JP5144851B2 - 酸素分離膜エレメント - Google Patents

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Description

本発明は、多孔質基材上に酸素分離膜が形成された酸素分離膜エレメントに関する。
例えば、酸素イオン伝導性を有する緻密なセラミック膜(すなわち固体電解質膜)は、その一面側において気体から解離させ且つイオン化させた酸素イオンをその他面側において再結合させることにより、酸素をその一面から他面に選択的に透過させてその気体から連続的に酸素を分離する酸素分離膜エレメントに利用される。特に、酸素イオン伝導性に加えて電子伝導性を有する混合伝導体では、酸素分離膜内を酸素イオンの移動方向とは反対方向に電子が移動するため、解離面と再結合面とを電気的に接続して電子を再結合面から解離面に戻すための外部電極や外部回路等を設ける必要がない利点がある。このような酸素分離膜エレメントによれば、酸素を含む気体から容易に酸素を分離することができるため、例えば、深冷分離法(混合ガスを冷却し、不純物を固化して取り除く方法)やPSA(圧力変動吸着)法等に代わる酸素製造法として利用できる。
また、上記のような酸素イオン伝導体は、炭化水素の部分酸化反応等の酸化用反応装置にも利用し得る。例えば、この酸素イオン伝導体を膜状に形成し、その一方の表面に空気等の酸素含有ガスを供給し、他方の表面すなわち酸素再結合側の表面にメタン(CH4)等の炭化水素を含む気体を供給すれば、透過した酸素イオンによってその炭化水素を酸化させることができる。そのため、GTL(Gas to Liquid:天然ガスから化学反応により液体燃料を合成する技術)や、燃料電池用水素ガスの製造等に利用できるのである。
上記のような固体電解質から成る酸素分離膜では膜厚が薄くなるほど酸素透過性能が高くなる。そのため、酸素分離膜の膜厚は可及的に薄いことが望まれるが、膜厚が薄くなるほど膜の自立が困難になるため、一般に、多孔質基材上に混合伝導体の緻密質膜を形成する非対称膜構造のエレメントに構成することが行われている(例えば特許文献1〜6を参照。)。特に、これら各公報に記載された発明では、酸素イオン伝導性を有する材料で多孔質基材を構成することにより、その多孔質基材における酸素透過性能を高め、延いては酸素分離膜エレメントの酸素透過性能を高めることが提案されている。これらにおいて多孔質基材を構成する材料は、酸素分離膜と同一或いは同系のLa系ペロブスカイトや、酸素イオン伝導性の高い材料として知られる酸化セリウム(すなわちセリア)等である。
特許第2813596号公報 特開2003−225567号公報 特開2003−190792号公報 特開2003−210952号公報 特開2002−292234号公報 特開2005−095718号公報
ところで、近年、更なる酸素透過性能の向上を目的として、上記各公報に挙げられているものよりも一層薄い、例えば30〜50(μm)程度、或いはこれよりも更に薄い酸素分離膜を用いることが試みられている。しかも、薄膜化と相俟って一層の酸素透過性能の向上を図るべく、酸素分離膜エレメントを加圧下で用いることも検討されている。
しかしながら、前記各公報に記載されているLa系ペロブスカイトで多孔質基材および酸素分離膜を共に構成した酸素分離膜エレメントでは、十分な気密性の確保が困難で、加圧下で用いると気体の漏れが生じ易い問題があった。特に、前記特許文献6に記載されているように酸素分離膜とは異なる材料で多孔質基材を構成した場合には、気密性の高い緻密な酸素分離膜を得ることが困難であった。この問題は、多孔質基材と酸素分離膜との熱膨張係数の相違や、それらの間の反応、その他の作製条件等に起因するものと考えられるが、詳細は解明されていない。
そこで、気密性が求められる場合には、酸素分離膜の構成材料と同一材料で多孔質基材を構成するか、酸素分離膜の膜厚を例えば100(μm)程度に厚くする等が行われていた。前者によれば、熱膨張係数の相違を緩和できるが、酸素分離膜材料は耐熱性が比較的低くしかも高価であることから、近年におけるスケールアップやコストダウンの要求に応えることが困難である。また、後者によれば、前述したように、酸素透過性能は酸素分離膜の膜厚を薄くするほど高くなるので、気密性を確保するために膜厚を厚くすると、高性能化の要求に応えることが困難になる。
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであって、その目的は、薄く且つ気密性の高い酸素分離膜を備え得る安価な酸素分離膜エレメントを提供することにある。
斯かる目的を達成するため、本発明の要旨とするところは、多孔質基材上に酸素イオン伝導性を有する緻密質の酸素分離膜を形成した酸素分離膜エレメントであって、前記多孔質基材をセリア安定化ジルコニアで構成し、前記酸素分離膜は1000(℃)において12.0〜13.0(×10 -6 /K)の範囲内の熱膨張係数を有し、前記多孔質基材は平均粒径が5〜100(μm)の範囲内の粗大粒子と平均粒径が0.05〜1.0(μm)の範囲内の微細粒子とを粗大粒子100重量部に対して微細粒子10〜50重量部の範囲内の割合で混合したセリア安定化ジルコニア原料を用いて製造されたものであることを特徴とする酸素分離膜エレメントであることにある。
このようにすれば、セリア安定化ジルコニアで多孔質基材が構成されていることから、その多孔質基材上に酸素分離膜を形成するに際して、その酸素分離膜が例えば100(μm)未満の薄い膜厚で設けられる場合にも、その緻密性が高められ延いては気密性が高められる。また、セリア安定化ジルコニアは酸素分離膜を構成するために一般に用いられるLa系ペロブスカイト材料に比較すると極めて安価であり、耐熱性も高いので、薄く且つ気密性の高い酸素分離膜を備え得る安価な酸素分離膜エレメントが得られる。しかも、セリア安定化ジルコニアは酸素イオン伝導性を有するので、多孔質基材における酸素透過性能が一層高められ、延いては酸素分離膜エレメントの酸素透過性能が一層高められる。また、本発明に適用し得る酸素分離膜の種類は特に限定されないが、セリア安定化ジルコニアの熱膨張係数は11.0(×10 -6 /K)程度である。したがって、上記範囲の熱膨張係数を有する材料で酸素分離膜を構成すれば、熱膨張差に起因して酸素分離膜を焼成する際の冷却過程で酸素分離膜にクラックが生ずることが好適に抑制される。さらに、多孔質基材の構成粒子に十分に粗大な粒子が含まれることから、その粗大粒子相互の噛み合いに基づき多孔質基材の変形が抑制されるので、十分に耐熱性の高い多孔質基材が得られる。なお、上記微細粒子が10重量部未満では、粒子同士の結合力が不足するので機械的強度の確保が困難になる。一方、50重量部を越えると粗大粒子の割合が相対的に少なくなるので耐熱性の確保が困難になる。上記粗大粒子の平均粒径は、5〜50(μm)の範囲内が一層好ましい。また、微細粒子の平均粒径は、0.1〜1.0(μm)の範囲内が一層好ましい。
なお、セリア安定化ジルコニアで多孔質基材を構成する場合に酸素分離膜の緻密性が高められる理由は十分に解明できていないが、例えば、以下のようなことが考えられる。すなわち、酸素分離膜の構成材料として一般に用いられるペロブスカイト複合酸化物は、大気雰囲気中で焼成した場合に比較して、それよりも酸素濃度の高い雰囲気中で焼成する場合の方が緻密性が高くなることが知られている。上述したようにセリア安定化ジルコニアは酸素イオン伝導性を有するから、これを多孔質基材の構成材料とすることで、焼成時に酸素イオンが酸素分離膜に供給され、焼結が促進されることが考えられる。
また、本願において、「多孔質」とは、酸素を含む気体が容易に透過できるような厚み方向に貫通する多数の連通孔を備えていることを意味するものである。一方、「緻密質」とは、酸素分離膜の使用時において、その酸素分離膜が曝される雰囲気中の気体分子をそのまま厚み方向に透過させない組織を有することを意味する。すなわち、ここでいう多孔質および緻密質は何れも一義的に定められるものではなく、予定されている使用態様において上述した特性を有していれば足りる。
また、セリア安定化ジルコニアは酸化ジルコニウム(ZrO2)にセリア(CeO2)を固溶させたものである。その固溶割合は、ジルコニアの安定化が可能な範囲において、所望する熱膨張係数および酸素イオン伝導率に応じて適宜定められるが、3〜30(mol%)の範囲内が好適であり、12〜13(mol%)程度が特に好ましく、例えば12(mol%)程度が最も好適である。
因みに、還元耐久性および酸素透過性能が共に高い酸素分離膜に好適なLaSrTiFeO3の代表的な組成範囲では、1000(℃)における熱膨張係数が12〜13(×10-6/K)程度である。したがって、セリア安定化ジルコニアは、このような性能の優れた酸素分離膜材料に特に好適な多孔質基材材料である。なお、セリア安定化ジルコニアで多孔質基材を構成することで酸素分離膜の緻密性が高められるのは、上記のように熱膨張係数が合致していることも寄与していると考えられる。しかしながら、本発明者等が実験したところでは、例えば、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)と酸化マグネシウムとの複合材料や、酸化マグネシウムと酸化アルミニウムとの複合材料等のようにセリア安定化ジルコニアと同等の熱膨張係数を有する材料で多孔質基材を構成しても、緻密性の低い酸素分離膜が形成され、或いは、酸素分離膜にクラックが生じることが確かめられている。すなわち、単に熱膨張係数が合致しているだけでは酸素分離膜の緻密性を高めることはできない。
また、好適には、前記酸素分離膜は50(μm)以下の膜厚を有し且つ0.1(MPa)の差圧下で気体の漏れが生じない気密性を有するものである。このようにすれば、酸素分離膜の膜厚が十分に薄いことから、高い酸素透過性能を得ることができる。また、0.1(MPa)の差圧下でもリークが生じないので、加圧状態で使用して一層高い酸素透過性能を得ることができる。酸素分離膜の膜厚は30(μm)以下が一層好ましく、0.2(MPa)の差圧下でリークの無いことが一層好ましい。
また、好適には、前記多孔質基材は1000(℃)において10.5〜11.5(×10-6/K)の範囲内の熱膨張係数を有し且つ0.005〜0.05(S/cm)の範囲内の酸素イオン伝導率を有するものである。前述したように、多孔質基材には、酸素分離膜と熱膨張係数が合致し、且つ酸素イオン伝導性の高いことが望まれる。酸素透過性能の高いペロブスカイト複合酸化物の熱膨張係数は概ね12(×10-6/K)程度であるから、上記範囲内の熱膨張係数を有する多孔質基材を用いれば、熱膨張係数を適合させ且つ酸素透過性能の高い材料を用いて薄い酸素分離膜を設けることができるので、酸素透過性能の高い酸素分離膜エレメントが得られる。なお、酸素透過性能の面からは酸素イオン伝導率が高いことが望まれるため、少なくとも0.005(S/cm)以上であることが好ましいが、酸素イオン伝導率が0.05(S/cm)を超える材料では機械的強度や熱膨張係数を満足させることが困難になる。
また、好適には、前記多孔質基材は、細孔径が0.1〜20(μm)の範囲内、気孔率が5〜60(%)の範囲内のものである。多孔質基材は、酸素分離膜エレメントの機械的強度を確保するためのものであるから、酸素透過の妨げとならないことが望まれる。上記の細孔径および気孔率の範囲であれば、十分に高い酸素拡散性能を有するので、酸素分離膜の酸素透過性能が好適に生かされる。多孔質基材の細孔径は1〜10(μm)の範囲内が一層好ましい。また、気孔率は20〜45(%)の範囲内が一層好ましい。
本発明の酸素分離膜エレメントを構成する酸素分離膜は特に限定されないが、前記多孔質基材との熱膨張係数の適合性を考慮すると、La1-xSrxTi1-yFeyO3(但し、0≦x≦1、0<y<1)で構成することが好ましい。なお、本願において、上記一般式で表されるペロブスカイト化合物には、その一般式の表示に拘らず、酸素数が3のものの他にそれよりも僅かに小さいものも含まれる。本発明において有効な酸素数は、酸素分圧によっても異なるので一義的に定めることはできないが、例えば、2.4〜3の範囲が好適である。
上記ペロブスカイト化合物は、前記一般式に明示した元素の他に、Zn,In,V,Sn,Ge,Ce,Mg,Sc,Y等の他の元素が特性に実質的に影響を与えない程度の範囲で含まれていても差し支えない。
また、前記酸素分離膜は、1層で構成されていてもよいが、2層以上で構成されていてもよい。例えば還元膨張率の相互に異なる2層以上を積層して、還元側に相対的に還元膨張率の小さい層を位置させる構造とすることもできる。一般に、酸素イオン伝導率が大きい材料は還元膨張率が大きいことから、膜厚を薄くすると還元側と酸化側の膨張率の相違によって割れ易い。上記のような2層構造で還元側に還元膨張率の小さい層を配置すると、還元膨張率が大きく且つ酸素イオン伝導率の大きい層がその還元膨張率の小さい層によって還元雰囲気から保護される。そのため、酸素分離膜全体の還元耐久性および酸素透過性能を共に高めることができる。上記のように2層以上で構成する場合には、各層相互の熱膨張係数の相違が可及的に小さいことが望ましく、例えば、同系材料で構成することが好ましい。
なお、還元膨張率(%)は、還元雰囲気下における熱膨張率をEred(%)、空気雰囲気下における熱膨張率をEair(%)としたとき、下記(1)式で与えられる値である。
[{(1+Ered/100)-(1+Eair/100)}/(1+Eair/100)]×100 ・・・(1)
なお、本発明の酸素分離膜エレメントには、酸素の解離または再結合を促進するための触媒層が備えられる。酸素解離触媒層は、例えば、La-Sr-Co系酸化物、La-Sr-Mn系酸化物、白金系元素である。一層好適には、LaxSr1-xCoO3(0≦x≦1、好適にはx=0.6)から成るものである。このような触媒によれば、酸素分離膜の一面側に供給された気体中の酸素が好適にイオン化され、これを透過して他面側に導かれる。なお、触媒層は、上記材料の他、SmxSrCoO3(0≦x≦1、好適にはx=0.5)、La1-xSrxMnO3(0≦x≦1、好適にはx=0.15)、La1-xSrxCo1-yFeyO3(0≦x≦1、0<y<1、好適にはx=0.9、y=0.1)等も好適に用いられる。
また、酸素再結合触媒層は、Ni、Co、Ru、Rh、Pt、Pd、Ir等を含むものである。好適には、NiOが還元されることにより形成されたNiから成るものである。このような触媒によれば、酸素分離膜の他面側に導かれた酸素イオンが好適に再結合させられ、その他面側から酸素が回収される。また、酸素解離触媒層および酸素再結合触媒層が上述したような何れの材料で構成される場合にも、酸素は粒界または粒内を透過し得るため、多孔質はもちろん緻密質の触媒層も形成し得る。
また、好適には、前記酸素分離膜は全体が平坦な板状を成すものである。また、触媒層が備えられた態様においては、その一面に前記酸素解離触媒層が、他面に前記酸素再結合触媒層がそれぞれ備えられたものである。上記平坦な板状としては、円板状、矩形板状等が挙げられる。
また、好適には、前記酸素分離膜は一端が閉じた筒状を成すものであり、触媒層が備えられる態様においては、その内周面および外周面の一方が前記酸素解離触媒層が備えられた前記一面に相当し、他方が前記酸素再結合触媒層が備えられた前記他面に相当するものである。酸素分離膜は、平坦なものに限られず、このような立体的なものであっても良い。なお、内周面側に気体の供給される態様では、例えば、筒状の酸素分離膜の内側に気体導入管を挿入し、その先端から気体を供給すればよい。
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
図1は、本発明の一実施例の酸素分離膜エレメント10の断面構造を模式的に示す図である。酸素分離膜エレメント10は、一端が閉塞され且つ他端が開放された有底円筒状を成すもので、有底円筒状の多孔質基材12と、その外周面を覆う緻密質の酸素分離膜14と、その酸素分離膜14の外周面を覆う酸素再結合触媒層16と、多孔質基材12の内周面を覆う酸素解離触媒層18とを備えている。すなわち、多孔質基材12は、酸素分離膜14を支持するための支持体として機能する。
上記の多孔質基材12は、CeO2を固溶させたセリア安定化ジルコニアから成るものであり、外径が20(mm)程度、内径が14(mm)程度(すなわち、厚さ寸法が3(mm)程度)で、全長が500(mm)程度の大きさに構成されている。CeO2の固溶割合は例えば12(mol%)程度である。多孔質基材12にはその外周面から内周面に連通する多数の細孔が備えられており、平均細孔径は1〜10(μm)程度、気孔率は30〜40(%)程度である。また、上記セリア安定化ジルコニアは、1000(℃)において10.5〜11.5(×10-6/℃)程度の熱膨張係数を有し、800〜1000(℃)の範囲において0.005〜0.05(S/cm)程度の酸素イオン伝導率を有している。
このように、多孔質基材12は十分に高い気孔率を有すると共に細孔径が十分に大きくされている。そのため、酸素分離に用いられるに際して、この多孔質基材12における酸素透過性能が酸素分離膜エレメント10全体の酸素透過性能を低下させることはない。
また、前記の酸素分離膜14は、LaSrTiFeO3等のLa系ペロブスカイト複合酸化物、例えば、La0.6Sr0.4Ti0.3Fe0.7O3等から成るもので、100(μm)以下、例えば20(μm)程度の厚さ寸法を備えた緻密質膜である。このペロブスカイト化合物は、例えば、0.10(%)程度の極めて小さい還元膨張率と、3.3(cc/min/cm2)の比較的低い酸素透過速度を有している。また、1000(℃)における熱膨張係数は12〜13(×10-6/℃)程度である。
また、前記酸素再結合触媒層16は、酸素分離膜14上における酸素イオンの再結合を促進するために設けられたものであり、例えばNiOから成る多孔質層が100(μm)程度の一様な厚さ寸法で形成されている。
また、前記酸素解離触媒層18は、多孔質基材12の内周面側における酸素の解離およびイオン化を促進するために設けられたものであり、例えばLa0.6Sr0.4CoO3から成る多孔質層が10(μm)程度の一様な厚さ寸法で形成されている。
以上のように構成される酸素分離膜エレメント10は、酸素再結合触媒層16が還元側に、酸素解離触媒層18が酸化側にそれぞれ位置するように、例えば、内周側に空気等の酸素含有ガスを供給すると共に、外周側に酸素の回収路を設け、或いは外周側にメタン等の燃料を供給してその部分酸化反応に用いられる。
ところで、上記の酸素分離膜エレメント10は、以下のようにして製造される。まず、支持体として機能する多孔質基材12を製造するに際しては、セリア安定化ジルコニア粉末、有機バインダー、可塑剤、および水を混合し、攪拌機やニーダー等を用いて混練して押出成形用原料を調製する。上記セリア安定化ジルコニア粉末としては、例えば、平均粒径が10(μm)程度の比較的粗粒のものを100重量部に対して、平均粒径が1(μm)程度の比較的微粒のものを10〜50重量部、例えば20重量部程度混合したものを用いる。ここで、粗粒のものを用いるのは1400(℃)以上における耐熱性を確保するためで、微粒のものを混合するのは機械的強度を確保するためである。なお、上記有機バインダーおよび可塑剤は公知の適宜のものを用い得る。
次いで、上記の押出成形用原料を用いてチューブ形状に押出成形をする。成形体の大きさは、例えば、外径が10〜25(mm)の範囲内、例えば20(mm)程度で、肉厚が2〜4(mm)程度の範囲内、例えば3(mm)程度である。また、長さ寸法は500〜1500(mm)の範囲内、例えば1000(mm)程度である。なお、多孔質基材12の成形方法は、上記のような押出成形の他、湿式静水圧加圧成形(CIP)および切削加工の組合せ等、適宜のものを用い得る。原料の調製は成形方法に合わせて変更される。
次いで、得られた成形体に大気雰囲気中で焼成処理を施す。焼成処理は例えば1000〜1500(℃)の範囲内の温度、例えば1500(℃)程度まで昇温し、最高温度で3時間程度保持して行った。これにより、前記多孔質基材12が得られる。
また、前記酸素分離膜14を形成するに際しては、例えば、市販のLa0.6Sr0.4Ti0.3Fe0.7O3粉末に有機バインダー、可塑剤、分散剤、および溶媒を混合し、スラリーを調製する。このスラリーに前記多孔質基材12を浸漬することでその外周面にスラリーを塗布する。このようにディップコーティングを行った後、乾燥処理を施し、更に大気中において焼成処理を施す。焼成処理は例えば1000〜1500(℃)の範囲内の温度、例えば1400(℃)まで昇温し、最高温度で3時間程度保持して行った。この酸素分離膜14の形成時の温度は、多孔質基材12の焼成温度と同じかそれよりも低温に設定される。なお、酸素分離膜14は、例えば上記スラリーを用いてテープ成形を行い、これを多孔質基材12に巻き付けて焼成する等、公知の適宜の方法で形成し得る。
この後、酸素分離膜14の形成時と同様にして、外周面に酸素再結合触媒層16を形成すると共に、内周面に酸素解離触媒層18を形成することにより、前記酸素分離膜エレメント10が得られる。
下記の表1は、このようにして製造した酸素分離膜エレメント10のリークの有無を評価した結果を支持体の特性と共に比較例と併せてまとめたものである。
上記の表1において、「基材材料」欄は、前記多孔質基材12或いは比較例における対応する部材の構成材料である。「熱膨張係数」欄は、その基材の1000(℃)における熱膨張係数である。「酸素イオン伝導率」欄は、その基材の800〜1000(℃)における酸素イオン伝導率である。
また、「膜リーク試験結果」欄は、各基材材料を用いてリーク試験片を作成して評価した。このリーク試験片は、基材材料をプレス成形によりφ20(mm)×厚み3(mm)程度の大きさに成形し、多孔質基材12と同様にして焼成処理を施して作製した。リーク試験片の気孔率および細孔径は多孔質基材12と同程度である。上記表1に示した数値等は、このようにして製造したリーク試験片に差圧0.2(MPa)のAir圧力を加え、その際のリーク量を測定した結果である。
また、上記比較例1は、平均粒径が6(μm)程度のMgO粉末を用いたものである。また、比較例4は、平均粒径が10(μm)程度のイットリア安定化ジルコニア粉末(YSZ)を用いたものである。また、比較例5は、平均粒径が5(μm)程度のアルミナ粉末を用いたものである。また、比較例2は、比較例1のMgO粉末と比較例4のYSZ粉末とを1:3の重量比で混合したものである。また、比較例3は、比較例1のMgO粉末と比較例5のアルミナ粉末とを3:1の重量比で混合したものである。これら比較例2,3における混合比は、熱膨張係数が実施例と同程度になるように決定した。また、比較例1〜5は、多孔質基材の構成材料が異なる他は実施例と同様にして多孔質基材を製造し、酸素分離膜14を形成した。
上記表1に示されるように、多孔質基材12の構成材料にセリア安定化ジルコニアを用いた実施例によれば、膜リーク試験においてリークが全く認められなかった。実施例の膜断面および膜表面の電子顕微鏡写真を図2、図3にそれぞれ示す。図2において、上下方向の中央部に位置する「分離膜」と記されている部分が酸素分離膜14で、その下方に位置する「基材」と記されている部分が多孔質基材12である。酸素分離膜14が緻密質に、多孔質基材12が多孔質にそれぞれ構成されていることが判る。また、図3は酸素分離膜14の表面である。膜表面には微細な凹凸が存在するが緻密質に構成されると共に、クラックが生じていない。
一方、比較例1〜5は、何れもリークが生じた。まず、比較例1〜3は、実施例と熱膨張係数が同程度か僅かに大きい材料から成る基材を用いたものである。これらでは酸素分離膜14にクラックは生じていないが、それぞれ120〜360(cc/min)程度のリークが生じる。そのため、非加圧状態では使用できる可能性があるが、少なくとも加圧状態では使用できない。図4、図5に、比較例1〜3を代表して比較例3の膜断面および膜表面の電子顕微鏡写真を示す。これら図4、図5に示されるように、比較例3では酸素分離膜14に表面に連通する多数の細孔が形成されており、緻密膜になっていない。そのため、細孔が多孔質基材12の裏面(図4に示す界面とは反対側の一面)から酸素分離膜14の表面に貫通することから、加圧されるとこの微細な細孔を通して気体が漏れる。
また、比較例4,5では、酸素分離膜14の表面にクラックが生じており、500(cc/min)以上のリークが生じた。図6、図7に比較例4,5を代表して比較例4の膜断面および膜表面の電子顕微鏡写真を示す。図6に示されるように、酸素分離膜14は緻密質に構成されているが、図7に示されるように、その表面にはクラックが生じている。
上記の比較例1〜3では、多孔質基材の熱膨張係数が酸素分離膜14に適合させられているため、酸素分離膜14にクラックは生じない。しかしながら、これらでは緻密な酸素分離膜14を形成することが困難であるので、加圧状態で使用する酸素分離膜エレメント10には適用できない。このような結果が生じた理由は定かではないが、多孔質基材の構成材料の酸素イオン伝導性が極めて低いことが一因となっていることが考えられる。なお、これら比較例1〜3では、酸素分離膜14の焼成温度を1600(℃)まで高めてみたが、十分に緻密化させることはできなかった。
また、上記の比較例4,5では、多孔質基材の熱膨張係数が酸素分離膜14に適合させられていないため、焼成時にクラックが生じたものと考えられる。YSZを用いた比較例4では多孔質基材の熱膨張係数が9.0〜10.0(×10-6/℃)、アルミナを用いた比較例5では多孔質基材の熱膨張係数が6.0〜7.0(×10-6/℃)であって、何れも酸素分離膜14を構成するLSTFの12〜13(×10-6/℃)に比較すると著しく小さい。そのため、酸素分離膜14を形成する際の焼成処理の冷却過程で熱膨張量の著しい差が生じ、延いては酸素分離膜14に引っ張り応力が働いたため、クラックが生じたものと考えられる。
上記結果によれば、クラックを生じさせることなく緻密な酸素分離膜14を形成するためには、多孔質基材12の構成材料の熱膨張係数を酸素分離膜14の構成材料の熱膨張係数と適合させること、すなわち、同程度か多孔質基材12の方が僅かに熱膨張係数が小さい程度にすること必要である。また、多孔質基材12には、ある程度、例えば0.005〜0.05(S/cm)程度の酸素イオン伝導性が要求される。
要するに、本実施例によれば、セリア安定化ジルコニアで多孔質基材12が構成されていることから、その多孔質基材12上に酸素分離膜14を形成するに際して、その酸素分離膜14が20(μm)程度の極めて薄い膜厚で設けられる場合にも、その緻密性が高められ延いては気密性の高い酸素分離膜14を設けることができる。また、セリア安定化ジルコニアは酸素分離膜14の構成材料であるLa系ペロブスカイト材料に比較すると極めて安価であり、耐熱性も高いので、薄く且つ気密性の高い酸素分離膜14を備え得る安価な酸素分離膜エレメント10が得られる。しかも、セリア安定化ジルコニアは酸素イオン伝導性を有するので、多孔質基材12における酸素透過性能が一層高められ、延いては酸素分離膜エレメント10の酸素透過性能が一層高められる。
以上、本発明を図面を参照して詳細に説明したが、本発明は更に別の態様でも実施でき、その主旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得るものである。
本発明の一実施例の酸素分離膜エレメントの要部断面構造を模式的に示す図である。 実施例の多孔質基材および酸素分離膜の界面近傍の断面の電子顕微鏡写真である。 実施例の酸素分離膜の表面の電子顕微鏡写真である。 比較例3の多孔質基材および酸素分離膜の界面近傍の断面の電子顕微鏡写真である。 比較例3の酸素分離膜の表面の電子顕微鏡写真である。 比較例4の多孔質基材および酸素分離膜の界面近傍の断面の電子顕微鏡写真である。 比較例4の酸素分離膜の表面の電子顕微鏡写真である。
符号の説明
10:酸素分離膜エレメント、12:多孔質基材、14:酸素分離膜、16:酸素再結合触媒層、18:酸素解離触媒層

Claims (3)

  1. 多孔質基材上に酸素イオン伝導性を有する緻密質の酸素分離膜を形成した酸素分離膜エレメントであって、
    前記多孔質基材をセリア安定化ジルコニアで構成し
    前記酸素分離膜は1000(℃)において12.0〜13.0(×10 −6 /K)の範囲内の熱膨張係数を有し、
    前記多孔質基材は平均粒径が5〜100(μm)の範囲内の粗大粒子と平均粒径が0.05〜1.0(μm)の範囲内の微細粒子とを粗大粒子100重量部に対して微細粒子10〜50重量部の範囲内の割合で混合したセリア安定化ジルコニア原料を用いて製造されたものであることを特徴とする酸素分離膜エレメント。
  2. 前記酸素分離膜は50(μm)以下の膜厚を有し且つ0.1(MPa)の差圧下で気体の漏れが生じない気密性を有するものである請求項の酸素分離膜エレメント。
  3. 前記多孔質基材は1000(℃)において10.5〜11.5(×10-6/K)の範囲内の熱膨張係数を有し且つ0.005〜0.05(S/cm)の範囲内の酸素イオン伝導率を有するものである請求項1または請求項2の酸素分離膜エレメント。
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