本発明の実施形態1に係るクラッチの制御装置について図面を用いて説明する。図1は、本発明の実施形態1に係るクラッチの制御装置の構成を模式的に示したブロック図である。図2は、本発明の実施形態1に係るクラッチの制御装置における摩擦クラッチの構成を模式的に示した断面図である。図3は、本発明の実施形態1に係るクラッチの制御装置における摩擦クラッチの構成を模式的に示した切欠平面図である。図4は、本発明の実施形態1に係るクラッチの制御装置における調整機構の構成を模式的に示した外周側から見たときの側面図である。図5は、本発明の実施形態1に係るクラッチの制御装置における調整機構の構成を模式的に示した(図4の)A−A´間に相当する拡大部分断面図である。図6は、本発明の実施形態1に係るクラッチの制御装置における調整機構の構成を模式的に示した(図4の)B−B´間に相当する拡大部分断面図である。図7は、本発明の実施形態1に係るクラッチの制御装置における調整機構の構成を模式的に示した外周側から見たときの第1の側面図である。図8は、本発明の実施形態1に係るクラッチの制御装置における調整機構の構成を模式的に示した外周側から見たときの第2の側面図である。図9は、本発明の実施形態1に係るクラッチの制御装置における噛合解除部材の構成を模式的に示した図面であり、(A)は正面図、(B)は背面図、(C)は上面図である。なお、図4は、図3の調整機構に係る構成部材を外周側から見たときの図に相当する。図7(A)〜図7(D)図8(A)〜図8(C)は、ダイアフラムスプリング25の姿勢変化による調整機構の作動を示している。図7では、説明の便宜上、テーパ部81、アジャストウェッジ部材82、固定板材87、及び噛合解除部材88を省略している。また、図8では、説明の便宜上、アジャストピニオン83、アッパラック84、ロアラック85、付勢部材86、及び固定板材87を省略している。
クラッチの制御装置は、摩擦クラッチ20の係合・非係合を制御する装置であり、摩擦クラッチ20と、アクチュエータ30と、クラッチ制御回路40と、エンジン制御装置60と、を有する(図1参照)。
摩擦クラッチ20は、エンジン10から変速機11に伝達する回転力の断続が任意にできる機構を有する装置であり、駆動源であるエンジン10と変速機11との間に配設される(図1参照)。摩擦クラッチ20は、主たる構成要素として、フライホイール21と、クラッチカバー22と、クラッチディスク23と、プレッシャプレート24と、ダイアフラムスプリング25と、レリーズベアリング26と、レリーズフォーク27と、ピボット支持部材28と、を有する(図2参照)。
フライホイール21は、円板状を呈しており、エンジン10のクランクシャフト(駆動源の出力軸)10aにボルト固定されており、クランクシャフト10aと一体回転する(図2参照)。
クラッチカバー22は、略円筒形状を呈しており、フライホイール21に対向する位置に配される(図2、3、5、6参照)。クラッチカバー22は、円筒部22aと、フランジ部22bと、支点形成部22cと、を有する。フランジ部22bは、円筒部22aの内周側に形成されている。支点形成部22cは、円筒部22aの内周縁に周方向に等間隔で複数形成されている。クラッチカバー22は、円筒部22aの外周部にてフライホイール21にボルト固定されており、フライホイール21と一体回転する。
クラッチディスク23は、エンジン(図1の10)の動力を変速機(図1の11)に伝達する摩擦板であり、フライホイール21とプレッシャプレート24との間に配設される(図2、3参照)。クラッチディスク23は、内周部にて変速機11の入力軸とスプライン結合することにより軸方向に移動できるようになっている。クラッチディスク23の外周部の両面には、摩擦材からなるクラッチフェーシング23a、23bがリベットにて固定されている。
プレッシャプレート24は、クラッチディスク23をフライホイール21側に押圧してフライホイール21との間に挟み込み、クラッチディスク23をフライホイール21と摩擦係合させて一体的に回転させるプレート状の部材である(図2〜6参照)。プレッシャプレート24は、クラッチカバー22の回転に伴って回転するように、ストラップ24aを介してクラッチカバー22と連結されている。ストラップ24aは、積層された複数枚の薄い板バネ材から構成されている。ストラップ24aは、一端がリベットR1にてクラッチカバー22の外周部に固定され、他端がリベットR2にてプレッシャプレート24の外周部に設けられた突起に固定されている(図3参照)。これにより、ストラップ24aは、プレッシャプレート24がフライホイール21から離間し得るように、プレッシャプレート24に対して軸方向の付勢力を付与している。
プレッシャプレート24には、ダイアフラムスプリング25とプレッシャプレート24の軸方向の距離を変更し得る調整機構80が組み付けられている(図2参照)。調整機構80は、プレッシャプレート24とダイアフラムスプリング25の間の力の伝達経路を形成するとともに、機構部材である。調整機構80は、テーパ部81と、アジャストウェッジ部材82と、アジャストピニオン83と、アッパラック84と、ロアラック85と、付勢部材86と、固定板材87と、噛合解除部材88と、を有する(図4参照)。
テーパ部81は、プレッシャプレート24のダイアフラムスプリング25側の面からリング状に突出する部分であり、プレッシャプレート24と一体に構成される(図4、8参照)。テーパ部81は、鋸歯状に突出しており、突出部位のダイアフラムスプリング25側の端面に複数のテーパ面81aを有する。
アジャストウェッジ部材82は、テーパ部81とダイアフラムスプリング25の外周部との間に配設される(図4〜6、8参照)。アジャストウェッジ部材82は、テーパ部81と同一径のリング状の部材であり、テーパ面81aと対応する複数のウェッジ側テーパ面82aを有する。ウェッジ側テーパ面82aは、テーパ面81aと当接している(図4参照)。なお、アジャストウェッジ部材82のダイアフラムスプリング25側の端面は、平坦である。
アジャストピニオン83は、アジャストウェッジ部材82の内周側にリベット83cにて固定されている(図5〜7参照)。アジャストピニオン83には、ダイアフラムスプリング25からプレッシャプレート24への軸方向に向けて起立するピニオン歯83aが形成されている。ピニオン歯83aは、鋸歯形状(又は等間隔に配置される三角形状)を呈している。
アッパラック84は、アジャストピニオン83とロアラック85の間に配設されている(図4〜7参照)。アッパラック84は、アジャストピニオン83及びロアラック85に対して相対回転可能である。アッパラック84は、第1ラック歯84aと、第2ラック歯84bと、規制部84cと、を有する。第1ラック歯84aは、アッパラック84のダイアフラムスプリング25側の端面に立設されており、各歯がテーパ部81のテーパ面81aの傾斜角度に対応するように並んでおり、ピニオン歯83aと噛合可能である。第2ラック歯84bは、アッパラック84のプレッシャプレート24側の部位に立設されており、ロアラック歯85aと噛合可能である。第2ラック歯84bは、アッパラック84を第1ラック歯84a側から押圧又はその解除したときに、ロアラック歯85aの歯面に沿ってスライド可能である。規制部84cは、アッパラック84の長手方向の両端部に設けられ、ロアラック85の突出部85bと係止可能である。規制部84cが突出部85bの端部に引っ掛かることで、ロアラック歯85aと第2ラック歯84bとの噛合が完全に解除される前に、ロアラック85に対する軸方向及び周方向の変位量が規制される。なお、ロアラック85に対するアッパラック84の周方向の変位量は、規制部84cと突出部85bによって、第1ラック歯84aの歯面の半ピッチから1ピッチの範囲内となるように予め設定されている。
ロアラック85は、アジャストウェッジ部材82の内周側であってプレッシャプレート24上の所定の部位に配設されている(図4〜7参照)。ロアラック85は、プレッシャプレート24からダイアフラムスプリング25側へ向かう軸方向に立設するロアラック歯85aを有する。ロアラック85は、ロアラック歯85aの両外側に、ロアラック歯85aの立設方向に沿って突出する突出部85bを有する。ロアラック85は、ロアラック85の両端部を跨ぐように配された固定板材87を介してネジ87aにてプレッシャプレート24に固定されている(図3参照)。
付勢部材86は、アッパラック84とロアラック85との噛合を解除する方向にアッパラック84を付勢する部材である(図4、7参照)。付勢部材86は、一端がロアラック85の一方の突出部85b1近傍にて係止されている。付勢部材86は、一端が係止された状態でロアラック85の外周面に沿ってロアラック85の他方の突出部85b2側に延在し、切り欠き85cを介してロアラック85の内周面側に延在している。そして、付勢部材86は、ロアラック85の内周面でロアラック85の他方の突出部85b2側から一方の突出部85b1側へと延在し、ロアラック歯85aの歯面と第2ラック歯84bの歯面とが摺接しながら噛合を解除する方向(図7(A)の矢印c方向)にアッパラック84を付勢するバネ部86aを有する。なお、付勢部材86の一端から切り欠き85cまで延在する部分は、受部86bである。受部86bは、バネ部86aによりアッパラック84を付勢する力を受ける。付勢部材86によって、ロアラック歯85aの歯面と第2ラック歯84bの歯面とが摺接しながらアッパラック84とロアラック85との噛合を解除する方向にアッパラック84が付勢される。
固定板材87は、ロアラック85よりも周方向に長く形成されており、テーパ部81の外周面に沿ってネジ87aにてプレッシャプレート24に組付けられる(図3参照)。
噛合解除部材88は、ダイアフラムスプリング25の動作によってアジャストピニオン83(のピニオン歯83a)とアッパラック84(の第1ラック歯84a)との噛合を解除することを可能にする部材である(図3〜6、8、9参照)。噛合解除部材88は、アジャストウェッジ部材82の外周部であってアジャストピニオン83が固定されている箇所と対応する位置(反対側)に回動自在に取り付られている。噛合解除部材88は、保持部88aと、軸孔部88bと押付部88cと、ストッパ部88dと、を有する。
保持部88aは、ダイアフラムスプリング25とプレッシャプレート24の軸方向の距離を変更させる際に、ダイアフラムスプリング25の外周端部を保持する部分である。保持部88aは、噛合解除部材88の本体からアジャストウェッジ部材82のダイアフラムスプリング25側の端面よりもダイアフラムスプリング25側に延在するとともに、延在部位にてアジャストウェッジ部材82の外周面側から内周面側に向かって屈曲しており、屈曲部位よりも先端側の部位にてダイアフラムスプリング25の外周端部を当接可能である。保持部88aによって、噛合解除部材88は、ダイアフラムスプリング25の外周端部の軸方向の作動に追従しうる。
また、保持部88aのストッパ部88d側の端部Pは、プレス加工又はバレル研磨加工にて曲面に形成されている(図9(B)参照)。保持部88aの端部Pの曲率半径は、保持部88aの厚さMの20%〜300%の範囲に設定されている。これにより、ダイアフラムスプリング25の外周端部の破損を防止することができ、保持部88aとダイアフラムスプリング25の外周端部の摺動抵抗を低減し噛合解除部材88の作動性を向上させることができる。
また、保持部88aの底面は、平面状に形成されている。保持部88aの底面と、保持部88a端部Pとの境界線Qを通る垂直線(面)は、軸孔部88bの中心を通る垂直線(面)よりも矢印K側(ストッパ部88dの反対側)に配されている。これにより、噛合解除部材88の作動性を確保することができる。
軸孔部88bは、噛合解除部材88の本体の所定の位置に配されるとともに、噛合解除部材88をアジャストウェッジ部材82の周面に対して回動自在に軸着するための軸孔である。軸孔部88bには、アジャストピニオン83を固定する1つのリベット83cが挿着されている。
押付部88cは、噛合解除部材88の本体の端部のうち、プレッシャプレート24のダイアフラムスプリング25側の端面と当接可能な部分である。押付部88cの角部は、プレス加工又はバレル研磨加工にて曲面に形成されている(図9(A)参照)。押付部88cの角部(曲面)の曲率半径は、保持部88aの厚さMの20%〜300%の範囲に設定されている。これにより、押付部88cとプレッシャプレート24との摺動抵抗を低減させることができ、噛合解除部材88の作動性を向上させることができる。
ストッパ部88dは、保持部88aと押付部88cの間の噛合解除部材88の本体からプレッシャプレート24からダイアフラムスプリング25に向かう軸方向に突出し、摩耗調整時にクラッチカバー22内周面と当接可能な部分である。ストッパ部88dは、摩擦クラッチ(図1の20)の係合状態において、クラッチカバー22内周面と所定の距離をもって配されており、ダイアフラムスプリング25の姿勢に応じてこの隙間の範囲内でプレッシャプレート24が軸方向に移動可能である(図8(A)参照)。ダイアフラムスプリング25の姿勢が変化してストッパ部88dがクラッチカバー22内周面に当接すると、プレッシャプレート24はこれ以上のクラッチカバー22に近づく軸方向への移動を規制する(図8(B)参照)。ストッパ部88dは、ダイアフラムスプリング25によって保持部88aがクラッチカバー22側に引き上げられたときに押付部88cによってプレッシャプレート24を押付ける際(図7(B)のようにアジャストピニオン83とアッパラック84との噛合を解除する際)の支点になる(図8(C)参照)。
また、ストッパ部88dは、プレス成形により噛合解除部材88の本体から背面側に湾曲した形状になっている。ストッパ部88dの湾曲部分の上面側の曲率半径は、軸孔部88bの中心を通る水平線(面)と、ストッパ部88dの頂点を通る水平線(面)との間隔Lの30%〜300%の範囲で設定されている(図9(A)参照)。これにより、ストッパ部88dとクラッチカバー22の摺動抵抗が低減され、噛合解除部材88の作動性を向上させることができる。
さらに、ストッパ部88dの湾曲部分の上面側の頂点Tは、上面側から見て、ダイアフラムスプリング25の外周端部よりも内周側に配される(図9(C)参照)。ストッパ部88dの頂点Tは、上面側から見て、ストッパ部88dの頂点Tとダイアフラムスプリング25の外周端部の距離Vが、ストッパ部88dの外周端部とダイアフラムスプリング25の外周端部の距離Uの10%〜300%の範囲になるように設定されている。これにより、噛合解除部材88の回転時倒れを低減させることができ、噛合解除部材88の作動性を向上させることができる。
ダイアフラムスプリング25は、プレッシャプレート24を介してクラッチディスク23を軸方向に進退させる(図2、3、5、6参照)。ダイアフラムスプリング25は、クラッチカバー22の円筒部22aの内周に沿って放射状に配置された12本の弾発性の板材よりなるレバー部材25aから構成されている(図3参照)。各レバー部材25aは、クラッチカバー22の支点形成部22cに、各レバー部材25aの軸方向両側に配置された一対のリング状の支点部材25b、25cを介して挟持される(図2参照)。ダイアフラムスプリング25の外周端部は、保持部88aとアジャストウェッジ部材82の端面との間に配される。これにより、レバー部材25aは、クラッチカバー22に対し支点部材25b、25cを作動支点としたピボット運動をすることができる。
レリーズベアリング26は、レリーズフォーク27の動作によりダイアフラムスプリング25を動作させるためのベアリングである。レリーズベアリング26は、変速機11の入力軸11aの外周を包囲するように、入力軸11aに対して摺動可能に支持される。レリーズベアリング26は、レバー部材25aの内端部(ダイアフラムスプリング25の中央側)をフライホイール21側に押動するための力点部26aを構成している。
レリーズフォーク27は、アクチュエータ30の作動に応じてレリーズベアリング26を軸方向に摺動させるためのフォーク状の部材である。レリーズフォーク27は、一端がレリーズベアリング26と当接し、他端がアクチュエータ30のロッド31の先端部と当接している。レリーズフォーク27は、変速機ケース11bに固定されたスプリング27aによりピボット支持部材28に組付けられていて、レリーズフォーク27の略中央部27bにてピボット支持部材28を支点として揺動するように構成されている。
ピボット支持部材28は、レリーズフォーク27を揺動可能に支持する部材であり、変速機ケース11bに固定されている。
アクチュエータ30は、ロッド31の進退移動により、摩擦クラッチ20のクラッチ操作を行う電動機構部材である(図1参照)。アクチュエータ30は、クラッチディスク23の係合状態を変化させるための力を、レリーズフォーク27及びレリーズベアリング26を介してダイアフラムスプリング25に付与する(図2参照)。アクチュエータ30は、ロッド31と、直流電動モータ32と、ハウジング33と、回転軸34と、セクタギア35と、アシストスプリング36と、を有する。
ロッド31は、進退移動可能にハウジング33に挿通された部材である(図2参照)。ロッド31は、ハウジング33の外部に配された先端部にてレリーズフォーク27と当接しており、基端部(レリーズフォーク27と当接している先端部と反対側の端部)にてセクタギア35に回動可能に軸着されている。
電動モータ32は、ハウジング33の外部側から取り付けられており、ハウジング33内に配された回転軸34を回転させる(図2参照)。
ハウジング33は、車両の適宜箇所に固定されており、電動モータ32を支持する(図2参照)。ハウジング33内には、回転軸34と、セクタギア35と、アシストスプリング36と、が収容されている。
回転軸34は、ハウジング33内に配され、電動モータ32により回転駆動される(図2参照)。回転軸34にはウォームギアが形成されており、回転軸34のウォームギアはセクタギア35のギアと噛合している。
セクタギア35は、側面から見て扇形を呈し、ハウジング33内に揺動可能に支持されている(図2参照)。セクタギア35は、円弧部分の端面にギアが形成され、回転軸34のウォームギアと噛合している。
アシストスプリング36は、ハウジング33内に伸縮可能に支持されており、セクタギア35の揺動範囲内において圧縮されている(図2参照)。アシストスプリング36は、一端がハウジング33の後端部に係止され、他端がセクタギア35に係止されている。アイシストスプリング36は、セクタギア35が図2において時計回りに所定角度以上回転すると、セクタギア35を時計回りの方向に付勢し、ロッド31を図2において右方向へ付勢して電動モータ32によるロッド31の右方向への移動をアシストしている。
構成部材31〜36により、アクチュエータ30は、電動モータ32が回転すると回転軸34を介してセクタギア35が回転し、ロッド31がハウジング33に対して進退運動するようになっている。
クラッチ制御回路40は、アクチュエータ30に駆動指令信号を出力してアクチュエータ30の作動を制御する制御回路である(図1参照)。クラッチ制御回路40は、マイクロコンピュータ(CPU)41、インターフェース42〜44、電源回路45、及び駆動回路46を有する。
CPU41は、プログラム及びマップ等を記憶したROM及びRAMを内蔵している(図1参照)。
インターフェース42は、バスを介してCPU41に接続される(図1参照)。インターフェース42は、シフトレバー荷重センサ51、車速センサ52、ギア位置センサ53、変速機入力軸回転数センサ54、及びストロークセンサ37と接続されている。インターフェース42は、CPU41に対し各センサの検出信号を供給するようになっている。ここで、シフトレバー荷重センサ51は、変速機11のシフトレバー(図示せず)が運転者にて操作されたときに生じる荷重(シフトレバー荷重)を検出する。車速センサ52は、車速Vを検出する。ギア位置センサ53は、変速機11の実際の変速段を検出する。変速機入力軸回転数センサ54は、変速機11の入力軸11aの回転数を検出する。ストロークセンサ37は、アクチュエータ30に固定されセクタギア35の揺動角度を検出することによりロッド31のストロークSTを検出する。
インターフェース43は、バスを介してCPU41に接続されるとともに、エンジン制御装置60と双方向の通信が可能となるように接続されている(図1参照)。これにより、CPU41は、エンジン制御装置60が入力しているスロットル開度センサ55及びエンジン回転数センサ56の情報を取得し得るようになっている。
インターフェース44は、バスを介してCPU41に接続されるとともに、電源回路45のOR回路45aの入力端子と駆動回路46とに接続されている(図1参照)。インターフェース44は、CPU41からの指令に基づき電源回路45及び駆動回路46に所定の信号を送出する。
電源回路45は、OR回路45aと、OR回路45aの出力端がベースに接続されたパワートランジスタTrと、定電圧回路45bとを備えている(図1参照)。なお、パワートランジスタTrは、OR回路45aの出力端がベースに接続されている。パワートランジスタTrのコレクタは、車両に搭載されたバッテリ70のプラス端子と接続されている。パワートランジスタTrのエミッタは、定電圧回路45bと駆動回路46とに接続されていて、パワートランジスタTrがON状態とされたとき、定電圧回路45b及び駆動回路46のそれぞれに電源を供給するようになっている。定電圧回路45bは、バッテリ電圧を所定の一定電圧(5V)に変換するものである。定電圧回路45bは、CPU41、及びインターフェース42〜44に接続されていて、各々に電源を供給する。OR回路45aの他の入力端子には、運転者によりON状態及びOFF状態に操作されるイグニッションスイッチ71の一端が接続されている。イグニッションスイッチ71の他端は、バッテリ70のプラス端子に接続されている。イグニッションスイッチ71の一端は、インターフェース42にも接続されていて、CPU41はイグニッションスイッチ71の状態を検出し得るようになっている。
駆動回路46は、インターフェース44からの指令信号によりON又はOFFする4個のスイッチング素子(図示省略)を内蔵している(図1参照)。これらのスイッチング素子は、周知のブリッジ回路を構成し、選択的に導通状態とされるとともに導通時間が制御される。駆動回路46は、電動モータ32に所定方向及び所定方向と逆方向の任意の大きさの電流を供給するようになっている。
エンジン制御装置60は、マイクロコンピュータ(図示せず)を主要素として構成され、エンジン10の燃料噴射量及び点火時期等を制御するものである(図1参照)。エンジン制御装置60は、スロットル開度センサ55、エンジン回転数センサ56等と接続され、それぞれのセンサからの信号を入力・処理するようになっている。ここで、スロットル開度センサ55は、エンジン10のスロットル開度TAを検出する。エンジン回転数センサ56は、エンジン10の回転数NEを検出する。
次に、実施形態1に係るクラッチの制御装置の動作について説明する。クラッチの制御装置においては、運転者によるクラッチペダル操作に代わり、アクチュエータ30がクラッチの断接操作(係合・非係合の操作)を自動的に行う(図1参照)。即ち、断接操作は、CPU41が、例えば(1)車両が走行している状態から停止する状態に移行していることを検出した場合(変速機入力軸回転数が所定値以下に低下した場合)、(2)シフトレバー荷重センサ51の検出する荷重が所定値以上となったことを検出した場合(ドライバーの変速意志が確認された場合)、(3)車両が停止している状態において、アクセルペダルが踏込まれたことを検出した場合等において実行される。
クラッチの制御装置において、摩擦クラッチ20を係合状態とし、エンジン10の動力を変速機11に伝達する場合の動作について説明すると、先ず、クラッチ制御回路40からの指令信号により駆動回路46が電動モータ32に所定の電流を流し、電動モータ32を回転駆動する(図1参照)。これにより、セクタギア35が図2において反時計回り方向に回転し、ロッド31が左方向に移動する。
一方、レリーズベアリング26は、ダイアフラムスプリング25により、フライホイール21から離間する方向(図2の右方向)に力を受けている。この力は、レリーズベアリング26を介してレリーズフォーク27に伝達されるため、レリーズフォーク27は、ピボット支持部材28を支点として図2において反時計回り方向に揺動する力を受けている。従って、ロッド31が図2において左方向に移動すると、レリーズフォーク27は反時計回り方向に揺動するとともに、ダイアフラムスプリング25の中央部はフライホイール21から離間する方向に変位する。
図5及び図6に示す状態では、ダイアフラムスプリング25は支点部材25b、25cを中心として揺動(姿勢変化)し、ダイアフラムスプリング25の外周部と当接するアジャストウェッジ部材82をフライホイール21側に押動する。この結果、プレッシャプレート24はテーパ部81を介してフライホイール21側へ向かう力を受け、クラッチディスク23をフライホイール21との間で挟み込む。これと同時に、プレッシャプレート24はアジャストピニオン83、アッパラック84、及びロアラック85を介してフライホイール21側へ向かう力を受け、ピニオン歯83aと第1ラック歯84aとが噛合状態を維持するとともに、第2ラック歯84bとロアラック歯85aとが噛合状態を維持している。したがって、アジャストピニオン83とロアラック85との相対回転が許容されることがないので、アジャストウェッジ部材82はプレッシャプレート24に対し相対回転しない。これにより、プレッシャプレート24とダイアフラムスプリング25の外周端部とが一定の距離を保持しながらクラッチディスク23がフライホイール21と摩擦係合して一体的に回転するようになり、変速機11にエンジン10の動力が伝達される。
次に、摩擦クラッチ20を非係合状態とし、エンジン10の動力を変速機11に伝達しない状態とする場合の動作について説明する。この場合には、電動モータ32を回転駆動してセクタギア35を図2において時計回りに回転させる。これにより、ロッド31は、図2において右方向に移動し、レリーズフォーク27との当接部にて右方向の力を与えるため、レリーズフォーク27はピボット支持部材28を支点として図2において時計回りに回動し、レリーズベアリング26をフライホイール21側に押動する。
このため、ダイアフラムスプリング25は力点部26aにてフライホイール21に向かう力を受け、支点部材25b、25cを中心に揺動(姿勢変化)するため、ダイアフラムスプリング25の外周端部はフライホイール21から離間する方向に移動し、アジャストウェッジ部材82を介してプレッシャプレート24をフライホイール21側に押圧していた力は減少する。一方、プレッシャプレート24は、ストラップ24aによりクラッチカバー22と接続されていて、フライホイール21から離間する方向に常に付勢されているため、この付勢力によりクラッチディスク23から僅かに離れる。この結果、クラッチディスク23はフリー状態となって、エンジン10の動力が変速機11に伝達されない状態となる。
この通常運転時のクラッチの非係合状態においては、噛合解除部材88のストッパ部88dとクラッチカバー22とが当接しない範囲内でアクチュエータ30のロッド31のストロークSTを制御しておく。これによると、プレッシャプレート24からダイアフラムスプリング25への軸方向の距離は変更されないため、図7(A)に概念的に示したように、アジャストピニオン83のピニオン歯83aとアッパラック84の第1ラック歯84aとの噛合状態は維持されるとともにロアラック85のロアラック歯85aとアッパラック84の第2ラック歯84bとの噛合状態が維持されて、アジャストウェッジ部材82はプレッシャプレート24に対し相対回転しない。換言すれば、アジャストピニオン83の第1ピニオン歯83aとアッパラック84の第1ラック歯84aとの噛合と、ロアラック85のロアラック歯85aとアッパラック84の第2ラック歯84bとの噛合とがともに解除されない程度にロッド31のストロークSTを決定しておく。
次に、クラッチフェーシング23a、23bが摩耗した際に、これを補償するための作動について図面を用いて説明する。図10は、本発明の実施形態1に係るクラッチの制御装置のCPUが実行するプログラムを模式的に示した第1のフローチャートである。
まず、クラッチディスク23の摩耗補償動作(アジャスト動作)がなされた直後、或いは工場からの出荷時やクラッチディスク23の交換直後等であってクラッチフェーシング23a、23bの摩耗が進行していない場合から説明を開始する。CPU41は、電源供給がなされている限り、図10に示したアジャスト要否判定ルーチンを所定時間の経過毎に繰り返し実行している。したがって、CPU41は、所定のタイミングにて図10のルーチンをステップA1から開始し、ステップA2にてフラグFIGの値が「0」であるか否かを判定する。このフラグFIGは、イグニッションスイッチ71がOFF状態からON状態へと変更されたときに、CPU41が実行するイニシャルルーチン(図示省略)により「0」に設定され、ステップA6のように10個のバッファA(1)〜A(10)の内容が更新されたときに「1」に設定されるようになっている。
したがって、イグニッションスイッチ71がOFF状態からON状態に変更された以降において、バッファA(1)〜A(10)の内容が更新されていない場合には、フラグFIGの値は「0」であるため、CPU41はステップA2にて「Yes」と判定してステップA3に進む。一方、バッファA(1)〜A(10)の内容の更新が実行された場合には、フラグFIGの値は「1」となっているため、CPU41はステップA2にて「No」と判定してステップA17に進み、本ルーチンを一旦終了する。
ステップA3に進んだ場合には、CPU41は、ステップA3にてエンジン10が停止しているか否かを判定する。具体的には、CPU41は、検出されるエンジン回転数NEが「0」であると判定される場合、又はイグニッションスイッチ71がON状態からOFF状態へと変更されてエンジン停止に充分な時間が経過していると判定される場合には、エンジン10が停止していると判断する。そして、CPU41は、エンジン10が停止していると判定される場合にはステップA4に進み、エンジン10が停止していないと判定される場合にはステップA17に進んで本ルーチンを一旦終了する。
CPU41は、ステップA4に進んだ場合には、ステップA4にて摩擦クラッチ20を完全係合状態とするため、電動モータ32に流すべき電流IMに完全係合電流値IMKGOを設定する。これにより、電動モータ32が回転し、ロッド31が図2において左方向に移動するため、クラッチディスク23がフライホイール21と次第に係合する。
次いで、CPU41はステップA5に進み、摩擦クラッチ20が完全係合状態となったか否かを判定する。具体的には、CPU41は、ステップA4にて電動モータ32の電流値IMを変更した後に充分な時間が経過している場合、又は、ストロークセンサ37の検出するストロークSTが所定時間以上に亘り変化していない場合に、摩擦クラッチ20が完全係合状態に至ったものと判定する。そして、摩擦クラッチ20が未だ完全係合状態となっていない場合には、CPU41はステップA5にて「No」と判定し、ステップA17に進んで本ルーチンを一旦終了する。
以降においても、所定時間の経過毎にステップA2、A3、及びA5が繰り返し実行される。このため、フラグFIGの値が「0」であり、且つエンジン10が停止している状態が摩擦クラッチ20の係合に要する時間だけ継続すると、CPU41はステップA5にて「Yes」と判定してステップA6に進む。なお、ステップA5にて「Yes」と判定される前にエンジン10が運転状態となると、図示しないルーチンの実行によって各状態に応じた電流が電動モータ32に流され、適切なクラッチの係合制御が実行される。
摩擦クラッチ20が完全係合状態となり、CPU41が処理をステップA6に進めた場合には、9個のバッファA(2)、A(3)、・・・A(9)、A(10)の値が更新される。具体的には、「n」を1から9までの自然数とするとき、バッファA(n)の内容をバッファA(n+1)に順次移行(シフト)させる。なお、更新前のバッファA(10)の内容は消去される。
次いで、CPU41はステップA7に進み、ステップA7にてストロークセンサ37が検出する現在のストロークSTをバッファA(1)に書込む。その後、CPU41は、ステップA8に進んで10個のバッファA(1)〜A(10)内の単純平均値を求め、その単純平均値を完全係合位置KKIとする。次に、CPU41は、ステップA9に進んでフラグFIGの値を「1」に変更し、続くステップA10にてモータ電流IMを「0」として電動モータ32への通電を停止する。
次いで、CPU41は、ステップA11に進み、カウンタNの値が所定値T1(ここでは10)より小さいか否かを判定する。このカウンタNは、後述するように、クラッチディスク23の摩耗補償動作がなされたとき、或いは工場からの出荷時やクラッチディスク23の交換時において「0」に設定されるようになっている。現段階ではこれらの何れかに該当するので、カウンタNの値は「0」となっており、従って、CPU41はステップA11にて「Yes」と判定してステップA12に進み、ステップA8にて求めた完全係合位置KKIをアジャスト基準位置AKIとして設定する。そして、CPU41はステップA13に進み、カウンタNの値を「1」だけ増大し、ステップA17に進んで本ルーチンを一旦終了する。
以降においても、CPU41は本ルーチンを所定時間の経過毎に実行する。一方、イグニッションスイッチ71がOFF状態からON状態へと変更されない限り、フラグFIGの値は「1」に維持される。このため、CPU41は、ステップA2にて「No」と判定しステップA17に直接進むため、完全係合位置KKIやアジャスト基準位置AKIは更新されない。
その後、イグニッションスイッチ71がON状態からOFF状態へと変更され、更にOFF状態からON状態へと変更されると、フラグFIGの値は「0」に変更される。これにより、CPU41はステップA2にて「Yes」と判定してステップA3以降に進むようになるため、上述した処理が実行され、エンジン停止且つクラッチ完全係合等の条件が成立すると、ステップA12にてアジャスト基準位置AKIが更新されるとともに、ステップA13にてカウンタNの値が「1」だけ増大する。
このような作動が繰り返し実行されることにより、バッファA(1)、A(2)、A(3)・・・が順次更新され、アジャスト基準位置AKIも更新されていく。また、カウンタNの値は次第に増大する。このため、ステップA13にてカウンタNの値が所定値T1(10)とされた後の運転において、再びステップA11が実行されると、CPU41は「No」と判定してステップA14に進み、アジャスト基準位置AKIと完全係合位置KKIとの差(差の絶対値でもよい)が所定のしきい値Lより小さく、従ってCPU41はステップA14にて「No」と判定し、ステップA17に進んで本ルーチンを一旦終了する。
その後においては、ステップA3〜A8の実行により、完全係合位置KKIがクラッチフェーシング23a、23bの摩耗進行程度に応じた値に更新されていく。一方、カウンタNの値は所定値T1より大きい値に維持されるため、CPU41はステップA11にて「No」と判定してステップA14以降に進む。従って、ステップA12が実行されることはなく、アジャスト基準位置AKIは、アジャスト動作実行直後の値、工場からの出荷直後、又はクラッチディスク23の交換直後の値に維持される。
その後、車両が長期間に亘り運転され、摩擦クラッチ20の係合・非係合の動作が繰り返し行なわれることでクラッチフェーシング23a、23bが摩耗すると、アジャスト基準位置AKIと完全係合位置KKIとの差が所定のしきい値Lより大きくなる。このようになると、CPU41はステップA14の実行時において「Yes」と判定してステップA15に進み、アジャスト動作要求フラグFADJの値を「1」に設定する。このアジャスト動作要求フラグFADJは、その値「1」により、アジャスト動作を実行すべきことを示すフラグである。
次いで、CPU41はステップA16に進み、アジャスト基準位置AKIと完全係合位置KKIとの差をクラッチフェーシング23a、23bの摩耗量X(アジャスト必要量)として設定し、ステップA17に進んで本ルーチンを一旦終了する。以上のようにして、摩耗の程度が進行した場合に、アジャスト動作要求フラグFADJの値が「1」に設定される。
なお、上記において、エンジン10が停止している場合にのみ完全係合位置KKI等の更新をするようにしたのは、エンジン10の停止状態であれば摩擦クラッチ20にエンジンの振動が及ばず、精度良く完全係合位置KKI等を決定できるからである。また、バッファA(1)〜A(10)を用いて、完全係合位置を10回分のクラッチ完全係合時におけるストロークの平均値としたのは、より精度良く完全係合位置KKI等を決定するためである。
次に、アジャスト動作を実際に実行するための作動について説明する。図11は、本発明の実施形態1に係るクラッチの制御装置のCPUが実行するプログラムを模式的に示した第2のフローチャートである。
まず、アジャスト動作の実行条件(ステップB2〜B5)が全て成立しているものと仮定して説明を開始すると、CPU41は、図11に示したルーチンを所定時間の経過毎に実行している。従って、CPU41は、所定のタイミングにてステップB1から処理を開始してステップB2に進み、前述したアジャスト動作要求フラグFADJの値が「1」か否かを判定する。これは、アジャスト動作を実行すべき要求がある場合にのみ、アジャスト動作を実行するように構成するためのステップである。
前述の仮定に従えば、アジャスト動作要求フラグFADJの値は「1」になっているので、CPU41はステップB2にて「Yes」と判定してステップB3に進み、クラッチディスク23が非係合状態にあるか否かを判定する。これは、運転状態により摩擦クラッチ20が係合状態に維持されている場合には、アジャスト動作を実行できないからである。
前述の仮定に従えば、クラッチディスク23は非係合であるので、CPU41はステップB3にて「Yes」と判定してステップB4に進み、エンジン回転数NEが所定の低速側回転数α(例えば、エンジン作動に最低限必要な400rpm)より大きく、且つ所定の高速側回転数β(例えば、エンジン10の振動が大きくなり始める回転数である2000rpm)より小さいか否かを判定する。
これは、できるだけエンジン回転数が小さく、摩擦クラッチ20が共振等しない場合にアジャスト動作を行うことにより、誤調整することがないようにするためである。また、回転数αよりも大きい状態においてのみ、アジャスト動作を行うこととしたのは、所定の変速ギアが係合されている状態にて車両を駐車する「ギア駐車」時に、クラッチディスク23を非係合状態にするアジャスト動作を行うのは好ましくないためであり、エンジン回転数NEが所定回転数α以上であれば、ギア駐車時ではないものと判断できるためである。
前述の仮定に従えば、エンジン回転数NEが低速側回転数αより大きく、高速側回転数βより小さいので、CPU41はステップB4にて「Yes」と判定してステップB5に進み、車速Vが「0」であるか否かを判定する。これは、車両の走行に伴う振動により誤調整することがないようにするためである。前述の仮定に従えば、車両は停止していて、車速Vは「0」となっているので、CPU41はステップB5にて「Yes」と判定してステップB6に進む。以上のステップB2〜B5は、実際にアジャスト動作の実行を開始すべき条件が成立しているか否かを判定するステップである。
次いで、CPU41はステップB6に進み、ストロークSTが、摩耗量Xに所定距離Y及び所定距離Zを加えた値となっているか否かを判定する。なお、所定距離Yは、クラッチディスク23のアジャスト動作がなされた直後、或いは工場からの出荷時やクラッチディスク23の交換直後等であってクラッチフェーシング23a、23bの摩耗が進行していない場合において摩擦クラッチ20が係合状態とされている場合に、噛合解除部材88のストッパ部88dとクラッチカバー22の内周面との軸方向に関する距離であって、通常の運転時において摩擦クラッチ20を非係合状態とする際のストロークST0の最大値と略等しい距離である。また、所定距離Zは、アジャストピニオン83のピニオン歯83aとアッパラック84の第1ラック歯84aとの噛合が完全に解除されるまでにアジャストウェッジ部材82がプレッシャプレート24に対して相対的に移動する軸方向の距離(アジャストピニオン83がロアラック85に対して相対的に移動する軸方向の距離)である。
現段階においては、摩擦クラッチ20が通常の係合状態にあるので、ストロークSTはST0と等しく、従ってCPU41はステップB6にて「No」と判定してステップB9に進み、電動モータ32の電流値IMをアジャスト用電流値IMADJとする。これにより、ストロークSTは、ステップB6の判定値(X+Y+Z)に次第に近づきはじめる。その後、CPU41はステップB10に進み、本ルーチンを一旦終了する。
以降においても、CPU41は本ルーチンを所定時間の経過毎に実行しているので、ステップB2〜B5にてアジャスト実行条件が成立しているかをモニタし、ステップB6にてストロークSTが判定値(X+Y+Z)に達したか否かをモニタすることとなる。
その後、所定時間が経過すると、ダイアフラムスプリング25の姿勢変化が進む。即ち、ダイアフラムスプリング25は力点部26aにてその中央部がフライホイール21へ向かう力を受け、支点部材25b、25cを中心に揺動し、ダイアフラムスプリング25の外周端部がプレッシャプレート24から徐々に離間し、噛合解除部材88のストッパ部88dとクラッチカバー22の内周面とが当接する。噛合解除部材88のストッパ部88dとがクラッチカバー22の内周面と当接するまでの範囲内では、プレッシャプレート24がストラップ24aの付勢力を受けているので、ダイアフラムスプリング25の外周端部とともに軸方向に移動するアジャストウェッジ部材82の軸方向への移動に伴ってテーパ部81も軸方向に移動する。したがって、アジャストピニオン83とロアラック85とは軸方向に相対移動することなく、アジャストピニオン83のピニオン歯83aとアッパラック84の第1ラック歯84aとの噛合、及びロアラック85のロアラック歯85aとアッパラック84の第2ラック歯84bとの噛合はともに維持される。
この時点においては、ストロークSTは、判定値よりも小さな値(X+Y)であるので、CPU41はステップB6にて「No」と判定してステップB9を実行する。このため、電動モータ32には電流値IMADJが継続して流れるため、ダイアフラムスプリング25の姿勢は更に変化する。このとき、噛合解除部材88のストッパ部88dはクラッチカバー22の内周面に当接しているため、プレッシャプレート24は、それ以上の軸方向への移動が規制される。しかしながら、ダイアフラムスプリング25の姿勢の変化が継続することで、ダイアフラムスプリング25は、その外周端部がフライホイール21から離間するように姿勢が変化する。その結果、噛合解除部材88の保持部88aがダイアフラムスプリング25の外周端部が移動する力を直接受けることで、噛合解除部材88に固定されているアジャストウェッジ部材82がダイアフラムスプリング25の外周端部に追従して軸方向へ移動する。これにより、アジャストウェッジ部材82に固定されるアジャストピニオン83がプレッシャプレート24に固定されるロアラック85に対して軸方向へと相対移動する。ここで、アッパラック84は付勢部材86により図7(A)のc方向に付勢されているが、アジャストピニオン83は軸方向に移動するために、ピニオン歯83aと第1ラック歯84aとの噛合が完全に解除されない限りアッパラック84は周方向へは変位できない。したがって、ピニオン歯83aと第1ラック歯84aとの噛合が完全に解除されないストロークSTの範囲内では、アジャストピニオン83がロアラック85に対して軸方向に離間するが、アッパラック84は第2ラック歯84bとロアラック歯85aとの噛合が維持されるためにアッパラック84は軸方向に移動しない。図7(B)は、図7(A)の状態からアジャストウェッジ部材82がプレッシャプレート24に対して軸方向に相対移動し、ピニオン歯83aと第1ラック歯84aとの噛合が完全に解除される直前の状態を示している。
この状態から更にダイアフラムスプリング25の姿勢が変化してアジャストウェッジ部材82がプレッシャプレート24から更に離間すると、アジャストピニオン83のピニオン歯83aとアッパラック84の第1ラック歯84aとの噛合が完全に解除される。即ち、図7(B)の状態から更に電流値IMADJが継続して流れることで、ピニオン歯83aと第1ラック歯84aとの噛合を完全に解除するのに必要な軸方向変位量だけストロークSTが増大すると、ピニオン歯83aと第1ラック歯84aとの噛合が完全に解除される。このとき、アッパラック84の周方向への変位が許容される。これにより、アッパラック84は、付勢部材86にて付勢されて第2ラック歯84bとロアラック歯85aとが摺接しながら軸方向及び周方向へと変位する。これと同時にダイアフラムスプリング25の姿勢が更に変化することで、ピニオン歯83aと第1ラック歯84aとが離間するが、アッパラック84のロアラック85に対する軸方向変位量は規制部84cにより所定の距離に規制されているため、アッパラック84のロアラック85に対する軸方向の相対移動量が所定の距離に達すると、アッパラック84はこれ以上のロアラック85に対する軸方向への相対移動ができなくなる。このときの状態を図7(C)に示す。ここで、前述したように規制部84cにより規制されるアッパラック84の周方向への変位量は、第1ラック歯84aの歯面の半ピッチに設定されているので、図7(C)の状態では、図7(A)及び図7(B)の状態と比べてピニオン歯83aに対する第1ラック歯84aの位置が、半ピッチだけずれることになる。なお、図7(C)の状態では、アジャストウェッジ部材82のプレッシャプレート24に対する相対回転は行なわれていない。
図7(A)から図7(B)、図7(C)への移行時における噛合解除部材88の作用について説明する。図8(B)のように噛合解除部材88のストッパ部88dがクラッチカバー22に当接してからも更にアジャストウェッジ部材82がプレッシャプレート24から離間する方向へと移動すると、クラッチカバー22によってストッパ部88dが規制されることで、噛合解除部材88は図8の左側のリベット83cを中心として時計回りに回転する。これによって、噛合解除部材88の押付部88cがプレッシャプレート24のダイアフラムスプリング25側の端面を図8の下方に押付けるので、プレッシャプレート24がアジャストウェッジ部材82から確実に離間する(図8(C)参照)。これによって、例えばテーパ面81aとウェッジ側テーパ面82aとの間に錆付き等がある場合であっても、アジャストウェッジ部材82とテーパ部81とを確実に相対移動させることができる。
その後、所定の時間が経過してストロークSTが判定値(X+Y+Z)に達すると、CPU41はステップB6にて「Yes」と判定してステップB7に進んでアジャスト動作要求フラグFADJの値を「0」に設定する。また、この段階で、CPU41は、新たなアジャスト基準位置AKIを更新するように、ステップB8にて前述のカウンタNの値を「0」に設定し、ステップB10にて本ルーチンを一旦終了する。なお、以降においては、各種運転状態に応じた電流が電動モータ32に通電され、適切なクラッチ制御が実行されるようになる。その後、図示しない他のルーチンの実行により、クラッチディスク23が通常の非係合位置(ストロークST<Yの範囲内)へと戻されるときの、アジャストピニオン83、アッパラック84、及びロアラック85の噛合状態について説明する。ダイアフラムスプリング25の姿勢が変化して図7(C)の状態からストロークSTが減少すると、ピニオン歯83aが第1ラック歯84aとの噛合が開始する。ここで、図7(C)では図7(B)の状態に対してアッパラック84が周方向に半ピッチだけ変位しているので、図7(C)においてピニオン歯83aと対向する第1ラック歯84aの歯面は、図7(A)においてピニオン歯83aと噛合する第1ラック歯84aに対して1ピッチずれることになる。したがって、図7(C)の状態からストロークSTがZだけ減少したときにピニオン歯83aと噛合する第1ラック歯84aは、図7(A)の状態に対して1ピッチだけ図7の右方向にずれる。このとき、ダイアフラムスプリング25の押付力によってアジャストウェッジ部材82がプレッシャプレート24に向かって押付けられ、ピニオン歯83aと第1ラック歯84a、及びロアラック歯85aと第2ラック歯84bとがともに噛合しようとする。しかしながら、ピニオン歯83aと第1ラック歯84aとが噛合する歯面が1ピッチだけずれるため、ピニオン歯83aと第1ラック歯84aとの歯面が摺接しながら噛合するとともに、第2ラック歯84bとロアラック歯85aとの歯面が摺接しながら噛合する。これらの歯面の摺接時に、アジャストピニオン83に対してアッパラック84に回転力が付与されるとともにアッパラック84に対してロアラック85に回転力が付与される。この回転力によってアジャストウェッジ部材82がプレッシャプレート24に対して相対回転し、図7(D)の状態となる。これにより、テーパ面81aとウェッジ側テーパ面82aとの当接位置が第1ラック歯84aの1ピッチ分だけ変化して、ダイアフラムスプリング25の外周端部とプレッシャプレート24との軸方向距離が変更される。以上により、通常運転時におけるダイアフラムスプリング25の姿勢が修正される。また、このとき、噛合解除部材88のストッパ部88dはクラッチカバー22に規制されなくなるため、噛合解除部材88の押付部88cを介してプレッシャプレート24を押圧する力がなくなり、噛合解除部材88は初期の位置へと戻される。
以上説明したように、クラッチディスク23の摩耗量が所定量以上となって、且つアジャスト動作しても誤調整が発生する可能性の小さい運転状態が検出されたとき、1度のアジャスト動作で第1ラック歯84aの1ピッチ分に応じた量(1ピッチの距離に応じたテーパ面81aの高さ分)だけ摩耗補償がなされる。更に、クラッチの摩耗を補償する際に、付勢部材86により所定の周方向変位量だけアッパラック84を周方向に相対回転させて、再びクラッチを係合するときにアジャストピニオン83のピニオン歯83aと噛合する第1ラック歯84aの歯面をずらしている。このとき、規制部84cにて規制された範囲内で第2ラック歯84bとロアラック歯85aとが摺接しながら完全に噛合状態へと移行することによってアジャストウェッジ部材82とテーパ部81とを相対回転させているので、アジャストウェッジ部材82とテーパ部81との間、ピニオン歯83aと第1ラック歯84aとの間、及びロアラック歯85aと第2ラック歯84bとの間に錆付きが生じたり摺動抵抗が大きくなる場合であっても、アクチュエータ30の作動に伴って確実にアジャス動作が実行されるので、精度良くクラッチの摩耗を補償することが可能になる。
なお、上記の実施の形態においては、摩耗量Xを、図12(A)に示すように、アジャスト基準位置AKI(図12(A)のA点)と完全係合位置KKI(図12(A)のB点)との差(図12(A)の距離C)として求めていたが、図12(B)に示すように、クラッチディスク23の係合開始点の摩耗に伴う初期位置Dからの摩耗時Eへの変化量Fを直接検出する方法、或いは図12(C)に示すように、初期(摩耗量がない場合又はアジャスト動作直後)の完全係合点Aとクラッチカバー22のストローク上に任意に固定された規定位置Jまでのストローク量Gと、摩耗時完全係合点Bから規定位置Jまでのストローク量Hとの差Kを検出する方法により求めることもできる。
なお、本発明の範囲内において種々の変形例が採用可能であり、例えば、上記電動モータ32を使用したアクチュエータ30に代えて、電磁バルブ等を使用して油圧を制御し、この油圧によりロッド31を進退させる油圧式のアクチュエータを採用することもできる。また、上記実施形態では、車両の振動によりクラッチカバー22が共振する可能性が小さい場合にのみ、アクチュエータ30を作動させ、ダイアフラムスプリング25の姿勢を補正してアジャスト動作を実行するようにしたが、他の任意の条件が成立したときに、必要に応じてダイアフラムスプリング25の姿勢を制御するようにしてもよい。更に、クラッチ制御回路40はアクチュエータ30と一体或いは別体のどちらであってもよい。また、本実施の形態では、ロアラック85のロアラック歯85aとアッパラック84の第2ラック歯84bを鋸歯形状としたが、実施の形態に示すような鋸歯形状以外にも、例えばテーパ面81aとウェッジ側テーパ面82aのように鋸歯よりも周方向への傾きが緩やかな歯面形状でもよく、付勢部材86によって付勢される際にアッパラック84がロアラック85に対して周方向に移動するような歯面形状であればよい。