皮革類の表面に水性下塗り剤層を形成し、その上にさらにアルミナ水和物を含有する多孔質インク受容層を設け、該多孔インク受容層上にインクジェット方式によって描画した皮革製品が記載されている。しかしながら、この皮革製品における多孔とはアルミナ水和物に依存するnmオーダーの多孔であり、多孔質インク受容層のインク受容性(染着性)が十分でないため、この方法を人工皮革表面に適用しても、微細で鮮明な図柄が形成されにくく、しかも図柄の色調も深みのないものとなり易いものであった。さらに、この方法では多孔質インク受容層を構成するアルミナ水和物が摩擦により脱落し易く、耐摩耗性の点でスポーツシューズなどに加工される人工皮革には適用するだけの実用性を持たないものであった。
また、特許文献2では、繊維質基体の易染層上に染料を含有するインクを用いてインクジェット方式により描画し、その描画された画像上に透明または半透明の保護層を有する皮革様シートの製造方法が提案されている。しかしながら、この皮革様シートは、染料インクを使用しているために、特に屋外で使用するシューズ、競技用ボール、あるいは鞄類に加工されて実使用された場合、耐光堅牢性が十分でなく、インクジェット方式で得られた繊細でかつ鮮明な画像を長時間保持できないという欠点があった。さらに、染料を使用しているため、皮革様シート、あるいは皮革様シートから加工された靴、ボール、鞄、あるいは手袋などが表面同士で接触する場合に、染料が表面に移行し、接触された相手を汚染するという問題があった。
この問題を解決するためには、インクを染料ではなく、微細な顔料からなるインクを着色剤として使用することが考えられる。これらの顔料インクをインクジェット方式に採用した場合には、繊細でかつ鮮明な画層は屋外使用される用途でも長期間保持できると考えられるためである。しかしながら、顔料インクを使用して皮革類の表面に微細な図柄を施した場合、図柄が施されている層と隣接する層との接着が、接着性を阻害する顔料粒子のために極めて弱くなるという問題があった。皮革様シート状物として靴や鞄などに加工成型された場合には、屈曲を受けた部分が剥離する、あるいは屈曲を受けた部分の画像が脱落するなどの問題が発生したのである。すなわち、未だ微細な画像を表面に有するとともに、実用に耐えうる皮革様シート状物は得られていないのが現状であった。
特開平9−59700号公報 特開平11−158782号公報
本発明は、インクジェット方式等によって描かれる微細な図柄を表面に有し、かつ描かれた図柄が耐光性、耐色移行性を有すると共に、実用上十分な物性を有する皮革様シート状物を提供することにある。
発明の皮革様シート状物の製造方法は、ポリオキシエチレン鎖を含有するポリウレタンを主成分とするフィルム層上に、インクジェット方式により水系顔料インクによる画像を形成し、その上に水系の高分子弾性体からなる接着層を形成した後に、繊維質基体と張り合わせることを特徴とする。
さらには、フィルム層主成分のポリウレタン中のポリオキシエチレン鎖の含有量が2〜20重量%であることや、接着層がポリウレタンを主成分とするものであることが好ましい。
本発明によれば、インクジェット方式等によって描かれる微細な図柄を表面に有し、かつ描かれた図柄が耐光性、耐色移行性を有すると共に、実用上十分な物性を有する皮革様シート状物が提供される。
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明の皮革様シート状物は、繊維質基体上に接着層および着色層を有するものである。本発明で用いられる繊維質基体としては、繊維集合体、あるいはこの繊維集合体に高分子弾性体を含浸させた複合繊維集合体が使用でき、従来から人工皮革用として用いられているものが該当する。厚さとしては0.2〜5mm、さらには0.4〜2.5mmであることが好ましい。繊維集合体としては、不織布や織編物が挙げられ、これらを構成する繊維としては、例えばポリエステル、ポリアミドなどの合成繊維、または綿、麻、羊毛などの天然繊維、またはレーヨンなどの半合成繊維が挙げられ、また、これらの2種以上の混合であってもよい。
繊維質基体としては極細繊維を含むものであることが好ましい。このような繊維質基体は、繊維集合体として単繊維繊度が0.3デシテックス以下、さらには0.1〜0.0001デシテックスの繊維が交絡された不織布を用いたものである。単繊維繊度が細くなることにより、得られる繊維質基体表面が平滑となり、インクジェット法等で描かれる微細な図柄がより引き立たせることが可能となる。このような単繊維繊度の繊維は、従来から知られている方法によって製造することができ、例えば、合成繊維製造における海島紡糸法、混合紡糸法、分割型複合紡糸法などを挙げることができる。これらの繊維は比較的太い極細化前の親繊維を短繊維となした後、従来から知られているカード機等による開繊維、ニードル機等による交絡により不織布とし、後に極細化することによって極細繊維から成る不織布となる。極細化の方法としては、海島紡糸法および混合紡糸法で得られた親繊維から極細繊維と成る以外の成分を抽出または分解除去する方法や、分割型複合紡糸法により得られた親繊維を機械的、または化学的に分割する方法を採用することができる。抽出または分解除去されるポリマー成分としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、あるいはこれらの共重合体が代表例として挙げられ、極細繊維となるポリマー成分としてはポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステルや、ナイロン6、ナイロン6,6などのポリアミドなどを挙げることができる。また効率的に生産する場合には、分割型複合紡糸を紡糸し直接ウェブ化した後、ニードル機等で交絡し、機械的分割処理するなどして極細不織布とすることが好ましい。
繊維質基体として用いられる繊維集合体と高分子弾性体からなる複合繊維集合体としては、上記の繊維集合体に高分子弾性体を含浸、凝固、乾燥させたものなどである。高分子弾性体としては、例えばポリウレタン、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、あるいはポリブタジエン、ポリイソプレンなどの合成ゴムなどを挙げることができる。この中では、耐摩耗性、弾性回復性、柔軟性等の面からポリウレタンが好ましく用いられる。これらの高分子弾性体は有機溶剤で溶解、あるいは分散された溶液、あるいは分散液として含浸に供される。好ましくは、これらの高分子は地球環境保護、および作業環境保護のためにも水溶液、あるいは水分散として含浸に供されることが好ましい。
またこの繊維質基体には、その表側に高分子弾性体からなる層が存在することが好ましく、その厚みは0.05mm〜1.5mmが好ましい。厚みが0.05mm以下であると繊維質層の凹凸が隠蔽しきれず表面の平滑性が得られにくく好ましくない。また、該層の厚みが1.5mm以上となると人工皮革としての風合いがゴム状となり好ましくない。
この高分子弾性体からなる層は無孔質でも良いが、好ましくは多孔質層であり、特には、繊維質基体と接着層の間に高分子多孔質層が存在する皮革様シート状物であることが好ましい。同じ厚さの場合には多孔質であるほうが密度が減少し、風合いが向上する。密度としては0.2〜0.7g/cm、さらには0.3〜0.5g/cmの範囲であることが好ましい。この層を形成する高分子弾性体としては先の複合繊維集合体に用いたものを挙げることができるが、特にはポリウレタンを主成分とするものであることが好ましい。多孔の種類としては連通孔でも独立孔であってもかまわない。
多孔質に用いることができるポリウレタンとしては、人工皮革用として使用されるものが適当であり、有機ジイソシアネート、高分子ジオールおよび鎖伸長剤の重合反応で得られる従来公知の熱可塑性ポリウレタンを挙げることができる。有機ジイソシアネートとしては分子中にイソシアネート基を2個含有する脂肪族、脂環族または芳香族ジイソシアネート、特に4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート、P−フェニレンジイソシアネート、トルイレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4'−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等が挙げられる。高分子ジオールとしては例えばグリコールと脂肪族ジカルボン酸の縮合重合で得られたポリエステルグリコール、ラクトンの開環重合で得られたポリラクトングリコール、脂肪族または芳香族ポリカーボネートグリコール、あるいはポリエーテルグリコールの少なくとも1種から選ばれた平均分子量が500〜4000のポリマーグリコールなどが挙げられる。そして鎖伸長剤としてはイソシアネートと反応しうる水素原子を2個含有する分子量500以下のジオール、例えばエチレングリコール、1,4ブタンジオール、ヘキサメチレングリコール、キシリレングリコール、シクロヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール等が挙げられる。
このような高分子弾性体を用いて多孔質層を得る方法としては、従来から知られている方法が採用できる。例えば、ポリウレタンの良溶剤でありかつ水と相溶性の有機溶剤にポリウレタンを溶解させ、このポリウレタン溶液を任意の厚みで支持体上にコーティングし、水浴中に浸漬して多孔凝固させるいわゆる湿式凝固法、またはポリウレタンを水と相溶性はないがポリウレタンを溶解あるいは分散できる有機溶剤に溶解、あるいは分散させた溶液、あるいは分散液を任意の厚みで支持体上にコーティングし、水の蒸発を妨げながら有機溶剤を選択的に蒸発させる乾式多孔成形法、またはポリウレタンの水溶液、あるいは水分散液中に熱膨張性微粒子カプセルを分散させ任意の厚みで支持体上にコーティングし、乾燥しながら熱膨張性カプセルを膨張させる方法、またはポリウレタンの分子末端にアルコール性水素を有するプレポリマーとポリイソシアネート、および水を混合し、直後に任意の厚みで支持体上にコーティングする方法、または溶融ポリウレタン中に不活性ガスを分散させて任意の厚みで支持体上にコーティング、発泡させる方法、または、ケミカル発泡剤を混合したポリウレタン溶液あるいは分散液を任意の厚みで支持体上にコーティングする方法などが挙げられる。中でも、湿式凝固法が孔の形状を制御し易く多孔質を得るのに好ましい。
高分子重合体からなる多孔質層は、前述の繊維質基体上に直接、コーティング法などにより形成することができ、または剥離性支持体上で作成されたポリウレタン等の多孔質膜を繊維質基体上に接着剤により貼り合わせても良い。また、本発明では、これらの高分子重合体多孔質層を有さない繊維質基体のまま用いることも出来る。
本発明の皮革様シート状物は、このような繊維質基体上に接着層と着色層を有するものであるが、着色層はポリオキシエチレン鎖を含有するポリウレタンを主成分とすることを必須とする。さらには着色層主成分のポリウレタン中のポリオキシエチレン鎖の含有量は2〜20重量%であることが好ましい。ポリオキシエチレン鎖の含有量が2重量%に満たない場合には本発明で用いられる顔料粒子が着色層に入り込むことが出来ないため、実用に耐える剥離強力等を得ることができない。また、ポリオキシエチレン鎖の含有量が20重量%を超える場合には、得られた人工皮革は水に濡れた際に着色層が水で膨潤されて剥離するという問題が発生する。着色層の厚さとしては10〜100μmであることが好ましい。
ポリオキシエチレン鎖としては、親水性の高いポリエチレングリコールであることが好ましく、さらには分子量が400〜4000のポリエチレングリコールをポリウレタンの原料として用いられたものであることが好ましい。着色層に用いられるポリウレタンは、たとえば分子量が400〜4000のポリエチレングリコールをポリウレタン原料として使用し、得られるポリウレタン重量に対し2〜20重量%を含むポリウレタンであり、有機ジイソシアネート、高分子ジオールおよび鎖伸長剤の重合反応で得られる熱可塑性ポリウレタンである。ここで使用される有機ジイソシアネートとしては分子中にイソシアネート基を2個含有する脂肪族、脂環族または芳香族ジイソシアネート、特に4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート、P−フェニレンジイソシアネート、トルイレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4'−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等が挙げられる。そして高分子ジオールとしては例えばグリコールと脂肪族ジカルボン酸の縮合重合で得られたポリエステルグリコール、ラクトンの開環重合で得られたポリラクトングリコール、脂肪族または芳香族ポリカーボネートグリコール、あるいはポリオキシエチレングリコールを除くポリエーテルグリコールの少なくとも1種から選ばれた平均分子量が500〜4000のポリマーグリコールが挙げられ、前述のポリオキシエチレングリコールと併用される。そして鎖伸長剤としてはイソシアネートと反応しうる水素原子を2個含有する分子量500以下のジオール、例えばエチレングリコール、1,4ブタンジオール、ヘキサメチレングリコール、キシリレングリコール、シクロヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール等が挙げられる。
また本発明の皮革様シート状物は接着層を有することを必須とする。この接着層は繊維質基体とポリウレタンからなる着色層を接着するものであれば特に制限は無く、有機溶剤系、水系のいずれをも使用できるが、着色層と同じくポリウレタンを主成分とするものであることが好ましい。また、水系の水分散系や水溶性の高分子弾性体であることが好ましく、接着接着層と着色層の界面に存在する画像をより鮮明に保つことが可能となる。接着層の厚さとしては10〜200μmであることが好ましい。
本発明の皮革様シート状物は着色層の接着層側の界面に水系顔料からなる解像度5ドット/mm以上の画像を有するものであるが、さらには10ドット/mm〜100ドット/mmの解像度の画像であることが好ましい。このような細かい解像度の画像を印刷するためには360ドット/inchや720ドット/inchのインクジェットプリンターを用いることにより行うことができる。また画像は顔料からなるものであることが必須である。顔料タイプのインクを用いることにより、染料タイプのインクより粒子が大きいので耐光性や色移行に優れるものとなる。また、従来のように皮革様シート状物の表面ではなく着色層の接着層との界面に顔料による画像が形成されているために接着性に優れたものとなる。さらに本発明では、顔料が水系タイプであることが必須である。水系顔料タイプのインクは、着色層を形成するポリウレタン層が親水性を有するポリオキシエチレン鎖を含むので、着色層との親和性が高く、顔料が着色層に入り込むことにより、顔料粒子による接着障害がさらに低下し、従来得られなかった高い剥離力が得られるのであると考えられる。
また、本発明では着色層のさらに外側に高分子弾性体層を有することも好ましい。このような高分子弾性体層は、着色層の保護層となりさらに皮革様シート状物の物性や風合いを向上させることができる。本発明の皮革様シート状物では、着色層と保護層となる高分子弾性体層の間には染料や顔料等のインクが存在しないため、画像が存在するにもかかわらず強い皮膜が形成される。用いられる高分子弾性体としては、例えばポリウレタン、ポリエステル、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、あるいはポリ塩化ビニリデンなどが挙げられる。
このような高分子弾性体層は、離型紙上で高分子弾性体層、着色層の順に形成させても良いし、いったん着色層を表面とするシートを形成した後に、その表面に高分子弾性体の有機溶剤溶液、有機溶剤分散液、水溶液、あるいは水分散液をコーティングし次いで乾燥させる方法などがあり、コーティングの方法としては、ナイフコーティング、ロールコーティング、スプレー、あるいはグラビアコーティング等を採用することができる。
もう一つの本発明の皮革様シート状物の製造方法は、ポリオキシエチレン鎖を含有するポリウレタンを主成分とするフィルム層上に、インクジェット方式により顔料インクによる画像を形成し、その上に接着層を形成した後に繊維質基体と張り合わせることを特徴とする皮革様シート状物の製造方法である。ここでフィルム層とは先の皮革様シート状物における着色層の着色前のものである。したがってフィルム層は先に述べた着色層と同様なものを用いることができる。フィルム層主成分のポリウレタン中のポリオキシエチレン鎖の含有量は2〜20重量%であることが好ましい。接着層はポリウレタンを主成分とするものが好ましく、水系であることがさらに好ましい。
また、顔料インクとしては水系顔料であることが好ましく、画像としては解像度5ドット/mm以上の画像を有するものであることが、さらには10ドット/mm〜100ドット/mmの解像度の画像であることが好ましい。インクジェットとしては360ドット/inchや720ドット/inchのインクジェットプリンターを用いることができる。さらにはインクジェットプリンターで顔料インクにより画像を形成した後、80℃〜150℃で約20〜60秒間熱処理することが好ましい。
フィルム層は離型紙上で作成することが、最終的に皮革様シート状物とした際の柄入れも同時にできるために、効率的な生産のためにも有効である。もっとも好ましい本発明の皮革様シート状物の製造方法としては、たとえば次のような製造方法である。
あらかじめ離型紙の上に透明な、あるいは半透明なポリマーからなる高分子弾性体層(保護層)を前述と同様の方法で形成し、さらに該高分子弾性体層の表面にポリオキシエチレン鎖を2〜20重量%含むポリウレタンのフィルム層を前述と同様の方法で形成し、次いで、該ポリオキシエチレン鎖を含むポリウレタンのフィルム層の表面に、水系顔料タイプのインクを使用したインクジット方式によって微細な画像(図柄)を印刷する。この図柄が印刷された面に接着剤をコーティングして、前述の繊維質基体、あるいはポリウレタン多孔質層を有する繊維複合体(繊維質基体)を貼り合わせ、最後に離型紙を剥離除去する方法である。離型紙としては、凹凸柄のあるものを使用することで多様な凹凸柄を付与することができる。また、接着剤は、従来から知られている接着剤が使用できるが、その中でもポリウレタン系接着剤(ポリイソシアネート系接着剤)が好ましく、さらには水系のポリウレタンであることが好ましい。
このようにして得られた本発明の皮革様シート状物は、顔料インクを使用した微細な図柄を有したものであり、しかもこれらの図柄は光による変退色もなく、染料移行性もなく、かつ耐摩耗性および人工皮革の各種用途に耐えうる剥離強力等の物性を有したものである。本発明の皮革様シート状物に付与される画像は、インクジェットプリンターに接続されているコンピューター等で、デザイン、模様、写真などの図柄を自在にかつ容易に皮革様シート状物表面の意匠として表現できるため、従来から皮革様シート状物の使用されているスポーツシューズ、一般靴、各種競技用ボール、装丁用途、衣料、および家具・車両用途においても、個性を強調した「自分だけの図柄」を生かせるものとなる。
以下、具体的に実施例によって本発明を詳細に説明する。なお、実施例中「部」および「%」とあるのは、いずれも重量基準であり、特性測定値は下記の方法で得られたものである。また、以下の例において耐光堅牢度、耐色移行性、耐磨耗性および剥離強力は次ような方法で測定した。
(耐光堅牢度)
JIS−L0824に準ずる方法で50時間、カーボンアークの光照射を施した後の変退色を観察し、変化が無いものを5級とし、変退色が激しく元の図柄が読み取れないものを1級、元の図柄は残しているが変退色しているものを3級として判定した。
(耐色移行性)
各実施例、比較例で得られたインクジェット方式で印刷された図柄を表面に有する皮革様シート状物表面と、表面がポリウレタンで形成された一般的な白色の人工皮革の表面とを、A6サイズの面積で重ね合わせ、均一に2kgの荷重を与えて70℃の雰囲気下に3日間放置した後の白色人工皮革表面への色移行を観察し、白色の人工皮革表面に移行していないものを5級とし、激しく移行して白色人工皮革のほぼ全面に着色されているものを1級、3割から5割の面積が着色されているものを3級として判定した。
(耐磨耗性)
ASTM D−3886法に準じ、サンドペーパーとして、HANDY ROLL P320J(NORTON社製)を使用し、摩耗部位の繊維層が露出した大きさが直径10mmに到達する回数とした。
(剥離強力)
JIS K6301法に準じ、引張速度50mm/分で100mm剥離させ、20mm毎のミニマム値5点の平均値をN/cmで表し剥離強力とした。
[実施例1]
<繊維集合体の作成>
120℃で乾燥したナイロン−6(m−クレゾール中の極限粘度1.1)をエクストルーダーに供給し溶融した。別途160℃で乾燥したポリエチレンテレフタレート(o−クロロフェノール中の極限粘度0.64)を、前述とは別個のエクストルーダーにて溶融した。引き続き、ナイロン−6混合体溶融流は導管ポリマー温度250℃で、ポリエチレンテレフタレート溶融流は300℃で、275℃に保温されたスピンブロックへ導入し、中空形成吐出孔を格子状配列で有する矩形の紡糸口金を用いて両重合体溶融流を合流させ複合し2g/分・孔の量で吐出し、空気圧力0.35MPa(吐出量と複合繊維繊度から換算した紡速で約4860m/分)にて高速牽引した。牽引された複合繊維は、−30kVで高電圧印加処理し、空気流とともに分散板に衝突させ、開繊し、16分割の多層貼合せ型断面をもつ剥離分割型複合繊維からなるウェブとしてネットコンベアー上に幅1mで補集した。引き続き、得られたウェブを100℃に加熱された上下一対のエンボスカレンダーロールに通し熱接着を行った。得られたウェブをニードルパンチにて交絡処理を施した後、水に浸漬し、軽くマングルで絞った後シート状物打撃式揉み機にて剥離分割処理を行い目付210g/mの極細繊維不織布を得た。次いでこの不織布を70℃の温水中で収縮させ収縮前の面積に対し60%の面積のものを得た。
得られた繊維集合の目付は350g/m、厚さは1.0mmであり、繊度は0.15dtexであった。
<繊維質基体(複合構造物)の作成>
上記の繊維集合体に、10重量%のポリウレタン(大日本インキ化学工業(株)製;クリスボンTF50P)−ジメチルホルムアミド(以下、DMFと記す。)溶液を含浸させた後、繊維集合体表面の余分な溶液をかきとり、5%のDMFを含んだ水中に20分間浸漬してポリウレタンを凝固させ、DMFを水で十分に洗浄除去した後120℃で4分間乾燥して繊維質基体(複合構造物)を得た。
得られた繊維質基体(複合構造物)の表面は繊維とポリウレタンが混在するものであり、目付は455g/m、厚さは1.0mmであった。
<ポリオキシエチレン鎖を11重量%含む20%ポリウレタン溶液の作成>
4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート274部、平均分子量1540のポリオキシエチレングリコール110部、および平均分子量2000のポリテトラメチレングリコール572部をメチルエチルケトン50%、ジメチルホルムアミド50%の混合溶剤中で反応させ、エチレングリコール44部を加えて鎖伸長反応で得られた、ポリオキシエチレン鎖を11重量%含む20%ポリウレタン溶液を準備した。
<人工皮革(皮革様シート状物)−1の作成>
離型紙離型紙(リンテック社製R53)上に、レザミンLU−2109HV(大日精化社製ポリウレタン濃度25%)100部、DMF15部、およびイソプロピルアルコール15部を混合した溶液を目付け120g/mでコートして温度70℃で2分間、110℃で2分間乾燥して保護層(高分子弾性体層)を作成した。
この保護層の上に、先に用意したポリオキシエチレン鎖を11重量%含む20%ポリウレタン溶液を目付け120g/mとなるようにナイフコーターでコートし、着色層を形成し、その表面にインクジェットプリンター(PM−4000PX、EPSON社製)にて水系顔料タイプのインク(PX−Pインク、シアン ICC23、マゼンタ ICM23、イエロー ICY23、ライトシアン ICLC23、ライトマゼンタ ICLM23、グレー ICGY23、フォトブラック ICBK23、マットブラック ICMB23、EPSON社製)を使用して、720DPI(ドット/インチ)の解像度の風景画を印刷した後、120℃で1分間熱処理を施した。次いで、その着色層の表面に、水分散型ポリウレタン系接着剤(45%濃度)100部に増粘剤を混合して粘度を5000CPSに調整した調合液を、目付け80g/mでコートした。次いで、温度90℃で2分乾燥後、先に得られたポリウレタンと繊維からなる繊維質基体を重ね合わせ、温度110℃の加熱シリンダー表面上で0.6mmの間隙のロールに通過させ圧着した。その後、温度60℃の雰囲気下で2日間放置した後、離型紙を剥ぎ取り人工皮革−1を得た。得られた人工皮革−1は、耐光堅牢度を測定したところ、変化はなく5級の判定で良好なものであった。また、耐色移行性も無く5級の判定であり良好なものであった。剥離強力は28.2N/cmであり、その剥離箇所は不織布層内であった。また、耐磨耗性は1410回であった。表1に物性を示す。
[実施例2]
<高分子多孔質層を表面に有する繊維質基材の作成>
実施例1で得られたポリウレタンと繊維からなる繊維質基体の表面に20重量%のポリウレタン(大日本インキ化学工業(株)製;クリスボンTF50P)−DMF溶液(添加剤として東レ・ダウコーニング製SH28PAを溶液100部に対し0.3部を使用)を800g/mの目付けでコーティングした後、5%のDMFを含んだ水中に20分間浸漬してポリウレタンを凝固させDMFを水で十分に洗浄除去した後120℃で5分間乾燥して密度0.39のポリウレタン多孔質層(湿式多孔層)の形成された高分子多孔質層を有する繊維質基材を得た。得られた基材の剥離強力は31.2N/cmであり、スポーツシューズ用途を始め人工皮革の各用途での使用に耐えうる強度であった。
<人工皮革(皮革様シート状物)−2の作成>
実施例1の繊維質基材の代わりに上記の高分子多孔質層を有する繊維質基材を用いた以外は実施例1と同様に行い、人工皮革(皮革様シート状物)−2を得た。得られた人工皮革−2は、着色層の下の接着層と繊維質基材との間にポリウレタン多孔質層が存在し、実施例1の人工皮革1よりも風合いに優れたものであった。耐光堅牢度を測定したところ、変化はなく5級の判定で良好なものであった。また、耐色移行性も無く5級の判定であり良好なものであった。剥離強力は31.3N/cmであり、その剥離箇所は不織布層とポリウレタン多孔質層の界面で、上記の高分子多孔質層を有する繊維質基材の剥離箇所と同様であった。また、耐磨耗性は1450回と良好であった。表1に物性を併せて示す。
[比較例1]
実施例1で用いた繊維質基材の表面に、実施例1で準備したポリオキシエチレン鎖を11重量%含む20%ポリウレタン溶液を目付け120g/mとなるようにナイフコーターでコートした。次いで、120℃で乾燥後140℃の加熱ロールで加圧して面を平滑とし着色層を有するシート状物を作成した。得られたシート状物の着色層にインクジェットプリンター(PM3700C、EPSON社製)にて染料インク(IC5CL06、およびIC1BK05、EPSON社製)を使用して風景画を印刷した後、120℃で1分間熱処理を施し、人工皮革−3を得た。得られた人工皮革−3の表面は、微細で鮮明な画像が印刷されていたが、耐光堅牢度を測定したところ、部分的に色が退色変化し元の色彩とは程遠いものであり2級の判定であった。また、耐色移行性も3級の判定であり白色人工皮革表面に色が転写されていた。また、剥離強力は、18.6N/cmであった。その剥離箇所はインクジェット印刷の層が部分的にあり、剥離強力低下の原因であると考えられる。また、耐磨耗性は960回であった。表1に物性を併せて示す。
[比較例2]
実施例2の着色を水系顔料を用いる代わりに、インクジェットプリンター(SJ−545EX、ローランド社製)にて有機溶剤系顔料インク(ECO−SOLMAX、シアン ESL3−CY、マゼンタ ESL3−MG、イエロー ESL3−YE、ライトシアン ESL3−LC、ライトマゼンタ ESL3−LM、ブラック ESL3−BK)を使用して風景画を印刷した以外は、実施例2と同様にして人工皮革―4を得た。得られた人工皮革−4は、耐光堅牢度を測定したところ、変化はなく5級の判定で良好なものであった。また、耐色移行性も無く5級の判定であり良好なものであった。剥離強力は8N/cmであり、その剥離箇所は風景が印刷された着色層と接着層の界面であり、明らかに顔料が接着の障害になっていた。また、耐磨耗性は65回であり、顔料層の剥離が原因であった。表1に物性を併せて示す。
[比較例3]
比較例1のポリオキシエチレン鎖を含むポリウレタン溶液の代わりに、ポリオキシエチレン鎖を含まないポリウレタン溶液を用いた以外は、比較例1と同様にして表面にポリオキシエチレン鎖を含まないポリウレタン層を有するシート状物を得た。その表面にインクジェットプリンター(PM−4000PX、EPSON社製)にて水系顔料タイプのインク(PX−Pインク、シアン ICC23、マゼンタ ICM23、イエロー ICY23、ライトシアン ICLC23、ライトマゼンタ ICLM23、グレー ICGY23、フォトブラック ICBK23、マットブラック ICMB23)を使用して風景画を印刷した後、120℃で1分間熱処理を施し人工皮革−5を得た。得られた人工皮革−5は、耐光堅牢度を測定したところ、変化はなく5級の判定で良好なものであった。また、耐色移行性も無く5級の判定であり良好なものであった。剥離強力は9N/cmであり、その剥離箇所は風景が印刷された層であり、明らかに顔料が接着の障害になっていた。また、耐磨耗性は45回であり、顔料層の剥離が原因であった。表1に物性を併せて示す。
Figure 0004778862

Claims (7)

  1. ポリオキシエチレン鎖を含有するポリウレタンを主成分とするフィルム層上に、インクジェット方式により水系顔料インクによる画像を形成し、その上に水系の高分子弾性体からなる接着層を形成した後に、繊維質基体と張り合わせることを特徴とする皮革様シート状物の製造方法。
  2. フィルム層主成分のポリウレタン中のポリオキシエチレン鎖の含有量が2〜20重量%である請求項記載の皮革様シート状物の製造方法。
  3. 接着層がポリウレタンを主成分とするものである請求項1または2記載の皮革様シート状物の製造方法。
  4. 画像が解像度5ドット/mm以上の画像である請求項1〜3のいずれか1項記載の皮革様シート状物の製造方法。
  5. 着色層の外側にさらに高分子弾性体層を有する請求項1〜4のいずれか1項記載の皮革様シート状物の製造方法。
  6. 繊維質基体と接着層の間に、高分子多孔質層が存在する請求項1〜5のいずれか1項記載の皮革様シート状物の製造方法。
  7. 繊維質基体が極細繊維を含むものである請求項1〜6のいずれか1項記載の皮革様シート状物の製造方法。
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