JP4565607B2 - 蒸留酒の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、バニリンを多く含み、香味良好な蒸留酒の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
【特許文献1】
特開平9−238673号公報
【特許文献2】
特開平10−276788号公報
【特許文献3】
特開2000−125840公報
【特許文献4】
特開平7−115957号公報
【特許文献5】
特開昭59−166077号公報
従来より長期貯蔵したウィスキーなどの蒸留酒には、バニリンが含まれていることが知られている。バニリンは、甘い芳香をもち、その蒸留酒の熟成感、丸さ、重厚感に寄与している。ウィスキーについては、蒸留液を樽で長期間熟成させることによって、樽からバニリンの前駆成分が溶出し、徐々にバニリンに変換されることが知られている。一方、焼酎の一種である泡盛や大麦焼酎については、穀類などの原料に由来するバニリンの生成機構が明らかにされている。泡盛は、通常、原料として米麹と水のみを用いて仕込み、十分発酵させた後、ステンレス製の単式蒸留機を用いて蒸留し、カメで貯蔵して十分熟成させる方法によって製造されている。泡盛中のバニリンの生成機構は、まず原料の細胞壁を構成するアラビノキシランの側鎖に結合しているフェルラ酸が遊離し,続いて脱炭酸をうけて4−ビニルグアヤコール(4―Vinylguaiacol、以下、4−VGと略記する)となる。4−VGは、蒸留工程で蒸留液に移行し、その後の数年間にも及ぶカメ貯蔵中に、徐々に酸化され、バニリンに変化する。
【0003】
バニリンの前駆物質である4−VGを増強する手段として、フェルラ酸脱炭酸活性を有する酵素、酵母を使用する方法が、特開平9−238673号公報、特開平10−276788号公報、特開2000−125840公報に開示されている。しかし、これらの公報には、醪中に4−VGを得た結果が示されているものの、具体的なバニリンの値についての記載はない。更に、蒸留工程以降の4−VGからバニリンへの変換方法についての記載もなく、したがって最終的な蒸留酒製品中のバニリン量についても明らかにされていない。
【0004】
また、4−VG及びバニリンを増強する方法として、醪熟成中にヒドロキシシンナミックアシッドエステラーゼを使用する方法が、特開平7−115957号公報に開示されている。該公報には、蒸留前の醪に4−VGやバニリンが増強されていることが示されているが、蒸留後の蒸留液中のバニリン量については不明である。更に、4−VGからバニリンへ変化させるための有効な方法についての記載もない。また、4−VGは、変換されずに多く残存した場合、特有の薬品臭を感じ、官能的に好ましくない。
【0005】
一方、銅又は銅を含む物質からなる香味改善剤を内装している焼酎蒸留機として、特開昭59−166077号公報が開示されている。該公報には、細線状の銅からなる香味改善剤を充填した筒体を内装した蒸留機を用いて蒸留することにより香味が改善された焼酎が得られると記載されているが、蒸留前の醪のpHについての記載はなく、具体的にバニリンを増加させる方法についての記載もない。
【0006】
以上より、蒸留後の液において、樽貯蔵やカメ貯蔵のような特別な熟成方法を必要とせず、短期間で4−VGを効果的にバニリンに変換し、甘い芳香や熟成感がある香味良好な蒸留酒を製造する方法の開発が求められていた。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記従来技術にかんがみ、バニリンを多く含み、香味良好な蒸留酒の製造方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明を概説すれば、本発明は、蒸留酒の蒸留工程において、泡盛を除く焼酎、スピリッツ、ウイスキーのうちの一つから選択される蒸留酒の製造方法であって、4−ビニルグアヤコールを含有する蒸留直前の醪に酸類を添加してpHを3.8以下に調整し、次いで醪から発生する蒸気を、銅及び/又は銅を含む化合物の存在下で蒸留することを特徴とする、バニリン含量が増強された蒸留酒の製造方法に関する。また、泡盛を除く焼酎、スピリッツ、ウイスキーのうちの一つから選択される蒸留酒の製造方法であって、蒸留後の4−ビニルグアヤコールを含有する蒸留液(これは、従来の蒸留液でも、上記した本発明による蒸留液でもよい)に、銅及び/又は銅を含む化合物を必要に応じて共存させて、カルシウム化合物、カリウム化合物、マグネシウム化合物、及びナトリウム化合物よりなる群から選択される少なくとも1種の金属を含む化合物の存在下でカメ以外の蒸留液を貯蔵する容器で貯蔵することを特徴とするバニリン含量が増強された蒸留酒の製造方法に関する。
【0009】
本発明者らは、バニリンを多く含み香味良好な蒸留酒を提供すべく、鋭意検討した。その結果、前記した各発明に従って得られた蒸留酒がバニリンを多く含み、更に芳香に富み、香味良好であることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を具体的に説明する。本発明でいう蒸留酒とは、穀類などの原料をアルコール発酵させた醪を蒸留して得られる、泡盛を除く焼酎、スピリッツ、ウイスキーをいう。
【0011】
次に本発明の蒸留酒の製造方法を具体的に説明する。蒸留前の醪の製造方法については、通常の発酵法で製造すればよく、特に限定はされない。例えば、麦、米、トウモロコシ、イモなどのデンプン質原料を用いる場合、これらの原料を蒸煮又は蒸きょう処理し、麹及び/又は酵素剤で液化、糖化した後、酵母又は酒母を添加して発酵させて製造することができる。上述の蒸留前の醪の製造において、該醪を糖化後又は発酵後にろ過することは任意であるが、本発明においては、良好な香気成分を多く生産させるために、糖化後及び/又は発酵後にろ過することが好ましい。得られた発酵醪のpHは、通常4〜5の範囲であるが、本発明では、この蒸留直前の醪に酸類を添加して醪のpHを3.8以下に調整する。添加する酸類としては、特に限定はないが、酒税法上認められているものとして、乳酸、リン酸、リンゴ酸、酒石酸などがある。醪のpHが3.8を超える場合、次の蒸留以降の工程でのバニリンの生成が少なくなり、芳香に富んだ蒸留酒が得られない。本発明における蒸留直前の醪のpHのより好ましい範囲は3.0〜3.8である。醪のpHが3.0未満の場合、得られた蒸留酒でバニリンが生成されるものの、不快な香味も多くなり官能的に好ましくない。また、銅製の蒸留機を用いる場合において、醪のpHが3.0〜3.8の範囲であれば銅の溶出はあるものの、蒸留機の構造そのものに影響を及ぼすことはないが、醪のpHが3.0未満になれば、銅の溶出が激しくなり、蒸留缶本体やコンデンサー、又は蒸留缶本体とコンデンサーを連結するスワンネックなどの腐食の進行も早く現実的でない。
【0012】
本発明の蒸留操作に用いる蒸留機の種類には、特に限定はないが、乙類焼酎などを製造する場合は、通常単式蒸留機が用いられる。単式蒸留機とは、蒸留缶、スワンネック(連結管)、コンデンサー(凝縮器)などを具備し、水蒸気などの熱源で加熱し、回分式蒸留操作で醪のアルコール分を回収できるようにした装置である。加熱方式は、数本の水蒸気パイプを一定方向に向けて蒸留缶内に設置し、その先端から水蒸気を吹き出すような直接吹き込み方式、蒸留缶内に蛇管を設置したり、蒸留缶壁にジャケットを設置したりして、それらに水蒸気を通して加熱する間接加熱方式、又は直接間接併用方式などがあるが、これらのどの方法を用いてもよい。また、圧力の違いにより、大気圧下で蒸留する常圧蒸留や、別に真空ポンプを設置して缶内の圧力を大気圧より低い状態にして蒸留する減圧蒸留などがあるが、これらの方法に特に限定はない。
【0013】
本発明でいう醪から発生する蒸気を、銅及び/又は銅を含む化合物の存在下で蒸留する方法とは、醪を加熱することにより発生したエタノールを含んだ蒸気を、上述の蒸留機におけるコンデンサーで凝縮、冷却されるまでの間に、銅及び/又は銅を含む化合物でできた部分を通過させながら、蒸留する方法のことである。また、本発明でいう銅を含む化合物には、例えば酸化銅、また、塩類、例えば硫酸銅、塩化銅などがあるが、特に限定はされない。好ましくは酸化銅(I)、酸化銅(II)などの酸化銅が用いられる。本発明に用いる蒸留機は、すべてが銅及び/又は銅を含む化合物でできたものであってもよいし、又は蒸留機の少なくとも一部が銅及び/又は銅を含む化合物でできたものであってもよい。例えば、蒸気が通過する蒸留缶上部、スワンネック、コンデンサーなどの一部が銅製であってもよく、又は蒸留缶、スワンネック、コンデンサーなどの内部に、銅や酸化銅などの物質で表面加工した邪魔板、多孔板、金網、管などを設置したものでもよい。特に、発生した蒸気が凝縮する部分が銅及び/又は銅を含む化合物であることがよく、例えば、コンデンサーの入口に銅や酸化銅などの物質で加工された金網を設置したりすることが好ましい。しかし、これらの装置すべてがガラスなどでできた蒸留機で蒸留した場合は、銅又は銅を含む化合物の溶出がなく、4−VGからバニリンへの変換が促進されず、バニリンに富んだ蒸留酒を短期間で得ることができない。
【0014】
次に、蒸留直後に得られた蒸留液は、ガスが抜けておらず香は刺激的で、味は荒々しく、通常、蒸留直後から数週間〜数ヶ月程度、開放状態で貯蔵し、ガス抜き操作を行う。この貯蔵期間中に油性物質が徐々に酸化を受け、いわゆる油臭といわれる不快臭が発生するが、これらの油臭を除去するために、すくい取り法やろ過法などを用いて香味を調整している。しかし、本発明によれば、このガス抜きのための比較的短い貯蔵期間中にバニリンの生成が促進される。バニリンは特有の華やかで甘い芳香を有しており、バニリンを多く含有することにより、甘い芳香と丸みや熟成感が付与された香味良好な蒸留酒を得ることができる。蒸留液を貯蔵する容器としては、樽、ステンレスタンク、ホーロータンクなどがあるが、本発明においては、欠減が少なく、材質的に安定しているホーロータンクを用いることが好ましい。本発明により得られた蒸留酒は、そのまま飲用することもできるが、水で希釈したり、ろ過精製したりして、飲用することもできる。更に、貯蔵、熟成し、焼酎、スピリッツ、ウィスキーなどに加工し飲用することもできる。本発明の方法は、特に焼酎の製造に好ましく用いられる。
【0015】
本発明では、蒸留後の蒸留液を、銅及び/又は銅を含む化合物を必要に応じて共存させて、カルシウム化合物、カリウム化合物、マグネシウム化合物、及びナトリウム化合物よりなる群から選択される少なくとも1種の金属を含む化合物の存在下で貯蔵することにより、バニリンの生成量を短期間に増大させることができる。カルシウムを含む化合物には、例えば炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩などの塩類、酸化物などがあるが、特に限定はされない。炭酸カルシウム、酸化カルシウム等が例示される。カリウムを含む化合物には、例えば塩化物などがあるが、特に限定はされない。塩化カリウム等が例示される。マグネシウムを含む化合物には、例えば塩化物、硝酸塩などがあるが、特に限定はされない。塩化マグネシウム等が例示される。更に、ナトリウムを含む化合物には、例えば塩化物などがあるが、特に限定はされない。塩化ナトリウム等が例示される。これらは、そのまま、あるいは水溶液として、蒸留液に添加すればよい。カルシウム、カリウム、マグネシウム、ナトリウムをイオンとして添加することができるものであれば、ミネラルウオーター、硬水等の水そのものを添加することも可能である。
【0016】
検討例
蒸留液中の4−VGからバニリンへの変換効率について、銅、鉄、マグネシウム、マンガン、ナトリウムなどが及ぼす影響の検討を行った。まず、4−VGを20mg/リットル含有するエタノール分63v/v%の焼酎醪の蒸留液を100mlずつ6本用意し、硫酸銅、硝酸鉄(II)、塩化マグネシウム、塩化マンガン、塩化ナトリウムをそれぞれ金属元素として2mg/リットル含むように添加し、各サンプルを調製した。その後、0.1N NaOH又は0.1N HClで、サンプルのpHを蒸留酒の普通のpHである5.3に調整し、それぞれを100mlずつガラス容器に入れて密封した後、40℃で14日間貯蔵した。貯蔵後のサンプル中のバニリン含有量を表1に示す。バニリンの分析は、後述の実施例に記載の方法で行い、単位はmg/リットルで表している。また<0.1は、検出限界(0.1mg/リットル)未満であることを表している。なお、化合物を加えないサンプルの結果も<0.1であった。
【0017】
【表1】
表1から、銅を添加したサンプルは、貯蔵後の液中のバニリン含量が明らかに多く、銅は、4−VGからバニリンへの反応を促進する効果が高いことがわかった。
【0018】
【実施例】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0019】
実施例1 とうもろこし蒸留酒の製造
とうもろこし2500gを粉砕後、対原料重量400w/w%になるように汲み水と混合した。この混合液に、液化酵素ターマミル120L〔ノボザイムス ジャパン(株)製〕を対原料重量の0.1w/w%を添加し、132℃で加圧蒸煮して蒸煮醪を得た。得られた蒸煮醪をリン酸にてpHを3.8に調整した後、糖化酵素としてサンスーパー240L〔ノボザイムス ジャパン(株)製〕及びセルラーゼとしてスミチームAC〔新日本化学工業(株)製〕をそれぞれ原料重量に対して0.1w/w%添加し、58℃で一昼夜糖化して糖化醪を得た。得られた糖化醪に(財)日本醸造協会販売のワイン用の協会4号を接種し、30℃にて5日間の発酵を行った。発酵醪のエタノール分は8.8v/v%で、4−VG含有量は273mg/リットルであった。
4−VGの分析は、次のようにして行った。すなわち、醪のサンプル1mlを、濃度5mg/リットルの4−エチルグアヤコール(以下、4−EGと略記する)を内部標準として含むメタノール溶液にて10倍希釈し、かくはん遠心した上澄を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)測定サンプルとする。このサンプル50μlを、50mMリン酸溶液で平衡化したカラム Inertsil ODS−3V 4.6×250mm〔ジーエルサイエンス(株)製〕を装着したHPLC Model 2690〔日本ウォーターズ(株)製〕に注入した後、アセトニトリルで8−100%の直線濃度勾配溶出を行った。なお、溶出は流速1ml/minで55分間行った。分離されたチャートにおいて、リテンションタイム25.7minに4−VGのピークが現れ、そのピークを検出器 996Photodiode Array Detector〔日本ウォーターズ(株)製〕を用いて280nmの吸収を測定し、ピーク面積から4−VG量を算出した。
【0020】
上述の方法で得られた発酵醪12000mlを1000mlずつに分割した後、試験区分に応じて、それぞれの醪のpHをリン酸で2.0、3.0、3.8、4.4、5.0に調整し、蒸留直前の供試醪を調製した。蒸留機は、蒸留缶、スワンネック、コンデンサーすべてが銅製であり、更にスワンネックの内面は、かなりの部分が自然に酸化されて赤黒い酸化銅の皮膜で覆われた状態になっているものを用いた。
【0021】
次に蒸留操作について説明する。まず、第1回目の蒸留は、蒸留缶に供試醪1000mlを投入し、常圧下で熱源としてガスバーナーを用いて蒸留缶底部を加熱して行った。醪が沸騰するとエタノールを含んだ蒸気が発生し、その蒸気を銅製のスワンネックを通過させ、更に銅製のコンデンサーで凝縮させることによって銅及び酸化銅と接触させた。蒸気はコンデンサーで凝縮して液体となり、更に冷却されて蒸留液となる。蒸留液は、そのエタノール分が2v/v%になるまで回収した。第2回目の蒸留は、第1回目の蒸留で得られた蒸留液340mlをエタノール分26v/v%まで水で希釈し、上述と同じ蒸留缶に投入した。加熱方法、回収方法は、第1回目の蒸留操作と同様の方法で行った。第2回目の蒸留で得られた蒸留液はエタノール分50v/v%まで回収した。得られたそれぞれの蒸留液をアルコール度数63v/v%に加水調整した後、ホーローの容器に入れてふたをし、40℃で40日間貯蔵して蒸留酒を得た。
【0022】
蒸留直前の醪のpHが3.0の時に得られた蒸留酒を本発明1、pHが3.8の時の蒸留酒を本発明2、pH2.0の時の蒸留酒を本発明3、また、pH4.4の時の蒸留酒を比較例1、pH5.0の時の蒸留酒を比較例2とする。更に、他の比較例として、蒸留直前の醪のpHを3.0及び3.8に調整した後、蒸留缶、スワンネック、コンデンサーなどすべてがガラス製の蒸留機、及びすべてがステンレス製の蒸留機を用いて、上述の方法と同様の方法で2回の蒸留操作を行った。得られた蒸留液を上述と同様の方法で貯蔵し蒸留酒を得た。pHが3.0でガラス製の蒸留機で蒸留したものを比較例3、同じくステンレス製の蒸留機で蒸留したものを比較例4とする。更に、pHが3.8でガラス製の単式蒸留機で蒸留したものを比較例5、ステンレス製の蒸留機で蒸留したものを比較例6とする。
【0023】
それぞれの蒸留酒に含まれるバニリン及び酸度の分析結果を表2に示す。
バニリンの定量は、以下の方法で行った。すなわち、得られた蒸留酒のサンプル500μlに、濃度が1000mg/リットルである4−EG/メタノール溶液10μlを内部標準として添加してかくはん後、これをメタノールにて20倍希釈し、HPLC測定サンプルとした。これらのサンプル50μlを、50mMリン酸溶液で平衡化したカラム Inertsil ODS−3V 4.6×250mm〔ジーエルサイエンス(株)製〕を装着したHPLC Model 2690〔日本ウォーターズ(株)製〕に注入した後、アセトニトリルで8−100%の直線濃度勾配溶出を行った。なお、溶出は流速1ml/minで55分間行った。分離されたチャートにおいて、リテンションタイム15.1minにバニリンのピークが現れ、そのピークを検出器 996 Photodiode Array Detector〔日本ウォーターズ(株)製〕を用いて280nmの吸収を測定し、ピーク面積からバニリン量を算出した。なお、溶離液はアセトニトリルを含む50mMリン酸溶液を用い、アセトニトリルのグラジエント8−100%をかけて、流速1ml/minで溶離を行った。結果を表2に示す。
なお、<0.1とは、上述の方法で測定した時の検出限界0.1mg/リットル未満であるということを表している。また、酸度の分析は、第四回改正国税庁所定分析法注解に記載の方法に準じて行った。すなわち、蒸留酒のサンプル50mlにフェノールフタレイン指示薬を4〜5滴加えた後、1/100N NaOH溶液で滴定し、サンプル10ml当りに要した1/100N NaOH溶液のml数で表した。
【0024】
【表2】
【0025】
また、官能検査は、それぞれの得られた蒸留酒をエタノール分25v/v%に希釈したものについて、識別能力を有する17名のパネラーにより、3点評価法にて実施した。すなわち、香味において優れているものを1、中程度のものを2、劣っているものを3として評価し,その結果の平均値を表3に示した。
【0026】
【表3】
【0027】
表2及び表3より、pHを3.8以下に調整して銅製の蒸留機で蒸留して得られた本発明1、2及び3は、どれもバニリンを0.7mg/リットル以上含んでおり、また官能的にも甘い芳香があり良好であった。特に、蒸留直前の醪のpHが3及び3.8である本発明1及び2は、バニリン含有量も多く、熟成感もあって良好であった。
【0028】
実施例2 大麦蒸留酒の製造
大麦210gを粉砕後、対原料重量400w/w%になるように汲み水と混合した。この混合液に液化酵素ターマミル120L〔ノボザイムス ジャパン(株)製〕を対原料重量の0.1w/w%添加し、132℃で加圧蒸煮し、蒸煮醪を得た。得られた蒸煮醪をリン酸でpHを3.8に調整した後、糖化酵素としてサンスーパー240L〔ノボザイムス ジャパン(株)製〕及びセルラーゼとしてスミチームAC〔新日本化学工業(株)製〕をそれぞれ原料重量に対して0.1w/w%添加し、58℃で一昼夜糖化して糖化醪を得た。得られた糖化醪に実施例1と同様の協会4号を接種し、30℃で5日間の発酵を行った。発酵醪のエタノール分は9.0v/v%であり、また実施例1と同様の方法で4−VGを分析したところ、4−VG含有量は251mg/リットルであった。
【0029】
次に得られた発酵醪1000mlをリン酸でpH3.8に調整し、実施例1と同様に、すべて銅製の缶体容積5リットルの蒸留機を用いて、2回の蒸留操作を行った。
【0030】
得られた蒸留液をエタノール分63v/v%に加水調整後、ホーローの容器に入れてふたをし、実施例1と同様に40℃で40日間貯蔵して蒸留酒を得た。これを本発明4とする。バニリンの分析及び官能検査を実施例1と同様に行いその結果を表4に示す。
【0031】
【表4】
【0032】
表4より、得られた大麦蒸留酒は、バニリンが1.3mg/リットルと高く、官能的にも丸みのある香、熟成感があり、良好なものであった。
【0033】
実施例3 大麦蒸留酒の製造
実施例2と同様の方法を用いて、大麦蒸留酒用の発酵醪を製造した。次に得られた発酵醪1000mlをリン酸でpH3.8に調整し、実施例1と同様に2回の蒸留操作を行った。なお蒸留は、蒸留缶、スワンネック、コンデンサーがすべてガラス製の蒸留機を使用し、コンデンサー内部の蒸気が凝縮する部分に短く切断した新しい銅管3.7gを設置し、蒸気がその銅管を通過するようにして行った。
【0034】
得られた蒸留液をエタノール分63v/v%に加水調整後、ホーローの容器に入れてふたをし、実施例1と同様に40℃で40日間貯蔵して蒸留酒を得た。これを本発明5とする。また、蒸留時に銅管を設置せずに上述と同様の蒸留操作を行い、更に同様に貯蔵して得られた蒸留酒を比較例7とする。バニリンの分析及び官能検査を実施例1と同様に行いその結果を表5に示す。
【0035】
【表5】
【0036】
表5より、コンデンサーに銅管を設置して蒸留操作を行って得られた本発明5は、バニリンが1.1mg/リットルと高く、官能的にも丸みのある香、甘い芳香を有し、良好なものであった。
【0037】
実施例4
4−VGを20mg/リットル含有するエタノール分63v/v%の醸造用アルコールを調製した(比較例8)。この比較例8に対して、更に銅を1mg/リットル含有させるサンプルを調製した(比較例9)。次に、銅及びカルシウム、カリウム、マグネシウム、ナトリウムそれぞれを含有するサンプルを調製した(本発明6、本発明7、本発明8、本発明9)。それぞれのサンプルについては、硫酸銅硝酸溶液、炭酸カルシウム塩酸溶液、塩化カリウム水溶液、塩化マグネシウム塩酸溶液、塩化ナトリウム水溶液を用いて、金属元素としての濃度を、銅では1mg/リットル含有するように、また、カルシウム、カリウム、マグネシウム、ナトリウムではそれぞれ10mg/リットル含有するように調製した。その後、0.1N NaOH及び0.1N HClでサンプルのpHを蒸留酒の普通のpHである5.3に調整し、それぞれを100mlずつガラス容器に入れて密封した後、40℃で7日間貯蔵した。貯蔵後のサンプル中のバニリン含有量及び4−VG含有量を表6に示す。バニリン及び4−VGの分析は実施例1に記載の方法で行い、単位はmg/リットル単位で表している。
【0038】
【表6】
【0039】
表6より、本発明6、本発明7、本発明8及び本発明9は、銅を単独で含有する比較例9よりも更にバニリンの生成が促進されていた。このことは、銅と、カルシウム、カリウム、マグネシウム、及びナトリウムよりなる群から選択される少なくとも1種の金属を含む化合物との存在下で貯蔵することにより、甘い香味をもたらすバニリンを短期間に生成させることができるという顕著な効果をもつものである。
【0040】
実施例5 大麦蒸留酒の製造
大麦2500gを粉砕後、対原料重量400w/w%になるように汲み水と混合した。この混合液に液化酵素ターマミル120L〔ノボザイムス ジャパン(株)製〕を対原料重量の0.1w/w%添加し、132℃で加圧蒸煮し、蒸煮醪を得た。得られた蒸煮醪を58℃まで冷却し、糖化酵素としてサンスーパー240L〔ノボザイムス ジャパン(株)製〕及びセルラーゼとしてスミチームAC〔新日本化学工業(株)製〕をそれぞれ原料重量に対して0.1w/w%添加し、58℃で3時間保持し、糖化醪を得た。得られた糖化醪に実施例1と同様の協会4号を接種し、25℃で5日間の発酵を行った。
【0041】
得られた発酵醪にクエン酸及びクエン酸ナトリウムを添加して酸度10に調整し、更に揮発酸として酢酸を30mg/リットル添加してpH3.8に調整した。発酵醪のエタノール分は8.1v/v%であった。
【0042】
上述の方法で得られた発酵醪を、蒸留缶、スワンネック、コンデンサーすべてが銅製であり、更にスワンネックの内部はかなりの部分が自然に酸化されて赤黒い酸化銅の皮膜で覆われた状態になっている蒸留機を用いて蒸留した。
【0043】
蒸留操作は25リットル容の蒸留缶に10リットルの醪を張り込み、ガスコンロで加熱した。蒸留液を3.0リットル回収したところで蒸留を終了した。更にこの蒸留液を水でエタノール分25v/v%まで希釈し、5リットル容の蒸留缶に2リットル張り込み、ガスバーナーで加熱して再留を行った。蒸留液を700ml回収したところで再留を終了した。
【0044】
得られた蒸留液を市販ミネラルウオーター〔Volvic社製〕でエタノール分63v/v%まで希釈し、40℃、21日間貯蔵した。得られたサンプルを本発明10とし、一方、蒸留機をガラス製として、蒸留操作以降のスケールを1/5として得られたサンプルを比較例10とした。
【0045】
貯蔵開始時のサンプル中の銅、カルシウム、カリウム、マグネシウム、ナトリウムはP−4010形ICP発光分析装置〔(株)日立製作所製〕を用い、イットリウムを内部標準として定量を行った。すなわち、測定サンプルは純水で10倍に希釈したものを使用し、標準品は各金属元素の1000mg/リットルの金属標準液〔和光純薬工業(株)製〕を純水で10mg/リットルとしたものを使用した。それぞれには内部標準として最終濃度10mg/リットルとなるようにイットリウムを添加した。定量値は各金属元素に帰属される銅324.75nm、カルシウム393.36nm、カリウム766.49nm、マグネシウム279.55nm、ナトリウム588.99nmの波長における発光強度に相当するピークの高さから算出した。結果を表7に示す。単位はmg/リットル単位で示している。
【0046】
【表7】
【0047】
また、40℃、21日間貯蔵後のバニリンと4−VGの分析及び官能検査を実施例1と同様に行い、その結果を表8に示す。
【0048】
【表8】
【0049】
表8より、本発明10は、バニリンを短期間に、2.5mg/リットルという高い濃度まで生成させることができ、また、官能的にも丸みのある香、バニリンの香りの感じられる良好なものであった。
【0050】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の蒸留酒の製造方法を用いることにより、バニリンを多く含有し、華やかで甘い芳香を有し、丸みや熟成感が付与された蒸留酒を容易に得ることができる。
Claims (3)
- 泡盛を除く焼酎、スピリッツ、ウイスキーのうちの一つから選択される蒸留酒の製造方法であって、4−ビニルグアヤコールを含有する蒸留直前の醪に酸類を添加してpHを3.8以下に調整し、次いで醪から発生する蒸気を、銅及び/又は銅を含む化合物の存在下で蒸留することを特徴とするバニリン含量が増強された蒸留酒の製造方法。
- 請求項1で得られる蒸留後の蒸留液を、カルシウム化合物、カリウム化合物、マグネシウム化合物、及びナトリウム化合物よりなる群から選択される少なくとも1種の金属を含む化合物の存在下で貯蔵することを特徴とする請求項1記載のバニリン含量が増強された蒸留酒の製造方法。
- 泡盛を除く焼酎、スピリッツ、ウイスキーのうちの一つから選択される蒸留酒の製造方法であって、かつカメ以外の蒸留液を貯蔵する容器で貯蔵する蒸留酒の製造において、蒸留後の4−ビニルグアヤコールを含有する蒸留液を、銅及び/又は銅を含む化合物と、カルシウム化合物、カリウム化合物、マグネシウム化合物、及びナトリウム化合物よりなる群から選択される少なくとも1種の金属を含む化合物の存在下で貯蔵することを特徴とするバニリン含量が増強された蒸留酒の製造方法。
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