以下に本発明の一実施の形態について詳細に説明する。本発明に係る熱電材料は、2相以上の酸化物熱電材料の複合体からなる。
本発明において、酸化物熱電材料とは、金属酸化物であって、室温での電気伝導度σが1S/cm以上であり、かつ、室温でのゼーベック係数Sの絶対値が10μV/K以上である化合物をいう。また、酸化物熱電材料には、その結晶構造が等方的であるものと、異方的であるものがある。本発明は、いずれの酸化物熱電材料に対しても適用することができる。
等方的な結晶構造を有するp型の酸化物熱電材料としては、具体的には、LiをドープしたNiO等がある。また、等方的な結晶構造を有するn型の酸化物熱電材料としては、具体的には、ZnO、BaPbO3、(Sr、Ca)(MnRe)O3(但し、Re:希土類元素)などの物質、及び、それらにドーピングした固溶体がある。また、異方的な結晶構造を有するp型の酸化物熱電材料としては、具体的には、後述するCCO、NCO、Cu4層、Bi系4層、及び、CaxCoO2、SrxCoO2、BaxCoO2等がある。さらに、異方的な結晶構造を有するn型の酸化物熱電材料としては、具体的には、(ZnO)mIn2O3(mは、整数)等がある。
これらの中でも、層状の結晶構造を有する酸化物熱電材料(層状酸化物熱電材料)に対して本発明を適用すると、高い性能指数Zを示す熱電材料が得られる。また、層状酸化物熱電材料の中でも、稜共有したCoO6八面体からなるCoO2層を含むもの(以下、これを「コバルト層状酸化物」という。)が特に好適である。
コバルト層状酸化物は、図1に示すように、電気伝導を担うと考えられているCoO2層と、絶縁層と考えられているブロック層とが、所定の周期で積層した層状構造を備えている。ブロック層は、岩塩構造若しくは歪んだ岩塩構造を有する層(以下、これらを総称して、「擬岩塩構造層」という。)、Naイオンからなる層などで構成される層である。
この場合、隣接するブロック層間に挟まれる領域には、1層のCoO2層が含まれていても良く、あるいは、2層以上のCoO2層が含まれていても良い。また、CoO2層に含まれるCo原子の一部は、他の金属元素(例えば、Cu等)に置換されていても良い。
また、ブロック層の組成や構造は、特に限定されるものではない。すなわち、ブロック層は、1種類の層からなるものであっても良く、あるいは、組成や結晶構造の異なる2種以上の層が規則的又は不規則的に組み合わされたものであっても良い。高い熱電特性を得るためには、ブロック層は、擬岩塩構造層又はNaイオン層が好ましい。
本発明に係る熱電材料を構成する少なくとも1つの相として好適なコバルト層状酸化物としては、具体的には以下のようなものがある。コバルト層状酸化物の第1の具体例は、ブロック層が、少なくともCa及びCoを含む3層の擬岩塩構造層からなるものであって、次の化1の式に示す一般式で表されるもの(本発明においては、化1の式で表される化合物及びこれに含まれるCoの一部を後述する元素Cで置換したものを総称して「CCO」という。)である。
(化1)
{(Ca1−xAx)2CoO3+α}(CoO2+β)y
(但し、Aは、アルカリ金属、アルカリ土類金属及びBiから選ばれる1種又は2種以上の元素、 0≦x≦0.3、 0.5≦y≦2.0、 0.85≦{3+α+(2+β)y}/(3+2y)≦1.15)
なお、化1の式において、「0.85≦{3+α+(2+β)y}/(3+2y)≦1.15」は、基本組成({(Ca1−xAx)2CoO3}(CoO2)y )を有するコバルト層状酸化物に含まれる酸素の化学量論量(3+2y)に対し、最大で±15atm%の範囲で酸素が過剰となったり、あるいは、酸素の欠損を生ずる場合があることを示す。この場合、増減する酸素は、CoO2層に含まれる酸素(β)又はブロック層に含まれる酸素(α)のいずれか一方であっても良く、あるいは、双方の酸素であっても良い。
化1の式に示すコバルト層状酸化物において、Caの一部を元素Aで置換すると、コバルト層状酸化物の電気伝導度σが向上するという効果がある。但し、元素AによるCaの置換量が過大になると、大気中の水分と反応するなど化学的に不安定になるので、置換量は30atm%以下が好ましい。
また、化1の式に示すコバルト層状酸化物において、CoO2層及び/又はブロック層に含まれるCoの一部をCu、Sn、Mn、Ni、Fe、Zr及びCrから選ばれる1種又は2種以上の元素Cで置換しても良い。Coの一部を元素Cで置換すると、コバルト層状酸化物のゼーベック係数Sが向上するという効果がある。この場合、元素CによるCoの置換量は、25atm%以下が好ましい。
コバルト層状酸化物の第2の具体例は、ブロック層がNaイオン層からなるものであって、次の化2の式に示す一般式で表されるもの(本発明においては、これを「NCO」という。)である。
(化2)
NaxCoO2(0.3≦x≦0.8)
コバルト層状酸化物の第3の具体例は、ブロック層が、少なくともCa、Co及びCuを含む4層の擬岩塩構造層からなるものであって、次の化3の式に示す一般式で表されるもの(本発明においては、化3の式で表される化合物及びこれに含まれるCoの一部を後述する元素Dで置換したものを総称して「Cu4層」という。)である。
(化3)
[(Ca1−xAx)2(Co1−yCuy)2O4+α]zCoO2+β
(但し、Aは、アルカリ金属、アルカリ土類金属及びBiから選ばれる1種又は2種以上の元素、0≦x≦0.3、0.1≦y≦0.4、0.5≦z≦0.7、0.85≦{(4+α)z+2+β}/(4z+2)≦1.15)
なお、化3の式において、「0.85≦{(4+α)+2+β}/(4z+2)≦1.15」は、基本組成([(Ca1−xAx)2(Co1−yCuy)2O4]zCoO2)を有するコバルト層状酸化物に含まれる酸素の化学量論量(4z+2)に対し、最大で±15atm%の範囲で酸素が過剰となったり、あるいは、酸素の欠損を生ずる場合があることを示す。この場合、増減する酸素は、CoO2層に含まれる酸素(β)又はブロック層に含まれる酸素(α)のいずれか一方であっても良く、あるいは、双方の酸素であっても良い。
化3の式に示すコバルト層状酸化物において、Caの一部をアルカリ金属、アルカリ土類金属及び/又はBiからなる元素Aで置換すると、コバルト層状酸化物の電気伝導度σが向上するという効果がある。但し、元素AによるCaの置換量xが過大になると、大気中の水分と反応するなど化学的に不安定になるので、置換量xは30atm%以下が好ましい。
また、化3の式において、CoO2層に対するブロック層の比率zは、0.5以上0.7以下が好ましい。比率zがこの範囲を超えると、構造が不安定となるため、好ましくない。比率zは、さらに好ましくは、0.6以上0.7以下である。
さらに、化3の式において、CoO2層及び/又はブロック層に含まれるCoの一部を、さらにSn、Mn、Ni、Fe、Zr及び/又はCr(以下、これを「元素D」という。)で置換しても良い。Coの一部をさらに元素Dで置換すると、ゼーベック係数及び/又は電気伝導度が向上するという効果がある。この場合、元素DによるCoの置換量は、CoO2層及び/又はブロック層中のCuで占められていないCoサイトの15atm%以下が好ましい。
コバルト層状酸化物の第4の具体例は、ブロック層が、少なくともBi、元素B及びCoを含む4層の擬岩塩構造層からなるものであって、次の化4の式に示す一般式で表されるもの(本発明においては、化4の式に示す化合物及びこれに含まれるCoの一部を元素Cで置換したものを総称して「Bi系4層」という。)である。
(化4)
(Bi1−xーyBxCoyO1+α)(CoO2+β)z
(但し、Bは、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる1種又は2種以上の元素、0.2≦x≦0.8、0≦y<0.5、0.2≦x+y≦1、0.25≦z≦0.5、0.85≦{1+α+(2+β)z}/(1+2z)≦1.15)
なお、化4の式において、「0.85≦{1+α+(2+β)z}/(1+2z)≦1.15」は、基本組成( (Bi1−xーyBxCoyO)(CoO2)z)を有するコバルト層状酸化物に含まれる酸素の化学量論量(1+2z)に対し、最大で±15atm%の範囲で酸素が過剰となったり、あるいは、酸素の欠損を生ずる場合があることを示す。この場合、増減する酸素は、CoO2層に含まれる酸素(β)又はブロック層に含まれる酸素(α)のいずれか一方であっても良く、あるいは、双方の酸素であっても良い。
また、化4の式に示すコバルト層状酸化物において、CoO2層及び/又はブロック層に含まれるCoの一部を元素Cで置換しても良い。Coの一部を元素Cで置換すると、層状酸化物のゼーベック係数及び/又は電気伝導度が向上するという効果がある。この場合、元素CによるCoの置換量は、25atm%以下が好ましい。
本発明に係る熱電材料は、上述した種々の酸化物熱電材料を2相以上含む複合体からなる。
本発明に係る熱電材料において、酸化物熱電材料の組み合わせは、特に限定されるものではないが、少なくともp型同士又はn型同士の組み合わせが好ましい。
例えば、等方的な結晶構造を有する2相以上の酸化物熱電材料のみからなる複合体であっても良く、あるいは、等方的な結晶構造を有する1相又は2相以上の酸化物熱電材料と、異方的な結晶構造を有する1相又は2相以上の酸化物熱電材料からなる複合体であっても良い。さらに、異方的な結晶構造を有する2相以上の酸化物熱電材料のみからなる複合体であっても良い。
高い熱電特性を得るためには、複合体中には、1相又は2相以上の層状酸化物熱電材料を含んでいることが好ましい。また、複合体に含まれる層状酸化物熱電材料の少なくとも1つは、上述したコバルト層状酸化物が好ましい。中でも、上述したCCO、NCO、Cu4層及びBi系4層から選ばれる少なくとも2相以上のコバルト層状酸化物を含む複合体は、高い熱電特性が得られるので、特に好適である。
また、本発明に係る熱電材料では、熱電性能の向上が顕著であるなどの観点から、主相を形成する酸化物熱電材料の割合が、50mol%以上100mol%未満の範囲にあるのが好ましい。ここで、上記主相とは、その複合体を構成する酸化物熱電材料のうち、単体での無次元性能指数ZTが最も大きいものをいう。
また、本発明に係る熱電材料において、複合体中に含まれる各相の形態は、特に限定されるものではない。例えば、複合体は、単一の相(単一の結晶子)からなる結晶粒が2種以上含まれているものでも良い。この場合、各結晶子(結晶粒)は、複合体中にランダムに配列していても良く、あるいは、特定の結晶面が一方向に配向するように配列していても良い。
また、例えば、複合体は、2種以上の相(2種以上の結晶子)からなる結晶粒が1種又は2種以上含まれているものでも良い。この場合も、各結晶子は、複合体中にランダムに配向していても良く、あるいは、特定の結晶面が一方向に配向するように配列していても良い。また、各結晶粒内において、2種以上の相(結晶子)は、ランダムに分散していても良く、あるいは、2種以上の相が規則的又は不規則的に層状に配列していても良い。
特に、各結晶子の特定の結晶面(すなわち、熱電特性の高い結晶面)を一方向に配向させると、高い熱電特性を示す複合体が得られる。ここで、「特定の結晶面を配向させる」とは、特定の結晶面が互いに平行に配列していること(本発明においては、これを「面配向」という。)、又は、特定の結晶面が複合体を貫通する1つの軸に対して互いに平行に配列していること(本発明においては、これを「軸配向」という。)の双方を意味する。
特定の結晶面の面配向の程度(面配向度)は、次の数1の式に示すロットゲーリング(Lotgering)法による平均配向度Q(HKL)により表すことができる。
なお、数1の式において、ΣI(hkl)は、測定対象である複合体に含まれる1つの相について測定されたすべての結晶面(hkl)のX線回折強度の総和であり、ΣI0(hkl)は、測定対象と同一組成を有する無配向複合体に含まれる1つの相について測定されたすべての結晶面(hkl)のX線回折強度の総和である。また、Σ'I(HKL)は、測定対象である複合体に含まれる1つの相について測定された結晶学的に等価な特定の結晶面(HKL)のX線回折強度の総和であり、Σ'I0(HKL)は、測定対象と同一組成を有する無配向複合体に含まれる1つの相について測定された結晶学的に等価な特定の結晶面(HKL)のX線回折強度の総和である。
また、本発明において、面配向度Q(HKL)の算出には、X線源としてCu−Kα線を用いて2θ−θ測定を行った時に得られる回折ピークであって、2θ=5°〜60°の範囲にあるものを用いた。
複合体に含まれる1つの相の各結晶子が無配向である場合には、面配向度Q(HKL)は0%となる。また、複合体に含まれる1つの相のすべての結晶子の(HKL)面が、測定面に対して平行に面配向している場合には、面配向度Q(HKL)は、100%となる。
本発明に係る熱電材料において、高い性能指数を得るためには、特定の結晶面(熱電特性の高い結晶面)の面配向度は、高い程良い。具体的には、少なくとも1つの相について、特定の結晶面の面配向度は、50%以上が好ましく、さらに好ましくは、80%以上である。また、高い熱電特性を得るためには、複合体に含まれるすべての相について、特定の結晶面の面配向度が上述の条件を満たしていることが好ましい。
配向させる結晶面の種類は、複合体に含まれる酸化物熱電材料の種類に応じて最適な結晶面を選択する。例えば、複合体中にコバルト層状酸化物が含まれる場合、その{00l}面を配向させるのが好ましい。この点は、後述する軸配向の場合も同様である。
なお、軸配向の場合には、特定の結晶面の軸配向の程度(軸配向度)は、次の数2の式に示すQ'(HKL)により表すことができる。
なお、数2の式において、ΣI(hkl)、ΣI0(hkl)、Σ'I(HKL)、及びΣ'I0(HKL)の定義は、それぞれ、数1の式と同様である。また、本発明において、軸配向度Q'(HKL)の算出には、X線源としてCu−Kα線を用いて2θ−θ測定を行った時に得られる回折ピークであって、2θ=5°〜60°の範囲にあるものを用いるのが好ましい。
複合体に含まれる1つの相の各結晶子が無配向である場合には、軸配向度Q’(HKL)は0%、X線回折測定における回折面に平行な特定の結晶面(HKL)が存在しない場合には、100%となる。また、特定の結晶面(HKL)が軸配向している場合、軸配向の方向から測定された軸配向度Q’の値は、これと垂直な方向から測定されたQ'の値よりも突出した値となる。
本発明に係る熱電材料において、高い性能指数を得るためには、特定の結晶面(熱電特性の高い結晶面)の軸配向度は、高い程良い。具体的には、少なくとも1つの相について、特定の結晶面の軸配向度は、50%以上が好ましく、さらに好ましくは、80%以上、さらに好ましくは、90%以上である。また、高い熱電特性を得るためには、複合体に含まれるすべての相について、特定の結晶面の軸配向度が上述の条件を満たしていることが好ましい。
なお、数2の式に示す軸配向度Q'は、特定の結晶面(HKL)が回折面に垂直であることを直接的に示す指標ではなく、間接的に示す指標ではあるが、簡便な指標として用いることができる。また、特定の結晶面(HKL)が回折面に対して垂直であることを直接的に知る方法としては、例えば、ポールフィギュア法により結晶面(HKL)の面内分布を測定する方法がある。
次に、本発明に係る熱電材料の作用について説明する。酸化物熱電材料Aと、それとは異なる相からなる酸化物熱電材料Bとを含む複合体において、電気伝導を担う電子がABの界面(異相結晶界面)で受ける散乱は、単相多結晶界面(すなわち、AA界面又はBB界面)と同程度である。従って、複合体の電気伝導度σは、A相及びB相の中間の電気伝導度を示す。
また、ゼーベック係数Sは、バルクの性質であるため、異相結晶界面の影響は受けない。すなわち、複合体のゼーベック係数Sは、主として、三次元的に連なっている主相のゼーベック係数S’に支配される。
これに対し、熱伝導を担うフォノンは、異相結晶界面で有効に散乱される。この原因は、明らかでないが、酸化物熱電材料においては、異相結晶界面における弾性歪みによってフォノン散乱が助長されるためと考えられる。
そのため2相以上の酸化物熱電材料を複合化させることによって、電気伝導度σ及びゼーベック係数Sを大きく低下させることなく、熱伝導度κのみを大幅に低減することができる。また、これによって複合体の性能指数Zが向上する。
また、酸化物熱電材料の中でも、層状酸化物熱電材料は、熱電特性の結晶方位依存性が大きい。そのため、層状酸化物熱電材料を含む複合体において、層状酸化物熱電材料の特定の結晶面(熱電特性の高い結晶面)を一方向に配向させると、無配向の複合体に比べて、配向方向の電気伝導度σが著しく向上する。しかも、他の相との複合化によってフォノンが有効に散乱されるので、熱伝導度κを大きく低減させることができる。
特に、2相以上の層状酸化物熱電材料からなる複合体において、各相の特定の結晶面(熱電特性の高い面)を一方向に配向させると、配向によって電気伝導度σが著しく増大すると同時に、異相結晶界面におけるフォノン散乱によって熱伝導度κが大きく低下する。そのため、各相の組成を最適化すると、複合体の性能指数Zは、単相の層状酸化物熱電材料より高い値を示す。
次に、面配向又は軸配向した複合体を製造するための異方形状粉末について説明する。コバルト層状酸化物のような複雑な組成を有する酸化物熱電材料は、通常、成分元素を含む単純化合物を化学量論比になるように混合し、この混合物を成形・仮焼した後に解砕し、次いで解砕粉を再成形・焼結する方法によって製造される。しかしながら、このような方法では、各結晶子の特定の結晶面が特定の方向に配向した配向焼結体を得るのは極めて困難である。
本発明は、この問題を解決するために、特定の条件を満たす針状、板状等の異方形状粉末を成形体中に配向させ、この異方形状粉末をテンプレート又は反応性テンプレートとして用いて酸化物熱電材料の合成及びその焼結を行わせ、これによって複合体を構成する各相(結晶子)の特定の結晶面を一方向に配向させた点に特徴がある。本発明において、異方形状粉末には、以下の条件を満たすものが用いられる。
第1に、異方形状粉末には、成形時に一定の方向に配向させることが容易な形状を有しているものが用いられる。そのためには、異方形状粉末の平均アスペクト比(=異方形状粉末の最大寸法/最小寸法の平均値)は、3以上であることが望ましい。平均アスペクト比が3未満であると、成形時に異方形状粉末を一方向に配向させるのが困難となる。異方形状粉末の平均アスペクト比は、さらに好ましくは5以上である。
一般に、異方形状粉末の平均アスペクト比が大きくなるほど、異方形状粉末の配向が容易化される傾向がある。但し、平均アスペクト比が過大になると、後述する原料調製工程において異方形状粉末が破砕され、異方形状粉末が配向した成形体が得られない場合がある。従って、異方形状粉末の平均アスペクト比は、100以下が好ましく、さらに好ましくは20以下である。
また、異方形状粉末の平均粒径(=異方形状粉末の最大寸法の平均値)は、0.05μm以上20μm以下が好ましい。異方形状粉末の平均粒径が0.05μm未満であると、成形時に作用する剪断応力によって異方形状粉末を一定の方向に配向させるのが困難になる。一方、異方形状粉末の平均粒径が20μmを超えると、焼結性が低下する。異方形状粉末の平均粒径は、さらに好ましくは、0.1μm以上5μm以下である。
第2に、異方形状粉末には、その発達面(最も広い面積を占める面)が、配向させようとする酸化物熱電材料の特定の結晶面と格子整合性を有する結晶面からなるものが用いられる。所定の形状を有する異方形状粉末であっても、その発達面が酸化物熱電材料の特定の結晶面と格子整合性を有していない場合には、配向した複合体を製造するためのテンプレート又は反応性テンプレートとして機能しない場合があるので好ましくない。
格子整合性の良否は、異方形状粉末の発達面の格子寸法と酸化物熱電材料の特定の結晶面の格子寸法の差の絶対値を異方形状粉末の発達面の格子寸法で割った値(以下、この値を「格子整合率」という。)で表すことができる。この格子整合率は、格子をとる方向によって若干異なる場合がある。一般に、平均格子整合率(各方向について算出された格子整合率の平均値)が小さくなるほど、その異方形状粉末は、良好なテンプレートとして機能することを示す。高配向度の複合体を製造するためには、異方形状粉末の平均格子整合率は、20%以下が好ましく、さらに好ましくは10%以下である。
例えば、複合体中にコバルト層状酸化物の{00l}面を配向させる場合、異方形状粉末には、その発達面がコバルト層状酸化物のCoO2層と格子整合性を有しているものを用いるのが好ましい。
第3に、異方形状粉末は、必ずしも配向させようとする酸化物熱電材料と同一組成を有するものである必要はなく、後述する第2粉末と反応して、目的とする酸化物熱電材料を生成するもの(以下、これを「酸化物熱電材料の前駆体」という。)であっても良い。従って、異方形状粉末は、配向させようとする酸化物熱電材料に含まれる陽イオン元素の内のいずれか1種以上の元素を含む化合物あるいは固溶体の中から選ばれることになる。
以上のような条件を満たす異方形状粉末であれば、いずれも本発明に係る配向した複合体を製造するためのテンプレート又は反応性テンプレートとして機能する。このような条件を満たす材料には、以下のようなものがある。
例えば、複合体中にコバルト層状酸化物を配向させる場合、テンプレート又は反応性テンプレートには、配向させようとするコバルト層状酸化物と同一若しくは異なる組成を有するコバルト層状酸化物、あるいは、Co(OH)2、CoO、Co3O4、CoO(OH)等のコバルト化合物を用いるのが好ましい。これらは、いずれもCoO2層と格子整合性を有する結晶面を発達面とする板状粉末を比較的容易に合成することができる。
{00l}面を発達面とするコバルト層状酸化物の板状粉末は、当然にコバルト層状酸化物の{00l}面を配向させた複合体を製造するためのテンプレートとして機能する。このような板状粉末は、その構成元素を含む塩類を水に溶解し、この水溶液にアルカリ水溶液(例えば、NaOH、KOH、アンモニア水等)を滴下する沈殿法、その構成元素を含む酸化物をフラックスと共に加熱するフラックス法、その構成元素を含む酸化物をオートクレーブ中で加熱する水熱法等、液相が関与した合成法を用いて合成することができる。また、この時、合成条件を適宜制御すれば、板状粉末の形状制御も比較的容易に行うことができる。
Co(OH)2は、CdI2型の結晶構造を有している。Co(OH)2の{00l}面は、他の結晶面に比して表面エネルギーが小さいので、{00l}面を発達面とする板状粉末の製造は比較的容易である。また、Co(OH)2の{00l}面は、コバルト層状酸化物のCoO2層との間に極めて良好な格子整合性を有している。そのため、{00l}面を発達面とするCo(OH)2板状粉末は、コバルト層状酸化物を配向させた複合体を製造するための反応性テンプレートとして特に好適である。
{00l}面を発達面とするCo(OH)2板状粉末は、沈殿法により合成することができる。具体的には、CoCl2、Co(NO3)2等のコバルト塩を含む水溶液中に、N2バブリングしながら、アルカリ水溶液(NaOH、KOH、アンモニア水等)を滴下すればよい。これにより、水溶液中に、{00l}面が発達したCo(OH)2の板状粉末を析出させることができる。また、この時、合成条件を適宜制御すれば、板状粉末の形状制御も比較的容易に行うことができる。
また、CoOは、岩塩型の結晶構造を有し、その{111}面は、コバルト層状酸化物のCoO2層との間に極めて良好な格子整合性を有している。そのため、{111}面を発達面とするCoO板状粉末は、コバルト層状酸化物を配向させた複合体を製造するための反応性テンプレートとして好適である。
また、Co3O4は、スピネル型の結晶構造を有し、その{111}面は、コバルト層状酸化物のCoO2層との間に極めて良好な格子整合性を有している。そのため、{111}面を発達面とするCo3O4板状粉末は、コバルト層状酸化物を配向させた複合体を製造するための反応性テンプレートとして好適である。
また、CoO(OH)の{00l}面は、コバルト層状酸化物のCoO2層との間に極めて良好な格子整合性を有している。そのため、{00l}面を発達面とするCoO(OH)板状粉末は、コバルト層状酸化物を配向させた複合体を製造するための反応性テンプレートとして好適である。
所定の結晶面を発達面とするCoO板状粉末、Co3O4板状粉末及びCoO(OH)板状粉末は、Co(OH)2板状粉末を含む水溶液を酸化雰囲気中において所定時間エージングする方法、Co(OH)2板状粉末を含む水溶液中に酸素、オゾン等の酸化性ガスをバブリングする方法、沈殿法においてコバルト塩を含む水溶液から沈殿を得る際に、水溶液中に酸素、オゾン等の酸化性ガスをバブリングする方法、等を用いて合成することができる。
次に、本発明に係る熱電材料の製造方法について説明する。本発明に係る熱電材料を製造する方法には、具体的には、以下のような方法がある。
第1の方法は、無配向の複合体を製造するための方法である。第1の方法において、出発原料には、作製しようとする複合体に含まれる陽イオン元素の内、相対的に少数を含む単純化合物の粉末、及び/又は、作製しようとする複合体に含まれる単相の酸化物熱電材料の粉末を用いる。この場合、出発原料の形状は、必ずしも、板状である必要はない。また、単相の酸化物熱電材料の粉末は、通常の固相反応、又はフラックス等を用いた液相反応によって合成することができる。
このような出発原料を、目的とする複合体が得られるように配合し、これを成形及び焼結すれば、2相以上の酸化物熱電材料を含む無配向の複合体が得られる。この場合、焼結方法は、特に限定されるものではなく、常圧焼結法、加圧焼結法等、周知の方法を用いることができる。また、焼結条件は、複合体の組成、出発原料の種類等に応じて、最適なものを選択すれば良い。
第2の方法は、配向した複合体を製造するための方法である。第2の方法は、混合工程と、成形工程と、焼結工程とを備えている。
初めに、混合工程について説明する。混合工程は、上述した異方形状粉末と第2粉末とを混合する工程である。この場合、出発原料として、1種類の化合物からなる異方形状粉末を用いても良くあるいは、2種以上の化合物からなる異方形状粉末の混合物を用いても良い。
また、「第2粉末」とは、異方形状粉末と反応して目的とする酸化物熱電材料となる化合物をいう。第2粉末の組成及び配合比率は、合成しようとする複合体の組成、及び、テンプレートとして使用する異方形状粉末の組成に応じて定まる。また、第2粉末の形態については、特に限定されるものではなく、水酸化物、酸化物粉末、複合酸化物粉末、炭酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、酢酸塩などの塩、アルコキシド等を用いることができる。
例えば、熱電材料がCCOからなるコバルト層状酸化物と、Cu4層からなるコバルト層状酸化物とを含む複合体である場合において、異方形状粉末として、Co(OH)2、CoO、CoO(OH)及び/又はCo3O4からなる板状粉末を用いるときには、第2粉末として、1種若しくは2種以上のCaを含む化合物の粉末と、1種若しくは2種以上のCuを含む化合物の粉末とを用い、さらに、必要に応じて、1種若しくは2種以上の元素Aを含む化合物の粉末、並びに/又は、1種若しくは2種以上の元素Dを含む化合物の粉末を用い、これらを目的とする組成となるように配合する。
また、例えば、熱電材料がCCOからなるコバルト層状酸化物と、NCOからなるコバルト層状酸化物とを含む複合体である場合において、異方形状粉末として、Co(OH)2、CoO、CoO(OH)及び/又はCo3O4からなる板状粉末を用いるときには、第2粉末として、1種若しくは2種以上のCaを含む化合物の粉末と、1種若しくは2種以上のNaを含む化合物の粉末とを用い、さらに、必要に応じて、1種若しくは2種以上の元素Aを含む化合物の粉末、並びに/又は、1種若しくは2種以上の元素Cを含む化合物の粉末を用い、これらを目的とする組成となるように配合する。他の組成を有する熱電材料を製造する場合も同様である。
第2粉末は、焼成によって金属酸化物を形成しうるものであればよい。具体的には、所定の金属元素を含有する酸化物、水酸化物、塩、アルコキシド等、種々の化合物を用いることができる。
Caを含有する第2粉末としては、具体的には、酸化カルシウム(CaO)、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)、塩化カルシウム(CaCl2)、炭酸カルシウム(CaCO3)、硝酸カルシウム(Ca(NO3)2)、カルシウムジメトキシド(Ca(OCH3)2)、カルシウムジエトキシド(Ca(OC2H5)2)、カルシウムジイソプロポキシド(Ca(OC3H7)2)等が好適な一例として挙げられる。
また、Naのみを含有する第2粉末としては、具体的には、炭酸ナトリウム(Na2CO3)、硝酸ナトリウム(NaNO3)、ナトリウムイソプロポキシド(Na(OC3H7))等が好適な一例として挙げられる。
また、Kのみを含有する第2粉末としては、具体的には、炭酸カリウム(K2CO3)、酢酸カリウム(CH3COOK)、硝酸カリウム(KNO3)、カリウムイソプロポキシド(K(OC3H7))等が好適な一例として挙げられる。
また、Biのみを含有する第2粉末としては、具体的には、酸化ビスマス(Bi2O3)、硝酸ビスマス(Bi(NO3)3)、塩化ビスマス(BiCl3)、水酸化ビスマス(Bi(OH)3)、ビスマストリイソプロポキシド(Bi(OC3H7)3)、Bi金属単体等が好適な一例として挙げられる。
また、Cuのみを含有する第2粉末としては、具体的には、酸化銅(CuO、Cu2O)、炭酸銅(CuCO3)、塩化銅(CuCl、CuCl2)、Cu金属単体等が好適な一例として挙げられる。
さらに、これらの金属元素を含む化合物を第2粉末として用いる場合、同一の金属元素を含む1種類の化合物のみを用いても良く、あるいは、同一の金属元素を含む2種以上の化合物を組み合わせて用いても良い。
第2粉末が固体である場合又は固体状態のまま混合を行う場合、第2粉末の平均粒径は、10μm以下が好ましい。平均粒径が10μmを超えると、反応が不均一となったり、焼結性が低下するので好ましくない。第2粉末の平均粒径は、さらに好ましくは5μm以下である。一方、第2粉末の平均粒径が小さくなるほど、元素の拡散が促進されるために、均一な固溶体が生成しやすくなる傾向がある。従って、第2粉末の粒径は、作製しようとする複合体の組成に応じて、最適な粒径を選択するのが好ましい。
なお、混合工程においては、所定の比率で配合された異方形状粉末及び第2粉末に対して、さらに、これらの反応によって得られる少なくとも1相の酸化物熱電材料と同一組成を有する化合物からなる非板状の粉末(以下、これを「第3粉末」という。)を添加しても良い。原料中に第3粉末を添加すると、焼結体密度が向上するという効果がある。
この場合、第3粉末の配合比率が過大になると、必然的に原料全体に占める異方形状粉末の配合比率が小さくなり、結晶配向セラミックスの{00l}面の配向度が低下するおそれがある。従って、第3粉末の配合比率は、要求される配向度が得られるように、最適な値を選択するのが好ましい。
また、異方形状粉末及び第2粉末、並びに必要に応じて添加される第3粉末の混合は、乾式で行っても良く、あるいは、水、アルコール等の適当な分散媒を加えて湿式で行っても良い。さらに、この時、必要に応じてバインダ及び/又は可塑剤を加えても良い。
次に、成形工程について説明する。成形工程は、混合工程で得られた混合物を異方形状粉末が配向するように成形する工程である。成形方法については、異方形状粉末を面配向又は軸配向させることが可能な方法であれば良く、特に限定されるものではない。
異方形状粉末を面配向させる成形方法としては、具体的には、ドクターブレード法、プレス成形法、圧延法、押出法(テープ状)等が好適な一例として挙げられる。また、異方形状粉末を軸配向させる方法としては、具体的には、押出成形法(非テープ状)が好適な一例として挙げられる。
また、板状粉末が面配向した成形体(以下、これを「面配向成形体」という。)の厚さを増したり、配向度を上げるために、面配向成形体に対し、さらに、積層圧着、プレス、圧延などの処理(以下、これを「面配向処理」という。)を行っても良い。この場合、面配向成形体に対して、いずれか1種類の面配向処理を行っても良く、あるいは、2種以上の面配向処理を行っても良い。また、面配向成形体に対して、1種類の面配向処理を複数回繰り返して行っても良く、あるいは、2種以上の面配向処理をそれぞれ複数回繰り返し行っても良い。
次に、焼結工程について説明する。焼結工程は、成形工程で得られた成形体を加熱し、異方形状粉末と第2粉末とを反応させる工程である。異方形状粉末と第2粉末とを含む成形体を所定の温度に加熱すると、これらの反応によって2相以上の酸化物熱電材料が生成すると同時に、生成した酸化物熱電材料の焼結も進行する。
加熱温度は、反応及び焼結が効率よく進行し、かつ目的とする2相以上の酸化物熱電材料が生成するように、使用する異方形状粉末、第2粉末、作製しようとする複合体の組成等に応じて最適な温度を選択すればよい。例えば、Co(OH)2板状粉末をテンプレートとして用いて、CCOとCu4層とを含む複合体を作製する場合、加熱温度は、930℃以下が好ましい。また、加熱時間は、所定の焼結体密度及び所定の組成を有する複合体が得られるように、加熱温度に応じて最適な時間を選択すればよい。一般に、加熱温度が低くなるほど、及び/又は、加熱時間が短くなるほど、複合体が形成されやすくなる傾向がある。
さらに、加熱方法としては、室温から所定温度に徐々に昇温する方法や、あらかじめ所定温度に加熱した炉内に配向成形体を導入し、一気に加熱する方法など、作製しようとする複合体の組成、出発原料の種類等に応じて、最適な方法を選択すればよい。また、ホットプレス、ホットフォージング、HIP等の加圧焼結法を用いても良い。焼結法として、ホットプレス法を用いる場合において、加圧力を低く設定するほど、及び/又は、加圧時間を短くするほど、複合体が形成されやすくなる傾向がある。
また、焼結工程は、酸素が存在する雰囲気下(すなわち、大気中又は酸素中)で行うのが好ましい。酸素を含まない雰囲気下で成形体を加熱すると、複合体中の酸素量が減少し、熱電特性が低下する場合があるので好ましくない。特に、酸素中において成形体を加熱すると、高い熱電特性を有する複合体が得られる。
なお、バインダを含む成形体の場合、焼結工程の前に、脱脂を主目的とする熱処理を行っても良い。この場合、脱脂の温度は、特に限定されるものではなく、少なくともバインダを熱分解させるに十分な温度であれば良い。但し、出発原料として、Na等の低融点金属を含む化合物を用いる場合には、Na等の蒸発を防ぐために、500℃以下で脱脂を行うのが好ましい。また、脱脂は、酸素が存在する雰囲気下で行うのが好ましい。
また、配向成形体の脱脂を行うと、配向成形体中の異方形状粉末の配向度が低下したり、あるいは、反応が進行して配向成形体が膨張する場合がある。このような場合には、脱脂を行った後、焼結を行う前に、配向成形体に対して、さらに静水圧(CIP)処理を行うのが好ましい。脱脂後の配向成形体に対して、さらに静水圧処理を行うと、脱脂に伴う配向度の低下、あるいは、配向成形体の密度低下に起因する焼結体密度の低下を抑制できるという利点がある。
次に、第2の製造方法の作用について説明する。異方形状粉末及び第2粉末を所定の比率で混合し、これを異方形状粉末に対して剪断応力が作用するような成形方法を用いて成形すると、異方形状粉末が成形体中に配向する。このような配向成形体を所定の温度で加熱すると、異方形状粉末と第2粉末とが反応し、酸化物熱電材料が生成する。
この時、異方形状粉末の発達面と、作製しようとする酸化物熱電材料の特定の結晶面との間には格子整合性があるので、異方形状粉末の発達面が、生成した酸化物熱電材料の特定の結晶面として承継される。その結果、焼結体中には、特定の結晶面が一方向に配向した状態で、酸化物熱電材料の異方形状結晶が成長する。
また、作製しようとする複合体の主相をなす酸化物熱電材料の固溶限界を超える添加元素を原料中に添加したり、あるいは、焼結過程における元素の均一な拡散がある程度抑制されるように、出発原料の配合比率、出発原料の平均粒径、焼結条件等を最適化すると、焼結過程において、2相以上の酸化物熱電材料が生成する。特に、2相以上のコバルト層状酸化物が生成するように、製造条件を最適化すると、配向させた異方形状粉末をテンプレートとして、各相の{00l}面が高い配向度で配向した複合体が得られる。
第2の製造方法は、通常のセラミックスプロセスをそのまま用いることができるので、低コストである。また、特定の結晶面の配向度が高いだけでなく、配向度及び組成が均一な複合体が得られる。しかも、第2の製造方法により得られる複合体は、多結晶体であるので、単結晶より破壊靱性が大きく、また、粒界や空孔でフォノンが散乱されるので、単結晶より熱伝導度が低くなる。
さらに、第2の方法により得られる複合体は、2相以上の酸化物熱電材料の複合体からなるので、配向方向の電気伝導度σ及びゼーベック係数Sを大きく減少させることなく、熱伝導度κのみを大幅に低減することができる。そのため、単相の酸化物熱電材料に比べて、高い性能指数Zを示す。また、第2の製造方法により得られた複合体を熱電変換素子に用いれば、熱電変換素子の耐久性及び熱電特性を向上させることができる。
(実施例1)
(1) Co(OH)2板状粉末の合成
以下の手順に従い、Co(OH)2板状粉末を合成した。まず、濃度0.1mol/lのCoCl2水溶液、及び、濃度0.4mol/lのNaOH水溶液を調製した。次いで、600mlのCoCl2水溶液に対し、300mlのNaOH水溶液を100ml/hの速度で滴下した。これにより、溶液中には、青色の沈殿物(Co(OH)2)が生成した。
NaOH水溶液の滴下が終了した後、N2バブリングしながら溶液を撹拌し、室温で24時間熟成させることによりピンク色の結晶(Co(OH)2)が得られた。この結晶を吸引濾過し、室温でN2ガスにより24時間乾燥させた。本実施例で得られたCo(OH)2粉末は、六角形を呈する板状粉末であった。また、板状粉末の平均粒径は約0.5μmであり、平均アスペクト比は約5であった。
(2) 配向焼結体の作製
図2に示す手順に従い、CCO及びCu4層を含む複合体からなる配向焼結体を作製した。まず、ステップ1(以下、これを単に「S1」という。)において、(1)で合成したCo(OH)2板状粉末、CaCO3粉末(平均粒径0.2μm)、CuO粉末(平均粒径1.5μm)、トルエン及び無水エタノールをそれぞれ、容器に所定量計り取った。なお、本実施例においては、Ca/Co/Cuのモル比が3/3.62/0.3となるように、原料を配合した。
次に、これらの原料をボールミルに入れ、24時間湿式混合した(S2)。混合終了後、スラリーに所定量のバインダー及び可塑剤を添加し(S3)、さらにボールミルで3時間湿式混合した(S4)。
次に、スラリーをポットから取り出し、テープキャストにより厚さ約100μmのシート状に成形した(S5)。さらに、得られたシートを重ね合わせ、温度:80℃、圧力:10MPaの条件で圧着した(S6)。
次に、得られた成形体を、大気中において、温度:600℃、加熱時間:2時間の条件下で脱脂した(S7)。さらに、この成形体を、酸素中において、温度:920℃、加熱時間:2hr、圧力:10MPaの条件下で焼結(ホットプレス)した(S8)。
(実施例2)
出発原料として、実施例1の(1)で合成したCo(OH)2板状粉末、CaCO3粉末(平均粒径0.2μm)、Na2CO3粉末(平均粒径0.3μm)及びBi2O3粉末(平均粒径0.3μm)を用い、これらをCa/Co/Bi/Naのモル比が2.7/3.92/0.15/0.15となるように秤量した以外は、実施例1と同一の手順に従い、BiドープCCO及びNCOを含む複合体からなる配向焼結体を作製した。
(実施例3)
出発原料として、実施例1の(1)で合成したCo(OH)2板状粉末、CaCO3粉末(平均粒径0.2μm)、及びCuO粉末(平均粒径1.5μm)を用い、これらをCa/Co/Cuのモル比が3/3.94/0.053となるように秤量した以外は、実施例1と同一の手順に従い、CCO及びCu4層を含む複合体からなる配向焼結体を作製した。なお、後述する表1に示す各原料の仕込み量から予想される複合体中のCCO含有量は、95mol%である。
(実施例4)
出発原料として、実施例1の(1)で合成したCo(OH)2板状粉末、CaCO3粉末(平均粒径0.2μm)、及びCuO粉末(平均粒径1.5μm)を用い、これらをCa/Co/Cuのモル比が3/4.05/0.315となるように秤量した以外は、実施例1と同一の手順に従い、CCO及びCu4層を含む複合体からなる配向焼結体を作製した。なお、後述する表1に示す各原料の仕込み量から予想される複合体中のCCO含有量は、70mol%である。
(実施例5)
出発原料として、実施例1の(1)で合成したCo(OH)2板状粉末、CaCO3粉末(平均粒径0.2μm)、及びCuO粉末(平均粒径1.5μm)を用い、これらをCa/Co/Cuのモル比が3/4.14/0.525となるように秤量した以外は、実施例1と同一の手順に従い、CCO及びCu4層を含む複合体からなる配向焼結体を作製した。なお、後述する表1に示す各原料の仕込み量から予想される複合体中のCCO含有量は、50mol%である。
(実施例6)
出発原料として、実施例1の(1)で合成したCo(OH)2板状粉末、CaCO3粉末(平均粒径0.2μm)、及びCuO粉末(平均粒径1.5μm)を用い、これらをCa/Co/Cuのモル比が3/4.33/0.10となるように秤量した以外は、実施例1と同一の手順に従い、CCO及びCu4層を含む複合体からなる配向焼結体を作製した。なお、後述する表1に示す各原料の仕込み量から予想される複合体中のCCO含有量は、5mol%である。
(比較例1)
出発原料として、実施例1の(1)で合成したCo(OH)2板状粉末、及びCaCO3粉末(平均粒径0.2μm)を用い、これらをCa/Coのモル比が3/3.92となるように秤量した以外は、実施例1と同一の手順に従い、CCO単相からなる配向焼結体を作製した。
(比較例2)
出発原料として、実施例1の(1)で合成したCo(OH)2板状粉末、CaCO3粉末(平均粒径0.2μm)、及びCuO粉末(平均粒径0.3μm)を用い、これらをCa/Co/Cuのモル比が3/4.35/1.05となるように秤量した以外は、実施例1と同一の手順に従い、Cu4層単相からなる配向焼結体を作製した。
(比較例3)
出発原料として、実施例1の(1)で合成したCo(OH)2板状粉末、CaCO3粉末(平均粒径0.2μm)、及びBi2O3粉末(平均粒径0.3μm)を用い、これらをCa/Co/Biのモル比が2.85/3.92/0.15となるように秤量した以外は、実施例1と同一の手順に従い、BiドープCCO単相からなる配向焼結体を作製した。
(比較例4)
(1) Co3O4板状粉末の合成
濃度0.1mol/lのCo(NO3)2水溶液をCo源として使用し、熟成条件を大気雰囲気下、72時間とした以外は、実施例1の(1)と同一の手順に従い、Co3O4からなる板状粉末を合成した。得られたCo3O4板状粉末の平均粒径は約0.3μmであり、平均アスペクト比は約5であった。
(2) 配向焼結体の作製
出発原料として、(1)で合成したCo3O4板状粉末、及びNa2CO3粉末(平均粒径0.3μm)を用い、これらをNa/Coのモル比が0.65/1となるように秤量した以外は、実施例1と同一の手順に従い、NCO単相からなる配向焼結体を作製した。
表1に、実施例1〜6及び比較例1〜4の各原料の仕込量を示す。
次に、実施例1、2及び比較例1〜4で得られた各配向焼結体について、テープ面と平行な面に対してX線回折を行い、結晶相の同定、及びロットゲーリング法による{00l}面の平均配向度Q(00L)の算出を行った。図3〜図8に、それぞれ、比較例1〜4、及び実施例1、2で得られた配向焼結体のX線回折パターンを示す。
比較例1で得られた配向焼結体のX線回折パターンは、図3に示すように、Y.Miyazakiらによって報告された[Ca2CoO3]0.62CoO2のX線回折パターンにほぼ一致しており、得られた配向焼結体は、CCO単相であることがわかった(Y.Miyazaki et al., J. Phys.Soc. Japan, 71, 491 (2002)参照)。また、ロットゲーリング法による(00l)面の平均配向度Q(00L)は、95%以上であった。
また、比較例2で得られた配向焼結体のX線回折パターンは、図4に示すように、Y.Miyazakiらによって報告された[Ca2(Co0.65Cu0.35)2O4]0.624CoO2のX線回折パターンにほぼ一致しており、得られた配向焼結体は、Cu4層単相であることがわかった(Y.Miyazaki et al., Jpn. J. Appl. Phys., 41, L849 (2002)参照)。また、ロットゲーリング法による(00l)面の平均配向度Q(00l)は、91%であった。
また、比較例3で得られた配向焼結体のX線回折パターンは、図5に示すように、上述したY.Miyazakiらによって報告された[Ca2CoO3]0.62CoO2のX線回折パターンにほぼ一致しており、得られた配向焼結体は、BiがドープされたCCO単相であることがわかった。また、ロットゲーリング法による(00l)面の平均配向度Q(00L)は、95%以上であった。
さらに、比較例4で得られた配向焼結体のX線回折パターンは、図6に示すように、C.Fouassierらによって報告されたNa0.65CoO2のX線回折パターンにほぼ一致しており、得られた配向焼結体は、NCO単相であることがわかった(C.Fouassier et al., J. Solid State Chem., 6, 532 (1973)参照)。また、ロットゲーリング法による(00l)面の平均配向度Q(00L)は、90%であった。
これに対し、実施例1で得られた配向焼結体のX線回折パターンは、図7に示すように、上述したCCOの回折パターンとCu4層の回折パターンの双方が認められ、得られた配向焼結体は、CCOとCu4層の混合相であることがわかった。なお、CCO相のCoサイトには、合成時に添加したCuの一部がドープされている可能性もある。また、両相のロットゲーリング法による(00l)面の平均配向度Q(00L)は、いずれも95%以上であった。
さらに、実施例2で得られた配向焼結体のX線回折パターンは、図8に示すように、CCOの回折パターンとNCOの回折パターンの双方が認められ、得られた配向焼結体は、CCOとNCOの混合相であることがわかった。なお、CCOのCaサイトには、Biがドープしていると考えられる。また、CCOのCaサイトに、Naの一部がドープされている可能性もある。
また、実施例2で得られた配向焼結体に含まれるCCO相のロットゲーリング法による(00l)面の平均配向度Q(00L)は、95%以上であった。なお、NCO相については、(002)面と(004)面のみが判別可能であるため、正確な配向度は算出できなかった。しかしながら、それ以外の面からの回折が判別できないほど小さいことから、NCO相のロットゲーリング法による(00l)面の平均配向度Q(00L)は、90%以上と考えられる。
なお、実施例3〜6の配向焼結体については、特にX線回折パターンを図示しなかったが、実施例3〜6の配向焼結体もまた実施例1の配向焼結体と同様にCCOとCu4層の混合相からなっていた。また、実施例3〜6の配向焼結体に含まれるCCOおよびCu4層は、いずれもロットゲーリング法による(00l)面の平均配向度Q(00L)が、少なくとも90%以上であった。
次に、実施例1〜6及び比較例1〜4で得られた配向焼結体から、テープ面と平行な方向に沿って棒状試料を切り出した。次いで、この棒状試料を用いて、300K〜1050Kの温度範囲において、テープ面と平行な方向について、電気伝導度σ、ゼーベック係数S及び熱伝導度κを測定した。
なお、本発明において、ゼーベック係数S及び電気伝導度σは、熱電特性評価装置(オザワ科学(株)製、RZ2001)、熱伝導度κは、レーザーフラッシュ法熱定数測定装置(真空理工(株)製、TC−7000)を用いて測定した。さらに、得られた電気伝導度σ、ゼーベック係数S及び熱伝導度κを用いて、無次元性能指数ZTを算出した。図9〜図20に、その結果を示す。
さらに、実施例1〜6及び比較例1〜4で得られた配向焼結体について、アルキメデス法を用いて開気孔率を測定した。但し、比較例4、実施例2では、アルキメデス法を用いるとNaが溶出し、正確に測定できない可能性がある。このため、開気孔率は、100−(相対密度)[%]で算出した。表2に、その結果を示す。
実施例1で得られた配向焼結体の電気伝導度σは、図9に示すように、CCO単相である比較例1の配向焼結体と、Cu4層単相である比較例2の配向焼結体の中間の値であった。また、実施例1で得られた配向焼結体のゼーベック係数Sは、図10に示すように、全測定温度範囲内において、比較例2の配向焼結体より大きく、かつ、比較例1の配向焼結体とほぼ同等であった。
これに対し、実施例1で得られた配向焼結体の熱伝導度κは、図11に示すように、全測定温度範囲内において比較例1の配向焼結体より低い値を示した。また、約600K以上の温度領域では、実施例1の熱伝導度κは、比較例2より低い値を示した。その結果、実施例1で得られた配向焼結体の無次元性能指数ZTは、図12に示すように、ほぼ全測定温度範囲内において、その端成分であるCCO(比較例1)及びCu4層(比較例2)より高い値を示した。
実施例1並びに比較例1、2で得られた配向焼結体の開気孔率は、表2に示すように、ほぼ同等であった。従って、実施例1の配向焼結体の熱伝導度κが低く、かつ、これによって高い無次元性能指数ZTが得られたのは、開気孔率によるものではなく、異相結晶界面におけるフォノン散乱によるものと考えられる。
また、実施例2で得られた配向焼結体の電気伝導度σは、図13に示すように、BiドープCCO単相である比較例3の配向焼結体と、NCO単相である比較例4の配向焼結体の中間の値であった。また、実施例2で得られた配向焼結体のゼーベック係数Sは、図14に示すように、全測定温度範囲内において、比較例4の配向焼結体より大きく、かつ、比較例3の配向焼結体とほぼ同等であった。
これに対し、実施例2で得られた配向焼結体の熱伝導度κは、図15に示すように、全測定温度範囲内において、比較例3及び比較例4の配向焼結体より低い値を示した。その結果、実施例2で得られた配向焼結体の無次元性能指数ZTは、図16に示すように、ほぼ全測定温度範囲内において、その端成分であるBiドープCCO(比較例3)及びNCO(比較例4)より高い値を示した。
実施例2並びに比較例3、4で得られた配向焼結体の開気孔率は、表2に示すように、ほぼ同等であった。従って、実施例2の配向焼結体の熱伝導度κが低く、かつ、これによって高い無次元性能指数ZTが得られたのは、開気孔率によるものではなく、異相結晶界面におけるフォノン散乱によるものと考えられる。
次に、実施例3〜6の配向焼結体における主相の割合と熱電性能との関係を図17〜図20を用いて説明する。なお、図17〜図20のデータは、測定温度773Kにおける値であり、また、各図における横軸は、表1に示した実施例3〜6及び比較例1、2の各原料の仕込量から予想される複合体中のCCOの含有量(mol%)である。
比較例1の配向焼結体(CCO単体)の無次元性能指数ZTは、図20に示すように、比較例2の配向焼結体(Cu4層単体)のそれに比較して高い値を示している。従って、実施例3〜6の配向焼結体(CCOとCu4層の混合相)における主相はCCOである。
ここで、実施例3〜6の配向焼結体(CCOとCu4層の混合相)の電気伝導度σは、図17に示すように、比較例1の配向焼結体(CCO単体)のそれに比較して高い値を示した。これより実施例3〜6の配向焼結体は、CCOとCu4層との複合によって電気伝導度σが増大したことが分かる。
また、実施例3〜6の配向焼結体(CCOとCu4層の混合相)のゼーベック係数Sは、図18に示すように、CCO含有量が50mol%以上100mol%未満の範囲内では、比較例1の配向焼結体(CCO単体)のそれに比較して同程度の値を示した。
また、実施例3〜6の配向焼結体(CCOとCu4層の混合相)の熱伝導度κは、図19に示すように、CCO含有量が50mol%以上100mol%未満の範囲内で顕著に低減した。
したがって、実施例3〜6の配向焼結体(CCOとCu4層の混合相)の無次元性能指数ZT(=σS2/κ×T、Tは絶対温度)は、図20に示すように、CCO含有量が50mol%以上100mol%未満の範囲内で、比較例1の配向焼結体(CCO単体)のそれに比較して高い値を示した。
これらより、2相以上の酸化物熱電材料を含む複合体からなる熱電材料において、主相を形成する酸化物熱電材料の割合が50mol%以上100mol%未満である場合、熱電性能の向上が顕著であることが確認できた。また、表2に示すように、いずれの配向焼結体も同等の開気孔率を有するため、高い無次元性能定数ZTが得られたのは、開気孔率によるものではなく、異相結晶界面におけるフォノン散乱による熱伝導度κ低減のためと考えられる。
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
例えば、上記実施例では、ドクターブレード法によるテープキャストによって板状粉末を面配向させているが、押出成形法を用いて、板状粉末を軸配向させても良い。板状粉末をこのように軸配向させた場合であっても、無配向焼結体より高い性能指数を有する複合体が得られる。また、押出成形法を用いると、ある程度の厚さを有する焼結体を低コストで作製できるという利点がある。
また、上記実施の形態では、板状粉末としてコバルト化合物を用い、第2粉末として、Co以外の陽イオン元素を含む単純化合物を用いた例について主に説明したが、第2粉末としてさらに不定形のコバルト化合物粉末を用いても良い。この場合、目的とする複合体が得られるように、コバルト化合物の板状粉末、並びに、コバルト化合物の不定形粉末、Co以外の陽イオン元素を含む単純化合物を所定の比率で配合すれば良い。
さらに、本発明に係る複合体は、高い性能指数を示すので、熱電発電器、精密温度制御装置、恒温装置、冷暖房装置、冷蔵庫、時計用電源等に用いられる熱電発電素子を構成する熱電変換材料として特に好適であるが、本発明の用途はこれに限定されるものではなく、巨大磁気抵抗効果を利用した各種の電子素子(例えば、磁気ヘッド)にも応用することができる。