JP4721186B2 - 繊維強化複合材料及びその製造方法 - Google Patents

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本発明は、セルロース繊維の集合体にマトリクス材料を含浸させてなる繊維強化複合材料及びその製造方法に係り、特に可視光の波長よりも細い繊維径のセルロース繊維の集合体にマトリクス材料を含浸させてなる高透明性の繊維強化複合材料において、その透明性をより一層高めると共に、吸湿性を低減する技術に関する。
本発明はまた、このような繊維強化複合材料を利用した有機電界発光素子及び受光素子に関する。
繊維強化複合材料として最も一般的なものに、ガラス繊維に樹脂を含浸させたガラス繊維強化樹脂が知られている。通常、このガラス繊維強化樹脂は不透明なものであるが、ガラス繊維の屈折率とマトリクス樹脂の屈折率とを一致させて、透明なガラス繊維強化樹脂を得る方法が、特許文献1や特許文献2に開示されている。
一方、バクテリアの中には、セルロース繊維を生産するものがあることは知られており、バクテリアにより産生されたセルロース繊維(以下「バクテリアセルロース」と称す。)をシート状、糸状、立体状などの各種の形状に成形してなる成形材料が特許文献3,4に開示されている。
特許文献1,2等に開示される従来のガラス繊維強化樹脂は、使用条件によっては不透明となる場合がある。即ち、物質の屈折率は温度依存性を有しているため、特許文献1,2等に開示されるガラス繊維強化樹脂は、ある温度条件では透明であっても、その温度条件と異なる条件においては、半透明ないし不透明となる。また、屈折率は、物質ごとに波長依存性を有しており、可視光波長のうち特定波長において繊維とマトリクス樹脂との屈折率を合わせても、可視帯域全域においては屈折率がずれる領域が存在する可能性があり、この領域においては、やはり透明性を得ることができない。
一方、特許文献3,4に開示されるバクテリアセルロースは、繊維径4nmの単繊維よりなり、可視光の波長に比べて繊維径は格段に小さいため、可視光の屈折が生じにくい。しかし、特許文献3,4では、バクテリアセルロースを樹脂との複合材料とする場合、バクテリアセルロースを離解して用いている。このように、バクテリアにより産生された産生物にグラインダー等により機械的剪断力を付与して離解した場合には、離解過程でバクテリアセルロース同士が互いに密着し、可視光の屈折、散乱が生じるような繊維径の太い束状となり、その結果、このような離解セルロースを使用したものは透明性に劣るものとなる。
このように、従来においては、温度条件や波長域によらず、常に高い透明性を保持する繊維強化複合材料は提供されていなかった。
そこで、温度条件や波長等に影響を受けることなく、常に高い透明性が維持され、かつ、繊維とマトリクス材料との複合化により様々な機能性が付与された繊維強化複合材料として、本出願人らは、先に、平均繊維径が4〜200nmの繊維とマトリクス材料とを含有し、50μm厚換算における波長400〜700nmの光線透過率が60%以上である繊維強化複合材料と、マトリクス材料を形成し得る含浸用液状物を、繊維に含浸させ、次いで該含浸用液状物を硬化させることにより、この繊維強化複合材料を製造する方法を提案した(特願2004−218962。以下「先願」という。)。
先願の繊維強化複合材料は、より具体的には次のような手順で製造される。
[繊維としてバクテリアセルロースを用いる場合]
(1) バクテリアを培養してバクテリアセルロースを産生させた後、培地からバクテリアを除去して含水バクテリアセルロースを得る。
(2) この含水バクテリアセルロースから水分を除去してバクテリアセルロースを得る。
(3) 得られたバクテリアセルロースに含浸用液状物を含浸させた後硬化させる。
[繊維として植物繊維から分離されたものを用いる場合]
(1) パルプ等を高圧ホモジナイザーで処理して平均繊維径0.1〜10μm程度にミクロフィブリル化したミクロフィブリル化セルロース繊維(以下、「MFC」と略記する。)を0.1〜3重量%程度の水懸濁液とし、更にグラインダー等で繰り返し磨砕ないし融砕処理して平均繊維径10〜100nm程度のナノオーダーのMFC(以下、「Nano MFC」と略記する。)を得る。このNano MFCを0.01〜1重量%程度の水懸濁液とし、これを濾過することにより、シート化して含水Nano MFCとする。
(2) 得られた含水Nano MFCから水分を除去してNano MFCを得る。
(3) 得られたNano MFCに含浸用液状物を含浸させた後硬化させる。
この先願の繊維強化複合材料及びその製造方法によれば、次のような効果が奏される。
[1] 可視光の波長(380〜800nm)より小さい平均繊維径を有する繊維を用いたものであるため、可視光がマトリックスと繊維との界面で殆ど屈折しない。そのため、全可視光領域において、また材料の屈折率に関わりなく、繊維とマトリクス材料との界面での可視光の散乱ロスが殆ど発生しない。このため、全可視光波長域において、温度に関わりなく、50μm厚可視光透過率60%以上の高い透明性を有する。
[2] ガラス繊維強化樹脂並の低い線熱膨張係数とすることができるため、雰囲気温度によって歪みや変形、形状精度低下が問題となりにくく、光学機能が向上し、光学材料として有用である。また、たわみ、歪みや変形等が少ないので、構造材料としても有用である。
[3] ガラス繊維強化樹脂より低い比重とすることができるため、ガラス繊維強化樹脂の応用分野において、その代替材料として用いることにより、軽量化を図ることができる。
[4] 低い誘電率を有するものとすることができるため、通信用光ファイバー等に有用であり、高速伝送が可能である。
[5] 繊維として生分解性のセルロース繊維を用いることにより、廃棄する際に、マトリクス材料の処理法のみに従って処理することができ、廃棄処分ないしはリサイクルにも有利である。
特開平9−207234号公報 特開平7−156279号公報 特開昭62−36467号公報 特開平8−49188号公報 特願2004−218962
上記先願によれば、上述の如く優れた効果が奏されるが、先願の繊維強化複合材料では、強化繊維として用いるセルロース繊維が親水性で吸水性であるために、繊維強化複合材料も吸湿性を示し、このため繊維強化複合材料の適用分野が制約されるという問題があった。特に、繊維含有率の多い繊維強化複合材料では吸湿性が問題となる。一方で、繊維強化複合材料の熱膨張率の低減のためには、繊維含有率を多くする必要があるが、繊維含有率を多くすると吸湿性が問題となり、低熱膨張率で吸湿性の低い繊維強化複合材料を実現することが困難であった。また、透明性についてもより一層の向上が望まれる。
従って、本発明は上記先願の不具合を解決し、セルロース繊維集合体にマトリクス材料を含浸させてなる繊維強化複合材料、好ましくは、平均繊維径が4〜200nmのセルロース繊維集合体にマトリクス材料を含浸させてなる高透明性の繊維強化複合材料であって、セルロース繊維に起因する吸湿性が改善されると共に、透明性がより一層高められた繊維強化複合材料を提供することを目的とする。
本発明はまた、このような繊維強化複合材料を効率的に製造する方法を提供することを目的とする。
本発明はまた、このような繊維強化複合材料を利用した有機電界発光素子及び受光素子を提供することを目的とする。
本発明(請求項1)の繊維強化複合材料は、平均繊維径が4〜200nmのセルロース繊維の集合体に、マトリクス材料を含浸させてなる繊維強化複合材料であって、該セルロース繊維の水酸基は、酸、アルコール、ハロゲン化試薬、酸無水物、及びイソシアナートよりなる群から選ばれる1種又は2種以上よりなる化学修飾剤との反応で化学修飾されており、該化学修飾による官能基の導入割合が、化学修飾前の該セルロース繊維の水酸基に対して5〜40モル%であることを特徴とする。
本発明(請求項2)の繊維強化複合材料は、セルロース繊維のシート状集合体に、マトリクス材料を含浸させてなる繊維強化複合材料であって、該セルロース繊維の水酸基は、酸、アルコール、ハロゲン化試薬、酸無水物、及びイソシアナートよりなる群から選ばれる1種又は2種以上よりなる化学修飾剤との反応で化学修飾されており、該化学修飾による官能基の導入割合が、化学修飾前の該セルロース繊維の水酸基に対して5〜40モル%であることを特徴とする。
請求項3の繊維強化複合材料は、請求項2において、前記セルロース繊維集合体は平均繊維径が4〜200nmのセルロース繊維の集合体であることを特徴とする。
請求項の繊維強化複合材料は、請求項1ないし3のいずれか1項において、該官能基がアセチル基、メタクリロイル基、プロパノイル基、ブタノイル基、iso−ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、ノナノイル基、デカノイル基、ウンデカノイル基、ドデカノイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、ピバロイル基、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアノイル基、メチル基、エチル基、プロピル基、iso−プロピル基、ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、ミリスチル基、パルミチル基、及びステアリル基よりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする。
請求項の繊維強化複合材料は、請求項において、該官能基がアセチル基及び/又はメタクリロイル基であることを特徴とする。
請求項の繊維強化複合材料は、請求項1ないしのいずれか1項において、該官能基の導入割合が該セルロース繊維の水酸基に対して10〜25モル%であることを特徴とする
求項の繊維強化複合材料は、請求項1ないしのいずれか1項において、前記セルロース繊維がバクテリアセルロースであることを特徴とする。
請求項の繊維強化複合材料は、請求項1ないしのいずれか1項において、前記セルロース繊維が植物繊維から分離されたものであることを特徴とする。
請求項の繊維強化複合材料は、請求項において、前記セルロース繊維がミクロフィブリル化セルロース繊維を更に磨砕処理してなることを特徴とする。
請求項10の繊維強化複合材料は、請求項1ないしのいずれか1項において、製造された繊維強化複合材料の繊維含有率が10重量%以上であることを特徴とする。
請求項11の繊維強化複合材料は、請求項1ないし10のいずれか1項において、前記マトリクス材料が合成高分子であることを特徴とする。
本発明(請求項12)の繊維強化複合材料は、平均繊維径が4〜200nmのセルロース繊維の集合体に、マトリクス材料を含浸させてなる繊維強化複合材料であって、下記の吸湿率測定方法で測定した吸湿率が3%以下であることを特徴とする。
[吸湿率の測定方法]
(1) 試料を乾燥雰囲気下、50℃で24h静置後、重量を測定した(乾燥重量W)。
(2) 次に20℃で湿度60%の雰囲気下に、重量が一定になるまで静置後、重量を測定した(吸湿重量W)。
(3) 乾燥重量W及び吸湿重量Wより、下記式で吸湿率を算出した。
吸湿率(%)=(W−W)÷W×100
請求項13の繊維強化複合材料は、請求項12において、請求項1ないし11のいずれか1項に記載の繊維強化複合材料であることを特徴とする。
本発明(請求項14)の繊維強化複合材料の製造方法は、このような本発明の繊維強化複合材料を製造する方法であって、平均繊維径が4〜200nmのセルロース繊維集合体を、前記化学修飾剤を含む反応液と接触させて、該セルロース繊維の水酸基と前記化学修飾剤との反応で化学修飾することにより誘導体化セルロース繊維集合体を得、該誘導体化セルロース繊維集合体に前記マトリクス材料を形成し得る含浸用液状物を含浸させ、次いで該含浸用液状物を硬化させることを特徴とする。
請求項15の製造方法は、請求項14において、該セルロース繊維集合体に水が含浸された含水セルロース繊維集合体を製造する工程と、該含水セルロース繊維集合体中の水を、有機溶媒(以下「第1の有機溶媒」と称す。)で置換する第2の工程と、第2の工程を経たセルロース繊維集合体に含まれる第1の有機溶媒を前記反応液に置換して保持することにより前記誘導体化セルロース繊維集合体を得る第3の工程とを有することを特徴とする。
請求項16の繊維強化複合材料の製造方法は、請求項15において、前記第3の工程を経た反応液を含む前記誘導体化セルロース繊維集合体に含まれる反応液を第2の有機溶媒と置換する第4の工程と、該第4の工程を経たセルロース繊維集合体に含まれる第2の有機溶媒を前記マトリクス材料を形成し得る含浸用液状物と置換して硬化させる第5の工程とを有することを特徴とする。
本発明(請求項17)の有機電界発光素子は、請求項1ないし13のいずれか1項に記載の繊維強化複合材料又は請求項14ないし16のいずれか1項に記載の繊維強化複合材料の製造方法で製造された繊維強化複合材料からなる透明基板を備えてなることを特徴とする
本発明によれば、セルロース繊維の水酸基を化学修飾することにより、セルロース繊維の親水性を低減し、これにより繊維強化複合材料の吸湿性を低減すると共に、セルロース繊維とマトリクス材料との親和性を高めることにより、透明性をより一層高めることができる。
即ち、セルロースは無水グルコース単位につき3つの水酸基を有する特異な構造をした天然高分子であるため、セルロース繊維の表面或いは内側の非結晶領域において、この水酸基が水素結合により水を強く吸着する。このため、セルロース繊維は吸湿性が高く、セルロース繊維を含む繊維強化複合材料は吸湿性を示すものとなる。本発明では、このような、セルロース繊維の水酸基を適当な官能基で化学修飾し、セルロース繊維への水の化学吸着を抑えることにより、繊維強化複合材料の吸湿性を改善する。
また、このように官能基を導入してセルロース繊維を化学修飾することにより、セルロース繊維とマトリクス材料との親和性も高められ、この結果、セルロース繊維とマトリクス材料との密着性が良好なものとなり、セルロース繊維間にマトリクス材料が十分に充填されセルロース繊維とマトリクス材料との間の空隙の形成が防止されることによって、繊維強化複合材料の透明性が高められる。
特に、繊維強化複合材料のマトリクス材料が、化学修飾によりセルロース繊維の水酸基に導入された官能基と同様の官能基を有する場合、セルロース繊維とマトリクス材料との界面で共重合によりセルロース繊維とマトリクス材料とが結合し、水の浸入を妨げると共に、良好な透明性を呈するようになる。
本発明において、セルロース繊維への官能基の導入割合は、化学修飾前のセルロース繊維の水酸基に対する化学修飾により導入された官能基のモル百分率(以下、この導入割合を「化学修飾度」と称す場合がある。)で5〜60モル%、好ましくは5〜40モル%とする。この化学修飾度が下限を下回ると十分な吸湿性、透明性の改善効果を得ることができず、上限を超える化学修飾を行なった場合、透明性の低下、高吸湿化、強度低下等が懸念されるため適当ではない。特に、セルロース繊維へアシル基を導入する場合、セルロース、セルロース繊維の水酸基に導入されるアシル基は、モル百分率で5〜60モル%であることが好ましく、20モル%以上であることが特に好ましく、40%モル以下であることが更に好ましく、32%モル以下であることが特に好ましい。
本発明において、化学修飾によりセルロース繊維の水酸基に導入する官能基としては、アセチル基、メタクリロイル基、プロパノイル基、ブタノイル基、iso−ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、ノナノイル基、デカノイル基、ウンデカノイル基、ドデカノイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、ピバロイル基、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアノイル基、メチル基、エチル基、プロピル基、iso−プロピル基、ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、ミリスチル基、パルミチル基、及びステアリル基よりなる群から選ばれる1種又は2種以上が挙げられ、特に、プロパノイル基、ブタノイル基、アセチル基、及びメタクリロイル基よりなる群から選ばれる1種又は2種以上が好ましく、とりわけ、プロパノイル基、及び/又はブタノイル基が好ましい。また、化学修飾度は、特に10〜25モル%であることが好ましい。
本発明の繊維強化複合材料のセルロース繊維としては、平均繊維径が4〜200nmのセルロース繊維が好ましく、具体的には、バクテリアセルロース或いは植物繊維から分離されたセルロース繊維、特にミクロフィブリル化セルロース繊維を更に磨砕処理してなるナノオーダーのミクロフィブリル化セルロース繊維が好適であり、繊維強化複合材料中のセルロース繊維の含有率は10重量%以上であることが好ましい。
本発明の繊維強化複合材料は、特にマトリクス材料が合成高分子である場合に有効である。
このような本発明の繊維強化複合材料によれば、下記の吸湿率測定方法で測定された吸湿率が3%以下であるような低吸湿性の繊維強化複合材料が提供される。
[吸湿率の測定方法]
(1) 試料を乾燥雰囲気下、50℃で24h静置後、重量を測定した(乾燥重量W)。
(2) 次に20℃で湿度60%の雰囲気下に、重量が一定になるまで静置後、重量を測定した(吸湿重量W)。
(3) 乾燥重量W及び吸湿重量Wより、下記式で吸湿率を算出した。
吸湿率(%)=(W−W)÷W×100
このような本発明の繊維強化複合材料は、本発明の方法により、特に、該セルロース繊維集合体に水が含浸された含水セルロース繊維集合体を製造する工程と、該含水セルロース繊維集合体中の水を、第1の有機溶媒で置換する第2の工程と、第2の工程を経たセルロース繊維集合体に含まれる第1の有機溶媒を前記反応液に置換して保持する第3の工程と、第3の工程を経た反応液を含むセルロース繊維集合体に含まれる反応液を第2の有機溶媒と置換する第4の工程と、該第4の工程を経たセルロース繊維集合体に含まれる第2の有機溶媒を前記マトリクス材料を形成し得る含浸用液状物と置換して硬化させる第5の工程とを有する本発明の方法により、効率的に製造される。
即ち、本発明の繊維強化複合材料を製造するに当たり、セルロース繊維集合体の水酸基を化学修飾する際に、セルロース繊維集合体を単に化学修飾剤としての、酸、アルコール、ハロゲン化試薬、酸無水物、及びイソシアナートよりなる群から選ばれる1種又は2種以上を含む反応液に浸漬したのみでは、反応液が十分にセルロース繊維集合体内部にまで浸透せず、実用的な反応速度を得ることができない。これは、セルロース繊維集合体は、後述の如く、セルロース繊維の三次元交差構造となっているため、このような構造体の内部に反応液を十分に浸透させて、セルロース繊維と反応液とを接触させることは容易ではないことによる。
本発明では、含水セルロース繊維集合体中の水を、第1の有機溶媒で置換した後、この第1の有機溶媒を含むセルロース繊維集合体を反応液に浸漬することにより、セルロース繊維集合体中に反応液を円滑に浸透させ、高い反応効率でセルロース繊維の化学修飾を行うことができる。また、化学修飾後のセルロース繊維集合体中の反応液を第2の有機溶媒と置換した後、この第2の有機溶媒を含浸用液状物と置換することにより、含浸用液状物をセルロース繊維集合体中に円滑に含浸させることができる。
このような本発明の繊維強化複合材料により、高品質の透明基板を製造することができ、この透明基板は有機電界発光素子や受光素子の透明基板として有用である。
以下に本発明の繊維強化複合材料及びその製造方法の実施の形態を詳細に説明する。
[セルロース繊維集合体]
まず、本発明に係るセルロース繊維集合体について説明する。
本発明に好適なセルロース繊維集合体の構成繊維は以下の通りである。
本発明では、セルロース繊維として、好ましくは平均繊維径4〜200nmのものを用いる。この繊維は、単繊維が、引き揃えられることなく、且つ相互間にマトリクス材料が入り込むように十分に離隔して存在するものより成ってもよい。この場合、平均繊維径は単繊維の平均径となる。また、本発明に係る繊維は、複数(多数であってもよい)本の単繊維が束状に集合して1本の糸条を構成しているものであってもよく、この場合、平均繊維径は1本の糸条の径の平均値として定義される。バクテリアセルロースは、後者の糸条よりなるものである。
本発明において、セルロース繊維の平均繊維径が200nmを超えると、可視光の波長に近づき、マトリクス材料との界面で可視光の屈折が生じ易くなり、透明性が低下することとなるため、本発明で用いるセルロース繊維の平均繊維径の上限は200nmとする。平均繊維径4nm未満のセルロース繊維は製造が困難であり、例えばセルロース繊維として好適な後述のバクテリアセルロースの単繊維径は4nm程度であることから、本発明で用いるセルロース繊維の平均繊維径の下限は4nmとする。本発明で用いるセルロース繊維の平均繊維径は、好ましくは4〜100nmであり、より好ましくは4〜60nmである。
なお、本発明で用いるセルロース繊維は、平均繊維径が4〜200nmの範囲内であれば、セルロース繊維中に4〜200nmの範囲外の繊維径のものが含まれていても良いが、その割合は30重量%以下であることが好ましく、望ましくは、すべての繊維の繊維径が200nm以下、特に100nm以下、とりわけ60nm以下であることが望ましい。
なお、セルロース繊維の長さについては特に限定されないが、平均長さで100nm以上が好ましい。セルロース繊維の平均長さが100nmより短いと、補強効果が低く、繊維強化複合材料の強度が不十分となるおそれがある。なお、セルロース繊維中には繊維長さ100nm未満のものが含まれていても良いが、その割合は30重量%以下であることが好ましい。
本発明において用いるセルロース繊維は、後述するように、得られる繊維強化複合材料の線熱膨張係数をより小さくすることができるので好ましい。
セルロース繊維とは、植物細胞壁の基本骨格等を構成するセルロースのミクロフィブリル又はこれの構成繊維をいい、通常繊維径4nm程度の単位繊維の集合体である。このセルロース繊維は、結晶構造を40%以上含有するものが、高い強度と低い熱膨張を得る上で好ましい。
本発明において、用いるセルロース繊維は、植物から分離されるものであってもよいが、バクテリアセルロースによって産生されるバクテリアセルロースが好適であり、特にバクテリアからの産生物をアルカリ処理してバクテリアを溶解除去して得られるものを離解処理することなく用いるのが好適である。
以下にバクテリアセルロースの製造方法について説明する。
地球上においてセルロースを生産し得る生物は、植物界は言うに及ばず、動物界ではホヤ類、原生生物界では、各種藻類、卵菌類、粘菌類など、またモネラ界では藍藻及び酢酸菌、土壌細菌の一部に分布している。現在のところ、菌界(真菌類)にはセルロース生産能は確認されていない。このうち酢酸菌としては、アセトバクター(Acetobacter)属等が挙げられ、より具体的には、アセトバクターアセチ(Acetobacter aceti)、アセトバクターサブスピーシーズ(Acetobacter subsp.)、アセトバクターキシリナム(Acetobacter xylinum)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。なお、バクテリアセルロースを生産する生物は2種以上を用いても良い。
このようなバクテリアを培養することにより、バクテリアからセルロースが産生される。得られた産生物は、バクテリアとこのバクテリアから産生されて該バクテリアに連なっているセルロース繊維(バクテリアセルロース)とを含むものであるため、この産生物を培地から取り出し、それを水洗、又はアルカリ処理などしてバクテリアを除去することにより、バクテリアを含まない含水バクテリアセルロースを得ることができる。
培地としては、寒天状の固体培地や液体培地(培養液)が挙げられ、培養液としては、例えば、ココナッツミルク(全窒素分0.7重量%,脂質28重量%)7重量%、ショ糖8重量%を含有し、酢酸でpHを3.0に調整した培養液や、グルコース2重量%、バクトイーストエクストラ0.5重量%、バクトペプトン0.5重量%、リン酸水素二ナトリウム0.27重量%、クエン酸0.115重量%、硫酸マグネシウム七水和物0.1重量%とし、塩酸によりpH5.0に調整した水溶液(SH培地)等が挙げられる。
培養方法としては、例えば、次の方法が挙げられる。ココナッツミルク培養液に、アセトバクターキシリナム(Acetobacter xylinum)FF−88等の酢酸菌を植菌し、例えばFF−88であれば、30℃で5日間、静置培養を行って一次培養液を得る。得られた一次培養液のゲル分を取り除いた後、液体部分を、上記と同様の培養液に5重量%の割合で加え、30℃、10日間静置培養して、二次培養液を得る。この二次培養液には、約1重量%のセルロース繊維が含有されている。
また、他の培養方法として、培養液として、グルコース2重量%、バクトイーストエクストラ0.5重量%、バクトペプトン0.5重量%、リン酸水素二ナトリウム0.27重量%、クエン酸0.115重量%、硫酸マグネシウム七水和物0.1重量%とし、塩酸によりpH5.0に調整した水溶液(SH培養液)を用いる方法が挙げられる。この場合、凍結乾燥保存状態の酢酸菌の菌株にSH培養液を加え、1週間静置培養する(25〜30℃)。培養液表面にバクテリアセルロースが生成するが、これらのうち、厚さが比較的厚いものを選択し、その株の培養液を少量分取して新しい培養液に加える。そして、この培養液を大型培養器に入れ、25〜30℃で7〜30日間の静地培養を行う。バクテリアセルロースは、このように、「既存の培養液の一部を新しい培養液に加え、約7〜30日間静置培養を行う」ことの繰り返しにより得られる。
菌がセルロースを作りにくいなどの不具合が生じた場合は、以下の手順を行う。即ち、培養液に寒天を加えて作成した寒天培地上に、菌培養中の培養液を少量撒き、1週間ほど放置してコロニーを作成させる。それぞれのコロニーを観察して、比較的セルロースをよく作るようなコロニーを寒天培地から取り出し、新しい培養液に投入し、培養を行う。
このようにして産出させたバクテリアセルロースを培養液中から取り出し、バクテリアセルロース中に残存するバクテリアを除去する。その方法として、水洗またはアルカリ処理などが挙げられる。バクテリアを溶解除去するためのアルカリ処理としては、培養液から取り出したバクテリアセルロースを0.01〜10重量%程度のアルカリ水溶液に1時間以上注加する方法が挙げられる。そして、アルカリ処理した場合は、アルカリ処理液からバクテリアセルロースを取り出し、十分水洗し、アルカリ処理液を除去する。
このようにして得られる含水バクテリアセルロースは、通常、含水率95〜99.9%、繊維含有率0.1〜5体積%であり、平均繊維径が50nm程度の単繊維の三次元交差構造の繊維集合体(以下、三次元交差構造をとるバクテリアセルロースを「三次元交差バクテリアセルロース構造体」と称す場合がある。)に水が含浸された状態のものである。
この「三次元交差バクテリアセルロース構造体」とは「バクテリアセルロースが三次元的な交差構造をとることにより嵩高(スカスカ)の状態ではあるが一つの構造体として扱えるようになっている物体」を意味し、セルロース繊維を産生するバクテリアを前述の如く、培養液で培養することにより形成される。
即ち、バクテリアがセルロースを産生(排出)しながらランダムに動き回ることによりセルロースが複雑に(三次元的に)交差している構造となった状態を云う。この複雑な交差はバクテリアが分裂してセルロースが分岐を生ずることにより更に複雑化した交差状態となる。
なお、このような三次元交差バクテリアセルロース構造体は適当な形状、即ちフィルム状、板状、ブロック状、所定の形状(例えばレンズ状)等の形状で培養すれば、その形状に従って形成される。従って、目的に応じ任意の形状の三次元交差バクテリアセルロース構造体を得ることができる。
なお、含水バクテリアセルロースの製造にあたっては、前述したようにバクテリアを除去するためのアルカリ処理や水等での洗浄処理が行われるが、これらの処理によっては三次元交差したバクテリアセルロースはその三次元交差が解除されることはない。また、後述の如く、含水バクテリアセルロース中の水を媒介液と置換する工程や、その前後でのプレス工程を経ても、この三次元交差状態はそのまま維持される。
本発明において、繊維としては、好ましくは、上述のようなバクテリアセルロースを用いるが、海草やホヤの被嚢、植物細胞壁等に、叩解・粉砕等の処理、高温高圧水蒸気処理、リン酸塩等を用いた処理等を施したセルロース繊維を用いても良い。
この場合、上記叩解・粉砕等の処理は、リグニン等を除去した植物細胞壁や海草やホヤの被嚢に、直接、力を加え、叩解や粉砕を行って繊維をバラバラにし、セルロース繊維を得る処理法である。
より具体的には、後述の実施例に示すように、パルプ等を高圧ホモジナイザーで処理して平均繊維径0.1〜10μm程度にミクロフィブリル化したミクロフィブリル化セルロース繊維(MFC)を0.1〜3重量%程度の水懸濁液とし、更にグラインダー等で繰り返し磨砕ないし融砕処理して平均繊維径10〜100nm程度のナノオーダーのMFC(Nano MFC)を得ることができる。このNano MFCを0.01〜1重量%程度の水懸濁液とし、これを濾過することにより、シート化する。
上記磨砕ないし融砕処理は、例えば、栗田機械製作所製グラインダー「ピュアファインミル」等を用いて行うことができる。
このグラインダーは、上下2枚のグラインダーの間隙を原料が通過するときに発生する衝撃、遠心力、剪断力により、原料を超微粒子に粉砕する石臼式粉砕機であり、剪断、磨砕、微粒化、分散、乳化、フィブリル化を同時に行うことができるものである。また、磨砕ないし融砕処理は、増幸産業(株)製超微粒磨砕機「スーパーマスコロイダー」を用いて行うこともできる。スーパーマスコロイダーは、単なる粉砕の域を越えた融けるように感じるほどの超微粒化を可能にした磨砕機である。スーパーマスコロイダーは、間隔を自由に調整できる上下2枚の無気孔砥石によって構成された石臼形式の超微粒磨砕機であり、上部砥石は固定で、下部砥石が高速回転する。ホッパーに投入された原料は遠心力によって上下砥石の間隙に送り込まれ、そこで生じる強大な圧縮、剪断、転がり摩擦力などにより、原料は次第にすり潰され、超微粒化される。
また、上記高温高圧水蒸気処理は、リグニン等を除去した植物細胞壁や海草やホヤの被嚢を高温高圧水蒸気に曝すことによって繊維をバラバラにし、セルロース繊維を得る処理法である。
また、リン酸塩等を用いた処理とは、海草やホヤの被嚢、植物細胞壁等の表面をリン酸エステル化することにより、セルロース繊維間の結合力を弱め、次いで、リファイナー処理を行うことにより、繊維をバラバラにし、セルロース繊維を得る処理法である。例えば、リグニン等を除去した植物細胞壁や、海草やホヤの被嚢を50重量%の尿素と32重量%のリン酸を含む溶液に浸漬し、60℃で溶液をセルロース繊維間に十分に染み込ませた後、180℃で加熱してリン酸化を進める。これを水洗した後、3重量%の塩酸水溶液中、60℃で2時間、加水分解処理をして、再度水洗を行う。その後、3重量%の炭酸ナトリウム水溶液中において、室温で20分間程処理することで、リン酸化を完了させる。そして、この処理物をリファイナーで解繊することにより、セルロース繊維が得られる。
なお、これらのセルロース繊維は、異なる植物等から得られるもの、或いは異なる処理を施したものを2種以上混合して用いても良い。
このようにして得られる含水Nano MFCは、通常、平均繊維径が100nm程度の単繊維のサブネットワーク構造(前述のバクテリアセルロースのような完全な(綺麗な)ネットワーク構造は取っていないが、局所的にネットワークを形成している構造)の繊維集合体に水が含浸された状態のものである。
上述のようにして得られる含水バクテリアセルロース又は含水Nano MFC等の含水セルロース繊維集合体は、次いで水分の除去処理を行う。
この水分除去法としては、特に限定されないが、放置やコールドプレス等でまず水をある程度抜き、次いで、そのまま放置するか、又はホットプレス等で残存の水を完全に除去する方法、コールドプレス法の後、乾燥機にかけたり、自然乾燥させたりして水を除去する方法等が挙げられる。
上記の水をある程度抜く方法としての放置は、時間をかけて水を徐々に揮散させる方法である。
上記コールドプレスとは、熱をかけずに圧を加えて、水を抜き出す方法であり、ある程度の水を絞り出すことができる。このコールドプレスにおける圧力は、0.01〜10MPaが好ましく、0.1〜3MPaがより好ましい。圧力が0.01MPaより小さいと、水の残存量が多くなる傾向があり、10MPaより大きいと、得られるセルロース繊維集合体が破壊される場合がある。また、温度は特に限定されないが、操作の便宜上、常温が好ましい。
上記の残存の水を完全に除去する方法としての放置は、時間をかけてセルロース繊維集合体を乾燥させる方法である。
上記ホットプレスとは、熱を加えながら圧をかけることにより、水を抜き出す方法であり、残存の水を完全に除去することができる。このホットプレスにおける圧力は、0.01〜10MPaが好ましく、0.2〜3MPaがより好ましい。圧力が0.01MPaより小さいと、水を除去できなくなる場合があり、10MPaより大きいと、得られるセルロース繊維集合体が破壊される場合がある。また、温度は100〜300℃が好ましく、110〜200℃がより好ましい。温度が100℃より低いと、水の除去に時間を要し、一方、300℃より高いと、セルロース繊維集合体の分解等が生じるおそれがある。
また、上記乾燥機による乾燥温度についても、100〜300℃が好ましく、110〜200℃がより好ましい。乾燥温度が100℃より低いと、水の除去ができなくなる場合があり、一方、300℃より高いと、セルロース繊維の分解等が生じるおそれがある。
このようにして得られるセルロース繊維集合体は、その製造条件やその後の水分除去時の加圧、加熱条件等によっても異なるが、通常、嵩密度1.1〜3kg/m程度、厚さ40〜60μm程度のシート状となっている。
[誘導体化セルロース繊維集合体]
次に、上述のようなセルロース繊維集合体の水酸基を化学修飾して誘導体化セルロース繊維集合体を製造する方法について説明する。
本発明では、セルロース繊維集合体のセルロース繊維の水酸基を、酸、アルコール、ハロゲン化試薬、酸無水物、及びイソシアナートよりなる群から選ばれる1種又は2種以上で化学修飾することにより、疎水性官能基をエーテル結合、エステル結合、ウレタン結合のいずれか1種以上により導入する。
本発明において、化学修飾によりセルロース繊維の水酸基に導入する官能基としては、アセチル基、メタクリロイル基、プロパノイル基、ブタノイル基、iso−ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、ノナノイル基、デカノイル基、ウンデカノイル基、ドデカノイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、ピバロイル基、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアノイル基、メチル基、エチル基、プロピル基、iso−プロピル基、ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、ミリスチル基、パルミチル基、ステアリル基等が挙げられ、セルロース繊維の水酸基には、これらの官能基の1種が導入されていても良く、2種以上が導入されていても良い。
これらのうち、特にエステル系官能基が好ましく、とりわけ、アセチル基、及び/又はメタクリロイル基が好ましい。
特に、マトリクス材料としての合成高分子が有する官能基と同一ないしは同種の官能基を導入することにより、前述のように、セルロース繊維の官能基とマトリクス材料の樹脂の官能基とで共有結合し、良好な吸湿性低減効果と透明性向上効果が得られ好ましい。
また、メタクリロイル基、ピバロイル基、長鎖アルキル基、長鎖アルカノイル基、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアノイル基等のように比較的嵩高い官能基を導入する場合、このような嵩高い官能基のみでセルロース繊維の水酸基を高い化学修飾度で化学修飾することは困難である。従って、このような嵩高い官能基を導入する場合には、嵩高い官能基を一旦導入した後、再度化学修飾を行って、残余の水酸基にアセチル基、プロパノイル基、メチル基、エチル基等の嵩の小さい官能基を導入して化学修飾度を高めることが好ましい。
なお、上記官能基を導入するための酸、アルコール、ハロゲン化試薬、酸無水物、及びイソシアナートよりなる群から選ばれる1種又は2種以上よりなる化学修飾剤としては、具体的には次のようなものが挙げられる。
Figure 0004721186
本発明において、セルロース繊維の化学修飾による化学修飾度が少なすぎると、化学修飾により官能基を導入したことによる吸湿性、透明性の改善効果を十分に得ることができない。一方、セルロース繊維の内側の領域に存在する水酸基を(ほぐしながら)化学修飾することは吸湿性を抑える目的において無意味であるばかりでなく、力学的強度の低下等が懸念されるため、化学修飾度としては、40モル%以下が適当である。従って化学修飾度は5〜40モル%、好ましくは10〜25モル%とする。
セルロース繊維の化学修飾は常法に従って行うことができ、例えば、前述のセルロース繊維集合体を化学修飾剤を含む溶液に浸漬して適当な条件で所定の時間保持する方法などを採用することができる。
この場合、化学修飾剤を含む反応溶液としては、化学修飾剤と触媒のみであっても良く、化学修飾剤の溶液であっても良い。化学修飾剤及び触媒を溶解する溶媒としては特に制限は無い。触媒としてはピリジンやN,N−ジメチルアミノピリジン、トリエチルアミン、水素ナトリウム、tert−ブチルリチウム、リチウムジイソプロピルアミド、カリウムtert−ブトキシド、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、水酸化ナトリウム、酢酸ナトリウム等の塩基性触媒や酢酸、硫酸、過塩素酸等の酸性触媒を用いることができる。反応速度の速さや、重合度低下の防止のためピリジン等の塩基性触媒を用いることが好ましい。化学修飾によるセルロース繊維集合体の着色の問題が無く、反応温度を高めて化学修飾度を高めることができる点においては、酢酸ナトリウムが好ましい。また、化学修飾によるセルロース繊維集合体の着色の問題が無く、室温下、短時間かつ少量の化学修飾剤添加量の反応条件において化学修飾度を高めることができる点においては、過塩素酸あるいは硫酸が好ましい。反応溶液を化学修飾剤溶液とする場合、反応溶液中の化学修飾剤濃度は1〜75重量%であることが好ましく、塩基性触媒存在下においては25〜75重量%であることが更に好ましく、また、酸性触媒存在下においては1〜20重量%であることが更に好ましい。
化学修飾処理に於ける温度条件としては過度に高いとセルロース繊維の黄変や重合度の低下等が懸念され、過度に低いと反応速度が低下することから40〜100℃程度が適当である。この化学修飾処理においては、1kPa程度の減圧条件下、1時間程度静置し、セルロース繊維集合体内部の細部に反応溶液を内部までよく注入することでセルロース繊維と化学修飾剤との接触効率を高めるようにしても良い。また、反応時間は用いる反応液及びその処理条件による反応速度に応じて適宜決定されるが通常、1日〜14日程度である。
[誘導体化セルロース繊維集合体の好適な製造方法]
前述の如く、コールドプレス、ホットプレス、或いは乾燥機による乾燥等で含水セルロース繊維集合体から水分を除去して得られるセルロース繊維集合体は、その繊維の三次元交差構造のために、前述の化学修飾剤を含む反応液の浸透性が悪く、化学修飾の際の反応速度が遅いという欠点がある。
そこで、本発明では、前述のセルロース繊維集合体の製造工程において、水分除去処理を行う前の水分を含む含水バクテリアセルロース又は含水Nano MFC等の含水セルロース繊維集合体を、必要に応じてコールドプレスのみを行って、水分の一部のみを除去し、若干の水分を含む状態とし(第1の工程)、この含水セルロース繊維集合体中の水を、適当な有機溶媒(第1の有機溶媒)と置換し(第2の工程)、この有機溶媒を含むセルロース繊維集合体を反応液に接触させることにより、含水セルロース繊維集合体内に反応液を効率的に浸透させ(第3の工程)、セルロース繊維と反応液との接触効率を高めることにより化学修飾の反応速度を高めることが好ましい。
ここで、用いる第1の有機溶媒としては含水セルロース繊維集合体内の水から第1の有機溶媒へ、更に化学修飾剤を含む反応液への置換を円滑に行なうために水及び、化学修飾剤を含む反応液と互いに均一に混ざり、なおかつ、水及び反応液よりも低沸点であるものが好ましく、特に、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等のアルコール;アセトン等のケトン;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル;N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド;酢酸等のカルボン酸;アセトニトリル等のニトリル類等、その他ピリジン等の芳香族複素環化合物等の水溶性有機溶媒が好ましく、入手の容易さ、取り扱い性等の点において、エタノール、アセトン等が好ましい。これらの有機溶媒は1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
含水セルロース繊維集合体中の水を第1の有機溶媒と置換する方法としては特に制限はないが、含水セルロース繊維集合体を第1の有機溶媒中に浸漬して所定の時間放置することにより含水セルロース繊維集合体中の水を第1の有機溶媒側へ浸出させ、浸出した水を含む第1の有機溶媒を適宜交換することによりセルロース繊維集合体中の水を第1の有機溶媒と置換する方法が挙げられる。この浸漬置換の温度条件は、第1の有機溶媒の揮散を防止するために、0〜60℃程度とすることが好ましく、通常は室温で行われる。
なお、この含水セルロース繊維集合体中の水を第1の有機溶媒と置換するに先立ち、含水セルロース繊維集合体をコールドプレスして、セルロース繊維集合体中に含まれる水分の一部を除去することが、水と第1の有機溶媒との置換を効率的に行う上で好ましい。
このプレスの程度は、後述の誘導体化セルロース繊維集合体への含浸用液状物の含浸に先立つプレスとで、目的とする繊維含有率の繊維強化複合材料が得られるように設計されるが、一般的には、プレスにより、含水セルロース繊維集合体の厚さがプレス前の厚さの1/2〜1/20程度となるようにすることが好ましい。このコールドプレス時の圧力、保持時間は、0.01〜100MPa(ただし、10MPa以上でプレスする場合は、セルロース繊維集合体が破壊される場合があるので、プレススピードを遅くするなどしてプレスする。)、0.1〜30分間の範囲でプレスの程度に応じて適宜決定される。プレス温度は、上記の水と有機溶媒との置換時の温度条件と同様の理由から0〜60℃程度とすることが好ましいが、通常は室温で行われる。このプレス処理により厚さが薄くなった含水セルロース繊維集合体は、水と第1の有機溶媒との置換を行っても、ほぼその厚さが維持される。ただし、このプレスは必ずしも必要とされず、含水セルロース繊維集合体をそのまま第1の有機溶媒に浸漬して水と第1の有機溶媒との置換を行っても良い。
このようにして、含水セルロース繊維中の水を第1の有機溶媒と置換した後、有機溶媒を含むセルロース繊維集合体を前述の反応液中に浸漬して化学修飾を行う。この際の処理条件としては、前述の水を除去した後のセルロース繊維集合体の化学修飾処理の際の処理条件と同様であるが、反応速度の向上で処理時間については1日〜7日程度に短縮することができる。
[誘導体化セルロース繊維集合体からの繊維強化複合材料の製造]
上述のようにして得られた誘導体化セルロース繊維集合体から本発明の繊維強化複合材料を製造するには、化学修飾処理後の反応液を含む誘導体化セルロース繊維集合体中の反応液をマトリクス材料を形成し得る含浸用液状物と置換し、その後、含浸用液状物を硬化させれば良い。
また、誘導体化セルロース繊維集合体への含浸用液状物の含浸には、化学修飾処理後の反応液を含む誘導体化セルロース繊維集合体をホットプレスして乾燥誘導体化セルロース繊維集合体とし、この乾燥誘導体化セルロース繊維集合体に含浸用液状物を含浸させても良い。
或いは、化学修飾処理後の反応液を含む誘導体化セルロース繊維集合体中に含まれる反応液を有機溶媒(第2の有機溶媒)と置換し(第4の工程)、即ち、化学修飾処理後の反応液を含む誘導体化セルロース繊維集合体を第2の有機溶媒へ漬けて、反応液を洗い流し(この際、第2の有機溶媒を数回交換する)、その後、必要に応じて、第2の有機溶媒漬け誘導体化セルロース繊維集合体をホットプレスして乾燥誘導体化セルロース繊維集合体とした後含浸用液状物を含浸する。或いは、第2の有機溶媒漬け誘導体化セルロース繊維集合体をコールドプレスして成形後、含浸用液状物へ含浸して、第2の有機溶媒と含浸用液状物とを置換する(第5の工程)ようにしても良く、この場合には、誘導体化セルロース繊維集合体中への含浸用液状物の含浸を効率的に行うことができる。なお、以下において、このようにして、化学修飾処理後の反応液を含む誘導体化セルロース繊維集合体中に含まれる反応液を有機溶媒と置換し、その後含浸用液状物を含浸する方法を、「有機溶媒置換法」と称す場合がある。
ここで、用いる第2の有機溶媒としては、化学修飾剤を含む反応溶液から第2の有機溶媒へ、更に含浸用液状物への置換を円滑に行うために、反応液及び含浸用液状物と互いに均一に混ざり、なおかつ、低沸点であるものが好ましく、特に、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等のアルコール;アセトン等のケトン;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル;N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド;酢酸等のカルボン酸;アセトニトリル等のニトリル類等、その他ピリジン等の芳香族複素環化合物等の水溶性有機溶媒が好ましく、入手の容易さ、取り扱い性等の点において、エタノール、アセトン等が好ましい。これらの有機溶媒は1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
反応液を含む誘導体化セルロース繊維集合体中の反応液を第2の有機溶媒と置換する方法としては特に制限はないが、このセルロース繊維集合体を第2の有機溶媒中に浸漬して所定の時間放置することによりセルロース繊維集合体中の反応液を第2の有機溶媒側へ浸出させ、浸出した反応液を含む第2の有機溶媒を適宜交換することにより誘導体化セルロース繊維集合体中の反応液を第2の有機溶媒と置換する方法が挙げられる。この浸漬置換の処理条件は、前述の含水セルロース繊維集合体中の水を第1の有機溶媒と置換する際の条件と同様の条件を採用することができる。
含浸用液状物の含浸に先立つコールドプレス又は前述のホットプレスの程度は、目的とする繊維強化複合材料の繊維含有率に応じて適宜決定されるが、一般的には、プレスにより、繊維強化複合材料製造用前駆体の厚さがプレス前の厚さの1/2〜1/20程度となるようにすることが好ましい。このコールドプレス又はホットプレス時の圧力、保持時間は、0.01〜100MPa(ただし、10MPa以上でプレスする場合は、セルロース繊維集合体が破壊される場合があるので、プレススピードを遅くするなどしてプレスする。)、0.1〜30分間の範囲でプレスの程度に応じて適宜決定されるが、コールドプレス温度は0〜60℃程度、通常は室温とすることが好ましい。また、ホットプレス温度は100〜300℃が好ましく、110〜200℃がより好ましい。温度が100℃より低いと、水の除去に時間を要し、一方、300℃より高いと、セルロース繊維集合体の分解等が生じるおそれがある。
ただし、プレス処理は、最終的に得られる繊維強化複合材料の繊維含有率の調整のために行われ、前工程におけるプレスで繊維含有率が十分に調整されている場合には、このプレスは必ずしも必要とされず、第2の有機溶媒を含む誘導体化セルロース繊維集合体をそのまま含浸用液状物との置換に供しても良い。
第2の有機溶媒を含む誘導体化セルロース繊維集合体中の第2の有機溶媒を含浸用液状物と置換する方法及び乾燥誘導体化セルロース繊維集合体に含浸用液状物を含浸させる方法としては特に制限はないが、第2の有機溶媒を含む誘導体化セルロース繊維集合体又は乾燥誘導体化セルロース繊維集合体を含浸用液状物中に浸漬して減圧条件下に保持する方法が好ましい。これにより、誘導体化セルロース繊維集合体中の第2の有機溶媒が揮散し、代りに含浸用液状物が誘導体化セルロース繊維集合体中に浸入することで、誘導体化セルロース繊維集合体中の第2の有機溶媒が含浸用液状物に置換される。或いは、乾燥誘導体化セルロース繊維集合体中に含浸用液状物が浸入して、誘導体化セルロース繊維集合体中に含浸用液状物が含浸される。
この減圧条件については特に制限はないが、0.133kPa(1mmHg)〜93.3kPa(700mmHg)が好ましい。減圧条件が93.3kPa(700mmHg)より大きいと、第2の有機溶媒の除去又は含浸用液状物の浸入が不十分となり、誘導体化セルロース繊維集合体の繊維間に第2の有機溶媒又は空隙が残存する場合が生じることがある。一方、減圧条件は0.133kPa(1mmHg)より低くてもよいが、減圧設備が過大となりすぎる傾向がある。
減圧条件下における置換工程の処理温度は、0℃以上が好ましく、10℃以上がより好ましい。この温度が0℃より低いと、媒介液の除去が不十分となり、繊維間に第2の有機溶媒又は空隙が残存する場合が生じることがある。なお、温度の上限は、例えば含浸用液状物に溶媒を用いた場合、その溶媒の沸点(当該減圧条件下での沸点)が好ましい。この温度より高くなると、溶媒の揮散が激しくなり、かえって、気泡が残存しやすくなる傾向がある。
また、誘導体化セルロース繊維集合体を含浸用液状物中に浸漬した状態で、減圧と加圧とを交互に繰り返すことによっても誘導体化セルロース繊維集合体中に含浸用液状物を円滑に浸入させることができる。
この場合の減圧条件は、上記の条件と同様であるが、加圧条件としては、1.1〜10MPaが好ましい。加圧条件が1.1MPaより低いと、含浸用液状物の浸入が不十分となり、繊維間に第2の有機溶媒又は空隙が残存する場合が生じることがある。一方、加圧条件は10MPaより高くてもよいが、加圧設備が過大となりすぎる傾向がある。
加圧条件下における含浸工程の処理温度は、0〜300℃が好ましく、10〜100℃がより好ましい。この温度が0℃より低いと、含浸用液状物の浸入が不十分となり、繊維間に第2の有機溶媒又は空隙が残存する場合が生じることがある。一方、300℃より高いと、マトリクス材料が変性するおそれがある。
なお、この含浸用液状物中への誘導体化セルロース繊維集合体の浸漬を行うに際しては、誘導体化セルロース繊維集合体を複数枚積層して含浸用液状物中に浸漬しても良い。また、含浸用液状物を含浸させた後の誘導体化セルロース繊維集合体を複数枚積層して後の硬化工程に供しても良い。
なお、本発明で採用し得るマトリクス材料及び含浸用液状物は以下の通りである。
〈マトリクス材料〉
本発明の繊維強化複合材料のマトリクス材料は、本発明の繊維強化複合材料の母材となる材料であり、後述の好適な物性を満たす繊維強化複合材料を製造することができるものであれば特に制限はなく、有機高分子、無機高分子、有機高分子と無機高分子とのハイブリッド高分子等の1種を単独で、或いは2種以上を混合して用いることができる。
以下に本発明に好適なマトリクス材料を例示するが、本発明で用いるマトリクス材料は何ら以下のものに限定されるものではない。
マトリクス材料の無機高分子としては、ガラス、シリケート材料、チタネート材料などのセラミックス等が挙げられ、これらは例えばアルコラートの脱水縮合反応により形成することができる。また、有機高分子としては、天然高分子や合成高分子が挙げられる。
天然高分子としては、再生セルロース系高分子、例えばセロハン、トリアセチルセルロース等が挙げられる。
合成高分子としては、ビニル系樹脂、重縮合系樹脂、重付加系樹脂、付加縮合系樹脂、開環重合系樹脂等が挙げられる。
上記ビニル系樹脂としては、ポリオレフィン、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、フッ素樹脂、(メタ)アクリル系樹脂等の汎用樹脂や、ビニル重合によって得られるエンジニアリングプラスチック、スーパーエンジニアリングプラスチック等が挙げられる。これらは、各樹脂内において、構成される各単量体の単独重合体や共重合体であっても良い。
上記ポリオレフィンとしては、エチレン、プロピレン、スチレン、ブタジエン、ブテン、イソプレン、クロロプレン、イソブチレン、イソプレン等の単独重合体又は共重合体、あるいはノルボルネン骨格を有する環状ポリオレフィン等が挙げられる。
上記塩化ビニル系樹脂としては、塩化ビニル、塩化ビニリデン等の単独重合体又は共重合体が挙げられる。
上記酢酸ビニル系樹脂とは、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニル、ポリ酢酸ビニルの加水分解体であるポリビニルアルコール、酢酸ビニルに、ホルムアルデヒドやn−ブチルアルデヒドを反応させたポリビニルアセタール、ポリビニルアルコールやブチルアルデヒド等を反応させたポリビニルブチラール等が挙げられる。
上記フッ素樹脂としては、テトラクロロエチレン、ヘキフロロプロピレン、クロロトリフロロエチレン、フッ化ビリニデン、フッ化ビニル、ペルフルオロアルキルビニルエーテル等の単独重合体又は共重合体が挙げられる。
上記(メタ)アクリル系樹脂としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド類等の単独重合体又は共重合体が挙げられる。なお、この明細書において、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル及び/又はメタクリル」を意味する。ここで、(メタ)アクリル酸としては、アクリル酸又はメタクリル酸が挙げられる。また、(メタ)アクリロニトリルとしては、アクリロニトリル又はメタクリロニトリルが挙げられる。(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、シクロアルキル基を有する(メタ)アクリル酸系単量体、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル等が挙げられる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル等が挙げられる。シクロアルキル基を有する(メタ)アクリル酸系単量体としては、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、イソボルニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−エトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ブトキシエチル等が挙げられる。(メタ)アクリルアミド類としては、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−t−オクチル(メタ)アクリルアミド等のN置換(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
上記重縮合系樹脂としては、アミド系樹脂やポリカーボネート等が挙げられる。
上記アミド系樹脂としては、6,6−ナイロン、6−ナイロン、11−ナイロン、12−ナイロン、4,6−ナイロン、6,10−ナイロン、6,12−ナイロン等の脂肪族アミド系樹脂や、フェニレンジアミン等の芳香族ジアミンと塩化テレフタロイルや塩化イソフタロイル等の芳香族ジカルボン酸又はその誘導体からなる芳香族ポリアミド等が挙げられる。
上記ポリカーボネートとは、ビスフェノールAやその誘導体であるビスフェノール類と、ホスゲン又はフェニルジカーボネートとの反応物をいう。
上記重付加系樹脂としては、エステル系樹脂、Uポリマー、液晶ポリマー、ポリエーテルケトン類、ポリエーテルエーテルケトン、不飽和ポリエステル、アルキド樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルスルホン等が挙げられる。
上記エステル系樹脂としては、芳香族ポリエステル、脂肪族ポリエステル、不飽和ポリエステル等が挙げられる。上記芳香族ポリエステルとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール等の後述するジオール類とテレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸との共重合体が挙げられる。上記脂肪族ポリエステルとしては、後述するジオール類とコハク酸、吉草酸等の脂肪族ジカルボン酸との共重合体や、グリコール酸や乳酸等のヒドロキシカルボン酸の単独重合体又は共重合体、上述するジオール類、上記脂肪族ジカルボン酸及び上記ヒドロキシカルボン酸の共重合体等が挙げられる。上記不飽和ポリエステルとしては、後述するジオール類、無水マレイン酸等の不飽和ジカルボン酸、及び必要に応じてスチレン等のビニル単量体との共重合体が挙げられる。
上記Uポリマーとしては、ビスフェノールAやその誘導体であるビスフェノール類、テレフタル酸及びイソフタル酸等からなる共重合体が挙げられる。
上記液晶ポリマーとしては、p−ヒドロキシ安息香酸と、テレフタル酸、p,p’−ジオキシジフェノール、p−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸、ポリテレフタル酸エチレン等との共重合体をいう。
上記ポリエーテルケトンとしては、4,4’−ジフルオロベンゾフェノンや4,4’−ジヒドロベンゾフェノン等の単独重合体や共重合体が挙げられる。
上記ポリエーテルエーテルケトンとしては、4,4’−ジフルオロベンゾフェノンとハイドロキノン等の共重合体が挙げられる。
上記アルキド樹脂としては、ステアリン酸、パルチミン酸等の高級脂肪酸と無水フタル酸等の二塩基酸、及びグリセリン等のポリオール等からなる共重合体が挙げられる。
上記ポリスルホンとしては、4,4’−ジクロロジフェニルスルホンやビスフェノールA等の共重合体が挙げられる。
上記ポリフェニルレンスルフィドとしては、p−ジクロロベンゼンや硫化ナトリウム等の共重合体が挙げられる。
上記ポリエーテルスルホンとしては、4−クロロ−4’−ヒドロキシジフェニルスルホンの重合体が挙げられる。
上記ポリイミド系樹脂としては、無水ポリメリト酸や4,4’-ジアミノジフェニルエーテル等の共重合体であるピロメリト酸型ポリイミド、無水塩化トリメリト酸やp−フェニレンジアミン等の芳香族ジアミンや、後述するジイソシアネート化合物等からなる共重合体であるトリメリト酸型ポリイミド、ビフェニルテトラカルボン酸、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミン等からなるビフェニル型ポリイミド、ベンゾフェノンテトラカルボン酸や4,4’−ジアミノジフェニルエーテル等からなるベンゾフェノン型ポリイミド、ビスマレイイミドや4,4’−ジアミノジフェニルメタン等からなるビスマレイイミド型ポリイミド等が挙げられる。
上記重付加系樹脂としては、ウレタン樹脂等が挙げられる。
上記ウレタン樹脂は、ジイソシアネート類とジオール類との共重合体である。上記ジイソシアネート類としては、ジシクロへキシルメタンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,3−シクロヘキシレンジイソシアネート、1,4−シクロヘキシレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2’−ジフェニルメタンジイソシアネート等が挙げられる。また、上記ジオール類としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、シクロヘキサンジメタノール等の比較的低分子量のジオールや、ポリエステルジオール、ポリエーテルジオール、ポリカーボネートジオール等が挙げられる。
上記付加縮合系樹脂としては、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂等が挙げられる。
上記フェノール樹脂としては、フェノール、クレゾール、レゾルシノール、フェニルフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールF等の単独重合体又は共重合体が挙げられる。
上記尿素樹脂やメラミン樹脂は、ホルムアルデヒドや尿素、メラミン等の共重合体である。
上記開環重合系樹脂としては、ポリアルキレンオキシド、ポリアセタール、エポキシ樹脂等が挙げられる。上記ポリアルキレンオキシドとしては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド等の単独重合体又は共重合体が挙げられる。上記ポリアセタールとしては、トリオキサン、ホルムアルデヒド、エチレンオキシド等の共重合体が挙げられる。上記エポキシ樹脂とは、エチレングリコール等の多価アルコールとエピクロロヒドリンとからなる脂肪族系エポキシ樹脂、ビスフェノールAとエピクロロヒドリンとからなる脂肪族系エポキシ樹脂等が挙げられる。
本発明においては、このようなマトリクス材料のうち、特に非晶質でガラス転移温度(Tg)の高い合成高分子が透明性に優れた高耐久性の繊維強化複合材料を得る上で好ましく、このうち、非晶質の程度としては、結晶化度で10%以下、特に5%以下であるものが好ましく、また、Tgは110℃以上、特に120℃以上、とりわけ130℃以上のものが好ましい。Tgが110℃未満のものでは、例えば沸騰水に接触した場合に変形するなど、透明部品、光学部品等としての用途において、耐久性に問題が発生する。なお、TgはDSC法による測定で求められ、結晶化度は、非晶質部と結晶質部の密度から結晶化度を算定する密度法により求められる。
本発明において、好ましい透明マトリクス樹脂としては、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ノボラック樹脂、ユリア樹脂、グアナミン樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、フラン樹脂、ケトン樹脂、キシレン樹脂、熱硬化型ポリイミド、スチリルピリジン系樹脂、トリアジン系樹脂等の熱硬化樹脂が挙げられ、これらの中でも特に透明性の高いアクリル樹脂、メタクリル樹脂が好ましい。
これらのマトリクス材料は、1種単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
〈含浸用液状物〉
本発明で用いる含浸用液状物としては、流動状のマトリクス材料、流動状のマトリクス材料の原料、マトリクス材料を流動化させた流動化物、マトリクス材料の原料を流動化させた流動化物、マトリクス材料の溶液、及びマトリクス材料の原料の溶液から選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。
上記流動状のマトリクス材料としては、マトリクス材料そのものが流動状であるもの等をいう。また、上記流動状のマトリクス材料の原料としては、例えば、プレポリマーやオリゴマー等の重合中間体等が挙げられる。
更に、上記マトリクス材料を流動化させた流動化物としては、例えば、熱可塑性のマトリクス材料を加熱溶融させた状態のもの等が挙げられる。
更に、上記マトリクス材料の原料を流動化させた流動化物としては、例えば、プレポリマーやオリゴマー等の重合中間体が固形状の場合、これらを加熱溶融させた状態のもの等が挙げられる。
また、上記マトリクス材料の溶液やマトリクス材料の原料の溶液とは、マトリクス材料やマトリクス材料の原料を溶媒等に溶解させた溶液が挙げられる。この溶媒は、溶解対象のマトリクス材料やマトリクス材料の原料に合わせて適宜決定されるが、後工程でこれを除去するに当たり、蒸発除去する場合、上記マトリクス材料やマトリクス材料の原料の分解を生じさせない程度の温度以下の沸点を有する溶媒が好ましい。
<硬化工程>
誘導体化セルロース繊維集合体に含浸させた含浸用液状物を硬化させるには、当該含浸用液状物の硬化方法に従って行えば良く、例えば、含浸用液状物が流動状のマトリクス材料の場合は、架橋反応、鎖延長反応等が挙げられる。また、含浸用液状物が流動状のマトリクス材料の原料の場合は、重合反応、架橋反応、鎖延長反応等が挙げられる。
また、含浸用液状物がマトリクス材料を流動化させた流動化物の場合は、冷却等が挙げられる。また、含浸用液状物がマトリクス材料の原料を流動化させた流動化物の場合は、冷却等と、重合反応、架橋反応、鎖延長反応等の組合せが挙げられる。
また、含浸用液状物がマトリクス材料の溶液の場合は、溶液中の溶媒の蒸発や風乾等による除去等が挙げられる。更に、含浸用液状物がマトリクス材料の原料の溶液の場合は、溶液中の溶媒の除去等と、重合反応、架橋反応、鎖延長反応等との組合せが挙げられる。なお、上記蒸発除去には、常圧下における蒸発除去だけでなく、減圧下における蒸発除去も含まれる。
なお、前述の如く、本発明に係る誘導体化セルロース繊維集合体を構成する繊維は1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。例えば、化学修飾してある繊維と化学修飾してない繊維とを併用しても良く、異なる化学修飾を施した繊維を混合して用いても良く、また、バクテリアセルロースと植物由来のNano MFCとを併用しても良い。また、バクテリアセルロースについても、異なる菌株から得られたものを併用しても良く、培養時に異なる菌株を2種以上用いても良い。
[繊維強化複合材料]
本発明の繊維強化複合材料は、下記の吸湿率測定方法で測定された吸湿率が3%以下、好ましくは2%以下、より好ましくは1.5%以下である。このような低吸湿性の繊維強化複合材料であれば、その用途において、有効に使用することができる。
[吸湿率の測定方法]
(1) 試料を乾燥雰囲気下、50℃で24h静置後、重量を測定した(乾燥重量W)。
(2) 次に20℃で湿度60%の雰囲気下に、重量が一定になるまで静置後、重量を測定した(吸湿重量W)。
(3) 乾燥重量W及び吸湿重量Wより、下記式で吸湿率を算出した。
吸湿率(%)=(W−W)÷W×100
本発明の繊維強化複合材料、特に、前述の第1〜第5の工程を経て製造される繊維強化複合材料は、1〜70重量%の幅広い範囲で任意の繊維含有率のものとすることができる。ただし、繊維強化複合材料中の繊維の含有率が少な過ぎると繊維による曲げ強度及び曲げ弾性率向上、又は線熱膨張係数低減の効果が不十分となる傾向があり、多過ぎると、マトリクス材料による繊維間の接着、又は繊維間の空間の充填が十分でなくなり、強度や透明性、表面の平坦性が低下するおそれがあり、また、前述の如く、吸湿性、コスト等の面においても好ましくない。従って、本発明により得られる繊維強化複合材料の繊維含有率は10重量%以上特に20〜70重量%であることが好ましい。
このようにして得られる本発明の繊維強化複合材料は、波長400〜700nmの光の50μm厚可視光透過率が60%以上、特に65%以上、特に70%以上、特に80%以上、とりわけ90%以上の高透明性材料であることが好ましい。繊維強化複合材料の50μm厚可視光透過率が60%未満では、半透明又は不透明となり、本発明の目的を達成し得ず、自動車、電車、船舶等の移動体の窓材料、ディスプレイ、住宅、建築物、各種光学部品等、透明性が要求される用途への使用が困難となる場合がある。
なお、ここで、波長400〜700nmの光の50μm厚可視光透過率とは、本発明に係る繊維強化複合材料に対して、厚さ方向に波長400〜700nmの光を照射した時の全波長域における光線透過率(直線光線透過率=平行光線透過率)の平均値を50μm厚に換算した値である。この光線透過率は、空気をレファレンスとして、光源とディテクターを被測定基板(試料基板)を介して、かつ基板に対して垂直となるように配置し、直線透過光(平行光線)を測定することにより求めることができる。
また、本発明の繊維強化複合材料は、線熱膨張係数が、好ましくは0.05×10−5〜5×10−5−1であり、より好ましくは0.2×10−5〜2×10−5−1であり、特に好ましくは0.3×10−5〜1×10−5−1である。繊維強化複合材料の線熱膨張係数は0.05×10−5−1より小さくてもよいが、セルロース繊維等の線熱膨張係数を考えると、実現が難しい場合がある。一方、線熱膨張係数が5×10−5−1より大きいと、繊維補強効果が発現しておらず、ガラスや金属材料との線熱膨張係数との違いから、雰囲気温度により、窓材でたわみや歪みが発生したり、光学部品で結像性能や屈折率が狂う等の問題が発生したりする場合がある。
また、本発明の繊維強化複合材料は、曲げ強度が、好ましくは30MPa以上であり、より好ましくは100MPa以上である。曲げ強度が30MPaより小さいと、十分な強度が得られず、構造材料等、力の加わる用途への使用に影響を与えることがある。曲げ強度の上限については、通常600MPa程度であるが、繊維の配向を調整するなどの改良手法により、1GPa、更には1.5GPa程度の高い曲げ強度を実現することも期待される。
また、本発明に係る繊維強化複合材料は、曲げ弾性率が、好ましくは0.1〜100GPaであり、より好ましくは1〜40GPaである。曲げ弾性率が0.1GPaより小さいと、十分な強度が得られず、構造材料等、力の加わる用途への使用に影響を与えることがある。一方、100GPaより大きいものは実現が困難である。
また、本発明の繊維強化複合材料は、熱伝導率が好ましくは0.5W/mK以上、より好ましくは1.0W/mK(石英ガラスの熱伝導率と同等)以上、更に好ましくは1.1W/mK以上である。熱伝導率がこのように大きいことにより、熱移動を促進して放熱性に優れた部材とすることができる。なお、本発明の繊維強化複合材料の熱伝導率は、繊維含有率が多い程高く、従って、繊維含有率の調整により所望の値に容易に調整することができる。
また、本発明の繊維強化複合材料の比重は、1.0〜2.5であることが好ましい。より具体的には、マトリクス材料としてガラス等のシリケート化合物や、チタネート化合物、アルミナ等の無機高分子以外の有機高分子や、無機高分子であっても多孔質材料を用いる場合は、本発明の繊維強化複合材料の比重は、1.0〜1.8が好ましく、1.2〜1.5がより好ましく、1.3〜1.4が更に好ましい。ガラス以外のマトリクス材料の比重は1.6未満が一般的であり、かつ、セルロース繊維の比重が1.5付近であるので、比重を1.0より小さくしようとすると、セルロース繊維等の含有率が低下し、セルロース繊維等による強度向上が不十分となる傾向がある。一方、比重が1.8より大きいと、得られる繊維強化複合材料の重量が大きくなり、ガラス繊維強化材料と比較して、軽量化をめざす用途に使用することが不利となる。
また、マトリクス材料としてガラス等のシリケート化合物や、チタネート化合物、アルミナ等の無機高分子(多孔質材料を除く)を用いる場合は、本発明の繊維強化複合材料の比重は、1.5〜2.5が好ましく、1.8〜2.2がより好ましい。ガラスの比重は2.5以上が一般的であり、かつ、セルロース繊維の比重が1.5付近であるので、比重を2.5より大きくしようとすると、セルロース繊維等の含有率が低下し、セルロース繊維等による強度向上が不十分となる傾向がある。一方、比重が1.5より小さくなると、繊維間の空隙の充填が不十分になる可能性がある。
なお、本発明において、線熱膨張係数は、繊維強化複合材料を50℃から150℃に昇温させた際の線熱膨張係数であり、ASTM D 696に規定された条件下で測定された値である。曲げ強度及び曲げ弾性率は、JIS K 7203に規定された方法に従って測定した値である。また、繊維強化複合材料の熱伝導率は、光交流法(面内方向)に従って測定した値である。また、繊維強化複合材料の比重は、20℃において、単位体積当たりの質量を測定して密度を求め、水の密度(1.004g/cm(20℃))とから換算して求めることができる。
本発明の繊維強化複合材料は、高透明性で吸湿性が低く、更に繊維とマトリクス材料との複合化で様々な優れた機能性を有するため、光学分野、構造材料分野、建材分野等の種々の用途に好適に使用することができる。
また、本発明の繊維強化複合材料よりなる透明基板は透明性が高く、有機電界発光素子、あるいはイメージセンサや太陽電池等の受光素子に用いる透明基板の材料として好適に用いることができる。
本発明の繊維強化複合材料よりなる透明基板を用いることにより、電子機器(デジカメ、スキャナ等)の性能向上(光学特性、消費電流の低減、使用時間の延長等)が期待できるようになる。
また、本発明の繊維強化複合材料を用いて光ファイバを形成することもできる。
以下に、製造例、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。
なお、各繊維強化複合材料の吸湿率、繊維含有率、透過率及び線熱膨張係数の測定方法は次の通りである。
[吸湿率の測定]
(1) 試料を乾燥雰囲気下、50℃で24h静置後、重量を測定した(乾燥重量W)。
(2) 次に20℃で湿度60%の雰囲気下に、重量が一定になるまで静置後、重量を測定した(吸湿重量W)。
(3) 乾燥重量W及び吸湿重量Wより、下記式で吸湿率を算出した。
吸湿率(%)=(W−W)÷W×100
[繊維含有率の測定]
製造された繊維強化複合材料の重量と、この繊維強化複合材料の製造に供した誘導体化セルロース繊維集合体の重量から求めた。
[透過率の測定]
<測定装置>
日立ハイテクノロジーズ社製「UV−4100形分光光度計」(固体試料測定システム)を使用。
<測定条件>
・6mm×6mmの光源マスク使用
・測定サンプルを積分球開口より22cm離れた位置において測光した。サンプルをこの位置に置くことで、拡散透過光は除去され、積分球内部の受光部に直線透過光のみが届く。
・リファレンスサンプルなし。リファレンス(試料と空気との屈折率差によって生じる反射。フレネル反射が生じる場合は、直線透過率100%ということはあり得ない。)がないため、フレネル反射による透過率のロスが生じている。
・スキャンスピード:300nm/min
・光源:タングステンランプ、重水素ランプ
・光源切り替え:340nm
[線熱膨張係数の測定]
窒素雰囲気下にて60℃で2時間加熱して、樹脂のポストキュアを行ったサンプルについて、セイコーインスツルメンツ製「TMA/SS6100」を用い、ASTM D 696に規定された方法に従って下記の測定条件で測定した。
〈測定条件〉
昇温速度:5℃/min
雰囲気:N
加熱温度:20〜150℃
荷重:3g
測定回数:3回
試料長:4×15mm
試料厚さ:試料により異なる
モード:引っ張りモード
また、セルロース繊維の化学修飾度は次のようにして算出した。
[含水セルロース繊維集合体由来誘導体化セルロース繊維集合体の化学修飾度の算出方法]
(1) 化学修飾を施した試料をはさみで切り取る(1.5×4.5cmを2枚)。
(2) 切り取った試料をアセトンに浸し、攪拌し、試料内部の反応液をアセトンで置換する。
(3) ガラスの上にアセトン置換試料を置いて自然乾燥する(30分程で乾いて1mm以下の薄いシート状になる。ガラス板上でゆっくり乾燥することにより平滑な面が得られる。)。
(4) 100℃で1h減圧乾燥し、内部に残存している反応液を完全に除く。
(5) ATR用プリズムの両面にアセトン置換試料(平滑な方の面)を密着させる。
(6) アセトン置換試料を密着させたプリズムを全反射測定装置(ATR装置(Attenuated Total Reflectance attachment、ATR−8000、Shimadzu製)にセットする(ATRプリズムはKRS−5(臭化タリウム+沃化タリウム)を使用)。
(7) ATR装置をフーリエ赤外分光高度計(FT−IR、FTIR−8600PC、Shimadzu製)にセットし測定する(赤外光のプリズムへの入射角は45゜、赤外光のプリズム内での反射回数は45回、スペクトル分解能4cm−1、積算回数100回で測定、以上の測定条件によりプリズムと密着したBCシート界面より1.15μmまでの深さの情報が得られる。)。
(8) 得られたスペクトルの1319cm−1のピーク(セルロースのCH変角振動由来)の吸収強度を規格化し1とする。
(9) 化学修飾していないものについても同様にATR法に供し、得られたスペクトルを1319cm−1のピークで規格化する。
(10) (8)のスペクトルから(9)のスペクトルを引き算し、差スペクトルを求める。
(11) 差スペクトルの1745cm−1をピークトップとする(C=O 伸縮振動由来)1701cm−1〜1772cm−1までのピーク面積を求める。
(12) 得られたピーク面積を、図2に示す検量線に当てはめて、化学修飾度を算出する。図2の横軸に相当するDSとは置換度(Degree of Substitution)のことであり、セルロースの無水グルコース単位あたりの水酸基のうち何個が他の官能基に置換されたかを表している。セルロースは無水グルコース単位あたり3つの水酸基を有しているため、置換度は最大3である。例えば、化学修飾されていないセルロースの置換度は0であり、セルローストリアセテートの置換度は3である。よって、次式により置換度から化学修飾度を換算できる。
化学修飾度(モル%)=(置換度)/3×100
[乾燥セルロース繊維集合体由来の誘導体化セルロース繊維集合体の化学修飾度の算出方法]
(1) 乾燥セルロース繊維集合体を100℃、1時間、0.133kPa(1mmHg)〜1.33kPa(10mmHg)程度で減圧乾燥し、重量を測定する。(未処理重量W)
(2) 化学修飾を施した乾燥セルロース繊維集合体をメタノール、流水、蒸留水で連続して洗浄後、100℃、1時間、0.133kPa(1mmHg)〜1.33kPa(10mmHg)程度で減圧乾燥し重量を測定する。(化学修飾重量W
(3) 未処理重量W及び化学修飾重量Wより、下記式で乾燥セルロース繊維集合体由来の誘導体化セルロース繊維集合体の化学修飾度を算出した。
化学修飾度(モル%)=((W−W)/(導入する官能基の分子量−1.008))
/(W/162.14×3)×100
製造例1
〈含水バクテリアセルロースの製造〉
まず、凍結乾燥保存状態の酢酸菌の菌株に培養液を加え、1週間静置培養した(25〜30℃)。培養液表面に生成したバクテリアセルロースのうち、厚さが比較的厚いものを選択し、その株の培養液を少量分取して新しい培養液に加えた。そして、この培養液を大型培養器に入れ、25〜30℃で7〜30日間の静地培養を行った。培養液には、グルコース2重量%、バクトイーストエクストラ0.5重量%、バクトペプトン0.5重量%、リン酸水素二ナトリウム0.27重量%、クエン酸0.115重量%、硫酸マグネシウム七水和物0.1重量%とし、塩酸によりpH5.0に調整した水溶液(SH培地)を用いた。
このようにして産出させたバクテリアセルロースを培養液中から取り出し、2重量%のアルカリ水溶液で2時間煮沸し、その後、アルカリ処理液からバクテリアセルロースを取り出し、十分水洗し、アルカリ処理液を除去し、バクテリアセルロース中のバクテリアを溶解除去して、厚さ1cm、繊維含有率1体積%、水含有率99体積%の含水バクテリアセルロースを得た。
この含水バクテリアセルロースを2MPaで1分間室温にてコールドプレスして水を除去し、厚さ1mmとした。
製造例2
〈乾燥バクテリアセルロースの製造〉
製造例1において、コールドプレス後の含水バクテリアセルロースを120℃、2MPaで4minホットプレスし、乾燥バクテリアセルロースを得た。
製造例3
〈Nano MFCの製造〉
ミクロフィブリル化セルロース:MFC(高圧ホモジナイザー処理で、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)をミクロフィブリル化したもの、平均繊維径1μm)を水に十分に撹拌し、1重量%濃度の水懸濁液を7kg調製し、グラインダー(栗田機械作成所製「ピュアファインミルKMG1−10」)にて、この水懸濁液を、ほぼ接触させた状態の1200rpmで回転するディスク間を、中央から外に向かって通過させる操作を30回(30pass)行った。
グラインダー処理により得られたNano MFC(平均繊維径60nm)を、0.2重量%水懸濁液に調製後、ガラスフィルターで濾過して製膜した。これを55℃で乾燥し、繊維含有率約70%、厚さ43μmのNano MFCシートを得た。
[アセチル化による吸湿率の低減]
実施例1
製造例2で得られた乾燥バクテリアセルロースシート(10cm×10cm)を、無水酢酸:酢酸=9:1(体積比)の反応液の入ったシャーレに浸し、室温下、30min、デシケータ内で1kPaの減圧下、反応液をBCシート内部まで含浸させた。常圧に戻しN雰囲気下で11日間、暗所に静置し(室温)、化学修飾処理を行った。
化学修飾バクテリアセルロースシートを取り出し、メタノール、流水、蒸留水にて洗浄後、60℃で1h減圧乾燥した。
得られた化学修飾バクテリアセルロースシートの化学修飾度を調べ、結果を表2に示した。
この化学修飾バクテリアセルロースシートをメタノール、流水、蒸留水ですすぎ、反応液を除去し、乾燥した後、紫外線硬化型アクリル樹脂のモノマー液であるTCDDMA(三菱化学(株)社製)に浸漬し、0.09MPaの減圧条件下、室温で一晩放置して、モノマー液を含浸させた。このモノマー液を含浸させたバクテリアセルロースをスライドガラスで挟んで紫外線を照射して(8分間、20J/cm)、樹脂を硬化させた。更に、窒素雰囲気下、160℃で2時間ポストキュアして繊維強化複合材料を製造した。
得られた繊維強化複合材料の繊維含有率及び吸湿率を求め、結果を表2に示した。
実施例2〜5
反応液及び反応条件を表2に示す通りとしたこと以外は実施例1と同様にして化学修飾及び繊維強化複合材料の製造を行って、結果を表2に示した。
実施例6
実施例1において乾燥バクテリアセルロースの代りに、製造例3で用いた乾燥Nano MFCを用いたこと以外は同様にして化学修飾及び繊維強化複合材料の製造を行って、結果を表2に示した。
比較例1
実施例1において、化学修飾を行わなかったこと以外は同様にして繊維強化複合材料を製造し、結果を表2に示した。
Figure 0004721186
表2より、セルロース繊維の水酸基をアセチル化することにより、繊維強化複合材料の吸湿率を低減することができることが分かる。
[メタクリロイル化とアセチル化による吸湿率の低減]
実施例7〜11
実施例2において、無水酢酸によるアセチル化に先立ち、無水メタクリル酸によるメタクリロイル化を行ったこと以外は同様にして化学修飾及び繊維強化複合材料の製造を行い、結果を表3に示した。
なお、メタクリロイル化及びアセチル化に用いた反応液及び反応条件は表3に示す通りであり、いずれも反応液にバクテリアセルロースシートを浸漬して放置することにより処理を行った。
Figure 0004721186
表3より、メタクリロイル化とアセチル化を行うことにより、吸湿率はより一層低減されることが分かる。これは、セルロース繊維の水酸基の化学修飾効果のみならず、導入されたメタクリロイル基によりセルロース繊維と樹脂との界面で共有結合し、セルロース繊維と樹脂とが強く結合することにより水の浸入を防止することによるものと考えられる。
[有機溶媒置換による化学修飾]
実施例12
〈反応速度の比較〉
製造例1で得られた含水バクテリアセルロースを室温、常圧でアセトン中に浸漬して含水バクテリアセルロース中の水をアセトンで置換した。この含アセトンバクテリアセルロースを次いで反応液(無水酢酸:ピリジン=1:2(体積比))の入ったシャーレに浸し、デシケータ内で35℃、1h減圧し、バクテリアセルロース内のアセトンを反応液に置換した。常圧に戻しN雰囲気下で60℃、暗所にて静置してアセチル化を行った。
定期的にバクテリアセルロースの一部を切り取り、化学修飾度を調べ、反応時間と化学修飾度との関係を調べ結果を表4に示した。なお、表4には、実施例3の方法における反応時間と化学修飾度との関係を併記した。また、反応条件及び化学修飾度を表5にまとめた。
Figure 0004721186
表4より明らかなように、含アセトンバクテリアセルロースを反応液に浸漬することにより、2日の反応により化学修飾度が20モル%程度に達した。これは、よく膨潤したバクテリアセルロースは隙間の多い構造をしており、乾燥バクテリアセルロースと比較してセルロースミクロフィブリルの表面積が大きく、また、バクテリアセルロースが内部に反応液をよく含んでいるため、反応速度が向上したことによると考えられる。また、9日まで反応を延長しても化学修飾度に大きな変化がみられないことから、約20モル%でセルロースミクロフィブリル表面のアセチル化が完全に進行したと思われる。
実施例13,14
反応液、及び反応条件を表5に示す通りとしたこと以外は実施例12と同様にして化学修飾及び繊維強化複合材料の製造を行なって、結果を表5に示した。
実施例15
実施例12において、無水酢酸によるアセチル化に先立ち、無水メタクリル酸によるメタクリロイル化を行ったこと以外は同様にして化学修飾及び繊維強化複合材料の製造を行ない結果を表5に示した。
Figure 0004721186
〈繊維含有率と吸湿率との関係〉
次に、実施例12〜15において得られた誘導体化バクテリアセルロースを適当な厚さにプレスし、実施例1と同様にして任意の繊維含有率の繊維強化複合材料を作製した。また、化学修飾を行っていないバクテリアセルロースについても、同様にして任意の含有率の繊維強化複合材料を作製した(比較例2とする)。これらの繊維強化複合材料について、繊維含有率と吸湿率との関係を調べ、結果を図1に示した。
図1より明らかなように繊維含有率の増大と共に、吸湿率も増すが、アセチル化を行っていないバクテリアセルロースを用いた場合よりも、アセチル化を行ったバクテリアセルロースを用いたものでは吸湿率は低い値で推移し、実施例12において繊維含有率30〜40重量%で、吸湿率0.5%程度、繊維含有率15重量%程度で吸湿率は0.4%程度にまで低減できた。
〈直線透過率に見る化学修飾の効果〉
比較例3
イソプロパノールを含浸させたバクテリアセルロースを20MPaの加圧下、2分間コールドプレスした後、TCDDMA樹脂液へ−0.09MPa減圧下、室温、一晩含浸させた。得られた樹脂含浸バクテリアセルロースを8分間、計20J/cmのUV照射により硬化させ、厚さ145μm、繊維含有率33重量%の繊維強化複合材料を得た。この繊維強化複合材料の直線透過率を測定し、結果を図3に示した。
実施例16
実施例12と同様の方法により化学修飾したバクテリアセルロースをエタノール溶媒で置換する。得られた化学修飾バクテリアセルロースを120℃、2MPa加圧下、4分ホットプレスにて乾燥後、TCDDMA樹脂液に浸し−0.09MPa減圧、室温、一晩含浸させ、引き続き、8分間、計20J/cmのUV照射により樹脂の硬化を行ない、厚さ145μm、繊維含有率33重量%の繊維強化複合材料を得た。この繊維強化複合材料の直線透過率を測定し、結果を図3に示した。
比較例3と実施例16においては、繊維強化複合材料の製造方法において、化学処理の有無と用いた溶媒(イソプロパノールとエタノール)の違いがある。有機溶媒は、バクテリアセルロースへTCDDMA樹脂液を減圧注入する際にほとんど揮発し、繊維強化複合材料の透明性へ全く影響を与えない。従って、図3より明らかなように化学修飾を行なうことにより、とりわけ450〜800nmにおける波長領域において透明性が向上させることがわかる。なお、波長400〜800nmにおける平均直線透過率は、無修飾の比較例3では80.5%であるのに対して、アセチル化を行った実施例16では82.1%であった。
[化学修飾(アシル化)によるバクテリアセルロースの水濡れ性評価]
実施例17〜22
製造例1で得られた含水バクテリアセルロース(2MPaで1分間室温にてコールドプレスして水を除去し、厚さ1mmとしたもの)をアセトンに浸し、このバクテリアセルロースの内部をアセトン置換した。
セパラブルフラスコに、表6に示す酸無水物と酢酸ナトリウム等とを表6に示す割合で加え反応溶液を調製し、この反応溶液中に、アセトン置換したバクテリアセルロースを浸し、ジムロート冷却管を取り付け、表6に示す時間及び温度で反応(アシル化)を行なった。
反応終了後、アシル化バクテリアセルロースを流水で10分間すすぎ、更に、100mLのメタノール中に10分間浸し、バクテリアセルロースの洗浄を行なった。この洗浄操作は2回行なった。
得られたアシル化バクテリアセルロースについて、化学修飾度を調べ、結果を表6に示した。また、外観を観察すると共に、下記方法で水に対する濡れ性の評価を行い、結果を表6に示した。
〈水濡れ性の評価〉
洗浄したアシル化バクテリアセルロースを、ガラス板上に置いて自然乾燥した後、100℃で1時間減圧乾燥した。その後、アシル化バクテリアセルロース上に10μLの水滴をマイクロシリンジで滴下し、1分後に滴下した水滴の様子を目視により観察した。
Figure 0004721186
表6より明らかなように、いずれのアシル化バクテリアセルロースも、アシル化により着色することはなく、外見上は無処理のバクテリアセルロースと同等であった。
また、化学修飾によるアシル基の導入率は、ピリジンを触媒として用いた前述の実施例12よりも多く、酢酸ナトリウムを触媒とした反応の方が、ピリジンを触媒として使用した場合よりも反応性が向上することが分かる。これは、酢酸ナトリウムはピリジンと比較して反応時の着色の懸念が低いため、より高温で反応を行なうことができたためと考えられる。
実施例20と実施例21との比較より、90℃で4日間反応を行なうよりも、120℃で0.9日間反応を行なう方がアシル基の導入率が高いことが判明した。
また、濡れ性の評価の結果、いずれのアシル化バクテリアセルロースも外見上は同一であったが、その表面の水濡れ特性は導入したアシル基の炭素数により大きく異なり、導入したアシル基の炭素数の増加に伴い、目視で明らかな程、接触角が大きくなった。これは、側鎖の炭素数の増加に伴うバクテリアセルロースのフィブリル表面の疎水化によるものと考えられる。
[化学修飾(アシル化)による繊維補強複合材料の物性評価]
実施例23〜32
製造例1で得られた含水バクテリアセルロース(2MPaで1分間室温にてコールドプレスして水を除去し、厚さ1mmとしたもの)をアセトンに浸し、このバクテリアセルロースの内部をアセトン置換した。
セパラブルフラスコに、表7に示す酸無水物と触媒等とを表7に示す割合で加えて反応溶液を調製し、この反応溶液中に、アセトン置換したバクテリアセルロースを浸し、ジムロート冷却管を取り付け、表7に示す時間及び温度で反応(アシル化)を行なった。
反応終了後、アシル化バクテリアセルロースを流水で10分間すすぎ、更に、100mLのメタノール中に10分間浸し、バクテリアセルロースの洗浄を行なった。この洗浄操作は2回行なった。
得られたアシル化バクテリアセルロースについて、化学修飾度を調べ、結果を表7に示した。
各アシル化バクテリアセルロースを120℃、2MPaで4分間プレスした後、実施例1で用いたと同様の紫外線硬化型アクリル樹脂のモノマー液(TCDDMA)に浸して12時間静置した。この樹脂含浸アシル化バクテリアセルロースに実施例1と同様にして紫外線を照射して樹脂を硬化させた。
なお、実施例28〜32については、得られた樹脂含浸バクテリアセルロースシートを室温下、2MPaで12時間プレスした後、紫外線を照射した。
得られた繊維補強複合材料の繊維含有率、厚さ、400〜800nmの可視波長領域における平均直線透過率、及び吸湿率を測定し、結果を表7に示した。
また、この繊維補強複合材料を下記熱重量分析測定に供して耐熱性の評価を行い、結果を表7に示した。
〈熱重量分析の測定法〉
測定装置:2950TGA(TAインスツルメント社製)
測定条件:
昇温条件=110℃まで昇温後、10分間その温度に保ち、続いて、昇温速度10
℃/minの昇温速度にて500℃まで昇温
雰囲気=窒素気流下
サンプル重量=2mg
Figure 0004721186
表7より次のことが明らかである。
前述の如く、触媒として酢酸ナトリウムを用いることにより、反応液が黄変してバクテリアセルロースに沈着するという懸念が解消されたため、より高温での反応が可能となったが、アシル化による化学修飾時の反応温度と平均直線透過率あるいは吸湿率との相関は、反応温度の上昇に伴い平均直線透過率が向上し、一方、吸湿率が低下した。これは、反応温度が高くなることによりアシル基の導入率が上がり(即ち、化学修飾度が上がり)、セルロースの水酸基が保護され、水の吸着が抑えられることと、セルロースミクロフィブリルの表面が疎水化されることにより樹脂との相溶性が向上したためと考えられる。
実施例23〜27より、アシル基の側鎖の伸長に伴って、得られる繊維強化複合材料の厚さは大きくなった。これは、バクテリアセルロースミクロフィブリル表面の疎水化に伴って、フィブリル間の凝集力が弱くなったことと、嵩高いアシル基の導入によって、フィブリル同士の接近が妨げられたことが関与していると考えられる。
また、プロパノイル化繊維補強複合材料、ブタノイル化繊維強化複合材料は、アセチル化繊維補強複合材料と比較して約4倍の厚さにも関わらず、平均直線透過率はほぼ同等であった。
また、化学修飾によりバクテリアセルロースの耐熱性が向上するが、導入するアシル基の側鎖長に依存して、その向上度合も大きかった。
実施例24と実施例31において、得られたアシル化バクテリアセルロースの赤外スペクトルから、1745cm−1付近のカルボニル基由来のピークが実施例24のスペクトルと比較して実施例31のスペクトルが明らかに大きく現れた。このことから、バクテリアセルロースのアシル化反応には触媒として過塩素酸を用いる方法が有効であることが見出された。
[各種物性の測定及び比較]
〈ヘイズに見る化学修飾の効果〉
有機溶媒置換法を用いて様々な繊維含有率の未化学修飾繊維強化複合材料を作成した。一方、化学修飾繊維強化複合材料については繊維含有率30〜40%程度のものは、化学修飾バクテリアセルロース乾燥シートにして樹脂含浸、あるいは、乾燥バクテリアセルロースを化学修飾して樹脂含浸を行った。また、繊維含有率5〜15%程度のものは、化学修飾バクテリアセルロースを有機溶媒置換法で樹脂含浸を行った。こうして得られたさまざまな化学修飾を行なったバクテリアセルロースと化学修飾を行なっていないバクテリアセルロースについて任意の繊維含有率の繊維強化複合材料を製造し、ヘイズで見る化学修飾の効果について調べ、その結果を図4に示した。なお、ヘイズ(曇価)とは、試験片を通過する透過光のうち、前方散乱によって、入射光からそれた透過光の百分率であり、簡便には以下の式から求められる。
ヘイズ=拡散透過率/全光線透過率 ×100
=(全光線透過率−直線透過率)/全光線透過率 ×100
全光線透過率は、試料へ直角に入射した光がどの程度透過したかを示す。直線透過率は、試料へ直角に入射した光がそのまま直線的に透過したもの割合を示す。拡散透過率は、試料へ直角に入射した光のうち、拡散しながら透過したものの割合を示す。なお、直線透過率の測定方法は前記の方法と同様に行なった。
全光線透過率は測定サンプルを積分球開口部へおいて測光を行なった。直線透過率と全光線透過率は、それぞれ400〜800nmにおける平均値を使用した。図4からわかるようにいずれの繊維含有率においても化学修飾を行なわない繊維強化複合材料のヘイズは6%を示した。一方、化学修飾を行なった場合は、その化学修飾度や繊維含有率の値に関わらず、ヘイズは4%を示し、透明性が向上した。
〈平均直線透過率で示す化学修飾の効果〉
上記と同様にして化学修飾を行なった様々なバクテリアセルロースと化学修飾を行なっていないバクテリアセルロースについて任意の繊維含有率の繊維強化複合材料を製造し、平均直線透過率で示す化学修飾の効果を調べ、その結果を図5に示した。図5より波長400〜800nmの全域においてアセチル化を行なった繊維強化複合材料の平均直線透過率が向上したことが分かる。
〈化学修飾の熱膨張係数に与える影響〉
上記と同様にして化学修飾を行なった様々なバクテリアセルロースと化学修飾を行なっていないバクテリアセルロースについて任意の繊維含有率の繊維強化複合材料を製造し、線熱膨張係数を調べ、その結果を図6に示した。図6からわかるように化学修飾によって熱膨張係数の増大は見られなかった。
[発光素子への利用]
実施例1〜6と同様にして、各々30×30×0.3〜0.5mm厚さの繊維強化複合材料よりなる透明基板を作製し、これを用いて、以下の手順で有機EL発光素子を作製した。
(1) 基板を純水によりスピン洗浄し、窒素ガスをブローすることにより乾燥させた。
(2) この基板は表面の粗度が高いため、表面を平滑化するために紫外線硬化型樹脂をスピン塗布した後、紫外線(UV)を照射して硬化させることにより、厚さ約2μmの平滑化層を形成した。
(3) (2)で形成した平滑化層付き基板上にガスバリア膜として、厚さ100nmの酸窒化シリコン膜をスパッタリング法により形成し、連続してこの上に陽極膜として厚さ100nmのIZO(Indium Zinc Oxide)膜をスパッタリング法により積層した。
(4) (3)で形成した陽極膜をフォトリソグラフィーにより、幅2mmのストライプ状にパターニングした。具体的には、陽極膜上にポジ型レジストを塗布・乾燥した後、フォトマスクを介して紫外線照射を行ない、レジスト現像液に1分間浸漬させて露光部のレジストを除去した。水洗の後、今度はIZOのエッチャント液に3分間浸漬させ、露出部のIZO膜を除去した。水洗後、残りのレジストを剥離した後、水洗・乾燥することにより、上述のパターン電極を得た。
(5) (4)で作製した基板をUVオゾン処理した後、真空チャンバー中に設置し、以下の膜を順次蒸着積層して、有機EL素子を得た。
銅フタロシアニン(厚さ35nm)
α−NPD(厚さ45nm)
Alq(厚さ55nm)
LiO(厚さ1nm)
Al(厚さ100nm)
(6) その後、電極取り出し部を除く上記素子全体を覆うように、窒化シリコンからなる厚さ約1μmの保護膜をCVD法により形成した。
(7) 更に、保護膜上にUV硬化型樹脂からなる、厚さ約2μmのハードコート層を設けた。
このようにして得られた発光素子に、6VのDC電圧を印加したところ、いずれの場合も、約1000cd/mの緑色の発光を得ることが可能であった。
繊維強化複合材料の繊維含有率と吸湿率との関係を示すグラフである。 化学修飾度の算出に用いた検量線を示すグラフである。 繊維強化複合材料の平均直線透過率と波長との関係を示すグラフである。 繊維強化複合材料の繊維含有率とヘイズとの関係を示すグラフである。 繊維強化複合材料の繊維含有率と波長400〜800nmにおける平均直線透過率との関係を示すグラフである。 繊維強化複合材料の繊維含有係数と熱膨張率との関係を示すグラフである。

Claims (17)

  1. 平均繊維径が4〜200nmのセルロース繊維の集合体に、マトリクス材料を含浸させてなる繊維強化複合材料であって、
    該セルロース繊維の水酸基は、酸、アルコール、ハロゲン化試薬、酸無水物、及びイソシアナートよりなる群から選ばれる1種又は2種以上よりなる化学修飾剤との反応で化学修飾されており、該化学修飾による官能基の導入割合が、化学修飾前の該セルロース繊維の水酸基に対して5〜40モル%であることを特徴とする繊維強化複合材料。
  2. セルロース繊維のシート状集合体に、マトリクス材料を含浸させてなる繊維強化複合材料であって、
    該セルロース繊維の水酸基は、酸、アルコール、ハロゲン化試薬、酸無水物、及びイソシアナートよりなる群から選ばれる1種又は2種以上よりなる化学修飾剤との反応で化学修飾されており、該化学修飾による官能基の導入割合が、化学修飾前の該セルロース繊維の水酸基に対して5〜40モル%であることを特徴とする繊維強化複合材料。
  3. 請求項において、前記セルロース繊維集合体は平均繊維径が4〜200nmのセルロース繊維の集合体であることを特徴とする繊維強化複合材料。
  4. 請求項1ないし3のいずれか1項において、該官能基がアセチル基、メタクリロイル基、プロパノイル基、ブタノイル基、iso−ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、ノナノイル基、デカノイル基、ウンデカノイル基、ドデカノイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、ピバロイル基、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアノイル基、メチル基、エチル基、プロピル基、iso−プロピル基、ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、ミリスチル基、パルミチル基、及びステアリル基よりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする繊維強化複合材料。
  5. 請求項において、該官能基がアセチル基及び/又はメタクリロイル基であることを特徴とする繊維強化複合材料。
  6. 請求項1ないしのいずれか1項において、該官能基の導入割合が該セルロース繊維の水酸基に対して10〜25モル%であることを特徴とする繊維強化複合材料。
  7. 請求項1ないしのいずれか1項において、前記セルロース繊維がバクテリアセルロースであることを特徴とする繊維強化複合材料。
  8. 請求項1ないしのいずれか1項において、前記セルロース繊維が植物繊維から分離されたものであることを特徴とする繊維強化複合材料。
  9. 請求項において、前記セルロース繊維がミクロフィブリル化セルロース繊維を更に磨砕処理してなることを特徴とする繊維強化複合材料。
  10. 請求項1ないしのいずれか1項において、繊維含有率が10重量%以上であることを特徴とする繊維強化複合材料。
  11. 請求項1ないし10のいずれか1項において、前記マトリクス材料が合成高分子であることを特徴とする繊維強化複合材料。
  12. 平均繊維径が4〜200nmのセルロース繊維の集合体に、マトリクス材料を含浸させてなる繊維強化複合材料であって、下記の吸湿率測定方法で測定した吸湿率が3%以下であることを特徴とする繊維強化複合材料。
    [吸湿率の測定方法]
    (1) 試料を乾燥雰囲気下、50℃で24h静置後、重量を測定した(乾燥重量W)。
    (2) 次に20℃で湿度60%の雰囲気下に、重量が一定になるまで静置後、重量を測定した(吸湿重量W)。
    (3) 乾燥重量W及び吸湿重量Wより、下記式で吸湿率を算出した。
    吸湿率(%)=(W−W)÷W×100
  13. 請求項12において、請求項1ないし11のいずれか1項に記載の繊維強化複合材料であることを特徴とする繊維強化複合材料。
  14. 請求項1ないし13のいずれか1項に記載の繊維強化複合材料を製造する方法であって、
    平均繊維径が4〜200nmのセルロース繊維集合体を、前記化学修飾剤を含む反応液と接触させて、該セルロース繊維の水酸基と前記化学修飾剤との反応で化学修飾することにより誘導体化セルロース繊維集合体を得、
    該誘導体化セルロース繊維集合体に前記マトリクス材料を形成し得る含浸用液状物を含浸させ、次いで該含浸用液状物を硬化させることを特徴とする繊維強化複合材料の製造方法。
  15. 請求項14において、
    該セルロース繊維集合体に水が含浸された含水セルロース繊維集合体を製造する工程と、
    該含水セルロース繊維集合体中の水を、有機溶媒(以下「第1の有機溶媒」と称す。)で置換する第2の工程と、
    第2の工程を経たセルロース繊維集合体に含まれる第1の有機溶媒を前記反応液に置換して保持することにより前記誘導体化セルロース繊維集合体を得る第3の工程と
    を有することを特徴とする繊維強化複合材料の製造方法。
  16. 請求項15において、前記第3の工程を経た反応液を含む前記誘導体化セルロース繊維集合体に含まれる反応液を第2の有機溶媒と置換する第4の工程と、
    該第4の工程を経たセルロース繊維集合体に含まれる第2の有機溶媒を前記マトリクス材料を形成し得る含浸用液状物と置換して硬化させる第5の工程と
    を有することを特徴とする繊維強化複合材料の製造方法。
  17. 請求項1ないし13のいずれか1項に記載の繊維強化複合材料又は請求項14ないし16のいずれか1項に記載の繊維強化複合材料の製造方法で製造された繊維強化複合材料からなる透明基板を備えてなることを特徴とする有機電界発光素子。
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