JP2016016389A - 酸素透過膜および改質器 - Google Patents
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Abstract
【課題】酸素透過膜の耐久性および酸素透過性能を向上させる。【解決手段】酸素分圧差を駆動力として、高酸素分圧側から低酸素分圧側へと酸素を透過する酸素透過膜において、複合酸化物を含み、酸素イオン伝導性および電子伝導性を有する主層と、前記酸素透過膜の前記主層上に形成されて、第1の組成式La0.8Sr0.2Cr1−xNixO3−z(0<x<0.20、zは任意)で表わされるペロブスカイト型複合酸化物を含む触媒層と、を備えることを特徴とする酸素透過膜。【選択図】図2
Description
本発明は、酸素を選択的に透過させる酸素透過膜および改質器に関するものである。
従来、酸素を選択的に透過する酸素透過膜として、酸素イオン(酸化物イオン)伝導性および電子伝導性を有する酸素透過膜が知られている。このような酸素透過膜の用途の一つとして、改質原料から水素を生成する改質反応に必要な酸素を生成する、という用途が知られている(例えば、特許文献1参照)。この従来技術には、酸素透過膜を用いて空気から酸素を抽出し、得られた酸素を用いて、炭化水素系燃料等の改質原料を部分酸化反応によって改質し、燃料電池等に供給するための水素を得る方法が開示されている。
酸素透過膜の性能を向上させる方法の一つとして、酸素透過膜の薄膜化が検討されている。酸素透過膜を薄膜化すると、酸素透過膜を酸素が透過する際の抵抗が減少して、酸素透過速度が向上するためである。しかしながら、酸素透過膜の膜厚をある程度以上薄くすると、酸素透過膜における酸素の拡散速度(酸素透過膜内を酸素イオンが透過する速度)よりも、酸素透過膜の表面で進行する反応(表面交換反応)の速度、すなわち、一方の面で酸素分子から酸素イオンが生じる反応(1/2O2+2e−→O2−)の速度、あるいは他方の面で酸素イオンから酸素分子が生じる反応(O2−→1/2O2+2e−)の速度の方が遅くなる。そのため、酸素透過膜の薄型化による酸素透過膜の性能向上には限界があった。
酸素透過膜の薄型化によらない性能向上の方法の一つとして、酸素透過膜の表面に、上記表面交換反応を促進するための触媒を設ける方法が知られている。従来、このような触媒としては、白金(Pt)などの貴金属や、ニッケル(Ni)などの金属が使用されてきた(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、貴金属は高価であるため採用し難い場合がある。
また、Niのような貴金属以外の金属を触媒として用いる場合には、酸素透過膜の使用環境によっては、触媒が酸化と還元を繰り返すことにより、酸素透過膜の耐久性が低下する場合があった。触媒の酸化・還元が問題になる使用環境としては、具体的には、既述したように水素を生成する改質反応のために酸素透過膜を用いる際の使用環境が挙げられる。ここでは、酸素透過膜の一方の面側(高酸素分圧側)には、酸素含有ガスが供給される。また、他方の面側(低酸素分圧側)には、炭化水素系燃料等の改質原料が供給され、他方の面上において、酸素透過膜を透過した酸素を利用して、改質原料の部分酸化反応が進行する。従って、改質反応が進行している間は、酸素透過膜の上記他方の面上の触媒は還元雰囲気に晒されることによりNiの状態で存在するが、改質原料の供給が停止されて酸素に晒されると、Niは酸化されて酸化ニッケル(NiO)となる。そのため、酸素透過膜を用いた改質反応の進行と停止を繰り返すと、低酸素分圧側の触媒が酸化・還元による膨張・収縮を繰り返すことにより触媒が損傷し、酸素透過膜の耐久性が低下する可能性があった。
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
(1)本発明の一形態によれば、酸素分圧差を駆動力として、高酸素分圧側から低酸素分圧側へと酸素を透過する酸素透過膜が提供される。この酸素透過膜は、複合酸化物を含み、酸素イオン伝導性および電子伝導性を有する主層と、前記酸素透過膜の前記主層上に形成されて、第1の組成式La0.8Sr0.2Cr1−xNixO3−z(0<x<0.20、zは任意)で表わされるペロブスカイト型複合酸化物を含む触媒層と、を備える。
この形態の酸素透過膜によれば、貴金属を用いることなく、酸素透過膜の性能を向上させることができる。また、還元雰囲気と酸化雰囲気とが繰り返し切り替わる環境下で酸素透過膜を用いても、高い酸素透過性能を維持し、酸素透過膜の耐久性を向上させることができる。
この形態の酸素透過膜によれば、貴金属を用いることなく、酸素透過膜の性能を向上させることができる。また、還元雰囲気と酸化雰囲気とが繰り返し切り替わる環境下で酸素透過膜を用いても、高い酸素透過性能を維持し、酸素透過膜の耐久性を向上させることができる。
(2)上記形態の酸素透過膜において、前記第1の組成式中のxの範囲が0.05≦x≦0.15であることとしてもよい。この形態の酸素透過膜によれば、酸素透過膜の酸素透過性能および耐久性を、より高めることができる。
(3)上記形態の酸素透過膜において、前記主層は、第1の酸素イオン伝導体と電子伝導体とを含み;前記触媒層は、前記第1の組成式で表わされる前記複合酸化物に加えて、さらに、第2の酸素イオン伝導体を含み;前記第1の酸素イオン伝導体は、安定化ジルコニアとセリア系固溶体のうちの一方に属する化合物であり;前記第2の酸素イオン伝導体は、前記一方に属する化合物であり;前記電子伝導体は、第2の組成式La1−ySryCrO3−z(0.1≦y≦0.3、zは任意)で表わされる複合酸化物を含むこととしてもよい。
この形態の酸素透過膜によれば、触媒層が含有する化合物の組成と主層が含有する化合物の組成とが近いため、酸素透過膜が膨張・収縮する場合であっても、触媒層と主層の熱膨張率を近づけることができる。そのため、触媒層と主層の熱膨張率差に起因する酸素透過膜の損傷を抑制することができる。
この形態の酸素透過膜によれば、触媒層が含有する化合物の組成と主層が含有する化合物の組成とが近いため、酸素透過膜が膨張・収縮する場合であっても、触媒層と主層の熱膨張率を近づけることができる。そのため、触媒層と主層の熱膨張率差に起因する酸素透過膜の損傷を抑制することができる。
(4)上記形態の酸素透過膜において、前記触媒層は、前記酸素透過膜における前記低酸素分圧側の前記主層上に形成され;前記高酸素分圧側から前記低酸素分圧側に透過した酸素を用いて、改質原料から水素を生成する部分酸化反応を進行させるための酸素透過膜としてもよい。
この形態の酸素透過膜によれば、酸素透過膜の低酸素分圧側の表面が、改質原料に晒される状態と酸素に晒される状態との間で繰り返し変化しても、酸素透過膜において高い酸素透過性能を維持し、酸素透過膜の耐久性を向上させることができる。
この形態の酸素透過膜によれば、酸素透過膜の低酸素分圧側の表面が、改質原料に晒される状態と酸素に晒される状態との間で繰り返し変化しても、酸素透過膜において高い酸素透過性能を維持し、酸素透過膜の耐久性を向上させることができる。
(5)本発明の他の形態によれば、(1)から(4)のいずれか1項に記載の酸素透過膜を備え、部分酸化反応によって改質原料から水素を生成する改質器が提供される。この改質器は、前記酸素透過膜における前記低酸素分圧側の表面に供給するための前記改質原料が流れる改質原料流路と;前記酸素透過膜における前記高酸素分圧側の表面に供給するための酸素含有ガスが流れる酸素含有ガス流路と;を備え、前記酸素透過膜を透過した前記酸素含有ガス中の酸素を用いて前記部分酸化反応を進行する。
この形態の改質器によれば、改質器が備える酸素透過膜の耐久性および酸素透過性能が高められているため、改質器全体の耐久性および改質効率を高めることができる。
この形態の改質器によれば、改質器が備える酸素透過膜の耐久性および酸素透過性能が高められているため、改質器全体の耐久性および改質効率を高めることができる。
本発明は、上記以外の種々の形態で実現可能であり、例えば、酸素透過膜の製造方法や燃料改質方法等の形態で実現することができる。
A.酸素透過膜の構成:
図1は、本発明の実施形態としての酸素透過膜10、および、この酸素透過膜10を備える改質器20の概略構成を示す断面模式図である。酸素透過膜10は、主層12と、主層12の一方の面側に設けられた第1の触媒層13と、を備える積層構造を有している。主層12は、酸素イオン伝導性と共に電子伝導性を有するガス不透過な緻密層である。主層12を備えることにより、酸素透過膜10は、酸素透過膜10の両面間の酸素分圧差を駆動力として、高酸素分圧側から低酸素分圧側へと酸素を選択的に透過させることが可能になる。本実施形態では、第1の触媒層13は、主層12の両面のうちの低酸素分圧側の面上に配置される。なお、本実施形態の酸素透過膜10は、担体(基材、支持体)を有していない自立膜として構成されている。
図1は、本発明の実施形態としての酸素透過膜10、および、この酸素透過膜10を備える改質器20の概略構成を示す断面模式図である。酸素透過膜10は、主層12と、主層12の一方の面側に設けられた第1の触媒層13と、を備える積層構造を有している。主層12は、酸素イオン伝導性と共に電子伝導性を有するガス不透過な緻密層である。主層12を備えることにより、酸素透過膜10は、酸素透過膜10の両面間の酸素分圧差を駆動力として、高酸素分圧側から低酸素分圧側へと酸素を選択的に透過させることが可能になる。本実施形態では、第1の触媒層13は、主層12の両面のうちの低酸素分圧側の面上に配置される。なお、本実施形態の酸素透過膜10は、担体(基材、支持体)を有していない自立膜として構成されている。
主層12は、酸素イオン伝導性を有する酸化物(以下、酸素イオン伝導体と呼ぶ)と、電子伝導性を有する物質(以下、電子伝導体と呼ぶ)と、の混合物によって形成することができる。また、主層12は、酸素イオン伝導性と電子伝導性の双方を備える酸化物(以下、混合伝導体と呼ぶ)によって形成してもよい。あるいは、主層12は、酸素イオン伝導体および/または電子伝導体と、混合伝導体との混合物によって形成してもよい。
主層12が含有する酸素イオン伝導体としては、例えば、安定化ジルコニア、部分安定化ジルコニア、およびセリア系固溶体から選択される酸素イオン伝導体を用いることができる。安定化ジルコニアは、酸化ジルコニウム(ZrO2)に対して、酸化物である1種以上のドーパントを固溶させることにより安定化したジルコニアである。ドーパントとして用い得る酸化物としては、例えば、酸化イットリウム(Y2O3)、酸化スカンジウム(Sc2O3)、酸化イッテルビウム(Yb2O3)、酸化カルシウム(CaO)、および酸化マグネシウム(MgO)を挙げることができる。酸素イオン伝導性および安定性を向上する観点から、安定化ジルコニアは、スカンジア安定化ジルコニア(以下、ScSZとも表わす)およびイットリア安定化ジルコニア(以下、YSZとも表わす)から選択することが好ましい。セリア系固溶体としては、例えば、ガドリニウム固溶セリア(GDC)やサマリウム固溶セリア(SDC)などのセリウム系複合酸化物を挙げることができる。
主層12が含む電子伝導体としては、例えば、ペロブスカイト構造を有する酸化物電子伝導体、スピネル型結晶構造を有するフェライト、および、貴金属等の金属材料から選択される電子伝導体を用いることができる。ペロブスカイト構造を有する酸化物電子伝導体としては、例えば、LaMnO3系化合物におけるLaサイトにSrを添加したLSM系酸化物や、CaTiO3やBaTiO3等の複合酸化物を用いることができる。あるいは、下記の(1)式で表わされる複合酸化物用いてもよい。(1)式におけるアルカリ土類金属Mは、ストロンチウム(Sr)あるいはカルシウム(Ca)であることが望ましい。
La1−xMxCrO3−z …(1)
(式中、Mは,マグネシウム(Mg)を除くアルカリ土類金属から選択される元素であり、0≦x≦0.3である。また、zは、式中の金属元素の割合や、環境温度および雰囲気に応じて、酸素原子の量が変動することを示す値である。zは、3以下であることが好ましい。)
(式中、Mは,マグネシウム(Mg)を除くアルカリ土類金属から選択される元素であり、0≦x≦0.3である。また、zは、式中の金属元素の割合や、環境温度および雰囲気に応じて、酸素原子の量が変動することを示す値である。zは、3以下であることが好ましい。)
主層12が含む混合伝導体としては、例えば、LaGaO3系化合物において、SrをLaサイトに添加すると共に、FeをGaサイトに添加したペロブスカイト構造を有するLSGF系酸化物や、SrCoO3系化合物において、BaをSrサイトに添加すると共に、FeをCoサイトに添加したペロブスカイト構造を有するBSCF系酸化物を挙げることができる。あるいは、主層12が含む混合伝導体として、層状ペロブスカイト構造を有する酸化物、蛍石型構造を有する酸化物、オキシアパタイト構造を有する酸化物、メリライト構造を有する酸化物などを用いることもできる。
主層12を構成する酸化物(酸素イオン伝導体、電子伝導体、および混合伝導体から選択される酸化物)は、例えば、固相反応法により形成することができる。固相反応法とは、酸化物や、炭酸塩、あるいは硝酸塩などの粉末原料を、作製すべき酸化物の組成に応じて、上記粉末原料中の金属元素が所定の割合となるように秤量、混合した後、熱処理(焼成)を行って、所望の酸化物を合成する周知の方法である。主層12を構成する酸化物の製造方法は、固相反応法以外の方法であってもよく、例えば、共沈法やpechini法やゾルゲル法など、複合酸化物を製造可能な種々の方法を採用可能である。pechini法とは、金属イオンとクエン酸とのキレート化合物とエチレングリコールなどのポリアルコールとのエステル化反応で前駆体を作製し、熱処理によって酸化物粒子を得る方法である。
主層12を作製するには、例えば、既述した酸化物等の原料の粉末を用意し、これら各原料粉末の粒径が十分に小さい状態で十分に混合して、成形後に焼成すればよい。混合した原料粉末の成形は、例えば、プレス成形により行なえばよい。焼成により得られる主層12の膜厚は、例えば、1〜1000μmとすることができるが、主層12の強度および緻密性が許容範囲であれば1μm未満であってもよく、主層12の厚型化による酸素透過速度の低下が許容範囲であれば1000μmを超えてもよい。
第1の触媒層13は、下記の(2)式で表わされるペロブスカイト型複合酸化物を含む。すなわち、ペロブスカイト構造を有するLaCrO3系化合物であって、SrをLaサイトに添加すると共に、NiをCrサイトに添加した複合酸化物を含む。(2)式の複合酸化物は、酸素透過膜10内を透過した酸化物イオンから酸素分子を生じる活性、および、後述する部分酸化反応を促進する活性を有する電子伝導体である。
La0.8Sr0.2Cr1−xNixO3−z …(2)
(式中、0<x<0.20である。また、zは、式中の金属元素の割合や、環境温度および雰囲気に応じて、酸素原子の量が変動することを示す値である。)
(式中、0<x<0.20である。また、zは、式中の金属元素の割合や、環境温度および雰囲気に応じて、酸素原子の量が変動することを示す値である。)
第1の触媒層13は、電子伝導体として、(2)式の複合酸化物に加えて、さらに他の電子伝導体を含んでいても良い。含み得る電子伝導体としては、主層12の説明で述べた電子伝導体から選択される物質を用いることができる。
第1の触媒層13は、さらに、酸素イオン伝導体を含んでいてもよい。第1の触媒層13が含有する酸素イオン伝導体としては、主層12の説明で述べた酸素イオン伝導体から選択される複合酸化物を用いることができる。
第1の触媒層13を構成する複合酸化物((2)式の複合酸化物を含む複合酸化物)は、主層12を構成する複合酸化物と同様に、例えば、固相反応法、共沈法、pechini法、あるいはゾルゲル法によって製造することができる。本実施形態では、少なくとも(2)式の複合酸化物は、焼成を伴う方法により製造される。第1の触媒層13は、例えば、このような複合酸化物を含む原料の粉末にさらに溶媒を混合して触媒ペーストを作製し、触媒ペーストを主層12上に塗布することにより、形成すればよい。触媒ペーストの主層12上への塗布は、例えば、スクリーン印刷法、スプレー法、ドクターブレード法、インクジェット法等から選択される方法により行なうことができる。
なお、酸素透過膜10は、主層12における第1の触媒層13が形成される面とは異なる面(高酸素分圧側の面)上に、さらに第2の触媒層を備えていてもよい。具体的には、酸素分子をイオン化させる反応を促進する触媒層を備えていてもよい。高酸素分圧側に設ける触媒層が含有する触媒としては、例えば、La0.8Sr0.2MnO3−zやLa0.8Sr0.2CrO3−zなどの複合酸化物を挙げることができる。高酸素分圧側に設ける触媒層は、さらに、酸素イオン伝導体を含んでいても良い。高酸素分圧側に設ける触媒層が含有する酸素イオン伝導体としては、主層12の説明で述べた酸素イオン伝導体から選択される複合酸化物を用いることができる。
B.改質器の構成:
図1に示す改質器20は、上記した酸素透過膜10を備えると共に、酸素透過膜10の一方の面側(第1の触媒層13側)に、改質原料としての流体が流れる改質原料流路16が形成されている。また、酸素透過膜10の他方の面側に、酸素含有ガスとしての空気が流れる空気流路18が形成されている。この空気流路18が、課題を解決するための手段に記載した酸素含有ガス流路に相当する。酸素透過膜10は、既述したように、酸素イオン透過性を有し、酸素分圧が高い側から低い側へと、酸素を特異的に移動させる性質を有している。そのため、改質器20では、空気流路18中の酸素が、酸素透過膜10を介して改質原料流路16側へと透過する。そして、本実施形態の改質器20では、酸素透過膜10における改質原料流路16側の面上において、酸素透過膜10を透過した酸素を利用して、改質原料の部分酸化反応が進行する。
図1に示す改質器20は、上記した酸素透過膜10を備えると共に、酸素透過膜10の一方の面側(第1の触媒層13側)に、改質原料としての流体が流れる改質原料流路16が形成されている。また、酸素透過膜10の他方の面側に、酸素含有ガスとしての空気が流れる空気流路18が形成されている。この空気流路18が、課題を解決するための手段に記載した酸素含有ガス流路に相当する。酸素透過膜10は、既述したように、酸素イオン透過性を有し、酸素分圧が高い側から低い側へと、酸素を特異的に移動させる性質を有している。そのため、改質器20では、空気流路18中の酸素が、酸素透過膜10を介して改質原料流路16側へと透過する。そして、本実施形態の改質器20では、酸素透過膜10における改質原料流路16側の面上において、酸素透過膜10を透過した酸素を利用して、改質原料の部分酸化反応が進行する。
図1では、空気流路18側の酸素分圧(PO2)の方が、改質原料流路16側の酸素分圧(P’O2)よりも高く、酸素透過膜10の両面間で酸素分圧勾配が生じる様子を、破線により概念的に示している。酸素透過膜10では、このような両面間の酸素分圧差を駆動力として、高酸素分圧側(空気流路18)から低酸素分圧側(改質原料流路16)へと、酸素が透過する。このとき、空気流路18内の酸素分子は、酸素透過膜10の空気流路18側の表面でイオン化し、生じた酸素イオンが、酸素イオン伝導性を有する酸素透過膜10内を改質原料流路16側へと移動する。本実施形態の酸素透過膜10は、酸素イオン伝導性と共に電子伝導性を有するため、上記のように酸素イオンが移動する際には、酸素イオンとは逆向きに電子が膜内を移動する。そのため、酸素透過膜10に対して外部から電圧を印加することなく、酸素の透過を行なわせることができる。なお、酸素透過膜10における電子伝導性は、電子伝導とホール伝導の双方であってもよく、いずれか一方であっても良い。本実施形態では、酸素透過膜10について電子伝導性という場合には、電子伝導とホール伝導の双方、あるいは一方である場合を含むものとする。
上記のように改質原料流路16側へと酸素が輸送されると、酸素透過膜10の改質原料流路16側(第1の触媒層13)では、部分酸化反応によって改質原料の改質が行なわれる。改質原料としては、種々の気体燃料あるいは液体燃料を用いることができる。気体燃料としては、例えば、メタンや、メタンを主成分とする天然ガスなどの炭化水素系燃料を用いることができる。また、液体燃料としては、例えば、液体炭化水素や、メタノール等のアルコール、あるいはエーテルを用いることができる。液体燃料を用いる場合には、改質原料流路16への供給に先立って、液体燃料を気化させればよい。改質原料の部分酸化反応の一例として、メタンの部分酸化反応を、以下の(3)式に示す。
CH4+(1/2)O2 → CO+2H2 …(3)
このように、炭化水素等の改質原料から水素と一酸化炭素とを生じる改質器20は、例えば、燃料電池に燃料ガスとして供給する水素を得るために用いることができる。あるいは、得られた水素と一酸化炭素を用いてさらに炭化水素転換を行なって、液体炭化水素燃料を製造する、すなわち、GTL(Gas To Liquid)技術のために用いても良い。なお、図1では、改質器20として、平板状の1枚の酸素透過膜10を備える構成を記載しているが、改質器20は、種々の形態とすることができる。例えば、改質器20を円筒形状に形成し、円筒の外側を外気に曝して空気流路18とすると共に、円筒の内部を改質原料流路16としてもよい。この場合には、円筒の一端に、改質原料を供給するための流路を接続すると共に、円筒の他端に、改質反応で得られた水素および一酸化炭素を取り出すための流路を接続すればよい。あるいは、平板状の酸素透過膜10を複数積層し、積層した複数の酸素透過膜10の間に、改質原料流路16と空気流路18とを交互に設けることとしても良い。
以上のように構成された本実施形態の酸素透過膜10によれば、低酸素分圧側の触媒層として(2)式の複合酸化物を含む第1の触媒層13を備えるため、第1の触媒層13の環境が還元雰囲気と酸化雰囲気とで繰り返し切り替わり、第1の触媒層13が酸化・還元を繰り返しても、膨張・収縮に起因する第1の触媒層13の損傷を抑えることができる。その結果、酸素透過膜10の長期安定性(耐久性)を向上させることができる。また、本実施形態では、第1の触媒層13が、触媒として(2)式の複合酸化物を含むため、貴金属触媒を用いなくても、酸素透過膜10の性能を高めることができる。
第1の触媒層13が酸化・還元を繰り返しても、膨張・収縮に起因する第1の触媒層13の損傷を抑えられる理由は、以下のように考えられる。例えば、第1の触媒層13が含有する触媒としてニッケル(Ni)触媒を用いる場合には、Ni触媒は、還元雰囲気下ではNiとなり、酸化雰囲気下ではNiOとなるため、膨張時と収縮時の差が大きくなる。そのため、酸化・還元を繰り返すことで、第1の触媒層13の構造が次第に損なわれ、第1の触媒層13の触媒としての機能が次第に低下する。あるいは、第1の触媒層13がNi触媒を含有することにより、第1の触媒層13と主層12との熱膨張率差が大きくなる場合には、第1の触媒層13が膨張収縮を繰り返すことで、第1の触媒層13と主層12との界面が損傷し、第1の触媒層13の構造が損なわれる可能性がある。
これに対して、第1の触媒層13が含有する触媒として(2)式の複合酸化物を用いる場合には、第1の触媒層13の環境が還元雰囲気になると、ペロブスカイト構造のCrサイトに含まれるNi原子の一部が、複合酸化物の表面で微小なNi粒子を形成すると考えられる。このようなNi粒子は、既述したNi触媒が還元雰囲気下でNiの状態となったときの粒子に比べて非常に小さいため、複合酸化物の表面で微小な粒子を形成するNiの量が微量であっても、極めて高い触媒活性を示し得る。このような触媒では、第1の触媒層13の環境が酸化雰囲気になると、上記微小なNi粒子を構成するNi原子はペロブスカイト構造のCrサイトに固溶し、実質的にNiOを生じない。このように、(2)式の複合酸化物は、ペロブスカイト構造に含まれるNi原子の一部が表面で微小な粒子を形成する状態と、ペロブスカイト結晶構造内に固溶する状態との間で変化するため、酸化・還元に伴う膨張・収縮の程度(熱膨張率)が非常に小さい。そのため、酸化・還元を繰り返しても、膨張・収縮に起因して第1の触媒層13の構造が損なわれ難く、高い触媒活性を維持可能となる。
ここで、(2)式の複合酸化物において、xの値を大きくする(CrサイトをNiで置換する置換量を多くする)ほど、触媒活性を高めると共に、電子伝導性を高めることが可能になる。そのため、xの値は、0より大きくすればよく、0.05以上とすることが望ましい。
ただし、(2)式の複合酸化物において、xの値を大きくするほど、結晶構造が不安定になり、Niと他の元素との反応性が高まる。具体的には、xの値が0.2以上になると、例えば(2)式の複合酸化物の製造時の焼成工程において、製造原料中に含まれるNi原子の一部が、ペロブスカイト構造を構成せずにNiOの粒子を形成する。製造時に第1の触媒層13中に形成されるNiOの粒子およびこれが還元されてできるNi粒子は、既述したようにペロブスカイト構造内のNi原子が還元雰囲気下で形成する微小なNi粒子に比べて、粒径が大きく触媒活性が低い。さらに、(2)式の複合酸化物の製造時の焼成工程において原料中のNi原子の一部がNiOの粒子を形成する場合には、第1の触媒層13を構成する複合酸化物において、Crサイトの一部が欠損した状態となる。このようにCrサイトの一部が欠損した複合酸化物は、還元雰囲気下に晒されても、ペロブスカイト構造のCrサイトからNiが還元されて表面で微粒子を形成する反応が進行し難くなり、ペロブスカイト構造内に固溶するNi原子による触媒活性の発現が抑えられる。そのため、触媒として機能するのは、主として、(2)式の複合酸化物の製造時に形成されたNiO粒子が還元されたNi粒子のみとなり、第1の触媒層13全体の触媒活性が低くなる。以上より、高い触媒活性を確保するためには、(2)式の複合酸化物においてXを0.2未満とすればよく、0.15以下とすることが望ましい。
本実施形態において、第1の触媒層13が含有する化合物の組成と主層12が含有する化合物の組成とを近くすれば、第1の触媒層13が酸化・還元を繰り返して膨張・収縮する場合であっても、第1の触媒層13と主層12の熱膨張率を近づけることができる。具体的には、例えば、第1の触媒層13および主層12が含有する酸素イオン伝導体としては、安定化ジルコニアとセリア系固溶体から選択される同種の酸素イオン伝導体を用いればよい。そして、第1の触媒層13が含有する触媒として、(2)式の複合酸化物(ただし、0<x<0.20)を用いると共に、主層12が含有する電子伝導体として、下記の(4)式で表わされるペロブスカイト型複合酸化物を用いればよい。このように第1の触媒層13と主層12の熱膨張率を近づけることにより、第1の触媒層13と主層12の熱膨張率差に起因する酸素透過膜10の損傷を抑制することができる。
La1−ySryCrO3−z …(4)
(式中、0.1≦y≦0.3である。また、zは、式中の金属元素の割合や、環境温度および雰囲気に応じて、酸素原子の量が変動することを示す値である。)
(式中、0.1≦y≦0.3である。また、zは、式中の金属元素の割合や、環境温度および雰囲気に応じて、酸素原子の量が変動することを示す値である。)
なお、上記のように第1の触媒層13と主層12とが同種の酸素イオン伝導体を含有する場合には、安定化ジルコニアやセリア系固溶体に固溶する元素の種類は異なっていてもよいが、固溶する元素の種類も同じにすることで、熱膨張率をより近くして、第1の触媒層13と主層12の界面の連続性を向上させることができる。
C.変形例:
・変形例1:
実施形態の酸素透過膜10は、図1に示すように自立膜としたが、異なる構成としても良い。例えば、多孔質体から成る担体(基材、支持体)の面上に成膜された膜であっても良い。多孔質な担体上に、例えば、PLD法等のPVD法や、ディップ法、溶射、スパッタ法などにより、第1の触媒層13および主層12を形成すればよい。第1の触媒層13は、担体と接する側と、担体から離間する側の、いずれに配置してもよい。
・変形例1:
実施形態の酸素透過膜10は、図1に示すように自立膜としたが、異なる構成としても良い。例えば、多孔質体から成る担体(基材、支持体)の面上に成膜された膜であっても良い。多孔質な担体上に、例えば、PLD法等のPVD法や、ディップ法、溶射、スパッタ法などにより、第1の触媒層13および主層12を形成すればよい。第1の触媒層13は、担体と接する側と、担体から離間する側の、いずれに配置してもよい。
・変形例2:
実施形態の酸素透過膜10を備える改質器20では、高酸素分圧側の流路に空気を供給したが、異なる構成としても良い。酸素透過膜10は、酸素を特異的に透過させる膜であるため、空気以外の種々の酸素含有ガスを用いることができる。
実施形態の酸素透過膜10を備える改質器20では、高酸素分圧側の流路に空気を供給したが、異なる構成としても良い。酸素透過膜10は、酸素を特異的に透過させる膜であるため、空気以外の種々の酸素含有ガスを用いることができる。
・変形例3:
実施形態の酸素透過膜10は、第1の触媒層13が低酸素分圧側となるように配置したが、異なる構成としてもよい。第1の触媒層13を高酸素分圧側に配置しても、第1の触媒層13は、酸素透過膜10の酸素透過性能を向上させる触媒活性を示すことができ、第1の触媒層13の製造時にNiOの生成を抑えることによる効果を得ることができる。
実施形態の酸素透過膜10は、第1の触媒層13が低酸素分圧側となるように配置したが、異なる構成としてもよい。第1の触媒層13を高酸素分圧側に配置しても、第1の触媒層13は、酸素透過膜10の酸素透過性能を向上させる触媒活性を示すことができ、第1の触媒層13の製造時にNiOの生成を抑えることによる効果を得ることができる。
・変形例4:
上記実施形態では、酸素透過膜10を、部分酸化反応を進行する改質器20に組み込んで用いている。これに対して、酸素透過膜10を、改質器以外の装置に組み込むこととしてもよい。例えば、酸素透過膜10を用いて純酸素製造装置を作製し、酸素含有ガスから純度の高い酸素ガスを得るために酸素透過膜10を利用してもよい。
上記実施形態では、酸素透過膜10を、部分酸化反応を進行する改質器20に組み込んで用いている。これに対して、酸素透過膜10を、改質器以外の装置に組み込むこととしてもよい。例えば、酸素透過膜10を用いて純酸素製造装置を作製し、酸素含有ガスから純度の高い酸素ガスを得るために酸素透過膜10を利用してもよい。
図2は、サンプル1〜サンプル7までの6種類の酸素透過膜を作製し、その性能を調べた結果、および各サンプルの構成をまとめて示す説明図である。また、図3は、サンプル1〜サンプル6の構成を模式的に表わす説明図である。図3(A)は、各サンプルの外観を示す平面図であり、図3(B)は、断面図である。図3に示す各酸素透過膜では、図1に示す酸素透過膜と共通する部分には同じ参照番号を付している。サンプル1〜6は、円盤状の主層12と、主層12の一方の面上に形成される第1の触媒層13と、主層12の他方の面上に形成された第2の触媒層14と、を備えている。なお、後述するように、サンプル7は、第1の触媒層13を有しておらず、主層12および第2の触媒層14のみを備えている。以下に、各サンプルの構成および製造方法と、性能を評価した結果について説明する。
<各サンプルの作製>
[サンプル1〜5]
サンプル1〜サンプル5の主層12は、酸素イオン伝導体としてスカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)を含有し、電子伝導体としてLa0.8Sr0.2CrO3−zを含有する。また、サンプル1〜サンプル5の第1の触媒層13は、酸素イオン伝導体としてスカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)を含有し、電子伝導体である触媒としてLa0.8Sr0.2Cr1−xNixO3−zを含有する。サンプル1〜サンプル5は、図2に示すように、第1の触媒層13が含有する電子伝導体における上記xの値が互いに異なっている。サンプル1〜サンプル5の第2の触媒層14は、酸素イオン伝導体としてスカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)を含有し、電子伝導体である触媒としてLa0.8Sr0.2MnO3−zを含有する。
[サンプル1〜5]
サンプル1〜サンプル5の主層12は、酸素イオン伝導体としてスカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)を含有し、電子伝導体としてLa0.8Sr0.2CrO3−zを含有する。また、サンプル1〜サンプル5の第1の触媒層13は、酸素イオン伝導体としてスカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)を含有し、電子伝導体である触媒としてLa0.8Sr0.2Cr1−xNixO3−zを含有する。サンプル1〜サンプル5は、図2に示すように、第1の触媒層13が含有する電子伝導体における上記xの値が互いに異なっている。サンプル1〜サンプル5の第2の触媒層14は、酸素イオン伝導体としてスカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)を含有し、電子伝導体である触媒としてLa0.8Sr0.2MnO3−zを含有する。
以下に、サンプル1〜サンプル5の、主層12の作製方法について説明する。ScSZとしては、スカンジウム(Sc)およびセリウム(Ce)を含有するスカンジア安定化ジルコニア(第一稀元素化学工業製、10Sc1CeSZ)の粉末を用いた。La0.8Sr0.2CrO3−zは、以下のように固相反応法により作製した。原料粉末としては、酸化ランタン(La2O3、和光純薬工業製、純度99.9%)、炭酸ストロンチウム(SrCO3、高純度化学研究所製、純度99.9%)、および酸化クロム(Cr2O3、高純度化学研究所製、純度99.99%)の粉末を用いた。これら原料粉末を、金属元素の割合が、組成式La0.8Sr0.2CrO3−zにおける組成比になるように秤量した。そして、ZrO2ボールと樹脂ポットを用いて、エタノールと共に、これらの原料粉末について湿式混合粉砕を15時間行なった。その後、湯煎乾燥してエタノールを除去し、得られた混合粉末を15℃/minの昇温速度で1500℃まで昇温させ、1500℃にて24時間仮焼成して、仮焼粉末であるLa0.8Sr0.2CrO3−zの粉末を得た。
さらに、この仮焼粉末に分散剤とバインダを加え、エタノールを用いて既述した湿式混合粉砕の条件と同様の条件で湿式混合粉砕を行ない、乾燥させて、仮焼粉末を含む粉末を得た。その後、ScSZとLa0.8Sr0.2CrO3−zとの混合物におけるLa0.8Sr0.2CrO3−zの混合割合が30vol%となるように、上記仮焼粉末を含む粉末をScSZに混合し、ScSZとLa0.8Sr0.2CrO3−zの混合粉末を得た。この混合粉末を用いて、油圧プレスにて15kNの力を加えて成形し、窒素中において、1500℃にて24時間焼成し、ScSZとLa0.8Sr0.2CrO3−zの混合体のペレットを得た。なお、上記した混合粉末を得る際には、仮焼粉末において100%の効率でLa0.8Sr0.2CrO3−zが形成されているものとして、仮焼粉末を含む粉末の混合量を設定した。得られた上記ペレットの表面を平面研磨盤を用いて0.1mmの厚みに研削し、主層12として用いた。
以下に、サンプル1〜サンプル5の、第1の触媒層13の作製方法について説明する。ScSZは、主層12が含有するScSZと同様のScSZを用いた。La0.8Sr0.2Cr1−xNixO3−zは、以下のように固相反応法により作製した。原料粉末としては、酸化ランタン(La2O3、和光純薬工業製、純度99.9%)、炭酸ストロンチウム(SrCO3、高純度化学研究所製、純度99.9%)、酸化クロム(Cr2O3、高純度化学研究所製、純度99.99%)、および酸化ニッケル(NiO、高純度化学研究所製、純度99.9%)の粉末を用いた。これら原料粉末を、金属元素の割合がサンプルごとに定めた所定値となるように、すなわち、組成式La0.8Sr0.2Cr1−xNixO3−zにおけるxの値が図2に示した値となるときの組成比になるように、秤量した。そして、ZrO2ボールと樹脂ポットを用いて、エタノールと共に、これらの原料粉末について湿式混合粉砕を15時間行なった。その後、湯煎乾燥してエタノールを除去し、得られた混合粉末を15℃/minの昇温速度で1500℃まで昇温させ、1500℃にて24時間仮焼成して、仮焼粉末であるLa0.8Sr0.2Cr1−xNixO3−zの粉末を得た。
さらに、この仮焼粉末に分散剤とバインダを加え、エタノールを用いて既述した湿式混合粉砕の条件と同様の条件で湿式混合粉砕を行ない、乾燥させて、仮焼粉末を含む粉末を得た。その後、ScSZとLa0.8Sr0.2Cr1−xNixO3−zとの混合物におけるScSZの混合割合が35vol%となるように、上記仮焼粉末を含む粉末にScSZを混合し、ScSZとLa0.8Sr0.2Cr1−xNixO3−zの混合粉末を得た。得られた混合粉末に溶媒であるブチルカルビトールとエチルセルロース(日進化成株式会社製のエトセル(登録商標))を添加し、らいかい機にて混合し、触媒ペーストを作製した。既述した主層12の一方の面上に、スクリーン印刷法により触媒ペーストを塗布し、これを120℃で乾燥後、大気中にて1100℃まで昇温し、1100℃にて1時間保持して焼き付け、主層12上に第1の触媒層13を形成した。
以下に、サンプル1〜サンプル5の、第2の触媒層14の作製方法について説明する。ScSZは、主層12が含有するScSZと同様のScSZを用いた。La0.8Sr0.2MnO3−zを作製するための原料粉末としては、酸化ランタン(La2O3、和光純薬工業製、純度99.9%)、炭酸ストロンチウム(SrCO3、高純度化学研究所製、純度99.9%)、および酸化マンガン(Mn2O3高純度化学研究所製、純度99.9%)の粉末を用いた。これらの原料粉末を用いて、第1の触媒層13が含むLa0.8Sr0.2Cr1−xNixO3−zの仮焼粉末を作製する条件と同様の条件にて、固相反応法により、La0.8Sr0.2MnO3−zの仮焼粉末を得た。さらに、このLa0.8Sr0.2MnO3−zの仮焼粉末を用いて、第1の触媒層13の形成方法と同様の方法により、主層12の他方の面上に第2の触媒層14を形成した。
[サンプル6]
サンプル6の主層12および第2の触媒層14は、サンプル1〜サンプル5が備える主層12および第2の触媒層14と同様の構成であり、サンプル1〜サンプル5が備える主層12および第2の触媒層14と同様の方法で形成した。サンプル6の第1の触媒層13は、酸素イオン伝導体としてスカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)を含有し、触媒として酸化ニッケル(NiO)を含有する。
サンプル6の主層12および第2の触媒層14は、サンプル1〜サンプル5が備える主層12および第2の触媒層14と同様の構成であり、サンプル1〜サンプル5が備える主層12および第2の触媒層14と同様の方法で形成した。サンプル6の第1の触媒層13は、酸素イオン伝導体としてスカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)を含有し、触媒として酸化ニッケル(NiO)を含有する。
以下に、サンプル6の、第1の触媒層13の作製方法について説明する。サンプル6の第1の触媒層13を形成する材料としては、サンプル1〜サンプル5の第1の触媒層13を形成するために用いたScSZと同様のScSZと、酸化ニッケル(NiO、高純度化学研究所製、純度99.9%)とを用いた。これらの材料を混合して、混合粉末を得た。混合粉末を作製する際には、ScSZとNiOとの混合物におけるScSZの混合割合が39vol%となるように両者を混合した。この混合粉末を用いて、サンプル1〜サンプル5が備える第1の触媒層13と同様の方法により、触媒ペーストの作製、触媒ペーストの主層12上への塗布、乾燥等の工程を行ない、第1の触媒層13を形成した。
[サンプル7]
サンプル7の主層12および第2の触媒層14は、サンプル1〜サンプル5が備える主層12および第2の触媒層14と同様の構成であり、サンプル1〜サンプル5が備える主層12および第2の触媒層14と同様の方法で形成した。サンプル7は、第1の触媒層13を有しておらず、主層12の一方の面全体が露出している。
サンプル7の主層12および第2の触媒層14は、サンプル1〜サンプル5が備える主層12および第2の触媒層14と同様の構成であり、サンプル1〜サンプル5が備える主層12および第2の触媒層14と同様の方法で形成した。サンプル7は、第1の触媒層13を有しておらず、主層12の一方の面全体が露出している。
<焼成による異種相の形成>
サンプル1〜サンプル5について、第1の触媒層13の製造工程で得られた既述したLa0.8Sr0.2Cr1−xNixO3−zの仮焼粉末の結晶相を、粉末X線回折(Rigaku製 MiniFlex、CuKα)により同定した。
サンプル1〜サンプル5について、第1の触媒層13の製造工程で得られた既述したLa0.8Sr0.2Cr1−xNixO3−zの仮焼粉末の結晶相を、粉末X線回折(Rigaku製 MiniFlex、CuKα)により同定した。
図4は、サンプル4の第1の触媒層13の製造工程で得られたLa0.8Sr0.2Cr0.85Ni0.15O3−zの仮焼粉末のX線回折の結果を示す説明図である。図5は、サンプル5の第1の触媒層13の製造工程で得られたLa0.8Sr0.2Cr0.8Ni0.2O3−zの仮焼粉末のX線回折の結果を示す説明図である。サンプル4、すなわち、La0.8Sr0.2Cr1−xNixO3−zのXが0.15の場合には、仮焼粉末がペロブスカイトの単相であることが確認された。サンプル5、すなわち、La0.8Sr0.2Cr1−xNixO3−zのXが0.2の場合には、仮焼粉末において、ペロブスカイト相に加えNiO相が観察された。また、サンプル1〜サンプル3の第1の触媒層13の製造工程で得られたLa0.8Sr0.2Cr0.85Ni0.15O3−zの仮焼粉末の各々は、いずれも、図2に示すように、上記サンプル4と同様にペロブスカイトの単相であることが確認された(データ示さず)。以上のように、第1の触媒層13が含有するLa0.8Sr0.2Cr0.85Ni0.15O3−zの製造工程では、Xの値が0.2になると、NiOの異種相が形成されることが確認された。
<酸素透過速度の測定>
図6は、各サンプルの酸素透過特性を測定するための装置である測定装置30の概略構成を表わす説明図である。測定装置30は、2本の透明石英管31,32と、アルミナチューブ33,34と、電気炉35と、熱電対36と、を備える。2本の透明石英管31,32は、上下に配置され、その間に各サンプルを挟んで測定を行なう。透明石英管31とサンプルとを接合する際には、サンプル上に内径10mmの金の薄膜リングを載置し、その上に透明石英管31を押し付けて、1050℃に昇温して金を軟化させ、ガスシール性を確保した。透明石英管31,32の内側には、アルミナチューブ33,34を配置した。酸素透過特性の測定の際には、アルミナチューブ33には水素ガスを流し、アルミナチューブ34には空気を流した。透明石英管31,32は、電気炉35内に配置されており、透明石英管31,32に挟まれたサンプルは、電気炉35内の均熱部分に配置した。また、アルミナチューブ34内には、サンプル温度を測定するために、サンプルの近傍に達するように熱電対36を配置した。酸素透過特性の測定の際には、サンプル温度が1000℃に維持されるように電気炉35による加熱を行なった。各サンプルは、第2の触媒層14側に空気が供給され、第1の触媒層13を有する場合には第1の触媒層13側に水素ガスが供給されるように配置した。
図6は、各サンプルの酸素透過特性を測定するための装置である測定装置30の概略構成を表わす説明図である。測定装置30は、2本の透明石英管31,32と、アルミナチューブ33,34と、電気炉35と、熱電対36と、を備える。2本の透明石英管31,32は、上下に配置され、その間に各サンプルを挟んで測定を行なう。透明石英管31とサンプルとを接合する際には、サンプル上に内径10mmの金の薄膜リングを載置し、その上に透明石英管31を押し付けて、1050℃に昇温して金を軟化させ、ガスシール性を確保した。透明石英管31,32の内側には、アルミナチューブ33,34を配置した。酸素透過特性の測定の際には、アルミナチューブ33には水素ガスを流し、アルミナチューブ34には空気を流した。透明石英管31,32は、電気炉35内に配置されており、透明石英管31,32に挟まれたサンプルは、電気炉35内の均熱部分に配置した。また、アルミナチューブ34内には、サンプル温度を測定するために、サンプルの近傍に達するように熱電対36を配置した。酸素透過特性の測定の際には、サンプル温度が1000℃に維持されるように電気炉35による加熱を行なった。各サンプルは、第2の触媒層14側に空気が供給され、第1の触媒層13を有する場合には第1の触媒層13側に水素ガスが供給されるように配置した。
上記した測定装置30内に配置された各サンプルにおいて、空気側(透明石英管32側)から水素ガス側(透明石英管31側)へと、サンプル内を酸素が透過すると、水素ガス側では透過した酸素を用いて水(水蒸気)が生じる。測定装置30から排出される水素含有ガス中の水蒸気は、全て、透過した酸素由来であると考えられるため、排出された水素含有ガス中の水蒸気濃度を鏡面露点計(神栄テクノロジー製)を用いて測定し、透過した酸素量を算出した。このようにして算出した透過酸素量と、サンプルの透過面積とに基づいて、酸素透過流速密度j(02)を算出した。このとき、アルミナチューブ33を介して供給する水素ガス量と、アルミナチューブ34を介して供給する空気量は、マスフロコントローラを用いて、それぞれ200mL、300mL/minとした。
図2では、製造後であって使用前の各サンプルについて測定した酸素透過流速密度の値を示している。図2に示す結果より、各サンプルが備える主層12の成分割合および厚みが共通する場合に、第1の触媒層13が含有するLa0.8Sr0.2Cr1−xNixO3−zのXが0.05〜0.15の場合には、酸素透過流速密度が大きくなることが確認された(サンプル2〜4)。これに対し、X=0であって第1の触媒層13が含有するペロブスカイト型触媒がNiを含まない場合には、酸素透過流速密度がより小さくなることが確認された(サンプル1)。また、X=0.2になり、製造時において第1の触媒層13の触媒に異種相であるNiOが形成されていると、酸素透過流速密度がより小さくなることが確認された(サンプル5)。また、第1の触媒層13が含有する触媒がNiOである場合には、酸素透過流速密度が大きくなることが確認された(サンプル6)。また、第1の触媒層13を設けない場合には、酸素透過流速密度が最も小さくなることが確認された(サンプル7)。
<酸化・還元繰り返し試験>
各サンプルについて、酸化・還元を繰り返す試験を行ない、触媒層の雰囲気に対する安定性を調べた。酸化・還元繰り返し試験の方法を以下に説明する。酸化・還元繰り返し試験には、図6の測定装置30を用いた。
各サンプルについて、酸化・還元を繰り返す試験を行ない、触媒層の雰囲気に対する安定性を調べた。酸化・還元繰り返し試験の方法を以下に説明する。酸化・還元繰り返し試験には、図6の測定装置30を用いた。
酸化・還元繰り返し試験では、図2に示す酸素透過流速密度を、酸素透過流速密度の初期値とした。各サンプルについて、酸素透過流速密度の初期値を測定した後、アルミナチューブ33を介した各サンプルへの水素ガス量の供給を1時間停止した。その後、水素ガスの供給を再開して水素ガスの供給を1時間継続し、再び酸素透過流速密度を測定した。以後、同様にして、水素供給の停止、水素供給の再開、酸素透過流速密度の測定の動作を合計5回繰り返した。なお、サンプルに対する水素供給を停止している間は、各サンプルは、空気に晒される状態となる。
図7は、各サンプルについて、水素供給の停止、再開、および酸素透過流速密度の測定の動作を繰り返したときの酸素透過流速密度の変化を示す説明図である。図7において、酸素透過流速密度は、各サンプルの酸素透過流速密度の初期値を100%としたときの、初期値に対する相対値として表わしている。
第1の触媒層13が含有する触媒としてNiOを用いたサンプル6では、水素供給と停止を繰り返すことにより、すなわち、第1の触媒層13が還元雰囲気に晒される状態と酸化雰囲気に晒される状態とを繰り返すことにより、酸素透過特性が著しく低下した。これに対して、第1の触媒層13が含有する触媒としてLa0.8Sr0.2Cr1−xNixO3−zを用いたサンプル1〜5、および第1の触媒層13を設けなかったサンプル7では、水素供給と停止を繰り返しても、酸素透過特性の低下の程度は極めて小さかった。
図2では、酸素透過流速密度の初期値が大きく、かつ、酸化・還元繰り返し試験の後にも酸素透過流速密度の値が大きいまま維持されるサンプルについては、判定欄に「○」を付した。図2より、サンプル2〜サンプル4では、酸化・還元を繰り返しても、良好な酸素透過流速密度の値を維持できることが確認された。
本発明は、上述の実施形態や実施例、変形例に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、実施例、変形例中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
10…酸素透過膜
12…主層
13…(第1の)触媒層
14…第2の触媒層
16…改質原料流路
18…空気流路
20…改質器
30…測定装置
31,32…透明石英管
33,34…アルミナチューブ
35…電気炉
36…熱電対
12…主層
13…(第1の)触媒層
14…第2の触媒層
16…改質原料流路
18…空気流路
20…改質器
30…測定装置
31,32…透明石英管
33,34…アルミナチューブ
35…電気炉
36…熱電対
Claims (5)
- 酸素分圧差を駆動力として、高酸素分圧側から低酸素分圧側へと酸素を透過する酸素透過膜において、
複合酸化物を含み、酸素イオン伝導性および電子伝導性を有する主層と、
前記酸素透過膜の前記主層上に形成されて、第1の組成式La0.8Sr0.2Cr1−xNixO3−z(0<x<0.20、zは任意)で表わされるペロブスカイト型複合酸化物を含む触媒層と
を備えることを特徴とする
酸素透過膜。 - 請求項1に記載の酸素透過膜であって、
前記第1の組成式中のxの範囲が0.05≦x≦0.15であることを特徴とする
酸素透過膜。 - 請求項1または2に記載の酸素透過膜であって、
前記主層は、第1の酸素イオン伝導体と電子伝導体とを含み、
前記触媒層は、前記第1の組成式で表わされる前記複合酸化物に加えて、さらに、第2の酸素イオン伝導体を含み、
前記第1の酸素イオン伝導体は、安定化ジルコニアとセリア系固溶体のうちの一方に属する化合物であり、
前記第2の酸素イオン伝導体は、前記一方に属する化合物であり、
前記電子伝導体は、第2の組成式La1−ySryCrO3−z(0.1≦y≦0.3、zは任意)で表わされる複合酸化物を含むことを特徴とする
酸素透過膜。 - 請求項1から3のうちのいずれか1項に記載の酸素透過膜であって、
前記触媒層は、前記酸素透過膜における前記低酸素分圧側の前記主層上に形成され、
前記高酸素分圧側から前記低酸素分圧側に透過した酸素を用いて、改質原料から水素を生成する部分酸化反応を進行させるための酸素透過膜。 - 請求項1から4のいずれか1項に記載の酸素透過膜を備え、部分酸化反応によって改質原料から水素を生成する改質器であって、
前記酸素透過膜における前記低酸素分圧側の表面に供給するための前記改質原料が流れる改質原料流路と、
前記酸素透過膜における前記高酸素分圧側の表面に供給するための酸素含有ガスが流れる酸素含有ガス流路と、
を備え、
前記酸素透過膜を透過した前記酸素含有ガス中の酸素を用いて前記部分酸化反応を進行する改質器。
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Cited By (3)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2017113714A (ja) * | 2015-12-25 | 2017-06-29 | 日本特殊陶業株式会社 | 酸素透過膜、その製造方法、および改質器 |
CN108854585A (zh) * | 2018-06-22 | 2018-11-23 | 中国科学院上海硅酸盐研究所 | 一种大尺寸平板式氧化锆支撑型双相透氧膜及其制备方法 |
JP2021137797A (ja) * | 2020-02-29 | 2021-09-16 | 国立大学法人 名古屋工業大学 | 酸素抽出フィルタ及びその材料、酸素抽出装置並びに酸素製造方法 |
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2014
- 2014-07-10 JP JP2014142372A patent/JP2016016389A/ja active Pending
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Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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JP2017113714A (ja) * | 2015-12-25 | 2017-06-29 | 日本特殊陶業株式会社 | 酸素透過膜、その製造方法、および改質器 |
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CN108854585B (zh) * | 2018-06-22 | 2021-04-16 | 中国科学院上海硅酸盐研究所 | 一种大尺寸平板式氧化锆支撑型双相透氧膜及其制备方法 |
JP2021137797A (ja) * | 2020-02-29 | 2021-09-16 | 国立大学法人 名古屋工業大学 | 酸素抽出フィルタ及びその材料、酸素抽出装置並びに酸素製造方法 |
JP7206013B2 (ja) | 2020-02-29 | 2023-01-17 | 国立大学法人 名古屋工業大学 | 酸素抽出フィルタ及び酸素抽出装置 |
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