例えば、酸素イオン伝導性を有するセラミック材料から成る緻密質の電解質層は、その一面側において気体から解離させ且つイオン化させた酸素イオンをその他面側において再結合させることにより、酸素をその一面から他面に選択的に透過させてその気体から連続的に酸素を分離する酸素分離膜エレメントに利用される。特に、上記セラミック材料が酸素イオン伝導性に加えて電子伝導性を有する混合伝導体である場合には、電解質層内を酸素イオンの移動方向とは反対方向に電子が移動するため、解離面と再結合面とを電気的に接続して電子を再結合面から解離面に戻すための外部電極や外部回路等を設ける必要がない利点がある。このような電解質層を備えた酸素分離膜エレメントによれば、酸素を含む気体から容易に酸素を分離することができるため、例えば、深冷分離法やPSA(圧力変動吸着)法等に代わる酸素製造法として利用できる。
また、上記のような酸素イオン伝導体は、炭化水素の部分酸化反応等の酸化用反応装置にも利用し得る。例えば、この酸素イオン伝導体を膜状に形成し、その一方の表面に酸素含有ガスを供給し、他方の表面すなわち酸素再結合側の表面にメタン(CH4)等の炭化水素を含む気体を供給すれば、透過した酸素イオンによってその炭化水素を酸化させることができる。そのため、GTL(Gas to Liquid:天然ガスから化学反応により液体燃料を合成する技術)や、燃料電池用水素ガスの製造等に利用できる。
酸素分離に好適な酸素イオン伝導体セラミックスや混合伝導体セラミックスとして、(A1-xA'x)(Co1-y-zByB'z)O3-δ(但しAはCa,Sr,Ba、A'はLa,Y等、BはFe,Mn等、B'はCu,Ni)、(La0.8Sr0.2)(Ga0.8Mg0.2)O3、(La1-xSrx)(Ga1-y-zMgyAlz)O3、(Ln1-xAx)(Ga1-y-zB1yB2z)O3(但しLnはランタノイド、AはCa,Sr,Ba、B1はMg,Al,In、B2はCo,Fe,Cu,Ni)、(Ln1-xSrx)(Ga1-y-zMgyCoz)O3、(La1-xAx)(M1-yBy)O3(但しAはアルカリ金属またはアルカリ土類金属、MはAl,Ga,In、Bはアルカリ土類金属またはZn)、(La1-xMx)(Ga1-yFey)O3(但しMはSr,Ca,Ba)等、すなわちLnACoM系酸化物やLnAGaM系酸化物等(但しAはアルカリ土類等、Mは金属元素等を意味する)のペロブスカイト構造の組成物が提案されている(例えば特許文献1〜8等を参照)。しかしながら、LnACoM系酸化物は還元膨張率が大きいので、解離面側が還元雰囲気になる酸素分離膜用途では、クラックが生じ易く耐久性が低い。なお、還元膨張率(%)は、還元雰囲気下における熱膨張率をEred(%)、空気雰囲気下における熱膨張率をEair(%)としたとき、下記(1)式で与えられる。
[{(1+Ered/100)-(1+Eair/100)}/(1+Eair/100)]×100 ・・・(1)
一方、LnAGaM系酸化物は、LnACoM系酸化物に比較して還元耐久性が優るものの原料が高価であり、しかも、酸素イオン伝導性がやや劣り、機械的強度も低い問題がある。また、LnAGaM系酸化物は、水蒸気接触部でGa成分が分解することから、耐水蒸気性にも問題があった。因みに、炭化水素の部分酸化反応等においては、コーキング(すなわち炭素の析出)延いてはガス透過性能の低下を防止するために膜の一方側に水蒸気を流すシステム設計が望まれる。また、水蒸気を流さない場合にも、膜を透過した酸素と水素との反応により水蒸気が生成する。そのため、前述したような用途においては、酸素イオン伝導体に耐水蒸気性も要求されるのである。
また、(A
1-xA'
x)BO
3-δまたは(Bi
2-yA
yO
2-δ')((A
1-xA'
x)
n-1B
nO
3n+1-δ")(但し、AはCa,Sr,Ba,Bi,Pb,K,Sb,Te,Naのうちの少なくとも1種、A'はLa,Y,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu,Th,Uのうちの少なくとも1種、BはFe,Mg,Cr,V,Ti,Ni,Ta,Mn,Co,Cuのうちの少なくとも1種、x≦0.9、0≦y≦2、1≦n≦7、δ、δ'、δ"は原子価によって決定される値)で表されるペロブスカイト型化合物が、高い酸素透過率を得る目的で提案されている(特許文献9を参照。)。しかしながら、このペロブスカイト型化合物も酸素透過率が満足できるレベルにはなかった。
特開平08−173776号公報
特開平09−161824号公報
特開平11−228136号公報
特開平11−335164号公報
特開2000−251534号公報
特開2000−251535号公報
特表2000−511507号公報
特開2001−093325号公報
特開平11−092961号公報
国際公開第03/040058号パンフレット
これに対して、本願出願人は、上記各材料に代えて酸素イオン伝導体に用い得る材料としてLnAeTiFeO3系酸化物を提案した(特許文献10を参照)。このLnAeTiFeO3系酸化物は、LnAGaM系酸化物に比較して原料が安価で酸素イオン伝導性が高く、且つLnACoM系酸化物に比較して還元耐久性や耐水蒸気性の高い等の特性を有する。
ところで、上記LnAeTiFeO3系酸化物は、Aサイト元素の比やBサイト元素(TiおよびFe)の比によって酸素透過速度が相違し、特に、Bサイトについては、Feが多くなるほど酸素透過速度が高くなる。例えば、La0.6Sr0.4Ti0.1Fe0.9Oxでは0.5(mm)の膜厚で11.5(cc/min/cm2)程度の高い酸素透過速度を得ることができる。しかしながら、この材料で試作を経て量産化に向けたスケールアップに着手したところ、例えばφ30(mm)×厚み0.5(mm)程度や□50(mm)×厚み0.5(mm)程度の小体積の平板形状のものは焼成できるが、体積を大きくすると焼成段階で割れ易くなることが明らかになった。例えば、酸素製造等に工業的に使用する酸素分離膜では、例えば外径30(mm)×内径20(mm)×長さ300(mm)程度の体積を有する円筒形状等の電解質層が望まれる。このような大きなものは焼成過程で殆どが割れてしまい、一般的に行われているセラミックスの焼成割れ対策、例えば原料粒径や成形体密度の調整等の製造条件変更も効果を奏さなかった。
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであって、その目的は、酸素透過速度が高く且つ工業的使用に適した大きさの酸素分離膜を提供することにある。
斯かる目的を達成するための第1発明の酸素分離膜の要旨とするところは、一般式(La1-xSrx)(Zr1-y-zCryFez)O3(但し、0<x<1、0.1≦y≦0.5、0.4≦z≦0.8、0<1−y−z<0.3;以下、一般式Cという。)で表されるペロブスカイト構造を有し、且つ酸素イオン伝導性および電子伝導性を有する混合伝導体材料から成る電解質層を備えたことにある。
また、前記目的を達成するための第2発明の酸素分離膜の要旨とするところは、(a)前記一般式Cで表されるペロブスカイト構造を有し、且つ酸素イオン伝導性および電子伝導性を有する混合伝導体材料(以下、第2発明においては「第1の混合伝導体材料」という)から成る第1層と、(b)その第1層の一面に積層され且つ前記第1の混合伝導体材料よりも還元膨張率が小さい他の混合伝導体材料(以下、第2発明においては「第2の混合伝導体材料」という)から成る第2層とを、含むことにある。
前記第1発明によれば、前記一般式Cで表されるペロブスカイト構造を有する混合伝導体材料は、(La1-xSrx)(Zr1-yFey)O3に対してBサイト元素の一部がCrに置換されていることから、(La1-xSrx)(Zr1-yFey)O3と同程度の酸素イオン伝導性を維持しながら、大きな体積のものであっても焼成割れが好適に抑制される。そのため、この混合伝導体材料で電解質層を構成することにより、酸素透過速度が高く且つ工業的使用に適した大きさの酸素分離膜が得られる。なお、上記組成において、Bサイトの各元素の割合は、Feを置換するCr量およびZr量が適度になるように定められているもので、Cr量が0.1以上であることから焼成割れが好適に抑制されると共に、Cr量が0.5以下であることから十分に高い酸素イオン伝導性が得られる。また、Zr量が0.3以下に留められているので、Fe量が十分に多くなって、十分に高い酸素透過速度が得られる。
因みに、本発明者等は、前記特許文献10に記載されたLnAeTiFeO3系酸化物(但し、AeはBa、Sr、Caのうちから選ばれる1種または2種以上の組合せ)の焼成割れに対処すべく、LnAeTiFeO3系酸化物や、そのBサイト元素のTiをZrに置換した酸化物、或いは、FeをMnやCo等に置換した酸化物、すなわち、(Ln1-xAex)(B1-yMy)O3系ペロブスカイト型化合物の焼結過程を高温顕微鏡等を用いて解析した。その結果、上記ペロブスカイト型化合物では焼結過程で液相が生成し、大きな粒界変化が生ずることから、これが悪影響を与えていると考えるに至った。例えば、1400〜1500(℃)程度で焼成処理を施す材料では、昇温過程の1100〜1300(℃)程度で顕著な変化が認められたのである。上記ペロブスカイト型化合物のBサイトに、Fe,Mn,Co,Cu,Ni等の1500(℃)程度以下の融点を有する低融点の金属元素が多量に含まれると、その含有量が多くなるほど焼結過程で液相が生成し易くなるものと考えられる。また、液相が生成すると粒界が不安定になると共に著しい体積変化が生じるので、体積の大きな成形体では大きな歪みが生じ、これにより発生する応力が材料強度を超えて破壊に至るものと推定される。本発明は、このような推定に基づき、液相の生成を抑制すれば焼成割れを抑制できるとの考えの下、Bサイト元素の一部を高融点の遷移金属すなわちCrで置換することによって予測通りの知見を得て為されたものである。表1に置換候補材料の融点を示す。
なお、上記LnAeTiFeO3系酸化物は、Bサイトを構成する遷移元素Feの一部を典型元素Tiに置換することによって安定性を高めたものである。このとき、Feが3価であるのに対しTiは4価であるから、価数の高い元素に置換されることになるので、還元安定性を高める効果が一層顕著に得られる。すなわち、Aサイトの元素Lnは3価であるが、その一部または全部を置換するAeは2価であるため、その置換割合に応じてペロブスカイト型化合物全体の価数のバランスが崩れることになる。Bサイトの3価の元素の一部を4価の元素に置換すれば、Aサイト元素が置換されることによる価数の変化を緩和できるので、化合物の安定性が高められるものと推定される。前記一般式Cで表されるペロブスカイト型化合物は、上記LnAeTiFeO3系酸化物に対して、BサイトのTiをZrに置換すると共にZr,Feの一部をCrに置き換えたものである。また、ZrはTiと同様に4価であるから、FeをTiで置換した場合と同様に還元安定性が高められる。しかも、理由は定かではないが、Zrを用いた場合には、置換割合が僅かでも還元膨張率の著しい低下が生じる利点もある。本発明の酸素分離膜は、前記特許文献10に記載された酸素分離膜の効果を得ることができると共に、大きなものになると焼成割れが生ずるので製造が困難であるというその問題点を解決するものである。
なお、Bサイトの一部を置換する元素として高融点のものを採用したのは、一般に、高融点金属の割合が多くなるほど化合物の熱的安定性が高くなると考えられるためである。また、遷移金属を採用したのは、典型元素で置換すると酸素イオン伝導性が著しく低下するためである。
また、前記第2発明によれば、上述したように酸素イオン伝導性が高く且つ焼成割れが生じ難い第1の混合伝導体材料から成る第1層に、それよりも還元膨張率の小さい第2の混合伝導体材料から成る第2層が積層されることによって、厚み方向において還元膨張率が変化する組成傾斜膜に構成される。そのため、大きな酸素分離膜を製造する場合であっても第1層は焼成割れが生じ難く、しかも、酸素分離膜の一面が還元雰囲気に曝される用途においても、第2層を還元雰囲気側に位置させることによって、相対的に還元膨張率の大きい第1の混合伝導体材料から成る第1層をその還元雰囲気から保護することができる。上記により、第1層の構成材料に酸素イオン伝導性が一層高く且つ還元膨張率が一層大きい混合伝導体材料を用い得ることから、酸素透過速度が一層高く且つ工業的使用に適した大きさの酸素分離膜が得られる。
因みに、酸素分離膜を構成する電解質層には、工業的には例えば10(cc/min/cm2)以上の酸素透過性能が必要とされている。酸素透過性能は膜厚に反比例することから、電解質層の膜厚は薄いほど好ましく、100〜200(μm)程度の膜厚の非対称構造を想定すると、0.5(mm)の膜厚で2〜4(cc/min/cm2)、1(mm)の膜厚で1〜2(cc/min/cm2)が、電解質層に最低限求められる酸素透過性能となる。しかし、それにも拘らず、膜面積当たりの酸素透過速度が高いほど、同量の酸素を得るために必要なエレメントサイズが小さくなって、製造コストの低減および装置全体の小型化に資するから、電解質層の酸素透過性能は高いほどよい。
一方、前述したように、LnAeTiFeO3系酸化物は、Aサイト元素の比やBサイト元素の比に応じて酸素イオン伝導性が変化するが、同時に還元膨張率も変化し、これらは概ね比例関係にある(下記の表2および図1を参照。)。このような傾向は、上記LnAeTiFeO3系酸化物のBサイト元素を置換した(Ln1-xAex)(B1-y-zCryMz)O3でも同様で、酸素イオン伝導性が高くなるほど還元膨張率が大きくなる。そのため、(Ln1-xAex)(B1-y-zCryMz)O3においても、酸素透過性能の面では、酸素イオン伝導性の高い組成ほど好ましいが、酸素イオン伝導性が高くなるほど還元膨張率も増大し、還元耐久性が低下する。したがって、酸素分離膜の一面が還元雰囲気に曝されるような高い還元耐久性が求められる用途では、還元耐久性と酸素イオン伝導性との両立は困難であった。
これに対して、第2発明のように組成傾斜膜に構成すると、酸化側に配置する第1層に酸素イオン伝導性の高い組成のものを用い得るので、還元耐久性と酸素イオン伝導性の両立が可能となる。なお、還元膨張率の小さい第2の混合伝導体材料の酸素イオン伝導性は、第1の混合伝導体材料よりも低いが、還元耐久性を確保するために第2層に要求される膜厚は極めて薄く、例えば、実質的に欠陥の無い連続膜を形成できる程度で足りる。そのため、第2層の膜厚を十分に薄くすればその酸素透過性能が十分に高くなるので、積層された電解質層全体として、十分に高い酸素透過性能を確保できる。例えば、前記特許文献10に記載されたLnAeTiFeO3系酸化物は、0.5(mm)膜厚で例えば3.3(cc/min/cm2)程度の酸素透過性能と、0.10(%)程度の低い還元膨張率を有しており、還元膨張率がLaSrCoFeO3系では1(%)程度、LnAGaMOx系で0.15(%)であるのに比較すると、高い還元耐久性を有するが、前述した事情の下、一層の改善が求められていた。上記の組成傾斜構造は、このような改善要求に良く応えるものである。
また、本願において、前記一般式Cで表されるペロブスカイト型化合物は、その一般式Cの表示に拘らず、酸素数が3のものの他にそれよりも僅かに小さいものも含まれる。上記一般式Cで有効な酸素数は、酸素分圧によっても異なるので一義的に定めることはできないが、例えば、2.4〜3の範囲が好適である。
なお、第1層および第2層の膜厚や、第1の混合伝導体材料および第2の混合伝導体材料の組成等は、要求される還元耐久性と所望する酸素透過性能とを比較考量して定めればよい。
ここで、好適には、前記混合伝導体材料および前記第1の混合伝導体材料は、0<1−y−z<0.2を満たすものである。このようにすれば、前記元素BすなわちTiまたはZrが0.2未満の範囲に留められることから、混合伝導体材料の酸素イオン伝導性が一層高められる。したがって、酸素透過速度の一層高い酸素分離膜が得られる。
また、好適には、前記混合伝導体材料および前記第1の混合伝導体材料は、0.2≦y≦0.5、0.4≦z≦0.7を満たすものである。焼成割れを十分に抑制するためには、Crが0.2以上含まれることが好ましい。一方、Cr量が多くなるほど酸素イオン伝導性が低下することから、Crは0.5以下に留められることが好ましい。したがって、上記のようにすれば、焼成割れを抑制する効果が十分に得られると共に、酸素イオン伝導性が十分に高い混合伝導体材料が得られる。
また、前記混合伝導体材料および前記第1の混合伝導体材料は、前記一般式Cで表されるペロブスカイト型化合物の他に、製造上排除することが困難な微量のAl2O3、SiO2、MgO、ZrO2等を含み得る。これらは微量が含まれていても特性に著しい影響を与えることはないが、何れもイオン伝導の抵抗になることから含有量は可及的に少ないことが望ましい。
また、好適には、前記第1発明および第2発明の酸素分離膜は、多孔質支持体上にその一面全体を覆って備えられる。このように多孔質支持体上に酸素分離膜が固定された酸素分離膜エレメントに構成すれば、酸素分離膜の機械的強度が多孔質支持体で高められるため、多孔質支持体が用いられていない自立膜の場合に比較して、機械的強度が一層高く、焼成割れが一層生じ難い酸素分離膜が得られる。しかも、要求される機械的強度を多孔質支持体によって確保できることから、電解質層の膜厚を自立膜の場合に比較して一層薄くできるため、酸素透過速度が一層高められる利点もある。
なお、上記態様において「一面全体を覆って」とは、酸素分離膜エレメントの使用時において、多孔質支持体の一面が酸素分離膜のその多孔質支持体とは反対側に位置する面と同一空間内に曝されないことを意味するものである。例えば、酸素分離膜が設けられた多孔質支持体の一面が非使用状態において部分的に露出させられていても、その部分が使用時に装置等によって覆われるものであれば、そのような態様も上記「一面全体を覆って」に含まれる。
また、好適には、前記酸素分離膜および前記多孔質支持体は、同材料から成るものである。このようにすれば、両者の熱膨張係数が一致することから、製造工程や使用時に加熱或いは冷却された場合にも、熱膨張量の相違に起因して破損することが好適に抑制される。
また、好適には、前記酸素分離膜および前記多孔質支持体は、相互に異なる組成の材料から成るものである。酸素分離膜エレメント全体の強度を多孔質支持体によって確保する場合には、多孔質支持体と酸素分離膜とは求められる特性が相違するため、例えば要求される強度が比較的高い場合には、酸素分離膜と支持体とを相互に異なる材料で構成することが望ましい。このような支持体構成材料としては、例えば、ジルコニア、アルミナ、窒化珪素、炭化珪素等が好適である。
また、好適には、前記多孔質支持体は、平均細孔径rが0.1<r<20(μm)の範囲内、気孔率pが5<p<60(%)の範囲内である。酸素透過速度の低下を抑制し且つ酸素分離膜の強度を可及的に高めるためには、この範囲内が好ましい。細孔径および気孔径が小さくなり過ぎると、多孔質支持体のガス透過抵抗が大きくなることから、酸素分離膜を薄くしてもこの多孔質支持体が律速因子になるため、酸素透過速度が著しく低下する。一方、細孔径および気孔径が大きくなり過ぎると、機械的強度が低下して支持体としての機能が失われる。
また、好適には、前記酸素分離膜の一面および他面の少なくとも一方には、前記酸素の解離または再結合を促進するための触媒層が備えられる。このようにすれば、触媒層によって酸素の解離或いは再結合が促進されることから、一層効率の高い酸素分離膜が得られる。一層好適には、一面および他面の一方に解離触媒層および再結合触媒層の一方が、一面および他面の他方に解離触媒層および再結合触媒層の他方が、それぞれ設けられる。なお、触媒層は、緻密質に構成されていても、多孔質に構成されていてもよく、酸素分離膜でこれを兼ねることもできる。
また、上記の解離触媒層および再結合触媒層は、第1発明の酸素分離膜においては、電解質層の何れの面にどちらが設けられてもよく、第2発明の酸素分離膜においては、解離触媒層を第1層側に、再結合触媒層を第2層側にそれぞれ設ければよい。また、前記のように電解質層が多孔質支持体上に備えられる場合には、一方は多孔質支持体の裏面側に設けることもできる。
また、好適には、前記解離触媒層は、La-Sr-Co系酸化物、La-Sr-Mn系酸化物、白金系元素である。一層好適には、LaxSr1-xCoO3(0<x<1、好適にはx=0.6)から成るものである。このような触媒によれば、酸素分離膜の一面側に供給された気体中の酸素が好適にイオン化され、これを透過して他面側に導かれる。なお、触媒層は、上記材料の他、SmxSrCoO3(0<x<1、好適にはx=0.5)、La1-xSrxMnO3(0<x<1、好適にはx=0.15)、La1-xSrxCo1-yFeyO3(0<x<1、0<y<1、好適にはx=0.9、y=0.1)等も好適に用いられる。なお、解離触媒層は、酸素分離膜と同じ材料で構成することもでき、その場合には、その酸素分離膜の一部で解離触媒層を構成し得る。
また、好適には、前記再結合触媒層は、Ni、Co、Ru、Rh、Pt、Pd、Ir等を含むものである。好適には、NiOが還元されることにより形成されたNiから成るものである。このような触媒によれば、酸素分離膜の他面側に導かれた酸素イオンが好適に再結合させられ、その他面側から酸素が回収される。また、解離触媒層および再結合触媒層が上述したような何れの材料で構成される場合にも、酸素は粒界または粒内を透過し得るため、多孔質はもちろん緻密質の触媒層も形成し得る。
また、好適には、前記酸素分離膜は、前記多孔質支持体が備えられていない態様においては、50〜5000(μm)の範囲内の厚さ寸法を備えたものであり、前記多孔質支持体が備えられた態様においては1000(μm)以下の厚さ寸法を備えたものである。このようにすれば、酸素分離膜エレメントの機械的強度を確保できる範囲で酸素分離膜の膜厚が十分に薄くされていることから、これが酸素透過速度を律速することが好適に抑制され、高い酸素透過速度を得ることが容易になる。多孔質支持体を備えていない場合には、酸素分離膜自体が十分な機械的強度を有することが必要であるので上記厚さ寸法以上であることが必要であるが、多孔質支持体を備えている場合には、酸素分離膜自体の機械的強度は要求されないため、可及的に薄くすることが望ましいのである。なお、酸素分離膜はその緻密性が保たれる範囲であれば厚さ寸法の下限は特にない。
また、前記酸素分離膜エレメントによれば、その一面側に酸素を含む原料気体を供給すると、その中の酸素が選択的にイオン化されて酸素分離膜を透過させられ、他面側で再結合して回収されることから、原料気体中の酸素が効率よく分離されるので、安価且つ高効率で耐久性に優れた酸素分離膜エレメントが得られる。
また、前記酸素分離膜エレメントは、前述した酸素製造や炭化水素の部分酸化反応等の他、一面側にNOxを供給することにより、その還元にも用いることができる。
また、好適には、前記酸素分離膜は一端が閉じた筒状を成すものであり、触媒層が備えられる態様においては、その内周面および外周面の一方が前記解離触媒層が備えられた前記一面に相当し、他方が前記再結合触媒層が備えられた前記他面に相当するものである。なお、内周面側に酸素を含む気体が供給される態様では、例えば、筒状の酸素分離膜の内側に気体導入管を挿入し、その先端から気体を供給すればよい。
また、好適には、前記多孔質支持体は一端が閉じた筒状を成し、前記酸素分離膜、または前記二種の触媒層および酸素分離膜はその内周面または外周面に順次に積層されることによって設けられたものである。このようにすれば、多孔質支持体によってその機械的強度を確保することができる。
また、好適には、前記酸素分離膜は全体が平坦な板状を成すものである。また、触媒層が備えられた態様においては、その一面に前記解離触媒層が、他面に前記再結合触媒層がそれぞれ備えられたものである。本発明は、円筒状等に構成される場合にも焼成割れが生じ難い酸素分離膜を提供するものであるが、焼成割れの抑制効果は平板形であっても同様に得られる。
また、前記酸素イオン伝導体は、例えば、前記Aサイト元素の出発原料となる化合物粉末と、Zrの出発原料となる化合物粉末と、Feの出発原料となる化合物粉末と、Crの出発原料となる化合物粉末とを混合する工程と、混合粉末を所定の焼成温度で仮焼する工程と、仮焼粉末を粉砕して原料粉末とする工程と、原料粉末に所定のバインダーを混合して所定粒径に造粒する工程と、造粒粉を所定形状に成形する工程と、成形体に所定温度の焼成処理を施す工程とを、含む工程によって製造される。上記成形工程と焼成工程との間には、必要に応じて、成形体を等方圧で加圧(例えば湿式静水圧加圧)する工程と、成形体を大気中で焼成温度よりも十分に低温で加熱することによって有機物を分解除去する工程とが実施される。また、焼成後には必要に応じて機械研磨工程が施される。
また、上記所定の成形工程は、例えば、前記混合粉末を含む泥漿(以下、スラリーという)中にセラミック焼結体から成る所定の多孔質支持体を浸漬して、その多孔質支持体の表面にそのスラリーを塗布するものである。このようにすれば、その多孔質支持体に塗布されたスラリーを焼成することにより、多孔質支持体上にその塗布厚みに応じた膜厚で酸素分離膜が固着された酸素分離膜エレメントが得られる。前記第2発明のように第1層および第2層が積層される場合には、それぞれを形成するためのスラリーを多孔質支持体の表面に順次に設ければ良い。
また、上記出発原料は、ペロブスカイト化合物の構成元素やその組合せに応じて適宜のものを用い得るが、例えば、Aサイト元素の出発原料としては酸化物や炭酸化物、水酸化物等が好適に用いられる。また、Zrの出発原料としては酸化物や水酸化物等が好適に用いられる。また、Crの出発原料としては酸化物等が好適に用いられる。また、Feの主発原料としては酸化鉄が好適である。
また、本発明の酸素分離膜を製造するに際しては、前記電解質層或いは前記第1層および第2層を、これらを構成するための混合伝導体材料を含むスラリーを用いてグリーンシートを成形する工程と、それらグリーンシートを重ね合わせて同時に焼成処理を施す工程とを、含む工程によって製造することもできる。例えば、多孔質支持体上に電解質層或いは第1層および第2層を形成する場合には、これらをスラリーの塗布やグリーンシートの巻き付けで形成することができるが、多孔質支持体を用いない場合には、電解質層や第1層を金型プレス成形や静水圧加圧成形等で形成すればよい。傾斜構造とする場合の第2層は、この場合もスラリーの塗布やグリーンシートの巻き付け等の方法で形成すればよい。
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
図2は、本発明の一実施例の酸素分離膜10の構成を説明するための要部断面図である。酸素分離膜10は、全体が一端を封止された筒状を成すものであり、有底筒状の電解質層12と、その外周面14に備えられた再結合触媒層16と、その内周面18に備えられた解離触媒層20とから構成されている。
上記の電解質層12は、例えば、外径30(mm)程度、内径18(mm)程度、長さ480(mm)程度の大きさを有するものである。電解質層12の厚さ寸法は上記外内径から明らかなように6(mm)程度になっている。この電解質層12は、内周側に位置する緻密質の第1層22と、外周側に位置する緻密質の第2層24とが積層された2層構造を有するものである。第1層22の厚さ寸法は5〜5.95(mm)程度で、第2層24の厚さ寸法は0.05〜1(mm)程度である。
上記の第1層22は、例えば、酸素透過速度が高く且つ還元膨張率が大きい電解質材料、例えば一般式(Ln1-xAex)(B1-y-zCryMz)O3で表されるランタン系ペロブスカイト化合物、例えば、La0.6Sr0.4Ti0.1Cr0.1Fe0.8OxやLa0.6Sr0.4Zr0.1Cr0.1Fe0.8Ox等のLn系ペロブスカイト型化合物から成るものである。これらは0.5(mm)の膜厚で1000(℃)において測定した場合における酸素透過速度が10〜11(cc/min/cm2)程度で、還元膨張率が0.24〜0.30(%)程度の特性を有している。
一方、外周側に位置する第2層24は、例えば、酸素透過速度が低く且つ還元膨張率が小さい電解質材料、例えば一般式(Ln1-xAex)(B1-yMy)O3で表されるランタン系ペロブスカイト化合物、例えば、La0.6Sr0.4Ti0.3Fe0.7OxやLa0.6Sr0.4Zr0.3Fe0.7Ox等のLn系ペロブスカイト型化合物から成るものである。これらは0.5(mm)の膜厚で1000(℃)において測定した場合における酸素透過速度が3.3(cc/min/cm2)程度で、還元膨張率が0.06〜0.10(%)程度の特性を有している。
上記第1層22および第2層24を構成するペロブスカイト型化合物は、何れも酸素イオン伝導性および電子伝導性を共に有する混合伝導性セラミックスである。そのため、緻密質でありながら、その外周面14または内周面18に接した酸素をイオン化して例えば内周面18から外周面14に向かって透過させることができる。
上記のように、電解質層12は、互いに組成が異なる第1層22および第2層24が周壁の厚み方向において積層されることにより形成された組成傾斜構造を備えている。この組成傾斜構造において、内周面18側には酸素透過速度の高い電解質材料から成る第1層22が設けられていると共に、これに積層された第2層24の厚さ寸法は前記の通り極めて薄いことから酸素透過速度に殆ど影響しないため、電解質層12は、高い酸素透過速度を有している。また、外周面14側には、還元膨張率の小さい電解質材料から成る第2層24が設けられていることから、酸素分離膜10の一面が還元雰囲気に曝される使用態様においても、その外周面14側を還元雰囲気側に位置させることにより、還元膨張率の大きい第1層22が還元雰囲気から好適に保護される。そのため、電解質層12は実質的に十分に高い還元耐久性を備えている。
また、前記解離触媒層20は、例えばLa0.6Sr0.4CoO3から成る多孔質層であって、例えば10(μm)程度の一様な厚さ寸法を以て内周面18の略全面に形成されている。この解離触媒層20は、内周面18における酸素の解離およびイオン化を促進するために設けられたものである。
また、前記再結合触媒層16は、例えばNiOから成る多孔質層であって、例えば100(μm)程度の一様な厚さ寸法を以て外周面14の略全面に形成されている。この再結合触媒層16は、外周面14における酸素イオンの再結合を促進するために設けられたものである。
上記酸素分離膜10の使用状態の一例を図3に示す。酸素分離膜10の内周側には気体導入管26が挿入されている。この気体導入管26は、例えば、アルミナ等のセラミックスから成るものである。酸素分離膜10を例えば1000(℃)程度の温度に加熱し、気体導入管26から酸素を含有する気体、例えば空気を10〜500(cc/min)程度の適当な速度で供給すると共に、酸素分離膜10の外周面14に純メタン等の炭化水素ガス或いは炭化水素を含むガスを例えば10〜200(cc/min)程度の適当な速度で供給する。
上記のように気体導入管26から導入された空気は、酸素分離膜10の内周面すなわち解離触媒層20および電解質層12の内周面18に接触しつつ、気体導入管26と酸素分離膜10との間を通って、その酸素分離膜10の開口端から排気される。このとき、酸素分離膜10およびその内周面18に設けられた解離触媒層20の酸素解離作用およびイオン化作用により、空気中の酸素が解離されてイオン化させられるので、その酸素イオンは、酸素イオン伝導性を有する電解質層12を通って外周面14に向かって図3に矢印で示すように輸送される。
そして、外周面14に到達した酸素イオンは、電解質層12および再結合触媒層16の再結合作用により酸素分子となり、その外周面14から取り出される。これにより、酸素が電解質層12内を内周面18から外周面14に透過することになる。しかしながら、電解質層12は前述したように緻密質であると共に他の気体はイオン化させられないので、酸素以外の気体は全く透過しない。すなわち、空気から純度の極めて高い酸素が製造される。
更に、透過した酸素は、イオンのまま或いは再結合させられた後、酸素分離膜10の外周側に供給されたメタンガス等と反応させられ、下記(2)式に示されるメタンの部分酸化反応が生じる。これにより、一酸化炭素および水素が生成される。これらの合成ガスは図示しない回収路から回収され、例えば、液体燃料合成等に用いられる。
CH4+1/2O2 → CO+2H2 ・・・(2)
図4は、上記の酸素分離膜10の製造方法を説明するための工程図である。図4において、混合工程P1では、例えば平均粒径が2(μm)程度の酸化ランタン粉末と、平均粒径が2(μm)程度の炭酸ストロンチウム粉末と、平均粒径が1(μm)程度の酸化ジルコニウム粉末と、平均粒径が1(μm)程度の酸化チタン粉末と、平均粒径が1(μm)程度の酸化クロム粉末(例えばCr2O3)と、平均粒径が1(μm)程度の酸化鉄粉末(例えばFe2O3)とをそれぞれ秤量し、例えばボールミルを用いて混合する。上記各原料は何れも市販のものを用い得る。なお、調合比は、第1層22を形成するためのものは、例えばLa0.6Sr0.4TipCrqFerO3-δ(但し、p=0.1,0.2、q=0.1,0.2,0.3,0.4,0.5、r=0.4,0.5,0.6,0.7,0.8、3−δ=2.4〜3.0)またはLa0.6Sr0.4ZrpCrqFerO3-δ(但し、p=0.1,0.2、q=0.1,0.2,0.3,0.4,0.5、r=0.4,0.5,0.6,0.7,0.8、3−δ=2.4〜3.0)の組成が得られるように定めた。また、第2層24を形成するためのものは、例えば、La0.6Sr0.4Ti0.3Fe0.7O3-δ(但し、3−δ=2.4〜3.0)またはLa0.6Sr0.4Zr0.3Fe0.7O3-δ(但し、3−δ=2.4〜3.0)の組成が得られるように定めた。
次いで、仮焼工程P2においては、例えば1200(℃)で6時間程度の加熱処理を施すことにより、上記混合粉末を仮焼する。粉砕工程P3においては、例えば湿式ボールミルを用いて仮焼原料を粉砕することにより、例えば平均粒径が1(μm)程度のLaSrTiCrFeO3-δ原料粉末、LaSrZrCrFeO3-δ原料粉末、LaSrTiFeO3-δ原料粉末、或いはLaSrZrFeO3-δ原料粉末が得られる。次いで、造粒工程P4では、この原料粉末に、水、有機バインダー等の成形助剤、および分散剤を混合してスラリーを作成し、例えばスプレー・ドライヤーを用いて60(μm)程度の平均粒径の原料粉末を噴霧造粒する。次いで、CIP加圧成形工程P5では、造粒した原料粉末のうち第1層22を形成するためのものを、例えば100(MPa)程度の圧力で静水圧加圧成形(CIP)して、例えば外径が30(mm)程度、内径が18(mm)程度、長さ寸法が480(mm)程度の有底筒状の成形体を得る。次いで、第2層形成工程P6では、例えば、成形体の外周面に前記第2層24を形成するための電解質材料スラリーを塗布して、乾燥処理を施す。この電解質材料スラリーは、上記LaSrTiFeO3-δ原料粉末或いはLaSrZrFeO3-δ原料粉末を適当なビヒクル中に分散させて調製すればよい。
次いで、焼成工程P7では、例えば大気中において200〜500(℃)程度の温度で10時間程度保持して有機物を分解除去した後、更に大気中において1000〜1600(℃)程度の温度で6時間程度保持することにより、この成形体を焼成する。これにより、第1層22,第2層24が積層された前記電解質層12が得られる。
次いで、第1触媒塗布工程P8においては、例えば平均粒径が2(μm)程度のLa0.6Sr0.4CoO3粉末を有機溶剤と混合してスラリーを調製して、これを内周面18に塗布し、乾燥工程P9において、例えば100(℃)程度の温度で乾燥する。上記La0.6Sr0.4CoO3粉末は市販の適宜のものを用い得る。次いで、第2触媒塗布工程P10においては、例えば平均粒径が7(μm)程度のNiO粉末を有機溶剤と混合してスラリーを調製して、これを外周面14に塗布し、乾燥工程P11において、例えば100(℃)程度の温度で乾燥する。上記NiO粉末も市販の適宜のものを用い得る。そして、焼成工程P12において、例えば1000(℃)程度の温度で1時間程度の時間保持して、外周面14および内周面18に触媒層16,20をそれぞれ焼き付けることにより、前記の酸素分離膜10が得られる。焼成工程における昇温速度は、例えば1(℃/分)程度である。
下記の表3は、上記のようにして種々の組成の電解質層12を作製して酸素分離膜10を製造した実施例1〜14を組成の相違する比較例1〜12と共に評価した結果をまとめたものである。表3において、「円筒焼成結果」は、上記製造工程のうちの焼成工程P7を、第2層形成工程P6を省略して単層のまま焼成した場合の割れの発生の有無を表している。○は割れが発生しなかったもの、△は一部にクラックが生じたが利用可能であり、焼成方法の工夫でクラックを回避し得ると判断したもの、×は完全に割れてしまったものである。
上記表3に示されるように、BサイトにCrを含む実施例では、Feが特に多いLSTCrF1およびLSZCrF1にクラックが生じただけで、他の組成は全て問題なく焼成が可能であった。すなわち、酸素透過速度が例えば10(cc/min/cm2)程度と高いものであっても、割れが生ずることなく焼成が可能であった。これに対して、比較例1〜6は、実施例の組成の基本となる従来組成であるが、Crを含まないことから、比較例1,2,4,5は焼成で割れが生じ、円筒形状のものは製造不可能であった。比較例3,6は焼成が可能であったが、酸素透過速度が著しく低いため、単独で電解質12を構成することは不適当である。
また、比較例7〜12は、比較例1の組成に対して、Crに代えてMnまたはCoでFeの一部を置換したものであるが、何れも焼成過程で割れが生じ、円筒形状のものを製造できなかった。前記表1に示したように、MnやCoはCrに比較すると融点が著しく低く、しかも、Coは895(℃)で酸化物が分解する。そのため、これらでFeの一部を置換しても、液相の生成を抑制できないことから、焼成割れが何ら改善しなかったものと考えられる。
なお、上記の表3において、酸素透過速度は、φ30(mm)×厚さ0.5(mm)の円板形状の薄板を作製して測定した。測定装置30の構成を図5に模式的に示す。図5において、測定装置30は、例えばアルミナ等のセラミックスから成り両端を開放された円筒管32、34が、酸素分離膜36を挟んで上下に配置され、且つ、それらの内周側に例えばアルミナ等のセラミックスから成る気体導入管38,40が挿入されたものである。酸素分離膜36は、解離触媒層が設けられている面が図5における上側すなわち円筒管32側に位置し、再結合触媒層が設けられている面が円筒管34側に位置する向きで配置される。また、円筒管32,34の外周側にはヒータ42,42が配置されている。また、円筒管32,34と酸素分離膜36とは、例えばガラス系等の封着材44,44によって気密に封着されている。なお、気体導入管38,40は、それぞれ酸素分離膜36の表面から気体供給に必要な距離だけ離隔して配置されている。
このような測定装置30において、ヒータ42,42で装置内を1000(℃)程度の温度に加熱しつつ、気体導入管38から空気すなわち酸素を含む気体を円筒管32内に導入すると共に、燃料側すなわち気体導入管40から純メタンガス等の炭化水素を導入する。空気導入量は例えば10〜500(cc/min)程度であり、メタンガス導入量は例えば10〜200(cc/min)程度である。なお、測定に先立ち、例えばヒータ42,42によって円筒管34内を1000(℃)程度の温度に加熱しつつ、例えば水素10(%)とアルゴン90(%)との混合ガスを気体導入管40から円筒管34内に供給し、還元雰囲気下で加熱する。これにより、再結合触媒層すなわちニッケル酸化物が部分的に或いは完全に還元され、再結合触媒としての機能が発揮されるようになる。
前記表3に示した酸素透過速度は、上記の試験を例えば24時間程度連続して行い、合成ガスおよび排気ガスをガスクロマトグラフィで測定して得たものである。なお、酸素透過速度は、合成ガス中の酸素濃度と流量、および酸素分離膜36の酸素透過部面積から算出した。また、表3に示す還元膨張率は、大気中とH25%+N295%雰囲気中とで熱膨張率をそれぞれ測定し、前記(1)式に従って算出した。
上記のようにして酸素透過速度を測定した結果、実施例1〜14によれば、Feの一部をCrで置換しても、置換しないものに比較して酸素透過速度が殆ど低下することなく、焼成割れが抑制されることが明らかとなった。
なお、表3において、酸素透過速度の測定値に*を付したものは、0.4(mm)の膜厚とした薄板にLSTF3すなわち比較例3の電解質を0.1(mm)で積層して傾斜組成で酸素透過速度を測定した。また、測定値に☆を付したものは、0.4(mm)の膜厚とした薄板にLSZF3すなわち比較例6の電解質を0.1(mm)で積層して傾斜組成で酸素透過速度を測定した。これらは還元膨張率が0.10を超えることから、単層で構成すると使用時に酸化側と還元側の膨張量の相違に起因して割れるため、傾斜構造で用いることが好ましい。実施例13,14は、還元膨張率が十分に小さいため、単層で電解質層12を構成して差し支えない。
また、表3に示されるように、Feを置換するCrの量が0.1の場合にはクラックが発生した。したがって、Crは僅かでも添加すれば効果が得られるものの、0.2以上とすることが好ましいと言える。なお、CrによるFeの置換割合が増大するほど酸素透過速度は低くなるから、Crの量は、焼成割れが十分に抑制され、且つ還元膨張率が十分に小さくなる範囲で、多い方が好ましい。前記表3に示す結果によれば、Crが0.5である実施例5、10は、酸素透過速度が5(cc/min/cm2)程度まで低下しており、これよりもCrの添加量を多くすると、比較例3,6と同程度の特性まで低下する。そのため、Crは0.5以下に留めることが好ましい。
また、第1層22を構成する電解質材料のTi量およびZr量が多くなると、すなわち、その結果としてFeが少なくなると、表3に示されるように、Crが0.1程度でも、酸素透過速度が5(cc/min/cm2)程度以下まで低下する。したがって、Crを添加する効果は、種々の組成で得ることができるものの、TiやZrが0.2以下の組成を用いることが好ましく、0.1のものが最も好ましい。
要するに、本実施例によれば、LaSrTiCrFeOxまたはLaSrZrCrFeOxで表されるペロブスカイト構造を有する混合伝導体材料は、LaSrTiFeOxまたはLaSrZrFeOxのBサイト元素Feの一部がCrに置換されていることから、それらと同程度の酸素イオン伝導性を維持しながら、大きな体積のものであっても焼成割れが好適に抑制される。そのため、この混合伝導体材料で電解質層12を構成することにより、酸素透過速度が高く且つ工業的使用に適した大きさの酸素分離膜10が得られる。
特に、本実施例においては、電解質層12が、LaSrTiCrFeOxまたはLaSrZrCrFeOxで表される酸素透過速度の高いペロブスカイト型化合物に、LaSrTiFeOxまたはLaSrZrFeOxで表される還元膨張率の小さいペロブスカイト型化合物の薄い層が積層された組成傾斜構造に構成されていることから、大きな酸素分離膜10を製造する場合であっても第1層22は焼成割れが生じ難く、しかも、酸素分離膜10の一面が還元雰囲気に曝される用途においても、第2層24を還元雰囲気側に位置させることによって、相対的に還元膨張率の大きい第1層22をその還元雰囲気から保護することができる。この結果、第1層22の構成材料に酸素イオン伝導性が一層高く且つ還元膨張率が一層大きい混合伝導体材料を用い得ることから、酸素透過速度が一層高く且つ工業的使用に適した大きさの酸素分離膜10が得られる。
以上、本発明を図面を参照して詳細に説明したが、本発明は更に別の態様でも実施でき、その主旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得るものである。
10:酸素分離膜、12:電解質層、14:外周面、16:再結合触媒層、18:内周面、20:解離触媒層、22:第1層、24:第2層、26:気体導入管、30:測定装置、32、34:円筒管、36:酸素分離膜、38,40:気体導入管、42:ヒータ、44:封着材