JP2004087537A - p型熱電変換材料及びその製造方法 - Google Patents

p型熱電変換材料及びその製造方法 Download PDF

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Hiroshi Itahara
板原 浩
Nagayasu Ka
夏 長泰
Jun Sugiyama
杉山 純
Toshihiko Tani
谷 俊彦
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Abstract

【課題】優れた熱電特性を示すコバルト層状酸化物からなり、かつ、高い性能指数を有するp型熱電変換材料及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明に係るp型熱電変換材料は、一般式:[(Ca1−x(Co1−yCu4+αCoO2+β(但し、Aは、アルカリ金属、アルカリ土類金属及びBiから選ばれる1種又は2種以上の元素、0≦x≦0.3、0.1≦y≦0.4、0.5≦z≦0.7、0.85≦{(4+α)z+2+β}/(4z+2)≦1.15)で表されるコバルト層状酸化物の多結晶体からなり、該多結晶体を構成する各結晶粒の{00l}面のロットゲーリング法による平均配向度が50%以上であることを特徴とする。このようなp型熱電変換材料は、Co(OH)板状粉末、CaCO及びCuO等からなる混合物を、板状粉末の発達面が配向するように成形し、所定の温度で加熱することにより得られる。
【選択図】 図3

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、p型熱電変換材料及びその製造方法に関し、さらに詳しくは、太陽熱発電器、海水温度差熱電発電器、化石燃料熱電発電器、工場排熱や自動車排熱の回生発電器等の各種の熱電発電器、光検出素子、レーザーダイオード、電界効果トランジスタ、光電子増倍管、分光光度計のセル、クロマトグラフィーのカラム等の精密温度制御装置、恒温装置、冷暖房装置、冷蔵庫、時計用電源等に用いられる熱電変換素子を構成する熱電変換材料として好適なp型熱電変換材料及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
熱電変換とは、ゼーベック効果やペルチェ効果を利用して、電気エネルギーを冷却や加熱のための熱エネルギーに、また逆に熱エネルギーを電気エネルギーに直接変換することをいう。熱電変換は、(1)エネルギー変換の際に余分な老廃物を排出しない、(2)排熱の有効利用が可能である、(3)材料が劣化するまで継続的に発電を行うことができる、(4)モータやタービンのような可動装置が不要であり、メンテナンスの必要がない、等の特徴を有していることから、エネルギーの高効率利用技術として注目されている。
【0003】
熱エネルギと電気エネルギとを相互に変換できる材料、すなわち、熱電変換材料の特性を評価する指標としては、一般に、性能指数Z(=Sσ/κ、但し、S:ゼーベック係数、σ:電気伝導度、κ:熱伝導度)、又は、性能指数Zと、その値を示す絶対温度Tの積として表される無次元性能指数ZTが用いられる。ゼーベック係数は、1Kの温度差によって生じる起電力の大きさを表す。熱電変換材料は、それぞれ固有のゼーベック係数を持っており、ゼーベック係数が正であるもの(p型)と、負であるもの(n型)に大別される。
【0004】
また、熱電変換材料は、通常、p型の熱電変換材料とn型の熱電変換材料とを接合した状態で使用される。このような接合対は、一般に、熱電変換素子と呼ばれている。熱電変換素子の性能指数は、p型熱電変換材料の性能指数Z、n型熱電変換材料の性能指数Z、並びに、p型及びn型熱電変換材料の形状に依存し、また、形状が最適化されている場合には、Z及び/又はZが大きくなるほど、熱電変換素子の性能指数が大きくなることが知られている。従って、性能指数の高い熱電変換素子を得るためには、性能指数Z、Zの高い熱電変換材料を用いることが重要である。
【0005】
このような熱電変換材料としては、例えば、Bi−Te系、Pb−Te系、Si−Ge系、酸化物セラミックス系等の種々の材料が知られている。これらの中で、Bi−Te系及びPb−Te系の化合物半導体は、それぞれ、室温近傍及び300〜500℃の中温域において、優れた熱電特性(ZT〜0.8)を示す。しかしながら、これらの化合物半導体は、高温域での使用は困難である。また、材料中には高価な稀少元素(例えば、Te、Sb、Seなど)や、毒性の強い環境負荷物質(例えば、Te、Sb、Se、Pbなど)を含むという問題がある。
【0006】
一方、Si−Ge系の化合物半導体は、1000℃付近の高温域において優れた熱電特性を示し、また、材料中に環境負荷物質を含まないという特徴がある。しかしながら、Si−Ge系の化合物半導体は、高温大気中において長時間使用するためには、材料表面を保護する必要があり、熱的耐久性が低いという問題がある。
【0007】
これに対し、酸化物セラミックス系の熱電変換材料は、材料中に稀少元素や環境負荷物質を必ずしも含まない。また、高温大気中において長時間使用しても熱電特性の劣化が少なく、熱的耐久性に優れるという特徴がある。そのため、酸化物セラミックス系の熱電変換材料は、化合物半導体に代わる材料として注目されており、熱電特性の高い新材料やその製造方法について、従来から種々の提案がなされている。
【0008】
例えば、A.C.Massetらは、コバルトを含有する層状酸化物(以下、これを「コバルト層状酸化物」という。)の一種であるCaCoの多結晶体及び単結晶を作製し、その結晶構造と熱電特性の評価を行っている(A.C.Masset et al., Phys. Rev. B, 62(1), pp.166−175, 2000参照)。同文献には、CaCoは、岩塩型の結晶構造を有するCaCoO層と、CdI型の結晶構造を有するCoO層が、所定の周期でc軸方向に積層された格子不整合層状酸化物である点が記載されている。
【0009】
また、同文献には、CaCoの比抵抗に異方性があり、{00l}面内の比抵抗は、{00l}面に垂直な方向(すなわち、c軸方向)の比抵抗より格段に小さくなる点が記載されている。さらに、CaCo単結晶の{00l}面方向のゼーベック係数は、300K近傍において約125μV/Kに達し、ゼーベック係数の温度依存性も小さい点が記載されている。
【0010】
なお、コバルト層状酸化物の「{00l}面」とは、熱電特性が高い面、すなわち、CoO層と平行な面をいう。コバルト層状酸化物は、結晶構造が明らかになっていないものが多く、また、単位格子の取り方によって結晶軸及び結晶面の定義が異なるが、本発明においては、{00l}面を上述のように定義する。
【0011】
また、例えば、特開2001−19544号公報には、BiSr2−xCaCo、Bi2−yPbSrCo、BiSr2−zLaCo等の一般式(但し、0≦x≦2、0≦y≦0.5、0<z≦0.5)で表される組成を有し、層状の結晶構造を有し、かつ1.0×10S/m以上の電気伝導度を有する複合酸化物焼結体が開示されている。また、同公報には、Bi供給源、Sr供給源、Ca供給源、Co供給源等の原料を加圧成形し、この成形体を一軸加圧しながら酸素雰囲気中で加熱することによって原料の一部を部分溶融させた後、徐冷する複合酸化物の製造方法が開示されている。
【0012】
また、特開2000−269560号公報には、フラックス法で合成した平均粒径5mm、平均厚さ20μmのNaCo結晶を金型成形した後、この成形体をホットプレスすることにより得られる複合酸化物集合体が開示されている。また、同公報には、スパッタリング法を用いて、基板上にNaCo薄膜を形成させる複合酸化物の薄膜の製造方法が開示されている。
【0013】
さらに、第49回応用物理学関係連合講演会、講演予稿集第221頁(29P−S−4)には、CaCO、Co及びCuOを所定量秤量し、固相反応させることにより得られる[Ca(Co0.67Cu0.330.624CoO複合結晶が開示されている。同文献には、この複合結晶の300Kにおけるゼーベック係数Sは150μVK−1であり、抵抗率は15mΩcmである点が記載されている。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
CaCo、BiSr2−xCaCo、[Ca(Co0.67Cu0.330.624CoO等のコバルト層状酸化物は、相対的に大きなゼーベック係数を有するp型の熱電変換材料であり、しかも、その熱電特性には、結晶方位に応じた異方性がある。従って、熱電特性の高い結晶面({00l}面)が一方向に配向した材料を用いれば、熱電特性の異方性を最大限に利用することができ、性能指数の向上が期待できる。また、これを用いた熱電変換素子の性能指数の向上も期待できる。
【0015】
しかしながら、CaCO、Co等の成分元素を含む単純化合物の混合物を仮焼し、これを成形・焼結する通常のセラミックス製造プロセスでは、熱電特性の高い結晶面が一方向に配向したコバルト層状酸化物の焼結体は得られない。そのため、この方法では、電気伝導度が低くなり、高い性能指数は得られない。
【0016】
一方、特開2001−19554号公報には、成形体を一軸加圧しながら原料の一部を部分溶融させた後、徐冷すると、冷却過程において再結晶が起こり、加圧面に平行な方向に沿って{00l}面が成長した結晶粒からなる焼結体が得られる点が記載されている。しかしながら、この方法では、再結晶によって所望の結晶が得られる物質系や組成のみに限られ、例えば、結晶化の際に分相や結晶構造の変化を生ずる系には適用できないという問題がある。
【0017】
また、特開2000−269560号公報に開示されているように、スパッタリング法によれば、基板の材質、スパッタリング条件等を最適化することによって、{00l}面が高い配向度で配向したNaCo薄膜を基板上に形成することができる。しかしながら、スパッタリング法では、薄膜しか得られず、実用に耐えうる大きな断面積を有する熱電セラミックスを作製するのは困難である。一方、フラックス法で合成した粗大な板状粉末を単にホットプレスする方法では、高い配向度を有する熱電セラミックスを作製するのは困難である。
【0018】
さらに、熱電特性の高い結晶面を配向させるために、コバルト層状酸化物を単結晶化することも考えられる。しかしながら、単結晶は、製造コストが高いという問題がある。また、一般に、小さな単結晶は得られるが、熱電変換に用いるミリメートルオーダーサイズのバルク材料の作製は困難である。
【0019】
本発明が解決しようとする課題は、優れた熱電特性を示すコバルト層状酸化物からなり、かつ、高い性能指数を有するp型熱電変換材料及びその製造方法を提供することにある。また、本発明が解決しようとする他の課題は、電気伝導度の高い{00l}面が一方向に配向しており、かつ、断面積の大きなp型熱電変換材料、及びこれを効率よく製造することが可能なp型熱電変換材料の製造方法を提供することにある。
【0020】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために本発明に係るp型熱電変換材料は、一般式:
[(Ca1−x(Co1−yCu4+αCoO2+β
(但し、Aは、アルカリ金属、アルカリ土類金属及びBiから選ばれる1種又は2種以上の元素、0≦x≦0.3、0.1≦y≦0.4、0.5≦z≦0.7、0.85≦{(4+α)z+2+β}/(4z+2)≦1.15)
で表されるコバルト層状酸化物の多結晶体からなり、該多結晶体を構成する各結晶粒の{00l}面のロットゲーリング法による平均配向度が50%以上であることを要旨とする。
【0021】
本発明に係るp型熱電変換材料は、所定の組成を有するコバルト層状酸化物の多結晶体からなり、本質的に優れた熱電特性を備えている。しかも、各結晶粒の{00l}面が高い配向度で配向しているので、{00l}面が配向している方向と平行な方向の性能指数は、同一組成を有する無配向焼結体の性能指数より高い値を示す。
【0022】
また、本発明に係るp型熱電変換材料の製造方法は、請求項1に記載のコバルト層状酸化物のCoO層と格子整合性を有する結晶面Aを備えた第1粉末を含む原料を調製する原料調製工程と、前記結晶面Aが配向するように前記原料を成形する成形工程と、該成形工程で得られた成形体を加熱し、焼結させる焼結工程とを備えていることを要旨とする。
【0023】
第1粉末を含む原料を所定の温度で加熱すると、第1粉末の結晶面Aが請求項1に記載のコバルト層状酸化物の{00l}面として承継される。そのため、結晶面Aを成形体中に配向させ、所定の温度で加熱すれば、請求項1に記載の組成を有し、かつ{00l}面の発達したコバルト層状酸化物の板状結晶が一方向に配向したp型熱電変換材料が得られる。
【0024】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施の形態について詳細に説明する。本発明の第1の実施の形態に係るp型熱電変換材料は、所定の組成を有するコバルト層状酸化物の多結晶体からなり、多結晶体を構成する各結晶粒の{00l}面のロットゲーリング法による平均配向度が50%以上であることを特徴とする。
【0025】
ここで、「コバルト層状酸化物」とは、構造は明確にされていないが、CoO層からなる第1副格子と、CoO層とは異なる層からなる第2副格子とが所定の周期で堆積した層状化合物、すなわち、CoO層を副格子とする層状化合物をいう。
【0026】
第1副格子は、1層又は2層以上のCoO層からなる。また、「CoO層」とは、正八面体の中心に1個のCo原子があり、かつ、その頂点に合計6個の酸素原子があるCoO八面体が、稜を共有する形で二次元的に連結したものをいう。
【0027】
一方、第2副格子は、CoO層とは異なる層であれば良く、その組成や構造については、特に限定されるものではない。すなわち、第2副格子は、1種類の層からなるものであっても良く、あるいは、組成や副格子構造の異なる2種以上の層が規則的又は不規則的に組み合わされたものであっても良い。但し、高い熱電特性を得るためには、第2副格子は、岩塩構造又は歪んだ岩塩構造を有するもの(本発明において、これらを「擬岩塩構造層」という。)が特に好適である。
【0028】
また、第1副格子と第2副格子は、交互に堆積していれば良く、その堆積周期は、特に限定されるものではない。すなわち、コバルト層状酸化物は、1層又は2層以上のCoO層(第1副格子)と、1層又は2層以上の他の層(第2副格子)とが、短周期もしくは長周期で規則的に堆積したものであっても良く、あるいは、これらが不規則的に堆積したものであっても良い。
【0029】
さらに、第2副格子にCoが含まれる場合、Coの一部は、他の金属元素(例えば、Cu、Sn、Mn、Ni、Fe、Zr、Cr等)に置換されていても良い。また、第1副格子に含まれるCoについても同様であり、その一部がこれらの金属元素により置換されていても良い。
【0030】
コバルト層状酸化物としては、具体的には、CaCo、BiCaCo、BiSrCo、BiBaCo等、及び、これらの層状酸化物を構成する陽イオン元素の一部が他の元素に置換された層状酸化物が好適な一例として挙げられる。これらの中でも、カルシウムを含有するコバルト層状酸化物、特に、次の化1の一般式で表されるコバルト層状酸化物は、高い熱電特性を有しているので、結晶方位を一方向に揃えることによって、高い性能指数を有する熱電変換材料となる。
【0031】
【化1】
[(Ca1−x(Co1−yCu4+αCoO2+β
(但し、Aは、アルカリ金属、アルカリ土類金属及びBiから選ばれる1種又は2種以上の元素、0≦x≦0.3、0.1≦y≦0.4、0.5≦z≦0.7、0.85≦{(4+α)z+2+β}/(4z+2)≦1.15)
【0032】
なお、化1の式において、「0.85≦{(4+α)+2+β}/(4z+2)≦1.15」は、基本組成([(Ca1−x(Co1−yCuCoO)を有するコバルト層状酸化物に含まれる酸素の化学量論量(4z+2)に対し、最大で±15atm%の範囲で酸素が過剰となったり、あるいは、酸素の欠損を生ずる場合があることを示す。この場合、増減する酸素は、第1副格子に含まれる酸素(β)又は第2副格子に含まれる酸素(α)のいずれか一方であっても良く、あるいは、双方の酸素であっても良い。
【0033】
化1の式に示すコバルト層状酸化物において、Caの一部をアルカリ金属、アルカリ土類金属及び/又はBiからなる元素Aで置換すると、層状酸化物の電気伝導度が向上するという効果がある。但し、元素AによるCaの置換量xが過大になると、大気中の水分と反応するなど化学的に不安定になるので、置換量xは30atm%以下が好ましい。
【0034】
また、化1の式において、第1副格子に対する第2副格子の比率zは、0.5以上0.7以下が好ましい。比率zがこの範囲を超えると、構造が不安定となるため、好ましくない。比率zは、さらに好ましくは、0.6以上0.7以下である。
【0035】
さらに、化1の式において、第1副格子及び/又は第2副格子に含まれるCoの一部を、さらにSn、Mn、Ni、Fe、Zr及び/又はCr(以下、これらを「元素C」という。)で置換しても良い。Coの一部をさらに元素Cで置換すると、ゼーベック係数及び/又は電気伝導度が向上するという効果がある。この場合、元素CによるCoの置換量は、第1副格子及び/又は第2副格子中のCuで占められていないCoサイトの15atm%以下が好ましい。
【0036】
また、ロットゲーリング(Lotgering)法による平均配向度Q(HKL)とは、各結晶粒の配向の程度を表す指標であり、次の数1の式で表される値をいう。
【0037】
【数1】
Figure 2004087537
【0038】
なお、数1の式において、ΣI(hkl)は、配向焼結体について測定されたすべての結晶面(hkl)のX線回折強度の総和であり、ΣI(hkl)は、配向焼結体と同一組成を有する無配向焼結体について測定されたすべての結晶面(hkl)のX線回折強度の総和である。また、Σ’I(HKL)は、配向焼結体について測定された結晶学的に等価な特定の結晶面(HKL)のX線回折強度の総和であり、Σ’I(HKL)は、配向焼結体と同一組成を有する無配向焼結体について測定された結晶学的に等価な特定の結晶面(HKL)のX線回折強度の総和である。
また、本発明において、平均配向度Q(HKL)の算出には、X線源としてCu−Kα線を用いてX線回折を行ったときに得られる回折ピークであって、2θ=5°〜60°の範囲にあるものを用いた。
【0039】
従って、多結晶体を構成する各結晶粒が無配向である場合には、平均配向度Q(HKL)は0%となる。また、多結晶体を構成するすべての結晶粒の(HKL)面が測定面に対して平行に配向している場合には、平均配向度Q(HKL)は100%となる。
【0040】
本実施の形態に係るp型熱電変換材料において、高い性能指数を得るためには、{00l}面の配向度は高いほど良い。{00l}面の配向度は、具体的には、50%以上が好ましく、さらに好ましくは、80%以上である。
【0041】
なお、化1の式で表されるコバルト層状酸化物は、CoO層と、[(Ca1−x(Co1−yCu4+α]で表される4重擬岩塩構造層とが、c軸方向に交互に堆積した構造を有する。このコバルト層状酸化物の結晶構造は、明らかにされていないが、3重擬岩塩構造層を備えたコバルト層状酸化物である[CaCoO0.62CoOの結晶構造は、Y.Miyazakiらにより報告されている(Y.Miyazaki, et al., J.Phys.Soc.Jpn., 71(2), pp.491−497, 2002)。
【0042】
化1の式で表されるコバルト層状酸化物が、Y.Miyazakiらによって報告された[CaCoO0.62CoOの3重擬岩塩構造層が単に4重擬岩塩構造層に置き換わったものと仮定すると、X線回折を行ったときに得られる回折ピークの数は同じで、対応する結晶面の回折ピークの位置がシフトするだけと考えられる。また、計算により求められるピークのシフト量は、実測値に一致している。従って、本発明においては、化1の式で表されるコバルト層状酸化物は、Y.Miyazakiらによって報告された[CaCoO0.62CoOと類似の結晶構造を有しているものとみなして、各結晶面の指数付けを行っている。
【0043】
次に、本実施の形態に係るp型熱電変換材料の作用について説明する。コバルト層状酸化物は、相対的に大きなゼーベック係数を有するp型の熱電変換材料である。また、コバルト層状酸化物は、CoO層と、他の層が所定の周期で積層された層状構造を有し、しかもこの2つの層の界面に格子不整合があることが知られている。コバルト層状酸化物の熱電特性に結晶方位に応じた異方性があるのは、層状の結晶構造を有していることに加え、CoO層と他の層の界面に存在する格子不整合によって、キャリアやフォノンの散乱状況が異なるためと考えられている。
【0044】
化1の式で表されるコバルト層状酸化物は、本質的には高い熱電特性を有している。しかしながら、無配向焼結体では、電気伝導度σが極めて低くなり、高い熱電特性は得られない。これに対し、化1の式で表されるコバルト層状酸化物の{00l}面を一方向に配向させると、配向方向の電気伝導度σが著しく増大する。そのため、配向方向の性能指数は、同一組成を有する無配向焼結体より高い値を示す。また、これを用いた熱電変換素子は、同一組成を有する無配向焼結体を用いた熱電変換素子よりも高い性能指数を示す。
【0045】
次に、本発明の第2の実施の形態に係るp型熱電変換材料について説明する。本実施の形態に係るp型熱電変換材料は、化1の式で表される組成を有するコバルト層状酸化物の多結晶体からなり、コバルト層状酸化物の{001}面について測定されたロッキングカーブの半値幅が、15度以下であることを特徴とする。
【0046】
「ロッキングカーブ」とは、単色のX線を一定方向から試料に入射させ、試料をブラッグ角の付近で回転させたときに得られる回折強度の角度変化を表す曲線をいう。多結晶体のある1つの面(測定面)に単色のX線を入射させ、特定の結晶面に対応するX線回折ピークのロッキングカーブを測定すると、測定面に対する特定の結晶面の配向度を知ることができる。一般に、ロッキングカーブの半値幅が狭くなるほど、特定の結晶面が測定面に対して高い配向度で配向していることを示す。
【0047】
また、多結晶体を構成する各結晶粒の特定の結晶面の配向の程度を表す指標であって、ロッキングカーブ半値幅以外のものとしては、例えば、前述したロットゲーリング(Lotgering)法による平均配向度Q(HKL)が知られている。ロットゲーリング法による平均配向度Q(HKL)は、中〜高配向度領域における配向度を表す指標として適している。一方、ロッキングカーブ半値幅は、ロットゲーリング法による平均配向度Q(HKL)ではほとんど区別が付かない高配向度領域における配向度を詳細に表す指標として適している。
【0048】
本実施の形態に係るp型熱電変換材料において、高い熱電特性を得るためには、配向面に対して測定されたコバルト層状酸化物の{00l}面のロッキングカーブ半値幅は、小さい程良い。{00l}面のロッキングカーブ半値幅は、具体的には、15度以下が好ましく、さらに好ましくは、12度以下である。
【0049】
また、{00l}面に対応するX線回折ピークは、通常、複数本現れる。これらの内、ロッキングカーブ半値幅の測定に用いるピークは、コバルト層状酸化物の組成、結晶構造等に応じて、最適なものを選択する。一般的には、少なくとも最大の{00l}面ピークを用いて測定されたロッキングカーブ半値幅が、上述の範囲にあればよい。また、相対的に大きな{00l}面ピークが複数本ある場合には、少なくとも高角側にある{00l}面ピークを用いて測定されたロッキングカーブ半値幅が、上述の範囲にあればよい。
【0050】
化1の式で表されるコバルト層状酸化物の場合、(004)面のX線回折ピークを用いるのが好ましい。
【0051】
次に、本実施の形態に係るp型熱電変換材料の作用について説明する。圧電定数など、ある特性について結晶方位に応じた異方性がある材料において、特定の結晶方位を配向させると、配向方向の特性が向上することは知られている。この場合、配向度が高くなるほど特性は向上するが、配向度がある一定の値を越えると、特性は飽和し、それ以上向上しないのが一般的である。
【0052】
しかしながら、コバルト層状酸化物からなる配向焼結体の場合、その熱電特性は、ロットゲーリング法による配向度ではほとんど区別が付かない高配向度領域(具体的には、ロットゲーリング法による{00l}面の平均配向度が99%以上の領域)においても飽和せず、配向度の僅かな変動が、熱電特性の大きな変動を引き起こす。これは、配向度の僅かな変動によって、配向方向の電気伝導度σが大きく変動するためと考えられる。
【0053】
本実施の形態に係るp型熱電変換材料は、高い熱電特性を示すコバルト層状酸化物の多結晶体からなり、しかも、{00l}面の配向度が極めて高くなっている。そのため、本実施の形態に係るp型熱電変換材料は、同一組成を有する無配向焼結体及び低配向度の配向焼結体より高い熱電特性を示す。また、本実施の形態に係るp型熱電変換材料を用いた熱電変換素子は、同一組成を有する無配向焼結体及び低配向度の配向焼結体を用いた熱電変換素子よりも高い性能指数を示す。
【0054】
次に、本発明に係るp型熱電変換材料製造用の板状粉末について説明する。コバルト層状酸化物のような複雑な組成を有するセラミックスは、通常、成分元素を含む単純化合物を化学量論比になるように混合し、この混合物を成形・仮焼した後に解砕し、次いで解砕粉を再成形・焼結する方法によって製造される。しかしながら、このような方法では、各結晶粒の特定の結晶面が特定の方向に配向した配向焼結体を得るのは極めて困難である。
【0055】
本発明は、この問題を解決するために、特定の条件を満たす針状、板状等の異方形状粉末を成形体中に配向させ、この異方形状粉末をテンプレート又は反応性テンプレートとして用いてコバルト層状酸化物の合成及びその焼結を行わせ、これによって多結晶体を構成する各結晶粒の{00l}面を一方向に配向させた点に特徴がある。本発明において、異方形状粉末には、以下の条件を満たすものが用いられる。
【0056】
第1に、異方形状粉末には、成形時に一定の方向に配向させることが容易な形状を有しているものが用いられる。そのためには、異方形状粉末の平均アスペクト比(=異方形状粉末の最大寸法/最小寸法の平均値)は、3以上であることが望ましい。平均アスペクト比が3未満であると、成形時に異方形状粉末を一方向に配向させるのが困難となる。異方形状粉末の平均アスペクト比は、さらに好ましくは5以上である。
【0057】
一般に、異方形状粉末の平均アスペクト比が大きくなるほど、異方形状粉末の配向が容易化される傾向がある。但し、平均アスペクト比が過大になると、後述する原料調製工程において異方形状粉末が破砕され、異方形状粉末が配向した成形体が得られない場合がある。従って、異方形状粉末の平均アスペクト比は、100以下が好ましく、さらに好ましくは20以下である。
【0058】
また、異方形状粉末の平均粒径(=異方形状粉末の最大寸法の平均値)は、0.05μm以上20μm以下が好ましい。異方形状粉末の平均粒径が0.05μm未満であると、成形時に作用する剪断応力によって異方形状粉末を一定の方向に配向させるのが困難になる。一方、異方形状粉末の平均粒径が20μmを超えると、焼結性が低下する。異方形状粉末の平均粒径は、さらに好ましくは、0.1μm以上5μm以下である。
【0059】
第2に、異方形状粉末には、その発達面(最も広い面積を占める面)がコバルト層状酸化物のCoO層と格子整合性を有する結晶面(以下、これを「結晶面A」という。)であるものが用いられる。所定の形状を有する異方形状粉末であっても、その発達面がコバルト層状酸化物のCoO層と格子整合性を有していない場合には、本発明に係るp型熱電変換材料を製造するためのテンプレートとして機能しない場合があるので好ましくない。
【0060】
格子整合性の良否は、異方形状粉末の発達面の格子寸法とコバルト層状酸化物のCoO層の格子寸法の差の絶対値を異方形状粉末の発達面の格子寸法で割った値(以下、この値を「格子整合率」という。)で表すことができる。この格子整合率は、格子をとる方向によって若干異なる場合がある。一般に、平均格子整合率(各方向について算出された格子整合率の平均値)が小さくなるほど、その異方形状粉末は、良好なテンプレートとして機能することを示す。高配向度のp型熱電変換材料を製造するためには、異方形状粉末の平均格子整合率は、20%以下が好ましく、さらに好ましくは10%以下である。
【0061】
第3に、異方形状粉末は、必ずしも化1の式に示すコバルト層状酸化物と同一組成を有するものである必要はなく、後述する第2粉末と反応して、目的とするコバルト層状酸化物を生成するもの(以下、これを「コバルト層状酸化物の前駆体」という。)であっても良い。従って、異方形状粉末は、作製しようとするコバルト層状酸化物に含まれる陽イオン元素の内のいずれか1種以上の元素を含む化合物あるいは固溶体の中から選ばれることになる。
【0062】
以上のような条件を満たす異方形状粉末であれば、いずれも本発明に係るp型熱電変換材料を製造するためのテンプレート又は反応性テンプレートとして機能する。このような条件を満たす材料としては、具体的には、作製しようとするp型熱電変換材料と同一又は異なる組成を有するコバルト層状酸化物、あるいは、Co(OH)、CoO、Co、CoO(OH)等のコバルト化合物が好適な一例として挙げられる。これらは、いずれも、結晶面Aを発達面とする板状粉末を比較的容易に合成することができる。
【0063】
{00l}面を発達面とするCaCo板状粉末、あるいは{00l}面を発達面とし、かつ化1の式で表される組成を有するコバルト層状酸化物からなる板状粉末は、当然にCoO層と格子整合性を有しているので、本発明に係るp型熱電変換材料を製造するためのテンプレートとして機能する。このような板状粉末は、その構成元素を含む酸化物をフラックスと共に加熱するフラックス法、その構成元素を含む化合物と、板状結晶を成長させる作用がある元素(例えば、Bi)を含む化合物と溶解させた溶液に多座配位子を加えてゲル化させ、ゲルを焼成する錯体法等を用いて合成することができる。
【0064】
例えば、フラックス法を用いてCaCo板状粉末を合成する場合、具体的には、CaCO、Co及びSrClを、モル比でCa:Co:Sr=3:4:8となるようにボールミルで混合し、アルミナるつぼ中において900℃で3h加熱し(昇温速度300℃/h)、室温まで炉冷(降温速度6℃/h)すればよい。この場合、板状CaCo単結晶が得られる。
【0065】
また、例えば、錯体法を用いてCaCo板状粉末を合成する場合、具体的には、CaCO、Co及びBiを、モル比でCa:Co:Bi=2.7:4:0.3となるように秤量し、これらを硝酸水溶液に溶解し、この水溶液にクエン酸を加えてゲル化させ、900℃で3h焼成すればよい。この場合、Biがドープされた板状CaCo単結晶が得られる。他の組成を有するコバルト層状酸化物からなる板状粉末も、同様の方法により合成することができる。
【0066】
Co(OH)は、CdI型の結晶構造を有している。Co(OH)の{00l}面は、他の結晶面に比して表面エネルギーが小さいので、{00l}面を発達面とする板状粉末の製造は比較的容易である。また、Co(OH)の{00l}面は、コバルト層状酸化物のCoO層との間に極めて良好な格子整合性を有している。そのため、{00l}面を発達面とするCo(OH)板状粉末は、本発明に係るp型熱電変換材料を製造するための反応性テンプレートとして特に好適である。
【0067】
{00l}面を発達面とするCo(OH)板状粉末は、沈殿法により合成することができる。具体的には、CoCl、Co(NO等のコバルト塩を含む水溶液中に、Nバブリングしながら、アルカリ水溶液(NaOH、KOH、アンモニア水等)を滴下すればよい。これにより、水溶液中に、{00l}面が発達したCo(OH)の板状粉末を析出させることができる。また、この時、合成条件を適宜制御すれば、板状粉末の形状制御も比較的容易に行うことができる。
【0068】
また、CoOは、岩塩型の結晶構造を有し、その{111}面は、コバルト層状酸化物のCoO層との間に極めて良好な格子整合性を有している。そのため、{111}面を発達面とするCoO板状粉末は、本発明に係るp型熱電変換材料を製造するための反応性テンプレートとして好適である。
【0069】
また、Coは、スピネル型の結晶構造を有し、その{111}面は、コバルト層状酸化物のCoO層との間に極めて良好な格子整合性を有している。そのため、{111}面を発達面とするCo板状粉末は、本発明に係るp型熱電変換材料を製造するための反応性テンプレートとして好適である。
【0070】
また、CoO(OH)の{00l}面は、コバルト層状酸化物のCoO層との間に極めて良好な格子整合性を有している。そのため、{00l}面を発達面とするCoO(OH)板状粉末は、本発明に係るp型熱電変換材料を製造するための反応性テンプレートとして好適である。
【0071】
所定の結晶面を発達面とするCoO板状粉末、Co板状粉末及びCoO(OH)板状粉末は、Co(OH)板状粉末を含む水溶液を酸化雰囲気中において所定時間エージングする方法、Co(OH)板状粉末を含む水溶液中に酸素、オゾン等の酸化性ガスをバブリングする方法、沈殿法においてコバルト塩を含む水溶液から沈殿を得る際に、水溶液中に酸素、オゾン等の酸化性ガスをバブリングする方法、等を用いて合成することができる。
【0072】
次に、本発明の第1の実施の形態に係るp型熱電変換材料の製造方法について説明する。本発明に係る結晶配向セラミックスの製造方法は、原料調製工程と、成形工程と、焼結工程とを備えている。
【0073】
初めに、原料調製工程について説明する。原料調製工程は、化1の式に示すコバルト層状酸化物のCoO層と格子整合性を有する「結晶面A」を備えた第1粉末を含む原料を調製する工程である。
【0074】
本実施の形態においては、第1粉末として、その発達面が結晶面Aからなる異方形状粉末が用いられる。特に、第1粉末は、その発達面が結晶面Aからなる板状粉末が好ましい。また、第1粉末は、化1の式に示すコバルト層状酸化物と同一組成を有するものであっても良く、あるいは、コバルト層状酸化物の前駆体であっても良い。さらに、第1粉末は、1種類の化合物からなるものであっても良く、あるいは、2種以上の化合物の混合物であっても良い。
【0075】
また、第1粉末がコバルト層状酸化物の前駆体である場合、第1粉末と、第2粉末とを所定の比率で混合する。「第2粉末」とは、前駆体である第1粉末と反応して化1の式に示すコバルト層状酸化物となる化合物をいう。第2粉末の組成及び配合比率は、合成しようとするp型熱電変換材料の組成、及び、反応性テンプレートとして使用する第1粉末の組成に応じて定まる。また、第2粉末の形態については、特に限定されるものではなく、水酸化物、酸化物粉末、複合酸化物粉末、炭酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、酢酸塩などの塩、アルコキシド等を用いることができる。
【0076】
例えば、第1粉末として、Co(OH)、CoO、Co及び/又はCoO(OH)からなる板状粉末を用いる場合には、第2粉末として、Ca等のアルカリ土類金属元素を含有する第2化合物、アルカリ金属元素又はBi(以下、これらを「第3元素」という。)を含有する第3化合物、及びCu又は元素C(以下、これらを「第4元素」という。)を含有する第4化合物を用いる。
【0077】
第2化合物は、焼成によってアルカリ土類金属元素の酸化物を形成し得るものであればよく、アルカリ土類金属元素を含有する酸化物、水酸化物、塩、アルコキシド等、種々の化合物を用いることができる。
【0078】
Caを含有する第2化合物としては、具体的には、酸化カルシウム(CaO)、水酸化カルシウム(Ca(OH))、塩化カルシウム(CaCl)、炭酸カルシウム(CaCO)、硝酸カルシウム(Ca(NO)、カルシウムジメトキシド(Ca(OCH)、カルシウムジエトキシド(Ca(OC)、カルシウムジイソプロポキシド(Ca(OC)等が好適な一例として挙げられる。また、第2化合物は、上述した化合物の内、いずれか1種類のみを用いても良く、あるいは、2種以上の化合物を組み合わせて用いても良い。
【0079】
第2化合物が固体である場合又は固体状態のまま混合を行う場合、第2化合物の平均粒径は、10μm以下が好ましい。平均粒径が10μmを超えると、反応が不均一となったり、焼結性が低下するので好ましくない。第2化合物の平均粒径は、さらに好ましくは5μm以下である。第2化合物の平均粒径は、成形性や取扱性が低下しない限りにおいて、小さいほど良い。
【0080】
第3化合物は、焼成によって第3元素を含む酸化物を形成し得るものであればよく、第3元素を含有する酸化物、水酸化物、塩、アルコキシド等、種々の化合物を用いることができる。
【0081】
Naのみを含有する第3化合物としては、具体的には、炭酸ナトリウム(NaCO)、硝酸ナトリウム(NaNO)、ナトリウムイソプロポキシド(Na(OC))等が好適な一例として挙げられる。
【0082】
Kのみを含有する第3化合物としては、具体的には、炭酸カリウム(KCO)、酢酸カリウム(CHCOOK)、硝酸カリウム(KNO)、カリウムイソプロポキシド(K(OC))等が好適な一例として挙げられる。
【0083】
Biのみを含有する第3化合物としては、具体的には、酸化ビスマス(Bi)、硝酸ビスマス(Bi(NO)、塩化ビスマス(BiCl)、水酸化ビスマス(Bi(OH))、ビスマストリイソプロポキシド(Bi(OC)、Bi金属単体等が好適な一例として挙げられる。
【0084】
さらに、第3化合物は、2種以上の第3元素を含む複合化合物であっても良い。また、第2粉末として、上述した第3化合物の内、1種類のみを用いても良く、あるいは、2種以上の第3化合物を組み合わせて用いても良い。
【0085】
なお、第3化合物が固体である場合又は固体状態のまま混合を行う場合、第3化合物の平均粒径は、10μm以下が好ましく、さらに好ましくは5μm以下である点は、第2化合物と同様である。
【0086】
第4化合物は、焼成によって第4元素を含む酸化物を形成し得るものであればよく、第4元素を含有する酸化物、水酸化物、塩、アルコキシド等、種々の化合物を用いることができる。Cuを含有する第4化合物としては、具体的には、酸化銅(CuO、CuO)、炭酸銅(CuCO)、塩化銅(CuCl、CuCl)、Cu金属単体等が好適な一例として挙げられる。また、第4化合物は、上述した化合物の内、いずれか1種類のみを用いても良く、あるいは、2種以上の化合物を組み合わせて用いても良い。
【0087】
なお、第4化合物が固体である場合又は固体状態のまま混合を行う場合、第4化合物の平均粒径は、10μm以下が好ましく、さらに好ましくは5μm以下である点は、第2化合物及び第3化合物と同様である。
【0088】
なお、原料調製工程においては、所定の比率で配合された第1粉末及び第2粉末に対して、さらに、作製しようとするコバルト層状酸化物と同一組成を有する微粉(以下、これを「第3粉末」という。)を添加しても良い。原料中に第3粉末を添加すると、焼結体密度が向上するという効果がある。
【0089】
この場合、第3粉末の配合比率が過大になると、必然的に原料全体に占める第1粉末の配合比率が小さくなり、{00l}面の配向度が低下するおそれがある。従って、第3粉末の配合比率は、要求される{00l}面の配向度が得られるように、最適な値を選択するのが好ましい。
【0090】
また、第1粉末に対して第2粉末及び/又は第3粉末を添加し、これらを混合する場合、その混合は、乾式で行っても良く、あるいは、水、アルコール等の適当な分散媒を加えて湿式で行っても良い。さらに、この時、必要に応じてバインダ及び/又は可塑剤を加えても良い。
【0091】
次に、成形工程について説明する。成形工程は、結晶面Aが配向するように、原料調製工程で得られた原料を成形する工程である。ここで、「結晶面Aが配向する」とは、結晶面A(すなわち、異方形状粉末の発達面)が互いに平行に配列(以下、このような状態を「面配向」という。)すること、又は、結晶面Aが成形体を貫通する1つの軸に対して平行に配列(以下、このような状態を「軸配向」という。)することをいう。高い熱電特性を得るためには、結晶面Aを面配向させるのが好ましい。
【0092】
また、結晶面Aを面配向させる場合、結晶面Aのロットゲーリング法による平均配向度が所定の値以上となるように、原料を成形するのが好ましい。高い熱電特性を示すp型熱電変換材料を得るためには、成形体中に含まれる第1粉末の結晶面Aの配向度は、高い程良い。結晶面Aのロットゲーリング法による平均配向度は、55%以上が好ましく、さらに好ましくは、70%以上、さらに好ましくは、80%以上である。
【0093】
なお、結晶面Aを軸配向させる場合には、その配向の程度は、面配向と同様の配向度(数1の式)では定義できない。しかしながら、配向軸に垂直な面に対してX線回折を行った場合の(HKL)回折に関するLotgering法による平均配向度(以下、これを「軸配向度」という。)を用いて、軸配向の程度を表すことができる。結晶面Aが軸配向している成形体の場合、軸配向度は負の値となる。また、結晶面Aがほぼ完全に軸配向している成形体の軸配向度は、結晶面Aがほぼ完全に面配向している成形体について測定された軸配向度と同程度になる。
【0094】
成形方法については、結晶面Aを配向させることが可能な方法であれば良く、特に限定されるものではない。結晶面Aを面配向させる成形方法としては、具体的には、ドクターブレード法、プレス成形法、圧延法、押出法(シート状)等が好適な一例として挙げられる。また、結晶面Aを軸配向させる方法としては、具体的には、押出成形法(非シート状)が好適な一例として挙げられる。
【0095】
第1粉末として、その発達面が結晶面Aからなる異方形状粉末を用いる場合において、結晶面Aの面配向度が高い成形体を得る方法には、具体的には、以下のような方法がある。
【0096】
第1の方法は、原料調製工程で得られた原料を直接、圧延(ロールプレス)する方法である。この場合、圧延温度、圧下率等の圧延条件を最適化することによって、結晶面Aの配向度を制御することができる。一般に、圧延温度が高くなるほど、及び/又は、圧下率が大きくなるほど、結晶面Aの配向度を高くすることができる。なお、圧下率とは、次式により定義される値をいう。
圧下率={(圧延前のシートの厚み−圧延後のシートの厚み)/圧延前のシートの厚み}×100(%)
【0097】
第2の方法は、ドクターブレード(テープキャスト)法、押出法、プレス成形等、第1粉末に強い剪断力が作用する方法を用いて成形体を作製し、次いで得られた成形体を圧延(ロールプレス)する方法である。特に、ドクターブレード法又は押出法を用いてシート状に成形し、これを直接、又は所定枚数積層圧着した後、圧延する方法が好適である。ドクターブレード法又は押出法は、第1粉末に相対的に強い剪断力が作用するので、シート面に対して結晶面Aが平行に配向したシートを得ることができる。このシートをさらに圧延すると、結晶面Aの配向度をさらに高めることができる。
【0098】
この場合も、圧延温度、圧下率等の圧延条件を最適化することによって、結晶面Aの配向度を制御することができる。例えば、ドクターブレード法を用いて得られるシートの積層体を圧延する場合、圧下率は、10%以上が好ましく、さらに好ましくは、30%以上である。また、50%を超える圧下率で圧延すると成形体が薄くなるので、このような場合には、厚さの低下を見込んで予め厚い成形体を用意するか、あるいは、積層圧着−圧延を所定回数繰り返すのが好ましい。
【099】
圧延は、室温で行っても良く、あるいは、バインダの分解、変質等が生じない温度以下の温間で行っても良い。この際、圧延ロールを加熱しても良いし、あらかじめ成形体を加熱しても良いし、その両方でも良い。室温で圧延を行う場合であっても、結晶面Aの配向度を高めることができるが、温間で圧延を行うと、バインダが軟化するために、結晶面Aの配向が容易化する。一般に、圧下率が同一である場合、圧延温度が高くなるほど、シート又はその積層体にクラックが生じにくくなる。温間で圧延する場合、最適な圧延温度は、バインダの種類によって異なるが、通常は、40℃以上が好ましく、さらに好ましくは、60℃以上である。
【0100】
次に、焼結工程について説明する。焼結工程は、成形工程で得られた成形体を加熱し、焼結させる工程である。第1粉末、並びに、必要に応じて添加された第2粉末及び/又は第3粉末を含む成形体を所定の温度に加熱すると、これらの反応によってコバルト層状酸化物が成長及び/又は生成すると同時に、コバルト層状酸化物の焼結も進行する。
【0101】
コバルト層状酸化物の場合、焼結は、通常、800℃以上1200℃以下で行われる。最適な加熱温度は、反応及び焼結が効率よく進行し、かつ異相が生成しないように、使用する第1粉末、第2粉末、第3粉末、作製しようとするp型熱電変換材料の組成等に応じて選択する。例えば、Co(OH)板状粉末、CaCO及びCuOから、化1の式に示すコバルト層状酸化物を作製する場合、加熱温度は、異相が生じない850〜920℃が好ましい。また、加熱時間は、所定の焼結体密度が得られるように、加熱温度に応じて最適な値を選択すればよい。
【0102】
加熱方法としては、室温から所定温度に徐々に昇温する方法や、あらかじめ所定温度に加熱した炉内に配向成形体を導入し、一気に加熱する方法などがあり、作製しようとするp型熱電変換材料の組成などに応じて、最適な方法を選択すればよい。また、焼結は、常圧で行っても良く、あるいは、ホットプレス、ホットフォージング、HIP等、加圧下で行っても良い。
【0103】
また、焼結工程は、酸素が存在する雰囲気下(すなわち、大気中又は酸素中)で行うのが好ましい。酸素を含まない雰囲気下で成形体を加熱すると、コバルト層状酸化物に含まれる酸素量が減少し、熱電特性が低下する場合があるので好ましくない。特に、酸素中において成形体を加熱すると、高い熱電特性を有するp型熱電変換材料が得られる。
【0104】
なお、バインダを含む成形体の場合、焼結工程の前に、脱脂を主目的とする熱処理を行っても良い。この場合、脱脂の温度は、特に限定されるものではなく、少なくともバインダを熱分解させるに十分な温度であれば良い。但し、出発原料として、Na等の低融点金属を含む化合物を用いる場合には、Na等の蒸発を防ぐために、500℃以下で脱脂を行うのが好ましい。また、脱脂は、酸素が存在する雰囲気下で行うのが好ましい。
【0105】
また、配向成形体の脱脂を行うと、配向成形体中の結晶面Aの配向度が低下したり、あるいは、反応が進行して配向成形体が膨張する場合がある。このような場合には、脱脂を行った後、焼結を行う前に、配向成形体に対して、さらに静水圧(CIP)処理を行うのが好ましい。脱脂後の配向成形体に対して、さらに静水圧処理を行うと、脱脂に伴う配向度の低下、あるいは、配向成形体の密度低下に起因する焼結体密度の低下を抑制できるという利点がある。
【0106】
次に、本実施の形態に係るp型熱電変換材料の製造方法の作用について説明する。第1粉末、並びに、必要に応じて添加された第2粉末及び/又は第3粉末を含む原料を調製し、これを第1粉末に対して剪断応力が作用するような成形方法を用いて成形すると、結晶面Aが成形体中に配向する。このような配向成形体を所定の温度で加熱すると、第1粉末、第2粉末及び第3粉末が反応し、コバルト層状酸化物が成長及び/又は生成する。
【0107】
この時、結晶面Aとコバルト層状酸化物のCoO層との間には格子整合性があるので、結晶面Aが、コバルト層状酸化物の{00l}面として承継される。その結果、焼結体中には、{00l}面が一方向に配向した状態で、コバルト層状酸化物の板状結晶が成長し、各結晶粒の{00l}面が高い配向度で配向したp型熱電変換材料が得られる。
【0108】
また、このような工程を経て得られた焼結体中のコバルト層状酸化物の{00l}面の配向度(特に、高配向度領域における{00l}面の配向度)は、成形体に含まれる第1粉末の結晶面Aの配向度に強く依存する。そのため、異方形状を有する第1粉末に強い剪断力を作用させることによって、結晶面Aの配向度が所定の値以上である成形体を作製し、これを焼結すれば、各結晶粒の{00l}面が極めて高い配向度で配向したp型熱電変換材料が得られる。
【0109】
本実施の形態に係る製造方法は、通常のセラミックスプロセスをそのまま用いることができるので、低コストである。また、{00l}面の配向度が高いだけでなく、配向度及び組成が均一であり、しかも断面積の大きなp型熱電変換材料が得られる。また、この方法により得られるp型熱電変換材料は、多結晶体であるので、単結晶より破壊靱性が大きく、また、粒界や空孔でフォノンが散乱されるので、単結晶より熱伝導率が低くなる。さらに、この方法により得られるp型熱電変換材料は、電気伝導度の高い{00l}面が高い配向度で配向しているため、同一組成を有する無配向焼結体より高い性能指数を示す。そのため、これを熱電変換材料として用いれば、耐久性及び熱電特性に優れた熱電変換素子を作製することができる。
【0110】
次に、本発明の第2の実施の形態に係るp型熱電変換材料の製造方法について説明する。本実施の形態に係る製造方法は、成形方法として、第1粉末が含まれる原料を大きな磁場中で成形する磁場中成形法を用いた点を特徴とする。
【0111】
この場合、第1粉末は、作製しようとするp型熱電変換材料と同一組成を有するコバルト層状酸化物であってもよく、あるいは、コバルト層状酸化物の前駆体であっても良い。
【0112】
また、第1粉末は、コバルト層状酸化物のCoO層と格子整合性を有する結晶面Aを有していれば良い。また、結晶面Aの配向を容易化するためには、第1粉末は、発達面が結晶面Aである異方形状粉末が好ましい。特に、上述したコバルト層状酸化物又はCo(OH)等のコバルト化合物からなる板状粉末が、第1粉末として好適である。なお、その他の点については、第1の実施の形態に係る製造方法と同一であるので、説明を省略する。
【0113】
第1粉末を含む原料に対して強力な磁場を作用させながら成形する場合において、磁場の組み合わせを最適化すると、結晶面Aの配向度が所定の値以上である配向成形体が得られる。このような成形体を所定温度に加熱すると、配向した結晶面Aに対して平行にコバルト層状酸化物の板状結晶が成長及び/又は生成する。その結果、{00l}面が極めて高い配向度で配向したp型熱電変換材料が得られる。
【0114】
本実施の形態に係る製造方法によれば、{00l}面の配向度が極めて高く、配向度及び組成が均一であり、しかも相対的に断面積の大きなp型熱電変換材料が低コストで得られる。また、これを熱電変換材料として用いれば、耐久性及び熱電特性に優れた熱電変換素子を作製することができる。
【0115】
【実施例】
(実施例1)
以下の手順に従い、Co(OH)板状粉末を合成した。まず、濃度0.1mol/lのCoCl水溶液、及び、濃度0.4mol/lのNaOH水溶液を調製した。次いで、600mlのCoCl水溶液に対し、300mlのNaOH水溶液を100ml/hの速度で滴下した。これにより、溶液中には、青色の沈殿物(Co(OH))が生成した。
【0116】
NaOH水溶液の滴下が終了した後、Nバブリングしながら溶液を撹拌し、室温で24時間熟成させることによりピンク色の結晶(Co(OH))が得られた。この結晶を吸引濾過し、室温でNガスにより24時間乾燥させた。本実施例で得られたCo(OH)粉末は、六角形を呈する板状粉末であった。また、板状粉末の平均粒径は0.5μmであり、平均アスペクト比は約5であった。
【0117】
(実施例2)
図1に示す手順に従い、[Ca(Co0.64Cu0.360.624CoO組成を有し、かつ{00l}面が配向したp型熱電変換材料を作製した。まず、ステップ1(以下、これを単に「S1」という。)において、実施例1で合成したCo(OH)板状粉末、CaCO粉末(平均粒径0.2μm)、及びCuO(平均粒径0.3μm)を、Ca:Co:Cu=3:4.32:1.08となるように秤量し、さらにトルエン及び無水エタノールをそれぞれ容器に所定量計り取った。次いで、これらの原料をボールミルに入れ、24時間湿式混合した(S2)。混合終了後、スラリーに所定量のバインダー及び可塑剤を添加し(S3)、さらにボールミルで3時間湿式混合した(S4)。表1に、各原料の仕込量を示す。
【0118】
【表1】
Figure 2004087537
【0119】
次に、スラリーをポットから取り出し、テープキャストにより厚み約100μmのシート状に成形した(S5)。さらに、得られたシートを重ね合わせ、温度:80℃、圧力:100kg/cm(9.8MPa)の条件で圧着した(S6)。さらに、この積層体に対して、圧延処理を行った(S7)。本実施例において、圧延温度は80℃とし、圧下率は20%とした。
【0120】
次に、得られた成形体を、大気中において、温度:600℃、加熱時間:2時間の条件下で脱脂した(S8)。さらに、この成形体を、酸素雰囲気中において、圧力:100kg/cm(9.8MPa)、温度:920℃、加熱時間:24hrの条件下でホットプレスした(S9)。
【0121】
(比較例1)
図2に示す手順に従い、[Ca(Co0.64Cu0.360.62 CoO組成を有する無配向のp型熱電変換材料を作製した。まず、S21において、微粒状のCo(平均粒径1.0μm)、CaCO(平均粒径0.2μm)及びCuO(平均粒径0.3μm)を、Ca:Co:Cu=3:4.32:1.08となるように容器に計り取った。次いで、これらの原料をエタノールに分散し、ボールミルにより24時間混合した(S22)。混合終了後、スラリーを取り出し、エタノールを除去し、得られた粉末を粉砕した(S23)。表2に、各原料の仕込量を示す。
【0122】
【表2】
Figure 2004087537
【0123】
次に、粉砕した粉末をペレット化し、大気中において、温度:920℃、加熱時間:20時間の条件下で焼成した(S24)。次いで、焼成粉を粉砕し、再ペレット化し、大気中において、温度:920℃、加熱時間:20時間の条件下で再焼成した(S25)。さらに、得られた焼成粉を再度粉砕し、再ペレット化し、酸素雰囲気中において、圧力:100kg/cm(9.8MPa)、温度:920℃、加熱時間:24時間の条件下でホットプレスした(S26)。
【0124】
実施例2及び比較例1で得られた焼結体について、シート面又は成形面と平行な面に対してX線回折を行った。図3に、X線回折パターンを示す。なお、[Ca(Co0.64Cu0.360.624CoOの結晶構造の詳細は明らかではないが、図3においては、上述したY.Miyazakiらにより報告された[CaCoO0.62CoO(Y.Miyazaki, et al., J.Phys.Soc.Jpn., 71(2), pp.491−497, 2002)と類似の構造を有しているものとみなして、面指数を表示した。図3より、実施例2で得られた焼結体は、比較例1に比して、{00l}面が高い配向度で配向していることがわかる。
【0125】
図3中に「●」で示したピークは、Y.Miyazakiらにより報告された構造から推定した最強線ピーク(完全にランダムである場合に最強となるピーク)である。{00l}面の中でも最も高いピークと最強線のピークとの強度比は、実施例2では、約20であった。Y.Miyazakiらにより報告された[CaCoO0.62CoOの場合、この比が約20であると、ロットゲーリング法による平均配向度は、約90%となる。
【0126】
従って、実施例2で得られた焼結体のロットゲーリング法による{00l}面の平均配向度は、約90%と推定される。一方、比較例1で得られた焼結体のロットゲーリング法による{00l}面の平均配向度は、約30%と推定される。
【0127】
また、実施例2で得られた焼結体の(004)面について測定されたロッキングカーブの半値幅(RC半値幅)は、11.5°であった。なお、(004)面のRC半値幅の測定は、X線源にCu−Kαを用い、DS(発散スリット)1/2°、SS(散乱スリット)1/2°、RS(受光スリット)0.15mmの条件下で行った。また、RC半値幅は、RC半値幅の測定値から装置固有の半値幅を差し引いた値を用いた。
【0128】
次に、実施例2及び比較例1で得られた焼結体から、シート面又は成形面と平行な方向に沿って棒状試料を切り出した。次いで、この棒状試料を用いて、200℃〜800℃の温度範囲において、シート面又は成形面と平行な方向について、電気伝導度σ及びゼーベック係数Sを測定した。さらに、得られた電気伝導度σ及びゼーベック係数Sを用いて、出力因子Sσを算出した。図4、図5及び図6に、それぞれ、電気伝導度σ、ゼーベック係数S及び出力因子Sσを示す。
【0129】
図5に示すように、実施例2で得られた配向焼結体のゼーベック係数Sは、比較例1の無配向焼結体より若干低下した。しかしながら、図4に示すように、実施例2で得られた配向焼結体の電気伝導度σは、全温度域において、比較例1の無配向焼結体の約10倍以上の値を示した。これは、電気伝導度σの高い{00l}面を一方向に配向させることによって、シート面と平行な方向の電気伝導度σが向上しためである。そのため、実施例2で得られた配向焼結体の出力因子Sσは、図6に示すように、比較例1の約10倍以上に向上した。
【0130】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【0131】
例えば、上記実施例において、焼結方法として、ホットプレス法が用いられているが、これに代えて、常圧焼結法、常圧焼結+HIP処理等、他の焼結法を用いても良い。また、上記実施例において、成形体中の結晶面Aの配向度を所定の値以上とするためにドクターブレード法と圧延法が用いられているが、結晶面Aの配向度を高めることができる限り、他の成形方法を用いても良い。
【0132】
また、例えば、上記実施例では、ドクターブレード法によるテープキャストによって板状粉末を面配向させているが、押出成形法を用いて、板状粉末を軸配向させても良い。板状粉末をこのように軸配向させた場合であっても、無配向焼結体より高い性能指数を有するp型熱電変換材料が得られる。また、押出成形法を用いると、ある程度の厚さを有する焼結体を低コストで作製できるという利点がある。
【0133】
また、コバルト層状酸化物の前駆体からなる第1粉末に対して第2粉末を添加し、コバルト層状酸化物を生成させる場合において、第2粉末として、第1粉末と同一組成を有する前駆体からなる微粒状粉末を用いても良い。この場合、目的とするp型熱電変換材料が得られるように、他の粉末の組成及び配合比率に応じて、微粒状粉末を所定の比率で配合すれば良い。
【0134】
また、第1粉末として、化1の式に示すコバルト層状酸化物からなる異方形状粉末を用いる場合には、第1粉末のみを単独で用いても良い。あるいは、第1粉末に対して、さらに、作製しようとするコバルト層状酸化物を生成可能な組成比を有する第2粉末、及び/又は、作製しようとするコバルト層状酸化物と同一組成を有する微粒状の第3粉末を所定の比率で配合しても良い。
【0135】
さらに、本発明に係るp型熱電変換材料は、高い性能指数を示すので、熱電発電器、精密温度制御装置、恒温装置、冷暖房装置、冷蔵庫、時計用電源等に用いられる熱電発電素子を構成する熱電変換材料として特に好適であるが、本発明の用途はこれに限定されるものではなく、巨大磁気抵抗効果を利用した各種の電子素子(例えば、磁気ヘッド)にも応用することができる。
【0136】
【発明の効果】
本発明に係るp型熱電変換材料は、所定の組成を有し、かつ優れた熱電特性を示すコバルト層状酸化物の多結晶体からなり、しかも各結晶粒の{00l}面が一方向に配向しているので、配向方向の性能指数は、同一組成を有する無配向焼結体より高い値を示すという効果がある。
【0137】
また、本発明に係るp型熱電変換材料の製造方法は、コバルト層状酸化物のCoO層と格子整合性を有する結晶面Aを備えた第1粉末を、結晶面Aが配向するように成形し、これを焼成しているので、{00l}面が高い配向度で配向した配向焼結体を低コストで製造できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例2に係る配向焼結体の製造方法を示す工程図である。
【図2】比較例1に係る無配向焼結体の製造方法を示す工程図である。
【図3】実施例2で得られた配向焼結体及び比較例1で得られた無配向焼結体のX線回折パターンである。
【図4】実施例2で得られた配向焼結体及び比較例1で得られた無配向焼結体の温度と電気伝導度との関係を示す図である。
【図5】実施例2で得られた配向焼結体及び比較例1で得られた無配向焼結体の温度とゼーベック係数との関係を示す図である。
【図6】実施例2で得られた配向焼結体及び比較例1で得られた無配向焼結体の温度と出力因子との関係を示す図である。

Claims (6)

  1. 一般式:
    [(Ca1−x(Co1−yCu4+αCoO2+β
    (但し、Aは、アルカリ金属、アルカリ土類金属及びBiから選ばれる1種又は2種以上の元素、0≦x≦0.3、0.1≦y≦0.4、0.5≦z≦0.7、0.85≦{(4+α)z+2+β}/(4z+2)≦1.15)
    で表されるコバルト層状酸化物の多結晶体からなり、
    該多結晶体を構成する各結晶粒の{00l}面のロットゲーリング法による平均配向度が50%以上であるp型熱電変換材料。
  2. 前記コバルト層状酸化物に含まれるCoの0〜15atm%が、さらにSn、Mn、Ni、Fe、Zr及びCrから選ばれる少なくとも1種の元素で置換されている請求項1に記載のp型熱電変換材料。
  3. 前記コバルト層状酸化物の{00l}面について測定されたロッキングカーブの半値幅は、15度以下である請求項1又は2に記載のp型熱電変換材料。
  4. 請求項1に記載のコバルト層状酸化物のCoO層と格子整合性を有する結晶面Aを備えた第1粉末を含む原料を調製する原料調製工程と、
    前記結晶面Aが配向するように前記原料を成形する成形工程と、
    該成形工程で得られた成形体を加熱し、焼結させる焼結工程とを備えたp型熱電変換材料の製造方法。
  5. 前記第1粉末は、{00l}面を発達面とするCo(OH)板状粉末、{111}面を発達面とするCo板状粉末、{00l}面を発達面とするCoO(OH)板状粉末、{00l}面を発達面とするCaCo板状粉末、及び{00l}面を発達面とし、かつ請求項1に記載のコバルト層状酸化物からなる板状粉末から選ばれる少なくとも1つである請求項4に記載のp型熱電変換材料の製造方法。
  6. 前記成形工程は、前記原料をテープキャストによりシートとするテープキャスト工程と、前記シート又はその積層体を圧延する圧延工程とを備えている請求項4又は5に記載のp型熱電変換材料の製造方法。
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