JP4527429B2 - 蒸留酒の製造方法及び蒸留装置 - Google Patents

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Description

本発明は、単式蒸留機を用いて香味良好な蒸留酒を製造する方法及びその蒸留酒を製造するための蒸留装置に関する。
蒸留酒と呼ばれる酒類には、従来より多様なものがあり、例えば穀類などを用いて発酵させた醪を蒸留した焼酎、麦芽を発酵させて蒸留したウイスキー、果実を発酵させて蒸留したブランデー、その他ウオッカ、ラム、テキーラなどのスピリッツ類がある。これらの蒸留酒の中で、用いる蒸留機が単式蒸留機であるものとして、乙類焼酎、ウイスキー(モルトウイスキー)、ブランデーなどがあり、連続式蒸留機を用いるものとして甲類焼酎、ウオッカ、ラムなどがある。これらの単式蒸留機を用いる蒸留酒の中で、ウイスキー(モルトウイスキー)、ブランデーは常圧蒸留法のみで行われるが、乙類焼酎はそれぞれの原料特性に適した酒質にするために減圧蒸留法、常圧蒸留法のいずれもが用いられている。特に減圧蒸留法で製造された焼酎の酒質は、軽くてくせがなく、ソフトですっきりとした味わいになる。また、常圧蒸留法で製造された焼酎の酒質は、やや独特のくせがある香りとなり、重厚でまろやかな味わいとなる。減圧蒸留法が開発されて以来、軽くてきれいな飲みやすい酒質を持つ焼酎として、乙類焼酎の製造法の主流となっていたが、近年酒質の多様性を求める消費者の嗜好に伴って、香りの重厚さや甘くて深い味わいとなる常圧蒸留法による焼酎も見直されてきている。この伝統的な常圧蒸留法は個性的な味わいの源ともいえるが、その一方で長時間の高温加熱により二次的に副生される特有の嫌な香味が、原料や微生物由来の良好な香味をマスキングしてしまうという欠点を有する。したがって、常圧蒸留法の長所を生かし欠点を補う蒸留法でありながら、軽くてきれいという単なる減圧蒸留法とも異なった蒸留法の開発が求められていた。
これらの欠点を解消するための方法として、例えば特開平1−153076号公報、特開昭62−122577号公報に開示されている圧力可変式蒸留法がある。この蒸留法の例としては、まず蒸留機に張り込んだ醪に常圧状態で直接蒸気を吹き込んで加熱して常圧蒸留を開始する。適当な時間常圧蒸留を継続した後、ある時期に加熱を停止し、蒸留機全体を密閉系にしてから徐々に真空ポンプで缶内圧力を下げていく。このように減圧状態にしていくことにより醪の沸点低下が起こり、自己蒸発によって減圧蒸留を継続させていくことができる。最終的には通常の減圧蒸留と同程度の圧力及び温度で蒸留を行う方法である。言い換えれば、常圧蒸留から途中で減圧蒸留に移行させていく方法であるが、醪は高温蒸気によって100℃近くまで一度加熱されることになり、やはり成分の熱変性が起こって二次的にくせのある香りが副生するという欠点を有する。
また、乙類焼酎における特殊な蒸留法として特開平6−62826号公報に開示されている方法がある。該公報に記載の方法は、蒸留する際に発生する初留(初垂れ)及び後留(末垂れ)を混合した初後留を単式蒸留機の前段に設置した前置蒸留缶に入れた後、通常の常圧状態で蒸気を吹き込んで加熱する。次に発生したアルコールを含んだ蒸気を次段の単式蒸留機に吹き込んで張り込んだ醪を加熱し、この前置蒸留缶からの蒸気にアルコール分がなくなれば、通常の生蒸気に切り換えて直接醪を加熱して蒸留する方法である。この方法の目的は、製品として不適当な初後留を再利用してアルコール分をできるだけ回収することができるというコスト面では優れているものの、初後留を何度も再利用するため不純成分の濃縮が起こり、いずれその成分が蒸留液に移行することによって酒質に悪影響を及ぼしたり、また、やはり醪が高温に加熱されることによって二次的に嫌な成分が副生するという問題点がある。
特開平1−153076号公報 特開昭62−122577号公報 特開平6−62826号公報
本発明は、かかる従来技術の現状に鑑み創案されたものであり、その目的は、単式蒸留機を用いて香味良好な蒸留酒を製造するのに極めて有効な蒸留酒の製造方法及びその蒸留酒を製造するための蒸留装置を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、単式蒸留機の手前に耐低圧力の前置蒸留缶を設け、前置蒸留缶と蒸留機とを配管で連結すると共に、前置蒸留缶を間接加熱することができるようにし、単式蒸留機を大気圧より減圧した状態で、蒸留機内に直接水蒸気を吹き込んで蒸留することにより高品質の蒸留酒が得られることを見出し、本発明を完成させた。
本発明を概説すれば、単式蒸留機を用いて蒸留酒を製造する方法において、前記単式蒸留機の前段に前置蒸留缶を設け、装置全体を大気圧より減圧した状態で、予め前記前置蒸留缶内で発生させた100℃未満の低温の水蒸気を蒸留機内に直接吹き込んで蒸留する蒸留酒の製造方法に関する。
本発明の蒸留酒の製造方法を用いることにより、従来からの減圧蒸留、常圧蒸留それぞれの欠点をできるだけ最小限にとどめ、長所を生かした香味良好な蒸留酒を製造することができる。また、芋焼酎などでは従来製造することができなかったすっきりした減圧蒸留タイプの焼酎を簡単に製造することができる。
以下、本発明を具体的に説明する。
まず、本発明に用いる蒸留装置を図1に示して説明する。1が発酵した醪を入れる蒸留機本体で、2が水を入れて水蒸気を発生させる前置蒸気発生缶で、3が蒸留後の留液を受け入れる製品タンクで、4が蒸留機本体で発生した蒸気を冷却するコンデンサーである。次に配管機器類について説明すると、5が真空ポンプで、6が2の前置蒸気発生缶のジャケット部分に蒸気又は温水を投入する配管とそれをコントロールするバルブで、7が前置蒸気発生缶からを大気開放するためのバルブで、8が前置蒸気発生缶で発生した低温又は高温の蒸気を蒸留機本体に直接吹き込む配管とその量をコントロールするためのバルブである。9は減圧蒸留をするときに用いる5の真空ポンプへ行くラインと開閉を行うバルブである。このように本発明の蒸留装置は、通常の蒸留缶の前段に前置蒸気発生缶を設け、この前置蒸気発生缶頂部と蒸留缶内部が配管で接続され、前置蒸気発生缶で発生した蒸気が直接蒸留缶内部に吹き込まれるような構造になっていることを特徴としている。また、本発明の装置の材質には特に限定はなく、ステンレス、鉄、銅などの金属やガラスなどいずれでもよい。
続いて、本発明の蒸留方法を説明する。まず発酵させた醪を蒸留缶1に張り込む。通常の単なる減圧蒸留では、8のバルブを閉じ蒸留缶1を真空ポンプによって大気圧より低い減圧状態にした後、蒸留缶1を外部ジャケットなどで間接加熱し缶内の醪を加熱して蒸留を行う。一方、常圧蒸留では蒸留缶1を閉鎖系にせず大気圧と同等の状態で、8のラインより高圧の蒸気を吹き込んで直接醪を加熱し蒸留を行う。本発明では、醪を張り込んだ蒸留缶1と例えば水を張り込んだ前置の蒸気発生缶2を配管で接続し、7のバルブを閉じ8のバルブを開け、5の真空ポンプを稼動して、この装置全体を減圧にする。減圧状態になった後、2の前置蒸気発生缶を外部ジャケットなどに温水や蒸気を入れて間接加熱を行う。これらの装置全体の圧力が、例えば0.008MPaならば、前置蒸気発生缶の水は約43℃で蒸発を開始し、発生した水蒸気が8の配管及びバルブを通って、蒸留缶1の醪に直接吹き込まれる。この43℃程度の低温の水蒸気によって醪が直接加熱される。この低温水蒸気によって醪の温度は徐々に上昇し、張り込んだ醪のエタノール分が約15v/v%ならば、約37℃で蒸発を開始し、このエタノールを含んだ蒸気は4のコンデンサーに送られて冷却され、3の製品受けタンクに蒸留液として回収される。このようにして得られた本発明の蒸留酒は、官能検査を行うと比較対照となる常圧蒸留の製品に存在する加熱臭といわれる嫌な臭いがなくすっきりしていて、味はくせがなくまろやかであった。一方、減圧蒸留の製品と比較すると、より香りに豊かさがあり味もやや重厚感があって香味良好なものであった。
また、成分面で比較検討を行ったところ、コゲ臭、加熱臭のような不快な香りを持つフルフラールや油臭の原因となるパルミチン酸エチル、リノール酸エチル、オレイン酸エチルなどの高級脂肪酸エチルエステルは常圧蒸留製品に多く含まれるが、本発明の蒸留方法で製造した製品にはほとんど含まれない。更に多く存在すると苦味を感じたり不快な香りを感じたりするβ−フェネチルアルコールは、通常の常圧蒸留製品や減圧蒸留製品には多く含まれているが、本発明の蒸留方法の製品はこれらと比較するとかなり低減されている。一方、従来の常圧蒸留、減圧蒸留で製造した蒸留製品をブレンドして新たな焼酎を製造することも試みられているが、これらのフルフラール、高級脂肪酸エチルエステル、β−フェネチルアルコールなどの成分が除かれることはなく、わずかながらも残存することになり香味に悪い影響を与えている。しかし本発明によれば、従来の常圧蒸留製品や減圧蒸留製品にある欠点といわれるような香味を減少させ、従来にない新たな香味を持った焼酎を得ることができる。
更に本発明は、特に芋焼酎の減圧下での焼酎製品を製造するときに好ましく用いることができる。一般的に芋焼酎の醪は、麦焼酎や米焼酎の醪と比較して粘度が高いため、高濃度の仕込ができないという不都合な点がある。また通常の減圧蒸留では、蒸留缶内を閉鎖系にして減圧状態にするために、蒸留缶の外側にジャケットあるいは内部に蛇管を装着し蒸気を通じることによって、醪を間接加熱する方法がとられている。しかし芋焼酎醪のように粘度が高い醪においてこの間接加熱法を用いた場合、蒸留を進めていくにつれて缶内の醪からエタノールや水が蒸発するために、蒸留缶内の残液が濃縮されて粘度が高くなり流動性がなくなってしまう。したがって、醪の部分的な加熱による焦げつき、醪の表面からのみの蒸発による蒸留歩合の低下などの問題点がある。更に、蒸留終了後に缶内に残った醪残液は、高粘度であるためかくはんができない、そのため系外へ排出することができないなどハンドリングの面においても非常に重大な問題点がある。これらの問題点を解決するために、通常は発酵させた醪を水で希釈して蒸留する方法が用いられている。しかしながら、この方法では醪中のアルコール濃度が低下するために得られた蒸留製品のアルコール濃度も低下し、通常の焼酎の商品として販売されているアルコール分25%のものを得ることは難しい。更に水で希釈するという操作を行っているため醪量が増加し、この醪を加熱するために多くの熱エネルギーを必要とするという欠点もある。またエタノール濃度の高い蒸留製品を得るためには、中留から後留への切り換えを垂口のアルコール分が高いところで行い、早めに蒸留を終了することが必要であるが、この方法では当然のことであるが蒸留歩合が低くなるという問題点がある。
本発明を上述のような芋焼酎に用いると、水で希釈するという操作を必要としないため、蒸留製品のアルコール分は高くなり、したがって中留から後留へ切り換えるアルコール分を高めで行う必要がなく、通常のアルコール分で切り換えを行うことができる。したがって蒸留歩合が低下する恐れはない。また加熱するための熱エネルギーは製造した醪の分だけでよく、希釈した水を加熱するためにより多くの熱エネルギーを必要とすることはない。更に加熱するための低温の水蒸気が醪と熱交換する際にドレンとなって醪中に溶け込んでいくために、醪容量は初期状態からほとんど変化せず、したがって醪粘度の上昇は発生せず、ハンドリングに悪影響を及ぼす恐れはない。また本発明によって得られた芋焼酎の酒質も、芋焼酎本来の独特で良好な芋らしさを残しながらも、焦げ臭のような嫌な加熱臭がなく良好であった。以上、本発明はこれらの問題点を解決するために非常に有効な方法である。
以下、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1 米焼酎(減圧蒸留、常圧蒸留と低温水蒸気蒸留との比較)
まず蒸留するための原料として米焼酎醪を製造した。米麹は、蒸した米に白麹菌の種麹を添加し、次に恒温恒湿機を用いて、前半は38℃程度で維持し、後半は35℃程度に低下させて製麹を行った。次に、上述の方法で得られた米麹を汲水と混ぜて十分馴染ませた後、酵母を添加して発酵させ一次醪を製造した。続いて、該一次醪に掛原料として蒸した米及び汲水を添加して仕込み、14日間発酵させて二次醪を製造した。二次醪の分析結果を表1に示す。
Figure 0004527429
得られた二次醪を減圧蒸留(比較例1)、常圧蒸留(比較例2)及び低温水蒸気蒸留(本発明1)の3通りの方法で蒸留を行った。蒸留機は2リットルのガラス製ポットスチルを用い、減圧蒸留は0.008MPa(メガパスカル)の条件で温水による間接加熱を行った。また、常圧蒸留は約100℃の蒸気を直接ガラスポットスチルに吹き込んで直接加熱する方法で行った。
低温水蒸気蒸留(本発明1)は、まずガラスポットスチルの前段にガラス製の耐圧容器を設置して水を張り込み、その容器の頂部とガラスポットスチル内をガラス管で連結し、張り込んだ醪にガラス管からの水蒸気が直接吹き込むことができるようにした装置を作成した。次にこの装置全体を真空ポンプで減圧にし、圧力を0.008MPaに調整した後、前段のガラス耐圧容器を温水で間接加熱した。このガラス耐圧容器内の水の温度がおよそ43℃以上になると水蒸気が発生し、この低温の水蒸気が次段のガラスポットスチルの醪に吹き込まれ、徐々に醪が加熱されていく。このようにして低温の水蒸気によって醪を高温にせずゆっくりと加熱し、また直接水蒸気を吹き込むことによって多様な成分を蒸留液へ移行させる蒸留を行った。
これらの方法で得られた焼酎について官能検査を行った。官能評価はパネラー10名で行い、5段階(1:良〜5:不良)で評価した平均値を示す。
また、得られた焼酎について、ジクロロメタンを用いて通常の方法で抽出操作を行い、その抽出液をガスクロマトグラフ質量分析計、ガスクロマトグラフAgilent6890N〔横河アナリティカルシステムズ(株)製〕及び質量選択型検出器Agilent5973〔横河アナリティカルシステムズ(株)製〕を用いて中高沸点成分の分析を行った。それぞれの中高沸点成分は内部標準に対する面積比を求め、あらかじめ濃度の異なる標準を用いて分析した標準曲線の結果と比較して濃度を求めた。
Figure 0004527429
Figure 0004527429
表2から明らかなように、減圧下で水蒸気蒸留を行った本発明1は、通常の減圧蒸留である比較例1及び常圧蒸留である比較例2より評点が良く、またコメントにおいても甘味、丸みがある、バランスが良好であるなど良い評価が多かった。一方、表3から明らかなように、パルミチン酸エチルなどの高級脂肪酸エチルエステルは、本発明1と比較例1ではあまり差はないが、比較例2はこれらに比べて高くなっていた。また、オレイン酸エチル、リノール酸エチルなどの不飽和高級脂肪酸エチルエステルやフルフラールは、本発明1及び比較例1では、ほとんど検出されないが、比較例2ではかなり高くなっていた。一方、β−フェネチルアルコールは、本発明1では比較例1及び比較例2よりかなり少なくなっていた。以上より、減圧下で水蒸気蒸留を行った本発明1は、通常の常圧蒸留製品に多く含まれる油臭の原因となる高級脂肪酸エチルエステル及び加熱臭、コゲ臭の原因といわれているフルフラールが少なく、また良好な香気であるといわれているが、多すぎると嫌な香りや苦味を持つといわれているβ−フェネチルアルコールを少なくすることで香味良好な焼酎を得ることができた。
実施例2 芋焼酎(減圧蒸留、常圧蒸留と低温水蒸気蒸留との比較)
まず蒸留するための原料として芋焼酎醪を製造した。麹は実施例1と同様の方法で製麹した米麹を用いた。次に、この米麹を汲水と混ぜて十分馴染ませた後、酵母を添加して発酵させ一次醪を製造した。続いて、該一次醪に掛原料として蒸した芋及び汲水を添加して仕込み、14日間発酵させて二次醪を製造した。二次醪の分析結果を次の表4に示す。
Figure 0004527429
得られた二次醪を実施例1と同様に減圧蒸留(比較例3)、常圧蒸留(比較例4)及び低温水蒸気蒸留(本発明2)の3通りの方法で蒸留を行った。蒸留機は2リットルのガラス製ポットスチルを用い、減圧蒸留は0.008MPaの条件で温水による間接加熱を行った。また、常圧蒸留は約100℃の蒸気を直接ガラスポットスチルに吹き込んで直接加熱する方法で行った。低温水蒸気蒸留は具体的には、実施例1と同様の方法で行った。
次に、各蒸留製品について官能検査及び成分分析を実施例1と同様の方法で行い、結果を表5、表6に示す。
Figure 0004527429
Figure 0004527429
芋焼酎の場合も米焼酎と同様に表5から明らかなように、減圧下で水蒸気蒸留を行った本発明2は、通常の減圧蒸留である比較例3及び常圧蒸留である比較例4より評点が良く、またコメントにおいてもきれい、華やか、きれいな甘味があるなど良い評価が多かった。一方表6から明らかなように、パルミチン酸エチルなどの高級脂肪酸エチルエステルは、本発明2の方が比較例3よりやや高く、比較例4はこれらに比べてより高くなっていた。またオレイン酸エチル、リノール酸エチルなどの不飽和高級脂肪酸エチルエステルやフルフラールは、本発明2及び比較例3では、ほとんど検出されないが、比較例4ではかなり高くなっていた。一方、β−フェネチルアルコールは、本発明2では比較例3及び比較例4よりかなり少なくなっていた。
また比較例3の減圧蒸留について、蒸留後の缶残液を確認したところ、粘度が非常に高くて流動性がほとんどなく蒸留缶より排出することは非常に困難であった。しかしながら、本発明2の蒸留後の缶残液は粘度が低く流動性も良好で、排出操作が困難になるという問題は起こらなかった。このように芋焼酎において、本発明は従来困難であった圧力が非常に低い状態での蒸留操作を可能にし、しかも香味良好で従来にない新しいタイプの焼酎を得ることができた。
実施例3 麦焼酎
まず蒸留用の原料醪として麦焼酎醪を製造した。麹は原料に蒸した精白大麦を用い、実施例1と同様の方法で製麹した。次に、この麦麹を汲水と混ぜて十分馴染ませた後、酵母を添加して発酵させ一次醪を製造した。続いて、該一次醪に掛原料として焙炒した精白大麦及び汲水を添加して仕込み、14日間発酵させて二次醪を製造した。二次醪の分析結果を表7に示す。
Figure 0004527429
得られた二次醪を減圧蒸留(比較例5)及び低温水蒸気蒸留(本発明3)の2通りの方法で蒸留を行った。蒸留機は実施例1と同様の2リットルのガラス製ポットスチルを用い、減圧蒸留は0.008MPaの条件で温水による間接加熱を行った。また、低温水蒸気蒸留は具体的には、実施例1と同様の方法で行った。
次に、各蒸留製品について官能検査及び成分分析を実施例1と同様の方法で行い、結果を表8、表9に示す。
Figure 0004527429
Figure 0004527429
麦焼酎の場合も米焼酎、芋焼酎と同様に表8から明らかなように、減圧下で水蒸気蒸留を行った本発明3は、通常の減圧蒸留である比較例5より評点が良く、またコメントにおいてもきれい、華やか、きれい、すっきりしているなど良い評価が多かった。一方、表9から明らかなように、パルミチン酸エチルなどの高級脂肪酸エチルエステルは、本発明3は比較例5と大きな差はなく、またオレイン酸エチル、リノール酸エチルなどの不飽和高級脂肪酸エチルエステルやフルフラールは、どちらもほとんど検出されなかった。しかしβ−フェネチルアルコールは、本発明3は比較例5よりかなり少なくなっていた。
本発明によれば、従来からの減圧蒸留、常圧蒸留それぞれの欠点をできるだけ最小限にとどめ、長所を生かした香味良好な蒸留酒を製造することができる。また、芋焼酎などでは従来製造することができなかったすっきりした減圧蒸留タイプの焼酎が簡単に製造することができる。
本発明に用いる蒸留酒を製造するための蒸留装置を示す図である。
符号の説明
1 蒸留機本体
2 前置蒸気発生缶
3 製品タンク
4 コンデンサー
5 真空ポンプ
6 バルブ
7 バルブ
8 バルブ
9 バルブ

Claims (2)

  1. 単式蒸留機を用いて蒸留酒を製造する方法において、前記単式蒸留機の前段に前置蒸留缶を設け、装置全体を大気圧より減圧した状態で、予め前記前置蒸留缶内で発生させた100℃未満の低温の水蒸気を蒸留機内に直接吹き込んで蒸留することを特徴とする蒸留酒の製造方法。
  2. 蒸留酒が芋焼酎であることを特徴とする請求項1に記載の蒸留酒の製造方法。
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