JP4855012B2 - 酸素イオン伝導体および酸素分離膜並びに炭化水素の酸化用反応装置 - Google Patents

酸素イオン伝導体および酸素分離膜並びに炭化水素の酸化用反応装置 Download PDF

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Description

本発明は、酸素イオン伝導体およびこれを利用した酸素分離膜並びに炭化水素の酸化用反応装置に関する。
例えば、酸素イオン伝導性を有する緻密なセラミックス膜は、その一面側において気体から解離させ且つイオン化させた酸素イオンをその他面側において再結合させることにより、酸素をその一面から他面に選択的に透過させてその気体から連続的に酸素を分離する酸素分離膜エレメントに利用される。特に、酸素イオン伝導性に加えて電子伝導性を有する混合伝導体では、酸素分離膜内を酸素イオンの移動方向とは反対方向に電子が移動するため、解離面と再結合面とを電気的に接続して電子を再結合面から解離面に戻すための外部電極や外部回路等を設ける必要がない利点がある。このような酸素分離膜エレメントによれば、酸素を含む気体から容易に酸素を分離することができるため、例えば、深冷分離法やPSA(圧力変動吸着)法等に代わる酸素製造法として利用できる。
また、上記のような酸素イオン伝導体は、炭化水素の部分酸化反応等の酸化用反応装置にも利用し得る。例えば、この酸素イオン伝導体を膜状に形成し、その一方の表面に酸素含有ガスを供給し、他方の表面すなわち酸素再結合側の表面にメタン(CH4)等の炭化水素を含む気体を供給すれば、透過した酸素イオンによってその炭化水素を酸化させることができる。そのため、GTL(Gas to Liquid:天然ガスから化学反応により液体燃料を合成する技術)や、燃料電池用水素ガスの製造等に利用できるのである。
酸素分離に好適な酸素イオン伝導体セラミックスや混合伝導体セラミックスとして、(A1-xA'x)(Co1-y-zByB'z)O3-δ(但しAはCa,Sr,Ba、A'はLa,Y等、BはFe,Mn等、B'はCu,Ni)、(La0.8Sr0.2)(Ga0.8Mg0.2)O3、(La1-xSrx)(Ga1-y-zMgyAlz)O3、(Ln1-xAx)(Ga1-y-zB1yB2z)O3(但しLnはランタノイド、AはCa,Sr,Ba、B1はMg,Al,In、B2はCo,Fe,Cu,Ni)、(Ln1-xSrx)(Ga1-y-zMgyCoz)O3、(La1-xAx)(M1-yBy)O3(但しAはアルカリ金属またはアルカリ土類金属、MはAl,Ga,In、Bはアルカリ土類金属またはZn)、(La1-xMx)(Ga1-yFey)O3(但しMはSr,Ca,Ba)等、すなわちLnACoM系酸化物やLnAGaM系酸化物等(但しAはアルカリ土類等、Mは金属元素等を意味する)のペロブスカイト構造の組成物が提案されている(例えば特許文献1〜8等を参照)。しかしながら、LnACoM系酸化物は還元膨張率が大きいので、解離面側が還元雰囲気になる酸素分離膜用途では、クラックが生じ易く耐久性が低い。なお、還元膨張率(%)は、還元雰囲気下における熱膨張率をEred(%)、空気雰囲気下における熱膨張率をEair(%)としたとき、下記(1)式で与えられる。
[{(1+Ered/100)-(1+Eair/100)}/(1+Eair/100)]×100 ・・・(1)
一方、LnAGaM系酸化物は、LnACoM系酸化物に比較して還元耐久性が優るものの原料が高価であり、しかも、酸素イオン伝導性がやや劣り、機械的強度も低い問題がある。また、LnAGaM系酸化物は、水蒸気接触部でGa成分が分解することから、耐水蒸気性にも問題があった。因みに、炭化水素の部分酸化反応等においては、コーキング(すなわち炭素の析出)延いてはガス透過性能の低下を防止するために膜の一方側に水蒸気を流すシステム設計が望まれる。また、水蒸気を流さない場合にも、膜を透過した酸素と水素との反応により水蒸気が生成する。そのため、前述したような用途においては、酸素イオン伝導体に耐水蒸気性も要求されるのである。
なお、LnAGaM系酸化物の強度を向上させるために、アルミナ粉末をLaSrGaMg系酸化物結晶の粒界に分散させた焼結体、LaGaO3系結晶の構造の一部をアルミニウム等で置換した焼結体、LnAGaM系結晶のGaの一部をアルミニウムやマグネシウム等で置換した(すなわちアルミニウムやマグネシウム等が固溶した)焼結体、LaGaO3系酸化物にチタンまたはバナジウムを含有させた焼結体等が提案されている(例えば特許文献9〜12等を参照)。しかしながら、これらは何れもGaを含むペロブスカイト化合物の機械的強度を向上させて還元安定性を高めることを図るものであって、Gaを含む場合における耐水蒸気性を何ら改善するものではない。
特開平08−173776号公報 特開平09−161824号公報 特開平11−228136号公報 特開平11−335164号公報 特開2000−251534号公報 特開2000−251535号公報 特表2000−511507号公報 特開2001−093325号公報 特開2000−044340号公報 特開2000−226260号公報 特開2001−332122号公報 特開2003−112973号公報 国際公開第03/040058号パンフレット
そこで、本願出願人は、LnAGaM系酸化物に比較して原料が安価で酸素イオン伝導性が高く、且つLnACoM系酸化物に比較して還元耐久性や耐水蒸気性の高い酸素イオン伝導体として、LnAeTiFeO3系酸化物を提案した(特許文献13を参照)。このLnAeTiO3系酸化物は十分に実用的な特性を有するものであったが、酸素分離膜エレメントの改良が進むに従ってその還元耐久性の不足が問題となってきた。すなわち、酸素分離膜上に設けられる触媒の活性の向上や、ガス拡散性能の高い多孔質支持体上に薄い酸素分離膜を形成した非対称膜エレメント等によって酸素透過速度が向上したため、一層高い還元耐久性が必要となったのである。
なお、上記のような酸素イオン伝導体には、工業的には例えば10(cc/min/cm2)以上の酸素透過性能が必要とされている。酸素透過性能は膜厚に反比例することから、上述したように多孔質支持体上に薄い酸素分離膜を形成した非対称膜エレメントが提案されているが、100〜200(μm)程度の膜厚の非対称構造を想定すると、0.5(mm)の膜厚の場合に2〜4(cc/min/cm2)、1(mm)の膜厚の場合には1〜2(cc/min/cm2)が最低限必要な膜の酸素透過性能となる。前記特許文献13のLnAeTiFeO3系酸化物は0.5(mm)膜厚で例えば3.3(cc/min/cm2)もの酸素透過性能と、例えば0.10(%)程度の低い還元膨張率を有している。すなわち、還元膨張率がLaSrCoFeO3系では1(%)程度、LnAGaMOx系で0.15(%)であるのに比較すると、高い還元耐久性を有するが、前述した事情の下、一層の改善が求められていた。
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであって、その目的は、酸素イオン伝導性が高く且つ還元耐久性の優れた酸素イオン伝導体、および高効率で耐久性に優れた酸素分離膜並びに炭化水素の酸化用反応装置を提供することにある。
斯かる目的を達成するための第1発明の酸素イオン伝導体の要旨とするところは、一般式(La 1-x Sr x)(TiyAlz Fe 1-y-z)O3(但し、0<1、0<y<0.4、0<z<0.4、y+3z>0.5、以下、一般式Cという)で表されるペロブスカイト化合物から成ることにある。
また、第2発明の酸素分離膜の要旨とするところは、前記第1発明の酸素イオン伝導体を緻密な膜状としたことにある。
また、第3発明の炭化水素の酸化用反応装置の要旨とするところは、上記第2発明の酸素分離膜を用いたことにある。
前記第1発明によれば、上記一般式Cのペロブスカイト化合物はBサイトにTiおよびAlを共に適量含むことから、高い酸素透過性能と低い還元膨張率とを有するので、酸素イオン伝導性が高く且つ還元耐久性の優れた酸素イオン伝導体が得られる。上記一般式Cにおいて、TiおよびAlは共に還元膨張率を低下させる作用を有する元素であるが、Tiは同時に酸素透過性能を低下させる作用が大きいため、Tiの割合を多くするほど還元膨張率を低くできる反面で酸素透過性能が低下する。そのため、十分に高い酸素透過性能を得るためには、Tiの割合を0.4未満に留める必要がある。一方、AlはTiに比べると、理由は定かではないが、還元膨張率の低下作用が弱いものの酸素透過性能の低下作用が著しく弱い傾向にある。したがって、Bサイト元素Feの一部を置換する元素としてAlを単独で用いると還元膨張率を十分に低下させることは困難であるが、Tiと併用すれば、Tiを単独で用いた場合に比較して、酸素透過性能を殆ど低下させることなく還元膨張率を更に低下させ、延いては還元耐久性を高めることができる。このように併用する場合、Alの割合が0.4未満の範囲であれば十分に高い酸素透過性能を維持できる。また、TiおよびAlに上記のような還元膨張率の低下傾向があることから、Ti量yおよびAl量zは、前記の通り「y+3z>0.5」を満たす必要がある。すなわち、Ti量の比較的少ない範囲ではAl量を十分に多くして還元膨張率を十分に低下させる必要がある。
因みに、前記特許文献13の(Ln1-xAex)(TiyFe1-y)O3系酸化物は、Bサイトを構成する遷移元素Feの一部を典型元素Tiに置換することによって安定性を高めたものである。このとき、Feが3価であるのに対しTiは4価であるから、価数の高い元素に置換されることになるので、還元安定性を高める効果が一層顕著に得られる。すなわち、Aサイトの元素Lnは3価であるが、その一部または全部を置換するAeは2価であるため、その置換割合に応じてペロブスカイト化合物全体の価数のバランスが崩れることになる。Bサイトの3価の元素の一部を4価の元素に置換すれば、Aサイト元素が置換されることによる価数の変化を緩和できるので、化合物の安定性が高められるものと推定される。これに対して、前記第1発明の構成では、Alは3価の典型元素であるため、遷移元素Feの一部をAlに置換した場合の還元膨張率の低下の程度は、4価のTiに置換した場合よりも小さくなる。そのため、所望する安定性を得るために必要な置換量がTiの場合に比較すると多くなるが、上述したようにAlで置換した場合には、酸素透過性能の低下がTiで置換した場合に比較すると極めて小さい傾向があるので、これらを併用すれば、Tiのみで置換した場合に比較してFeの置換割合を著しく大きくすることが可能となる。したがって、Bサイトを構成するTiとAlの割合を適宜定めることにより、酸素透過性能および還元安定性が共に高い酸素イオン伝導体が得られるのである。
なお、前記一般式Cにおいて、Bサイト元素Feは、ペロブスカイトABO3のAサイトイオン半径をrA、Bサイトイオン半径をrB、酸素イオン半径をrOとしたとき、下記(2)式に示されるペロブスカイト構造許容因子tが0.8〜1.1の範囲内の値になるように選択されたものである。一般に、tの値が1に近いほど安定なペロブスカイト構造をとることが知られている。下記の表1にペロブスカイト化合物を構成し得る元素のイオン半径を示す。表1において、第1欄の「基本組成イオン」には一般式(Ln1-xAex)(TiyAlzM1-y-z)O3のAサイト元素およびMをFeとした場合のBサイト元素を挙げており、第3欄の「Bサイト置換候補イオン」にはFeに代えて用い得る元素を挙げている。ここに挙げられた数値に基づいてtを計算すれば、下記の第3欄に挙げた各元素を何れもBサイト元素Mとして適用し得ることが判るが、本願においてはBサイト元素MをFeとした。
t=(rA+rO)/[21/2(rB+rO)] ・・・(2)
Figure 0004855012
また、第1発明においてBサイト元素の一部を置換する元素としてAlが選択されているのは以下の理由に基づく。すなわち、Tiと併用する3価の典型元素としては、Alの他に、Ga,In,Tl,Sc,Y等が考えられる。しかしながら、Gaを含むものは前述したように耐水蒸気性が劣り、他の元素はイオン半径が大きいことから上記tの値が著しく小さくなって安定なペロブスカイト構造を取り難いので、これらを用いても優れた酸素イオン伝導体を得ることは困難である。
また、本願において、前記一般式Cで表されるペロブスカイト化合物は、その一般式Cの表示に拘らず、酸素数が3のものの他にそれよりも僅かに小さいものも含まれる。第1発明において有効な酸素数は、酸素分圧によっても異なるので一義的に定めることはできないが、例えば、2.4〜3の範囲が好適である。
また、前記第2発明によれば、上記のように酸素イオン伝導性が高く且つ還元耐久性の優れた酸素イオン伝導体を緻密な膜状としたことから、高効率で耐久性に優れた酸素分離膜が得られる。なお、本発明において「緻密な膜状」とは、酸素透過膜の使用時において、その酸素分離膜が曝される雰囲気中の気体分子をそのまま厚み方向に透過させない組織を、酸素分離膜が有していることを意味するものである。すなわち、ここにいう緻密性は一義的に定められるものではなく、予定されている使用態様において上述した特性を有していれば足りる。
また、前記第3発明によれば、上記のように高効率で耐久性に優れた酸素分離膜が用いられていることから、安価且つ高効率で耐久性の高い炭化水素の酸化用反応装置が得られる。
ここで、前記第1発明乃至第3発明において、好適には、前記ペロブスカイト化合物は、前記一般式CにおけるTiの割合が0.1〜0.3の範囲内の値である。還元膨張率を十分に低下させるためには0.1以上にすることが好ましく、酸素透過性能を十分に高く保つためには0.3以下に留めることが好ましい。
また、好適には、前記ペロブスカイト化合物は、前記一般式CにおけるAlの割合が0.1〜0.3である。還元膨張率を十分に低下させるためには0.1以上にすることが好ましく、酸素透過性能を十分に高く保つためには0.3以下に留めることが好ましい。
また、好適には、前記ペロブスカイト化合物は、前記一般式CにおけるFeの割合(1-y-z)が0.4〜0.8である。このようにすれば、遷移元素Feの割合が十分に大きいので、酸素透過性能を十分に高く保つことができる。すなわち、TiおよびAlは、それらの合計量が0.2〜0.6の範囲内であることが好ましい。一層好適には、Feの割合は0.6以上である。
なお、第1発明の酸素イオン伝導体を構成するペロブスカイト化合物は、前記一般式Cに明示した元素の他に、Zn,Ga,In,V,Sn,Ge,Ce,Mg,Sc,Y等の他の元素が特性に実質的に影響を与えない程度の範囲で含まれていても差し支えない。また、第1発明の酸素イオン伝導体は、上記ペロブスカイト化合物の他に、製造上排除することが困難な微量のAl2O3、SiO2、MgO、ZrO2等を含み得る。これらは微量が含まれていても特性に著しい影響を与えることはないが、何れもイオン伝導の抵抗になることから含有量は可及的に少ないことが望ましい。
また、好適には、前記一般式Cのペロブスカイト化合物は、酸素イオン伝導性および電子伝導性を有する混合伝導体である。すなわち、前記酸素分離膜は、好適には、混合伝導体から成るものである。このようにすれば、その一面と他面とを短絡させるための外部電極や外部回路等を用いること無くそれらの間で連続的に酸素イオンを透過させ得ると共に、酸素イオンの移動速度が高められるので、酸素透過速度が一層高められる利点がある。このような混合伝導体としては、例えば、(La0.6Sr0.4)(TiyAlz Fe 1-y-z)O3(但し0<y<0.4、0<z<0.4)等が挙げられる
また、前記第2発明の前記酸素分離膜は、好適には、多孔質支持体上にその一面全体を覆って備えられる。この多孔質支持体は、酸素分離膜の一面側および他面側の何れに位置させられても良い。このように多孔質支持体上に酸素分離膜が固定された酸素分離膜エレメントに構成すれば、ガス拡散係数の十分に高い多孔質支持体は、その内部を気体が容易に通過させられるので、適当な厚さ寸法に構成することにより、酸素透過速度に影響を与えることなく酸素分離膜エレメントの機械的強度を高め得る。しかも、酸素分離膜エレメントの機械的強度が多孔質支持体で確保されることから、酸素分離膜の厚さ寸法を酸素透過速度が膜厚で律速されない程度まで薄くすることが可能となるため、その表面積を増大させることによる透過速度向上効果が一層顕著に得られる。なお、このような多孔質支持体が備えられる場合において、更に解離触媒層または再結合触媒層が設けられる場合には、一方が酸素分離膜の表面に、他方が酸素分離膜と多孔質支持体との間にそれぞれ設けられてもよいが、その他方は、多孔質支持体の表面に、好適にはこれに浸透させられた状態で設けられても良い。
なお、上記態様において「一面全体を覆って」とは、酸素分離膜エレメントの使用時において、多孔質支持体の一面が酸素分離膜のその多孔質支持体とは反対側に位置する面と同一空間内に曝されないことを意味するものである。例えば、非使用状態において酸素分離膜が設けられた多孔質支持体の一面が部分的に露出させられていても、その部分が使用時に装置等によって覆われるものであれば、そのような態様も上記「一面全体を覆って」に含まれる。
また、好適には、前記酸素分離膜および前記多孔質支持体は、同材料から成るものである。このようにすれば、両者の熱膨張係数が一致することから、製造工程や使用時に加熱或いは冷却された場合にも、熱膨張量の相違に起因して破損することが好適に抑制される。
また、好適には、前記酸素分離膜および前記多孔質支持体は、相互に異なる組成の材料から成るものである。酸素分離膜エレメント全体の強度は支持体によって確保する必要があることから、支持体と酸素分離膜とは求められる特性が相違するため、例えば要求される強度が比較的高い場合には、酸素分離膜と支持体とを相互に異なる材料で構成することが望ましい。このような支持体構成材料としては、例えば、ジルコニア、アルミナ、窒化珪素、炭化珪素等が好適である。
また、好適には、前記多孔質支持体は、平均細孔径rが0.1<r<20(μm)の範囲内、気孔率pが5<p<60(%)の範囲内である。酸素透過速度の低下を抑制し且つ酸素分離膜エレメントの強度を可及的に高めるためには、この範囲内が好ましい。細孔径および気孔径が小さくなり過ぎると、多孔質支持体のガス透過抵抗が大きくなることから、酸素分離膜を薄くしてもこの多孔質支持体が律速因子になるため、酸素透過速度が著しく低下する。一方、細孔径および気孔径が大きくなり過ぎると、機械的強度が低下して支持体としての機能が失われる。
また、好適には、前記酸素分離膜の一面および他面の少なくとも一方には、前記酸素の解離または再結合を促進するための触媒層が備えられる。このようにすれば、触媒層によって酸素の解離或いは再結合が促進されることから、一層効率の高い酸素分離膜エレメントが得られる。一層好適には、一面および他面の一方に解離触媒層および再結合触媒層の一方が、一面および他面の他方に解離触媒層および再結合触媒層の他方が、それぞれ設けられる。なお、触媒層は、緻密質に構成されていても、多孔質に構成されていてもよく、酸素分離膜でこれを兼ねることもできる。
また、好適には、前記解離触媒層は、La-Sr-Co系酸化物、La-Sr-Mn系酸化物、白金系元素である。一層好適には、LaxSr1-xCoO3(0<x<1、好適にはx=0.6)から成るものである。このような触媒によれば、酸素分離膜の一面側に供給された気体中の酸素が好適にイオン化され、これを透過して他面側に導かれる。なお、触媒層は、上記材料の他、SmxSrCoO3(0<x<1、好適にはx=0.5)、La1-xSrxMnO3(0<x<1、好適にはx=0.15)、La1-xSrxCo1-yFeyO3(0<x<1、0<y<1、好適にはx=0.9、y=0.1)等も好適に用いられる。なお、解離触媒層は、酸素分離膜と同じ材料で構成することもでき、その場合には、その酸素分離膜の一部で解離触媒層を構成し得る。
また、好適には、前記再結合触媒層は、Ni、Co、Ru、Rh、Pt、Pd、Ir等を含むものである。好適には、NiOが還元されることにより形成されたNiから成るものである。このような触媒によれば、酸素分離膜の他面側に導かれた酸素イオンが好適に再結合させられ、その他面側から酸素が回収される。また、解離触媒層および再結合触媒層が上述したような何れの材料で構成される場合にも、酸素は粒界または粒内を透過し得るため、多孔質はもちろん緻密質の触媒層も形成し得る。
また、好適には、前記酸素分離膜は、前記多孔質支持体が備えられていない態様においては、50〜5000(μm)の範囲内の厚さ寸法を備えたものであり、前記多孔質支持体が備えられた態様においては1000(μm)以下の厚さ寸法を備えたものである。このようにすれば、酸素分離膜エレメントの機械的強度を確保できる範囲で酸素分離膜の膜厚が十分に薄くされていることから、これが酸素透過速度を律速することが好適に抑制され、高い酸素透過速度を得ることが容易になる。多孔質支持体を備えていない場合には、酸素分離膜自体が十分な機械的強度を有することが必要であるので上記厚さ寸法以上であることが必要であるが、多孔質支持体を備えている場合には、酸素分離膜自体の機械的強度は要求されないため、可及的に薄くすることが望ましいのである。なお、酸素分離膜はその緻密性が保たれる範囲であれば厚さ寸法の下限は特にない。
また、前記酸素分離膜エレメントによれば、その一面側に酸素を含む原料気体を供給すると、その中の酸素が選択的にイオン化されて酸素分離膜を透過させられ、他面側で再結合して回収されることから、原料気体中の酸素が効率よく分離されるので、安価且つ高効率で耐久性に優れた酸素分離膜エレメントが得られる。
また、前記酸素分離膜エレメントは、その一面側に酸素を含む気体を供給するための第1気体供給路と、その他面側に所定の化合物を含む気体を供給するための第2気体供給路と、その他面側において酸素と前記所定の化合物との反応により生成された気体を回収するための気体回収路とを、含む反応器にも好適に用いられる。このようにすれば、第1気体供給路からその一面側に酸素を含む気体が、第2気体供給路からその他面側に所定の化合物を含む気体がそれぞれ供給され、酸素とその所定の化合物との反応により生成された気体が気体回収路から回収される。そのため、安価且つ高効率で耐久性の高い反応器が得られる。前記第3発明の炭化水素の酸化用反応装置としては、このようなものが挙げられる。
また、前記酸素分離膜エレメントは、前述した酸素製造や炭化水素の部分酸化反応等の他、一面側にNOxを供給することにより、その還元にも用いることができる。
また、好適には、前記酸素分離膜は全体が平坦な板状を成すものである。また、触媒層が備えられた態様においては、その一面に前記解離触媒層が、他面に前記再結合触媒層がそれぞれ備えられたものである。このような板状の酸素分離膜が多孔質支持体上に備えられ且つ触媒層が備えられた態様では、別途形成された酸素分離膜の両面に触媒層が設けられた後、多孔質支持体に固着され、或いは、多孔質支持体上に一方の触媒層、酸素分離膜、および他方の触媒層が順次に形成されることによって酸素分離膜エレメントが製造される。上記平坦な板状としては、円板状、矩形板状等が挙げられる。
また、好適には、前記酸素分離膜は一端が閉じた筒状を成すものであり、触媒層が備えられる態様においては、その内周面および外周面の一方が前記解離触媒層が備えられた前記一面に相当し、他方が前記再結合触媒層が備えられた前記他面に相当するものである。酸素分離膜は、平坦なものに限られず、このような立体的なものであっても良い。なお、内周面側に気体の供給される態様では、例えば、筒状の酸素分離膜の内側に気体導入管を挿入し、その先端から気体を供給すればよい。
また、好適には、前記多孔質支持体は一端が閉じた筒状を成し、前記酸素分離膜、または前記二種の触媒層および酸素分離膜はその内周面または外周面に順次に積層されることによって設けられたものである。このようにすれば、酸素分離膜エレメントが筒状を成す態様においても多孔質支持体によってその機械的強度を確保することができる。
また、前記酸素イオン伝導体は、例えば、前記Aサイト元素La、Srの出発原料となる化合物粉末と、Alの出発原料となる化合物粉末と、Tiの出発原料となる化合物粉末と、遷移元素Feの出発原料となる化合物粉末とを混合する工程と、混合粉末を所定の焼成温度で仮焼する工程と、仮焼粉末を粉砕して原料粉末とする工程と、原料粉末に所定のバインダーを混合して所定粒径に造粒する工程と、造粒粉を所定形状に成形する工程と、成形体に所定温度の焼成処理を施す工程とを、含む工程によって製造される。上記成形工程と焼成工程との間には、必要に応じて、成形体を等方圧で加圧(例えば湿式静水圧加圧)する工程と、成形体を大気中で焼成温度よりも十分に低温で加熱することによって有機物を分解除去する工程とが実施される。また、焼成後には必要に応じて機械研磨工程が施される。
また、上記成形工程は、例えば、前記原料粉末を含む泥漿(以下、スラリーという)中にセラミック焼結体から成る所定の多孔質支持体を浸漬して、その多孔質支持体の表面にそのスラリーを塗布するものである。このようにすれば、その多孔質支持体に塗布されたスラリーを焼成することにより、多孔質支持体上にその塗布厚みに応じた膜厚で酸素分離膜が固着された酸素分離膜エレメントが得られる。
また、上記出発原料は、ペロブスカイト化合物の構成元素やその組合せに応じて適宜のものを用い得るが、例えば、Aサイト元素の出発原料としては酸化物や炭酸化物、水酸化物等が好適に用いられる。また、Alの出発原料としては酸化物や水酸化物等が好適に用いられる。また、Tiの出発原料としては酸化物等が好適に用いられる。また、Feの主発原料としては酸化物(例えば酸化鉄)や炭酸化物等が好適に用いられる
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
図1は、本発明の一実施例の酸素分離膜エレメント10の構成を説明するための要部断面図である。酸素分離膜エレメント10は、20(mm)程度の直径を備えて全体が薄板円板状を成すものであり、その厚み方向の中間部分を構成する酸素分離膜12と、その表面14および裏面16にそれぞれ備えられた酸素解離触媒層18および酸素再結合触媒層20とから構成されている。
上記の酸素分離膜12は、例えば一般式(La 1-x Sr x)(TiyAlz Fe 1-y-z)O3で表されるランタン系ペロブスカイト化合物、例えばLa0.6Sr0.4Ti0.1Al0.2Fe0.7O3等から成り、厚さ寸法が0.5(mm)程度の円板状を成すものである。このペロブスカイト化合物は、酸素イオン伝導性および電子伝導性を共に有する混合伝導性セラミックスである。そのため、緻密質でありながら、その表面14または裏面16に接した酸素をイオン化して例えば表面14から裏面16に向かって透過させることができる。
また、前記酸素解離触媒層18は、例えばLa0.6Sr0.4CoO3から成る多孔質層であって、例えば10(μm)程度の一様な厚さ寸法を以て表面14の略全面に形成されている。この解離触媒層18は、表面14における酸素の解離およびイオン化を促進するために設けられたものである。
また、前記酸素再結合触媒層20は、例えばNiOから成る多孔質層であって、例えば100(μm)程度の一様な厚さ寸法を以て裏面16の略全面に形成されている。この再結合触媒層24は、裏面16における酸素イオンの再結合を促進するために設けられたものである。
但し、これら解離触媒層18および再結合触媒層20は、例えば、表面14および裏面16の何れにおいても、酸素分離膜12の外周縁よりも僅かに内側の範囲内に設けられている。そのため、その触媒層形成領域よりも外側の円環状領域では酸素分離膜12が露出させられている。
図2は、上記の酸素分離膜エレメント10の製造方法を説明するための工程図である。図2において、混合工程P1では、例えば平均粒径が2(μm)程度の酸化ランタン粉末と、平均粒径が2(μm)程度の炭酸ストロンチウム粉末と、平均粒径が0.2(μm)程度の酸化アルミニウム粉末と、平均粒径が0.3(μm)程度の酸化チタン粉末と、平均粒径が1(μm)程度の酸化鉄粉末(例えばFe2O3)とをそれぞれ秤量し、例えばボールミルを用いて混合する。上記各原料は何れも市販のものを用い得る。なお、調合比は、例えばLa0.6Sr0.4TiyAlzFe1-y-zO3-δ(但し、y=0.1,0.2,0.3、z=0.1,0.2,0.3、3−δ=2.4〜3.0)の組成が得られるように定めた。
次いで、仮焼工程P2においては、例えば1200(℃)で6時間程度の加熱処理を施すことにより、上記混合粉末を仮焼する。粉砕工程P3においては、例えば湿式ボールミルを用いて仮焼原料を粉砕することにより、例えば平均粒径が1(μm)程度のLaSrTiAlFeO3-δ原料粉末が得られる。次いで、造粒工程P4では、この原料粉末に、水、有機バインダー等の成形助剤、および分散剤を混合してスラリーを作成し、例えばスプレー・ドライヤーを用いて80(μm)程度の平均粒径の原料粉末を噴霧造粒する。次いで、加圧成形工程P5では、造粒した原料粉末を例えば50(MPa)程度の圧力でプレス成形して、例えば直径が30(mm)程度で、厚さ寸法が4(mm)程度の円板状の成形体を得る。なお、上記成形体寸法は前記寸法の酸素分離膜12が得られるように焼成収縮や研磨代を考慮して定めた値である。また、必要に応じ、CIP工程P6において、静水圧加圧成形(CIP)により150(MPa)程度の加圧処理を施す。次いで、焼成工程P7では、その成形体を例えば大気中において200〜500(℃)程度の温度で10時間程度保持して有機物を分解除去した後、更に大気中において1500〜1600(℃)程度の温度で6時間程度保持することにより、この成形体を焼成する。厚み研磨工程P8においては、このようにして得られた緻密な焼結体に平面研削盤等を用いて機械研磨加工を施し、例えば0.5(mm)程度の厚さ寸法の平板状の膜すなわち酸素イオン導電体を得る。
次いで、第1触媒塗布工程P9においては、例えば平均粒径が2(μm)程度のLa0.6Sr0.4CoO3粉末を有機溶剤と混合してスラリーを調製して、これを表面14に塗布し、乾燥工程P10において、例えば100(℃)程度の温度で乾燥する。上記La0.6Sr0.4CoO3粉末は市販の適宜のものを用い得る。また、塗布厚みは後述する焼成工程P13における収縮を考慮して焼成後の膜厚が10(μm)程度になるように適宜定められる。次いで、第2触媒塗布工程P11においては、例えば平均粒径が7(μm)程度のNiO粉末を有機溶剤と混合してスラリーを調製して、これを裏面16に塗布し、乾燥工程P12において、例えば100(℃)程度の温度で乾燥する。上記NiO粉末も市販の適宜のものを用い得る。また、塗布厚みは焼成工程P13における収縮を考慮して焼成後厚みが100(μm)程度になるように定められる。そして、焼成工程P13において、例えば1000(℃)程度の温度で1時間程度の時間保持して、表面14および裏面16に触媒層18,20をそれぞれ焼き付けることにより、前記の酸素分離膜エレメント10が得られる。焼成工程における昇温速度は、例えば1(℃/分)程度である。
このようにして製造され、前記のように構成された酸素分離膜エレメント10の酸素透過速度を評価した結果を以下に説明する。なお、酸素透過速度の評価は、図3に示される反応器30を用いて行った。図3において、反応器30は、例えばアルミナ等のセラミックスから成り両端を開放された円筒管32、34が、酸素分離膜エレメント10を挟んで上下に配置され、且つ、それらの内周側に例えばアルミナ等のセラミックスから成る気体導入管36,38が挿入されたものである。酸素分離膜エレメント10は、酸素解離触媒層18が設けられている表面14が図3における上側すなわち円筒管32側に位置し、酸素再結合触媒層20が設けられている裏面16が円筒管34側に位置する向きで配置される。また、円筒管32,34の外周側にはヒータ40,40が配置されている。また、円筒管32,34と酸素分離膜エレメント10とは、例えばガラス系等の封着材42,42によって気密に封着されている。なお、気体導入管36,38は、それぞれ酸素分離膜エレメント10の表面から気体供給に必要な距離だけ離隔して配置されている。
このような反応器30において、ヒータ40,40で装置内を1000(℃)程度の温度に加熱しつつ、気体導入管36から空気すなわち酸素を含む気体を円筒管32内に導入すると共に、燃料側すなわち気体導入管38から純メタンガス等の炭化水素を導入する。空気導入量は例えば10〜500(cc/min)程度であり、メタンガス導入量は例えば10〜200(cc/min)程度である。なお、測定に先立ち、例えばヒータ40,40によって円筒管34内を1000(℃)程度の温度に加熱しつつ、例えば水素10(%)とアルゴン90(%)との混合ガスを気体導入管38から円筒管34内に供給し、還元雰囲気下で加熱する。これにより、下面16に備えられている再結合触媒層24すなわちニッケル酸化物が部分的に或いは完全に還元され、酸素再結合触媒としての機能が発揮されるようになる。
上記のように気体導入管36から導入された空気は、酸素分離膜エレメント10の表面すなわち解離触媒層18および酸素分離膜12の表面14に接触しつつ、気体導入管36と円筒管32との間に形成された排気路44を通って図3に矢印で示されるように排気される。このとき、酸素分離膜12およびその表面14に設けられた解離触媒層18の酸素解離作用およびイオン化作用により、空気中の酸素が解離されてイオン化させられるので、その酸素イオンは、酸素イオン伝導性を有する酸素分離膜12を通って表面14側から裏面16側に向かって図3に矢印で示されるように輸送される。
そして、裏面16に到達した酸素イオンは、その酸素分離膜12およびその裏面16に設けられた再結合触媒層20の再結合作用により酸素分子となり、その裏面16から取り出される。これにより、酸素が表面14側から裏面16側に透過することになる。しかしながら、酸素分離膜12は前述したように緻密質であると共に他の気体はイオン化させられないので、酸素以外の気体は全く透過しない。すなわち、空気から純度の極めて高い酸素が製造される。
また、このようにして透過した酸素は、イオンのまま或いは再結合させられた後、気体導入管38から導入されたメタンガス等とその裏面16上、再結合触媒層20内、或いはそれらの近傍において反応させられ、下記(3)式に示されるようなメタンの部分酸化反応が生じる。生成された一酸化炭素と水素との合成ガスは、気体導入管38と円筒管34との間に形成された回収路46から回収される。回収された合成ガスは、例えば、液体燃料合成等に用いられる。なお、以上の説明から明らかなように、本実施例においては、表面14が一面に、裏面16が他面にそれぞれ対応する。また、上記の説明から明らかなように、気体導入管38からメタンガスを導入しない場合には、回収路46から酸素を回収することができ、反応器30を酸素製造装置として用いることができる。
CH4+1/2O2 → CO+2H2 ・・・(3)
上記の試験を例えば24時間程度連続して行い、合成ガスおよび排気ガスをガスクロマトグラフィで測定して酸素透過速度を評価すると共に、還元膨張率および還元安定度を評価した結果を、酸素分離膜エレメント10とは構成の相違する他の実施例および比較例と併せて下記の表2に示す。なお、酸素透過速度は、合成ガス中の酸素濃度と流量、および酸素分離膜エレメント10の酸素透過部面積から算出した。また、還元膨張率は、大気中とH25%+N295%雰囲気中とで熱膨張率をそれぞれ測定し、前記(1)式に従って算出した。また、安定度(すなわち還元安定度)は、上記の酸素透過速度の測定を繰り返し実施してリークに至るまでの時間で評価した。「◎」は10時間の試験時間でリークが発生しなかったもの、「○」は2〜10時間の試験時間でリークが発生したもの(但し、下記の表2では該当データ無し)、「△」は1〜2時間の試験時間でリークが発生したもの、「×」は測定開始直後にリークが発生したものである。また、併せて、前記厚み研磨工程P8によって研磨を施した焼結体に飽和水蒸気を100時間曝露し、曝露後の膜表面をXRD(X線回折装置)構造解析およびEDX(エネルギー分散型蛍光X線装置)による元素分析を行って耐水蒸気性を評価したが、実施例および比較例の何れも水蒸気曝露後に組成や結晶構造の変化は認められなかった。
Figure 0004855012
上記の表2において、実施例1,2はTiを0.1、Alを0.2、0.3としたもの、実施例3,4はTiを0.2、Alを0.2、0.3としたもの、実施例5〜7はTiを0.3、Alを0.1〜0.3としたものである。また、比較例1〜4は、Tiが0.1〜0.4でAlを含まないもの、比較例5,6は実施例と同様にTiおよびAlを共に含むが本発明の範囲外の組成を有するもの、比較例7〜9はTiを含まずAlが0.1〜0.3であるものである。なお、これらにおいては酸素数をxで表したが、2.4≦x≦3.0程度である。なお、表2に掲げる何れのものも、ペロブスカイト化合物の組成が異なる他は前述した工程に従って試験片を製造した。
上記比較例1は、Tiが0.1と少ないことから、還元膨張率が0.40〜0.70(%)と比較的高いため、測定開始直後に割れる結果となった。比較例2はTiを0.2まで増したものであるが、還元膨張率が0.22(%)とやや高く、安定度は不十分である。Tiが0.3の比較例3は、還元膨張率が0.10(%)と低いことから、使用可能な程度の安定度を有するが、酸素透過速度が3.3(cc/min/cm2)まで低下する。実用的には、還元膨張率が0.10(%)以下であることが望ましいが、比較例のようにBサイトをTiのみで置換する組成ではTiを0.3以上にする必要がある。その結果、酸素透過速度が3.3(cc/min/cm2)以下になるので、更に高い酸素透過速度を望む場合には対応不能であり、一方、Tiを更に多くして還元膨張率を更に低くしようとすると、例えば比較例4のようにTiを0.4としたときに0.07(%)の還元膨張率を得ることができるが、酸素透過速度が1.9(cc/min/cm2)まで低下するので、酸素透過性能の面で実用性が失われる。
また、比較例5は、Tiが0.1、Alが0.1であることから、y+3z=0.4と小さいため、比較例6は、Tiが0.2、Alが0.1であることから、y+3z=0.5と小さいため、それぞれ還元膨張率が0.26(%)、0.19(%)と比較的大きな値になり、安定度が不十分であった。すなわち、TiおよびAlを併用しても、y+3z>0.5を満たさなければ、還元膨張率を十分に低下させることはできず、安定性が得られないのである。
また、比較例7〜9はTiを含まないことから、還元膨張率が0.37〜0.33(%)の比較的大きな値に留まり、安定度が不十分であった。すなわち、BサイトのFeをAlのみで置換しても、酸素透過速度は比較的維持できるものの、還元耐久性の高い酸素イオン伝導体を得ることはできない。なお、上記比較例7〜9と比較例1〜3とを対比すれば、AlよりもTiの方が還元膨張抑制効果の大きいことが明らかである。
これに対して、TiとAlを併用し、y+3z>0.5を満たした実施例1〜7によれば、酸素透過速度を比較的高く保ったまま、還元膨張率を低くできる。また、同一のTi量では、Al量が多くなるほど還元膨張率が低下する。例えば、実施例1では比較例3と同等以下まで還元膨張率を低下させながら、その比較例よりも著しく高い酸素透過速度が得られる。また、実施例2,3では、比較例3と同程度の酸素透過速度に保ちながら、その比較例3よりも一層低い還元膨張率が得られる。
なお、実施例4〜7では、実施例1〜3に比較しても還元膨張率が一層低くなっているが、酸素透過速度が3.0(cc/min/cm2)を下回る。したがって、上記の評価結果によれば、Ti(y)が0.1〜0.3の範囲、Al(z)が0.1〜0.3の範囲(但し、y+3z>0.5)で改善効果が認められるが、Tiが0.3未満であることが一層好ましく、TiとAlの合計が0.5未満であることが更に好ましいと考えられる。
要するに、本実施例によれば、一般式(La 1-x Sr x)(TiyAlz Fe 1-y-z)O3で表されるペロブスカイト化合物はBサイトにTiおよびAlを共に含むことから、高い酸素透過性能と低い還元膨張率とを有するので、酸素イオン伝導性が高く且つ還元耐久性の優れた酸素分離膜12が得られるのである。
図4は、本発明の他の実施例の酸素分離膜エレメント50の断面構造を示す図である。この実施例においては、多孔質支持体52上に酸素分離膜54が設けられている。この酸素分離膜54は、例えば前述した実施例の酸素分離膜12と同組成、すなわち、La0.6Sr0.4Ti0.1Al0.2Fe0.7O3等の一般式(La 1-x Sr x)(TiyAlz Fe 1-y-z)O3で表されるランタン系ペロブスカイトである。また、多孔質支持体52はLa0.6Sr0.4Ti0.1Al0.2Fe0.7O3等のペロブスカイト(すなわち、酸素分離膜12と同一組成のもの)、ジルコニア、アルミナ、窒化珪素等から成るものであって、例えば3(mm)程度の厚さ寸法を備えた直径が20(mm)程度の円板である。
上記の多孔質支持体52の裏面56には例えば再結合触媒層58が100(μm)程度の一様な厚さ寸法で形成されている。この再結合触媒層58は、前記再結合触媒層20と同様に構成されたものであるが、一部が多孔質支持体52内に入り込んだ状態で、すなわち一部が浸透させられた状態で設けられている。但し、完全に内部(すなわち例えば酸素分離膜54の近傍まで)に浸透させられた状態であっても差し支えない。また、酸素分離膜54は、多孔質支持体52の表面60に、例えば300(μm)程度の厚さ寸法を以て設けられている。この酸素分離膜54も、再結合触媒層58と同様に多孔質支持体52に一部が浸透させられた状態で設けられている。また、酸素分離膜54の表面62には、解離触媒層18が備えられている。このような酸素分離膜エレメント50によれば、全体の機械的強度が多孔質支持体52によって確保されることから、酸素分離膜54を一層薄くして酸素透過速度を一層高めることが容易である。
上記の酸素分離膜エレメント50は、多孔質支持体52を製造して、その裏面56に再結合触媒層58を、表面60に酸素分離膜54を、それらの構成材料を含むスラリーをそれぞれディッピング等で多孔質支持体52に含浸させて焼成することにより形成した後、その酸素分離膜54の表面62に、同様にディッピングおよび焼成等を施して解離側触媒層18を設けることにより製造される。なお、多孔質支持体52は、酸素分離膜12と同一組成に構成する場合においては、例えば、酸素分離膜12を製造する場合よりは原料粒径の大きい例えば30〜100(μm)程度の粉末を用意し、バインダーを混合し、プレス成形、および焼成処理を施すことによって製造される。
このような酸素分離膜エレメント50においても、前述した酸素分離膜エレメント10と同様に、酸素分離膜54を構成するペロブスカイトが前記一般式(La 1-x Sr x)(TiyAlz Fe 1-y-z)O3で表されるTiおよびAlが共にBサイトに含まれる組成を有することから還元膨張率が小さくなっているので、裏面64側が還元雰囲気になっても、表面62との熱膨張の相違が抑制される。そのため、酸素分離膜エレメント10と同様に、酸素透過速度が比較的高い条件下において耐久性が高められることから、割れが生じ延いてはリークに至ることが抑制される。
以上、本発明を図面を参照して詳細に説明したが、本発明は更に別の態様でも実施でき、その主旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得るものである。
本発明の一実施例の酸素分離膜エレメントの要部断面を示す図である。 図1の酸素分離膜エレメントの製造方法を説明するための工程図である。 図1の酸素分離膜エレメントが用いられた反応器の構成を説明する図である。 本発明の他の実施例の酸素分離膜エレメントの断面構造を模式的に示す図である。
符号の説明
10:酸素分離膜エレメント、12:酸素分離膜、14:表面、16:裏面、18:酸素解離触媒層、20:酸素再結合触媒層、30:反応器、32:円筒管、34:円筒管、36:気体導入管、38:気体導入管、40:ヒータ、42:封着材、44:排気路、46:回収路、50:酸素分離膜エレメント、52:多孔質支持体、54:酸素分離膜、56:裏面、58:再結合触媒層、60:表面、62:表面、64:裏面

Claims (3)

  1. 一般式(La 1-x Sr x)(TiyAlz Fe 1-y-z)O3(但し、0<1、0<y<0.4、0<z<0.4、y+3z>0.5)で表されるペロブスカイト化合物から成ることを特徴とする酸素イオン伝導体。
  2. 請求項1に記載の酸素イオン伝導体を緻密な膜状としたことを特徴とする酸素分離膜。
  3. 請求項2に記載の酸素分離膜を用いた炭化水素の酸化用反応装置。
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