JP4617526B2 - クラッチの制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、内燃機関等の動力源と変速機との間のトルク伝達を行わせる車両用摩擦クラッチの制御装置に係り、特に、クラッチフェーシングの摩耗調整等を行うクラッチ制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、この種のクラッチ装置においては、クラッチフェーシング(クラッチディスク)の摩耗に伴ってダイヤフラムスプリングの姿勢が変化するため、クラッチを遮断する(非係合状態とする)のに必要な操作力、即ち、クラッチカバーに対する荷重が増大する。このため、例えば、特開平5−215150号公報に開示された装置は、クラッチ操作時におけるクラッチカバーに対する荷重(クラッチカバーに固定されるセンサダイヤフラムに対する荷重)に応じてダイヤフラムスプリングの支点高さを変更し、これによりダイヤフラムスプリングの姿勢を修正し、以てクラッチフェーシングの摩耗に伴うクラッチ特性の変化を補償するようになっている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来の技術においては、車両の運転に伴う振動によりクラッチカバーが共振し、クラッチカバーに対する荷重が変動することがあるため、クラッチフェーシング(クラッチディスク)の摩耗を精度良く補償できないという問題がある。
【0004】
【発明の概要】
本発明は、上記課題に対処すべくなされたものであって、その構成上の特徴は、車両に搭載された駆動源(例えばエンジン)の出力軸と一体的に回転するホイールに対向するクラッチディスクをプレッシャプレートとスプリングとを介して進退させ、前記ホイールと前記クラッチディスクとの係合状態を変化させるクラッチの制御装置において、前記クラッチディスクの係合状態を変化させるための力を前記スプリングに付与するアクチュエータと、前記プレッシャプレートと前記スプリングとの間に配設されて同プレッシャプレートと同スプリング間の力の伝達経路を形成するとともに、同スプリングと同プレッシャプレートとの距離を変更し得るように構成された調整部材と、前記クラッチディスクの摩耗量を検出する手段と、前記検出された摩耗量が所定量よりも大きくなったか否かを判定するとともに同摩耗量が同所定量よりも大きくなったと判定した場合において、所定の条件が成立した場合にのみ(例えば、前記車両の速度である車速が0である場合にのみ、或いは、前記エンジンの回転数NEがエンジン作動に最低限必要な所定の低速側回転数αより大きく且つエンジンの振動が大きくなり始める回転数である所定の高速側回転数βより小さい場合にのみ)、前記調整部材が前記スプリングと前記プレッシャプレートとの距離を変更するように前記アクチュエータの作動を制御する制御手段とを備えたことを備えたことにある。
【0005】
これによれば、所定の条件が成立した場合にのみ前記スプリングと前記プレッシャプレートとの距離が変更されるので、この所定の条件を例えばクラッチが共振すること等のない運転条件とすることにより、クラッチディスクの摩耗を精度良く補償することが可能となる。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明によるクラッチ制御装置の第1実施形態について図1〜図8を参照しつつ説明する。図1に概略的に示された本クラッチ制御装置は、駆動源としてのエンジン10と変速機11との間に配設される摩擦クラッチ20を制御するものであり、同クラッチ20を操作するアクチュエータ30と、このアクチュエータ30に駆動指令信号を出力するクラッチ制御回路40とを含んで構成されている。
【0009】
摩擦クラッチ20は、図2にその詳細を示したように、フライホイール21、クラッチカバー22、クラッチディスク23、プレッシャプレート24、ダイヤフラムスプリング25、レリーズベアリング26、レリーズフォーク27、変速機ケース11aに固定されたピボット支持部材28、及びアジャストウェッジ部材29を主たる構成要素として備えている。なお、プレッシャプレート24、ダイヤフラムスプリング25、及びレリーズフォーク27等はクラッチカバー22に一体的に組み付けられるため、これらをクラッチカバー組立体(アッセンブリ)と称することがある。
【0010】
フライホイール21は、鋳鉄製の円板であり、エンジン10のクランクシャフト(駆動源の出力軸)10aにボルト固定されていて、同クランクシャフト10aと一体的に回転するようになっている。
【0011】
クラッチカバー22は、略円筒形状であって、円筒部22aと、円筒部22aの内周側に形成されたフランジ部22bと、円筒部22aの内周縁に周方向に等間隔で形成された複数の保持部22cと、円筒部22aから内周側に向けて屈曲されたプレッシャプレートストッパ部22dとを含んでなり、円筒部22aの外周部にてフライホイール21にボルト固定されて同フライホイール21と一体的に回転するようになっている。
【0012】
クラッチディスク23は、エンジン10の動力を変速機11に伝達する摩擦板であって、フライホイール21とプレッシャプレート24との間に配設され、中央部にて変速機11の入力軸とスプライン連結されることにより軸方向に移動できるようになっている。また、クラッチディスク23の外周部の両面には、摩擦材からなるクラッチフェーシング23a,23bがリベットにより張り付け固定されている。
【0013】
プレッシャプレート24は、クラッチディスク23をフライホイール21側に押圧してフライホイール21との間に挟み込み、クラッチディスク23をフライホイール21と係合させて一体的に回転させるものである。このプレッシャプレート24は、クラッチカバー22の回転に伴って回転するように、ストラップ24aにより同クラッチカバー22と連結されている。
【0014】
ストラップ24aは、積層された複数枚の薄い板ばね材から構成されていて、図3にも示したように、その一端がリベットR1によりクラッチカバー22の外周部に固定されるとともに、その他端がリベットR2によりプレッシャプレート24の外周部に設けられた突起部に固定されている。これにより、ストラップ24aは、プレッシャプレート24がフライホイール21から離間し得るように、同プレッシャプレート24に対して軸方向の付勢力を付与している。
【0015】
図2及び図4に示したように、プレッシャプレート24の最外周部には、同プレッシャプレート24がダイヤフラムスプリング25側に所定量だけ移動したときに、クラッチカバー22のプレッシャプレートストッパ部22dと当接する当接部24bが設けられている。この当接部24bの内周側には、ダイヤフラムスプリング25側に向けガイド部24cが立設されている。ガイド部24cの内周側には、図5に示したように、鋸歯状のテーパ部24dがダイヤフラムスプリング25に向けて立設されている。
【0016】
ダイヤフラムスプリング25は、図3にも示したように、クラッチカバー22の円筒部22aの内周に沿って放射状に配置された12本の弾発性の板材25a(以下、「レバー部材25a」と称する。)から構成されている。各レバー部材25aは、図2に示したように、クラッチカバー22の保持部22cに、各レバー部材25aの軸方向両側に配置された一対のリング状の支点部材25b,25cを介して挟持されている。これにより、レバー部材25aは、クラッチカバー22に対しリング部材25b,25cを支点としたピボット運動をすることができるようになっている。
【0017】
上記プレッシャプレート24のテーパ部24dと、上記ダイヤフラムスプリング25の外周部との間には、調整部材の一部としてのアジャストウェッジ部材29が配設されている。このアジャストウェッジ部材29は、リング状の部材であって、図5に示したように、テーパ部24dと同一形状のウェッジ側テーパ部29aを有し、ウェッジ側テーパ部29aとテーパ部24dとはテーパ面TPにて互いに当接している。また、アジャストウェッジ部材29のダイヤフラムスプリング25側(図5において上側)は、平坦とされている。このアジャストウェッジ部材29は、プレッシャプレート24とダイヤフラムスプリング25との間の力の伝達経路を形成し、ダイヤフラムスプリング25に付与される力及び同ダイヤフラムスプリング25に発生する力をプレッシャプレート24に伝達する。
【0018】
アジャストウェッジ部材29のダイヤフラムスプリング25側の適宜の位置には切り欠き29bが設けられ、プレッシャプレート24のテーパ部24dの適宜の位置には貫通孔24eが設けられていて、切り欠き29bと貫通孔24eの各々には、引張されたコイルスプリングCSの各端部が係止されている。これにより、プレッシャプレート24とアジャストウェッジ部材29は、テーパ部24dの各頂部とウェッジ側テーパ部29aの各頂部とが近づく方向に相対回転するように付勢されている。
【0019】
レリーズベアリング26は、変速機11の入力軸の外周を包囲するように変速機ケース11aに支持された支持スリーブ11bに対し摺動可能に支持されていて、レバー部材25aの内端部(ダイヤフラムスプリング25の中央部)をフライホイール21側に押動するための力点部26aを構成している。
【0020】
レリーズフォーク27(フォーク部材)は、アクチュエータ30の作動に応じてレリーズベアリング26を軸方向に摺動させるためのものであって、一端がレリーズベアリング26と当接し、他端がアクチュエータ30のロッド31の先端部と当接部27aにて当接している。また、レリーズフォーク27は、変速機ケース11aに固定されたスプリング27cによりピボット支持部材28に組みつけられていて、同レリーズフォーク27の略中央部27bにて同ピボット支持部材28を支持点として揺動するようになっている。
【0021】
アクチュエータ30は、前述したロッド31を進退移動させるものであって、直流電動モータ32と、この電動モータ32を支持するとともに車両の適宜個所に固定されたハウジング33とを備えている。ハウジング33内には、電動モータ32により回転駆動される回転軸34と、側面視にて扇型をなしハウジング33に揺動可能に支持されたセクタギヤ35と、アシストスプリング36とが収容されている。
【0022】
前記回転軸34にはウオームが形成され、前記セクタギヤ35の円弧部と歯合している。また、ロッド31の基端部(レリーズフォーク27と当接している先端部と反対側の端部)は、セクタギヤ35に回動可能に支持されている。これらにより、電動モータ32が回転するとセクタギヤ35が回転し、ロッド31がハウジング33に対して進退移動するようになっている。
【0023】
前記アシストスプリング36は、セクタギヤ35の揺動範囲内において圧縮されている。アシストスプリング36の一端はハウジング33の後端部に係止され、他端はセクタギヤ35に係止されている。これにより、アシストスプリング36は、セクタギヤ35が図2において時計回転方向に所定角度以上回動すると、同セクタギヤ35を時計回転方向に付勢し、これにより、ロッド31を右方向へ付勢して電動モータ32によるロッド31の右方向への移動を補助している。
【0024】
再び図1を参照すると、クラッチ制御回路40は、マイクロコンピュータ(CPU)41、インターフェース42〜44、電源回路45、及び駆動回路46等から構成されている。CPU41は、後述するプログラム及びマップ等を記憶したROM、及びRAMを内蔵している。
【0025】
インターフェース42は、バスを介してCPU41に接続されるとともに、変速機のシフトレバーが操作されたときに生じる荷重(シフトレバー荷重)を検出するシフトレバー荷重センサ51、車速Vを検出する車速センサ52、実際の変速段を検出するギヤ位置センサ53、変速機11の入力軸11aの回転数を検出する変速機入力軸回転数センサ54、及びアクチュエータ30に固定されセクタギヤ35の揺動角度を検出することによりロッド31のストロークSTを検出するストロークセンサ37と接続されていて、CPU41に対し各センサの検出信号を供給するようになっている。
【0026】
インターフェース43は、バスを介してCPU41に接続されるとともに、エンジン制御装置60と双方向の通信が可能となるように接続されている。これにより、クラッチ制御回路40のCPU41は、エンジン制御装置60が入力しているスロットル開度センサ55及びエンジン回転数センサ56の情報を取得し得るようになっている。
【0027】
インターフェース44は、バスを介してCPU41に接続されるとともに、電源回路45のOR回路45aの一入力端子と駆動回路46とに接続されていて、CPU41からの指令に基づきこれらに所定の信号を送出するようになっている。
【0028】
電源回路45は、前記OR回路45aと、同OR回路45aの出力端がベースに接続されたパワートランジスタTrと、定電圧回路45bとを備えている。パワートランジスタTrのコレクタは車両に搭載されたバッテリ70のプラス端子と接続され、エミッタは定電圧回路45bと駆動回路46と接続されていて、パワートランジスタTrがオン状態とされたとき、それぞれに電源を供給するようになっている。定電圧回路45bは、バッテリ電圧を所定の一定電圧(5V)に変換するもので、CPU41、及びインターフェース42〜44に接続されていて、各々に電源を供給するようになっている。OR回路45aの他の入力端子には、運転者によりオン状態及びオフ状態に操作されるイグニッションスイッチ71の一端が接続されている。このイグニッションスイッチ71の他端は、バッテリ70のプラス端子に接続されている。また、イグニッションスイッチ71の前記一端はインターフェース42にも接続されていて、CPU41はイグニッションスイッチ71の状態を検出し得るようになっている。
【0029】
駆動回路46は、インターフェース44からの指令信号によりオン又はオフする4個のスイッチング素子(図示省略)を内蔵している。これらのスイッチング素子は、周知のブリッジ回路を構成し、選択的に導通状態とされるとともに導通時間が制御され、電動モータ32に所定方向及び同所定方向とは逆方向の任意の大きさの電流を流すようになっている。
【0030】
エンジン制御装置60は、図示しないマイクロコンピュータを主として構成され、エンジン10の燃料噴射量及び点火時期等を制御するものであり、前述したようにエンジン10のスロットル開度TAを検出するスロットル開度センサ55と、同エンジン10の回転数NEを検出するエンジン回転数センサ56等と接続され、それぞれのセンサからの信号を入力・処理するようになっている。
【0031】
上記のように構成されたクラッチ制御装置においては、従来の運転者によるクラッチペダル操作に代わり、アクチュエータ30がクラッチ断接操作を自動的に行う。即ち、断接操作は、CPU41が、例えば(1)車両が走行している状態から停止する状態に移行していることを検出した場合(変速機入力軸回転数が所定値以下に低下した場合)、(2)シフトレバー荷重センサ51の検出する荷重が所定値以上となったことを検出した場合(ドライバーの変速意思が確認された場合)、(3)車両が停止している状態において、アクセルペダルが踏込まれたことを検出した場合、等において実行される。
【0032】
このクラッチ制御装置において、クラッチを接合(係合)状態とし、エンジン10の動力を変速機11に伝達する場合の作動について説明すると、先ず、クラッチ制御回路40からの指令信号により駆動回路46が電動モータ32に所定の電流を流し、電動モータ32を回転駆動する。これにより、セクタギヤ35が図2において反時計方向に回転し、ロッド31が左方向に移動する。
【0033】
一方、レリーズベアリング26は、ダイヤフラムスプリング25により、フライホイール21から離間する方向(図2における右方向)に力を受けている。この力は、レリーズベアリング26を介してレリーズフォーク27に伝達されるため、レリーズフォーク27は、ピボット支持部材28を中心として図2において反時計回転方向に回動する力を受けている。従って、ロッド31が図2において左方向に移動すると、レリーズフォーク27は反時計回転方向に回動するとともにダイヤフラムスプリング25の中央部はフライホイール21から離間する方向に移動する。
【0034】
このとき、ダイヤフラムスプリング25はリング部材25b,25cを中心に揺動し(姿勢変化し)、同ダイヤフラムスプリング25の外周部と当接するアジャストウェッジ部材29をフライホイール21側に押動する。この結果、プレッシャプレート24はテーパ部24dにてフライホイール21に向かう力を受け、クラッチディスク23を同フライホイール21との間で挟み込む。これにより、クラッチディスク23は、フライホイール21と係合して同フライホイール21と一体的に回転するようになり、変速機11にエンジン10の動力を伝達する。
【0035】
次に、クラッチを断(非係合)状態とし、エンジン10の動力を変速機11に伝達しない状態とする場合について説明すると、先ず、電動モータ32を回転駆動してセクタギヤ35を図2において時計回転方向に回転させる。これにより、ロッド31が図2において右方向に移動し、レリーズフォーク27に対し当接部27aにて右方向の力を与えるため、同レリーズフォーク27はピボット支持部材28を支持点として図2において時計回転方向に回動し、レリーズベアリング26をフライホイール21側に押動する。
【0036】
このため、ダイヤフラムスプリング25は力点部26aにてフライホイール21に向う力を受け、リング部材25b,25cを中心に揺動(姿勢変化)するため、ダイヤフラムスプリング25の外周部はフライホイール21から離間する方向に移動し、アジャストウェッジ部材29を介してプレッシャプレート24をフライホイール21側に押圧していた力は減少する。一方、プレッシャプレート24は、ストラップ24aによりクラッチカバー22と接続されていて、フライホイール21から離間する方向に常に付勢されているため、この付勢力によりクラッチディスク23から僅かに離れる。この結果、クラッチディスク23はフリー状態となって、エンジン10の動力が変速機11に伝達されない状態となる。
【0037】
なお、通常の運転時においてクラッチを断状態とする場合においては、図4(A)に示したように、プレッシャプレート24の当接部24bと、クラッチカバー22のプレッシャプレートストッパ部22dとが所定の距離Yを維持して当接することがないように、ロッド31のストロークを予め定めた値ST0に制御する。
【0038】
次に、クラッチフェーシング23a,23bが摩耗した際に、これを補償するための作動について、図6及び図7に示したフローチャートを参照しつつ説明する。
【0039】
先ず、後述するクラッチディスク23の摩耗補償動作(アジャスト動作)がなされた直後、或いは、工場出荷時やクラッチディスク23の交換直後等であってクラッチフェーシング23a,23bの摩耗が進行していない場合から説明を開始すると、CPU41は、電源供給がなされている限り、図6に示したアジャスト要否判定ルーチンを所定時間の経過毎に繰り返し実行している。従って、CPU41は所定のタイミングにて図6のルーチンをステップ600から開始し、ステップ605に進んでフラグFIGの値が「0」であるか否かを判定する。このフラグFIGは、イグニッションスイッチ71がオフ状態からオン状態へと変更されたときに、CPU41が実行するイニシャルルーチン(図示省略)により「0」に設定され、後述するように、10個のバッファA(1)〜A(10)の内容が更新されたときに「1」に設定されるようになっている。
【0040】
従って、イグニッションスイッチ71がオフ状態からオン状態に変更された以降において、バッファA(1)〜A(10)の内容が更新されていない場合には、フラグFIGの値は「0」であるため、CPU41はステップ605にて「Yes」と判定してステップ610に進む。一方、バッファA(1)〜A(10)の内容更新が実行された場合には、フラグFIGの値は「1」となっているため、CPU41はステップ605にて「No」と判定してステップ695に進み、本ルーチンを一旦終了する。
【0041】
CPU41は、ステップ610に進んだ場合には、同ステップにてエンジン10が停止しているか否かを判定する。具体的には、CPU41は、検出されるエンジン回転数NEが「0」であると判定される場合、又はイグニッションスイッチ71がオン状態からオフ状態へと変更されてエンジン停止に十分な時間が経過していると判定される場合に、エンジン10が停止していると判定する。そして、CPU41は、エンジン10が停止されていると判定される場合にはステップ615に進み、エンジン10が停止していないと判定される場合にはステップ695に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0042】
CPU41は、ステップ615に進んだ場合には、同ステップにてクラッチ20を完全係合状態とする(クラッチディスク23をフライホイール21と完全に係合させ一体的に回転させる)ため、電動モータ32に流すべき電流値IMに完全係合電流値IMKGOを設定する。これにより、電動モータ32が回転し、ロッド31が図2において左方向に移動するため、クラッチディスク23がフライホイール21と次第に係合する。
【0043】
次いで、CPU41はステップ620に進み、クラッチ20が完全係合状態となったか否かを判定する。具体的には、CPU41は、上記ステップ615にて電動モータ32の電流値IMを変更した後に十分な時間が経過しているか否か、又は、ストロークセンサ37の検出するストロークSTが所定時間以上に渡り変化しないか否かを判定し、十分な時間が経過している場合、又はストロークSTが所定時間以上に渡り変化していない場合に、クラッチ20が完全係合状態に至ったものと判定する。そして、クラッチ20が未だ完全係合状態となっていない場合には、CPU41はステップ620にて「No」と判定し、ステップ695に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0044】
以降においても、所定時間の経過毎にステップ605,610、及びステップ620が繰り返し実行される。このため、フラグFIGの値が「0」であり、且つエンジン10が停止している状態が、クラッチ20の係合に要する時間だけ継続すると、CPU41はステップ620にて「Yes」と判定してステップ625に進む。なお、ステップ620にて「Yes」と判定される前にエンジン10が運転状態となると、図示しないルーチンの実行によって各状態に応じた電流が電動モータ32に流され、適切なクラッチ制御が実行される。
【0045】
クラッチが完全係合状態となり、CPU41が処理をステップ625に進めた場合には、9個のバッファA(2),A(3),・・・A(9),A(10)の値が更新される。具体的には、「n」を1から9までの自然数とするとき、バッファA(n)の内容をバッファA(n+1)に順次移行(シフト)させる。なお、更新前のバッファA(10)の内容は消去される。
【0046】
次いで、CPU41はステップ630に進み、同ステップ630にてストロークセンサ37が検出する現在のストロークSTをバッファA(1)に書き込む。その後、CPU41は、ステップ635に進んで10個のバッファA(1)〜A(10)内の値の単純平均値を求め、その単純平均値を完全係合位置KKIとする。次に、CPU41は、ステップ640に進んでフラグFIGの値を「1」に変更し、続くステップ645にてモータ電流IMを「0」として電動モータ32への通電を停止する。
【0047】
次いで、CPU41は、ステップ650に進み、同ステップ650にてカウンタNの値が所定値T1(ここでは、10)より小さいか否かを判定する。このカウンタNは、後述するように、クラッチディスク23の摩耗補償動作(アジャスト動作)がなされたとき、或いは、工場出荷時やクラッチディスク23の交換時において「0」に設定されるようになっている。現段階は、これらの何れかに該当するので、カウンタNの値は「0」となっており、従って、CPU41はステップ650にて「Yes」と判定してステップ655に進み、同ステップ655にてアジャスト基準位置AKIに上記ステップ635にて求めた完全係合位置KKIを設定する。そして、CPU41はステップ660に進み、カウンタNの値を「1」だけ増大し、ステップ695に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0048】
以降においても、CPU41は本ルーチンを所定時間の経過毎に実行する。一方、イグニッションスイッチ71がオフ状態からオン状態へと変更されない限り、フラグFIGの値は「1」に維持される。このため、CPU41は、ステップ605にて「No」と判定しステップ695に直接進むため、完全係合位置KKIやアジャスト基準位置AKIは更新されない。
【0049】
その後、イグニッションスイッチ71がオン状態からオフ状態へと変更され、更にオフ状態からオン状態へと変更されると、フラグFIGの値は「0」に変更される。これにより、CPU41はステップ605にて「Yes」と判定してステップ610以降に進むようになるため、上述した処理が行われ、エンジン停止且つクラッチ完全係合等の条件が成立すると、ステップ655にてアジャスト基準位置AKIが更新されるとともに、ステップ660にてカウンタNの値が「1」だけ増大する。
【0050】
このような作動が繰り返し実行されることにより、バッファA(1),A(2),A(3)・・・が順次更新され、アジャスト基準位置AKIも更新されて行く。また、カウンタNの値は次第に増大する。このため、ステップ660にてカウンタNの値が所定値T1(10)とされた後の運転において、再びステップ650が実行されると、CPU41は同ステップ650にて「No」と判定してステップ665に進み、同ステップ665にてアジャスト基準位置AKIと完全係合位置KK1との差(差の絶対値でもよい)が所定の閾値Lより大きいか否かを判定する。この時点においては、クラッチフェーシング23a,23bの摩耗は進んでいないので、アジャスト基準位置AKIと完全係合位置KKIとの差が所定の閾値Lより小さく、従って、CPU41はステップ665にて「No」と判定し、ステップ695に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0051】
その後においては、ステップ610〜ステップ635の実行により、完全係合位置KKIがクラッチフェーシング23a,23bの摩耗進行程度に応じた値に更新されて行く。一方、カウンタNの値は所定値T1より大きい値に維持されるため、CPU41はステップ650にて「No」と判定してステップ665以降に進む。従って、ステップ655が実行されることはなく、アジャスト基準位置AKIは、アジャスト動作実行直後の値、工場出荷直後、又はクラッチディスク23の交換直後の値に維持される。
【0052】
その後、車両が長期間に渡り運転され、クラッチフェーシング23a,23bが摩耗すると、アジャスト基準位置AKIと完全係合位置KKIとの差が所定の閾値Lより大きくなる。このようになると、CPU41はステップ665の実行時において「Yes」と判定してステップ670に進み、同ステップ670にてアジャスト動作要求フラグFADJの値を「1」に設定する。このアジャスト動作要求フラグFADJは、その値「1」により、アジャスト動作を実行すべきことを示すフラグである。
【0053】
次いで、CPU41はステップ675に進み、同ステップ675にてアジャスト基準位置AKIと完全係合位置KKIとの差をクラッチフェーシング23a,23bの摩耗量X(アジャスト必要量)として設定し、ステップ695に進んで本ルーチンを一旦終了する。以上のようにして、摩耗の程度が進行した場合に、アジャスト動作要求フラグFADJの値が「1」に設定される。
【0054】
なお、上記において、エンジン10が停止している場合にのみ完全係合位置KKI等の更新をすることとしたのは、エンジン停止状態であればクラッチ20にエンジンの振動が及ばず、精度よく完全係合位置KKI等を決定できるからである。また、バッファA(1)〜A(10)を用いて、完全係合位置を10回分のクラッチ完全係合時におけるストロークの平均値としたのは、より精度良く完全係合位置KKI等を決定するためである。
【0055】
次に、図7に示したルーチンを参照しつつ、アジャスト動作を実際に実行するための作動について説明する。先ず、アジャスト動作の実行条件(ステップ715〜730)が全て成立しているものと仮定して説明を開始すると、CPU41は、図7に示したルーチンを所定時間の経過毎に実行している。従って、CPU41は、所定のタイミングにてステップ700から処理を開始してステップ715に進み、同ステップ715にて前述したアジャスト動作要求フラグFADJの値が「1」か否かを判定する。これは、アジャスト動作を実行すべき要求がある場合にのみ、同アジャスト動作を実行するように構成するためのステップである。
【0056】
前述の仮定に従えば、アジャスト動作要求フラグFADJの値は「1」となっているので、CPU41はステップ715にて「Yes」と判定してステップ720に進み、同ステップ720にてクラッチディスク23が非係合状態にあるか否かを判定する。これは、運転状態によりクラッチ20が係合状態に維持されている場合には、アジャスト動作を実行できないからである。
【0057】
前述の仮定に従えば、クラッチディスク23は非係合状態であるので、CPU41はステップ720にて「Yes」と判定してステップ725に進み、同ステップ725にてエンジン回転数NEが、所定の低速側回転数α(例えば、エンジン作動に最低限必要な400rpm)より大きく、且つ所定の高速側回転数β(例えば、エンジン10の振動が大きくなり始める回転数である2000rpm)より小さいか否かを判定する。
【0058】
これは、できるだけエンジンの振動が小さく、クラッチ20が共振等しない場合にアジャスト動作を行うことにより、誤調整することがないようにするためである。また、回転数αよりも大きい状態においてのみ、アジャスト動作を行うこととしたのは、所定の変速ギヤが係合されている状態にて車両を駐車する「ギヤ駐車」時に、クラッチディスク23を非係合状態にするアジャスト動作を実行することは好ましくないためであり、エンジン回転数NEが所定回転数α以上であれば、ギヤ駐車状態ではないものと判断できるからである。
【0059】
前述の仮定に従えば、エンジン回転数NEは、低速側回転数αより大きく、高速側回転数βよりも小さいので、CPU41はステップ725にて「Yes」と判定してステップ730に進み、同ステップ730にて車速Vが「0」であるか否かを判定する。これは、車両の走行に伴う振動により誤調整することがないようにするためである。前述の仮定に従えば、車両は停止していて、車速Vは「0」となっているので、CPU41はステップ730にて「Yes」と判定してステップ735に進む。以上のステップ715〜730は、実際にアジャスト動作の実行を開始すべき条件が成立しているか否かを判定するステップである。
【0060】
次いで、CPU41はステップ735に進み、ストロークSTが、ストロークST0に前述の摩耗量X及び所定の距離Yを加えた値となっているか否かを判定する。なお、ストロークST0は、図4(A)を参照して説明したように、通常の運転時においてクラッチを断状態(非係合状態)とする際のストロークSTである。また、所定の距離Yは、通常の運転時においてクラッチ20が断状態とされている場合に、プレッシャプレート24の当接部24bと、クラッチカバー22のプレッシャプレートストッパ部22dとがなす距離である。
【0061】
なお、この実施形態においては、ロッド31の進退距離(ストロークセンサ37の検出ストローク)と、プレッシャプレート24及びダイヤフラムスプリング25の外周部の移動距離とは等しく構成されているが、これらが所定の比率を持った比例関係にある場合には、ステップ735の右辺は、ST0+ky・Y+kx・X(ky,kxは所定の定数)となり、ストロークSTがST0+ky・Yと等しいとき、プレッシャプレート24の当接部24bとクラッチカバー22のプレッシャプレートストッパ部22dとが丁度当接し、ストロークSTがST0+ky・Y+kx・Xとなったとき、ダイヤフラムスプリング25の外周部と摩耗調整前のアジャストウェッヂ部材29のダイヤフラム25側端部との距離が摩耗量Xと等しくなる。
【0062】
現段階においては、クラッチ20が通常の非係合状態にあるので、ストロークSTはST0と等しく、従って、CPU41はステップ735にて「No」と判定してステップ740に進み、同ステップ740にて電動モータ32の電流値IMをアジャスト用電流値IMADJとする。これにより、ストロークSTは、ステップ735の判定値(ST0+X+Y)に次第に近づき始める。その後、CPU41は、ステップ795に進み、同ステップ795にて本ルーチンを一旦終了する。
【0063】
以降においても、CPU41は本ルーチンを所定時間の経過毎に実行しているので、ステップ715〜730にてアジャスト実行条件が満足されているかをモニターし、ステップ735にてストロークSTが判定値(ST0+X+Y)と等しくなったか否かをモニターすることとなる。
【0064】
その後、所定の時間が経過すると、ダイヤフラムスプリング25は、図4(A)に示した状態から図4(B)に示した状態へと姿勢変化する。即ち、ダイヤフラムスプリング25は力点部26aにてフライホイール21に向う力を受け、リング部材25b,25cを中心に揺動(姿勢変化)し、プレッシャプレート24の当接部24bと、クラッチカバー22のプレッシャプレートストッパ部22dとが当接する。
【0065】
この時点においては、ストロークSTは、判定値よりも小さい値(ST+Y)であるので、CPU41はステップ735にて「No」と判定し、ステップ740を実行する。このため、電動モータ32には電流値IMADJの電流が継続して流されるため、ダイヤフラムスプリング25の姿勢は更に変化する。このとき、プレッシャプレート24の当接部24bは、クラッチカバー22のプレッシャプレートストッパ部22dに当接しているため、プレッシャプレート24は、それ以上の移動が規制される。この結果、ダイヤフラムスプリング25の外周端部とプレッシャプレート24のテーパ部24dとの距離が大きくなるため、図5に示したようにアジャストウェッジ部材29がコイルスプリングCSの作用によって回転し、アジャストウェッジ部材29のテーパ部29aとプレッシャプレート24のテーパ部24aとがより高い部分同士で当接し、これにより同アジャストウェッジ部材29の平坦部がダイヤフラムスプリング25の外周端部の移動に追従する。
【0066】
そして、所定の時間が経過してストロークSTが判定値(ST0+X+Y)と等しくなると、CPU41はステップ735にて「Yes」と判定し、ステップ745に進んでアジャスト動作要求フラグFADJの値を「0」に設定する。また、この段階で、アジャスト動作は終了するので、CPU41は、新たなアジャスト基準位置AKIを更新するように、ステップ755にて前述のカウンタNの値を「0」に設定し、ステップ795にて本ルーチンを一旦終了する。なお、以降においては、各運転状態に応じた電流が電動モータ32に通電され、適切なクラッチ制御が実行されるようになる。
【0067】
以上の作動により、ダイヤフラムスプリング25とプレッシャプレート24との距離は摩耗量Xだけ大きくなる。この結果、クラッチディスク23が完全係合状態となったときのダイヤフラムスプリング25の位置を初期の位置(クラッチディスク23が新品であって摩耗がない場合に設定されていた位置)に戻すことができるため、クラッチ操作時の荷重変化を低減することができる。
【0068】
次に、図7に示したルーチンの実行時に、アジャスト動作の実行条件(ステップ715〜730)の何れかが不成立である場合について説明すると、CPU41は、ステップ715〜730の何れかにおいて「No」と判定し、ステップ795に進んで本ルーチンを一旦終了する。この場合、各運転状態に応じた電流が電動モータ32に通電され、適切なクラッチ制御が実行される。
【0069】
なお、上記実施形態においては、摩耗量Xを、図8(A)に示すように、アジャスト基準位置AKI(図8(A)のA点)と完全係合位置KKI(図8(A)のB点)との差(図8(A)の距離C)として求めていたが、図8(B)に示すように、クラッチディスク23の係合開始点の摩耗に伴う初期位置Dからの摩耗時Eへの変化量Fを直接検出する方法、或いは、図8(C)に示すように、初期(摩耗量がない場合又はアジャスト動作直後)完全係合点Aとクラッチカバー22のストローク上に任意に固定された規定位置Jまでのストローク量Gと、摩耗時完全係合点Bから規定位置Jまでのストローク量Hとの差Kを検出する方法により求めることもできる。
【0070】
次に、本発明によるクラッチ制御装置の第2実施形態について図9〜図16を参照しつつ説明する。第2実施形態に係るクラッチは、プレッシャプレート24の外周部と、ダイヤフラムスプリング25の外周部との間に配設されるアジャスト機構(調整部材)のみが第1実施形態と相違するため、以下において第1実施形態と同一部材には同一符号を付し、その説明を省略する。
【0071】
第2実施形態においては、プレッシャプレート24の外周部にリング状のテーパ部材81が固定されていて、これにより、テーパ部材81が有する鋸歯状の複数のテーパ部81aがダイヤフラムスプリング25に向けて形成される(図14参照)。また、上記テーパ部81aとダイヤフラムスプリング25の外周部との間には、調整部材の一部としてのアジャストウェッジ部材82が配設されている。このアジャストウェッジ部材82は、リング状の部材であって、テーパ部81aと同一形状のウェッジ側テーパ部82aを有していて、ウェッジ側テーパ部82aとテーパ部81aとは、図11及び図12に示したように、テーパ面TP1にて互いに当接している。また、アジャストウェッジ部材82のダイヤフラムスプリング25側は、平坦とされている。
【0072】
図12に特に示したように、アジャストウェッジ部材82のダイヤフラムスプリング25側の適宜の位置には切り欠き82bが設けられ、プレッシャプレート24に固定されたテーパ部材81の適宜の位置には係止部81bが設けられていて、切り欠き82bと係止部81bの各々には、引張されたコイルスプリングCS1の各端部が係止されている。これにより、プレッシャプレート24(テーパ部材81)とアジャストウェッジ部材82は、テーパ部81aの各頂部とウェッジ側テーパ部82aの各頂部とが近づく方向に相対回転するように付勢されている。
【0073】
図13及び図14に特に示したように、アジャストウェッジ部材82の外周側面には、アジャストラック83が組み付け固定されている。このアジャストラック83には、プレッシャプレート24側からダイヤフラムスプリング25に向けて起立する第1鋸歯83a(又は等間隔に配置される三角状の歯)がアジャストウェッジ部材82の周方向に延設されるとともに、この第1鋸歯83aと対向すると共に半ピッチだけ位相が異なる(ずれた)第2鋸歯83bが形成されている。
【0074】
プレッシャプレート24の適宜位置には、上面が開放した円筒部材84が固定されていて、この円筒部材84に対し底面が開放した中空円筒状のアジャストピニオン85が摺動可能に支持されている。円筒部材84とアジャストピニオン85の間にはコイルスプリング86が配設されている。また、アジャストラック83の第1,第2鋸歯83a,83bの間にはアジャストピニオン85の側面に複数個形成された歯85aが配置され、第1,第2鋸歯83a,83bと歯85aが噛合(係止)するようになっている。
【0075】
次に、第2実施形態に係るクラッチ装置の作動について説明する。通常の運転時においては、第1実施形態と同様に、図示を省略したアクチュエータがロッドを退避させると、ダイヤフラムスプリング25の中央部はフライホイール21から離間する方向に移動する。このとき、ダイヤフラムスプリング25はリング部材25b,25cを中心に揺動し(姿勢変化し)、アジャストウェッジ部材82をフライホイール21側に押動する。この結果、プレッシャプレート24はテーパ部材81を介してフライホイール21に向かう力を受け、クラッチディスク23を同フライホイール21との間で挟み込む。これにより、クラッチディスク23は、フライホイール21と係合して一体的に回転するようになり、変速機11にエンジン10の動力が伝達される。
【0076】
この通常運転時のクラッチ係合状態においては、図13に示したように、アジャストピニオン85の上面85bとクラッチカバー22とは当接しないようになっている。このため、図16(A)に概念的に示したように、アジャストピニオン85の歯85aとアジャストラック83の第2鋸歯83bとの噛合状態は維持され、アジャストウェッジ部材82はプレッシャプレート24に対し相対回転しない。
【0077】
次に、クラッチを断(非係合)状態とし、エンジン10の動力を変速機11に伝達しない状態とする場合について説明する。この場合には、図示しない電動モータを回転駆動してロッドを前進させ、図示しないレリーズベアリングをフライホイール21側に押動する。
【0078】
このため、ダイヤフラムスプリング25は中央部近傍位置の力点部26aにてフライホイール21に向う力を受け、リング部材25b,25cを中心に揺動(姿勢変化)するため、ダイヤフラムスプリング25の外周部はフライホイール21から離間する方向に移動し、アジャストウェッジ部材82を介してプレッシャプレート24をフライホイール21側に押圧していた力は減少する。一方、プレッシャプレート24は、ストラップ24aによりクラッチカバー22と接続されていて、フライホイール21から離間する方向に常に付勢されているため、この付勢力によりクラッチディスク23から僅かに離れる。この結果、クラッチディスク23はフリー状態となって、エンジン10の動力が変速機11に伝達されない状態となる。
【0079】
この通常運転時のクラッチ非係合状態においては、アジャストピニオン85の上面85bとクラッチカバー22とが当接し、スプリング86が僅かに圧縮される程度にアクチュエータのロッドのストロークを制御しておく。これにより、図16(B)に概念的に示したように、アジャストピニオン85の歯85aとアジャストラック83の第2鋸歯83bとの噛合状態は維持され、アジャストウェッジ部材82はプレッシャプレート24に対し相対回転しない。換言すれば、アジャストピニオン85の歯85aとアジャストラック83の第2鋸歯83bとの噛合状態が解除されない程度にアクチュエータのロッドのストロークを決定しておく。
【0080】
なお、通常運転時のクラッチ非係合状態においては、図13に示したように、アジャストピニオン85の上面85bとクラッチカバー22との間に僅かな間隙Zが維持されるようにロッドのストロークを制御してもよい。この場合には、通常運転時におけるクラッチ断接動作において、アジャストピニオン85と円筒部材84との摺動が発生しないので、両者の摺動による摩耗を低減することができる。
【0081】
次に、アジャスト動作に伴う作動について、第1実施形態の図7のルーチンに代わる図15のルーチンをも参照しつつ説明すると、図15のルーチンは図7のルーチンのステップ735をステップ1535に置きかえた点においてのみ図7のルーチンと異なっている。従って、以下、図15に示した各ステップのうち図7に示した各ステップと同一のステップについては図7と同一符号を付し、その詳細な説明を省略する。なお、第2実施形態においても、図6のルーチンが所定時間の経過毎に実行されていて、これによりフラグFIGびアジャスト動作要求フラグFADJの操作がなされる。
【0082】
この第2実施形態において、アジャスト動作を許容する条件が成立すると、CPU41は、ステップ715〜730の全てのステップにて「Yes」と判定してステップ1535に進み、同ステップ1535にてロッドのストロークSTが所定の閾値L0より大きくなったか否かを判定する。
【0083】
この閾値L0は、通常の運転時におけるクラッチ非係合時のストロークより十分に大きく設定してあるため、ステップ715〜730の条件が始めて成立してステップ1535に至った場合には、ストロークSTは所定の閾値L0より小さい。このため、CPU41は同ステップ1535にて「No」と判定してステップ740に進み、電動モータ32に流れる電流IMを十分に大きな所定の電流IMADJに設定し、ステップ1595にて本ルーチンを一旦終了する。
【0084】
以降においては、所定時間の経過毎にステップ715〜730、及びステップ1535が繰り返し実行され、アジャスト動作許可条件(ステップ715〜730)が成立しているか否かがモニタされるとともに、ステップ1535にてストロークSTが閾値L0より大きくなったか否かがモニタされる。そして、ストロークSTが閾値L0に至る前に、アジャスト動作許可条件が不成立となると、CPU41はステップ715〜730の何れかのステップにて「No」と判定し、ステップ1595にて本ルーチンを終了する。以降においては、各状態に応じた電流が電動モータ32に通電され、適切なクラッチ制御が実行される。
【0085】
一方、アジャスト動作許可条件の成立が継続すると、電動モータ32の電流の大きさは値IMADJに維持される。このため、ダイヤフラムスプリング25は姿勢変化を続け、所定の時間が経過するとアジャストピニオン85の上面85bとクラッチカバー22とが当接し、その時点以降は同アジャストピニオン85の移動が規制される。しかしながら、プレッシャプレート24はクラッチカバー22との間に設けられたストラップ24aによりフライホイール21から離間する方向に付勢されているので、スプリング86の力に抗して更に移動する。
【0086】
この結果、アジャストラック83とアジャストピニオン85の相対位置の変化が開始し、この相対位置の変化量が所定量以上となると図16(C)に示したようにアジャストピニオン85の歯85aと第2鋸歯83bとの噛合が解除される。このため、アジャストウェッジ部材82は、コイルスプリングCS1の付勢力によりプレッシャプレート24(テーパ部材81)に対して回転する。但し、この状態においては、アジャストピニオン85の歯85aと第1鋸歯83aとが噛合し得る位置関係にあるので、アジャストウェッジ部材82の回転は、アジャストピニオン85の歯85aと第1鋸歯83aとが噛合した時点で規制される。以上の動作により、テーパ部81aとウェッジ側テーパ部82aとの当接位置が第1鋸歯83a(第2鋸歯83b)の半ピッチ分だけ変化する。
【0087】
この後、所定の時間が経過してストロークSTが閾値L0よりも大きくなると、CPU41はステップ1535にて「Yes」と判定してステップ745,755へと進み、フラグFADJ及びカウンタNの処理を行う。その後、図示しない他のルーチンの実行により、クラッチディスク23が通常の非係合位置へと戻されると、アジャストラック83とアジャストピニオン85の相対位置の変化が通常の状態に復帰する。従って、スプリング86の作用によりアジャストピニオン85の歯85aと第1鋸歯83aとの噛合が解除されるため、アジャストウェッジ部材82は、コイルスプリングCS1の付勢力によりプレッシャプレート24(テーパ部材81)に対して再び回転する。そして、この回転は、アジャストピニオン85の歯85aと第2鋸歯83bとが噛合した時点で規制されるため、テーパ部81aとウェッジ側テーパ部82aとの当接位置が第1鋸歯83a(第2鋸歯83b)の半ピッチ分だけ更に変化する。以上により、通常運転時におけるダイヤフラムスプリング25の姿勢が修正される。
【0088】
以上説明したように、第2実施形態においては、クラッチディスクの摩耗量が所定量以上となって、且つアジャスト動作しても誤調整が発生する可能性の小さい運転状態(例えば、クラッチカバーの共振が発生しない運転状態)が検出されたとき、一度のアジャスト動作にて第2鋸歯83bの一ピッチ分に応じた量(一ピッチの距離に応じたテーパ部81aの高さ分)だけ摩耗補償がなされる。また、第2実施形態においては、第1鋸歯83aと第2鋸歯83b及び歯85aとの係合により、アジャストウェッジ部材82の回転を規制しているので、通常の運転時に調整量が変化せず、常に適正に摩耗補償された状態でクラッチの断接がなされ得る。更に、第2実施形態においては、閾値L0を摩耗量とは関係なく所定量とすることができるため、確実に摩耗補償がなされる。
【0089】
なお、上記第2実施形態においては、一回のアジャスト動作にて補償(変更される)ダイヤフラムスプリング25の外周端部とプレッシャプレートととの距離を、図6のステップ665にて使用されるアジャスト動作を実行すべきか否かの摩耗量判定値L以下であって、同判定値L近傍の値としておくことが好適である。このようにすれば、一度のアジャスト動作により、その時点で必要とされる摩耗補償が達成されるからである。
【0090】
以上のように、本発明に基づくクラッチの制御装置によれば、クラッチカバー等が車両の振動の影響を受けることの少ない任意の時期においてアジャスト作動することが可能であり、従って、摩耗量の補償を精度よく行うことが可能である。
【0091】
なお、本発明の範囲内において種々の変形例が採用可能であり、例えば、上記電動モータ32を使用したアクチュエータ30に代え、電磁バルブ等を使用して油圧を制御し、この油圧によりロッド31を進退させる油圧式のアクチュエータを採用することもできる。また、上記第1,第2実施形態においては、車両の振動によりクラッチカバーが共振することの可能性が小さい場合にのみ、アクチュエータを作動させ、ダイヤフラムスプリング25の姿勢を補正してアジャスト動作を実行することとしたが、他の任意の条件が成立したときに、必要に応じてダイヤフラムスプリング25の姿勢を制御するようにしてもよい。更に、クラッチ制御回路40はアクチュエータ30と一体或いは別体のどちらであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明によるクラッチの制御装置の概略を示す全体図である。
【図2】 図1に示したクラッチの概略断面図である。
【図3】 図1に示したクラッチの正面図である。
【図4】 図1に示したクラッチの作動を説明するための図である。
【図5】 図1に示したクラッチの作動を説明するための図である。
【図6】 図1に示したCPUが実行するプログラムを示したフローチャートである。
【図7】 図1に示したCPUが実行するプログラムを示したフローチャートである。
【図8】 摩耗量を検出する原理を説明するための図である。
【図9】 本発明による第2実施形態に係るクラッチの概略断面図である。
【図10】 図9に示したクラッチの正面図である。
【図11】 図9に示したクラッチの調整部材の側面図である。
【図12】 図9に示したクラッチのプレッシャプレート及び調整部材の斜視図である。
【図13】 図9に示したクラッチの調整部材近傍の拡大図である。
【図14】 図9に示したクラッチのプレッシャプレート及び調整部材の組み立て図である。
【図15】 本発明の第2実施形態に係るCPUが実行するプログラムを示すフローチャートである。
【図16】 図9に示したクラッチの作動を説明するための図である。
【符号の説明】
10…エンジン、11…変速機、20…摩擦クラッチ、21…フライホイール、22…クラッチカバー、23…クラッチディスク、24…プレッシャプレート、25…ダイヤフラムスプリング、26…レリーズベアリング、27…レリーズフォーク、28…ピボット支持部材、29…アジャストウェッジ部材、30…アクチュエータ、32…直流電動モータ、37…ストロークセンサ、40…クラッチ制御回路。
Claims (2)
- 車両に搭載された駆動源の出力軸と一体的に回転するホイールに対向するクラッチディスクをプレッシャプレートとスプリングとを介して進退させ、前記ホイールと前記クラッチディスクとの係合状態を変化させる車両用クラッチの制御装置において、
前記クラッチディスクの係合状態を変化させるための力を前記スプリングに付与するアクチュエータと、
前記プレッシャプレートと前記スプリングとの間に配設されて同プレッシャプレートと同スプリング間の力の伝達経路を形成するとともに、同スプリングと同プレッシャプレートとの距離を変更し得るように構成された調整部材と、
前記クラッチディスクの摩耗量を検出する手段と、
前記検出された摩耗量が所定量よりも大きくなったか否かを判定するとともに同摩耗量が同所定量よりも大きくなったと判定した場合において、前記車両の速度である車速が0である場合にのみ、前記調整部材が前記スプリングと前記プレッシャプレートとの距離を変更し、且つ、前記摩耗量が前記所定量よりも大きくなったと判定した場合であっても前記車速が0でない場合には前記調整部材が前記スプリングと前記プレッシャプレートとの距離を変更しないように、前記アクチュエータの作動を制御する制御手段とを備えたことを特徴とするクラッチの制御装置。 - 車両に搭載されたエンジンの出力軸と一体的に回転するホイールに対向するクラッチディスクをプレッシャプレートとスプリングとを介して進退させ、前記ホイールと前記クラッチディスクとの係合状態を変化させる車両用クラッチの制御装置において、
前記クラッチディスクの係合状態を変化させるための力を前記スプリングに付与するアクチュエータと、
前記プレッシャプレートと前記スプリングとの間に配設されて同プレッシャプレートと同スプリング間の力の伝達経路を形成するとともに、同スプリングと同プレッシャプレートとの距離を変更し得るように構成された調整部材と、
前記クラッチディスクの摩耗量を検出する手段と、
前記検出された摩耗量が所定量よりも大きくなったか否かを判定するとともに同摩耗量が同所定量よりも大きくなったと判定した場合において、前記エンジンの回転数NEがエンジン作動に最低限必要な所定の低速側回転数αより大きく且つエンジンの振動が大きくなり始める回転数である所定の高速側回転数βより小さい場合にのみ、前記調整部材が前記スプリングと前記プレッシャプレートとの距離を変更し、且つ、前記摩耗量が前記所定量よりも大きくなったと判定した場合であっても、前記エンジンの回転数NEが前記低速側回転数αより小さいか又は前記高速側回転数βより大きい場合には前記調整部材が前記スプリングと前記プレッシャプレートとの距離を変更しないように、前記アクチュエータの作動を制御する制御手段とを備えたことを特徴とするクラッチの制御装置。
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