JP4663897B2 - 塗装具用繊維構造体およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は塗装具用の繊維構造体およびその製造方法に関する。より詳細には、本発明は、粘度の低い塗料、特に水および/またはアルコールを溶媒とする粘度の低い光触媒塗料の塗工に適する塗装具の作製に用いる繊維構造体およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
塗装具としては、刷毛、ペイントローラー、コテ刷毛などがあり、これらは被塗装面の種類や形状、塗工者の熟練度合いなどによって選定されている。なかでも、ペイントローラーは塗工業者の間で最もよく利用されている塗装具の一つである。
従来汎用のペイントローラーは、軸の回りに回転するプラスチック製または紙製の芯材に、毛皮、合成繊維製パイル糸を植設した立毛織編物、不織布などを巻き付けることによって形成されている。これら従来のペイントローラーでは、塗装目的、塗料の種類などによって、毛皮の種類の選択、立毛織編物の立毛を構成する合成繊維の種類や立毛長の選定、不織布を構成する繊維の種類の選定などが必要であり、万能のペイントローラーというものはない。
また、ペイントローラーの性能は、塗料の吸収性能を表す“含み”、塗料の流出性能を表す“吐き出し”および塗装の出来栄えを表す“仕上がり”によって評価されることが多いが、上記した従来のペイントローラーは、これらの性能を十分に満足することが困難であった。
【0003】
そこで、上記した塗料の吸収性能(“含み”)、塗料の流出性能(“吐き出し”)、塗装面の“仕上がり”などの向上を目的として、様々な形態のペイントローラーが提案されている。
例えば、実開平2−4679号公報には、塗装作業によって受ける圧縮の繰り返しによってパイルが倒れて塗料の含浸性(塗料の吸収性能、“含み”)が短期間で損なわれないようにし、また地組織からのパイルの抜けを防止する目的で、低融点成分と高融点成分からなる低融点複合繊維をパイル構成繊維の10%以上の割合で用いるハイパイル編地をつくり、そのパイル構成繊維同士を部分的に接着させたハイパイル編地をローラ芯に巻き付けたローラ状刷毛が記載されている。
また、実開平2−100674号公報には、塗装の仕上がりを良くする目的で、中空円筒状の芯材の外周に軟質発泡プラスチック製の円筒ロールを取り付け、該円筒ロールの表面に微細な単繊維を静電植毛すると共に円筒ロールの表面に切り込みを設けた塗装用ローラが記載されている。
さらに、実開平4−98468号公報には、塗料の吸着量の増大、塗料の流出の円滑化、塗料の洗浄の容易化を目的として、塗料不浸透性基部上に、ポリウレタン開放気泡体などからなる網状塗料溜め組織を設け、さらにその上に柔軟な網状組織よりなる外層を網目部分で結合した塗料塗布器が記載されている。
【0004】
しかしながら、上記した実開平2−4679号公報に記載されているローラ状刷毛では、パイル構成繊維同士がパイル部の厚さ方向全体に亙って単にランダムに部分接着されているに過ぎず、パイル部が塗料溜めとしての機能に十分に有していないため、塗料の吸収性能(“含み”)が劣っており、液垂れを生じ易く、使用し辛いという問題がある。しかも、塗料を薄く均一に塗布しにくい。
また、上記した実開平2−100674号公報に記載されている塗装用ローラおよび実開平4−98468号公報に記載されている塗料塗布器も、塗料の吸収性能(“含み”)、塗料の流出性能(“吐き出し”)、塗装面の“仕上がり”などの点で十分に満足のゆくものではない。
すなわち、ペイントローラーなどの塗装具を用いて塗装を行うに当たっては、塗装具に塗料を付着させた塗料の垂れ(液垂れ)を防止するために、塗装具を例えばネット上に軽く押し当てて余分な塗料を除く準備動作を行った後に塗装を行うことが広く行われている。しかしながら、上記した公報などに記載されている従来のペイントローラーでは、塗料の保持能が十分ではなく、そのために前記した準備動作時に大半の塗料がペイントローラーから失われ易く、塗装作用を円滑に行うことが困難である。
【0005】
さらに、近年、アナターゼ型酸化チタンなどのいわゆる光触媒を含有する光触媒塗料が、その優れた大気汚染物質の分解作用、抗菌作用、消臭作用、防汚作用などにより注目を集めており、光触媒塗料やその塗装方法に関する提案が数多くなされている(例えば特開平11−246787号公報、特開2000−129174号公報、特開2000−189888号公報、特開2000−273355号公報など)。光触媒塗料は、前記した優れた諸特性によって、各種の建築物外壁、建築物の内壁、窓ガラスの外面や内面、橋梁、高速道路防音壁、鉄道車両や自動車の車体や窓ガラスの外面や内面、その他の広範な用途への施工が試みられている。
光触媒塗料は、一般に水および/またはアルコールを媒体(溶媒)としていて、その粘度が極めて低い(水を媒体とするものでは例えば1mPa・s程度のものもある)。そのため、ペイントローラーやコテ刷毛などのような塗装具において、塗料の吸収性能(“含み”)が低いと、光触媒塗料の塗布時に液垂れを生じ、使用し辛いという問題があり、しかも仕上がりの良好な塗膜を形成することができない。特に、光触媒塗料は、光触媒の機能を十分に発揮させるために薄く塗装することが要求されている。しかしながら、上記した従来のペイントローラーなどの塗装具は、上述のように、塗料の吸収性能(“含み”)が低く、十分な塗料を保持することが困難であり、それによって液垂れの問題が生じ易く、また塗料の吐き出しが円滑に行われず、しかも塗膜の厚さのコントロールが極めて困難であった。
【0006】
スプレー塗装による場合は、低粘度塗料を用いて薄く塗装することが可能であるが、塗料の飛散などにより歩留まりが極めて悪いため、高価な光触媒塗料の塗装には適していない。
かかる点から、光触媒塗料などのような粘度の低い塗料を、液垂れ、塗膜の厚さ斑などを生ずることなく、良好な歩留りで、均一な厚さで薄く塗布することのできるペイントローラーやコテ刷毛などの塗装具、およびそのような塗装具に用いる素材の開発が求められていた。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、塗料の吸収性能(“含み”)、塗料の流出性能(“吐き出し”)および塗装面の仕上がり性能に優れていて、液垂れ、塗膜厚みの不均一などを生ずることなく、厚さが均一で、仕上がりの良好な塗膜を形成することのできる塗装具用の素材および該素材の製造方法、並びに該素材を用いてなるペイントローラーやコテ刷毛などの塗装具を提供することである。
特に、本発明は、光触媒塗料などのような粘度の低い塗料を用いるときにも、液垂れや塗膜厚みの不均一などを生ずることなく、厚さが均一で、仕上がりの良好な、薄い塗膜を、円滑に形成することのできる塗装具用の素材、その製造方法、並びに該素材を用いてなるペイントローラーやコテ刷毛などの塗装具を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成すべく本発明者らは鋭意検討を重ねてきた。その結果、織編地などの地組織の片面に、所定範囲の捲縮伸長率を有する熱融着性捲縮繊維を特定割合で含む繊維からなる立設繊維層(パイル層)を形成し、該立設繊維層の表面側では捲縮繊維同士を融着させずにバルキーな嵩高層とし、該嵩高層の内側に捲縮繊維同士を部分融着させた網状融着層を形成させて特定の繊維構造体を製造した。そして、それにより得られた繊維構造体の特性について種々調べたところ、該繊維構造体の前記網状融着層が塗料の保有能に優れていること、しかも熱融着性捲縮繊維の部分融着によって網状融着層に良好な弾力性を有すること、そのためその繊維構造体を用いてペイントローラーやコテ刷毛などの塗装具を作製すると、塗料の吸収性能(“含み”)、塗料の流出性能(“吐き出し”)および塗装面の仕上がり性能に優れる塗装具が得られ、液垂れ、塗膜厚みの不均一などを生ずることなく、厚さが均一で、仕上がりの良好な塗膜を形成できることを見出した。特に、立設繊維層の内側に前記した網状融着層を形成し、その外側にバルキーな嵩高層を形成したそのような繊維構造体は、光触媒塗料などのような低粘度の塗料の塗装するためのペイントローラーやコテ刷毛などの塗装具における塗工面用素材として好適であることを見出した。
そして、本発明者らは、そのような繊維構造体は、その製法の如何に拘わらず、前記した特定の構造を有している限りは、塗装具用の素材として適しているが、特に、織編地などの地組織の片面に熱融着性捲縮繊維を特定割合で含み所定範囲の捲縮伸長率を有する捲縮繊維よりなる立設繊維層(パイル層)を形成してなる繊維構造体の立設繊維層のないもう片方の面から水を噴霧した後に所定の温度で加熱することにより円滑に製造されることを見出した。
【0009】
さらに、本発明者らは、織編地などの地組織の片面に、所定範囲の捲縮伸長率を有する熱融着性捲縮繊維を特定割合で含む繊維からなる立設繊維層(パイル層)を形成した前記した繊維構造体において、立設繊維層の内側部分で捲縮繊維同士を部分融着させる上記した方式に代えて、立設繊維層の表面部分に、該捲縮繊維を融着させて塗料の通過し得る孔を有する多孔質スキン層を形成させる方式を採用した場合にも、塗装性能および塗装面の仕上がり性能に優れる塗装具用の素材が得られることを見出した。すなわち、立設繊維層の表面に熱融着性捲縮繊維の融着による多孔質スキン層を形成したこの繊維構造体では、該繊維構造体に塗料を付着させた際に、多孔質スキン層内に存在する多数の空孔部に塗料微粒子が均一に保持される。一方、水などの溶媒は多孔質スキン層を通って内側の捲縮繊維層に保持される。そして、塗装時に該繊維構造体が押圧されると、内側の捲縮繊維層に保持されている溶媒が表面に逆流して、表面の多孔質スキン層の空孔部に保持されていた塗料微粒子を被塗装面へと搬送して、被塗装面に均一な塗膜を形成することを見出した。そして、立設繊維層の該多孔質スキン層を有するこの繊維構造体も、光触媒塗料などのような、微細な塗料粒子を含む低粘度塗料を塗装するためのペイントローラーやコテ刷毛などの塗装具用の素材として特に適していることを見出した。
そして、本発明者らは、そのような繊維構造体が、織編地などの地組織の片面に熱融着性捲縮繊維を特定割合で含み所定範囲の捲縮伸長率を有する捲縮繊維よりなる立設繊維層(パイル層)を形成してなる繊維構造体をその表面側から熱融着性捲縮繊維の融点以上の温度で熱圧着処理することによって、円滑に製造できることを見出し、それらの知見に基づいて本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、
(1) 地組織の片面に立設繊維層を有し、該立設繊維層は捲縮伸長率が5〜30%の熱融着性捲縮繊維を30〜100質量%の割合で含む繊維から構成されており、該立設繊維層は、その内側部分が前記熱融着性捲縮繊維の部分融着により形成された網状融着層をなし且つ該網状融着層の上部の外側部分がバルキーな嵩高層をなしていることを特徴とする塗装具用繊維構造体(以下これを「塗装具用繊維構造体A」ということがある)である。
【0011】
そして、本発明は、
(2) 立設繊維層の高さが3〜20mmであり、[網状融着層の厚さ]:[嵩高層の厚さ]の比が9:1〜1:9である前記(1)の塗装具用繊維構造体A;および、
(3) 網状融着層の保水能が、網状融着層を形成している繊維質量の4〜16倍である前記(1)または(2)の塗装具用繊維構造体A;
を好ましい態様として包含する。
【0012】
さらに、本発明は、
(4) 地組織の片面に立設繊維層を有し、該立設繊維層は捲縮伸長率が5〜30%の熱融着性捲縮繊維を30〜100質量%の割合で含む繊維から構成されており、立設繊維層の表面部分が、立設繊維層を構成する前記熱融着性捲縮繊維の融着による厚さ100〜1000μmの多孔質スキン層をなしていることを特徴とする塗装具用繊維構造体(以下これを「塗装具用繊維構造体B」ということがある)である。
【0013】
そして、本発明は、
(5) 多孔質スキン層を含めた立設繊維層の高さが2〜18mmである前記(4)の塗装具用繊維構造体B;および、
(6) 立設繊維層を構成する熱融着性捲縮繊維が、低融点重合体と繊維形成性重合体からなり、繊維表面の少なくとも一部に低融点重合体が存在する複合紡糸繊維および/または混合紡糸繊維からなる捲縮繊維である前記(1)〜(3)のいずれかの塗装具用繊維構造体A或いは前記(4)または(5)の塗装具用繊維構造体B;
を好ましい態様として包含する。
【0014】
さらに、本発明は、
(7) 前記(1)〜(6)のいずれかの塗装具用繊維構造体Aまたは塗装具用繊維構造体Bを塗装面として基材に取り付けてなるペイントローラーまたはコテ刷毛であり;
(8) 光触媒塗料の塗装用である前記(7)のペイントローラーまたはコテ刷毛を好ましい態様として包含する。
【0015】
そして、本発明は、
(9) 捲縮伸長率が5〜30%の熱融着性捲縮繊維を30〜100質量%の割合で含む繊維から構成される立設繊維層を地組織の片面に有する繊維構造体に対して、立設繊維層を有していないもう片方の面を上に向けた状態で、該もう片方の面から水を噴霧した後、[前記熱融着性捲縮繊維の融点−50(℃)]以上の温度で乾熱処理して立設繊維層の内側で熱融着性捲縮繊維を部分融着させて網状融着層を形成することを特徴とする前記(1)の塗装具用繊維構造体Aの製造方法;および、
(10) 捲縮伸長率が5〜30%の熱融着性捲縮繊維を30〜100質量%の割合で含む繊維から構成される立設繊維層を地組織の片面に有する繊維構造体を、立設繊維層の表面側から熱融着性捲縮繊維の融点以上の温度で熱圧着処理して表面部分の熱融着性捲縮繊維を融着させ、立設繊維層の表面に厚さ100〜1000μmの多孔質スキン層を形成することを特徴とする前記(4)の塗装具用繊維構造体Bの製造方法;
である。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明の塗装具用繊維構造体Aおよび塗装具用繊維構造体Bは、いずれも、地組織の片面に立設繊維層を有する繊維構造体をベースとする。
立設繊維層は、多数のパイルから構成される層であって、立設繊維層を構成するパイルは、捲縮伸長率が5〜30%の熱融着性捲縮繊維を30〜100質量%の割合で含む繊維から形成されていることが必要である。
本発明の塗装具用繊維構造体Aおよび塗装具用繊維構造体Bでは、立設繊維層を構成する繊維(パイル)の80〜100%が捲縮伸長率5〜30%の熱融着性捲縮繊維からなることが好ましく、100%(パイルの全量)が捲縮伸長率5〜30%の熱融着性捲縮繊維からなることがより好ましい。
【0017】
立設繊維層を構成する繊維(パイル)における熱融着性捲縮繊維の含有量が30質量%未満であると、立設繊維層を構成する捲縮繊維間の融着が不十分となる。その結果、塗装具用繊維構造体Aでは、立設繊維層の内側部分に繊維間の部分融着(すなわち、熱融着性捲縮繊維同士の部分融着および熱融着性捲縮繊維と他の繊維との部分融着)による網状融着層の形成が困難になり、塗料の吸収性能(“含み”)が低下し、しかも網状融着層の弾力性が低下する。また、塗装具用繊維構造体Bでは、立設繊維層の表面部分における多孔質スキン層の形成が不十分になり、表面の平滑状態が損なわれ、塗装面の仕上がりが悪くなる。
【0018】
立設繊維層を構成する繊維(パイル)の少なくとも一部を構成する熱融着性捲縮繊維としては、低融点重合体と繊維形成性重合体よりなり、繊維表面の少なくとも一部に低融点重合体が存在する複合紡糸繊維および/または混合紡糸繊維からなる捲縮繊維が好ましく用いられる。その場合に、該熱融着性捲縮繊維は、乾熱状態で110〜190℃で自己融着または他の繊維に融着するか、および/または湿熱無緊張下で95℃以上の熱水により軟化して自己融着または他の繊維に融着するものであることがより好ましい。
【0019】
熱融着性捲縮繊維が、前記した複合紡糸繊維または混合紡糸繊維である場合の複合形成または混合形態としては、例えば、繊維形成性重合体を芯成分とし低融点重合体を鞘成分とする芯鞘型、繊維形成性重合体を島成分とし低融点重合体を海成分とする海島型、繊維形成性重合体と低融点重合体とが貼合せ構造をなすサイドバイサイド型などを挙げることができ、そのうちでも芯鞘型または海島型であることが好ましい。
【0020】
熱融着性捲縮繊維として好ましく用いられる前記した複合紡糸繊維および混合紡糸繊維を構成する低融点重合体としては、例えば、エチレン−ビニルアルコール系共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのオレフィン系重合体、ポリアミド系重合体などを挙げることができ、そのうちでもエチレン−ビニルアルコール系共重合体が親水性が高い点から好ましい。また、該複合紡糸繊維および混合紡糸繊維を構成する繊維形成性重合体としては、例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリプロピレンなどを挙げることができ、そのうちでもポリエステルが捲縮付与性が良好である点から好ましい。
【0021】
また、上述のように、立設繊維層を構成する熱融着性捲縮繊維は、その捲縮伸長率が5〜30%であることが必要である。
熱融着性捲縮繊維の捲縮伸長率5%未満であると、立設繊維層において繊維(パイル)間の接触が不十分になる。その結果、塗装具用繊維構造体Aでは、立設繊維層の内側に繊維の部分融着による網状融着層が形成されなくなり、塗料の吸収性能(“含み”)および網状融着層の弾力性が低下する。また、塗装具用繊維構造体Bでは、立設繊維層の表面における多孔質スキン層の形成が不十分になり、表面の平滑状態が損なわれ、塗装面の仕上がりが悪くなり、しかも多孔質スキン層の下の嵩高層のバルキー性が低くなり、塗料の吸収性能(“含み”)が低下して塗工性が不良になり、さらに塗装時の塗膜の厚みのコントロールが困難になる。
一方、立設繊維層を構成する熱融着性捲縮繊維の捲縮伸長率が30%を超えると、塗装具用繊維構造体Aおよび塗装具用繊維構造体Bのいずれの場合も、塗料の流出性能(“吐き出し”)が低下して、塗装性が不良になり、しかも塗膜の厚みのコントロールが困難になる。
立設繊維層を構成する繊維(パイル)は、捲縮伸長率が10〜20%の熱融着性捲縮繊維を用いて形成されていることが、塗料の吸収性能(“含み”)、流出性能(“吐き出し”)、塗膜のコントロールがより良好になる点から好ましい。
なお、本明細書における「捲縮伸長率」とは、以下の実施例の項に記載した方法で測定した捲縮伸長率をいう。
【0022】
本発明の塗装具用繊維構造体Aおよび塗装具用繊維構造体Bでは、立設繊維層は構成する繊維(パイル)は、上記した熱融着性捲縮繊維とは異なる他の繊維を0〜70質量%の割合で含み得るが、他の繊維の種類は特に制限されず、例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリプロピレン、アクリル系重合体、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニリデンなどの1種または2種以上からなる非熱融着性の捲縮または非捲縮の合成繊維、ビスコース、レーヨンなどの半合成繊維、綿、羊毛、絹などを挙げることができ、それらの1種または2種以上を用いることができる。立設繊維層を上記した熱融着性捲縮繊維と共に他の繊維を用いて形成する場合は、上記した繊維のうちで、ポリエステル繊維が捲縮特性、熱融着性および繊維との接着性の点から好ましく用いられる。
立設繊維層を熱融着性捲縮繊維および他の繊維を併用して形成する場合は、両者が十分に混合分散しているようにすることが好ましい。
【0023】
立設繊維層(パイル部)を構成する熱融着性捲縮繊維および他の繊維の単繊維繊度は、塗料の含み易さの点から、1〜15dtexであることが好ましく、3〜7dtexであることがより好ましい。
また、立設繊維層におけるパイル密度は、パイルの倒立防止、塗料の吸収性能(“含み”)、流出性能(“吐き出し”)、塗装の仕上がり、
などの点から、繊維構造体1cm2当たり7000〜50000本(単繊維)であることが好ましく、10000〜30000本であることがより好ましい。
さらに、立設繊維層は、高さの同じパイル(繊維)から形成しても、または高さの異なる複数のパイル(繊維)から形成してもいずれでもよい。但し、いずれの場合も立設繊維層の最表面部は高さが揃った状態にする必要がある。
また、立設繊維層を構成する繊維(パイル)は、塗工性、塗膜の仕上がり、
などの点から、カットパイル状であることが好ましい。
【0024】
また、本発明の塗装具用繊維構造体Aおよび塗装具用繊維構造体Bにおける地組織は、立設繊維層を構成するパイルの保持部、および本発明の塗装具用繊維構造体Aおよび塗装具用繊維構造体Bを塗装具基体に取り付けるための基部として機能する。塗装具用繊維構造体Aおよび塗装具用繊維構造体Bにおける地組織の種類は特に制限されず、織地、編地、ニードルパンチングや流体処理などにより絡合された不織布、およびそれらの2つ以上の組み合わせたもののいずれであってもよい。また、地組織を形成する繊維や糸の種類も特に制限されず、上記したような合成繊維、半合成繊維、天然繊維のいずれから形成されていてもよい。
さらに、地組織の目付も特に制限されず、適宜調整することができる。
本発明の塗装具用繊維構造体Aおよび塗装具用繊維構造体Bにおける立設繊維層は、上記したように、捲縮伸長率が3〜10%の熱融着性捲縮繊維を30〜100質量%の割合で含む繊維(パイル)から構成されている必要があるが、地組織は熱融着性捲縮繊維を含んでいてもまたは含んでいないくてもよい。地組織が熱融着性捲縮繊維を含んでいる場合は、該熱融着性捲縮繊維が立設繊維層を構成する繊維(パイル)を地組織に融着固定してパイルの抜け防止機能を果たす。
【0025】
本発明の塗装具用繊維構造体Aおよび塗装具用繊維構造体Bのベースをなす繊維構造体の製造方法は特に制限されず、地組織用の糸または繊維と、捲縮伸長率が3〜10%の熱融着性捲縮繊維を30〜100質量%の割合で含む立設繊維層(パイル)用の繊維(糸)を用いて、従来既知のパイル布帛の製造方法に準じて製造することができる。
【0026】
そして、本発明の塗装具用繊維構造体Aでは、地組織の片面上に捲縮伸長率が3〜10%の熱融着性捲縮繊維を30〜100質量%の割合で含む繊維(パイル)から構成される立設繊維層を有する繊維構造体において、立設繊維層の内側に熱融着性捲縮繊維の部分融着(すなわち熱融着性捲縮繊維同士の部分融着および/または熱融着性捲縮繊維と他の繊維との部分融着)により形成された網状融着層が存在し、該網状融着層の外側の立設繊維層の表面側にバルキーな嵩高層が存在する。
【0027】
以下に、図1および図2を参照して本発明の塗装具用繊維構造体Aについて説明する。図1および図2は、本発明の塗装具用繊維構造体Aの例を模式的に示した図(厚さ方向の断面図)である。本発明の塗装具用繊維構造体Aが、図1および図2のものに何ら制限されないことはいうまでもない。
図1および図2において、1は地組織、2はパイルを構成する熱融着性捲縮繊維、3はパイルを構成する他の繊維、4はパイルから構成される立設繊維層、4aは立設繊維層4の内側に存在する網状融着層、4bは網状融着層4aの外側で立設繊維層4の表面部に存在するバルキーな嵩高層、5および6は熱融着性捲縮繊維2の融着部を示す。
図1には、立設繊維層4を構成する繊維(パイル)が熱融着性捲縮繊維2のみからなっている塗装具用繊維構造体Aを示したが、立設繊維層4は熱融着性捲縮繊維の割合が上記した30質量%以上である限りは、勿論、熱融着性捲縮繊維と他の繊維を併用して形成されていてもよい。
また、図1の塗装具用繊維構造体Aでは、立設繊維層4を構成する繊維(パイル)の高さは全体に等しくなっているが、図2の塗装具用繊維構造体Aに例示するように、立設繊維層4は高さの異なる繊維(パイル)から形成してもよい。但し、その場合には、良好な塗装性を保つために、立設繊維層4の最表面でのパイル高さが同じになる(立設繊維層の表面が平坦になる)ようにすることが必要である。
図2の塗装具用繊維構造体Aは、高さの低い熱融着性捲縮繊維2とそれよりも高い他の繊維3をパイルとして用いて立設繊維層4を形成した例である。
なお、図1に示すように、場合によっては、嵩高層4bにおいても、多少であれば熱融着性捲縮繊維が部分融着した融着部が存在しても構わない。
【0028】
図1の塗装具用繊維構造体Aでは、その立設繊維層4における網状融着層4aにおいて、熱融着性捲縮繊維2相互が捲縮により部分的に接触して、多数の融着部5と繊維の絡み合いが形成され、それによって網状融着層4aではその繊維間隙が嵩高層4bにおける繊維間隙より微小化されている。また、図2の塗装具用繊維構造体Aでは、その立設繊維層4における網状融着層4aにおいて、熱融着性捲縮繊維2相互が部分的に接触して多数の融着部5および絡み合いが形成され、さらに熱融着性捲縮繊維2と他の繊維3とが熱融着性捲縮繊維の捲縮により部分的に接触して両繊維間に多数の融着部6や絡み合いが形成される。そして、それによって、網状融着層4aではその繊維間隙が嵩高層4bにおける繊維間隙より微小化されている。その結果、図1および図2の塗装具用繊維構造体Aでは、網状融着層4a部分に毛管現象が生じて、塗装具用繊維構造体Aの表面から吸収された塗料が嵩高層4bを通って網状融着層4aに速やかに吸収され、しかもその微小化された繊維間隙により網状融着層4aに塗料が良好に保持される。そして、塗工時に塗装具用繊維構造体Aに押圧力が加わると、網状融着層4aに保持されている塗料が嵩高層4bを構成している繊維(熱融着性捲縮繊維および/または他の繊維)を伝って再度表面に流れ、被塗装面に塗布される。さらに、熱融着性捲縮繊維2の部分融着によって網状融着層4aには弾力性が付与されているので、塗装具用繊維構造体Aに対する押圧の調整が容易になり、網状融着層4aに保持されている塗料の吐き出し量を良好にコントロールすることができる。
また、立設繊維層4の表面側に存在する嵩高層4bは、熱融着性捲縮繊維の部分融着がないか、または部分融着の少ない繊維(熱融着性捲縮繊維および/または他の繊維)によってバルキーな状態になっていて、しかもその繊維(パイル)高さが均一に揃えられているために、網状融着層4aから流出してきた塗料が、被塗装面に均一に塗布される。
そのため、この塗装具用繊維構造体Aは、塗料の吸収性能(“含み”)、塗料の流出性能(“吐き出し”)および塗装面の仕上がり性能に優れており、液垂れ、塗膜厚みの不均一などを生ずることなく、厚さが均一で、仕上がりの良好な塗膜を形成することができ、特に光触媒塗料などのような低粘度の塗料の塗装するためのペイントローラーやコテ刷毛などの塗装具における塗工面用素材として適している。
【0029】
立設繊維層を構成する熱融着性捲縮繊維の種類、単繊維繊度、物性、塗装具用繊維構造体Aを取り付ける塗装具の種類などに応じて調整し得るが、本発明の塗装具用繊維構造体Aでは、網状融着層4aの保水能が、網状融着層4aを形成している繊維質量の4〜16倍、特に6〜10倍であることが、塗料の吸収性能(“含み”)、流出性能(“吐き出し”)、および塗膜の仕上がりなどの点から好ましく、そのような保水能は、網状融着層4aにおける部分融着の程度を調整することにより得ることができる。
なお、本明細書における網状融着層の保水能とは、以下の実施例の項に記載した方法で測定した保水能力を言う。
【0030】
また、本発明の塗装具用繊維構造体Aでは、立設繊維層4の高さが一般に3〜20mmであり、[網状融着層の厚さ]:[嵩高層の厚さ]:の比が9:1〜 1:9であることが、塗料の吸収性能(“含み”)、流出性能(“吐き出し”)、および塗膜の仕上がりなどの点から好ましい。
【0031】
本発明の塗装具用繊維構造体Aは、上記した構造を有している限り、いずれの方法で製造してもよいが、例えば、以下の方法で円滑に製造することができる。
製編織機、不織布製造装置などを使用して、シングル丸編地、ダブルラッセル編地、多重織物、積層不織布などの布帛を製造する際に、捲縮伸長率が3〜10%の熱融着性捲縮繊維を30〜100質量%の割合で含む繊維(糸)をカットパイル糸として供給して、地組織の片面上に捲縮伸長率が3〜10%の熱融着性捲縮繊維を30〜100質量%の割合で含む繊維(カットパイル)よりなる立設繊維層を有する繊維構造体を製造する。次いで、繊維構造体のカットパイル糸を毛割機を用いて開繊した後、立設繊維層のないもう片方の面(裏面)を上側に向けて、該裏面より水を繊維構造体の質量に対して70〜150質量%の割合で噴霧した後、[熱融着性捲縮繊維の融点−50(℃)]以上の温度で乾熱処理(熱風処理等)する。それによって、立設繊維層の内側に網状融着層が存在し、網状融着層の外側の立設繊維層の表面側にバルキーな嵩高層が存在する本発明の塗装具用繊維構造体Aが得られる。
【0032】
上記した方法では、立設繊維層(カットパイル)のない裏面を上に向け、立設繊維層(カットパイル)のある面を下にして該裏面から水を噴霧することにより、裏面から噴霧された水が地組織を通って立設繊維層を構成するカットパイルの先端付近へと移行(流下)し、カットパイルの先端付近は水分に富んだ状態となり、またカットパイルの根元付近や中間部分は水分の少ない状態となる。そしてその状態で乾熱処理することにより、水分を多く含むカットパイルの先端部分は水分の蒸発潜熱によって加熱が抑制されて熱融着性捲縮繊維の軟化や溶融が防止されて、カットパイルの先端部分(立設繊維層の表面側)はバルキーな嵩高層となる。一方、カットパイルの根元や中間部分は水分が少ないことにより、加熱時に熱融着性捲縮繊維が軟化または溶融し、繊維間の部分融着が生じて、立設繊維層の内側に網状融着層が形成される。
【0033】
また、本発明の塗装具用繊維構造体Bでは、地組織の片面上に捲縮伸長率が3〜10%の熱融着性捲縮繊維を30〜100質量%の割合で含む繊維(パイル)から構成される立設繊維層を有する繊維構造体において、立設繊維層の表面に、立設繊維層を構成する前記熱融着性捲縮繊維の融着による厚さ100〜1000μmの多孔質スキン層が存在している。
【0034】
以下に、図3を参照して本発明の塗装具用繊維構造体Bについて説明する。図3は、本発明の塗装具用繊維構造体Bの例を模式的に示した図(厚さ方向の断面図)である。本発明の塗装具用繊維構造体Bは図3のものに何ら制限されるものではない。
図3において、1は地組織、2はパイルを構成する熱融着性捲縮繊維、4はパイルから構成される立設繊維層、4cは立設繊維層4を構成する熱融着性捲縮繊維2の表面部分での融着によって形成された多孔質スキン層、4dは非融着繊維層、7は多孔質スキン層4cにおける空孔部を示す。
図3には、立設繊維層4を構成する繊維(パイル)が熱融着性捲縮繊維2のみからなっている塗装具用繊維構造体Bを示したが、立設繊維層4は熱融着性捲縮繊維の割合が上記した30質量%以上である限りは、勿論、熱融着性捲縮繊維と他の繊維を併用して形成されていてもよい。
【0035】
図3の塗装具用繊維構造体Bでは、塗装具用繊維構造体Bの表面に塗料を施すと、塗料微粒子が多孔質スキン層4cに存在する多数の空孔部7に保持される。それと同時に、水などの媒体は、空孔部7を通って、多孔質スキン層4cの内側に位置する非融着繊維層4dに速やかに到達し、該非融着繊維層4dに保持される。そして、塗工時に塗装具用繊維構造体Bに押圧力が加わると、非融着繊維層4dに保持されている媒体が多孔質スキン層4c側へと逆流し、空孔部7に保持されている塗料微粒子を運んで被塗装面に均一な塗膜を形成する。塗装具用繊維構造体Bの表面は多孔質スキン層4cにより平坦な状態になっているので、この点によっても被塗装面に均一な塗膜を形成することができる。
したがって、塗装具用繊維構造体Bも、塗装具用繊維構造体Aと同様に、塗料の吸収性能(“含み”)、塗料の流出性能(“吐き出し”)および塗装面の仕上がり性能に優れており、液垂れ、塗膜厚みの不均一などを生ずることなく、厚さが均一で、仕上がりの良好な塗膜を形成することができ、特に光触媒塗料などのような低粘度の塗料の塗装するためのペイントローラーやコテ刷毛などの塗装具における塗工面用素材として有効である。
【0036】
塗装具用繊維構造体Bでは、上記のように、その表面の多孔質スキン層の厚さが100〜1000μmであることが必要であり、250〜600μmであることが好ましい。多孔質スキン層の厚さが100μm未満であると、表面の平坦性が失われて、厚さの均一な塗膜を形成しにくくなる。一方、多孔質スキン層の厚さが1000μmを超えると、多孔質スキン層の内側の非融着繊維層の厚さが相対的に低減するため、塗料の吸収性能が低下して、液垂れ、塗膜の不均一などを生ずる。
また、塗装具用繊維構造体Bの多孔質スキン層は、表面に開放した孔径約5〜90μm程度の微細な空孔部を、1cm2当たり2000〜5000個程度有していることが、塗料の吸収性能および流出性能の点から好ましい。
さらに、塗装具用繊維構造体Bでは、塗料の吸収性能、流出性能、塗装面の仕上がりなどの点から、多孔質スキン層を含めた立設繊維層の高さが厚さが2〜 18mmであることが好ましく、5〜10mmであることがより好ましい。
【0037】
本発明の塗装具用繊維構造体Bは、上記した構造を有している限り、いずれの方法で製造してもよいが、捲縮伸長率が5〜30%の熱融着性捲縮繊維を30〜100質量%の割合で含む繊維から構成される立設繊維層を地組織の片面に有する繊維構造体を、立設繊維層の表面側から熱融着性捲縮繊維の融点以上の温度で熱圧着処理して表面部分の熱融着性捲縮繊維を融着させ、立設繊維層の表面に厚さ100〜1000μmの多孔質スキン層を形成させる方法によって円滑に製造することができる。
【0038】
本発明の塗装具用繊維構造体Aまたは塗装具用繊維構造体Bは、ペイントローラー、コテ刷毛、塗装ブラシなどの塗装具用の素材として有効に使用することができる。ペイントローラーの場合は、例えば、本発明の塗装具用繊維構造体Aまたは塗装具用繊維構造体Bを短冊状に切断し、裏面に接着剤を塗布して、ローラー用芯材の回りに螺旋状に巻き付けて固定する方法、本発明の塗装具用繊維構造体Aまたは塗装具用繊維構造体Bを長方形に切断して裏面に接着剤を塗布してローラー用芯材を縦長に包囲するようにして巻いて固定する方法などを採用して製造することができる。また、本発明の塗装具用繊維構造体Aまたは塗装具用繊維構造体Bを、表面がフラットな板状物(直方体状物)に貼り付けることによって、塗装用のコテ刷毛を製造することができる。さらに、本発明の塗装具用繊維構造体Aまたは塗装具用繊維構造体Bを用いてブラシ状の塗装具を製造してもよい。
【0039】
塗装具用繊維構造体Aまたは塗装具用繊維構造体Bを用いて製造したペイントローラー、コテ刷毛などの塗装具は、塗料の吸収性能(“含み”)、塗料の流出性能(“吐き出し”)、塗装面の仕上がり性能に優れており、そのような優れた特性を活かして各種塗料の塗装に用いることができ、そのうちでも粘度の低い塗料、特に水を媒体とする粘度の低い光触媒塗料の塗装に極めて有効に使用することができる。
【0040】
【実施例】
以下に本発明を実施例などにより具体的に説明するが、本発明は以下の例により何ら制限されない。
以下の例において、繊維構造体の立設繊維層を構成する繊維(糸)の捲縮伸長率、立設繊維層における網状融着層の保水能、ペイントローラーの含み量および吐出量、以下の例で製造した塗装具を用いて光触媒塗料を塗装して得られる塗装面の親水性(濡れ性)、光触媒塗料の塗装面の光触媒性能(アセトアルデヒド分解能)は、以下のようにして測定または評価した。
【0041】
(1)繊維構造体の立設繊維層を構成する繊維(糸)の捲縮伸長率:
カセ取機で5500dtexのカセとなるまで糸条を巻き取った後、カセの下端中央に10gの荷重を吊るし、上部でこのカセを固定して、0.009cN/dtexの荷重がかかった状態で90℃の温度で30分間熱処理を行った。次いで、無荷重状態で室温で放置して乾燥した後、再び10gの荷重をかけて5分間放置後の糸長を測定、これをL1(mm)とした。次に、1kgの荷重をかけ、30秒間放置後の糸長を測定し、これをL2(mm)として、下記の数式▲1▼により捲縮伸長率を求めた。
【0042】
【数1】
捲縮伸長率(%)={(L2−L1)/L2}×100 ▲1▼
【0043】
(2)立設繊維層における網状融着層の保水能:
繊維構造体の立設繊維層における表面側の嵩高層を刈り取った後、網状融着層から地組織をスライスして除き、それを所定の寸法(縦横サイズ)に切断して試験片をつくり、その試験片の乾燥質量を測定し、これをW1(g)とする。次に、その試験片(網状融着層部分)を水中に浸漬して、3分間放置した後、取り出してその質量を測定し、これをW2(g)とし、以下の数式▲2▼により保水能を求めた。
【0044】
【数2】
保水能(倍)=W2/W1 ▲2▼
【0045】
(3)ペイントローラーの含み量および吐出量:
(i)含み量:
下記の例で作製したペイントローラー本体(ローラーとハンドル)の乾燥質量を測定して、これを(A)(g)とする。次いで、ペイントローラーに水を飽和状態になるまで含ませた後、液垂れがなくなるまでネット上で軽くしごいて再度その質量を測定し、これを(B)(g)とし、以下の数式▲3▼により含み量(C)を求める。
(ii)吐出量:
上記(i)で液垂れがなくなるまで軽くしごいたペイントローラーを用いて1m2のガラス面を塗装し、該塗装後のペイントローラーの質量(D)(g)を測定して、以下の数式▲4▼により吐出量(E)(g)を求めた。
【0046】
【数3】
含み量(C)(g)=(B)−(A) ▲3▼
吐出量(E)(g)=(C)−(D) ▲4▼
【0047】
(4)塗装面の親水性(濡れ性):
下記の例で作製した塗装具(ペイントローラーまたはコテ刷毛)を使用して、光触媒塗料をガラス板(10cm×10cm)の表面に塗布し、20℃で乾燥して、厚みが約2μmの光触媒塗料層を形成させた。その塗装面に、注射器により1mlの蒸留水を滴下し、その広がり具合を目視により観察して、下記の評価基準により評価した。
○:塗装面の全体がほぼ濡れており、ガラス板を傾けると水が流れる。
△:塗装面に半球状の水滴が付着しており、ガラス板を傾けると垂れる。
×:ほぼ球状の水滴のままであり、ガラス板を傾けると転がる。
【0048】
(5)塗装面の光触媒性能(アセトアルデヒド分解率):
下記の例で作製した塗装具(ペイントローラーまたはコテ刷毛)を使用して、上記(4)で用いたのと同じ光触媒塗料をガラス板(10cm×10cm)の表面に塗布し、20℃で乾燥して、厚みが約2μmの光触媒塗料層を形成させた。塗装したガラス板を、塗装面を上にして5リットルのパイレックス製透明容器に収容し、そこに初期濃度が15ppmになるようにアセトアルデヒドを注入し、容器の上方10cmの距離に設置したブラックライト(3.0mW/cm2)で24時間照射し、照射開始から30分後、2時間後および24時間後におけるアセトアルデヒド濃度を測定し、アセトアルデヒドの初期濃度(C0)(15ppm)と各測定時の濃度(C1)(ppm)から、下記の数式▲5▼によりアセトアルデヒド分解率を求めて、光触媒性能の指標とした。
【0049】
【数4】
アセトアルデヒド分解率(%)={(C0−C1)/C0}×100} ▲5▼)
【0050】
《実施例1》
(1) ポリエチレンテレフタレート(フェノール/テトラクロロエタン等質量混合溶媒中、30℃で測定した固有粘度=0.68)を芯成分とし、エチレン−ビニルアルコール系共重合体[エチレン含有量40モル%、温度190℃、荷重2160gで測定したときのメルトインデックス(MI)=10]を鞘成分とし、芯成分:鞘成分=1:1(質量比)の割合で複合紡糸した後、延伸して、155dtex/48フィラメントの熱融着性の芯鞘型複合紡糸マルチフィラメント糸を製造した。
(2) 上記(1)で得られた芯鞘型複合紡糸マルチフィラメント糸を、仮撚数2570T/M、1段ヒーター温度120℃、2段ヒーター温度135℃で仮撚加工して仮撚加工糸を製造した。これにより得られた仮撚加工糸の捲縮伸長率を上記した方法で測定したところ17%であった。
(3) 上記(2)で得られた捲縮伸長率が17%の仮撚加工糸(熱融着性捲縮繊維)を3本引き揃えてパイル用糸として用い、レギュラーポリエステル仮撚加工糸(330dtex)を地組織用糸として用いて、口径19インチ(48.3cm)、16ゲージのシール編機を使用して、地組織の編み立てを行うと同時に、前記したパイル用糸によって、カットパイルよりなる立設繊維層を地組織の片面に形成させて、立設繊維層を含めた全体の厚みが10mm(カットパイルの高さ約9mm)、目付が530g/m2の繊維構造体(シール編地)を製造した。
【0051】
(4) 上記(3)で得られたシール編地を精練した後、該編地の裏面(カットパイルのない面)を上に向けて、裏面よりスプレー方式により含水率が30質量%になる量で水を噴霧した後、そのままの状態(編地の裏面を上に向けたままの状態)で乾燥機に入れて170℃で2分間熱風処理した。これにより得られた繊維構造体は、地組織の厚さが1mm、および立設繊維層(パイル層)全体の高さが8mmであった。立設繊維層(パイル層)では、地組織の表面から高さ約4mmまでが熱融着性捲縮繊維の部分融着による網状融着層となっており、その上(表面側)に厚さが約4mmのバルキー性の高い嵩高層が形成されており、本発明の塗装具用繊維構造体Aに相当するものであった。
(5) 上記(4)で得られた繊維構造体(塗装具用繊維構造体A)における立設繊維層の網状融着層の保水能を上記した方法で測定したところ、下記の表1に示すとおりであった。
【0052】
(6) 上記(4)で得られた繊維構造体(塗装具用繊維構造体A)を幅2.5cm、長さ35cmに短冊状に裁断し、その裏面に接着剤を塗布して、ポリプロピレン製円筒状コア(長さ×外径=15cm×1.7cm)の表面に螺旋状に巻き付け、固定した後、ハンドルを取り付けてペイントローラーを作製した。
これにより得られたペイントローラーの含み量および吐出量を上記した方法で測定したところ、下記の表1に示すとおりであった。
(7) また、上記(6)で作製したペイントローラーを使用して、上記した方法で光触媒塗料を塗装して得られる塗装面の親水性(濡れ性)および光触媒性能(アセトアルデヒド分解率)を測定または評価したところ、下記の表1に示すとおりであった。
【0053】
《比較例1》
(1) 実施例1の(1)で製造した熱融着性の芯鞘型複合紡糸マルチフィラメント糸を仮撚加工を施さずに3本引き揃えてパイル用糸として用いて、それ以外は実施例1の(3)と同様にして、カットパイルよりなる立設繊維層を地組織の片面に有する、立設繊維層を含めた全体の厚みが10mm(カットパイルの高さ約8mm)、目付が500g/m2の繊維構造体(シール編地)を製造した。
なお、カットパイルとして用いた捲縮加工を施さない熱融着性の芯鞘型複合紡糸マルチフィラメント糸の捲縮伸長率は、上記した方法で測定したところ3%と低い値であった。
(2) 上記(1)で得られたシール編地を精練した後、該編地の裏面(カットパイルのない面)を上に向けて、裏面よりスプレー方式により含水率が30質量%になる量で水を噴霧した後、そのままの状態(編地の裏面を上に向けたままの状態)で乾燥機に入れて170℃で2分間熱風処理したが、それにより得られた繊維構造体では、立設繊維層全体が硬化した状態となっており、立設繊維層を構成しているカットパイルに捲縮がなく繊維間の接触がないことにより、熱融着性繊維(カットパイル繊維)の部分融着による網状融着層およびバルキーな嵩高層のいずれもが形成されなかった。
(3) 上記(2)で得られた繊維構造体を使用して、実施例1の(6)と同様にしてペイントローラーを作製し、そのペイントローラーの含み量および吐出量を上記した方法で測定したところ、下記の表1に示すとおりであった。
(4) また、上記(3)で作製したペイントローラーを使用して、上記した方法で光触媒塗料を塗装して得られる塗装面の親水性(濡れ性)および光触媒性能(アセトアルデヒド分解率)を測定または評価したところ、下記の表1に示すとおりであった。
【0054】
《比較例2》
(1) 実施例1の(1)で製造したのと同じ熱融着性の芯鞘型複合紡糸マルチフィラメント糸を、仮撚数2570T/M、1段ヒーター温度を120℃、2段ヒーター温度を常温にして仮撚加工して仮撚加工糸を製造した。これにより得られた仮撚加工糸の捲縮伸長率を上記した方法で測定したところ34%と高い値であった。
(2) 上記(1)で得られた捲縮伸長率が34%の仮撚加工糸(熱融着性捲縮繊維)を3本引き揃えてパイル用糸として用い、それ以外は実施例1の(3)と同様にして、立設繊維層を含めた全体の厚みが10mm(カットパイルの高さ約9mm)、目付が510g/m2の繊維構造体(シール編地)を製造した。
(3) 上記(2)で得られたシール編地を精練した後、実施例1の(4)と同様にシール編地の裏面よりスプレー方式により含水率が30質量%になる量で水を噴霧した後、そのままの状態(編地の裏面を上に向けたままの状態)で乾燥機に入れて170℃で2分間熱風処理した。これにより得られた繊維構造体は、地組織の厚さが1mm、および立設繊維層(パイル層)全体の高さが7mmであった。立設繊維層(パイル層)では、地組織の表面から高さ約4mmまでが熱融着性捲縮繊維の部分融着による網状融着層となっており、その上(表面側)に厚さが約3mmのバルキー性の嵩高層が形成されていた。
(4) 上記(3)で得られた繊維構造体における網状融着層の保水能を上記した方法で測定したところ、下記の表1に示すとおりであった。
(5) 上記(3)で得られた繊維構造体を使用して、実施例1の(6)と同様にしてペイントローラーを作製し、そのペイントローラーの含み量および吐出量を上記した方法で測定したところ、下記の表1に示すとおりであった。
(6) また、上記(5)で作製したペイントローラーを使用して、上記した方法で光触媒塗料を塗装して得られる塗装面の親水性(濡れ性)および光触媒性能(アセトアルデヒド分解率)を測定または評価したところ、下記の表1に示すとおりであった。
【0055】
《参考例1および2》
(1) ポリエステル製多重織物を用いてなる市販のペイントローラー(大塚刷毛株式会社製「AOZORA」)(参考例1)、およびハイパイル編物を用いてなる市販のペイントローラー(大塚刷毛株式会社製「Bローラー」;パイル高さ13mm)(参考例2)について、それぞれの含み量および吐出量を上記した方法で測定したところ、下記の表1に示すとおりであった。
(2) また、上記(1)の2つのペイントローラー使用して、上記した方法で光触媒塗料を塗装し、それにより得られた塗装面の親水性(濡れ性)および光触媒性能(アセトアルデヒド分解率)を上記した方法で測定または評価したところ、下記の表1に示すとおりであった。
【0056】
【表1】
【0057】
上記の表1の結果から、実施例1の塗装具用繊維構造体Aは、地組織の片面に捲縮伸長率が5〜30%の熱融着性捲縮繊維を30〜100質量%の割合で含む繊維から構成される立設繊維層を有し、かつ該立設繊維層の内側に前記熱融着性捲縮繊維の部分融着により形成された網状融着層が存在し、該網状融着層よりも外側の立設繊維層の表面側にバルキーな嵩高層が存在していることによって、その網状融着層は保水能に優れていることがわかる。
そして、実施例1の塗装具用繊維構造体Aから作製したペイントローラーは、含み量および吐出量のいずれもが適度に高く、塗料の吸収性能および吐出性能に優れており、また光触媒塗料などのような粘度の低い塗料を被塗装面に均一に塗装でき、それによって塗装面が良好な光触媒作用を発揮する。
さらに、実施例1の塗装具用繊維構造体Aから作製したペイントローラーは、参考例1および2の市販のペイントローラーに比べて、光触媒塗料を塗布して形成された塗装面の親水性(濡れ)および光触媒性能(アセトアルデヒド分解率)がいずれも高くなっており、参考例1および2のペイントローラーに比べて光触媒塗料の塗布性能に優れている。
【0058】
それに対して、比較例1の繊維構造体は、その立設繊維層が捲縮伸長率が3%の捲縮していない熱融着性繊維から形成されているために、立設繊維層に網状融着層とバルキーな嵩高層が形成されない。そして、そのような比較例1の繊維構造体は保水能が低く、しかも比較例1の繊維構造体を用いて作製したペイントローラーは、含み量および吐出量のいずれもが極めて低く、塗料の吸収性能および吐出性能に劣っている。さらに、光触媒塗料などのような粘度の低い塗料を被塗装面に均一に塗装できず、塗装面が光触媒作用を発揮しない。
また、比較例2の繊維構造体は、その立設繊維層が捲縮伸長率が34%の熱融着性の捲縮繊維から形成されていて、該比較例2の繊維構造体を用いて作製したペイントローラーは含み量および吐出量のいずれもが実施例1に比べて高いが、光触媒塗料などのような粘度の低い塗料の被塗装面への塗装性が十分ではなく、実施例1に比べて、塗装面の光触媒作用が低い。
【0059】
《実施例2》
(1) 実施例1の(3)で得られたシール編地を精練した後、そのカットパイルよりなる立設繊維層の表面を、190℃のカレンダーローラーにより線圧50kg/cmで押圧しながらカレンダーローラーとの接触時間5秒で熱処理した。これにより得られた繊維構造体では、立設繊維層の表面付近に厚さ270μmの多孔質スキン層が形成されており、本発明の塗装具用繊維構造体Bに相当するものであった。
(2) 上記(1)で得られた塗装具用繊維構造体Bの多孔質スキン層の表面に20℃の水道水をスポイトにて滴下したところ、瞬時に内部に吸収された。
(3) 上記(1)で得られた塗装具用繊維構造体Bを、15cm×10cmにサイズに裁断し、裏面側に接着剤を塗布して、縦×横×厚さ=15cm×10cm×0.7cmのポリプロピレン製の基板に接着してコテ刷毛を作製した。
(4) 上記(3)で作製したコテ刷毛を使用して、上記した方法で光触媒塗料を塗装し、それにより得られた塗装面の親水性(濡れ性)および光触媒性能(アセトアルデヒド分解率)を上記した方法で測定または評価したところ、下記の表2に示すとおりであった。
【0060】
《比較例3》
(1) 比較例1の(1)で得られた繊維構造体(シール編地)[捲縮加工されていない捲縮伸長率3%のカットパイルよりなる立設繊維層を地組織の片面に有するシール編地)を精練した後、そのカットパイルよりなる立設繊維層の表面を、190℃のカレンダーローラーにより線圧50kg/cmで押圧しながらカレンダーローラーとの接触時間5秒で熱処理した。これにより得られた繊維構造体を電子顕微鏡により写真撮影したところ、立設繊維層の表面付近に厚さ500μmのスキン層が形成されていた。
(2) 上記(1)で得られた繊維構造体のスキン層の表面に20℃の水道水をスポイトにて滴下したところ、内部に吸収されずに、むしろ水滴をはじく結果となった。かかる点から、繊維構造体の立設繊維層(カットパイル)が捲縮伸長率が5%未満の熱融着性繊維(この比較例3では捲縮伸長率が3%の捲縮していない熱融着性)から形成されていると、立設繊維層の表面を加熱融着した場合の空孔部のないスキン層となることがわかる。
(3) 上記(1)で得られた繊維構造体を15cm×10cmにサイズに裁断し、実施例2の(3)と同様にしてコテ刷毛を作製した。
(4) 上記(3)で作製したコテ刷毛を使用して、上記した方法で光触媒塗料を塗装し、それにより得られた塗装面の親水性(濡れ性)および光触媒性能(アセトアルデヒド分解率)を上記した方法で測定または評価したところ、下記の表2に示すとおりであった。
【0061】
【表2】
【0062】
上記の表2の結果からわかるように、地組織の片面に捲縮伸長率が5〜30%の熱融着性捲縮繊維を30〜100質量%の割合で含む繊維から構成された立設繊維層を有し、且つ該立設繊維層の表面に熱融着性捲縮繊維の融着による厚さ100〜1000μmの多孔質スキン層が存在する本発明の塗装具用繊維構造体Bは塗料の吸収性能に優れている。そして、該塗装具用繊維構造体Bを用いて作製したコテ刷毛などの塗装具は、光触媒塗料などのような粘度の低い塗料を被塗装面に均一に塗装でき、それによって塗装面が良好な光触媒作用を発揮する。
【0063】
【発明の効果】
本発明の塗装具用繊維構造体Aは、地組織の片面に捲縮伸長率が5〜30%の熱融着性捲縮繊維を30〜100質量%の割合で含む繊維から構成された立設繊維層(パイル)を有し、該立設繊維層の内側に前記熱融着性捲縮繊維の部分融着により形成された網状融着層が存在し、該網状融着層よりも外側の立設繊維層の表面側にバルキーな嵩高層が存在するという特定の構造を有している。そのため、本発明の塗装具用繊維構造体Aおよびそれを用いて作製したペイントローラー、コテ刷毛などの塗装具では、該網状融着層が塗料を十分に保持することができ、塗料の吸収性能および保持性能に優れている。そして、網状融着層に多量の塗料を保持することができ、さらに網状融着層の上部にはバルキーな嵩高層が存在しているので、塗料の流出性能および塗布性能にも優れており、液垂れ、塗膜厚みの不均一などを生ずることなく、厚さが均一で、仕上がりの良好な塗膜を円滑に形成することができる。
しかも、該網状融着層では、熱融着性捲縮繊維の部分融着によって良好な弾力性を有しているために、塗装する際の塗装具への押圧力のコントロールが容易であり、厚さの均一で、きれいな塗膜を形成することができる。
そして、本発明の製造方法により、前記した優れた特性を備える塗装具用繊維構造体Aを円滑に製造することができる。
【0064】
さらに、本発明の塗装具用繊維構造体Bは、地組織の片面に捲縮伸長率が5〜30%の熱融着性捲縮繊維を30〜100質量%の割合で含む繊維から構成された立設繊維層を有し、該立設繊維層の表面に立設繊維層を構成する熱融着性捲縮繊維の融着による厚さ100〜1000μmの多孔質スキン層が存在する。
そして、塗装具用繊維構造体Bおよびそれを用いて作製したペイントローラーやコテ刷毛などの塗装具では、該多孔質スキン層内に存在する多数の空孔部に塗料微粒子が均一に保持され、その一方で水などの溶媒は多孔質スキン層を通って内側の捲縮繊維層に良好に保持されるので、本発明の塗装具用繊維構造体Bおよびそれを用いてなる塗装具は塗料の保持能に優れている。しかも、塗装時に塗装具用繊維構造体Bが押圧されると、立設繊維層の内側に位置する捲縮繊維層に保持されている溶媒が表面に逆流して、表面の多孔質スキン層の空孔部に保持されていた塗料微粒子を被塗装面へと搬送されるので塗料の吐出性能に優れ、それによって被塗装面に仕上がりの良好な均一な塗膜を形成することができる。
そのような、本発明の塗装具用繊維構造体Bは、本発明の製造方法によって円滑に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の塗装具用繊維構造体Aの一例を示す模式図(断面図)である。
【図2】本発明の塗装具用繊維構造体Aの別の例を示す模式図(断面図)である。
【図3】本発明の塗装具用繊維構造体Bの一例を示す模式図(断面図)である。
【符号の説明】
1 地組織
2 パイルを構成する熱融着性捲縮繊維
3 パイルを構成する他の繊維
4 パイルから構成される立設繊維層
4a 立設繊維層4の内側に存在する網状融着層
4b 網状融着層4aの外側で立設繊維層4の表面部に存在する嵩高層
4c 多孔質スキン層
4d 非融着繊維層
5 熱融着性捲縮繊維2の融着部
6 熱融着性捲縮繊維2の融着部
7 空孔部
Claims (10)
- 地組織の片面に立設繊維層を有し、該立設繊維層は捲縮伸長率が5〜30%の熱融着性捲縮繊維を30〜100質量%の割合で含む繊維から構成されており、該立設繊維層は、その内側部分が前記熱融着性捲縮繊維の部分融着により形成された網状融着層をなし且つ該網状融着層の上部の外側部分がバルキーな嵩高層をなしていることを特徴とする塗装具用繊維構造体。
- 立設繊維層の高さが3〜20mmであり、[網状融着層の厚さ]:[嵩高層の厚さ]の比が9:1〜1:9である請求項1に記載の塗装具用繊維構造体。
- 網状融着層の保水能が、網状融着層を形成している繊維質量の4〜16倍である請求項1または2に記載の塗装具用繊維構造体。
- 地組織の片面に立設繊維層を有し、該立設繊維層は捲縮伸長率が5〜30%の熱融着性捲縮繊維を30〜100質量%の割合で含む繊維から構成されており、立設繊維層の表面部分が、立設繊維層を構成する前記熱融着性捲縮繊維の融着による厚さ100〜1000μmの多孔質スキン層をなしていることを特徴とする塗装具用繊維構造体。
- 多孔質スキン層を含めた立設繊維層の高さが2〜18mmである請求項4に記載の塗装具用繊維構造体。
- 立設繊維層を構成する熱融着性捲縮繊維が、低融点重合体と繊維形成性重合体からなり、繊維表面の少なくとも一部に低融点重合体が存在する複合紡糸繊維および/または混合紡糸繊維からなる捲縮繊維である請求項1〜5のいずれか1項に記載の塗装具用繊維構造体。
- 請求項1〜6のいずれか1項に記載の塗装具用繊維構造体を塗装面として基材に取り付けてなるペイントローラーまたはコテ刷毛。
- 光触媒塗料の塗装用である請求項7に記載のペイントローラーまたはコテ刷毛。
- 捲縮伸長率が5〜30%の熱融着性捲縮繊維を30〜100質量%の割合で含む繊維から構成される立設繊維層を地組織の片面に有する繊維構造体に対して、立設繊維層を有していないもう片方の面を上に向けた状態で、該もう片方の面から水を噴霧した後、[前記熱融着性捲縮繊維の融点−50(℃)]以上の温度で熱処理して立設繊維層の内側で熱融着性捲縮繊維を部分融着させて網状融着層を形成することを特徴とする請求項1に記載の塗装具用繊維構造体の製造方法。
- 捲縮伸長率が5〜30%の熱融着性捲縮繊維を30〜100質量%の割合で含む繊維から構成される立設繊維層を地組織の片面に有する繊維構造体を、立設繊維層の表面側から熱融着性捲縮繊維の融点以上の温度で熱圧着処理して表面部分の熱融着性捲縮繊維を融着させ、立設繊維層の表面に厚さ100〜1000μmの多孔質スキン層を形成することを特徴とする請求項4に記載の塗装具用繊維構造体の製造方法。
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