JP4757426B2 - パルスアーク溶接制御方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、アークの集中性、広がり等のアーク特性を調整するためにピーク立上り期間及びピーク立下り期間を微調整したときに、ピーク期間を修正して溶接電流の通電を制御するパルスアーク溶接制御方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
図1は、消耗電極式パルスアーク溶接の電流・電圧波形図であり、同図(A)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(B)は溶接電圧Vwの時間変化を示す。以下、同図を参照して説明する。
【0003】
同図(A)に示すように、時刻t1〜t2のピーク立上り期間Tu中は、ベース電流Ibからピーク電流Ipへと上昇する遷移電流が通電し、続いて時刻t2〜t3のピーク期間Tp中は、上記のピーク電流Ipが通電し、続いて時刻t3〜t4のピーク立下り期間Td中は、上記のピーク電流Ipから上記のベース電流Ibへと下降する遷移電流が通電し、続いて時刻t4〜t5のベース期間Tb中は、上記のベース電流Ibが通電する。これらの溶接電流の通電に対応して、同図(B)に示すように、上記のピーク立上り期間Tu中は、ベース電圧Vbからピーク電圧Vpへと上昇する遷移電圧が印加し、続いて上記のピーク期間Tp中は、上記のピーク電圧Vpが印加し、続いて上記のピーク立下り期間Td中は、上記のピーク電圧Vpから上記のベース電圧Vbへと下降する遷移電圧が印加し、続いて上記のベース期間Tb中は、上記のベース電圧Vbが印加する。上記の時刻t1〜t5の期間をパルス周期Tfとして繰り返して溶接が行われる。ところで、溶接中のアーク長を適正値に維持するために、同図(B)に示すように、溶接電圧Vwの平均値が予め定めた電圧設定値Vsと略等しくなるように、上記のパルス周期がフィードバック制御される。したがって、パルス周期Tf以外の波形パラメータ(Tu、Tp、Td、Ip、Ib)は予め設定される。
【0004】
同図(A)において、時刻t1〜t4の期間(以下、ユニットパルス期間という)中の溶接電流Iwの時間積分値(以下、ユニットパルス電流積分値という)Si[A・ms]は、次式で表わすことができる。
Si=∫Iw・dt=(Ip−Ib)・(1/2・Tu+1/2・Td+Tp)+Ib・(Tu+Td+Tp) (1)式
パルスアーク溶接では、良好な溶接を行うためにはユニットパルス期間中に1回の溶滴移行が行われるいわゆる1パルス1溶滴移行の状態になるように、上記のユニットパルス電流積分値Siを適正値に設定する必要がある。すなわち、溶接ワイヤの材質、直径、シールドガスの種類等が決まると、1パルス1溶滴移行するために上記のユニットパルス電流積分値Siの範囲が定まる。直径1.2mmのアルミニウム−シリコン合金ワイヤでは、例えば、上記のユニットパルス電流積分値Siが550±100A・ms程度の範囲内にあるときに1パルス1溶滴移行の状態になり、直径1.2mmの軟鋼ワイヤでは、ユニットパルス電流積分値Si1が1000±200A・ms程度の範囲内にあるときに1パルス1溶滴移行の状態になる。ユニットパルス電流積分値Siが上記の下限値よりも小さくなると、溶滴移行は多パルス1溶滴移行の状態となり、逆に上記の上限値よりも大きくなると、溶滴移行は1パルス多溶滴移行の状態となり、どちらの場合も移行する溶滴のサイズがバラツクことになりスパッタが多く発生しビード外観も悪くなる。
【0005】
したがって、上記の波形パラメータは、ユニットパルス電流積分値Siが上記の1パルス1溶滴移行の範囲内になるように設定される。例えば、上記の直径1.2mmのアルミニウム−シリコン合金ワイヤの場合には、波形パラメータは以下の通りである。
Tu=1.2ms、Td=0.6ms、Tp=1.0ms、Ip=280A、Ib=30A (設定1)
このときのユニットパルス電流積分値Si=559A・msとなり、上記の1パルス1溶滴移行の範囲の略中心値となる。同様に、上記の直径1.2mmの軟鋼ワイヤの場合には、波形パラメータは以下の通りである。
Tu=0.4ms、Td=1.2ms、Tp=1.4ms、Ip=440A、Ib=40A (設定2)
このときのユニットパルス電流積分値Siは1056A・msとなり、上記の1パルス1溶滴移行の範囲の略中心値となる。
【0006】
図2は、ピーク立上り/立下り期間の時間長さとアーク特性との関係を示す図である。同図(A1)はピーク立上り期間Tu1及びピーク立下り期間Td1が長い場合の溶接電流波形を示し、同図(A2)はそのときのアーク発生状態を示し、同図(B1)はピーク立上り期間Tu2及びピーク立下り期間Td2が短い場合の溶接電流波形を示し、同図(B2)はそのときのアーク発生状態を示す。アークの集中性、アークの広がり、アーク力の強さ等のアーク特性は、ピーク立上り期間及びピーク立下り期間の時間長さによって変化することが知られている。同図(A1)に示すように、ピーク立上り期間Tu1及びピーク立下り期間Td1を長くすると、同図(A2)に示すように、溶接ワイヤ1と母材2との間のアーク3はすそ野が広がった形状となり、アークの集中性が弱くなり、アークの広がりは広くなり、アーク力は弱くなり、ソフトなアーク特性になる。このために、姿勢溶接に適しており、アンダーカットの発生を抑制する効果もある。他方、同図(B1)に示すように、ピーク立上り期間Tu2及びピーク立下り期間Td2を短くすると、同図(B2)に示すように、溶接ワイヤ1と母材2との間のアーク3はすそ野が狭い形状となり、アークの集中性が強くなり、アークの広がりは狭くなり、アーク力は強くなり、ハードなアーク特性になる。このために、溶け込み深さを深くする効果がある。上記の効果以外にも、アーク特性によって溶接の作業性が変化するために、溶接作業者は自分の好みに合ったアーク特性に調整する。したがって、従来技術では、継手形状、要求品質、作業性等を考慮して、ピーク立上り期間及びピーク立下り期間の時間長さを微調整することによってアーク特性を微調整することができるようにしている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
従来技術では、アーク特性を調整するために、ピーク期間Tpは予め定めた標準値のままで、ピーク立上り期間及びピーク立下り期間を予め定めた標準値を中心として微調整することになる。このために、ピーク立上り期間及びピーク立下り期間の微調整値によっては、上記のユニットパルス電流積分値が1パルス1溶滴移行の範囲外になる場合が発生し、溶滴移行状態が不安定になり溶接品質が悪くなるという問題がある。以下、前述した設定1の場合である直径1.2mmのアルミニウム−シリコン合金ワイヤの場合を例として説明する。この場合の波形パラメータの標準値は、前述した設定1のように、Tu0=1.2ms、Td0=0.6ms、Tp0=1.0ms、Ip=280A、Ib=30A、Si=559A・msである。ここで、アーク特性をソフトにするためにピーク立上り期間Tu及びピーク立下り期間Tdの微調整値ΔTu=ΔTd=+0.6msとすると、ピーク立上り期間Tu=1.8ms及びピーク立下り期間Td=1.2msへと修正される。ピーク期間Tp=Tp0=1.0msのままである。したがって、アーク特性微調整後のユニットパルス電流積分値Si=745A・msとなり、前述した1パルス1溶滴移行の範囲550±100A・msの上限値を超えることになる。この結果、溶滴移行状態が不安定になり、スパッタが多く発生してビード外観も悪くなる。このビード外観の例を図3に示す。同図は、前述した設定1の溶接ワイヤ及び波形パラメータにおいて、溶接電流75A及び溶接電圧18Vに設定してアルミニウム合金のパルスMIG溶接を行ったときのビード外観である。同図から明らかなように、母材2表面上に多くのスパッタ2bが付着して、ビード2aの外観が悪くなっている。
【0008】
上述したように、従来技術では、アーク特性を調整するために、ピーク立上り期間及びピーク立下り期間を微調整すると、ユニットパルス電流積分値が1パルス1溶滴移行の範囲外となる場合がよく起こり、その結果溶接品質が悪くなるという問題があった。
【0009】
そこで、本発明では、アーク特性を調整するために、ピーク立上り期間及びピーク立下り期間を微調整しても、ユニットパルス電流積分値が常に1パルス1溶滴移行の範囲内になるようにピーク期間を自動修正することができるパルスアーク溶接制御方法を提供する。
【0010】
【課題を解決するための手段】
第1の発明は、図4に示すように、
溶接ワイヤを送給すると共に、予め定めたピーク立上り期間Tu中は予め定めたベース電流Ibから予め定めたピーク電流Ipへと上昇する遷移電流を通電し続けて予め定めたピーク期間Tp中は上記ピーク電流Ipを通電し続けて予め定めたピーク立下り期間Td中は上記ピーク電流Ipから上記ベース電流Ibへと下降する遷移電流を通電し続けてベース期間Tb中は上記ベース電流Ibを通電しこれらの溶接電流の通電をパルス周期Tfとして繰り返して通電し、溶接電圧Vwの平均値が予め定めた電圧設定値Vsと略等しくなるように上記ベース期間Tbがフィードバック制御されるパルスアーク溶接制御方法において、
アーク特性の微調整のために上記ピーク立上り期間及び上記ピーク立下り期間が微調整されると、これに応動して上記ピーク立上り期間及び上記ピーク期間及び上記ピーク立下り期間中の溶接電流の時間積分値Siが上記アーク特性の微調整によらず常に予め定めた所定値と等しくなるように上記ピーク期間を修正して上記パルス周期Tfの通電を繰り返すことを特徴とするパルスアーク溶接制御方法である。
【0011】
第2の発明は、図4に示すように、
溶接ワイヤを送給すると共に、予め定めたピーク立上り期間Tu中は予め定めたベース電流Ibから予め定めたピーク電流Ipへと上昇する遷移電流を通電し続けて予め定めたピーク期間Tp中は上記ピーク電流Ipを通電し続けて予め定めたピーク立下り期間Td中は上記ピーク電流Ipから上記ベース電流Ibへと下降する遷移電流を通電し続けてベース期間Tb中は上記ベース電流Ibを通電しこれらの溶接電流の通電をパルス周期Tfとして繰り返して通電し、溶接電圧Vwの平均値が予め定めた電圧設定値Vsと略等しくなるように上記ベース期間Tbがフィードバック制御されるパルスアーク溶接制御方法において、
アーク特性の微調整のために上記ピーク立上り期間の微調整値ΔTu及び上記ピーク立下り期間の微調整値ΔTdが設定されると、これに応動して上記ピーク立上り期間をTu+ΔTuに修正しかつ上記ピーク立下り期間をTd+ΔTdに修正しかつ上記ピーク期間をTp−((Ip+Ib)/Ip)・(ΔTu+ΔTd)/2に修正して上記パルス周期Tfの通電を繰り返すことを特徴とするパルスアーク溶接制御方法である。
【0012】
第3の発明は、図5に示すように、
アーク特性の微調整のために傾斜微調整係数Ksが設定されると、これに応動してピーク立上り期間の微調整値ΔTu=Ks・Tu及びピーク立下り期間の微調整値ΔTd=Ks・Tdを演算して設定することを特徴とする第2の発明記載のパルスアーク溶接制御方法である。
【0013】
第4の発明は、図6に示すように、
アーク特性の微調整のために傾斜微調整値ΔTが設定されると、これに応動してピーク立上り期間の微調整値ΔTu=ΔTとして設定しかつ予め定めた重み付け係数Wsによってピーク立下り期間の微調整値ΔTd=Ws・ΔTを演算して設定することを特徴とする第2の発明記載のパルスアーク溶接制御方法である。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
[実施の形態1]
本発明の実施の形態1は、アーク特性を調整するために、ピーク立上り期間及びピーク立下り期間を微調整すると、これに連動して上記のユニットパルス電流積分値が予め定めた所定値になるようにピーク期間を自動修正して、パルス周期の溶接電流の通電を制御するパルスアーク溶接制御方法である。以下、ピーク期間の修正方法について説明する。
【0015】
ピーク立上り期間Tu、ピーク立下り期間Td及びピーク期間Tpの標準値とは、ピーク立上り期間の微調整値ΔTu及びピーク立下り期間の微調整値ΔTdが共に0であるアーク特性が標準値の場合の各値である。標準値のピーク立上り期間をTu0[ms]、標準値のピーク立下り期間をTd0[ms]、標準値のピーク期間をTp0[ms]、ピーク電流をIp[A]、ベース電流をIb[A]、ピーク立上り期間微調整値をΔTu[ms]、ピーク立下り期間微調整値をΔTd[ms]、ユニットパルス電流積分値の所定値をSi[[A・ms]及びピーク期間の修正値をΔTp[ms]とする。ピーク立上り期間微調整値ΔTu及びピーク立下り期間微調整値ΔTdが微調整されて変化してもユニットパルス電流積分値Siが上記の所定値になるためには、前述した(1)式において下式が成立する。
Si=(Ip−Ib)・(1/2・(Tu0+ΔTu)+1/2・(Td0+ΔTd)+(Tp0+ΔTp))+Ib・(Tu0+ΔTu+Td0+ΔTd+Tp0+ΔTp)上式をΔTpについて整理すると下式が得られる。
ΔTp=−((Ip+Ib)/Ip)・(ΔTu+ΔTd)/2 (2)式したがって、ピーク立上り期間及びピーク立下り期間が微調整されたときは、これに応動した上記(2)式に基づいてピーク期間修正値ΔTpを演算し、新しいピーク期間Tp=Tp0+ΔTpに修正すれば、ユニットパルス電流積分値は常に所定値Siになる。この結果、アーク特性の微調整後においては、ピーク立上り期間Tu=Tu0+ΔTu中はベース電流Ibからピーク電流Ipへと上昇する遷移電流を通電し、続けてピーク期間Tp=Tp0+ΔTp中はピーク電流Ipを通電し、続けてピーク立下り期間Td=Td0+ΔTd中はピーク電流Ipからベース電流Ibへと下降する遷移電流を通電し、続けてフィードバック制御によって定まるベース期間Tb中はベース電流Ibを通電する。
【0016】
課題の欄で前述したときと同一の設定1の波形パラメータにおいて、上述した本発明を適用すると以下のようになる。波形パラメータは、Tu0=1.2ms、Td0=0.6ms、Tp0=1.0ms、Ip=280A、Ib=30A、Si=559A・msである。ここで、アーク特性をソフトにするためにピーク立上り期間微調整値ΔTu=+0.6ms及びピーク立下り期間微調整値ΔTd=+0.6msに設定すると、上記(2)式によってピーク期間修正値ΔTp=−((280+30)/280)・(0.6+0.6)/2=0.66msとなる。したがって、ピーク立上り期間Tu=1.2+0.6=1.8ms、ピーク立下り期間Td=0.6+0.6=1.2ms及びピーク期間Tp=1.0−0.66=0.34msに修正される。このときのユニットパルス電流積分値Si=560A・msとなり、アーク特性の微調整によっては変化しない。このために、1パルス1溶滴移行する良好な溶接状態が常に維持され、良好な溶接品質を得ることができる。
【0017】
図4は、上述した実施の形態1を実施するための溶接電源装置のブロック図である。以下、同図を参照して、各回路ブロックについて説明する。
出力制御回路INVは、商用交流電源3相200V等を入力として、後述する電流誤差増幅信号Eiに従って、インバータ制御、サイリスタ位相制御等の出力制御を行い、溶接に適した溶接電圧Vw及び溶接電流Iwを出力する。溶接ワイヤ1は、ワイヤ送給装置の送給ロール5の回転によって、溶接トーチ4を通って送給されて、母材2との間でアーク3が発生して、溶接が行われる。
【0018】
電圧検出回路VDは、溶接電圧Vwを検出して、溶接電圧検出信号Vdを出力する。電圧平均化回路VDAは、上記の電圧検出信号Vdを平均化して、平均電圧信号Vdaを出力する。電圧設定回路VSは、予め定めた電圧設定信号Vsを出力する。電圧誤差増幅回路EVは、上記の平均電圧信号Vdaと上記の電圧設定信号Vsとの誤差を増幅して、電圧誤差増幅信号Evを出力する。電圧・周波数変換回路V/Fは、上記の電圧誤差増幅信号Evの値に比例した周波数に変換し、その周波数(パルス周期)ごとに短時間Highレベルとなるパルス周期信号Tfを出力する。
【0019】
ピーク立上り期間微調整回路ΔTUは、アーク特性を調整するために微調整されて、ピーク立上り期間微調整信号ΔTuを出力する。ピーク立下り期間微調整回路ΔTDは、アーク特性を調整するために微調整されて、ピーク立下り期間微調整信号ΔTdを出力する。これらの回路ΔTU、ΔTD及び信号ΔTu、ΔTdは、溶接電源装置のフロントパネルに設けられた可変抵抗器であってもよいし、溶接ロボットを使用する場合にはロボット制御装置からの指令信号に対応させてもよい。また、同図においてこれらの回路を点線で描いているのは、アーク特性の微調整のための回路であることを示すためであり、これ以降の図においても同様である。
【0020】
ピーク立上り期間設定回路TUSは、上記のピーク立上り期間微調整信号ΔTuを入力として、予め定めたピーク立上り期間標準値Tu0+ΔTuの演算を行い、ピーク立上り期間設定信号Tusを出力する。ピーク立下り期間設定回路TDSは、上記のピーク立下り期間微調整信号ΔTdを入力として、予め定めたピーク立下り期間標準値Td0+ΔTdの演算を行い、ピーク立下り期間設定信号Tdsを出力する。ピーク期間修正値演算回路ΔTPは、上記のピーク立上り期間微調整信号ΔTu及びピーク立下り期間微調整信号ΔTdを入力として、上記(2)式の演算を行い、ピーク期間修正信号ΔTpを出力する。ピーク期間設定回路TPSは、上記のピーク期間修正信号ΔTpを入力として、予め定めたピーク期間標準値Tp0+ΔTpの演算を行い、ピーク期間設定信号Tpsを出力する。
【0021】
ピーク電流設定回路IPSは、予め定めたピーク電流設定信号Ipsを出力する。ベース電流設定回路IBSは、予め定めたベース電流設定信号Ibsを出力する。電流制御設定回路ISCは、上記のパルス周期信号TfがHighレベルに変化した時点から上記のピーク立上り期間設定信号Tusによって定まる期間中は上記のベース電流設定信号Ibsから上記のピーク電流設定信号Ipsへと上昇する電流制御設定信号Iscを出力し、続いて上記のピーク期間設定信号Tpsによって定まる期間中は上記のピーク電流設定信号Ipsを電流制御設定信号Iscとして出力し、続いて上記のピーク立下り期間設定信号Tdsによって定まる期間中は上記のピーク電流設定信号Ipsから上記のベース電流設定信号Ibsへと下降する電流制御設定信号Iscを出力し、続いて上記のパルス周期信号TfがLowレベルであるベース期間Tb中は上記のベース電流設定信号Ibsを電流制御設定信号Iscとして出力する。電流検出回路IDは、溶接電流Iwを検出して、電流検出信号Idを出力する。電流誤差増幅回路EIは、上記の電流制御設定信号Iscと上記の電流検出信号Idとの誤差を増幅して、電流誤差増幅信号Eiを出力する。上述した動作によって、上記の電流制御設定信号Iscに相当する溶接電流Iwが通電する。
【0022】
[実施の形態2]
本発明の実施の形態2は、上述した実施の形態1において、アーク特性の微調整として傾斜微調整係数Ksを設定し、これに応動してピーク立上り期間微調整値ΔTu=Ks・Tu0及びピーク立下り期間微調整値ΔTd=Ks・Td0を演算し、これらの演算値を上記(2)式に入力してピーク期間修正値ΔTpを演算して設定するパルスアーク溶接制御方法である。すなわち、実施の形態1では、アーク特性を調整するためには、ピーク立上り期間微調整値ΔTu及びピーク立下り期間微調整値ΔTdの2つの信号を個別に調整する必要があり、所望のアーク特性に調整するのに手間がかかる。これに対して、実施の形態2では、上記の傾斜微調整係数Ksのみによってアーク特性の調整を行うことができるので、所望のアーク特性に簡単に調整することができる。さらに、前述した波形パラメータの設定1及び設定2からもわかるように、アルミニウム合金ワイヤではピーク立上り期間を長くしピーク立下り期間を短く設定する方が溶接品質がよくなり、逆に軟鋼ワイヤではピーク立上り期間を短くしピーク立下り期間を長く設定した方が溶接品質がよくなる。したがって、ピーク立上り期間標準値Tu0とピーク立下り期間標準値Td0との時間比率Tu0/Td0を略一定値に保ったままで微調整をする方が溶接品質はさらによくなる。実施の形態2では、傾斜微調整係数Ksを使用することで、アーク特性を調整しても上記の時間比率は一定となるので、アーク特性を変化させても溶接品質は常に良好になる。
【0023】
前述した設定1の波形パラメータに実施の形態2を適用すると以下のようになる。波形パラメータは、Tu0=1.2ms、Td0=0.6ms、Tp0=1.0ms、Ip=280A、Ib=30A、Si=559A・msである。ここで、アーク特性をソフトにするために傾斜微調整係数Ks=0.5が設定されると、ピーク立上り期間微調整値ΔTu=Ks・Tu0=0.5・1.2ms=0.6msが演算され、ピーク立下り期間微調整値ΔTd=Ks・Td0=0.5・0.6ms=0.3msが演算される。そして、上記(2)式によってピーク期間修正値ΔTp=−((280+30)/280)・(0.6+0.3)/2=0.50msとなる。したがって、ピーク立上り期間Tu=1.2+0.6=1.8ms、ピーク立下り期間Td=0.6+0.3=0.9ms及びピーク期間Tp=1.0−0.50=0.50msに修正される。この結果、ユニットパルス電流積分値Siは、アーク特性の微調整によって変化しないので、1パルス1溶滴移行する良好な溶接状態が常に維持される。
【0024】
図5は、上述した実施の形態2を実施するための溶接電源装置のブロック図である。同図において、前述した図4と同一の回路ブロックには同一符号を付してそれらの説明は省略する。以下、図4とは異なる回路ブロックについて、同図を参照して説明する。
【0025】
傾斜微調整係数設定回路KSは、アーク特性を調整するために微調整されて、傾斜微調整係数設定信号Ksを出力する。ピーク立上り期間微調整演算回路CTUは、上記の傾斜微調整係数設定信号Ksを入力として、予め定めたピーク立上り期間標準値Tu0・Ksを演算して、ピーク立上り期間微調整信号ΔTuを出力する。ピーク立下り期間微調整演算回路CTDは、上記の傾斜微調整係数設定信号Ksを入力として、予め定めたピーク立下り期間標準値Td0・Ksを演算して、ピーク立下り期間微調整信号ΔTdを出力する。
【0026】
[実施の形態3]
本発明の実施の形態3は、上述した実施の形態1において、アーク特性の微調整として傾斜微調整値ΔTを設定し、これに応動してピーク立上り期間微調整値ΔTu=ΔTとして設定し、かつ予め定めた重み付け係数Wsによってピーク立下り期間微調整値ΔTd=Ws・ΔTを演算して設定し、これらを上記(2)式に入力してピーク期間修正値ΔTpを演算して設定するパルスアーク溶接制御方法である。すなわち、実施の形態2と同様に、実施の形態3では、上記の傾斜微調整値ΔTのみによってアーク特性の調整を行うことができるので、所望のアーク特性に簡単に調整することができる。
【0027】
前述した設定1の波形パラメータに実施の形態3を適用すると以下のようになる。波形パラメータは、Tu0=1.2ms、Td0=0.6ms、Tp0=1.0ms、Ip=280A、Ib=30A、Si=559A・msである。ここで、アーク特性をソフトにするために傾斜微調整値ΔT=0.6msが設定されると、ピーク立上り期間微調整値ΔTu=ΔT=0.6msとなり、重み付け係数Ws=0.5とするとピーク立下り期間微調整値ΔTd=Ws・ΔT=0.5・0.6ms=0.3msが演算される。そして、上記(2)式によってピーク期間修正値ΔTp=−((280+30)/280)・(0.6+0.3)/2=0.50msとなる。したがって、ピーク立上り期間Tu=1.2+0.6=1.8ms、ピーク立下り期間Td=0.6+0.3=0.9ms及びピーク期間Tp=1.0−0.50=0.50msに修正される。この結果、ユニットパルス電流積分値Siは、アーク特性の微調整によって変化しないので、1パルス1溶滴移行する良好な溶接状態が常に維持される。
【0028】
図6は、上述した実施の形態3を実施するための溶接電源装置のブロック図である。同図において、前述した図4と同一の回路ブロックには同一符号を付してそれらの説明は省略する。以下、図4とは異なる回路ブロックについて、同図を参照して説明する。
【0029】
傾斜微調整設定回路ΔTSは、アーク特性を調整するために微調整されて、傾斜微調整設定信号ΔTsを出力する。第2のピーク立上り期間微調整演算回路TU2は、上記の傾斜微調整設定信号ΔTsをピーク立上り期間微調整信号ΔTuとして出力する。第2のピーク立下り期間微調整演算回路TD2は、上記の傾斜微調整設定信号ΔTsを入力として、予め定めた重み付け係数Ws・ΔTsを演算して、ピーク立下り期間微調整信号ΔTdを出力する。
【0030】
[効果]
以下、本発明の効果について、図面を参照して説明する。
図7は、前述した図3に対応する本発明によるアルミニウム合金のパルスMIG溶接のビード外観である。波形パラメータは、図3のときと同様に、ピーク立上り期間標準値Tu0=1.2ms、ピーク立下り期間標準値Td0=0.6ms、ピーク期間標準値Tp0=1.0ms、ピーク電流Ip=280A、ベース電流Ib=30A、ピーク立上り期間微調整値ΔTu=0.6ms及びピーク立下り期間微調整値ΔTd=0.6msである。ピーク期間Tpは、図3では上記のIp0=1.0msであるが、本発明では修正されて0.34msとなる。同図から明らかなように、母材2に付着するスパッタ2bは大幅に減少して、良好なビード2aの外観となっている。
【0031】
図8は、軟鋼のパルスMAG溶接事において従来技術と本発明とのスパッタ発生量の比較図である。溶接電流150A、溶接電圧23V、シールドガス=アルゴンガス+炭酸ガス20%、溶接ワイヤ=直径1.2mmの軟鋼ワイヤ、ピーク立上り期間標準値Tu0=0.4ms、ピーク立下り期間標準値Td0=1.2ms、ピーク期間標準値Tp0=1.4ms、ピーク電流Ip=440A、ベース電流Ib=40A、傾斜微調整係数Ks=0.5の場合であり、ピーク立上り期間Tu=0.6ms及びピーク立下り期間Td=1.8msとなる。また、ピーク期間Tpは、従来技術では上記のTp0=1.4msであるが、本発明では修正されて0.96msになる。同図から明らかなように、従来技術に比べて本発明では、スパッタ発生量が大幅に減少している。
【0032】
【発明の効果】
本発明によれば、アーク特性を微調整するためにピーク立上り期間及びピーク立下り期間を微調整すると、これに連動してユニットパルス電流積分値が所定値になるようにピーク期間が修正されるので、常に1パルス1溶滴移行の状態を維持することができ、良好な溶接品質を得ることができる。
さらに、本発明の実施の形態2又は3によれば、アーク特性を1つの信号のみによって微調整することができるので。所望のアーク特性に簡単に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】従来技術のパルスアーク溶接の電流・電圧波形図
【図2】従来技術でのアーク特性の調整方法を示す図
【図3】従来技術のビード外観図
【図4】本発明の実施の形態1を示す溶接電源装置のブロック図
【図5】本発明の実施の形態2を示す溶接電源装置のブロック図
【図6】本発明の実施の形態3を示す溶接電源装置のブロック図
【図7】本発明のビード外観図
【図8】本発明の効果を示すスパッタ発生量の比較図
【符号の説明】
1 溶接ワイヤ
2 母材
2a ビード
2b スパッタ
3 アーク
4 溶接トーチ
5 ワイヤ送給装置の送給ロール
CTD ピーク立下り期間微調整演算回路
CTU ピーク立上り期間微調整演算回路
EI 電流誤差増幅回路
Ei 電流誤差増幅信号
EV 電圧誤差増幅回路
Ev 電圧誤差増幅信号
Ib ベース電流
IBS ベース電流設定回路
Ibs ベース電流設定信号
ID 電流検出回路
Id 電流検出信号
INV 出力制御回路
Ip ピーク電流
IPS ピーク電流設定回路
Ips ピーク電流設定信号
ISC 電流制御設定回路
Isc 電流制御設定信号
Iw 溶接電流
KS 傾斜微調整係数設定回路
Ks 傾斜微調整係数(設定信号)
Tb ベース期間
Td ピーク立上り期間
Td0 ピーク立下り期間標準値
TD2 第2のピーク立下り期間微調整演算回路
TDS ピーク立下り期間設定回路
Tds ピーク立下り期間設定信号
Tf パルス周期(信号)
Tp ピーク期間
Tp0 ピーク期間標準値
TPS ピーク期間設定回路
Tps ピーク期間設定信号
Tu ピーク立上り期間
Tu0 ピーク立上り期間標準値
TU2 第2のピーク立上り期間微調整演算回路
TUS ピーク立上り期間設定回路
Tus ピーク立上り期間設定信号
V/F 電圧・周波数変換回路
Vb ベース電圧
VD 電圧検出回路
Vd 電圧検出信号
VDA 電圧平均化回路
Vda 平均電圧信号
Vp ピーク電圧
VS 電圧設定回路
Vs 電圧設定(値/信号)
Vw 溶接電圧
Ws 重み付け係数
ΔTD ピーク立下り期間微調整回路
ΔTd ピーク立下り期間微調整(値/信号)
ΔTP ピーク期間修正値演算回路
ΔTp ピーク期間修正(値/信号)
ΔTS 傾斜微調整設定回路
ΔTs 傾斜微調整設定信号
ΔTU ピーク立上り期間微調整回路
ΔTu ピーク立上り期間微調整(値/信号)

Claims (4)

  1. 溶接ワイヤを送給すると共に、予め定めたピーク立上り期間中は予め定めたベース電流から予め定めたピーク電流へと上昇する遷移電流を通電し続けて予め定めたピーク期間中は前記ピーク電流を通電し続けて予め定めたピーク立下り期間中は前記ピーク電流から前記ベース電流へと下降する遷移電流を通電し続けてベース期間中は前記ベース電流を通電しこれらの溶接電流の通電をパルス周期として繰り返して通電し、溶接電圧の平均値が予め定めた電圧設定値と略等しくなるように前記ベース期間がフィードバック制御されるパルスアーク溶接制御方法において、
    アーク特性の微調整のために前記ピーク立上り期間及び前記ピーク立下り期間が微調整されると、これに応動して前記ピーク立上り期間及び前記ピーク期間及び前記ピーク立下り期間中の溶接電流の時間積分値が前記アーク特性の微調整によらず常に予め定めた所定値と等しくなるように前記ピーク期間を修正して前記パルス周期の通電を繰り返すことを特徴とするパルスアーク溶接制御方法。
  2. 溶接ワイヤを送給すると共に、予め定めたピーク立上り期間Tu中は予め定めたベース電流Ibから予め定めたピーク電流Ipへと上昇する遷移電流を通電し続けて予め定めたピーク期間Tp中は前記ピーク電流Ipを通電し続けて予め定めたピーク立下り期間Td中は前記ピーク電流Ipから前記ベース電流Ibへと下降する遷移電流を通電し続けてベース期間中は前記ベース電流Ibを通電しこれらの溶接電流の通電をパルス周期として繰り返して通電し、溶接電圧の平均値が予め定めた電圧設定値と略等しくなるように前記ベース期間がフィードバック制御されるパルスアーク溶接制御方法において、
    アーク特性の微調整のために前記ピーク立上り期間の微調整値ΔTu及び前記ピーク立下り期間の微調整値ΔTdが設定されると、これに応動して前記ピーク立上り期間をTu+ΔTuに修正しかつ前記ピーク立下り期間をTd+ΔTdに修正しかつ前記ピーク期間をTp−((Ip+Ib)/Ip)・(ΔTu+ΔTd)/2に修正して前記パルス周期の通電を繰り返すことを特徴とするパルスアーク溶接制御方法。
  3. アーク特性の微調整のために傾斜微調整係数Ksが設定されると、これに応動してピーク立上り期間の微調整値ΔTu=Ks・Tu及びピーク立下り期間の微調整値ΔTd=Ks・Tdを演算して設定することを特徴とする請求項2記載のパルスアーク溶接制御方法。
  4. アーク特性の微調整のために傾斜微調整値ΔTが設定されると、これに応動してピーク立上り期間の微調整値ΔTu=ΔTとして設定しかつ予め定めた重み付け係数Wsによってピーク立下り期間の微調整値ΔTd=Ws・ΔTを演算して設定することを特徴とする請求項2記載のパルスアーク溶接制御方法。
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